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特開2024-84999電磁コイルを作成する方法及び電動モーターを作成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084999
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】電磁コイルを作成する方法及び電動モーターを作成する方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240619BHJP
   H02K 3/44 20060101ALI20240619BHJP
   H02K 3/02 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
H02K3/34
H02K3/44 B
H02K3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199266
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】508264841
【氏名又は名称】有限会社 宮脇工房
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 啓佐敏
(72)【発明者】
【氏名】壬生 喬大
(72)【発明者】
【氏名】高柳 秀明
(72)【発明者】
【氏名】荻村 幸稔
【テーマコード(参考)】
5H603
5H604
【Fターム(参考)】
5H603AA09
5H603BB01
5H603BB09
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CC19
5H603CE04
5H603EE10
5H603FA08
5H603FA21
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC04
5H604DB02
5H604PB03
5H604PE06
(57)【要約】
【課題】取り扱い性や加工性に優れた電磁コイルを提供する。
【解決手段】開示された方法は、複数本の銅線を撚り合わせ又は編組みすることによって銅線束を形成する束線処理と、銅線を酸化させることによって酸化被膜で構成された第1絶縁被膜を形成する第1被膜形成処理と、第1絶縁被膜を補強する補強処理と、銅線束を加圧しつつ成形する加圧成形処理と、を予め定められた順序で実行することによって、成形コイルを形成する工程、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルを作成する方法であって、
複数本の銅線を撚り合わせ又は編組みすることによって銅線束を形成する束線処理と、前記銅線を酸化させることによって酸化被膜で構成された第1絶縁被膜を形成する第1被膜形成処理と、前記第1絶縁被膜を補強する補強処理と、前記銅線束を加圧しつつ成形する加圧成形処理と、を予め定められた順序で実行することによって、成形コイルを形成する工程、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法は、更に、
前記成形コイルの全体を、カシューを主成分とする第2絶縁被膜で被覆する工程、
を含む方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記補強処理は、前記第1絶縁被膜に対してワニスの焼入乾燥を行うワニス塗布処理を含む、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記補強処理は、前記成形コイルに絶縁性高分子樹脂又は前記カシューを主成分とする絶縁性樹脂を電着塗装する電着塗装処理を含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、
前記酸化被膜は、40nm~90nmの厚みを有する、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、
前記第2絶縁被膜は、前記カシューで形成されている、方法。
【請求項7】
電動モーターを作成する方法であって、
請求項1に記載の方法で電磁コイルを作成する工程と、
モーターケース内に前記電磁コイルとバックヨークを組み付ける工程と、
前記モーターケース内に収容された前記電磁コイル及び前記バックヨークを、モールド材で固定する工程と、
前記モーターケースの軸受にローターを組み付ける工程と、
を含む方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記モールド材は、少なくともカシューを含む混合物である、方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、
前記モールド材は、珪藻土粉末及び火山灰粉末の少なくとも一方とカシューとを含む混合物である、方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法であって、
前記電磁コイルの内周面には、カシューを主成分とした接着剤で接着された補強リングが配置されており、
前記バックヨークは、前記カシューを主成分とした絶縁膜で被覆されている、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁コイルを作成する方法及び電動モーターを作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、コアレスモータなどの電気機械と、電気機械に使用される電磁コイルが開示されている。電磁コイルは、複数の非絶縁導線を束ねた導線束の周囲を絶縁被覆層で被覆してコイル用導線を作成し、このコイル用導線を成形することによって作成されている。この電磁コイルは、導線束を用いて形成されているので、渦電流損を小さくすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/139245号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、導線束を用いた電磁コイルは、成形後も軟らかく、成形した形状を維持できないため、取り扱い性や加工性が悪いという問題があった。また、電動モーターについては、取り扱い易い電磁コイルを用いて作成したいという要望や、電磁コイルを固定するモールド材として、特性に優れたものを使用したいという要望があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、電磁コイルを作成する方法が提供される。この方法は、複数本の銅線を撚り合わせ又は編組みすることによって銅線束を形成する束線処理と、前記銅線を酸化させることによって酸化被膜で構成された第1絶縁被膜を形成する第1被膜形成処理と、前記第1絶縁被膜を補強する補強処理と、前記銅線束を加圧しつつ成形する加圧成形処理と、を予め定められた順序で実行することによって、成形コイルを形成する工程を含む。
【0007】
この方法によれば、複数本の銅線を撚り合わせ又は編組みすることによって銅線束を形成するので、渦電流損を低減できる。また、銅線束に対する加圧成形処理を行うので、電磁コイルに含まれる空間を減少させることができ、電磁コイルの断面に占める銅線の割合を増加させることができる。また、第1絶縁被膜を補強する補強処理を行うので、電磁コイルの曲げ強度を高めることができ、取り扱い易い電磁コイルとすることができる。更に、耐熱性と熱伝導性にも優れることでモーターの基本特性で重要なトルクを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態における電磁コイルの作成手順を示すフローチャート。
図2】第1実施形態における電磁コイルの作成手順を示す説明図。
図3】漆とカシューの特性を比較して示す説明図。
図4】第2実施形態における電磁コイルの作成手順を示すフローチャート。
図5】第2実施形態における電磁コイルの作成手順を示す説明図。
図6】第3実施形態における電動モーターの構造例を示す説明図。
図7】モールド材に使用される材料の熱伝導特性を比較して示す説明図。
図8】電動モーターの作成手順を示すフローチャート。
図9】モールド材の作成手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における電磁コイルの作成手順を示すフローチャートであり、図2は、その作成手順を示す説明図である。ステップS10では、複数本の銅線100を撚り合わせ又は編組みすることによって銅線束210を形成する束線処理を実行する。図2の例では、銅線束210は、表面に酸化膜が形成されていない裸の銅線100を編組みすることによって形成されている。「裸の銅線」とは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミドイド等の絶縁被覆で覆われている通常のマグネットワイヤと異なり、表面に酸化膜が全く形成されていないか、又は、自然酸化による薄い酸化膜のみが形成されており、被覆材で被覆されていない銅線を意味する。銅線束210の断面は矩形であるが、矩形以外の断面としてもよい。但し、銅線束210の断面を矩形とすれば、電磁コイルを作成する際に銅線束210同士の隙間を小さくでき、電磁コイルの断面における銅の面積比率を大きくできる点で好ましい。
【0010】
銅線束210は複数本の銅線100で構成されているので、渦電流損を小さくすることができる。渦電流損を小さくするという観点では、銅線100の外径が小さいほど好ましい。具体的には、銅線100の外径は、0.05mm以上1.0mm以下とすることが好ましく、0.05mm以上0.2mm以下とすることが更に好ましい。
【0011】
ステップS20では、銅線100の表面を酸化させて酸化被膜を第1絶縁被膜として形成する第1被膜形成処理を実行する。図2の例では、酸化処理装置310を用いて大気雰囲気で酸化処理を実行している。酸化処理後の銅線束220では、個々の銅線100の周囲に酸化銅CuOである酸化被膜が形成されている。酸化被膜の厚みは、銅線束の用途に応じて任意に設定可能であるが、40nm以上90nm以下とすることが好ましい。酸化被膜の厚みを40nm以上とする理由は、後述するステップS30においてワニスの焼入乾燥を行う際に、ワニスの溶剤により酸化被膜が破壊されて渦電流損が増大する可能性を低減するためである。また、酸化被膜の厚みを90nm以下とする理由は、銅線束の断面における銅の面積比率を大きくするためである。
【0012】
酸化処理は、例えば、200~300℃で10~30分実行される。酸化被膜の厚みを40nm以上90nm以下とした場合には、銅線100の外観が金色となるので、この状態を達成するように酸化処理の処理温度と処理時間を設定することが好ましい。なお、処理温度が200℃を下回る場合には、処理時間がかなり長くなるので、処理温度は200℃以上とすることが好ましい。処理温度が上昇するほど、処理時間を短縮することができる。酸化処理によって銅線100の表面に酸化被膜を形成すれば、銅線束の渦電流損をより低減することができる。
【0013】
ステップS30では、酸化被膜である第1絶縁被膜に対してワニスの焼入乾燥を行うワニス塗布処理(第1被膜補強処理)を実行する。図2の例では、まず、浸漬装置320を用いてワニスを酸化被膜に塗布した後、焼入乾燥装置330を用いて大気雰囲気で焼入乾燥を実行している。このワニス塗布処理後の銅線束230では、個々の銅線100に、酸化被膜で構成された第1絶縁被膜110と、その補強層としてのワニス層111とが形成されている。この銅線束230は、第1絶縁被膜110を補強するワニス層111が形成されているので、曲げ強度が高く、取り扱い易いという利点がある。
【0014】
ステップS40では、銅線束を加圧しつつ成形する加圧成形処理を実行する。図2の例では、圧縮成形装置340を用いて銅線束を圧縮成形することによって、予め定められたコイル形状に成形された成形コイル240が作成されている。この例では、成形コイル240のコイルターン数は1としているが、コイルターン数を2以上としてもよい。また、この成形コイル240は長円形状を有しているが、電磁コイルの用途に応じて任意のコイル形状に成形することが可能である。この加圧成形処理を行うことによって、銅線100間の隙間を低減することができ、電磁コイルの断面における銅の面積比率を更に増大することができる。また、銅線100の第1絶縁被膜110はワニス層111で補強されているので、成形コイル240が安定した形状を維持することができ、取り扱い性や加工性に優れたものとなっている。
【0015】
ステップS50では、成形コイル240の全体を、カシューを主成分とする第2絶縁被膜で被覆する第2被膜形成処理を実行することによって電磁コイルを生成する。「カシュー」は、カシューナッツの殻から抽出されるカシューナッツシェルオイルを主成分して製造される天然由来の塗料である。図2の例では、第2被膜形成処理後の電磁コイル250は、元の成形コイル240の全体を覆うように第2絶縁被膜120が形成されたものである。この第2絶縁被膜120は、例えば、ステップS30と同様の手順で、カシューを主成分とする天然由来の絶縁性樹脂を焼付乾燥することによって形成することができる。天然由来の樹脂としては、カシューの他に、漆を含むものを使用することができる。成形コイル240のコイルターン数が2以上の場合には、隣接する銅線束同士の間には第2絶縁被膜120は形成されず、成形コイル240の全体の周囲にのみ第2絶縁被膜120が形成される。ステップS40で形成された成形コイル240の交流耐電圧特性は、数10V程度であるが、第2絶縁被膜120を形成することによって、5KVを超える交流耐電圧特性を得ることができる。また、本実施形態では、カシューを主成分とする第2絶縁被膜120を形成するので、エポキシ系の絶縁被膜よりも薄い被膜で電磁コイルの耐電圧特性を向上させることができる。更に、耐熱性と熱伝導性に優れているためモーターの基本特性で重要なトルクを向上することに繋がる。
【0016】
上述したステップS10~S40の手順は一例であり、ステップS10~S40の順序を入れ替えるようにしてもよい。即ち、ステップS10~S40の処理は、予め定められた順序で実行することができる。但し、ステップS30はステップS20よりも後にされ、ステップS40はステップS10よりも後に実行される。なお、図1の順序でステップS10~S40の処理を実行すれば、所望の厚みと品質を有する絶縁被膜を形成し易く、また、電磁コイルを所望のコイル形状に維持し易いという利点がある。
【0017】
図3は、漆とカシューの特性を比較して示す説明図である。図3の(A)は、銅酸化膜との密着性の比較結果を示している。ここでは、外径が1mmの銅線の周囲に酸化膜を形成し、その周囲に更に漆又はカシューの絶縁被膜を形成した後に、銅線を折り曲げた結果が示されている。漆を用いた場合には、折り曲げ角度が30度未満では問題なかったが、30度以上折り曲げたときには絶縁被膜にクラックが発生する場合があった。一方、カシューを用いた場合には、折り曲げ角度が120度に至るまでクラックが発生せず、漆に比べて密着性が良好であることが判明した。
【0018】
図3の(B)は、絶縁被膜の処理容易性を示している。ここでは、漆とカシューのそれぞれについて、絶縁被膜を形成するための焼付乾燥処理の処理温度と処理時間の代表例を示している。漆を用いる場合には200℃で10分の焼付乾燥を行うのに対して、カシューでは100℃で10分の焼付乾燥を行えば十分であり、カシューの方が漆に比べて被膜形成処理が容易である。
【0019】
図3の(C)は、絶縁被膜の耐熱性を示している。ここでは、漆とカシューのいずれを用いた場合にも、絶縁被膜の耐熱温度が300℃以上であり、従来のエポキシ系の絶縁被膜の耐熱温度である180℃に比べて優れている。
【0020】
図3の(D)は、交流耐電圧性を示している。ここでは、漆とカシューのいずれを用いた場合にも、絶縁被膜の交流耐電圧が約137[V/mm]であり、従来のエポキシ系の絶縁被膜に比べて優れている。従って、漆又はカシューを用いれば、より薄い絶縁皮膜で十分な交流耐電圧を得ることができる。
【0021】
図3の(E)は、アレルギー性を示している。良く知られているように、漆はアレルギー性があるが、カシューはアレルギー性がないので、カシューの方が漆よりも取り扱い易いという利点がある。
【0022】
カシューは漆に比べて上述したような種々の利点を有しているので、第2絶縁被膜120はカシューを主成分とすることが好ましい。
【0023】
第1実施形態の電磁コイルの生成方法によれば、複数本の銅線を撚り合わせ又は編組みすることによって銅線束を形成するので、渦電流損を低減できる。また、銅線束に対する加圧成形処理を行うので、電磁コイルに含まれる空間を減少させることができ、電磁コイルの断面に占める銅線の割合を増加させることができる。更に、第1絶縁被膜の補強処理としてワニスの焼入乾燥を行うので、電磁コイルの曲げ強度を高めることができ、取り扱い易い電磁コイルとすることができる。更に、成形コイルの全体をカシューを主成分とする第2絶縁被膜で被覆するので、エポキシ系の絶縁被膜よりも薄い被膜で電磁コイルの耐電圧特性を向上させることができる。
【0024】
B.第2実施形態:
図4は、第2実施形態における電磁コイルの作成手順を示すフローチャートであり、図5は、その作成手順を示す説明図である。第2実施形態の手順は、図1に示した第1実施形態の手順のうち、ステップS30を省略し、ステップS40とステップS50の間にステップS45を追加したものである。他のステップは第1実施形態と同じなので説明を省略する。ステップS45の処理は、酸化被膜である第1絶縁被膜を補強する第1被膜補強処理の一種である。
【0025】
ステップS45では、ステップS40で成形された成形コイル240に絶縁性高分子樹脂を電着塗装する電着塗装処理を実行する。図5に示すように、この電着塗装処理では、電着処理装置350を用いて絶縁性の高分子樹脂塗料を成形コイル240に電着する。ステップS40の成形後の成形コイル240では、銅線100を被覆する第1絶縁被膜110に鋭い突起部112(又は尖鋭部)が形成されている。ステップS45の電着塗装処理を実行した後の成形コイル245では、第1絶縁被膜110の周囲が絶縁性高分子樹脂層115で被覆されているので、第1絶縁被膜110の突起部112が緩和されている。絶縁性高分子樹脂層115は、第1絶縁被膜110を補強する補強層として機能するので、成形コイル245の曲げ強度を高めることができる。更に、絶縁性高分子樹脂層115は、成形コイル245の耐電圧を向上させるという利点もある。
【0026】
絶縁性高分子樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂や、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などを使用することができる。通常の電着塗装では、電着処理装置350で薄膜を形成した後に、洗浄と焼き付けを行うのが一般的であるが、これらの処理の説明は省略する。
【0027】
第2実施形態も、第1実施形態とほぼ同様の効果を有する。また、第2実施形態では、成形コイル240に絶縁性高分子樹脂の電着塗装を行うので、第1絶縁被膜110を絶縁性高分子樹脂層115で補強できる。この結果、電磁コイルの曲げ強度を高めることができ、取り扱い易い電磁コイルとすることができる。また、ステップS45において、絶縁性高分子樹脂の代わりにカシューを主成分とする絶縁性樹脂を用いた電着塗装を行うことでも同様な効果を得ることができ、第2被膜絶縁120に含まれるカシューとの密着性に優れた効果が得られる。更に、耐電圧性の低い電磁コイル仕様の場合、電着塗装における印加電圧を高めて絶縁性高分子樹脂層115を十分に厚くすれば、耐電圧性を高めることができ、ステップS50における第2被膜形成処理を省略することも可能である。
【0028】
C.第3実施形態:
図6は、電動モーター400の構造例を示す説明図である。この電動モーター400は、モーターケース410と、回転軸420と永久磁石430を有するローター440と、回転軸420を支持する軸受411,412と、ローター440の永久磁石430と対向して設けられた電磁コイル450と、電磁コイル450の外周側に設けられた電磁鋼板製のバックヨーク460と、モールド材470とを備える。モールド材470は、モーターケース410内に収容された電磁コイル450及びバックヨーク460を固定する絶縁材である。バックヨーク460の外周は、カシューを主成分とした絶縁膜462で被覆されている。バックヨーク460を絶縁膜462で被覆すれば、バックヨーク460とモーターケース410の短絡によって生じる渦電流損を防止できる。また、電磁コイル450とバックヨーク460が物理的に干渉して電磁コイル450の絶縁被覆が破損することを防止できる。電磁コイル450の内周面は、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製の補強リング452で補強されている。補強リング452は、カシューを主成分とした接着剤で電磁コイル450に接着することが好ましい。補強リング452を設けるようにすれば、電磁コイル450の発熱による体積膨張を抑制して電磁コイル450がローター440に接触することを防止できる。また、補強リング452によって電磁コイル450の耐熱性と熱伝導性が向上するので、電磁コイル450の熱によってローター440の温度が過度に高まることを防止できる。
【0029】
本実施形態において、電磁コイル450は、上述した第1実施形態又は第2実施形態の手順で作成された電磁コイルである。電磁コイル450は、コアレスコイルであることが好ましい。
【0030】
モールド材470は、以下の特性に優れた材料で形成されることが好ましい。
(a)耐熱性
(b)電気的絶縁性
(c)耐電圧性
(d)熱伝導性
(e)軽量性
(f)難燃性
(g)硬化前の流動性
【0031】
本実施形態において、モールド材470は、少なくともカシューを含む混合物を使用して形成される。この混合物は、上記の特性(a)~(g)のすべての点において優れた材料である。
【0032】
図7は、モールド材470に使用される材料の熱伝導特性を比較して示す説明図である。図7の上部は、熱伝導特性試験の試験方法を示している。ここでは、被試験物510を2枚の金属板520,530で挟み、金属板520の一端にヒーター540を設置した。また、ヒーター540で金属板520を加熱した状態で、被試験物510を挟む金属板520,530の表面における温度T1,T2を測定した。
【0033】
図7の下部に示すように、被試験物510としては、カシューとエポキシ樹脂をそれぞれ使用した。この試験結果から理解できるように、カシューは、エポキシ樹脂に比べて単位厚み当たりの温度差が小さく、熱伝導性に優れている。また、上述した図3に示したように、カシューは耐熱性や耐電圧性にも優れた材料である。また、珪藻土及び火山灰は、耐火性と断熱性と電気絶縁性に優れた材料である。従って、珪藻土粉末及び火山灰粉末の少なくとも一方と、カシューとを含む混合物を使用すれば、上述した種々の特性に優れたモールド材470を形成できる。但し、珪藻土粉末や火山灰粉末を含まず、カシューを主成分とするモールド材を用いてもよい。
【0034】
図8は、電動モーター400の作成手順を示すフローチャートである。ステップS110では、電磁コイル450を作成する。このステップS110は、上述した第1実施形態又は第2実施形態で説明した方法で実行される。ステップS120では、バックヨーク60の外周に、カシューを主成分とした絶縁膜462を形成する。ステップS130では、電磁コイル450の内周面に、カシューを主成分とする接着剤を用いて補強リング452を接着する。ステップS140では、モーターケース410内に電磁コイル450とバックヨーク460を組み付ける。ステップS150では、モーターケース410内にモールド材470を充填して、モーターケース410内に収容された電磁コイル450とバックヨーク460をモールド材470で固定する。ステップS160では、モーターケース410の軸受411,412にローター440を組み付ける。
【0035】
ステップS150とステップS160の順序は、逆にしてもよい。モーターケース410が、ローター440を挿入できる開口部と、開口部を覆う蓋とを有する構造の場合には、図8の手順通り、ステップS150の後にステップS160を実行できる。一方、モーターケース410にそのような開口部が無い場合には、ステップS160を先に実行し、その後にステップS150を実行するようにしてもよい。
【0036】
図9は、ステップS150の詳細手順を示すフローチャートである。ステップS210では、カシュー液と、珪藻土及び/又は火山灰の粉末を混合し、硬化剤を加えて撹拌する。カシュー液と、珪藻土及び/又は火山灰の粉末は、約1:1の重量比で混合することが好ましい。珪藻土粉末としては、例えば、珪素土を流水濾過して上澄みを採用する濾過処理を3回以上行った後の微粒子紛を使用することが好ましい。なお、モールド材に用いる粉末は、珪藻土と火山灰の一方又は両方を含むものとすることができる。但し、これらの粉末を含まず、カシューを含む混合物を用いてモールド材を生成してもよい。例えば、カシューと硬化剤の混合物でモールド材を生成することも可能である。こうすれば、空気泡の生じないモールド材を生成できる。乾燥及び硬化剤としては、例えばキシレン(C10)や酢酸を使用できる。ステップS220では、混合物のカシュー成分を安定化させる。この安定化処理は、例えば、自然放置、又は、混合物を加熱しつつ120℃以下に維持することによって行うことができる。ステップS230では、電磁コイル450とバックヨーク460が収容されたモーターケース410内に混合物を流し込む。ステップS240では、モーターケース410内の混合物を加熱して硬化させることによって、モールド材470を形成する。ステップS240における加熱処理は、例えば、180℃~240℃の処理温度及び5分~30分の処理時間で実行することができる。
【0037】
以上のように、第3実施形態の電動モーター400は、上述した第1実施形態又は第2実施形態で作成された取り扱い易い電磁コイルを用いて構成されているので、作成が容易である。また、電動モーター400のモールド材470は、カシューを主成分としており、熱伝導性、耐熱性、電気絶縁性等の特性に優れているので、電動モーターの特性を向上させることができる。本実施形態では回転式の電動モーターを説明したが、本開示は直動式の電動モーターにも適応できる。更に、本開示を電動発電機などの他の種類の電気機械に適応させることで、その出力特性を向上できる。
【0038】
本開示は、上述の実施形態や実施形態、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、開示の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0039】
(1)本開示の一形態によれば、電磁コイルを作成する方法が提供される。この方法は、複数本の銅線を撚り合わせ又は編組みすることによって銅線束を形成する束線処理と、前記銅線を酸化させることによって酸化被膜で構成された第1絶縁被膜を形成する第1被膜形成処理と、前記第1絶縁被膜を補強する補強処理と、前記銅線束を加圧しつつ成形する加圧成形処理と、を予め定められた順序で実行することによって、成形コイルを形成する工程を含む。
この方法によれば、複数本の銅線を撚り合わせ又は編組みすることによって銅線束を形成するので、渦電流損を低減できる。また、銅線束に対する加圧成形処理を行うので、電磁コイルに含まれる空間を減少させることができ、電磁コイルの断面に占める銅線の割合を増加させることができる。また、第1絶縁被膜を補強する補強処理を行うので、電磁コイルの曲げ強度を高めることができ、取り扱い易い電磁コイルとすることができる。更に、耐熱性と熱伝導性にも優れることでモーターの基本特性で重要なトルクを向上させることができる。
【0040】
(2)上記方法は、更に、前記成形コイルの全体を、カシューを主成分とする第2絶縁被膜で被覆する工程を含むものとしてもよい。
この方法によれば、成形コイルの全体をカシューを主成分とする第2絶縁被膜で被覆するので、エポキシ系の絶縁被膜よりも薄い被膜で電磁コイルの耐電圧特性を向上させることができる。
【0041】
(3)上記方法において、前記補強処理は、前記第1絶縁被膜に対してワニスの焼入乾燥を行うワニス塗布処理を含むものとしてもよい。
この方法によれば、銅の酸化被膜である第1絶縁被膜にワニスの焼入乾燥を行うので、電磁コイルの曲げ強度を高めることができる。
【0042】
(4)上記方法において、前記補強処理は、前記成形コイルに絶縁性高分子樹脂又は前記カシューを主成分とする絶縁性樹脂を電着塗装する電着塗装処理を含むものとしてもよい。
この方法によれば、成形コイルに絶縁性高分子樹脂の電着塗装を行うので、成形時に形成される第1絶縁被膜の突起部を絶縁性高分子樹脂層で補強できる。また、絶縁性高分子樹脂層によって電磁コイルの曲げ強度を高めることができる。
【0043】
(5)上記方法において、前記酸化被膜は、40nm~90nmの厚みを有するものとしてもよい。
この方法によれば、酸化被膜が十分な厚みを有するので、酸化被膜が破壊されて渦電流損が増大する可能性を低減できる。
【0044】
(6)上記方法において、前記第2絶縁被膜は、前記カシューで形成されているものとしてもよい。
この方法によれば、カシューは漆よりも銅線との密着性に優れているので、第1絶縁被膜の健全性を向上できる。また、漆と異なり、アレルギー性が低いので取り扱いが容易である。
【0045】
(7)本開示の他の形態によれば、電動モーターを作成する方法が提供される。この方法は、上記方法で電磁コイルを作成する工程と、モーターケース内に前記電磁コイルとバックヨークを組み付ける工程と、前記モーターケース内に収容された前記電磁コイル及び前記バックヨークを、モールド材で固定する工程と、前記モーターケースの軸受にローターを組み付ける工程と、を含む。
この方法によれば、取り扱い易い電磁コイルを用いて電動モーターを作成するので、その作成が容易である。
【0046】
(8)上記方法において、前記モールド材は、少なくともカシューを含む混合物であるものとしてもよい。
この方法によれば、熱伝導性、耐熱性、電気絶縁性等の特性に優れたモールド材を使用するので、電動モーターの特性を向上できる。
【0047】
(9)上記方法において、前記モールド材は、珪藻土粉末及び火山灰粉末の少なくとも一方とカシューとを含む混合物であるものとしてもよい。
この方法によれば、熱伝導性、耐熱性、電気絶縁性等の特性に優れたモールド材を使用するので、電動モーターの特性を向上できる。
【0048】
(10)上記方法において、前記電磁コイルの内周面には、カシューを主成分とした接着剤で接着された補強リングが配置されており、前記バックヨークは、前記カシューを主成分とした絶縁膜で被覆されているものとしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
100…銅線、110…第1絶縁被膜、111…ワニス層、112…突起部、115…絶縁性高分子樹脂層、120…第2絶縁被膜、210,220,230…銅線束、240,245…成形コイル、250…電磁コイル、310…酸化処理装置、320…浸漬装置、330…焼入乾燥装置、340…圧縮成形装置、350…電着処理装置、400…電動モーター、410…モーターケース、411,412…軸受、420…回転軸、430…永久磁石、440…ローター、450…電磁コイル、452…補強リング、460…バックヨーク、462…絶縁膜、470…モールド材、510…被試験物、520、530…金属板、540…ヒーター
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