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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084992
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及びタイヤ成型用金型
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20240619BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20240619BHJP
   B29C 33/02 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 C
B60C11/03 300C
B60C11/03 B
B29C33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199256
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 誠也
【テーマコード(参考)】
3D131
4F202
【Fターム(参考)】
3D131BC12
3D131BC18
3D131BC19
3D131CB05
3D131EB05U
3D131EB28V
3D131EB28X
3D131EB83V
3D131EB83X
3D131EB83Z
3D131EB97V
3D131EB97X
3D131EB97Z
3D131EC13U
3D131LA28
4F202AH20
4F202CA21
4F202CU01
4F202CU20
(57)【要約】
【課題】乾燥路面、湿潤路面での制動性能向上と、雪氷路面での制動性能向上との両立を図る。
【解決手段】実施形態の一例であるタイヤは、サイプが形成されたブロック30を有するトレッド10を含む。サイプは、対面する第1壁面52及び第2壁面53を有する。第1壁面52は、サイプ深さ方向中間位置に第1突起54を有し、第2壁面53は、サイプ深さ方向中間位置に第2窪み57を有する。第1突起54のサイプ深さ方向両側面は、先端に向かって互いの間隔が大きくなる方向に、サイプの幅方向に対し傾斜する。第2窪み57のサイプ深さ方向両側面は、奥端に向かって互いに間隔が大きくなる方向に、サイプの幅方向に対し傾斜する。第1突起54は、第2窪み57内に配置され、第2窪み57内から抜け出る方向に移動したときに、第2窪み57に係合するように構成される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイプが形成されたブロックを有するトレッドを含む空気入りタイヤであって、
前記サイプは、対面する第1壁面及び第2壁面を有し、
前記第1壁面は、サイプ深さ方向中間位置に第1突起を有し、
前記第2壁面は、前記サイプ深さ方向中間位置に第2窪みを有し、
前記第1突起の前記サイプ深さ方向両側面は、先端に向かって互いの間隔が大きくなる方向に前記サイプの幅方向に対し傾斜しており、
前記第2窪みの前記サイプ深さ方向両側面は、奥端に向かって互いに間隔が大きくなる方向に前記サイプの前記幅方向に対し傾斜しており、
前記第1突起は、前記第2窪み内に配置され、前記第2窪み内から抜け出る方向に移動したときに、前記第2窪みに係合するように構成される、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1壁面は、前記第1突起と隣り合う第1窪みを有し、
前記第2壁面は、前記第2窪みと隣り合う第2突起を有し、
前記第1窪みの前記サイプ深さ方向両側面は、奥端に向かって互いの間隔が大きくなる方向に前記サイプの幅方向に対し傾斜しており、
前記第2突起の前記サイプ深さ方向両側面は、先端に向かって互いに間隔が大きくなる方向に前記サイプの幅方向に対し傾斜しており、
前記第2突起は、前記第1窪み内に配置され、前記第1窪み内から抜け出る方向に変形したときに、前記第1窪みに係合するように構成される、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1突起の前記サイプ深さ方向両側面の根元端には断面円弧形の曲面が設けられる、
請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1壁面の前記第1突起が形成された面と、前記第2壁面の前記第2窪みが形成された面とは、少なくともタイヤ軸方向に沿った面を含んでいる、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイプは、長手方向両端に設けられ、それぞれタイヤ周方向に延びる端サイプ要素と、前記長手方向中間に設けられタイヤ軸方向に延びる中間サイプ要素とを含み、
前記第1突起を有する前記第1壁面、及び前記第2窪みを有する前記第2壁面は、前記中間サイプ要素に設けられる、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
タイヤのトレッドのブロックにサイプを形成するためのサイプブレードを備えるタイヤ成型用金型であって、
前記サイプブレードは、第1側面のサイプ深さ方向中間位置に形成された第1突起形成用窪みと、第2側面の前記サイプ深さ方向中間位置に形成された第2窪み形成用突起とを有し、
前記第2窪み形成用突起の内側に、前記第1突起形成用窪みが入り込んでおり、
前記第1突起形成用窪みの前記サイプ深さ方向両側面は、奥端に向かって互いの間隔が大きくなる方向に前記サイプの幅方向に対し傾斜しており、
前記第2窪み形成用突起の前記サイプ深さ方向両側面は、先端に向かって互いに間隔が大きくなる方向に前記幅方向に対し傾斜しており、
前記第1突起形成用窪みの前記サイプ深さ方向両側面は、前記第2窪み形成用突起の前記サイプ深さ方向両側面と、前記幅方向に重畳している、
タイヤ成型用金型。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイプが形成されたブロックを有するトレッドを含む空気入りタイヤ、及び、当該空気入りタイヤを成型するタイヤ成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、氷雪路面でのタイヤのエッジ効果を得るために、トレッドを形成するブロックの接地面にサイプを形成した構成が知られている。しかしながら、単に平面状の壁面同士が対向しているサイプでは、乾燥路面及び湿潤路面での制動時に、ブロックのサイプによって分かれた両側の部分が噛み合わないので、ブロックの倒れ込みが生じる可能性がある。これにより、ブロックの剛性が低下するので、制動性能の向上の面から改良の余地がある。
【0003】
一方、特許文献1には、トレッドのブロックに径方向外側から見てZ字形状の折れ曲がりが繰り返されるサイプが形成されたタイヤが記載されている。これにより、サイプにタイヤ周方向のせん断力が作用したときに、サイプの対面する2つのサイプ壁面が噛み合ってサイプが過度に開くのを抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-138313号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された構成では、乾燥路面及び湿潤路面での制動時におけるブロックの倒れ込みを抑制できる可能性はある。しかしながら、氷雪路面の制動時では、サイプがタイヤ接地表面で開きにくくなるので、エッジ効果を良好に発揮できない可能性がある。このため、乾燥路面、湿潤路面での制動性能向上と、氷雪路面での制動性能向上との両立を図ることが望まれる。
【0006】
本発明の目的は、乾燥路面及び湿潤路面での制動性能向上と、氷雪路面での制動性能向上との両立を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッドを含む空気入りタイヤであって、トレッドには、対面する第1壁面及び第2壁面を有するサイプが設けられ、前記第1壁面は、サイプ深さ方向中間位置に第1突起を有し、前記第2壁面は、前記サイプ深さ方向中間位置に第2窪みを有し、前記第1突起の前記サイプ深さ方向両側面は、先端に向かって互いの間隔が大きくなる方向に前記サイプの幅方向に対し傾斜しており、前記第2窪みの前記サイプ深さ方向両側面は、奥端に向かって互いに間隔が大きくなる方向に前記サイプの前記幅方向に対し傾斜しており、前記第1突起は、前記第2窪み内に配置され、前記第2窪み内から抜け出る方向に移動したときに、前記第2窪みに係合するように構成される、空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る空気入りタイヤによれば、乾燥路面及び湿潤路面での制動時に、ブロックにおいて、対面する第1壁面及び第2壁面のサイプ深さ方向中間位置に設けられた第1突起と第2突起とが係合することにより、ブロックの倒れ込みを抑制できる。これにより、ブロックの剛性を高くできるので、乾燥路面及び湿潤路面での制動性能向上を図れる。さらに、上記の特許文献1に記載された構成と異なり、サイプのタイヤ接地表面には、サイプが開き方向に変化した場合にその開きを抑制する噛み合い形状を有する必要がない。このため、氷雪路面の制動時において、サイプがタイヤ接地表面で開きやすくなるので、エッジ効果を良好に発揮しやすくなる。したがって、乾燥路面及び湿潤路面での制動性能向上と、氷雪路面での制動性能向上との両立を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の一例である空気入りタイヤのトレッドをタイヤ径方向外側から見た図である。
図2図1のA領域の拡大図である。
図3図1のB領域を拡大してタイヤ径方向外側から見た斜視図である。
図4図3のC-C断面図である。
図5図4のサイプの第1壁面の斜視図である。
図6図4のサイプの第2壁面の斜視図である。
図7】サイプが開く方向に変化した状態を示している図4に対応する図である。
図8】実施形態の一例であるタイヤ成形用金型を示す模式図である。
図9図8のタイヤ成形用金型を構成するサイプブレードを示す斜視図である。
図10図9のD矢視図である。
図11図10のE領域の拡大図である。
図12図9のF矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する複数の実施形態及び変形例の各構成要素を選択的に組み合わせることは本発明に含まれている。
【0011】
図1は、実施形態の一例である空気入りタイヤ1のトレッド10をタイヤ径方向外側から見た図である。図2は、図1のA領域の拡大図である。図1図2に示すように、空気入りタイヤ1は、路面に接地する部分であるトレッド10を備える。以下、「空気入りタイヤ1」は、「タイヤ1」と記載する。トレッド10は、複数のブロックを含むトレッドパターンを有し、タイヤ周方向に沿って環状に形成されている。
【0012】
以下では、タイヤ軸方向X、タイヤ周方向Yおよびタイヤ径方向Zに従って、各部材について説明する。また、タイヤ軸方向Xでは、タイヤ軸方向中央についてタイヤ赤道CLを用いて説明する場合もある。
【0013】
トレッド20は、周方向溝21、22、23、24、25によって、タイヤ軸方向Xに分けられた複数のブロック30、31,32,33,34,35を有している。周方向溝21、22、23、24、25は、タイヤ周方向Yに沿って延びる、またはタイヤ周方向に対し交互に逆方向に傾斜する、すなわちジグザグ状に形成される溝である。
【0014】
タイヤ軸方向X中央のブロック30は、タイヤ赤道CLを含んでいる。タイヤ軸方向X両端のブロック34,35は、接地端Tを含んでいる。複数のブロック30、31,32,33,34,35は、横溝40,41,42,43,44によって、タイヤ周方向Yにも分けられて、複数の小ブロックを形成している。横溝40,41,42,43,44は、タイヤ軸方向Xに沿って、またはタイヤ軸方向Xに対し傾斜した方向に延びる溝である。小ブロックは、周方向溝と横溝とで区切られていれば、平面視が矩形でも、ひし形で、平行四辺形でも、それ以外でもよく、形状が限定されることはない。また、各ブロック30、31,32,33,34,35は、横溝によってタイヤ周方向Yに分断されず、タイヤ周方向に沿って環状に連続した形状としてもよい。
【0015】
周方向溝は、タイヤ周方向に沿って延びる溝だけでもよい。横溝はタイヤ軸方向に沿って延びる溝だけでもよい。
【0016】
タイヤ1は、トレッド10よりタイヤ軸方向外側の端部に設けられ、最もタイヤ軸方向外側に膨らんだサイドウォール(図示せず)と、ホイールのリムに固定されるビード(図示せず)とを備える。
【0017】
「接地端T」とは、未使用のタイヤ1を正規リムに装着して正規内圧となるように空気を充填した状態で、正規内圧における正規荷重の70%の負荷を加えたときに平坦な路面に接地する領域のタイヤ軸方向両端を意味する。
【0018】
ここで、正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRA、及びETRTOであれば"Measuring Rim"である。正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、トラックバス用タイヤ、ライトトラック用タイヤの場合は、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES"に記載の最大値、ETRTOであれば"INFLATION PRESSURE"である。乗用車用タイヤの場合は通常180kPaとするが、タイヤに、Extra Load、又は、Reinforcedと記載されたタイヤの場合は220kPaとする。「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば ”最大負荷能力”、TRAであれば表”TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば”LOAD CAPACITY”である。タイヤが乗用車用の場合には、前記荷重の88%に相当する荷重である。タイヤがレーシングカート用の場合、正規荷重は392Nである。
【0019】
図1では、タイヤ1の接地端Tよりタイヤ軸方向外側の図示を省略している。タイヤ1は、図示を省略するが、カーカス、ベルト、及びインナーライナーを備える。カーカスは、ゴムで被覆されたコード層であり、荷重、衝撃、空気圧等に耐えるタイヤ1の骨格を形成する。ベルトは、トレッドを構成するゴムとカーカスの間に配置される補強帯である。ベルトは、カーカスを強く締めつけてタイヤ1の剛性を高める。インナーライナーは、カーカスの内周面に設けられたゴム層であって、タイヤ1の空気圧を保持する。ビードは、ビードコアとビードフィラーを有する。
【0020】
[サイプ]
各ブロック30,31,32,33,34,35の接地面には、略タイヤ軸方向X、またはタイヤ軸方向Xに対し傾斜した方向に延びる複数の細線状のサイプ50,60が形成される。各サイプ50,60は、雪や氷をひっかくエッジ効果を高め、氷雪路面での良好な制動性能及び操縦安定性を実現する効果を有する。
【0021】
複数のサイプ50,60は、タイヤ軸方向X中央のブロック30のタイヤ赤道CL付近に設けられた第1サイプ50と、複数のブロック30,31,32,33,34,35に設けられた第2サイプ60とを含んでいる。第2サイプ60は、タイヤ軸方向X中央のブロック30において、第1サイプ50に対しタイヤ軸方向X両側と、タイヤ軸方向X中央のブロック30以外の複数のブロック31,32,33,34,35とに設けられる。
【0022】
第1サイプ50は、後で詳しく説明するように、平面視、すなわちタイヤ径方向Z外側から見た状態で、タイヤ軸方向Xに延びる中間サイプ要素と、中間サイプ要素の両端でタイヤ周方向の逆方向に屈曲するように連結された端サイプ要素とを有する直角折れ曲がり形状である。複数の第1サイプ50は、タイヤ赤道CL付近に、タイヤ周方向Yに間隔をあけて並んで配置される。第1サイプ50の両端は、ブロック30内で終端し、ブロック30の側壁面には開口しない。
【0023】
第2サイプ60は、平面視で、波形形状である。第2サイプ60は、タイヤ軸方向X、またはタイヤ軸方向Xに対し傾斜した方向に延びている。第2サイプ60の波形形状は、タイヤ軸方向Xに隣り合うブロック同士で異なっていても、同じであってもよい。図2に示すように、第1サイプ50と、その第1サイプ50のタイヤ軸方向両側に配置された第2サイプ60とは離れて配置される。各サイプ50,60は、タイヤ径方向Zのブロック表面側から底面側にまで形成される。サイプ深さ方向は、ブロックの表面側端から底面までの範囲でタイヤ径方向Zと一致する。
【0024】
直角折曲がり形状の第1サイプ50及び波形状の第2サイプ60によれば、氷雪路におけるエッジ効果が得られる。エッジ効果とは、氷雪路において、ブロックまたはサイプの角で路面を引っ掻き、グリップ力を増加できる効果である。
【0025】
図3から図7を用いて第1サイプ50を詳しく説明する。図3は、図1のB領域を拡大してタイヤ径方向外側から見た斜視図である。図4は、図3のC-C断面図である。図5は、第1サイプ50の第1壁面52の斜視図である。図6は、第1サイプ50の第2壁面53の斜視図である。
【0026】
第1サイプ50は、対面する第1壁面52と第2壁面53とを有する。第1壁面52と第2壁面53とは、互いにサイプ幅方向に隙間をあけて面するように形成される。第1サイプ50はタイヤ径方向Z外側から見た平面視で、タイヤ軸方向Xに延びる中間サイプ要素51aと、中間サイプ要素51aの両端に連結され、タイヤ周方向Yについて互いに逆方向に延びる端サイプ要素51bとを有する。
【0027】
図4図5に示すように、第1壁面52の中間サイプ要素51aを形成する部分には、サイプ深さ方向中間の2つの位置に、第2壁面53に向かってサイプ幅方向に突出する第1突起54を有する。2つの第1突起54間には、第1窪み55が形成される。中間サイプ要素51aにおいて、第1突起54及び第1窪み55は、タイヤ軸方向Xに延びている。中間サイプ要素51aにおいて、第1サイプ50の幅方向は、タイヤ周方向Yと一致する。
【0028】
第1突起54のサイプ深さ方向両側面56a、56bは、先端に向かって互いに間隔が大きくなる方向に、第1サイプ50の幅方向に対し傾斜している。これにより、第1突起54は、先端長さが根元端長さより長い台形の断面形状を有する。
【0029】
一方、図4図6に示すように、第2壁面53の中間サイプ要素51aを形成する部分には、サイプ深さ方向中間の2つの位置に、第1壁面52のサイプ深さ方向両端寄りの面から離れる方向に窪んだ第2窪み57を有する。2つの第2窪み57間には、第2突起58が形成される。中間サイプ要素51aにおいて、第2窪み57及び第2突起58は、タイヤ軸方向Xに延びている。
【0030】
第2窪み57のサイプ深さ方向両側面59a、59bは、奥端に向かって互いの間隔が大きくなる方向に、第1サイプ50の幅方向に対し傾斜している。これにより、第2窪み57は、奥端長さが開口端長さよりも長い台形の断面形状を有する。
【0031】
ここで、各第1突起54のサイプ深さ方向の最大長さL1は、各第2窪み57の開口端のサイプ深さ方向の長さL2より大きい。
【0032】
2つの第2窪み57内には第1突起54が入り込んで配置される。第1窪み55内には第2突起58が入り込んで配置される。
【0033】
また、第1窪み55のサイプ深さ方向両側面は、奥端に向かって互いの間隔が大きくなる方向に、サイプの幅方向に対し傾斜している。さらに、第2突起58のサイプ深さ方向両側面は、先端に向かって互いに間隔が大きくなる方向に、サイプの幅方向に対し傾斜している。第2突起58は、第1窪み55内に配置される。
【0034】
図7は、サイプが開く方向に変化した状態を示している図4に対応する図である。図7に示すように、第1突起54は、第2窪み57内から抜け出る方向(図7の右方向)に移動したときに、第1突起54は、第2窪み57の内面の開口端側に接触し、第2窪み57に係合するように構成される。一方、第2突起58は、第1窪み55内から抜け出る方向に移動したときに、第1窪み55の内面の開口端側に接触し、第2突起58に係合するように構成される。これにより、後述するように、乾燥路面及び湿潤路面での制動性能向上と、氷雪路面での制動性能向上との両立を図れる。
【0035】
第1突起54のサイプ深さ方向の側面56a、56bと、この側面56a、56bに対向する第2窪み57のサイプ深さ方向の側面59a、59bとは、略平行、すなわち略同じ角度でサイプ幅方向に対し傾斜させている。なお、第1突起54のサイプ深さ方向の側面と、この側面に対向する第2窪み57のサイプ深さ方向の側面とは、互いに異なる角度でサイプ幅方向に対し傾斜してもよい。例えば、第1突起54のサイプ深さ方向の側面は、この側面に対向する第2窪み57のサイプ深さ方向の側面に対し、同じ角度を0度とし、傾斜角度が大きくなる側を正とし、傾斜角度が小さくなる側を負とした場合に、正負のそれぞれで10度以内の範囲でサイプ幅方向に対する傾斜角度が異なってもよい。
【0036】
さらに、第1突起54及び第2突起58のサイプ深さ方向両側面の根元端には断面円弧形の面取りとなる曲面R1,R2(図7)が設けられる。これにより、第1突起54及び第2突起58の根元付近での割れを抑制できるので、タイヤ1の耐久性の向上を図れる。
【0037】
また、図4から図6に示すように、第1壁面52において、各第1突起54を除く部分は、タイヤ径方向Zに沿った同一の平面上にある。第2壁面53において、各第2窪み57を除く部分は、タイヤ径方向Zに沿った同一の平面上にある。
【0038】
上記では、第1サイプ50の中間サイプ要素51aにおける、第1突起54及び第2窪み57の形状について説明した。一方、第1突起54及び第2窪み57は、図5図6で示すように、端サイプ要素51bを形成する面に設けられてもよい。これにより、第1突起54及び第2窪み57は、第1サイプ50の長手方向に沿って全長にわたって設けられている。
【0039】
各端サイプ要素51bにおいて、第1突起54は、タイヤ軸方向Xと一致するサイプ幅方向に突出する。第2窪み57内には第1突起54が入り込んで配置される。これにより、図7に示した場合と同様に、第1突起54は、第2窪み57内から抜け出る方向に移動したときに、第2窪み57の内面の開口端側に接触し、第2窪み57に係合するように構成される。第1、第2各突起54,58のそれぞれのサイプ深さ方向両側面の根元端にも、中間サイプ要素51aと同様に、断面円弧形の曲面が設けられる。
【0040】
このように、第1壁面52の第1突起54が形成された面と、第2壁面53の第2窪み57が形成された面とは、少なくともタイヤ軸方向Xに沿った面を含んでいる。
【0041】
なお、本例の場合と異なり、第1突起54、第2突起58、第1窪み55、及び第2窪み57が、中間サイプ要素51aの壁面に設けられるが、端サイプ要素51bの壁面には各突起54,58及び各窪み55,57が形成されない構成としてもよい。
【0042】
上記のタイヤによれば、乾燥路面及び湿潤路面での制動時に、ブロック30において、第1サイプ50の対面する第1壁面52及び第2壁面53のサイプ深さ方向中間位置に設けられた第1突起54と第2突起58とが係合することにより、ブロック30の倒れ込みを抑制できる。これにより、ブロック30の剛性を高くできるので、乾燥路面及び湿潤路面での制動性能向上を図れる。さらに、上記の特許文献1に記載された構成と異なり、第1サイプ50のタイヤ接地表面には、サイプが開き方向に変化した場合にその開きを抑制する噛み合い形状を有する必要がない。このため、雪や氷等の雪氷路面の制動時において、第1サイプ50がタイヤ接地表面で開きやすくなるので、エッジ効果を良好に発揮しやすくなる。したがって、乾燥路面及び湿潤路面での制動性能向上と、雪氷路面での制動性能向上との両立を図れる。
【0043】
また、第1壁面52の第1突起54が形成された面と、第2壁面53の第2窪み57が形成された面とは、少なくともタイヤ軸方向Xに沿った面を含んでいる。これにより、タイヤ1の制動時において、ブロック30の倒れをより有効に抑制できる。このため、制動性能をより有効に向上できる。なお、第1壁面52の第1突起54が形成された面と、第2壁面53の第2窪み57が形成された面とは、タイヤ軸方向に対し傾斜している面としてもよい。
【0044】
また、第1サイプ50がタイヤ赤道CLを含むブロック30に形成される。これにより、接地長が長くなるタイヤ赤道CL付近に第1サイプ50が形成されやすくなる。これにより、タイヤ赤道CL付近で、第1サイプ50が形成されたブロック30のタイヤ周方向についての倒れを抑制しやすくなる。このため、より効率よく制動性能の向上を図れる。
【0045】
また、第1サイプ50は、長手方向両端に設けられ、それぞれタイヤ周方向Yに延びる端サイプ要素51bと、長手方向中間に設けられタイヤ軸方向Xに延びる中間サイプ要素51aとを含む。さらに、第1突起54を有する第1壁面52、及び第2窪み57を有する第2壁面53は、中間サイプ要素51aに設けられる。これにより、より効率よく制動性能の向上を図れると共に、端サイプ要素51bによりタイヤ軸方向のエッジ効果を発揮できる。このため、氷雪路面での旋回性能及び操縦性の向上を図れる。
【0046】
[タイヤ成型用金型]
図8は、実施形態の一例であるタイヤ成形用金型70を示す模式図である。以下、タイヤ成形用金型70は、金型70と記載する。金型70は、上述したタイヤ1を成型する金型である。タイヤ1は、上述したようにサイプ50,60が形成されたブロック30を含むトレッド10と、側面を形成するサイドウォール(図示なし)とを有している。金型70によれば、乾燥路面及び湿潤路面での制動性能向上と、氷雪路面での制動性能向上との両立を図れるタイヤ1を、成型することができる。
【0047】
以下では、金型70によって成型される上述したタイヤ1のタイヤ軸方向X、タイヤ周方向Yおよびタイヤ径方向Zに従って、各部材について説明する。
【0048】
金型70は、タイヤ1のトレッド10の表面を成型するトレッド金型71と、サイドウォールの表面を成型する一対のサイド金型72とを有している。
【0049】
トレッド金型71は、トレッド成形面73を有する本体74と、トレッド成形面73から突出している突起75と、トレッド成形面73から突出して突起75同士の間に設けられるサイプブレード80,90とを有している。
【0050】
サイプブレード80,90は、タイヤ1の第1サイプ50を成型する第1サイプブレード80と、第2サイプ60を成型する第2サイプブレード90とを含む。第1サイプブレード80は、タイヤ赤道CL付近のブロック30に設けられる。第1サイプブレード80は、突起75同士の間において、トレッド成形面73からタイヤ径方向Zに突出している。第2サイプブレード90は、第1サイプブレード80のタイヤ軸方向両側であって、突起75同士の間において、トレッド成形面73からタイヤ径方向Zに突出している。第2サイプブレード90は、金属材料から波形板状に形成される。
【0051】
本体74は、金属材料によって構成され、例えばアルミニウム合金から構成されている。アルミニウム合金として、例えばAC4系、AC7系等が好適に用いられる。突起75は、タイヤ1に主溝または副溝を成型する部分である。突起75は、本体74を構成する金属材料と同じ材料である。
【0052】
[第1サイプブレード]
図9から図12を用いて、実施形態の一例である第1サイプブレード80を詳しく説明する。図9は、第1サイプブレード80を示す斜視図である。図10は、図9のD矢視図である。図11は、図10のE領域の拡大図である。図12は、図9のF矢視図である。
【0053】
図12に示すように、第1サイプブレード80は、タイヤ径方向に見た状態で、タイヤ軸方向に延びる中間ブレード要素81と、中間ブレード要素81の両端でタイヤ周方向の逆方向に屈曲するように連結された端ブレード要素82とを有する直角折れ曲がり板形状であり、金属材料から構成される。第1サイプブレード80は、ステンレス鋼から構成されてもよい。ステンレス鋼として、例えばSUS303、SUS304、SUS630、SUS631等が好適に用いられる。また、3次元造型機を用いる場合、SUS304L、SUS630相当材の17-4PH等が好適に用いられる。
【0054】
さらに、第1サイプブレード80は、図9に示すように、厚み方向の一方側に第1側面83を有し、厚み方向の他方側面に第2側面84を有する。第1側面83は、サイプ深さ方向の2つの中間位置に形成された第1突起54形成用のブレード窪み85を有する。第1側面83は、サイプ深さ方向の2つのブレード窪み85の間に、第1窪み形成用のブレード突起86も有する。
【0055】
第2側面84は、サイプ深さ方向の2つの中間位置に形成された第2窪み57形成用のブレード突起87を有する。第2側面84は、サイプ深さ方向の2つのブレード突起87の間に、第2突起58形成用のブレード窪み88も有する。
【0056】
第2側面84のブレード突起87の内側には、第1突起54形成用のブレード窪み85が入り込んでいる。第1窪み55形成用のブレード突起86の内側には、第2突起58形成用のブレード窪み88が入り込んでいる。
【0057】
各ブレード突起86,87及び各ブレード窪み85,88は、第1サイプブレード80のサイプ深さ方向に対し直交する長手方向の一端から他端までの全長にわたって連続して設けられる。
【0058】
さらに、図10図11に示すように、第1突起54形成用のブレード窪み85のサイプ深さ方向両側面は、奥端に向かって互いの間隔が大きくなる方向に、サイプの幅方向(図10図11の左右方向)に対し傾斜している。第2窪み57形成用のブレード突起87のサイプ深さ方向両側面は、先端に向かって互いに間隔が大きくなる方向に、サイプの幅方向に対し傾斜している。これにより、各ブレード突起86,87及び各ブレード窪み85,88は、断面が台形状となっている。
【0059】
そして、第1突起54形成用のブレード窪み85のサイプ深さ方向両側面は、第2窪み57形成用のブレード突起87のサイプ深さ方向両側面と、図11に矢印D1及び矢印D2で示す範囲で、サイプの幅方向に重畳している。また、各ブレード突起86,87のサイプ深さ方向両側面の先端には、断面円弧形の面取りとなる曲面R1a,R2aが形成される。これにより、第1突起54及び第2突起58のサイプ深さ方向両側面の根元端に面取りとなる曲面R1,R2が設けられる。
【0060】
さらに、第1サイプブレード80の先端の長手方向両端に位置する部分には、面取りである断面円弧形の曲面R4、R5(図9)が形成される。
【0061】
上記の各サイプブレード80,90は、例えば、プレス成型機を用いて形状を形成する。3次元造型機を用いることで、機械加工では難しい複雑な形状を形成してもよい。
【0062】
なお、第1サイプ50の第1壁面52に設ける第1突起と、第2壁面53に設ける第2窪みとの数は、それぞれ1つ、または3つ以上としてもよい。また、上記では、第1突起及び第2窪みを設けるサイプが、タイヤ径方向外側から見た平面視で直角折れ曲がり形状である場合を説明したが、平面視でタイヤ軸方向Xに延びる直線または細長の矩形のみからなる形状としてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 空気入りタイヤ(タイヤ)、10 トレッド、21、22,23,24,25 周方向溝、30,31,32,33,34,35 ブロック、40,41,42,43,44 横溝、50 第1サイプ、51a 中間サイプ要素、51b 端サイプ要素、52 第1壁面、53 第2壁面、54 第1突起、55 第1窪み、56a,56b 側面、57 第2窪み、58 第2突起、59a,59b 側面、60 第2サイプ、70 タイヤ成形用金型(金型)、71 トレッド金型、72 サイド金型、73 トレッド成形面、74 本体、75 突起、80 第1サイプブレード、81 中間ブレード要素、82 端ブレード要素、85 ブレード窪み、86,87 ブレード突起、88 ブレード窪み、90 第2サイプブレード、T 接地端。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12