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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008481
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】溶湯の設定温度を決定するシステム
(51)【国際特許分類】
   B22D 37/00 20060101AFI20240112BHJP
   B22D 47/00 20060101ALI20240112BHJP
   B22D 7/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B22D37/00 Z
B22D47/00
B22D7/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110394
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391020492
【氏名又は名称】藤和電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】西田 理
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】星野 正則
(57)【要約】
【課題】エネルギー効率を考慮して溶湯の設定温度を決定できる技術を提供する。
【解決手段】注湯設備において溶湯の設定温度を決定するシステムは、注湯処理中に取鍋のノズル先端の溶湯温度を検出する温度センサと、注湯処理ごとに、温度センサによって検出された溶湯温度を一枠ごとにプロットした温度推移を取得する制御部とを備え、制御部は、上限温度と予め定められた下限温度とによって定まる温度範囲内に収まる温度推移を最適温度推移とし、取得された複数の温度推移の数と複数の温度推移に含まれる最適温度推移の数との割合が所定の割合となるように上限温度を決定し、搬送処理中に低下する温度である低下温度と決定された上限温度とを加算した温度を設定温度に決定する。
【選択図】図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定温度の溶湯を生成する溶解炉で生成された前記溶湯を取鍋に受湯させる受湯処理と、前記取鍋を注湯機へ搬送する搬送処理と、前記取鍋内の前記溶湯を前記注湯機によって複数の鋳型に順に注湯する注湯処理とを含む一連の処理を繰り返す注湯設備において、前記溶湯の前記設定温度を決定するシステムであって、
前記注湯処理中に前記取鍋のノズル先端の溶湯温度を検出する温度センサと、
前記注湯処理ごとに、前記温度センサによって検出された前記溶湯温度を一枠ごとにプロットした温度推移を取得する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
上限温度と予め定められた下限温度とによって定まる温度範囲内に収まる前記温度推移を最適温度推移とし、取得された複数の温度推移の数と前記複数の温度推移に含まれる前記最適温度推移の数との割合が所定の割合となるように前記上限温度を決定し、
前記搬送処理中に低下する温度である低下温度と、前記決定された上限温度とを加算した温度を、前記設定温度に決定する、
システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記注湯処理の温度推移のうち、取得された前記温度推移に対応する注湯処理で使用された模型と同じ型を使用した注湯処理の温度推移を選択し、選択された前記注湯処理の温度推移のうち所定の割合の温度推移が前記最適温度推移となるように前記上限温度を決定し、
前記低下温度と、前記決定された上限温度とを加算した温度を、前記模型に対応する前記設定温度に決定する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記制御部は、前記温度推移が前記下限温度よりも低い溶湯温度を含む場合に、前記上限温度を再度決定する、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記溶解炉に関する情報を表示する表示装置を備え、
前記制御部は、取得された前記温度推移に含まれる最初の枠の前記溶湯温度と前記上限温度との差分が予め設定された範囲内でない場合には、前記差分に係る情報を前記表示装置に表示させる、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項5】
前記溶解炉に関する情報を表示する表示装置を備え、
前記制御部は、取得された前記温度推移に含まれる最後の枠の前記溶湯温度を前記表示装置に表示させる、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項6】
設定温度の溶湯を生成する溶解炉で生成された前記溶湯を取鍋に受湯させる受湯処理と、前記取鍋を注湯機へ搬送する搬送処理と、前記取鍋内の前記溶湯を前記注湯機によって複数の鋳型に順に注湯する注湯処理とを含む一連の処理を繰り返す注湯設備において、前記溶湯の前記設定温度を決定するシステムであって、
前記注湯処理中に前記取鍋のノズル先端の溶湯温度を検出する温度センサと、
前記温度センサによって検出された前記溶湯温度を一枠ごとにプロットした温度推移を前記注湯処理ごとに取得し、前記設定温度を決定する制御部と、
を備え、
前記制御部によって決定される前記設定温度は、
上限温度と予め定められた下限温度とによって定まる温度範囲内に収まる前記温度推移を最適温度推移とした場合、取得された複数の温度推移の数と前記複数の温度推移に含まれる前記最適温度推移の数との割合が所定の割合となるように決定された前記上限温度と、前記搬送処理中に低下する温度である低下温度とを加算した温度が前記設定温度となる関係を満たす、
システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶湯の設定温度を決定するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、注湯設備を開示する。注湯設備は、設定温度の溶湯を生成する溶解炉を有する。取鍋は、溶解炉によって生成された溶湯を受湯する。受湯した取鍋は注湯機へ搬送される。注湯機は、取鍋内の溶湯を複数の鋳型に順に注湯する。注湯設備は、溶湯の受湯から注湯までの一連の処理を繰り返し実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6472899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、注湯時における溶湯の温度が低い場合には湯回り不良などの不具合が発生する場合がある。不具合を回避するために、特許文献1記載の注湯設備においては、溶解炉における溶湯の設定温度を必要以上に高く設定するおそれがある。本開示は、エネルギー効率を考慮して溶湯の設定温度を決定できるシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係るシステムは、注湯設備において溶湯の設定温度を決定する。注湯設備は、設定温度の溶湯を生成する溶解炉で生成された溶湯を取鍋に受湯させる受湯処理と、取鍋を注湯機へ搬送する搬送処理と、取鍋内の溶湯を注湯機によって複数の鋳型に順に注湯する注湯処理とを含む一連の処理を繰り返す。システムは、温度センサ及び制御部を有する。温度センサは、注湯処理中に取鍋のノズル先端の溶湯温度を検出する。制御部は、注湯処理ごとに、温度センサによって検出された溶湯温度を一枠ごとにプロットした温度推移を取得する。制御部は、上限温度と予め定められた下限温度とによって定まる温度範囲内に収まる温度推移を最適温度推移とし、取得された複数の温度推移の数と複数の温度推移に含まれる最適温度推移の数との割合が所定の割合となるように上限温度を決定し、搬送処理中に低下する温度である低下温度と、決定された上限温度とを加算した温度を、設定温度に決定する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、エネルギー効率を考慮して溶湯の設定温度を決定できる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】例示的な実施形態に係る設定温度決定システムが対象とする鋳造設備の一部を示す平面図である。
図2】受湯台車の一例を示す側面図である。
図3】注湯機の一例を示す正面図である。
図4】注湯機の一例を示す上面図である。
図5】例示的な実施形態に係る設定温度決定システムの一例を示すブロック図である。
図6】取鍋ごとの鋳込み温度の推移の一例を示すグラフである。
図7】累計鋳込み数と鋳込み温度との関係を示すグラフである。
図8】例示的な実施形態に係る設定温度決定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図9】例示的な実施形態に係る設定温度決定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図10】例示的な実施形態に係る設定温度決定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の概要]
最初に、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0009】
(条項1) 本開示の一側面に係るシステムは、注湯設備において溶湯の設定温度を決定する。注湯設備は、設定温度の溶湯を生成する溶解炉で生成された溶湯を取鍋に受湯させる受湯処理と、取鍋を注湯機へ搬送する搬送処理と、取鍋内の溶湯を注湯機によって複数の鋳型に順に注湯する注湯処理とを含む一連の処理を繰り返す。システムは、温度センサ及び制御部を有する。温度センサは、注湯処理中に取鍋のノズル先端の溶湯温度を検出する。制御部は、注湯処理ごとに、温度センサによって検出された溶湯温度を一枠ごとにプロットした温度推移を取得する。制御部は、上限温度と予め定められた下限温度とによって定まる温度範囲内に収まる温度推移を最適温度推移とし、取得された複数の温度推移の数と複数の温度推移に含まれる最適温度推移の数との割合が所定の割合となるように上限温度を決定し、搬送処理中に低下する温度である低下温度と、決定された上限温度とを加算した温度を、設定温度に決定する。
【0010】
このシステムでは、取鍋から複数の鋳型に順に注湯する注湯処理が実行され、取鍋が空になると、次の取鍋から複数の鋳型に順に注湯する次の注湯処理が実行される。そして、注湯処理ごとに、温度センサによって検出された溶湯温度を一枠ごとにプロットした温度推移が取得される。取得された複数の温度推移の数と複数の温度推移に含まれる最適温度推移の数との割合が所定の割合となるように上限温度が決定される。最適温度推移は、上限温度と予め定められた下限温度とによって定まる温度範囲内に収まる温度推移である。搬送処理中に低下する温度である低下温度と、決定された上限温度とを加算した温度が設定温度に決定される。
【0011】
このように、設定温度が決定され、決定された設定温度は次回の溶湯の設定温度として採用され得る。設定温度を決定するために用いられる上限温度は、複数の温度推移の数と、複数の温度推移に含まれる最適温度推移の数との割合が所定の割合(例えば6~8割)となるように決定されるため、このシステムは、溶解炉における溶湯の設定温度を必要以上に高く設定することを回避できる。よって、このシステムは、エネルギー効率を考慮して溶湯の設定温度を決定できる。
【0012】
(条項2) 条項1に記載のシステムにおいて、制御部は、注湯処理の温度推移のうち、取得された温度推移に対応する注湯処理で使用された模型と同じ型を使用した注湯処理の温度推移を選択し、選択された注湯処理の温度推移のうち所定の割合の温度推移が最適温度推移となるように上限温度を決定し、低下温度と、決定された上限温度とを加算した温度を、模型に対応する設定温度に決定してもよい。この場合、システムは、模型ごとに溶湯の最適な設定温度を決定できる。
【0013】
(条項3) 条項1又は2に記載のシステムにおいて、制御部は、温度推移が下限温度よりも低い溶湯温度を含む場合に、上限温度を再度決定してもよい。この場合、システムは、溶解炉における溶湯の設定温度を必要以上に高く設定することを回避しつつ、不具合が発生しそうな状況になった場合に上限温度を見直すことで、設定温度を再度決定できる。
【0014】
(条項4) 条項1~3の何れか一項に記載のシステムは、溶解炉に関する情報を表示する表示装置を備えてもよく、制御部は、取得された温度推移に含まれる最初の枠の溶湯温度と上限温度との差分が予め設定された範囲内でない場合には、差分に係る情報を表示装置に表示させてもよい。この場合、システムは、低下温度に変化があったことを、表示装置を介して、例えば溶解炉の作業員に報知できる。
【0015】
(条項5) 条項1~4の何れか一項に記載のシステムにおいて、溶解炉に関する情報を表示する表示装置を備えてもよく、制御部は、取得された温度推移に含まれる最後の枠の溶湯温度を表示装置に表示させてもよい。注湯処理における最後の枠に注がれる溶湯の温度は、当該注湯処理において最も低くなる。注湯処理における最低温度を表示装置に表示させることで、作業員は、最低温度を監視でき、不具合が発生しそうな状況になるか否かを判断できる。
【0016】
(条項6) 本開示の他の側面に係るシステムは、注湯設備において溶湯の設定温度を決定する。注湯設備は、設定温度の溶湯を生成する溶解炉で生成された溶湯を取鍋に受湯させる受湯処理と、取鍋を注湯機へ搬送する搬送処理と、取鍋内の溶湯を注湯機によって複数の鋳型に順に注湯する注湯処理とを含む一連の処理を繰り返す。システムは、温度センサ及び制御部を有する。温度センサは、注湯処理中に取鍋のノズル先端の溶湯温度を検出する。制御部は、温度センサによって検出された溶湯温度を一枠ごとにプロットした温度推移を注湯処理ごとに取得し、設定温度を決定する。制御部によって決定された設定温度は、上限温度と予め定められた下限温度とによって定まる温度範囲内に収まる温度推移を最適温度推移とした場合、取得された複数の温度推移の数と複数の温度推移に含まれる最適温度推移の数との割合が所定の割合となるように決定された上限温度と、搬送処理中に低下する温度である低下温度とを加算した温度が設定温度となる関係を満たす。このシステムでは、条項1に記載のシステムと同一の効果を奏する。
【0017】
[本開示の実施形態の例示]
以下、図面を参照して、本開示の例示的な実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。
【0018】
[鋳造設備の概要]
例示的な実施形態に係る設定温度決定システムが対象とする鋳造設備の一部を示す平面図である。図1に示される鋳造設備100は、溶解炉で得られた元湯の一部を取鍋へ出湯し、溶湯を貯留する取鍋を注湯機へ搬送し、搬送された取鍋の溶湯を、注湯機を用いて鋳型に注湯する。図1に示されるように、鋳造設備100は、一例として溶解炉2を有する。溶解炉2は、溶解材料を熱で溶融して元湯を得る。溶解炉2は1台であってもよいし、複数台であってもよい。図1の例では、2台の溶解炉2が並設される。溶解炉2には、対応する溶解材料投入装置が並設されており、溶解材料投入装置によって溶解材料が炉内に投入される。溶解炉2は、後述する受湯取鍋へ複数回出湯できる程度の量の元湯を一度に得ることができる。
【0019】
溶解炉2は、設定温度の元湯を生成する。設定温度は、元湯の目標温度である。設定温度は、例えば模型ごとに設定され得る。作業員は、溶解炉2付近に設けられた表示装置50に表示される設定温度に係る情報を参照し、溶解炉2の出力を制御して元湯の温度が設定温度となるように調整する。例示的な実施形態に係る設定温度決定システムは、この設定温度を決定するシステムである。
【0020】
溶解炉2で得られた溶湯は、処理取鍋LD1に出湯される。処理取鍋LD1は、溶湯を養生し、次工程に伝達する。処理取鍋LD1は、受湯台車4に載置され、受湯台車レールR1上に沿って移動する。受湯台車4は、受湯前に、元湯の成分を調整するために一次接種装置3の位置へ移動し、元湯の成分を調整する材料が一次接種装置3によって処理取鍋LD1に投入される。その後、受湯台車4は受湯位置へ移動し、溶湯が溶解炉2から処理取鍋LD1へ出湯される。受湯台車4は空替位置へ移動し、処理取鍋LD1の溶湯が注湯取鍋LD2へ空け替えられる(受湯処理の一例)。空け替えとは、取鍋の溶湯を他の取鍋に移し替えることである。処理取鍋LD1から注湯取鍋LD2へ溶湯を空け替えるときに、注湯取鍋LD2には二次接種装置5によって添加材料が投入され、溶湯の成分が調整される。
【0021】
注湯取鍋LD2は、搬送台車6に載置され、搬送台車レールR2に沿って搬送される。搬送台車6は、上述した空替位置の他に、注湯機10に注湯取鍋LD2を搬送する取鍋交換位置にも停止できる。
【0022】
注湯取鍋LD2は、搬送台車レールR2に沿って搬送され、注湯設備に到着する(搬送処理の一例)。注湯設備においては、鋳型MDに溶湯が注湯される。溶湯の入った注湯取鍋LD2(実取鍋)は、注湯機10の前段(取鍋交換位置)において、搬送台車6から取鍋交換装置9へ受け渡される。取鍋交換装置9において、実取鍋と、注湯して空になった注湯取鍋LD2(空取鍋)との交換が実現する。例えば、注湯機10がスライドすることにより、実取鍋と空取鍋との交換が実現する。例えば、注湯機10がローラコンベア8の手前へスライドすることにより、空取鍋が注湯機10からローラコンベア8へ受け渡される。注湯機10がローラコンベア7の手前へスライドすることにより、ローラコンベア7から実取鍋が注湯機10へ受け渡たされる。
【0023】
注湯機10は、注湯取鍋LD2が貯留する溶湯を鋳型MDに注湯する(注湯処理の一例)。注湯機10は、注湯ゾーン14の側方に設けられる。注湯ゾーン14では、鋳型搬送装置が、造型機(不図示)によって造型された複数の鋳型MDを列状に並べて1鋳型分ずつ搬送する。注湯機10は、注湯ゾーン14において、搬送されている鋳型MDに対して注湯取鍋LD2内の溶湯を順に注湯する。
【0024】
注湯ゾーン14には、鋳型用のレールが敷設され、レールの両端には、鋳型搬送装置である一組の鋳型送り装置11(プッシャ及びクッション)が配置される。鋳型送り装置11を構成するプッシャは、鋳型MDを押し出す機能を有し、鋳型送り装置11を構成するクッションは、押し出された鋳型MDを受ける機能を有する。プッシャ及びクッションにより鋳型MDを隙間なく送り出すことができる。鋳型送り装置11は、一鋳型分ずつ鋳型MDを送り出す。図1においては、レールの前端の鋳型送り装置(クッション)のみが図示されており、レールの後端に配置された鋳型送り装置(プッシャ)の図示は省略されている。
【0025】
注湯ゾーン14には、注湯機用の注湯レールR3が敷設される。注湯レールR3は、鋳型用のレールに沿って敷設される。注湯機10は、注湯取鍋LD2を載置し、注湯レールR3に沿って移動可能である。注湯機10は、注湯レールR3上の任意の位置に移動し、注湯取鍋LD2を傾動させ、鋳型MDに注湯する。
【0026】
注湯ゾーン14において鋳型MDがレールの前端に至ると、トラバーサ13で隣の冷却ゾーン15へと移送される。冷却ゾーンでは、注湯後の製品を鋳型MD内で冷却させながら、鋳型ばらし装置(不図示)へと鋳型MDを搬送する。冷却ゾーン15には、鋳型MD用のレールが敷設されており、レールの両端には、注湯ゾーン14と同様に、一組の鋳型送り装置12(プッシャ及びクッション)が配置される。図1においては、レールの後端の鋳型送り装置(プッシャ)のみが図示され、レールの前端に配置された鋳型送り装置(クッション)の図示は省略されている。鋳型送り装置12の動作は、鋳型送り装置11の動作と同一である。鋳型送り装置12によって、冷却ゾーン15の鋳型MDは、注湯ゾーン14の鋳型MDの搬送方向とは逆方向へ搬送される。注湯された後の鋳型MDはレール上において時間を掛けて冷却され、溶湯は鋳型ばらし装置に至る前に固化して鋳物となる。
【0027】
以上、鋳造設備100においては、設定温度の溶湯を生成する溶解炉2で生成された溶湯を注湯取鍋LD2に受湯させる受湯処理と、注湯取鍋LD2を注湯機10へ搬送する搬送処理と、注湯取鍋LD2内の溶湯を注湯機10によって複数の鋳型MDに順に注湯する注湯処理とを含む一連の処理が繰り返し実行される。
【0028】
[受湯台車の詳細]
図2は、受湯台車の一例を示す側面図である。図2に示されるように、受湯台車4は、処理取鍋LD1を載置し、受湯台車レールR1に沿って走行する。これにより、受湯台車4は、一次接種装置3による材料投入位置、溶解炉2による受湯位置、及び、処理取鍋LD1から注湯取鍋LD2への空替位置を行き来することができる。受湯台車4は、処理取鍋LD1を傾動可能に支持する空替機構41を備える。空替機構41は、図中X方向に延在する傾動軸Hを中心として、処理取鍋LD1を傾動させる。さらに、受湯台車4は、処理取鍋LD1を昇降可能に支持する昇降機構42を備える。これにより、処理取鍋LD1は、所定の高さから空け替え可能となる。
【0029】
受湯台車4は、受湯した溶湯の温度(受湯温度)を計測する非接触の第1温度センサ43を有する。第1温度センサ43は、例えば二色温度計のセンサヘッドが検出した二色赤外線放射量を利用して溶湯の温度を演算する。
【0030】
受湯台車4は、処理取鍋LD1の重量を検出する第1ロードセル44を有する。第1ロードセル44は、例えば処理取鍋LD1を支持する部材に設けられる。
【0031】
[注湯機の詳細]
図3は、注湯機の一例を示す正面図である。図4は、注湯機の一例を示す上面図である。図3及び図4に示されるように、注湯機10は、注湯取鍋LD2を載置し、注湯レールR3に沿って走行する。これにより、注湯取鍋LD2は、鋳型列に沿って移動可能となる。さらに、注湯機10は、注湯取鍋LD2を傾動可能に支持する。注湯機10は、図中Y方向に延在する傾動軸Kを中心として、注湯取鍋LD2を傾動させる。さらに、注湯機10は、注湯取鍋LD2を、昇降可能であって前後方向へ移動可能に支持する。これにより、注湯取鍋LD2は、所定の位置及び高さから注湯可能となる。
【0032】
注湯機10は、注湯する溶湯の温度を計測する非接触の第2温度センサ20(温度センサの一例)を有する。第2温度センサ20は、例えば二色温度計のセンサヘッドが検出した二色赤外線放射量を利用して溶湯の温度を演算する。第2温度センサ20の測定位置は、注湯取鍋LD2のノズルの出湯口であるノズル先端21となるように設定される。これにより、第2温度センサ20は、注湯流の温度を計測できる。
【0033】
注湯機10は、注湯取鍋LD2の重量を検出する第2ロードセル22を有する。第2ロードセル22は、例えば注湯取鍋LD2を支持する部材に設けられる。
【0034】
[設定温度決定システムの概要]
図5は、例示的な実施形態に係る設定温度決定システムの一例を示すブロック図である。図5に示される設定温度決定システム1は、第2温度センサ20及び制御部30を備える。第2温度センサ20は、上述したとおり、注湯処理中に注湯取鍋LD2のノズル先端21の溶湯温度を検出する機器である。第2温度センサ20は、検出結果を制御部30へと出力する。
【0035】
制御部30は、設定温度決定システム1を統括制御するコントローラである。制御部30は、例えばPLC(Programmable Logic Controller)として構成される。制御部30は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、RAM(RandomAccess Memory)及びROM(Read Only Memory)などのメモリと、タッチパネル、マウス、キーボード、ディスプレイなどの入出力装置と、ネットワークカードなどの通信装置とを含むコンピュータシステムとして構成されてもよい。制御部30は、メモリに記憶されているコンピュータプログラムに基づくプロセッサの制御のもとで各ハードウェアを動作させることにより、制御部30の機能を実現する。
【0036】
(制御部による温度推移の取得)
制御部30は、注湯処理ごとに、第2温度センサ20によって検出された溶湯温度を一枠ごとにプロットした温度推移を取得する。注湯処理は、一つの注湯取鍋LD2内の溶湯を複数の鋳型MDに注湯することである。注湯処理は、注湯機10に搬送された注湯取鍋LD2が一つ目の鋳型MDに注湯するときに開始され、後続の鋳型MDに順に注湯することによって注湯取鍋LD2内の溶湯が所定量以下となったとき、または、割り当てられた数の鋳型MDに注湯を完了したときに終了する。つまり、一つの注湯処理は、一つの注湯取鍋LD2と対応付けられる。制御部30は、注湯処理ごとに、言い換えれば、注湯取鍋LD2ごとに、第2温度センサ20によって検出された溶湯温度を一枠ごとにプロットした温度推移を取得する。温度推移とは、溶湯温度と鋳込み番号との関連を示すものである。鋳込み番号とは、注湯する鋳型に割り振られた識別子である。温度推移は、溶湯温度と時間との関連を示すものでもよい。
【0037】
制御部30は、データベース60に接続され、注湯取鍋LD2ごとに温度推移をデータベース60に記憶してもよい。例えば、注湯取鍋LD2として、第1取鍋L1と第2取鍋L2との2つの取鍋を有する場合には、第1取鍋L1の溶湯の温度推移601を記憶しつつ、第2取鍋L2の溶湯の温度推移602も記憶する。なお、注湯取鍋LD2の数は2つに限定されず、注湯取鍋LD2の数は1つでもよいし、3つ以上であってもよい。なお、鋳造設備100の一連の処理は繰り返し実行されるため、注湯取鍋LD2は繰り返し使用される。つまり、同一の取鍋の温度推移が複数記憶され得る。この場合、データベース60においては、同一の取鍋の温度推移を時間に関連付けて区別して記憶してもよいし、鋳込み番号の番号体系を変更し、同一の行列に組み込んでもよい。
【0038】
制御部30は、注湯取鍋LD2ごとの温度推移を、模型ごとにさらに記憶してもよい。模型に応じて設定温度が決定されるためである。例えば、注湯取鍋LD2として、第1取鍋L1と第2取鍋L2との2つの取鍋を有し、模型として、第1模型M1と第2模型M2との2つの模型がある場合には、第1模型M1に対応する第1取鍋L1の溶湯の温度推移601及び第2取鍋L2の溶湯の温度推移602だけでなく、第2模型M2に対応する第1取鍋L1の溶湯の温度推移701及び第2取鍋L2の溶湯の温度推移702が記憶される。なお、模型の数は2つに限定されず、模型の数は1つでもよいし、3つ以上であってもよい。
【0039】
図6の(A)及び(B)は、取鍋ごとの鋳込み温度の推移の一例を示すグラフである。鋳込み温度とは、注湯処理中の溶湯温度である。図6の(A)に示されるグラフは、縦軸が第1模型M1における第1取鍋L1の鋳込み温度であり、横軸は鋳込み番号である。図6の(B)に示されるグラフは、縦軸が第1模型M1における第2取鍋L2の鋳込み温度であり、横軸は鋳込み番号である。図6の(A)及び(B)に示されるように、最初の鋳込み温度(鋳込み番号「1」の鋳込み温度)が大きくばらついていることが分かる。このようなばらつきは、溶解炉2の溶湯の温度の差異、及び、取鍋搬送状態の差異に起因する。取鍋搬送状態の差異については、図1のような鋳造設備100を採用し、レール上を自動走行させ、時間管理をすることによって概ね均一化される。このため、ばらつきの主な原因は、溶解炉2の溶湯の温度の差異に起因する。ばらつきが生じても湯回り不良が発生しないように、溶解炉2の溶湯の設定温度は、より高温に設定されることが想定される。しかしながら、このような対策は、エネルギー効率の悪化を招く。
【0040】
(制御部による設定温度の決定)
制御部30は、溶解炉2の設定温度を決定する。制御部30は、製品の品質確保とエネルギー効率の向上という相反する事象を解決すべく、湯回り不良などの不具合が発生しない範囲で、できるだけ低温となるように、溶解炉2の最適な設定温度を決定する。制御部30は、動作モードが設定温度を決定するモード(以下、チェックモード)に設定されたときに、溶解炉2の設定温度を決定する。チェックモードは、例えば、模型に対応する設定温度が予め記憶されていない場合、又は、湯回り不良などの不具合が発生した場合に、設定される。チェックモードは、このモードで取得された複数の注湯取鍋LD2に係る温度推移を分析するモードである。動作モードがチェックモードに設定された場合、制御部30は、予め想定された暫定的な設定温度で溶湯を生成し、設定温度が不明な模型を用いて注湯処理を複数回実行し、複数の温度推移を取得する。対象となる模型と鋳込み重量及び方案が近似する模型の設定温度が存在する場合、暫定的な設定温度は、近似する模型の設定温度としてもよい。
【0041】
制御部30は、造型機(不図示)から、鋳型MDの模型の情報として、注湯処理において使用される模型に対応する下限温度Tdを取得する。下限温度Tdは、湯回り不良などの不良が発生しないことが予め確認された限界温度であり、模型毎に異なる。制御部30は、温度推移ごとに、温度推移の中で最も低い温度である最低温度が下限温度Td以上であることを確認する。
【0042】
制御部30は、最低温度が下限温度Td以上であると確認された複数の温度推移に基づいて、溶解炉2の設定温度を決定する。制御部30は、溶解炉2の最適な設定温度を決定するために、注湯処理中の上限温度Tuを決定する。上限温度Tuとは、注湯処理において取り得る溶湯温度の最高温度である。溶湯温度は時間経過とともに低下するため、上限温度Tuは、概ね最初の枠(鋳型MD)に注湯される溶湯温度の目標値となる。
【0043】
制御部30は、複数の温度推移のうち、上限温度Tuと予め定められた下限温度Tdとによって定まる温度範囲内に収まる温度推移を最適温度推移とする。制御部30は、取得された複数の温度推移の数と複数の温度推移に含まれる最適温度推移の数との割合が所定の割合となるように上限温度Tuを決定する。所定の割合は、一例として、6割~8割の範囲で設定される。制御部30は、決定された上限温度Tuと模型とを関連付けてメモリなどに記憶する。
【0044】
図7は、累計鋳込み数と鋳込み温度との関係を示すグラフである。図7は、動作モードがチェックモードに設定された場合におけるグラフであり、同一の模型を用いて注湯されたグラフである。図7の縦軸は鋳込み温度(注湯温度)であり、横軸は累計鋳込み回数である。図7では、取鍋番号(取鍋NO)ごとの温度推移が示されている。ここでは、取鍋NOが「1796」、「1506」、「1290」となる3つの注湯取鍋が使用される。注湯機10に到着した注湯取鍋LD2の順番は、取鍋NO「1796」が先頭であり、次に取鍋NO「1506」、最後に取鍋NO「1290」であり、この順で繰り返される。視認性を向上させるために、到着順が奇数番目である注湯取鍋の注湯温度は白抜きのデータ点で示し、到着順が偶数番目である注湯取鍋の注湯温度は黒塗りのデータ点で示す。
【0045】
制御部30は、これらの温度推移の中で下限温度Td以上の温度推移から、温度推移ごとに最初の鋳込み温度を把握する。概して最初の鋳込み温度が温度推移の中で最も高温となるためである。より正確なデータを得るために、制御部30は、下限温度Td以上の温度推移の中から、温度推移ごとに最も高い温度を取得してもよい。図7の例では、順に、1414℃、1428℃、1418℃、1410℃、1403℃、1408℃、1407℃、1407℃、1410℃、1420℃となる。制御部30は、このうちの所定の割合が上限温度Tuを超えないように、上限温度Tuを設定する。所定の割合を6割とした場合、制御部30は、上述した10個の鋳込み温度(又は最高温度)の中から、低い温度から順に6個を選び、6番目の温度を上限温度Tuとする。図7の例では、上限温度は1410℃となる。これにより、最適温度推移は、4番目~9番目(累計鋳込み数が40~90)の6個の温度推移となる。
【0046】
なお、上述した制御部30の上限温度Tuの決定手法は一例である。制御部30は、所定の割合を6割とした場合、制御部30は、上述した10個の鋳込み温度(又は最高温度)の中から、高い温度から順に5個を選び、5番目の温度を上限温度Tuとしてもよい。あるいは、制御部30は、度数分布を作成して所定の割合を満たす上限温度Tuを算出してもよい。また、複数の温度推移の数が所定の割合と一致しない場合、例えば、所定の割合が6割であるが、割り切れない場合には、所定の割合に最も近い数値となるように上限温度Tuが決定される。あるいは、所定の割合以上であって所定の割合に最も近くなるように上限温度Tuが決定されてもよい。このような場合も、「所定の割合になるように」上限温度を決定するという態様に含まれる。
【0047】
制御部30は、注湯取鍋LD2が注湯機10に到着するときに溶湯の温度が上限温度Tuとなるように、搬送処理中における溶湯の温度低下も考慮して溶解炉2の設定温度を決定する。搬送処理中における溶湯の低下温度は、搬送処理にかかる時間によって低下した温度であり、後述する低下チェックモードによって模型ごとに予め取得され、メモリなどに記憶される。制御部30は、メモリを参照し、模型に対応する低下温度を取得する。
【0048】
制御部30は、模型に対応する上限温度Tuと低下温度とを加算した温度を、設定温度に決定する。そして、制御部30は、模型と設定温度とを対応付けてメモリなどに記憶する。これにより、制御部30は、同一模型に注湯する場合には、チェックモードを実行せずに、メモリを参照することで溶解炉2の設定温度を決定できる。制御部30は、表示装置50に溶解炉に関する情報、例えば設定温度を表示する。作業員は設定温度を確認し、溶解炉2の元湯の温度を調整する。これにより、溶解炉2における溶湯の設定温度が必要以上に高く設定されないため、エネルギー効率を考慮した溶湯の設定温度が決定される。
【0049】
なお、上述した制御部30の設定温度の決定手法は一例である。制御部30は、上限温度Tuと低下温度と設定温度との関係を予め規定したテーブルを用意しておき、実際に上限温度Tuと低下温度とを加算することなく、上限温度Tuと低下温度とを入力し、テーブルを参照して設定温度を決定してもよい。つまり、制御部30は、入力データとして、複数の温度推移を入力し、出力データとして設定温度を出力するように動作する機器であって、入力データと出力データとが所定の関係となっていれば、内部処理はどのように決定されていてもよい。具体的には、制御部30によって決定される設定温度は、上限温度と予め定められた下限温度とによって定まる温度範囲内に収まる温度推移を最適温度推移とした場合、取得された複数の温度推移の数と複数の温度推移に含まれる最適温度推移の数との割合が所定の割合となるように決定された上限温度と、搬送処理中に低下する温度である低下温度とを加算した温度が設定温度となる関係を満たせばよい。
【0050】
制御部30は、動作モードが低下チェックモードに設定されたときに、低下温度を決定する。低下チェックモードは、例えば、模型に対応する低下温度が予め記憶されていない場合、又は、注湯取鍋LD2の注湯開始の取鍋内温度(取得された温度推移に含まれる最初の枠の溶湯温度)と上限温度Tuとの差分が予め設定された範囲内でない場合に、設定される。低下チェックモードは、このモードで取得された温度データを分析するモードである。動作モードが低下チェックモードに設定された場合、制御部30は、予め想定された暫定的な設定温度で溶湯を生成し、低下温度が不明な模型を用いて注湯処理を複数回実行し、複数の温度推移を取得する。制御部30は、複数の注湯取鍋LD2に係る受湯温度と、注湯取鍋LD2の注湯開始の取鍋内温度との差分を計算し、異常値(たとえば、±30℃)を除いた差分の移動平均を低下温度とする。そして、制御部30は、模型と低下温度とを対応付けてメモリなどに記憶する。これにより、制御部30は、同一模型に注湯する場合には、低下チェックモードを実行せずに、メモリを参照することで低下温度を決定できる。なお、標準的な取鍋搬送設備での低下温度は、一例として30℃~50℃程度である。
【0051】
低下温度及び上限温度Tuは、気候又は溶湯の状態によって変化することがある。制御部30は、チェックモード終了後の通常操業時において、取得された温度推移に含まれる最初の枠の溶湯温度と上限温度Tuとの差分が予め設定された範囲内でない場合には、差分に係る情報を表示装置50に表示させてもよい。予め設定された範囲は、許容誤差範囲内であり、例えば±2℃程度である。差分に係る情報を表示装置50に表示させることにより、溶解炉2の作業員は、制御部30をチェックモード又は低下チェックモードで動作させることができる。
【0052】
制御部30は、チェックモード終了後の通常操業時において、注湯温度が下限温度Tdを下回った場合、その注湯取鍋LD2による注湯を中止し、注湯取鍋LD2に格納された溶湯を排湯し、又は、溶解炉2へ湯返しする。制御部30は、取得された温度推移に含まれる最後の枠の溶湯温度を表示装置50に表示させてもよい。これにより、作業員は、温度推移の最低温度を監視できるので、注湯温度が下限温度Tdを下回ることを予見できる。
【0053】
(注湯機の動作)
図8は、例示的な実施形態に係る設定温度決定システムの動作の一例を示すフローチャートである。図8に示されるフローチャートは、注湯処理の開始前に実行される。
【0054】
図8に示されるように、制御部30は、判定処理(S10)として、模型に対応する低下温度がメモリに記憶されているか否かを判定する。制御部30は、メモリを参照して、模型に対応する低下温度の有無を判定する。模型に対応する低下温度がメモリに記憶されていない場合には、制御部30は、動作モード設定処理(S12)として、低下チェックモードで動作する。制御部30は、上述した低下チェックモードで動作し、低下温度を取得する。そして、制御部30は、記憶処理(S14)として、模型と低下温度とを関連付けて制御部30のメモリなどに記憶する。判定処理(S10)において、模型に対応する低下温度がメモリに記憶されている場合、及び、記憶処理(S14)の処理が終了した場合に、図8に示されるフローチャートは終了する。
【0055】
図8に示されるフローチャートが実行されることにより、模型に対応する低下温度を注湯処理前に取得できる。
【0056】
図9は、例示的な実施形態に係る設定温度決定システムの動作の一例を示すフローチャートである。図9に示されるフローチャートは、注湯処理の開始前に実行される。
【0057】
図9に示されるように、制御部30は、判定処理(ステップS20)として、模型に対応する設定温度がメモリに記憶されているか否かを判定する。制御部30は、メモリを参照して、模型に対応する設定温度の有無を判定する。模型に対応する設定温度がメモリに記憶されていない場合には、制御部30は、動作モード設定処理(ステップS22)として、チェックモードで動作する。制御部30は、上述したチェックモードで動作し、設定温度を決定する。そして、制御部30は、記憶処理(ステップS24)として、模型と設定温度とを関連付けて制御部30のメモリなどに記憶する。判定処理(ステップS20)において、模型に対応する設定温度がメモリに記憶されている場合、及び、記憶処理(ステップS24)の処理が終了した場合に、図9に示されるフローチャートは終了する。
【0058】
図9に示されるフローチャートが実行されることにより、模型に対応する設定温度を注湯処理前に決定できる。
【0059】
図10は、例示的な実施形態に係る設定温度決定システムの動作の一例を示すフローチャートである。図10に示されるフローチャートは、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0060】
最初に、制御部30は、注湯処理中であるか否かを判定する(ステップS30)。制御部30は、例えば、注湯機10の動作信号を受信した場合には、注湯処理中であると判定する。注湯処理中であると判定された場合(ステップS30:YES)、制御部30は、現在の鋳込みが開始1回目であるか否かを判定する(ステップS32)。制御部30は、例えば、注湯機10の動作信号に基づいて、現在の鋳込みが開始1回目であるか否かを判定する。現在の鋳込みが開始1回目である場合(ステップS32:YES)、制御部30は、第2温度センサ20によって検出された溶湯温度を注湯開始温度としてデータベース60に記憶する(ステップS34)。
【0061】
続いて、制御部30は、注湯開始温度と上限温度Tuとの差分が許容範囲内であるか否かを判定する(ステップS36)。差分が許容範囲内でないと判定された場合(ステップS36:NO)、制御部30は、差分に係る情報を表示装置50に表示させる(ステップS40)。差分に係る情報は、数値であってもよいし、大小関係であってもよい。これにより作業員に異常が報知される。作業員は必要があれば注湯処理を中止し、低下チェックモードで低下温度を確認してもよい。ステップS40が終了した場合、及び、差分が許容範囲内であると判定された場合(ステップS36:YES)、図10に示されるフローチャートは、終了する。
【0062】
その後、フローチャートの最初から処理が開始される。2回目の鋳込みが開始されている場合、現在の鋳込みが開始1回目でないため(ステップS32:NO)、制御部30は、第2温度センサ20によって検出された溶湯温度を注湯開始温度としてデータベース60に記憶する(ステップS42)。
【0063】
制御部30は、ステップS42において記憶した溶湯温度が下限温度Td未満であるか否かを判定する(ステップS44)。溶湯温度が下限温度Td未満でない場合(ステップS44:NO)、図10に示されるフローチャートは終了し、その後、フローチャートの最初から処理が開始される。溶湯温度が下限温度Td未満でなる場合(ステップS44:YES)、注湯処理は終了する(ステップS46)。このとき、注湯取鍋LD2の残りの溶湯は、排湯されるか、溶解炉2へ湯返しされる。続いて、制御部30は、チェックモードで動作し、設定温度を再度決定する(ステップS48)。制御部30は、低下チェックモードでも動作してもよい。
【0064】
ステップS30で注湯処理中でない場合、ステップS48が終了した場合、図10に示されるフローチャートは終了する。
【0065】
(実施形態のまとめ)
設定温度決定システム1では、注湯取鍋LD2から複数の鋳型MDに順に注湯する注湯処理が実行され、注湯取鍋LD2が空になると、次の注湯取鍋LD2から複数の鋳型MDに順に注湯する次の注湯処理が実行される。そして、注湯処理ごとに、第2温度センサ20によって検出された溶湯温度を一枠ごとにプロットした温度推移が取得される。取得された複数の温度推移の数と複数の温度推移に含まれる最適温度推移の数との割合が所定の割合となるように上限温度Tuが決定される。最適温度推移は、上限温度Tuと予め定められた下限温度Tdとによって定まる温度範囲内に収まる温度推移である。搬送処理中に低下する温度である低下温度と、決定された上限温度Tuとを加算した温度が設定温度に決定される。
【0066】
このように、設定温度が決定され、決定された設定温度は次回の溶湯の設定温度として採用され得る。設定温度を決定するために用いられる上限温度は、複数の温度推移の数と、複数の温度推移に含まれる最適温度推移の数との割合が所定の割合(例えば6~8割)となるように決定されるため、設定温度決定システム1は、溶解炉2における溶湯の設定温度を必要以上に高く設定することを回避できる。よって、設定温度決定システム1は、エネルギー効率を考慮して溶湯の設定温度を決定できる。
【0067】
さらに、設定温度決定システム1は、地球温暖化対策として、カーボン・ニュートラルの達成に寄与できる。例えば溶解炉2の設定温度を20℃下げることにより、昇温時間の70%が削減されることが見込まれる。このときのCO削減量を試算する。昇温時間4時間/日、12時間/日のペースで稼働する3000KWの溶解炉2は、100℃昇温するための電力量が45kWh、電力とCOとの換算値が0.555(Kg-CO/kWh)であるとする。この場合、((4h×0.7)/日)/(12h/日)×45kWh×(20℃/100℃)×0.555により、約1.17(COKg)/hとなる。つまり、1台の注湯機10において、時間当たり1.17KgのCO削減量が見込まれる。月間稼働日を22日とすると、(1.17(COKg)/h)×(12h/日)×(22日/月)×(12月/年)=3707Kg/年となる。つまり、1台の注湯機10において、年間3707KgのCO削減量が見込まれる。このように、鋳型MDの模型番号に対する最適な溶解炉2の設定温度を溶解場に指示することにより、溶解炉2の設定温度を必要以上に高温にせずに済み、省エネルギーが図れる。このことにより、CO排出量の削減が見込め、カーボン・ニュートラルに貢献できる。
【0068】
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、上述した例示的実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。
【0069】
例えば、溶解炉2の設定温度の決定方法は、上述した例示的実施形態に限定されない。上述した例示的実施形態においては、制御部30は、複数の温度推移の中から同一種類の模型に係る複数の温度推移を選択し、選択された複数の温度推移に基づいて上限温度Tu及び下限温度Tdを決定し、溶解炉2の設定温度を決定する。本開示は、この手法に限定されず、例えば、制御部30は、模型が複数種類存在する場合であっても、一部又は全ての模型に係る温度推移を選択し、選択された複数の温度推移に基づいて上限温度Tu及び下限温度Tdを決定し、溶解炉2の設定温度を決定してもよい。つまり、一部又は全ての模型に共通する上限温度Tu及び下限温度Tdを決定してもよい。これにより、模型は異なるものの、一部又は全ての模型が類似関係にある場合において、設定温度決定システムは、模型ごとに溶解炉2の設定温度を決定することを回避できるので、処理の効率化を図ることができる。
【符号の説明】
【0070】
1…設定温度決定システム、10…注湯機、20…第2温度センサ、30…制御部、50…表示装置、100…鋳造設備。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10