(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008491
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】線路高さ調整量算出方法および補修作業実施支援プログラム
(51)【国際特許分類】
E01B 35/00 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
E01B35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110412
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三國 寛
(72)【発明者】
【氏名】武田 岳
(72)【発明者】
【氏名】趙 博宇
【テーマコード(参考)】
2D057
【Fターム(参考)】
2D057AA03
2D057AB02
2D057AB06
(57)【要約】
【課題】作業員によるレール面のレベル測量等を実施することなく計画扛上量を算出することができる線路高さ調整量算出方法を提供する。
【解決手段】軌道設備のモニタリング装置により取得した線路変位データと、レール締結装置のキロ程情報と、レール締結装置における線路扛上量の実績値とが記憶されているデータベースを備えた軌道設備管理システムにおける線路扛上量算出方法であって、前記データベースより所定の区間の線路変位データおよびキロ程情報を読み出し変位波形を表示する工程と、扛上計画線と線路変位データの取得位置における線路変位とから線路変位データの取得位置における線路扛上量を算出する工程と、線路変位データの取得位置における線路扛上量に基づいてレール締結装置における線路扛上量を算出する工程とを有するようにした。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道上を走行する車両に搭載され軌道設備に関する情報を取得するモニタリング装置により第1ピッチで取得したキロ程情報と紐づけられた複数の線路変位データと、軌道に沿って前記第1ピッチと異なる第2ピッチで配設されている複数のレール締結装置のそれぞれの識別情報およびそれに紐づけられたキロ程情報と、前記複数のレール締結装置におけるそれぞれの線路高さ調整量の実績値とが記憶されているデータベースを備えた軌道設備管理システムにおける線路高さ調整量算出方法であって、
前記データベースより、所定の区間の前記線路変位データおよびそれに紐づいた前記キロ程情報を読み出し、変位波形をモニタの画面上に表示する第1工程と、
入力された扛上目標となる計画線と、前記複数の線路変位データの取得位置におけるそれぞれの線路変位とから、前記複数の線路変位データの取得位置における線路高さ調整量を算出する第2工程と、
前記複数の線路変位データの取得位置におけるそれぞれの線路高さ調整量に基づいて、前記第1ピッチと第2ピッチの比により隣接する2つの線路変位データの取得位置における線路高さ調整量を按分して前記レール締結装置における線路高さ調整量を算出する第3工程と、
を有することを特徴とする線路高さ調整量算出方法。
【請求項2】
前記データベースには、前記レール締結装置における線路高さ調整量の実績値と共に最大調整量が記憶されており、
前記第3工程で算出された前記線路高さ調整量と、対応する位置の前記線路高さ調整量の実績値と、を加算する第4工程と、
前記第4工程の加算結果と、対応する前記レール締結装置における最大調整量と、を比較して扛上可否を判断する第5工程と、
前記第5工程の判断結果を、前記第3工程で算出された前記線路高さ調整量と対応させて出力する第6工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の線路高さ調整量算出方法。
【請求項3】
前記軌道はスラブ軌道であり、前記第3工程で算出された前記線路高さ調整量に応じてレール締結装置ごとに線路下に挿入するパッキンの枚数または厚さを決定する第7工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の線路高さ調整量算出方法。
【請求項4】
前記第1工程の前に、
前記データベースより、所定の路線の前記線路変位データおよびそれに紐づいた前記キロ程情報を読み出し、隣接する2つの線路変位データの取得位置における線路変位データの差を算出し、算出された前記差の値が大きい順に前記線路変位データおよびそれに紐づいた前記キロ程情報を並べてモニタの画面上に表示する補修作業優先順位表示工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の線路高さ調整量算出方法。
【請求項5】
前記複数のレール締結装置のそれぞれの識別情報およびそれに紐づけられたキロ程情報は、前記モニタリング装置で取得した画像に基づいて生成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の線路高さ調整量算出方法。
【請求項6】
軌道上を走行する車両に搭載された軌道設備に関する情報を取得するモニタリング装置により第1ピッチで取得したキロ程情報と紐づけられた複数の線路変位データと、軌道に沿って前記第1ピッチと異なる第2ピッチで配設されている複数のレール締結装置のそれぞれの識別情報およびそれに紐づけられたキロ程情報と、前記複数のレール締結装置におけるそれぞれの線路扛上量の実績値および最大扛上量とが記憶されているデータベースを備えた軌道設備管理システムを構成するコンピュータを、
前記データベースより、所定の区間の前記線路変位データおよびそれに紐づいた前記キロ程情報を読み出し、変位波形をモニタの画面上に表示する変位波形表示手段、
入力された扛上目標となる計画線と、前記複数の線路変位データの取得位置におけるそれぞれの線路変位とから、前記複数の線路変位データの取得位置における線路扛上量を算出する第1扛上量算出手段、
前記複数の線路変位データの取得位置におけるそれぞれの線路扛上量に基づいて、前記第1ピッチと第2ピッチの比により隣接する2つの線路変位データの取得位置における線路扛上量を按分して前記レール締結装置における線路扛上量を算出する第2扛上量算出手段、
前記第2扛上量算出手段により算出された前記線路扛上量を、対応する前記レール締結装置における最大扛上量と比較して扛上可否を判断する扛上可否判断手段、
前記扛上可否判断手段による判断結果を、前記第2扛上量算出手段により算出された前記線路扛上量と対応させて出力する出力手段、
として機能させるための補修作業実施支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路(レール)の高さ調整量算出方法に関し、特に車両に搭載されレール上を走行しながらレールや枕木、レール締結装置、軌道パッドなどの軌道材料を検査する軌道材料モニタリング装置により取得したレール上面の高さ計測値を利用してレールの高さ調整量をレール締結装置毎に算出する方法および補修作業実施支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道においては、列車の走行に伴いレール上面の高さが経時的に変化し乗り心地が低下することが知られている。そのため、定期的にレール上面の高さを計測し、スラブ軌道では調整が必要な箇所のレール締結装置ごとにレールの下に所定の厚みのパッキンを挿入してレール面の高さを調整する補修作業が実施されている。
レール面の高さを調整する補修作業を実施するためには、事前に計画こう上量を算出する必要があり、計画こう上量を算出するために、従来は作業員によるレール面のレベル測量等を実施していた。そのため、多くの労力と時間を要しており、作業の効率化が求められていた。
【0003】
なお、従来、車上で計測されたデータを用いて、レールに沿って枕木を所定間隔で配置した軌きょうを道床の上に支持させた軌道支持状態を推定する方法に関する発明が特許文献1に記載されている。また、枕木上に設置されているレール締結装置において、レールの下、具体的にはレール下面とタイプレートの上面との間にパッキンを挿入してレール面の高さを調整する技術を記載した文献として、例えば特許文献2に記載されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7000362号公報
【特許文献2】特開2001-81704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、鉄道軌道においては、
図1に示すように、レーザ式の変位センサや測距計を用いた変位量計測器、撮像装置などを備えた軌道設備モニタリング装置20を営業車両10に搭載して、レール11上を走行しながらレールや枕木、レール締結装置、軌道パッドなどの軌道材料を検査することが行われている。また、レールの検査に特化した検測車も実用化されている。なお、線路設備モニタリング装置20は、軌道変位モニタリング装置と軌道材料モニタリング装置で構成されている。
そこで、本出願人は、レール面のレベル測量を実施する代わりに、車両に搭載された軌道変位モニタリング装置により取得したレール上面の高さ計測値を利用してレールの扛上量を算出することを検討した。
【0006】
しかしながら、既存の軌道材料モニタリング装置は、レール上面の高さをキロ程(1m)ごとに計測し、記憶するように構成されており、計測位置のピッチと算出する計画扛上量の位置(枕木12上にあるレール締結装置)のピッチPとに差がある。そのため、計画扛上量の算出に、モニタリング装置により取得した計測値をそのままを利用することができないという課題があることが分かった。
また、計画扛上量の算出に際しては、使用されているレール締結装置の構造やサイズから最大扛上量が決められているため、レール面の高さを調整する補修作業を繰り返し実施しても最大扛上量を超えないようにする必要がある。
【0007】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、作業員によるレール面のレベル測量等を実施することなく、計画扛上量を算出することができ、それによってレール面の高さを調整する補修作業の実施に要する労力と時間を低減することができる線路高さ調整量算出方法および補修作業実施支援プログラムを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、レール面の高さを調整する補修作業を繰り返し実施しても規定されている最大調整量を超えないようにすることができる線路高さ調整量算出方法および補修作業実施支援プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、
軌道上を走行する車両に搭載され軌道設備に関する情報を取得するモニタリング装置により第1ピッチで取得したキロ程情報と紐づけられた複数の線路変位データと、軌道に沿って前記第1ピッチと異なる第2ピッチで配設されている複数のレール締結装置のそれぞれの識別情報およびそれに紐づけられたキロ程情報と、前記複数のレール締結装置におけるそれぞれの線路高さ調整量の実績値とが記憶されているデータベースを備えた軌道設備管理システムにおける線路高さ調整量算出方法において、
前記データベースより、所定の区間の前記線路変位データおよびそれに紐づいた前記キロ程情報を読み出し、変位波形をモニタの画面上に表示する第1工程と、
入力された扛上目標となる計画線と、前記複数の線路変位データの取得位置におけるそれぞれの線路変位とから、前記複数の線路変位データの取得位置における線路高さ調整量を算出する第2工程と、
前記複数の線路変位データの取得位置におけるそれぞれの線路高さ調整量に基づいて、前記第1ピッチと第2ピッチの比により隣接する2つの線路変位データの取得位置における線路高さ調整量を按分して前記レール締結装置における線路高さ調整量を算出する第3工程と、を有するようにしたものである。
【0009】
上記のような線路高さ調整量算出方法によれば、モニタリング装置により取得した線路変位データに基づいて計画調整量を算出することができるため、作業員によるレール面のレベル測量等を実施する必要がなくなり、レール面の高さを調整する補修作業の実施に要する労力と時間を低減することができる。また、モニタリング装置により取得した線路変位データに基づいてレール締結装置において線路高さ調整を行うことで、レール面の高さを調整する補修作業を実施する場合に、モニタリング装置により取得した線路変位データのピッチとレール締結装置のピッチとが異なっていても、線路変位データの取得位置での計画調整量からレール締結装置における計画調整量を算出することができる。さらに、モニタリング装置により取得した線路変位データに基づく変位波形をモニタの画面上に表示するため、作業目標となる計画線の設定が容易に行える。
【0010】
ここで、望ましくは、前記データベースには、前記レール締結装置における線路高さ調整量の実績値と共に最大調整量が記憶されており、
前記第3工程で算出された前記線路高さ調整量と、対応する位置の前記線路高さ調整量の実績値と、を加算する第4工程と、
前記第4工程の加算結果と、対応する前記レール締結装置における最大調整量と、を比較して扛上可否を判断する第5工程と、
前記第5工程の判断結果を、前記第3工程で算出された前記線路高さ調整量と対応させて出力する第6工程と、を有するようにする。
【0011】
上記方法によれば、第3工程で算出された線路高さ調整量と対応する位置の線路高さ調整量の実績値との合算値が、当該レール締結装置における最大調整量を超えている場合に扛上不可と判定し、判定結果を出力することによって、レール面の高さを調整する補修作業を繰り返し実施しても規定されている最大調整量を超えないようにすることができる。
【0012】
また、望ましくは、前記軌道はスラブ軌道であり、前記第3工程で算出された前記線路高さ調整量に応じてレール締結装置ごとに線路下に挿入するパッキンの枚数または厚さを決定する第7工程を有するようにする。
かかる方法によれば、補修作業前に準備すべきパッキンを容易に決定することができ、準備作業に要する時間を短縮することができるとともに、余分なパッキンを現場へ移送する必要がなくなる。
【0013】
また、望ましくは、前記第1工程の前に、
前記データベースより、所定の路線の前記線路変位データおよびそれに紐づいた前記キロ程情報を読み出し、隣接する2つの線路変位データの取得位置における線路変位データの差を算出し、算出された前記差の値が大きい順に前記線路変位データおよびそれに紐づいた前記キロ程情報を並べてモニタの画面上に表示する補修作業優先順位表示工程を有するようにする。
かかる方法によれば、補修作業優先順位がモニタに表示されるため、優先的に補修作業を実施すべき区間を容易に決定することができ、補修作業の長期的な実施計画を立て易くすることができる。
【0014】
さらに、望ましくは、前記複数のレール締結装置のそれぞれの識別情報およびそれに紐づけられたキロ程情報は、前記モニタリング装置で取得した画像に基づいて生成されたものであるようにする。
かかる方法によれば、車両に搭載された既存のモニタリング装置により取得した情報のみを用いてレール締結装置における計画調整量を決定することができ、モニタリング装置に新たなセンサやカメラを設ける必要がないようにすることができる。
【0015】
また、本出願に係る他の発明に係る補修作業実施支援プログラムは、
軌道上を走行する車両に搭載された軌道設備に関する情報を取得するモニタリング装置により第1ピッチで取得したキロ程情報と紐づけられた複数の線路変位データと、軌道に沿って前記第1ピッチと異なる第2ピッチで配設されている複数のレール締結装置のそれぞれの識別情報およびそれに紐づけられたキロ程情報と、前記複数のレール締結装置におけるそれぞれの線路扛上量の実績値および最大扛上量とが記憶されているデータベースを備えた軌道設備管理システムを構成するコンピュータを、
前記データベースより、所定の区間の前記線路変位データおよびそれに紐づいた前記キロ程情報を読み出し、変位波形をモニタの画面上に表示する変位波形表示手段、
入力された扛上目標となる計画線と、前記複数の線路変位データの取得位置におけるそれぞれの線路変位とから、前記複数の線路変位データの取得位置における線路扛上量を算出する第1扛上量算出手段、
前記複数の線路変位データの取得位置におけるそれぞれの線路扛上量に基づいて、前記第1ピッチと第2ピッチの比により隣接する2つの線路変位データの取得位置における線路扛上量を按分して前記レール締結装置における線路扛上量を算出する第2扛上量算出手段、
前記第2扛上量算出手段により算出された前記線路扛上量を、対応する前記レール締結装置における最大扛上量と比較して扛上可否を判断する扛上可否判断手段、
前記扛上可否判断手段による判断結果を、前記第2扛上量算出手段により算出された前記線路扛上量と対応させて出力する出力手段、として機能させるようにしたものである。
【0016】
上記のような補修作業実施支援プログラムによれば、モニタリング装置により取得した線路変位データに基づいて計画調整量を算出することができるため、作業員によるレール面のレベル測量等を実施する必要がなくなり、レール面の高さを調整する補修作業の実施に要する労力と時間を低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る線路高さ調整量算出方法および補修作業実施支援プログラムによれば、作業員によるレール面のレベル測量等を実施することなく、計画調整量を算出することができ、それによってレール面の高さを調整する補修作業の実施に要する労力と時間を低減することができる。また、レール面の高さを調整する補修作業を繰り返し実施しても最大調整量を超えないようにすることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】車両に搭載された既存の軌道設備モニタリング装置による軌道変位の計測の様子を示す説明図である。
【
図2】軌道変位モニタリング装置によって計測された1mごとの軌道変位量に基づく変位波形および扛上量の例を示す図である。
【
図3】計測位置ごとに算出された線路扛上量およびレール締結装置ごとに算出された線路扛上量の例を示す図である。
【
図4】実施形態の線路扛上量算出方法における計測位置の線路扛上量からレール締結装置の線路扛上量の算出の仕方を示す説明図である。
【
図5】
図4に示す計測位置の線路扛上量からレール締結装置の線路扛上量に変換した具体例を示す説明図である。
【
図6】実施形態の線路扛上量算出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態の線路扛上量算出方法における補修作業の優先順位の表示の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る線路高さ調整量算出方法は、車両に搭載された軌道設備モニタリング装置により収集(取得)され記憶されたデータを利用して任意の箇所の線路扛上量を算出するものであり、以下その実施形態について図面を参照しながら説明する。
先ず、本実施形態の線路高さ調整量算出方法において利用されるデータを取得する既存の軌道設備モニタリング装置について簡単に説明しておく。
【0020】
既に実用化されている線路設備モニタリング装置は、軌道変位モニタリング装置と軌道材料モニタリング装置で構成され、営業列車の床下に搭載されており、営業走行中に様々な計測データを収集している。
このうち軌道変位モニタリング装置は、レールにレーザを照射して線路のゆがみを計測し、そのデータを無線によって保線技術センターに伝送する機能を有する。一方、軌道材料モニタリング装置は、距離を測定し座標情報を出力できるカメラ(プロファイルカメラ)と濃淡が分かるカメラ(ラインセンサカメラ)により、レールとマクラギを固定する金具(レール締結装置)の状態、レールとレールをつなぐボルト(継目板ボルト)の状態などを撮影し記憶する機能を有する。
【0021】
軌道変位モニタリング装置が計測する項目の1つに、レール上面の変位(以下、軌道変位と称する)があり、既存の装置ではレール延設方向1mごとの変位量が計測されキロ程(m単位)と紐付けて記憶されている。一方、軌道材料モニタリング装置に含まれるラインセンサの濃淡データは1mm幅でレール延設方向に沿って連続して取得される。そのため、ラインセンサの濃淡データを画像処理することでレール締結装置を判別することができるとともに、判別したレール締結装置の位置(0.1m以下の単位)を、所定位置(測定開始点等)の位置情報(m単位)とライン数とから計算によって算出することができる。従って、判別したレール締結装置に番号を付記し位置情報とともにデータベースに記憶しておくことができる。
【0022】
図2(A)には、軌道変位モニタリング装置によって計測された1mごとの軌道変位量をプロットし各点を直線で結ぶことで変位波形Aとして表わしたグラフの一例が示されている。
図2(A)から分かるように、軌道変位は位置によって量が異なるためレール上面は凹凸を有している。そこで、
図2(A)に破線Bで示すように任意の波の頂点間を結ぶ線を引き、これを補修作業で行う扛上目標高さ(計画線)とし、変位波形Aと計画線Bとの差分をとることで、
図2(B)に示すような扛上量波形Cを得ることができる。
【0023】
ただし、実際に軌道変位モニタリング装置によって取得され記憶されている軌道変位量の計測値は、キロ程(1m)ごとの値である。一方、レール締結装置の設置間隔(ピッチ)Pは、線級にもよるが、1級線の場合には、
図1に示すように変位量の計測ピッチ(1m)のおよそ半分(50数cm)である。そのため、変位量計測値に従って決定した線路扛上量は、
図3(A)に示すようになる。なお、
図3(A)においては、横軸の下に上向きの矢印でレール締結装置の設置位置の例が示されている。図より変位量の計測位置とレール締結装置の設置位置とはほとんどの場合、一致していないことが分かる。
【0024】
そこで、本実施形態においては、
図4に示すように、あるレール締結装置の設置位置に隣接する2つの変位量の計測位置x0,x1における計画扛上量(〇印)間を直線で結び、その直線とレール締結装置の設置位置x’に立てた垂線Vとの交点(黒丸)に対応する縦軸の値a[x]を、当該レール締結装置の設置位置での計画扛上量として決定することとした。
図3(B)に、上記のようにして決定した場合におけるレール締結装置の設置位置での扛上量を黒丸印でプロットしたものを示す。また、
図5に、計測位置における計画扛上量を、レール締結装置の設置位置での計画扛上量に変換する計算例が示されている。
上記のようにして、軌道変位モニタリング装置による計測データに基づいてレール締結装置の設置位置での扛上量が分かれば、レール面の実測を行う前に各レール締結装置において、レール下に挿入する所定厚さのパッキンの枚数を把握することができ、補修作業を効率よく実施することができる。
【0025】
次に、本実施形態の線路扛上量算出方法をスラブ軌道に適用した場合の具体的な手順について、
図6のフローチャートを用いて説明する。
本実施形態の線路扛上量算出方法においては、予め既に実施された補修作業による対象線路(スラブ軌道)の各レール締結装置における既存扛上量および最大扛上量(扛上量上限値)が、軌道設備モニタリング装置による計測データ(キロ程付き線路変位データおよびレール締結装置の番号付き位置情報)が記憶されているデータベースに登録されている。なお、最大扛上量は同一種類同一サイズのレール締結装置に共通の値である。
【0026】
線路扛上の補修作業を実施するに当たっては、補修作業の実施を支援する支援用のアプリケーションプログラムがインストールされているパーソナルコンピュータのようなデータ処理装置により、先ず上記データベース(DB)から、着目する路線の所定の区間の線路変位データを読み出してモニタの画面上に表示する(ステップS1)。この際、データ処理装置は、補修優先順に線路変位データを表示するようにすると良い。具体的には、隣接する計測点の線路変位データとの差分を算出して、
図7に示すように、差分が大きい順に計測位置(キロ程)および差分値を表示することが考えられる。なお、補修優先順の表示の仕方は、差分値の大小に着目する上記の方法に限定されるものでない。
【0027】
次に、データ処理装置は、上記ステップS1で読み込んだ線路変位データに基づいて、
図2(A)に実線Aで示すような変位波形をモニタ上に表示させ、オペレータが破線Bで示すような計画線を設定する(ステップS2)。すると、データ処理装置は、設定された計画線Bと変位波形Aとから、
図2(B)に実線Cで示すような計測位置(キロ程)ごとの線路扛上量(1mピッチ)を算出する(ステップS3)。
【0028】
続いて、データ処理装置は、上記データベースより、対応する区間のレール締結装置の位置情報を読み出して、レール締結装置ごとに隣接する2つの計測位置を特定し、それらの計測位置における線路扛上量に基づいて、
図4に示すような直線補間と距離による按分処理によって、各レール締結装置における計画扛上量を算出する(ステップS4)。次に、データベースより当該レール締結装置の既存扛上量および最大扛上量のデータを読み出して、ステップS4で算出された扛上量を既存扛上量に加算し(ステップS5)、合算値が最大扛上量を超えているか判定する(ステップS6)。
【0029】
その後、ステップS6で合算値が最大扛上量を超えていると判定したレール締結装置の扛上量と合算値が最大扛上量を超えていないと判定したレール締結装置の扛上量を区別することが可能な形態で、ステップS4において算出した各レール締結装置における線路扛上量を、モニタの画面上に表示あるいは帳票を作成して出力して処理を終了する(ステップS7)。
【0030】
上記のような手順の線路扛上量算出方法によれば、作業員によるレール面のレベル測量等を実施することなくまたは実測を行う前に、各レール締結装置における扛上量を知り、挿入するパッキンの枚数を把握することができ、補修作業を効率よく実施することができる。また、算出した扛上量を既存扛上量に加算した値が最大扛上量を超えているか判定して結果を出力するようにしているため、最大扛上量を超えた場合には、例えばステップS2で設定する計画線を引き直すことで、最大扛上量以下に抑えることかできる場合がある。そのため、計画の見直し作業を適切に行え、補修作業全体の効率を向上させることができる。
【0031】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものでなく適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、スラブ軌道におけるレール締結装置ごとに線路扛上量を算出する場合について説明したが、バラスト軌道におけるレール締結装置ごとに線路扛上量を算出する場合にも適用することができる。
バラスト軌道の補修においては、砕石や砂利を軌道に補充して線路高さの調整を行うことになるが、キロ程ピッチよりも小さなレール締結装置のピッチごとの線路扛上量を算出することにより、レールの長さ方向に沿って精度の高い線路高さ調整を行うことが可能となる。また、バラスト軌道の補修においては、線路の扛上のみならず線路上面の高さを下げる工事も可能である。
【0032】
さらに、上記実施形態では、スラブ軌道の補修において、線路下に挿入するパッキンの枚数を選択することで線路高さを調整すると説明したが、予め厚さの異なる複数種類のパッキンを用意しておいて、線路下に挿入するパッキンの厚さを選択することで線路高さを調整するようにしても良い。
【符号の説明】
【0033】
10 車両
11 レール
12 枕木
20 軌道設備モニタリング装置
P レール締結装置のピッチ