(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008487
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】粉体塗料組成物および塗装体
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20240112BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110406
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】津田 誠弥
(72)【発明者】
【氏名】心光 秀忠
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB001
4J038KA03
4J038NA11
4J038NA24
4J038PA02
(57)【要約】
【課題】塗膜が速く硬化する速硬化性、および塗膜から気泡が抜けやすい脱泡性に優れ、かつ、付着性および耐衝撃性にも優れた塗膜を形成できる粉体塗料組成物およびこの粉体塗料組成物で塗装した塗装体を提供する。
【解決手段】本発明の粉体塗料組成物は、樹脂(A)と硬化剤(B)を含む粉体塗料組成物であって、前記粉体塗料組成物は、200℃におけるゲルタイムが30秒以下であり、かつ、前記粉体塗料組成物を押し固めた成形体であるペレットを、100℃から200℃まで昇温速度5.6℃/分で加熱して溶融させたとき、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が3.0分以上9.0分以下の範囲である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)と硬化剤(B)を含む粉体塗料組成物であって、
前記粉体塗料組成物は、
200℃におけるゲルタイムが30秒以下であり、かつ、
前記粉体塗料組成物を押し固めた成形体であるペレットを、100℃から200℃まで昇温速度5.6℃/分で加熱して溶融させたとき、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が3.0分以上9.0分以下の範囲である、粉体塗料組成物。
【請求項2】
前記最低溶融粘度が、500Pa・s以上5000Pa・s以下の範囲である、請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項3】
前記樹脂(A)が、エポキシ樹脂である、請求項1記載の粉体塗料組成物。
【請求項4】
前記硬化剤(B)が、イミダゾール系化合物およびイミダゾリン系化合物の双方を含む、請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項5】
基材と、
前記基材の表面に、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の粉体塗料組成物を用いて形成された塗膜と、を有する塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料組成物および塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築建材、家電製品、自動車等の構造材として多くの金属の製品や部品が用いられている。これら金属の製品は、美観および耐食性が要求されることから、その表面を粉体塗料組成物で塗装する塗装体が用いられている。最近では、粉体塗料組成物を水道管などのインフラに用いる金属部材に塗装することが多くなっている。また、粉体塗料組成物は、さらなる生産性の効率化および環境負荷低減の点から、短時間で硬化する速硬化性を有することが求められている。しかし、粉体塗料組成物は、通常、短時間で硬化させると、硬化時に塗膜中に気泡が残りやすく、塗膜の耐衝撃性、付着性、耐食性等の塗膜特性が低下するという問題がある。
【0003】
金属部材に塗装される粉体塗料として、特許文献1および特許文献2では、エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂粉体塗料組成物を開示している。これらのエポキシ樹脂粉体塗料組成物は、金属部材の耐食性を向上させている。しかしながら、特許文献1および特許文献2には、エポキシ樹脂粉体塗料組成物が速硬化性を有することや、短時間で硬化させることによる上記した問題についての開示がない。
また、特許文献3は、低塗布温度で硬化する粉体コーティング組成物を開示している。これにより、金属部材の防食性を向上させ、速硬化性を有している。しかしながら、特許文献3は、唯一の実施例である実施例1の粉体コーティングが、硬化剤としてセバシン酸ジヒドラジドを使用しており、セバシン酸ジヒドラジドは、短時間で硬化させると塗膜に気泡が残りやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-048454号公報
【特許文献2】特開2018-070777号公報
【特許文献3】特開2018-059080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、特許文献1~3に記載の発明では、速硬化性を有しながら、塗膜に気泡が残りにくい脱泡性、付着性および耐衝撃性の良好な塗膜特性を有する粉体塗料組成物が得られないという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、上記問題に鑑みてなされたものであり、塗膜が速く硬化する速硬化性、および塗膜から気泡が抜けやすい脱泡性に優れ、かつ、付着性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成することができる粉体塗料組成物およびこの粉体塗料組成物で塗装した塗装体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、下記によって達成された。
(1)樹脂(A)と硬化剤(B)を含む粉体塗料組成物であって、
前記粉体塗料組成物は、200℃におけるゲルタイムが30秒以下であり、かつ、
前記粉体塗料組成物を押し固めた成形体であるペレットを、100℃から200℃まで昇温速度5.6℃/分で加熱して溶融させたとき、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が3.0分以上9.0分以下の範囲である、粉体塗料組成物。
(2)前記最低溶融粘度が、500Pa・s以上5000Pa・s以下の範囲である、(1)に記載の粉体塗料組成物。
(3)前記樹脂(A)が、エポキシ樹脂である、(1)または(2)に記載の粉体塗料組成物。
(4)前記硬化剤(B)が、イミダゾール系化合物およびイミダゾリン系化合物の双方を含む、(1)、(2)または(3)に記載の粉体塗料組成物。
(5)基材と、前記基材の表面に、(1)ないし(4)のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物を用いて形成された塗膜と、を有する塗装体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗膜が速く硬化する速硬化性(速乾性)、および塗膜から気泡が抜けやすい脱泡性に優れ、かつ、付着性および耐衝撃性にも優れた塗膜を形成できる粉体塗料組成物およびこの粉体塗料組成物で塗装した塗装体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の塗装体の一実施形態を示す図である。
【
図2】本発明の塗装体の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の粉体塗料組成物および塗装体を詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0011】
<粉体塗料組成物>
本発明の粉体塗料組成物は、少なくとも、樹脂(A)と硬化剤(B)を含む粉体塗料組成物である、ことを特徴とする。
【0012】
<樹脂(A)>
樹脂(A)としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれでも用いることができるが、熱硬化性樹脂が好ましい。熱をかけることで硬化し、塗膜を容易に形成することができる。樹脂(A)としては、通常使用されている樹脂が用いられるが、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられ、特にエポキシ樹脂が好ましい。これら樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
また、本発明の粉体塗料組成物に含まれる樹脂(A)は、変性された樹脂を用いることで、硬化剤の効果を向上させることができる。変性樹脂は、例えば、アルキル変性、アルキルエーテル変性、アルキルフェノールノボラック変性、アクリル変性、脂肪酸変性、ウレタン変性、アミノ変性、イソシアネート変性、シリコーン変性、その他アリル基を利用したグラフト変性等の変性がされている樹脂(好ましくはエポキシ樹脂、水酸基を含む樹脂等)が挙げられる。ここで、水酸基を含む樹脂としては、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有アクリルシリコーン樹脂および水酸基含有ふっ素樹脂等が挙げられる。
【0014】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂は、基材への付着性を付与するため、粉体塗料組成物に含まれる樹脂(A)として使用するのに適している。本発明に使用されるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂、複素環式エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂などがあげられる。これらは単独でまたは併用して使用することができる。具体的には、ビスフェノールAとエピハロヒドリン、エピクロロヒドリンとから合成される固形エポキシ樹脂、ビスフェノールAと2価フェノール類およびエピハロヒドリンから誘導されるエポキシ樹脂とビスフェノールAとの伸長反応により得られる固形エポキシ樹脂などが好ましい。
【0015】
このようなエポキシ樹脂としては、三菱化学(株)製jER1004、jER1004F、jER1007、jER4005P、DIC(株)製EPICLON3050、EPICLON4050、新日鉄住金化学(株)製エポトートYD014D、南亜プラスチック(株)製EPONANYANPES-904などが入手可能である。
【0016】
樹脂(A)は、エポキシ当量の異なる複数のエポキシ樹脂を混合して使用することができる。エポキシ当量も特に限定されるものではないが、好ましくは400~3000のものである。また、エポキシ当量が1000以下のものと、1000以上のものを組み合わせることが好ましく、最小のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂と最大のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量の差は、300以上、好ましくは500以上である。
【0017】
エポキシ樹脂は、塗膜特性や塗装作業性の点から数平均分子量(SECによるポリスチレン換算)が200~5000のものが好ましく、より好ましくは300~2000である。エポキシ樹脂の軟化点は、特に限定されるものではないが、60~150℃の範囲が好ましく、さらに、90~120℃の範囲がより好ましい。軟化点が60℃未満で保存性が不十分であり塗装における作業性が低下し、150℃を超えると速硬化性、脱泡性が低下する。
【0018】
<硬化剤(B)>
本発明の粉体塗料組成物に含まれる硬化剤(B)は、使用する樹脂の種類に応じて適宜選択し、通常使用されている硬化剤(B)を使用することができる。例えば、アミド系化合物や、酸無水物、二塩基酸、グリシジル系化合物、アミノプラスト樹脂、イソシアネート系化合物、及びヒドロキシアルキルアミド等を挙げることができる。これら硬化剤(B)は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。硬化剤(B)の含有量は、樹脂に含まれる硬化剤(B)との反応性基の量に応じて適宜調整される。
【0019】
本発明の粉体塗料組成物にエポキシ樹脂が用いられる場合は、硬化剤(B)としては、通常使用される硬化剤(B)であれば特に限定されるものではないが、特に、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ジシアンジアミド、酸無水物、ポリカルボン酸ヒドラジドおよびその誘導体、フェノール化合物およびその誘導体などがあげられる。ポリカルボン酸ヒドラジドとしては、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオンジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0020】
なかでも、硬化剤(B)は、イミダゾール系化合物およびイミダゾリン系化合物の双方を含むことが好ましい。その他に、ポリカルボン酸ヒドラジドおよびその誘導体の群から選択される少なくとも1つを用いることができる。イミダゾール系化合物は、粉体塗料組成物における速硬化性に大きく寄与する。また、イミダゾリン系化合物は粉体塗料組成物における低温における反応性を向上させ脱泡性に寄与する。これらの硬化剤(B)は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.5~10質量部の範囲で含有することが好ましい。硬化剤(B)が、0.5質量部より少ないと速硬化性が低下する。硬化剤(B)が10質量部を超えると脱泡性が低下する。
【0021】
<顔料>
本発明の粉体塗料組成物は、樹脂(A)と硬化剤(B)の他に、顔料(C)を含有させることができる。顔料(C)としては、着色顔料(C1)、体質顔料(C2)を挙げることができる。これ以外の顔料として、防錆顔料(C3)、光輝顔料(C4)を含むことができる。
【0022】
<<着色顔料(C1)>>
着色顔料としては、その組成から無機顔料と有機顔料に大別される。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、黄色酸化鉄、カーボンブラック等、有機顔料としては、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ナフトールレッド、キナクリドンレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、およびジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
【0023】
<<体質顔料(C2)>>
体質顔料(C2)は、白色ないし無色の顔料である。屈折率が低いため、展色剤に混和しても隠蔽性にほとんど影響を与えないことから、増量剤として絵具・塗料・化粧品などのコストダウン、着色力や光沢、強度、使用感などの調整に使われる。体質顔料(C2)は、公知の材料が使用でき、例えば、沈降性硫酸バリウム、シリカ、クリストバライト、炭酸カルシウム、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、および酸化マグネシウムなどが挙げられる。また、体質顔料(C2)は、箔のような薄く平らな形状をした顔料(鱗片状顔料)であってもよく、その具体例としては、ガラスフレーク、タルク、マイカ、カオリンクレーなどが挙げられる。
【0024】
<<防錆顔料(C3)>>
防錆顔料(C3)としては、公知の材料が使用でき、亜鉛粉末、酸化亜鉛、メタホウ酸バリウム、珪酸カルシウム、リン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、バナジン酸/リン酸混合顔料等が挙げられる。
【0025】
<<光輝顔料(C4)>>
光輝顔料としては、公知の材料が使用でき、その具体例としては、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、銅、銀、白金、金、アルミニウム等の金属を箔のような薄く平らな形状をした鱗片状金属顔料や、タルク又はマイカを酸化チタン等の金属酸化物で表面処理したパール顔料が挙げられる。
なお、鱗片状金属顔料には、ステンレス等の合金の顔料も含まれる。これら光輝顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
また、本発明の粉体塗料組成物において、固形分中における顔料の含有量は、5質量%以上25質量%以下であることが好ましい。これら顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
<その他の添加剤(D)>
本発明の粉体塗料組成物には、その他の添加剤として、他の樹脂、艶消し剤、可撓性付与剤、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、成膜助剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電性滑剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら成分は、市販品を好適に使用することができる。
【0028】
<粉体塗料組成物の製造方法>
本発明の粉体塗料組成物の製造方法は、詳細には、エポキシ樹脂等の樹脂(A)おおび硬化剤(B)、その他に顔料(C)、添加剤(D)を含む混合物を100~160℃にて溶融混練し、次いで該混合物を冷却後に粉砕し、粉体塗料組成物を調製する。好ましくは、混合物をヘンシェルミキサー等でドライブレンドした後、コ・ニーダ等を用いて120~140℃で溶融混練し、冷却、粉砕後、所望の大きさのメッシュ、例えば、180メッシュ(96μm)の金網等を用いて分級して、粉体塗料組成物を得ることができる。
【0029】
<粉体塗料組成物の粘性挙動>
本発明の粉体塗料組成物は、200℃におけるゲルタイムが30秒以下であり、粉体塗料組成物を押し固めた成形体であるペレットを、100℃から200℃まで昇温速度5.6℃/分で加熱して溶融させたとき、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が3.0分以上9.0分以下の範囲である、ことを特徴とする。
【0030】
<ゲルタイム>
本発明の粉体塗料組成物は、200℃におけるゲルタイム(硬化時間)を30秒以下にし、好ましくは28.5秒以下にする。ただし、前記ゲルタイムは、少なくとも20秒以上にすることが好ましい。200℃付近に予熱された水道管等の基材表面を塗装する場合、ゲルタイムが短すぎると、基材に塗膜が溶融し平滑になる前に硬化することになるため、流動性を損ない塗膜表面に凹凸が生ずる。また、塗膜の硬化が速すぎるため、塗膜中の気泡が外部に脱泡できず気泡が残ることがある。また、塗膜に衝撃が加えられた場合に、塗膜の気泡を含む箇所が割れる恐れがあり、この結果として、耐衝撃性が低くなる。さらに、基材と気泡が接することで塗装体の付着性が低下することがある。
逆に、ゲルタイムが長すぎると、塗装終了後に塗膜が硬化するまでに時間が生じ、水道管の端部等にタレを生じ、膜厚が不均一になることがある。そのために、速硬化性を有しないことで塗膜を得るのに相当の時間が必要になり、または、塗装後に膜厚を均一にするため再加熱する工程が必要になることがある。
したがって、本発明の粉体塗料組成物は、200℃におけるゲルタイム(硬化時間)は、30秒以下にすることで良好な塗膜を得ることができる。
【0031】
<ゲルタイムの測定方法>
ゲルタイムの測定は、200℃に加熱したホットプレート上に粉体塗料0.7gを載せ、溶融し始めた時点から、直径1mmの針金で掻き混ぜ、糸引きしなくなるまでに要する時間を測定し、ゲルタイムを求める。
【0032】
<最低溶融粘度>
また、本発明の粉体塗料組成物は、100℃以上200℃以下の温度範囲において溶融状態になる最低の粘度を示す最低溶融粘度を500Pa・s以上5000Pa・s以下の範囲であることが好ましい。
最低溶融粘度が500Pa・s未満では、粘度不足のため流動性が高すぎるため、水道管等の基材表面に沿って塗膜を形成する際に、基材表面からこぼれ落ちてしまい、不均一な厚さの塗膜が形成される。また、最低溶融粘度が5000Pa・sを超えると、流動性が不足するため、水道管等の基材表面の形状に沿って塗れ広がらないため、形成された塗膜は、表面に凹凸が生じ、不均一に形成される。また、平板状の基材でも流動性が不足するため、塗膜表面に凹凸が生じ、一様な塗膜形成が困難である。また、塗膜中の気泡が外部に十分に脱泡できず気泡が残り、脱泡性が低下する。また、塗膜に衝撃が加えられた場合に塗膜中の気泡が割れることがあり、その結果、耐衝撃性が低くなる。さらに、基材と気泡が接することで塗装体の付着性が低下することがある。
【0033】
<最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間>
本発明の粉体塗料組成物は、粉体塗料組成物を押し固めた成形体であるペレットを、100℃から200℃まで昇温速度5.6℃/分で加熱して溶融させたとき、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が3.0分以上9.0分以下の範囲である。これにより、100℃から200℃まで昇温速度5.6℃/分で加熱溶融させる条件で、粘度上昇の傾きの適正化を図ることによって、気泡を残さずに脱泡させて、短時間で硬化させることができる。
一定の昇温速度で昇温させたときに、最低溶融粘度になった時点から、3.0分以上9.0分以下の範囲の短時間で、10倍の粘度となることで、粉体状態で基材の表面に塗布された後容易に溶融し、かつ、塗膜中に残る気泡を塗膜表面から外部に追い出す脱泡性を向上させることができる。
さらに、逆に、高い温度で塗装された塗膜が、溶融粘度が低い状態から、短時間で、溶融粘度が高い溶融最低粘度の状態になることで、速い速度で硬化させることで速硬化性を向上させることができる。
したがって、塗装した塗膜が、速く乾燥する速硬化性と気泡が抜けて残らない脱泡性を備えるために、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が3.0分以上9.0分以下の範囲にあることが好ましい。
【0034】
<最低溶融粘度、および最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間の測定方法>
測定装置としては、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製MARS40(回転式レオメーター)を使用した。粉体塗料組成物1.0gを測り取り、内径16mmΦの金型に入れ、油圧プレスにて20MPaで1分間加圧し、ペレットを成型した。100℃に予熱したMARS40の測定部にペレットを置き、ギャップ1.0mm、周波数1.5Hz、ジグ回転速度9.4rad/s、昇温速度5.6℃/minにて、100℃から測定を開始し、200℃までの粘度変化を測定した。
【0035】
<塗装体>
図1は、本発明の塗装体の一実施形態を示す図である。
本発明の塗装体1は、基材11の上に塗膜12が形成されている。
【0036】
<基材>
本発明の塗装体1を構成する基材11としては、特に限定されるものではないが、その形状は、例えば板状、シート状、箔状等である。また、該基材の材質としては、鋳鉄または鋳鋼、炭素鋼、亜鉛めっき鋼、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属または合金が挙げられる。
【0037】
<塗膜>
本発明の塗装体1の最上層には、粉体塗料組成物による塗膜12が形成されている。塗膜12の膜厚は50μm以上1500μm以下であり、好ましくは100~1200μmであり、より好ましくは200μm以上800μm以下にする。
【0038】
図2は、本発明の塗装体の一実施形態を示す図である。本発明の塗装体1は、基材11と塗膜12との間に、
図2に示すように化成処理層13が形成されている。
【0039】
<化成処理層>
さらに、基材11と塗膜12との間に、付着性、密着性を高める等の目的で形成される化成処理層13を設けることができる。化成処理層13は、例えば酸化処理が施されてもよい。一例として、アルマイト処理、リン酸塩処理、クロメート処理、ノンクロメート処理等の方法でアルミニウムに酸化処理を施した基材11を用いることができる。また、シランカップリング剤を含有する前処理水溶液により形成されることがある。また、塗膜12と異なる樹脂によって処理することもある。
【0040】
<塗装方法>
本発明の粉体塗料組成物を用いる塗装体1の塗装方法は、例えば、基材11として予め加熱された鋳鉄の水道管にスプレー塗装、静電スプレー塗装等の方法で塗膜12を塗装することができる。また、基材11が鋳鉄管の場合は静置したまま、若しくは回転させながら塗装することができる。さらに、加熱する方法としては、熱風炉、電気炉、遠赤外線炉等の予熱炉を用いる間接的に加熱する方法、電磁誘導加熱、高周波加熱、バーナー加熱等の直接的に加熱する方法等を用いることができる。
【0041】
さらに、塗膜12の硬化方法としては、予熱した被塗物の熱量を利用した放冷硬化が好ましい。放冷硬化では熱量不足で十分硬化しない場合は、熱風炉等を用いて150~200℃で10~30分間程度加熱して塗膜12を焼き付けるのが好ましい。なお、本発明の粉体塗料組成物を用いる塗装体は、鋳鉄による水道管だけではなく、継ぎ手、バルブ等の塗装体にも適用できる。
【実施例0042】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例の記載について「部」及び「%」は質量基準に基づくものである。
【0043】
<1.粉体塗料組成物1~9の調製>
表1に記載された原料を配合し、高速ミキサー内に投入して1分間混合した。そして、120℃に温度調整した1軸練合機(BUSS社製)を用いて混練を行い、吐出された混練物を冷却ロールで冷間圧延した後、ピンミルを用いて粉砕し、150メッシュの網で分級し、各粉体塗料組成物1~9(50%体積平均粒子径:約35μm)を得た。
表1に記載の原料は次の通りである。
(A-1)エポキシ樹脂1(エポキシ当量200~220、軟化点80~90℃、多官能エポキシ樹脂)
(A-2)エポキシ樹脂2(エポキシ当量450~500、軟化点80~90℃、多官能エポキシ樹脂)
(A-3)エポキシ樹脂3(エポキシ当量600~700、軟化点:83~91℃、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
(A-4)エポキシ樹脂4(エポキシ当量700~750、軟化点90~98℃、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
(A-5)エポキシ樹脂5(エポキシ当量875~975、軟化点95~100℃、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
(A-6)エポキシ樹脂6(エポキシ当量900~1000、軟化点90~100℃、変性エポキシ樹脂)
(A-7)エポキシ樹脂7(エポキシ当量1200~1300、軟化点109~120℃、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
(B-1)硬化剤1(軟化点93~98℃、ノボラック型フェノール樹脂)
(B-2)硬化剤2(ビスフェノールA・エピクロルヒドリン重縮合物(フェノール化合物))
(B-3)硬化剤3(エポキシ-アミンアダクト)
(B-4)硬化剤4(ジシアンジアミド)
(B-5)硬化剤5(アジピン酸ジヒドラジド)
(B-6)硬化剤6(2-メチルイミダゾール)
(B-7)硬化剤7(2-フェニルイミダゾリン)
(C1-1)着色顔料1(酸化チタン)
(C1-2)着色顔料2(カーボンブラック)
(C1-3)着色顔料3(黄色酸化鉄)
(C2-1)体質顔料1(沈降性硫酸バリウム)
(C2-2)体質顔料2(シリカ、平均粒子径8μm)
(D-1)添加剤1(アクリル系可とう性付与剤、二次粒子径15~21μm)
(D-2)添加剤2(レベリング剤)
(D-3)添加剤3(滑材、親水性アルミナ粒子、一次粒子径13nm)
【0044】
【0045】
<2.試験板の作製>
≪2―1.実施例1の試験板作製≫
ホットプレート上で240℃に加熱した基材である冷間圧延鋼板(SPCC-SB、70mm×180mm×厚み1.6mm)の上面に、上記で調製した1gの粉体塗料組成物1を載せ、速やかにアプリケーター(溝幅40mm、溝深さ1mm)で粉体塗料を平滑に均し、1分加熱することにより、基材の表面に塗膜(膜厚:500~700μm)を形成し、実施例1の試験板を作製した。
また、実施例2~4および比較例1~5の試験板についても、ホットプレート上で240℃に加熱した前記冷間圧延鋼板の上面に、粉体塗料組成物1の代わりに粉体塗料組成物2~9をそれぞれ載せたこと以外は、実施例1の作製方法と同様の方法により作製した。
【0046】
<3.粘性挙動評価>
実施例1~4および比較例1~5の粉体塗料組成物の粘性挙動を評価した。
測定装置としては、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製MARS40(回転式レオメーター)を使用した。粉体塗料組成物1.0gを測り取り、内径16mmΦの金型に入れ、油圧プレスにて20MPaで1分間加圧し、ペレットを成型した。100℃に予熱したMARS40の測定部にペレットを置き、ギャップ1.0mm、周波数1.5Hz、ジグ回転速度9.4rad/s、昇温速度5.6℃/minにて、100℃から測定を開始し、200℃までの粘度変化を測定した。
測定データより、≪最低溶融粘度≫、≪最低溶融粘度の温度≫、≪最低溶融粘度に達してから最低溶融粘度の10倍の粘度となるのに要する時間≫を求めた。
また、200℃に加熱したホットプレート上に粉体塗料0.7gを載せ、溶融し始めた時点から、直径1mmの針金で掻き混ぜ、糸引きしなくなるまでに要する時間を測定し、ゲルタイムを求めた。それらの評価結果を表2に示す。
【0047】
<4.塗膜特性評価>
実施例1~4及び比較例1~5の試験板(塗装体)における、塗膜特性である、脱泡性、速硬化性(速乾性)、付着性および耐衝撃性について、以下に示す方法により評価した。
≪4-1.脱泡性≫
塗膜の表面外観および断面を目視にて観察し、脱泡性を、以下の基準に従って2段階で評価した。
○:塗膜の表面外観が良好であり、かつ塗膜の断面に気泡が少ない塗膜である場合
×:塗膜形成の脱泡が不十分であり、外観不良または断面に気泡が多い塗膜である場合
≪4-2.速硬化性≫
速硬化性は、200℃に加熱したホットプレート上に、0.7gの粉体塗料を載せ、溶融し始めた時点から30秒以内に、直径1mmの針金で掻き混ぜ、糸引きしなくなるまでに要する時間(ゲルタイム)を測定し、測定したゲルタイムによって評価した。速硬化性は、ゲルタイムが短いほど優れている。
○:ゲルタイムが30秒以下である場合
×:ゲルタイムが30秒超えである場合
≪4-3.付着性≫
付着性(密着性)は、作製した各試験板の塗膜上に、接着剤でドリー(直径:20mm)を取り付け、自動プルオフ式付着性試験機(elcometer社のelcometer510)を用いて基材(冷間圧延鋼板)から塗膜を垂直方向に引き剥がした際の付着力を測定し、測定した付着力によって以下の基準に従って2段階で評価した。
〇:付着力が3.0MPa以上
×:付着力が3.0MPa未満
≪4-4.耐衝撃性≫
耐衝撃性は、JIS K 5600-5-3:1999に規定されているデュポン式衝撃試験器(重り500g、撃芯6.35mm(1/4インチ))の撃ち型と受け台の間に、各試験板を、塗膜面が上向きになるように挟み込み、重りを撃ち型の上に落とし、塗膜に割れや剥離の発生の有無を目視観察によって評価した。なお、耐衝撃性は、各試験板の塗膜面の位置をずらして計4か所で実施し、以下の基準に従って評価した。
〇:4か所の全てで塗膜の割れおよび剥離の発生が認められない場合
×:4か所中、1か所でも塗膜の割れもしくは剥離の発生が認められる場合
【0048】
【0049】
表2に示す結果から、実施例1~4の粉体塗料組成物1~4は、全て最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が3.0分以上9.0分以下の範囲内であり、かつ、200℃におけるゲルタイムが30秒以下であることから、塗膜特性である、脱泡性、速硬化性、付着性および耐衝撃性が、いずれも「〇」であり、合格レベルであった。
【0050】
特に、実施例1、3の粉体塗料組成物1、3は、ヒドラジド系化合物とイミダゾール系化合物の組み合わせにより、120℃以上の温度で反応が急速に硬化させ、速硬化性をえることができる。また、イミダゾリン系化合物の添加により、急激な昇温焼付でも脱泡性を良好にすることができる。
また、実施例2の粉体塗料組成物2は、ノボラック型フェノール樹脂硬化剤とイミダゾール系化合物およびヒドラジド系化合物とイミダゾール系化合物の組み合わせにより、120℃以上の温度で反応が急速に硬化させ、速硬化性を得ることができる。また、イミダゾリン系化合物の添加により、急激な昇温焼付でも脱泡性が良好となる。さらに、アジピン酸ジヒドラジドの少量添加により、焼付時の塗膜の変色を抑えることができる。
また、実施例4の粉体塗料組成物4は、ジシアンジアミドとエポキシ―アミンアダクト、イミダゾール系化合物の組み合わせにより、120℃以上の温度で反応が急速に硬化させ、速硬化性をえることができ、かつ、イミダゾリン系化合物の添加により、急激な昇温焼付でも脱泡性が良好になっている。
【0051】
比較例1の粉体塗料組成物5は、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が2.5分と短く、また、ゲルタイムが32.5秒と長いことから、塗膜特性である、脱泡性、速硬化性、付着性および耐衝撃性が、いずれも「×」と不合格であった。
【0052】
比較例2の粉体塗料組成物6は、ゲルタイムが29.1秒と30秒以下であるため、速硬化性は合格レベルであったが、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が2.8分と短かったため、塗膜特性である、脱泡性、付着性および耐衝撃性が、いずれも「×」と不合格であった。
【0053】
比較例3の粉体塗料組成物7は、ゲルタイムが25.6秒と30秒以下であるため、速硬化性は合格レベルであったが、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が2.6分と短かったため、塗膜特性である、脱泡性、付着性および耐衝撃性が、いずれも「×」と不合格であった。
【0054】
比較例4の粉体塗料組成物8は、ゲルタイムが23.5秒と30秒以下であるため、速硬化性は合格レベルであったが、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が2.2分と短かったため、塗膜特性である、脱泡性、付着性および耐衝撃性が、いずれも「×」と不合格であった。
【0055】
比較例5の粉体塗料組成物9は、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間が5.6分と適正範囲であったため、塗膜特性である、脱泡性、付着性および耐衝撃性が、いずれも「〇」と合格レベルであったが、ゲルタイムが37.5秒と長かったため、速硬化性は「×」と不合格であった。
【0056】
これらの実施例1~4および比較例1~5の結果から、最低溶融粘度になった時点から10倍の粘度に増加するまでの時間を3.0分~9.0分の範囲内にし、かつ、200℃におけるゲルタイムが30秒以下にすることで、塗膜特性である、脱泡性、速硬化性、付着性および耐衝撃性のいずれの評価も「〇(合格レベル)」にすることができることが分かった。