(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084880
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/56 20060101AFI20240619BHJP
F16F 9/19 20060101ALI20240619BHJP
F16F 9/49 20060101ALI20240619BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
F16F9/56 A
F16F9/19
F16F9/49
F16F9/32 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199036
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】稲満 和隆
(72)【発明者】
【氏名】糸川 広昭
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA51
3J069AA64
3J069CC33
3J069DD16
3J069EE01
(57)【要約】
【課題】伸縮可能として減衰力を発揮できるだけでなく、伸縮不能なロック状態として車両における車高を一定に維持できる緩衝器を提供する。
【解決手段】緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に挿入されてシリンダ1内を液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン2と、シリンダ1の伸側室R1内に挿入されてピストン2に連結されるピストンロッド3と、伸側室R1と圧側室R2とを連通するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路4と、液体を貯留してシリンダ1内に連通されるとともにピストンロッド3のシリンダ1内における押しのけ容積の変化を補償するリザーバ5と、シリンダ1内とリザーバ5とを連通する補償通路6に設けられて補償通路6を開閉する開閉弁7とを備えて構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内を液体が充填される伸側室と圧側室とに区画するピストンと、
前記シリンダの前記伸側室内に挿入されて前記ピストンに連結されるピストンロッドと、
前記伸側室と前記圧側室とを連通するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路と、
液体を貯留して前記シリンダ内に連通されるとともに前記ピストンロッドの前記シリンダ内における押しのけ容積の変化を補償するリザーバと、
前記シリンダ内と前記リザーバとを連通する補償通路に設けられて前記補償通路を開閉する開閉弁とを備えた
緩衝器。
【請求項2】
液体を貯留するタンクと、
前記タンクと前記シリンダ内とを連通する供給通路および排出通路と、
前記供給通路に設けられて前記タンクから液体を吸い込んで前記シリンダ内に液体を供給可能なポンプと、
前記排出通路を開閉可能な排出通路開閉弁とを備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記タンクと前記シリンダ内とを連通するリリーフ通路と、
前記リリーフ通路を開閉可能であって、前記シリンダ側を上流側として上流側の圧力が開弁圧に達すると開弁して前記シリンダ内から前記タンクへ向かう液体の流れのみを許容するリリーフ弁とを備え、
前記開閉弁は、前記補償通路を開閉するが前記リリーフ通路を開閉しない
ことを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記タンクと前記シリンダ内とを連通するリリーフ通路と、
前記リリーフ通路を開閉可能であって、前記シリンダ側を上流側として上流側の圧力が開弁圧に達すると開弁して前記シリンダ内から前記タンクへ向かう液体の流れのみを許容するリリーフ弁とを備え、
前記開閉弁は、前記補償通路とともに前記供給通路、前記排出通路および前記リリーフ通路を開閉する
ことを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記タンク、前記供給通路、前記排出通路、前記ポンプおよび前記排出通路開閉弁とをポンプユニットとし、
前記ポンプユニットは、前記補償通路を介して前記シリンダ内に連通される
ことを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器は、たとえば、車両における車体と車輪との間に介装されて使用され、車両走行時に伸縮して減衰力を発生して車体の振動を減衰させて車両における乗り心地を向上させる。
【0003】
車両に利用される緩衝器は、シリンダと、シリンダ内に挿入されてシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、シリンダ内に挿入されるとともにピストンに連結されるピストンロッドと、ピストンに設けられて伸側室と圧側室とを連通する減衰通路とを備えており、伸縮時に減衰通路を通過する液体に対して減衰通路に設けられた減衰バルブによって抵抗を与えて伸縮を妨げる減衰力を発揮する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような緩衝器としては、車両の走行時のみならず、車両の停車時であっても、常時、伸縮可能とされる緩衝器が一般的である。ところが、キャンピングカーやキッチンカーといった車両を長時間に亘って停車させつつ、車室に搭乗者が滞在するような使い方をされる車両にあっては、緩衝器が伸縮可能な状態であると、車室内で搭乗者が移動したり強風によって車体が煽られたりすると車体が揺れてしまい車室内の搭乗者が不快感を覚える可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、伸縮可能として減衰力を発揮できるだけでなく、伸縮不能なロック状態として車両における車高を一定に維持できる緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段における緩衝器は、シリンダと、シリンダ内に挿入されてシリンダ内を液体が充填される伸側室と圧側室とに区画するピストンと、シリンダの伸側室内に挿入されてピストンに連結されるピストンロッドと、伸側室と圧側室とを連通するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路と、液体を貯留してシリンダ内に連通されるとともにピストンロッドのシリンダ内における押しのけ容積の変化を補償するリザーバと、シリンダ内とリザーバとを連通する補償通路に設けられて補償通路を開閉する開閉弁とを備えて構成されている。
【0008】
このように構成された緩衝器によれば、開閉弁を開弁させることによって伸縮可能として減衰力を発揮できるだけでなく、開閉弁を閉弁させることによって伸縮不能なロック状態として車両における車高を一定に維持できる。
【0009】
また、緩衝器は、液体を貯留するタンクと、タンクとシリンダ内とを連通する供給通路および排出通路と、供給通路に設けられてタンクから液体を吸い込んでシリンダ内に液体を供給可能なポンプと、排出通路を開閉可能な排出通路開閉弁とを備えてもよい。このように構成された緩衝器では、ポンプを駆動してシリンダ内に液体を供給することによって伸長して車高を上昇させることができるとともに排出通路開閉弁の開弁によってシリンダ内からタンクへ液体を排出させて収縮して車高を下降させ得る。
【0010】
また、緩衝器は、タンクとシリンダ内とを連通するリリーフ通路と、リリーフ通路を開閉可能であってシリンダ側を上流側として上流側の圧力が開弁圧に達すると開弁してシリンダ内からタンクへ向かう液体の流れのみを許容するリリーフ弁とを備え、開閉弁は、補償通路を開閉するがリリーフ通路を開閉しない位置に配置されてもよい。このように構成された緩衝器によれば、開閉弁を閉弁させてシリンダ内とリザーバとの液体のやり取りを不能とした場合であっても、伸縮させる大きな外力が作用してシリンダ1内の圧力が過剰になるような状況となるとリリーフ弁が開弁してシリンダ内の圧力をタンクへ逃がすので、緩衝器を保護できる。
【0011】
さらに、緩衝器は、タンクとシリンダ内とを連通するリリーフ通路と、リリーフ通路を開閉可能であってシリンダ側を上流側として上流側の圧力が開弁圧に達すると開弁してシリンダ内からタンクへ向かう液体の流れのみを許容するリリーフ弁とを備え、開閉弁は、補償通路、供給通路、排出通路およびリリーフ通路を開閉できるようにしてもよい。このように構成された緩衝器によれば、大きな外力が作用しても伸縮不能なロック状態を維持できる。
【0012】
また、タンク、供給通路、排出通路、ポンプおよび排出通路開閉弁とをポンプユニットとして、ポンプユニットが補償通路を介してシリンダ内に連通されるように緩衝器を構成してもよい。このように構成された緩衝器によれば、液圧回路が簡略化されるとともにリザーバおよびポンプユニットをシリンダ内に連通する配管の取り回しも容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の緩衝器によれば、伸縮可能として減衰力を発揮できるだけでなく、伸縮不能なロック状態として車両における車高を一定に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施の形態における緩衝器を示した液圧回路図である。
【
図2】一実施の形態の第1変形例における緩衝器を示した液圧回路図である。
【
図3】一実施の形態の第2変形例における緩衝器を示した液圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に示した各実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における緩衝器Dは、
図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に挿入されてシリンダ1内を液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン2と、シリンダ1の伸側室R1内に挿入されてピストン2に連結されるピストンロッド3と、伸側室R1と圧側室R2とを連通するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路4と、液体を貯留してシリンダ1内に連通されるとともにピストンロッド3のシリンダ1内における押しのけ容積の変化を補償するリザーバ5と、シリンダ1内とリザーバ5とを連通する補償通路6に設けられて補償通路6を開閉する開閉弁7とを備えており、図示しない車両の車体と車軸との間に介装されて使用される。なお、緩衝器Dが利用される車両は、4輪以上を備えた自動車に限られず、自動二輪車その他の車両であってもよい。
【0016】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。シリンダ1は、筒状であって内部には、前述したようにピストン2がシリンダ1に対して軸方向へ移動可能に挿入されている。そして、シリンダ1内は、ピストン2によって
図1中上方に配置された伸側室R1と
図1中下方に配置された圧側室R2とに区画されている。なお、緩衝器Dは、伸側室R1を下方に、圧側室R2を上方にして車両に取り付けられて使用されてもよい。
【0017】
伸側室R1と圧側室R2内には、液体として、具体的にはたとえば、作動油が充填されている。なお、液体としては、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液等の液体を利用してもよい。
【0018】
また、シリンダ1内には、ピストン2に連結されるピストンロッド3が軸方向へ移動可能に挿入されている。ピストンロッド3は、伸側室R1内に挿通されている。ピストンロッド3は、圧側室R2内に突出していてもよいが、緩衝器Dがシリンダ1に対して最下方に変位しても、圧側室R2の軸方向の全長を貫くことはない。このようにピストンロッド3は、シリンダ1内に挿入されているので、シリンダ1に対して軸方向へ移動すると、シリンダ1内で押し退ける容積を変化させる。ピストンロッド3の上端には、図示はしないが、車両における車体への取り付けを可能とするブラケットが取り付けられており、緩衝器Dを車体へ連結できる。
【0019】
また、シリンダ1の
図1中下端は、底部によって閉塞されている。シリンダ1の底部には、図示しないが、車輪を保持するナックルブラケット或いはサスペンションアームに取り付け可能なブラケットが設けられており、緩衝器Dを車輪へ連結できる。
【0020】
ピストン2には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路4aと、通路4aの途中に設けられて通過する液体の流れに抵抗を与える減衰弁4bとを備える減衰通路4が設けられている。なお、減衰通路4は、図示はしないが、伸側室R1と圧側室R2とを連通する少なくとも2つ以上の通路と、通路の一部を開閉して伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容するとともに液体の流れに抵抗を与える伸側減衰バルブと、残りの通路を開閉して圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容するとともに液体の流れに抵抗を与える圧側減衰バルブとを備えて構成されてもよい。
【0021】
リザーバ5は、筒状の容器5aと、容器5a内に移動可能に挿入されて容器5a内を作動油が充填された液室Lと気体が封入される気室Gとに区画するフリーピストン5bとを備えている。気室G内には、圧縮状態で気体が封入されており、気室Gの圧力でリザーバ5における液室L内を加圧している。また、リザーバ5の液室Lとシリンダ1内の圧側室R2とは、補償通路6を通じて互いに連通されており、液室Lと圧側室R2とを作動油が行き来できるようになっている。
なお、リザーバ5における液室Lと気室Gとは、フリーピストン5bによって区画されているが、液室Lと気室Gとを区画可能であって容器5a内の液室Lの容積と気室Gの容積との配分を変更可能なブラダ、ダイヤフラム或いはベローズといった区画部材によって区画されてもよい。また、たとえば、容器5aにおける補償通路6の接続部を下方に配置するなどして、リザーバ5における容器5aから圧側室R2へ気体の移動を阻止できれば液室Lと気室Gとを区画する区画部材を廃止してもよい。さらに、容器5aの一端を大気開放して、容器5a内に液室Lを加圧する方向にフリーピストン5bを付勢するばねを収容する構造を採用してもよい。この場合、容器5a内に気体が封入された気室Gを設けなくともよい。
【0022】
補償通路6には、補償通路6を開閉可能な開閉弁7が設けられている。開閉弁7は、補償通路6を開放する連通ポジションと補償通路6を遮断する遮断ポジションとを備えた弁体7aと、弁体7aを連通ポジションを採るように付勢するばね7bと、通電時に弁体7aをばね7bの付勢力に対抗して遮断ポジションに切り換えるソレノイド7cとを備えたノーマルオープン型の電磁開閉弁とされている。
【0023】
また、緩衝器Dは、前述の構成に加えて、作動油を貯留するタンク10と、タンク10とシリンダ1内における圧側室R2とを連通する供給通路11および排出通路12と、供給通路11に設けられてタンク10から液体を吸い込んでシリンダ1内に作動油を供給可能なポンプ13と、排出通路12を開閉可能な排出通路開閉弁14とを有するポンプユニットPと、タンク10とシリンダ1内における圧側室R2とを連通するリリーフ通路15と、リリーフ通路15を開閉可能であってシリンダ側を上流側として上流側の圧力が開弁圧に達すると開弁してシリンダ1内からタンク10へ向かう作動油の流れのみを許容するリリーフ弁16とを有する車高調整ユニットCを備えている。
【0024】
ポンプ13は、モータ17によって駆動されると、タンク10から作動油を吸い込んでシリンダ1内に供給する。供給通路11には、ポンプ13よりもシリンダ側にシリンダ1内からポンプ13へ作動油が逆流するのを防止するチェック弁18が設けられている。そして、ポンプ13からシリンダ1内へ作動油を供給すると、緩衝器Dは伸長して車両における車体を上昇させ得る。
【0025】
排出通路12を開閉する排出通路開閉弁14は、排出通路12を開放する連通ポジションと排出通路12を遮断する遮断ポジションとを備えた弁体14aと、弁体14aを遮断ポジションを採るように付勢するばね14bと、通電時に弁体14aをばね14bの付勢力に対抗して連通ポジションに切り換えるソレノイド14cとを備えたノーマルクローズ型の電磁開閉弁とされている。また、排出通路12には、オリフィス19が設けられている。
【0026】
そして、排出通路開閉弁14を遮断ポジションとする場合、タンク10とシリンダ1内との連通が断たれて、作動油がシリンダ1内からタンク10へ移動できなくなる。また、排出通路開閉弁14を連通ポジションとする場合、タンク10とシリンダ1内とが連通されて作動油がシリンダ1内からタンク10へ移動できるようになり、シリンダ1内からタンク10へ作動油が移動するため、緩衝器Dは収縮して車両における車体を下降させ得る。
【0027】
リリーフ通路15は、シリンダ1内とタンク10とを連通している。そして、リリーフ通路15に設けられたリリーフ弁16は、上流側となるシリンダ側の圧力が開弁圧に達すると開弁して作動油がシリンダ1内からタンク10へ流れるのを許容する。よって、ポンプ13の駆動によって作動油がシリンダ1内に供給されてシリンダ1内の圧力が過剰となる場合や、緩衝器Dの収縮作動時にシリンダ1内の圧力が過剰となると、リリーフ弁16が開弁してシリンダ1内の圧力をリリーフ弁16の開弁圧以上になるのを抑制でき、緩衝器Dを保護できる。
【0028】
以上のように、緩衝器Dは構成されており、以下に緩衝器Dの作動について説明する。まず、車両の走行に伴って伸縮する緩衝器Dに減衰力を発生させて車体の振動を抑制する場合の緩衝器Dの作動について説明する。この場合、開閉弁7を連通ポジションとしてシリンダ1内とリザーバ5とを連通させるとともに、排出通路開閉弁14を遮断ポジションとし、ポンプ13を停止させる。
【0029】
この状況では、シリンダ1内とリザーバ5とで作動油のやり取りが可能である。そして、シリンダ1に対してピストンロッド3が
図1中上方へ移動して緩衝器Dが伸長すると、ピストン2によって圧縮される伸側室R1から減衰通路4を通じて圧側室R2へ作動油が移動する。作動油が減衰通路4を通過すると、作動油の流れに減衰通路4における減衰弁4bが抵抗を与えるので伸側室R1の圧力が上昇して圧側室R2の圧力よりも高くなるので、緩衝器Dは、ピストン2の上方側への移動を妨げる減衰力を発生する。
【0030】
また、緩衝器Dの伸長時には、ピストンロッド3がシリンダ1内から退出してピストンロッド3がシリンダ1内で押し退ける容積が減少するために、シリンダ1内で作動油が不足することになるが、不足分の作動油はリザーバ5の液室Lからシリンダ1内に供給される。リザーバ5は、液室Lから作動油をシリンダ1内に供給するので、フリーピストン5bが容器5a内で下降してその分だけ気室Gが膨張する。このように、リザーバ5によってピストンロッド3のシリンダ1内における押し退け容積の変化が補償され、緩衝器Dは円滑に伸長しつつ狙い通りの減衰力を発生する。
【0031】
反対に、シリンダ1に対してピストンロッド3が
図1中下方へ移動して緩衝器Dが収縮すると、ピストン2によって圧縮される圧側室R2から減衰通路4を通じて伸側室R1へ作動油が移動する。作動油が減衰通路4を通過すると、作動油の流れに減衰通路4における減衰弁4bが抵抗を与えるので伸側室R1の圧力が下降して圧側室R2の圧力よりも低くなるので、緩衝器Dは、ピストン2の下方側への移動を妨げる減衰力を発生する。
【0032】
また、緩衝器Dの収縮時には、ピストンロッド3がシリンダ1内へ侵入してピストンロッド3がシリンダ1内で押し退ける容積が増大するために、シリンダ1内で作動油が過剰になるが、過剰分の作動油はシリンダ1内からリザーバ5の液室Lへ押し出される。リザーバ5は、作動油の液室L内への流入にともなってフリーピストン5bが容器5a内で上昇してその分だけ気室Gが縮小して液室Lでシリンダ1内から押し出された作動油を吸収する。このように、リザーバ5によってピストンロッド3のシリンダ1内における押し退け容積の変化が補償され、緩衝器Dは円滑に収縮しつつ狙い通りの減衰力を発生する。
【0033】
つづいて、ポンプ13を駆動して緩衝器Dを伸長させて車体を押し上げ、車高を上昇させる場合の緩衝器Dの作動について説明する。車高を上昇させる場合、排出通路開閉弁14を遮断ポジションとしてシリンダ1内とタンク10との連通を断つ。そして、ポンプ13を駆動してポンプ13からシリンダ1内へ作動油が供給すると、シリンダ1内に供給された作動油によってピストンロッド3がシリンダ1内から押し出されて、緩衝器Dが伸長して車体を押し上げる。なお、圧縮される伸側室R1の作動油は、減衰通路4を通じて拡大する圧側室R2へ作動油が移動する。よって、ポンプ13を駆動してシリンダ1内へ作動油を供給することによって緩衝器Dが適用された車両における車高が上昇する。
【0034】
緩衝器Dは、ピストンロッド3が伸側室R1に挿通されるが圧側室R2を貫通しない片ロッド型の緩衝器であるため、ピストン2の伸側室R1側の受圧面積よりも圧側室R2側の受圧面積の方が大きく、シリンダ1内の圧力を高くすれば、ピストンロッド3をシリンダ1に対して
図1中上方へ押し上げる力が大きくなる。車体と車輪との間には緩衝器Dに並列して懸架ばねが設けられており、車高の上昇に伴って懸架ばねが伸びて懸架ばねが負担している車体重量が減少するが、懸架ばねの負担減少分をシリンダ1内の圧力上昇によって緩衝器Dで負担することにより車高が上昇する。
【0035】
なお、補償通路6における開閉弁7が連通ポジションを採っていても遮断ポジションを採っていても、緩衝器Dが伸長して車高を上昇させ得るが、開閉弁7を遮断ポジションとしてポンプ13を駆動して車高を上昇させた後、開閉弁7を連通ポジションにするとシリンダ1内の作動油がリザーバ5へ気室G内の圧力とシリンダ1内の圧力とがバランスするまで気室Gの容積が圧縮されるため、車高が一度に下降する場合があるので、車高を上昇させる際には開閉弁7を連通ポジションとするのが好ましい。
【0036】
開閉弁7を連通ポジションとした状態でポンプ13から作動油をシリンダ1内に供給すると、シリンダ1内とリザーバ5の液室Lとに作動油が供給されるようになる。すると、リザーバ5内の気室Gがリザーバ5に流れ込む作動油量に見合って収縮して気室G内の圧力が上昇する。リザーバ5とシリンダ1内とは互いに連通されているので、ポンプ13からの作動油の供給により気室G内の圧力とシリンダ1内の圧力は等しく上昇する。シリンダ1内の圧力が上昇に伴ってピストンロッド3をシリンダ1に対して
図1中上方へ押し上げる力が大きくなるので、緩衝器Dは車高を上昇させるが、この場合、シリンダ1内の圧力とリザーバ5の圧力とが等しいので、車高が一度に下降するような事態は生じない。
【0037】
反対に、車体を下降させて車高を下げる場合の緩衝器Dの作動について説明する。車高を下げる場合、ポンプ13を停止状態にして、排出通路開閉弁14を連通ポジションとしてシリンダ1内とタンク10とを連通させる。緩衝器Dは、常時、車体の重量を受けており収縮するように付勢されているため、シリンダ1内とタンク10とが連通状態におかれると、車体からの付勢力によってピストンロッド3がシリンダ1内を
図1中下方に移動して緩衝器Dが収縮する。ピストンロッド3がシリンダ1内に侵入すると、ピストンロッド3がシリンダ1内に侵入する体積分の作動油がシリンダ1内で過剰となるため、シリンダ1から押し出されて排出通路12を介してタンク10へ移動する。緩衝器Dの収縮に伴って拡大する伸側室R1には圧縮される圧側室R2から減衰通路4を介して作動油が供給される。
【0038】
シリンダ1内から押し出された作動油が排出通路12を通過する際、排出通路12に設けられたオリフィス19を通過するので、作動油の流れにオリフィス19が抵抗を与えて緩衝器Dの収縮速度を緩慢にして車高が勢いよく下がるのを防止できる。このようにオリフィス19を設置することによって、車高を下げる際の下降速度を緩慢にできるので車両搭乗者に不快感を与えずに済むが、オリフィス19を省略することもできる。また、排出通路開閉弁14が連通ポジションを採る場合に、作動油の流れに対して抵抗を与えるようにして、オリフィス19に代えて排出通路開閉弁14によって車体の下降速度を緩慢にするようにしてもよい。
【0039】
つづいて、車両の停車時において緩衝器Dを伸縮不能なロック状態として車高を一定に維持する際の緩衝器Dの作動を説明する。緩衝器Dを伸縮不能なロック状態にする場合、開閉弁7を遮断ポジションとしてシリンダ1内とリザーバ5との連通を断つ。このようにすると、緩衝器Dが伸長しようとしてシリンダ1に対してピストンロッド3が退出しようとしても、シリンダ1内とリザーバ5とで作動油が行き来することができず、シリンダ1内への作動油の供給が不能となるから緩衝器Dは伸長できない。また、緩衝器Dが収縮しようとしてシリンダ1に対してピストンロッド3が侵入しようとしても、シリンダ1内とリザーバ5とで作動油が行き来することができず、シリンダ1内から作動油の排出が不能となるから緩衝器Dは収縮できない。このように、開閉弁7を閉弁させて、シリンダ1内とリザーバ5とを連通する補償通路6を遮断することにより、緩衝器Dは伸縮不能なロック状態となる。他方、開閉弁7を連通ポジションとして補償通路6を開放すれば、緩衝器Dは、伸縮が可能となる状態に復帰する。
【0040】
なお、リリーフ弁16は、前述したように、ポンプ13の駆動によって作動油がシリンダ1内に供給されてシリンダ1内の圧力が過剰となる場合や、緩衝器Dの収縮作動時にシリンダ1内の圧力が過剰となると、リリーフ弁16が開弁してシリンダ1内の圧力をリリーフ弁16の開弁圧以上になるのを抑制でき、緩衝器Dを保護できる。
【0041】
以上、本実施の形態の緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に挿入されてシリンダ1内を作動油(液体)が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン2と、シリンダ1の伸側室R1内に挿入されてピストン2に連結されるピストンロッド3と、伸側室R1と圧側室R2とを連通するとともに通過する作動油(液体)の流れに抵抗を与える減衰通路4と、作動油(液体)を貯留してシリンダ1内に連通されるとともにピストンロッド3のシリンダ1内における押しのけ容積の変化を補償するリザーバ5と、シリンダ1内とリザーバ5とを連通する補償通路6に設けられて補償通路6を開閉する開閉弁7とを備えて構成されている。
【0042】
このように構成された緩衝器Dによれば、開閉弁7を開弁させることによって伸縮可能として減衰力を発揮できるだけでなく、開閉弁7を閉弁させることによって伸縮不能なロック状態として車両における車高を一定に維持できる。緩衝器Dは、車高を一定に維持できるので車両の停車時において車室内の搭乗者に不快感を与えることもない。
【0043】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、開閉弁7がノーマルオープン型の開閉弁とされているので、開閉弁7への通電が困難な失陥時には開弁してシリンダ1内とリザーバ5とを連通させて伸縮して減衰力を発揮可能となるので、失陥時にも減衰力を発揮して車体の振動を抑制できる。開閉弁7を通電時に開弁し非通電時に閉弁するノーマルクローズ型の開閉弁とする場合には、車両を駐車させて車高を一定に維持する場合に電力を消費しなくなるのでエネルギ消費を低減できる。なお、開閉弁7は、電磁開閉弁とされているが、手動によって切り換わる開閉弁とされてもよい。
【0044】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、作動油(液体)を貯留するタンク10と、タンク10とシリンダ1内とを連通する供給通路11および排出通路12と、供給通路11に設けられてタンク10から液体を吸い込んでシリンダ1内に作動油(液体)を供給可能なポンプ13と、排出通路12を開閉可能な排出通路開閉弁14とを備えている。このように構成された緩衝器Dでは、ポンプ13を駆動してシリンダ1内に作動油(液体)を供給することによって伸長して車高を上昇させることができるとともに排出通路開閉弁14の開弁によってシリンダ1内からタンク10へ作動油(液体)を排出させて収縮して車高を下降させ得る。よって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、車高調整が可能であるとともに車高調整後に開閉弁7を閉弁させることによって伸縮不能なロック状態として車両における車高を一定に維持できる。緩衝器Dを車高調整可能とする場合、車高を検知する検知手段を設けて車両への積載重量の変化によって車高が変化すると車高を自動的に所定の高さにする制御装置を設けてもよい。制御装置は、前記検知手段を備えてポンプ13を駆動するモータ17、排出通路開閉弁14を制御できるものであればよい。検知手段は、たとえば、緩衝器Dのストローク変位を検知するストロークセンサ、車体の路面からの距離を検知する距離センサ、シリンダ1内の圧力を検知する圧力センサ等とされればよい。なお、緩衝器Dは、車高調整機能を備えなくてもよい場合には、タンク10、供給通路11、排出通路12、ポンプ13および排出通路開閉弁14とでなるポンプユニットPを備えずともよい。
【0045】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、タンク10とシリンダ1内とを連通するリリーフ通路15と、リリーフ通路15を開閉可能であってシリンダ側を上流側として上流側の圧力が開弁圧に達すると開弁してシリンダ1内から前記タンク10へ向かう作動油(液体)の流れのみを許容するリリーフ弁16とを備え、開閉弁7は、補償通路6を開閉するがリリーフ通路15を開閉しない位置に配置されている。このように構成された緩衝器Dによれば、開閉弁7を閉弁させてシリンダ1内とリザーバ5との作動油(液体)のやり取りを不能とした場合であっても、伸縮させる大きな外力が作用してシリンダ1内の圧力が過剰になるような状況となるとリリーフ弁16が開弁してシリンダ1内の圧力をタンク10へ逃がすので、緩衝器Dを保護できる。また、開閉弁7を閉弁したまま誤って車両を走行させてしまっても、リリーフ通路15とリリーフ弁16によってシリンダ1内の圧力が過剰となるのを防止できる。
【0046】
なお、本実施の形態の緩衝器Dでは、開閉弁7は、補償通路6のみを開閉して、供給通路11、排出通路12およびリリーフ通路15を開閉しないように配置されているが、緩衝器Dは、
図2に示した緩衝器D1のように、タンク10とシリンダ1内とを連通するリリーフ通路15と、リリーフ通路15を開閉可能であってシリンダ側を上流側として上流側の圧力が開弁圧に達すると開弁してシリンダ1内から前記タンク10へ向かう作動油(液体)の流れのみを許容するリリーフ弁16とを備え、補償通路6の途中であって開閉弁7よりも反シリンダ側に供給通路11、排出通路12およびリリーフ通路15を接続して、開閉弁7の開閉によって補償通路6、供給通路11、排出通路12およびリリーフ通路15を開閉できるようにしてもよい。このように構成された緩衝器Dによれば、大きな外力が作用しても伸縮不能なロック状態を維持できる。
【0047】
さらに、
図3に示すように、緩衝器D2は、リザーバ5と圧側室R2との間に圧側室R2からリザーバ5へ向かう作動油の流れに抵抗を与える圧側減衰弁20とリザーバ5から圧側室R2へ向かう作動油の流れのみを許容するチェック弁21とを並列に備えていてもよい。このように構成された緩衝器D2でも、開閉弁7の閉弁によってシリンダ1内とリザーバ5との連通を断つことによって伸縮を不能とするロック状態を実現できるとともに、開閉弁7の開弁によって伸縮を可能として伸縮時に減衰力を発生できる。
【0048】
なお、補償通路6およびポンプユニットP、或いは、補償通路6およびポンプユニットPにさらにリリーフ通路15とリリーフ弁16とを備えた車高調整ユニットCは、伸側室R1に連通されてもよい。このように構成された緩衝器Dによっても、開閉弁7を開弁させることによって伸縮可能として減衰力を発揮できるだけでなく、開閉弁7を閉弁させることによって伸縮不能なロック状態として車両における車高を一定に維持でき、ポンプユニットPによる車高調整も可能である。よって、このように構成された緩衝器Dは、車高を一定に維持できるので車両の停車時において車室内の搭乗者に不快感を与えることもない。
【0049】
さらに、ポンプユニットPは、リザーバ5をシリンダ1内に連通する補償通路6を介してシリンダ1内に連通されているが、補償通路6を介さずに独立してシリンダ1内に連通されてもよい。ただし、
図1から
図3に示した緩衝器D,D1,D2のように、ポンプユニットPが補償通路6を介してシリンダ1内に連通される構造を採用する場合、液圧回路が簡略化されるとともにリザーバ5およびポンプユニットPをシリンダ1内に連通する配管の取り回しも容易となる。
【0050】
また、シリンダ1内に開閉弁7を備えて圧側室R2とリザーバ5とを区画する図示しない仕切部材を設ける場合には、
図1から
図3の緩衝器D,D1,D2においてシリンダ1内の圧側室R2の下方にリザーバ5を設置することができる。さらに、シリンダ1の外方にシリンダ1の外周を覆う図示しない外筒を設けて、シリンダ1と当該外筒との間にリザーバ5を形成してもよい。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・シリンダ、2・・・ピストン、3・・・ピストンロッド、4・・・減衰通路、5・・・リザーバ、6・・・補償通路、7・・・開閉弁、10・・・タンク、11・・・供給通路、12・・・排出通路、13・・・ポンプ、14・・・排出通路開閉弁、15・・・リリーフ通路、16・・・リリーフ弁、D,D1,D2・・・緩衝器、P・・・ポンプユニット、R1・・・伸側室、R2・・・圧側室