IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立産機システムの特許一覧

特開2024-85009インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム
<>
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図1
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図2
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図3
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図4A
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図4B
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図5
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図6
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図7
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図8
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図9
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図10
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図11
  • 特開-インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085009
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/08 20060101AFI20240619BHJP
   B41J 2/195 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
B41J2/08
B41J2/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199291
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】音羽 拓也
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達之介
(72)【発明者】
【氏名】明石 大
(72)【発明者】
【氏名】寺田 尚平
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EB06
2C056EB29
2C056EB39
2C056EB51
2C056EC21
2C056EC26
2C056FA05
2C056KB16
2C056KC00
2C057AF30
2C057DB02
2C057DD04
2C057EA00
2C057EA06
2C057EA08
2C057EC04
(57)【要約】
【課題】高い印字品質を実現するロバスト性の高いインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】帯電位相とインク粒子の帯電量との関係を示す帯電位相波形を測定し、帯電位相波形から演算した特徴量と励振電圧との関係を示す励振電圧特性を測定し、励振電圧特性に基づいて印字可能な励振電圧設定値を演算し、演算された励振電圧設定値をノズルに送信する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯蔵したインクタンクを有する本体部と、
前記インクタンクからノズルに供給された前記インクを励振する圧電素子に励振電圧を印加して発生したインク粒子を帯電させて前記インク粒子の帯電量に応じて前記インク粒子の軌道を変化させて被印字物に前記インク粒子による印字を行う印字ヘッドと、
前記印字ヘッドを制御する制御部と、を有するインクジェットプリンタであって、
前記制御部は、
帯電位相と前記インク粒子の帯電量との関係を示す帯電位相波形を測定し、
前記帯電位相波形から演算した特徴量と前記励振電圧との関係を示す励振電圧特性を測定し、
前記励振電圧特性に基づいて印字可能な励振電圧設定値を演算し、演算された前記励振電圧設定値により前記圧電素子を駆動することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
請求項1に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
前記励振電圧特性の前記特徴量として、前記帯電位相波形の前記帯電量の最大値と最小値のピーク比を求めることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項3】
請求項2に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
前記励振電圧特性に含まれる前記ピーク比の極大点に対応する前記励振電圧を前記励振電圧設定値として演算することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項4】
請求項1に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
定期的又は任意のタイミングで前記励振電圧設定値を演算することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項5】
インクを貯蔵したインクタンクを有する本体部と、
前記インクタンクからノズルに供給された前記インクを励振する圧電素子に励振電圧を印加して発生したインク粒子を帯電させて前記インク粒子の帯電量に応じて前記インク粒子の軌道を変化させて被印字物に前記インク粒子による印字を行う印字ヘッドと、
前記印字ヘッドを制御する制御部と、を有するインクジェットプリンタであって、
前記制御部は、
帯電位相と前記インク粒子の帯電量との関係を示す帯電位相波形を測定し、
前記帯電位相波形から前記インクの品質状態を判定することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項6】
請求項5に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
前記帯電位相波形から演算した特徴量と前記励振電圧との関係を示す励振電圧特性を測定し、
前記励振電圧特性に基づいて前記インクの前記品質状態を判定することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項7】
請求項6に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
前記励振電圧特性の前記特徴量として、前記帯電位相波形の前記帯電量の最大値と最小値のピーク比を求めることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項8】
請求項7に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
前記励振電圧特性に含まれる前記ピーク比の極大点を用いて前記インクの前記品質状態を判定することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項9】
請求項8に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
前記極大点が閾値より高い場合に、前記インクの前記品質状態を良好と判定し、
前記極大点が前記閾値より低い場合に、前記インクの前記品質状態を不良と判定することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項10】
インクを貯蔵したインクタンクを有する本体部と、
前記インクタンクからノズルに供給された前記インクを励振する圧電素子に励振電圧を印加して発生したインク粒子を帯電させて前記インク粒子の帯電量に応じて前記インク粒子の軌道を変化させて被印字物に前記インク粒子による印字を行う印字ヘッドと、
前記印字ヘッドを制御する制御部と、
所定の情報を表示する表示部と、を有するインクジェットプリンタであって、
前記制御部は、
帯電位相と前記インク粒子の帯電量との関係を示す帯電位相波形を測定し、
前記帯電位相波形から演算した特徴量と前記励振電圧との関係を示す励振電圧特性を測定し、
前記励振電圧特性に基づいて印字可能な励振電圧設定値を演算し、演算した前記励振電圧設定値により前記圧電素子を駆動し、
送信された前記励振電圧設定値に基づいて前記印字ヘッドを制御し、
前記帯電位相波形から前記インクの品質状態を判定し、
前記表示部は、
前記インクの品質状態の判定結果を表示することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項11】
請求項10に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
前記励振電圧特性の前記特徴量として、前記帯電位相波形の前記帯電量の最大値と最小値のピーク比を求めることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項12】
請求項11に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
前記励振電圧特性に含まれる前記ピーク比の極大点に対応する前記励振電圧を前記励振電圧設定値として演算することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項13】
請求項11に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
前記励振電圧特性に含まれる前記ピーク比の極大点を用いて前記インクの前記品質状態を判定することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項14】
請求項10に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、
定期的又は任意のタイミングで前記励振電圧設定値を演算して前記インクの前記品質状態を判定し、
前記表示部は、
前記インクの前記品質状態の判定の結果、前記インクの前記品質状態が不良と判定された場合に、前記品質状態の良好な前記インクへの交換を促すダイアログを表示することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項15】
請求項10に記載された少なくとも一つのインクジェットプリンタと、
前記インクジェットプリンタに通信回線を介して接続されたサーバーと、を有し、
前記サーバーは、
前記インクの品質状態の判定結果を表示することを特徴とするインクジェットプリンタの印字システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの印字システムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタのうち、帯電制御式インクジェットプリンタは、生産ラインを移動中の製品に対し製造番号や消費期限日などの印字(印刷)を行う用途など、主に産業用のプリンタとして用いられている。この帯電制御式インクジェットプリンタでは、インクタンクに充填された液体状のインクをポンプで加圧し、印字ヘッドのノズルに供給するようになっている。
【0003】
ノズルでは、供給されたインクを連続的にインク柱として吐出するが、吐出の際にノズルに隣接して設置した圧電素子等に励振電圧を印加して励振させることにより周期的な振動がインクに与えられる。振動が与えられたインク柱は途中で切断されて連続的(周期的)に発生するインク粒子を形成し高速で飛行する。
【0004】
このインク粒子が形成される位置(インクの切断位置)あるいはその近傍に帯電電極を配置し、この帯電電極に電界を発生させることにより、高速飛行中の各インク粒子を帯電させることができる。帯電電極において印字内容に対応する電界を与えることにより各インク粒子には印字内容に応じて必要な帯電量が与えられる。帯電電極の下流位置には、一定の電圧が印加されている2枚の電極で構成される偏向電極が配置され、帯電された各インク粒子はその偏向電極内を飛行する際に付与された帯電量に応じて飛行方向が偏向される。
【0005】
そして、この偏向されたインク粒子を、搬送装置によって移動中の被印字物に着弾させ(付着させ)、被印字物にインク粒子による印字を行なう仕組みになっている。なお、帯電電極内で帯電されなかったインク粒子は、偏向電極内を直進してガターにより捕捉され、回収インクとしてインク容器に回収される。
【0006】
このようなインクジェットプリンタでは、ノズルから吐出されるインク柱が切断されインク粒子となる位置(ノズル先端からインク粒子となる位置までの距離)、すなわち「切断位置」を適切な位置に維持しないと、帯電電極において飛行中のインク粒子に適切な電荷を帯電することができず、品質の高い印字を実現することができない。
【0007】
そのため、この切断位置が所定の範囲となるように適切に制御することは重要である。切断位置は、ノズルに隣接して設置された圧電素子等に印加される励振電圧により調整が可能であることが知られており、印字に際しては、印字可能な励振電圧をノズルに印加する(より詳細には、ノズルに隣接して設置された圧電素子に励振電圧を印加する)ように調整される。
【0008】
ところで、印字環境や被印字物は多様であり、インクジェットプリンタに使用可能なインクは複数種ある。また、インクの種類のほか、ノズルや、温度環境など様々な条件によっても適切な(印字可能な)印字設定内容(励振電圧、励振周波数、ポンプ圧力、帯電電圧、偏向電圧の値、等)は異なる。上述したように、インクの種類や温度に対して、ノズルに印加する励振電圧条件が適切でないと精度の高い印字を実現することが難しいので、印字の際には、励振電圧条件を適切に設定してから印字を行うことが要求される。
【0009】
このような課題に対し、設定した励振電圧条件が適切か判定する技術が、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1には、特定の励振電圧条件で、インク粒子に印加した帯電電圧と、その結果としてのインク粒子への帯電量の関係性を取得し、比例関係の有無によって印字の品質の良否を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-181727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の技術を用いれば、特定の励振電圧条件における印字の品質の良否が判定することができる。しかし、特許文献1の技術は、インクの品質が理想的な状態であることを前提とする。
【0012】
インクの品質状態は、インクに配合する材料やインクの保管環境及び期間によって影響を受ける。インク柱の切断位置が適切であったとしても、インクの品質状態が悪ければ、例えばインク柱からインク粒子が完全に切り離されるまでの時間が長くなり、インク柱からインク粒子に電荷が流れ込む速度の遅延が発生する。
【0013】
その結果、インク粒子の電荷の帯電量が不足し、偏向電極内で飛行方向が充分に偏向されず、インク粒子が想定とは異なる位置に着弾するため、印字の品質が低下する。インクの品質状態が悪いと、印字品質が良好な励振電圧範囲が存在しない或いは極端に狭いため印字に適さない。
【0014】
印字品質が低い場合に、それが励振電圧の設定値に由来するのか、インクの品質状態に由来するのかによってその後の対処方法が異なってくる。励振電圧の設定値に由来するならば励振電圧の調整によって印字品質を向上することが可能となる。インクの品質状態に由来するならばインクの交換によって印字品質を向上することが可能となる。
【0015】
特許文献1の技術では、印字の品質の良否が判定できるが、印字の品質が低いと判定された場合に、その原因が励振電圧条件に由来するのか、インクの品質状態に由来するのか要因を切り分けることは困難である。要因の切り分けは人手を介して行う必要があり、非常に大きな手間がかかる。
【0016】
本発明の目的は、高い印字品質を実現するロバスト性の高いインクジェットプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様のインクジェットプリンタは、インクを貯蔵したインクタンクを有する本体部と、前記インクタンクからノズルに供給された前記インクに励振電圧を印加して発生したインク粒子を帯電させて前記インク粒子の帯電量に応じて前記インク粒子の軌道を変化させて被印字物に前記インク粒子による印字を行う印字ヘッドと、前記印字ヘッドを制御する制御部と、を有するインクジェットプリンタであって、前記制御部は、帯電位相と前記インク粒子の帯電量との関係を示す帯電位相波形を測定し、前記帯電位相波形から演算した特徴量と前記励振電圧との関係を示す励振電圧特性を測定し、前記励振電圧特性に基づいて印字可能な励振電圧設定値を演算し、演算された前記励振電圧設定値を前記ノズルに送信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、高い印字品質を実現するロバスト性の高いインクジェットプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1におけるインクジェットプリンタの外観を示す図である。
図2】実施例1におけるインクジェットプリンタの内部構成を示す図である。
図3】印字評価において、「印字品質:良好」および「印字品質:不良」と判定した際の印字パターンの例を示す図である。
図4A】インクの品質状態が良好な励振電圧条件における帯電位相およびインク粒子帯電量との関係特性(帯電位相波形)の例を示す図である。
図4B】インクの品質状態が不良な励振電圧条件における帯電位相波形の例を示す図である。
図5】インクの品質状態が良好なインクのR-V線図である。
図6】R-V線図から印字品質が良好な励振電圧条件を演算することを説明するための図である。
図7】インクの品質状態が良好なインクのR-V線図に印字品質が良好な励振電圧範囲を重ね合わせた図である。
図8】R-V線図からインクの品質状態の良好性を判定することを説明するための図である。
図9】インクの品質状態が不良なインクのR-V線図である。
図10】インクジェットプリンタの印字システムの構成を示す図である。
図11】インクの品質状態が「良好」と判定された場合の表示画面の内容を示す図である。
図12】インクの品質状態が「不良」と判定された場合の表示画面の内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、具体的な実施例により詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定して解釈されるものではなく、本発明の技術思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。また、以下に説明する実施例の構成において、同一機器、同様の動作や機能を有する部分には同一の符号を用いており、重複する説明を省略することがある。また、図面に示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、本発明の理解を容易にするために簡略化して示しており、実際の各構成の位置、大きさ、形状、範囲などを表しているわけではない。
【実施例0021】
本発明の実施例1におけるインクジェットプリンタについて、図1図7を用いて詳細に説明する。図1は、実施例1におけるインクジェットプリンタの外観を示す図であり、図2は実施例1におけるインクジェットプリンタの内部構成をブロック図として示す図である。図3図7は、実施例1を説明するために用いる図である。
【0022】
(インクジェットプリンタの全体構成)
まず、図1により、インクジェットプリンタの全体構成の概略について説明する。
【0023】
図1において、インクジェットプリンタ100は、本体1と、印字ヘッド2と、を備えている。本体1と印字ヘッド2との間は、ケーブル4で繋がれている。本体1内には、印字用のインクを貯蔵したインクタンク、インク容器内のインクを汲み出して印字ヘッド2に供給する循環ポンプ、インクを所定圧力に調整する減圧弁、それらを連結する配管、等が備えられている。所定の圧力に調整されて本体1から出力されたインクは、ケーブル4を通り印字ヘッド2内のノズルに供給される。
【0024】
印字ヘッド2は、インクの供給を受け、内部でインク粒子を発生させ、そのインク粒子に対し必要な電荷を与え、さらに偏向させて被印字物にインク粒子による印字(ドット印字)を行う。また、本体1の正面部には、表示部5及び読取部7が設けられている。
【0025】
表示部5は、ユーザーが行うべき操作等に関する情報等を表示するものである。この表示部5は、画面上面にタッチパネルによる入力機能を備え、ユーザーが操作することにより情報(データ)を入力することができるようになっている。読取部7は、インクカートリッジ等に付与された、情報記録媒体に記録された情報を読取るために設けられる。情報記録媒体とは、例えば、ICタグ、バーコード又は二次元コード(例えば、QRコード(登録商標)など)である。
【0026】
ユーザーが表示部5を介して入力等の操作を行う際に、読取部7にインクカートリッジのICタグを近づける操作も並行して行う場合があるため、読取部7は、表示部5の近くに設けている。さらに、表示部5や読取部7から入力された情報を内部の制御部200(図1では図示せず)が、本体1内に設けられている。制御部200は、本体1内のポンプや弁などの制御、および印字ヘッド内に設けられているノズル、帯電電極などの制御を行う。なお、制御部200からの制御信号(駆動信号)等は、ケーブル4内に配備された線路を経由して印字ヘッド2に与えられる。
【0027】
(インクジェットプリンタの内部構成)
次に、図2を用いて、実施例1におけるインクジェットプリンタの具体的な構成を説明する。
【0028】
図2において、インクジェットプリンタ100は、本体1と、印字ヘッド2と、制御部200と、を含む。また、インクジェットプリンタ100の外部には、印字物検出器3が設置されている。この印字物検出器3は、搬送装置260上を移動している被印字物261(製品、等)を検出し、制御部200に出力する。制御部200は、この検出信号を用いることにより印字開始のタイミングを最適に調整することができる。
【0029】
(本体の構成)
図2において、本体1は、インクジェットプリンタ100において印字ヘッド2を除く部分である。すなわち、この実施例における本体1は、インク供給部、インク回収部、および制御部200を含んでいる。なお、制御部200は、本体1の外部に設けても良い。インク供給部は、インクを印字ヘッド2(より直接的には、ノズル211)に供給するための機器である。この実施例における「インク供給部」は、インク241を収容するインクタンク240、循環ポンプ245、減圧弁246、フィルタ250、補助インクタンク251、補力液タンク252、および配管232aにより構成されている。また、「インク回収部」は、ガター215が捕捉したインク(インク粒子)をインクタンク240に回収するものであり、この実施例では回収ポンプ233と配管232bにより構成されている。
【0030】
インクタンク240は、配管232aによりノズル211に接続されている。一方、ガター215は、配管232bによりインクタンク240に接続されている。配管232a、232bは、インク流路を構成する。配管232aの途中には、循環ポンプ245及び減圧弁246が設置されている。循環ポンプ245と減圧弁246との間には、フィルタ250が設置されている。なお、フィルタ250の配置は、上記の位置に限定されるものではない。
【0031】
フィルタは、主として配管232a及びノズル211の目詰まりを防止することを目的とするものであるため、この目的を達成できる位置であれば配管232aの任意の位置に設置することができる。インクタンク240内のインク241は、循環ポンプ245により吸い上げられ、減圧弁246で圧力が調整された状態でノズル211に供給される。インク241は品質状態が良好なインクである。
【0032】
さらに、この実施例では、インクタンク240に、補助インクタンク251及び補力液タンク252が接続され、それぞれの液を補給することができるようになっている。ここで、補助インクタンク251は、インクタンク内のインクの消費が進んだ場合に、インクを補給する。補力液タンク252は、補力液をインクタンク240に供給し、インク241の粘度を適切に調整するために用いられる。補力液は、インクに含まれる揮発性の高い成分(溶剤)を補充する液体である。
【0033】
(印字ヘッドの構成)
次に、図2に示す印字ヘッド2の構成について詳細に説明する。印字ヘッド2は、配管232aにより圧送されるインクの供給を受けてインク柱221を吐出するノズル211を備えている。このノズル211には、吐出されるインク柱に振動を与えるための圧電素子212(加振器)が設けられている。圧電素子212に対し、制御部200から励振電圧を印加することにより、インク柱221に振動を与え、インク柱を途中で切断し、インク粒子222を発生させる。インク柱221への加振により、インク粒子は、連続的に発生し高速で飛行する。
【0034】
また、印字ヘッド2は、ノズル211により発生されたインク粒子222を帯電させるための電場を形成する帯電電極213と、帯電したインク粒子222の帯電量に応じてその軌道を変化させる偏向電極214と、印字に寄与しなかったインク粒子を回収するガター215と、を備えている。帯電電極213では、飛行中のインク粒子に対し、印字する文字の形状に対応した電荷が与えられ、インク粒子が帯電される。帯電されたインク粒子は、偏向電極214内を飛行する。偏向電極214には一定の電圧が印加されており、帯電された各インク粒子は偏向電極内を飛行する際に付与された帯電量に応じて飛行方向が偏向される。
【0035】
偏向電極214で偏向されたインク粒子222は、搬送装置260で搬送されている被印字物261に向けて飛翔し、被印字物261に着弾する(付着する)ことにより、被印字物261への印字を行う。搬送装置260は、ロータリーエンコーダ262で動きが監視されている。ロータリーエンコーダ262は、搬送装置260の移動速度に応じてパルス信号を発生する。ロータリーエンコーダ262の検出した移動速度は、インクジェットプリンタ100の制御部200に入力され、制御部200により印字のタイミング調整に利用される。
【0036】
このように、インクジェットプリンタ100が稼働中は、被印字物261が印字位置に到着して印字が行われていないときも、インク粒子222が連続的に噴射されるように操作される。そのため、帯電制御方式のインクジェットプリンタ100は、コンティニュアス方式のインクジェットプリンタ又は連続式のインクジェットプリンタとも呼ばれる。
【0037】
(制御部の構成)
次に、印字ヘッド2および本体1を制御する制御部200について説明する。制御部200は、設定されたソフトウェアパラメータに従って、ノズル211(より具体的には、圧電素子212)に印加する励振電圧(励振電圧値および励振周波数)、帯電電極に印加する帯電電圧、偏向電極に印加する偏向電圧、ノズルに供給するインクの圧力、等を制御する。なお、以下では、本発明の説明には直接関係しない本体1のインク供給部やインク回収部の制御に関する詳しい説明は省略する。
【0038】
まず、この実施例における制御部200は、本体1および印字ヘッド2を制御するための演算処理を実行するMPU201(マイクロプロセシングユニット)と、MPU201が動作するのに必要な制御用プログラム及びデータを記憶するROM202(リードオンリーメモリ)と、プログラム実行中に必要となるデータを一時的に記憶するRAM203(ランダムアクセスメモリ)と、を備えている。ROM202には、インク241のインク情報及び制御に最適なソフトウェアパラメータ値が記録されている。インク情報には、例えば、インク241のインク型式名又は溶剤に関する情報が含まれる。インク241の印字制御及びインクジェットプリンタの稼動制御に使用されるソフトウェアでは、印字制御のために各種パラメータ値を設定する。
【0039】
また、制御部200は、印字内容や設定値等を入力する入力パネル204と、表示制御部205と、を備えている。入力パネル204は、表示部5のタッチパネルに相当する。表示制御部205は、入力されたデータ、印字内容等の表示部5に表示する内容を制御する。
【0040】
なお、制御部200には、バスライン206が設けられている。MPU201、ROM202、RAM203、入力パネル204、表示制御部205は、バスライン206を介して接続され、各機器間における信号の送受信をすることができる。また、以下に説明する制御部200内のその他の機器も同様に、バスライン206に接続されており、各機器間で互いに送受信が可能な構成としている。バスライン206は、MPU201のデータ信号、アドレス信号及びコントロール信号を伝送する機能も有する。
【0041】
また、制御部200は、プログラムや印字データなどを記憶している記憶装置209(記憶部)と接続可能である。制御部200は、記憶装置209に記憶された情報(データ)を内部のRAM203に記憶する。記憶装置209の代表例としては、USBメモリなどがある。制御部200は、設定されたソフトウェアパラメータに従って、励振電圧(励振電圧値および励振周波数)、ポンプ圧力、帯電電圧、偏向電圧等を制御する。
【0042】
また、制御部200は、帯電電圧発生回路207と、励振電圧発生回路208と、を備えている。帯電電圧発生回路207は、インク粒子222に付与される電荷が文字信号に応じた量となるような電圧を帯電電極213に印加する。励振電圧発生回路208は、ノズル211に設けられた圧電素子212に付与する高周波の励振電圧を発生させる。この励振電圧は、後述するように、励振電圧演算部274が演算する印字可能な励振電圧条件を保証する励振電圧が選定される。
【0043】
励振電圧を圧電素子212に印加することにより、ノズル211から発射された直後のインク柱221を振動させてインク粒子を連続的に発生させることができる。帯電電圧発生回路207及び励振電圧発生回路208も、バスライン206に接続されている。
【0044】
更に、この実施例における制御部200は、帯電位相波形を測定する帯電位相波形測定回路210と、帯電位相波形の特徴量と励振電圧との関係性を示す特性を測定する特性測定部273と、最適な励振電圧条件を演算する励振電圧演算部274と、インク241の品質状態の良否を判定するインク品質状態判定部275と、を備えている。この特性測定部273と、励振電圧演算部274と、インク品質状態判定部275とにより、最適な励振電圧条件を演算する。この最適な励振電圧条件の具体的な演算方法およびインク品質状態の判定方法については、後述する。
【0045】
帯電位相波形測定回路210は、圧電素子212で生成される振動の1周期を例えば16位相に分割し、どのタイミング(位相)での電場印加がインク粒子の帯電に最も適しているか自動判定する機能を有する。具体的には、まず、噴射するインク粒子に対し各位相で印字に影響しないような微弱な電場を帯電電極213にて印加し、各位相条件におけるインクへの微弱な帯電量を有するインク粒子をガター215で吸い込んだ後に、インク回収用の配管232bの途中に設けた帯電量測定部234にてインク粒子の微弱な帯電量を測定し、横軸が位相、縦軸がインク粒子の帯電量である帯電位相波形を測定する。次に、その測定した帯電位相波形から、帯電量が最も高いときの位相を最適位相として検出(判定)する。
【0046】
指定の圧力、励振周波数条件で印字評価を実施し、インク241の、印字品質の良好な励振電圧範囲を実験的に求めた。図3において、(a)は正常な印字状態を示し、(b)は正常でない場合を示している。インク粒子が印字基材(被印字物)の所定の位置に着弾して文字が描画できている場合は「印字品質が良好」、インク粒子が印字基材の所定の位置に着弾せず文字が描画できていない場合は「印字品質が不良」であるとして、目視で判定した。評価の結果、インク241の印字品質が良好な励振電圧範囲は100~210Vであり、それ以外の励振電圧条件では印字品質は不良であった。
【0047】
図4Aにインク241の、印字品質が良好な励振電圧条件である150Vにおける帯電位相波形の例を、図4Bにインク241の、印字品質が不良な励振電圧条件である30Vにおける帯電位相波形の例を示す。図4Aに比べて図4Bの波形はなだらかであり、印字品質の良否によって帯電位相波形の形状が大きく異なる特性を発見した。
【0048】
そこで、この実施例1ではこの特性を踏まえ、各励振電圧条件における帯電位相波形から、波形の形状の違いを定量的に表す特徴量を抽出し、特徴量と励振電圧との対応関係を、制御部200における特性測定部273にて測定することを考えた。帯電位相波形の特徴量と励振電圧との対応関係を示す特性のことを、本明細書では「R-V特性」と称する。
【0049】
このR-V特性は、帯電位相波形から抽出した特徴量と、励振電圧との対応関係を表す特性であり、グラフ上で対応関係をプロットした線図として表すと理解が容易となる。R-V特性を線図として表したものを「R-V線図」と称する。以下の説明では、特性測定部273は、R-V線図を測定するものとして説明する。なお、以下の説明では、R-V線図を用いて実施例を説明するが、R-V線図による測定方法は一例である。本発明は、R-V特性を求めることができれば実施することができる。
【0050】
(R-V線図の測定方法)
次に、R-V線図を測定する具体的な方法について説明する。特性測定部273では、帯電位相波形測定回路210にて測定した横軸が位相、縦軸がインク粒子の帯電量である帯電位相波形から抽出した特徴量と励振電圧の関係性を示すR-V線図を測定する。帯電位相波形から特徴量を抽出する方法は、励振電圧条件間の帯電位相波形の違いを定量的に表すことのできる指標を算出する方法であれば特に制限は無い。
【0051】
帯電位相波形からの特徴量の抽出方法の例として、各位相の帯電量の最大値と最小値のピーク比の算出、各位相の帯電量の標準偏差の算出、帯電位相波形のフーリエ級数展開などが挙げられる。演算の容易性の観点から、帯電位相波形の最大値の最小値のピーク比が帯電位相波形の特徴量として最も好ましい。そこで、特性測定部273では、帯電位相波形の特徴量として帯電位相波形の最大値と最小値のピーク比を抽出することとした。
【0052】
まず、インク241を充填したインクジェットプリンタ100において、指定の圧力、励振周波数条件で、各励振電圧条件の帯電位相波形を帯電位相波形測定回路210にて測定した。次に特性測定部273にて、各励振電圧条件での帯電位相波形の帯電量の最大値と最小値からピーク比Rを算出し、R-V線図を測定した。特性測定部273にて作成された、R-V線図の測定結果を図5に示す。
【0053】
図5に示すR-V線図からわかるように、特徴量Rは励振電圧を上げていくと、まず極大点が現れ、更に励振電圧を上げていくと極小点が観測された。なお、測定する励振電圧範囲や諸条件によって極小点は観測されない場合もある。
【0054】
(印字品質の良好な励振電圧条件の演算方法)
次に、図2に示す励振電圧演算部274の演算内容、すなわち、印字品質の良好な励振電圧条件の演算方法について説明する。
【0055】
前述の通り、インクジェットプリンタ100に充填するインクの種類によって、印字品質の良好な励振電圧範囲は異なる。その差異に関して、インクの種類ごとの印字品質の良好な励振電圧範囲とR-V線図とを検討した結果、R-V線図の極大点における励振電圧条件は、印字品質が良好な励振電圧範囲内に納まる特性を発見した。
【0056】
そこで、この実施例1ではこの特性を踏まえ、インク241のR-V線図(R-V特性)からインク241の印字品質が良好となる励振電圧条件を求める方法を図7により説明する。インク241のR-V線図(R-V特性)は、上述した測定方法により特性測定部273により計測する。この実施例1では、R-V線図(R-V特性)は、制御部200内部のメモリ(ROM202またはRAM203)に記憶する。
【0057】
励振電圧演算部274にて、ROM202またはRAM203からインク241のR-V線図を読み出し、R-V線図の極大点における励振電圧Vmを、印字品質の良好な励振電圧条件として推定演算することが可能である。推定演算した励振電圧条件は、励振電圧の設定値として利用可能である。
【0058】
この推定演算の妥当性を確認するため、インク241の印字品質が良好な励振電圧範囲と、R-V線図の極大値の位置とを比較した。上述の通り、インク241の印字品質が良好な励振電圧範囲は100~210Vであった。図5のR-V線図に印字品質が良好な励振電圧範囲を重ねた図を図7に示す。
【0059】
インク241のR-V線図の極大点は140Vであり、印字品質が良好な励振電圧範囲内に納まる。以上より、R-V線図の極大点における励振電圧値を励振電圧の設定値として利用することで、印字品質が良好な励振電圧条件を正しく推定できることを確認した。
【0060】
以上説明したように、本発明の実施例1によれば、印字品質の良好な励振電圧条件を、R-V線図の極大値における励振電圧値から推定し、インクジェットプリンタの印字設定条件に適用することによって、高い印字品質を実現するロバスト性の高いインクジェットプリンタを提供することができる。なお、極大点と極小点の相対位置関係を用いることで極小点から印字品質の良好な励振電圧条件を推定演算することも同様に可能である。
【0061】
なお、上述の実施例1(図2)では、制御部200内に特性測定部273、励振電圧演算部274およびインク品質状態判定部275を設けた例を示したが、本発明はこのような構成に縛られる必要はない。
【0062】
すなわち、上述した実施例1では、理解を容易にするために制御部200内に特性測定部273、励振電圧演算部274、インク品質状態判定部275を設けたが、その代わりに、制御部200のMPU201に、特性測定部273、励振電圧演算部274、およびインク品質状態判定部275の演算処理機能を持たせた構成でも良い。その場合、特性測定部273、励振電圧演算部274およびインク品質状態判定部275が不要となり、制御部200の構成を簡素化することができる。以降の実施例についても同様である。
【実施例0063】
次に、本発明の実施例2について説明する。実施例2は、基本的に実施例1と同様の構成であるため、実施例1と異なる点を中心に説明する。図8、9は、本発明の実施例2を概略的に説明するための図である。
【0064】
実施例2は、実施例1において測定したR-V線図からインクの品質状態を判定するものである。前述の通り、品質状態が悪いインクは、インク柱の切断位置が適切であったとしても、インク粒子の帯電量が不足し、想定とは異なる位置にインク粒子が着弾する。このため、印字品質が良好な励振電圧範囲が存在しない或いは極端に狭いため印字に適さない。
【0065】
品質状態が異なるインクを、インクジェットプリンタ100に充填して測定したR-V線図を比較検討した結果、R-V線図の極大点におけるピーク比Rの値が、インクの品質状態によって異なり、インクの品質状態が良好であればピーク比Rの値が高く、インクの品質状態が不良であればピーク比Rの値が低くなる特性を発見した。
【0066】
そこで、この実施例2ではこの特性を踏まえ、R-V線図(R-V特性)からインクの品質状態を判定する方法を図8により説明する。インクの品質状態を判定したいインクをインクジェットプリンタ100に充填し、特性測定部273によりR-V線図を計測する。
【0067】
この実施例2では、R-V線図(R-V特性)のピーク比の極大値Rmを、制御部200内部のメモリ(ROM202またはRAM203)に記憶する。予め、制御部200内部のメモリ(ROM202またはRAM203)に記録したピーク比の極大値の閾値RtとRmをインク品質状態判定部275にて比較して、Rmが高ければインク品質状態が「良好」で、Rmが低ければインク品質状態が「不良」であると判定可能である。
【0068】
図11は、インクの品質状態の判定結果を示す表示画面であり、インクの品質状態が「良好」と判定された場合の表示画面の内容を示す。図12は、インクの品質状態の判定結果を示す表示画面であり、インクの品質状態が「不良」と判定された場合の表示画面の内容を示す図である。
【0069】
本判定結果はインクの品質状態の診断に使用することが可能で、インクの品質状態が「不良」と判定されれば、品質状態の良いインクへの交換を促すダイアログをインクジェットプリンタ100の表示部5に表示することが可能である。なお、ピーク比の閾値Rtの値は、インクジェットプリンタ100におけるインク粒子の帯電量測定部234の精度、許容可能なインク品質状態によって任意に設定することができる。
【0070】
このインク品質状態の判定法の妥当性を確認するため、まずインクの品質状態が良好であることがわかっているインク241をインクジェットプリンタ100に充填して測定した図5のR-V線図からピーク比の閾値Rtを設定した。
【0071】
極大値におけるピーク比の値は776であったため、ピーク比の閾値はそれよりも低いRt=500と設定した。次に、インク241と粘度が同じで、なおかつインクの品質状態が不良であることがわかっているインク242をインクジェットプリンタ100に充填してR-V線図を測定した。インク242のR-V線図を図9に示す。
【0072】
インク242のR-V線図の極大値におけるピーク比の値は171で、Rtよりも低い値であったことから、インク品質状態が「不良」であると、インク品質状態判定部275にて正しく判定することができた。
【0073】
以上説明したように、本発明の実施例2によれば、インクの品質状態を、R-V線図の極大値におけるRの値から判定し、インクの品質状態が不良と判定されればインクの交換を促すことによって、高い印字品質を実現するロバスト性の高いインクジェットプリンタを提供することができる。なお、R-V線図の極小点からインクの品質状態を判定することも同様に可能である。
【実施例0074】
次に、本発明の実施例3について説明する。実施例3は、基本的に実施例1、2と同様の構成であるため、実施例1、2と異なる点を中心に説明する。
【0075】
実施例3が実施例1、2と異なる点は、インク241を充填したインクジェットプリンタ100にて、(1)特性測定部273にてR-V線図を測定し、(2)R-V線図から励振電圧演算部274にて推定した印字品質の良好な励振電圧条件に励振電圧の設定値を更新し、かつ(3)R-V線図からインク品質状態判定部275にてインクの品質状態を判定し、インクの品質状態の診断結果として表示部5に表示する点である。そして、上記(1)~(3)のシーケンスを定期的に自動で実行する。
【0076】
上記(1)~(3)のシーケンスを実行するタイミングは、例えば朝のインクジェットプリンタ立ち上げ時、昼休みなどの製造ライン休止時、夕方のインクジェットプリンタ立ち下げ時など、インクジェットプリンタ100にて被印字物への印字作業を行っていないタイミングであれば特に制限はなく、また、実行頻度も日毎、週毎、月毎など特に制限はない。
【0077】
また、印字品質が気になった任意のタイミングで作業者が表示部5からインクジェットプリンタ100を操作して上記(1)~(3)のシーケンスを実行することも可能である。
【0078】
上記(2)で推定した最適な励振電圧条件および(3)で測定した極大値におけるピーク比およびインク品質状態判定結果は、任意の間隔で時系列的に制御部200の内部のメモリ(ROM202またはRAM203)に記録しても良い。
【0079】
図10は、インクジェットプリンタの印字システムの構成を示す図である。図10の印字システムは、複数のインクジェットプリンタ100-1~100-nと、インクジェットプリンタ100-1~100-nに通信回線502を介して接続されたサーバー501を有する。インクジェットプリンタ100-1~100-nの制御部200の内部のメモリ(ROM202またはRAM203)に記録されて蓄積されたデータは、通信回線502を介してサーバー501にそれぞれ送られる。そして、サーバー501は、例えば、インクの品質状態の判定結果を表示する。
【0080】
図11は、インクの品質状態の判定結果を示す表示画面であり、インクの品質状態が「良好」と判定された場合の表示画面の内容を示す。図12は、インクの品質状態の判定結果を示す表示画面であり、インクの品質状態が「不良」と判定された場合の表示画面の内容を示す図である。
【0081】
本判定結果はインクの品質状態の診断に使用することが可能で、インクの品質状態が「不良」と判定されれば、品質状態の良いインクへの交換を促すダイアログをサーバー501の表示画面あるいはインクジェットプリンタ100-1~100-nの表示部5に表示することが可能である。
【0082】
仮に、上記(3)でインクの品質状態が「良好」と判定されても、上記(2)の最適な励振電圧条件が初期と比較して大きくズレが生じた場合に、インク交換を促すことが可能である。
【0083】
以上説明したように、本発明の実施例3によれば、印字品質の良好な励振電圧条件への励振電圧の設定値の更新およびインクの品質状態の診断を、R-V線図から自動で定期的にあるいは任意のタイミングで実施することで、高い印字品質を実現するロバスト性の高いインクジェットプリンタを提供することができる。
【0084】
ここで、図2に示す機能である「~部」は、例えば、プロセッサ(MPU201)がプログラムを実行することによりその「機能」が実現される。
【0085】
例えば、図2に示す制御部200は、プロセッサプロセッサ(MPU201)がプログラムを実行することにより所定の制御機能が実現される。
特性測定部273は、プロセッサプロセッサ(MPU201)がプログラムを実行することにより特性測定機能が実現される。励振電圧演算部274は、プロセッサプロセッサ(MPU201)がプログラムを実行することにより励振電圧演算機能が実現される。インク品質状態判定部275は、プロセッサプロセッサ(MPU201)がプログラムを実行することによりインク品質状態判定機能が実現される。
【0086】
上記実施例によれば、印字品質の良好な励振電圧条件とインクの品質状態を判定することで高い印字品質を実現するロバスト性の高いインクジェットプリンタを実現することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 本体
2 印字ヘッド
5 表示部
100 インクジェットプリンタ
200 制御部
207 帯電電圧発生回路
208 励振電圧発生回路
209 記憶装置
210 帯電位相波形測定回路
211 ノズル
213 帯電電極
214 偏向電極
273 特性測定部
274 励振電圧演算部
275 インク品質状態判定部
501 サーバー
502 通信回線
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12