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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084577
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】壁構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/80 20060101AFI20240618BHJP
   E04B 2/74 20060101ALI20240618BHJP
   E04B 1/76 20060101ALI20240618BHJP
   E04B 1/66 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
E04B1/80 100Q
E04B2/74 551Z
E04B1/76 500F
E04B1/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198916
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】仁部 孝行
(72)【発明者】
【氏名】江川 知史
(72)【発明者】
【氏名】本郷 倭
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DA01
2E001DD01
2E001FA03
2E001GA12
2E001GA23
2E001GA42
2E001HA33
2E001HF05
(57)【要約】
【課題】本発明は、高断熱性で内部結露が発生しにくく、表面外観に優れるとともに作業手間が軽減された壁構造を提供することを目的とする。
【解決手段】屋外側から順に、グラスウールと、透湿シートと、調湿気密シート又は防湿気密シートと、内装材とを備え、グラスウールは、平均繊維径が2.0~6.0μmであり、透湿シートは、透湿抵抗値が0.003m・s・Pa/ng以下であり、調湿気密シートは、周囲の相対湿度に応じて透湿抵抗値が0.00002~0.02m・s・Pa/ngの範囲で変化することを特徴とする壁構造。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外側から順に、グラスウールと、透湿シートと、調湿気密シート又は防湿気密シートと、内装材とを備え、
前記グラスウールは、平均繊維径が2.0~6.0μmであり、
前記透湿シートは、透湿抵抗値が0.003m・s・Pa/ng以下であり、
前記調湿気密シートは、周囲の相対湿度に応じて透湿抵抗値が0.00002~0.02m・s・Pa/ngの範囲で変化する
ことを特徴とする壁構造。
【請求項2】
前記グラスウールは、製品呼称密度が10~40kg/mである、請求項1に記載の壁構造。
【請求項3】
前記グラスウールは、イグロスが1.0~10質量%である、請求項1又は2に記載の壁構造。
【請求項4】
前記防湿気密シートは、透湿抵抗値が0.082m・s・Pa/ng以上である、請求項1又は2に記載の壁構造。
【請求項5】
グラスウールと、前記グラスウールに貼り付けられた透湿シートとを含み、
請求項1又は2に記載の壁構造に用いられる、透湿シート付グラスウール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
家屋等の建築物の建設においては、省エネルギー及び屋内の快適性の観点から、断熱施工が行われており、建築物の壁に断熱材が敷設されている。このような壁において、湿気(水蒸気)が壁内部に流入し、断熱材の内部に滞留すると、断熱材内の露点温度以下になった部分で結露が発生する場合がある。このように、壁内部で生じる結露を内部結露という。
内部結露が生じると、断熱材の断熱性能を低下させるばかりでなく、壁ないしはその周辺の部材の腐蝕やカビ・菌の発生の原因ともなり、建築物の耐久性にも悪影響を与える。
【0003】
内部結露対策として、例えば、特許文献1には、湿気のコントロールが可能な気密シートである透湿シートで断熱材の屋内側を被覆することにより、断熱材に湿気が溜まるのを抑制し、内部結露の発生を防止する技術が開示されている。
また、特許文献2には、内壁基板と断熱材層との間に、内壁基板側の面は易透過性であり、断熱材層側は難透過性である透湿防水シートを設置することにより、断熱材層内の湿気を内壁基板側に逃がし、特に夏季における内部結露の発生を効果的に防止する技術が開示されている。
また、特許文献3には、断熱壁の屋外側の面に防風性及び透湿性を有する第一シートを設け、断熱壁の屋内側の面に防風性及び第一シートよりも透湿度を低くした半透湿性を有する第二シートを設けることにより、断熱壁内の湿気を屋内側に逃がし、特に夏季における内部結露の発生を効果的に防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-206876号公報
【特許文献2】特開2000-248652号公報
【特許文献3】特開平09-242208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~3の壁構造は、断熱性の点で更なる改良の余地がある。ここで、断熱性を向上させる方法として、例えば、断熱材としてグラスウールを用い、グラスウールの繊維径を細くする(細繊維化する)技術が知られている。しかしながら、細繊維で繊維長の短いグラスウールは、繊維同士の結束が弱いため形が崩れやすく、施工時にグラスウールの表面から繊維塊が剥がれ落ち、グラスウール表面の毛羽立ちが目立って壁構造の表面外観が不良になるとともに、繊維塊が剥がれ落ちないように慎重に施工したり、剥がれ落ちた繊維塊を除去したりするといった作業負担が課題となる。
【0006】
そこで、本発明は、高断熱性で内部結露が発生しにくく、表面外観に優れるとともに作業手間が軽減された壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、細繊維のグラスウールと、その屋内側に配置される調湿気密シート又は防湿気密シートとの間に透湿シートを備えた壁構造とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
屋外側から順に、グラスウールと、透湿シートと、調湿気密シート又は防湿気密シートと、内装材とを備え、
前記グラスウールは、平均繊維径が2.0~6.0μmであり、
前記透湿シートは、透湿抵抗値が0.003m・s・Pa/ng以下であり、
前記調湿気密シートは、周囲の相対湿度に応じて透湿抵抗値が0.00002~0.02m・s・Pa/ngの範囲で変化する
ことを特徴とする壁構造。
[2]
前記グラスウールは、製品呼称密度が10~40kg/mである、[1]に記載の壁構造。
[3]
前記グラスウールは、イグロスが1.0~10質量%である、[1]又は[2]に記載の壁構造。
[4]
前記防湿気密シートは、透湿抵抗値が0.082m・s・Pa/ng以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の壁構造。
[5]
グラスウールと、前記グラスウールに貼り付けられた透湿シートとを含み、
[1]~[4]のいずれかに記載の壁構造に用いられる、透湿シート付グラスウール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高断熱性で内部結露が発生しにくく、表面外観に優れるとともに作業手間が軽減された壁構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る壁構造の一例の概略構造を示す断面図である。
図2】実施例1の壁構造の温度、相対湿度及び含水率のシミュレーション結果を示す図である。上段は、温度のシミュレーション結果であり、下段は、相対湿度及び含水率のシミュレーション結果である。
図3】比較例1の壁構造の温度、相対湿度及び含水率のシミュレーション結果を示す図である。上段は、温度のシミュレーション結果であり、下段は、相対湿度及び含水率のシミュレーション結果である。
図4】比較例2の壁構造の温度、相対湿度及び含水率のシミュレーション結果を示す図である。上段は、温度のシミュレーション結果であり、下段は、相対湿度及び含水率のシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
〈壁構造〉
本実施形態の壁構造は、家屋等の建築物に設けられて建築物の断熱性能を高めるものである。本実施形態の壁構造は、屋外側から順に、厚み方向に、グラスウールと、透湿シートと、調湿気密シート又は防湿気密シートと、内装材とを備える。この構成であることにより、壁構造内に湿気(水蒸気)が流入しても、グラスウール内に湿気が溜まるのを抑制することができ、内部結露が発生しにくい壁構造(壁)を実現することができる。また、細繊維で繊維長の短いグラスウールは、繊維同士の結束が弱いため形が崩れやすく、施工時にグラスウールの表面から繊維塊が剥がれ落ちやすいが、グラスウールの屋内側表面上に透湿シートが配置(貼付)されることにより、グラスウール表面から繊維塊が剥がれ落ちるのを防ぐ(表面保護する)ことができるため、グラスウール表面の毛羽立ちが抑制されて壁構造の表面外観が良好になるとともに、繊維塊が剥がれ落ちないように慎重に施工したり、剥がれ落ちた繊維塊を除去したりするといった作業負担を軽減することができる。また、細繊維のグラスウールと気密性の高い調湿気密シート又は防湿気密シートとを備えることにより、壁構造(壁)は高い断熱性を有する。
【0013】
本実施形態の壁構造は、屋外側から順に、グラスウールと、透湿シートと、調湿気密シート又は防湿気密シートと、内装材とを備えるものであれば、特に限定されることなく、例えば、図1に示すような構成を有していてよい。
具体的には、図1に示す壁構造は、屋外側から順に、厚み方向に、外壁材7、通気層6、透湿防水シート5、グラスウール4、透湿シート3、調湿気密シート又は防湿気密シート2、及び内装材1を備える。
以下、本実施形態の壁構造の各構成要素について説明する。
【0014】
[グラスウール]
本実施形態の壁構造は、断熱材(断熱層)としてグラスウールを備える。グラスウールは、板状(ボード状)に成形された板状体(ボード状体)であることが好ましい。グラスウールの成形方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0015】
グラスウールの平均繊維径は、2.0~6.0μmであり、好ましくは2.0~4.5μmであり、さらに好ましくは2.0~3.5μmである。グラスウールの平均繊維径が2.0μm以上であると、グラスウールの製造及び入手が容易となる。また、グラスウールは、グラスウールの平均繊維径が6.0μm以下であると、断熱材として優れた断熱性能を発揮することができる。
なお、平均繊維径は、Cottonscope Pty Ltd製のcottonscopeHDを用いて測定することができる。平均繊維径は、水に分散させた繊維を顕微鏡で拡大し、カメラで撮影した画像をコンピューターに取り込み、画像処理により繊維径を測定して得られた、30,000本分の測定値の平均値である。ただし、長さ50μm以下の繊維や、繊維径に対して3倍以下の長さの短い繊維は集計から除外している。さらに、繊維長を考慮した集計を行うために、50μmより長さの長い繊維に関しては、画像処理にて自動で長さを分割し、分割したものの繊維径の測定値をそれぞれ集計している。
【0016】
グラスウールの平均繊維長は、5~200mmであることが好ましく、5~100mmであってもよく、5~50mmであってもよい。グラスウールの平均繊維長が上記範囲であると、復元性が良好となる傾向にある。一方、平均繊維長が15mm未満と短いグラスウールの場合、繊維同士の結束が弱くなり、形が崩れやすくなり、グラスウールの施工時にグラスウールの表面から繊維塊が剥がれ落ちやすい。本実施形態の壁構造では、グラスウールの屋内側表面上に透湿シートが配置(貼付)されることにより、グラスウール表面から繊維塊が剥がれ落ちるのを防ぐ(表面保護する)ことができるため、グラスウール表面の毛羽立ちが抑制されて壁構造の表面外観が良好になるとともに、繊維塊が剥がれ落ちないように慎重に施工したり、剥がれ落ちた繊維塊を除去したりするといった作業負担の軽減を可能にしている。
なお、グラスウールの平均繊維長は、繊維化直後の繊維または焼成後のグラスウールから繊維を抜き取り、その長さを直尺を用いて1mm単位で測定する。必要に応じて拡大鏡、ピンセットを用いる。無作為に選んだ100本以上の長さを測定し、その平均値をとる。抜き取る際に折れた繊維は除外してカウントする。
【0017】
グラスウールは、10~40kg/mの製品呼称密度を有する集合体(板状体)であることが好ましく、より好ましい製品呼称密度は16~40kg/mであり、さらに好ましい製品呼称密度は20~40kg/mである。グラスウール集合体の製品呼称密度が10kg/m以上であると、断熱性、保形性及び加工性が良好となる傾向にある。また、グラスウール集合体の製品呼称密度が40kg/m以下であると、施工に必要な柔軟性を確保しやすい傾向にある。
なお、製品呼称密度とは、製品に表示される密度である。グラスウール集合体の密度(実密度)は、JIS A 9521に準拠して測定することができる。その密度の公差範囲はJIS A 9521の記載に準拠する。
【0018】
グラスウールは、成形性及び加工性の向上のため、バインダー樹脂により繊維同士が結合(固着)されていてもよい。
バインダー樹脂としては、例えば、アミド化反応、イミド化反応、エステル化反応及びエステル交換反応のいずれかで硬化する熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。このような熱硬化性樹脂として、具体的には、例えば、エチレン性不飽和単量体を重合したポリカルボン酸と、アミノ基及び/又はイミノ基を有するアルコールを含有する架橋剤とを含有する樹脂等が挙げられる。
【0019】
グラスウールのイグロス(バインダー樹脂の固形分換算の付着量)は、1.0~10質量%であることが好ましく、より好ましくは1.5~8.0質量%であり、4.0~7.0質量%であってもよい。
なお、グラスウールのイグロス(バインダー樹脂の固形分換算の付着量)は、以下の方法により測定することができる。グラスウール集合体(板状体)から100mm×100mm×製品ごとの復元厚みの試験片を切り出し、その質量(Wa)を測定する。次に、切り出した試験片を530℃に設定した電気炉に投入してバインダー樹脂を分解除去する。電気炉から試験片を取り出し、バインダー樹脂を分解除去した後の試験片の質量(Wb)を測定する。下記式によりバインダー樹脂の付着量(質量%)を求める。
バインダー樹脂の付着量(質量%)={(Wa-Wb)/Wa}×100
【0020】
グラスウールは、断熱性、施工性の観点から、10~250mmの厚みを有する集合体(板状体)であることが好ましく、壁の厚さと要求される断熱性能に応じた厚さを適宜選択すればよい。
【0021】
[透湿シート]
透湿シートは、湿気(水蒸気)を通すシートであり、グラスウールの屋内側表面上に配置される。透湿シートにより、グラスウールの施工時にグラスウールの屋内側表面から繊維塊が剥がれ落ちるのを防ぐ(表面保護する)ことができるため、グラスウール表面の毛羽立ちが抑制されて壁構造の表面外観が良好になるとともに、繊維塊が剥がれ落ちないように慎重に施工したり、剥がれ落ちた繊維塊を除去したりする等の作業負担を軽減することができる。このような効果を高めるため、透湿シートは、グラスウールの施工前に、グラスウールの片面(屋内側表面)に予め貼付されていることが好ましい。透湿シートの貼付には、熱可塑性樹脂製の接着剤(スチレンブタジエンゴム系・オレフィン系のホットメルト系接着剤等)等を使用することができる。
なお、グラスウールの施工は、後述のように、通常、グラスウールの屋外側の部材(透湿防水シートや構造用合板等)が施工された後に、該部材と柱(主柱及び/又は間柱)とで形成される空間にグラスウールを挿入するようにして行われるため、グラスウールの屋外側表面からの繊維塊の剥がれ落ちは、グラスウールの屋外側の部材により防止される。
また、透湿シートは、透湿シートを通してグラスウールから調湿気密シート又は防湿気密シートへの湿気の移動、及び調湿気密シートからグラスウールへの湿気の移動が可能であるため、グラスウールの内部に湿気が溜まるのを抑制するという調湿気密シート及び防湿気密シートの機能が透湿シートによって妨げられることはなく、断熱性に優れるとともに、内部結露が発生しにくい壁構造(壁)を実現することができる。
【0022】
透湿シートは、透湿効率を高めるために、細孔を有する微多孔質フィルムであることが好ましい。細孔の孔径は、0.1~100μmであることが好ましく、より好ましくは0.3~50μmであり、さらに好ましくは0.5~3.0μmである。細孔の孔径が100μm以下であると、透湿シートを熱可塑性樹脂製の接着剤等で予めグラスウールに貼付して透湿シート付グラスウールとして使用する場合にも、細孔から接着剤がにじみ出ることがほとんどないため、施工方法・工程の自由度が上がる。
【0023】
透湿シートの透湿抵抗値は、0.003m・s・Pa/ng以下であり、好ましくは0.0003m・s・Pa/ng以下であり、より好ましくは0.0001m・s・Pa/ng未満である。透湿シートの透湿抵抗値が上記範囲であると、グラスウールと調湿気密シートとの間で湿気の移動が良好となり、グラスウールの内部に湿気が溜まるのを良好に抑制することができる。
なお、透湿抵抗値は、JIS Z 0208に規定のカップ法により測定することができる。
【0024】
透湿シートは、JIS A 9521 附属書Aに規定の外皮材の発熱性試験の方法で測定し、同規定の基準値を満たす。すなわち、下記のISO5660コーンカロリーメーター発熱性試験において、加熱開始後5分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、かつ、加熱開始後5分間の間に最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えることがない不燃レベルを有することが好ましい。
(発熱性試験)
透湿シートから99mm×99mmの試験片を切り出し、製品呼称密度40kg/m、50mm厚×99mm幅×99mm長さのグラスウールに該試験片を載せたサンプルを準備する。ISO5660に準拠して、コーンカロリーメーター装置を用い、輻射電気ヒーターからサンプルの表面に50kW/mの輻射熱を5分間照射して、総発熱量(MJ/m)及び最高発熱速度(kW/m)を測定する。
【0025】
透湿シートとしては、透湿抵抗値が0.003m・s・Pa/ng以下であるものであれば特に限定されず、壁構造の材料として使用される公知のものを使用することができ、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、リニア低密度ポリエチレン、メタロセン触媒系リニア低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アイオノマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体等の樹脂フィルムが挙げられる。
【0026】
透湿シートの厚みは、規定の透湿抵抗値を満たすことができ、かつ製造工程、施工時に不具合ない厚さが好ましい。そのため、10~200μmであることが好ましく、特に製造工程中の取り扱い性が良好である点から10~50μmであることがより好ましい。
【0027】
透湿シートは、壁に施工する前に予めグラスウールに貼り付けられた、透湿シート付グラスウールとして用いられることが好ましい。透湿シート付グラスウールであると、施工時にグラスウールの表面から繊維塊が剥がれ落ちるのを良好に防ぐことができるため、壁構造の屋内側表面の外観が良好になるとともに、繊維塊が剥がれ落ちないように慎重に施工したり、剥がれ落ちた繊維塊を除去したりする等の作業負担を軽減することができる。
透湿シート付グラスウールにおける透湿シートとグラスウールとの貼付方法は、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂製の接着剤等で貼付されていてよい。また、透湿シート付グラスウールにおいて、透湿シートは、グラスウールに対向する面全体がグラスウールに貼付されていてもよいし、外縁等の一部のみが貼付されていてもよい。
【0028】
[調湿気密シート]
調湿気密シート(可変透湿気密シートともいう)は、空気を通さないシートであり、湿気(水蒸気)は通すが、周囲の相対湿度に応じて透湿抵抗(透湿性)が変化し、遮湿・透湿が切り替わるシートである。
調湿気密シートは空気を通さないため、壁構造(壁)の断熱性向上に寄与する。
また、調湿気密シートは、夏季や温暖地域など、屋外の方が屋内よりも高温多湿である場合は、調湿気密シートの透湿抵抗が下がり(透湿性が上がり)、湿気を通す(調湿気密シートの屋外側から屋内側へと湿気が移動する)。これにより、グラスウール内部の湿気は屋内側へと移動することができるため、グラスウールの内部に湿気が溜まるのを抑制し、低温であるグラスウールの屋内側の界面(調湿気密シートのグラスウール側表面)付近で結露が生じるのを抑制することができる。これにより、壁の寿命が延び、カビ・菌の発生や腐食等を抑制することができる。
一方、冬季や寒冷地域など、屋内の方が屋外よりも高温多湿である場合は、調湿気密シートの透湿抵抗が上がり(透湿性が下がり)、湿気が通りにくくなる(調湿気密シートの屋内側から屋外側へと湿気が移動しにくくなる)。これにより、屋内側からグラスウールの内部へと湿気が流入して滞留するのが抑制されるため、低温であるグラスウールの屋外側の界面(図1の場合は、透湿防水シートのグラスウール側表面)付近で結露が生じるのを抑制することができる。
調湿気密シートが配置されることにより、上記のように内部結露の発生を抑制することができるため、壁の寿命が延び、カビの発生や木材の腐食等を抑制することができる。
【0029】
調湿気密シートは、周囲の相対湿度に応じて透湿抵抗値が0.00002~0.02m・s・Pa/ngの範囲で変化する。調湿気密シートの透湿抵抗値の変化が上記範囲であると、遮湿・透湿が良好に切り替わり、グラスウールの内部に湿気が溜まって内部結露が生じるのを良好に抑制することができる。
【0030】
調湿気密シートとしては、透湿抵抗値が0.00002~0.02m・s・Pa/ngの範囲で変化するものであれば特に限定されず、壁構造の材料として使用される公知のものを使用することができ、例えば、マグイゾベール社製イゾベール・バリオ エクストラセーフ、酒井化学工業社製調湿すかっとシートプレミアム、旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ社VCLスマート等の市販品が挙げられる。
なお、透湿抵抗値の変化範囲は、JIS Z 0208に規定のカップ法により測定することができる。
【0031】
[防湿気密シート]
防湿気密シートは、空気も湿気(水蒸気)も通さないシートである。
防湿気密シートは空気を通さないため、壁構造(壁)の断熱性向上に寄与する。
また、防湿気密シートによれば、特に冬季や寒冷地域など、屋内の方が屋外よりも高温多湿である場合に、屋内側から屋外側へと湿気が移動しないため、屋内側からグラスウールの内部へと湿気が流入して滞留するのが防止され、低温であるグラスウールの屋外側の界面(図1の場合は、透湿防水シートのグラスウール側表面)付近で結露が生じるのを抑制することができる。これにより、壁の寿命が延び、カビの発生や木材の腐食等を抑制することができる。
一方、夏季や温暖地域など、屋外の方が屋内よりも高温多湿である場合には、グラスウールから屋内側へと湿気が移動できないため、グラスウールの内部に湿気が溜まり、低温であるグラスウールの屋内側の界面(防湿気密シートのグラスウール側表面)付近で結露が生じる場合がある。そのため、防湿気密シートは、寒冷地域など、屋内の方が屋外よりも高温多湿となる環境で本実施形態の壁構造を用いる場合に備えられることが好ましい。
【0032】
防湿気密シートとしては、特に限定されず、壁構造の材料として使用される公知のものを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートの樹脂フィルム、それらのフィルムに金属蒸着を施したもの等が挙げられる。
【0033】
防湿気密シートは、防湿性の観点から、透湿抵抗値が0.082m・s・Pa/ng以上であることが好ましく、より好ましくは0.144m・s・Pa/ng以上である。
なお、透湿抵抗値は、JIS Z 0208に規定するカップを使用して、JIS A 1324に規定するカップ法により測定することができる。
【0034】
[内装材]
内装材は、建築物の内壁となるものであり、特に限定されず、例えば、化粧板等を含む各種合板、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板等が挙げられる。
【0035】
本実施形態の壁構造は、図1に示すように、グラスウールの屋外側に、例えば、透湿防水シート5、通気層6、外壁材7がさらに設けられてよい。即ち、屋外側から順に、外壁材-通気層-透湿防水シート-グラスウール-透湿シート-調湿気密シート又は防湿気密シート-内装材を備える壁構造であってもよい。また、例えば、透湿防水シート5とグラスウール4との間に構造用合板等を備える壁構造等であってもよい。
【0036】
透湿防水シートは、グラスウールと通気層との間における湿気の移動を可能とし、グラスウール内で湿気が滞留するのを抑制することができる。また、透湿防水シートは、防水性を有するため、施工時に降水があった場合や施工後に外壁材から内部へと雨水の浸入が生じた場合でも、グラスウール内への雨水の浸透を防ぐことができる。透湿防水シートは、通気層に面して設けられることが好ましい。
透湿防水シートとしては、例えば、透湿性と防水性とを兼ね備えた、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂繊維からなる不織布性のシート、防水加工した紙製のシート等が挙げられる。
透湿防水シートは、JIS A 6111の透湿防水シートAに該当する品質を有することが好ましい
【0037】
通気層は、胴縁等の通気層確保部材により形成される、屋外と通じた空間である。通気層は、湿気や水分を屋外に排出することができる。
通気層の厚みは、通気層の見かけの透湿抵抗値が26×10―4・s・Pa/ng以下となる厚みであることが好ましい。通気層の厚みが上記範囲であると、十分に湿気や水分を排出する能力が見込める。
【0038】
外壁材は、建築物の外壁となるものであり、特に限定されず、例えば、窯業系、金属系、木質系又は樹脂系のサイディングボード、ALC(軽量気泡コンクリート)パネル等が挙げられる。
【0039】
図1に示すように、本実施形態の壁構造の屋外側に、外壁材-通気層-透湿防水シートを備える壁構造によれば、建築物の屋内側からグラスウールに侵入した湿気は、グラスウールから透湿防水シートを通して通気層に抜け、通気層を通って屋外に排出される。また、屋外から外壁材を通して侵入した湿気は、通気層に抜け、屋外に排出される。したがって、グラスウールの内部に湿気が溜まって内部結露が生じるのを防止する効果を高めることができる。
【0040】
〈壁構造の施工方法〉
本実施形態の壁構造の施工方法は、特に限定されることなく、通常知られている方法を用いることができる。例えば、図1に示す壁構造である場合は、先ず、柱(主柱及び/又は間柱、図示せず)の屋外側に透湿防水シート5を取付け、透湿防水シート5の上から胴縁(図示せず)を柱に固着した後、胴縁の屋外側に外壁材7を固着する。次いで、透湿シート3を熱可塑性樹脂製の接着剤等で片面(屋内側表面)に予め貼付したグラスウール4(透湿シート付グラスウール)を、透湿シート3を貼付した側の面が屋内側となるようにして屋内側から柱間に挿入する。その後、透湿シート3を調湿気密シート又は防湿気密シート2で覆い、調湿気密シート又は防湿気密シート2を柱に固着する。さらに、調湿気密シート又は防湿気密シート2に内装材1を固着することにより、壁構造(壁)が作製される。
【実施例0041】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
「外壁材-通気層-透湿防水シート-グラスウール-透湿シート-調湿気密シート-内装材」の構成を有する壁構造(壁)のシミュレーションモデルを構築し、結露シミュレーションソフト(フラウンホーファー建築物理研究所(IBP)が開発した非定常熱湿気同時移動解析プログラム「WUFI」)を用いて、壁内における温度、相対湿度及び含水率の変化をシミュレーションした。各構成要素の条件及び気象条件は以下のとおりとした。
〈各構成要素の条件及び気象条件〉
・外壁材:窯業系サイディングボード、厚み10.5mm
・通気層:厚み20mm
・透湿防水シート:ポリエチレンフィルム・不織布複合フィルム、厚み0.2mm
・グラスウール:平均繊維径3.3μm、平均繊維長10mm、製品呼称密度20kg/m、イグロス5.0質量%、厚み105mm
・透湿シート:微多孔質ポリエチレンフィルム、透湿抵抗値0.0000885m・s・Pa/ng、下記発熱性試験における不燃レベルは良好、厚み0.03mm
・調湿気密シート:透湿抵抗値の変動範囲0.00002~0.02m・s・Pa/ng、厚み0.1mm
・内装材:石膏ボード、厚み12.5mm
・気象条件:沖縄県那覇市に関する気象庁提供のアメダス気象データ(計測期間3年)
(発熱性試験)
透湿シートから99mm×99mmの試験片を切り出し、製品呼称密度40kg/m、50mm厚×99mm幅×99mm長さのグラスウールに該試験片を載せたサンプルを準備した。ISO5660に準拠して、コーンカロリーメーター装置を用い、輻射電気ヒーターからサンプルの表面に50kW/mの輻射熱を5分間照射して、総発熱量(MJ/m)及び最高発熱速度(kW/m)を測定した。得られた測定値から、以下の評価基準に基づいて不燃レベルを評価した。
良好:加熱開始後5分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、かつ、加熱開始後5分間の間に最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えることはなかった。
不良:加熱開始後5分間の総発熱量が8MJ/m超である、または、加熱開始後5分間の間に最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えることがあった。
【0043】
実施例1のシミュレーション結果を図2に示す。図2上段は温度のシミュレーション結果であり、網掛け部分T1は計測期間中の温度の変動範囲を示し、実線T2はシミュレーション終了時の温度を示している。図2下段は相対湿度及び含水率のシミュレーション結果であり、網掛け部分H1は計測期間中の相対湿度の変動範囲を示し、実線H2はシミュレーション終了時の相対湿度を示している。また、網掛け部分M1は計測期間中の含水率の変動範囲を示し、実線M2はシミュレーション終了時の含水率を示している。なお、網掛け部分H1において、相対湿度が100%に達した部分は、結露が生じた部分であることを示す。
実施例1の壁モデルは、図2下段の網掛け部分H1において、相対湿度が100%に達した部分はなく、内部結露が発生しなかったことが分かる。
また、実施例1の壁モデルは、グラスウールの室内側表面に透湿シートを貼付しているため、グラスウールの施工時にグラスウールの表面から繊維塊が剥がれ落ちるのを防ぐ(表面保護する)ことができ、グラスウール表面の毛羽立ちが抑制されて壁構造の表面外観が良好であるとともに、繊維塊が剥がれ落ちないように慎重に施工したり、剥がれ落ちた繊維塊を除去したりする等の作業負担を軽減することができる。
【0044】
[比較例1]
透湿シートを使用しない構成(「外壁材-通気層-透湿防水シート-グラスウール-調湿気密シート-内装材」)の壁シミュレーションモデルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、シミュレーションを行った。
【0045】
比較例1のシミュレーション結果を図3に示す。実施例1と同様に、図3上段は温度のシミュレーション結果であり、図3下段は相対湿度及び含水率のシミュレーション結果である。
比較例1の壁モデルは、図3下段の網掛け部分H1において、相対湿度が100%に達した部分はなく、実施例1と同様に、内部結露が発生しなかったことが分かる。
しかしながら、比較例1の壁モデルは、グラスウールの室内側表面に透湿シートを貼付していないため、グラスウールの施工時にグラスウールの表面から繊維塊が剥がれ落ち、実施例1と比較して、グラスウール表面の毛羽立ちが目立って壁構造の表面外観が不良になるとともに、繊維塊が剥がれ落ちないように慎重に施工したり、剥がれ落ちた繊維塊を除去したりすることが必要となり、作業負担が増加する。
【0046】
[比較例2]
透湿シートではなく防湿シート(ポリエチレンフィルム、厚み18μm)を使用した構成(「外壁材-通気層-透湿防水シート-グラスウール-防湿シート-調湿気密シート-内装材」)の壁シミュレーションモデルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、シミュレーションを行った。
【0047】
比較例2のシミュレーション結果を図4に示す。実施例1と同様に、図4上段は温度のシミュレーション結果であり、図4下段は相対湿度及び含水率のシミュレーション結果である。
比較例2の壁モデルは、図4下段の網掛け部分H1において、グラスウールの防湿シートとの界面付近で相対湿度が100%に達した部分があり(破線枠内を参照)、結露が発生したことが分かる。これは、グラスウールと調湿気密シートとの間に防湿シートを備えることにより、グラスウールから屋内側へと湿気が移動できないため、グラスウールの内部に湿気が溜まり、グラスウールの屋内側の界面(防湿シートのグラスウール側表面)付近で結露が生じたと考えられる。
一方、比較例2の壁モデルは、グラスウールの室内側表面に防湿シートを貼付しているため、グラスウールの施工時にグラスウールの表面から繊維塊が剥がれ落ちるのを防ぐ(表面保護する)ことができ、実施例1と同様に、グラスウール表面の毛羽立ちが抑制されて壁構造の表面外観が良好であるとともに、繊維塊が剥がれ落ちないように慎重に施工したり、剥がれ落ちた繊維塊を除去したりする等の作業負担を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の壁構造は、高断熱性で内部結露が発生しにくく、表面外観に優れるとともに作業手間が軽減された壁構造であるため、家屋等の建築物に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 内装材
2 調湿気密シート又は防湿気密シート
3 透湿シート
4 グラスウール
5 透湿防水シート
6 通気層
7 外壁材
図1
図2
図3
図4