(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008486
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ササゲの栽培世代促進方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/40 20180101AFI20240112BHJP
A01C 1/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
A01G22/40
A01C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110405
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】石井 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】エディット、 オフィオング ウクポング
【テーマコード(参考)】
2B022
2B051
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB20
2B051AA01
2B051AB01
2B051BA04
2B051BB03
2B051BB05
(57)【要約】
【課題】ササゲの世代時間を短縮させる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】ササゲの世代時間を短縮させる方法であって、受粉後9日以降に得られる未成熟種子を、38~42℃の温度で乾燥処理することを含む方法が提供される。その方法を実行するためのシステムも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ササゲの世代時間を短縮させる方法であって、受粉後9日以降に得られる未成熟種子を、38~42℃の温度で乾燥処理することを含む、方法。
【請求項2】
前記未成熟種子は鞘に入ったままの状態で前記乾燥処理を受ける、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記未成熟種子は、受粉後12日以内に得られる種子である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記未成熟種子は、受粉後10~11日に得られる種子である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥処理は、38.5~41.5℃の温度で行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥処理は1~3日間行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
播種から花芽分化までの段階、および/または花芽分化から前記未成熟種子の取得までの段階のササゲを、昼/夜の光サイクルを提供する培養チェンバー内で栽培することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
播種から前記乾燥処理の終了までが60日未満で完了する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
38~42℃の温度に設定された乾燥用オーブンと、前記乾燥用オーブン内に入れられた、受粉後9日齢以上のササゲの未成熟種子とを含む、請求項1または2に記載の方法を実行するためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はササゲの栽培世代を促進させる方法、すなわち一世代に掛かる期間を短縮させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の新品種育成には、通常、少なくとも10年は必要とされる。しかし、近年の地球温暖化および人口爆発により、食糧生産能力の不足が危機的な状況になりつつあるため、食料作物の改良を促進して食糧問題を緩和する方策を打ち立てることが緊急の課題となっている。
【0003】
ササゲは、乾燥地帯で栽培可能なマメ亜科の農産物であり、例えばサハラ以南アフリカ等の乾燥地帯における食料安全保障の改善のための鍵となる可能性を有している。ササゲは家畜の飼料としての価値も高い。ゲノム編集、マーカー選択に基づく育種、形質転換プロトコール等、現代的な植物改善技術の適用がササゲでも試みられているが、ササゲは通常のフィールド栽培条件では年に一世代ずつしか栽培できないという欠点がある。この栽培速度の遅さは、上記のような諸技術による植物改善の効率を阻害する。例えば10世代の交配を要する品種開発をフィールドで行おうとすると、完成するまで10年以上も掛かることになる。
【0004】
他の農業的に重要な作物(いくつかの豆類を含む)については、異なる光質とその照射時間、温度制御、CO2濃度制御等を通じた加速栽培の手法が確立された例がある。ササゲの加速栽培の可能性については比較的知見が乏しい。非特許文献1は、昼/夜の光サイクル、温度、およびCO2濃度を制御できる培養チェンバー内でササゲの栽培を行うと、品種にもよるが、栄養成長期(vegetative stages)V3-V4と生殖成長期(reproductive stages)R5-R9の合計が54~89日になることを記載しており、これは1年に複数世代をサイクルできる可能性を示唆している。
【0005】
ダイズに関する非特許文献2は、蛍光ランプを備え明14時間(30℃)/暗10時間(25℃)の光・温度サイクルを維持しCO2が>400ppmで供給された培養チェンバー内でダイズを栽培すると、播種から開花までの時間が、フィールドで観察される33~59日と比べて、約25日にまで短縮されたことを記載している。非特許文献2はさらに、未成熟のダイズ鞘を収穫して室温で空気乾燥させると、種子は成熟し、正常に発芽したことを記載している。すなわち非特許文献2は、ダイズが開花してから種子が成熟するまで通常なら65~92日かかるところを、開花後37日で未成熟種子を収穫し、それを室温で8日間空気乾燥させて成熟させることにより、上記65~92日の成熟期間を37+8=45日にまで短縮できたことを記載している。全体として非特許文献2は、ダイズの世代時間を、フィールドで観察される102~132日と比べて、70日(上記25日+45日)にまで短縮できたことを記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Pesq. Agropec. Trop., v. 50, e59377, 2020
【非特許文献2】Plant Cell Physiol. 60(1): 77-84, 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の実施形態はササゲの世代時間を短縮させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ササゲの未成熟種子を高温度で乾燥させることにより、発芽率を維持しつつササゲの世代時間を短縮することができることを見出した。
【0009】
本開示は以下の実施形態を含む。
[1]
ササゲの世代時間を短縮させる方法であって、受粉後9日以降に得られる未成熟種子を、38~42℃の温度で乾燥処理することを含む、方法。
[2]
前記未成熟種子は鞘に入ったままの状態で前記乾燥処理を受ける、[1]に記載の方法。
[3]
前記未成熟種子は、受粉後12日以内に得られる種子である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
前記未成熟種子は、受粉後10~11日に得られる種子である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記乾燥処理は、38.5~41.5℃の温度で行われる、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記乾燥処理は1~3日間行われる、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
播種から花芽分化までの段階、および/または花芽分化から前記未成熟種子の取得までの段階のササゲを、昼/夜の光サイクルを提供する培養チェンバー内で栽培することをさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
播種から前記乾燥処理の終了までが60日未満で完了する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]
38~42℃の温度に設定された乾燥用オーブンと、前記乾燥用オーブン内に入れられた、受粉後9日齢以上のササゲの未成熟種子とを含む、[1]~[8]のいずれかに記載の方法を実行するためのシステム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一態様において本開示は、ササゲの世代時間を短縮させる方法であって、受粉後9日以降に得られる未成熟種子を、38~42℃の温度で乾燥処理することを含む方法を提供する。この乾燥処理により、育種目的で利用できる播種可能なササゲ種子を、早期に収穫された未成熟ササゲ種子から誘導することができる。本実施形態による乾燥処理を受けた未成熟種子は、単純に土に蒔いて発芽させることができ、胚培養等の複雑な操作や高価な機材の必要性を有しない。
【0011】
ササゲ(cowpea)は、Vigna unguiculataの学名で表される豆類であり、いくつかの品種が知られている。本開示においてササゲの世代時間とは、播種時から計算して次世代の播種が可能になるまでの時間、または播種から次世代の種子の収穫までの時間を意味し得る。
【0012】
ササゲの鞘および種子は通常、開花から15日でサイズ(鞘長、種子長を含む)に関して最大の成長に達し、その後、植物体上で乾燥していって成熟する(Cruz et al., JEAI, 34(2):1-8, 2019)。この成熟過程は典型的には鞘が茶色に変色していくことを伴う。従って未成熟種子とは、サイズが成長途上にある、および/または乾燥変色が始まっていない鞘中に見られる種子を指すことができる。これは例えば受粉後14日またはそれ未満の時点での種子である。通常は、上記のように植物体上で乾燥し変色した鞘から成熟種子が収穫され(例えば受粉の約1カ月後)、食用、または次世代の播種の用に供される。それに対し本実施形態では、受粉後9日以降に得られる未成熟種子を収穫することができるため、ササゲの世代時間を著しく短縮させることができる。
【0013】
非特許文献2には、特に温度調節をすることなく室温で8日間、ダイズの未成熟種子を空気乾燥させることが記載されていた。ササゲは、同じマメ亜科とはいえどもダイズとは進化系統的および生理学的に大きく異なる植物であり、例えば発達速度は異なりCO2濃度等環境への応答も異なっており、ダイズの場合のような未成熟種子の利用が可能か否か、可能とすればどのような条件が有効になるかについて、手掛かりが存在していなかった。本発明者らは、受粉後9日以降に得られる未成熟のササゲ種子を収穫して次世代の播種のために利用することができるが、ただし、単に未成熟種子を室温で乾燥させるだけでは、蒔いた土から発芽しなかったり著しく発芽率が低下したりすることを見出した。発芽率の低さは育種の効率を著しく低下させ得る。しかし、驚くべきことに、38~42℃という高い温度でこれら未成熟ササゲ種子を乾燥処理すると、室温乾燥では発芽しなかった受粉後9日齢という若い未成熟種子でも発芽可能になり、全体として未成熟種子からの発芽率が顕著に上昇することが発見された。また、その乾燥処理は1~3日間のような比較的短時間で済ませられることが見出された。それより長く、例えば3日間超または4日間以上乾燥を行ってもよいが、乾燥時間を長くすると、播種から次世代の播種までの時間を短縮できるという利点の程度が犠牲になる。しかしその場合でも、播種から次世代の種子収穫までの時間を短縮させるという目的は達成されていると言える。種子は植物体そのものと比べて取扱いが簡単なので、まだ乾燥処理を要するとしても、種子の収穫時期を早められること自体がメリットになり得る。
【0014】
本開示において、受粉後n日(齢)の種子とは、受粉時を基準時としてそれからn日経ちかつn+1日は経っていない時点で得られた種子を意味する。受粉後日齢をDAP(days after pollination)と呼ぶこともある。例えば受粉後9日齢以上、10日齢以上、11日齢以上、12日齢以上、13日齢以上、または14日齢以上(例えば15日齢以下、14日齢以下、13日齢以下、12日齢以下、11日齢以下、または10日齢以下)の未成熟の種子または鞘を乾燥処理に供し得る。乾燥処理の長さは例えば1日以上、2日以上、3日以上、または4日以上(例えば5日以下、4日以下、3日以下、または2日以下)であり得る。収穫時のDAPの数値+乾燥処理の日数が18未満であることが好ましい。より好ましい乾燥処理の時間は1.5~2.5日間であり、特に好ましくは2日間である。乾燥処理の温度は好ましくは38.5~41.5℃であり、より好ましくは39~41℃であり、特に好ましくは39℃である。
【0015】
乾燥処理の際には、周囲環境(例えばオーブン内)の加湿は無論のこと除湿手段も特に加える必要はないが、シリカゲルのような乾燥剤の存在下で未成熟種子の乾燥処理を行うと発芽率および/または実生の活力の向上がもたらされることがあるので好ましい。オーブン内の除湿に適した乾燥剤は当業者に知られており、シリカゲルはその一例である。乾燥処理のためには一般的な実験室用オーブンを好適に用いることができるが、使用可能な乾燥手段の例はこれに限定されない。オーブンという用語は、周囲環境より高い上記温度を有する空間を提供することができる装置または設備を包含し、例えば「インキュベーター」など別の名称を与えられたオーブンもあり得る。実験室用オーブン等に依存せずとも、本実施形態の方法で使用される38~42℃の温度環境は簡便な方法で提供可能であり、本実施形態の方法は少ない労力とコストで実行可能である。
【0016】
未成熟種子は、鞘に入ったままの状態で乾燥処理を受けることが好ましいが、鞘から出して乾燥処理に付すことも可能である。未熟種子から未熟胚を摘出して培養することによっても植物を作ることが可能なことが知られていることから、種子の成熟は鞘からある程度独立していると考えられる。
【0017】
いくつかの好ましい実施形態において、未成熟種子は、受粉後12日以内に得られる種子、すなわち受粉後12日齢以下の種子である。世代時間を短縮させる効果の大きさと発芽率の高さのバランスから、受粉後10~11日に得られる未成熟種子がより好ましく、受粉後11日齢の未成熟種子が特に好ましい。好ましい一実施形態では、受粉後11日齢の未成熟種子が、39℃の温度で2日間、乾燥処理される。受粉は人為的に行うことができ、例えば人の手で行われるが、必ずしもこれに限定されない。
【0018】
本実施形態においてササゲを栽培する際に、播種から花芽分化(flower bud initiation)までの段階、および/または花芽分化から上記未成熟種子の取得までの段階のササゲを、制御された昼/夜の光サイクルを提供する培養チェンバー内で栽培することが好ましい。培養チェンバーの使用により、フィールドでの栽培と比べて全体的な成長を効率化させ世代反復頻度を促進させることができ、そのうえさらに未成熟種子を利用することによる世代時間短縮の効果を享受することができる。しかしながら、植物を栽培できるのは植物培養チェンバーに限らないことは言うまでもなく、圃場条件下で栽培されたササゲに本方法(未成熟種子の乾燥処理)を適用する実施形態も当然ながら企図される。一世代中の栽培の、ある部分を培養チェンバーで行い別の部分を圃場で行ってもよい。
【0019】
培養チェンバーの昼期間の長さは例えば12~14時間とし得る。昼期間の光源としては、例えば当業者に知られるLEDランプまたはメタルハライドランプを使用することができる。一例において、播種から花芽分化までの段階で500~800μmolm-2s-1の光源(メタルハライドランプ)を用いた場合に成長速度の増加と植物サイズの増大が見られ、花芽分化から上記未成熟種子の取得までの段階で200~500μmolm-2s-1の光源(LEDランプまたはメタルハライドランプ)を用いた場合に受粉成功率の向上が見られた。昼期間の温度を夜期間の温度より高く、例えば1~8℃または3~6℃高くすることが好ましい。昼期間の温度は例えば24~32℃とし得、25~29℃が好ましい。夜期間の温度は例えば20~29℃とし得、22~24℃が好ましい。昼期間の相対湿度を夜期間の相対湿度より低く、例えば5~15%または8~12%低くしてもよい。例えば昼期間の相対湿度を60~70%、夜期間の相対湿度を70~80%とし得る。
【0020】
本実施形態によれば、播種から乾燥処理の終了までを、60日未満で完了することができる。このような世代時間は、好ましくは培養チェンバーを用いた栽培を未成熟種子の乾燥処理と組み合わせることにより達成されるが、フィールドでの栽培に未成熟種子の乾燥処理を組み合わせて同様の世代時間が達成される可能性も排除されない。播種から乾燥処理の終了までの期間は、品種にもよるが例えば55日以下、50日以下、あるいは45~48日にまで短縮することも可能である。これは、培養チェンバーを用いた栽培で通常通り植物上で種子を成熟させる場合と比べて約16~20日の短縮、あるいは年間約2世代の栽培サイクル数増加に相当し得る。本実施形態により、1年に8世代ものササゲ栽培サイクルを行うことが可能である。
【0021】
別の態様において本開示は、上述してきた方法を実行するためのシステムを提供する。このシステムは、38~42℃の温度に設定された乾燥用オーブンと、その乾燥用オーブン内に入れられた、受粉後9日齢以上のササゲの未成熟種子すなわち受粉後9日以降に収穫された未成熟種子、または当該未成熟種子を含有する鞘とを含み得る。上記で説明してきた方法の様々な実施形態に応じて、当該システムにおけるオーブンの設定温度、種子の未成熟度、乾燥剤の有無を含む様々なパラメータがさらに限定され得ることが理解されるべきである。
【0022】
本明細書において、「A~B」(あるいは「AからBまで」または「AとBの間」)という表現を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値AおよびBをそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示し、また、その最小値および/または最大値を除外した範囲も包含する。また、「A~B」という記載は、「A以上」または「A超」という範囲、および「B以下」または「B未満」という範囲も開示すると解される。複数の数値範囲が記載されている場合は、或る記載された数値範囲の上限値または下限値は、別の記載された数値範囲の上限値または下限値と組み合わせることができ、そのように組み合わされてできる数値範囲も本開示において企図されている。
【実施例0023】
以下の実施例は、代表的な実施形態を例示する目的に過ぎず、本発明はこれらの具体的な実施形態に限定されない。また、以下の実施例における実験の記述は、それらが本発明をなすために行われた全ての実験であることも意味しない。
【0024】
LEDランプまたはメタルハライドランプの制御された点滅により昼/夜サイクルを提供する培養チェンバーを用いて、播種からササゲの栽培を行った。実施例における播種はすべて、湿らせたペーパータオル等ではなくて土(ニッピ園芸培土、日本肥糧株式会社)に直接種子を蒔くことによって行った。昼/夜サイクルの温度は29℃/23℃、相対湿度は60%/70%とするのが一つの最適条件として見出された。手による受粉は、すべて開花から1週間以内に完了させ、そのあいだは昼/夜サイクルの相対湿度は70%/80%に変更した。培養チェンバー内に1000ppmのCO2を供給することはササゲの開花、受粉、および成熟に有意な影響を与えないと見られた。
【0025】
下記表に示すように、異なるDAP(days after pollination;受粉後日齢)の未成熟種子を鞘ごと収穫し、その日のうちにオーブンに移して、異なる温度および日数で乾燥処理をした。いくつかの実験では乾燥処理をシリカゲル(silica gel)の存在下で行った。各条件につき3つのレプリカ実験において、乾燥処理後の種子を10個ずつ播種し、7DAS(days after sowing(播種後日数))の時点での発芽率、およびその時点で発芽していた種子が10DASの時点までに成長させた実生の高さを評価した。
【0026】
Sasaque(略称SAS)、IT86D-1010(略称86D)、およびIT97K-499-35(略称97K)という3つのササゲ株、ならびにそれらのハイブリッドの種子を用いて行った実験における、平均の実生出現率すなわち発芽率(表1)および実生の高さ(表2)の測定データを下記表に示している。Sasaqueは日本由来のササゲであり、他の2つはナイジェリアで開発された育種株である。コントロール(Control)の実験は、通常通り植物上で自然に鞘を乾燥させてから成熟種子を収穫したものである。*、**、***はコントロールより統計学的に有意に低いことを表す(それぞれp≦0.05、0.01、0.001;T検定)。
【0027】
42℃より高い試験温度(43℃以上)での2日間の乾燥処理は、試験されたいずれの日齢の未成熟種子も発芽させなかった。9日齢の未成熟種子は、38℃より低い試験温度(37℃以下)で2日間乾燥処理しても発芽しなかった。7日齢および8日齢の未成熟種子は、当該実験条件下では、いずれの試験温度で2日間乾燥処理しても発芽しなかった。全体として、未成熟種子は発芽率が著しく低くなることが明らかであった。しかしながら、38~42℃の温度で乾燥処理を行うと、1~2日間の乾燥処理期間でも、育種で求められる高い発芽率を維持することができ、9日齢の未成熟種子も発芽させることができた。11日齢の未成熟種子を39℃で2日間乾燥処理すると、コントロールにほぼ匹敵する発芽率および実生高さが達成できたことは特筆に値する。乾燥剤(シリカゲル)の存在下で乾燥処理を行うと、発芽率および実生高さがさらに改善される傾向が観察された。
【0028】
【0029】
【0030】
表3は、異なる種子成熟度および乾燥処理条件の組合せ、ならびに、観測に基づいて決定された世代時間および年間の世代サイクル数を、遺伝子型ごとに要約している。いずれの遺伝子型も、本開示に従って未成熟種子を比較的高温で乾燥処理することにより世代時間(播種から、次世代の種子の播種までの時間)が短縮され、1年あたりの世代サイクル数を有意に増加できることが示されている。
【0031】