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特開2024-84735R-T-B系永久磁石材料及びその製造方法並びに応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084735
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石材料及びその製造方法並びに応用
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20240618BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240618BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240618BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240618BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20240618BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240618BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240618BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01F1/057
H01F1/057 170
H01F1/057 120
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
B22F1/00 Y
B22F1/16 100
B22F3/24 B
B22F3/00 F
C22C33/02 K
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209985
(22)【出願日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】2022116000576
(32)【優先日】2022-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】522310502
【氏名又は名称】烟台正海磁性材料股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ペン,ブズァン
(72)【発明者】
【氏名】ジァン,ユンイン
(72)【発明者】
【氏名】リ,メン
(72)【発明者】
【氏名】ドン,ユハオ
(72)【発明者】
【氏名】リウ,レイ
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC28
4K018CA02
4K018CA04
4K018CA11
4K018DA32
4K018FA08
4K018KA45
5E040AA04
5E040AA19
5E040BC01
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB11
5E040HB14
5E040HB15
5E040NN01
5E040NN06
5E062CD04
5E062CE04
5E062CG02
5E062CG07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】粒界相の物理化学的性質を顕著に改善し、粒界相の分布を改善し、粒界を強化することに役立ち、逆コアシェル構造の形成を回避し、R-T-B系永久磁石材料のHcjの改善に寄与するR-T-B系永久磁石材料を提供する。
【解決手段】Mの化合物のR-T-B系合金粉末への付着又は被覆により、ネオジム鉄ボロン系粉末の表面に均一な被覆層を形成することで、R-T-B系合金粉末の丸め改造を可能とし、基材中の重希土類金属の使用量を顕著に低減した場合に、R-T-B系合金粉末の濡れ性を向上させる。Rは、ネオジム(Nd)及びプラセオジム(Pr)から選ばれる1種又は2種であり、Tは、少なくとも鉄(Fe)を含み、Bは、ホウ素であり、Mは、好ましくは、Cu、Ga、Al、Zr、Ti、Sn、Ta及びMnのうちの1種又は複数種から選ばれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系永久磁石材料であって、Rは、ネオジム(Nd)及びプラセオジム(Pr)から選ばれる1種又は2種である、Tは、少なくとも鉄(Fe)を含み、Bは、ホウ素であり、
前記永久磁石材料は、遷移金属元素、非金属元素、及び軽希土類元素のうちの1種又は複数種から選ばれるMを更に含み、
前記永久磁石材料の粒界は、化合物M-R及びM-T-Rから選ばれる1種、2種又は複数種含み、
好ましくは、Mは、好ましくは、Cu、Ga、Al、Zr、Ti、Sn、Ta及びMnのうちの1種又は複数種、例えば、Cu、Ga及びAlのうちの1種又は複数種から選ばれ、
Rは、Nd又はNdPrから選ばれ、
Tは、鉄、又は鉄と他の金属元素との混合物から選ばれ、前記他の金属は鉄以外の遷移金属元素から選ばれる1種又は複数種であり、
例えば、前記他の金属は、銅(Cu)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)及びマンガン(Mn)のうちの1種又は複数種から選ばれてもよい、
ことを特徴とする、R-T-B系永久磁石材料。
【請求項2】
前記永久磁石材料の粒界は、化合物M-R及びM-T-Rの粒界相から選ばれる1種又は2種を含み、例えば、M-Nd及びM-Fe-Ndの粒界相から選ばれる1種又は2種を含み、
好ましくは、前記永久磁石材料の粒界は、粒界相M-R及び/又はM-T-Rから選ばれる濃化区域を含み、ここで、前記粒界相M-R及び/又はM-T-Rの濃化区域は、化合物M-R及び/又はM-T-Rの濃度がスキャン区域全体の平均濃度の115%以上の区域を意味し、
更に好ましくは、前記粒界相M-R及び/又はM-T-Rの濃化区域は、視野面積全体の2%~18%、好ましくは5%~15%、より好ましくは8%~12%を占める、
ことを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B系永久磁石材料。
【請求項3】
Rの質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、28.5%以上且つ32.5%以下であり、
Bの質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、0.88%以上且つ1.05%以下であり、
Mの総質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、0.1%以上且つ4.0%以下であり、0.3%以上且つ3.5%以下であることが好ましく、
例えば、前記永久磁石材料はGaを含み、好ましくは、Gaの質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、0.1%以上且つ0.6%以下であり、
例えば、前記永久磁石材料はCoを含み、好ましくは、Coの質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、0%以上且つ3.0%以下であり、0%より大きく且つ3.0%以下であることが好ましく、
例えば、前記永久磁石材料はCuを含み、好ましくは、Cuの質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、0%以上且つ0.4%以下であり、0%より大きく且つ0.4%以下であることが好ましく、
好ましくは、前記永久磁石材料の残量はFe及び不可避不純物である、
ことを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B系永久磁石材料。
【請求項4】
前記永久磁石材料は、重希土類元素を更に含み、
前記重希土類元素は、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム及びイットリウムから選ばれる1種又は複数種であってもよく、
好ましくは、前記永久磁石材料の一断面且つRリッチ相中に、M元素濃度が0.15at%以上の区域Aが存在し、当該区域Aの面積のRリッチ相の面積に対する比が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい、
ことを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B系永久磁石材料。
【請求項5】
R-T-B系合金粉末の混合物であって、前記混合物は、R-T-B系合金粉末と、Mから選ばれる1種又は複数種の化合物とを含み、ここで、R、T、B及びMは、独立的に請求項1に記載の定義を有し、
好ましくは、前記Mの化合物は、前記R-T-B系合金粉末の表面に付着しており、例えば、前記合金粉末の表面の少なくとも一部は、Mの化合物で被覆され、より好ましくは、前記合金粉末の表面は、好ましくは、Mの化合物で完全に被覆されて被覆層を形成し、
より好ましくは、前記混合物中のMの化合物の質量百分率含有量は、前記混合物中のR-T-B系合金粉末の質量を基準として、0.01%~5.0%、好ましくは0.05%~3.0%、より好ましくは0.1%~2.0%であり、
更に好ましくは、前記R-T-B系合金粉末の混合物は、重希土類元素を含まず、
例えば、前記Mの化合物は、Mの水素化物、炭化物、酸化物、窒化物、フッ化物及び酸フッ化物から選ばれる1種又は複数種である、
ことを特徴とする、R-T-B系合金粉末の混合物。
【請求項6】
焼結された請求項5に記載のR-T-B系合金粉末の混合物を含む基材と、重希土類元素とを含み、
例えば、前記重希土類元素は、前記基材の表面に付着している、
ことを特徴とする、R-T-B系磁石基材。
【請求項7】
請求項6に記載のR-T-B系磁石基材を熱処理することを含み、
好ましくは、前記熱処理は、熱拡散処理及び焼き戻し処理を含む、
ことを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B系永久磁石材料の製造方法。
【請求項8】
前記R-T-B系合金粉末と、Mの化合物から選ばれる1種又は複数種と接触させることを含む、
ことを特徴とする、請求項5に記載のR-T-B系合金粉末の混合物の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載のR-T-B系磁石基材の製造方法であって、前記製造方法は、
前記R-T-B系合金粉末を成形して、前記R-T-B系合金粉末の成形体を得るステップと、
前記成形体を焼結して、焼結された前記R-T-B系合金粉末を含む基材を得るステップと、
重希土類元素を、焼結された前記R-T-B系合金粉末を含む基材と接触させるステップと、を含み、
好ましくは、重希土類元素は、前記焼結された前記R-T-B系合金粉末を含む基材と接触させて、前記基材表面に前記重希土類元素の被覆層を形成する、
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のR-T-B系永久磁石材料の、モータ、スピーカ、磁気セパレータ、コンピュータディスクドライブ、磁気共鳴画像装置などの分野における応用、好ましくはモータにおけるモータローラー磁性鋼としての、応用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、出願人が2022年12月13日に中国国家知識産権局に提出された、出願番号が202211600057.6であり、名称が「R-T-B系永久磁石材料及びその製造方法並びに応用」である先行特許出願の優先権を主張する。当該先行特許出願は、全体として引用により本願に取り込まれる。
【0002】
〔技術分野〕
本発明は、R-T-B系永久磁石材料及びその製造方法並びに応用に関し、磁性材料分野に属する。
【0003】
〔背景技術〕
永久磁石材料は硬磁性材料とも呼ばれ、異方性磁場が高く、保磁力が高く、ヒステリシスループの面積が大きく、飽和するまでに必要な磁化磁場が大きく、外部磁場を除去しても長時間強い磁気特性を維持できるという特徴を有している。永久磁石材料の中でも、ネオジム鉄ボロン(NdFeB)系焼結永久磁石は、他の永久磁石材料よりも磁気特性に優れている。例えば、ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石は、高い磁気エネルギー積、保磁力及びエネルギー密度を有し、且つその機械的性能は良好で加工が容易である。これらの優れた特性により、ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石は、モータ、スピーカ、磁気セパレータ、コンピュータディスクドライブ、磁気共鳴イメージング装置などの現代工業及び電子技術において広く使用されている。
【0004】
磁性材料の基本性能は、残留磁気(即ち、残留磁束密度)Br、保磁力Hcb、固有保磁力Hcj、最大磁気エネルギー積(BH)maxの4種類の性能パラメータによって評価することができる。ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石の性能を改善する方法としては、一般に粒界構造の最適化、粒内及び粒界成分の調節、粒界拡散技術などがある。一般的に、重希土類元素HRE(例えばDy、Tb)の添加による磁石の保磁力向上は当技術分野で既知の方法であるが、粒界相に重希土類元素を濃化させることができなかった場合、希少重金属元素の添加量を増やす必要があり、その結果、コストが高くなる。実践において、従来のネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石は、結晶粒の形状が十分に丸くなく、結晶粒表層と粒界に欠陥が多く存在するなどの問題があり、DyやTbが粒界に沿って磁石内部に拡散する際に大きな抵抗を受け、結晶粒表層に優先的に欠陥を修復したり主相結晶粒内部に浸透したりして、粒界に沿って磁石内部に拡散し続けるのに不十分となり、Hcjの増幅が不足する現象が起こり、磁石表面に逆コアシェル構造が形成されやすく、拡散に不利である。
【0005】
また、ネオジムリッチ相を硬磁性主相の周囲に連続的に均一に分布させ、清潔で滑らかな粒界を得ることで保磁力を向上させる研究者もいるが、この方法は複雑な焼結プロセスが必要であり、コストがかかるだけでなく、プロセスが複雑なため、製品の性能を安定性に維持することが困難になる。
【0006】
従って、ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石の組成及びその製造方法を更に開発し、上記技術問題を改善する必要がある。
【0007】
〔発明の概要〕
上記問題を改善するために、本発明は、R-T-B系永久磁石材料であって、Rは、ネオジム(Nd)及びプラセオジム(Pr)から選ばれる1種又は2種であり、Tは、少なくとも鉄(Fe)を含み、Bはホウ素であり、
上記永久磁石材料は、遷移金属元素、非金属元素、及び軽希土類元素のうちの1種又は複数種から選ばれるMを更に含み、
上記永久磁石材料の粒界は、化合物M-R及びM-T-Rから選ばれる1種、2種又は複数種を含む、
R-T-B系永久磁石材料を提供する。
【0008】
本発明の実施形態によれば、Rは、好ましくはNd又はNdPrから選ばれる。
【0009】
本発明の実施形態によれば、Tは、鉄(Fe)又は鉄と他の金属元素との混合物から選ばれる。ここで、好ましくは、上記他の金属は、鉄以外の遷移金属元素から選ばれる1種又は複数種から選ばれてもよい。
【0010】
本発明の文脈における遷移金属元素は、本分野に周知された意味を有し、元素の周期表のdブロック及びdsブロックの金属元素を意味し、ここで、dブロックの元素は、IIIB~VIIB、VIII族の元素を含むが、ランタノイド及びアクチノイドを含まず、dsブロックの元素は、IB~IIB族の元素を含む。一般に、遷移金属元素は3から12までの合計10族の元素を含むが、fブロック(周期表の58~71番目の元素は4f内部遷移元素、90~103番目の元素は5f内部遷移元素と呼ばれ、何れもfブロックに属する)の内部遷移元素を含まない。
【0011】
本発明の実施形態によれば、上記他の金属は、銅(Cu)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)及びマンガン(Mn)のうちの1種又は複数種から選ばれてもよい。
【0012】
本発明の実施形態によれば、上記軽希土類元素は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)などのセリウム族希土類元素から選ばれてもよい。
【0013】
本発明の実施形態によれば、Mは、好ましくは、Cu、Ga、Al、Zr、Ti、Sn、Ta及びMnのうちの1種又は複数種、例えば、Cu、Ga及びAlのうちの1種又は複数種から選ばれる。
【0014】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の粒界は、化合物M-Rの粒界相及びM-T-Rの粒界相から選ばれる1種又は2種を含む。
【0015】
上記永久磁石材料の粒界は、粒界相M-R及び/又はM-T-Rから選ばれる濃化区域を含む。ここで、粒界相M-R及び/又はM-T-Rの濃化区域とは、化合物M-R及び/又はM-T-Rの濃度がスキャン区域全体の平均濃度の115%以上の区域を意味する。
【0016】
本発明の実施形態によれば、存在する場合、粒界相M-R及び/又はM-T-Rは、上記永久磁石材料の粒界に濃化される。ここで、上記粒界相M-R及び/又はM-T-Rの濃化区域は、視野面積全体の2~18%、好ましくは5~15%、より好ましくは8~12%を占める。
【0017】
本発明の実施形態によれば、上記視野面積全体は、EMPA、SEM又は他の従来技術で既知の方法によって得られる粒界検出図に示される視野面積全体を意味する。
【0018】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の粒界は、粒界相M-Nd及びM-Fe-Ndから選ばれる1種又は2種を含む。
【0019】
本発明の実施形態によれば、Rの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、28.5%以上且つ32.5%以下であり、その実例としては、28.5%、29.0%、29.5%、30.0%、30.5%、31.0%、31.5%、32.0%又は32.5%であってもよい。
【0020】
本発明の実施形態によれば、Bの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、0.88%以上且つ1.05%以下であり、その実例としては、0.88%、0.90%、0.92%、0.95%、0.98%、1.00%、1.02%又は1.05%であってもよい。
【0021】
本発明の実施形態によれば、Mの総質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として0.1%以上且つ4.0%以下であり、0.3%以上且つ3.5%以下であることが好ましく、その実例としては、0.3%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%又は3.5%であってもよい。
【0022】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料はGaを含む。好ましくは、Gaの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、0.1%以上且つ0.6%以下であり、その実例としては、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%又は0.6%であってもよい。
【0023】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料はCoを含む。好ましくは、Coの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、0%以上且つ3.0%以下であり、0%より大きく且つ3.0%以下であることが好ましく、その実例としては、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%又は3.0%であってもよい。
【0024】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料はCuを含む。好ましくは、Cuの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、0%より大きく且つ0.4%以下であり、0%より大きく且つ0.4%以下であることが好ましく、その実例としては、0.1%、0.2%、0.3%又は0.4%であってもよい。
【0025】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の残量は、Fe及び不可避不純物であり、上記不可避不純物は、例えばC、N、Oなどのうちの少なくとも1種である。
【0026】
本発明の実施形態によれば、存在する場合、Cの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、400~800ppmである。
【0027】
本発明の実施形態によれば、存在する場合、Oの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、300~900ppmである。
【0028】
本発明の実施形態によれば、存在する場合、Nの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、400~800ppmである。
【0029】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の粒界は、化合物M-C、M-B及びM-Oから選ばれる1種又は複数種を更に含んでもよい。
【0030】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料は、重希土類元素(HRE)を更に含む。ここで、上記重希土類元素は、当技術分野において周知の意味を有し、その実例としては、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)から選ばれる1種又は複数種であってもよい。
【0031】
本発明の実施形態によれば、拡散された上記永久磁石材料において、Mは2つの主相粒子の間の粒界相の間により集中して存在するため、Mの濃度分布曲線は2つの主相粒子の間に鋭い分布を有し、
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の一断面且つRリッチ相中に、M元素濃度が0.15at%以上の区域Aが存在し、好ましくは、当該区域Aの面積のRリッチ相の面積に対する比(R-Mの一致度ともいう)が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。上記区域Aの面積のRリッチ相の面積に対する比の実例としては、例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%又は98%であってもよい。
【0032】
本発明は、R-T-B系合金粉末の混合物であって、上記混合物はR-T-B系合金粉末と、Mから選ばれる1種又は複数種の化合物とを含み、ここで、R、T、B及びMは、独立的に上述した定義を有する、ことを特徴とする、R-T-B系合金粉末の混合物を更に提供する。
【0033】
本発明の実施形態によれば、上記Mの化合物は、上記R-T-B系合金粉末の表面に付着している。
【0034】
本発明の実施形態によれば、上記合金粉末の表面の少なくとも一部は、Mの化合物で被覆され、ここで、R、T、B及びMは、上述した定義を有する。
【0035】
本発明の実施形態によれば、c混合物中のMの化合物の質量百分率含有量は、上記混合物中のR-T-B系合金粉末の質量を基準として、0.01~5.0%、好ましくは0.05~3.0%、より好ましくは0.1~2.0%であり、その実例としては、0.01%、0.02%、0.05%、0.08%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%、3.1%、3.2%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.9%、4.0%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%、4.6%、4.7%、4.8%、4.9%又は5.0%であってもよい。
【0036】
本発明の実施形態によれば、上記Mの化合物は、Mの水素化物、炭化物、酸化物、窒化物、フッ化物及び酸フッ化物から選ばれる1種又は複数種である。
【0037】
本発明の実施形態によれば、上記合金粉末の表面は、好ましくは、Mの化合物で完全に被覆されて被覆層を形成する。
【0038】
本発明の実施形態によれば、上記Mの化合物は、粉末形態で上記混合物中に存在し、例えば、上記合金粉末の表面に粉末形態で付着又は被覆する。
【0039】
本発明の実施形態によれば、上記Mの化合物の平均粒径は、500μm以下、例えば、1~300μm、好ましくは3~200μm、より好ましくは10~100μmであり、その実例としては、10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm又は100μmであってもよい。
【0040】
本発明の実施形態によれば、上記R-T-B系合金粉末の混合物は、重希土類元素を含まない。
【0041】
本発明は、焼結された上記R-T-B系合金粉末の混合物を含む基材と、重希土類元素とを含む、R-T-B系磁石基材を更に提供する。例えば、上記重希土類元素は、上記基材の表面に付着している。
【0042】
本発明の実施形態によれば、上記重希土類元素を含むR-T-B系磁石基材において、上記基材表面が上記重希土類元素で完全に被覆されて被覆層を形成している。
【0043】
本発明の実施形態によれば、上記焼結された上記R-T-B系合金粉末を含む基材の製造方法は、上記R-T-B系合金粉末の混合物を成形して成形体を得、上記成形体を焼結して、上記焼結されたR-T-B系合金粉末を含む基材を得ることを含む。
【0044】
本発明の実施形態によれば、成形ステップ又は焼結ステップは、本分野で既知の条件を用いて行われ得る。
【0045】
本発明の実施形態によれば、上記成形ステップは、上記R-T-B系合金粉末の混合物をドライ成形することができ、例えば、磁場中に配置された金型に上記R-T-B系合金粉末の混合物を充填し、加圧することにより上記R-T-B系合金粉末の混合物を成形して成形体を得ることができる。この場合、磁場を印加しながら成形することにより、上記R-T-B系合金粉末の混合物の結晶軸を特定方向に配向させた状態で成形することができる。成形ステップにおいては、必要に応じて、本分野で既知の成形助剤を添加することができる。好ましくは、加圧時の圧力は、例えば、30MPa以上且つ300MPa以下であってもよく、印加する磁場は、静磁場及び/又はパルス磁場であってもよく、その磁場強度は、例えば1000kA/m以上且つ1600kA/m以下であってもよい。或いは、R-T-B系合金粉末の混合物を油などの溶媒に分散させたスラリーを用いて成形する、ウェット成形を採用してもよい。
【0046】
当業者は、上記成形体の具体的な形状は特に限定されず、上記R-T-B系永久磁石材料の応用条件に応じて調整することができることを理解すべきである。例えば、上記成形体は、直方体、平板状、柱状、リング状又はC型などの形状であってもよい。
【0047】
本発明の実施形態によれば、上記焼結ステップでは、得られた成形体を真空中又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。実例として、焼結温度は、1000℃以上1150℃以下であってもよく、1020℃以上1130℃以下であってもよい。焼結時間は、特に限定されず、例えば2時間以上10時間以下であってもよく、2時間以上8時間以下であってもよい。焼結時の雰囲気は特に制限されない。例えば、不活性な雰囲気であってもよく、100Pa未満の真空雰囲気であってもよく、10Pa未満の真空雰囲気であってもよい。成形体を焼結して焼結体を得た後、冷却することができる。冷却速度は特に制限されないが、生産効率を高めるために焼結体を急速に冷却、例えば20℃/min以上の速度で冷却してもよい。
【0048】
本発明の実施形態によれば、成形体を焼結した後、焼結磁石に時効処理を行うこともできる。焼結後、得られた焼結磁石を焼結時よりも低い温度に保持することにより、R-T-B系希土類焼結磁石に時効処理を行う。時効処理により、R-T-B系希土類焼結磁石の磁気特性を向上させることができる。
【0049】
実例として、上記時効処理は、以下の第1時効処理及び/又は第2時効処理から選ばれることができる。
【0050】
第一時効処理は、800℃以上950℃以下の保持温度で30分以上4時間以下行うことができる。保持温度までの昇温速度は、5℃/min以上50℃/min以下であってもよい。第1時効処理時の雰囲気は、大気圧以上の圧力の不活性ガス雰囲気(例えば、Heガス、Arガス)であり、
第2時効処理は、第1時効処理と同じ条件下で行うことができるが、温度は450℃以上550℃以下であってもよい。
【0051】
選択として、時効処理工程は、下記の加工工程の後に行ってもよい。上記加工工程は、必要に応じて得られた焼結磁石を所望の形状に加工することができる。実例として、上記加工工程は、切断、研削などの形状加工、バレル研磨などの面取り処理などの工程を含むことができる。
【0052】
本発明は、上記R-T-B系磁石基材を熱処理することを含むことを特徴とする、上記R-T-B系永久磁石材料の製造方法を更に提供する。好ましくは、上記熱処理は、熱拡散処理及び焼き戻し処理を含む。
【0053】
本発明の実施形態によれば、上記熱拡散処理は、粒界拡散処理であり、その処理方法は、当技術分野で既知のプロセスである。ここで、上記熱拡散処理の温度は、800℃以上、例えば850~950℃であってもよく、その実例としては、800℃、810℃、820℃、830℃、840℃、850℃、860℃、870℃、880℃、890℃又は900℃であってもよい。上記熱拡散処理の時間は、5h以上、例えば10~50h、例えば10h、15h、20h、25h、30h、35h、40h、45h又は50hであってもよい。
【0054】
本発明の実施形態によれば、上記焼き戻し処理の温度は、700℃以下、例えば450~650℃であってもよく、その実例としては、450℃、460℃、470℃、480℃、490℃、500℃、510℃、520℃、530℃、540℃、550℃、560℃、570℃、580℃、590℃、600℃、610℃、620℃、630℃、640℃又は650℃であってもよい。上記焼き戻し処理の時間は、1h以上、例えば、1~10hであってもよく、その実例としては、1h、2h、3h、4h、5h、6h、7h、8h、9h又は10hであってもよい。
【0055】
本発明は、上記重希土類を含むR-T-B系磁石基材の製造方法であって、上記製造方法は、
上記R-T-B系合金粉末を成形して、上記R-T-B系合金粉末の成形体を得るステップと、
上記成形体を焼結して、焼結された上記R-T-B系合金粉末を含む基材を得るステップと、
重希土類元素を、焼結された上記R-T-B系合金粉末を含む基材と接触させるステップと、を含む、
ことを特徴とする、製造方法を更に提供する。
【0056】
好ましくは、重希土類元素は、上記焼結された上記R-T-B系合金粉末を含む基材と接触させて、上記基材表面に上記重希土類元素の被覆層を形成する。
【0057】
本発明は、上記R-T-B系合金粉末と、Mの化合物から選ばれる1種又は複数種と接触させることを含む、ことを特徴とする、上記R-T-B系合金粉末の混合物の製造方法を更に提供する。
【0058】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記製造方法は、上記R-T-B系合金粉末と、Mの化合物から選ばれる1種又は複数種の粉末と接触させることを含む。
【0059】
本発明の実施形態によれば、上記R-T-B系合金粉末、上記Mの化合物から選ばれる1種又は複数種の粉末は、本分野で既知の粉末化プロセスにより製造され得る。上記粉末化プロセスは、粉末冶金プロセス又は水素破砕ジェットミリングプロセスから選ばれてもよい。
【0060】
本発明の例示的な実施形態によれば、上記粉末冶金プロセスは、原材料を急速凝固又はアーク溶解し、水素破砕した後、高エネルギーボールミル処理を行うステップを含むことができる。上記水素破砕ジェットミリングプロセスは、原材料を用いて急速凝固又はアーク溶解し、水素破砕した後、ジェットミリング処理を行うステップを含むことができる。
【0061】
本発明は、上記Re-Fe-B系永久磁石材料の、モータ、スピーカ、磁気セパレータ、コンピュータディスクドライブ、磁気共鳴イメージング装置などの分野における応用、好ましくはモータにおけるモータローターの磁性鋼としての応用を更に提供する。
【0062】
〔有益な効果〕
発明者らは、Mの化合物のR-T-B系合金粉末への付着又は被覆により、ネオジム鉄ボロン系粉末の表面に均一な被覆層を形成することで、R-T-B系合金粉末の丸め改造を可能とし、基材中の重希土類金属の使用量を顕著に低減した場合に、R-T-B系合金粉末の濡れ性を向上させることを意外に見出した。また、本発明に係るR-T-B系永久磁石材料の粒界には、M-R及び/又はM-T-Rの粒界相が存在し、粒界相の物理化学的性質を顕著に改善することができ、粒界相の分布を改善し、粒界を強化することに役立つことができ、逆コアシェル構造の形成を回避し、重希土類元素の浸透により有利になるため、R-T-B系永久磁石材料のHcjの改善に寄与する。
【0063】
〔図面の簡単な説明〕
図1〕検測例1におけるサンプルE11のEMPA検測図である。
【0064】
図2〕検測例1において、図1の任意の区域をEPMAラインスキャンして得られた検測図である。
【0065】
図3〕検測例1における比較例E10のEMPA検測図である。
【0066】
図4〕検測例1において、図3の任意の区域をEPMAラインスキャンして得られた検測図である。
【0067】
〔発明を実施するための形態〕
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の技術案を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解すべきである。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、何れも本発明による請求範囲内に含まれる。
【0068】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用される原料及び試薬は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
【0069】
〔機器及び方法〕
[EMPA分析]
機器:電界放出電子プローブマイクロアナライザー(FE-EPMA、日本電子株式会社[JEOL]、8530F)
検測条件:加速電圧15kv、プローブビーム電流50nA
[磁気特性検測]
機器:計量院のNIM-62000型希土類永久磁石測定システム
検測条件:室温
[重量損失性能検測]
機器:D10-10カラム、日本ESPEC高温高湿試験装置
検測条件:130℃、95%RH、2.6Bar、240H
[曲げ強度検測]
機器:3点曲げ装置
検測条件:GB/T14452-93(3点曲げ)規定の条件
【0070】
〔製造例1:Nd-Fe-B粉末の製造〕
(1)原料:表1のネオジム鉄ボロン系粉末の配合に従い、本実施例に必要な各原材料を準備した。
【表1】
【0071】
(2)原材料をAr雰囲気中で高周波溶解し、急冷ロールに注入して厚さ0.15~0.40mmの合金急冷薄片である薄片A11を製造した。
【0072】
(3)当該合金を水素化粉砕し、その後ジェットミリング研磨して粒度SMD=2.6μmの磁性粉末を得た。
【0073】
〔製造例2:M化合物粉末の製造〕
粉末冶金プロセス、水素破砕ジェットミリングプロセス又は市場から購入するにより、下表に示されるM化合物をそれぞれ取って、当該粉末サンプルB1、B2、B3、B4、B5、B6の平均粒径を、以下の表に示している。
【表2】
【0074】
〔実施例1:Nd-Fe-B系合金粉末の混合物の製造〕
製造例1で得られたサンプルと製造例2で得られたサンプルをそれぞれ均一に混合し、均一に混合された粉末の0.2wt%の潤滑剤であるステアリン酸亜鉛を添加して、ネオジム鉄ボロン系粉末の表面がM化合物で完全に又は不完全に被覆されるように混合し、M化合物の被覆層を形成した。
【0075】
A11フレークをそれぞれ採取し、製粉の段階別に異なる割合のM化合物粉末を添加してサンプルC11~C16を製造して得た。
【0076】
具体的なサンプルは、以下の表に示される。
【表3】
【0077】
〔実施例2:Nd-Fe-B系合金粉末混合物の焼結体の製造〕
実施例1におけるサンプルC11、C12、C13、C14、C15、C16を以下のステップで処理し、Nd-Fe-B系合金粉末混合物の焼結体サンプルD11、D12、D13、D14、D15、D16をそれぞれ製造した。
【0078】
(1)成形
実施例1におけるサンプルC11、C12、C13、C14、C15、C16のサンプルを配向磁場中でプレス成形し、配向磁場の磁場強度が2~8Tの範囲にあり、プレス成形後にサンプルは密度3.6~4.2g/cmの圧粉体を成形し、等方圧後、密度が更に向上し、内部に微細なクラックのない圧粉体を成形した。
【0079】
(2)焼結
サンプル圧粉体を真空雰囲気中で焼結し、焼結温度1020℃~1100℃の範囲にあり、焼結時間2~10h以内に制御し、焼結後の磁石を冷却して焼結体サンプルD11、D12、D13、D14、D15、D16を得た。
【0080】
〔実施例3:Nd-Fe-B系永久磁石材料の製造〕
加工されたR-T-B系希土類焼結磁石は、粒界拡散工程を更に行うことができ、粒界拡散の拡散源や具体的なプロセス方法は特に制限されない。例えば、塗布法、蒸着法、マグネトロンスパッタリング法などによって、重希土類元素を含む化合物をR-T-B系希土類焼結磁石の表面に付着させ、その後、熱処理を行うことができる。
【0081】
実施例2で製造した焼結体サンプルD11、D12、D13、D14、D15、D16を拡散処理し、拡散後のNd-Fe-B系永久磁石材料サンプルE11、E12、E13、E14、E15、E16を得た。
【0082】
(1)重希土類成分の塗布
磁石体D11、D12、D13、D14、D15、D16の表面に、重希土類テルビウム(Tb)をマグネトロンスパッタリング法により塗布し、乾燥して均一で平坦な重希土類合金粉末のコーティングを得、拡散コーティングの平均厚さが50μmであった。
【0083】
(2)熱拡散処理
重希土類合金が表面に付着したNd-Fe-B焼結体サンプルを真空焼結炉に入れ、拡散温度が900℃、拡散時間が30hで熱拡散処理した。
【0084】
(3)焼き戻し処理
焼き戻し温度は500℃、焼き戻し時間10h処理した後、Nd-Fe-B系永久磁石材料サンプルE11、E12、E13、E14、E15、E16を得た。
【0085】
〔比較例1〕
製造例のA11を用い、当該合金を水素化粉砕し、その後ジェットミリング研磨して粒度SMD=2.6μmの磁性粉末を得た。
【0086】
上述したジェットミリングした粉末を原材料の0.2wt%の潤滑剤であるステアリン酸亜鉛に添加して混合し、磁場強度2Tの配向場の環境下で成形した。
【0087】
ビレットを真空焼結炉に入れ、1070℃で4h保温処理した後、10℃/minの速度で室温まで冷却し、850℃まで昇温して3h保温処理した後、6℃/minの速度で室温まで冷却し、540℃まで昇温して4h保温処理した後、8℃/minの速度で室温まで冷却し、冷却してネオジム鉄ボロン系素体を得て、サンプルD10を得た。
【0088】
サンプルD10を実施例3と同様の方法で拡散し、サンプルE10を得た。
【0089】
〔比較例2〕
(1)原料:本実施例に必要な各原材料を準備し、各原材料の質量百分率配合組成は下記の表に示される。
【表4】
【0090】
(2)原材料をAr雰囲気中で高周波溶解し、急冷ロールに注入して厚さ0.15~0.40mmの合金急冷薄片である薄片A21、A22を製造した。
【0091】
(3)当該合金を水素化粉砕し、その後ジェットミリング研磨して粒度SMD=2.6μmの磁性粉末を得た。
【0092】
(4)上記ジェットミリングした粉末を原材料の0.2wt%の潤滑剤であるステアリン酸亜鉛に添加して混合し、磁場強度2Tの配向場の環境下で成形した。
【0093】
(5)ビレットを真空焼結炉内に入れ、1075℃で4h保温処理した後、10℃/minで室温まで冷却し、850℃まで昇温して3h保温処理した後、6℃/minで室温まで冷却し、540℃まで昇温して4h保温処理した後、8℃/minで室温まで冷却し、冷却してネオジム鉄ボロン系素体を得て、サンプルD21、D22を得た。
【0094】
サンプルD21、D22を実施例3と同様の方法で拡散し、サンプルE21、E22を得た。
【0095】
〔比較例3〕
比較例1で製造した焼結体サンプルD10を拡散処理し、拡散後のNd-Fe-B系の永久磁石材料サンプルE23を得た。
【0096】
(1)重希土類成分の塗布
複合重希土類拡散源を製造し、平均粒度2.3μmの重希土類テルビウム(Tb)と実施例2におけるB1粉末とを9:1の割合で混合し、複合重希土類拡散源を得た。
【0097】
サンプルD10の表面に、複合重希土類拡散源をマグネトロンスパッタリング法により塗布し、乾燥して均一で平坦な重希土類合金粉末のコーティングを得、拡散コーティングの平均厚さが50μmであった。
【0098】
(2)熱拡散処理
重希土類合金が表面に付着したNd-Fe-B焼結体サンプルを真空焼結炉に入れ、拡散温度が900℃、拡散時間が30hで熱拡散処理した。
【0099】
(3)焼き戻し処理
焼き戻し温度500℃、焼き戻し時間10h処理後、Nd-Fe-B系永久磁石材料サンプルE23を得た。
【0100】
〔比較例4〕
製造例のA11を用い、当該合金を水素化粉砕し、その後ジェットミリング研磨して粒度SMD=2.6μmの磁性粉末を得た。
【0101】
製造例1で得られたサンプルA1を製粉の異なる段階で製造例2で得られたサンプルB1と94:6の比で均一に混合し、均一に混合された粉末の0.2wt%の潤滑剤であるステアリン酸亜鉛を添加して、ネオジム鉄ボロン系粉末の表面がM化合物で完全に被覆されるように混合し、M化合物の被覆層を有する混合粉末C24を形成した。
【0102】
サンプルC24を配向磁場中でプレス成形し、配向磁場の磁場強度が2~8Tの範囲にあり、プレス成形後にサンプルは密度が3.6~4.2g/cmの圧粉体を成形し、等方圧後、密度が更に向上し、内部に微細なクラックのない圧粉体を成形した。
【0103】
サンプル圧粉体を真空雰囲気中で焼結し、焼結温度1020~1100℃の範囲内にあり、焼結時間は2~10hに制御し、焼結後の磁石を冷却して焼結体サンプルD24を得た。
【0104】
サンプルD24を実施例3と同様の方法で拡散し、サンプルE24を得た。
【0105】
〔検測例1〕
上記サンプルE11の垂直配向面を研磨し、電界放出電子プローブマイクロアナライザー(FE-EPMA、日本電子株式会社(JEOL)から市販、型番8530F)を用いて検測し、サンプルE11を検測し、図1に示す通りである。
【0106】
図1の任意の区域をEPMAラインスキャンし、化合物M-R及び/又はM-T-Rの濃度が、スキャン区域全体の平均濃度の115%以上である場合、その区域を粒界相M-R及び/又はM-T-R濃化区域と定義した。検出図は図2に示される通りである。図2から明らかなように、粒界相におけるM-R及び/又はM-T-R濃化区域(化合物)は、ラインスキャンにおいてピーク区域が見られた。
【0107】
M化合物粉末を添加しなかった比較例E10の検査画像は図3に示す通りであり、ここで、M(例えば、Al及び/又はCu)の磁石内部の結晶粒と粒界の分布は基本的に均一であり、粒界相におけるMの濃化は存在しなかった。
【0108】
図3の任意の区域をEPMAラインスキャンし、化合物M-R及び/又はM-T-Rの濃度が、スキャン区域全体の平均濃度の115%以上である場合、その区域を粒界相M-R及び/又はM-T-R濃化区域と定義した。検出図は図4に示される通りである。図4から明らかなように、粒界相におけるM-R及び/又はM-T-R濃化区域(化合物)は、ラインスキャンにおいて平坦で安定しており、ピーク濃化区域は存在しなかった。
【0109】
〔検測例2〕
拡散前の母材サンプルD11、D12、D13、D14、D15、D16、D10、D21、D22、D24と拡散品サンプルE11、E12、E13、E14、E15、E16、E10、E21、E22、E24の素体をそれぞれサンプリングし、磁気特性と重量損失(検測条件:121℃、100%RH、2.0Bar)特性と力学特性を検測した。
【0110】
各素体サンプルを採取してEPMAを行い、主相及び粒界相の特徴を解析し、画像解析ソフトImage-Pro Plusを用いて、濃化区域の割合又は区域Aの面積を定量分析した。
【0111】
上記測定の結果は、以下の表に示される通りである。
【表5】
【0112】
検測により、サンプルD11、E11、D13、E13で検測されたM-R又はM-Fe-R粒界相の割合は、視野面積全体の10.43%、10.06%、12.45%、12.24%であり、サンプルD11、E11、D13、E13の断面において、Rリッチ相の面積に対するRリッチ相内のMの元素濃度が0.15at%以上の区域Aの割合は、82%、85%、87%、94%であった。
【0113】
比較例1において、サンプルD10、E10で検測されたM-R又はM-Fe-R粒界相の割合は、視野面積全体の1.96%、1.67%であった。M化合物を添加しないサンプルD10は、M化合物を添加したサンプルD11と比較すると、残留磁気が同等の場合、保磁力は1360kA/mから1379kA/mに上昇した。類似のように、M化合物を添加しないサンプルD10の拡散後のE10と、M化合物を添加したサンプルD11の拡散後のE11とを比較すると、残留磁気が同等の場合、保磁力は2144kA/mから2178kA/mに上昇した。
【0114】
比較例2において、配合中のM金属の含有量を直接上昇させて製造されたサンプルD21、D22、E21、E22と、実施例3とを比較すると、その保磁力及び残留磁気が何れも低下し、且つサンプルE21、E22によって検出されたM-R又はM-Fe-R粒界相の割合が視野面積全体の0.98%、1.86%であり、サンプルE21、E22の断面において、Rリッチ相の面積に対するRリッチ相内のMの元素濃度が0.15at%以上の区域Aの割合は、67%、76%であった。
【0115】
比較例3において、M化合物を重希土類と共に磁石内部に拡散させることで、保磁力と残留磁気の同期向上を同時に実現しているが、保磁力は実施例1の向上に比べると劣っている。検出されたサンプルE23のM-R又はM-Fe-R粒界相の割合は、視野面積全体の2.46%を占めており、サンプルE23断面において、Rリッチ相の面積に対するRリッチ相内のMの元素濃度が0.15at%以上の区域Aの割合は72%であり、実施例E11~E16よりも重量損失効果が低減した。
【0116】
比較例4において、6wt%の割合のM化合物を添加して製造されたサンプルD24、E24の保磁力、残留磁気、重量損失などの性能が、実施例D11、E11よりも顕著に低下しており、検測されたサンプルD24、E24のM-R又はM-Fe-R粒界相の割合は、視野面積全体の19.31%、18.65%であり、サンプルE24断面において、Rリッチ相の面積に対するRリッチ相内のMの元素濃度が0.15at%以上の区域Aの割合は95%であり、M化合物の過剰な添加により、過剰なM-R相又はM-Fe-R相が粒界に濃縮され、焼結プロセスに高い要求があり、均一な焼結が困難であり、且つ比較的大きな粒子が形成されやすく、粒界欠陥を引き起こし、更に製品性能に影響を及ぼす。
【0117】
サンプルD13、E13の断面において、Rリッチ相の面積に対するRリッチ相内のMの元素濃度が0.15at%以上の区域Aの割合は、89%、92%であり、サンプルD21、E21の断面において、Rリッチ相の面積に対するRリッチ相内のMの元素濃度が0.15at%以上の区域Aの割合は67%、74%であり、
上述した測定結果から、本発明は、ネオジム鉄ボロン系粉末の表面に均一なM化合物の被覆層を形成することにより、ネオジム鉄ボロン系粉末の濡れ性を顕著に向上させることができることが示された。M化合物は、Rリッチ相と反応して新たな粒界相を形成するか、又はそれに溶解してM-R又はM-Fe-R粒界相を形成し、且つM-R又はM-Fe-R粒界相の割合が視野面積全体の2%~18%である場合、粒界相の物理化学的性質をより改善しやすく、粒界を強化し、微細組織を改善し、保磁力を向上させるのに有利である。しかしながら、M化合物を添加しない比較例サンプルは、拡散中に逆コアシェル構造が現れやすく、拡散効果に影響がある。また、結晶粒形状が十分に丸くなく、結晶粒表層、粒界に欠陥が多く存在し、Dy/Tbが粒界に沿って磁石内部に拡散する際に大きな抵抗を受け、結晶粒表層で優先的に欠陥を修復したり、主相結晶粒内部に浸透したりして、粒界に沿って磁石内部に拡散し続けるのに不十分となり、Hcjの増幅が不足する現象が起こりやすい。
【0118】
以上、本発明の実施形態について例示的に説明した。しかし、本発明の請求範囲は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨及び原則を逸脱しない範囲で当業者により行われた何れの修正、同等置換、改善なども、本発明の請求範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
図1】検測例1におけるサンプルE11のEMPA検測図である。
図2】検測例1において、図1の任意の区域をEPMAラインスキャンして得られた検測図である。
図3】検測例1における比較例E10のEMPA検測図である。
図4】検測例1において、図3の任意の区域をEPMAラインスキャンして得られた検測図である。
図1
図2
図3
図4