(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085074
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】水性塗料組成物、塗装物品および塗装物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240619BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240619BHJP
C09D 7/41 20180101ALI20240619BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240619BHJP
C09D 5/33 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/41
C09D7/65
C09D5/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199408
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】木内 雅也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 亘
(72)【発明者】
【氏名】黒田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 守
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038HA066
4J038HA216
4J038KA08
4J038MA02
4J038MA10
4J038MA15
4J038NA19
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】ハイライトに加えてフェースにおいても明確な光輝感を発現し、一方、シェードではソリッド塗装のように見える意匠を実現できる、水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】塗膜形成性樹脂と、平均粒子径が1μm以上20μm以下の樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)の少なくとも一方と、平均粒子径が100nm以上450nm以下の不透明顔料(B)と、平均粒子径が8μm以上25μm以下の鱗片状光輝性顔料(C)と、を含み、前記樹脂粒子(A1)および前記体質顔料(A2)の合計の顔料質量濃度PWC
Aが、0.5質量%以上8質量%以下であり、前記不透明顔料(B)の顔料質量濃度PWC
Bが、10質量%以上18質量%以下であり、前記樹脂粒子(A1)および前記体質顔料(A2)の合計の前記顔料質量濃度PWC
Aに対する前記不透明顔料(B)の前記顔料質量濃度PWC
Bの比PWC
B/PWC
Aが、2以上28以下である、水性塗料組成物。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成性樹脂と、
平均粒子径が1μm以上20μm以下の樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)の少なくとも一方と、
平均粒子径が100nm以上450nm以下の不透明顔料(B)と、
平均粒子径が8μm以上25μm以下の鱗片状光輝性顔料(C)と、を含み、
前記樹脂粒子(A1)および前記体質顔料(A2)の合計の顔料質量濃度PWCAが、0.5質量%以上8質量%以下であり、
前記不透明顔料(B)の顔料質量濃度PWCBが、10質量%以上18質量%以下であり、
前記樹脂粒子(A1)および前記体質顔料(A2)の合計の前記顔料質量濃度PWCAに対する前記不透明顔料(B)の前記顔料質量濃度PWCBの比PWCB/PWCAが、2以上28以下である、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記不透明顔料(B)が、二酸化チタン系顔料、微粒子酸化チタン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、酸化鉄系顔料およびキナクリドン系顔料よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記水性塗料組成物により形成される塗膜に対して45°で入射した光を、正反射光に対して45°で受光した光輝面積Sa45が、10以上であり、
前記水性塗料組成物により形成される塗膜に対して75°で入射した光を、正反射光に対して75°で受光した光輝面積Sa75が、5以下である、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記樹脂粒子(A1)が、球状アクリル樹脂粒子である、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記体質顔料(A2)が、シリカ粒子である、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記鱗片状光輝性顔料(C)が、鱗片状アルミニウム顔料を含む、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
被塗物と、
前記被塗物上に設けられたプライマー塗膜と、
前記プライマー塗膜上に設けられたメタリックベース塗膜と、
前記メタリックベース塗膜上に設けられたクリヤー塗膜と、を備え、
前記メタリックベース塗膜が、請求項1に記載の水性塗料組成物により形成されている、塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物、塗装物品および塗装物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の塗装の種類は、光輝感を伴うメタリック塗装と、光輝感のないソリッド塗装とに大別される。メタリック塗装は、フリップフロップ性が高く、自動車の造形を際立たせる効果がある。ソリッド塗装は、単色であって、ハイライトからシェードまでの明度変化が少なく、自動車をひとつの塊のように表現する効果がある。これらの塗装は、目的により使い分けられている。
【0003】
近年、メタリック塗装およびソリッド塗装の両方の特徴を有する塗装(以下、ソリッドライク塗装と称する。)が登場した。ソリッドライク塗装は、ハイライトでは光輝感を発現し、シェードではソリッド塗装のように見える。
【0004】
例えば、ソリッドライク塗装の例として、特許文献1は、着色アルミニウム顔料および酸化チタン顔料を含む塗料組成物を開示している。特許文献2は、マルチカラー光輝性顔料、鱗片状アルミニウム顔料および酸化チタン顔料を含む塗料組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5991815号公報
【特許文献2】特許第6132453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の塗料組成物によれば、ハイライト(正反射光近傍)では高彩度であって、フェース(ハイライトとシェードの中間)からシェード(斜め方向)にかけて、明度変化の小さい塗膜が得られる。特許文献2の塗料組成物によれば、ハイライトでは高明度であって、フェースからシェードにかけて、明度変化の緩やかな塗膜が得られる。
【0007】
特許文献1および2の塗料組成物には、酸化チタンが配合されている。酸化チタンは、高い隠ぺい性を有するため、明度変化を小さくする役割を果たすと考えられる。しかしながら、酸化チタンは、ハイライトからフェースにかけての光輝感も低下させる。そのため、特許文献1および2の塗料組成物を用いた塗膜は、光輝性顔料を含むにもかかわらず、全体的にソリッド塗装であるような印象を与える。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、ハイライトに加えてフェースにおいても明確な光輝感を発現し、一方、シェードではソリッド塗装のように見える意匠を実現できる、水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
塗膜形成性樹脂と、
平均粒子径が1μm以上20μm以下の樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)の少なくとも一方と、
平均粒子径が100nm以上450nm以下の不透明顔料(B)と、
平均粒子径が8μm以上25μm以下の鱗片状光輝性顔料(C)と、を含み、
前記樹脂粒子(A1)および前記体質顔料(A2)の合計の顔料質量濃度PWCAが、0.5質量%以上8質量%以下であり、
前記不透明顔料(B)の顔料質量濃度PWCBが、10質量%以上18質量%以下であり、
前記樹脂粒子(A1)および前記体質顔料(A2)の合計の前記顔料質量濃度PWCAに対する前記不透明顔料(B)の前記顔料質量濃度PWCBの比PWCB/PWCAが、2以上28以下である、水性塗料組成物。
[2]
前記不透明顔料(B)が、二酸化チタン系顔料、微粒子酸化チタン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、酸化鉄系顔料およびキナクリドン系顔料よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[1]の水性塗料組成物。
[3]
前記水性塗料組成物により形成される塗膜に対して45°で入射した光を、正反射光に対して45°で受光した光輝面積Sa45が、10以上であり、
前記水性塗料組成物により形成される塗膜に対して75°で入射した光を、正反射光に対して75°で受光した光輝面積Sa75が、5以下である、上記[1]または[2]の水性塗料組成物。
[4]
前記樹脂粒子(A1)が、球状アクリル樹脂粒子である、上記[1]または[2]の水性塗料組成物。
[5]
前記体質顔料(A2)が、シリカ粒子である、上記[1]または[2]の水性塗料組成物。
[6]
前記鱗片状光輝性顔料(C)が、鱗片状アルミニウム顔料を含む、上記[1]または[2]の水性塗料組成物。
[7]
被塗物と、
前記被塗物上に設けられたプライマー塗膜と、
前記プライマー塗膜上に設けられたメタリックベース塗膜と、
前記メタリックベース塗膜上に設けられたクリヤー塗膜と、を備え、
前記メタリックベース塗膜が、上記[1]の水性塗料組成物により形成されている、塗装物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハイライトに加えてフェースにおいても明確な光輝感を発現し、一方、シェードではソリッド塗装のように見える意匠を実現できる、水性塗料組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ハイライト、フェースおよびシェードを説明する図である。
【
図2】入射角θが45°のときの、正反射光に対して入射角と同じ45°で反射された光を説明する図である。
【
図3】入射角θが75°のときの、正反射光に対して入射角と同じ75°で反射された光を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
嗜好の多様化により、ミニバンタイプの自動車のように、起伏が少なく、地面に対して垂直に延在している部分を多く有する被塗物(以下、箱型の被塗物と称する場合がある。)に対して、ソリッドライク塗装を施したような意匠(以下、ソリッドライク意匠と称する。)が求められている。
【0013】
本明細書において、ソリッドライク意匠とは、ハイライトに加えてフェースにおいても明確な光輝感を発現し、一方、シェードではソリッド塗装のように見える意匠をいう。本発明の効果である「ハイライトに加えてフェースにおいても明確な光輝感を発現し、一方、シェードではソリッド塗装のように見える意匠」は、ソリッドライク意匠と言い換えることができる。
【0014】
ハイライトとは、45°の角度から入射した光の正反射光に対して、0°以上25°未満の範囲をいう。シェードは、45°の角度から入射した光の正反射光に対して、75°以上の範囲をいう。フェースは、ハイライトとシェードとの間の範囲である。
【0015】
図1は、ハイライト、フェースおよびシェードを説明する図である。
図1に示すように、反射面(この場合、塗膜)の法線方向AXを0°とすると、45度の角度から照射した入射光I
45の入射角は-45°、その正反射光R
0の反射角は+45°、ハイライトは+20°~+45°の範囲、フェースは-30°超~+20°未満の範囲、シェードは-90°~-30°の範囲と表現できる。
【0016】
箱型の被塗物を見るとき、視点は塗膜の垂線方向にある場合が多い。そのため、箱型の被塗物においてソリッドライク意匠を得るには、塗膜の法線方向にある視点に入る光の光輝感を制御する必要がある。
【0017】
塗膜の法線方向にある視点に入る光は、塗膜の法線方向に対して角度θで入射した光を、正反射光に対して、入射角と同じ角度θで反射された光(以下、第1反射光と称する。)と言い換えることができる。入射角θの光の正反射光は、入射角θと同じ反射角θを有する。角度θは、反射面(この場合、塗膜)の法線方向を0°としたときの角度である。
【0018】
箱型の被塗物は起伏が少ないため、塗膜の法線方向にある視点に入る光の多くは、ある一定の角度から入射した光の第1反射光と考えられる。そこで、箱型の被塗物において、塗膜の法線方向にある視点に入る光が、どの角度θから入射した光の第1反射光であるかを調べるために、以下のような実験を行った。
【0019】
まず、ミニバンタイプ(すなわち箱型)の軽自動車のドアの上端(窓のすぐ下)から下端までの明度L1*値を、分光測色計(BYK Gardner社製、BYK-mac i)で測定した。明度L1*値は、ドアの上端(窓のすぐ下)から下端まで車両の高さ方向に沿う直線を引き、当該直線上の7点について測定した。明度L1*値の測定は、1点につき入射光の角度を変えながら複数回行い、1点あたり複数の明度L1*値を取得した。入射角は、15°、25°、45°、60°、75°、110°とした。
【0020】
次いで、ドアの法線方向から見たときの同じ7点の明度を、目視で評価し、該当する明度のグレースケールチップをその点に貼り付けた。貼り付けたグレースケールチップの明度L2*値を、色彩色差計(コニカミノルタ社製、CR-400)で測定した。ある地点で得られた目視評価の明度L2*値と、同じ地点で測定された実測の明度L1*値とを比較して、当該明度L2*値と同程度の明度L1*値が、どの入射角θに対する第1反射光によるものであるかを調べた。その結果、上記7点のうちの4点について、当該明度L2*値と同程度の明度L1*値は、入射角θが45°のときの第1反射光によるものであることが判明した。
【0021】
すなわち、塗膜の法線方向にある視点に入る光の多くは、箱型の被塗物に対して45°の角度から入射した光の第1反射光であった。一方、箱型の被塗物に対して75°以上の角度から入射した光の第1反射光は、ほとんど目視できなかった。
【0022】
この結果から、θが45°のときの第1反射光による光輝感をより強調し、かつ、θが75°のときの第1反射光による光輝感を抑制することにより、ソリッドライク意匠を実現できることが見出された。
【0023】
図2は、入射角θが45°のときの第1反射光を説明する図である。塗膜の表面に対して45度の角度から照射した光I
45の正反射光は、R
0で示されている。正反射光R
0に対して、入射角と同じ45°で反射された第1反射光はR
45で示されている。第1反射光R
45は、塗膜の法線と同じ方向に進んでいる。箱型の被塗物に対する視点(viewpoint)は、通常、塗膜の法線方向、すなわち第1反射光R
45の進行方向にある。
【0024】
図3は、入射角θが75°のときの第1反射光を説明する図である。塗膜の表面に対して75度の角度から照射した光I
75の正反射光は、R
0で示されている。正反射光R
0に対して、入射角と同じ75°で反射された第1反射光はR
75で示されている。第1反射光R
75は、塗膜の法線と同じ方向に進んでいる。箱型の被塗物に対する視点(viewpoint)は、通常、塗膜の法線方向、すなわち第1反射光R
75の進行方向にある。
【0025】
本開示に係る水性塗料組成物は、上記の箱型の被塗物の少なくとも一部に対する塗装に適している。箱型の被塗物として、具体的には、ミニバンタイプの自動車(軽自動車を含む)が挙げられる。箱型の被塗物の少なくとも一部として、具体的には、ミニバンタイプの自動車の乗降ドア側の面が挙げられる。
【0026】
本開示に係る水性塗料組成物は、このような起伏の少ない箱型の被塗物に塗装した場合にも、ハイライトに加えてフェースにおいても明確な光輝感を発現し、一方、シェードではソリッド塗装のように見える意匠を実現できる。
【0027】
[水性塗料組成物]
本開示に係る水性塗料組成物は、塗膜形成性樹脂と、平均粒子径が1μm以上20μm以下の樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)の少なくとも一方(以下、樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)と表現する場合がある。)と、平均粒子径が100nm以上450nm以下の不透明顔料(B)と、平均粒子径が8μm以上25μm以下の鱗片状光輝性顔料(C)と、を含む。
【0028】
樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)は、入射角θが45°のときの第1反射光による光輝感をより強調する。光は、鱗片状光輝性顔料(C)が塗膜の表面と平行な方向に並んでいるほど、正反射し易い。すなわち、45°で入射した光は、平行に並んだ鱗片状光輝性顔料(C)によって45°で反射され易いため、通常、塗膜の法線方向に反射する成分は少ない。本開示では、比較的大きな平均粒子径を有する樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)が、鱗片状光輝性顔料(C)の配向を乱し、乱反射を促す。これにより、45°で入射した光の反射光のうち、塗膜の法線方向に反射する割合が多くなって、入射角が45°のときの第1反射光による光輝感が強調される。
【0029】
不透明顔料(B)は、入射角θが75°のときの第1反射光による光輝感をより抑制する。一般的に不透明顔料は、鱗片状光輝性顔料(C)が反射した光を遮るため、光輝感を全体的に低下させる。しかしながら、樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)とともに不透明顔料(B)を用いることにより、75°で入射した光の反射光が遮られ易くなる。この理由は以下の通りだと考えられる。
【0030】
樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)のいくつかは、鱗片状光輝性顔料(C)同士の間に入り込んで、隙間を生じさせる。不透明顔料(B)は樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)より小さいため、樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)によって生じた鱗片状光輝性顔料(C)同士の隙間に入り込むことができる。これにより、鱗片状光輝性顔料(C)同士の隙間に入り込むような入射角の大きい光(例えば、角度θが75°)の進行や反射は、この隙間に存在する不透明顔料(B)によって遮られ易くなる。その結果、θが75°のときの第1反射光による光輝感が抑制される。
【0031】
樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)の合計の顔料質量濃度PWCAは、0.5質量%以上8質量%以下である。不透明顔料(B)の顔料質量濃度PWCBは、10質量%以上18質量%以下である。顔料質量濃度PWCAに対する顔料質量濃度PWCBの比PWCB/PWCAは、2以上28以下である。樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)と不透明顔料(B)とが上記の濃度および割合で配合されていることにより、本開示に係る水性塗料組成物により得られる塗膜において、θが45°のときの第1反射光による光輝感が強調される一方で、θが75°のときの第1反射光による光輝感が抑制されて、ソリッドライク意匠が発現する。
【0032】
本明細書において、水性塗料組成物とは、溶媒として水を含む塗料組成物を言う。水性塗料組成物において、溶媒に占める水の割合は、20質量%以上であり、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0033】
(光輝面積Sa)
光輝感は、例えば、光輝面積Saで評価できる。光輝面積Saは、塗膜表面において輝いている部分の面積(Sparkle area)を反映している。
【0034】
光輝面積Saは、以下のようにして算出される。塗膜に入射角θで光を照射し、塗膜表面を、当該塗膜の法線方向(すなわち、正反射光に対して同じθの角度)からCCDカメラにて撮像する。得られた画像を、明るさレベルのヒストグラムを用いた画像解析アルゴリズムで解析し、2次元分析を行う。これにより、光輝面積Saが得られる。光源には、例えば、LEDライトが用いられる。光輝面積Saは、例えば、BYK Gardner社製の分光測色計「BYK-mac i」(商品名)によって取得できる。
【0035】
本開示に係る水性塗料組成物によれば、得られる塗膜に対して45°で入射した光を、正反射光に対して45°で受光した光輝面積Sa45は、10以上になり得る。同様に得られる塗膜に対して75°で入射した光を、正反射光に対して75°で受光した光輝面積Sa75は、5以下になり得る。
【0036】
光輝面積Sa45が10以上であると、ハイライトおよびフェースの光輝感がより強く感じられる。光輝面積Sa45は、11以上であってよく、12以上であってよい。光輝面積Sa45は、20以下であってよく、18以下であってよく、15以下であってよい。光輝面積Sa45を20超にしようとすると、光輝面積Sa75も大きくなるため、所望のソリッドライク意匠が得られ難い。
【0037】
光輝面積Sa75が5以下であると、シェードがソリッド塗装のように見え易い。光輝面積Sa75は、4.8以下であってよく、4.5以下であってよい。光輝面積Sa75は、2.0以上であってよく、2.2以上であってよい。光輝面積Sa75を2.0未満にしようとすると、光輝面積Sa45も小さくなるため、所望のソリッドライク意匠が得られ難い。
【0038】
(樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2))
樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)は、いずれも1μm以上20μm以下の平均粒子径を有する。樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)は、鱗片状光輝性顔料(C)による光の反射を妨げず、さらには、光を反射するものではない。しかしながら、本開示で用いられる樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)は、上記範囲の粒径を有しているため、鱗片状光輝性顔料(C)の配向性を低下させる。そのため、鱗片状光輝性顔料(C)によって反射された光は、正反射ではない方向へと進行し易くなる。その結果、入射角θが45°のときの第1反射光による光輝感(例えば、光輝面積Sa45)がより強調される。
【0039】
平均粒子径は、レーザ回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いた体積基準の粒度分布における、50%平均粒子径(D50)である。
【0040】
樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)の平均粒子径は、1.1μm以上であってよく、1.2μm以上であってよい。樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)の平均粒子径は、15μm以下であってよく、12μm以下であってよい。特に、樹脂粒子(A1)の平均粒子径は、4μm以上であってよく、8μm以上であってよく、10μm以上であってよい。特に、体質顔料(A2)の平均粒子径は、10μm以下であってよく、8μm以下であってよく、3μm以下であってよい。平均粒子径および/または原料の異なる複数種の樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)を、組み合わせて用いてもよい。
【0041】
樹脂粒子(A1)は、球状であってよい。球状とは、アスペクト比(顔料の平均長径/顔料の平均短径)が2未満である形状をいう。球状の樹脂粒子(A1)のアスペクト比は、例えば、1~1.8である。球状の樹脂粒子(A1)のアスペクト比は、1.5以下であってよい。体質顔料(A2)の形状およびアスペクト比は特に限定されない。
【0042】
樹脂粒子(A1)を構成する樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン、シリコーン、ポリウレタンが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。樹脂粒子(A1)は、アクリル樹脂粒子であってよく、球状アクリル樹脂粒子であってよい。
【0043】
体質顔料(A2)としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、およびシリカが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。体質顔料(A2)は、シリカであってよく、金属酸化物で被覆されていないシリカであってよい。
【0044】
樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)の合計の顔料質量濃度PWCAは、0.5質量%以上8質量%以下である。これにより、鱗片状光輝性顔料(C)の配向が適度に乱されて、入射角θが45°のときの第1反射光による光輝感が強調される。顔料質量濃度PWCAは、1質量%以上であってよく、2質量%以上であってよい。顔料質量濃度PWCAは、7質量%以下であってよく、6質量%以下であってよい。
【0045】
顔料質量濃度PWCは、水性塗料組成物に含まれる樹脂の固形分質量および顔料の質量の合計に対する、当該顔料の質量割合である。樹脂の固形分とは、水性塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の固形分である。
【0046】
(不透明顔料(B))
不透明顔料(B)は、100nm以上450nm以下の平均粒子径を有する。これにより、特に入射角θが75°のときの光の進行および第1反射光が遮られて、入射角θが75°のときの光輝感(例えば、光輝面積Sa75)が抑制される。
【0047】
「不透明顔料」とは、塗料組成物の固形分中の当該顔料濃度(PWCB)を25質量%にした場合に、得られる塗膜の白黒隠ぺい膜厚が50μm以下となるような顔料を指す。白黒隠ぺい膜厚は、JIS K5600-4-1の4.1.2に規定される白黒の市松模様の隠ぺい率試験紙を用いて測定される。具体的には、隠ぺい率試験紙を鋼板に貼り付けて、膜厚が連続的に変わるように塗料を傾斜塗りする。塗料を乾燥または硬化させた後、拡散昼光の下で塗面を目視で観察する。隠ぺい率試験紙の市松模様の白黒の境界が見えなくなる最小の膜厚が、白黒隠ぺい膜厚である。
【0048】
塗膜の厚さ(膜厚)は、電磁式膜厚計(例えば、SANKO社製SDM-miniR)により測定できる。塗膜の厚さは、任意の5点における塗膜の厚さの平均値である。
【0049】
不透明顔料(B)の平均粒子径は、110nm以上であってよく、112nm以上であってよい。不透明顔料(B)の平均粒子径は、445nm以下であってよく、440nm以下であってよい。平均粒子径の異なる複数種の不透明顔料(B)を、組み合わせて用いてもよい。
【0050】
不透明顔料(B)としては、例えば、二酸化チタン系顔料、微粒子酸化チタン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、酸化鉄系顔料およびキナクリドン系顔料よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0051】
二酸化チタン系顔料は、様々な結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)を含む。単に酸化チタン系顔料といわれるものは、250nm以上450nm以下の平均粒子径を有する。微粒子酸化チタン系顔料といわれるものは、100nm以上250nm未満の平均粒子径を有する。
【0052】
ジケトピロロピロール系顔料は、ジケトピロロピロール構造を有する化合物を含む。ジケトピロロピロール構造は、種々の置換基を有していてよい。
【0053】
酸化鉄系顔料は、様々な酸価数および/または結晶構造を有する酸化鉄を含む。酸化鉄系顔料としては、例えば、赤色酸化鉄顔料(べんがら)、黒色酸化鉄顔料(鉄黒)、黄色酸化鉄顔料(黄鉄)、オキシ水酸化鉄(合成酸化鉄)が挙げられる。
【0054】
キナクリドン系顔料は、キナクリドン構造を有する化合物を含む。キナクリドン構造は、種々の置換基を有していてよい。
【0055】
不透明顔料(B)の顔料質量濃度PWCBは、10質量%以上18質量%以下である。これにより、特にθが75°のときの第1反射光が効果的に遮られて、θが75°のときの第1反射光による光輝感が抑制される。顔料質量濃度PWCBは、11質量%以上であってよく、12質量%以上であってよい。顔料質量濃度PWCBは、7質量%以下であってよく、6質量%以下であってよい。
【0056】
樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)の合計の顔料質量濃度PWCAに対する不透明顔料(B)の顔料質量濃度PWCBの比PWCB/PWCAは、2以上28以下である、これにより、θが45°のときの第1反射光による光輝感が強調される一方で、θが75°のときの第1反射光による光輝感が抑制されて、ソリッドライク意匠が発現する。
【0057】
比PWCA/PWCBは、3以上であってよく、4以上であってよい。比PWCA/PWCBは、24以下であってよく、22以下であってよく、20以下であってよい。
【0058】
(鱗片状光輝性顔料(C))
鱗片状光輝性顔料(C)により、塗膜に光輝感が付与される。鱗片状光輝性顔料(C)の平均粒子径は、8μm以上25μm以下である。鱗片状光輝性顔料(C)の平均粒子径が8μm以上であることにより、高い光輝感を得ることができる。鱗片状光輝性顔料(C)の平均粒子径が25μm以下であることにより、満足な隠ぺい性および外観が得られる。
【0059】
鱗片状光輝性顔料(C)の平均粒子径は、9μm以上であってよく、9.5μm以上であってよい。鱗片状光輝性顔料(C)の平均粒子径は、20μm以下であってよく、15μm以下であってよい。平均粒子径の異なる複数種の鱗片状光輝性顔料(C)を、組み合わせて用いてもよい。
【0060】
鱗片状顔料の平均粒子径は、長径の平均値である。鱗片状顔料の平均粒子径は、鱗片状顔料を形状解析レーザーマイクロスコープ(例えば、キーエンス社製 VK-X 250)を用いて観察し、任意に選択した100個の鱗片状顔料の長径(最大長さ)を平均化することによって得られる。
【0061】
鱗片状とは、アスペクト比(顔料の平均長径/顔料の平均厚さ)が1.0超である形状をいう。鱗片状顔料のアスペクト比は、例えば、10~200である。鱗片状光輝性顔料(C)のアスペクト比は、20以上であってよく、30以上であってよい。鱗片状光輝性顔料(C)のアスペクト比は、150以下であってよく、100以下であってよい。このような比較的小さなアスペクト比を有する鱗片状顔料は、変形し難い。そのため、入り込んだ樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)に沿って変形することが抑制されて、鱗片状光輝性顔料(C)同士の間には、より隙間が生じ易くなる。これにより、樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)は、鱗片状光輝性顔料(C)同士の間にさらに入り込み易くなって、鱗片状光輝性顔料(C)の配向がより一層乱れ易くなる。
【0062】
鱗片状光輝性顔料(C)の平均厚さは、例えば、80nm以上1000nm以下である。鱗片状光輝性顔料(C)の平均厚さは、100nm以上であってよく、200nm以上であってよい。鱗片状光輝性顔料(C)の平均厚さは、900nm以下であってよく、800nm以下であってよく、500nm以下であってよい。
【0063】
鱗片状の顔料の平均厚さは、鱗片状の顔料を含む塗膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、任意に選択した100個の鱗片状の顔料の厚さを平均化することによって得られる。
【0064】
鱗片状光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム、酸化アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズおよびこれらの合金などの金属製光輝性顔料;干渉マイカ、ホワイトマイカおよび着色マイカなどのマイカ顔料;グラファイト顔料;ガラスフレーク顔料が挙げられる。なかでも、鱗片状のアルミニウム顔料(鱗片状酸化アルミニウム顔料を含む。以下同じ。)であってよい。
【0065】
鱗片状アルミニウム顔料は、表面処理されていてよく、されていなくてもよい。表面処理に用いられる化合物としては、例えば、金属酸化物系化合物、リン化合物、アミン化合物、シラン化合物が挙げられる。
【0066】
鱗片状光輝性顔料(C)の顔料質量濃度PWCCは、例えば、1質量%以上15質量%以下である。これにより、θが45°のときの第1反射光によって、明確な光輝感が得られ易くなる。顔料質量濃度PWCCは、3質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。顔料質量濃度PWCCは、12質量%以下であってよく、10質量%以下であってよい。
【0067】
(他の顔料)
水性塗料組成物は、樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)、不透明顔料(B)および鱗片状光輝性顔料(C)以外の他の顔料を含んでいてよい。他の顔料としては、例えば、平均粒子径20μm超の球状粒子、平均粒子径25μm超の鱗片状光輝性顔料、平均粒子径450nm超1μm未満の着色顔料が挙げられる。他の顔料の含有量は、本開示に係る水性塗料組成物の効果が損なわれない範囲であれば、特に限定されない。
【0068】
(塗膜形成性樹脂)
塗膜形成性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリオール樹脂、および硬化剤として用いられるメラミン樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0069】
水性塗料組成物において、これらの樹脂は、エマルションとして含まれてよく、ディスパージョンとして含まれてよく、溶媒に溶解した状態で含まれていてよい。
【0070】
塗膜形成性樹脂の平均分子量は特に限定されない。例えば、エマルション形態のアクリル樹脂の数平均分子量は、3,000以上であってよい。数平均分子量は、ポリスチレンを標準とするGPC法において決定される。
【0071】
(添加剤)
水性塗料組成物は、当業者において通常用いられる添加剤を含んでいてよい。添加剤としては、例えば、表面調整剤、粘性制御剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤が挙げられる。
【0072】
水性塗料組成物は、増粘剤を含んでよい。増粘剤としては、例えば、無機増粘剤、セルロース誘導体、ウレタン会合型増粘剤、ポリアマイド型増粘剤およびアルカリ膨潤型増粘剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0073】
増粘剤の添加量Phrは、例えば、0.5質量%以上10質量%以下である。増粘剤の添加量Phrは、1質量%以上であってよく、3質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。増粘剤の添加量Phrは、9質量%以下であってよく、8.5質量%以下であってよい。増粘剤の添加量Phrは、水性塗料組成物に含まれる樹脂の固形分質量に対する、増粘剤の質量割合である。
【0074】
(溶媒)
水性塗料組成物は、溶媒として水を含む。水性塗料組成物は、必要に応じて水溶性または水混和性の有機溶媒を含み得る。
【0075】
水性塗料組成物は、樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)、不透明顔料(B)、鱗片状光輝性顔料(C)、塗膜形成性樹脂、溶媒および増粘剤などを、ディスパー、ホモジナイザー、ニーダーなどにより混練および分散して、調製される。樹脂粒子(A1)および/または体質顔料(A2)、不透明顔料(B)および鱗片状光輝性顔料(C)は、顔料分散剤を用いて予め顔料ペーストにした後、残りの成分と混合されてもよい。
【0076】
[塗装物品]
本開示に係る塗装物品は、被塗物と、被塗物上に設けられたプライマー塗膜と、プライマー塗膜上に設けられたメタリックベース塗膜と、メタリックベース塗膜上に設けられたクリヤー塗膜と、を備える。メタリックベース塗膜は、本開示に係る水性塗料組成物により形成されている。上記のメタリックベース塗膜を備える塗装物品は、ハイライトに加えてフェースにおいても明確な光輝感を発現し、一方、シェードではソリッド塗装のように見える。
【0077】
(被塗物)
被塗物の材質としては、例えば、金属、プラスチック、発泡体、ガラスが挙げられる。なかでも、金属(特に、鋳物)であってよく、電着塗装可能な金属であってよい。このような金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛などおよびこれらの金属を含む合金が挙げられる。
【0078】
被塗物の形状は特に限定されず、平板状であってよく、立体的に成形されていてよい。被塗物として、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体およびその部品が挙げられる。特に、上記の箱型の被塗物であってよい。
【0079】
金属製の被塗物は、リン酸系化成処理剤、ジルコニウム系化成処理剤などを用いた化成処理、および、電着塗装が施されていてよい。電着塗料組成物は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。カチオン型の電着塗料組成物は、防食性に優れた塗膜を形成することができる。
【0080】
(プライマー塗膜)
プライマー塗膜は、被塗物とメタリックベース塗膜との間に介在している。プライマー塗膜によって塗装面が均一になって、メタリックベース塗膜のムラが抑制され易くなる。
【0081】
硬化後のプライマー塗膜の厚さは、塗装物品の平滑性および耐チッピング性の観点から、5μm以上60μm以下であってよい。
【0082】
プライマー塗膜は、プライマー塗料組成物により形成される。プライマー塗料組成物は、水性であってよく、溶剤系であってよい。プライマー塗料組成物は、水性であってよい。水性のプライマー塗料組成物は、アクリル樹脂エマルションおよびメラミン樹脂を含む。プライマー塗料組成物は、さらに、顔料、各種添加剤を含んでよい。
【0083】
本明細書において、溶剤系塗料組成物とは、溶媒として有機溶剤を含む塗料組成物を言う。溶剤系塗料組成物において、溶媒に占める有機溶剤の割合は、20質量%以上であり、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0084】
(メタリックベース塗膜)
メタリックベース塗膜は、本開示に係る水性塗料組成物により形成されている。
【0085】
ベース塗膜の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜設定される。硬化後のベース塗膜の厚さは、10μm以上45μm以下であってよい。
【0086】
(クリヤー塗膜)
クリヤー塗膜は、塗装物品光沢を向上させるとともに、下層に配合された顔料の脱落および飛び出しを防止する。
【0087】
硬化後のクリヤー塗膜の厚さは、耐擦傷性および平滑性の観点から、15μm以上50μm以下であってよい。
【0088】
クリヤー塗膜は、クリヤー塗料組成物により形成される。クリヤー塗料組成物は、溶剤系であってよく、水性であってよく、粉体型であってよい。溶剤系クリヤー塗料組成物は、透明性あるいは耐酸エッチング性などの点から、塗膜形成性樹脂としてアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、硬化剤としてアミノ樹脂および/またはイソシアネートと、を含んでよい。溶剤系クリヤー塗料組成物は、また、カルボン酸および/またはエポキシ基を有する、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂を含んでよい。
【0089】
クリヤー塗料組成物は、透明性および本開示に係る塗料組成物の効果を損なわない範囲で、上記の各種顔料を含み得る。クリヤー塗料組成物は、必要に応じて種々の添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤が挙げられる。
【0090】
[塗装物品の製造方法]
上記のクリヤー塗膜を備える塗装物品は、例えば、被塗物上に、プライマー塗料組成物を塗装して未硬化のプライマー塗膜を形成する工程と、未硬化のプライマー塗膜を硬化させる工程と、本開示に係る水性塗料組成物を塗装して未硬化のメタリックベース塗膜を形成する工程と、未硬化のメタリックベース塗膜を硬化させる工程と、メタリックベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる工程と、を備える方法により製造される。
【0091】
クリヤー塗膜が形成される際、プライマー塗膜およびメタリックベース塗膜は硬化していてもよく、未硬化であってもよい。生産性、付着性および耐水性の観点から、各塗膜を硬化させることなく積層した後(いわゆる、ウェット・オン・ウェット塗装)、これら複数の未硬化の塗膜を同時に硬化させてよい。
【0092】
ウェット・オン・ウェット塗装は、被塗物上にプライマー塗料組成物を塗装して、未硬化のプライマー塗膜を形成する工程と、未硬化のプライマー塗膜上に本開示に係る水性塗料組成物を塗装して、未硬化のメタリックベース塗膜を形成する工程と、未硬化のメタリックベース塗膜上にクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、未硬化のプライマー塗膜、未硬化のメタリックベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる工程と、を備える。
【0093】
以下、ウェット・オン・ウェット塗装によって、プライマー塗膜、メタリックベース塗膜およびクリヤー塗膜がこの順に積層された複層塗膜を備える塗装物品を製造する場合を例に挙げて、各工程を説明する。ただし、塗装物品の製造方法はこれに限定されない。
【0094】
(I)未硬化のプライマー塗膜を形成する工程
上記のプライマー塗料組成物を被塗物に塗装して、未硬化のプライマー塗膜を形成する。
【0095】
塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装が挙げられる。これらの方法と静電塗装とを組み合わせてもよい。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。回転霧化式静電塗装には、例えば、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機が用いられる。
【0096】
プライマー塗料組成物を塗装した後、予備乾燥(プレヒートとも称される)を行ってもよい。これにより、プライマー塗料組成物に含まれる希釈成分が、硬化工程において突沸することが抑制されて、ワキの発生が抑制され易くなる。さらに、予備乾燥により、未硬化のプライマー塗膜とその上に塗装される水性塗料組成物とが混ざりあうことが抑制されて、混層が形成され難くなる。そのため、得られる塗装物品の平滑性が向上し易くなる。
【0097】
予備乾燥としては、例えば、20℃以上25℃以下の温度条件で5分以上15分以下放置する方法、50℃以上80℃以下の温度条件で30秒以上10分以下加熱する方法が挙げられる。
【0098】
(II)未硬化のメタリックベース塗膜を形成する工程
本開示に係る水性塗料組成物を未硬化のプライマー塗膜上に塗装して、未硬化のメタリックベース塗膜を形成する。
【0099】
塗装方法としては、例えば、プライマー塗料組成物の塗装方法と同様の方法が挙げられる。上記と同様の観点から、水性塗料組成物を塗装した後、上記と同様に予備乾燥を行ってもよい。
【0100】
(III)未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程
上記のクリヤー塗料組成物を未硬化のメタリックベース塗膜上に塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成する。
【0101】
塗装方法は特に限定されない。塗装方法としては、例えば、プライマー塗料組成物の塗装方法と同様の方法が挙げられる。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。クリヤー塗料組成物を塗装した後、上記と同様に予備乾燥を行ってもよい。
【0102】
(IV)硬化工程
未硬化の各塗膜を硬化させる。各塗膜は加熱により硬化し得る。本態様では、プライマー塗膜、メタリックベース塗膜およびクリヤー塗膜が一度に硬化される。
【0103】
加熱条件は、各塗料組成物の組成や被塗物の材質等に応じて適宜設定される。加熱温度は、例えば60℃以上160℃以下であり、65℃以上90℃以下であってよい。
【0104】
加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すればよい。加熱温度が60℃以上160℃以下の場合、加熱時間は、例えば10分以上60分以下であり、15分以上45分以下であってよい。加熱時間は、加熱装置内が目的の温度に達し、被塗物が目的の温度に保たれている時間を意味し、目的の温度に達するまでの時間は考慮しない。加熱装置としては、例えば、熱風、電気、ガス、赤外線等の加熱源を利用した乾燥炉が挙げられる。
【実施例0105】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0106】
[実施例1~37、比較例1~17]
(1)水性塗料組成物の調製
アクリル樹脂エマルションを含む塗膜形成性樹脂100部(固形分)に、樹脂粒子(A1)(球状アクリル樹脂粒子、アイカ工業社製、ガンツパールGM1007-S、D50:10μm)、不透明顔料(B1)(微粒子酸化チタン系白色顔料、D50:115~181nm)を含むペースト(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、AR-2000MT-700HDホワイトUDP)、不透明顔料(B2)(酸化チタン系白色顔料、D50:377nm)を含むペースト(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、AR-2000ホワイト)、鱗片状光輝性顔料(C)(鱗片状アルミニウム、東洋アルミニウム社製、アルミニウムペースト4640、平均粒子径12μm、厚さ250nm、アスペクト比47)、および粘性剤を、表1~表9に示す量で混合して、脱イオン水で希釈して、水性塗料組成物を得た。
【0107】
(2)塗装物品の作製
(i)被塗物の準備
リン酸亜鉛処理した厚さ0.8mm、70×150mmサイズのSPCC-SD鋼板(ダル鋼板、被塗物)に、カチオン電着塗料「パワートップU-50」(日本ペイント・オートモーティブコーティング社製)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装した。次いで、電着塗膜を160℃で30分間焼き付けた。
【0108】
(ii)未硬化のプライマー塗膜の形成
電着塗装した鋼板上に、カートリッジベル(ABB社製回転霧化塗装機)により、プライマー塗料組成物「アクアレックスAR-620」(日本ペイント・オートモーティブコーティング社製)を静電塗装した。次いで、80℃で3分間プレヒートして、硬化後の厚さが20μmの未硬化のプライマー塗膜を得た。
【0109】
(iii)未硬化のメタリックベース塗膜の形成
未硬化のプライマー塗膜上に、カートリッジベルにより、上記の水性塗料組成物を静電塗装した。次いで、80℃で3分間プレヒートして、硬化後の厚さが15μmの未硬化のメタリックベース塗膜を得た。
【0110】
(iv)未硬化のクリヤー塗膜の形成
未硬化のメタリックベース塗膜上に、回転霧化型静電塗装機により、クリヤー塗料「マックフロー O-1860クリヤー(日本ペイント・オートモーティブコーティング社製、酸エポキシ硬化型クリヤー塗料)を静電塗装した。次いで、7分間セッティングして、硬化後の厚さが35μmの未硬化のクリヤー塗膜を得た。
【0111】
(v)塗膜の硬化
未硬化のプライマー塗膜、未硬化のメタリックベース塗膜、および未硬化のクリヤー塗膜を、140℃で30分間加熱硬化させて、塗装物品を得た。
【0112】
[光輝面積Sa]
塗装物品の光輝面積Saを、以下のようにして得た。
BYK社製の分光測色計「BYK-mac i」を用いて、複層塗膜のクリヤー塗膜側から入射角45°および75°で光をそれぞれ照射し、その法線方向からCCDカメラにて撮像して、光輝面積Sa45およびSa75を得た。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
本開示は以下の態様を含む。
[1]
塗膜形成性樹脂と、
平均粒子径が1μm以上20μm以下の樹脂粒子(A1)および体質顔料(A2)の少なくとも一方と、
平均粒子径が100nm以上450nm以下の不透明顔料(B)と、
平均粒子径が8μm以上25μm以下の鱗片状光輝性顔料(C)と、を含み、
前記樹脂粒子(A1)および前記体質顔料(A2)の合計の顔料質量濃度PWCAが、0.5質量%以上8質量%以下であり、
前記不透明顔料(B)の顔料質量濃度PWCBが、10質量%以上18質量%以下であり、
前記樹脂粒子(A1)および前記体質顔料(A2)の合計の前記顔料質量濃度PWCAに対する前記不透明顔料(B)の前記顔料質量濃度PWCBの比PWCB/PWCAが、2以上28以下である、水性塗料組成物。
[2]
前記不透明顔料(B)が、二酸化チタン系顔料、微粒子酸化チタン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、酸化鉄系顔料およびキナクリドン系顔料よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[1]の水性塗料組成物。
[3]
前記水性塗料組成物により形成される塗膜に対して45°で入射した光を、正反射光に対して45°で受光した光輝面積Sa45が、10以上であり、
前記水性塗料組成物により形成される塗膜に対して75°で入射した光を、正反射光に対して75°で受光した光輝面積Sa75が、5以下である、上記[1]または[2]の水性塗料組成物。
[4]
前記樹脂粒子(A1)が、球状アクリル樹脂粒子である、上記[1]~[3]いずれかの水性塗料組成物。
[5]
前記体質顔料(A2)が、シリカ粒子である、上記[1]~[4]いずれかの水性塗料組成物。
[6]
前記鱗片状光輝性顔料(C)が、鱗片状アルミニウム顔料を含む、上記[1]~[5]いずれかの水性塗料組成物。
[7]
被塗物と、
前記被塗物上に設けられたプライマー塗膜と、
前記プライマー塗膜上に設けられたメタリックベース塗膜と、
前記メタリックベース塗膜上に設けられたクリヤー塗膜と、を備え、
前記メタリックベース塗膜が、上記[1]~[6]いずれかの水性塗料組成物により形成されている、塗装物品。
本開示の水性塗料組成物によれば、ハイライトに加えてフェースにおいても明確な光輝感を発現し、一方、シェードではソリッド塗装のように見える意匠を実現できる塗膜が得られるため、種々の用途に適用できる。本開示の水性塗料組成物は、特に自動車の塗装に適している。