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特開2024-84736R-T-B系永久磁石材料及びその製造方法並びに応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084736
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石材料及びその製造方法並びに応用
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20240618BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240618BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240618BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240618BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240618BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240618BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01F1/057
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
B22F1/00 Y
B22F1/05
B22F3/00 F
C22C33/02 K
H01F41/02 G
H01F1/057 110
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209987
(22)【出願日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】2022116000472
(32)【優先日】2022-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】522310502
【氏名又は名称】烟台正海磁性材料股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ヨンジァン
(72)【発明者】
【氏名】リ,メン
(72)【発明者】
【氏名】ジァン,ユンイン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,レイ
(72)【発明者】
【氏名】レン,タオ
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018FA08
4K018FA23
4K018KA45
5E040AA04
5E040AA19
5E040CA01
5E040HB14
5E040HB15
5E040NN01
5E040NN06
5E062CD04
5E062CE04
5E062CG02
5E062CG07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】磁気特性を変化させずに耐食性を向上させ、プレス成形時の成形性を向上させ、かつ、製品の応用性と歩留まりを向上させる永久磁石材料を提供する。
【解決手段】R-T-B系永久磁石材料は、粒界三重点にMの酸化物を形成して粒界三重点に酸素を濃化させることにより、磁石内部の酸素含有量を精密に制御することができる。本発明に係る永久磁石材料及び製造方法は、磁気特性を変化させずに耐食性の高い製品を製造することができ、そしてプレス成形時の成形性を向上させ、製品の歩留まりを向上させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系永久磁石材料であって、Rは、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)から選ばれる1種、2種又は複数種であり、Tは、少なくとも鉄(Fe)を含み、Bはホウ素であり、
前記永久磁石材料は、遷移金属元素、低融点金属元素、非金属元素、及び軽希土類元素のうちの1種又は複数種から選ばれるMを更に含み、及び、
前記永久磁石材料の粒界相にMの酸化物が存在し、
好ましくは、前記永久磁石材料の残量は、Fe、O、及び不可避不純物であり、より好ましくは、Oの質量百分率含有量は、永久磁石材料の質量を基準として、700~4000ppmである、
ことを特徴とする、R-T-B系永久磁石材料。
【請求項2】
前記低融点金属は、1300℃以下の融点を有する金属から選ばれてもよく、その実例としては、銅(Cu)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、スズ(Sn)及びマンガン(Mn)のうちの1種又は複数種であってもよく、
前記軽希土類元素は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)などの元素から選ばれる1種又は複数種であってもよく、
好ましくは、Mは、Cu、Ga、Al、Zr、Ti、Sn、Mn、B、V、Seのうちの1種又は複数種から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B系永久磁石材料。
【請求項3】
Rの質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、28.5%以上且つ32.5%以下であり、
Bの質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、0.88%以上且つ1.05%以下であり、
Mの総質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、0.1%以上且つ4.0%以下、好ましくは0.15%以上且つ2.5%以下であり、
好ましくは、前記永久磁石材料はCoを含み、例えば、Coの質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、0%以上且つ0.7%以下、より好ましくは0.1%以上且つ0.5%以下である、
ことを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B系永久磁石材料。
【請求項4】
Oの質量百分率含有量は、前記永久磁石材料の質量を基準として、700~2000ppmである、
ことを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B系永久磁石材料。
【請求項5】
前記永久磁石材料の粒界相、好ましくは粒界三重点にはR-M-Oリッチ相が存在し、
好ましくは、前記永久磁石材料の粒界相、好ましくは粒界三重点において、Mの質量百分率と酸素の質量百分率との和は20%以上、好ましくは≧40%であり、
より好ましくは、前記永久磁石材料の粒界三重点におけるOの質量百分率含有量と、二粒子粒界におけるOの質量百分率含有量との比は>1であり、好ましくは1.5以上である、
ことを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B系永久磁石材料。
【請求項6】
金属組成物であって、そのうち、前記組成物は基体としての金属R、T、B、及び前記基体中に存在するMの酸化物を含み、
好ましくは、前記組成物は粉末形態で存在し、前記粉末の粒径は、500μm以下、例えば1~300μm、好ましくは1~50μmであり、
好ましくは、前記Mの酸化物の質量百分率含有量は、前記組成物中の基体の質量百分率を基準として、0.05%以上且つ5.00%以下、好ましくは0.10%以上且つ3.00%以下である、
金属組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の金属組成物を焼結及び熱処理して得られる焼結材料と、前記焼結材料に付着して熱処理された重希土類元素とを含む、
永久磁石。
【請求項8】
請求項1記載のR-T-B系永久磁石材料の製造方法であって、
請求項6に記載の金属組成物を成形して、前記金属組成物の成形体を得るステップと、
前記成形体を焼結して、焼結された前記金属組成物を含む基材を得るステップと、
重希土類元素を、焼結された前記金属組成物を含む基材と接触させるステップと、を含み、
好ましくは、重希土類元素は、前記焼結された前記金属組成物を含む基材と接触させて、前記基材の表面に前記重希土類元素の被覆層を形成する、
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の金属組成物を製造するステップを更に含み、そのうち、前記Mの酸化物が、水素破砕前に基体としての金属R、T、Bと混合される、
ことを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のR-T-B系永久磁石材料の、モータ、スピーカー、磁気セパレータ、コンピュータディスクドライブ、磁気共鳴イメージング装置の分野における応用、好ましくはモータにおけるモータローラーの磁性鋼としての、応用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、出願人が2022年12月13日に中国国家知識産権局に提出された、出願番号が202211600047.2であり、名称が「R-T-B系永久磁石材料及びその製造方法並びに応用」である先行特許出願の優先権を主張する。当該先行特許出願は、全体として引用により本願に取り込まれる。
【0002】
本発明は、R-T-B系永久磁石材料及びその製造方法並びに応用に関し、磁性材料分野に属する。
【0003】
〔背景技術〕
永久磁石材料は硬磁性材料とも呼ばれ、異方性磁場が高く、保磁力が高く、ヒステリシスループの面積が大きく、飽和するまでに必要な磁化磁場が大きく、外部磁場を除去しても長時間強い磁気特性を維持できるという特徴を有している。永久磁石材料の中でも、ネオジム鉄ボロン(NdFeB)系焼結永久磁石は、他の永久磁石材料よりも磁気特性に優れている。例えば、ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石は、高い磁気エネルギー積、保磁力及びエネルギー密度を有し、且つその機械的性能は良好で加工が容易である。これらの優れた特性により、ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石は、モータ、スピーカ、磁気セパレータ、コンピュータディスクドライブ、磁気共鳴イメージング装置などの現代工業及び電子技術において広く使用されている。
【0004】
ネオジム鉄ボロン磁石の主成分である希土類元素は酸化されやすく、製造プロセスにおいて酸素を多量に導入すると磁石の磁気特性が低下するため、酸素含有量を制御することにより磁石の特性に及ぼす影響を改善することが可能であり、従来技術において重要な方向の1つとなっている。ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石材料の製造プロセスにおいて、酸素は大気中からネオジム鉄ボロン系焼結磁石内に不可避的に混入するが、従来技術では酸素含有量の制御方法に大きな差異がある。例えば、特許文献CN111554499Aには、焼結磁石の酸素含有量が高すぎると、一方では、非磁性相の酸素が取り込まれることにより、その総合磁気特性が低下し、他方では、これらの酸素原子は磁石内部に取り込まれた後、亀裂の発生点を形成する可能性が極めて高く、過酷な使用環境下での使用に深刻な影響を及ぼすことが開示されている。従って、当該文献では、配向成形後の素体にホットプレス緻密化プロセスを行うことにより、予備焼結素体の密度を高め、素体中の孔隙を大幅に減少させ、焼結プロセス中の不純物ガスの大部分を排出し、ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石の酸素含有量を低減させる。また、例えば、特許文献CN112614685Aには、ジェットミリング製粉プロセスで酸素を添加せずに粗粉末に酸化防止剤を添加し、微粉末を製造した後に水を加えて酸素を補充し、微粉末と水を均一に混合した後、焼結プロセスで分解した酸素とネオジム鉄ボロンを均一に結合させることで、ネオジム鉄ボロン磁石の酸素含有量を制御できることが示されている。
【0005】
上記方法は、プロセス中の雰囲気の酸素含有量を制御することのみを考慮し、且つその制御方法が複雑であるため、ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石及びその製造方法を更に開発し、上記技術問題を改善する必要がある。
【0006】
〔発明の概要〕
上記問題を改善するために、本発明は、R-T-B系永久磁石材料であって、Rは、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)から選ばれる1種、2種又は複数種であり、Tは、少なくとも鉄(Fe)を含み、Bはホウ素であり、
上記永久磁石材料は、遷移金属元素、低融点金属元素、非金属元素、及び軽希土類元素のうちの1種又は複数種から選ばれるMを更に含み、及び、
上記永久磁石材料の粒界相にMの酸化物が存在する、
ことを特徴とする、R-T-B系永久磁石材料を提供する。
【0007】
本発明の実施形態によれば、Rは、好ましくはNd又はNdPrから選ばれる。
【0008】
本発明の実施形態によれば、Tは、好ましくは鉄(Fe)又はそれと他の金属元素との混合物から選ばれる。上記他の金属は、鉄以外の遷移金属元素から選ばれる1種又は複数種から選ばれもよい。
【0009】
本発明の文脈における遷移金属元素は、本分野に周知された意味を有し、元素の周期表のdブロック及びdsブロックの金属元素を意味し、ここで、dブロックの元素は、IIIB~VIIB、VIII族の元素を含むが、ランタノイド及びアクチノイドを含まず、dsブロックの元素は、IB~IIB族の元素を含む。一般に、遷移金属元素は3から12までの合計10族の元素を含むが、fブロック(周期表の58~71番目の元素は4f内部遷移元素、90~103番目の元素は5f内部遷移元素と呼ばれ、何れもfブロックに属する)の内部遷移元素を含まない。
【0010】
本発明の実施形態によれば、上記低融点金属は、1300℃以下の融点を有する金属から選ばれてもよく、その実例としては、銅(Cu)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、スズ(Sn)及びマンガン(Mn)のうちの1種又は複数種であってもよい。
【0011】
本発明の実施形態によれば、上記軽希土類元素は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)などの元素から選ばれる1種又は複数種であってもよい。
【0012】
本発明の実施形態によれば、Mは、Cu、Ga、Al、Zr、Ti、Sn、Mn、B、V、Seのうちの1種又は複数種、例えば、Cu、Ga、Al、Zr、Ti、Sn、Mn、Seのうちの1種又は複数種、好ましくは、B、Cu、Ga、Al、Sn、Mnのうちの1種又は複数種から選ばれてもよい。
【0013】
本発明の実施形態によれば、Rの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、28.5%以上且つ32.5%以下、例えば、29.0%、29.5%、30.0%、30.5%、31.0%、31.5%、32.0%、32.5%である。
【0014】
本発明の実施形態によれば、Bの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、0.88%以上且つ1.05%以下、例えば、0.90%、0.95%、0.98%、1.00%又は1.05%である。
【0015】
本発明の実施形態によれば、Mの総質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、0.1%以上且つ4.0%以下、好ましくは0.15%以上且つ2.5%以下、例えば、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%又は4.0%である。
【0016】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料はCoを含んでもよい。例えば、Coの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、0%以上且つ0.7%以下、より好ましくは0.1%以上且つ0.5%以下である。実例として、Coの質量百分率含有量は、0.05%、0.1%、0.15%、0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、0.45%又は0.5%であってもよい。
【0017】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の残量は、Fe、O、及び不可避不純物であり、上記不可避不純物は、例えばC、Nなどのうちの少なくとも1種である。
【0018】
本発明の実施形態によれば、Oの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、700~4000ppm(質量パーセント)、例えば、700ppm、800ppm、900ppm、1000ppm、1100ppm、1200ppm、1300ppm、1400ppm、1500ppm、1600ppm、1700ppm、1800ppm、1900ppm、2000ppm、2100ppm、2200ppm、2300ppm、2400ppm、2500ppm、2600ppm、2700ppm、2800ppm、2900ppm、3000ppm、3100ppm、3200ppm、3300ppm、3400ppm、3500ppm、3600ppm、3700ppm、3800ppm、3900ppm又は4000ppmである。好ましくは、Oの質量百分率含有量は700~2000ppmである。
【0019】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の粒界相、好ましくは粒界三重点にはR-M-Oリッチ相が存在する。
【0020】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の粒界相において、粒界三重点におけるMの質量百分率と酸素の質量百分率との和は20%以上、好ましくは≧40%である。例えば、粒界三重点において、Mの質量百分率は15~45%、好ましくは20~40%、例えば30~35%であり、その実例は32%であってもよく、また、例えば、粒界三相点において、酸素の質量百分率は5~15%、好ましくは6~12%、例えば7~10%であり、その実例は8%であってもよい。
【0021】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の粒界三重点におけるOの質量百分率含有量と、二粒子粒界におけるOの質量百分率含有量との比は>1であり、好ましくは1.5以上、例えば1.5、2、2.5、3である。
【0022】
本発明の実施形態によれば、存在する場合、Cの質量百分率含有量は、上記永久磁石材料の質量を基準として、400~800ppmである。
【0023】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の粒界は、Mの化合物、例えば、化合物M-C及びM-Bから選ばれる1種又は複数種を更に含まれてもよい。
【0024】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料は、重希土類元素(HRE)を更に含む。ここで、上記重希土類元素は、本分野に周知された意味を有し、その実例として、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)から選ばれてもよい。
【0025】
本発明の実施形態によれば、上記永久磁石材料の結晶粒の粒径は、≦6μmであり、例えば、0.1~6μmであり、例えば、0.1μm、0.5μm、1.0μm、1.5μm、3.0μm、4.5μm又は6.0μmである。
【0026】
本発明の文脈において、数値範囲がある数値「以上」又は「以下」と記載された場合、この数値範囲には当該数値が含まれるとことが理解される。換言すれば、「ある数値以上」という表現は、「≧当該数値」の数値範囲、即ち、上記数値範囲は当該数値に等しい範囲及び当該数値よりも大きい範囲を含むことを意味し、「ある数値以下」という表現は、「≦当該数値」の数値範囲、即ち、上記数値範囲は当該数値に等しい範囲及び当該数値よりも小さい範囲を含むことを意味する。
【0027】
本発明は、基体としての金属R、T、B、及び上記基体中に存在するMの酸化物を含む、金属組成物を更に提供する。
【0028】
本発明の実施形態によれば、上記組成物は粉末形態で存在する。上記粉末の粒径は、500μm以下、例えば1~300μm、好ましくは1~50μm、より好ましくは3~40μmであり、その実例としては、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm又は100μmであってもよい。
【0029】
本発明の実施形態によれば、上記Mの酸化物の質量百分率含有量は、上記組成物中の基体の質量百分率含有量を基準として、0.05%以上且つ5.00%以下、好ましくは0.10%以上且つ3.00%以下であり、その実例としては、0.05%、0.10%、0.20%、0.30%、0.40%、0.50%、0.60%、0.70%、0.80%、0.90%、1.00%、1.50%、2.00%、2.50%、3.00%、3.50%、4.00%、4.50%又は5.00%であってもよい。
【0030】
本発明の実施形態によれば、上記基体は、不可避不純物を更に含んでもよく、上記不可避不純物は、例えばC、Nなどのうちの少なくとも1種である。
【0031】
本発明は、焼結された上記金属組成物を含む焼結材料を更に提供する。
【0032】
本発明は、熱処理された上記焼結材料と、上記焼結材料に付着して熱処理された重希土類元素とを含む永久磁石を更に提供する。
【0033】
本発明は、上記金属組成物を焼結及び熱処理して得られる焼結材料と、上記焼結材料に付着して熱処理された重希土類元素とを含む永久磁石を更に提供する。
【0034】
本発明の実施形態によれば、上記焼結材料の製造方法は、上記金属組成物を成形して成形体を得、上記成形体を焼結して上記焼結材料を得ることを含む。
【0035】
本発明の実施形態によれば、成形ステップ又は焼結ステップは、本分野で既知の条件を用いて行われ得る。
【0036】
本発明の実施形態によれば、上記成形ステップは、上記金属組成物の混合物をドライ成形することができ、例えば、磁場中に配置された金型に上記金属組成物の混合物を充填し、加圧することにより上記金属組成物の混合物を成形して成形体を得ることができる。この場合、磁場を印加しながら成形することにより、上記金属組成物の混合物の結晶軸を特定方向に配向させた状態で成形することができる。成形ステップにおいては、必要に応じて、本分野で既知の成形助剤を添加することができる。好ましくは、加圧時の圧力は、例えば、30MPa以上且つ300MPa以下であってもよく、印加する磁場は、静磁場及び/又はパルス磁場であってもよく、その磁場強度は、例えば1000kA/m以上且つ1600kA/m以下であってもよい。或いは、金属組成物の混合物を油などの溶媒に分散させたスラリーを用いて成形する、ウェット成形を採用してもよい。
【0037】
当業者は、上記成形体の具体的な形状は特に限定されず、上記R-T-B系永久磁石材料の応用条件に応じて調整することができることを理解すべきである。例えば、上記成形体は、直方体、平板状、柱状、リング状又はC型などの形状であってもよい。
【0038】
本発明の実施形態によれば、上記焼結ステップでは、得られた成形体を真空中又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。実例として、焼結温度は、1000℃以上1150℃以下であってもよく、1050℃以上1130℃以下であってもよい。焼結時間は、特に限定されず、例えば2時間以上10時間以下であってもよく、2時間以上8時間以下であってもよい。焼結時の雰囲気は特に制限されない。例えば、不活性な雰囲気であってもよく、100Pa未満の真空雰囲気であってもよく、10Pa未満の真空雰囲気であってもよい。成形体を焼結して焼結体を得た後、冷却することができる。冷却速度は特に制限されないが、生産効率を高めるために焼結体を急速に冷却、例えば20℃/min以上の速度で冷却してもよい。
【0039】
本発明の実施形態によれば、上記焼結材料の表面は、熱処理された重希土類元素で被覆されて被覆層を形成する。
【0040】
本発明の実施形態によれば、上記熱処理は、熱拡散処理と焼き戻し処理を含む。
【0041】
本発明の実施形態によれば、上記熱拡散処理は、粒界拡散処理であり、その処理方法は、当技術分野で既知のプロセスである。ここで、上記熱拡散処理の温度は、800℃以上、例えば850~950℃であってもよく、その実例としては、800℃、810℃、820℃、830℃、840℃、850℃、860℃、870℃、880℃、890℃又は900℃であってもよい。上記熱拡散処理の時間は、5h以上、例えば10~50h、例えば10h、15h、20h、25h、30h、35h、40h、45h又は50hであってもよい。
【0042】
本発明の実施形態によれば、上記焼き戻し処理の温度は、700℃以下、例えば450~650℃であってもよく、その実例としては、450℃、460℃、470℃、480℃、490℃、500℃、510℃、520℃、530℃、540℃、550℃、560℃、570℃、580℃、590℃、600℃、610℃、620℃、630℃、640℃又は650℃であってもよい。上記焼き戻し処理の時間は、1h以上、例えば、1~10hであってもよく、その実例としては、1h、2h、3h、4h、5h、6h、7h、8h、9h又は10hであってもよい。
【0043】
本発明は、上記R-T-B系永久磁石材料の製造方法であって、上記製造方法は、
上記金属組成物を成形して、上記金属組成物の成形体を得るステップと、
上記成形体を焼結して、焼結された上記金属組成物を含む基材を得るステップと、
重希土類元素を、焼結された上記金属組成物を含む基材と接触させるステップと、
を含むことを特徴とする、製造方法を更に提供する。
【0044】
好ましくは、重希土類元素は、上記焼結された上記金属組成物を含む基材と接触させて、上記基材の表面に上記重希土類元素の被覆層を形成する。
【0045】
本発明は、上記金属組成物を上記Mの酸化物のうちの1種又は複数種と接触させることを含む、ことを特徴とする、上記金属組成物の製造方法を更に提供する。
【0046】
本発明の実施形態によれば、上記金属組成物、上記M又はMの化合物から選ばれる1種又は複数種の粉末は、当該技術分野で既知の粉末化プロセスにより製造され得る。上記粉末化プロセスは、粉末冶金プロセス又は水素破砕ジェットミリングプロセスから選ばれてもよい。
【0047】
本発明の例示的な実施形態によれば、上記粉末冶金プロセスは、原材料を急速凝固又はアーク溶解し、水素破砕した後、高エネルギーボールミル処理を行うステップを含むことができる。上記水素破砕ジェットミリングプロセスは、原材料を用いて急速凝固又はアーク溶解し、水素破砕した後、ジェットミリング処理を行うステップを含むことができる。
【0048】
本発明の例示的実施形態によれば、金属組成物を調製するステップにおいて、上記Mの酸化物を、水素破砕前に基体としての金属R、T、Bと混合する。
【0049】
本発明は、上記Re-Fe-B系永久磁石材料の、モータ、スピーカ、磁気セパレータ、コンピュータディスクドライブ、磁気共鳴イメージング装置などの分野における応用、好ましくはモータにおけるモータローターの磁性鋼としての応用を更に提供する。
【0050】
〔有益な効果〕
発明者は、永久磁石材料中の酸素含有量を高めると、熱重量損失の改善や耐食性の向上が可能となるが、酸素含有量が高すぎると、磁気特性が顕著に低下することを意外に見出した。本発明のR-T-B系永久磁石材料は、粒界三重点にMの酸化物を形成して粒界三重点に酸素を濃化させることにより、磁石内部の酸素含有量を精密に制御することができる。本発明の永久磁石材料は、磁気特性を変化させずに耐食性を向上させ、そしてプレス成形時の成形性を向上させ、製品の応用性と歩留まりを向上させることができる。
【0051】
〔図面の簡単な説明〕
図1〕実施例3で製造した永久磁石材料サンプルF13のEMPA分析図であり、そのうち、粒界三重点にMの酸化物が存在する。
【0052】
図2〕比較例1で製造した永久磁石材料サンプルF0のEMPA分析図である。
【0053】
図3〕実施例3で製造した永久磁石材料サンプルF13のEPMA図であり、O含有量をラインスキャン分析したものである。
【0054】
図4〕比較例1で製造した永久磁石材料サンプルF0のEPMA図であり、O含有量をラインスキャン分析したものである。
【0055】
〔発明を実施するための形態〕
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の技術案を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解すべきである。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、何れも本発明による請求範囲内に含まれる。
【0056】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用される原料及び試薬は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
【0057】
〔機器及び方法〕
[EMPA分析]
機器:日本島津EPMA-1720型電子プローブ顕微鏡。
検測条件:加速電圧は10kV、ビーム電流は20nA、元素B、Oの検測時間は30s、バックグラウンド検測は10s、その他の元素はデフォルトで10sである。
【0058】
[磁気特性検測]
機器:計量院のNIM-62000型希土類永久磁石測定システム。
検測条件:20~200℃閉回路検測。
【0059】
[重量損失性能検測]
機器:D10-10カラム、ドイツHAST高温高湿試験装置。
検測条件:130℃、0.26atm、100%RH、480hである。
【0060】
〔製造例1:Nd-Fe-Bフレークの製造〕
真空製錬及びストリッピングにより、ネオジム鉄ボロンフレークサンプルA1、A2、A3、A4、A5を得た。
【0061】
検測により、各元素の質量百分率含有量は、以下の表に示される。
【表1】
【0062】
〔製造例2:Nd-Fe-B粗粉末の製造〕
製造例1のNd-Fe-Bフレークを水素破砕してNd-Fe-B粗粉末サンプルB1、B2、B3、B4、B5を得た。
【0063】
〔調製例3:M酸化物粉末の製造〕
以下の表に示されるM化合物をそれぞれ取って、液相沈降法により酸化物沈殿を生成させ、ろ過、洗浄、乾燥、焙焼及び熱分解を経て、下記の粉末サンプルを得た。
【表2】
【0064】
〔実施例1:Nd-Fe-B系合金粉末の混合物の製造〕
製造例1で得られたサンプルと製造例3で得られたサンプルをそれぞれ混合均質化し、水素破砕及びジェットミリングにより細粒化した後、ネオジム鉄ボロン系粉末の表面をM酸化物で完全に被覆し、M酸素化合物の被覆層を形成した。又は、製造例2で得られたサンプルと製造例3で得られたサンプルを均一に混合し、混合後、ネオジム鉄ボロン系粉末の表面をM酸化物で完全に被覆し、M酸素化合物の被覆層を形成した。具体的なサンプルは、下記の表に示される。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】
【0065】
〔実施例2:Nd-Fe-B系合金粉末混合物の焼結体の製造〕
実施例1におけるサンプルD1~D23を以下のステップで処理し、Nd-Fe-B系合金粉末混合物の焼結体サンプルE1~E23をそれぞれ製造した。
【0066】
(1)成形
実施例1のD1~D23のサンプルをそれぞれ配向磁場中でプレス成形し、配向磁場の磁場強度が2~8Tの範囲にあり、プレス成形後にサンプルは密度3.6~4.2g/cmの圧粉体を成形し、等方圧後、密度が更に向上し、内部に微細なクラックのないD1~D23の圧粉体を成形した。
【0067】
(2)焼結
ステップ(1)のD1~D23のサンプル圧粉体をそれぞれ真空雰囲気下で焼結し、焼結温度1080~1100℃の範囲にあり、焼結時間は2~10h以内に制御し、焼結後の磁石を冷却して焼結体サンプルE1~E23を得た。
【0068】
〔実施例3:Nd-Fe-B系永久磁石材料の製造〕
実施例2で製造した焼結体サンプルE1~E23を、それぞれ以下のように処理してNd-Fe-B系永久磁石材料サンプルF1~F23を得た。
【0069】
(1)重希土類成分の塗布
特定の溶媒に一定質量のDy-Fe系合金又はTb-Fe系合金粉末を均一に混合し、均一に混合した後、重希土類被覆スラリーを得、重希土類スラリーを焼結サンプルの表面に均一に塗布し、乾燥後に均一で平坦な重希土類合金粉末コーティングを得た。
【0070】
(2)熱拡散処理
表面に重希土類合金が付着したNd-Fe-B焼結体サンプルを真空焼結炉中に入れ、拡散温度が910℃又は890℃、拡散時間が20~35hで熱拡散処理した。
【0071】
(3)焼き戻し処理
焼き戻し温度は480~550℃、焼き戻し時間4h処理した後、Nd-Fe-B系永久磁石材料サンプルF1~F23を得た。
【0072】
〔比較例〕
Nd-Fe-B系永久磁石材料サンプルF1の製造方法を参照し、異なるのは、M酸化物粉末を添加せずに成形、焼結、拡散及び焼き戻しステップを行い、Nd-Fe-B系永久磁石材料サンプルF0を得た点である。
【0073】
〔検測例1:永久磁石材料のEMPA分析〕
上記実施例3で製造したNd-Fe-B系永久磁石材料サンプルF13と、比較例で製造したサンプルF0とについてEPMA検測を行った結果、図1及び図2に示されるように、M酸化物粉末を添加したサンプルの粒界にCuの濃化が多く見られ、ここではM(Cu)の酸化物含有量が高いことが示された。ここで、粒界三重点におけるサンプルF1のM(Cu)含有量は32%であり、O含有量は8%であった。
【0074】
F13とF0サンプルにEPMAでO含有量をラインスキャン分析した結果、図3図4に示されるように、Mの酸化物粉末を添加したサンプルでは粒界三重点におけるOの含有割合が二粒子粒界におけるOの含有割合の1.5倍以上であるのに対し、Mの酸化物粉末を添加していないサンプルでは異なる位置におけるOの含有量に明らかな変化傾向は見られなかった。
【0075】
〔検測例2:永久磁石材料の磁気特性及び重量損失特性検測〕
上記実施例3で製造したNd-Fe-B系永久磁石材料サンプルF1~F23、及び比較例で得られたサンプルF0の磁気特性並びにサンプル内の酸素含有量と重量損失特性を測定した結果は、以下の通りであった。
【表8】
【0076】
結論は次の通りである。
【0077】
サンプルF1~F4の比較から、Mの酸化物粉末の添加量を増やすと磁石内部の酸素含有量は顕著に増加するが、比較的に高い酸素含有量により、磁石の磁気特性が低下すると共に、磁石の耐食性にも影響を与える。添加量が少ない場合、粒界三重点に形成されるM酸化物構造の含有量が不足し、磁石内で酸素含有量の分布が不均一となり、低Co製品の耐食性の改善効果が明らかではないことがわかる。
【0078】
サンプルF5~F9の比較から、Co含有量は磁石の耐食性を明らかに向上させるが、Co含有量の増加は磁石Hcjを弱める効果を示し、同時に、Coが戦略材料であることを考慮すると、Mの酸化物粉末を添加することにより、磁石の耐食性改善も実現できることがわかる。
【0079】
サンプルF1とF10~F14との比較から、異なるMの酸化物は質量分率の違いによって供給できる酸素含有量も異なると共に、被覆層の厚さの違いによってその効果が比較的明らかに異なり、そのうち、B2O、CuO、MgOの効果がより優れていることがわかる。
【0080】
サンプルF1とF15~F18との比較から、異なる粒径のMの酸化物粉末も特性や耐食性に差が生じ、粉末粒子が小さすぎると、粉末自体が凝集しやすくなり、磁石粉末と酸化物粉末の混合効果に影響を与え、混合不均一となり、粒界に酸素濃化領域が形成され、磁石特性に影響を与え、粉末粒子が大きすぎると、熱処理の際にMの酸化物が比較的に多いとネオジムリッチ相の液相流動が阻害され、粒界が不連続となり、磁気特性や耐食性にも影響を及ぼすことがわかる。
【0081】
サンプルF1~F5とF19~F23との比較から、HD(Hydrogen Decrepitation、水素破砕)前にMの酸化物粉末を添加する方がHD後に添加するよりも効果がより優れることがわかり、プロセス中の高温環境下で希土類元素とMの酸化物とが反応して粒界に酸素が化合物として残留することが可能であるのに対し、HD後に磁石粉末と酸化物粉末とを混合した後も凝集や不均一性の可能性があり、更に粒界三重点の酸素含有量が少なくなることがわかる。
【0082】
サンプルF1とF0との比較から、本発明の永久磁石材料サンプルは粒界三重点にMO化合物を形成して粒界三重点に酸素を濃化させ、それにより磁石内部の酸素含有量を制御することができることがわかる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について例示的に説明した。しかし、本発明の請求範囲は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨及び原則を逸脱しない範囲で当業者により行われた何れの修正、同等置換、改善なども、本発明の請求範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
図1】実施例3で製造した永久磁石材料サンプルF13のEMPA分析図であり、そのうち、粒界三重点にMの酸化物が存在する。
図2】比較例1で製造した永久磁石材料サンプルF0のEMPA分析図である。
図3】実施例3で製造した永久磁石材料サンプルF13のEPMA図であり、O含有量をラインスキャン分析したものである。
図4】比較例1で製造した永久磁石材料サンプルF0のEPMA図であり、O含有量をラインスキャン分析したものである。
図1
図2
図3
図4