(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008477
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】鋼材の溶断装置および鋼材の溶断方法
(51)【国際特許分類】
B23K 7/10 20060101AFI20240112BHJP
F23K 5/00 20060101ALI20240112BHJP
F23D 14/42 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B23K7/10 U
F23K5/00 301Z
F23D14/42
B23K7/10 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110388
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000105394
【氏名又は名称】コータキ精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】菅野 勝広
(72)【発明者】
【氏名】吉田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】山手 浩司
(72)【発明者】
【氏名】本山 知義
(72)【発明者】
【氏名】藤森 翔平
【テーマコード(参考)】
3K068
【Fターム(参考)】
3K068AA05
3K068BA03
3K068BB05
3K068CA04
3K068CA24
3K068CB01
(57)【要約】
【課題】水素ガス100%でガス溶断を行うことが可能で、かつ、火口高さを容易に適切な位置に調整可能である鋼材の溶断装置、および、鋼材の溶断方法を提供すること。
【解決手段】酸素ガス供給源が接続された酸素ガス供給管と、可燃性混合ガス供給源が接続された第1の管と、水素ガス供給源が接続された第2の管と、前記第1の管および前記第2の管が切換機構を介して接続された燃焼ガス供給管と、前記酸素ガス供給管と前記燃焼ガス供給管とがそれぞれ接続された火口と、を備える溶断装置である。前記切換機構は、前記第1の管と前記燃焼ガス供給管とが連通する第1の状態と、前記第2の管と前記燃焼ガス供給管とが連通する第2の状態とを、択一的に切換可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ガス供給源が接続された酸素ガス供給管と、
可燃性混合ガス供給源が接続された第1の管と、
水素ガス供給源が接続された第2の管と、
前記第1の管および前記第2の管が切換機構を介して接続された燃焼ガス供給管と、
前記酸素ガス供給管と前記燃焼ガス供給管とがそれぞれ接続された火口と、
を備え、
前記切換機構は、前記第1の管と前記燃焼ガス供給管とが連通する第1の状態と、前記第2の管と前記燃焼ガス供給管とが連通する第2の状態とを、択一的に切換可能である、
鋼材の溶断装置。
【請求項2】
前記可燃性混合ガスが、4.5体積%以上12体積%以下のエチレンを含有し、残部が水素ガスおよび不可避的不純物からなる可燃性混合ガスである、
請求項1に記載の溶断装置。
【請求項3】
前記可燃性混合ガス供給源は、前記可燃性混合ガスが収容された収容容器であり、
前記水素ガス供給源は、前記水素ガスが収容された収容容器である、
請求項1または請求項2に記載の溶断装置。
【請求項4】
鋼材を準備する準備工程と、
溶断装置の火口先端に火炎を形成し、火炎の白心を基準として、前記鋼材に対する前記火口の位置を調整する調整工程と、
前記調整工程において調整された前記火口の高さを維持した状態で、前記鋼材を予熱する予熱工程と、
前記鋼材の溶断すべき部分に沿って前記火口を移動させることにより、前記鋼材を溶断する溶断工程と、
を含み、
前記調整工程では、第1の燃焼ガスとして水素ガスと炭化水素ガスの混合ガスである可燃性混合ガスが前記火口に供給され、
前記予熱工程および前記溶断工程では、第2の燃焼ガスとして水素ガスが前記火口に供給される、
鋼材の溶断方法。
【請求項5】
さらに、前記調整工程と前記予熱工程との間に、
前記第1の燃焼ガスおよび前記第2の燃焼ガスの一方を前記火口に接続された燃焼ガス供給管に供給する切換機構を動作させて、前記燃焼ガス供給管に供給されるガスを、前記第1の燃焼ガスから前記第2の燃焼ガスに切り換える切換工程を含む、
請求項4に記載の溶断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼材の溶断装置および鋼材の溶断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材のガス溶断において、水素ガスを使用することが知られている。この種の技術が、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1には、水素ガスと炭化水素系ガスとの混合ガスであって、炭化水素系ガスの含有量が0体積%超4体積%以下となる燃焼ガスを用いる、ワーク(鋼材)の切断方法が開示されている。従来、水素100%のガスを燃焼ガスとして用いようとすると、火口の先端に形成される白心が視認できないことから、予熱炎の調整に課題があった。これに対して特許文献1は、前記の組成の燃焼ガスを用いること、特定の形状の火口を使用すること、当該火口によって特定される特定の地点とワーク表面とを合わせるように調整すること、を含む切断方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるガス切断方法では、白心を視認できるようにするために、燃焼ガスとして炭化水素系ガスを含む水素ガスを用いる。しかしながら、CO2排出量のさらなる削減への要請などから、水素ガス100%でガス溶断を行うことへのニーズがある。
【0006】
本開示の目的は、水素ガス100%でガス溶断を行うことが可能で、かつ、火口の高さを容易に適切な位置に調整可能である鋼材の溶断装置、および、鋼材の溶断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従った鋼材の溶断装置は、酸素ガス供給源が接続された酸素ガス供給管と、可燃性混合ガス供給源が接続された第1の管と、水素ガス供給源が接続された第2の管と、前記第1の管および前記第2の管が切換機構を介して接続された燃焼ガス供給管と、前記酸素ガス供給管と前記燃焼ガス供給管とがそれぞれ接続された火口と、を備える。前記切換機構は、前記第1の管と前記燃焼ガス供給管とが連通する第1の状態と、前記第2の管と前記燃焼ガス供給管とが連通する第2の状態とを、択一的に切換可能である。
【0008】
本開示に従った鋼材の溶断方法は、鋼材を準備する準備工程と、溶断装置の火口先端に火炎を形成し、火炎の白心を基準として、前記鋼材に対する前記火口の位置を調整する調整工程と、前記調整工程において調整された前記火口の高さを維持した状態で、前記鋼材を予熱する予熱工程と、前記鋼材の溶断すべき部分に沿って前記火口を移動させることにより、前記鋼材を溶断する溶断工程と、を含む。前記調整工程では、第1の燃焼ガスとして水素ガスと炭化水素ガスの混合ガスである可燃性混合ガスが前記火口に供給される。前記予熱工程および前記溶断工程では、第2の燃焼ガスとして水素ガスが前記火口に供給される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、水素100%ガスでガス溶断を行うことが可能で、かつ、火口高さを容易に適切な位置に調整可能である鋼材の溶断装置、および、鋼材の溶断方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、火口の先端に形成される火炎を示す模式図である。
【
図2】
図2は、ガス溶断される鋼材を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施の形態にかかる溶断装置を示す系統図である。
【
図4】
図4は、実施の形態にかかる溶断装置の作用を説明するタイムチャートである。
【
図5】
図5は、実施の形態にかかる溶断装置の火口を示す拡大図である。
【
図6】
図6は、溶断の手順の概略を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態の概要]
初めに、本開示にかかる溶断装置および溶断方法の概要を列挙して説明する。
本開示に従った鋼材の溶断装置は、酸素ガス供給源が接続された酸素ガス供給管と、可燃性混合ガス供給源が接続された第1の管と、水素ガス供給源が接続された第2の管と、前記第1の管および前記第2の管が切換機構を介して接続された燃焼ガス供給管と、前記酸素ガス供給管と前記燃焼ガス供給管とがそれぞれ接続された火口と、を備える。前記切換機構は、前記第1の管と前記燃焼ガス供給管とが連通する第1の状態と、前記第2の管と前記燃焼ガス供給管とが連通する第2の状態とを、択一的に切換可能である。
【0012】
本発明者らは、溶断時の燃焼ガスとして水素ガスのみを用いるとともに、溶断装置の火口を容易に適切な位置に調整するための方策について、鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、溶断時に用いる水素ガスとは別に、火口の位置を調整する際に視認可能な白心を形成できる可燃性混合ガスを用いることを着想した。そして、火口に通じる燃焼ガス供給管に対して、水素ガスを供給する管路と、可燃性混合ガスを供給する管路とを切換可能に接続する切換機構を備えた装置を構成することに想到した。
【0013】
上記の装置によれば、視認できる白心を基準として火口の位置を調整可能であることから、従来のガス溶断で用いられる方法を大きく変更することなく溶断を実施できる。上記の装置によれば、火口の高さを容易に適切な位置に調整可能である。また、上記の装置によれば、可燃性混合ガスと水素ガスとを、切換機構によって択一的に燃焼ガス供給管に供給できる。この構成によれば、従来使用されている火口を変更することなく、水素100%ガスを用いた溶断が実施できる。また、可燃性混合ガスと水素ガスとを同一の燃焼ガス供給管に供給する構成とすることで、火口調整工程における火炎の状態と、予熱工程および溶断工程における火炎の状態との間で変化が少なく、溶断を確実に実施できる。
【0014】
前記可燃性混合ガスは、4.5体積%以上12体積%以下のエチレンを含有し、残部が水素ガスおよび不可避的不純物からなる可燃性混合ガスであってよい。可燃性混合ガスとしてこの組成のガスを用いる場合、従来と同様の方法で火口高さを調整し、かつ、溶断工程においては水素100%ガスで溶断を実施できる。
【0015】
前記可燃性混合ガス供給源は、前記可燃性混合ガスが収容された収容容器であってよく、前記水素ガス供給源は、前記水素ガスが収容された収容容器であってよい。可燃性混合ガスとして、予め混合され、容器に収容されたガスを用いることによって、溶断装置をシンプルに構成できる。また、一定の組成の可燃性混合ガスを供給することが可能で、装置運転が容易かつ安定して溶断を実施できる。
【0016】
本開示に従った鋼材の溶断方法は、鋼材を準備する準備工程と、溶断装置の火口先端に火炎を形成し、火炎の白心を基準として、前記鋼材に対する前記火口の位置を調整する調整工程と、前記調整工程において調整された前記火口の高さを維持した状態で、前記鋼材を予熱する予熱工程と、前記鋼材の溶断すべき部分に沿って前記火口を移動させることにより、前記鋼材を溶断する溶断工程と、を含む。前記調整工程では、第1の燃焼ガスとして水素ガスと炭化水素ガスの混合ガスである可燃性混合ガスが前記火口に供給される。前記予熱工程および前記溶断工程では、第2の燃焼ガスとして水素ガスが前記火口に供給される。
【0017】
上記溶断方法によれば、予熱工程および溶断工程において、水素100%ガスを用いることができる。このため、CO2排出量を削減し、環境負荷の少ない方法で鋼材の溶断を実施できる。また、火口位置を調整する工程では視認可能な白心を含む火炎を形成し、従来のガス溶断で用いられる火口位置の調整方法を大きく変更する必要がない。
【0018】
上記溶断方法において、さらに、前記調整工程と前記予熱工程との間に、前記第1の燃焼ガスおよび前記第2の燃焼ガスの一方を前記火口に接続された燃焼ガス供給管に供給する切換機構を動作させて、前記燃焼ガス供給管に供給されるガスを、前記第1の燃焼ガスから前記第2の燃焼ガスに切り換える切換工程を含んでもよい。このような構成によれば、従来使用されている火口を変更することなく、水素100%ガスによるガス溶断が可能となる。また、切換機構を用いて第1の燃焼ガスと第2の燃焼ガスとを切り替えることによって、燃焼ガスの変更を迅速かつ確実に行うことが可能で、特別な調整方法や技能の習熟を要さず、汎用可能なガス溶断方法を実現できる。
【0019】
[実施の形態の具体例]
次に、本開示にかかる鋼材の溶断装置および鋼材の溶接方法の具体的な実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。なお、本明細書において、水素ガスとは水素および不可避不純物からなるガスを意味する。本明細書では、混合ガスと区別するために、混合ガスではない水素ガスを水素100%ガスと称することもあるが、数学的に厳密に100%水素からなることのみを指すのではなく、一般に水素ガスとして市販されるガスを包含する。
【0020】
図1は、鋼材のガス溶断に利用される火口と火口先端に形成される火炎を示す模式図である。
図1を参照して、火口51の先端に、火炎100が形成される。火口51の直下(口元)には、白心101が現れる。白心101は、ホワイトコーンとも称され、ガス炎のうち火炎の根本部に形成される白く輝く部分である。白心101の周囲に予熱炎102が形成される。予熱炎102は、燃焼ガスと酸素ガスとが火口で混合して形成される混合ガスが燃焼してなる部分である。予熱炎102の中心には、溶断用酸素ガス気流103が形成される。溶断用酸素ガスが供給されていない状態では、白心101は円すい形の部分として現れる。燃焼ガスとして、水素ガスに炭化水素ガスを含有する燃焼ガスを用いた火炎では、白心を視認可能である。燃焼ガスとして水素のみを用いた火炎では、白心を視認できない。本開示にかかる溶断装置および溶断方法では、火口調整工程においては白心101が視認できる火炎を形成する。予熱工程および溶断工程では、白心101が視認できない火炎を形成する。
【0021】
図2は、ガス溶断される鋼材を示す模式図である。
図2を参照して、溶断対象である鋼材Mに、火炎が当接される。周知のとおり、予熱炎102によって鋼材Mの表面が加熱され、鋼の燃焼温度に達した部分mが生成する。そこに、溶断用酸素ガス気流103が吹き付けられることで、鋼は燃焼し、スラグとなって溶融するとともに溶断用酸素ガス気流103によって吹き飛ばされて溶断される。このとき、火口51と鋼材Mの間の距離、すなわち鋼材Mに対する火口51の高さは、白心101の長さを基準として設定される。本開示にかかる溶断装置および溶断方法では、視認できる白心101を用いて火口51の高さを設定し、その高さを維持することによって、予熱および溶断工程では白心101が視認できなくても確実に溶断を実施できることを見出した。
【0022】
図3は、実施の形態にかかる鋼材の溶断装置を示す系統図である。なお、
図3に示す系統図では、例えば安全装置等、本開示の特徴的な構成以外の構成は一部図示を省略している。
図3を参照して、溶断装置1は、可燃性混合ガス供給源としての可燃性混合ガスボンベ11、水素ガス供給源としての水素ガスボンベ12、酸素ガス供給源としての酸素ガスボンベ13を備える。溶断装置1において、可燃性混合ガス、水素ガスおよび酸素ガスの3種類のガスが必要に応じて切り換えられ、火口51に供給される。特に、可燃性混合ガスと水素ガスは択一的に切り換えられ、火口51に供給される。可燃性混合ガスボンベ11は、第1の管としての配管31に接続されている。水素ガスボンベ12は、第2の管としての配管32に接続されている。配管31および配管32は、切換機構としての三方弁21を介して、燃焼ガス供給管としての配管52に接続されている。配管31、配管32はそれぞれ、その途中に圧力計、電磁弁および安全装置が備えられている。また、配管31、32はそれぞれ、マスフローコントローラ41、42を備える。
【0023】
三方弁21は、配管31と配管52とが連通する状態と、配管32と配管52とが連通する状態とを択一的に切り換える。すなわち、三方弁21を切り換えることによって、可燃性混合ガスが火口51に供給される状態と、水素ガスが火口51に供給される状態とを択一的に切り換えできる。
【0024】
酸素ガスボンベ13は酸素ガス供給配管としての配管33に接続されている。配管33は、予熱用酸素ガスを供給する配管である配管53と、溶断用酸素ガスを供給する配管である配管54とに分岐する。配管53、配管54にはそれぞれ、圧力計、電磁弁および安全装置が備えらえれる。配管53は、マスフローコントローラ43が備えられている。配管53、54は一端が火口51に接続されている。
【0025】
可燃性混合ガスボンベ11には、可燃性混合ガスが収容される。可燃性混合ガスとして、燃焼時に視認できる白心を形成しうるガスを用いる。可燃性混合ガスは、典型的にはエチレンガス、プロピレンガス等の炭化水素ガスを含む水素ガスである。可燃性混合ガスは、4.5体積%以上12体積%以下のエチレンを含有し、残部が水素ガスおよび不可避的不純物からなることが好ましい。可燃性混合ガスにおけるエチレンの含有割合は、4.5体積%以上10体積%以下であることがより好ましく、4.5体積%以上5.5体積%以下であることがさらに好ましい。可燃性混合ガスとして、この構成の可燃性混合ガスを用いる場合、可燃性混合ガスと酸素ガスとを混合して燃焼させることで視認容易な白心を形成できる。また、水素100%ガスの予熱炎を形成する場合と同等の酸素流量で、適切な大きさの白心を形成することができる。このため、白心を形成して火口の高さを調整し、次いで、三方弁を切り換えて水素100%ガスにより予熱炎を形成し、溶断を行う一連の工程を容易にできる。
【0026】
水素ガスボンベ12には、水素ガスが収容される。水素ガスボンベとしては、汎用される水素ガスが充填されたボンベを用いてもよく、その他の水素ガス収容容器であってもよい。酸素ガスボンベ13には、酸素ガスが収容される。酸素ガスボンベとしては、汎用される酸素ガスが充填されたボンベを用いてもよく、その他の酸素ガス収容容器であってもよい。ガスボンベ以外のガス収容容器としては、例えばLGC(Liquid Gas Container)、CE(Cold Evaporator)等の液化ガス容器であってもよく、設備の規模やガス使用量に応じて選択されうる。
【0027】
本開示にかかる溶断装置は、既存のガス溶断機の一部として、あるいは既存のガス溶断機と組み合わせて実施できる。ガス溶断機としては、特に制限されないが、例えば門型のCNC切断機、フレームプレーナー、型紙倣い溶断機等であってよい。
【0028】
図4は、実施の形態にかかる溶断装置の作用を説明するタイムチャートである。
図3および
図4を参照して、溶断装置1について説明する。
【0029】
[火口の調整]
鋼材の溶断において、予熱および溶断を開始する前に、溶断対象の鋼材に対する火口の位置を調整する。火口の位置は、鋼材の上面や溶断形状に合わせた水平方向位置(X-Y方向位置ともいう)と、鋼材の上面に対する火口の高さ(Z方向位置ともいう)とで定められる。X-Y方向位置は、常法に従って設定されうる。
【0030】
火口の位置の調整は、タイムチャートを参照すると、時刻t1からt2を含む。Z方向位置の調整を行う際、三方弁21が操作され、配管31と配管52とが連通する状態とされる。三方弁21の操作は、制御プログラムによる自動切換えであってもよいし、作業者が手作業で行ってもよい。時刻t1からt2まで、火口51に、可燃性混合ガスと予熱用酸素ガスとが供給される。可燃性混合ガスは配管31および配管52を通じて供給され、その流量はマスフローコントローラ41によって調整される。予熱用酸素ガスは配管33および配管53を通じて供給され、その流量はマスフローコントローラ43によって調整される。この状態で点火され、火口51の先端に、可燃性混合ガスが燃焼してなる火炎が形成される。この火炎は白心が形成され、白心を目安として鋼材に対する火口の高さ(Z方向位置)が調整される。白心と鋼材との位置関係は特に限定されず、従来の知見に従って火口の位置を調整できる。
【0031】
[予熱]
時刻t2からt3の間に三方弁21が操作され、配管32と配管52とが連通する状態に切り換えられる。この状態とすることで、時刻t3以降は、配管52を通じて火口51に水素ガスが供給される。時刻t3からt4まで(時間T1)は予熱期間であり、火口51に水素ガスと予熱用酸素ガスとが供給される。水素ガスは配管32および配管52を通じて供給され、その流量はマスフローコントローラ42によって調整される。予熱用酸素ガスは配管33および配管53を通じて供給され、その流量はマスフローコントローラ43によって調整される。時刻t3からt4に流通される予熱用酸素ガスの流量は、時刻t1からt2に流通される予熱用酸素ガスの流量と同じであってもよいし、異なってもよい。同じであることが好ましい。この状態で点火され、火口51の先端に、水素ガスが燃焼してなる火炎が形成される。この火炎は白心が視認できないが、先の工程で調整された火口高さを維持して予熱を実施できる。
【0032】
[溶断]
時刻t4からt5まで、溶断用酸素ガスが火口51に供給される。溶断用酸素ガスのON/OFFは、配管54に設けられた電磁弁で制御される。火口51の先端において水素ガスが燃焼する火炎が形成され、また、火口51から溶断用酸素が噴射される。火口51は所定の溶断形状に沿ってX-Y方向に移動し、溶断が実施される。時刻t5において溶断が終了すると、溶断用酸素ガスがOFFとなり、次いで、水素ガスおよび予熱用酸素ガスもOFFとされる。
【0033】
図5は、実施の形態にかかる溶断装置の火口を示す拡大図である。本開示にかかる溶断装置が備える火口としては公知の火口を使用でき、特に限定されないが、一例として、
図5に開示する火口51を好ましく使用できる。
【0034】
図5(a)は火口51の断面図模式図であり、
図5(b)は火口51を火口先端側から見た図である。
図5を参照して、火口51は、ノズル部材81と、カバー部材82と、胴中83と、が組み合わされて構成される。カバー部材82は、ノズル部材81の外側に嵌装される。胴中83の下端が、ノズル部材81とカバー部材82との間に挿入されて固定される。ノズル部材81の内部に、軸方向に沿って溶断用酸素ガス通路71が設けられている。ノズル部材81の外周面とカバー部材82の内周面との間に、混合ガス通路72が形成される。
【0035】
胴中83は、配管52、配管53、配管54の先端に接続するソケット部に挿入して装着される。ソケット部には、溶断用酸素ガスの通路である配管54と、予熱用酸素ガスの通路である配管53と、可燃性混合ガスおよび水素ガスの通路である配管52とが接続する。胴中83をソケット部に挿入して装着すると、ソケット部の溶断用酸素ガスの通路と胴中83の溶断用酸素ガス通路71とが接続される。また、ソケット部の予熱用酸素ガスの通路と胴中83の外周面に設けられた溝部83aとが接続される。さらに、ソケット部に設けられた燃焼ガス通路と、胴中83の外周面に設けられた溝部83bとが接続される。
【0036】
溝部83aと溝部83bとは、胴中83の内部に設けられた混合室83eにそれぞれ連通されている。混合室83e内で、溝部83aを通じて供給される予熱用酸素ガスと、溝部83bを通じて供給される可燃性混合ガスまたは水素ガスとが混合される。混合されたガスは、混合ガス通路72を通じて火口51の先端から吐出される。
【0037】
火口51の先端部において、ノズル部材81の先端部の端面81cからカバー部材82の先端部の端面82cまでの距離は1mmである。この構成によれば、ノズル部材81の先端にカバー部材82による深さ1mmのポケット88が設けられる。
【0038】
本開示にかかる溶断装置1によれば、火口51の先端に、例えば、長さが6~8mmの白心を有する火炎を形成できる。この白心を基準として、溶断対象である鋼材の表面から火口51までの距離(火口の高さ)を、例えば6mm~8mm程度に設定できる。
【0039】
図6は、溶断の手順の概略を示すフローチャートである。本開示にかかる鋼材の溶断方法を、
図6に基づいて説明する。
【0040】
まず、鋼材が準備され(S11)、当該鋼材が溶断可能な状態とされる。
【0041】
次に、水素ガスと炭化水素ガスの混合ガスである可燃性混合ガス(第1の燃焼ガス)と、予熱用酸素ガスとを溶断装置の火口に供給し、火炎を形成する。具体的には例えば、既述のとおり、可燃性混合ガスボンベから供給された可燃性混合ガスと、酸素ガスボンベから供給された酸素ガスとの混合ガスが、トーチの先端部に配置された火口に供給される。既述の火口内部でこれらのガスが混合されて、混合ガスとなる。この混合ガスに点火することにより、火炎が形成される。この火炎は白心が視認可能である。白心の長さは特に制限されないが、例えば20mm~200mm程度の板厚の鋼板を溶断しようとする場合、白心の長さが2mm~6mm程度の火炎が形成されることが好ましい。白心を基準として、火口の高さを調整する(S12)。
【0042】
次に、ステップ(S12)において形成された火炎により上記鋼材の溶断されるべき部分を加熱する(S13)。ステップS13では、燃焼ガスとして水素ガス(第2の燃焼ガス)が火口に供給され、水素ガスが燃焼して形成される予熱炎によって、鋼材が加熱される。ステップS13が予熱工程である。
【0043】
次いで、火口から溶断用酸素ガスが噴射され、当該酸素ガスが、上記火炎によって加熱された鋼材の溶断されるべき部分に吹き付けられる。これにより、当該部分の鋼材が燃焼し、溶融する(S14)。さらに、溶融した鋼材は、火口から噴射される酸素ガスの吹き付けによって除去される。このように溶断が実施される。さらに、所定の溶断形状に沿って火口を移動させて溶断を行う(S15)。ステップS14およびS15が、溶断工程である。以上の手順により、鋼材の溶断が完了する。本実施の形態における鋼材の溶断方法によれば、火口の位置の調整においては、可燃性混合ガスを供給して白心を視認できる火炎を形成し、予熱および溶断においては水素ガスのみを燃焼ガスとして火炎を形成する。このようにして、水素ガス100%でガス溶断を行うことが可能で、かつ、火口高さを容易に適切な位置に調整可能となる。
【0044】
溶断工程の条件は、種々の条件に応じて変更可能であり特に制限されるものではないが、一例として、板厚が15mm~50mm程度の鋼材を溶断する場合、予熱用酸素ガスの流量を6.4L/min~8.0L/min、水素ガスの流量を16.0L/min程度とし、酸素:水素の比率を0.4~0.5:1程度とすることができる。予熱用酸素ガスの圧力は0.3MPa程度、水素ガスの圧力は0.03MPa程度とできる。溶断用酸素の圧力は、0.5MPa程度とできる。溶断速度は、300mm/min~450mm/min程度とできる。また、板厚が50mm~150mm程度の鋼材を溶断する場合、予熱用酸素ガスの流量を7.0L/min~8.8L/min、水素ガスの流量を17.6L/min程度とし、酸素:水素の比率を0.4~0.5:1程度とすることができる。予熱用酸素ガスの圧力は0.4MPa程度、水素ガスの圧力は0.03MPa程度とできる。溶断用酸素の圧力は、0.5MPa程度とできる。溶断速度は、200mm/min~250mm/min程度とできる。
【0045】
本開示にかかる溶断装置および溶断方法の実証を行った。
[エチレン水素・混合ガスによる火炎の形成]
可燃性混合ガスとして、5体積%のエチレンを含有する水素ガスおよび10体積%のエチレンを含有する水素ガスを用いて、[表1]に示す流量の条件で火炎を形成し、形成される白心の長さを確認した。火口として、3段当たり切断火口(水素ガス用)を用いた。
なお、可燃性混合ガスとして5体積%のエチレンを含有する水素ガスを用いる場合は、火口調整工程における酸素流量と、予熱および溶断工程で用いる酸素流量とは同一とした。可燃性混合ガスとして10体積%のエチレンを含有する水素ガスを用いる場合は、火口調整工程における酸素流量は、予熱工程および溶断工程で用いる酸素流量の40~50%を想定した。
【0046】
【0047】
表1に示されるとおり、可燃性混合ガスとして、5体積%のエチレンを含有する水素ガスを用いる場合、酸素/可燃性混合ガス流量比が0.4~0.57のいずれの場合も、白心の長さが6~8mmである火炎を形成できた。また、10体積%のエチレンを含有する水素ガスを用いる場合、酸素/可燃性混合ガス流量比が0.4~0.75のいずれの場合も、白心の長さが6~10mmの火炎を形成できた。
【0048】
さらに、10体積%のエチレンを含有する水素ガスを用いて、異なる火口を用いる場合に形成される火炎の白心の長さを確認した。使用した火口番手、ガス流量と、白心長さを表2に示す。
【0049】
【0050】
表2に示されるとおり、火口の番手を変更した場合も、白心の長さが6~8mmの下縁を得ることができた。
【0051】
水素100%ガスによって溶断を実施する場合、最適な火口高さは鋼材表面から6~8mm程度が良好であることが確認されているところ、上記の実証によれば、エチレン・水素混合ガスを用いて白心長さが6~10mm程度の火炎を形成できることが確認された。可燃性混合ガスとして、エチレンを4.5体積%以上12体積%以下含有する水素ガスが適切であると考えられた。
【0052】
[水素ガス火炎による鋼材の溶断]
上記方法によって火口を調整し、水素ガス火炎によって鋼材を溶断する実証実験を行った。鋼材として、材質SS400、板厚28mm、45mm、100mmの鋼材を用いた。火口として、3段当たり火口(水素ガス用)を用いた。予熱用酸素ガスおよび水素ガスの流量、流量比率および圧力、溶断用酸素ガスの圧力、溶断速度をまとめて[表3]に示す。
【0053】
【0054】
表3に示される条件で鋼材を溶断し、溶断面、溶断上面およびドロスの状態から、良好に溶断が実施できたと判断された。
【0055】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1 溶断装置、11 可燃性混合ガスボンベ、12 水素ガスボンベ、13 酸素ガスボンベ、21 三方弁、31、32、33、52、53、54 配管、41、42、43 マスフローコントローラ、71 溶断用酸素ガス通路、72 混合ガス通路、81 ノズル部材、82 カバー部材、83 胴中、88 ポケット、100 火炎、101 白心、102 予熱炎、103 溶断用酸素ガス気流。