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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084576
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】再生カシミヤの判別方法
(51)【国際特許分類】
   D01G 5/00 20060101AFI20240618BHJP
   D03D 15/233 20210101ALI20240618BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20240618BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
D01G5/00
D03D15/233 ZAB
D04B1/14
D04B21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198912
(22)【出願日】2022-12-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (A)令和4年6月25日に「一般社団法人日本繊維製品消費科学会 2022年年次大会要旨集」において発表 (B)令和4年6月26日に一般社団法人日本繊維製品消費科学会主催の「2022年年次大会」において発表
(71)【出願人】
【識別番号】501043706
【氏名又は名称】一般財団法人ボーケン品質評価機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小出 真也
(72)【発明者】
【氏名】小川(淡谷) 知恵子
(72)【発明者】
【氏名】山口 藍子
(72)【発明者】
【氏名】大箸 信一
(72)【発明者】
【氏名】生駒 瑞希
【テーマコード(参考)】
3B151
4L002
4L048
【Fターム(参考)】
3B151AA05
3B151CA02
4L002AA03
4L002AB01
4L002AC00
4L002EA00
4L002FA01
4L048AA10
4L048AA11
4L048AB01
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、物理的及び化学的な側面から再生カシミヤを評価できる再生カシミヤの判別方法を提供することである。
【解決手段】本発明に係る再生カシミヤの判別方法は、少なくとも、顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)を説明変数とし、目的変数を新毛カシミヤの場合はT(ただしTは0を除く実数)、再生カシミヤの場合は-Tとした多変量解析から得られるモデル式により、判別対象のカシミヤが再生カシミヤであるか否か判別する点に特徴を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記に定める顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び下記に定める獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)を説明変数とし、目的変数を新毛カシミヤの場合はT(ただしTは0を除く実数)、再生カシミヤの場合は-Tとした多変量解析から得られるモデル式により、判別対象のカシミヤが再生カシミヤであるか否か判別する方法。
<顕微鏡法>
JIS L 1030-2 7.7.1の光学顕微鏡法に準じ、100倍~500倍の倍率でカシミヤの鑑別を行う。カシミヤ繊維の形状を鑑別し、「通常カシミヤ」と「形状に損傷(潰れ、裂け又はささくれ)が見られるカシミヤ」に区別する。順次、鑑別と区別を行い、全体で1000本以上の本数となるまで測定を行う。式(1)により、「損傷が見られるカシミヤ」の割合を算出する。
損傷が見られるカシミヤの割合(%)=損傷が見られるカシミヤの総数(本)/測定したカシミヤの総数(本)×100…(1)
<獣毛ペプチド法>
ISO 20418-2のPeptide detection using MALDI-TOF MSに準じ、カシミヤ含有試料の獣毛ペプチド分析を行う。このとき前記試料中にウールが含まれる場合は、式(2)によりCashmere Genuine Index(CGI)を算出し、前記試料中にウールが含まれない場合は、カシミヤと同じ質量のウールを混合した試料で前記獣毛ペプチド分析を行い、式(3)によりCashmere Genuine Index(CGI)を算出する。
【数1】
【数2】
式(2)~(3)中、
ca:獣毛ペプチド分析から求められるカシミヤピーク比(%)
w+:ウール添加後の獣毛ペプチド分析から求められるカシミヤピーク比(%)
X:試料中のカシミヤとウールの合計100質量%におけるカシミヤの混用率(質量%)
A:Cashmere Genuine Index(CGI)
W’:カシミヤに対する添加したウールの質量比(%)
【請求項2】
判別対象のカシミヤが再生カシミヤであるか否か判別するとき、前記モデル式から求められる結果が-Tと同符号のときは再生カシミヤと判定する請求項1に記載の判別方法。
【請求項3】
前記再生カシミヤとは、カシミヤ繊維が紡績され、織られ、編まれまたはフェルト状に加工された後、最終消費者に使用されることなく糸または繊維状に戻された繊維、もしくはカシミヤ繊維が紡績され、織られ、編まれまたはフェルト状に加工され、最終消費者に使用された後、糸または繊維状に戻された繊維である請求項1または2に記載の判別方法。
【請求項4】
前記多変量解析が重回帰分析である請求項1または2に記載の判別方法。
【請求項5】
前記説明変数が、前記損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び前記獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)の2種である請求項1または2に記載の判別方法。
【請求項6】
前記モデル式が式(A)で表される請求項1または2に記載の判別方法。
y=a+b11+b22 (A)
式(A)中、
a:-10以上10以下の実数。
1:-aと同符号であって、絶対値が0超30以下の実数。
2:aと同符号であって、絶対値が0超30以下の実数。
1:顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(%、K1
2:獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理的及び化学的な側面から再生カシミヤを評価できる再生カシミヤの判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アパレル製品には、機能性の向上だけでなく、持続可能な社会の実現を目的に環境負荷低減や衣類ロスへの配慮が求められる。獣毛繊維においても、ミュールシングウールや粗雑な毛刈りといった動物搾取、あるいは放牧による砂漠の拡大などの問題があり、その対策として、一部の企業では未使用獣毛の取り扱いを禁止するなどの取り組みを行っている。
【0003】
獣毛繊維の一つとしてカシミヤが挙げられる。カシミヤはかねてよりその希少性からラグジュアリーな繊維として普及している。しかしカシミヤを生み出すカシミヤヤギは、貪欲に草を食べ、鋭い蹄により土壌を荒らし、草原の砂漠化を進行させてしまう。そのため未使用の新毛カシミヤだけでなく、加工済又は使用済の再生カシミヤを活用することは環境負荷低減の観点から望ましい。
【0004】
非特許文献1には、統計処理を活用した再生カシミヤの判別方法が開示されている。非特許文献1では、まず再生カシミヤ繊維の特徴を(1)垂直方向の損傷、(2)軸方向の損傷、(3)短く切断された繊維、の3種類に分類し、これらを説明変数とした重回帰分析によりモデル式を求め、このモデル式を使って再生カシミヤを判別しようというものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kenneth D. Langley & Esra Coskuntuna, Distinguishing Between New and Recycled Cashmere with Fisher's Discriminant Analysis, Textile Research journal, Volume 70(2), 181-184, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
獣毛繊維の管理には、トレーサビリティ基準を設置することが主流である。再生カシミヤの定量的な評価に際し、非特許文献1の判別方法の適用を試みるも、非特許文献1の判別方法は、再生カシミヤの物理的損傷のみに着目しており、再生カシミヤを客観的に評価できるとは言い難い。実際に、非特許文献1に示されるモデル式を活用しても、新毛カシミヤと再生カシミヤを明確に区別することができなかった。そのため再生カシミヤをより客観的(定量的)に評価する方法が求められる。
【0007】
本発明の課題は、物理的及び化学的な側面から再生カシミヤを評価できる再生カシミヤの判別方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
再生カシミヤをより客観的に評価するにあたり、本発明者らは再生カシミヤの物理的損傷が与える影響を検討した。繊維状の再生カシミヤは、カシミヤを含む製品や生地を裁断し、反毛機で開繊することで生成される。本発明者らは、反毛機での開繊時に、繊維の切断、繊維強度の低下、繊維の損傷、カシミヤ以外の繊維の混入などの物理的な影響によりカシミヤの特性が変化する点に着目した。再生カシミヤには物理的な損傷が見られるため、損傷の状況(例えば、形状に損傷が見られるカシミヤの含有率、所定の長さ以下の繊維の含有率など)が、再生カシミヤの判別に活かせないか検討した。しかし、再生カシミヤの物理的な影響にのみ着目しても、再生カシミヤと新毛カシミヤを明瞭に区別できる境界を見出すことはできなかった。
【0009】
そこで本発明者らは再生カシミヤの化学的損傷が与える影響を検討した。カシミヤは獣毛繊維であり、主としてタンパク質から構成されている。カシミヤを含む製品や生地を製造する際、商品を高付加価値にする観点から脱色・染色を行うことが一般的である。しかし脱色・染色工程において、スケールの溶解、繊維表面の形状変化、タンパク質の変質などの化学的な影響によりカシミヤの特性は変化してしまう。本発明者らは、この化学的な影響によってカシミヤの特性が変化する点にも着目し、再生カシミヤの判別に活かせないか検討した。すなわち、加工または製造の履歴として再生カシミヤが本質的に有する物理的な影響及び化学的な影響を融合することで、精度よく再生カシミヤと新毛カシミヤを区別できる何らかの境界を見出せないか検討を進めた。
【0010】
再生カシミヤと新毛カシミヤを客観的(定量的)に評価するため、本発明者らは統計処理を導入することが効果的であると考えた。すなわち本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び獣毛ペプチド分析で求められるCGI(カシミヤ純指数とも称す、K2)を説明変数とした多変量解析を活用すれば、再生カシミヤをより客観的に評価できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明に係る再生カシミヤの判別方法は、以下の点に要旨を有する。
[1] 少なくとも、下記に定める顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び下記に定める獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)を説明変数とし、目的変数を新毛カシミヤの場合はT(ただしTは0を除く実数)、再生カシミヤの場合は-Tとした多変量解析から得られるモデル式により、判別対象のカシミヤが再生カシミヤであるか否か判別する方法。
<顕微鏡法>
JIS L 1030-2 7.7.1の光学顕微鏡法に準じ、100倍~500倍の倍率でカシミヤの鑑別を行う。カシミヤ繊維の形状を鑑別し、「通常カシミヤ」と「形状に損傷(潰れ、裂け又はささくれ)が見られるカシミヤ」に区別する。順次、鑑別と区別を行い、全体で1000本以上の本数となるまで測定を行う。式(1)により、「損傷が見られるカシミヤ」の割合を算出する。
損傷が見られるカシミヤの割合(%)=損傷が見られるカシミヤの総数(本)/測定したカシミヤの総数(本)×100…(1)
<獣毛ペプチド法>
ISO 20418-2のPeptide detection using MALDI-TOF MSに準じ、カシミヤ含有試料の獣毛ペプチド分析を行う。このとき前記試料中にウールが含まれる場合は、式(2)によりCashmere Genuine Index(CGI)を算出し、前記試料中にウールが含まれない場合は、カシミヤと同じ質量のウールを混合した試料で前記獣毛ペプチド分析を行い、式(3)によりCashmere Genuine Index(CGI)を算出する。
【数1】
【数2】
式(2)~(3)中、
ca:獣毛ペプチド分析から求められるカシミヤピーク比(%)
w+:ウール添加後の獣毛ペプチド分析から求められるカシミヤピーク比(%)
X:試料中のカシミヤとウールの合計100質量%におけるカシミヤの混用率(質量%)
A:Cashmere Genuine Index(CGI)
W’:カシミヤに対する添加したウールの質量比(%)
[2] 判別対象のカシミヤが再生カシミヤであるか否か判別するとき、前記モデル式から求められる結果が-Tと同符号のときは再生カシミヤと判定する[1]に記載の判別方法。
[3] 前記再生カシミヤとは、カシミヤ繊維が紡績され、織られ、編まれまたはフェルト状に加工された後、最終消費者に使用されることなく糸または繊維状に戻された繊維、もしくはカシミヤ繊維が紡績され、織られ、編まれまたはフェルト状に加工され、最終消費者に使用された後、糸または繊維状に戻された繊維である[1]または[2]に記載の判別方法。
[4] 前記多変量解析が重回帰分析である[1]~[3]のいずれかに記載の判別方法。
[5] 前記説明変数が、前記損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び前記獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)の2種である[1]~[4]のいずれかに記載の判別方法。
[6] 前記モデル式が式(A)で表される[1]~[5]のいずれかに記載の判別方法。
y=a+b11+b22 (A)
式(A)中、
a:-10以上10以下の実数。
1:-aと同符号であって、絶対値が0超30以下の実数。
2:aと同符号であって、絶対値が0超30以下の実数。
1:顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(%、K1
2:獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、物理的及び化学的な側面から再生カシミヤを評価できる再生カシミヤの判別方法が提供される。本発明に係る再生カシミヤの判別方法は、従来に比べ再生カシミヤをより客観的に評価できるため、獣毛繊維の管理に効果的に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、「再生カシミヤ」とは、カシミヤ繊維が紡績され、織られ、編まれまたはフェルト状に加工された後、最終消費者に使用されることなく糸または繊維状に戻された繊維、もしくはカシミヤ繊維が紡績され、織られ、編まれまたはフェルト状に加工され、最終消費者に使用された後、糸または繊維状に戻された繊維をいう。
【0014】
以下、「新毛カシミヤ」とは、かつて加工または製造に使用されたことのない未使用のカシミヤ、もしくはカシミヤ繊維が紡績され、織られ、編まれまたはフェルト状に加工された後、糸または繊維状に戻す加工がされていない繊維をいう。加工または製造に供されていないか繊維のリサイクル工程を経ていないため、新毛カシミヤは、通常、物理的または化学的な損傷を受けていない。しかしカシミヤは獣毛繊維であることから、割合は低いものの新毛カシミヤの一部に繊維の形状に損傷(潰れ、裂け又はささくれ)が見られる場合がある。
【0015】
以下、単に「カシミヤ」とは、前記再生カシミヤと前記新毛カシミヤの両方を含む概念であり、カシミヤの総称を意味する。
【0016】
本発明に係る再生カシミヤの判別方法は、少なくとも、下記に定める顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び下記に定める獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)を説明変数とし、目的変数を新毛カシミヤの場合はT(ただしTは0を除く実数)、再生カシミヤの場合は-Tとした多変量解析から得られるモデル式により、判別対象のカシミヤが再生カシミヤであるか否か判別する点に特徴を有する。本発明では、加工または製造の履歴として再生カシミヤが本質的に有する物理的な影響及び化学的な影響を融合し、統計処理を活用することで、精度よく再生カシミヤと新毛カシミヤを区別できる。また統計処理を導入したことで、再生カシミヤを効率的かつ客観的に判別できる。
【0017】
統計処理には、多変量解析を用いる。多変量解析としては、重回帰分析、単回帰分析、ロジスティック回帰分析、Cox比例ハザード回帰分析等が例示され、中でも複数の説明変数と得られる目的変数の精度の観点から重回帰分析が好ましい。
【0018】
説明変数は、少なくとも、顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)を含む。顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(K1)は、再生カシミヤが本質的に有する物理的な影響を評価するのに有効であり、獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)は再生カシミヤが本質的に有する化学的な影響を評価するのに有効なためである。多変量解析を行う際、前述した2種以外の説明変数を導入することも可能であるが、再生カシミヤが本質的に有する物理的な影響と化学的な影響を直接評価できるため、説明変数は損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)の2種であることが好ましい。
【0019】
顕微鏡法とは以下に示す方法である。
<顕微鏡法>
JIS L 1030-2 7.7.1の光学顕微鏡法に準じ、100倍~500倍の倍率でカシミヤの鑑別を行う。カシミヤ繊維の形状を鑑別し、「通常カシミヤ」と「形状に損傷(潰れ、裂け又はささくれ)が見られるカシミヤ」に区別する。順次、鑑別と区別を行い、全体で1000本以上の本数となるまで測定を行う。式(1)により、「損傷が見られるカシミヤ」の割合を算出する。
損傷が見られるカシミヤの割合(%)=損傷が見られるカシミヤの総数(本)/測定したカシミヤの総数(本)×100…(1)
【0020】
顕微鏡法における「形状に損傷が見られるカシミヤ」とは、潰れ、裂け又はささくれが見られるカシミヤをいい、「通常カシミヤ」とは、前記「形状に損傷が見られるカシミヤ」以外の試料中のカシミヤをいう。
【0021】
獣毛ペプチド法とは以下に示す方法である。
<獣毛ペプチド法>
ISO 20418-2のPeptide detection using MALDI-TOF MSに準じ、カシミヤ含有試料の獣毛ペプチド分析を行う。このとき前記試料中にウールが含まれる場合は、式(2)によりCashmere Genuine Index(CGI)を算出し、前記試料中にウールが含まれない場合は、カシミヤと同じ質量のウールを混合した試料で前記獣毛ペプチド分析を行い、式(3)によりCashmere Genuine Index(CGI)を算出する。
【数3】
【数4】
式(2)~(3)中、
ca:獣毛ペプチド分析から求められるカシミヤピーク比(%)
w+:ウール添加後の獣毛ペプチド分析から求められるカシミヤピーク比(%)
X:試料中のカシミヤとウールの合計100質量%におけるカシミヤの混用率(質量%)
A:Cashmere Genuine Index(CGI)
W’:カシミヤに対する添加したウールの質量比(%)
【0022】
獣毛ペプチド分析では、新毛カシミヤのピーク比に比べて、化学的損傷を受けた再生カシミヤのピーク比は低い値となる傾向にある。この特性を利用することでCGIを求めることができる。CGIの精度を良好にするため、試料中にウールが含まれる場合(すなわち、少なくともカシミヤとウールを含む2種以上の混合繊維の試料)と、試料中にウールが含まれない場合に分けて測定を行う。
【0023】
試料中にウールが含まれる場合、CGIは以下の手順で算出する。
1) まず試料中のカシミヤとウールの合計100質量%におけるカシミヤの混用率X(%)を求める。前記カシミヤの混用率X(%)は、例えば、JIS L 1030-2 7.7.1の光学顕微鏡法に準じて求められる。
2) 次いで、ISO 20418-2のPeptide detection using MALDI-TOF MSに準じ、試料の獣毛ペプチド分析を行う。ここで得られたカシミヤピーク比の結果をPca(%)とする。
3) 式(2)によりCGIを求める。一例として、カシミヤ50質量%、ウール50質量%からなる試料を考える。前記カシミヤの混用率X=50%、獣毛ペプチド分析で得られたカシミヤピーク比Pca=30%とすると、式(2)よりCGI≒0.429が求められる。
【0024】
試料中にウールが含まれない場合、CGIは以下の手順で算出する。
1) まず試料中にはウールが含まれないため、カシミヤとウールの合計100質量%におけるカシミヤの混用率はX=100%と定まる。
2) 次いで、試料にカシミヤと同じ質量のウールを混合する。ISO 20418-2のPeptide detection using MALDI-TOF MSに準じ、ウール混合後の試料の獣毛ペプチド分析を行う。ここで得られたカシミヤピーク比の結果をPw+(%)とする。
3) 式(3)によりCGIを求める。一例として、カシミヤ100質量%からなる試料を考える。前記カシミヤの混用率X=100%、獣毛ペプチド分析で得られたカシミヤピーク比Pw+=30%とする。カシミヤに対する添加したウールの質量はカシミヤと同量であることから、W’=100%である。式(3)よりCGI(A)≒0.429が求められる。
【0025】
多変量解析によりモデル式を求める際、目的変数を新毛カシミヤの場合はT(ただしTは0を除く実数)、再生カシミヤの場合は-Tとする。Tは特に限定されず、好ましくは-10以上-1以下の整数または1以上10以下の整数であり、より好ましくは-5以上-1以下の整数または1以上5以下の整数であり、さらに好ましくは-3以上-1以下の整数または1以上3以下の整数である。なお再生カシミヤの場合に目的変数を-Tとするとは、例えば、新毛カシミヤの目的変数を1としたとき再生カシミヤの目的変数を-1にする、もしくは新毛カシミヤの目的変数を-1としたとき再生カシミヤの目的変数を1にする、という意味である。
【0026】
多変量解析から得られるモデル式により、判別対象のカシミヤが再生カシミヤであるか否か判別する。目的変数を新毛カシミヤの場合はT、再生カシミヤの場合は-Tとすることから、判別対象のカシミヤが再生カシミヤであるか否か判別するとき、前記モデル式から求められる結果が-Tと同符号のときは再生カシミヤと判定できる。同様に、前記モデル式から求められる結果がTと同符号のときは新毛カシミヤと判定できる。なお「Tと同符号」とは、Tが正の実数の場合には正、Tが負の実数の場合には負、を意味する。また、「-Tと同符号」とは、Tが正の実数の場合には負、Tが負の実数の場合には正、を意味する。
【0027】
多変量解析が重回帰分析であり、且つ、説明変数を損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)の2種としたとき、得られるモデル式は、例えば、式(A)で表される。
y=a+b11+b22 (A)
式(A)中、
a:-10以上10以下の実数。
1:-aと同符号であって、絶対値が0超30以下の実数。
2:aと同符号であって、絶対値が0超30以下の実数。
1:顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(%、K1
2:獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2
【0028】
aは、好ましくは-6以上6以下の実数であり、より好ましくは-3以上3以下の実数である。
1は、-aと同符号であって、絶対値が好ましくは0超25以下、より好ましくは0超20以下の実数である。
2は、aと同符号であって、絶対値が好ましくは0超25以下、より好ましくは0超20以下の実数である。
なお「aと同符号」とは、aが正の実数の場合には正、aが負の実数の場合には負を意味する。また、「-aと同符号」とは、aが正の実数の場合には負、aが負の実数の場合には正を意味する。ただしaが0のときは、b1とb2は異符号であっても同符号であってもよい。
【0029】
なお、モデル式の算出に必要なサンプル数に特に制限はないが、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは100以下である。
【0030】
本発明に係る再生カシミヤの判別方法は、カシミヤを含む試料であれば、カシミヤと他の繊維を含む混合試料であっても判別を実施することができる。試料は、カシミヤを含む限りカシミヤ以外の繊維を含んでいてもよく、カシミヤ以外の繊維としては、ウール、ヤク、アルパカ等の獣毛繊維;絹等の動物繊維;綿、麻等の植物繊維;ポリエステル繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維等)、ポリアミド繊維(例えば、ナイロン6、ナイロン66等)、アクリル繊維(例えば、ポリアクリロニトリル繊維等)等の合成繊維;等が例示される。
【0031】
再生カシミヤと判定された繊維は、紡績、脱色・再染色等の工程を経て、製編・縫製されることにより、再生カシミヤ製品として市場に流通させることができる。再生カシミヤの活用は環境負荷低減や衣類ロスに繋がるため、持続可能な社会の実現に本発明は非常に有用であるといえる。
【実施例0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0033】
新毛カシミヤの試料(No.1~No.12)及び再生カシミヤの試料(No.13~No.24)を準備し、これらの試料を用いて、重回帰分析によるモデル式を求めた。新毛カシミヤの試料はいずれも未使用のカシミヤ又はカシミヤを生地に加工した後(原反、商品等)、糸または繊維状に戻す処理を行っていないカシミヤを含んでいる。一方再生カシミヤの試料は、カシミヤを少なくとも一度生地に加工した後、糸または繊維状に戻す処理を行ったカシミヤを含んでいる。上記顕微鏡法で求められる損傷が見られるカシミヤの割合(K1)及び上記獣毛ペプチド分析で求められるCGI(K2)をそれぞれ表1にまとめる。
【0034】
次いで、No.1~No.12の新毛カシミヤの試料についてはその目的変数をT=1とし、No.13~No.24の再生カシミヤの試料についてはその目的変数を-T=-1とした。
これらの条件により、モデル式を求めたところ、式(A-1)が得られた。
y=0.2242-1.2315x1+1.4747x2 (A-1)
【0035】
さらにNo.1~No.12の新毛カシミヤの試料及びNo.13~No.24の再生カシミヤの試料で得られた各値を式(A-1)で検証したところ、表1に示す結果となった。表1に示すように、No.13~No.24の再生カシミヤの試料では式(A-1)が負の実数(つまり-Tと同符号)として算出され、No.1~No.12の新毛カシミヤの試料では式(A-1)が正の実数(つまりTと同符号)として算出された。すなわち、本発明に係る再生カシミヤの判別方法は、物理的及び化学的な側面から再生カシミヤを評価しているため、従来に比べ再生カシミヤをより客観的に評価することができる。
【0036】
【表1】