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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085078
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
C21B5/00 321
C21B5/00 319
C21B5/00 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199415
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】中野 薫
【テーマコード(参考)】
4K012
【Fターム(参考)】
4K012BC03
4K012BE01
4K012BE06
4K012BF04
(57)【要約】
【課題】コークス比、微粉炭比及び水素系還元ガスの吹込量の配分を適切に調整することにより、プロセス全体の熱バランスを満たしながら、高い炭素消費削減効果を得る。
【解決手段】羽口から水素系還元ガスを吹き込む高炉の操業方法において、高炉内の炭素削減率の目標値である目標炭素削減率を達成するための還元材設定工程を有し、前記還元材設定工程において、水素系還元ガスの吹込量、コークス比及び微粉炭比を設定することを特徴とする、高炉の操業方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽口から水素系還元ガスを吹き込む高炉の操業方法において、
高炉内の炭素削減率の目標値である目標炭素削減率を達成するための還元材設定工程を有し、
前記還元材設定工程において、水素系還元ガスの吹込量、コークス比及び微粉炭比を設定する
ことを特徴とする、高炉の操業方法。
【請求項2】
前記還元材設定工程は、
水素系還元ガスの吹込量を設定するガス吹込量設定工程と、
前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量に基づいて水素系還元ガスを吹き込む吹込条件において、前記目標炭素削減率を達成するためのコークス比及び微粉炭比を設定する、コークス比・微粉炭比設定工程と、
を有することを特徴とする、請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項3】
前記還元材設定工程において、少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が基準操業と同一となるように、水素系還元ガスの吹込量、コークス比及び微粉炭比を設定する
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の高炉の操業方法。
【請求項4】
前記還元材設定工程において、
少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が基準操業と同一となるように求められた、所定のガス吹込量におけるコークス比と高炉内の炭素削減率との関係を、第1関係情報として準備するとともに、
少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が基準操業と同一となるように求められた、所定のガス吹込量におけるコークス比と微粉炭比との関係を、第2関係情報として準備し、
前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量における前記第1関係情報が、コークス比が増加するにつれて高炉内の炭素削減率が増加する単調増加関数である場合、
前記コークス比・微粉炭比設定工程は、微粉炭比を0に設定するとともに、前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量に対応した前記第2関係情報における、微粉炭比が0であるときのコークス比を設定すべきコークス比として設定する
ことを特徴とする、請求項2に記載の高炉の操業方法。
【請求項5】
前記還元材設定工程において、
少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が基準操業と同一となるように求められた、所定のガス吹込量におけるコークス比と高炉内の炭素削減率との関係を、第1関係情報として準備するとともに、
少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が基準操業と同一となるように求められた、所定のガス吹込量におけるコークス比と微粉炭比との関係を、第2関係情報として準備し、
前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量における前記第1関係情報が、コークス比が増加するにつれて高炉内の炭素削減率が増加する単調増加部分と、コークス比が増加するにつれて高炉内の炭素削減率が減少する単調減少部分と、を有する関数である場合、
前記目標炭素削減率は、炭素削減率の最大値であり、
前記コークス比・微粉炭比設定工程におけるコークス比設定工程は、
それぞれの吹込量に対応する前記第1関係情報ごとに、高炉内の最大炭素削減率に対応するコークス比であるピークコークス比を求める、ピークコークス比設定工程と、
前記ピークコークス比設定工程において求めたピークコークス比に基づいて、前記目標炭素削減率を達成するためのコークス比を求める予測式を算出する予測式算出工程と、
前記予測式に基づき、前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量における前記目標炭素削減率を達成するためのコークス比を算出するコークス比算出工程と、
を備え、
前記コークス比・微粉炭比設定工程における微粉炭比設定工程は、前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量における前記第2関係情報から、前記コークス比算出工程で算出されたコークス比に対応する微粉炭比を求める
ことを特徴とする、請求項2に記載の高炉の操業方法。
【請求項6】
前記予測式は、水素系還元ガスの吹込量とコークス比との関係式である
ことを特徴とする、請求項5に記載の高炉の操業方法。
【請求項7】
前記予測式算出工程において、前記予測式は、前記ピークコークス比設定工程において前記第1関係情報ごとに設定されたピークコークス比と、高炉の実操業で想定される炭素削減率の予測変動幅と、に基づいて算出される
ことを特徴とする、請求項6に記載の高炉の操業方法。
【請求項8】
前記第1及び第2関係情報を、高炉数学モデルにより求める
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の高炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽口を有する高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銑鉄を製造する製銑工程では、鉱石原料及びコークスを高炉内に交互に層状に装入し、羽口から微粉炭とともに熱風を吹き込むことによって、鉱石原料を還元する処理が行われる。
【0003】
ここで、微粉炭は、一般的に燃焼速度が遅いため、炉内に吹き込まれたときに未燃チャー等の未燃物が生成される場合がある。この未燃物が炉内に蓄積されると、高炉の安定操業が阻害される。そこで、着火が早く燃焼性に優れた気体状の還元材(気体還元材)を、微粉炭とともに高炉内に吹き込むことによって、微粉炭の燃焼を促進させる高炉の操業方法が種々提案されている。
【0004】
特許文献1には、10~80kg/tに調整された気体還元材と、50~150kg/tに調整された微粉炭と、を羽口から吹き込む高炉の操業方法が開示されている。特許文献1によれば、気体還元材と微粉炭との混焼によって、炉内の燃焼性を改善することができる。
【0005】
近年、地球温暖化を抑制する観点から、高炉における炭素消費量を減らし、製鉄所内で発生するCOを削減することが求められている。
【0006】
その解決策として、高炉の羽口から水素系還元ガスを吹き込む操業方法が検討されている。「水素系還元ガス」には、COG(コークス炉から排出されるコークス炉ガス)や都市ガス、天然ガス、LPG、メタンガス、水素ガス等が含まれる。水素系還元ガスを羽口から吹き込むことで発生する水素ガスによって鉱石原料の還元が促進されるため、コークス比(溶銑1tを製造するのに必要なコークスの質量)及び微粉炭比(溶銑1tを製造するのに必要な微粉炭の質量)を低減することができ、高炉における炭素消費量を削減することができる。
【0007】
ここで、羽口から水素系還元ガスを吹き込む操業方法では、以下の(1)~(3)に示す理由により、羽口前温度が低下する。
(1)水素系還元ガスには、炭化水素(CH、C、C等)が含まれており、炉内に水素系還元ガスが吹き込まれると、熱分解により水素及びCOが生成され、熱分解時に熱エネルギーが消費されるため、羽口前温度が低下する。
(2)通常の高炉操業では、常温の水素系還元ガスが吹き込まれるため、羽口前の熱エネルギーが水素系還元ガスの昇温に用いられ、羽口前温度が低下する。
(3)羽口から高炉に吹き込まれた微粉炭の熱分解に熱エネルギーが使われるため、羽口前温度が低下する。
羽口前温度が低下すると、微粉炭が燃焼不良となり、高炉の安定操業が阻害されるおそれがある。なお、羽口前温度とは、羽口の炉内側先端部における炉内温度のことであり、公知の計算法(例えばラムの計算式)に基づき理論燃焼温度として算出することができる。
【0008】
羽口前温度の低下を抑制するためには、羽口から熱風として吹き込まれる酸素富化空気の酸素富化率(酸素富化空気の酸素濃度から大気の酸素濃度(21%)を引いた値)を上げ、炭化水素や微粉炭の分解に使用される分解熱や、水素系還元ガスの昇温に用いられる顕熱を補償する必要がある。一方、炭素原単位が同じであれば羽口から吹き込む酸素富化空気に含まれる酸素量は、基本的に一定としなければならない。酸素富化空気に含まれる酸素量を増加させると、銑鉄の過剰生産となるからである。
【0009】
出銑量を一定に保ちながら、羽口から吹き込む酸素富化空気の酸素富化率を上げるためには、炭素原単位に応じて、酸素富化空気に含まれる酸素量のバランスを取る必要があるが、このとき炉内に吹き込まれる酸素富化空気中の窒素量を減少させることで酸素富化空気量が減少するため、酸素富化空気量に対する燃焼熱の割合が増加し、羽口前温度を上昇させることができる。しかしながら、空気流量を下げることにより、炉内に吹き込まれる窒素量が少なくなり、酸素富化空気の流量が減少するため、高炉内を流通するガス量やガスの顕熱量が減少してしまう。
【0010】
高炉内を流通するガスは、羽口から上昇しながら、炉頂に装入された後に降下する装入物と接触して熱交換を行う。ここで、上記のように酸素富化率を増加させると、羽口前でのガスの燃焼温度が高くなる一方で、炉上部では高炉内を流通するガス量が減少するため、炉内装入物を所定の温度まで昇温するのに必要な熱交換距離が長くなる、すなわち、原料の昇温速度が低下してしまう。その結果、炉頂におけるガス温度(炉頂ガス温度)が相対的に低下する。
また、水素ガスによる間接還元は、吸熱反応であるため、更に炉内温度を低下させるとともに原料の昇温速度を低下させることになる。上述の通り高炉内に吹き込まれる窒素量が少なくなると、ボッシュガスの量が少なくなり熱容量が低下するとともに水素還元による吸熱作用のため、炉頂に到達するまでの炉内ガスの温度低下幅が相対的に大きくなる。
【0011】
このように、水素系還元ガス吹き込み操業において、羽口前温度の低下を抑制するために酸素富化空気の酸素富化率を上げると、炉内装入物の昇温遅れや炉頂ガス温度の低下を招く。炉内装入物の昇温遅れが生じると、所定の温度まで昇温された後に生起されるべき間接還元量が減少して直接還元量が増加してしまうおそれがある。直接還元は大きな吸熱反応であるため、高炉が熱不足となり、溶銑温度が低下する。溶銑温度が低下すると、溶銑の副産物であるスラグの粘性が増加するため、溶銑を炉外に排出することが困難となり、高炉の安定操業が阻害されるおそれがある。また、炉頂ガス温度が低下すると、高炉上部で亜鉛などの金属が析出し、高炉の安定操業が阻害されるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第5070706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来、プロセス全体の熱バランスを満たしつつ、高い炭素消費削減効果を得るために、還元材の構成をどのように選択すべきか(コークス比、微粉炭比及び水素系還元ガスの吹込量を設定する)、不明であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本願発明に係る高炉の操業方法は、(1)羽口から水素系還元ガスを吹き込む高炉の操業方法において、高炉内の炭素削減率の目標値である目標炭素削減率を達成するための還元材設定工程を有し、前記還元材設定工程において、水素系還元ガスの吹込量、コークス比及び微粉炭比を設定することを特徴とする。
【0015】
(2)前記還元材設定工程は、水素系還元ガスの吹込量を設定するガス吹込量設定工程と、前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量に基づいて水素系還元ガスを吹き込む吹込条件において、前記目標炭素削減率を達成するためのコークス比及び微粉炭比を設定する、コークス比・微粉炭比設定工程と、を有することを特徴とする、上記(1)に記載の高炉の操業方法。
【0016】
(3)前記還元材設定工程において、少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が基準操業と同一となるように、水素系還元ガスの吹込量、コークス比及び微粉炭比を設定することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の高炉の操業方法。
【0017】
(4)前記還元材設定工程において、少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が基準操業と同一となるように求められた、所定のガス吹込量におけるコークス比と高炉内の炭素削減率との関係を、第1関係情報として準備するとともに、少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が基準操業と同一となるように求められた、所定のガス吹込量におけるコークス比と微粉炭比との関係を、第2関係情報として準備し、前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量における前記第1関係情報が、コークス比が増加するにつれて高炉内の炭素削減率が増加する単調増加関数である場合、前記コークス比・微粉炭比設定工程は、微粉炭比を0に設定するとともに、前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量に対応した前記第2関係情報における、微粉炭比が0であるときのコークス比を設定すべきコークス比として設定することを特徴とする、上記(2)に記載の高炉の操業方法。
【0018】
(5)前記還元材設定工程において、少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が基準操業と同一となるように求められた、所定のガス吹込量におけるコークス比と高炉内の炭素削減率との関係を、第1関係情報として準備するとともに、少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が基準操業と同一となるように求められた、所定のガス吹込量におけるコークス比と微粉炭比との関係を、第2関係情報として準備し、前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量における前記第1関係情報が、コークス比が増加するにつれて高炉内の炭素削減率が増加する単調増加部分と、コークス比が増加するにつれて高炉内の炭素削減率が減少する単調減少部分と、を有する関数である場合、前記目標炭素削減率は、炭素削減率の最大値であり、前記コークス比・微粉炭比設定工程におけるコークス比設定工程は、それぞれの吹込量に対応する前記第1関係情報ごとに、高炉内の最大炭素削減率に対応するコークス比であるピークコークス比を求める、ピークコークス比設定工程と、前記ピークコークス比設定工程において求めたピークコークス比に基づいて、前記目標炭素削減率を達成するためのコークス比を求める予測式を算出する予測式算出工程と、前記予測式に基づき、前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量における前記目標炭素削減率を達成するためのコークス比を算出するコークス比算出工程と、を備え、前記コークス比・微粉炭比設定工程における微粉炭比設定工程は、前記ガス吹込量設定工程で設定された吹込量における前記第2関係情報から、前記コークス比算出工程で算出されたコークス比に対応する微粉炭比を求めることを特徴とする、上記(2)に記載の高炉の操業方法。
【0019】
(6)前記予測式は、水素系還元ガスの吹込量とコークス比との関係式であることを特徴とする、上記(5)に記載の高炉の操業方法。
【0020】
(7)前記予測式算出工程において、前記予測式は、前記ピークコークス比設定工程において前記第1関係情報ごとに設定されたピークコークス比と、高炉の実操業で想定される炭素削減率の予測変動幅と、に基づいて算出されることを特徴とする、上記(6)に記載の高炉の操業方法。
【0021】
(8)前記第1及び第2関係情報を、高炉数学モデルにより求めることを特徴とする上記(4)又は(5)に記載の高炉の操業方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コークス比、微粉炭比及び水素系還元ガスの吹込量の配分を適切に調整することにより、プロセス全体の熱バランスを満たしながら、高い炭素消費削減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態における高炉の概略図である。
図2】本発明に係る高炉の操業方法を示すフローチャートである。
図3】COG吹込量を種々変更した場合における、高炉内の炭素削減率[%]とコークス比との関係情報(第1関係情報)である。
図4】COG吹込量を種々変更した場合における、微粉炭比とコークス比との関係情報(第2関係情報)である。
図5】第1関係情報及び第2関係情報に基づくコークス比及び微粉炭比の設定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<高炉の概略構成>
図1は、本実施形態における高炉の概略図である。高炉1は、ベルレス式の高炉であり、羽口2と、環状管3と、ブローパイプ4と、補助還元材吹込みランス5と、微粉炭吹込みランス6と、旋回シュート7と、出銑口8と、を備える。なお、本発明は、旋回シュートを有しないベル式の高炉にも適用することができる。
【0025】
羽口2は、熱風炉(不図示)で生成された熱風を高炉1内に吹き込むための吹き込み口であり、高炉1の炉周方向に沿って複数設けられている。羽口2からは、熱風とともに、後述する微粉炭及び水素系還元ガスを炉内に吹き込むことができる。
【0026】
環状管3は高炉1の下部を包囲するように配設されている。環状管3には、複数のブローパイプ4が周方向に所定の間隔を隔てて設けられている。環状管3は、熱風炉から送られてきた熱風をブローパイプ4に供給する。
【0027】
各ブローパイプ4は、環状管3に接続されるとともに、それぞれが異なる羽口2に接続されている。ブローパイプ4は、環状管3から送られた熱風を、羽口2を介して高炉1内に吹き込む。
【0028】
補助還元材吹込みランス5は、水素系還元ガスを羽口2から炉内に吹き込むために設けられており、微粉炭吹込みランス6は、微粉炭を羽口2から炉内に吹き込むために設けられている。補助還元材吹込みランス5及び微粉炭吹込みランス6は、各ブローパイプ4の壁面を貫通して、各ブローパイプ4の内部に延出している。補助還元材吹込みランス5及び微粉炭吹き込みランス6からブローパイプ4に吹き込まれた水素系還元ガス及び微粉炭は、環状管3からブローパイプ4に流入した熱風と共に、羽口2を介して炉内に吹き込まれる。
【0029】
旋回シュート7は、上下方向に延びる軸周りに回転しながら、鉱石原料及びコークスを交互に層状に装入する。鉱石原料には、塊鉱石、焼結鉱、ペレット、非焼成含炭塊成鉱などを用いることができる。また、鉱石原料には、小塊コークス等の還元補助剤が含まれていてもよい。コークスには、フェローコークスが含まれていてもよい。旋回シュート7の駆動方式(順傾動/逆傾動)や傾動角、回転速度を制御することにより、高炉原料を所望の位置に装入することができる。なお、順傾動とは、旋回シュート7を炉壁側から炉中心側に向かって駆動する駆動方式のことであり、逆傾動とは、旋回シュート7を炉中心側から炉壁側に向かって駆動する駆動方式のことである。
【0030】
出銑口8は、高炉1の炉底部に設けられており、鉱石原料を還元することによって生成された溶銑を出銑する。出銑口8は炉周方向に沿って複数設けられており、溶銑を連続的または間欠的に出銑することができる。
【0031】
<高炉の操業方法のフロー>
本発明の高炉の操業方法の一実施形態について、図2を参照しながら説明する。図2は、コークス比及び微粉炭比の決定手順を示した、還元材設定工程のフローチャートである。なお、本実施形態では、羽口から吹き込む水素系還元ガスをCOGとしているが、水素系還元ガスはこれに限るものではなく、例えば、都市ガス、天然ガス、LPG、メタンガス、水素ガス等を用いることもできる。
【0032】
高炉数学モデルを用いて、高炉に吹き込まれる所定のCOG吹込量[Nm/t]ごとに、高炉内の炭素削減率[%]とコークス比[kg/t]との関係情報(第1関係情報)を取得しておく(S110)。
【0033】
高炉数学モデルとは、高炉の内部領域を複数の小領域に分割し、各小領域において、予め設定した高炉操業条件や原料性状を、物質収支、運動量収支及びエネルギー収支の演算式に代入して演算処理を行うことにより、各小領域における固体(鉱石原料等)と炉内ガス(COガス、Hガスなど)との還元反応速度、炉内ガスの流れ、炉内ガス温度、炉内ガス組成等の状態変数を算出し、炉内状態を総合的にシミュレーションする数学モデルのことである。
例えば三次元高炉数学モデルであれば、高炉の内部領域を、高炉の高さ方向、径方向、周方向に分割することで、複数のメッシュ(小領域)を規定し、炉内状態を総合的にシミュレーションすることができる。また、二次元高炉数学モデルであれば、高炉の内部領域を、高炉の高さ方向と径方向とに分割することで、複数のメッシュを規定し、炉内状態を総合的にシミュレーションすることができる。
好適には、Kouji TAKATANIらの「Three-dimensional Dynamic Simulator for Blast Furnace」,ISIJ International,Vol.39(1999),No.1,p.15-22に記載の高炉数学モデルを用いることができる。
【0034】
羽口から吹き込む還元材を微粉炭のみとする基準操業に対して、少なくとも出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度が同一となるように、羽口から常温のCOGガスを吹き込んだときの炉内状態を総合的にシミュレーションすることにより、所定のCOG吹込量[Nm/t]ごとに、高炉内の炭素削減率[%]とコークス比[kg/t]との関係情報(第1関係情報)を取得することができる。表1は、基準操業の操業条件であり、図3は、これに対応する第1関係情報である。なお、基準操業が安定操業の状態であることは言うまでもない。
本実施形態では、COGの吹込量を50[Nm/t]、65[Nm/t]、80[Nm/t]、100[Nm/t]、150[Nm/t]、200[Nm/t]に設定し、それぞれの設定条件について高炉数学モデルによりシミュレーションしたが、設定する吹込量の個数は適宜増減することができる。また、シミュレーションにより得られた第1関係情報に基づき、別の吹込量における第1関係情報を推定してもよい。
【0035】
【表1】
【0036】
「炭素削減率」とは、基準操業の炭素消費原単位とCOGガス吹込み操業の炭素消費原単位の差を、基準操業の炭素消費原単位で除し、百分率にした値である。炭素消費原単位とは、溶銑1トンあたりの炭素消費量であり、溶銑1トンを製造するのに要したコークス、微粉炭及び水素系還元ガス中に含まれる合計炭素量をいう。
【0037】
COG吹込量ごとに、微粉炭比とコークス比との関係情報(第2関係情報)を取得しておく(S120)。図4は、第2関係情報の一例であり、上述の高炉数学モデルを用いたシミュレーションにより得られたものである。すなわち、図4は、基準操業に対して、COG吹込量を種々変更したときの、微粉炭比とコークス比との関係を示しており、横軸(CR)がコークス比[kg/t]、縦軸(PCR)が微粉炭比[kg/t]である。
【0038】
高炉に吹き込むCOGの吹込量Aを設定する(S130)。吹込量Aの設定方法は、特に限定しない。図3から明らかなように、COGの吹込量を増やすほど、炭素削減率が高くなるため、例えば、目標炭素削減率を高い値に設定した場合には、当該目標炭素削減率を達成し得る比較的高い吹込量を設定する必要がある。勿論、過去の操業実績等からCOGの吹込量が予め決まっている場合には、これを吹込量Aとしてもよい。S130は、請求項2における「ガス吹込量設定工程」に相当する。
【0039】
S110で取得された、所定のCOG吹込量ごとの、高炉内の炭素削減率[%]とコークス比との関係情報(第1関係情報)と、S120で取得された、所定のCOG吹込量ごとの、微粉炭比とコークス比との関係情報(第2関係情報)と、に基づいて、吹込量Aにおいて目標炭素削減率を達成できるように、コークス比及び微粉炭比を設定する(S140)。S140は、請求項2における「コークス比・微粉炭比設定工程」に相当する。
【0040】
COGの吹込量を吹込量Aに設定するとともに、S140で設定したコークス比及び微粉炭比にて高炉を操業することにより、基準操業よりも炭素消費量が削減され、目標炭素削減率を達成することができる。また、出銑量、炉頂ガス温度及び溶銑温度を基準操業と同一に維持しながら高炉を操業するため、高炉全体の熱バランスの変動を抑制しながら、炭素消費量を削減することができる。
【0041】
<コークス比及び微粉炭比の設定方法のフロー>
上述したS140の処理について、図5を参照しながら詳細に説明する。図5は、第1関係情報及び第2関係情報に基づくコークス比及び微粉炭比の設定方法を示すフローチャートである。
【0042】
本発明者らは、COGの吹込量を種々変更した、高炉内の炭素削減率[%]とコークス比との関係情報(第1関係情報)について検討を行った。その結果、COG吹込量に応じて、第1関係情報が単調増加となる場合と、第1関係情報が単調増加とならない場合と、があることを発見した。「第1関係情報が単調増加となる」とは、第1関係情報が、コークス比が増加するにつれて高炉内の炭素削減率も増加する関数であることを意味する。したがって、関数は必ずしも一次関数に限るものではなく、傾きが途中で変化する関数であってもよい。
「第1関係情報が単調増加とならない」とは、第1関係情報が、コークス比が増加するにつれて高炉内の炭素削減率も増加する単調増加部分と、コークス比が増加するにつれて高炉内の炭素削減率が減少する単調減少部分と、を有する関数であることを意味する。
【0043】
例えば、第1関係情報が単調増加である場合、コークス比を上限値に設定する(言い換えると、微粉炭比を0に設定する)ことにより、高炉内の炭素削減率を最大とすることができる。また、第1関係情報が単調増加でない場合、第1関係情報から予測式を作成し、この予測式に基づき、高炉内の炭素削減率を最大とするためのコークス比を推定することができる。
【0044】
図5に示すフローチャートは、上記の知見に基づくものであり、第1関係情報が、単調増加である場合と単調増加でない場合のそれぞれについて、コークス比及び微粉炭比の設定方法を示している。
【0045】
S130で設定された吹込量Aにおける第1関係情報が、単調増加であるかを判定する(S141)。所定の吹込量を閾値として、第1関係情報が単調増加であるかどうかが変化する場合には、この閾値と設定した吹込量Aとの大小関係に基づき、S141における判定を行ってもよい。当該判定方法について、図3を参照しながら一例を説明すると、吹込量=100(Nm/t)を閾値として、吹込量が100(Nm/t)超の場合には第1関係情報を単調増加と判定し、吹込量が100(Nm/t)以下の場合には第1関係情報を非単調増加と判別することができる。ただし、閾値の値はこれに限られず、操業条件や炉内に吹き込まれる水素系還元ガスの種類に応じて適宜変更することができる。
【0046】
ここで、COGの吹込量ごとの、コークス比と微粉炭比の関係情報(第2関係情報)を参照すると(図4)、コークス比及び微粉炭比には、負の相関関係(コークス比が増加すると微粉炭比が減少する関係)がある。微粉炭比を0未満に設定することはできないため、所定のCOG吹込量におけるコークス比には、上限が存する。上述の通り、設定した吹込量Aにおける第1関係情報が単調増加となる場合、目標炭素削減率を最大にするためにはコークス比を上限値に設定することとなるが、これは、微粉炭比を0に設定することを意味する。
【0047】
したがって、吹込量Aにおける第1関係情報が単調増加である場合(S141 Yes)、微粉炭比を0に設定した後(S142)、吹込量Aにおける第2関係情報において微粉炭比が0であるときのコークス比を、設定すべきコークス比として設定する(S143)。
【0048】
例えば、本実施形態において、COGの吹込量Aを150(Nm/t)に設定するとともに、目標炭素削減率を最大とする場合、図3を参照して、COG吹込量=150(Nm/t)における第1関係情報Xが単調増加であり、図3において炭素削減率が最大となる点Tは、コークス比が最大となる点であるから、微粉炭比を0(kg/t)に設定する。この点Tは、図4におけるCOG設定吹込量A=150(Nm/t)の第2関係情報X´において微粉炭比が0(kg/t)となる点T´に相当する。したがって、コークス比は、点T´におけるコークス比(約445(kg/t))に設定される。
【0049】
一方、COGの吹込量Aにおける第1関係情報が、単調増加でない場合には(S141 No)、目標炭素削減率を炭素削減率の最大値に設定し、COGの吹込量Aとしたときに最大炭素削減率を達成するためのコークス比を算出する予測式を作成する必要がある。
【0050】
予測式の作成方法について、説明する。なお、以下のS144~146が、請求項5における「コークス比設定工程」に相当し、S147が、請求項5における「微粉炭比設定工程」に相当する。
まず、単調増加とならない第1関係情報ごとに、最大炭素削減率に対応するコークス比(以下、ピークコークス比ともいう)を設定する(S144)。なお、単調増加とならない第1関係情報の全てについて、必ずしもピークコークス比を求める必要はなく、一部(ただし、当該「一部」は複数とする)の第1関係情報についてだけ、ピークコークス比を求めてもよい。S144は、請求項5における「ピークコークス比設定工程」に相当する。
【0051】
S144で求めたピークコークス比に基づいて、COG吹込量とコークス比との関係式を算出する(S145)。ここで、上述の通り、各ピークコークス比は、単調増加とならない第1関係情報ごとの、各第1関係情報における最大炭素削減率に対応するコークス比である。したがって、S145で算出される関係式は、「吹込量Aにおける最大炭素削減率を達成するためのコークス比を算出する予測式」として活用することができる。S145は、請求項5における「予測式算出工程」に相当する。
【0052】
S145で算出される関係式は、各COG吹込量と、各COG吹込量に対応するピークコークス比と、を用いて作成される線形近似式であってよい。例えば、図3において、COGの吹込量が50[Nm/t]、65[Nm/t]、80[Nm/t]であるときの、ピークコークス比は、それぞれ330[kg/t]、350[kg/t]、375[kg/t]である。これらを最小二乗法によって線形近似することにより、以下の関係式を算出することができる。この関係式の相関係数は|R|≒0.9985であった。すなわち、この関係式に基づけば、吹込量Aにおける最大炭素削減率を達成するためのコークス比を、良好な精度で予測し得る。
(コークス比) = 1.42×(COG吹込量)+259±25 ・・・(I)
ただし、S145における関係式の算出方法は、上述の線形近似に限られず、最小二乗法により曲線(対数関数や指数関数)近似してもよい。また、S145における近似方法は、最小二乗法に限られず、既知の他の近似式により算出してもよい。
【0053】
ここで、実操業では、原料性状等に多少のばらつきがあることから、炭素削減率が0.5%程度変動する可能性がある。したがって、実際の高炉操業で想定される炭素削減率の予測変動幅に基づいて、有意な差となるように「+α」または「-α」を考慮することによって、関係式を算出してもよい。これにより、実操業における炭素削減率の変動に追従し得るコークス比を算出することができる。例えば、上述の式(I)では、有意な差となる炭素削減率の予測変動幅を「±0.5%」に設定し、当該予測変動幅に基づいて、コークス比±25[kg/t]としている。
【0054】
S145で算出された関係式と、S130で予め設定されたCOGの吹込量Aと、に基づいて、COGの吹込量Aに対応するコークス比を算出し(S146)、該コークス比を、高炉操業において用いるコークス比として設定する。例えば、S145において、上述の式(I)が関係式として得られた場合には、S146において、吹込量Aを式(I)に代入することにより、吹込量Aに対応するコークス比を算出する。S146は、請求項5における「コークス比算出工程」に相当する。
【0055】
吹込量Aにおける第2関係情報に基づいて、S146で算出されたコークス比に対応する微粉炭比を求め、該微粉炭比を、設定すべき微粉炭比として設定する(S147)。
【0056】
(変形例1)
上述の実施形態では、目標炭素削減率を最大値に設定したが、本発明はこれに限るものではなく、任意の炭素削減率(例えば、最大値の80%)に設定することができる。この場合、図5のフローチャートのS142及びS143における処理(第1関係情報が単調増加であるときの処理)は、吹込量Aに対応する第1関係情報(図3参照)から、目標炭素削減率(最大値の80%)に対応するコークス比を決定し(以下、決定コークス比という)、吹込量Aの第2関係情報(図4参照)から、決定コークス比に対応する微粉炭比を求める処理とすればよい。また、図5のフローチャートにおけるS144~S147(第1関係情報が単調増加でないときの処理)では、最大値の80%に対応するコークス比をピークコークス比として、関係式を算出した後、S146及びS147に示す処理を行えばよい。
【0057】
(変形例2)
上述の実施形態では、S144~S146(第1関係情報が単調増加でないときの処理)において、ピークコークス比から算出した関係式に基づき、コークス比を決定したが、本発明はこれに限るものではなく、関係式を作成することなく、吹込量Aに対応する第1関係情報(図3参照)から目標炭素削減率に対応するコークス比を決定し(以下、決定コークス比という)、吹込量Aの第2関係情報(図4参照)から、決定コークス比に対応する微粉炭比を求めてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 高炉 2 羽口 3 環状管 4 ブローパイプ 5 補助還元材吹込みランス 6 微粉炭吹込みランス 7 旋回シュート 8 出銑口


図1
図2
図3
図4
図5