(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084731
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】動物用水循環式糞尿処理システム
(51)【国際特許分類】
A01K 1/01 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
A01K1/01 F
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209335
(22)【出願日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2022198421
(32)【優先日】2022-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522484962
【氏名又は名称】フォレストヒル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522484294
【氏名又は名称】東 泰理
(74)【代理人】
【識別番号】100190160
【弁理士】
【氏名又は名称】隅田 俊隆
(72)【発明者】
【氏名】森岡 秀一
(72)【発明者】
【氏名】東 泰理
【テーマコード(参考)】
2B101
【Fターム(参考)】
2B101AA07
2B101AA11
2B101CA04
2B101CA06
2B101CA10
2B101CB01
2B101CC13
2B101CC17
2B101DA06
2B101EC04
2B101EC05
2B101EC08
2B101FA04
(57)【要約】
【課題】
強烈な悪臭の原因となる糞尿に含まれるアンモニアの揮発を抑制しかつ少ない人員で管理が可能な動物用水循環式糞尿処理システムを提供すること。
【解決手段】
マウスMの糞尿をケージ110の下方に落下させ、その下方を流れる処理水が糞尿を巻き込んでなる汚水を沈殿槽130に送水して固形物の沈殿除去を行い、次いで、アンモニア分解槽140に送水して担体141に付着させた微生物群による硝化処理を行って無臭化させ、処理水を再び水路120に還流させて循環させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の糞尿が通過可能な床部を備えるケージと、
前記ケージの下方に配置され、上流側から流入する処理水に前記床部を通過する前記糞尿が混入されてなる汚水を流通させる水路と、
前記水路の下流側に接続され、前記汚水から固形物を沈殿除去させる沈殿槽と、
前記沈殿槽と接続され、前記固形物が沈殿除去された前記汚水に溶解したアンモニアを硝化させる微生物群を生息させた担体が配設されるアンモニア分解槽と、
前記アンモニア分解槽で処理された前記汚水を前記処理水として前記水路の上流側に還流させる循環ポンプとを備えることを特徴とする動物用水循環式糞尿処理システム。
【請求項2】
前記床部は、網状、格子状又は多孔状に形成されることを特徴とする請求項1記載の動物用水循環式糞尿処理システム。
【請求項3】
前記微生物群は、ニトロソモナス属、ニトロソコッカス属、ニトロソスピラ属、ニトロソプミルス属、ニトロソスパエラ属に属する1種又は2種以上の亜硝酸生成菌と、ニトロバクタ―属、ニトロスピラ属に属する1種又は2種以上の硝酸生成菌とを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の動物用水循環式糞尿処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の飼育時に排泄される糞尿を処理するシステムに関し、特には、糞尿に含まれるアンモニアを分解して悪臭の発生を抑制する動物用水循環式糞尿処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
しばしば動物の糞尿を原因とする悪臭が生活環境に悪影響を与えることがある。例えば、動物園や家庭で飼育されている爬虫類の餌となる冷凍マウスは、飼育施設で数万匹という数の大量の親マウスを飼育し繁殖させることによって生産されている。通常、マウスの飼育はケージの中で行われており、排泄される糞尿の処理は木材チップや吸水ポリマー等からなる床材を一日数回交換することによって行われている。そして、糞尿を含んだ床材からはアンモニアが揮発して強烈な悪臭を生じ、飼育施設の外部の広い範囲にわたって拡散し公害事故を起こす懸念がある。このため、冷凍マウスの生産のための飼育施設は、糞尿を原因とする悪臭が人の生活に影響しないよう広大な敷地に建設する必要があるが、このために十分な広さの敷地を確保することは我が国では困難である。また、糞尿を含んだ床材の交換は、数万匹のマウスについて毎日欠かさずに行わなければならないことに加え、交換済みの床材は大量のごみとなるので、冷凍マウスの生産には多くの手間とコストがかかっていた。
【0003】
このため、国内で供給される冷凍マウスのほとんどは、安価で生産が可能な外国からの輸入に頼っているのが現状である。一方で、国内における冷凍マウスの需要は年々高まっており、将来的に輸入だけで対応するのは困難となることが予想されている。そのため、特にアンモニアに起因する悪臭の発生を抑制できかつ少ない人員と低コストで稼働させることが可能な糞尿処理システムが求められている。
【0004】
また、採卵を目的として鶏が飼育される養鶏場では、ケージ内に溜まった糞尿を外部に排出・集積し焼却等して処理されるが、処理までの間に糞尿が発酵して発熱し、養鶏場内の温度が上昇するという問題があった。このため、養鶏場では排熱のための大型換気扇が設置されて日常的に換気が行われている。しかしながら、養鶏場内の空気が換気されると、糞尿による悪臭の排気によって周辺環境に悪影響を及ぼすことに加え、養鶏場内への外気流入により、鶏が感染症に罹患するリスクが高まるといった懸念が生じる。また、糞尿処理にかかる費用がコストの上昇の一因となっている。そこで、養鶏場内の換気を行うことなく排熱と悪臭抑制ができかつ糞尿処理のコスト低減を行える糞尿処理システムが求められている。
【0005】
一方、動物の糞尿を処理して悪臭の発生を抑制する従来のシステムとして、例えば、飼育する動物に、その糞尿を無臭で、且つ分解し易くする第一の放線菌を含む飼料を食べさせてから、排泄した糞尿に、該糞尿を二酸化炭素及び水、並びにNO2(二酸化窒素)及び無臭のNH4
-(アンモニアイオン)に分解する第二の放線菌を投入する糞尿処理システム(例えば、特許文献1参照)や、家畜の糞尿が落下可能な床3と、床下に形成され、落下した糞尿を受け入れる臭気低減用の水を貯溜するFRP製の水貯溜部4と、を備える畜舎2と、水貯溜部4から排出される糞尿混合水を曝気する曝気槽21と、曝気槽21で曝気処理した曝気処理汚泥を沈殿分離させる沈澱槽31と、沈澱槽31の上澄水を水貯溜部4に環流させる環流路41と、を備える臭気低減システム1(例えば、特許文献2参照)が挙げられる。
【0006】
特許文献1のシステムは、動物の体内に放線菌を取り込ませることでアンモニアがある程度分解された糞尿を排泄させ、この糞尿をさらに放線菌に分解させるものである。しかしながら、動物からの排泄は継続的に行われることから、畜舎7の床下に配置された糞尿層6及び分解槽9には常に糞尿が存在し、その中には十分に分解がされていない糞尿も一定量含まれるため、畜舎7が十分衛生的な環境にあるとは言い難い。また、特許文献2のシステムは、床から水貯留槽4に落下してきた糞尿を含む水を曝気槽21に移動させて曝気処理することでアンモニア臭の低減を図っている。しかしながら、システム構成が複雑であるとともに、エア噴霧器やエアコンプレッサ、ポンプ等の電力供給が必要な装置が各所に多く配設されるので、ランニングコストが嵩む虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-160418号公報
【特許文献2】特開2020-31624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の冷凍マウス飼育施設や養鶏場の例のように、糞尿から揮発するアンモニアに起因する強烈な悪臭が発生する飼育施設や、施設内の換気を行うことが好ましくないような飼育施設において、悪臭を高効率で抑制して換気を不要としかつ少ない人員と低コストで稼働させることが可能な動物用水循環式糞尿処理システムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明が採った手段は、動物の糞尿が通過可能な床部を備えるケージと、 前記ケージの下方に配置され、上流側から流入する処理水に前記床部を通過する前記糞尿が巻き込まれてなる汚水を流通させる水路と、前記水路の下流側に接続され、前記汚水から固形物を沈殿除去させる沈殿槽と、前記沈殿槽と接続され、前記固形物が沈殿除去された前記汚水に溶解したアンモニアを硝化させる微生物群を生息させた担体が配設されるアンモニア分解槽と、前記アンモニア分解槽で処理された前記汚水を前記処理水として前記水路の上流側に還流させる循環ポンプとを備えることを特徴とする動物用水循環式糞尿処理システム、である。
【0010】
本発明にかかる動物用水循環式糞尿処理システム(以下便宜上単に糞尿処理システムという)は、動物の糞尿をケージの下方に落下させ、その下方の水路を流れる処理水がこれを巻き込んだ汚水となって沈殿槽に流入して固形物の除去処理を行った後にアンモニア分解槽でアンモニアの硝化処理を行い、これを処理水として水路へと還流させるものである。すなわち、糞尿処理システムに水を循環させることによって、糞尿の搬送と汚水処理を行えるようにしたものである。こうすることで、糞尿を含んだ汚水は、固形物の沈殿処理と微生物群によるアンモニア分解とによって無臭化されて、強烈な悪臭の発生を抑止できるようになる。また、これまで行っていた床材の交換等の作業が不要となるので、かかる労力とコストの低減を図ることができる。さらに、動物の糞尿は排泄された後すぐに処理されるので、糞尿がケージに留まることがなくなって清潔に保たれるようになる。
【0011】
また、前記床部は、網状、格子状又は多孔状に形成されてもよい。
【0012】
こうすることで、ケージに収容される動物の支持と、排泄される糞尿の落下の双方の機能を兼ね備える床部とすることができる。
【0013】
また、前記微生物群は、ニトロソモナス属、ニトロソコッカス属、ニトロソスピラ属、ニトロソプミルス 属、ニトロソスパエラ属に属する1種又は2種以上の亜硝酸生成菌と、ニトロバクタ―属、ニトロスピラ属に属する1種又は2種以上の硝酸生成菌とを含んでもよい。
【0014】
糞尿が強烈な悪臭を発する主な原因はこれに含まれるアンモニアであるところ、アンモニア分解槽に配設される担体に生息させる微生物群には、アンモニア(NH3)を酸化して亜硝酸イオン(NO2
-)を生成する亜硝酸生成菌と、亜硝酸イオン(NO2
-)を酸化して硝酸イオン(NO3
-)を生成させる硝酸生成菌とを組み合わせて用いることができる。アンモニア分解槽において、亜硝酸生成菌と硝酸生成菌とを相乗作用させることで、アンモニア分解槽に流入された汚水に溶解するアンモニアの硝化が行われ、糞尿を無臭化できるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる動物用水循環式糞尿処理システムによれば、処理水が糞尿を巻き込んでなる汚水から強烈な悪臭の原因となるアンモニアを硝化して無臭化することができるので、飼育施設の内外に悪臭が生じるのを抑制することができる。また、ケージの清掃等の手間がなくなるので、これにかかる人員の削減やコストの低減が可能となる。さらに、糞尿がケージ内に留まることがないので、ケージ内を常に清潔に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1にかかる動物用水循環式糞尿処理システムの概略図である。
【
図2】実施例2にかかる動物用水循環式糞尿処理システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、飼料用動物の繁殖や畜産動物の飼育を行う飼育施設に設置される動物用水循環式糞尿処理システムであり、特には、糞尿から揮発して強烈な悪臭の原因となるアンモニアを高効率で分解することが可能な糞尿処理システムである。
【0018】
糞尿処理システムは、ケージと、水路と、沈殿槽と、アンモニア分解槽と、循環ポンプとを備える。
【0019】
ケージは、動物が収容して生育させる場所であり、大きさや形状等は収容される動物の種類や大きさに応じて適宜設定されるが、ケージの床面を構成する床部は、動物を支持しながら動物から排泄された糞尿を通過させてケージの下方に落下させることが可能なように形成される。例えば、床部を金網材やメッシュ材を用いて作成したり、複数の部材を組み合わせて格子状に作成したり、あるいは板に複数の孔部を穿設したりして形成することができる。また、床部には糞尿と接触しても腐食が生じにくい金属や樹脂等の素材から形成したり、表面に腐食を防止する塗料と塗布したりするとよい。こうすることで、糞尿に含まれる腐食成分によって床部が腐食して破損するのを防止できるようになる。なお、ケージの数や配置は特に限定されず適宜設定することができる。例えば、1つのケージには1又は2以上の動物を収容してもうよいし、1又は2以上のケージを並べて用いたりすることもできる。
【0020】
水路は、ケージの下方に処理水を流通させるものである。すなわち、ケージの床部を通過して落下する糞尿は、水路によって受け止められるとともに、これを流れる処理水に巻き込まれて下流へと流されるようになる。よって、水路の長手方向長さと幅長さは、糞尿を確実に受け止められるようにケージの床部と同程度に設定されるのが好ましい。また、水路を流れる処理水がこぼれたり溢れたりしない深さに設定するのが好ましい。また、糞尿を含んだ汚水がしっかりと流れるように、水路の底面が上流側から下流側に向かって適度に傾斜するように形成又は設置するとよい。
【0021】
沈殿槽は、糞尿を含んだ処理水(汚水)を一定時間滞留させて、これに含まれる糞等の固形物を沈殿除去するものである。従って、沈殿槽は、水路の下流側に接続され、この水路から送出される汚水を受け入れられるように構成される。沈殿槽での汚水の滞留時間は、固形物を十分に沈殿させられる程度の滞留時間となるように設定される。汚水を流入させる手段は特に限定されず、例えば、沈殿槽を水路の下流側よりも低い高さ位置に設置して自然流入させてもよいし、ポンプを用いて汲み入れるようにしてもよい。
【0022】
アンモニア分解槽は、固形物が除去された汚水に溶解するアンモニアを微生物群に硝化処理させるものである。すなわち、アンモニア分解槽で悪臭の原因であるアンモニアが硝酸に変換されて糞尿の無臭化が行われる。アンモニア分解槽には、アンモニアを硝化させる1種以上の微生物が付着された担体が配設される。担体は、アンモニアの硝化が十分に行われる程度に微生物が増殖可能なものであればその種類や大きさ、形状は特に限定されるものではなく、微生物や担体の特性に応じて適宜選択することができる。例えば、サンゴ化石やゼオライト、活性炭といった天然由来の材料や、セラミックやガラス、アクリル、セルロース等から作成されたものを用いることができる。
【0023】
担体に生息させる微生物群は、アンモニアを硝化させる能力を有するものであれば特に限定されるものではなく、1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、微生物によるアンモニアの硝化プロセスは次式(1)~(3)で表される。
【0024】
NH3 + 3/2O2 → NO2
- + H2O + H+ ・・・(1)
NO2
- + 1/2O2 → NO3
- ・・・(2)
NH3 + 2O2 → NO3
- + H2O + H+ ・・・(3)
【0025】
上式(1)~(3)に示す硝化プロセスを行う微生物群には、例えば、ニトロソモナス属、ニトロソコッカス属、ニトロソスピラ属、ニトロソプミルス 属、ニトロソスパエラ属に属する1種又は2種以上の亜硝酸生成菌と、ニトロバクタ―属、ニトロスピラ属に属する1種又は2種以上の硝酸生成菌とを含むことが好ましい。これらの亜硝酸生成菌及び硝酸生成菌は優れた硝化作用を発揮することが知られており、これらを適宜組み合わせて担体に生息させることで汚水の無臭化処理を高効率で行えるようになる。
【0026】
なお、沈殿槽の汚水をアンモニア分解槽に流入させる手段は特に限定されないが、沈殿槽でオーバーフローさせた水を流入させるようにするのが好ましい。こうすることで、沈殿槽の上部に位置して固形物がしっかり除去された水から流入させることができる。
【0027】
循環ポンプは、アンモニア分解槽で汚水が無臭化処理されてなる処理水を水路へと還流させるものである。循環ポンプは、アンモニア分解槽と水路の上流側との間に配置される。ポンプから水路への送水量は、沈殿槽及びアンモニア分解槽の滞留時間に関係するため、これが最適な時間となるように設定される。
【0028】
以下、本発明の実施例を図に基づいて説明する。
【実施例0029】
図1には、実施例1にかかる糞尿処理システム100であり、爬虫類等の動物の餌として用いられる冷凍マウスの生産のための親マウスが飼育される飼育施設への設置例が示されている。糞尿処理システム100は、ケージ110と、水路120と、沈殿槽130と、アンモニア分解槽140と、循環ポンプ150とを備え、後述する処理水が、水路120、沈殿槽130、アンモニア分解槽140、循環ポンプ150を順に通って循環する仕組みとなっている。
【0030】
ケージ110は、複数の飼育箱110a~110eが直列に配置されて構成される。飼育箱110a~110eは、それぞれ上面が開口した箱型のプラスチック製容器からなり、内部には、1又は2以上のマウスMが収容される。飼育箱110a~110eの床部111は、ステンレス製の線材を複数本縦横方向に交差させて形成した金網から形成され、マウスMの体重を支持しながら排泄される糞尿が通過して落下するようになっている。
【0031】
ケージ110の下方には、その長手方向に沿って水路120が配設されている。水路120は、断面略凹形に形成されており、その凹形内部に後に詳述する処理水が流通されるようになっている。すなわち、水路120では、処理水がケージ110から落下する糞尿を巻き込みながら流通し、これが糞尿を含む汚水となる。
【0032】
水路120はケージ110の長手方向長さ及び幅長さは、ケージ110の長手方向長さ及び幅長さと略同じか若干長く形成されている。また、水路120は、汚水が一方向に流れるように、底面が上流側となる一端120aから下流側となる他端120bに向かって緩やかに傾斜するように形成又は配置されている。これにより、水路120を流通する汚水は、他端120bから沈殿槽130に向けて送出される。
【0033】
沈殿槽130は、水路120から送出される汚水が自然流入するように、水路120の他端120bの下方に配置される。汚水は沈殿槽130内にて一定時間滞留し、この間に糞等の固形物を沈殿させて処理水から除去される。沈殿槽130への処理水の流入量は、沈殿槽130での滞留時間が汚水に含まれる固形物を十分に沈殿させることができる6時間~72時間に設定されるよう調整される。また、沈殿槽130の壁面130aの上部には流出口131が設けられており、この流出口131から汚水がオーバーフローしてアンモニア分解槽140に自然流入される。
【0034】
アンモニア分解槽140には、沈殿槽130からオーバーフローした汚水が流入するように、壁面140aの上部に沈殿槽130の流出口131と連通する流入口141が設けられている。ここで、アンモニア分解槽140に流入する汚水は、固形物が除去されアンモニアが高濃度で溶解した汚水である。
【0035】
アンモニア分解槽140の底面には、複数の担体143が敷設されている。担体143は、ブロック状や粒状等に加工された多孔質のサンゴ化石であり、細孔内にはアンモニアを硝化させる微生物群が付着されている。微生物群には、主としてアンモニアを酸化させて亜硝酸イオンを生成するニトロソモナス属等の亜硝酸生成菌と、亜硝酸イオンを酸化させて硝酸イオンを生成するニトロバクタ―属等の硝酸生成菌とが含まれており、この微生物群と汚水とが接触することで溶解されたアンモニアが分解され、無臭化処理された処理水となる。さらに、沈殿槽130で除去しきれなかった微小な残渣は担体143で吸着濾過される。
【0036】
循環ポンプ150は、アンモニア分解槽140の壁面140bの下部に設けられた流出口142と水路120の上流側となる一端120aとの間に配設され、アンモニア分解槽140で無臭化処理された処理水を一端120aに向けて送出する。すなわち、ここで送出される処理水が、水路120を流通する処理水となる。なお、循環ポンプ150の送水量は、水路120に接続される沈殿槽130への送水量と等しいため、沈殿槽130への汚水の流入量は循環ポンプ150の設定によって決定される。
【0037】
次に、糞尿処理システム100を用いた糞尿処理方法について説明する。
【0038】
ケージ110に収容されるマウスMは冷凍マウスの材料となる子マウスを出産する親マウスであり、ケージ110内で給餌されて飼育が行われている。マウスMから排泄された糞尿は、飼育箱110a~110eの床部111を通過し水路120に落下する。同時に、水路120の一端120aから他端120bに向かって流通する処理水が、落下してきた糞尿を巻き込んで汚水となる。次いで、水路120を流通した汚水は他端120bから送出され、沈殿槽130に自然流入される。
【0039】
沈殿槽130に流入した汚水は一定の時間滞留し、この間に汚水に含まれる糞等の固形物が沈殿除去される。そして、固形物が十分に除去された汚水は、汚水の流入に伴って流出口131からオーバーフローして、アンモニア分解槽140の流入口141に向けて送出される。
【0040】
アンモニア分解槽140に流入された汚水は、一定時間滞留して担体143に付着する微生物群と接触する。これによって、汚水中に高濃度で含まれるアンモニアが硝化されて汚水の無臭化処理が行われる。
【0041】
アンモニア分解槽140で汚水が無臭化処理されて得られた処理水は、滞留時間を経過するとアンモニア分解槽140の流出口143を通って循環ポンプ150によって汲み上げられ、水路120の一端120aに向けて送出される。そして、処理水は再び水路120を流通して、ケージ110から落下してくる糞尿を巻き込んで無臭化処理がされる。このようにして、糞尿処理システム100内に処理水を循環させることにより、アンモニア臭が生じない飼育施設を構築することが可能となる。なお、沈殿槽130に堆積した固形物は、その状況をみながら適宜除去が行われると共に、循環する処理水も適宜交換が行われる。
【0042】
本実施例にかかる糞尿処理システム100によれば、水路120を流れる汚水は、沈殿槽130で固形物の除去処理がされ、次いで溶解するアンモニアの硝化処理が行われて無臭化される。これにより、糞尿処理システム100が設置される飼育施設の内外に悪臭を放つことがなくなるので、飼育施設の立地の問題が解消される。また、これまで必要とされていた床材の交換やケージの清掃といった作業が不要となるので、作業人員の削減が可能となって冷凍マウスの生産を低コストで行えるようになる。さらに、マウスMが排泄する糞尿は、排泄後すぐにケージ110の外にある水路120に放出されるので、ケージ110内を常に清潔に保つことができる。
実施例2の糞尿処理システム100は実施例1を改変したものであり、その基本構成は実施例1と共通する。よって、実施例2では実施例1から変更された構成について詳述し、その他の構成については説明を省略する。
ケージ110は、一般的な養鶏場に設置されるものと同様に構成されており、一定の間隔で仕切りが設けられてなる収容部110a~110eに複数の鶏Cが直列に収容されるように形成されている。ケージ110の床部111は、ステンレス製の線材を複数本縦横方向に交差させて形成した金網から形成され、鶏Cの体重を支持しながら排泄される糞尿が通過して落下するようになっている。また、ケージ110の前面には鶏Cが頭部を出せる程度の大きさの図示しない開口が設けられている。
給餌フィーダ150は、ケージ110の前面側に配置されるレーン150aと、レーン150aに対して餌を自動的に供給する供給部150bとを備えている。集卵機160は、鶏Cがケージ110内で産み落とした鶏卵Eをその下方で受け止めて運搬するレーン160aと、運搬された鶏卵Eが回収される集卵部160bとを備える。すなわち、給餌フィーダ150と集卵機160とによって、給餌と集卵が自動で行われるようになっている。
第一処理槽170は、水路120から送出される汚水が自然流入するように、水路120の他端120bの下方に配置され、内部にはブロック状や粒状等に加工された多孔質のサンゴ化石の細孔内にアンモニアを硝化させる微生物群が付着された担体172が、簀の子状に形成された担体受部171に載置されている。すなわち、第一処理槽170は、実施例1の沈殿槽130とアンモニア分解槽140の両機能を担うものである。水路120から流入する汚水は第一沈殿槽170内にて一定時間滞留し、この間に糞等の固形物を沈殿させて処理水から除去すると同時に微生物群によるアンモニア分解が行われる。
第二処理槽180は、担体受部181と担体182とを備え、第一処理槽170と同様に、実施例1の沈殿槽130とアンモニア分解槽140の両機能を担うものである。第二処理槽180は、隔壁190を挟んで第一処理槽170と隣接して設置されるとともに、担体受部181の下方において第一処理槽180と連通し、ここから第一沈殿槽170で一次処理された汚水が流入して固形物の沈殿除去及びアンモニア分解の二次処理が行われる。なお、担体182は、第一処理槽170の担体172より小径に形成されている。二次処理を終えた汚水は、処理水として第二処理槽180の上方に配設される循環ポンプ150によって上清部分から水路120へと汲み上げられて、糞尿処理システム100を循環する。
実施例2の糞尿処理システム100によれば、水路120を流れる汚水は、沈殿槽130で固形物の除去処理がされ、次いで溶解するアンモニアの硝化処理が行われて無臭化される。これにより、養鶏場の内外に悪臭を放つことがなくなるので、養鶏場周辺の生活環境に悪影響を与えるのを防止できる。また、鶏Cが排泄する糞尿は、排泄後すぐにケージ110の外にある水路120に放出されるので、ケージ110内を常に清潔に保つことができるだけでなく、糞尿の発酵熱を排熱するための換気をする必要もなくなるので、養鶏場内の空調を行えるようになる。さらに、糞尿の集積や廃棄等が不要となるので、糞尿の処理コストの大幅な削減が可能となる。
本発明は、上記実施例の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲、実施形態の範囲で種々の変形例、組み合わせが可能であり、これらの変形例、組み合わせも権利範囲に含むものである。
例えば、実施例1は、冷凍マウス生産のための親マウスの飼育施設の設置例を示し、実施例2は、養鶏場の設置例を示しているが、これらの施設への設置に限定されるものではなく、例えば、ケージ110の構成等を変更して、養豚等の家畜の飼育施設に適用することもできる。
また、沈殿槽130とアンモニア分解槽140を1つの槽で構成するのではなく、2以上の槽を接続して多段階に処理できるようにしてもよいし、アンモニア分解槽140に2種以上の担体143を設けたり残渣を除去するためのフィルタ材を別に設けたりしてもよい。