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特開2024-84711抵抗スポット溶接方法および溶接部材の製造方法
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  • 特開-抵抗スポット溶接方法および溶接部材の製造方法 図1
  • 特開-抵抗スポット溶接方法および溶接部材の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084711
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】抵抗スポット溶接方法および溶接部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20240618BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B23K11/24 315
B23K11/11 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207283
(22)【出願日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2022198910
(32)【優先日】2022-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】谷口 公一
(72)【発明者】
【氏名】宗村 尚晃
(72)【発明者】
【氏名】澤西 央海
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA01
4E165AA02
4E165AA03
4E165AB02
4E165BB02
4E165BB12
4E165CA02
4E165CA13
4E165EA12
(57)【要約】
【課題】外乱が存在する場合にも、所望とするナゲット径のナゲットを安定して形成することができる抵抗スポット溶接方法を提供する。
【解決手段】複数枚の鋼板1、2を重ね合わせた板組3を、一対の電極4、5によって挟み、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法において、上記通電が、第1段の通電と、第1段の通電後に所定のナゲット径のナゲットを形成する第2段の通電とを含む2段以上の通電を有し、第1段の通電における目標発熱量E1および第2段の通電における目標発熱量E2について、E1/E2が板組3の板厚比Rに応じた所定の範囲に入り、溶接中の電気的信号を監視しながら一対の電極4、5間の電流を制御することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極によって挟み、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法において、
前記通電が、第1段の通電と、前記第1段の通電後に所定のナゲット径のナゲットを形成する第2段の通電とを含む2段以上の通電を有し、
前記第1段の通電における目標発熱量E1、前記第2段の通電における前記所定のナゲット径のナゲットを形成するのに必要な目標発熱量E2、加圧力P[N]、前記板組を構成する鋼板の最大の引張強さの差ΔTS[MPa]、前記板組を構成する鋼板の板厚比Rとして、E1/E2が下記の式(1)~(3)のいずれかを満足し、溶接中の電気的信号を監視しながら前記一対の電極間の電流を制御することを特徴とする抵抗スポット溶接方法。
2.0≦R≦2.5の場合、(0.08+0.004×R)×(1+ΔTS/P)≦E1/E2≦(0.4+0.02×R)×(1+ΔTS/P) (1)
2.5<R≦5の場合、(0.07+0.008×R)×(1+ΔTS/P)≦E1/E2≦(0.35+0.04×R)×(1+ΔTS/P) (2)
5<R≦10の場合、(0.03+0.016×R)×(1+ΔTS/P)≦E1/E2≦(0.25+0.06×R)×(1+ΔTS/P) (3)
【請求項2】
前記2段以上の通電による本溶接に先立ってテスト溶接を行い、
前記テスト溶接では、定電流制御により通電して前記所定のナゲット径のナゲットを形成する場合の前記一対の電極間の電気特性から算出される、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および単位体積当たりの累積発熱量を記憶させ、
前記本溶接の通電では、前記テスト溶接における前記単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および前記単位体積当たりの累積発熱量を目標値に設定し、該目標値に従って通電量を制御する、請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項3】
E1/E2が0.9未満である、請求項1または2に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項4】
ΔTSが440MPa以上である、請求項1または2に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の抵抗スポット溶接方法により、重ね合わせた2枚以上の鋼板を接合して溶接部材を得る、溶接部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗スポット溶接方法および溶接部材の製造方法に関する。
【0002】
一般に、重ね合わせた鋼板同士の接合には、重ね抵抗溶接法の一種である抵抗スポット溶接法が用いられている。この溶接法は、重ね合わせた2枚以上の鋼板を挟んでその上下から一対の電極で加圧しつつ、上下電極間に高電流の溶接電流を短時間通電して接合する方法であり、高電流の溶接電流を流すことによって発生する抵抗発熱を利用して、点状の溶接部が得られる。この点状の溶接部は「ナゲット」と呼ばれ、重ね合わせた鋼板に電流を流した際に鋼板の接触箇所にて両鋼板が溶融し、凝固した部分である。このナゲットにより、鋼板同士が点状に接合される。
【0003】
良好な溶接部品質を得るためには、ナゲットの径を適正な範囲に調整することが重要である。ナゲット径は、溶接電流、通電時間、電極形状および加圧力等の溶接条件によって定まる。従って、適切なナゲット径を得るためには、被溶接材の材質、板厚および重ね枚数等の被溶接材の条件に応じて、上記の溶接条件を適正に設定する必要がある。
【0004】
例えば、自動車の製造に際しては、一台当たり数千点ものスポット溶接が施されており、また次々と流れてくる被処理材(ワーク)を溶接する必要がある。この時、各溶接箇所における被溶接材の材質、板厚および重ね枚数等の被溶接材の状態が同一であれば、溶接電流、通電時間および加圧力等の溶接条件も同一の条件で同一のナゲット径を得ることができる。
【0005】
しかしながら、連続した溶接では、電極の被溶接材への接触面が次第に摩耗して接触面積が初期状態よりも次第に広くなる。このように電極の接触面積が広くなった状態で、初期状態と同じ値の溶接電流を流すと、被溶接材中の電流密度が低下し、溶接部の温度上昇が低くなるため、ナゲット径は小さくなる。このため、数百~数千点の溶接毎に、電極の研磨または交換を行い、電極の先端径が拡大しすぎないようにしている。
【0006】
その他、予め定めた回数の溶接を行うと溶接電流値を増加させて、電極の摩耗に伴う電流密度の低下を補償する機能(ステッパー機能)を備えた抵抗溶接装置が、従来から使用されている。このステッパー機能を使用するには、上述した溶接電流変化パターンを予め適正に設定しておく必要がある。
【0007】
しかしながら、このために、数多くの溶接条件および被溶接材条件に対応した溶接電流変化パターンを、試験等によって導き出すには、多くの時間とコストが必要になる。また、実際の施工においては、電極摩耗の進行状態にはバラツキがあるため、予め定めた溶接電流変化パターンが常に適正であるとはいえない。
【0008】
さらに、溶接に際して外乱が存在する場合、例えば、溶接する点の近くにすでに溶接した点(既溶接点)がある場合や、被溶接材の表面凹凸が大きく溶接する点の近くに被溶接材の接触点が存在する場合には、溶接時に既溶接点および接触点に電流が分流する。このような状態では、所定の条件で溶接しても、電極直下の溶接したい位置における電流密度は低下するため、やはり必要な径のナゲットは得られなくなる。この発熱量不足を補償し、必要な径のナゲットを得るには、予め高い溶接電流を設定することが必要となる。
【0009】
また、表面凹凸や部材の形状などにより溶接する点の周囲が強く拘束されている場合や、溶接点周囲の鋼板間に異物が挟まっていたりする場合には、鋼板間の隙間(以下、「板隙」とも言う。)が大きくなることで鋼板同士の接触径が狭まり、散りが発生しやすくなることもある。
【0010】
このような溶接不安定性を解決するために、いわゆる適応制御溶接が提案されている。適応制御溶接では、前述した電極の損耗や外乱による溶接現象の変化を、溶接中の電流、電圧、抵抗や発熱量の変化を電気的信号として直接計測あるいは算出し、その値に基づいて溶接電流や電圧などの入力パラメータを制御する。
【0011】
特許文献1には、溶接電流およびチップ間電圧を検出し、熱伝導計算により溶接部のシミュレーションを行い、溶接中における溶接部のナゲットの形成状態を推定することによって、良好な溶接を行おうとする抵抗溶接機の溶接条件制御方法が記載されている。
【0012】
特許文献2には、被溶接物の板厚と通電時間とから、その被溶接物を良好に溶接することができる単位体積当たりの累積発熱量を計算し、計算された単位体積・単位時間当たりの発熱量を発生させる溶接電流または電圧に調整する処理を行う溶接システムを用いることにより、被溶接物の種類や電極の摩耗状態によらず良好な溶接を行おうとする抵抗溶接システムが記載されている。
【0013】
特許文献3には、溶接パターンを電極直下に通電経路を確保するためのステップと、引き続く所定径のナゲットを形成するためのステップの2段とし、テスト溶接にて定電流制御により通電して適正なナゲットを形成する場合の電極間の電気特性から算出される、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化および単位体積当たりの累積発熱量をそれぞれ目標値として記憶させたうえで、本溶接の累積発熱量がテスト溶接で予め求めた累積発熱量と一致するように通電量を制御することで、一定以上のナゲット径を得ることができる抵抗スポット溶接方法が記載されている。
【0014】
特許文献4には、テスト溶接にて累積発熱量を記憶させる場合に、外乱のある状態を模擬して記憶させたうえで、本溶接の累積発熱量がテスト溶接で予め求めた累積発熱量と一致するように通電量を制御することによって、一定以上のナゲット径を得ることができる抵抗スポット溶接方法が記載されている。
【0015】
特許文献5には、本溶接の通電開始前に、初期設定加圧力に到達するまで加圧し、本溶接時にも同様に加圧力を計測し、その加圧開始時点から初期設定加圧力に到達する前に得られる加圧力指標のパラメータを用いて通電時の加圧力を設定することによって、安定して所望のナゲット径を得ることのできる抵抗スポット溶接方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平10-94883号公報
【特許文献2】特開平11-33743号公報
【特許文献3】国際公開第2015/049998号
【特許文献4】特開2019-34341号公報
【特許文献5】国際公開第2020/095847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、熱伝導モデル(熱伝導シミュレーション)等に基づいてナゲットの温度を推定するため、複雑な計算処理が必要であり、溶接制御装置の構成が複雑になるだけでなく、溶接制御装置自体が高価になるという問題があった。
【0018】
また、特許文献2に記載の技術では、累積発熱量を目標値に制御することによって、電極が一定量摩耗していたとしても良好な溶接を行うことができるものと考えられる。しかしながら、設定した被溶接材条件と実際の被溶接材条件が大きく異なる場合、例えば、被溶接材となる金属板間に大きな隙間が存在している場合などには、最終的な累積発熱量を目標値に合わることができても、発熱の形態、つまり溶接部の温度分布の時間変化が目標とする良好な溶接部が得られる熱量パターンから外れ、必要とするナゲット径が得られなかったり、散りが発生したりする。
【0019】
さらに、特許文献3~5に記載の技術では、累積発熱量を外乱有無によらず記憶させておくものであるが、その条件設定手段が規定されているわけではなく、異なるめっきを有する板組ごとに多様な実験が必要となることから、外乱による変動に対しての最適解と言えない場合がある、という課題があった。
【0020】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、外乱が存在する場合にも、所望とするナゲット径のナゲットを安定して形成することができる抵抗スポット溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決し、外乱が存在する場合にも所望のナゲット径のナゲットを安定して形成することができる条件設定方法について鋭意実験的検討を行った。従来、板厚比(すなわち、板組を構成する鋼板の厚みの合計値/板組を構成する鋼板の厚みの最小値)がナゲット形成に大きな影響を及ぼすことが知られている。そこで、本発明者らは、板厚比と発熱量との関係の規定に着眼して整理を行った。
【0022】
その結果、複数枚の鋼板を重ね合わせた板組を一対の電極によって挟み、加圧しながら通電してスポット溶接する際に、上記通電を第1段の通電と、ナゲットを形成する第2段の通電とを含む2段以上とし、1段目の通電における目標発熱量E1および第2段の通電における所望とするナゲット径のナゲットを形成するのに必要な目標発熱量E2を、E1/E2が、板組を構成する鋼板の板厚比Rに応じた要件を満足するように設定した上で、溶接中の電気的信号を監視しながら一対の電極間の電流を制御することにより、外乱が存在する場合にも所望のナゲット径のナゲットを安定して形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0023】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]複数枚の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極によって挟み、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法において、
前記通電が、第1段の通電と、前記第1段の通電後に所定のナゲット径のナゲットを形成する第2段の通電とを含む2段以上の通電を有し、
前記第1段の通電における目標発熱量E1、前記第2段の通電における前記所定のナゲット径のナゲットを形成するのに必要な目標発熱量E2、加圧力P[N]、前記板組を構成する鋼板の最大の引張強さの差ΔTS[MPa]、前記板組を構成する鋼板の板厚比Rとして、E1/E2が下記の式(1)~(3)のいずれかを満足し、溶接中の電気的信号を監視しながら前記一対の電極間の電流を制御することを特徴とする抵抗スポット溶接方法。
2.0≦R≦2.5の場合、(0.08+0.004×R)×(1+ΔTS/P)≦E1/E2≦(0.4+0.02×R)×(1+ΔTS/P) (1)
2.5<R≦5の場合、(0.07+0.008×R)×(1+ΔTS/P)≦E1/E2≦(0.35+0.04×R)×(1+ΔTS/P) (2)
5<R≦10の場合、(0.03+0.016×R)×(1+ΔTS/P)≦E1/E2≦(0.25+0.06×R)×(1+ΔTS/P) (3)
【0024】
[2]前記2段以上の通電による本溶接に先立ってテスト溶接を行い、
前記テスト溶接では、定電流制御により通電して前記所定のナゲット径のナゲットを形成する場合の前記一対の電極間の電気特性から算出される、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および単位体積当たりの累積発熱量を記憶させ、
前記本溶接の通電では、前記テスト溶接における前記単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および前記単位体積当たりの累積発熱量を目標値に設定し、該目標値に従って通電量を制御する、前記[1]に記載の抵抗スポット溶接方法。
【0025】
[3]E1/E2が0.9未満である、前記[1]または[2]に記載の抵抗スポット溶接方法。
【0026】
[4]ΔTSが440MPa以上である、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【0027】
[5]前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接方法により、重ね合わせた2枚以上の鋼板を接合して溶接部材を得る、溶接部材の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、外乱が存在する場合にも、所望とするナゲット径のナゲットを安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】抵抗スポット溶接方法の概要を説明する図である。
図2】所望のナゲット径のナゲットを安定して形成するための、第2段の通電における目標発熱量E2に対する第1段の通電における目標発熱量E1の比率E1/E2の適正範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明による抵抗スポット溶接方法は、図1に示すように、複数枚の鋼板1、2を重ね合わせた板組3を、一対の電極4、5で挟み、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法である。上記通電によって発生する抵抗発熱により、点状の溶接部6が形成される。この点状の溶接部6は「ナゲット」と呼ばれ、重ね合わせた鋼板1、2に溶接電流を流した際に、鋼板1、2の接触箇所で両鋼板1、2が溶融して凝固した部分であり、これにより鋼板1、2同士が点状に接合される。
【0031】
接合対象である鋼板1、2は、めっき層を有する鋼板であってもよい。複数枚の鋼板1、2の2枚以上がめっき層を有する鋼板であってもよい。また、複数枚の鋼板1、2の全てがめっき層を有する鋼板であってもよい。めっき層は、鋼板1、2の片面(一方の表面)のみに設けられていても、両面に設けられていてもよい。
【0032】
上記めっき層を有する鋼板としては、亜鉛系めっき鋼板を挙げることができる。亜鉛系めっき鋼板は、例えば溶融めっき法、電気めっき法、蒸着めっき法、溶射法などの各種方法により鋼板上に亜鉛系めっきを被覆した鋼板である。亜鉛系めっきとしては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛-アルミニウム合金めっき、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき、電気亜鉛めっき、電気亜鉛-ニッケル合金めっきなどを挙げることができるが、これらに限定されず、亜鉛を含む公知の亜鉛系めっきの全てが適用可能である。こうした亜鉛系めっき鋼板としては、合金化処理を施していない溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化処理を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を挙げることができる。
【0033】
板組3を構成する鋼板1、2の最大の引張強さの差ΔTSが440MPa以上であることが好ましい。これにより、引張強さの差による発熱形態の変化が明瞭となるため、本発明例での目標発熱量制御にて安定して溶接できる。
【0034】
本発明は、溶接中の電気的信号を監視しながら、溶接中に電流を制御する抵抗スポット溶接方法である。ここで、その通電が、第1段の通電と、第1段の通電後に所定のナゲット径のナゲットを形成する第2段の通電とを含む2段以上の通電を有する。1段目の通電は、所定のナゲット径を形成する通電の前に行う通電であり、通電経路を確保するための初期通電である。一方、第2段の通電は、所望とするナゲット径のナゲットを形成するための本通電である。
【0035】
本発明においては、1段目の通電における、通電経路を確保するための目標発熱量E1および2段目の通電における、所定のナゲット径を形成するに必要な目標発熱量E2を、E1/E2の比率を、板組3を構成する鋼板1、2の板厚比Rに基づいて決定し、通電を行うことを特徴とする。
【0036】
具体的には、本発明による抵抗スポット溶接方法は、通電が、第1段の通電と、該第1段の通電後に所定のナゲット径のナゲットを形成する第2段の通電とを含む2段以上の通電を有する。そして、第1段の通電における目標発熱量E1、第2段の通電における所定のナゲット径のナゲットを形成するのに必要な目標発熱量E2、加圧力P[N]、板組を構成する鋼板の最大の引張強さの差ΔTS[MPa]、板組を構成する鋼板の板厚比Rとして、E1/E2が下記の式(1)~(3)のいずれかを満足し、溶接中の電気的信号を監視しながら一対の電極間の電流を制御する。
2.0≦R≦2.5の場合、(0.08+0.004×R)×(1+ΔTS/P)≦E1/E2≦(0.4+0.02×R)×(1+ΔTS/P) (1)
2.5<R≦5の場合、(0.07+0.008×R)×(1+ΔTS/P)≦E1/E2≦(0.35+0.04×R)×(1+ΔTS/P) (2)
5<R≦10の場合 の場合、(0.03+0.016×R)×(1+ΔTS/P)≦E1/E2≦(0.25+0.06×R)×(1+ΔTS/P) (3)
【0037】
上記式(1)~(3)において、E1/E2の値が大きいということは、通電の初期(第1段の通電)の発熱量を大きくし、鋼板1、2間の接触を安定化させる必要があることを示している。また、ΔTSが大きい場合には、ナゲットの形成のためにより高い目標発熱量E1が必要となるが、加圧力Pを増加させた場合には、ΔTSによる差の影響が小さくなるという相関がみられた。
【0038】
また、板厚比Rが小さい場合には、ナゲットの形成が安定化しやすく、E1/E2の値は比較的小さくともよいが、板厚比Rが一定の値以上となると、接触域の安定化が困難となり、必要な目標発熱量E1も大きくなる。板厚比Rが非常に大きく、5を超えると、板厚比Rに対する目標発熱量E1が急激に増加することが確認された。本発明者らは、これらの傾向を整理することによって、目標発熱量E1およびE2を、E1/E2が上記式(1)~(3)のいずれかを満たすように設定し、溶接中に電極4、5間の電流を制御することによって、外乱が存在する場合にも所望のナゲット径のナゲットを安定して形成できることを見出したのである。
【0039】
図2に、ΔTSが710MPa、加圧力が3500Nの場合に対して計算される、所望のナゲット径のナゲットを安定して形成するためのE1/E2の適正範囲を示す。図2において、実線は所望のナゲット径のナゲットを安定して形成するためのE1/E2の下限値、点線は上限値をそれぞれ示している。図2に示すように、板厚比Rが増加するにつれて、E1/E2が満たすべき下限値および上限値とも増加し、より大きい発熱量が必要となる。
【0040】
また、E1/E2が0.9未満であることが好ましい。これにより、引張強さの差異が存在する場合に初期の急峻な発熱を抑止し、安定した溶接を行うことができる。
【0041】
目標発熱量E1およびE2の算出方法は特に限定されないが、特許文献3にその一例が開示されており、本発明においても、上記方法を採用することができる。特許文献3に記載された方法による単位体積・単位時間当たりの発熱量qおよび単位体積当たりの累積発熱量Qの算出要領は次のとおりである。
【0042】
すなわち、鋼板などの被溶接材の合計厚みをt、被溶接材の電気抵抗率をr、電極間電圧をV、溶接電流をIとし、電極と被溶接材とが接触する面積をSとする。この場合、溶接電流Iは、横断面積がSで、厚みtの柱状部分を通過して抵抗発熱を発生させる。この柱状部分における単位体積・単位時間当たりの発熱量qは、下記の式(4)で求められる。
q=(V・I)/(S・t) (4)
【0043】
また、上記柱状部分の電気抵抗Rは、下記の式(5)で求められる。
R=(r・t)/S (5)
【0044】
式(5)をSについて解き、これを(4)式に代入すると、発熱量qは下記の式(6)で与えられる。
q=(V・I・R)/(r・t)=(V)/(r・t) (6)
【0045】
上記式(6)から明らかなように、単位体積・単位時間当たりの発熱量qは、電極間電圧Vと被溶接物の合計厚みtと被溶接物の電気抵抗率rとから算出でき、電極と被溶接物が接触する面積Sによる影響を受けない。なお、式(6)は電極間電圧Vから発熱量qを計算しているが、電極間電流Iから発熱量qを計算することもでき、このときにも電極と被溶接材とが接触する面積Sを用いる必要がない。そして、単位体積・単位時間当たりの発熱量qを通電期間にわたって累積することによって、溶接時に加えられる単位体積当たりの累積発熱量Qが得られる。式(6)から明らかなように、この単位体積当たりの累積発熱量Qもまた、電極と被溶接材とが接触する面積Sを用いることなく算出することができる。
【0046】
本発明において設定する加圧力Pは、被溶接材である板組3を構成する鋼板1、2の材質や厚みなどに応じて、適宜、設定すればよい。例えば、被溶接材として、厚み:1.4mm、材質:めっき層のない、あるいは表面にZnを含むめっき層を有する270~2000MPa級鋼板を2枚重ねた板組を使用する場合、設定加圧力は1.0~7.0kNとすることが好ましい。また、被溶接材として、厚み:1.4mm、材質:めっき層のない、あるいは表面にZnを含むめっき層を有する270~2000MPa級鋼板を3枚重ねた板組を使用する場合、設定加圧力は2.0kN~10.0kNとすることが好ましい。
【0047】
本発明は適応制御溶接を行うものであるが、これは上記発熱量の目標値を基準として溶接を行い、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線に沿っている場合には、そのまま溶接を行って溶接を終了する。ただし、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線から外れた場合には、発熱量の差分を残りの通電時間内で補償すべく、本溶接での単位体積当たりの累積発熱量が目標値として設定した単位体積当たりの累積発熱量と一致するように通電量を制御する。
【0048】
第2段の通電によって形成されるナゲットの所望のナゲット径は、生産上必要となる以上の値であればよいが、板間を構成する2枚の板のうち、薄板側の板厚をt(mm)として、その板間のナゲット径が4√t(mm)以上の値が得られることを目標とすることが望ましい。
【0049】
なお、本発明において、2段以上の通電による本溶接に先立ってテスト溶接を行い、上記テスト溶接では、定電流制御により通電して所定のナゲット径のナゲットを形成する場合の一対の電極間の電気特性から算出される、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および単位体積当たりの累積発熱量を記憶させ、本溶接の通電では、テスト溶接における単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および単位体積当たりの累積発熱量を目標値に設定し、該目標値に従って通電量を制御することが好ましい。これにより、散りを発生させることなく、所望のナゲット径のナゲットを形成することができる。
【0050】
(溶接部材の製造方法)
本発明による溶接部材の製造方法は、上述した本発明による抵抗スポット溶接方法により、重ね合わせた複数枚の鋼板を接合することを特徴とする。
【0051】
上述のように、本発明による抵抗スポット溶接方法においては、通電を、第1段の通電と、ナゲットを形成する第2段の通電とを含む2段以上とし、1段目の通電における目標発熱量E1および第2段の通電における所望とするナゲット径のナゲットを形成するのに必要な目標発熱量E2を、E1/E2が、板組を構成する鋼板の板厚比Rに応じた要件を満足するように設定した上で、溶接中の電気的信号を監視しながら一対の電極間の電流を制御している。これにより、外乱が存在する場合にも所望のナゲット径のナゲットを形成することができる。よって、本発明による抵抗スポット溶接方法により、重ね合わせた複数枚の鋼板を接合することにより、所望のナゲットのナゲットを有する高い溶接強度の溶接部材を製造することができる。
【実施例0052】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0053】
表1に示す鋼板で構成された板組みについて、板隙が無い場合、あるいは板隙が有る場合にて、表2に示す条件で本溶接を行い、溶接継手を作製した。得られた各溶接継手について、溶接部を切断し、断面をエッチングした後、光学顕微鏡により観察し、ナゲット径を測定した。板隙としては、ラボ的な実験のため、溶接狙い位置の両側に、その位置から25mm離れた地点の鋼板間の隙間が2mmとなるよう、鋼板間にスペーサを挟むことによって設定した。測定したナゲット径、および測定したナゲット径の狙いナゲット径からの変動値について、以下のように評価した。その際、狙いナゲット径は板隙が無い場合を基準とし、板隙が有る場合の変動を比較した。得られた評価結果を表2に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
径判定:
○(合格):ナゲット径が狙いナゲット径より大きい。
×(不合格):ナゲット径が狙いナゲット径より小さい。
【0057】
径変動:
〇(合格):ナゲット径が狙いナゲット径より0.3×(板厚(mm))の平方根(mm)以下の変動である。
×(不合格):ナゲット径が狙いナゲット径より0.3×(板厚(mm))の平方根(mm)を超える変動である。なお、ここでいう(板厚)とは、板組のなかで最も薄い鋼板の板厚(mm)をいう。
【0058】
表2から明らかなように、発明例ではいずれも、板隙の有無によらず、所定のナゲット径が得られているのみならず、変動値が小さかった。一方、比較例では、十分なナゲット径が得られず、また変動値が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、外乱が存在する場合にも、所望のナゲット径のナゲットを安定して形成することができる。
【符号の説明】
【0060】
1、2 鋼板
3 板組
4、5 電極
6 溶接部(ナゲット)
図1
図2