IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特開-方位異常検知装置 図1
  • 特開-方位異常検知装置 図2
  • 特開-方位異常検知装置 図3
  • 特開-方位異常検知装置 図4
  • 特開-方位異常検知装置 図5
  • 特開-方位異常検知装置 図6
  • 特開-方位異常検知装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085101
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】方位異常検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20240619BHJP
   G05D 1/00 20240101ALI20240619BHJP
【FI】
G01C21/28
G05D1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199447
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】坂元 優太
【テーマコード(参考)】
2F129
5H301
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129BB21
2F129BB22
2F129BB26
2F129BB33
2F129BB49
2F129EE52
2F129GG02
2F129GG18
5H301FF11
5H301GG17
5H301HH01
5H301HH02
(57)【要約】
【課題】位置変化センサを使用する際に、移動体の移動方位の異常を高精度に検知することができる方位異常検知装置を提供する。
【解決手段】方位異常検知装置10は、GPS受信機3の検出信号に基づいて、車両2の移動距離Lを算出する距離算出部12と、車両2の移動方位Diを検出する慣性計測ユニット4と、GPS受信機3の検出信号に基づいて算出された車両2の移動方位Dpと慣性計測ユニット4により検出された車両2の移動方位Diとの差分を方位差として算出する方位差算出部13と、車両2の移動距離Lに応じて方位差が許容される範囲を変化させる方位差許容閾値を設定する閾値設定部14と、方位差算出部13により算出された方位差と閾値設定部14により設定された方位差許容閾値とを比較し、方位差が方位差許容閾値以上であるときに、移動方位Dpが異常であると判定する異常判定部15とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の位置変化を検出する位置変化センサの検出信号に基づいて算出された前記移動体の移動方位が異常であるかどうかを検知する方位異常検知装置であって、
前記位置変化センサの検出信号に基づいて、前記移動体の移動距離を算出する距離算出部と、
前記移動体の移動方位を検出する方位センサと、
前記位置変化センサの検出信号に基づいて算出された前記移動体の移動方位である第1方位と前記方位センサにより検出された前記移動体の移動方位である第2方位との差分を方位差として算出する方位差算出部と、
前記距離算出部により算出された前記移動体の移動距離に応じて前記方位差が許容される範囲を変化させる方位差許容閾値を設定する閾値設定部と、
前記方位差算出部により算出された前記方位差と前記閾値設定部により設定された前記方位差許容閾値とを比較し、前記方位差が前記方位差許容閾値以上であるときに、前記第1方位が異常であると判定する異常判定部とを備える方位異常検知装置。
【請求項2】
前記閾値設定部は、前記距離算出部により算出された前記移動体の移動距離が短くなるに従って前記方位差許容閾値を大きくする請求項1記載の方位異常検知装置。
【請求項3】
前記閾値設定部は、前記移動体の移動距離と前記位置変化センサの距離誤差と前記移動体が単位距離だけ移動する間に許容可能な方位差とに基づいて、前記方位差許容閾値を設定する請求項2記載の方位異常検知装置。
【請求項4】
前記閾値設定部は、前記移動体の移動距離をLとし、前記位置変化センサの距離誤差をEとし、前記移動体が単位距離だけ移動する間に許容可能な方位差をD_baseとし、前記方位差許容閾値をD_diffとすると、D_diff=D_base/(L-E)により前記方位差許容閾値を算出する請求項3記載の方位異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方位異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の方位異常検知装置としては、例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載の方位異常検知装置は、地磁気センサで検出したデータにより移動対象の移動方位変化Δθmを算出すると共に、加速度センサで検出した移動対象の加速度と距離センサで検出した移動対象の移動距離とに基づいて、移動対象の移動方位変化Δθaを算出し、移動方位変化Δθmと移動方位変化Δθaとの差に応じて地磁気センサの正常または異常を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-288022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の地磁気センサによらず、GPS受信機等のように移動体の位置変化を検出する位置変化センサの計測値に基づいて、移動体の移動方位を算出する場合であっても、移動体の走行速度等の条件によって計測結果に誤差が生じるため、移動方位の異常判定を正しく行うことができない。例えば、GPS測位点から移動体の移動方位を算出する場合は、移動体が低速走行になるほどGPS測位点の軌跡のブレが大きくなるため、移動方位の異常であるのか単なるGPSの誤差であるのかを判定することができない。
【0005】
本発明の目的は、位置変化センサを使用する際に、移動体の移動方位の異常を高精度に検知することができる方位異常検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、移動体の位置変化を検出する位置変化センサの検出信号に基づいて算出された移動体の移動方位が異常であるかどうかを検知する方位異常検知装置であって、位置変化センサの検出信号に基づいて、移動体の移動距離を算出する距離算出部と、移動体の移動方位を検出する方位センサと、位置変化センサの検出信号に基づいて算出された移動体の移動方位である第1方位と方位センサにより検出された移動体の移動方位である第2方位との差分を方位差として算出する方位差算出部と、距離算出部により算出された移動体の移動距離に応じて方位差が許容される範囲を変化させる方位差許容閾値を設定する閾値設定部と、方位差算出部により算出された方位差と閾値設定部により設定された方位差許容閾値とを比較し、方位差が方位差許容閾値以上であるときに、第1方位が異常であると判定する異常判定部とを備える。
【0007】
このような方位異常検知装置においては、位置変化センサの検出信号に基づいて、移動体の移動距離が算出される。また、方位センサにより移動体の移動方位が検出される。そして、位置変化センサの検出信号に基づいて算出された移動体の移動方位(第1方位)と方位センサにより検出された移動体の移動方位(第2方位)との差分が方位差として算出される。また、移動体の移動距離に応じて方位差が許容される範囲を変化させる方位差許容閾値が設定される。そして、第1方位と第2方位との方位差と方位差許容閾値とが比較され、当該方位差が方位差許容閾値以上であるときに、第1方位が異常であると判定される。このように第1方位と第2方位との方位差と移動体の移動距離に応じて方位差が許容される範囲を変化させる方位差許容閾値とが比較されることで、位置変化センサの検出信号に基づいて算出された第1方位が異常であるかどうかが判定されることとなる。これにより、位置変化センサを使用する際に、移動体の移動方位の異常が高精度に検知される。
【0008】
閾値設定部は、距離算出部により算出された移動体の移動距離が短くなるに従って方位差許容閾値を大きくしてもよい。このような構成では、移動体が低速走行することで、移動体の移動距離が短くなると、方位差許容閾値が大きくなるため、第1方位が異常であると判定されにくくなる。従って、例えば位置変化センサとして低速時ほど誤差が生じやすいGPS受信機が使用される場合でも、移動体の移動方位の異常が確実に高精度に検知される。
【0009】
閾値設定部は、移動体の移動距離と位置変化センサの距離誤差と移動体が単位距離だけ移動する間に許容可能な方位差とに基づいて、方位差許容閾値を設定してもよい。このような構成では、位置変化センサが潜在的に持っている距離誤差と、移動体が単位距離だけ移動する間に許容可能となるように予め決められた方位差とを考慮して、方位差許容閾値が設定されることとなる。従って、移動体の移動方位の異常がより高精度に検知される。
【0010】
閾値設定部は、移動体の移動距離をLとし、位置変化センサの距離誤差をEとし、移動体が単位距離だけ移動する間に許容可能な方位差をD_baseとし、方位差許容閾値をD_diffとすると、D_diff=D_base/(L-E)により方位差許容閾値を算出してもよい。このような構成では、方位差許容閾値が単純な計算式を用いて容易に設定されるため、演算処理の簡素化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、位置変化センサを使用する際に、移動体の移動方位の異常を高精度に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る方位異常検知装置を備えた走行制御装置の構成を示すブロック図である。
図2図1に示されたコントローラにより実行される方位異常検知処理の手順を示すフローチャートである。
図3】車両の移動方位Dpと車両の移動方位Diとの差分Dと、方位差許容閾値D_diffを設定する計算式とを示す概念図である。
図4】車両の移動距離L及び移動方位Dpと、GPS受信機が持つ距離誤差Eとを示す概念図である。
図5】車両の移動方位Dp及び車両の移動方位Diと、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dである方位差とを時系列に示す概念図である。
図6】車両の移動距離L、移動方位Dp及び車両の移動方位Diの一例と、その時の方位差とを示す概念図である。
図7】車両の移動距離L、移動方位Dp及び車両の移動方位Diの他の例と、その時の方位差とを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る方位異常検知装置を備えた走行制御装置の構成を示すブロック図である。図1において、走行制御装置1は、自動車または産業車両等の車両2(移動体)に搭載されている。走行制御装置1は、車両2の自動運転時に車両2の走行制御を行う装置である。
【0015】
走行制御装置1は、GPS受信機3と、慣性計測ユニット(IMU:InertialMeasurement Unit)4と、駆動部5と、コントローラ6とを備えている。
【0016】
GPS受信機3は、GPS衛星から送信される電波を受信して、車両2の現在位置を計測する。GPS受信機3は、規定時間毎に車両2の現在位置を順次計測する。GPS受信機3により計測される位置は、緯度及び経度で表される絶対座標系での座標位置である。GPS受信機3は、車両2の位置変化を検出する位置変化センサを構成している。
【0017】
慣性計測ユニット4は、車両2の加速度、角速度及び方位等を計測するユニットである。慣性計測ユニット4は、車両2が移動する方位(移動方位)を検出する方位センサを構成している。
【0018】
駆動部5は、例えば図示はしないが、車両2を走行させる走行モータと、車両2を操舵する操舵モータとを有している。
【0019】
コントローラ6は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。コントローラ6は、方位算出部11と、距離算出部12と、方位差算出部13と、閾値設定部14と、異常判定部15と、自己位置推定部16と、走行制御部17とを有している。
【0020】
走行制御装置1は、GPS受信機3の計測値(検出データ)に基づいて算出された車両2の移動方位が異常であるかどうかを検知する方位異常検知装置10を備えている。方位異常検知装置10は、慣性計測ユニット4と、距離算出部12と、方位差算出部13と、閾値設定部14と、異常判定部15とを備えている。
【0021】
方位算出部11は、GPS受信機3の検出信号に基づいて、車両2が移動する方位(移動方位)を算出する。
【0022】
距離算出部12は、GPS受信機3の検出信号に基づいて、車両2が移動する距離(移動距離)を算出する。
【0023】
方位差算出部13は、GPS受信機3の検出信号に基づいて算出された車両2の移動方位(第1方位)と慣性計測ユニット4により検出された車両2の移動方位(第2方位)との差分を方位差として算出する。
【0024】
閾値設定部14は、距離算出部12により算出された車両2の移動距離に応じて方位差が許容される範囲を変化させる方位差許容閾値を設定する。このとき、閾値設定部14は、車両2の移動距離が短くなるに従って方位差許容閾値を大きくする。
【0025】
異常判定部15は、方位差算出部13により算出された方位差と閾値設定部14により設定された方位差許容閾値とを比較し、方位差が方位差許容閾値以上であるときに、GPS受信機3の検出信号から得られた第1方位が異常であると判定する。
【0026】
自己位置推定部16は、GPS受信機3及び慣性計測ユニット4の検出信号に基づいて、車両2の自己位置を推定する。例えば、自己位置推定部16は、GPS受信機3の測位精度が高いときは、GPS受信機3の検出信号に基づいて車両2の自己位置を推定する。自己位置推定部16は、GPS受信機3の測位精度が低いときは、慣性計測ユニット4の検出信号に基づいて車両2の自己位置を推定する。
【0027】
走行制御部17は、自己位置推定部16により推定された車両2の自己位置に基づいて、車両2を目的地まで自動走行させるように駆動部5を制御する。
【0028】
図2は、コントローラ6により実行される方位異常検知処理の手順を示すフローチャートである。本処理は、車両2が始動されると実行される。
【0029】
図2において、コントローラ6は、まずGPS受信機3の測位点の座標位置(以下、GPS測位点の座標位置という)を取得する(手順S101)。GPS測位点の座標位置は、GPS受信機3により計測された車両2の座標位置に相当する。続いて、コントローラ6は、取得されたGPS測位点の座標位置が車両2の始動後に計測された初回のGPS測位点の座標位置でないかどうかを判断する(手順S102)。
【0030】
コントローラ6は、取得されたGPS測位点の座標位置が初回のGPS測位点の座標位置であると判断したときは、手順S101を再度実行する。これにより、少なくとも2つのGPS測位点の座標位置が取得されることとなる。
【0031】
コントローラ6は、取得されたGPS測位点の座標位置が初回のGPS測位点の座標位置でないと判断したときは、前回取得されたGPS測位点の座標位置を読み込む(手順S103)。
【0032】
そして、コントローラ6は、図3に示されるように、今回取得されたGPS測位点P1の座標位置と前回取得されたGPS測位点P0の座標位置とから、車両2の移動距離Lを算出する(手順S104)。車両2の移動距離Lは、車両2の位置変化量である。
【0033】
また、コントローラ6は、図3に示されるように、今回取得されたGPS測位点P1の座標位置と前回取得されたGPS測位点P0の座標位置とから、車両2の移動方位Dp(第1方位)を算出する(手順S105)。移動方位Dpは、GPS測位点P1とGPS測位点P0との間の方位である。
【0034】
続いて、コントローラ6は、慣性計測ユニット4により検出された車両2の移動方位Di(第2方位)を取得する(手順S106)。慣性計測ユニット4により検出された移動方位Diは、ローカル座標系での方位角として表されている。そして、コントローラ6は、移動方位Diを絶対座標系での方位角に変換する(手順S107)。これにより、移動方位Diが移動方位Dpと同じ絶対座標系で表されることとなる。
【0035】
続いて、コントローラ6は、手順S104で算出された移動距離Lに応じて移動方位Dpと移動方位Diとの方位差が許容される範囲を変化させる方位差許容閾値D_diffを算出する(手順S108)。ここで、GPS受信機3の距離誤差をEとし、車両2が単位距離(例えば1m)だけ移動する間に許容可能な移動方位Dpと移動方位Diとの方位差をD_baseとしたときに、方位差許容閾値D_diffは下記式により算出される。方位差許容閾値D_diffは、車両2の移動距離Lが短くなるに従って連続的に大きくなるように設定される。
D_diff=D_base/(L-E)
【0036】
GPS受信機3の距離誤差Eは、GPS受信機3が潜在的に持っている静的な誤差である。GPS受信機3の距離誤差Eは、図4に示されるように、真の位置Gを中心とした円の半径に相当する。例えばRTK-GPSでは、0.05m程度の距離誤差Eを持っている。
【0037】
続いて、コントローラ6は、図3に示されるように、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値を方位差として算出する(手順S109)。そして、コントローラ6は、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値を方位差許容閾値D_diffと比較し、差分Dの絶対値が方位差許容閾値D_diff以上であるかどうかを判断する(手順S110)。
【0038】
コントローラ6は、差分Dの絶対値が方位差許容閾値D_diff以上であると判断したときは、移動方位Dpが異常であると判定し(手順S111)、上記の手順S101を再度実行する。
【0039】
コントローラ6は、差分Dの絶対値が方位差許容閾値D_diff以上でないと判断したときは、移動方位Dpが正常であると判定し(手順S112)、上記の手順S101を再度実行する。
【0040】
なお、上記の処理では、手順S105の実行後に手順S106,S107が実行されているが、手順S107の実行後に手順S103~S105を実行してもよいし、或いは手順S103~S105及び手順S106,S107を併行して実行してもよい。
【0041】
以上において、方位算出部11は、手順S103,S105を実行する。距離算出部12は、手順S103,S104を実行する。方位差算出部13は、手順S106,S107,S109を実行する。閾値設定部14は、手順S108を実行する。異常判定部15は、手順S110~S112を実行する。
【0042】
ところで、GPS受信機3は、上述したように静的な距離誤差Eを持っている。従って、図5(a)に示されるように、車両2が直線走行を行う場合でも、GPS受信機3の静的な距離誤差Eによって、GPS測位点P間から求められる移動方位Dpがばらつく。このとき、車両2の走行速度が低速になるほど、GPS測位点P間の距離が短くなり、GPS測位点Pの軌跡のブレが大きくなるため、移動方位Dpのばらつきが大きくなる。一方、慣性計測ユニット4により検出される移動方位Diについては、車両2の走行速度の違いによるばらつきが少ない。このため、図5(b)に示されるように、車両2の走行速度が低速になるほど、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値が大きくなりやすい。
【0043】
ここで、図6に示されるように、車両2の低速走行時に、車両2自体もGPS測位点Pも前進している場合、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値は、例えば40degである。また、車両2の低速走行時に、車両2の移動距離Lが0.2mであり、GPS受信機3の距離誤差Eが0.05mであり、車両2が単位距離だけ移動する間に許容可能な方位差D_baseが10degである場合、方位差許容閾値D_diffは以下の通りである。
D_diff=10deg/(0.2m-0.05m)≒66.7deg/m
【0044】
この場合、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値は、方位差許容閾値D_diffよりも小さい。このため、GPS受信機3の検出信号に基づいて算出された移動方位Dpは、異常ではないと検知される。
【0045】
一方、車両2の高速走行時に、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値は、例えば5degである。また、車両2の高速走行時に、車両2の移動距離Lが1.5mであり、GPS受信機3の距離誤差Eが0.05mであり、車両2が単位距離だけ移動する間に許容可能な方位差D_baseが10degである場合、方位差許容閾値D_diffは以下の通りである。
D_diff=10deg/(1.5m-0.05m)≒6.9deg/m
【0046】
この場合、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値は、方位差許容閾値D_diffよりも小さい。このため、GPS受信機3の検出信号に基づいて算出された移動方位Dpは、異常ではないと検知される。
【0047】
図7に示されるように、車両2の低速走行時に、車両2は前進しているが、GPS測位点Pが後進している場合、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値は、例えば100degである。また、車両2の低速走行時に、車両2の移動距離Lが0.1mであり、GPS受信機3の距離誤差Eが0.05mであり、車両2が単位距離だけ移動する間に許容可能な方位差D_baseが10degである場合、方位差許容閾値D_diffは以下の通りである。
D_diff=10deg/(0.1m-0.05m)≒200deg/m
【0048】
この場合、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値は、方位差許容閾値D_diffよりも小さい。このため、GPS受信機3の検出信号に基づいて算出された移動方位Dpは、異常ではないと検知される。
【0049】
一方、車両2の高速走行時に、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値は、例えば30degである。また、車両2の高速走行時に、車両2の移動距離Lが1.5mであり、GPS受信機3の距離誤差Eが0.05mであり、車両2が単位距離だけ移動する間に許容可能な方位差D_baseが10degである場合、方位差許容閾値D_diffは以下の通りである。
D_diff=10deg/(1.5m-0.05m)≒6.9deg/m
【0050】
この場合、移動方位Dpと移動方位Diとの差分Dの絶対値は、方位差許容閾値D_diffよりも大きい。このため、GPS受信機3の検出信号に基づいて算出された移動方位Dpは、異常であると検知される。
【0051】
以上のように本実施形態にあっては、GPS受信機3の検出信号に基づいて、車両2の移動距離Lが算出される。また、慣性計測ユニット4により車両2の移動方位Diが検出される。そして、GPS受信機3の検出信号に基づいて算出された車両2の移動方位Dp(第1方位)と慣性計測ユニット4により検出された車両2の移動方位Di(第2方位)との差分Dが方位差として算出される。また、車両2の移動距離Lに応じて方位差が許容される範囲を変化させる方位差許容閾値D_diffが設定される。そして、移動方位Dpと移動方位Diとの方位差と方位差許容閾値D_diffとが比較され、当該方位差が方位差許容閾値D_diff以上であるときに、移動方位Dpが異常であると判定される。このように移動方位Dpと移動方位Diとの方位差と車両2の移動距離Lに応じて方位差が許容される範囲を変化させる方位差許容閾値D_diffとが比較されることで、GPS受信機3の検出信号に基づいて算出された移動方位Dpが異常であるかどうかが判定されることとなる。これにより、GPS受信機3を使用する際に、車両2の移動方位の異常が高精度に検知される。その結果、車両2の低速走行時にGPS受信機3により発生しやすい移動方位Dpのばらつきを考慮しつつ、車両2の高速走行時における移動方位Dpの信頼性を確保することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態では、車両2の移動距離Lが短くなるに従って方位差許容閾値D_diffが大きくなる。この場合には、車両2が低速走行することで、車両2の移動距離Lが短くなると、方位差許容閾値D_diffが大きくなるため、移動方位Dpが異常であると判定されにくくなる。従って、低速時ほど誤差が生じやすいGPS受信機3を使用する場合でも、車両2の移動方位の異常が確実に高精度に検知される。
【0053】
また、本実施形態では、車両2の移動距離LとGPS受信機3の距離誤差Eと車両2が単位距離だけ移動する間に許容可能な方位差D_baseとに基づいて、方位差許容閾値D_diffが設定される。この場合には、GPS受信機3が潜在的に持っている距離誤差Eと、車両2が単位距離だけ移動する間に許容可能となるように予め決められた方位差D_baseとを考慮して、方位差許容閾値D_diffが設定されることとなる。従って、車両2の移動方位の異常がより高精度に検知される。
【0054】
また、本実施形態では、D_diff=D_base/(L-E)により方位差許容閾値D_diffが算出される。この場合には、方位差許容閾値D_diffが単純な計算式を用いて容易に設定されるため、演算処理の簡素化を図ることができる。
【0055】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば上記実施形態では、D_diff=D_base/(L-E)という計算式を用いて方位差許容閾値D_diffが算出されているが、特にその形態には限られず、例えば上記の計算式にオフセット項を加えてもよいし、或いは上記の計算式に補正係数を掛けてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、車両2の移動距離Lが短くなるに従って方位差許容閾値D_diffが連続的に大きくなるように設定されているが、特にその形態には限られず、例えば車両2の移動距離Lが短くなるに従って方位差許容閾値D_diffを段階的に大きくしてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、慣性計測ユニット4によって車両2の移動方位Diが検出されているが、車両2の移動方位Diを検出する方位センサとしては、特に慣性計測ユニット4には限られず、ジャイロセンサ等を使用してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、GPS受信機3により検出された車両2の位置変化に基づいて車両2の移動距離L及び移動方位Dpが算出されているが、車両2の位置変化を検出する位置変化センサとしては、特にGPS受信機3には限られず、例えばLIDAR(Light Detection and Ranging)等といったレーザセンサを使用してもよい。この場合、SLAM(simultaneous localization andmapping)手法を用いて、車両2の自己位置が推定される。SLAMは、レーザセンサの検出データと地図データとをマッチングさせて自己位置を推定する技術である。
【0059】
また、上記実施形態では、車両2の自動運転時に、GPS受信機3等の位置変化センサの検出信号に基づいて算出された車両2の移動方位が異常であるかどうかが検知されているが、本発明は、特に自動運転時には限られず、手動運転時にも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
2…車両(移動体)、3…GPS受信機(位置変化センサ)、4…慣性計測ユニット(方位センサ)、10…方位異常検知装置、12…距離算出部、13…方位差算出部、14…閾値設定部、15…異常判定部、Dp…移動方位(第1方位)、Di…移動方位(第2方位)、D…差分(方位差)、D_base…方位差、D_diff…方位差許容閾値、E…距離誤差、L…移動距離。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7