(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084920
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 10/30 20060101AFI20240619BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240619BHJP
B60W 20/50 20160101ALI20240619BHJP
B60R 16/04 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
B60W10/30 900
B60K6/46 ZHV
B60W20/50
B60R16/04 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199121
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100121027
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 公一
(72)【発明者】
【氏名】大西 康正
【テーマコード(参考)】
3D202
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB43
3D202CC01
3D202CC60
3D202DD00
3D202DD10
(57)【要約】
【課題】イグニッションオン時にはバッテリを用いたエンジン始動は行わず、イグニッションオン後、所定時間を経過してから走行可能状態となる車両において、簡単な構成で精度よくバッテリの劣化判定を行えるようにする。
【解決手段】IG19がオンであり、かつ走行可能状態であるレディオンではないとの条件を含む第1の条件が成立することを契機として、HV-ECU10により取得された補機バッテリ1の充電状態データであるバッテリ電圧の最大値Bvmax及び最小値Bvmin、バッテリ液温Btを複数の契機ごとに蓄積手段である外部サーバ16により蓄積し、蓄積した複数の契機ごとにおけるバッテリ電圧の最大値Bvmaxと最小値Bvminの差分ΔBvの大きさ、及びこの差分ΔBvの時系列における変化直線が低下傾向であるときの変化度合い(傾き)に基づき、補機バッテリ1の劣化状態を判断する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イグニッションオン時にはバッテリを用いたエンジン始動は行わず、前記イグニッションオン後、所定時間を経過してから走行可能状態となる車両を制御する車両制御システムであって、
前記バッテリの充電状態に関する充電状態データを取得する取得手段と、
前記イグニッションオンであり、かつ前記走行可能状態ではないときを契機として、前記取得手段により取得された前記充電状態データを複数の前記契機ごとに蓄積する蓄積手段と、
前記蓄積手段により蓄積された複数の前記契機ごとにおける時系列の前記充電状態データの変化が低下傾向であるときの変化度合いに基づき前記バッテリの劣化状態を判断する判断手段と
を備えることを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記蓄積手段は、
前記取得手段により取得された前記充電状態データを、取得時の所定範囲における前記バッテリの温度ごとに蓄積するものであり、
前記判断手段は、
前記蓄積手段により前記所定範囲における前記バッテリの温度ごとに蓄積された前記充電状態データの前記変化度合いに基づき前記バッテリの劣化状態を判断するものである
ことを特徴とする車両制御システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両制御システムにおいて、
前記蓄積手段は、
前記取得手段により取得された前記充電状態データとして、前記契機における充電状態に関する最大値及び最小値を蓄積するものであり、
前記判断手段は、
前記変化度合いと、当該契機における前記充電状態データの最大値及び最小値の差分とに基づき、前記バッテリの劣化状態を判断するものである
ことを特徴とする車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イグニッションオン時にはバッテリを用いたエンジン始動は行わず、イグニッションオン後、所定時間を経過してから走行可能状態となる車両を制御する車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを駆動源とするコンベンショナル車両の場合、
図6に示すように、スタートキーのオンによりスタータが起動してハイレート放電が行われ、これによりバッテリ電圧が急激に降下し、その後、同6に示すようにバッテリ電圧が次第に回復する。このようなコンベンショナル車両では、
図6に示すように、スタートキーのオン直後のバッテリ電圧が降下している期間Tにおいてバッテリの劣化判定が行われるのが一般的である。
【0003】
そして、従来のバッテリの劣化判定は、例えば特許文献1、特許文献2に記載のように、エンジン始動時におけるバッテリ電圧の最小値と所定の閾値とを比較することにより、バッテリの劣化度合いを検出して劣化度合いの判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-7361号公報
【特許文献2】特開2020-176835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ハイブリッド車、特にシリーズ方式のハイブリッド車では、スタータがなく、イグニッションオン時にはバッテリを用いたエンジン始動は行わずに、イグニッションオンから所定時間を経過してから走行可能状態となるためハイレート放電が行われず、バッテリの劣化判定を行う期間Tを設定することができないことから、このようなハイレート放電が行われない車両であっても、簡単な構成で精度よくバッテリの劣化判定を行えるようにすることが望まれている。
【0006】
この発明は、イグニッションオン時にはバッテリを用いたエンジン始動は行わず、イグニッションオン後、所定時間を経過してから走行可能状態となる車両において、簡単な構成で精度よくバッテリの劣化判定を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の車両制御システムは、イグニッションオン時にはバッテリを用いたエンジン始動は行わず、前記イグニッションオン後、所定時間を経過してから走行可能状態となる車両を制御する車両制御システムであって、前記バッテリの充電状態に関する充電状態データを取得する取得手段と、前記イグニッションオンであり、かつ前記走行可能状態ではないときを契機として、前記取得手段により取得された前記充電状態データを複数の前記契機ごとに蓄積する蓄積手段と、前記蓄積手段により蓄積された複数の前記契機ごとにおける時系列の前記充電状態データの変化が低下傾向であるときの変化度合いに基づき前記バッテリの劣化状態を判断する判断手段とを備えることを特徴としている。
【0008】
このような構成によれば、イグニッションオンであり、かつ走行可能状態ではないときを契機として、取得手段により取得された充電状態データを複数の契機ごとに蓄積手段により蓄積し、蓄積手段が蓄積した複数の契機ごとにおける時系列の充電状態データの変化が低下傾向であるときの変化度合いに基づき、判断手段によりバッテリの劣化状態を判断するため、イグニッションオン時にはバッテリを用いたエンジン始動は行わず、イグニッションオン後、所定時間を経過してから走行可能状態となる車両において、特に新たな検出手段等を設けることもなく簡単な構成で精度よくバッテリの劣化判定を行うことが可能になり、数か月、数年などの長期間でのバッテリの劣化状態の判断(劣化判定)を的確に行うことができる。
【0009】
また、前記蓄積手段は、前記取得手段により取得された前記充電状態データを、取得時の所定範囲における前記バッテリの温度ごとに蓄積するものであり、前記判断手段は、前記蓄積手段により前記所定範囲における前記バッテリの温度ごとに蓄積された前記充電状態データの前記変化度合いに基づき前記バッテリの劣化状態を判断するものであるとよい。
【0010】
この場合、判断手段により、蓄積手段によって蓄積された所定範囲におけるバッテリの温度(特に、バッテリ液温)ごとの充電状態データの変化度合いに基づきバッテリの劣化状態を判断するため、環境温度に応じたバッテリの劣化状態の判断を行うことができる。
【0011】
また、前記蓄積手段は、前記取得手段により取得された前記充電状態データとして、前記契機における充電状態に関する最大値及び最小値を蓄積するものであり、前記判断手段は、前記変化度合いと、当該契機における前記充電状態データの最大値及び最小値の差分とに基づき、前記バッテリの劣化状態を判断するものであるとしてもよい。
【0012】
こうすると、判断手段により、契機ごとの充電状態データの変化度合いと、当該契機における充電状態データの最大値及び最小値の差分とに基づき、バッテリの劣化状態を判断するため、より精度よくバッテリの劣化状態の判断を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イグニッションオン時にはバッテリを用いたエンジン始動は行わず、イグニッションオン後、所定時間を経過してから走行可能状態となる車両において、簡単な構成で精度よくバッテリの劣化状態の判断(劣化判定)を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の車両制御システムの一実施形態のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る車両制御システムをシリーズ方式のハイブリッド車に適用した一実施形態について、
図1ないし
図5を参照して詳述する。
【0016】
図1において、1は劣化判定の対象となる公称電圧12Vの鉛蓄電池から成る補機バッテリであり、ブレーキ、ドアロックなどの各制御システムの電源として使用されるほか、ナビゲーションなどのアクセサリー系統の電源として使用される。2は補機バッテリ1の電流及び液温を検出する電流・液温センサ(以下、単に「センサ」ともいう)、3は各種電気負荷、4は公称電圧48Vのリチウムイオンバッテリから成る走行用の主バッテリ、5はDCDCコンバータであり、昇圧回路5a及び降圧回路5bを内蔵し、走行用駆動源としての役割を有するモータジェネレータ(MG)6による発電電圧を、ACDCインバータ7を介して受電し昇圧回路5aにより48Vに昇圧して主バッテリ4に給電し、主バッテリ4の電圧を降圧回路5bにより12Vに降圧して補機バッテリ1の充電及び電気負荷3の電源供給を行う。
【0017】
ここで、バッテリ液温の検出は、センサ2の検出値から推定演算することにより得られ、センサ2の検出温度値をTBH、現在のバッテリ温度推定値をTHBSMn、過去のバッテリ温度推定値をTHBSMn-1、THBSMnの初期値をTHBとすると、
THBSMn=THBSMn-1+G×(THB-THBSMn-1)
の演算により算出することができる。なお、Gはゲインであり所定値である。
【0018】
図1において、10はHV-ECU(HV:Hybrid Vehicle,ECU:Electronic Control Unit)であり、補機バッテリ1の両端子間のバッテリ電圧Bvを直に検出し、検出したバッテリ電圧Bv、センサ2により検出されるバッテリ電流Bc及びバッテリ温度から推定されるバッテリ液温Btに基づき、補機バッテリ1の充電量等の充電状態を検知するほか、MG(モータジェネレータ)6を制御するMG-ECU11に対して主バッテリ4による補機バッテリ1の充電の目標電圧を指示することにより、主バッテリ4による補機バッテリ1の充電電圧がMG-ECU11の指示電圧になるようにDCDCコンバータ5を制御する。なお、エンジン18によってMG6が発電した電力を、ACDCインバータ7を介してDCDCコンバータ5の昇圧回路5aにより昇圧し、主バッテリ4に昇圧電圧を供給することにより主バッテリ4の充電が行われる。
【0019】
さらに、HV-ECU10は、通信バス13を介したCAN(Controller Area Network)通信により、EFI(Electronic Fuel Injection)-ECU14にエンジン制御のための情報を送信するほか、内蔵のメモリ10aに一時的に保持された補機バッテリ1の充電状態に関するデータを通信装置15に送信して、通信装置15からインターネットを介し本発明における「蓄積手段」である外部サーバ16に充電状態に関するデータをアップロードして蓄積させる機能を有する。
【0020】
18はエンジンであり、シリーズ方式のハイブリッド車の特徴として、イグニッション(IG)19のオン時にMG6によりスタータ起動されてEFI-ECU14により回転数等が制御されるが、走行用駆動源として動作することはなく、MG6を駆動源とする車両走行中に主バッテリ4の充電状況に応じ、MG6を発電機として動作させてその発電電力により主バッテリ4の充電を行う役割を有する。このように、シリーズ方式のハイブリッド車では、IG16のオン時にはバッテリを用いたエンジン18の始動は行わず、IG16のオン後、所定時間(例えば、1秒)を経過してから走行可能状態つまりレディオン状態となってMG6を駆動源とする走行が行われる。
【0021】
そして、この種シリーズ方式のハイブリッド車において、補機バッテリ1の劣化度合い・劣化状態の判断(劣化判定)は、
図2に示すように、IG19がオンしてからレディオン(走行可能状態)になるまでのレディオフ(走行不可能状態)の間に取得した充電状態データに基づいて行われる。なお、劣化判定のタイミングは、IG19のオン後レディオフの間、レディオン後のいずれであってもよい。
【0022】
すなわち、HV-ECU10は、IG19のオン後レディオンになるまでのレディオフの間に、補機バッテリ1のバッテリ電圧Bv、並びに、センサ2により検出されるバッテリ電流Bc及びバッテリ液温Btを取得するが、1日における初回のIG19のオン後であってレディオフの間は、ライト・照明やエアコンのブロアなどの大電流を消費する重負荷は動作しない無負荷状態であるため、特にIG19のオン直後における補機バッテリ1の両端士間の電圧はほぼ開放電圧(OCV:Open Ciercuit Voltage)であって最大値を示す。そのため、初回のIG19のオン直後(かつレディオフの間)の補機バッテリ1の両端士間のバッテリ電圧Bvがそのときの最大値Bvmaxとなり、IG19のオン後レディオンになるまでのレディオフの間において、HV-ECU10によりバッテリ電圧の最大値Bvmaxを取得することが可能になる。さらに、IG19がオンすると、補機バッテリ1はスリープ状態の各種ECUのウェイクアップ、各インジケータの点灯などの車両準備状態(起動状態)によって電流が消費される状態となり、バッテリ電圧Bvが最大値Bvmaxから低下して最小値Bvminを示すことから、IG19のオン後レディオフの間に、HV-ECU10により、バッテリ電圧Bvの最小値Bvminの取得も行われる。なお、エアコンのブロアなどの大電流を消費する重負荷のスイッチがIG19オン前からオン状態となっていても、IG19オンから微小期間経過後するまでは、重負荷は実際に作動しないので、この微小期間(重負荷が実際に作動するまでの間)に最大値Bvmaxおよび最小値Bvminの少なくともいずれかを取得するようにしてもよい。このようにすれば、エアコンなどの大電流を消費する重負荷のスイッチがIG19オン前からオン状態となっていても、最大値Bvmaxおよび最小値Bvminの少なくともいずれかを取得できる。
【0023】
ところで、レディオフからレディオン(走行可能状態)になると、車両の走行に関連する機構(例えば、エンジンのインジェクタ、吸気・排気バルブ、アクセル開度などのエンジン関連の機構、変速機の油圧バルブ、変速機構などの変速機関連の機構)が作動するため、電圧が不安定になることから、レディオンではバッテリ電圧等の充電状態データの取得は行わず、上記したように、IG19のオン後レディオフの間に、HV-ECU10により、バッテリ電圧Bvの最大値Bvmax及び最小値Bvmin、並びに、そのときのセンサ2によるバッテリ液温Btを取得する。
【0024】
より詳細には、以下のような4つの項目から成る第1の条件がすべて成立することを契機として、HV-ECU10により、補機バッテリ1のバッテリ電圧Bvの最大値Bvmax及び最小値Bvmin、並びにセンサ2によるバッテリ液温Btが取得されて一旦メモリ10aに保持される。
~~第1の条件~~
(i)IG19がオフされてから24時間が経過していること
(ii)ライト・照明やエアコンのブロアなどの大電流を消費する重負荷を除くECUの暗電流などの小電流を消費する軽負荷のみが動作する無負荷状態であること
(iii)バッテリ液温Btが-20℃~40℃(-20℃≦Bt≦40℃)であること
(iv)IG10がオンでかつレディオフ(走行不可能状態)であること。
【0025】
そしてその後、
(v)IG19がオン、かつ、レディオフからレディオンに替わった(第2の条件)
という第2の条件が成立すると、CAN通信の通信周期でメモリ10aに保持されたバッテリ電圧Bvの最大値Bvmax及び最小値Bvmin、並びにバッテリ液温Btの各データが、スマートフォンやDCM(Data Communication Module)等の通信装置15、インターネットを介して外部サーバ16に送信され、外部サーバ16により受信されたバッテリ電圧の最大値Bvmax及び最小値Bvminが、そのときのバッテリ液温Btごと(例えば、-20℃~40℃の範囲で5℃ごとなど)にマップ化されて蓄積される。
【0026】
ここで、HV-ECU10による補機バッテリ1のバッテリ電圧の最大値Bvmax、最小値Bvmin、センサ2によるバッテリ液温Btの取得処理が、本発明における「取得手段」に相当し、外部サーバ16が上記したように「蓄積手段」に相当する。
【0027】
さらに、第2の条件の成立後に、HV-ECU10により、バッテリ電圧の最大値Bvmaxと最小値Bvminとの差分ΔBvが導出され、メモリ10aに保持されたバッテリ電圧Bvの最大値Bvmax及び最小値Bvmin、並びにバッテリ液温Btとともに外部サーバ16に送信されて蓄積される。なお、差分ΔBvは、外部サーバ16により導出してHV-ECU10側に送信するようにしてもよく、例えばメモリ10aにバッテリ液温Btごとに記憶しておくようにしてもよい。このとき、第2の条件の成立後のバッテリ電圧の最大値Bvmaxと最小値Bvminとの差分ΔBvを導出することで、レディオフの間にバッテリ電圧の最小値Bvminが変動するような場合にも対応した差分ΔBvを導出することが可能になる。
【0028】
このように、第1の条件の成立を契機とするごとに、つまり換言すると停車状態が24時間以上継続した状態でIG19がオンされるごとに、バッテリ液温Btごとのバッテリ電圧の最大値Bvmaxとともに最小値Bvminがバッテリ液温Btごとにマップ化されて蓄積されていくことになる。そして、1回目の契機におけるバッテリ電圧の最大値Bvmaxを白丸、最小値Bvminを黒丸で表わし、同様に、次の2回目の契機におけるバッテリ電圧の最大値Bvmaxを白丸、最小値Bvminを黒丸で表わし、N回目の契機,(N+1)回目の契機におけるバッテリ電圧の最大値Bvmaxを白丸、最小値Bvminを黒丸で表わしていくと、バッテリ電圧と契機(バッテリ電圧等の計測回数)との関係は
図3に示すようになる。なお、
図3はバッテリ液温Btが20℃の関係を例示する。
【0029】
ところで、補機バッテリ1が劣化していない新品の状態では、
図3中の1回目、2回目…のように、同じバッテリ液温Btにおけるバッテリ電圧の最大値Bvmax(
図3の白丸)と最小値Bvmin(
図3の黒丸)の差分ΔBv(白丸と黒丸の差)はほとんど変化せず、契機ごとの差分ΔBvの例えば中間点を結んで得られる差分ΔBvの時系列の変化直線も、
図3中の破線で示すように低下傾向を示すことはなく、むしろ補機バッテリ1が新品の状態では充電ごとに変化直線が少しずつ上向き(右上がり)に上昇する傾向を示す。
【0030】
他方、補機バッテリ1が長期間の使用により劣化していると、
図3中のN回目、(N+1)回目…のように、同じバッテリ液温Btにおけるバッテリ電圧の最大値Bvmaxと最小値Bvminの差分ΔBvは時間の経過とともに大きくなっていき、しかも契機ごとの差分ΔBvの時系列の変化直線も、
図3中の実線で示すように低下傾向(右下がり)となる。
【0031】
さらに、HV-ECU10により、第1の条件が成立する契機ごとのバッテリ電圧Bvの最大値Bvmaxと最小値Bvminの差分ΔBvと、予め設定された第1閾値V1及び第2閾値V2(V1>V2)とが比較されるとともに、契機ごとの差分ΔBvの時系列の変化直線が導出されて、その変化直線の傾きKと、予め設定された第1傾きK1(<0)、第2傾きK2(K1<K2)とが比較される。なお、第1、第2傾きK1,K2は右下がりの直線の傾きであってマイナスの値であり、傾きKが第1傾きK1より大きければ右下がりの度合いが小さく、傾きKが第1傾きK1より小さく第2傾きK2より大きければ右下がりの度合いが大きく、傾きKが第2傾きK2よりも小さければより右下がりの度合いが大きいことになる。
【0032】
そして、これらの比較の結果、補機バッテリ1の劣化度合いの大、小が判断される。具体的には、第3の条件である
(vi)差分ΔBvが第1閾値V1より大きく(ΔBv>v1)、かつ、差分ΔBvの変化直線の傾きKが第1傾きK1より大きいこと(K>K1)
(vii)差分ΔBvが第1閾値V1より小さくて第2閾値V2より大きく(V1>ΔBv>V2)、かつ、差分ΔBvの変化直線の傾きKが第1傾きK1より小さくて第2傾きK2より大きいこと(K1>K>K2)
(viii)契機である計測回数が予め設定されたM回以上であること
(ix)第1の条件が成立していること
の4つの項目のうち、(vi),(viii),(ix)が成立し、かつ(vii)が成立しない場合には、補機バッテリ1の劣化度合いは小さく(劣化小)、(vi),(vii),(viii),(ix)のすべてが成立する場合には、補機バッテリ1の劣化度合いは大きい(劣化大)と判断することができる。こうして、HV-ECU10により劣化度合いの大、小の判断がなされて、補機バッテリ1の劣化状態の判断(劣化判定)が行われる。
【0033】
このように、第1の条件が成立する契機ごとにバッテリ液温Btごとのバッテリ電圧の最大値Bvmax及び最小値Bvmin、最大値Bvmaxと最小値Bvminが導出されてメモリ10aに保持され、第2の条件の成立により、メモリ10aに保持されたバッテリ電圧の最大値Bvmax、最小値Bvminの差分ΔBvが導出されてバッテリ電圧の最大値Bvmax、最小値Bvminとともにバッテリ液温Btごとに外部サーバ16に蓄積され、外部サーバ16で第1の条件の成立という契機ごとに取得した時系列の充電状態データであるバッテリ電圧Bvの最大値Bvmaxと最小値Bvminとの差分ΔBvの変化度合いに基づき、補機バッテリ1の劣化度合いの大、小が判断される。そして、この判断結果が外部サーバ16からインターネットを介して通信装置15にダウンロードされる。なお、この判断結果は車両の所定の表示装置に表示されるようにしてもよいし、外部サーバ16からインターネットを介してユーザの携帯端末にダウンロードされてユーザの携帯端末に表示されるようにしてもよい。このHV-ECU10による導出処理及び判断処理が、本発明における「判断手段」に相当する。
【0034】
続いて、補機バッテリ1の劣化状態の判断(劣化判定)処理、及び、劣化状態の判断(劣化判定)の結果に基づく補機バッテリ1の充電制御の動作について、
図4、
図5のフローチャートを参照して説明する。
【0035】
図4のフローチャートはHV-ECU10による劣化判定の処理手順を示している。
図4に示すように、上記した(i)~(vi)の第1の条件の4項目すべてが成立したか否かの判定がなされ(ステップS1)、この判定結果がNOであれば動作は終了し、判定結果がYESであれば、第1の条件が成立を契機として、補機バッテリ1のバッテリ電圧Bv及びセンサ2によるバッテリ液温Btが取得されて、バッテリ電圧の最大値Bvmax及び最小値Bvmin、並びにそのときのバッテリ液温Btがメモリ10aに保持され(ステップS2)、その後、上記した(v)の第2の条件が成立したか否かの判定がなされる(ステップS3)。
【0036】
そして、ステップS3の判定結果がNOであればステップS2に戻り、ステップS3の判定結果がYESであれば、メモリ10aに保持されたバッテリ電圧の最大値Bvmaxと最小値Bvminとの差分ΔBvが導出され、バッテリ電圧の最大値Bvmax、最小値Bvmin、これらの差分ΔBvがそのときのバッテリ液温Btごとに外部サーバ16に蓄積され(ステップS4)、動作は終了する。
【0037】
次に、劣化判定の結果に基づく補機バッテリ1の充電制御について説明する。
図5に示すように、上記した(vi)~(ix)の4項目の第3の条件に基づき、どの項目が成立したかがHV-ECU10により判断され(ステップS11)、(vi),(viii),(ix)が成立し、かつ(vii)が成立しない場合には、劣化度合いが小さい(劣化小)としてステップS12に移行し、DCDCコンバータ5により制御される主バッテリ4による補機バッテリ1の充電の指示電圧
nとして、(前回の指示電圧
n-1-0.1V)に変更されて充電の指示電圧が下げられ(ステップS12)、その後動作は終了する。
【0038】
また、ステップS11の判定の結果、(vi)~(ix)のすべてが成立する場合には、劣化度合いが大きい(劣化大)としてステップS13に移行し、DCDCコンバータ5により制御される主バッテリ4による補機バッテリ1の充電の指示電圧nとして、(前回の指示電圧n-1+0.1V)に変更されて充電の指示電圧が上げられ(ステップS13)、その後動作は終了する。なお、ここでは劣化小、劣化大のときの補正電圧値を0.1Vとしたが、補正電圧値は0.1Vに限るものではない。
【0039】
このように、主バッテリ4の充電の指示電圧を補機バッテリ1の劣化度位に応じて補正電圧値の加減算により増減することによって、主バッテリ4により充電される補機バッテリ1の劣化速度を緩和することが可能になる。
【0040】
したがって、上記した実施形態によれば、IG19がオンであり、かつ走行可能状態であるレディオンではないとの条件を含む第1の条件が成立することを契機として、HV-ECU10により取得された補機バッテリ1の充電状態データであるバッテリ電圧Bvの最大値Bvmax及び最小値Bvmin、バッテリ液温Btを複数の契機ごとに蓄積手段である外部サーバ16により蓄積し、蓄積した複数の契機ごとにおけるバッテリ電圧の最大値Bvmaxと最小値Bvminの差分ΔBvの大きさ、及び差分ΔBvの時系列における変化直線(
図3参照)が低下傾向であるときの変化度合い(傾き)に基づき、補機バッテリ1の劣化状態を判断するため、IG19のオン時には補機バッテリ1を用いたエンジン18の始動は行わず、IG19のオン後、1秒などの所定時間を経過してからレディオン(走行可能状態)となるシリーズ方式のハイブリッド車などの車両において、特に新たな検出手段等を設けることもなく簡単な構成で精度よく補機バッテリ1の劣化判定を行うことが可能になり、数か月、数年などの長期間での補機バッテリ1の劣化状態の判断(劣化判定)を的確に行うことが可能になる。
【0041】
また、HV-ECU10により取得された充電状態データである補機バッテリ1の充電状態データであるバッテリ電圧Bvの最大値Bvmax及び最小値Bvminを、取得時のバッテリ液温Btごと(例えば、-20℃~40℃の範囲で5℃ごと)にマップ化して外部サーバ16により蓄積するため、蓄積したバッテリ液温Btごとの充電状態データに基づき補機バッテリ1の劣化状態を判断することができ、車両を使用する環境温度に応じた補機バッテリ1の劣化状態の判断(劣化判定)を的確に行うことができる。
【0042】
また、HV-ECU10により、第1の条件が成立する契機ごとの充電状態データである補機バッテリ1のバッテリ電圧の最大値Bvmaxと最小値Bvminの差分ΔBvの大きさ、及び差分ΔBvの時系列における変化直線(
図3参照)が低下傾向であるときの変化度合い(傾き)に基づき、補機バッテリ1の劣化状態を判断するため、例えば差分ΔBvの大きさは数か月等の比較的短期間における判断基準とし、差分ΔBvの時系列における変化直線(
図3参照)が低下傾向であるときの変化度合い(傾き)は、数年などの長期間における判断基準として使い分けることも可能になり、補機バッテリ1の使用期間に応じて的確な劣化状態の判断(劣化判定)を行うことができる。
【0043】
また、補機バッテリ1の劣化度合い(劣化小、劣化大)に応じ、DCDCコンバータ5により制御される主バッテリ4による補機バッテリ1の充電の指示電圧nを補正電圧値により増減補正するため、主バッテリ4により充電される補機バッテリ1の劣化速度を緩和でき、補機バッテリ1の長寿命化を図ることができる。
【0044】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能である。
【0045】
例えば、上記した実施形態では、補機バッテリ1の劣化状態を、第1の条件が成立するという契機ごとのバッテリ電圧の最大値Bvmaxと最小値Bvminとの差分ΔBv(「充電状態データ」相当)と、差分ΔBvの時系列の変化が低下傾向にあるときの変化度合いに基づいて判断するようにしたが、差分ΔBvの時系列の変化度合いのみに基づいて劣化状態を判断するようにしてもよい。
【0046】
また、上記した実施形態では、蓄積手段を外部サーバ16とし、インターネットを介して通信装置15によりHV-ECU10と外部サーバ16とを接続し、HV-ECU10により取得した充電状態データ(バッテリ電圧の最大値、最小値、差分、バッテリ液温)を外部サーバ16にアップロードして蓄積するようにしたが、蓄積手段は外部サーバ16のみに限定されるものではなく、車両に搭載された記憶手段やその他の記憶手段であってもよい。この場合、上述の劣化判断も車両で行うようにしてもよい。
【0047】
また、上記した実施形態におけるバッテリ液温Btに代わり、バッテリ筐体の温度も含むバッテリ温度ごとに充電状態データを蓄積するようにしてもよい。
【0048】
また、充電状態データは上記したバッテリ電圧に限定されるものではなく、バッテリ電流であってもよい。
【0049】
そして、本発明は、イグニッションオン時にはバッテリを用いたエンジン始動は行わず、前記イグニッションオン後、所定時間を経過してから走行可能状態となる車両を制御する車両制御システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 …補機バッテリ
10 …HV-ECU(取得手段、判断手段)
16 …外部サーバ(蓄積手段)