(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084886
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】細胞培養用治具、細胞培養補助具、及び細胞培養補助具の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
C12M3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199054
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】小関 修
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA27
4B029BB11
4B029BB12
4B029CC01
4B029CC02
4B029DG10
4B029GA06
4B029GB07
(57)【要約】
【課題】 細胞を高密度で培養する場合であっても、培養容器への酸素の供給不足を防止することが可能な細胞培養用治具を提供する。
【解決手段】 少なくとも一方がガス透過性フィルムからなる対向する平面状器材によって形成された袋状の細胞培養容器を保持する細胞培養用治具2であって、細胞培養容器を載置する架台23と、細胞培養容器を架台23に対して押圧する押圧部24と、貫通穴が格子状に形成されてなり、少なくとも片面側に貫通穴同士が互いに連通する通気部を有する穴開き薄板1を備えた細胞培養用治具。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方がガス透過性フィルムからなる対向する平面状器材によって形成された袋状の細胞培養容器を保持する細胞培養用治具であって、
前記細胞培養容器を載置する架台と、
前記細胞培養容器を前記架台に対して押圧する押圧部と、
貫通穴が格子状に形成されてなり、少なくとも片面側に前記貫通穴同士が互いに連通する通気部を有する穴開き薄板と、を備えた
ことを特徴とする細胞培養用治具。
【請求項2】
前記穴開き薄板が、前記穴開き薄板の両面側に前記貫通穴同士が互いに連通する通気部を有することを特徴とする請求項1記載の細胞培養用治具。
【請求項3】
前記穴開き薄板の第一の面側に備えられた第一の面側通気部と、前記第一の面の反対側の第二の面側に備えられた第二の面側通気部が、前記第一の面及び前記第二の面に対する鉛直方向に重ならない
ことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養用治具。
【請求項4】
前記穴開き薄板が、前記架台と前記細胞培養容器の間、又は、前記押圧部と前記細胞培養容器の間の少なくとも一方に設置されたことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養用治具。
【請求項5】
前記穴開き薄板が、前記架台と前記細胞培養容器の間、及び、前記押圧部と前記細胞培養容器の間の両方に設置されたことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養用治具。
【請求項6】
前記第一の面側通気部が、前記貫通穴同士を一方向に互いに連通し、
前記第二の面側通気部が、前記貫通穴同士を前記一方向に対して垂直な方向に互いに連通する
ことを特徴とする請求項3記載の細胞培養用治具。
【請求項7】
前記穴開き薄板が、周縁部の一部又は全部の前記貫通穴と外部を連通する外部通気部を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養用治具。
【請求項8】
貫通穴が格子状に形成された穴開き薄板からなる細胞培養補助具であって、
前記穴開き薄板の少なくとも片面側に前記貫通穴同士が互いに連通する通気部を備えた
ことを特徴とする細胞培養補助具。
【請求項9】
前記穴開き薄板の第一の面側に備えられた第一の面側通気部と、前記第一の面の反対側の第二の面側に備えられた第二の面側通気部が、前記第一の面及び前記第二の面に対する鉛直方向に重ならない
ことを特徴とする請求項8記載の細胞培養補助具。
【請求項10】
前記穴開き薄板が、前記貫通穴と外部を連通する外部通気部を備えたことを特徴とする請求項請求項8又は9記載の細胞培養補助具。
【請求項11】
請求項8又は9記載の細胞培養補助具の製造方法であって、
前記貫通穴及び前記通気部を、フォトエッチング又はサンドブラストにより加工する
ことを特徴とする細胞培養補助具の製造方法。
【請求項12】
前記貫通穴及び前記通気部を、細胞培養補助具の両面に対して、ハーフエッチング加工又はハーフブラスト加工を行うことによって形成する
ことを特徴とする請求項11記載の細胞培養補助具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞などの培養技術に関し、特に細胞を高密度で培養するための細胞培養用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、軟包材からなる培養容器(培養バッグ)を用いて、細胞などを閉鎖系で大量培養することが行われている。
【0003】
このような培養容器を用いるスフェア培養において培養容器を動かす際に培地が移動することによりスフェアがウェルから飛び出し動いてしまうことを防止する場合や、接着細胞の培養において培地交換作業などで培養容器の上下のフィルムが接触することにより接着していた細胞が剥離してしまうことを防止する場合、培養容器を押圧治具に挟んで培養することがある。
【0004】
このとき、培養容器の表面と押圧治具との接触面が押圧によって強固に密着するため、培養容器におけるガス透過性が問題となる。
すなわち、軟包材からなる培養容器による培養は、培養容器のガス透過性に律速されるところ、例えば50万個/cm2以上の高密度培養時には、細胞の酸素消費が非常に多くなり、容器内の細胞周辺の酸素濃度が低減して、増殖性能が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4806761号公報
【特許文献2】特開2022-16211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような問題の解決に関連する技術として、特許文献1に記載の培養用トレイを挙げることができる。この培養用トレイでは、押さえ板における培養容器と接する位置に複数の通気孔を設けることによって、培養容器のガス透過性能を向上させている。
また、特許文献2の細胞培養用治具では、培養容器と押圧治具との間で通気可能な各種器材(穴開き板,多孔質材,表面に突起部を有する器材等)を用いて架台を形成することにより、培養容器内の酸素濃度の低下を防止することが提案されている。
【0007】
しかしながら、押さえ板に通気孔を設ける場合や架台を穴開き板として形成する場合、それらの板に剛性を持たせるため、一般的には最低でも3mmの厚みのパンチングメタルなどがそれらの板として用いられるところ、容量の大きい培養容器に用いられる穴開き板を製造するためには、膨大な加工コストが必要になるという問題があった。
また、ガラスなどからなる架台に薄い穴開き板を設置する場合には、架台と穴開き板が平面同士であるため、穴開き板の非加工部と架台が接触して通気性を悪化させ、特に培養容器の中央部への酸素供給性能が悪くなるという問題があった。
【0008】
また、架台を多孔質材を用いて形成する場合は、顕微鏡観察に適さず、また多孔質材が樹脂の場合は剛性が低くて扱いづらいという問題があった。
さらに、表面に突起部を有する器材を用いて架台を形成する場合は、金属や樹脂材で形成すると顕微鏡観察することができず、透明な樹脂で形成すると、顕微鏡観察はできるが剛性が低くて取扱しづらく、使用中に劣化して変形してしまうという問題があった。
【0009】
そこで、本発明者は鋭意研究して、培養容器を保持する細胞培養用治具に、貫通穴が格子状に形成され、その貫通穴同士が互いに連通する通気部を有する穴開き薄板を備えることによって、上記の問題を解決することに成功して本発明を完成させた。
このような細胞培養用治具によれば、貫通穴を介して培養容器の通気性を向上させることができ、培養容器への酸素の供給不足を防止することが可能である。また、貫通穴を通じて顕微鏡観察を行うことも可能である。
【0010】
また、ステンレス材や銅材の薄板を用いて穴開き薄板を製造する場合であっても、フォトエッチング加工などによって容易に穴開き薄板に貫通穴や通気部を形成することができるため、例えば500cm2を超えるような大判の穴開き薄板を加工する場合でも安価に製作することができる。さらに、得られる穴開き薄板は金属であるため剛性も高く、取扱性に優れ、長期使用による劣化も問題ない細胞培養用治具とすることが可能である。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、細胞を高密度で培養する場合であっても、培養容器への酸素の供給不足を防止することが可能な細胞培養用治具、細胞培養補助具、及び細胞培養補助具の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の細胞培養用治具は、少なくとも一方がガス透過性フィルムからなる対向する平面状器材によって形成された袋状の細胞培養容器を保持する細胞培養用治具であって、前記細胞培養容器を載置する架台と、前記細胞培養容器を前記架台に対して押圧する押圧部と、貫通穴が格子状に形成されてなり、少なくとも片面側に前記貫通穴同士が互いに連通する通気部を有する穴開き薄板とを備えた構成としてある。
【0013】
また、本発明の細胞培養用治具を、前記穴開き薄板が、前記穴開き薄板の両面側に前記貫通穴同士が互いに連通する通気部を有する構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養用治具を、前記穴開き薄板の第一の面側に備えられた第一の面側通気部と、前記第一の面の反対側の第二の面側に備えられた第二の面側通気部が、前記第一の面及び前記第二の面に対する鉛直方向に重ならない構成とすることが好ましい。
【0014】
また、本発明の細胞培養用治具を、前記穴開き薄板が、前記架台と前記細胞培養容器の間、又は、前記押圧部と前記細胞培養容器の間の少なくとも一方に設置された構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養用治具を、前記穴開き薄板が、前記架台と前記細胞培養容器の間、及び、前記押圧部と前記細胞培養容器の間の両方に設置された構成とすることが好ましい。
【0015】
また、本発明の細胞培養用治具を、前記第一の面側通気部が、前記貫通穴同士を一方向に互いに連通し、前記第二の面側通気部が、前記貫通穴同士を前記一方向に対して垂直な方向に互いに連通する構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養用治具を、前記穴開き薄板が、前記貫通穴と外部を連通する外部通気部を備えた構成とすることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の細胞培養用治具を、上記の細胞培養用治具における各構成を様々に組み合わせたものとすることも好ましい。
【0017】
また、本発明の細胞培養補助具は、貫通穴が格子状に形成された穴開き薄板からなる細胞培養補助具であって、前記穴開き薄板の少なくとも片面側に前記貫通穴同士が互いに連通する通気部を備えた構成としてある。
また、本発明の細胞培養補助具を、前記穴開き薄板の第一の面側に備えられた第一の面側通気部と、前記第一の面の反対側の第二の面側に備えられた第二の面側通気部が、前記第一の面及び前記第二の面に対する鉛直方向に重ならない構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養補助具を、前記穴開き薄板が、周縁部の一部又は全部の前記貫通穴と外部を連通する外部通気部を備えた構成とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明の細胞培養補助具の製造方法は、上記の細胞培養補助具の製造方法であって、前記貫通穴及び前記通気部を、フォトエッチング又はサンドブラストにより加工する方法としてある。
また、本発明の細胞培養補助具の製造方法を、前記貫通穴及び前記通気部を、細胞培養補助具の両面に対して、ハーフエッチング加工又はハーフブラスト加工を行うことによって形成する方法とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、細胞を高密度で培養する場合であっても、培養容器への酸素の供給不足を防止することが可能な細胞培養用治具、細胞培養補助具、及び細胞培養補助具の製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養補助具の構成を示す平面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る細胞培養補助具の構成を示す正面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る細胞培養補助具の構成を示す左側面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る細胞培養補助具の構成を示す背面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る細胞培養補助具の構成を示す斜視図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る細胞培養用治具の構成を示す模式図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る細胞培養補助具が備えられた細胞培養用治具の構成を示す模式図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る細胞培養用治具に培養バッグが載置された状態を示す模式図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る細胞培養用治具(培養バッグが載置された状態)の構成を示す正面図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る細胞培養用治具を用いて細胞培養を行う様子を示す拡大正面図(A)、及び拡大左側面図(B)である。
【
図11】本発明の実施形態に係る細胞培養用治具の製造方法で用いられるフォトエッチング加工を示す説明図である。
【
図12】本発明の実施形態に係る細胞培養用治具の製造方法で用いられるサンドブラスト加工を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の細胞培養用治具、細胞培養補助具、及び細胞培養補助具の製造方法の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態の具体的な内容に限定されるものではない。
【0022】
[細胞培養補助具]
まず、本実施形態の細胞培養補助具について説明する。
本実施形態の細胞培養補助具は、貫通穴が格子状に形成された穴開き薄板からなる細胞培養補助具であって、穴開き薄板の少なくとも片面側に貫通穴同士が互いに連通する通気部を備えたことを特徴とする。
【0023】
具体的には、
図1~
図5に示すように、本実施形態の細胞培養補助具(穴開き薄板)1には、貫通穴11が格子状に形成されている。
なお、貫通穴11の形状は、正方形に限定されず、矩形状や円又は楕円などの他の形状であってもよい。本明細書において、「貫通穴が格子状に形成された」とは、このような種々の形状の貫通穴11が格子状様に配置された形状を含んでいる。
【0024】
また、細胞培養補助具1の両面側に、貫通穴11同士が互いに連通する通気部(内部通気部)12を有している。
さらに、細胞培養補助具1は、その両面側に、周縁部の一部又は全部の貫通穴11と外部を連通する通気部(外部通気部)13を有している。
なお、細胞培養補助具1の片面側のみに内部通気部12と外部通気部13を有していてもよく、細胞培養補助具1において、外部通気部13を備えていなくてもよい。
【0025】
図1及び
図2に示すように、細胞培養補助具1の表面において、各貫通穴11を連通する内部通気部12は、一方向に整列して配置されている。
図1に示す平面図において、内部通気部12は、各貫通穴11を縦方向(上下方向)に連通して配置されている。
また、細胞培養補助具1の表面において、貫通穴11と外部を連通する外部通気部13も、内部通気部12と同方向に整列して配置されている。
【0026】
なお、外部通気部13の配置はこれに限定されず、
図1に示す平面図において、外部通気部13を貫通穴11と外部が横方向(左右方向)に連通するように配置してもよい。
この場合、細胞培養補助具1の表面における外部通気部13と裏面における外部通気部13が、これらの面に対する鉛直方向に重ならないようにすることが望ましく、裏面における外部通気部13を貫通穴11と外部が縦方向に連通するように配置することが好ましい。
【0027】
図4に示す背面図において、内部通気部12は、各貫通穴11を横方向に連通して配置されている。
また、細胞培養補助具1の背面において、貫通穴11と外部を連通する外部通気部13も、内部通気部12と同方向に整列して配置されている。
【0028】
なお、外部通気部13の配置はこれに限定されず、
図4に示す背面図において、外部通気部13を貫通穴11と外部が縦方向に連通するように配置してもよい。
この場合も、細胞培養補助具1の裏面における外部通気部13と表面における外部通気部13が、これらの面に対する鉛直方向に重ならないようにすることが望ましく、表面における外部通気部13を貫通穴11と外部が横方向に連通するように配置することが好ましい。
【0029】
このように、本実施形態の細胞培養補助具1は、一方の面(第一の面)側に備えられた第一の面側通気部(12,13)と、第一の面の反対側の他方の面(第二の面)側に備えられた第二の面側通気部(12,13)が、第一の面及び第二の面に対する鉛直方向に重ならない構成となっている。
本実施形態の細胞培養補助具1をこのような構成にすることによって、後述する細胞培養補助具の製造方法において、フォトエッチング加工やサンドブラスト加工によって、通気部12(13)を好適に形成させることが可能になっている。
【0030】
すなわち、第一の面側通気部と第二の面側通気部がこれらの面に対する鉛直方向に重なる構成にし、かつその深さを穴開き薄板の厚みの半分以上とした場合には、これらの通気部が重なることによって貫通孔が形成され、穴開き薄板は各貫通孔で分離して細胞培養補助具1を製造することができない。
【0031】
これに対して、第一の面側通気部と第二の面側通気部を、これらの面に対する鉛直方向に重ならない構成とすれば、それぞれの面において、ハーフエッチング加工やハーフブラスト加工を行うことにより、通気部12(13)を好適に形成することができると共に、同時に貫通穴11を形成することが可能である。
ハーフエッチング加工とは、穴開き薄板の厚みの半分をエッチングする加工を意味する。また、ハーフブラスト加工とは、穴開き薄板の厚みの半分をブラスト加工することを意味する。
【0032】
また、このような観点から、
図1及び
図4に示すように、本実施形態の細胞培養補助具1は、第一の面側通気部が、貫通穴11同士を一方向に互いに連通し、第二の面側通気部が、貫通穴11同士をその一方向に対して垂直な方向に互いに連通する構成とすることが好ましい。
【0033】
本実施形態の細胞培養補助具の材料としては、金属薄板、セラミック材等の加工できる材料であれば特に限定されない。例えば、金属材料のステンレス、鉄、銅、ニッケルなどを好適に用いることが可能である。また、セラミック材のガラス、アルミナ、マシナブルセラミクスなども好適に用いることができる。
【0034】
本実施形態の細胞培養補助具1をこのような構成にすれば、軟包材からなる袋状の細胞培養容器を細胞培養補助具1に密着させた場合であっても、貫通穴11と内部通気部12を介して、細胞培養容器に対して通気することができるため、細胞を高密度で培養する場合であっても、細胞培養容器への酸素の供給不足を抑制することが可能になっている。
また、本実施形態の細胞培養補助具1において、外部通気部13を備えることにより、細胞培養容器の通気性能を一層向上させることができ、細胞培養容器への酸素の供給効率を大きく向上させることが可能になっている。
【0035】
[細胞培養用治具]
次に、本実施形態の細胞培養用治具について説明する。
本実施形態の細胞培養用治具は、少なくとも一方がガス透過性フィルムからなる対向する平面状器材によって形成された袋状の細胞培養容器を保持する細胞培養用治具であって、細胞培養容器を載置する架台と、細胞培養容器を架台に対して押圧する押圧部と、貫通穴が格子状に形成されてなり、少なくとも片面側に貫通穴同士が互いに連通する通気部を有する穴開き薄板とを備えたことを特徴とする。
【0036】
具体的には、
図6~
図9に示すように、本実施形態の細胞培養用治具2は、天板21と、底板22と、架台23と、押圧部24を備えている。
天板21には開口部211が備えられ、この開口部211を介して、細胞培養用治具2に配置された細胞培養容器3の内部を観察したり、光を照射することによって顕微鏡観察を行うことができるようになっている。
【0037】
また、底板22にも開口部221が備えられ、この開口部221を介して、細胞培養用治具2に配置された細胞培養容器3の内部を観察したり、顕微鏡観察を行うことができるようになっている。
底板22には、架台23が載置されている。架台23は、開口部221を介して、細胞培養容器3の内部の観察などを可能にするために、例えばガラス板などの透明部材によって構成することが好ましい。
【0038】
底板22には、天板取付部222が備えられ、天板21に備えられた取付部212に天板取付部222が係合し、天板21が底板22に対して回動可能になっている。
また、底板22には、天板支持部223が備えられ、天板21を底板22に対して閉じた状態において、天板21が天板支持部223によって支持される。
【0039】
さらに、天板21には、押圧部24が天板21に対して垂直(及び斜め)方向に移動可能に備えられている。
すなわち、天板21の四隅にガイドピン213が備えられ、押圧部24の四隅にはガイド孔241が備えられており、このガイド孔241にガイドピン213が挿通している。
【0040】
また、天板21の四隅にマグネット214が備えられ、押圧部24の四隅にマグネット242が備えられ、マグネット214とマグネット242が互いに反発し合うことで、押圧部24に備えられた押圧板243が細胞培養容器3を架台23に対して押圧する構成となっている。
なお、押圧部24により細胞培養容器3を押圧する手段は、このような構成に限定されるものではなく、例えばバネなどの付勢手段を用いたり、あるいは押圧部24の自重により細胞培養容器3を押圧する構成としてもよい。
【0041】
図7は、細胞培養用治具2の架台23の上に、本実施形態の細胞培養補助具1(穴開き薄板)を配置した状態を示している。
また、
図8は、この細胞培養補助具1の上に、細胞培養容器3を配置した状態を示している。
さらに、
図9は、この細胞培養用治具2の天板21を底板22に対して回動させて閉じることにより、細胞培養用治具2において、細胞培養容器3を押圧しつつ保持した状態を示している。
【0042】
ここで、細胞培養用治具2において、細胞培養補助具1を備えていない場合は、細胞培養容器3の上面フィルムは押圧部24の押圧板243に密着し、細胞培養容器3の下面フィルムは架台23に密着した状態となる。
このため、細胞培養容器3の上面フィルムと下面フィルムとして、ガス透過性に優れたものを用いていたとしても、細胞培養容器3を押圧しつつ保持した状態では、細胞培養容器3の通気性能は低くなる。
【0043】
これに対して、
図10(細胞培養用治具2を用いて細胞培養を行う様子を示す拡大正面図(A)、及び拡大左側面図(B))に示すように、細胞培養用治具2の架台23の上に、本実施形態の細胞培養補助具1を配置することによって、細胞培養容器3を押圧しつつ保持した状態であっても、細胞培養補助具1における貫通穴11と内部通気部12、及び外部通気部13を介して、細胞培養容器3の通気を行うことができる。
このため、本実施形態の細胞培養用治具2によれば、細胞を高密度で培養する場合であっても、細胞培養容器への酸素の供給効率を向上させることができ、培養効率を高めることが可能になっている。
【0044】
また、同様の観点から、図示しないが、細胞培養用治具2の押圧板243と細胞培養容器3の間に、本実施形態の細胞培養補助具1を配置することも好ましい。
このようにすれば、細胞培養容器3の上に配置された細胞培養補助具1における貫通穴11と内部通気部12、及び外部通気部13を介して、細胞培養容器3の通気を行うことができる。
【0045】
すなわち、本実施形態の細胞培養用治具2は、細胞培養補助具1(穴開き薄板)が、架台23と細胞培養容器3の間、又は、押圧部24と細胞培養容器3の間の少なくとも一方に設置された構成とすることが好ましい。
本実施形態の細胞培養用治具2をこのような構成にすることによって、細胞培養容器への酸素の供給効率を向上させることが可能である。
【0046】
また、本実施形態の細胞培養用治具2において、細胞培養補助具1(穴開き薄板)が、架台23と細胞培養容器3の間、及び、押圧部24と細胞培養容器3の間の両方に設置された構成とすることも好ましい。
本実施形態の細胞培養用治具2をこのような構成にすれば、細胞培養補助具1による細胞培養容器3の通気性能を2倍にすることができ、細胞培養容器への酸素の供給効率をさらに向上させることが可能である。
【0047】
[細胞培養補助具の製造方法]
次に、本実施形態の細胞培養補助具の製造方法について説明する。
本実施形態の細胞培養補助具の製造方法は、上述した細胞培養補助具の製造方法であって、貫通穴11及び通気部12(13)を、フォトエッチング又はサンドブラストにより加工することを特徴とする。
【0048】
また、本実施形態の細胞培養補助具の製造方法において、貫通穴11及び通気部12(13)を、細胞培養補助具の両面に対して、ハーフエッチング加工又はハーフブラスト加工を行うことによって形成することが好ましい。
本実施形態の細胞培養補助具の製造方法をこのような方法とすれば、細胞培養補助具の各面において、通気部12(13)を好適に形成することができ、同時に貫通穴11を形成することが可能である。
【0049】
まず、本実施形態の細胞培養補助具の製造方法におけるフォトエッチング加工について、
図11を参照して説明する。
なお、
図11では、理解し易さの観点から、
図1に示す本実施形態の細胞培養補助具1とは異なる形状のフォトエッチング加工を行う例を示している。
図12についても同様である。
【0050】
フォトエッチングとは、写真製版プロセスを用いて腐食させたくない部分に耐食膜(レジスト)を形成し、それ以外の部分を腐食(溶解)加工させる加工技術である。
写真画像により加工形状をつくるため、ミクロン単位の複雑微細なパターンなど、細密加工が可能である。化学的加工であるため、物理的にバリ、歪み、カエリ、加工硬化などが発生せず、ステンレス、鉄、銅、ニッケルなどを加工することが可能である。
また、大判サイズ(0.5~1m)まで加工することができ、プレス加工と異なり金型が不要であるため、小ロット・多品種・短納期での対応が可能で量産に適している。
【0051】
本実施形態におけるフォトエッチング加工は、例えば以下の手順で行うことができる。
(1a)洗浄工程
厚み0.5mmのステンレスなどの基板5を洗浄し、脱脂する。
(2a)レジスト工程
基板の両面に0.02mmなどのドライフィルムレジスト6(以下、レジスト6と称する。)をラミネートする。
【0052】
(3a)露光工程
レジスト6上にマスクパターン7を有するフォトマスク8を重ね、UVランプ9を用いてレジスト6の両面に対して露光処理を行う。
(4a)現像工程
現像処理により、ネガタイプのレジスト6を得る。
【0053】
(5a)エッチッング工程
エッチング液として塩化第二鉄溶液などを使用し、これをスプレーノズル10aから噴射して基板5の両面に対してエッチング処理を行う。両面エッチング部Aは、両面からエッチングされて基板5の厚みの半分をエッチングした時点で貫通し、貫通穴11が形成される。また、片面エッチング部Bは、基板5の厚みの半分がエッチングされ、通気部12(13)が形成される。なお、レジスト6の内側(両面エッチングの場合、板厚の10~20%)までエッチングされ、サイドエッチ(アンダーカット)が形成される。
【0054】
(6a)レジスト剥離工程
基板5からレジスト6を剥離して、細胞培養補助具1を得る。
このようなフォトエッチングによれば、金属薄板に対して、物理的にバリ、歪み、カエリ、加工硬化などを発生させることなく、細密加工を行うことができる。また、大判サイズの細胞培養補助具1を容易に量産することが可能である。
【0055】
次に、本実施形態の細胞培養補助具の製造方法におけるサンドブラスト加工について、
図12を参照して説明する。
サンドブラスト加工とは、コンプレッサで作った圧縮エアーにより、ガラスビーズやアルミナの堅い粉末等の投射材をノズルから噴射させ、加工対象物に対して物理的に表面加工を行う方法である。
【0056】
その加工方法はフォトエッチングと似ており、ドライフィルム(サンドブラスト用)を加工物にラミネートし、露光と現像を行って基材上にパターン形成した後、投射材を基材に噴射してパターン加工を行う。
フォトエッチングは両面同時に加工を行うが、サンドブラストでは片面ずつ行う必要があり、貫通穴をあける場合は片面からの加工で貫通させるか、片面でおよそ板厚の半分程度加工したのち、加工物を裏返しさらに半分程度加工することで貫通させる方法がある。
【0057】
本実施形態におけるサンドブラスト加工は、例えば以下の手順で行うことができる。
まず、フォトエッチングと同様に、(1b)洗浄工程、(2b)レジスト工程、
(3b)露光工程、及び(4b)現像工程を行う。
【0058】
(5b)サンドブラスト加工工程(第一面)
サンドブラスト噴射ノズル10bを前後左右に移動させ、基板5に対して加工粒を吹き付ける。ステンレスの基板5に対しては、アルミナ紛などを吹き付けて加工することができる。
基板5の一方の面側に対して、板厚みの半分をブラスト加工した後、一旦停止する。これにより、片面ブラスト部Dにおいて通気部12(13)が形成される。
【0059】
(6b)サンドブラスト加工工程(第二面)
基板5を反転させて、基板5の他方の面側に対して、板厚みの半分をブラスト加工し、両面ブラスト部Cにおいて貫通穴11を形成する。また、片面ブラスト部Dにおいて通気部12(13)を形成する。
【0060】
(7b)レジスト剥離工程
基板5からレジスト6を剥離して、細胞培養補助具1を得る。
サンドブラストでは、エッチングと違いレジストの裏側は削れないが、レジスト6のエッジ周辺は加工速度が低下するためテーパ状になる。
【0061】
このようなサンドブラストによっても、金属薄板に対して、物理的にバリ、歪み、カエリ、加工硬化などを発生させることなく、細密加工を行うことができ、大判サイズの細胞培養補助具1を容易に量産することが可能である。
【0062】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。例えば、上述した実施形態の細胞培養補助具における貫通穴や通気部の個数を変更したり、その平面形状を細胞培養容器の培養面に対応させて変更するなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、軟包材からなる細胞培養容器を用いて細胞を高密度で大量培養する場合などに好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 細胞培養補助具
11 貫通穴
12 通気部(内部通気部)
13 通気部(外部通気部)
2 細胞培養用治具
21 天板
211 開口部
212 取付部
213 ガイドピン
214 マグネット
22 底板
221 開口部
222 天板取付部
223 天板支持部
23 架台
24 押圧部
241 ガイド孔
242 マグネット
243 押圧板
3 細胞培養容器
31 培養部
32 ポート
33 チューブ
4 細胞
5 基材
6 レジスト
7 マスクパターン
8 フォトマスク
9 UVランプ
10a スプレーノズル
10b サンドブラスト噴射ノズル
A 両面エッチング部
B 片面エッチング部
C 両面ブラスト部
D 片面ブラスト部