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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085107
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】構造物の製造方法、構造物
(51)【国際特許分類】
   B22F 5/10 20060101AFI20240619BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240619BHJP
   B22F 10/38 20210101ALI20240619BHJP
   H05B 6/42 20060101ALI20240619BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240619BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240619BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240619BHJP
【FI】
B22F5/10
B22F10/28
B22F10/38
H05B6/42
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199457
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】孫 岳
(72)【発明者】
【氏名】大塚 篤
(72)【発明者】
【氏名】松久 浩一郎
【テーマコード(参考)】
3K059
4K018
【Fターム(参考)】
3K059AA09
3K059AA10
3K059AD03
3K059CD48
3K059CD52
3K059CD72
4K018HA01
4K018KA32
(57)【要約】
【課題】冷却効率に優れた構造物を実現するのに有効な技術を提供する。
【解決手段】冷媒が流れる冷却管路11と、冷却管路11の内面に設けられた突起物13と、を備える構造物10の製造方法は、冷却管路の平均温度と最高温度の和を目的関数とし、目的関数の値が最小値となるように突起物13の構造にかかる突起物構造パラメータを最適化する最適化工程S1~S6と、最適化工程S1~S6で最適化した突起物構造パラメータに基づいて金属付加製造装置により構造物10を造形する造形工程S7と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が流れる冷却管路と、前記冷却管路の内面に設けられた突起物と、を備える構造物の製造方法であって、
前記冷却管路の平均温度と最高温度の和を目的関数とし、前記目的関数の値が最小値となるように前記突起物の構造にかかる突起物構造パラメータを最適化する最適化工程と、
前記最適化工程で前記突起物構造パラメータを最適化してなる形状モデルに基づいて、金属付加製造装置により前記構造物を造形する造形工程と、
を有する、構造物の製造方法。
【請求項2】
前記構造物は、高周波加熱用のコイルである、請求項1に記載の、構造物の製造方法。
【請求項3】
前記構造物は、前記冷却管路が環状をなし環内空間に被加熱体を挿入可能に構成される、請求項2に記載の、構造物の製造方法。
【請求項4】
前記構造物は、コイル外面を加熱面として前記冷却管路が被加熱体の被加熱面に沿って延びるように構成される、請求項2に記載の、構造物の製造方法。
【請求項5】
前記冷却管路は、複数の内面を有し、前記突起物は、前記最適化工程によって前記冷却管路の前記複数の内面のうちの内径側内面のみに前記冷却管路の中間地点よりも下流側の数が上流側の数を上回るように設けられる、請求項2に記載の、構造物の製造方法。
【請求項6】
前記突起物は、前記最適化工程によって前記冷却管路の軸方向の間隙を隔てて対向する一対配置とされ、且つ、一対の前記突起物と周方向に隣り合う別の一対の前記突起物との位置が前記軸方向にずれるように設けられる、請求項2に記載の、構造物の製造方法。
【請求項7】
一対の前記突起物は、互いに対向する対向面の間隔が前記冷却管路の下流側に向かうにつれて漸増するように開いた向きで配置される、請求項6に記載の、構造物の製造方法。
【請求項8】
一対の前記突起物は、前記冷却管路の流通空間の前記軸方向の中央を前記周方向に延びるように形成される周方向基準線が前記間隙に位置するように配置される、請求項6に記載の、構造物の製造方法。
【請求項9】
前記突起物構造パラメータは、前記突起物の数、形状、位置、向きの少なくとも1つである、請求項1~8のいずれか一項に記載の、構造物の製造方法。
【請求項10】
冷媒が流れる冷却管路と、前記冷却管路の内面に設けられた突起物と、を備える構造物あって、高周波加熱用のコイルとして構成されており、
前記冷却管路は、複数の内面を有し、前記突起物は、前記冷却管路の前記複数の内面のうちの内径側内面のみに前記冷却管路の中間地点よりも下流側の数が上流側の数を上回るように設けられている、構造物。
【請求項11】
前記構造物は、前記冷却管路が環状をなし環内空間に被加熱体を挿入可能に構成されている、請求項10に記載の構造物。
【請求項12】
前記構造物は、コイル外面を加熱面として前記冷却管路が被加熱体の被加熱面に沿って延びるように構成されている、請求項10に記載の構造物。
【請求項13】
前記突起物は、前記冷却管路の軸方向の間隙を隔てて対向する一対配置とされ、且つ、一対の前記突起物と周方向に隣り合う別の一対の前記突起物との位置が前記軸方向にずれるように設けられている、請求項10に記載の構造物。
【請求項14】
一対の前記突起物は、互いに対向する対向面の間隔が前記冷却管路の下流側に向かうにつれて漸増するように開いた向きで配置されている、請求項13に記載の構造物。
【請求項15】
一対の前記突起物は、前記冷却管路の流通空間の前記軸方向の中央を前記周方向に延びるように形成される周方向基準線が前記間隙に位置するように配置されている、請求項13に記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、高周波加熱コイル(以下、単に「コイル」という。)が開示されている。コイルは、対象物に形成された穴部に挿入された状態で使用され、誘電加熱によりこの対象物を加熱する。このコイルを構成するパイプの冷却管路には複数の凸部が設けられている。凸部は、周方向に沿って均一に形成された三角錐状の突起物であり、コイルの強度を高めるとともに、パイプと冷媒との接触面積を増やしてコイルの冷却効率を高めることを目的としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-220063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成のコイルは、パイプの冷却管路に設けられている突起物が冷媒の流量低下を生じさせる要因になる。このため、冷却管路に単に突起物を設けて冷媒との接触面積を増やしたとしても、単純に冷媒による冷却効率を最大化できるとは限らない。すなわち、突起物が冷却管路の流れを複雑化させるため温度ムラが生じ易く、冷媒入口から冷媒出口までの間で局所的に高温となる箇所が発生するおそれがある。例えば、コイルの冷媒出口側に高温部が局所的に形成されると、冷媒入口側の冷却効果に比べて冷媒出口側の冷却効果が大幅に下がることになり、コイル全体を冷却する効果が制限されることになる。このような問題は、コイルのような構造物のみならず、冷却管路を有する同種の構造物においても同様に生じ得る。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、冷却効率に優れた構造物を実現するのに有効な技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
冷媒が流れる冷却管路と、前記冷却管路の内面に設けられた突起物と、を備える構造物の製造方法であって、
前記冷却管路の平均温度と最高温度の和を目的関数とし、前記目的関数の値が最小値となるように前記突起物の構造にかかる突起物構造パラメータを最適化する最適化工程と、
前記最適化工程で前記突起物構造パラメータを最適化してなる最適化形状に基づいて、金属付加製造装置により前記構造物を造形する造形工程と、
を有する、構造物の製造方法、
にある。
【発明の効果】
【0007】
上述の態様の製造方法では、先ず、最適化工程を実行する。この最適化工程によれば、冷却管路の平均温度と最高温度の和である目的関数の値が最小値となるように突起物構造パラメータが最適化される。ここで、冷却管路の平均温度は、構造物に対する冷却性能が高いか否かを表す指標となる。また、冷却管路の最高温度は、冷却管路の局所的な高温状態を解消できるか否かを表す指標となる。このため、冷却管路の平均温度と最高温度の和を小さく抑えることができれば、構造物の全体にわたる冷却効率を高めるのに有効である。そこで、冷却管路の平均温度と最高温度の和である目的関数の値が最小値となるように突起物構造パラメータを最適化する。これにより、構造物の形状を冷却効率の高い最適化形状とすることができる。そして、最適化工程に引き続いて造形工程を実行することによって、冷却効率の高い構造物を実際に造形することができる。
【0008】
以上のごとく、上述の各態様によれば、冷却効率に優れた構造物を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1の構造物の基本構成を示す斜視図。
図2図1のII-II線矢視断面図。
図3】実施形態1の金属付加製造装置の構成を示す図。
図4図3中の最適形状設計装置のブロック図。
図5】実施形態1の製造方法のフローチャート。
図6図5中の最適化工程で最適化された構造物の断面図。
図7図6の構造物の突起物を径方向外方からみた図。
図8図6の構造物の変更例について図7に対応した図。
図9】実施形態2の構造物について図2に対応した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上述の態様の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0011】
なお、本形態を説明するための図面では、特にことわらない限り、構造物の環状部の径方向をX方向とし、環状部の軸方向をY方向とし、環状部の周方向をZ方向とする。
【0012】
(実施形態1)
1.構造物10の基本構成
図1に示されるように、実施形態1の構造物10は、冷媒が流れる冷却管路11を有するコイルである。特に、本形態の構造物10は、冷却管路11が環状をなし環内空間20に、円柱形状の被加熱体Wを挿入可能に構成された高周波加熱用のコイルとして形成されている。構造物10には、誘導加熱電源(図示省略)より送られる高周波の交流電流が流れる。そして、構造物10に交流電流が流れると、環内空間20に挿入された被加熱体Wの周りに磁界が発生し、このときに生じる電磁場が被加熱体Wの内部に渦電流を誘導する。これより、構造物10と被加熱体Wとの物理的な接触なしに、被加熱体Wを誘導加熱することができる。
【0013】
構造物10の冷却管路11には、2つの接続管路14,15が接続されている。冷却管路11内の流通空間12には、構造物10を冷却するための冷媒が流れる。この冷媒は、接続管路14側の流入口12aを通じて流通空間12に流入したのち、この流通空間12から接続管路15側の流出口12bを通じて流出する。
【0014】
図2に示されるように、構造物10の冷却管路11は、複数の内面(図2では4つの内面11a,11b,11c,11d)を有し、これら複数の内面によって流通空間12が区画されている。内面11aは、複数の内面のうちの内径側内面であり、内面11bは、複数の内面のうちの外径側内面である。内面11c,11dは、複数の内面のうちの軸方向内面である。冷却管路11のうち内周壁面11eを含む対向部Hは、被加熱体Wに対向する部位である。この対向部Hは、冷却管路11の中で最も高温となる高温部である。その理由として、最も内側の部位である対向部Hに交流電流が流れ易いこと、内周壁面11eが被加熱体Wの加熱時の熱輻射の影響を受け易いこと、などが挙げられる。
【0015】
図2に示されるように、冷却管路11の内面11aのみに複数の突起物13が設けられている。本形態では、一対の突起物13が冷却管路11の内面11aにY方向に並置して設けられている。冷却管路11の内面11aに突起物13を設けることにより、突起物13の無い場合に比べて構造物10の強度を高めることができる。
【0016】
2.金属付加製造装置101の構成
図3に示される金属付加製造装置(以下、単に「製造装置」という。)101は、上記構成の構造物10を製造するためのものである。本形態では、製造装置101として粉末床溶融結合方式を採用する場合について例示している。この製造装置101は、層状に積層配置された材料粉末としての金属粉末Sに、金属粉末Sを溶融することができる種々の光ビーム140aの照射を繰り返すことによって、内部空間を有する構造物10を製造する装置である。このときの内部空間が冷媒の流通空間12となる。なお、粉末床溶融結合方式に代えて、LMD方式やDMP方式を含む指向性エネルギー堆積方式を採用することも可能である。
【0017】
製造装置101は、チャンバ110、支持装置120、粉末供給装置130、光ビーム照射装置140、加熱装置150及び制御装置160を備えている。
【0018】
チャンバ110は、内部の空気を、例えば、He(ヘリウム)やN(窒素)、Ar(アルゴン)等の不活性ガスに置換可能に構成されている。支持装置120は、付加製造物である構造物10を支持するためのものであり、付加製造用容器121、昇降テーブル122及びベース123を備えている。昇降テーブル122には、ベース123を介して構造物10を加熱するための加熱装置150が内蔵されている。加熱装置150は、各種のヒータによって構成されており、光ビーム140aのように金属粉末Sを溶融させることがない。粉末供給装置130は、金属粉末Sを付加製造用容器121に運搬するためのものであり、粉末収納容器131、供給テーブル132及びリコータ133を備えている。
【0019】
光ビーム照射装置140は、リコートされた金属粉末Sに光ビーム140aを照射することにより、金属粉末Sを融点以上の温度に加熱する。これにより、金属粉末Sは溶融してその後凝固し(又は焼結し)、一体化された層からなる構造物10が付加製造される。光ビーム照射装置140は、レーザ発振器141と、レーザヘッド142と、レーザ発振器141から発振された光ビーム140a(例えば、近赤外レーザ光)をレーザヘッド142に伝送する光ファイバ143と、を備えている。光ビーム照射装置140によれば、予め設定されたプログラムに従って、光ビーム140aの照射位置を移動することにより、三次元の構造物10を付加製造することができる。
【0020】
制御装置160は、製造装置101の作動を統括的に制御するためのものである。この制御装置160は、後述する最適形状設計装置170と通信可能に接続されている。この制御装置160は、CPU、ROM、RAM、インターフェース等を主要構成部品とするマイクロコンピュータによって構成されている。
【0021】
なお、上記の製造装置101は、既知のものであり、その更なる詳細な構成や機能については、例えば、特開2022-74564号公報に記載の「付加製造装置1」の説明が参照される。
【0022】
3.最適形状設計装置170の構成
最適形状設計装置170は、後述の「最適化工程」を実行するための装置である。図4に示されるように、この最適形状設計装置170は、初期モデル設定部171と、最適化処理部172と、判定部173と、を少なくとも備えている。この最適形状設計装置170は、CPU、ROM、RAM、インターフェース等を主要構成部品とするマイクロコンピュータによって構成されている。
【0023】
初期モデル設定部171は、構造物10の初期モデルを設定するためのものである。最適化処理部172は、初期モデル設定部171で設定した初期モデルについて、突起物13の構造にかかる突起物構造パラメータPを最適化する機能を有する。この機能を実現するために、最適化処理部172は既知の熱流動解析プログラムを搭載している。
【0024】
本形態では、冷却管路11の平均温度Taと最高温度Tbの和を目的関数f(Ta,Tb)としている。平均温度Ta及び最高温度Tbはいずれも、冷却管路11全体を複数のメッシュに分割して、熱流動解析プログラムによる熱流動解析を実行することで導出される。このとき、平均温度Taは、冷却管路11全体の複数のメッシュの温度の平均値とされる。また、最高温度Tbは、冷却管路11全体の複数のメッシュの温度を比較したときの最も高い値とされる。
【0025】
なお、上述の説明では、冷却管路11全体を複数のメッシュに分割して熱流動解析を実行するようにしているが、例えば、冷却管路11のうちの高温部(図2中の「対向部H」を参照)に対象を絞り、この高温部のみを複数のメッシュに分割して熱流動解析を実行するようにしても良い。すなわち、目的関数f(Ta,Tb)の対象は、冷却管路11の全体であっても良いし、或いは冷却管路11の一部であっても良い。
【0026】
突起物構造パラメータPは、熱流動解析前に予め選定される。この突起物構造パラメータPとして、例えば、突起物13の数、形状(幅、長さ、高さなどを含む)、位置、向きのうちの少なくも1つのパラメータを採用することができる。なお、突起物13の構造を特定することができれば、必要に応じて、これらのパラメータ以外のものを突起物構造パラメータPとしても良い。
【0027】
最適化処理部172は、選定した突起物構造パラメータPの条件を初期状態に設定した状態で、熱流動解析を実行する。また、この最適化処理部172は、判定部173の判定結果に応じて、突起物構造パラメータPの条件を初期状態から変更して、熱流動解析を再度実行する。すなわち、この最適化処理部172は、判定部173の判定結果が満足するものとなるまで、突起物構造パラメータPの条件を変更して熱流動解析を繰り返す。
【0028】
判定部173は、最適化処理部172の処理結果として作成された形状モデルが、設定された目標値を満たすか否かを、具体的には目的関数f(Ta,Tb)の演算値Tcが最小値であるか否かを判定する。演算値Tcが最小値であるか否かの判定は、例えば、突起物構造パラメータPの条件を変更したときに導出される複数の演算値Tcを比較することで行う。この場合、複数の演算値Tcの中で相対的に最も小さい値が最小値となる。
【0029】
なお、このような判定方法に代えて、別の判定方向を採用することもできる。例えば、目的とする最小値としての固定値(閾値)を予め設定しておく。そして、演算値Tcがこの固定値に達したか或いはこの固定値を下回ったことを条件に、演算値Tcが最小値であると判定する。
【0030】
判定部173は、最適化処理部172で作成された形状モデルが目標値を満たすと判定したときに、当該モデルが構造物10の最適化形状モデルとする。この最適化形状モデルは、突起物構造パラメータを最適化してなる形状モデルである。一方で、この判定部173は、最適化処理部172で作成された形状モデルが目標値を満たしていないと判定したときに、当該モデルが構造物10の最適化形状モデルでないとし、最適化処理部172で突起物構造パラメータPの条件を変更して熱流動解析を再度実行することを促す。そして、判定部173は、最適化形状モデルに基づいて前記構成の製造装置101により構造物10を造形することを促す。
【0031】
そして、判定部173の判定結果として得られた最適化形状モデルに基づいて、前記構成の製造装置101により構造物10が造形される。
【0032】
4.構造物10の製造方法
本形態の、構造物10の製造方法は、図5のステップS1からステップS7までの各ステップを順次実行することによって達成される。なお、これらのステップに対して、必要に応じて1または複数のステップが追加されてもよいし、或いは複数のステップが適宜に統合されてもよい。
【0033】
ステップS1からステップS6までに対応した工程は、冷却管路11の平均温度Taと最高温度Tbの和を目的関数fとし、この目的関数fの値が最小値となるように突起物構造パラメータPを最適化する最適化工程である。この最適化工程は、前記の最適形状設計装置170によって実行される。
【0034】
ステップS1によれば、初期モデル設定部171において構造物10の初期モデルが設定される。本形態では、構造物10の冷却管路11の内面に突起物13を備える形状が初期モデルとされる。ステップS2は、ステップS1に引き続いて実行される。このステップS2によれば、最適化処理部172において目的関数fが設定される。本形態では、目的関数fとして、冷却管路11の平均温度Taと最高温度Tbの和を採用している。ステップS3は、ステップS2に引き続いて、或いはステップS2と並行して、或いはステップS2の前に実行される。このステップS3によれば、最適化処理部172において突起物構造パラメータPが適宜に選定される。
【0035】
ステップS4は、ステップS3に引き続いて実行される。このステップS4によれば、最適化処理部172において、ステップS3で選定した突起物構造パラメータPの条件が初期状態に設定される。ステップS5は、ステップS4に引き続いて実行される。このステップS5によれば、最適化処理部172において、ステップS4で突起物構造パラメータPの条件が初期状態に設定されたときの熱流動解析が実行される。
【0036】
なお、熱流動解析を行う場合には、例えば、構造物10で生じる電磁場についての情報、冷却管路11の内周壁面11eの温度、冷媒の入口温度、冷媒の出口温度、冷媒流量、冷媒の物性値などを用いるのが好ましい。
【0037】
ステップS6は、ステップS5に引き続いて実行される。このステップS6によれば、判定部173において、目的関数fの値が最小であるか否かが判定される。目的関数fの値が最小である場合(ステップS6の「Yes」の場合)にステップS7にすすみ、そうでない場合(ステップS6の「No」の場合)にステップS4に戻る。このとき、ステップS4によれ、突起物構造パラメータPの条件が初期状態から変更されて熱流動解析が再度実行される。
【0038】
ステップS7に対応した工程は、最適化工程で突起物構造パラメータPを最適化してなる形状モデルに基づいて構造物10を造形する造形工程である。この造形工程は、前記の製造装置101によって実行される。ステップS7によれば、最適形状の構造物10を製造することができる。
【0039】
次に、図5中の最適化工程で最適化された構造物の構成を、図6図8を参照しつつ説明する。
【0040】
図6に示される構造物10では、前記最適化工程によって、冷却管路11の内径側内面11aのみに複数の突起物13が設けられている。冷却管路11の内部には、Z1方向の冷媒流れが形成される。
【0041】
5.突起物構造パラメータPの具体例
本例では、突起物構造パラメータPが、「突起物13の数」、「突起物13の位置」、「突起物13の向き」である場合について説明する。突起物13の数を、後述のように「26」としている。突起物13の位置の条件として、後述のように「周方向位置(Z方向の位置)」、及び「軸方向位置(Y方向の位置)」を採用している。突起物13の向きの条件として、後述のように「突起物13を径方向外方からみたときの向き」を採用している。なお、突起物構造パラメータPとして「突起物13の形状(例えば、突起物13の立設高さなど)」を採用することもできる。
【0042】
複数の突起物13は、一対の突起物13Aと、一対の突起物13Bと、一対の突起物13Cと、一対の突起物13Dと、一対の突起物13Eと、一対の突起物13Fと、一対の突起物13Gと、によって構成されている。したがって、突起物13の数が「26」とされている。
【0043】
突起物13Aは、内径側内面11aを径方向基準線Lに相当する位置から時計まわり方向に角度aだけ移動した位置に設けられている。突起物13Bは、内径側内面11aを突起物13Aに相当する位置から時計まわり方向に角度bだけ移動した位置に設けられている。突起物13Cは、内径側内面11aを突起物13Bに相当する位置から時計まわり方向に角度cだけ移動した位置に設けられている。突起物13Dは、内径側内面11aを突起物13Cに相当する位置から時計まわり方向に角度dだけ移動した位置に設けられている。突起物13Eは、内径側内面11aを突起物13Dに相当する位置から時計まわり方向に角度eだけ移動した位置に設けられている。突起物13Fは、内径側内面11aを突起物13Eに相当する位置から時計まわり方向に角度fだけ移動した位置に設けられている。突起物13Gは、内径側内面11aを突起物13Fに相当する位置から時計まわり方向に角度gだけ移動した位置に設けられている。
【0044】
6.制約条件の具体例
最適化工程における処理を極力簡易化するために、制約条件を設定するのが好ましい。本例では、冷却管路11の内径側内面11aのみに内径側内面11aを設けること、全ての突起物13の形状(幅、長さ、高さなどを含む)を同じにすること、突起物13を一対単位で配置すること、各一対の突起物13の間のY方向の間隔を同じにすること、各一対の突起物13を周方向基準線M(図7を参照)に対して線対称に配置すること、各一対の突起物13を概ね「ハの字」に配置すること、などを制約条件としている。周方向基準線Mは、冷却管路11の流通空間12のY方向の中央をZ方向に延びるように形成される仮想線である。なお、制約条件の種類や数は本例のものに限定されるものではなく、必要に応じて、制約条件の種類や数を適宜に変更することができる。
【0045】
7.突起物構造パラメータPの最適化の具体例
7-1.突起物13の周方向位置の最適化
複数の突起物13は、前記最適化工程によって、その周方向位置が最適化されている。具体的には、図6に示されるように、冷却管路11の内径側内面11aのみに冷却管路11の中間地点11fよりも下流側の数が上流側の数を上回るように突起物13が設けられている。すなわち、第6突起物13Fを除いて突起物13の数をカウントすると、冷却管路11の中間地点11fよりも下流側の突起物13の数が10つであり、中間地点11fよりも上流側の突起物13の数が2つである。
【0046】
このように、突起物13の周方向位置の最適化によって、冷却管路11の中間地点11fよりも下流側に突起物13を集中させると、冷却管路11の下流側で冷媒の乱流を増大させる効果が得られる。冷却管路11の内周壁面11eの温度は流出口12bに近いほど高くなるため、冷却管路11の下流側で乱流を増大させることで、冷却管路11の冷却効果を高めるのに有効である。
【0047】
ここで、突起物13の周方向位置を最適化する過程の一例について、図6を用いて説明する。先ず、初期状態の角度条件として、角度a~gをいずれも「45°」に設定しておく。そして、初期状態での演算値Tcを導出する。その後、角度a~gのうちの少なくとも1つについての角度条件を、予め設定された最適化アルゴリズムにしたがって変更しながら、或いはランダムに変更しながら、そのときの演算値Tcの導出を繰り返す。そして、導出した複数の演算値Tcの中で最小の演算値Tcに対応した角度条件を最適な条件とする。
【0048】
7-2.突起物13の軸方向位置の最適化
複数の突起物13は、前記最適化工程によって、軸方向位置が最適化されている。具体的には、図7に示されるように、突起物13は、軸方向であるY方向の間隙13aを隔てて対向するように一対配置されている。そして、一対の突起物13Bは、一対の突起物13Cに対してY方向の右寄りにずれている。同様に、一対の突起物13Aは、一対の突起物13Bに対してY方向の左寄りにずれている。
【0049】
このように、突起物13の軸方向位置の最適化によって、一対の突起物13とZ方向に隣り合う別の一対の突起物13との位置をY方向である軸方向にずらすと、冷媒との干渉によって、冷却管路11の内部を径方向外方からみたときに冷媒が流通空間12を蛇行して流れるようにすることができる。これにより、冷媒の乱流を増大させることができ、冷却管路11の冷却効果が更に高まる。
【0050】
また、図7に示されるように、各一対の突起物13は、仮想線である周方向基準線Mが間隙13aに位置するように配置されている。すなわち、冷却管路11を径方向外方からみたとき、流通空間12のY方向の中央が各一対の突起物13の間に位置するようになっている。これにより、一対の突起物13の間の間隙13aに直線状の第1の冷媒流れFaが形成され、しかも、第1の冷媒流れFaが周方向基準線Mに沿って冷却管路11の全周に連続的に形成される。このとき、相対的に流速が高い第1冷媒流れFaを周方向基準線Mに沿って連続して形成させることにより、冷却管路11の流通空間12において冷媒流量が低下するのを抑制するのに効果がある。このため、前記最適化工程では、冷却管路11を径方向外方からみたとき、各一対の突起物13の間隙13aの位置が流通空間12のY方向の中央(周方向基準線M)から外れないように、周方向基準線Mに対するY方向のずれ量(「ピッチ」、或いは「オフセット」ともいう。)を設定するのが好ましい。
【0051】
7-3.突起物13の向きの最適化
構造物10の複数の突起物13は、前記最適化工程によって、突起物13の向きが最適化されている。具体的には、図7に示されるように、複数の突起物13は、同一形状の四角柱であり、径方向外方からみたときの形状がいずれも略長方形をなすように構成されている。そして、各一対の突起物13は、互いに対向する対向面の間隔が冷却管路11の下流側に向かうにつれて漸増するように開いた向きで配置されている。すなわち、各一対の突起物13は、概ね「ハの字」の配置とされている。
【0052】
このように、突起物13の向きの最適化によって、一対の突起物13を下流側が開くような向きで配置すると、図7に示されるように、第1の冷媒流れFaに加えて、各突起物13のY方向の外側領域に外方に向かう第2の冷媒流れFbが形成される。このとき、第2の冷媒流れFbは、一対の突起物13を下流側が開くような向きで配置しており、冷媒が各突起物13の外側の斜面に干渉することが要因で形成される。これにより、冷媒の乱流を増大させることができ、冷却管路11の冷却効果が更に高めるのに効果がある。
【0053】
本例において、各一対の突起物13は、前述の制約条件によって、各突起物13Aと周方向基準線Mがなす角度αと、各突起物13Bと周方向基準線Mがなす角度βと、各突起物13Cと周方向基準線Mがなす角度γと、が同じ角度となるように配置されている。また、前述の制約条件によって、複数の突起物13が同一形状の四角柱とされている。
【0054】
なお、突起物13の形状は、四角柱に限定されるものではなく、必要に応じて各種の形状を採用することができる。例えば、図8に示されるように、各突起物13を径方向外方からみたときの形状を略三角形としてもよい。また、突起物13のその他の形状として、円錐や角錐などの形状を採用してもよい。さらに、各一対の突起物13の配置や向きは、図6及び図7に示されるものに限定されるものではない。
【0055】
8.制約条件の解除
なお、前述の制約条件の全部或いは一部を必要に応じて解除することもできる。例えば、複数の突起物13のうちの少なくとも1つを別形状にしたり、突起物13を一つ単位で配置したり、各一対の突起物13の間のY方向の間隔を異ならせたり、各一対の突起物13を「ハの字」の配置と別配置にしたり、各突起物13Aの角度αと、各突起物13Bの角度βと、各突起物13Cの角度γのそれぞれを個別に設定したり、突起物13を冷却管路11の内径側内面11aと外径側内面11bの両方に設けたりしても良い。
【0056】
9.作用効果
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0057】
実施形態1の製造方法では、先ず、最適化工程を実行する。この最適化工程によれば、冷却管路11の平均温度Taと最高温度Tbの和である目的関数fの値(演算値Tc)が最小値となるように突起物構造パラメータPが最適化される。ここで、冷却管路11の平均温度Taは、構造物10に対する冷却性能が高いか否かを表す指標となる。また、冷却管路11の最高温度Tbは、冷却管路11の局所的な高温状態を解消できるか否かを表す指標となる。このため、冷却管路11の平均温度Taと最高温度Tbの和を小さく抑えることができれば、構造物10の全体にわたる冷却効率を高めるのに有効である。そこで、演算値Tcの値が最小値となるように突起物構造パラメータPを最適化する。これにより、構造物10の形状を冷却効率の高い最適化形状とすることができる。そして、最適化工程に引き続いて造形工程を実行することによって、冷却効率の高い構造物10を実際に造形することができる。
【0058】
以上のごとく、上述の実施形態1によれば、冷却効率に優れた構造物10を実現することができる。
【0059】
また、構造物10の冷却効率を向上させることによって、冷媒の温度を制御するための設備を小型化するとともに冷媒の使用量を削減することが可能になる。その結果、構造物10の冷却にかかるコストを削減することができる。
【0060】
以下、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0061】
(実施形態2)
図9に示される構造物10Aは、実施形態1の構造物10の変形例である。構造物10Aは、高周波加熱用のコイルである点で実施形態1と一致しているが、被加熱体Wが円筒形状である点と、冷却管路11の外径側内面に複数の突起物13が設けられている点で、実施形態1と相違している。
【0062】
被加熱体Wが円筒形状であるため、この被加熱体Wの加熱のためにその筒内空間Waに構造物10Aを挿入する必要がある。そして、被加熱体Wに対向する対向部Hを高温部とするために、本形態では、電磁コア30に構造物10Aを組み込んで一体化している。構造物10Aを単体で使用すると、最も内側の内周部に交流電流が流れ易く高温部になり易いが、構造物10Aを電磁コア30と一体化することで高温部(即ち、交流電流が流れ易い部位)を内周部から外周部へと移動させることができる。また、本形態では、対向部Hの位置に合わせて、冷却管路11の外径側内面に複数の突起物13を設けるようにしている。
【0063】
その他は、実施形態1と同様である。
【0064】
実施形態2によれば、冷却効率に優れた構造物10Aを実現することができる。
【0065】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
10.変形態様
本開示は、上述の形態に準拠して記述されているが、本開示は当該形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0066】
上述の形態の構造物10,10Aの形状は、被加熱体の形状との関係に応じて適宜に変更可能である。例えば、構造物10Aのように、構造物のコイル外面を加熱面とする場合には、被加熱体の形状に応じて構造物の形状を適宜に変更し、冷却管路11が被加熱体の被加熱面に沿って延びるように構成するのが好ましい。典型的には、以下のような変更例を採用することができる。
【0067】
第1の変更例は、プレート状の被加熱体の片面を被加熱面とする例である。この場合、冷却管路11が例えば環状のコイル或いは渦巻型平面巻きのコイルを形成するような構造物を採用することができる。この構造物をコイルの開口平面が被加熱体の被加熱面と概ね平行となるように近接させて配置する。すなわち、コイル軸線が被加熱面の法線方向に延びるように構造物を配置する。このとき、冷却管路11は、突起物13が被加熱体の被加熱面側に位置するように配置されるのが好ましい。これにより、この構造物をプレート状の被加熱体の加熱に適切に使用できる。
【0068】
第2の変更例は、凹凸部を有する不定形の被加熱体を加熱する例である。この場合、冷却管路11が被加熱体の被加熱面の凹凸形状に倣って不規則的に延びるコイルを形成するような異形状の構造物を採用することができる。これにより、この構造物を不定形の被加熱体の加熱に適切に使用できる。
【0069】
上述の形態では、構造物10,10Aの適用対象が高周波加熱用のコイルである場合について例示したが、これに代えて、金型や熱交換器を適用対象としても良い。
【符号の説明】
【0070】
10,10A:構造物、 11:冷却管路、 11a,11b,11c,11d:内面、 11a:内径側内面、 11f:中間地点、 12:流通空間、 13,13A,13B,13C,13D,13E,13F,13G:突起物、13a:間隙、 20:環内空間、 f(Ta,Tb):目的関数、 M:周方向基準線、 Ta:平均温度、 Tb:最高温度、 P:突起物構造パラメータ、 S1~S6:最適化工程、 S7: 造形工程、 W:被加熱体 Y:軸方向、 Z:周方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9