(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085063
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】製紙用フェルト洗浄剤、製紙用フェルト洗浄装置、および、製紙用フェルトの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
D21F 1/32 20060101AFI20240619BHJP
C11D 1/72 20060101ALI20240619BHJP
C11D 1/722 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
D21F1/32
C11D1/72
C11D1/722
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199388
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 大揮
【テーマコード(参考)】
4H003
4L055
【Fターム(参考)】
4H003AC08
4H003AC23
4H003DA12
4H003DB01
4H003DC02
4H003FA04
4H003FA30
4L055CE36
4L055FA20
(57)【要約】
【課題】低温での保管であっても凍結や沈殿、高温であっても、分離による不均一化が生じず、腐敗しにくく、発泡性が低く、さらに保管や運搬に要するコストの低い薬剤である製紙用フェルトの洗浄に用いることができる製紙用フェルト洗浄剤、このような製紙用フェルト洗浄剤を用いて製紙用フェルトの洗浄を行う製紙用フェルト洗浄装置、および、製紙用フェルトの洗浄方法を提供する。
【解決手段】非イオン界面活性剤を65質量%以上93質量%以下含有する製紙用フェルト洗浄剤、このような製紙用フェルト洗浄剤を用いる洗浄装置、および、洗浄方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン界面活性剤を65質量%以上93質量%以下含有することを特徴とする製紙用フェルト洗浄剤。
【請求項2】
前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の製紙用フェルト洗浄剤。
【請求項3】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテルであることを特徴とする請求項2に記載の製紙用フェルト洗浄剤。
【請求項4】
前記非イオン界面剤の含有量が、70質量%以上93質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の製紙用フェルト洗浄剤。
【請求項5】
請求項1に記載の製紙用フェルト洗浄剤を用いて製紙用フェルトの洗浄を行うフェルト洗浄装置であって、
前記製紙用フェルト洗浄剤を連続的に供給する洗浄剤供給ラインと、
前記製紙用フェルト洗浄剤を希釈するための希釈水を連続的に供給する希釈水供給ラインと、
前記洗浄剤供給ラインと前記希釈水供給ラインとに接続され内部で前記製紙用フェルト洗浄剤と前記希釈水とを混合して洗浄液を連続的に調製する合流配管部および当該合流配管部の前記洗浄液流れ方向下流に前記合流配管部に接続されたスタティックミキサーを備え、前記洗浄液を前記製紙用フェルトに供給する洗浄液供給ラインと、
を備えたことを特徴とする製紙用フェルト洗浄装置。
【請求項6】
前記洗浄液供給ラインが、前記洗浄液を前記製紙用フェルトに向かって吐出するシャワー手段を備えていることを特徴とする請求項5に記載の製紙用フェルト洗浄装置。
【請求項7】
前記シャワー手段が、摺動シャワーであることを特徴とする請求項6に記載の製紙用フェルト洗浄装置。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれか1項に記載の製紙用フェルト洗浄装置により製紙用フェルトの洗浄をおこなうことを特徴とする製紙用フェルトの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温での保管であっても凍結や沈殿、高温であっても、分離による不均一化が生じず、腐敗しにくく、発泡性が低く、さらに保管や運搬に要するコストの低い薬剤である製紙用フェルトの洗浄に用いることができる製紙用フェルト洗浄剤、このような製紙用フェルト洗浄剤を用いて製紙用フェルトの洗浄を行う製紙用フェルト洗浄装置、および、製紙用フェルトの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用フェルト(以下、「フェルト」とも云う)は抄紙機のプレスパートで水分を含んだ紙(湿紙)から水分を除去しながら、湿紙を運搬するために用いられる。ここで、製紙用フェルトが、紙の原料である木材や古紙に含まれる樹脂成分により汚染され、目詰まりすると、その吸水機能が阻害されて、湿紙に水分むらが生じて切断する、いわゆる、紙切れが起こりやすくなる。紙切れが生じると、その復帰に、製紙設備の停止や稼働再開のための時間が必要となり著しく生産性が低下する。このような生産性の低下を予防するためにフェルトの洗浄が必要となる。
【0003】
ここで、このようなフェルトの洗浄に用いられる製紙用フェルト洗浄成分のうち、きわめて高い洗浄効果が期待されるものとして引用文献1~3などにポリオキシアルキレンアルキル基を有する非イオン界面活性剤を含有する洗浄液が提案されている。
【0004】
これらは、上記非イオン界面活性剤を通常0.002~0.02質量%程度含有する洗浄液としてフェルト洗浄に用いられる。しかしながら、このような洗浄液は水を大量に含むので、運搬性、保管性、そして、貯蔵性に難があり、かつ、これらを解消するためにはコストがかかる。このために通常、非イオン界面活性剤の含有量が10~20質量%程度の洗浄剤として運搬、保管、貯蔵され、フェルト洗浄に用いる直前に、たとえば
図4にモデル的に示すフェルト洗浄装置の一例である従来の製紙用フェルト洗浄装置Bにより、希釈されて洗浄液としてフェルト洗浄に用いられる。以下、
図4により従来のフェルト洗浄技術について説明する。
【0005】
洗浄剤タンクT’にはポリオキシアルキレンアルキル基を有する非イオン界面活性剤を4~10質量%含有して残余が水の、従来のフェルト洗浄剤W1’が収容されている。この製紙用フェルト洗浄剤W1’はポンプP’に接続するフレキシブル配管H1’により洗浄剤タンクT’外に取り出され、フレキシブル配管H2’を通って逆止弁CV’を備えた送液ラインL1’に至る。
【0006】
送液ラインL1’に供給された製紙用フェルト洗浄剤W1’は合流配管部I1’で、製紙用フェルト洗浄剤W1’を希釈するための希釈水を連続的に供給する希送水配管WL2’を流れる希釈水と混合して希釈され、上記非イオン界面活性剤をたとえば0.02質量%含有する洗浄液が調製される。そしてこの洗浄液はラインL2’に複数設けられたシャワーSWからプレスパートに設置された製紙用フェルトFに供給され、この製紙用フェルトFを洗浄する(なお、以下、このように洗浄剤を連続的に希釈しながら製紙用フェルトを洗浄する装置を「連続希釈式製紙用フェルト洗浄装置」とも云う)。
【0007】
しかしながら、実際の製紙工場の抄紙機のプレスパートでの、製紙用フェルトに対するこのような現状の洗浄方法では、従来技術文献1~3で示された洗浄剤を用いても、本来得られるはずの高い洗浄効果は発揮されず、その結果、製紙用フェルトに汚れが蓄積して目詰まりし、吸水機能が低下するので、湿紙中の含水率が高くなって紙切れが頻発するとともに、その対策としてフェルトを短い期間で交換することが必要となるなど、これら洗浄方法での洗浄効果には満足できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-069022号公報
【特許文献2】特開2010-150701号公報
【特許文献3】特開2006-016737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記したような課題を解決する、すなわち、ポリオキシアルキレンアルキル基を有する非イオン界面活性剤を含有しながら上記の従来技術の洗浄剤で生じていた様々な欠点を解消できる、すなわち低温での保管であっても凍結や沈殿、高温であっても、分離による不均一化が生じず、腐敗しにくく、発泡性が低く、さらに保管や運搬に要するコストの低い薬剤である製紙用フェルト洗浄剤、この製紙用フェルト洗浄剤の優れた洗浄性能を発揮可能とする製紙用フェルト洗浄装置、および、製紙用フェルトの洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するにあたり、本発明者らは従来の製紙用フェルト洗浄装置について、詳細に検討をおこなった。その結果、期待通りの洗浄効果が得られない原因として、製紙用フェルトに供給される洗浄液中の非界面活性剤の濃度むら、そして、洗浄液を調製するためのフェルト洗浄剤の腐敗とそれに起因するスライムが挙げられ、これらが複合的に組み合わさることにより本来発揮されるべき洗浄効果が得られていないことを解明し、これら問題を解決できる製紙用フェルト洗浄剤と、この製紙用フェルト洗浄剤と組み合わせることによりその優れた洗浄性能を発揮可能とする製紙用フェルト洗浄装置、および、製紙用フェルトの洗浄方法を見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、上記課題を解決するために、非イオン界面活性剤を65質量%以上93質量%以下含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、上記製紙用フェルト洗浄剤の構成に加え、前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである構成を備えることができる。
【0012】
本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、直上のポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテルである構成を備えることができる。
【0013】
本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、上記製紙用フェルト洗浄剤の構成に加え、前記非イオン界面剤の含有量が、70質量%以上93質量%以下である構成を備えることができる。
【0014】
本発明の製紙用フェルト洗浄装置は、上記課題を解決するために、上記の製紙用フェルト洗浄剤を用いて製紙用フェルトの洗浄を行うフェルト洗浄装置であって、前記製紙用フェルト洗浄剤を連続的に供給する洗浄剤供給ラインと、前記製紙用フェルト洗浄剤を希釈するための希釈水を連続的に供給する希釈水供給ラインと、前記洗浄剤供給ラインと前記希釈水供給ラインとに接続され内部で前記製紙用フェルト洗浄剤と前記希釈水とを混合して洗浄液を連続的に調製する合流配管部および当該合流配管部の前記洗浄液流れ方向下流に前記合流配管部に接続されたスタティックミキサーを備え、前記洗浄液を前記製紙用フェルトに供給する洗浄液供給ラインと、を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明の製紙用フェルト洗浄装置では、上記構成に加え、前記洗浄液供給ラインが、前記洗浄液を前記製紙用フェルトに向かって吐出するシャワー手段を備えている構成とすることができる。
【0016】
本発明の製紙用フェルト洗浄装置では、直上の構成に加え、前記シャワー手段が、摺動シャワーである構成とすることができる。
【0017】
本発明の製紙用フェルトの洗浄方法は、上記課題を解決するために、上記いずれか1つの製紙用フェルト洗浄装置により製紙用フェルトの洗浄をおこなうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、非イオン界面活性剤を65質量%以上93質量%以下含有する構成を有している。ここで、非イオン界面活性剤を含有する洗浄液では特許文献2などでは、低い発泡性と、高い洗浄力が発揮されるとされている。
【0019】
本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、非イオン界面活性剤を上記のように高濃度で含有する構成により、低温での保管であっても凍結や沈殿が生ぜず、室温ではもちろん45℃程度の高温での貯蔵であっても、分離による不均一化が起きず、洗浄剤自体の腐敗を抑制でき、洗浄剤自体の発泡性が低く、さらに保管や運搬に要するコストの低い薬剤である製紙用フェルト洗浄剤であり、かつ、取り扱い性の良好な低粘度の洗浄剤である。
【0020】
このような本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、使用直前に希釈水により配管内で希釈することにより、従来の洗浄液での、低温保管時に生じる凍結や沈殿発生、高温保管時に生じる洗浄液の分離による不均一化、洗浄剤自体の腐敗による洗浄不良、紙切れなどの問題を回避しながら、用いる非イオン界面活性剤が有する本来の、製紙用フェルトに対する高い洗浄性を発揮させることができる。
【0021】
なお、製紙用フェルト洗浄剤に含有される非イオン界面活性剤の含有量が65質量%未満であると、得られる洗浄剤は、35℃以上での保管時に、2層または3層に分離してしまい、均一な液性が保てなくなるので、高温となりやすい製紙工場などでは問題となる。また、製紙用フェルト洗浄剤に含有される非イオン界面活性剤の含有量が93質量%を越えると、得られる洗浄剤は、その引火点が250℃未満となり、消防法上の危険物に該当することとなるので、その取扱いに制限が生じる恐れがある。
【0022】
しかし、本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、上記の非イオン界面活性剤の含有量が93質量%以下であり(残分は実質的に全部水とする。ただし、微量の副生成物や不純物などの第3の成分を含んでいてもよい。)、この非イオン界面活性剤は水に均一に溶解するため、引火点を有さない。引火点を有さないことにより、本発明の製紙用フェルト洗浄剤は消防法上の危険物に該当せず、危険物の保管で必要となる特定の取扱いが不要である。さらには、本発明の製紙用フェルト洗浄剤を用いることで、従来の、非イオン界面活性剤が低濃度の洗浄液で必要となる大量の洗浄液の保管や移送に要する設備、および、これらに要するコストをも大幅に抑制することも可能となる。そして同時に、腐敗しやすい希薄な洗浄液に起因するスライムの発生などの問題も解決することができる。
【0023】
本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、上記製紙用フェルト洗浄剤の構成に加え、上記非イオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである構成により、より高く上記効果を得ることができ、特に洗浄性と低発泡性とに優れる。さらに、上記非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテルであると、より一層の優れた洗浄性と低発泡性とが得られる。
【0024】
本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、上記製紙用フェルト洗浄剤の構成に加え、上記非イオン界面剤の含有量が、70質量%以上93質量%以下である構成により、低温の保管時に、より均一でより安定な液性の確保が可能となる。
【0025】
本発明の製紙用フェルト洗浄装置は、上記課題を解決するために、上記いずれか1つの製紙用フェルト洗浄剤を用いて製紙用フェルトの洗浄を行うフェルト洗浄装置であって、上記製紙用フェルト洗浄剤を連続的に供給する洗浄剤供給ラインと、上記製紙用フェルト洗浄剤を希釈するための希釈水を連続的に供給する希釈水供給ラインと、上記洗浄剤供給ラインと上記希釈水供給ラインとに接続され内部で上記製紙用フェルト洗浄剤と上記希釈水とを混合して洗浄液を連続的に調製する合流配管部およびこの合流配管部の前記洗浄液流れ方向下流に上記合流配管部に接続されたスタティックミキサーを備え、上記洗浄液を前記製紙用フェルトに供給する洗浄液供給ラインと、を備えた構成により、従来の洗浄液での保管や移送時に生じる上記諸問題の発生を効果的に抑制でき、非イオン界面活性剤を高い含有率で含有する製紙用フェルト洗浄剤を用いながらも、均一な洗浄液の調製を可能とすることにより高効率のフェルト洗浄を実施することができるので紙切れを抑制し、フェルトの長寿命化を果たすことが可能となる。
【0026】
本発明の製紙用フェルト洗浄装置では、上記製紙用フェルト洗浄装置の構成に加え、上記洗浄液供給ラインが、上記洗浄液を前記製紙用フェルトに向かって吐出するシャワー手段を備えている構成により、特に広範囲に洗浄液を供給できるので、洗浄むらの発生をより効果的に防止することができ、その結果紙切れの発生を抑制することができる。
【0027】
本発明の製紙用フェルト洗浄装置では、直上の構成に加え、前記シャワー手段が摺動シャワーである構成とすることにより、洗浄むらの発生をさらに効果的に防止することができる。
【0028】
本発明の製紙用フェルトの洗浄方法は、上記いずれか1つの製紙用フェルト洗浄装置により製紙用フェルトの洗浄をおこなう構成により、均一な洗浄剤希釈液が得られ、その結果、効果的なフェルト洗浄が可能となり、紙切れが抑制されて安定生産を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の製紙用フェルト洗浄剤を用いて製紙用フェルトを洗浄する製紙用フェルト洗浄装置の一例を示す図である。
【
図4】従来の製紙用フェルト洗浄装置の一例を示す図である。
【
図5】先行試験2で用いた製紙用フェルト洗浄装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について詳細に説明する。
<製紙用フェルト洗浄装置>
本発明の製紙用フェルト洗浄装置の一例(スタティックミキサーを備えた連続希釈式の製紙用フェルト洗浄装置A)について
図1を用いて説明する。
洗浄剤タンクTには本発明の製紙用フェルト洗浄剤W1が収容されている。この製紙用フェルト洗浄剤W1は無脈動定量ポンプであるポンプPに接続するフレキシブル配管H1により洗浄剤タンクT外に取り出され、フレキシブル配管H2を通って逆止弁CVを備えた送液ラインL1に至る。このように無脈動定量ポンプを用いることで洗浄液中の非イオン界面活性剤の含有量が厳密に一定となり、その結果、製紙用フェルトの洗浄むらの発生がきわめて厳密に抑制される。
【0031】
洗浄剤供給ラインLMEにより供給された製紙用フェルト洗浄剤W1は合流配管部I1で、製紙用フェルト洗浄剤W1を希釈するための希釈水を連続的に供給する希釈水供給ラインLWの送水配管WL2を流れる希釈水に合流して希釈され、洗浄液が調製される。このように製紙用フェルト洗浄装置Aでは配管内で洗浄液が調製されるので、希釈槽が不要となり、その結果、希釈槽、配管、攪拌機およびポンプの費用、さらにはその設置スペースが不要となるなどの利点が多い。なお、希釈槽を設けた場合には、その容量にもよるが、洗浄液中の洗浄剤含有量の調整が遅くなることでフェルトの汚染状況に応じた迅速な対応ができず、その結果、過剰な洗浄剤の消費や紙切れが生じる恐れがある。
【0032】
なお、これらフレキシブル配管H1、ポンプP、フレキシブル配管H2、および、逆止弁CVを備えた送液ラインL1のうちの合流配管部I1までの経路は、製紙用フェルト洗浄剤W1を連続的に供給する洗浄剤供給ラインLMEを構成する。またこの合流配管部I1の洗浄液流れ方向下流の、後述する製紙用フェルトFに洗浄液を供給する後述する摺動シャワーSまでの、摺動シャワーSを含む配管設備が洗浄液供給ラインLWWである。
【0033】
合流点I1で希釈水と混合された製紙用フェルト洗浄剤W1は、洗浄液供給ラインLWWの配管内で洗浄液へと調製されるが、これらの混合を促進し洗浄液を十分に均一化するために、動力を必要とせずに攪拌をおこなうことができるスタティックミキサーLMが洗浄液供給ラインLWWの合流配管部I1の洗浄液流れ方向下流に前記合流配管部に接続されている。ここで、このようにスタティックミキサーLMを用いて連続的に混合し均一化することにより、従来技術で問題となっていた洗浄液中の非イオン界面活性剤の濃度むらを解消するとともに、非イオン界面活性剤含有量の高い、本発明の製紙用フェルト洗浄剤の利用が可能となる。また、プロペラ式ミキサーを備えた従来の混合槽を用いる場合、洗浄剤希釈タンクが開放状態となっているため、工場内の土埃や塵芥などの異物が混合槽内の洗浄液に混入したり、洗浄液が腐敗したりするなどの問題が発生する。しかし、本発明を用いることによって、これらの諸問題の発生を未然に防止することができる。
【0034】
このように、スタティックミキサーLMにより均一となった洗浄液は、フレキシブル配管H2を経て管状の摺動シャワーSの側面に複数設けられている洗浄液吐出手段としてノズル穴NVから製紙用フェルトFに向かって吐出供給される。このようにシャワーを用いて洗浄液を製紙用フェルトFに供給することで、洗浄液の供給むらが少なくなり、結果として製紙工程での製品の紙切れを予防することができる。そして、洗浄液供給ラインLWW内を流れる洗浄液を複数の細い水流として、および/あるいは、霧状として製紙用フェルトFの広い範囲に洗浄液を供給するシャワー手段としてこの例に示すよう摺動シャワーSを用いることで得られる効果的な洗浄により紙切れ予防効果を高め、かつ、フェルト交換の頻度を低減することができる。ここで、この例で用いた摺動シャワーSは、洗浄対象である製紙用フェルトFに対して洗浄液を吐出する複数の洗浄液吐出手段(ノズル穴NV)を製紙用フェルトFの対面側に備え、製紙用フェルトFと離隔し、製紙用フェルトFの回転方向(図中矢印方向)に平行ないし略平行(この例では平行)に保持部Hにより保持されかつ製紙用フェルトFの回転軸方向(図面横方向)に往復駆動されるシャワーパイプSSを備えている。
【0035】
このような製紙用フェルト洗浄装置Aでは、非イオン界面活性剤を10~20質量%程度含有する従来の洗浄剤のみならず、非イオン界面活性剤を数段多く含有する本発明の製紙用フェルト洗浄剤を用いても濃度むらのない洗浄液を得ることができ、優れた洗浄効果を得ることができる。そして、このような非イオン界面活性剤を多く含有する本発明の製紙用フェルト洗浄剤W1を用いることによって、従来の、非イオン界面活性剤含有量の少ない洗浄剤を用いる場合に発生する、低温保管での凍結や沈殿、室温および高温保管での洗浄剤の分離による不均一化、腐敗、発泡性、保管や運搬に要するコスト、微生物汚れによるフェルト目詰まりなどの数多くの問題を解消することができる。
【0036】
なお、洗浄液のフェルトへの接触は、たとえば製紙設備の稼動前または稼動中に、連続的に実施すればよく、特に製紙設備の稼動中に連続的に接触させることが好ましい。また、上記したように、シャワー手段により散布、噴霧、および、これらの少なくとも一方と同時に浸漬により、接触させる方法が好ましい。また、製紙設備のフェルト以外の箇所に洗浄液を供給することによって、洗浄対象となるフェルトに洗浄液を間接的に接触させてもよい。また、上記のように製紙設備の稼動前または稼動中に洗浄液をフェルトに接触させることにより、汚れ付着防止効果も得られる。
【0037】
<製紙用フェルト洗浄剤>
本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、非イオン界面活性剤を高濃度、すなわち、65質量%以上93質量%以下含有する。ここで当該洗浄剤の非イオン界面活性剤の含有量が65質量%未満であると、得られる洗浄剤は、製紙工場内環境での高温(35~45℃程度)で保管した時に、当該洗浄剤成分の分離による不均一化が生じて、薬注ポンプを用いて、当該洗浄剤を洗浄剤タンクからフェルト洗浄剤供給ラインに送液する際、洗浄剤の有効成分である非イオン界面活性剤が十分には供給されず、製紙用フェルトに対する所期の洗浄性能が得られない恐れが生じる。一方、当該洗浄剤の非イオン界面活性剤の含有量が93質量%を越えた場合、得られる洗浄剤は、その引火点が250℃未満となり、消防法上の危険物に該当し、その取扱いに制限が生じる。
【0038】
本発明における非イオン界面活性剤は製紙用フェルト洗浄剤の成分として用いることができる公知の非イオン界面活性剤であればよい。非イオン界面活性剤以外の界面活性成分では一般に発泡性が高く、形成されるミセルが小さいので乳化性や分散性が低く洗浄力が低い、水の硬度や電解質の影響を受けやすく、耐酸性や耐アルカリ性に劣るなどの問題が生じる場合が多い。
【0039】
ここで製紙用フェルト洗浄剤の成分として用いることができる非イオン界面活性剤として、具体的には、脂肪族アルコールへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルフェノールへの付加物であるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレンペンタエリスリトール脂肪酸エステル、脂肪酸への付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、脂肪酸アミドへの付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸アミド、脂肪族アミンへの付加物であるポリオキシアルキレンアルキルアミン、グリコールへの付加物であるポリオキシアルキレングリコールなどが挙げられる。なお、上記脂肪族化合物は飽和および不飽和のいずれであってもよい。
【0040】
脂肪族アルコールに付加するアルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、これらの混合物などが挙げられる。分子中に含まれるオキシアルキレン基が2種以上であるアルキレンオキサイド付加物においては、ブロック共重合体およびランダム共重合体のどちらであってもよい。これらの非イオン界面活性剤は、1種単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0041】
これら非イオン界面活性剤の中で、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、炭素数8~22の脂肪族アルコールにアルキレンオキサイドを付加させたものが好ましく、特に炭素数10~18の脂肪族アルコールに対してエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加させたものが好ましい。炭素数10~18の脂肪族アルコールとしては、たとえば、デシルアルコール、イソデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコールなどが挙げられる。これらの中でも、ピッチ付着防止性能の観点から、ラウリルアルコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加させたポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテルが特に好ましい。なお、本発明における製紙用フェルト洗浄剤では必要に応じてイオン界面活性剤を併用することができる。
【0042】
本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、上記のように非イオン界面活性剤を高濃度で含有し、製紙用フェルトの洗浄に用いる際に希釈水により希釈して洗浄液として用いる。このため、希釈前の製紙用フェルト洗浄剤の貯蔵や移送、運搬は容易であり、これらに要するコストを低く抑えることができる。さらに、後述するように低温でも均一な液性を保つことができ、また、腐敗を抑制できるので、製紙工場の内外を問わず貯蔵や保管が可能である。
【0043】
本発明の製紙用フェルトの洗浄方法で用いる希釈水としては、本発明の効果を損なわない限り、井戸水などの地下水、河川水または湖沼水などの表層水、工業用水などの新水、あるいは、回収水、排水処理水などの再利用水のいずれか、またはこれらを混合して使用することができる。なお、希釈水に、本発明の効果を損なわない限り、他の種類の少量の界面活性剤や、その他の微量成分を含んでいてもよい。
【0044】
また、本発明の製紙用フェルト洗浄剤は界面活性剤成分の含有量が多いにもかかわらず低粘度であり、製紙工場の洗浄剤タンクへの移送と、使用時の洗浄剤タンクからの吸い上げなどの取り扱いが容易である。さらに、この製紙用フェルト洗浄剤は発泡性が低いので、洗浄剤内部での泡の発生も少なく、そのため、ポンプでの移送時にポンプでの、いわゆるエア噛みによる予期せぬ送液停止によるフェルトの洗浄不良などの障害発生も抑制される。
【0045】
また、本発明の製紙用フェルト洗浄剤は、上記したように所定の含有量範囲の希釈水を含んでいるため、引火点を有さない。このことにより、当該洗浄剤は、消防法により定められた危険物に求められるような格別の管理が不要である。さらに、当該洗浄剤は、ゲル化や凝固、析出物の発生、微生物による腐敗が起こらない。このため、フェルト洗浄剤由来の微生物や析出物が薬注ポンプやフェルト洗浄剤供給ラインの配管内や洗浄用シャワーのノズルなどに付着・蓄積して、配管やノズルが閉塞し、フェルト洗浄剤のフェルトへの供給が不足することによって、十分なフェルト洗浄効果が得られなくなったり、当該配管やノズルの突発的な清掃が必要となったりするなどの障害の発生も抑制される。
【実施例0046】
本発明の製紙用フェルト洗浄剤について評価を行った。以下、その結果について説明する。
<引火点の測定>
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル(以下、「PPLE」とも云う)の含有量がそれぞれ60質量%、65質量%、70質量%、80質量%、90質量%、93質量%、あるいは、95質量%となるように水を加えて7種類の試料液を調製し、これら試料液について、JIS K2265-4:2007に準拠し、クリーブランド開放式引火点試験機を用いて引火点を測定した。このとき、PPLEを95質量%含有する試料液は、その引火点が231℃であり、消防法上の危険物(第4石油類)に該当するものと判定した。しかし、PPLE含有量が93質量%以下の試料液は、昇温中に沸騰して、引火点が認められなかったため、消防法上の危険物には該当しないものと判断した。なお、PPLEの含有量が95質量%の試料液については以降の評価は行わなかった。
【0047】
<温度安定性の検討>
30mL(ミリリットル)の広口ガラス瓶にPPLEの含有量がそれぞれ、20、60、65、70、80、90、あるいは、93質量%となるように調製した試料液各20gをそれぞれ分取した後密栓し、0℃、室温(23℃)、35℃、あるいは、45℃の暗所に2日間保存した。
【0048】
その後、各試料液の性状を目視で観察した。その結果を、均一な液状(全体が透明)が保たれていた場合を「○」、液体が2層または3層に分離した場合を「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
表1より、PPLE含有量が20~93質量%の範囲では0~23℃の温度範囲で保管や貯蔵が可能であるが、35~45℃の範囲での保管はPPLE含有量が65~93質量%でないと液質の均一性は維持されないことが理解される。
【0051】
<低温保存性>
低温保存性について調べた。上記のように製紙用フェルト洗浄剤は製紙工場内などの比較的温度の高いところで取り扱われるので、低温側としては0℃での取り扱い性が良好であれば十分である。しかし、冬場や寒冷地において、当該洗浄剤を一時的に屋外のタンクに保管されることも考慮して、当該洗浄剤の-5℃での保管安定性についても、上記の温度安定性の検討と同様の方法で評価を行った。結果を表2に示した。なお、試料液が凝固した場合は「××」として示し、試料液に僅かに白濁が観察されたものの、0℃以上に液温を上昇させたときに試料液が透明となった場合は実用上問題がないと判断し、「△→○」として表2に示す。
【0052】
【0053】
表2により-5℃での保管であってもPPLE含有量が85~93質量%の洗浄剤では白濁が発生せず、このため、これらの洗浄剤では-5℃であっても、白濁物が薬注ポンプや洗浄剤供給ライン等の配管内に付着・蓄積して、配管内が閉塞する恐れがなく、-5℃での取り扱いは、PPLE含有量がこの範囲の洗浄剤が均一性確保のために好ましいことが判る。
【0054】
なお、上記のPPLE含有量が65~80質量%の洗浄剤について、常温に戻した後に実機での洗浄性の評価をおこなったところ、90質量%の洗浄剤を用いた場合と同様に良好な洗浄効果が得られることが確認された。
【0055】
<発泡量の検討>
PPLE含有量がそれぞれ60質量%、65質量%、70質量%、80質量%、90質量%、および、93質量%の試料液について、発泡性を相対評価した。具体的には室温(25℃)で試料液各100gを回転子(φ8mm、長さ30mm)の入った100mLの無色透明の広口ガラス瓶に採取し、密栓後に各瓶を転倒させたのちに再度直立状態に復帰させる転倒攪拌を30回繰り返し、次いで、毎分1500回転(rpm)で5分間攪拌し、さらに上記と同じように転倒攪拌を30回行った後に毎分1600回転で5分間攪拌した。
【0056】
攪拌終了後に5分間静置したのち、各試料液の高さ方向中央の気泡量を目視評価した。気泡量の評価において、気泡が目視確認されない場合を「0」とし、気泡がもっとも多く確認された場合を「5」とし、0~5の間を4段階に分けた相対評価を行った。結果を
図2に示す。
【0057】
図2から、PPLEの含有量が60~70質量%の範囲、特に60~65質量%の範囲で発泡量が急激に減少することが理解される。ここで、実際に送液ポンプを用いて、エア噛みによる送液停止の発生の有無についての検討をおこなったところ、PPLEの含有量が60質量%の試料液では送液停止がしばしば発生したが、65質量%以上の領域の試料液では安定的に送液できた。これら結果から、65質量%以上93質量%以下の範囲であれば問題なく送液できることが判った。ただし、PPLEの含有量が60質量%での気泡発生量が65質量%での気泡発生量に比べるとかなり多いことから、含有量管理の誤差を考慮するとPPLEの含有量を70%以上93質量%以下の範囲とすることがより好ましいと考えられる。
【0058】
<粘度の検討>
PPLE含有量が0~100質量%の計14種類の試料液について20℃での粘度を調べた。なお、あらかじめ検討を行ったところ、200mPa・秒(20℃)以下であれば取り扱いやポンプでの移送が容易であり、取り扱い性に問題が生じないことが、そして、粘度が150mPa・秒(20℃)以下となると移送などの取り扱い性がさらに向上することが確認されている。結果を
図3に示す。
【0059】
一般に非イオン界面活性剤水溶液の場合、特定の含有量までは含有量が多くなるほど粘度が高くなり、その特定の含有量で粘度が最大となる。そして、この特定の含有量よりも含有量の多い領域では、含有量が多くなるほど、粘度が低下する傾向がある。PPLE水溶液では、
図3に示すようにPPLE含有量が40質量%未満の含有量領域では含有量が多くなるほど粘度は上昇し、40質量%で極大粘度を示した。そして、50質量%以上の含有量領域では、含有量の増加に伴って粘度が低下した。ここで、
図3からPPLE含有量を65質量%以上とすることにより良好な取り扱い性が得られることが理解される。
【0060】
<防腐性>
非イオン界面活性剤含有量と非イオン界面活性剤希釈液の腐敗性との関係を確認するために、以下の卓上試験を実施した。非イオン界面活性剤であるPPLEおよびPPLA(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルアミン)のどちらか1種と工業用水(細菌数:2.5×104CFU/mL)とを混合して、非イオン界面活性剤の含有量が10~95質量%の範囲で、それぞれ細菌数が1.3x103CFU/mLである試料液を調製した。
【0061】
各試料液20gを30mL広口ガラス瓶に入れ、試料液が外部と通気可能な状態となるようにガラス瓶の蓋を緩く締めて、30℃で静置した。静置開始から3日後、および、10日後に各試料液の細菌数を測定した(使用培地:標準寒天培地、培養温度:37℃で1日培養後、さらに30℃で4日間培養)。試験結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
表中の値は細菌数(CFU/mL)を示す。各希釈液の初期細菌数:1.3×10
3CFU/mL。「<50」は50CFU/mL未満を示す。
【0063】
表3において、非イオン界面活性剤の含有量を10質量%および20質量%とした条件では、PPLEを用いた試料液およびPPLAを用いた試料液ではともに細菌数が増加し、防腐効果は認められなかった。しかし、非イオン界面活性剤の含有量をさらに増やし、PPLE含有量を50~95質量%、および、PPLA含有量を60~95質量%とした試料液では細菌数は大きく低下したことから十分な防腐効果が認められた。
【0064】
これらのことから、製紙用フェルト洗浄剤中の非イオン界面活性剤の含有量を多くすることで、製紙用フェルト洗浄剤中の細菌の増殖が抑制されることが確認できた。また、PPLEはPPLAよりも少ない含有量であっても高い防腐効果を示すことも確認できた。
【0065】
上記の非イオン界面活性剤希釈液の防腐効果は、当該希釈液を30℃で静置培養した場合の結果であるが、これに加えて、当該希釈液を35℃、40℃、および、45℃で静置培養した場合の防腐効果についても、上記と同様の方法で評価を行った。その結果、これらの温度であっても、当該希釈液を30℃静置培養した場合の結果と同様に、PPLE含有量を50~95質量%、および、PPLA含有量を60~95質量%とした試料液では高い防腐効果が得られることが確認された。
【0066】
<上記の評価のまとめ>
上記の各評価結果より、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテルの含有量が65質量%以上93質量%以下であれば、消防法上の危険物に該当せず、0~45℃の温度範囲で取り扱いが可能であり、低発泡性、および、防腐性において優れた製紙用フェルト洗浄剤であり、さらに、含有量が85質量%以上93質量%以下の範囲であれば-5℃での取り扱いも可能となることも確認された。
【0067】
<製紙工場での実機試験>
本発明の製紙用フェルト用洗浄剤の性能評価を製紙工場の抄紙工程での製紙用フェルトを用いておこなった。
【0068】
この抄紙工程では印刷用紙を抄紙しているが、従来は
図4に示す従来の製紙用フェルト洗浄装置Bを用い、その洗浄剤タンクT’にはPPLEを20質量%含有する原液を工業用水で10質量%に希釈した製紙用フェルト洗浄剤W1’を収納し、これにさらに送水配管WL2’を流れる希釈水(工業用水)を連続添加してPPLE含有量が0.02質量%となるように希釈し洗浄液として抄紙フェルトに散布していた。しかし、フェルトに炭酸カルシウム、ピッチ、微生物による目詰まりが発生し、フェルトの脱水不良、断紙(紙切れ)が頻発し、フェルトをほぼ30日毎に交換する必要が生じる状況であった(従来技術例)。
【0069】
このような製紙設備の従来の製紙用フェルト洗浄装置Bに代えて本発明の製紙用フェルト洗浄装置Aを設置して、PPLEを90質量%含有する本発明の製紙用フェルト洗浄剤を使用して実機試験をおこなった(実施例)。すなわち、洗浄剤供給ラインLMEから連続的に供給される本発明の洗浄剤を、希釈水供給ラインLWにより連続的に供給される希釈水と混合してPPLE含有量が0.02質量%となるように連続的に希釈して洗浄液を調製し、この洗浄液を洗浄液供給ラインLWWのスタティックミキサーLMにより攪拌して均一化し、往復駆動される摺動シャワーSの複数のノズル穴NVから供給して製紙用抄紙フェルトに散布した。なお、単位時間あたりの洗浄液の散布量は上記従来技術例と同量とした。
【0070】
このような条件での洗浄の結果、このフェルトに付着した炭酸カルシウム、ピッチ、微生物汚れは上記従来技術例の場合と比べて、大幅に減少し、フェルトの脱水不良、および、断紙は発生せず、このため、試験をおこなった60日間、フェルトを交換することなく使用することができた(実施例)。
【0071】
ここで本発明の実施例で、従来技術例に比べて上記のようにフェルトの汚れが少なくなった原因としては次のように考えられる。すなわち、実施例で用いられた本発明の製紙用フェルト洗浄剤は非イオン界面活性剤の含有量が多いので従来の洗浄剤よりも腐敗しにくく(上記実施例および従来技術例ではともに洗浄剤タンクが工場内の、日中に室温が35~40℃となる場所に設置されていた)、フェルト内での微生物汚れの蓄積が事実上なかったこと、および、上記の従来技術例では用いられていなかったスタティックミキサーをフェルト洗浄剤供給ラインに備えたことにより、洗浄剤に非イオン界面活性剤が濃厚に含有されているにもかかわらず非イオン界面活性剤が洗浄液中に均一に分散した状態となり、洗浄剤の有効成分である非イオン界面活性剤がフェルトに均一に供給されたことによるものと考察される。
【0072】
なお、この製紙用フェルト洗浄装置Aでの実験に先立ち、2つの先行試験をおこなっている。
先行試験1として従来の製紙用フェルト洗浄装置BでPPLEを90質量%含有する上記洗浄剤を用い、上記従来技術例と比べて希釈水水量は同一として、当該洗浄剤の洗浄剤供給ラインへの供給量を減らして、PPLE含有量が0.02質量%の洗浄液を調製し、上記2つの例と同量の単位時間あたりの散布量で散布してフェルト洗浄をおこなった。このとき、フェルトの交換が試験開始後25日に必要となった。このような結果は、同じ従来の製紙用フェルト洗浄装置Bを用いた上記従来技術例に比べて、PPLE含有量が多い洗浄剤を用いたことにより、洗浄剤成分が希釈水中に均一に混合・分散するまでに時間がかかり、水中のPPLE濃度分布が不均一な状態の洗浄液がフェルトに供給されてしまう。そのため、同じ従来の製紙用フェルト洗浄装置Bを用いておこなった上記従来技術例実施時よりも洗浄液中のPPLE含有量むらがさらに増大したために生じたものと考えられる。
【0073】
先行試験2では従来の上記従来の製紙用フェルト洗浄装置Bを製紙用フェルト洗浄装置Aに置き換える際に、フェルトに洗浄液を供給するシャワー手段部分を摺動シャワーSに置換せずに、従来の製紙用フェルト洗浄装置BのシャワーSWが接続された配管L2’を残して、この配管L2’を製紙用フェルト洗浄装置AのスタティックミキサーLMに接続した状態の装置C(概略を
図5に示す。なお、各部材は
図1および
図4で用いた同一の符号を付した部材であるので詳細説明は省略する。)で、PPLEを90質量%含有する洗浄剤を用いて0.02質量%の洗浄液を調製し、摺動シャワーSを備えた製紙用フェルト洗浄装置Aを用いた上記実施例と同量の単位時間あたりの供給量でフェルト洗浄をおこなった。
【0074】
このときはフェルトの交換が必要となるまでに54日間の連続稼働が可能であった。このことから、これらフェルト寿命の差(6日間以上)は摺動シャワーSによる洗浄液の均一供給効果によるものと考えられる。