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特開2024-84936回転接触試験装置及びすべり率調整装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084936
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】回転接触試験装置及びすべり率調整装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/56 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
G01N3/56 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199143
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】長坂 整
(72)【発明者】
【氏名】兼松 義一
(57)【要約】
【課題】低出力の動力発生部によってすべり率を高精度に無段階で簡単に調整することができる回転接触試験装置及びすべり率調整装置を提供する。
【解決手段】回転接触試験装置3は、動力発生部5が発生する動力によってレール試験片1の周面と車輪試験片2の周面とを回転接触させて試験を実施する装置である。回転接触試験装置3は、動力発生部5が発生する動力が循環する動力循環経路の外で、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間のすべり率を調整するための調整用動力を発生する調整用動力発生部17と、動力発生部5が発生する動力及び調整用動力発生部17が発生する調整用動力が入力し、すべり率を所定のすべり率にするための動力を出力することによって、車輪試験片2の回転速度を無段階で調整する回転速度調整部20とを備えている。回転速度調整部20は、トロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車変速装置である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力発生部が発生する動力によって第1の回転体の周面と第2の回転体の周面とを回転接触させて試験を実施する回転接触試験装置であって、
前記動力発生部が発生する動力が循環する動力循環経路の外で、前記第1の回転体の周面と前記第2の回転体の周面との間のすべり率を調整するための調整用動力を発生する調整用動力発生部と、
前記動力発生部が発生する動力及び前記調整用動力発生部が発生する調整用動力が入力し、前記すべり率を所定のすべり率にするための動力を出力することによって、前記第2の回転体の回転速度を無段階で調整する回転速度調整部と、
を備える回転接触試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転接触試験装置において、
前記回転速度調整部は、前記第2の回転体の回転速度を無段階で調整する遊星歯車変速装置であること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項3】
請求項1に記載の回転接触試験装置において、
前記回転速度調整部は、トロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車変速装置であること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項4】
請求項1に記載の回転接触試験装置において、
前記回転速度調整部は、円形の内歯車と楕円形の外歯車との噛み合いによって生ずる差動を利用した波動歯車装置であること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項5】
請求項1に記載の回転接触試験装置において、
前記第1の回転体の周面と前記第2の回転体の周面との接触位置を、この第1及び第2の回転体の中心線方向に変更する接触位置変更部を備えること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項6】
請求項1に記載の回転接触試験装置において、
前記第1の回転体の周面と前記第2の回転体の周面との間に供給物を供給する供給部を備えること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項7】
請求項1に記載の回転接触試験装置において、
前記第1及び/又は前記第2の回転体の周面における特定の波数の波状摩耗の発生を抑制する波状摩耗抑制部を備えること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項8】
請求項1に記載の回転接触試験装置において、
前記第1の回転体の周面と前記第2の回転体の周面との接触位置に接触力が作用するように、所定の荷重を発生する荷重発生部を備えること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項9】
請求項8に記載の回転接触試験装置において、
前記接触位置に作用する接触力の変動を抑制する接触力変動抑制部を備えること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項10】
請求項9に記載の回転接触試験装置において、
前記接触力変動抑制部は、ばね定数の異なる複数種類の弾性部を備えており、この弾性部を着脱自在で交換可能であること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項11】
請求項1に記載の回転接触試験装置において、
前記第1の回転体の中心線に対する前記第2の回転体の中心線が所定の傾斜角になるように、この傾斜角を変更する傾斜角変更部を備えること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項12】
請求項1に記載の回転接触試験装置において、
前記第1の回転体は、実物のレールを模擬した円筒状のレール試験片であり、
前記第2の回転体は、前記レール試験片の外周部と回転接触し、実物の車輪を模擬した円輪状の車輪試験片であること、
を特徴とする回転接触試験装置。
【請求項13】
動力発生部が発生する動力によって回転接触する第1の回転体の周面と第2の回転体の周面との間のすべり率を調整するすべり率調整装置であって、
前記動力発生部が発生する動力が循環する動力循環経路の外で、前記すべり率を調整するための調整用動力を発生する調整用動力発生部と、
前記動力発生部が発生する動力及び前記調整用動力発生部が発生する調整用動力が入力し、前記すべり率を所定のすべり率にするための動力を出力することによって、前記第2の回転体の回転速度を無段階で調整する回転速度調整部と、
を備えるすべり率調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力発生部が発生する動力によって第1の回転体の周面と第2の回転体の周面とを回転接触させて試験を実施する回転接触試験装置、及び動力発生部が発生する動力によって回転接触する第1の回転体の周面と第2の回転体の周面との間のすべり率を調整するすべり率調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり摩擦、摩耗、転がり疲労の試験装置のような滑りを伴う転動試験装置があり、この転動試験装置の代表的な形態として、2円筒転がり試験装置と西原式摩耗試験装置がある。従来の2円筒転がり試験装置は、車輪試験輪の回転軸を回転させるモータと、レール試験輪の回転軸を回転させるモータとを備えている(例えば、特許文献1参照)。ための動力を発生する。従来の2円筒転がり試験装置は、それぞれの回転軸をそれぞれのモータで回転させ、車輪試験輪とレール試験輪とを接触させた状態で試験を行っている。従来の西原式摩耗試験装置は、供試歯車変速機の入力軸を回転させる原動機と、この供試歯車変速機の出力軸からの動力を循環させる循環歯車変速機と、循環歯車変速機からの動力を供給歯車変速機の入力軸に入力させる負荷発生用歯車変速機を備えている(例えば、特許文献2参照)。従来の西原式摩耗試験装置は、1つの原動機からの動力によって、負荷発生用歯車変速機が供試歯車変速機の2つの歯車を異なる速度で回転させて、2つの歯車に滑りを生じさせて摩耗試験を行っている。
【0003】
図14に示す従来の車輪試験装置103は、軌条輪101と試験輪102とを接触した状態でこれらを回転させる第1電動機105と、軌条輪101と試験輪102との間にすべりが生じるように試験輪102にトルクを発生するトルク発生装置117とを備えている(例えば、特許文献3参照)。従来の車輪試験装置103は、第1電動機105によって回転駆動される回転フレーム104内に第2電動機120をトルク発生装置117が備えており、軌条輪101又は試験輪102の少なくとも一方がトルク発生装置117を介して接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-198848号公報
【0005】
【特許文献2】特開平07-260628号公報
【0006】
【特許文献3】国際公開第2021/225133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の2円筒転がり接触試験装置は、2つのモータによる転動試験機であるため、すべりを生じさせる場合に一方は駆動力、もう一方は制動力を発生させる。このため、従来の2円筒転がり試験装置では、大きい摩擦力の試験を行う場合、大出力のモータが必要になる。また、従来の2円筒転がり接触試験装置では、すべり率が2つのモータの回転精度に依存してしまう欠点があり、すべり率を安定化させることが困難である。従来の2円筒転がり接触試験装置では、摩擦力は時間的にばらつきのある物理現象であるため、どれほど応答性の良い制御を行ってもすべり率はある程度変動してしまい、すべり率を安定化させて精度良く制御することが難しい。
【0008】
従来の西原式摩耗試験装置は、制動力を駆動力に循環して使う機構となっている。このため、従来の西原式摩耗試験装置は、大きい摩擦力の試験を行う場合でも小出力のモータで可能である。しかし、従来の西原式摩耗試験装置では、制動力を駆動力として循環する機構は歯車と軸によるため、すべり率は歯車の歯数比によって決定される。このため、従来の西原式摩耗試験装置では、すべり率は一定にできるがすべり率を無段階に変化させることはできない。
【0009】
図14に示す従来の車輪試験装置103は、第1電動機105によって回転フレーム104を回転させて、回転フレーム104と一体となって回転しながら回転フレーム104内の第2電動機120が試験輪102を回転させて、試験輪102と軌条輪101との間にすべりを生じさせている。このため、従来の車輪試験装置103は、第2電動機120自体が回転フレーム104と一体となって回転する構造であり、低慣性で高出力の特殊なモータが第2電動機120に必要になるとともに、回転する第2電動機120にスリップリングによって電力を供給する必要があり、装置が複雑になってしまう問題点がある。
【0010】
この発明の課題は、低出力の動力発生部によってすべり率を高精度に無段階で簡単に調整することができる回転接触試験装置及びすべり率調整装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図2及び図4に示すように、動力発生部(5)が発生する動力によって第1の回転体(1)の周面と第2の回転体(2)の周面とを回転接触させて試験を実施する回転接触試験装置であって、前記動力発生部が発生する動力が循環する動力循環経路(R)の外で、前記第1の回転体の周面と前記第2の回転体の周面との間のすべり率を調整するための調整用動力を発生する調整用動力発生部(17)と、前記動力発生部が発生する動力及び前記調整用動力発生部が発生する調整用動力が入力し、前記すべり率を所定のすべり率にするための動力を出力することによって、前記第2の回転体の回転速度を無段階で調整する回転速度調整部(20)とを備える回転接触試験装置(3)である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の回転接触試験装置において、前記回転速度調整部は、前記第2の回転体の回転速度を無段階で調整する遊星歯車変速装置であることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1に記載の回転接触試験装置において、図6及び図7に示すように、前記回転速度調整部は、トロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車変速装置であることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1に記載の回転接触試験装置において、図13に示すように、前記回転速度調整部は、円形の内歯車(20k)と楕円形の外歯車(20m)との噛み合いによって生ずる差動を利用した波動歯車装置であることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1に記載の回転接触試験装置において、図2及び図5に示すように、前記第1の回転体の周面と前記第2の回転体の周面との接触位置(P)を、この第1及び第2の回転体の中心線(O1,O2)方向に変更する接触位置変更部(13)を備えることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1に記載の回転接触試験装置において、図2及び図8に示すように、前記第1の回転体の周面と前記第2の回転体の周面との間に供給物(M)を供給する供給部(31)を備えることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1に記載の回転接触試験装置において、図2及び図10に示すように、前記第1及び/又は前記第2の回転体の周面における特定の波数の波状摩耗の発生を抑制する波状摩耗抑制部(32)を備えることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0018】
請求項8の発明は、請求項1に記載の回転接触試験装置において、図2図8及び図9に示すように、前記第1の回転体の周面と前記第2の回転体の周面との接触位置(P)に接触力が作用するように、所定の荷重を発生する荷重発生部(33)を備えることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0019】
請求項9の発明は、請求項8に記載の回転接触試験装置において、前記接触位置に作用する接触力の変動を抑制する接触力変動抑制部(34)を備えることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0020】
請求項10の発明は、請求項9に記載の回転接触試験装置において、前記接触力変動抑制部は、ばね定数の異なる複数種類の弾性部(34c)を備えており、この弾性部を着脱自在で交換可能であることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0021】
請求項11の発明は、請求項1に記載の回転接触試験装置において、図8図11及び図12に示すように、前記第1の回転体(1)の中心線(O1)に対する前記第2の回転体(2)の中心線(O2)が所定の傾斜角(θ)になるように、この傾斜角を変更する傾斜角変更部(36)を備えることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0022】
請求項12の発明は、請求項1に記載の回転接触試験装置において、図1に示すように、前記第1の回転体は、実物のレールを模擬した円筒状のレール試験片(1)であり、前記第2の回転体は、前記レール試験片の外周部と回転接触し、実物の車輪を模擬した円輪状の車輪試験片(2)であることを特徴とする回転接触試験装置である。
【0023】
請求項13の発明は、図2図4及び図6に示すように、動力発生部(5)が発生する動力によって回転接触する第1の回転体(1)の周面と第2の回転体(2)の周面との間のすべり率を調整するすべり率調整装置であって、前記動力発生部が発生する動力が循環する動力循環経路(R)の外で、前記すべり率を調整するための調整用動力を発生する調整用動力発生部(17)と、前記動力発生部が発生する動力及び前記調整用動力発生部が発生する調整用動力が入力し、前記すべり率を所定のすべり率にするための動力を出力することによって、前記第2の回転体の回転速度を無段階で調整する回転速度調整部(20)とを備えるすべり率調整装置(16)である。
【発明の効果】
【0024】
この発明によると、低出力の動力発生部によってすべり率を高精度に無段階で簡単に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置において使用される車輪試験片及びレール試験片を模式的に示す外観図であり、(A)は正面図であり、(B)は(A)のI-IB線で切断した状態を示す断面図であり、(C)は(A)のI-IC部分を下方から見たときの車輪試験片及びレール試験片の接触面の模式図である。
図2】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置を模式的に示す正面図である。
図3】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置を模式的に示す構成図である。
図4】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置の動力循環を模式的に示す概念図である。
図5】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置の接触位置変更部の作用を説明するための模式図であり、(A)はレール試験片を前進させた状態を示す模式図であり、(B)はレール試験片を後退させた状態を示す模式図である。
図6】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置の回転速度調整部の模式図である。
図7】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置の回転速度調整部がトロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車装置である場合の模式図である。
図8】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置の保持部の一部を破断して示す模式図である。
図9図8のIX-IX線で切断した状態を示す断面図である。
図10】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置の接触力変動抑制部及び傾斜角変更部を模式的に示す正面図である。
図11】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置の傾斜角変更部による傾斜角の変更動作を説明するための模式図であり、(A)は傾斜角の変更前の状態を示す模式図であり、(B)は傾斜角の変更後の状態を示す模式図である。
図12】この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置の傾斜角変更部による車輪試験片の傾斜前後の状態を示す平面図であり、(A)は傾斜角の変更前の状態を示す平面図であり、(B)は傾斜角の変更後の状態を示す平面図である。
図13】この発明の第2実施形態に係る回転接触試験装置の回転速度調整部が波動歯車装置である場合の模式図である。
図14】従来の車輪試験装置の動力循環を模式的に示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1に示すレール試験片1は、実物のレールを模擬した円筒状の回転体である。レール試験片1は、実物の鉄道のレールから切り出して円筒状(円盤状)に加工又は実物の鉄道のレールと同じ材料によって円筒状(円盤状)に製作された内輪試験片である。レール試験片1は、このレール試験片1の外周部に車輪試験片2と接触する外周面1aを備えており、外周面1aは断面形状が直線状の平坦面に形成されている。レール試験片1は、中心線O1を中心として回転する。
【0027】
車輪試験片2は、レール試験片1の外周部と回転接触し、実物の車輪を模擬した円輪状の回転体である。車輪試験片2は、実物の鉄道車両の車輪から切り出して円輪状(円環状)に加工又は実物の鉄道車両の車輪と同じ材料によって円輪状(円環状)に製作された外輪試験片である。車輪試験片2は、この車輪試験片2の内周部にレール試験片1と接触する内周面2aを備えており、内周面2aはレール試験片1側の外周面1aと線接触するように断面形状が円弧状の曲面に形成されている。車輪試験片2は、中心線O1と僅かにずれて中心線O1と平行な中心線O2を中心として回転する。
【0028】
接触位置Pは、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面とが接触する位置である。接触面Sは、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面とが接触位置Pで回転接触する領域である。接触面Sは、円筒状のレール試験片1の外周面1aと円輪状の車輪試験片2の内周面2aとを回転接触させることによって、実物のレール上を実物の車輪が転動したときに、このレールとこの車輪との接触部の接触面の形状に近似した略円形になる。
【0029】
図2に示す回転接触試験装置3は、動力発生部5が発生する動力によってレール試験片1の周面と車輪試験片2の周面とを回転接触させて試験を実施する装置である。回転接触試験装置3は、車両の走行速度と車輪の周速度との間に速度差が生じている状態であるすべりを再現する。回転接触試験装置3は、例えば、レール上を車輪が転動するときに発生する転がり摩擦、レール上を車輪が転動するときにレールと車輪との間に発生する摩耗、レール上を車輪が転動するときに応力の繰り返し負荷によって発生するシェリング又はきしみ割れなどの転動疲労(転がり疲れ)などを模擬した試験を実施する転動試験装置である。回転接触試験装置3は、すべりを伴う転動試験を実施可能であり、すべり率を高精度に制御可能であり、かつ、すべり率を無段階に変動可能である。ここで、すべり率とは、車両の走行速度と車輪の周速度との差を車両の走行速度で除した値である。回転接触試験装置3は、図2に示すフレーム部4と、図2図4に示す動力発生部5と、図2に示す軸受部6A,6Bと、動力伝達部7と、回転軸8A,8Bと、軸受部9A~9Cと、図2及び図5に示す連結部10と、図2に示す軸受部11と、図2及び図3に示すトルク検出部12と、図2及び図5に示す接触位置変更部13と、図2及び図3に示す回転検出部14と、図2に示す動力伝達部15と、図2図4及び図6に示すすべり率調整装置16と、図2に示す回転軸21A,21Bと、軸受部22A,22Bと、軸継手部23と、動力伝達部24と、軸受部25A,25Bと、図2図8及び図11に示す回転軸26A,26Bと、軸受部27A,27Bと、図2図4図5図8図9及び図11に示す保持部28と、図2図8及び図11に示す軸継手部29と、図2図3図8図10及び図11に示す回転検出部30と、図2及び図8に示す供給部31と、図2及び図10に示す波状摩耗抑制部32と、図2図3図8及び図9に示す荷重発生部33と、図2図8及び図9に示す接触力変動抑制部34と、図2図3図8及び図9に示す接触力検出部35と、図2及び図8図11に示す傾斜角変更部36と、図3に示す試験条件設定部37と、試験条件記憶部38と、調整用回転速度演算部39と、すべり率演算部40と、摩擦係数演算部41と、トルク-すべり率関係記憶部42と、測定データ記憶部43と、制御部44などを備えている。
【0030】
図2に示す回転接触試験装置3は、2つの円輪同士を回転接触させる従来の2円筒転がり接触試験装置とは異なり、図1(A)(B)に示すように外輪試験片であるレール試験片1と内輪試験片である車輪試験片2とを回転接触させる内円外円接触式2円筒試験装置である。回転接触試験装置3は、図4に示すように、動力循環経路Rによって動力を循環させてレール試験片1及び車輪試験片2を回転接触させる動力循環式の試験装置である。ここで、動力循環経路Rとは、動力発生部5が発生する動力が循環する経路である。動力循環経路Rは、動力発生部5が発生する駆動力によってレール試験片1が回転して、レール試験片1と接触している車輪試験片2が摩擦力によって回転するときには、動力発生部5が発生する駆動力にこの摩擦力を戻している。
【0031】
図2に示すフレーム部4は、回転接触試験装置3を構成する各構成要素を支持する手段である。フレーム部4は、上下2段の枠組構造に構成されており、上下方向に伸びて配置された直線状の縦フレーム部4aと、左右方向に伸びて上段に配置された直線状の上段横フレーム部4bと、左右方向に伸びて下段に配置された直線状の下段横フレーム部4cなどを備えている。
【0032】
図2図4に示す動力発生部5は、レール試験片1及び車輪試験片2を回転させるための動力を発生する手段である。動力発生部5は、例えば、回転子(ロータ)に永久磁石を使用することによって磁束を作るための電流が不要である永久磁石同期電動機などの主モータである。動力発生部5は、図2に示すように、下段横フレーム部4cに取り付けられており、外部に動力を出力する回転軸(出力軸)5aを備えている。動力発生部5は、例えば、試験を開始してから試験を終了するまで、レール試験片1及び車輪試験片2を一定の回転速度で回転させる。図2に示す軸受部6A,6Bは、動力発生部5の回転軸5aを回転自在に支持する手段である。軸受部6A,6Bは、動力伝達部7のプーリ7aの両側に配置されており、下段横フレーム部4cに取り付けられている。
【0033】
図2に示す動力伝達部7は、動力発生部5が発生する動力をレール試験片1及び車輪試験片2に伝達する手段である。動力伝達部7は、平行する回転軸5a及び回転軸8Bの2軸間で回転を伝達するベルト伝動装置などの巻き掛け伝導装置である。動力伝達部7は、プーリ(ベルト車)7a,7bとベルト7cなどを備えている。 プーリ7a,7bは、ベルト7cを掛けるための部材である。プーリ7aは、ベルト7cを駆動するための駆動力を発生する原動車であり、動力発生部5の出力軸(原動軸)5aを回転中心として回転軸5aと一体となって回転する。プーリ7bは、ベルト7cによって駆動される従動車であり、回転軸(従動軸)8Bを回転中心として回転軸8Bと一体となって回転する。ベルト7cは、プーリ7aとプーリ7bとに巻き掛けられる部材である。ベルト7cは、例えば、プーリ7a,7bの外周部に形成された波形の溝と噛み合う歯が内周面の長さ方向に連続して波形に形成された歯付きベルト(コグドベルト)又はタイミングベルトなどの巻き掛け部材(巻き掛け媒介節)である。
【0034】
回転軸8A,8Bは、レール試験片1を回転させる部材である。回転軸8A,8Bは、動力発生部5が発生する動力をレール試験片1に伝達する。回転軸8Aは、この回転軸8Aの中心線がレール試験片1の中心線O1と一致するように、この回転軸8Aの端部がレール試験片1に取り付けられており、レール試験片1と一体となって回転する。回転軸8Bは、この回転軸8Bの中心線が回転軸8Aの中心線と一致するように配置されている。
【0035】
図2及び図5に示す軸受部9Aは、回転軸8Aを回転自在に支持する手段である。軸受部9Aは、接触位置変更部13の連結部13cに取り付けられている。図2に示す軸受部9B,9Cは、回転軸8Bを回転自在に支持する手段である。軸受部9B,9Cは、動力伝達部7のプーリ7b及び動力伝達部15のプーリ15aの両側に配置されており、上段横フレーム部4bに取り付けられている。
【0036】
図2及び図5に示す連結部10は、回転軸8Aとトルク検出部12とを連結する手段である。連結部10は、図5に示すように、車輪試験片2に対してレール試験片1を中心線O1,O2方向に接触位置変更部13に往復移動させて、回転軸8Aとトルク検出部12との間の距離が変化した場合であっても、回転軸8Aとトルク検出部12との連結状態を維持する。連結部10は、周方向に間隔をあけて歯を有するスプライン軸10aと、スプライン軸10a側の歯と噛み合ってスプライン軸10aの長さ方向に相対移動可能な外筒(スプラインナット)10bと、スプライン軸10aの外周部の長さ方向に形成された溝と外筒10bの内周部の長さ方向に形成された溝との間で転動する鋼球10cなどを備えている。連結部10は、鋼球10cを循環運動させることによって、外筒10bに対してスプライン軸10aを直線運動させながら、スプライン軸10aと外筒10bとの間でトルクを伝達可能なボールスプラインなどである。連結部10は、回転軸8A及びトルク検出部12と一体となって回転する。連結部10は、スプライン軸10aの端部が回転軸8Aの端部と継手部を介して接合されており、外筒10bの端部がトルク検出部12の端部と継手部を介して接合されている。図2に示す軸受部11は、連結部10を回転自在に支持する手段である。軸受部11は、上段横フレーム部4bに取り付けられている。
【0037】
図2及び図3に示すトルク検出部12は、レール試験片1に作用するトルクを検出する手段である。トルク検出部12は、図2に示すように、回転軸8Bと連結部10との間に取り付けられており、回転軸8B及び連結部10と一体となって回転する。トルク検出部12は、一方の端部が回転軸8Bの端部と継手部を介して接合されており、他方の端部が連結部10の端部と継手部を介して接合されている。トルク検出部12は、例えば、回転軸8Bと連結部10とに連結されるこのトルク検出部12の回転軸を回転させた状態で、この回転軸に作用するトルクに応じたこの回転軸のねじれを、レール試験片1に作用するトルクとして測定するトルクメータなどである。トルク検出部12は、レール試験片1に作用するトルクをトルク検出信号として制御部44に出力する。
【0038】
図2及び図5に示す接触位置変更部13は、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との接触位置Pを、レール試験片1及び車輪試験片2の中心線O1,O2方向に変更する手段である。接触位置変更部13は、実物の車輪が実物のレールに対して左右に蛇行動(左右動)するのを模擬するために、図5に示すように車輪試験片2に対してレール試験片1を左右方向(中心線O1,O2方向)に往復移動させる。接触位置変更部13は、レール試験片1又は車輪試験片2を着脱するときに、車輪試験片2に対してレール試験片1を後退させる。接触位置変更部13は、レール試験片1又は車輪試験片2の着脱時に使用する工具類を取扱可能なように、レール試験片1と車輪試験片2との間に所定の隙間を形成する。接触位置変更部13は、図2及び図5に示すように、動力発生部13aと、送りねじ機構部13bと、連結部13cとを備えている。
【0039】
動力発生部13aは、レール試験片1を往復移動させるための動力を発生する手段である。動力発生部13aは、図5に示す送りねじ機構部13bのねじ軸13dを正転及び逆転するための動力を発生し、位置及び速度をフィードバック制御可能なサーボモータなどである。動力発生部13aは、この動力発生部13aの回転軸(出力軸)の端部が送りねじ機構部13bのねじ軸13dの端部に継手部を介して接合されている。送りねじ機構部13bは、動力発生部13aによる回転運動を直線運動に変換する手段である。送りねじ機構部13bは、外周部に溝を有するねじ軸13dと、内周部に溝を有するナット13eと、ねじ軸13d側の溝とナット13e側の溝との間で転動するボール13fなどを備えている。送りねじ機構部13bは、ねじ軸13dの両端部を回転自在に支持する軸受部を介して上段横フレーム部4bに取り付けられている。連結部13cは、軸受部9Aとナット13eとを連結する手段である。連結部13cは、一方の端部が軸受部9Aに取り付けられており、他方の端部がナット13eに取り付けられている。連結部13cは、回転軸8A、軸受部9A及びスプライン軸10aとともに往復移動することによって、レール試験片1を往復移動させる。
【0040】
図2及び図3に示す回転検出部14は、レール試験片1の回転を検出する手段である。回転検出部14は、図2に示すように、回転軸8Bの端部に取り付けられており、回転軸8A,8B、連結部10及びトルク検出部12の回転を検出することによって、レール試験片1の回転速度、周速度又は回転数(移動量)を検出する。回転検出部14は、例えば、レール試験片1が回転を開始してから回転を終了するまでのレール試験片1の回転速度、周速度又は回転数などを測定するエンコーダである。回転検出部14は、レール試験片1の回転に応じた回転検出信号を制御部44に出力する。
【0041】
図2に示す動力伝達部15は、動力発生部5が発生する動力を回転速度調整部20に伝達する手段である。動力伝達部15は、動力伝達部7と同様に、プーリ15a,15bとベルト15cなどを備えており、平行する回転軸8B及び回転軸18の2軸間で回転を伝達する。プーリ15aは、ベルト15cを駆動するための駆動力を発生する原動車であり、回転軸(原動軸)8Bを回転中心として回転軸8Bと一体となって回転する。プーリ15bは、ベルト15cよって駆動される従動車であり、回転軸(従動軸)18を回転中心として回転軸18と一体となって回転する。
【0042】
図2図4及び図6に示すすべり率調整装置16は、動力発生部5が発生する動力によって回転接触するレール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間のすべり率を調整する装置である。すべり率調整装置16は、レールがすべりを受ける方向の違いを再現するために、車輪試験片2の周速度がレール試験片1の周速度より大きくなるように滑り率を調整したり、レール試験片1の周速度が車輪試験片2の周速度よりも大きくなるように滑り率を調整したりする。すべり率調整装置16は、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間のすべり率を高精度に制御することによって、無段階のすべり率を高精度で発生させる。すべり率調整装置16は、図2図4及び図6に示す調整用動力発生部17と、図2図4及び図6に示す回転軸18,19と、回転速度調整部20などを備えている。
【0043】
図2図4及び図6に示す調整用動力発生部17は、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間のすべり率を調整するための調整用動力を発生させる手段である。調整用動力発生部17は、図14に示す従来の車輪試験装置103のような動力循環経路R内の回転フレーム104内で第2電動機120が回転しながら試験輪102を回転させる装置とは異なり、動力循環経路Rの外で調整用動力を発生する。調整用動力発生部17は、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間にすべりを生じさせるために必要な動力のみを発生する。調整用動力発生部17は、図6及び図7に示す入力軸20bを正転及び逆転するための動力を発生し、位置及び速度をフィードバック制御可能なサーボモータなどのすべり調整用モータである。図2及び図6に示す調整用動力発生部17は、図14に示す従来の車輪試験装置103とは異なり、汎用のサーボモータが動力循環経路R外で固定された状態で使用される。調整用動力発生部17は、回転速度を変化させることによってすべり率を変化させて、レールがすべりを受ける方向の違いを再現可能である。調整用動力発生部17は、下段横フレーム部4cに取り付けられており、外部に動力を出力する回転軸(出力軸)17aを備えている。
【0044】
図2図4及び図6に示す回転軸18は、動力発生部5が発生する動力によって回転する部材である。回転軸18は、図6に示すように、この回転軸18の内部を回転軸19が貫通する中空軸であり、回転軸8A,8B、連結部10及びトルク検出部12と連動して回転する。回転軸18は、図6に示すように、一方の端部に回転速度調整部20の枠20aが継手部を介して接合されており、図2に示すように他方の端部に動力伝達部15のプーリ15bが取り付けられている。図2図4及び図6に示す回転軸19は、調整用動力発生部17が発生する動力によって回転する部材である。回転軸19は、図6に示すように、一方の端部に回転速度調整部20の入力軸20bが継手部を介して接合されており、他方の端部に調整用動力発生部17の回転軸17aが継手部を介して接合されている。
【0045】
図2図4及び図6に示す回転速度調整部20は、動力発生部5が発生する動力及び調整用動力発生部17が発生する調整用動力が入力し、すべり率を所定のすべり率にするための動力を出力することによって、車輪試験片2の回転速度を無段階で調整する手段である。回転速度調整部20は、調整用動力発生部17が調整用動力を変化させたときに、レール試験片1の回転速度(周速度)に対して車輪試験片2の回転速度(周速度)を変化させて、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との接触位置Pですべりを生じさせる。回転速度調整部20は、図4に示すように、動力循環経路Rの途中ですべり率を調整しており、図2に示すプーリ15bとプーリ24aとの間に回転数に僅かに差を生じさせる。回転速度調整部20は、太陽歯車を中心に遊星歯車が自転しつつ公転する構造を有する遊星歯車装置であり、この遊星歯車装置が車輪試験片2の回転速度を無段階に調整する。図6及び図7に示す回転速度調整部20は、トロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車変速装置である。回転速度調整部20は、例えば、高効率及び大減速比を両立可能なサイクロ減速機(登録商標)のようなサイクロイド変速機である。回転速度調整部20は、図6及び図7に示す枠20aと、入力軸20bと、図7に示す曲線板(偏心遊星歯車)20cと、図6及び図7に示す出力軸20dなどを備えている。
【0046】
図6及び図7に示す枠20aは、動力発生部5が発生する動力によって回転する部材である。枠20aは、図7に示すように、中心線O3を中心とする円周上に等間隔に複数の外ピン20eを備えており、外ピン20eは円弧歯形のローラ付のピン歯車(太陽歯車)である。枠20aは、図6に示すように、回転軸18の端部に継手部を介して連結されており、図7に示すように中心線O3を回転中心として回転する。
【0047】
図6及び図7に示す入力軸20bは、調整用動力発生部17が発生する動力によって回転する部材である。入力軸20bは、中心線O3に対して偏心量eだけずれた中心線(偏心軸)O4を回転中心として回転する偏心カム(偏心体(キャリア要素))20fを備えている。図7に示す曲線板(遊星歯車)20cは、偏心カム20fの回転による偏心運動に追従して揺動運動しながら回転する部材である。曲線板20cは、この曲線板20cの内周部が軸受部を介して偏心カム20fの外周部と嵌合しており、この曲線板20cの外周部に枠20aの外ピン20eと噛み合うエピトロコイド平行曲線の歯20gを備えている。曲線板20cは、中心線O4を中心とする円周上に等間隔にこの曲線板20cを貫通する貫通孔20hを備えている。
【0048】
図6及び図7に示す出力軸20dは、すべり率を所定のすべり率にするための動力を発生する部材である。出力軸20dは、図7に示すように、中心線O3を中心とする円周上に等間隔に複数の内ピン20iを備えており、曲線板20cの貫通孔20hと隙間をあけてローラ付きの内ピン20iが嵌合している。出力軸20dは、曲線板20cの揺動運動が内ピン20iに伝達されることによって回転する。回転速度調整部20は、1枚又は複数枚の曲線板20cが偏心カム20fによって回転すると、曲線板20cの歯20gが枠20aの外ピン20eと噛み合って遊星運動するとともに、曲線板20cの貫通孔20hに嵌合する内ピン20iによって曲線板20cの自転運動を取り出して出力軸20dに出力させる。
【0049】
図2に示す回転軸21A,21Bは、回転速度調整部20が出力する動力によって回転する部材である。回転軸21Aは、図6に示すように、この回転軸21Aの端部が継手部を介して回転速度調整部20の出力軸20dの端部に接合されており、出力軸20dと一体となって回転する。回転軸21Bは、回転軸21A及び軸継手部23と一体となって回転する。
【0050】
軸受部22Aは、回転軸18を回転自在に支持する手段である。軸受部22Aは、プーリ15bと調整用動力発生部17との間に配置されており、下段横フレーム部4cに取り付けられている。軸受部22Bは、回転軸21Aを回転自在に支持する手段である。軸受部22Bは、回転速度調整部20と軸継手部23との間に配置されており、下段横フレーム部4cに取り付けられている。
【0051】
軸継手部23は、回転軸21Aと回転軸21Bとを連結する手段である。軸継手部23は、ねじれ方向に剛性が高く、こじり方向、段違い方向及び軸方向に剛性が低い性質を有し、回転軸21A,21Bと一体となって回転して回転軸21Aから回転軸21Bに動力を伝達する。軸継手部23は、一方の端部が回転軸21Aの端部と接合しており、他方の端部が回転軸21Bの他方の端部と接合している。
【0052】
動力伝達部24は、回転速度調整部20が発生する動力を車輪試験片2に伝達する手段である。動力伝達部24は、動力伝達部7,15と同様に、プーリ24a,24bとベルト24cなどを備えており、平行する回転軸21B及び回転軸26Aの2軸間で回転を伝達する。プーリ24aは、ベルト24cを駆動するための駆動力を発生する原動車であり、回転軸(原動軸)21Bを回転中心として回転軸21Bと一体となって回転する。プーリ24bは、ベルト24cによって駆動される従動車であり、回転軸(従動軸)26Aを回転中心として回転軸26Aと一体となって回転する。軸受部25A,25Bは、回転軸21Bを回転自在に支持する手段である。軸受部25A,25Bは、動力伝達部24のプーリ24aの両側に配置されており、下段横フレーム部4cに取り付けられている。
【0053】
回転軸26A,26Bは、車輪試験片2を回転させる部材である。回転軸26A,26Bは、回転速度調整部20が出力する動力によって回転し、この動力を車輪試験片2に伝達する。回転軸26A,26Bは、回転軸21A,21B及び軸継手部23と連動して回転する。回転軸26Bは、保持部28の回転軸28Aと一体となって中心線O2を回転中心として回転する。軸受部27A,27Bは、回転軸26Aを回転自在に支持する手段である。軸受部27A,27Bは、動力伝達部24のプーリ24bの両側に配置されており、傾斜角変更部36の支持部36aに取り付けられている。
【0054】
図2図4図5図8図9及び図11に示す保持部28は、車輪試験片2を回転自在に保持する手段である。保持部28は、車輪試験片2が中心線O2を回転中心として回転可能なように車輪試験片2を保持するとともに、車輪試験片2を交換するときに、車輪試験片2を着脱可能なように保持している。保持部28は、図8に示す回転部28aと、図8及び図9に示す支持部28bと、軸受部28cと、弾性支持部28dと、図9に示すスライド部28eと、ガイド部28fなどを備えている。
【0055】
回転部28aは、車輪試験片2と一体となって回転する手段である。回転部28aは、この回転部28aに対して車輪試験片2を着脱可能なように、この回転部28aのフランジ部の内周部に車輪試験片2の外周部が嵌合しており、中心線O2を回転中心として回転する。支持部28bは、回転部28aを回転自在に支持する手段である。支持部28bは、図8及び図9に示すように、回転部28aの外周部を囲む小型の枠状部材であり、レール試験片1に対して車輪試験片2が追従して回転するように、回転部28a及び軸受部28cとともにユニット化された軽量な構造である。支持部28bは、回転部28aを回転自在に支持した状態で、弾性支持部28dの上端部に固定されている。軸受部28cは、支持部28bに対して回転部28aを回転自在に支持する手段である。軸受部28cは、図8に示すように、支持部28bの内周部と回転部28aの外周部との間に挟み込まれており、この軸受部28cの内輪が回転部28aに取り付けられ、この軸受部28cの外輪が支持部28bに取り付けられている。
【0056】
図8及び図9に示す弾性支持部28dは、傾斜角変更部36の支持部36aに支持部28bを弾性支持する手段である。弾性支持部28dは、傾斜角変更部36の支持部36aに対して保持部28を上下方向に移動自在に支持する圧縮ばねなどの弾性部材である。弾性支持部28dは、支持部28bの下面と傾斜角変更部36の支持部36aの上面との間に配置されている。弾性支持部28dは、例えば、レール試験片1又は車輪試験片2を着脱するために、荷重発生部33が保持部28に作用させる上下方向の荷重を除荷したときに、保持部28を上方に押し上げることによって、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間に隙間を形成する。
【0057】
図9に示すスライド部28eは、支持部28bと一体となって上下方向に移動する手段である。スライド部28eは、ガイド部28fに沿って移動自在であり、支持部28bの両側面に固定されている。ガイド部28fは、スライド部29eを移動自在にガイドする手段である。ガイド部28fは、中心線O5を回転中心として傾斜角変更部36が保持部28を回転させて保持部28の姿勢が変化したときであっても、スライド部28eをガイド可能なように保持部28と同じ角度で姿勢を変更可能である。ガイド部28fは、縦フレーム部4aに取り付けられている。
【0058】
図2図8及び図11に示す軸継手部29は、回転軸26Aと回転軸26Bとを連結する手段である。軸継手部29は、軸継手部23と同様に、ねじれ方向に剛性が高く、こじり方向、段違い方向及び軸方向に剛性が低い性質を有しており、図8に示す保持部28の上下方向に移動して回転軸26Aの中心線と回転軸26Bの中心線O2とがずれた場合であっても、回転軸26Aと回転軸26Bとの間で動力を伝達する。軸継手部29は、回転軸26A,26Bと一体となって回転して、回転軸26Aから回転軸26Bに動力を伝達する。軸継手部29は、一方の端部が回転軸26Aの端部と接合しており、他方の端部が回転軸26Bの他方の端部と接合している。
【0059】
図2図3図8図10及び図11に示す回転検出部30は、車輪試験片2の回転を検出する手段である。回転検出部30は、図2図8図10及び図11に示すように、回転軸26Aの端部に取り付けられており、図8及び図11に示す回転軸26A,26B、回転部28a及び軸継手部29の回転を検出することによって、車輪試験片2の回転速度、周速度又は回転数(移動量)を検出する。回転検出部30は、回転検出部14と同様のエンコーダであり、車輪試験片2が回転を開始してから回転を終了するまでの車輪試験片2の回転速度、周速度又は回転数などを測定する。回転検出部30は、車輪試験片2の回転に応じた回転検出信号を制御部44に出力する。
【0060】
図2及び図8に示す供給部31は、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間に供給物Mを供給する手段である。供給部31は、例えば、液体を滴下する滴下装置、粉状物又は粒状物を噴射する噴射装置である。ここで、供給物Mは、例えば、水又は油などの液体、車輪/レール間の粘着係数を向上させるセラミックス粒子又は珪砂などの粉状物又は粒状物である増粘着材、車輪/レール間の摩擦係数を緩和させるカーボン系材料などを主成分とする粉状物又は粒状物である摩擦緩和材などである。供給部31は、図8に示すように、供給物Mを収容する収容部31aと、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間の隙間に向けて収容部31aから供給物Mを排出する排出部31bと、収容部31aから排出部31bに供給物Mが流れる流路31cと、流路31cを開閉する開閉弁31dなどを備えている。
【0061】
図2及び図10に示す波状摩耗抑制部32は、レール試験片1及び/又は車輪試験片2の周面における特定の波数の波状摩耗の発生を抑制する手段である。ここで、波状摩耗とは、レール上を車輪が繰り返し転動することによって、レール表面が一定間隔で摩耗又は塑性変形し、レール表面に連続して形成される凹凸である。波状摩耗は、急曲線区間に発生することが多く、実際のレールでは波状摩耗には波長が3~8cmの比較的短い短波長波状摩耗と、波長が8~30cmの比較的波長が長い長波長波状摩耗とが発生する。図2及び図10に示す波状摩耗抑制部32は、複数の異なる波数の波状摩耗の発生を許容しつつ、回転接触試験装置3における特有の波数の波状摩耗の発生を抑制する。波状摩耗抑制部32は、回転軸21Bの端部に着脱自在に装着されるフライホイールである。従来の二円筒試験機においても試験機の固有振動数に応じて試験片が波状摩耗することから、着脱可能なフライホイールを装着させた。波状摩耗抑制部32は、この波状摩耗抑制部32の回転中心にこの波状摩耗抑制部32を貫通して、回転軸21Bと嵌合し回転軸21Bに装着される装着部32aを備えている。波状摩耗抑制部32は、例えば、外径が同じフライホイールが複数用意されている。波状摩耗抑制部32は、試験中に回転軸21Bの回転を一時的に停止させた状態で、回転軸21Bへの装着個数を変更することによって、回転軸21Bの中心線回りの慣性モーメント(極断面二次モーメント)を変更し、回転接触試験装置3の回転系の全体の固有振動数を変化させる。波状摩耗抑制部32は、レール試験片1及び/又は車輪試験片2の固有振動数を変化させることによって、レール試験片1及び/又は車輪試験片2の周面に特定の波数の波状摩耗が成長するのを抑制する。
【0062】
図2図3図8及び図9に示す荷重発生部33は、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との接触位置Pに接触力が作用するように、所定の荷重を発生する手段である。荷重発生部33は、保持部28を下方に変位させるとともに、接触力変動抑制部34を圧縮させるための力を発生することによって、車輪試験片2をレール試験片1に押圧し、レール試験片1と車輪試験片2との接触位置Pに接触力を作用させる。荷重発生部33は、例えば、油圧シリンダ又は空気圧シリンダなどのアクチュエータである。荷重発生部33は、図8及び図9に示すように、作動流体が流入及び流出するシリンダ部33aと、この作動流体によってシリンダ部33a内で往復移動するピストン部33bと、ピストン部33bと一体となって上下方向に移動するピストンロッド部33cなどを備えている。荷重発生部33は、シリンダ部33aが縦フレーム部4aに取り付けられている。荷重発生部33は、例えば、試験開始前に所定の荷重を発生するように予め設定されており、試験を開始してから試験を終了するまでほぼ一定の荷重を発生する。
【0063】
図2図8及び図9に示す接触力変動抑制部34は、接触位置Pに作用する接触力の変動を抑制する手段である。接触力変動抑制部34は、保持部28と荷重発生部33との間に配置されており、保持部28を介して荷重発生部33が発生する荷重を接触位置Pに作用させる。接触力変動抑制部34は、例えば、レール試験片1と車輪試験片2との接触面Sに凹凸が形成されたようなときに、レール試験片1に対する車輪試験片2の追従性を向上させることによって、接触位置Pに作用する接触力の変動を抑制するサスペンション機能を備えている。接触力変動抑制部34は、波状摩耗抑制部32と同様に、レール試験片1及び/又は車輪試験片2の周面における特定の波数の波状摩耗の発生を抑制する機能も備えている。接触力変動抑制部34は、図8及び図9に示すように、荷重受け部34aと、支持部34bと、弾性部34cなどを備えている。
【0064】
図8及び図9に示す荷重受け部34aは、荷重発生部33が発生する荷重を受ける手段である。荷重受け部34aは、この荷重受け部34aの上面に荷重発生部33のピストンロッド部33cの先端部が接触及び離間しており、この荷重受け部34aの下面に弾性部34cの上端部が接触している。支持部34bは、弾性部34cを支持する手段である。支持部34bは、この支持部34bの上面に弾性部34cの下端部が接触した状態で、保持部28と一体となって上下方向に移動する。弾性部34cは、ばね作用によって接触力の変動を抑制する手段である。弾性部34cは、レール試験片1と車輪試験片2とが回転接触するときに発生する上下振動を抑制することによって、レール試験片1に対して車輪試験片2の追従性を向上させる。弾性部34cは、荷重発生部33から圧縮荷重が作用する圧縮ばねなどの弾性部材であり、荷重発生部33が発生する荷重(圧縮荷重)を受けて撓みばね力を発生する。弾性部34cは、ばね定数の異なる複数種類が予め用意されている。弾性部34cは、荷重受け部34aと支持部34bとの間に挟み込まれており、これらの間に着脱自在で交換可能である。
【0065】
接触力変動抑制部34は、試験中に回転軸26Bの回転を一時的に停止させた状態で、ばね定数の異なる弾性部34cに変更することによって、車輪試験片2の固有振動数を変化させる。接触力変動抑制部34は、レール試験片1及び/又は車輪試験片2の固有振動数を変化させることによって、レール試験片1及び/又は車輪試験片2の周面に特定の波数の波状摩耗が成長するのを抑制する。
【0066】
図2図8及び図9に示す接触力検出部35は、接触位置Pに作用する接触力を検出する手段である。接触力検出部35は、荷重発生部33と接触力変動抑制部34との間に配置されており、これらの間に作用する荷重を検出する。接触力検出部35は、例えば、レール試験片1が回転を開始してから回転を終了するまでの荷重値を、接触位置Pに作用する接触力として測定するロードセルである。接触力検出部35は、接触位置Pに作用する接触力に応じた接触力検出信号を制御部44に出力する。
【0067】
図2及び図8図11に示す傾斜角変更部36は、レール試験片1の中心線O1に対する車輪試験片2の中心線O2が所定の傾斜角θになるように、傾斜角θを変更する手段である。傾斜角変更部36は、図11及び図12に示すように、中心線(ヨー軸)O5を回転中心として車輪試験片2を回転させることによって、レール試験片1の中心線O1に対して車輪試験片2の中心線O2を所定の傾斜角(例えば1°程度)θに傾斜させて、車輪/レール間のアタック角を模擬する。ここで、アタック角とは、レールと車輪との相対ヨー角であり、車輪の上下軸まわりの回転角である。アタック角は、例えば、曲線区間を走行する車両の外軌側の車輪の場合に、車輪の回転軸の中心線が反時計回り方向に旋回する方向を正とする。傾斜角変更部36は、図2及び図8図10に示す支持部36aと、図8及び図9に示す軸受部36bと、図8及び図10に示すスライド部36cと、ガイド部36dと、図2図8図10及び図11に示す操作部36eと、図10及び図11に示す送りねじ機構部36fなどを備えている。
【0068】
図2及び図8図10に示す支持部36aは、軸受部27A,27B及び保持部28を支持する手段である。支持部36aは、図2及び図11に示すように、軸受部27A,27B及び保持部28を支持した状態で、中心線O5を回転中心として回転可能な板状部材である。図8及び図9に示す軸受部36bは、支持部36aを回転自在に支持する手段である。軸受部36bは、図8に示すように、レール試験片1の中心線O1及び車輪試験片2の中心線O2に対して直交する中心線O5回りに支持部36aを回転自在に支持することによって、中心線O5回りに保持部28を回転させる。軸受部36bは、図8及び図9に示すように、上段横フレーム部4bと支持部36aとの間に配置されており、上段横フレーム部4bに対して支持部36aを回転させるスラスト軸受である。軸受部36bは、上段横フレーム部4bの上面に固定される固定部36gと、支持部36aの下面に固定されており固定部36gに回転自在に嵌合する回転部36hなどを備えている。
【0069】
図8及び図10に示すスライド部36cは、支持部36aと一体となって左右方向に移動する手段である。スライド部36cは、ガイド部36d上でスライド自在であり、支持部36aの下面に取り付けられている。ガイド部36dは、スライド部36cを移動自在にガイドする手段である。ガイド部36dは、図8に示すように、支持部36aが中心線O5回りに回転するときにスライド部36cを摺動させる。ガイド部36dは、上段横フレーム部4bの上面に取り付けられている。
【0070】
図2図8図10及び図11に示す操作部36eは、支持部36aを回転させるときに操作される手段である。操作部36eは、作業者によって回転操作される手動ハンドルである。図10及び図11に示す送りねじ機構部36fは、操作部36eによる回転運動を直線運動に変換する手段である。送りねじ機構部36fは、外周部に台形ねじの雄ねじ部を有するねじ軸36iと、支持部36aの端部に取り付けられておりねじ軸36iと噛み合う雌ねじ部を有するブロック部36jと、上段横フレーム部4bに取り付けられておりねじ軸36iを回転自在に支持する軸受部36kなどを備えている。
【0071】
図3に示す試験条件設定部37は、回転接触試験装置3に関する種々の試験条件を設定する手段である。試験条件設定部37は、例えば、試験条件を入力する入力装置である。試験条件設定部37は、例えば、レール試験片1及び車輪試験片2の直径、プーリ15a,15bのピッチ円直径、プーリ24a,24bの歯数などの諸元、すべり率を一定にして試験をするときの設定すべり率、トルクを一定にして試験をするときの設定トルク、動力発生部5の回転速度、回転速度調整部20の減速比、接触位置変更部13がレール試験片1を往復移動させる周期、荷重発生部33が発生する荷重などを試験条件として設定し、設定後の試験条件を試験条件設定信号(試験条件データ)として制御部44に出力する。試験条件記憶部38は、試験条件設定部37が設定する試験条件を試験条件データとして記憶する手段である。試験条件記憶部38は、試験条件データを記憶する記憶装置である。
【0072】
調整用回転速度演算部39は、調整用動力発生部17の回転速度を演算する手段である。調整用回転速度演算部39は、回転検出部14が検出する動力発生部5の回転速度と、試験条件設定部37が設定するすべり率とに基づいて、以下の数1によって調整用動力発生部17の回転速度N2を演算する。また、調整用回転速度演算部39は、回転検出部14が検出する動力発生部5の回転速度と、トルク-すべり率関係記憶部42が記憶する設定トルクに対応するすべり率とに基づいて、以下の数1によって調整用動力発生部17の回転速度N2を演算する。
【0073】
【数1】
【0074】
ここで、数1に示すD1は、レール試験片1の直径、D2は車輪試験片2の直径、D3はプーリ15aのピッチ円直径、D4はプーリ15bのピッチ円直径、D5はプーリ24aのピッチ円直径、D6はプーリ24bのピッチ円直径、Rは回転速度調整部20の減速比、sはすべり率、N1は回転検出部14が検出する動力発生部5の回転速度である。調整用回転速度演算部39は、演算後の調整用動力発生部17の回転速度を調整用回転速度信号(調整用回転速度データ)として制御部44に出力する。
【0075】
すべり率演算部40は、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間のすべり率を演算する手段である。すべり率演算部40は、回転検出部14の検出結果(レール試験片1の周速度)と、回転検出部30の検出結果(車輪試験片2の周速度)とに基づいて、すべり率を演算する。すべり率演算部40は、回転検出部14が出力する回転検出信号と、回転検出部30が出力する回転検出信号とに基づいてすべり率を演算して、この演算結果をすべり率信号(すべり率データ)として制御部44に出力する。
【0076】
摩擦係数演算部41は、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間の摩擦係数を演算する手段である。摩擦係数演算部41は、例えば、トルク検出部12の検出結果(接触位置Pに作用するトルク)と、接触力検出部35の検出結果(接触位置Pに作用する接触力)とに基づいて、摩擦係数を演算する。摩擦係数演算部41は、例えば、接触力検出部35が出力する接触力検出信号に含まれる接触力変動抑制部34の弾性部34cによるばね力などの成分をデータ処理によって除去し、時間的に平均化処理して摩擦係数を演算する。摩擦係数演算部41は、トルク検出部12が出力するトルク検出信号と、接触力検出部35が出力する接触力検出信号とに基づいて摩擦係数を演算して、この演算結果を摩擦係数信号(摩擦係数データ)として制御部44に出力する。
【0077】
トルク-すべり率関係記憶部42は、トルクとすべり率との関係を記憶する手段である。トルク-すべり率関係記憶部42は、トルクとすべり率との間に一定の関係があると予測されるため、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間のすべり率とトルクとの関係を記憶する記憶装置である。トルク-すべり率関係記憶部42は、トルクを一定の設定トルクにして試験をするときに、この設定トルクに対応するすべり率や、検出トルクと設定トルク(目標トルク)との間の差に対応するすべり率などをテーブル化又は演算式化してトルク-すべり率関係データとして記憶している。トルク-すべり率関係記憶部42は、設定トルクに対応するすべり率になるように、調整用動力発生部17の回転数をフィードフォワード制御するために使用されたり、検出トルクと設定トルクとの間の差に比例するすべり率になるように、調整用動力発生部17の回転数をフィードバック制御するために使用されたりする。
【0078】
測定データ記憶部43は、回転接触試験装置3に関する種々の測定データを記憶する手段である。測定データ記憶部43は、例えば、すべり率演算部40が演算したすべり率データを時系列で記憶したり、摩擦係数演算部41が演算した摩擦係数データを時系列で記憶したりする記憶装置である。
【0079】
制御部44は、回転接触試験装置3に関する種々の動作を制御する中央処理部(CPU)である。制御部44は、例えば、レール試験片1及び車輪試験片2を回転するための動力の発生を動力発生部5に指令したり、トルク検出部12が出力するトルク検出信号を摩擦係数演算部41に出力したり、レール試験片1を往復動作させるための動力の発生を動力発生部13aに指令したり、回転検出部14が出力する回転検出信号を調整用回転速度演算部39及びすべり率演算部40に出力したり、調整用動力の発生を調整用動力発生部17に指令したり、回転検出部30が出力する回転検出信号をすべり率演算部40に出力したり、所定の荷重の発生を荷重発生部33に指令したり、接触力検出部35が出力する接触力検出信号を摩擦係数演算部41に出力したり、試験条件設定部37が出力する試験条件データを試験条件記憶部38に出力したり、試験条件記憶部38に試験条件データの記憶を指令したり、試験条件記憶部38から試験条件データを読み出して調整用回転速度演算部39に出力したり、調整用回転速度演算部39に調整用回転速度の演算を指令したり、すべり率演算部40にすべり率の演算を指令したり、摩擦係数演算部41に摩擦係数の演算を指令したり、トルク-すべり率関係記憶部42からトルク-すべり率関係データを読み出したり、トルク-すべり率関係データから特定した設定トルクに対応するすべり率をすべり率データとして調整用動力発生部17に出力したり、トルク-すべり率関係データから特定した検出トルクと設定トルクとの差分に対応するすべり率をすべり率データとして調整用動力発生部17に出力したり、設定トルクに対応するすべり率になるように調整用動力発生部17の回転速度を制御したり、検出トルクと設定トルクとの差分に比例するすべり率になるように調整用動力発生部17の回転速度を制御したり、測定データ記憶部43に測定データの記憶を指令したりする。制御部44には、動力発生部5、トルク検出部12、動力発生部13a、回転検出部14、調整用動力発生部17、回転検出部30、荷重発生部33、接触力検出部35、試験条件設定部37、試験条件記憶部38、調整用回転速度演算部39、すべり率演算部40、摩擦係数演算部41、トルク-すべり率関係記憶部42及び測定データ記憶部43が接続されている。
【0080】
次に、この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置及びすべり率調整装置の動作を説明する。
(回転接触試験動作)
図3に示す試験条件設定部37を作業者が操作して試験条件を設定すると、図2に示す回転接触試験装置3がこの試験条件に従って動作を開始し、動力発生部5が回転軸5aを回転すると動力伝達部7を介して回転軸8A,8Bが回転する。その結果、動力発生部5が発生する動力がレール試験片1に伝達されて、レール試験片1が回転するとともに、レール試験片1と接触する車輪試験片2も回転する。図2に示す回転軸8A,8Bが回転すると動力伝達部15を介して回転軸18が回転し、動力発生部5が発生する動力が回転速度調整部20に伝達されて、図6及び図7に示す回転速度調整部20の枠20aが回転する。
【0081】
図3に示す試験条件記憶部38から試験条件を制御部44が読み出して、図2に示す調整用回転速度演算部39にこの試験条件を制御部44が出力する。また、図2及び図3に示す回転検出部14が動力発生部5の回転速度N1を検出して、この回転速度N1に応じた回転検出信号を回転検出部14が制御部44に出力する。調整用回転速度演算部39がこの試験条件及び動力発生部5の回転速度N1に基づいて数1によって調整用動力発生部17の回転速度N2を演算し、調整用回転速度演算部39が調整用回転速度信号を制御部44に出力すると、調整用動力発生部17が回転速度N2で回転するように調整用動力発生部17を制御部44が駆動制御する。その結果、調整用動力発生部17の回転軸17a,19が回転速度N2で回転して、調整用動力発生部17が発生する調整用動力が回転速度調整部20に伝達されて、図6に示す回転速度調整部20の入力軸20bが回転する。
【0082】
図2に示す動力発生部5から回転速度調整部20に動力が入力するとともに、調整用動力発生部17から回転速度調整部20に調整用動力が入力すると、図6に示す回転速度調整部20の出力軸20dが回転して、図2に示す回転軸21A,21Bも回転する。回転軸21A,21Bが回転すると動力伝達部24を介して回転軸26A,26Bが回転し、回転速度調整部20が発生する動力が車輪試験片2に伝達されて車輪試験片2が回転する。試験条件設定部37が設定するすべり率になるように回転速度調整部20が動力を発生するため、回転速度調整部20が発生する動力によってレール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間のすべり率が所定のすべり率に調整される。
【0083】
図2に示す回転検出部14がレール試験片1の回転速度を検出し、回転検出部30が車輪試験片2の回転速度を検出すると、図3に示す回転検出部14,30が回転検出信号を制御部44に出力する。回転検出信号をすべり率演算部40に制御部44が出力すると、回転検出部14,30が出力する回転検出信号に基づいて、図3に示すすべり率演算部40がすべり率を演算する。その結果、すべり率演算部40がすべり率信号を制御部44に出力して、測定データ記憶部43に制御部44がすべり率信号を出力すると、すべり率の時間変化が測定データ記憶部43に記憶される。
【0084】
図2に示すトルク検出部12が接触位置Pにおけるトルクを検出し、接触力検出部35が接触位置Pに作用する荷重を検出すると、図3に示すトルク検出部12がトルク検出信号を制御部44に出力し、接触力検出部35が接触力検出信号を制御部44に出力する。トルク検出信号及び接触力検出信号を摩擦係数演算部41に制御部44が出力すると、トルク検出部12が出力するトルク検出信号と接触力検出部35が出力する接触力検出信号とに基づいて、図3に示す摩擦係数演算部41が摩擦係数を演算する。その結果、摩擦係数演算部41が摩擦係数信号を制御部44に出力して、測定データ記憶部43に制御部44が摩擦係数信号を出力すると、摩擦係数の時間変化が測定データ記憶部43に記憶される。
【0085】
(すべり率を一定にする試験の動作)
すべり率を一定にして摩擦係数を測定する場合には、図3に示す試験条件設定部37が設定した設定すべり率と、図2及び図3に示す回転検出部14が検出した動力発生部5の回転速度N1とに基づいて、図3に示す調整用回転速度演算部39が数1によって調整用動力発生部17の回転速度N2を演算する。調整用回転速度演算部39が調整用回転速度信号を制御部44に出力すると、調整用動力発生部17が回転速度N2で回転して一定の設定すべり率を維持するように、調整用動力発生部17を制御部44が駆動制御する。その結果、動力発生部5の回転速度N1が変動しても、すべり率が一定になるように調整用動力発生部17が制御部44によって制御されて、すべり率を一定にして試験したときの摩擦係数を摩擦係数演算部41が演算して、摩擦係数の時間変化が測定データ記憶部43に記憶される。
【0086】
(トルクを一定にする試験の動作)
トルクを一定にしてすべり率を測定する場合には、図3に示すトルク-すべり率関係記憶部42からトルク-すべり率関係データを制御部44が読み出して、フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって調整用動力発生部17を制御部44が駆動制御する。フィードフォワード制御の場合には、試験条件記憶部38が記憶する設定トルクに対応するすべり率をトルク-すべり率関係データから制御部44が特定する。フィードバック制御の場合には、トルク検出部12が検出する検出トルク(実際に発生しているトルク)と試験条件記憶部38が記憶する設定トルク(目標トルク)との差分に対応するすべり率をトルク-すべり率関係データから制御部44が特定する。制御部44が特定したすべり率と、図2及び図3に示す回転検出部14が検出した動力発生部5の回転速度N1とに基づいて、調整用回転速度演算部39が数1によって調整用動力発生部17の回転速度N2を演算する。調整用回転速度演算部39が調整用回転速度信号を制御部44に出力すると、調整用動力発生部17が回転速度N2で回転して一定のすべり率を維持するように、調整用動力発生部17を制御部44が駆動制御する。一般に、すべり率が高いほど発生トルクが大きくなるため、フィードバック制御の場合には、トルクが過大であるときにはすべり率が低下するように調整用動力発生部17を制御部44が制御し、トルクが過小であるときにはすべり率が増加するように調整用動力発生部17を制御部44が制御する。その結果、動力発生部5の回転速度N1が変動しても、トルクが一定になるように調整用動力発生部17が制御部44によって制御されて、トルクを一定にして試験したときのすべり率をすべり率演算部40が演算して、すべり率の時間変化が測定データ記憶部43に記憶される。
【0087】
(接触位置変更動作)
図5に示すように、接触位置変更部13によって接触位置Pを変化させるときには、図3に示す試験条件設定部37によって設定されたレール試験片1の往復運動の周期を、試験条件記憶部38から制御部44が読み出す。レール試験片1の往復動作を動力発生部13aに制御部44が指令すると、図5に示す送りねじ機構部13bのねじ軸13dを動力発生部13aが所定の周期で正転及び逆転を繰り返し、連結部13c及びナット13eとともに軸受部9Aが往復移動する。その結果、レール試験片1と車輪試験片2とが回転接触した状態で、車輪試験片2に対してレール試験片1が往復移動して接触位置Pが変動する。このとき、図2に示す回転軸8B及びトルク検出部12と回転軸8Aとの間の距離が変化するが、図5に示す連結部10が伸縮自在で連結状態を維持するため、これらの間で動力が伝達される。
【0088】
(傾斜角変更動作)
図12に示すように、レール試験片1の中心線O1に対して車輪試験片2の中心線O2を傾斜角θだけ傾斜させるときには、図10及び図11に示す傾斜角変更部36の操作部36eを作業者が回転する。その結果、送りねじ機構部36fのねじ軸36iの雄ねじ部がブロック部36jの雌ねじ部と噛み合いながら回転し、図8図9及び図11に示す中心線O5回りに支持部36aが回転し、図11に示すように支持部36aが疑似的に水平移動する。中心線O5からブロック部36jまでの距離が長く、ねじ軸36iの雄ねじ部とブロック部36jの雌ねじ部との間に機械的な隙間(バックラッシ)がある。このため、図10及び図11に示すブロック部36jが支持部36aに固定されていても、図11に示すように微小な傾斜角θだけ支持部36aが回転可能である。図11(B)に示すように、支持部36aが回転すると動力伝達部24のプーリ24aも回転するがベルト24cが僅かにねじれるため、ベルト24cによって回転軸21Bから回転軸26Aへの動力の伝達に支障がない。軸受部27A,27B、保持部28及び軸継手部29が支持部36aとともに中心線O5回りに回転すると、図12に示すようにレール試験片1の中心線O1に対して車輪試験片2の中心線O2が傾斜角θだけ回転して、車輪/レール間のアタック角と同じ状況が再現される。
【0089】
【表1】
【0090】
表1は、この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置によってすべり率を調整する場合の計算例である。表1は、レール試験片1の外径D1が0.06(m)であり、車輪試験片2の内径D2が0.07(m)であり、回転速度調整部20のギヤ比rが119である場合の計算例である。表1に示すように、回転速度調整部20によって車輪試験片2の回転速度N1を調整することによってすべり率sを任意のすべり率に調整することができ、レールがすべりを受ける方向の違いを再現して試験を実施することができる。
【0091】
この発明の第1実施形態に係る回転接触試験装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、動力発生部5が発生する動力が循環する動力循環経路Rの外で、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間のすべり率を調整するための調整用動力を調整用動力発生部17が発生する。また、この第1実施形態では、動力発生部5が発生する動力及び調整用動力発生部17が発生する調整用動力が入力し、すべり率を所定のすべり率にするための動力を出力することによって、車輪試験片2の回転速度を回転速度調整部20が無段階で調整する。このため、すべり率を高精度に制御することによって、すべり率を無段階に変動させることができる。また、広いすべり率の領域の転がり接触状態を高精度に再現することができるとともに、レール試験片1及び車輪試験片2の表面粗さや塑性変形などの変化を高精度に再現することができる。また、転がり接触するレール試験片1及び車輪試験片2の接触力(粘着力)特性、摩耗特性又は転がり疲労特性などの材料特性を評価することができるとともに、これらの間に使用する潤滑剤などの各種性能を評価することができる。また、従来の車輪試験装置103のような動力循環経路R内の回転フレーム104内で第2電動機120が回転しながら試験輪102を回転させる構造とは異なり、調整用動力発生部17が動力循環経路R外に固定された状態で調整用動力を発生する。このため、従来の車輪試験装置103のような複雑な構造で比較的高出力の高価なモータを使用する必要がなく、簡単な構造で比較的低出力の安価な汎用のサーボモータなどを使用することができる。また、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間にすべりを生じさせるために必要な動力のみを調整用動力発生部17から発生させることができる。さらに、従来の車輪試験装置103のような回転フレーム104とともに回転フレーム104内の第2電動機120を第1電動機105によって回転させる構造に比べて、比較的低出力のモータによって比較的大きな摩擦力を発生させて試験を行うことができる。
【0092】
(2) この第1実施形態では、回転速度調整部20が車輪試験片2の回転速度を無段階で調整する遊星歯車変速装置である。このため、車輪試験片2の回転速度を簡単に減速又は増速させることができ、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間のすべり率を簡単に調整することができる。
【0093】
(3) この第1実施形態では、回転速度調整部20がトロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車変速装置である。このため、制動力を駆動力に循環させる機構として回転数を微調整可能なサイクロイド変速機のような内接式遊星歯車変速装置を動力循環経路Rの途中に入れることによって、無段階ですべり率を高精度に調整することができる。
【0094】
(4) この第1実施形態では、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との接触位置Pを、レール試験片1及び車輪試験片2の中心線O1,O2方向に接触位置変更部13が変更する。このため、実物の車輪が実物のレールに対して左右に蛇行動する状況と同じ状況を、レール試験片1と車輪試験片2との間で再現して試験を実施することができる。
【0095】
(5) この第1実施形態では、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間に供給部31が供給物Mを供給する。このため、実物のレールと実物の車輪との間に供給される水、増粘着材又は摩擦緩和材などの供給物Mを、レール試験片1と車輪試験片2との間に供給することによって、供給物Mの効果を確認することができる。
【0096】
(6) この第1実施形態では、レール試験片1及び/又は車輪試験片2の周面における特定の波数の波状摩耗の発生を波状摩耗抑制部32が抑制する。このため、回転接触試験装置3の回転系の全体の固有振動数を変更することによって、波状摩耗の波数を変えて特定の波数の波状摩耗の発生を抑えることができる。例えば、従来の2円筒転がり試験装置では、2円筒が長時間接触しながら回転するため、波長が数mm前後の波状摩耗が試験片の表面に生じやすく、波状摩耗の発生の原因が慣性モーメントに起因する軸回りの固有振動数であると考えられている。この第1実施形態では、特定の波数の波状摩耗の成長を抑えるために、複数の異なる波数の波状摩耗を発生させることができる。このため、様々な波長の摩耗が生じることによって、結果的に特定の波数の波状摩耗の発生を抑制することができるため、レール試験片1及び/又は車輪試験片2が円筒に近い形状を保つことができ、特定の波数の波状摩耗が成長して試験の継続が困難になるのを防ぐことができる。
【0097】
(7) この第1実施形態では、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との接触位置Pに接触力が作用するように、荷重発生部33が所定の荷重を発生する。このため、レール試験片1と車輪試験片2との接触位置Pに力を作用させて、車輪/レール間に作用する輪重を模擬した試験を実施することができる。
【0098】
(8) この第1実施形態では、接触位置Pに作用する接触力の変動を接触力変動抑制部34が抑制する。このため、回転接触するレール試験片1及び車輪試験片2の周面に凹凸が形成された場合であっても、これらの周面への追従性を向上させることができ、これらをスムーズに回転させることができる。例えば、油圧又は空気圧の荷重発生部33とばね機構の接触力変動抑制部34とを組み合わせた押付機構によって、接触面Sにおける追従性能を向上させることができる。その結果、接触位置Pに安定して接触力を継続的に作用させることができるため、接触力の変動が抑えられた状態で長期間にわたり試験を継続することができ、接触力の変動による影響の少ない高精度な試験結果を得ることができる。
【0099】
(9) この第1実施形態では、ばね定数の異なる複数種類の弾性部34cを接触力変動抑制部34が備えており、弾性部34cが着脱自在で交換可能である。このため、車輪試験片2の固有振動数を変更することによって、波状摩耗の波数を変えて特定の波数の波状摩耗の発生を抑えることができる。
【0100】
(10) この第1実施形態では、レール試験片1の中心線O1に対する車輪試験片2の中心線O2が所定の傾斜角θになるように、傾斜角変更部36が傾斜角θを変更する。このため、レール試験片1に対する車輪試験片2の接触角度を変更して回転接触させることができ、車輪/レール間のアタック角を模擬した試験を実施することができる。
【0101】
(11) この第1実施形態では、レール試験片1が実物のレールを模擬した円筒状の試験片であり、車輪試験片2がこのレール試験片1の内周部で回転接触し、実物の車輪を模擬した円輪状の試験片である。例えば、従来の2円筒転がり試験装置のように円輪状のレール試験片の外周面と円輪状の車輪試験片の外周面とを回転接触させたときには、これらの試験片の接触部の接触面Sの形状が、実物のレールと実物の車輪との接触部の接触面の形状である円形とは異なり、細長い楕円形になってしまう。この第1実施形態では、レール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との接触部の接触面Sの形状を、実物のレールと実物の車輪との接触部の接触面の形状が縮小されて、この接触面の形状と同じ略円形にすることができる。その結果、実物のレール上を実物の車輪が転動する場合に近い状況を再現することができる。また、転がり接触するレール試験片1と車輪試験片2との間の接触力(粘着力)特性、摩耗特性又は転がり疲労特性などの材料特性を評価することができるとともに、レール試験片1と車輪試験片2との間に使用する潤滑剤などの各種性能を評価することができる。
【0102】
(第2実施形態)
以下では、図1図12に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図13に示す回転速度調整部20は、円形の内歯車20kと楕円形の外歯車20mとの噛み合いによって生ずる差動を利用した波動歯車装置であり、この波動歯車装置によって車輪試験片2の回転速度を無段階に調整する。回転速度調整部20は、例えば、大減速比でバックラッシが少なく、軽量かつコンパクトなハーモニックドライブ(登録商標)のようなハーモニック・ディファレンシャルギヤである。回転速度調整部20は、内歯車20kと、外歯車20mと、カム部20nなどを備えている。
【0103】
内歯車20kは、動力発生部5が発生する動力によって回転する部材である。内歯車20kは、図6に示す回転軸18の端部に継手部を介して連結されており、中心線O3を回転中心として回転する。内歯車20kは、外歯車20mよりも歯数が2枚多い歯20pをこの内歯車20kの内周部に備えており、剛体で円筒状の部材であり、遊星歯車装置の太陽歯車に相当するサーキュラ・スプライン(circular spline(C/S))である。
【0104】
外歯車20mは、すべり率を所定のすべり率にするための動力を発生する部材である。外歯車20mは、この外歯車20mの出力軸の端部が継手部を介して図6に示す回転軸21Aの端部に接合されており、回転軸21Aと一体となって回転する。外歯車20mは、図13に示すように、この外歯車20mの外周部に歯20qを備えており、薄肉でカップ状の金属弾性体の部材であり、遊星歯車装置の遊星歯車に相当するフレクススプライン(flexspline(F/S))である。外歯車20mは、楕円形に弾性変形しながら回転することによって、長軸部20rでは内歯車20kの歯20pと噛み合い、短軸部20sでは内歯車20kの歯から離れる。
【0105】
カム部20nは、調整用動力17が発生する調整用動力によって回転しながら外歯車20mの内周部に回転接触する部材である。カム部20nは、外歯車20mを楕円形に弾性変形させる楕円形の部材であり、このカム部20nの外周部が薄肉で弾性変形可能な軸受部を介して外歯車20mの内周部と嵌合している。カム部20nは、遊星歯車装置のキャリアに相当するウェーブ・ジェネレータ(wave generator(W/G))である。カム部20nは、このカム部20nの入力軸の端部が継手部を介して図6に示す回転軸19の端部に接合されており、回転軸19と一体となって回転する。
【0106】
次に、この発明の第2実施形態に係る回転接触試験装置の動作について説明する。
図2に示す動力発生部5が発生する動力によって図13に示す内歯車20kが回転するとともに、図2に示す調整用動力発生部17が発生する調整用動力によって図13に示すカム部20nが回転する。カム部20nが回転して外歯車20mが楕円状に撓むと、外歯車20mの長軸部20rが内歯車20kの歯と噛み合い、外歯車20mの短軸部20sが内歯車20kの歯から離れ、内歯車20kと外歯車20mとの噛み合い位置が順次移動する。その結果、カム部20nが1回転する間に、カム部20nとは逆方向に歯数差2枚分だけ外歯車20mが逆方向に回転し、図2に示すレール試験片1の周面と車輪試験片2の周面との間のすべり率が調整される。この発明の第2実施形態には、第1実施形態と同様の効果がある。
【0107】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、レール試験片1が円筒状の回転体であり、車輪試験片2が円輪状の回転体である場合を例に挙げて説明したが、レール試験片1が円輪状の回転体であり、車輪試験片2が円筒状の回転体である場合や、レール試験片1及び車輪試験片2が円筒状の回転体である場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、すべり率調整装置16を回転接触試験装置3に適用する場合を例に挙げて説明したが、回転接触する研削砥石の回転体の周面と工作対象物の回転体の周面との間のすべり率を調整して工作対象物を加工する円筒研磨機や、回転接触する一対の圧延ローラ間のすべり率を調整して加工対象物を圧延する圧延機などについても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、車輪試験片2が摩擦力によって回転する場合の動力循環経路Rを例に挙げて説明したが、レール試験片1が摩擦力によって回転する場合についても、この発明を適用することができる.この場合には、動力循環経路Rとは逆回りの動力循環経路となり、動力発生部5が発生する駆動力によって車輪試験片2が回転して、車輪試験片2と接触しているレール試験片1が摩擦力によって回転し、動力発生部5が発生する駆動力にこの摩擦力が戻る。
【0108】
(2) この実施形態では、回転速度調整部20がトロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車変速装置又は波動歯車装置である場合を例に挙げて説明したが、回転速度調整部20が他の構造の遊星歯車装置である場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、波状摩耗抑制部32を回転軸21Bに着脱自在に装着する場合を例に挙げて説明したが、車輪試験片2により一層近い回転軸26A,26Bに波状摩耗抑制部32を着脱自在に装着する場合や、レール試験片1に近い回転軸8A,8Bに波状摩耗抑制部32を着脱自在に装着する場合についても、この発明を適用することができる。
【0109】
(3) この実施形態では、傾斜角変更部36が傾斜角θを手動操作によって変更する場合を例に挙げて説明したが、傾斜角変更部36が傾斜角θを自動で変更する場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、傾斜角変更部36の送りねじ機構部36fによって支持部36aを回転させる場合を例に挙げて説明したが、ラック/ピニオン機構によって支持部36aを回転する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、傾斜角変更部36の支持部36aにブロック部36jが固定されている場合を例に挙げて説明したが、支持部36aにブロック部36jが回転自在に取り付けられている場合についても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 レール試験片(第1の回転体)
2 車輪試験片(第2の回転体)
3 回転接触試験装置
4 フレーム部
5 動力発生部
6A,6B 軸受部
7 動力伝達部
7a,7b プーリ
7c ベルト
8A,8B 回転軸
9A~9C 軸受部
10 連結部
11 軸受部
12 トルク検出部
13 接触位置変更部
14 回転検出部
15 動力伝達部
15a,15b プーリ
15c ベルト
16 すべり率調整装置
17 調整用動力発生部
18,19 回転軸
20 回転速度調整部
21A,21B 回転軸
22A,22B 軸受部
23 軸継手部
24 動力伝達部
24a,24b プーリ
24c ベルト
25A,25B 軸受部
26A,26B 回転軸
27A,27B 軸受部
28 保持部
29 軸継手部
30 回転検出部
31 供給部
32 波状摩耗抑制部
33 荷重発生部
34 接触力変動抑制部
34c 弾性部
35 接触力検出部
36 傾斜角変更部
37 試験条件設定部
38 試験条件記憶部
39 調整用回転速度演算部
40 すべり率演算部
41 摩擦係数演算部
42 トルク-すべり率関係記憶部
43 測定データ記憶部
44 制御部
P 接触位置
S 接触面
R 動力循環経路
θ 傾斜角
1~O5 中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14