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特開2024-8476電極材料、電極材料の製造方法、および全固体電池の製造方法
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  • 特開-電極材料、電極材料の製造方法、および全固体電池の製造方法 図1
  • 特開-電極材料、電極材料の製造方法、および全固体電池の製造方法 図2
  • 特開-電極材料、電極材料の製造方法、および全固体電池の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008476
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】電極材料、電極材料の製造方法、および全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240112BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240112BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240112BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240112BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240112BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240112BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/058
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110387
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 裕城
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬太
(72)【発明者】
【氏名】西尾 勇祐
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ08
5H029DJ09
5H029DJ16
5H029DJ17
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050DA13
5H050EA15
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】耐久後の抵抗増加率を低減すること。
【解決手段】電極材料は、72%以上の固形分濃度を有する。複合粒子と、硫化物固体電解質と、溶剤とを含む。複合粒子は、活物質とフッ化物固体電解質とを含む。フッ化物固体電解質は、活物質の表面の少なくとも一部を被覆している。硫化物固体電解質は、複合粒子に付着している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
72%以上の固形分濃度を有し、
複合粒子と、硫化物固体電解質と、溶剤とを含み、
前記複合粒子は、活物質とフッ化物固体電解質とを含み、
前記フッ化物固体電解質は、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記硫化物固体電解質は、前記複合粒子に付着している、
電極材料。
【請求項2】
前記フッ化物固体電解質は、式(1):
Li6-nxx6 …(1)
により表され、
前記式(1)中、
xは、0<x<2を満たし、
Mは、半金属原子と、Liを除く金属原子とからなる群より選択される少なくとも1種であり、
nは、Mの酸化数を示す、
請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記式(1)中、
Mは、+4の酸化数を有する原子を含む、
請求項2に記載の電極材料。
【請求項4】
前記式(1)中、
Mは、+3の酸化数を有する原子を含む、
請求項2に記載の電極材料。
【請求項5】
前記式(1)中、
Mは、Ca、Mg、Al、Y、Ti、およびZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項2に記載の電極材料。
【請求項6】
75.5~82%の固形分濃度を有する、
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項7】
(a)複合粒子を準備すること、および
(b)前記複合粒子と硫化物固体電解質と溶剤とを含む電極材料を製造すること、
を含み、
前記複合粒子は、活物質とフッ化物固体電解質とを含み、
前記フッ化物固体電解質は、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記電極材料は、72%以上の固形分濃度を有し、
前記(b)は、
(b1)前記複合粒子と前記硫化物固体電解質と前記溶剤とを含む混合物を固練りすること、および
(b2)前記混合物に前記溶剤を追加すること、
を含み、
前記(b1)と前記(b2)とが交互にそれぞれ2回以上実施される、
電極材料の製造方法。
【請求項8】
(c)請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電極材料を含む電極を製造すること、および
(d)前記電極を含む全固体電池を製造すること、
を含む、
全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極材料、電極材料の製造方法、および全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2014-154407号公報(特許文献1)は、複合粒子の表面を硫化物固体電解質により被覆することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-154407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以下、固体電解質(Solid Electrolyte)が「SE」と略記され得る。例えば、硫化物固体電解質は「硫化物SE」と略記され得る。
【0005】
硫化物SEは、高いイオン伝導性と、優れた成形性とを併せ持つ。硫化物SEは、バルク型全固体電池に好適である。しかし、電極中において硫化物SEが活物質と直接接触することにより、硫化物SEの劣化が促進され得る。硫化物SEの劣化により、例えばイオン伝導性が損なわれる可能性がある。
【0006】
硫化物SEと活物質との直接接触を低減するため、活物質を酸化物SE(例えばLiNbO3等)で被覆することにより、複合粒子を形成することが提案されている。さらに、複合粒子と硫化物SEとの界面形成を促進するため、複合粒子を硫化物SEで被覆することも提案されている。
【0007】
硫化物SEにより複合粒子を被覆する方法として、乾式法と湿式法とが考えられる。乾式法においては、複合粒子の表面に大きな機械的負荷が加わる。そのため、酸化物SEが剥離する可能性がある。酸化物SEが剥離することにより、活物質と硫化物SEとが直接接触する可能性がある。その結果、耐久後の抵抗増加率が高くなる可能性がある。
【0008】
湿式法においては、溶剤(液体)の存在により、複合粒子の表面に加わる機械的負荷が軽減され得る。しかし湿式法においては、酸化物SEと硫化物SEとの界面形成が進行し難い傾向がある。界面形成が不十分であるため、耐久後の抵抗増加率が高くなる可能性がある。
【0009】
本開示の目的は、耐久後の抵抗増加率を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0011】
1.電極材料は、72%以上の固形分濃度を有する。電極材料は、複合粒子と、硫化物固体電解質と、溶剤とを含む。複合粒子は、活物質とフッ化物固体電解質とを含む。フッ化物固体電解質は、活物質の表面の少なくとも一部を被覆している。硫化物固体電解質は、複合粒子に付着している。
【0012】
上記「1」に記載の電極材料は、溶剤を含む。すなわち電極材料は湿式法により製造され得る。複合粒子の表面は、フッ化物SEによって被覆されている。本開示の新知見によると、フッ化物SEと硫化物SEとの界面形成は、湿式法であっても、比較的容易に進行し得る。さらに、湿式法においては、フッ化物SEが剥離し難い。
【0013】
電極材料の固形分濃度は72%以上である。これにより電極材料の固練りが安定しやすい傾向がある。安定した固練りが実施されることにより、複合粒子の表面が硫化物SEによって緻密に被覆され得る。これらの作用の相乗により、耐久後の抵抗増加率の低減が期待される。
【0014】
2.上記「1」に記載の電極材料において、フッ化物固体電解質は、例えば下記式(1)により表されてもよい。
Li6-nxx6 …(1)
上記式(1)中、xは、0<x<2を満たす。Mは、半金属原子と、Liを除く金属原子とからなる群より選択される少なくとも1種である。nは、Mの酸化数を示す。
【0015】
上記式(1)のフッ化物SEは、硫化物SEとの界面形成が比較的容易であり得る。さらに該フッ化物SEは、耐久時、反応抵抗の増加が緩やかであることが期待される。
【0016】
3.上記「2」に記載の電極材料において、上記式(1)中のMは、例えば+4の酸化数を有する原子を含んでいてもよい。
【0017】
4.上記「2」に記載の電極材料において、上記式(1)中のMは、例えば+3の酸化数を有する原子を含んでいてもよい。
【0018】
5.上記「2」に記載の電極材料において、上記式(1)中のMは、例えばCa、Mg、Al、Y、Ti、およびZrからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0019】
6.上記「1」~「5」のいずれか1項に記載の電極材料は、例えば、75.5~82%の固形分濃度を有していてもよい。
【0020】
固形分濃度が75.5~82%であることにより、抵抗増加率の低減が期待される。固練りが安定しやすいためと考えられる。
【0021】
7.電極材料の製造方法は、下記(a)および(b)を含む。
(a)複合粒子を準備する。
(b)複合粒子と硫化物固体電解質と溶剤とを含む電極材料を製造する。
複合粒子は、活物質とフッ化物固体電解質とを含む。フッ化物固体電解質は、活物質の表面の少なくとも一部を被覆している。電極材料は、72%以上の固形分濃度を有する。
上記(b)は、下記(b1)および(b2)を含む。
(b1)複合粒子と硫化物固体電解質と溶剤とを含む混合物を固練りする。
(b2)混合物に溶剤を追加する。
上記(b1)および(b2)は、交互にそれぞれ2回以上実施される。
【0022】
複合粒子と硫化物SEと溶剤とを含む混合物が固練りされることにより、複合粒子の表面が硫化物SEによって被覆され得る。固練り中、溶剤の一部が蒸発したり、溶剤が粉体に吸収されたりすることにより、溶剤が足りなくなることがある。溶剤が不足すると固練りが維持できず、分散が不十分となり得る。上記「7」に記載の製造方法においては、固練りと、溶剤の追加とが交互に繰り返される。これにより、溶剤が不足することなく、固練りが持続され得る。その結果、複合粒子の表面が硫化物SEによって緻密に被覆されることが期待される。
【0023】
固練りにおいて、混合物に追加される溶剤の最終的な量(合計量)は、粉体への吸収量、混合中の揮発量を加味した量である。溶剤が複数回に分割して投入されず、最終的な量が一度に全量投入されると、混合物が液状化する可能性がある。特に、フッ化物SEを含む複合粒子(粉体)の場合、粉体への溶剤の吸収が遅くなる傾向がある。そのためフッ化物SEを含む粉体は、液状化しやすい傾向が顕著である。混合物が液状化すると、固練りが継続できず、所望の被覆処理が完遂できない可能性がある。
【0024】
8.全固体電池の製造方法は、下記(c)および(d)を含む。
(c)上記「1」~「6」のいずれか1項に記載の電極材料を含む電極を製造する。
(d)電極を含む全固体電池を製造する。
【0025】
上記「8」に記載の製造方法においては、耐久時の抵抗増加率が低い、全固体電池が製造されることが期待される。
【0026】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、非制限的である。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本実施形態における製造方法の概略フローチャートである。
図2図2は、固練りの進行過程を示す概念図である。
図3図3は、本実施形態における全固体電池の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<用語およびその定義等>
「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0029】
「AおよびBの少なくとも一方」は、「AまたはB」ならびに「AおよびB」を含む。「AおよびBの少なくとも一方」は、「Aおよび/またはB」とも記され得る。
【0030】
「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0031】
単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も意味し得る。
【0032】
各種方法に含まれる複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0033】
例えば「m~n%」等の数値範囲は、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0034】
全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値であり得る。全ての数値は有効数字で表示され得る。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【0035】
化合物が化学量論的組成式(例えば「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0036】
「半金属」は、B、Si、Ge、As、Sb、およびTeを含む。「金属」は、周期表の第1族元素~第16元素のうち、「H、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、S、およびSe」以外の元素を示す。無機化合物が、半金属および金属の少なくとも一方と、Fとを含む時、半金属および金属は、正(+)の酸化数を有し得る。
【0037】
「電極」は、正極または負極の総称である。電極は、正極であってもよいし、負極であってもよい。
【0038】
フッ化物SEによる「被覆の厚さ」は、次の手順で測定され得る。複合粒子が樹脂材料に包埋されることにより、試料が準備される。イオンミリング装置により、試料に断面出し加工が施される。例えば、日立ハイテクノロジーズ社製の製品名「Arblade(登録商標)5000」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。試料の断面がSEM(Scanning Electron Microscope)により観察される。例えば、日立ハイテクノロジーズ社製の製品名「SU8030」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。10個の複合粒子について、それぞれ、20個の視野でフッ化物SEの厚さが測定される。合計で200箇所の厚さの算術平均が、被覆の厚さとみなされる。なお、フッ化物SEによる被覆の厚さは、「バッファ層の厚さ」とも称され得る。
【0039】
SEM-EDX(Energy Dispersive X-ray Spectrometry)による元素マッピング画像において、被覆の厚さが測定されてもよい。元素マッピング画像においては、各部を代表する元素が選択される。一例として、活物質の代表元素としてNi、フッ化物SEの代表元素としてFが選択され得る。
【0040】
「被覆率」は、次の手順で測定される。被覆の厚さの測定用試料と同様に、複合粒子の断面試料が準備される。断面SEM画像において、活物質の輪郭線の長さ(L0)が測定される。活物質(コア粒子)の輪郭線のうち、フッ化物SEによって、被覆されている部分の長さ(L1)が測定される。L1がL0で除された値の百分率が被覆率である。20個の複合粒子について、それぞれ、被覆率が測定される。20個の被覆率の算術平均が「被覆率」とみなされる。
【0041】
例えば、SEM-EDXによる元素マッピング画像に画像処理が施されることにより、L0およびL1が算出されてもよい。
【0042】
「中空粒子」は、粒子の断面画像(例えば断面SEM画像等)において、中心部の空洞の面積が、粒子全体の断面積の30%以上である粒子を示す。「中実粒子」は、粒子の断面画像において、中心部の空洞の面積が、粒子全体の断面積の30%未満である粒子を示す。
【0043】
「D50」は、体積基準の粒度分布において、粒子径が小さい方からの頻度の累積が50%に達する粒子径を示す。D50は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定され得る。
【0044】
「平均フェレ径」は、粒子の二次元画像において測定される。20個以上の粒子における最大フェレ径の算術平均が「平均フェレ径」である。
【0045】
「固形分濃度」は、混合物全体の質量に対する、溶剤以外の成分の合計質量の割合を示す。固形分濃度は、百分率で表示される。
【0046】
「溶剤」は、何らかの溶質に対して溶解力を有する、液体材料を示す。溶質の種類は任意である。溶剤に、実際に溶質が溶解している必要はない。溶解力を有する液体材料が、溶質を溶解する用途以外に使用される場合も「溶剤」と称される。
【0047】
<電極材料>
電極材料は、湿潤状態である。電極材料は、例えば、顆粒状、粉体状、粘土状等であってもよい。電極材料は、電極の原料である。例えば、電極材料を含むスラリーが形成されてもよい。スラリーが、基材の表面に塗工されることにより、電極が製造され得る。電極材料は、複合粒子と硫化物SEと溶剤とを含む。
【0048】
《複合粒子》
複合粒子は、活物質とフッ化物SEとを含む。複合粒子のD50は、例えば、1~30μm、3~20μm、または5~15μmであってもよい。複合粒子は、任意の形状を有し得る。複合粒子は、例えば、球状、楕円体状、フレーク状、または繊維状等であってもよい。
【0049】
(フッ化物固体電解質)
フッ化物SEは、複合粒子のシェルである。フッ化物SEは、活物質と硫化物SEとの間に介在する。活物質と硫化物SEとの間に挿入されるSEは、「バッファ層」とも称されている。フッ化物SEは、溶剤の共存下においても、硫化物SEとの界面形成を促進し得る。フッ化物SEは、活物質の表面の少なくとも一部を被覆している。被覆の厚さは、例えば、1~100nmまたは1~50nmであってもよい。フッ化物SEの配合量は、100質量部の活物質に対して、例えば、1~10質量部または2~3質量部であってもよい。
【0050】
フッ化物SEは、活物質の表面の全部を被覆していてもよいし、表面の一部を被覆していてもよい。フッ化物SEは、活物質の表面に島状に分布していてもよい。被覆率は、例えば、50~100%、60~100%、70~100%、80~100%、または90~100%であってもよい。被覆率が高い程、例えば、初期抵抗の低減が期待される。
【0051】
フッ化物SEは、Fを含む限り、任意の組成を有し得る。フッ化物SEは、例えば、LiとFとを含んでいてもよい。
【0052】
フッ化物SEは、例えば、下記式(1)により表されてもよい。
Li6-nxx6 …(1)
上記式(1)中、xは、0<x<2を満たす。Mは、半金属原子と、Liを除く金属原子とからなる群より選択される少なくとも1種である。nは、Mの酸化数を示す。
【0053】
上記式(1)中、Mは、単一の原子からなっていてもよいし、複数種の原子からなっていてもよい。Mが複数種の原子からなる場合、nは、各原子の酸化数の加重平均を示す。例えば、Mが、Ti(酸化数=+4)およびAl(酸化数=+3)を含み、TiとAlとのモル比が「Ti/Al=3/7」であり、かつx=1である時、算式「n=0.3×4+0.7×3」により、nは3.3となる。
【0054】
上記式(1)中、xは、例えば、0.1≦x≦1.9、0.2≦x≦1.8、0.3≦x≦1.7、0.4≦x≦1.6、0.5≦x≦1.5、0.6≦x≦1.4、0.7≦x≦1.3、0.8≦x≦1.2、または0.9≦x≦1.1を満たしていてもよい。
【0055】
Mは、例えば、+4の酸化数を有する原子を含んでいてもよい。Mは、例えば、+3の酸化数を有する原子を含んでいてもよい。Mは、例えば、+4の酸化数を有する原子と、+3の酸化数を有する原子とを含んでいてもよい。
【0056】
上記式(1)中、Mは、例えば、Ca、Mg、Al、Y、Ti、およびZrからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。Mは、例えば、Al、Y、およびTiからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。Mは、例えば、AlおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0057】
フッ化物SEは、例えば、下記式(2)により表されてもよい。
Li3-xTixAl1-x6 …(2)
上記式(2)中、xは、例えば、0≦x≦1、0.1≦x≦0.9、0.2≦x≦0.8、0.3≦x≦0.7、または0.4≦x≦0.6を満たしていてもよい。
【0058】
(活物質)
活物質は、複合粒子のコアである。活物質は、粒子状である。活物質は、例えば、二次粒子であってもよい。二次粒子は、一次粒子の集合体である。二次粒子のD50は、例えば1~30μm、3~20μm、または5~15μmであってもよい。一次粒子の平均フェレ径は、例えば、0.01~3μmであってもよい。
【0059】
活物質は、任意の形状を有し得る。活物質は、例えば、球状、楕円体状、フレーク状、または繊維状等であってもよい。活物質は、中実粒子であってもよいし、中空粒子であってもよい。
【0060】
活物質は、例えば正極活物質であってもよい。正極活物質は、正極反応を生起し得る。正極活物質は、任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、Li(NiCoMnAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。Li(NiCoMn)O2は、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiNi0.4Co0.3Mn0.32、LiNi0.5Co0.2Mn0.32、LiNi0.5Co0.3Mn0.22、LiNi0.5Co0.4Mn0.12、LiNi0.5Co0.1Mn0.42、LiNi0.6Co0.2Mn0.22、LiNi0.6Co0.3Mn0.12、LiNi0.6Co0.1Mn0.32、LiNi0.7Co0.1Mn0.22、LiNi0.7Co0.2Mn0.12、LiNi0.8Co0.1Mn0.12、およびLiNi0.9Co0.05Mn0.052からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。Li(NiCoAl)O2は、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.052等を含んでいてもよい。
【0061】
正極活物質は、例えば下記式(3)により表されてもよい。
Li1-yNix1-x2 …(3)
0.5≦x≦1
-0.5≦y≦0.5
上記式(3)中、Mは、例えば、Co、MnおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。xは、例えば、0.6以上であってもよいし、0.7以上であってもよいし、0.8以上であってもよいし、0.9以上であってもよい。
【0062】
正極活物質は、例えば添加物を含んでいてもよい。添加物は、例えば、置換型固溶原子、または侵入型固溶原子等であってもよい。添加物は、正極活物質(一次粒子)の表面に付着する付着物であってもよい。付着物は、例えば、単体、酸化物、炭化物、窒化物、ハロゲン化物等であってもよい。添加量は、例えば、0.01~0.1、0.02~0.08、または0.04~0.06であってもよい。添加量は、正極活物質の物質量に対する、添加物の物質量の比を示す。添加物は、例えば、B、C、N、ハロゲン、Sc、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Se、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、W、およびランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0063】
活物質は、例えば負極活物質であってもよい。負極活物質は、負極反応を生起し得る。負極活物質は、任意の成分を含み得る。負極活物質は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、Si、SiOx(0<x<2)、Si基合金、Sn、SnOx(0<x<2)、Li、Li基合金、およびLi4Ti512からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。SiOx(0<x<2)は、例えばMg等がドープされていてもよい。合金系活物質(例えばSi等)が、炭素系活物質(例えば黒鉛等)に担持されることにより、複合材料が形成されてもよい。
【0064】
《硫化物固体電解質》
硫化物SEは、溶剤と共に、複合粒子の表面に付着している。硫化物SEは、複合粒子の表面を被覆していてもよい。硫化物SEは、粒子状である。硫化物SEのD50は、例えば、0.01~1μm、または0.1~0.9μmであってもよい。硫化物SEの配合量は、100質量部の活物質に対して、例えば、0.1~20質量部または0.5~15質量部であってもよい。
【0065】
硫化物SEは、高いイオン伝導性を示し得る。硫化物SEは、S(硫黄)を含む限り、任意の組成を有し得る。硫化物SEは、例えば、Li、P、およびSを含んでいてもよい。硫化物SEは、例えば、O、Ge、Si等をさらに含んでいてもよい。硫化物SEは、例えばハロゲン等をさらに含んでいてもよい。硫化物SEは、例えばI、Br等をさらに含んでいてもよい。硫化物SEは、例えばガラスセラミックス型であってもよいし、アルジロダイト型であってもよい。硫化物SEは、例えば、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P25、LiI-Li2O-Li2S-P25、LiI-Li2S-P25、LiI-Li3PO4-P25、Li2S-GeS2-P25、Li2S-P25、Li426、Li7311、およびLi3PS4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0066】
例えば、「LiI-LiBr-Li3PS4」は、LiIとLiBrとLi3PS4とが任意のモル比で混合されることにより生成された硫化物SEを示す。例えば、メカノケミカル法により硫化物SEが生成されてもよい。「Li2S-P25」はLi3PS4を含む。Li3PS4は、例えばLi2SとP25とが「Li2S/P25=75/25(モル比)」で混合されることにより生成され得る。
【0067】
《溶剤》
溶剤は、液体である。溶剤は、固練り時、複合粒子と硫化物SEとの付着を促進し得る。溶剤は、スラリーにおいて、分散媒として機能し得る。溶剤は、任意の成分を含み得る。溶剤は、例えば、芳香族炭化水素、エステル、アルコール、ケトン、およびラクタムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。溶剤は、例えば、テトラリン(1,2,3,4-tetrahydronaphthalene,THN)、酪酸ブチル、ヘプタンおよびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0068】
酪酸ブチルは、例えば、NMP等に比して、硫化物SEを劣化させ難いことが期待される。THNは、例えば、酪酸ブチルおよびNMP等に比して、硫化物SEを劣化させ難いことが期待される。溶剤がTHNを含むことにより、例えば、初期抵抗の低減が期待される。
【0069】
電極材料の固形分濃度は、72%以上である。固形分濃度が72%以上であることにより、粉体の内部に溶剤が保持されやすく、固練りが実施しやすい傾向がある。固形分濃度は、例えば、74%以上、75.5%以上、76%以上、または78%以上であってもよい。固形分濃度が76%以上であることにより、混合中に固体と液体とが分離し難く、固練りが安定しやすい傾向がある。固練りにおける固形分濃度は、例えば、90%以下であってもよい。固形分濃度が90%以下であることにより、混合物が均一に湿潤しやすく、固練りが安定しやすい傾向がある。固形分濃度は、例えば、88%以下、85%以下、83%以下、または82%以下であってもよい。固形分濃度は、例えば、75.5~82%であってもよい。該範囲においては、分散が促進されやすい傾向がある。分散の促進により、例えば、抵抗増加率の低減が期待される。
【0070】
<電極材料の製造方法>
図1は、本実施形態における製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態における製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。本製造方法は、「電極材料の製造方法」を含む。電極材料の製造方法は、「(a)複合粒子の準備」および「(b)電極材料の製造」を含む。
【0071】
《(a)複合粒子の準備》
本製造方法は、複合粒子を準備することを含む。複合粒子は、任意の方法により準備され得る。例えば、乾式のメカノケミカル法により、複合粒子が形成されてもよい。例えば、粒子複合化装置において、活物質とフッ化物SEとが混合されることにより、複合粒子が形成され得る。粒子複合化装置の一例として、例えば、ホソカワミクロン社製の「ノビルタNOB-MINI」等が挙げられる。ただし粒子の複合化が可能である限り、任意の混合装置、造粒装置等が使用され得る。
【0072】
《(b)電極材料の製造》
本製造方法は、複合粒子と硫化物SEと溶剤とを含む電極材料を製造することを含む。電極材料は、固練りにより製造され得る。本製造方法においては、固練りが可能である限り、任意の混練装置が使用され得る。例えば、自転公転式ミキサ等が使用されてもよい。
【0073】
例えば、まず、硫化物SE(粉体)が溶剤(液体)に分散されることにより、分散液が準備されてもよい。本製造方法においては、任意の分散装置が使用され得る。例えば、超音波ホモジナイザ等が使用されてもよい。
【0074】
次いで、複合粒子(粉体)と、分散液とが混練装置に供給される。混合物が攪拌されることにより、混合物に粘りが生じ始める。例えば、50~100rpmの回転数で、1分間~1時間、混合物が攪拌されてもよい。なお、混合条件(回転数、混合時間等)は、例えば、粉体物性、装置の仕様等により異なる場合がある。
【0075】
本製造方法においては、「(b1)固練り」および「(b2)溶剤の追加」が交互にそれぞれ2回以上実施される。(b1)においては、混合物が固練りされる。(b2)においては、混合物に溶剤が追加される。(b1)および(b2)が交互に実施されることにより、複合粒子が硫化物SEによって緻密に被覆され得る。(b1)および(b2)は、交互にそれぞれ、例えば3回以上実施されてもよいし、4回以上実施されてもよい。(b1)および(b2)は、交互にそれぞれ、例えば5回以下実施されてもよいし、4回以下実施されてもよいし、3回以下実施されてもよい。
【0076】
図2は、固練りの進行過程を示す概念図である。
第1状態301は、固練り前の状態である。複合粒子10において、フッ化物SE(フッ化物固体電解質12)が、活物質11を被覆している。第1状態301において、複合粒子10の周囲は、溶剤30で満たされている。溶剤30中に、硫化物SE(硫化物固体電解質20)が分散している。複合粒子10の表面がフッ化物SEで被覆されている時、複合粒子10の表面への溶剤30の吸収が進行し難い傾向がある。
【0077】
「(b1)固練り」の実施により、第1状態301は第2状態302に移行する。第2状態302においては、複合粒子10の表面性状が変化することにより、溶剤30の吸収が進行する。さらに、溶剤30の一部が蒸発し得る。溶剤30が減少することにより、固体中に、溶剤30(液体)が分散した状態となる。第2状態302では、固練りに必要な溶剤30が不足する。
【0078】
「(b2)溶剤の追加」により、第2状態302は第3状態303に移行する。第3状態303では、固練りに必要な溶剤30が補充されている。溶剤30の補充後、再度「(b1)固練り」の実施により、第3状態303は、第2状態302に戻される。「(b1)固練り」と「(b2)溶剤の追加」とが交互に繰り返されることにより、徐々に緻密な被覆層(硫化物SE)が形成されていく。
【0079】
被覆層の緻密化により、第2状態302および第3状態303は、第4状態304に移行する。すなわち被覆処理が完了し、電極材料が完成し得る。
【0080】
なお、系内の硫化物SEの全部が、被覆層を形成しなくてもよい。硫化物SEの一部は、被覆層の形成に寄与せず、複合粒子10から遊離していてもよい。被覆層(硫化物SE)は、固練りの進行とともに、徐々に膜状に変化し得る。最終的な被覆層は、平滑であってもよい。最終的な被覆層は、表面に凹凸を有していてもよい。
【0081】
<全固体電池の製造方法>
本製造方法は、「全固体電池の製造方法」を含んでいてもよい。全固体電池の製造方法は、「(a)複合粒子の準備」および「(b)電極材料の製造」に加えて、「(c)電極の製造」および「(d)全固体電池の製造」を含む。
【0082】
《(c)電極の製造》
本製造方法は、電極材料を含む電極を製造することを含んでいてもよい。例えば、電極材料を含むスラリーが形成されてもよい。スラリーが基材の表面に塗工され、乾燥されることにより電極が製造されてもよい。
【0083】
(スラリー)
例えば、電極材料と電子伝導材とイオン伝導材とバインダと溶剤とが混合されることにより、スラリーが形成されてもよい。例えば、超音波ホモジナイザ等により、混合物に分散処理が施されてもよい。スラリーの固形分濃度は、例えば、50~70%であってもよい。
【0084】
電子伝導材は、電極内に電子伝導パスを形成し得る。電子伝導材の配合量は任意である。電子伝導材の配合量は、100質量部の活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。電子伝導材は、任意の成分を含み得る。電子伝導材は、例えば、カーボンブラック(CB)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレーク(GF)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。CBは、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)、およびファーネスブラックからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0085】
イオン伝導材は、電極内にイオン伝導パスを形成し得る。イオン伝導材は、粒子状であってもよい。イオン伝導材は、例えば、0.01~1μm、0.01~0.95μm、または0.1~0.9μmのD50を有していてもよい。イオン伝導材の配合量は任意である。イオン伝導材の配合量は、100体積部の活物質に対して、例えば、1~200体積部であってもよいし、50~150体積部であってもよいし、50~100体積部であってもよい。イオン伝導材は、例えば、硫化物SE、フッ化物SE等を含んでいてもよい。イオン伝導材に含まれる硫化物SEおよびフッ化物SEは、電極材料に含まれる硫化物SEおよびフッ化物SEと同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0086】
バインダは、固体材料同士を結合し得る。バインダの配合量は、100質量部の活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0087】
(塗工)
本製造方法においては、任意の塗工装置が使用され得る。例えば、ダイコータ、ロールコータ等が使用されてもよい。スラリーは、基材の表面に塗工され得る。基材は、導電性を有していてもよい。基材は、集電体として機能してもよい。基材は、例えば、シート状であってもよいし、網状であってもよい。基材は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。基材は、例えば、金属箔、金属メッシュ、多孔質金属体等を含んでいてもよい。基材は、例えば、Al、Cu、Ni、Cr、Ti、およびFeからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。基材は、例えば、Al箔、Al合金箔、Ni箔、Cu箔、Cu合金箔、Ti箔、ステンレス鋼箔等を含んでいてもよい。金属箔の表面を炭素層が被覆していてもよい。炭素層は、例えば、導電性炭素材料(例えばAB等)を含んでいてもよい。
【0088】
基材の表面において、スラリーが乾燥することにより、活物質層が形成される。本製造方法においては、任意の乾燥装置が使用され得る。例えば、ホットプレート、熱風乾燥機、赤外線乾燥機等が使用されてもよい。
【0089】
スラリーの乾燥後、電極にプレス加工が施されてもよい。例えば、冷間プレス加工が実施されてもよいし、熱間プレス加工が実施されてもよい。本製造方法においては、任意のプレス装置が使用され得る。例えば、ロールプレス装置等が使用されてもよい。熱間プレス加工が実施される場合、例えば、バインダの種類等に応じて、プレス温度が調整され得る。プレス温度は、例えば、80~180℃であってもよい。プレス加工後、活物質層の厚さは、例えば、10~200μmであってもよい。プレス加工後、活物質層の密度は、例えば、2~4g/cm3であってもよい。
【0090】
《(d)全固体電池の製造》
本製造方法は、電極を含む全固体電池を製造することを含んでいてもよい。
【0091】
図3は、本実施形態における全固体電池の概念図である。
例えば、発電要素150が形成されてもよい。発電要素150は、正極110とセパレータ層130と負極120とが積層されることにより形成され得る。正極110および負極120の少なくとも一方は、上記で得られた電極である。セパレータ層130は、正極110と負極120との間に配置される。セパレータ層130は、例えば、イオン伝導材とバインダとを含んでいてもよい。セパレータ層130は、例えば、正極110および負極120の少なくとも一方の表面に、スラリーが塗工されることにより形成され得る。
【0092】
発電要素150の形成後、発電要素150に熱間プレス加工が施されてもよい。熱間プレス加工により、発電要素150が緻密になることが期待される。
【0093】
発電要素150に、例えばリードタブ、外部端子等が接続されてもよい。発電要素150が外装体(不図示)に収納される。外装体は密封されてもよい。発電要素150が外装体に収納されることにより、全固体電池200が完成し得る。
【0094】
外装体は、任意の形態を有し得る。外装体は、例えば、金属箔ラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。外装体は、例えば、金属製のケース等であってもよい。外装体は、例えば、Al等を含んでいてもよい。外装体は、1個の発電要素150を単独で収納していてもよいし、複数個の発電要素150を収納していてもよい。複数個の発電要素150は、直列回路を形成していてもよいし、並列回路を形成していてもよい。
【実施例0095】
<実験1>
実験1においては、複合粒子が検討された。下記No.1-1~1-4に係る電極材料および全固体電池が製造された。以下、例えば「No.1-1に係る電極材料」等が「No.1-1」と略記され得る。
【0096】
《No.1-1》
活物質として、Li(NiCoAl)O2が準備された。以下「Li(NiCoAl)O2」が「NCA」と略記され得る。
【0097】
遊星型ボールミルによって、LiFと、TiF4と、AlF3とが混合されることにより、フッ化物SEが合成された。フッ化物SEは、Li2.7Ti0.3Al0.76の組成を有していた。以下「Li2.7Ti0.3Al0.76」が「LTAF」と略記され得る。
【0098】
粒子複合化装置として、「ノビルタNOB-MINI(ホソカワミクロン社製)」が準備された。粒子複合化装置において、48.7質量部のNCAと、1.3質量部のLTAFとに対して、複合化処理が施されることにより、複合粒子が形成された。装置の運転条件は、下記のとおりである。
【0099】
電力:材料1gあたり12W
回転数:6000rpm
処理時間:30分
【0100】
下記材料が準備された。
硫化物SE:Li2S-P25(ガラスセラミックス)
溶剤:THN
以下「Li2S-P25」が「LPS」と略記され得る。
【0101】
以降の操作は、露点温度が-70℃以下に制御された環境下で実施された。分散装置として、超音波ホモジナイザが準備された。超音波ホモジナイザにより、98.4質量部の硫化物SEが229.6質量部の溶剤に分散されることにより、分散液が準備された。
【0102】
混練装置として、プラネタリミキサが準備された。1000質量部の複合粒子が混練装置に供給された。さらに上記で得られた分散液が混練装置に供給された。
【0103】
下記順序で「固練り」と「溶剤の追加」とが交互に繰り返されることにより、電極材料が製造された。電極材料においては、複合粒子が硫化物SEで被覆されていた。
【0104】
(1)固練り:回転数=70rpm、時間=10分間
(2)溶剤の追加:THN(34質量部)
(3)固練り:回転数=100rpm、時間=10分間
(4)溶剤の追加:THN(37質量部)
(5)固練り:回転数=100rpm、時間=10分間
(6)溶剤の追加:THN(23質量部)
(7)固練り:回転数=100rpm、時間=4時間
【0105】
超音波ホモジナイザにより、電極材料と、イオン伝導材(LPS)と、電子伝導材(AB+VGCF)とが、溶剤(THN)に分散されることにより、スラリーが準備された。スラリーが基材の表面に塗工され、乾燥されることにより、正極が製造された。さらに正極を含む全固体電池が製造された。全固体電池の構成は下記のとおりである。
【0106】
外装体:Alラミネートフィルム
負極活物質:Li4Ti512
【0107】
《No.1-2》
超音波ホモジナイザにより、No.1-1の複合粒子と、イオン伝導材と、電子伝導材とが、溶剤に分散されることにより、スラリーが準備された。これを除いては、No.1-1と同様に正極および全固体電池が製造された。No.1-2においては、複合粒子に対して、固練り(硫化物SEによる被覆処理)が実施されていない。
【0108】
《No.1-3》
エトキシリチウムと、ペンタエトキシニオブと、超脱水エタノールとが混合されることにより、前駆体溶液が準備された。NCAの表面が前駆体溶液でコーティングされることにより、複合粒子が形成された。複合粒子が熱処理されることにより、酸化物SEが生成された。酸化物SEは、LiNbO3の組成を有していた。
【0109】
超音波ホモジナイザにより、98.4質量部の硫化物SEが229.6質量部の溶剤に分散されることにより、分散液が準備された。1000質量部の複合粒子が混練装置に供給された。さらに上記で得られた分散液が混練装置に供給された。
【0110】
69質量の溶剤が混練装置に供給された。100rpmの回転数で、4時間固練りが実施された。これらを除いては、No.1-1と同様に正極および全固体電池が製造された。
【0111】
《No.1-4》
複合粒子に対して、固練り(硫化物SEによる被覆処理)が実施されないことを除いては、No.1-3と同様に正極および全固体電池が製造された。
【0112】
《No.1-5》
1000質量部の複合粒子と、分散液とが混練装置に供給されるまで、No.1-1と同様の操作が実施された。
【0113】
94質量部の溶剤が混合物に追加された。94質量部は、No.1-1における溶剤の最終的な量(合計量)に相当する。溶剤の追加後、1回目の固練り(回転数=70rpm、時間=10分間)が実施された。次いで、2回目の固練り(回転数=100rpm、時間=10分間)が実施された。2回目の固練り中、混合物が液状化した。そのため、硫化物SEによる被覆処理が完遂されなかった。No.1-5においては、溶剤が分割して投入されず、一度に全量投入されている。
【0114】
《評価》
全固体電池のSOC(State Of Charge)が50%に調整された。60.2Cの時間率で全固体電池が10秒間放電された。放電中の電圧降下量と、電流とから、初期の放電抵抗(直流抵抗)が求められた。放電抵抗は、放電開始後0.1秒経過時、2秒経過時、10秒経過時の各時点で求められた。
【0115】
さらに、60.2Cの時間率で全固体電池が5秒間充電された。充電中の電圧上昇量と、電流とから、初期の充電抵抗(直流抵抗)が求められた。充電抵抗は、充電開始後0.1秒経過時、1秒経過時、5秒経過時の各時点で求められた。
【0116】
初期の放電抵抗、および初期の充電抵抗の測定後、耐久試験が実施された。すなわち、下記条件でパルス充放電サイクルが実施された。
【0117】
試験温度:80℃
SOC範囲:50~60%
充放電サイクル回数:800
【0118】
耐久試験後、耐久前(初期)と同様に、耐久後の放電抵抗および充電抵抗が測定された。耐久後の抵抗が、耐久前の抵抗で除されることにより、抵抗増加率が求められた。
【0119】
【表1】
【0120】
上記表1中、複合粒子が硫化物SEで被覆されることにより、抵抗増加率が低減する傾向がみられる(No.1-1と1-2との比較、No.1-3と1-4との比較)。
【0121】
上記表1中、フッ化物SEは、酸化物SEに比して、抵抗増加率が低減する傾向がみられる(No.1-1と1-3との比較)。フッ化物SEと硫化物SEとの界面形成が比較的容易であるためと考えられる。
【0122】
<実験2>
実験2においては、電極材料の固形分濃度が検討された。下記表2のNo.2-1~2-7に係る電極材料および全固体電池が製造された。各電極材料は、互いに異なる固形分濃度を有する。No.2-1は、実験1のNo.1-2と同一仕様である。No.2-2~2-7は、固形分濃度を除いては、実験1のNo.1-1と同一仕様である。
【0123】
《評価》
実験1と同様に抵抗増加率が測定された。下記表1には、放電開始後2秒経過時の放電抵抗の増加率と、充電開始後5秒経過時の充電抵抗の増加率とが示される。
【0124】
【表2】
【0125】
固形分濃度が74%である時、固練り開始後1時間で、固体と液体とが分離し始めた(No.2-2)。そのため、1時間以上の固練りが困難であった。
【0126】
固形分濃度が75.5%である時、固練り開始後3時間で、固体と液体とが分離し始めた(No.2-3)。そのため、3時間以上の固練りが困難であった。
【0127】
固形分濃度が78~85%である範囲においては、4時間以上、安定して固練りが可能であった(No.2-4~2-7)。
【0128】
固形分濃度が75.5~82%である範囲においては、抵抗増加率が低い傾向が見られる。固練り時に分散が促進され得るためと考えられる(No.2-3~2-6)。
【符号の説明】
【0129】
10 複合粒子、11 活物質、12 フッ化物固体電解質、20 硫化物固体電解質、30 溶剤、110 正極、120 負極、130 セパレータ層、150 発電要素、200 全固体電池、301 第1状態、302 第2状態、303 第3状態、304 第4状態。
図1
図2
図3