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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084854
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ポリマー正温度係数ボディ
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/02 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
H01C7/02
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024063728
(22)【出願日】2024-04-11
(62)【分割の表示】P 2022545992の分割
【原出願日】2020-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】519226506
【氏名又は名称】リテルフューズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ、ジヨン
(72)【発明者】
【氏名】フ、インソン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ジアンフア
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ポリマー正温度係数(PPTC)材料はリセッタブルヒューズなどの用途に適しているが、トリップ温度未満での異常なトリップが無く、安定した電気的動作が得られるPPTCボディを提供する。
【解決手段】PPCTコンポーネント100は、ポリマー正温度係数(PPTC)材料であって、PPTCボディを画定するポリマーマトリックス104と、ポリマーマトリックスで微小シートとして分散して配置され、PPTCボディ102の予め定められた平面に沿って整列された複数のグラフェン粒子を含むグラフェンフィラー成分106と一対の対向する電極108と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータにおいて使用するためのポリマー正温度係数ボディ(PPTCボディ)であって、
ポリマー正温度係数材料(PPTC材料)を含むポリマーマトリックスであり、前記ポリマーマトリックスは、平面内にある扁平リング形状に配置され、前記PPTCボディは、上面及び下面を有する、前記ポリマーマトリックスと、
前記ポリマーマトリックス内に配置されるグラフェンフィラー成分であり、前記グラフェンフィラー成分は、グラフェンシートからなる複数のグラフェン粒子を含み、前記グラフェンシートは、前記平面に沿って整列される、前記グラフェンフィラー成分と、
を備えるポリマー正温度係数ボディ。
【請求項2】
前記PPTCボディの前記上面上に配置された少なくとも1つの電極及び前記PPTCボディの前記下面上に配置された少なくとも1つの追加の電極をさらに備える、請求項1に記載のポリマー正温度係数ボディ。
【請求項3】
前記扁平リング形状は、円形リング、矩形リング、楕円形リング、長円形リング、又は多角形リングを含む、請求項1又は2に記載のポリマー正温度係数ボディ。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックス内に複数の炭素粒子として配置される炭素フィラー成分をさらに備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリマー正温度係数ボディ。
【請求項5】
前記ポリマーマトリックスの体積百分率は50~99%である、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリマー正温度係数ボディ。
【請求項6】
前記グラフェンフィラー成分の体積百分率は、1%~50%である、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリマー正温度係数ボディ。
【請求項7】
炭素ナノチューブフィラー成分をさらに備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリマー正温度係数ボディ。
【請求項8】
ヒータにおいて使用するためのポリマー正温度係数ボディ(PPTCボディ)であって、
ポリマー正温度係数材料(PPTC材料)を含むポリマーマトリックスであり、前記ポリマーマトリックスは、平面内にある扁平リング形状に配置され、前記PPTCボディは、上面及び下面を有する、前記ポリマーマトリックスと、
前記ポリマーマトリックス内に配置される炭素ナノチューブフィラー成分であり、単層又は多層炭素ナノチューブ材料を備える、前記炭素ナノチューブフィラー成分と、
を備えるポリマー正温度係数ボディ。
【請求項9】
前記PPTCボディの前記上面上に配置された少なくとも1つの電極及び前記PPTCボディの前記下面上に配置された少なくとも1つの追加の電極をさらに備える、請求項8に記載のポリマー正温度係数ボディ。
【請求項10】
前記扁平リング形状は、円形リング、矩形リング、楕円形リング、長円形リング、又は多角形リングを含む、請求項8又は9に記載のポリマー正温度係数ボディ。
【請求項11】
前記ポリマーマトリックスの体積百分率は50~99%である、請求項8から10のいずれか一項に記載のポリマー正温度係数ボディ。
【請求項12】
グラフェンフィラー成分をさらに備える、請求項8から11のいずれか一項に記載のポリマー正温度係数ボディ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、ポリマー正温度係数ボディに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー正温度係数(PPTC)素子は、様々な用途の中で、過電流保護デバイスまたは過熱保護デバイス、および、電流センサまたは温度センサとして使用され得る。ポリマー正温度係数材料の場合は、導電性金属粒子相または導電性炭素粒子相またはセラミック導電相などの分散させた導電材料(フィラー)を含むポリマーマトリックスの熱膨張により、温度の上昇とともに電気抵抗が増加する。ポリマーマトリックスが融解転移などの相転移をする可能性があるトリップ温度では、それに伴ってポリマーの体積が大幅に増加すると、導電性フィラー粒子が互いに分離し、導電性経路が破壊されるため、抵抗が急激に増加し得る。冷却すると、ポリマーの体積が収縮するため、PPTC材料の抵抗率は、トリップ温度未満の比較的低い値へと戻る可能性がある。こうした挙動から、PPTC材料は、リセッタブルヒューズなどの用途に適している。一般に、PPTC材料の全体的な伝導率および温度による抵抗の増加は、導電性フィラーの含有量に依存し、ここで、高抵抗率(10~10000Ω・cm)のPPTC材料では、導電性フィラーの含有量が低いことに起因して、トリップ温度未満でも電気抵抗は温度の増加と共に大きく増加する傾向がある。トリップ温度未満で抵抗が増加すると、PPTC材料のI-R加熱が増加し、PPTC素子の異常なトリップにつながる可能性がある。従って、トリップ温度未満での安定した電気的動作が有用な用途では、既知のPPTC材料はあまり役に立たない可能性がある。
【0003】
この考慮事項および他の考慮事項に関して、本開示は提供される。
【発明の概要】
【0004】
一実施形態において、ポリマー正温度係数(PPTC)材料は、PPTCボディを画定するポリマーマトリックスと、ポリマーマトリックスに配置されたグラフェンフィラー成分であって、PPTCボディの予め定められた平面に沿って整列された複数のグラフェン粒子を含むグラフェンフィラー成分とを備えるPPTC成分を備える。
【0005】
別の実施形態において、抵抗ヒータは、ヒータボディを画定するリング形状に配置されるポリマー正温度係数(PPTC)材料と、2以上の場所で前記ヒータボディと接触するように配置される2以上の電極を含む電極アセンブリとを備え得、前記PPTC材料は、ポリマーマトリックスであって、PPTCボディを画定するポリマーマトリックスと、前記ポリマーマトリックスに配置されるグラフェンフィラー成分であって、前記ヒータボディの平面に沿って整列された複数のグラフェンシートを含むグラフェンフィラー成分とを含む。
【0006】
別の実施形態において、抵抗ヒータを製造する方法は、ポリマー粉末を提供する段階と、グラフェンシート成分および/または炭素ナノチューブ成分を前記ポリマー粉末と混合してPPTC材料を形成する段階と、前記PPTC材料を加熱してホットメルトを形成する段階であって、前記グラフェンシート成分は、前記ポリマー粉末から形成されたポリマーマトリックスにおいて均一に分散される、段階と、前記ホットメルトを押出してPPTCシートを形成する段階と、上の箔と下の箔との間にPPTCシートを積層してPPTCボディを形成する段階と、前記PPTCボディを単体化してPPTC抵抗ヒータコンポーネントを形成する段階とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の複数の実施形態に係るPPTCコンポーネントを示す。
【0008】
図2】本開示の複数の実施形態に係る別のPPTCコンポーネントを示す。
【0009】
図3】本開示の複数の実施形態に係る、例示的なPPTC材料に関する温度に応じた抵抗を示す。
【0010】
図4】本開示の複数の実施形態に係る、PPTCコンポーネントの処理の概略図を示す。
【0011】
図5】例示的なプロセスフローを示す。
【0012】
図6A】本開示の実施形態による、例示的な抵抗ヒータの温度に応じた例示的な抵抗を示す。
図6B】本開示の実施形態による、例示的な抵抗ヒータの温度に応じた例示的な電力曲線を示す。
【0013】
図7A】本開示の実施形態による、別の例示的な抵抗ヒータの温度に応じた例示的な抵抗を示す。
図7B】本開示の実施形態による、別の例示的な抵抗ヒータの温度に応じた例示的な電力曲線を示す。
【0014】
図7C】本開示の実施形態による、別の例示的な抵抗ヒータの温度に応じた例示的な抵抗を示す。
図7D】本開示の実施形態による、別の例示的な抵抗ヒータの温度に応じた例示的な電力曲線を示す。
【0015】
図8】本開示の複数の実施形態に係る、別の例示的な抵抗ヒータに関する温度に応じた例示的な電力曲線を示す。
【0016】
図8A】PPTC素子の電気的挙動を測定するための例示的な試験回路を示す。
【0017】
図9】基準となる例示的なヒータに関する温度に応じた電力曲線を示す。
【0018】
図10A】本開示の実施形態による、例示的なPPTC抵抗ヒータの側面図を示す。
【0019】
図10B図10Aの抵抗ヒータコンポーネントの代替的な変形を平面図で示す。
図10C図10Aの抵抗ヒータコンポーネントの代替的な変形を平面図で示す。
【0020】
図11】例示的なPPTCベースの抵抗ヒータの回路図を提供する。
【0021】
図12】本開示の複数の実施形態に係る、例示的なPPTCベースの抵抗ヒータコンポーネントを示す。
【0022】
図13】例示的なPPTCベースの抵抗ヒータの回路図を提供する。
【0023】
図14】本開示の複数の実施形態に係る、例示的なPPTC抵抗ヒータを示す。
【0024】
図15A】本開示の実施形態による、新規のカメラの断面を示す。
【0025】
図15B】本開示の実施形態によるヒータのコンポーネントの平面図および斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ここで、以下では、例示的な実施形態が示される添付図面を参照しながら、本実施形態についてより十分に説明する。これらの実施形態は、本明細書に記載の実施形態に限定されるものと解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が十分かつ完全なものになり、当該実施形態の範囲が当業者に十分に伝わるように提供される。図面では、全体を通じて同様の番号が同様の要素を指す。
【0027】
以下の説明および/または特許請求の範囲では、「上(on)」、「上にある(overlying)」、「上に配置され(disposed on)」、および「上方(over)」という用語が、以下の説明および特許請求の範囲で使用され得る。「上」、「上にある」、「上に配置され」、および「上方」は、2つまたはそれより多くの要素が互いに物理的に直接接触していることを示すために使用され得る。また、「上」、「上にある」、「上に配置され」、および「上方」という用語は、2つまたはそれより多くの要素が互いに直接接触していないことを意味し得る。例えば、「上方」は、1つの要素が別の要素の上にあるが互いに接触していないことを意味してよく、これら2つの要素の間に別の1または複数の要素を有してよい。更に、「および/または」という用語は、「および」を意味してよく、「または」を意味してよく、「排中的な「または」」を意味してよく、「一方」を意味してよく、「全てではないがいくつか」を意味してよく、「どちらでもない」を意味してよく、および/または「両方」を意味してよいが、特許請求される主題の範囲は、この点において限定されない。
【0028】
様々な実施形態において、単層炭素ナノチューブ、多層炭素ナノチューブ、またはグラフェンなどのナノサイズの炭素フィラー材料を有する導電性フィラーを含む、新規PPTC材料が提供される。PPTC材料は、ポリエチレン、ポリエチレン共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、フッ素系ポリマー樹脂、またはフルオロポリマーと他のポリマーとの混合物などのポリマーマトリックスを含み得る。PPTC材料は、様々な非限定的な実施形態において、抗酸化剤、分散剤、架橋剤、およびアーク抑制剤などを含み得る。以下で詳細に説明されるように、本実施形態のPPTC材料によって提供される利点は、室温から最大使用温度までの温度範囲にわたる安定した電力であり、ここで、電力の変動は、60%未満、例えば、50%~60%などであり得、または、いくつかの実施形態において、30%未満、例えば、20%~30%未満などであり得る。
【0029】
特定の実施形態は、グラフェンフィラーおよび半結晶性ポリマーマトリックスから形成されるポリマー正温度係数(PPTC)材料に基づく。係るPPTC材料により与えられる安定した抵抗挙動によって、PPTCコンポーネントを採用した抵抗ヒータなどの新たな用途が得られる。抵抗挙動が安定していると、概してPPTCコンポーネントのトリップ温度と関連する、ポリマーマトリックスの融点未満の温度に応じたヒータ電力挙動が安定する。別の利点は、均一かつ効果的な熱伝達である。更に、ポリマーの種類、導電性フィラー、導電性フィラーの体積分率を調整することにより抵抗率およびトリップ温度が調整され得るため、抵抗ヒータの用途に従って消費電力および電力制限温度がカスタマイズされ得る。
【0030】
特定の実施形態では、PPTC材料は、所望の用途に従って、PPTCボディを画定する形状およびサイズを有するポリマーマトリックスとして並べられ得る。例として、PPTCヒータは、リング形状ヒータまたは他の適切な形状を含む平面ヒータとして並べられ得る。PPTC材料はまた、ポリマーマトリックスに配置されたグラフェンフィラー成分を含み、ここで、グラフェンフィラー成分は、リング形状PPTCコンポーネントの主平面など、PPTCボディの予め定められた平面に沿って整列された複数のグラフェンシートから形成される。
【0031】
いくつかの実施形態では、PPTC材料は、グラフェンフィラーのみで形成される導電性フィラーを含み得るが、他の実施形態では、グラフェンフィラーに加えて、既知の炭素フィラーなどの第2導電性フィラーが追加され得る。図1は、本開示の複数の実施形態に係るPPTCコンポーネントを示す。PPCTコンポーネント100は、PPTCボディ102を含み、当該ボディは、ポリマーマトリックス104、および、ポリマーマトリックス104内で微小シートとして分散されているグラフェンフィラー106を含む。PPTCコンポーネント100は、電極108として示される一対の対向する電極を更に含み、外部電圧を印加して、これらの対向する電極間でPPTCボディ104を介して電流を駆動することができる。ポリマーマトリックス104に好適なポリマーの非限定的な例は、ポリエチレン、フッ化ポリビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン、エチレンビニルアセテート、エチレンおよびアクリル酸共重合体、エチレンブチルアクリレート共重合体、ポリ-パーフルオロアルコキシなどの半結晶性ポリマーを含む。
【0032】
PPTCボディ102におけるポリマーマトリックスの体積百分率は、いくつかの実施形態において、50~99%の範囲であり得、特定の実施形態において60~95%の範囲であり得る。様々な非限定的な実施形態において、グラフェンの体積分率は、1%~50%の範囲であってよく、特定の実施形態では、4%~30%の範囲であってよい。グラフェンフィラー106用のグラフェンは、機械的または化学的な手段で調製されてよく、グラフェン粒子は、粒子中のグラフェンシートの数が、様々な実施形態によれば、1から数百の範囲であり、特定の実施形態では、1から約30層の範囲である、グラフェンシートの層から形成される。故に、いくつかのグラフェンシートから形成されるグラフェン粒子は、二次元のシート状の形状を有することもできる。いくつかの実施形態によれば、結果として得られるグラフェン粒子のサイズは、0.1μm~100μm、特に、1μm~30μmの範囲であってよい。
【0033】
背景として、グラフェンは、二次元特性を有する炭素の結晶同素体である。これらの炭素原子は、規則的な原子スケールの六角形パターンでグラフェン内に密集している。グラフェンは、1500~2500W/(m・K)の範囲の高い熱伝導率を有する。図1の実施形態において、グラフェンフィラーは、シート状の粒子として配置され、ここで、粒子(シートの平面を意味する)は概ね、PPTCボディ104の予め定められた平面に沿って(示されるデカルト座標系のX-Y平面に沿って、など)整列される。グラフェンフィラー106の高い熱伝導率によって、Z方向に沿った環境への熱伝達を効果的に可能にするだけでなく、X-Y平面における均一な熱伝達を可能にする。これらの熱特性は、特に、ヒータ用途に有用である。加えて、グラフェンシートは、10-6Ω cmの低いバルク電気抵抗率を有し、もっとも伝導性の高い金属は、2×10-6Ω cm以上に近いバルク抵抗を有する。更に、グラフェンの2D構造によって、ポリマーマトリックス104中の半結晶性ポリマーがグラフェン粒子の2つの側に接触することができ、その結果、ポリマーマトリックス104が融点に達すると、PPTC材料が同調的に温度に応答することができる。
【0034】
図2は、本開示の複数の実施形態に係る別のPPTCコンポーネント120を示す。 この例では、PPTCコンポーネント120は、上記のPPTCコンポーネント100と概して同じように並べられてよく、同様のコンポーネントには同じ符号が付けられている。PPTCコンポーネント120は、PPTCボディ112が導電性コンポーネント110を更に含むという点でPPTCコンポーネント100という点で異なり、導電性コンポーネント110は、ポリマーマトリックス106中に複数の炭素粒子またはセラミック導電性粒子(TiCまたはWCなど)として配置される炭素フィラーおよび/またはセラミック導電性コンポーネントであってよい。そのため、導電性コンポーネント110は、PPTCコンポーネント100の電気的特性に関して、PPTCコンポーネント120の電気的特性を変更することができる。
【0035】
図3は、本開示の複数の実施形態に係る、例示的なPPTC材料に関する温度に応じた抵抗を示す。この場合は、これら2つの異なる曲線は、概して図1および図2にそれぞれ並べられるような2つの異なるPPTC材料の挙動を表す。下側の曲線はPPTCコンポーネント100に対応し、上側の曲線はPPTCコンポーネント120に対応する。両方の例において、室温から約140℃~150℃の抵抗は比較的低く安定しているが、トリップ温度170℃で急激に増加している。純粋なグラフェン成分の場合は、抵抗が900Ohm以上までに増加し、グラフェンおよび炭素フィラーを有するPPTCコンポーネントの場合は、抵抗が24,000Ohm以上まで増加する。両方の例において、トリップ温度未満の低い温度抵抗は、非常に安定であることに留意されたい。
【0036】
図4は、本開示の複数の実施形態に係る、PPTCコンポーネントの処理の概略図を示す。ヒータ用途などに適したPPTCコンポーネントを形成するには、PPTC材料を押出装置で押出して、PPTCの層またはシートを形成することができる。概して、ポリマー材料とグラフェン粒子との混合物などのPPTC材料220が、押出チャンバ204に結合されるレセプタクル202に追加されてよく、PPTC材料220は、押出コンポーネント206により混合加熱され、絞り出され(drawn)て、シートまたは層の形態でPPTCボディ210を形成することができる。
【0037】
図5は、例示的なプロセスフロー302を示す。ブロック302では、ポリマー材料および導電性粉末および任意選択的な添加剤が混合される。ポリマー材料は半結晶性ポリマーの粉末であり得、一方、導電性フィラーはグラフェン粒子を含み、任意で、炭素粒子および/または導電性セラミック粒子を更に含み得る。ブロック304では、ホットメルトプロセスが実行され、ポリマーおよび導電性フィラーなどの混合成分が、ポリマーを融解させ、かつ、それに応じて導電性フィラー粒子をポリマーマトリックス中により均一に分散させる、温度に加熱される。ブロック306では、PPTC材料のシートを形成するためのシート押出が実行され、ポリマーと導電性フィラーとの融解混合物が押出されて、PPTCシートまたは層を形成する。ブロック308では、導電性金属層(箔)を、押出されたPPTCシートの上面および下面に塗布して、積層体を形成することができる。ブロック310では、当該積層体を単体化して、対向する電極間に挟まれるPPTCボディを含む個々のコンポーネントを形成することにより、1または複数のPPTCコンポーネントが形成される。いくつかの例では、単体化されたPPTCボディは、円形リング、矩形リング、長円形状リング、楕円形状リング、または多角形リングなどのリングの形状を有し得る。ブロック312では、単体化されたPPTCボディが組み立てられて、ヒータなどのデバイスになる。例えば、単体化されたPPTCボディは、PPTCヒータを形成するためにこれらの対向する電極に接続されるリード(ワイヤ)に取り付けられ得る。任意選択で、ヒータは、カメラまたは加熱される他の構造などの別の構造に組み込まれ得る。ブロック314では、絶縁被覆を施して、PPTCヒータのコンポーネントを封入することができる。例えば、化学溶液槽での電気泳動析出により絶縁被覆を形成して、CVDによりパリレン被覆を形成するか、または、他の絶縁被覆を形成することができる。
【0038】
ここで図6Aおよび図6Bを参照すると、本開示の実施形態による、例示的な抵抗ヒータの温度に応じた例示的な抵抗および電力曲線がそれぞれ示されている。例示的なヒータは、ポリマーマトリックスおよびグラフェンフィラーを有するPPTC材料から形成される。図6Aに示すように、抵抗は、25℃から約150℃まで実質的に変化せず、その後、170℃を超えると急激に増加する。逆に、消費電力は、100℃までは3.3ワットから3ワットのままであり、150℃で1.8Wまで徐々に減少し、150℃より上でより急激に減少し、175℃では約0.2ワットであり、ポリマーの融点付近の電力を制限する。
【0039】
図7Aおよび図7Bは、本開示の複数の実施形態に係る、別の例示的な抵抗ヒータに関する温度にそれぞれ応じた例示的な抵抗曲線および電力曲線を示す。例示的なヒータは、グラフェンフィラーに加えて、炭素フィラー、およびポリマーマトリックスを有するPPTC材料から形成される。図7Aに示すように、抵抗は、25℃から約150℃まで実質的に変化せず、次に、170℃を超えると急激に増加する。逆に、消費電力は、100℃までは3.3ワットから約2.6ワットに減少し、その後、170℃で0ワット近くに急激に減少する。上記の結果は、炭素をグラフェンベースのPPTCボディに追加することによりヒータ特性が調整され得る方法を示す。
【0040】
本開示の他の実施形態では、PPTCヒータは、単層または多層の炭素ナノチューブ材料などの炭素ナノチューブ材料から形成されるフィラーを有するPPTC材料から形成され得る。
図7Cおよび図7Dは、本開示の複数の実施形態に係る、別の例示的な抵抗ヒータに関する温度にそれぞれ応じた例示的な抵抗曲線および電力曲線を示す。例示的なヒータは、ポリマーマトリックスおよび炭素ナノチューブフィラーを有するPPTC材料から形成される。図7Dに示されるように、150℃未満では、電力のレベルは、図9に関して下で説明されるような炭素フィラーに基づくPTCヒータより比較的安定する。
【0041】
図8は、本開示の複数の実施形態に係る、別の例示的な抵抗ヒータに関する温度に応じた例示的な電力曲線を示す。図8Aは、PPTC素子の電気的挙動を測定するための例示的な試験回路を示す。図8において、2つの電力曲線が示されており、一方は16Vがヒータに印加された場合の曲線、もう一方は13.5Vがヒータに印加された場合の曲線である。電圧がより高い場合は、より高い電力(3.4ワットを2.4ワットと比較)が駆動されることが示されている。但し、どちらの場合も、電力は20℃から140℃の間でほぼ一定に保たれ、その後、150℃を超えると急激に減少してから、170℃を超えると1ワット未満の電力レベルに達する。150℃を超えてからの電力の減少は、PPTCヒータのトリップを反映しており、抵抗が急激に増加するため、所与の印加電圧に対する電流および総電力が制限される。故に、図8のPPTC材料のヒータ要素は、トリップ温度を超えて制限された電力に減少する前に、広い温度範囲にわたって均一な電力を提供するように機能する。
【0042】
比較として、図9は、グラフェンフィラーがないPPTCに基づく基準ヒータに関する温度に応じた電力曲線を示す。図9には、2つの電力曲線も示されており、一方は16Vがヒータに印加された場合の曲線、もう一方は13.5Vがヒータに印加された場合の曲線である。電圧がより高い場合は、より高い電力(2.1ワットを1.5ワットと比較)が駆動されることが示されている。但し、どちらの場合も、電力は20℃から140℃の間で継続的かつ実質的に減少し、150℃を超えるとほぼゼロワットの電力に達する。故に、係る抵抗ヒータは、トリップ温度未満など、室温から150℃の間の有用な温度範囲にわたって安定した電力出力を示さない。
【0043】
本開示の様々な実施形態によれば、PPTCヒータを、カメラなどにおけるコンポーネントでの使用に適合させることができる。図10A図15Bに関する以下の実施形態において、カメラへのPPTC抵抗ヒータの組み込みを含む、PPTC抵抗ヒータの新規構成が示されている。様々な実施形態によれば、PPTC抵抗ヒータは、前述の実施形態で概して説明したように、炭素充填ポリマーなどの既知のPPTC材料に基づくものであってもよいし、グラフェン充填ポリマーに基づくものであってもよい。グラフェン充填ポリマーに基づくPPTCヒータは、広い温度範囲にわたって安定した電流動作が求められる用途に特に適している可能性がある。
【0044】
図10Aは、本開示の複数の実施形態に係る、例示的なPPTC抵抗ヒータ350の側面図を示す。抵抗ヒータ350は、PPTC抵抗ヒータコンポーネント360および外部ワイヤ370を含む。抵抗ヒータコンポーネントは概して、例えば、図1および図2の実施形態に関して上述したように並べられ得る。抵抗ヒータコンポーネント360は、カメラなどの加熱されるコンポーネントの周囲に隣接するように、平面図で見たときにリング形状を有し得る。矢印は、S撚りワイヤ370からPPTC抵抗ヒータコンポーネント360を介して流れ、Z撚りワイヤ370から流出する電流に関する電流経路を示す。図10Bおよび図10Cは、抵抗ヒータコンポーネント360の代替的な変形例を平面図で示す。抵抗ヒータコンポーネント360は、円形リングボディとして並べられるPPTCボディ362と、電極364として示される対向する電極とを含む。図10Bに示すように、例えば、抵抗ヒータコンポーネント360Aが、セグメント364Aおよび364Bとして示される2つのリングセグメントとしてこれらの対向する電極と共に並べられ、円形リングボディの一部が、示されているように、露出領域362Aおよび露出領域362Bで露出されている。図10Aおよび図10Bの構成は、セグメント364Aおよび364Bの互いからの相対的な配置と、露出領域362Aおよび露出領域362Bの形状およびサイズとが互いに異なる。この構成のため、図10Aに示すように、抵抗が最も小さい経路を介して流れる電流は、S撚りワイヤ370から電極364のうちの下側へと縦方向に流れ、次に、PPTCボディの下面に沿って電極364に沿って横方向に流れることができる。次に、電極364の切れ目によって、電流は、上面へと縦方向に流れ、次に、上面に沿って横方向に、PPTCボディの上面から下面へと縦方向に、下側電極に沿って横方向に流れ、Z撚りワイヤ370から縦方向に流出することができる。
【0045】
図11は、図10A図10Cの例示的なPPTCベースの抵抗ヒータの回路図を提供する。要素R0およびR7は、ワイヤ370からの抵抗を示す。要素R1、R4、およびR6は、箔からの抵抗を示し、要素R2、R3、およびR5は、PTCリングボディからの抵抗を示す。示されているように、要素R3の抵抗は、PTCリングの左側および右側で発生するR2およびR5の抵抗より大きくてよい。
【0046】
図12は、本開示の複数の実施形態に係る、PPTCヒータコンポーネント400として示される例示的なPPTCベースの抵抗ヒータコンポーネントを示す。この例では、PPTCヒータコンポーネント400は、側面図(上および下)および平面図(中央)に示すように、扁平リング形状を有する。PPTCヒータコンポーネント400は、概して、図1および図2の実施形態に示すように並べられてよく、対向する電極間にPPTCボディが挟まれる。この場合は、これらの対向する電極は、上側リング面および下側リング面の大部分を覆うことができる。
【0047】
図13は、図12の例示的なPPTCベースの抵抗ヒータの回路図を提供する。要素R0およびR7は、PPTCヒータ400に接続される外部ワイヤからの抵抗を示す。要素R1、R2、R5、およびR6は、はんだパッドからの抵抗を示し、要素R3、R4は、PTCボディからの抵抗を示す。
【0048】
図14は、本開示の複数の実施形態に係る、例示的なPPTC抵抗ヒータ450の側面図を示す。抵抗ヒータ450は、PPTC抵抗ヒータコンポーネント400および外部ワイヤ410を含む。矢印は、S撚りワイヤ410からPPTC抵抗ヒータコンポーネント400を介して流れ、Z撚りワイヤ410から流出する電流に関する電流経路を示す。示されているように、電流は、S撚りワイヤ410から、PPTCボディの下面から上面へと縦方向に流れ、次に、上側電極に沿って横方向に、PPTCボディの上面から下面へと縦方向に、下側電極に沿って横方向に流れ、Z撚りワイヤ410から流出することができる。
【0049】
様々な実施形態において、PPTCヒータは、プリント回路ボード(PCB)に組み込まれ得る。例えば、抵抗ヒータコンポーネント400は、PCBを使用して表面実装PTC抵抗ヒータ構成を支持する抵抗ヒータに組み込まれることができる。
【0050】
言及されているように、本実施形態に係るPPTC抵抗ヒータは、カメラに組み込まれ得る。図15Aは、カメラレンズアセンブリに組み込まれるリングとして並べられる、PPTC抵抗ヒータコンポーネント400Aを含む新規カメラ450を示す。PPTC抵抗ヒータコンポーネント400Aは、抵抗加熱法でカメラレンズを加熱するように、カメラレンズ430と熱接触していてよい。リング形状のため、カメラレンズ430の外周は直接加熱され得る。このように、カメラレンズを所定の量まで加熱して、例えば、湿気または沈殿物を追い払うことができる。
【0051】
図15Aの特定の実施形態では、ヒータコンポーネント400Aは、上記のヒータコンポーネント400について示されるような電流を伝導することができる。ヒータコンポーネント400Aは、PTCボディ412、金属箔層414、導電性金属部分418、および絶縁層416を含む。ヒータコンポーネント400Aは、接触金属419を介してワイヤ410に接合され得る。図15Bには、ヒータコンポーネント400Aの平面図が示されており、図15Aの上部は、図15Bに示す半円形経路に沿った断面A-Aに対応する。故に、ヒータコンポーネント400Aは、表面実装技術に従って並べられ得る。特に、ヒータコンポーネント400Aは、PCBリング420上で支持されてよく、ヒータコンポーネント400AおよびPCBリング420は、図15Bに示すようにリング形状を有する。ヒータコンポーネント400Aは、概して図14に示すような電流経路を生成するために、示されているような2つのセグメントに分割され得る。とりわけ、ワイヤ410間の電流は、2つの半円形の平行な経路を移動することができる。様々な非限定的な実施形態において、ヒータコンポーネント400Aの総厚は約2mmであってよく、PCBリング420の厚みは1mm未満である。PCBリング420に適した材料の非限定的な例には、FR4、銅インレイPCB、または、AlまたはAlNなどのセラミックPCBが含まれる。
【0052】
本実施形態に係るPPTC抵抗ヒータが、加熱されるカメラまたは他のデバイスに組み込まれる場合は、以下の利点が実現され得る。1)自己バランス配電設計、2)薄いがカメラハウジングから完全に絶縁されたコンポーネント、3)非常に狭いエリアに適合できる特別な形状のヒータ、4)ポリマーマトリックスに追加される任意選択的な炭素粒子、およびグラフェン粒子の体積分率(グラフェンベースのPPTC材料の場合)などのフィラーレシピを調節することにより抵抗ヒータの電力対温度性能が調整され得るコンポーネント、5)広い温度範囲にわたって、例えば、最高動作温度まで電力発生対温度動作が安定している抵抗ヒータ(グラフェンベースのPPTC材料の場合)、6)より寒い環境でのより高い電力発生、7)より温かい環境でのより低い電力発生、8)電力が自己制限された抵抗ヒータ。
【0053】
本実施形態は特定の実施形態を参照して開示されているが、添付した特許請求の範囲で定義されるように、本開示の領域および範囲から逸脱することなく、記載されている実施形態に対する数々の修正、改変、および変更を行うことが可能である。従って、本実施形態は、記載されている実施形態に限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲の文言およびその同等物により定義される全範囲を有し得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図8A
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
【外国語明細書】