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特開2024-85109アコースティック・エミッション信号処理装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085109
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】アコースティック・エミッション信号処理装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
G01N29/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199459
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】516356697
【氏名又は名称】信和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130007
【弁理士】
【氏名又は名称】垣木 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】西本 重人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 生
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AC08
2G047BA05
2G047BC09
2G047GF10
2G047GG14
2G047GG24
2G047GG37
(57)【要約】
【課題】広く普及している振動計測装置を用いてAE(アコースティック・エミッション)を利用した異常診断や予測が可能なAE信号処理装置及び方法を提供する。
【解決手段】測定対象物に取り付けられたAEセンサ11からのAE信号を受信するAE信号受信部(増幅回路12、バンドパスフィルタ13)と、AE信号受信部により受信したAE信号を一定時間間隔ごとに分割し、一定時間間隔ごとのAE信号から所定のAE評価パラメータを算出するパラメータ算出部14と、パラメータ算出部14により算出されたAE評価パラメータを振動計測装置で受信可能な周波数の搬送波に重畳させて出力するパラメータ信号出力部(搬送波発生回路15、振幅変調回路16)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アコースティック・エミッション(Acoustic Emission:以下AEと略称する)を用いた非破壊検査用のAE信号処理装置であって、
測定対象物に取り付けられたAEセンサからのAE信号を受信するAE信号受信部と、
前記AE信号受信部により受信したAE信号を一定時間間隔ごとに分割し、該一定時間間隔ごとのAE信号から所定のAE評価パラメータを算出するパラメータ算出部と、
前記パラメータ算出部により算出されたAE評価パラメータを振動計測装置で受信可能な周波数の搬送波に重畳させて出力するパラメータ信号出力部と、
を備えたことを特徴とするAE信号処理装置。
【請求項2】
前記AE評価パラメータは、前記一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値、前記一定時間間隔ごとのAE信号のエネルギー、前記一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値(実効値)、AE信号の持続時間、所定の閾値以上のAE信号の発生数のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のAE信号処理装置。
【請求項3】
前記AE信号受信部は、AE信号を増幅する増幅回路と、前記増幅回路により増幅されたAE信号のうち、所定の周波数帯のAE信号のみを通過させるバンドパスフィルタを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のAE信号処理装置。
【請求項4】
前記パラメータ算出部は、算出するAE評価パラメータに応じて、前記一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値を検出するためのピーク値検出回路、前記一定時間間隔ごとのAE信号のエネルギーを算出するための積分回路及び前記一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値を演算するためのRMS値演算回路のいずれか1つ又は複数の組み合わせを含むことを特徴とする請求項2に記載のAE信号処理装置。
【請求項5】
前記パラメータ信号出力部は、前記搬送波を生成するための搬送波発生回路と、前記搬送波に前記AE評価パラメータを重畳させるための振幅変調回路を含むことを特徴とする請求項4に記載のAE信号処理装置。
【請求項6】
前記パラメータ算出部は、前記AE信号受信部により受信したAE信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、デジタル信号に変換されたAE信号から、前記一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値を検出し、前記一定時間間隔ごとのAE信号のエネルギーを算出し、及び/又は、前記一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値を演算する演算回路を含むことを特徴とする請求項2に記載のAE信号処理装置。
【請求項7】
前記パラメータ信号出力部は、前記演算部により演算された前記AE評価パラメータをアナログ信号に変換するD/A変換回路を含むことを特徴とする請求項6に記載のAE信号処理装置。
【請求項8】
アコースティック・エミッション(Acoustic Emission:以下AEと略称する)を用いた非破壊検査用のAE信号処理方法であって、
測定対象物に取り付けられたAEセンサからのAE信号を一定時間間隔ごとに分割し、
一定時間間隔ごとのAE信号から所定のAE評価パラメータを算出し、
算出されたAE評価パラメータを振動計測装置で受信可能な周波数の搬送波に重畳させて出力することを備えたことを特徴とするAE信号処理方法。
【請求項9】
前記AE評価パラメータは、前記一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値、前記一定時間間隔ごとのAE信号のエネルギー、前記一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値(実効値)、AE信号の持続時間、所定の閾値以上のAE信号の発生数のうち少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項8に記載のAE信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アコースティック・エミッション(Acoustic Emission:以下AEと略称する)を用いた非破壊検査用のAE信号処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば工場におけるオートメーション設備の場合、そこで用いられている軸受けなどの測定対象物は、使用時間が長くなるにつれて摩耗が進展し、振動が大きくなる。また、振動が大きくなると、測定対象物を形成している材料中に亀裂が進展し、破断する恐れが生じる。そのため、これらの設備又は測定対象物の劣化を診断するために、従来から振動計測装置(振動診断装置ともいう)が広く用いられている。この振動計測装置は、その普及により多くのバリエーションが存在し、比較的安価なものも存在する。ところが、これら振動計測装置は数kHz~20kHz程度の振動にしか対応できない。そのため、測定対象物の振動(例えば振幅)が閾値よりも大きくなった時点では故障寸前であるため、設備を停止して部品交換などを行わなければならない。
【0003】
それに対して、AE現象を利用して設備又は測定対象物の摩耗や亀裂の進展を測定又は予測する異常診断装置などが提案されている(特許文献1参照)。AEとは、例えば金属材料中に亀裂が進展すると、結晶の間隔が広がったり、ずれが生じたりし、亀裂の周囲に応力の変化が生じる現象であり、発生した応力波(AE)をセンサで検出し、検出したAE信号の振幅や所定の閾値を超えたAE信号の発生回数などに基づいて亀裂の進展を測定したり、予測したりすることができる。摩耗や亀裂の進展が予測できれば、設備が休止している間に部品交換などを行うことができ、部品交換のために設備全体を停止させる必要がなくなる。上記特許文献1は軸受けの異常診断に関するものであり、軸受け材料からのAE信号の周波数帯として100kHZ~500kHzが示されている。上記の振動計測装置では、このような高周波のAE信号を直接処理することはできない。また、高周波のAE信号を処理するため高速で演算処理が可能なCPUなどを用いる必要があり、AEを利用した異常診断装置は振動計測装置よりも非常に高価なものとなる。測定可能な周波数帯域や機能にもよるが、振動計測装置は安価なものであれば数万円程度で入手できるが、AEを利用した異常診断装置の価格では100~500万円程度であり容易に入手できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1-232230号公報(特許第1932871号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来例の問題を解決するためになされたものであり、広く普及している振動計測装置を用いてAEを利用した異常診断や予測が可能なAE信号処理装置及び方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るAE信号処理装置は、測定対象物に取り付けられたAEセンサからのAE信号を受信するAE信号受信部と、前記AE信号受信部により受信したAE信号を一定時間間隔ごとに分割し、該一定時間間隔ごとのAE信号から所定のAE評価パラメータを算出するパラメータ算出部と、前記パラメータ算出部により算出されたAE評価パラメータを振動計測装置で受信可能な周波数の搬送波に重畳させて出力するパラメータ信号出力部とを備えたことを特徴とする。
【0007】
前記AE評価パラメータは、前記一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値、前記一定時間間隔ごとのAE信号のエネルギー、前記一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値(実効値)、AE信号の持続時間、所定の閾値以上のAE信号の発生数のうち少なくとも1つを含むように構成してもよい。
【0008】
前記AE信号受信部は、AE信号を増幅する増幅回路と、前記増幅回路により増幅されたAE信号のうち、所定の周波数帯のAE信号のみを通過させるバンドパスフィルタを含むように構成してもよい。
【0009】
前記パラメータ算出部は、算出するAE評価パラメータに応じて、前記一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値を検出するためのピーク値検出回路、前記一定時間間隔ごとのAE信号のエネルギーを算出するための積分回路及び前記一定時間間隔ごとのAE信号の実効値を演算するためのRMS値演算回路のいずれか1つ又は複数の組み合わせを含むように構成してもよい。
【0010】
また、前記パラメータ信号出力部は、前記搬送波を生成するための搬送波発生回路と、前記搬送波に前記AE評価パラメータを重畳させるための振幅変調回路を含むように構成してもよい。
【0011】
または、前記パラメータ算出部は、前記AE信号受信部により受信したAE信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、算出するAE評価パラメータに応じて、デジタル信号に変換されたAE信号から、前記一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値を検出し、前記一定時間間隔ごとのAE信号のエネルギーを算出し、及び/又は、前記一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値(実効値)を演算する演算回路のいずれか2つ又は複数の組み合わせを含むように構成してもよい。
【0012】
また、前記パラメータ信号出力部は、前記演算部により演算された前記AE評価パラメータをアナログ信号に変換するD/A変換回路を含むように構成してもよい。
【0013】
本発明に係るAE信号処理方法は、測定対象物に取り付けられたAEセンサからのAE信号を一定時間間隔ごとに分割し、一定時間間隔ごとのAE信号から所定のAE評価パラメータを算出し、算出されたAE評価パラメータを振動計測装置で受信可能な周波数の搬送波に重畳させて出力することを備えたことを特徴とする。
【0014】
前記AE評価パラメータは、前記一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値、前記一定時間間隔ごとのAE信号のエネルギー及び前記一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値(実効値)、AE信号の持続時間、所定の閾値以上のAE信号の発生数のうち少なくとも1つを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、例えば100kHz~500kHz程度の周波数帯のAE信号から演算されたAE評価パラメータを10kHz程度の搬送波に重畳させて出力するので、安価な振動計測装置でも処理することができる。そのため、新たに高価なAEを利用した異常診断装置を用意することなく、すでに広く普及している振動計測装置をそのまま用いて、AE現象を利用して設備や測定対象物の摩耗や亀裂の進展を測定したり、あるいは予測したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係るAE信号処理装置の構成を示すブロック図。
図2】圧電型AEセンサの構成を示す断面図。
図3】本発明のAE信号処理方法を概略的に示す波形図であり、(a)はパラメータ算出部に入力されるAE信号を示し、(b)はパラメータ算出部においてAE信号を一定時間間隔ごとに分割し、一定時間間隔ごとのAE信号から所定のAE評価パラメータを算出する様子を示し、(c)は搬送波発生回路により発生される搬送波の波形を示し、(d)は振幅変調回路から出力されるパラメータ信号の波形を示す。
図4】(a)は亀裂が進展する際に発生する突発型AEの波形を示し、(b)は摩耗が進展する際に発生する連続型AEの波形を示す。
図5】複数のAEセンサを用いて亀裂の発生位置を特定する原理を示す図。
図6】本発明の第2実施形態に係るAE信号処理装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1実施形態に係るアコースティック・エミッション(AE)信号処理装置及び方法について説明する。図1は、第1実施形態に係るAE信号処理装置の構成を示す。このAE信号処理装置10は、例えば工場のオートメーション設備を駆動するためのモーターの軸受けなどの測定対象物に取り付けられたAEセンサ11からのAE信号を増幅する増幅回路12と、増幅されたAE信号のうち、所定の周波数帯のAE信号のみを通過させるバンドパスフィルタ(BPフィルタ)13と、バンドパスフィルタ13を通過したAE信号を一定時間間隔ごとに分割し、一定時間間隔ごとのAE信号から所定のAE評価パラメータを算出するパラメータ算出部14と、振動計測装置で受信可能な周波数の搬送波を発生させる搬送波発生回路(発振回路)15と、パラメータ算出部14により算出されたAE評価パラメータを搬送波に重畳させて出力する振幅変調回路16などで構成されている。増幅回路12とバンドパスフィルタ13はAE信号受信部を構成し、搬送波発生回路15と振幅変調回路16はパラメータ信号出力部を構成する。
【0018】
AE評価パラメータとは、AEを発生させている現象やその現象の発生位置を特定したり、現象の進展度を推定したり、測定対象物が破損するか否かの緊急度を推定したりするのに用いられるパラメータである。AE評価パラメータとしては、例えば一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値、一定時間間隔ごとのAE信号のエネルギー、一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値(実効値)、AE信号の持続時間、所定の閾値以上のAE信号の発生数、AE信号の周波数、AE信号の立ち上がり時間などがあげられる。パラメータ算出部14は、これらのAE評価パラメータのうちいずれか1つを算出してもよいし、複数のAE評価パラメータを組み合わせて算出してもよい。そのため、算出するパラメータに応じて、パラメータ算出部14は、一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値を検出するためのピーク値検出回路、一定時間間隔ごとのAE信号のエネルギーを算出するための積分回路、一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値を演算するためのRMS値演算回路など、算出するAE評価パラメータの種類に応じた検出回路のいずれか1つ又は複数の回路を含むように構成されている。パラメータ算出部14は、例えばダイオード、抵抗、コンデンサ、オペアンプなどのアナログ回路で構成することができる。パラメータ算出部14を、例えばAE信号の振幅のピーク値とAE信号の持続時間など複数のAE評価パラメータを同時に算出するように構成した場合、AEを発生させる現象を特定したり、測定対象物の摩耗や亀裂の進展を予測したり、あるいは測定対象物の破損の緊急性を判断したりすることができる。
【0019】
AEセンサ11としては、例えば一般的に広く用いられている圧電型のAEセンサを用いることができる。図2は、圧電型のAEセンサの構成を示す。AEセンサ11の筐体11Aは、例えば円筒形であり、下端に受信板11Bが取り付けられている。AEセンサ11は測定対象物30の表面に対して受信板11Bの外面が密着するように、かつ、筐体11A自体は測定対象物30に対して接触しないように取り付けられる。受信板11と測定対象物30の表面には微細な凹凸が存在するため、AEセンサ11の受信板11の表面にシリコーングリスなどの接触媒質を塗って取り付けられる。筐体11Aの内部において、受信板11Bの内面に圧電素子11Cが固定されており、さらに圧電素子11Cを取り囲むようにダンパ材11Dが充填されている。筐体11Aの側壁にはコネクタ11Eが設けられており、圧電素子11Cとコネクタ11Eがケーブル11Fで接続されている。測定対象物30の内部でAE現象が発生すると、応力波が測定対象物30及び受信板11Bを介して圧電素子11Cに伝わり、圧電素子11Cは圧電効果により応力波の波形に応じた電圧を発生する。この圧電素子11Cから出力される電圧信号が上記AE信号となる。AE現象による応力波は非常に微弱であるため、測定対象物30の共振周波数に対して共振するようにその形状や材質が適宜選択される。また、圧電素子はキュリー点付近での感度が最も高く、キュリー点を超えると急激に感度が低下する傾向にあるため、測定対象物の温度などによっても材料を適宜選択することが好ましい。
【0020】
AEの周波数は、測定対象物30の材料にもよるが、金属の場合は100kHz~300kHz程度、セラミックスの場合は300kHzを超える。また、コンクリートの場合60kHz程度、土砂の場合は数十kHz程度である。従って、AEセンサ11の共振周波数を適宜選択すれば、様々な材料で形成された測定対象物の劣化や土砂崩れなどの現象を予測することができる。土砂崩れは、亀裂の進展によって表層が剥離され、その後に剥離された表層部の土砂が崩落する現象であるので、亀裂の進展と摩耗の進展とみなすことができる。土砂崩れの発生を予測する場合、棒状のAEセンサを土中につきさせておけばAEを測定することができる。また、車両の通行により繰り返し荷重が加えられる道路や橋梁の亀裂の進展なども測定又は予測することができる。
【0021】
図3において(a)は、AEセンサ11から出力され、増幅回路12及びバンドパスフィルタ13を通過し、パラメータ算出部14に入力されたAE信号の一例を示す。縦軸はAE現象による応力波の振幅に相当する電圧を表し、横軸は経過時間を表す。(b)は、パラメータ算出部14における動作を示しており、AE信号を一定時間間隔T1・・・ごとに分割し、一定時間間隔ごとのAE信号から所定のAE評価パラメータP1・・・を算出する様子を示す。AE評価パラメータの一例として一定時間間隔ごとのAE信号の振幅のピーク値を検出している。(c)は、搬送波発生回路15により発生された搬送波の波形(例えば正弦波)を示し、搬送波の周波数は振動計測装置で受信可能な周波数、例えば10kHz程度である。(d)は、振幅変調回路16から出力されるパラメータ信号の波形を示し、パラメータ算出部14により算出されたAE評価パラメータが搬送波に重畳されて出力される様子を示す。このように、本発明に係るAE信号処理装置及び方法によれば、例えば測定対象物30が金属の場合、AEセンサ11から出力される100kHz~300kHz程度のAE信号が10kHz程度のパラメータ信号に変換されて出力されるので、広く普及している振動計測装置をそのまま用いて、AE現象を利用して設備や測定対象物の摩耗や亀裂の進展を測定したり、予測したりすることができる。
【0022】
次に、亀裂の進展について簡単に説明する。一般的に金属の結晶構造中に欠陥が存在することが知られている。測定対象物に繰り返し荷重が加えられると、結晶中の欠陥部に応力が集中し、亀裂が生じる。亀裂が1回拡大するごとに、図4(a)に示すような立ち上がりが鋭く、その後に減衰するAEが発生する。このような突発型のAEが繰り返し発生すると、亀裂が進展していると推定できる。突発型AEの振幅は亀裂の進展距離と相関があり、波形の面積、すなわちエネルギーは亀裂の面積と相関がある。
【0023】
次に、摩耗の進展について簡単に説明する。金属の表面は、一見平坦に見えても微視的には凹凸が存在する。例えばモーターの軸と軸受けの場合、両者の間には隙間が存在し、重力の作用によって一部分が接触している。このような状態で軸を回転させると、堅い方の材料で形成された部品(一般的に、モーターの軸を交換するのは容易でないため、軸の方を硬度の高い材料で形成する)が柔らかい材料で形成された部品(軸受けの方が交換容易であるため、軸受けの方を硬度の低い材料で形成する)の表面を削る(すなわち軸受けが摩耗する)。特に、回転数が100rpm以下の低速回転の軸受けでは潤滑状態があまりよくないため、軸受けの損傷としては摩耗形態を示すことが多い。摩耗が進展すると、摩耗の大きな部分で亀裂が進展し、さらに剥離へと発展する。剥離がさらに進展すると焼き付きなどが発生し、設備停止に至る。この場合にも、亀裂の進展と同様にAEが発生するが、摩耗は連続して発生するため、図4(b)に示すような連続型のAE波形となって観測される。この場合は、AE評価パラメータとして一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値を算出することが有効である。RMS値はRoot Mean Square Valueの略で,一定時間内の2乗平均の平方根である。RMS値は摩擦し合う両面の摩擦係数と相関があり、エネルギーは摩耗量と相関がある。軸受けの転がり面に摩耗が進展すると、表面粗さと相関のあるAEのRMS値が大きくなり、さらに軸受けの転がり面に生じた摩耗による凹凸によりRMS値が変動する。摩耗が進展してさらに亀裂が生じると、亀裂の進展距離(亀裂の長さ)と相関があるAEの振幅が大きくなる。このように、軸受けから発生したAEのRMS値と振幅の大きさを評価することで軸受けの破壊挙動を判断することができる。軸受けの場合、転がり面に剥離が発生すると急激に損傷が進展するので、重要設備ではRMS値が上昇した時点で保守点検を行えば製造ラインの緊急停止を未然に防止することができるとともに、軸受けを寿命寸前まで使用できるので整備コストを低減することができる。
【0024】
FRP(Fiber Reinforced Plastic)などの複合材料の場合、まず樹脂に亀裂が進展し、次に繊維の周りの強度の低下により樹脂と繊維が剥離し、繊維が破断して破損する。樹脂に亀裂が発生すると、突発型の持続時間の短いAEが発生する。樹脂と繊維の剥離が進展すると樹脂と繊維との間に滑りが生じるのでAEが連続的に発生し、持続時間の長い連続型のAEとなる。その後繊維が破断すると持続時間の短い突発型のAEが発生する。また樹脂の亀裂進展と異なり、繊維は強度が高いので樹脂が破断する場合と比較して、複合材料の破断の場合AEの振幅が格段に大きい。複合材料から発生するAEの振幅と持続時間の長さを評価することにより、複合材料の破壊挙動を判断することができる。特に、複合材料は樹脂と繊維の間に剥離が発生すると急激に強度が低下するので、これらのパラメータを評価することにより複合材料による構造物の安全性を判断することができる。
【0025】
次に、亀裂の発生位置の特定について説明する。AEセンサを2個以上設置すると、亀裂の進展によって発生したAEがそれぞれのAEセンサに到達する。このとき、亀裂の発生位置からAEセンサまでの距離の違いによりAEがAEセンサに到達する時間に差が生じる。図5に示すように、この時間差を利用して亀裂の発生位置を特定することができる。2つのAEセンサ11,11’の中心から亀裂発生位置までの距離をL、2つのセンサ11,11’への到達時間をt1,t2、AEの伝搬速度をCとすれば、
L=(t2-t1)×C/2
で表すことができる。AEセンサの数が2個であれば直線上の位置、3個以上であれば平面上の位置、6個以上であれば三次元の位置を特定することができる。
【0026】
次に、本発明の第2実施形態に係るAE信号処理装置及び方法について説明する。図6は、第2実施形態に係るAE信号処理装置の構成を示す。AE信号処理装置20は、上記第1実施形態に係るAE信号処理装置10と同様に、AEセンサ11からのAE信号を増幅する増幅回路12と、増幅されたAE信号のうち、所定の周波数帯のAE信号のみを通過させるバンドパスフィルタ(BPフィルタ)13を備えている。第1実施形態に係るAE信号処理装置10では、パラメータ算出部14として、例えばダイオード、抵抗、コンデンサ、オペアンプなどのアナログ回路で構成下例を示したが、第2実施形態に係るAE信号処理装置20では、A/D変換回路24及び演算回路25でパラメータ算出部を構成し、D/A変換回路26でパラメータ信号出力部を構成する。
【0027】
図3(a)を参照して、バンドパスフィルタ13を通過したAE信号はA/D変換回路24によりデジタル信号化(数値データ化)される。演算回路25は、CPUやメモリなどで構成されたマイクロコンピュータであり、一定時間間隔ごとの数値データの中から最大振幅を示す数値を抽出したり、一定時間間隔ごとの数値データを積分してエネルギーを演算したり、一定時間間隔ごとのAE信号のRMS値を演算したりする。さらに、演算回路25は発振回路を備えているので、振動計測装置で受信可能な周波数の搬送波を発生させる。D/A変換回路26は、所定周波数の搬送波に重畳されて演算回路から出力されるデジタルパラメータ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0028】
このように、第2実施形態に係るAE信号処理装置及び方法によっても、AEセンサ11から出力される100kHz~300kHz程度のAE信号が10kHz程度のパラメータ信号に変換されて出力されるので、広く普及している振動計測装置をそのまま用いて、AE現象を利用して設備や測定対象物の劣化を診断したり、摩耗や亀裂の進展を予測したりすることができる。
【符号の説明】
【0029】
10 AE信号処理装置
11 AEセンサ
12 増幅回路
13 バンドパスフィルタ
14 パラメータ算出部
15 搬送波発生回路
16 振幅変調回路
20 AE信号処理装置
24 A/D変換回路
25 演算回路
26 D/A変換回路
30 測定対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6