(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085125
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】顧客分析装置、顧客分析システム及び顧客分析方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 20/40 20120101AFI20240619BHJP
【FI】
G06Q20/40
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199487
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】598049322
【氏名又は名称】株式会社三菱UFJ銀行
(71)【出願人】
【識別番号】518062705
【氏名又は名称】Japan Digital Design株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 元清
(72)【発明者】
【氏名】高田 珠武己
【テーマコード(参考)】
5L020
5L055
【Fターム(参考)】
5L020AA72
5L055AA72
(57)【要約】
【課題】資金移動情報を利用して疑わしい取引に関係する集団を抽出するための技術を提供することである。
【解決手段】本開示の一態様は、対象顧客を示す分析要求を取得する入力部と、顧客間の資金移動情報において前記対象顧客と関連性を有する関連顧客群を抽出する関連顧客群抽出部と、前記関連顧客群における中心顧客を特定する中心顧客特定部と、前記関連顧客群と前記中心顧客とを示す分析結果を出力する出力部と、を有する顧客分析装置に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象顧客を示す分析要求を取得する入力部と、
顧客間の資金移動情報において前記対象顧客と関連性を有する関連顧客群を抽出する関連顧客群抽出部と、
前記関連顧客群における中心顧客を特定する中心顧客特定部と、
前記関連顧客群と前記中心顧客とを示す分析結果を出力する出力部と、
を有する顧客分析装置。
【請求項2】
前記関連性は、取引金額に基づいて決定される、請求項1に記載の顧客分析装置。
【請求項3】
前記関連顧客群抽出部は、前記関連顧客群内の取引金額と、前記関連顧客群と非関連顧客群との間の取引金額とに基づいて、前記対象顧客を含む前記関連顧客群を抽出する、請求項2に記載の顧客分析装置。
【請求項4】
前記中心顧客特定部は、前記関連顧客群における顧客の中心性指標に基づいて、前記中心顧客を特定する、請求項1に記載の顧客分析装置。
【請求項5】
前記中心性指標は、金額重み付きページランクに基づき決定される、請求項4に記載の顧客分析装置。
【請求項6】
前記分析結果は、前記関連顧客群と前記中心顧客とをグラフ形式により表示する、請求項1に記載の顧客分析装置。
【請求項7】
顧客間の資金移動情報を格納するデータベース装置と、
顧客分析装置と、
を有し、
前記顧客分析装置は、
対象顧客を示す分析要求を取得する入力部と、
前記顧客間の資金移動情報において前記対象顧客と関連性を有する関連顧客群を抽出する関連顧客群抽出部と、
前記関連顧客群における中心顧客を特定する中心顧客特定部と、
前記関連顧客群と前記中心顧客とを示す分析結果を出力する出力部と、
を有する顧客分析システム。
【請求項8】
対象顧客を示す分析要求を取得するステップと、
顧客間の資金移動情報において前記対象顧客と関連性を有する関連顧客群を抽出するステップと、
前記関連顧客群における中心顧客を特定するステップと、
前記関連顧客群と前記中心顧客とを示す分析結果を出力するステップと、
をコンピュータが実行する顧客分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、顧客分析装置、顧客分析システム及び顧客分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AI(Artificial Intelligence)などの高度な情報処理技術が、金融業界に積極的に導入されてきており、これにより、フィンテックとしてしばしば呼ばれる金融技術の進化が進んでいる。
【0003】
例えば、フィンテックによって、インターネットを介し各種金融サービスを顧客に提供することが可能になるだけでなく、金融機関が、取引情報、マーケット情報などから所望の分析結果を取得することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2022-508106号公報
【特許文献2】特表2022-518370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
詐欺等の金融犯罪、暗号資産などの地下銀行取引などの組織的犯罪などでは、顧客単体というより集団で不正行為が行われる傾向がある。このため、資金移動情報を利用して犯罪行為などの「疑わしい取引」に関係する集団を抽出するための技術が求められる。
【0006】
本開示の1つの課題は、資金移動情報を利用して疑わしい取引に関係する集団を抽出するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、対象顧客を示す分析要求を取得する入力部と、顧客間の資金移動情報において前記対象顧客と関連性を有する関連顧客群を抽出する関連顧客群抽出部と、前記関連顧客群における中心顧客を特定する中心顧客特定部と、前記関連顧客群と前記中心顧客とを示す分析結果を出力する出力部と、を有する顧客分析装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、資金移動情報を利用して疑わしい取引に関係する集団を抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施例による顧客分析システムを示す概略図である。
【
図2】本開示の一実施例による資金移動情報に対する分析結果を示す概念図である。
【
図3】本開示の一実施例による顧客分析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】本開示の一実施例による顧客分析装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】本開示の一実施例による顧客分析処理の一例を示す図である。
【
図6】本開示の一実施例による顧客分析処理の一例を示す図である。
【
図7】本開示の一実施例による顧客分析処理の一例を示す図である。
【
図8】本開示の一実施例による顧客分析処理の一例を示す図である。
【
図9】本開示の一実施例による顧客分析処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態を説明する。
【0011】
以下の実施例では、所与の対象顧客と関連性を有する関連顧客群と、当該関連顧客群における中心顧客とを資金移動情報から抽出する顧客分析システムが開示される。
【0012】
[概略]
図1に示されるように、本開示の一実施例による顧客分析システム10では、端末60から対象顧客を示す分析要求を受け付けると、顧客分析装置100は、顧客間の入出金などの資金移動を示す顧客間資金移動情報をデータベース装置50から取得し、対象顧客と関連性(例えば、入出金額に応じた関連性など)を有する関連顧客群を抽出する。さらに、顧客分析装置100は、抽出した関連顧客群において中心的な役割又は指示役を担っていると推測される中心顧客を特定し、関連顧客群と中心顧客とを示す分析結果を端末60に提供する。
【0013】
具体的には、
図2Aに示されるように、顧客間資金移動情報は、顧客(例えば、CIF(Customer Information File)など)を表すノードと、顧客間の入出金額(例えば、送金額、ネットの入出金額など)を示すエッジとによって規定されるグラフ形式によって表現されるグラフ情報であってもよい。顧客間資金移動情報は、典型的には、金融機関に格納されている顧客間の取引履歴から構成されうる。端末60によって対象顧客が指定されると、顧客分析装置100は、所定の抽出条件に従って対象顧客と関連性を有する関連顧客群を抽出する。顧客間の関連性は、例えば、集計期間内の顧客間の送金額の大きさ、取引頻度などによって定量化されてもよい。また、所定の抽出条件として、以下に限定されるものでないが、
i)関連顧客群は、対象顧客の顧客情報を含むこと、
ii)関連顧客群内の取引金額が多いこと、及び、
iii)関連顧客群と非関連顧客群との間の取引金額が少ないこと、
などが設定されてもよい。例えば、これらの抽出条件を充足する関連顧客群を決定するため、ローカルクラスタリングなどの何れか適切な公知のクラスタリング手法が利用されてもよい。
【0014】
さらに、顧客分析装置100は、抽出した関連顧客群の各顧客に対して中心性指標を算出し、算出した中心性指標を各ノードに関連付けてグラフ情報を出力してもよい。例えば、中心性指標は、ページランク、パーソナライズドページランクなどの何れか適切な公知の中心性を表す指標であってもよい。例えば、ローカルクラスタリング及びパーソナライズドページランクについては、Reid Andersenなどによる”Local Graph Partitioning using PageRank Vectors”(https://ieeexplore.ieee.org/document/4031383)などを参照されたい。
【0015】
このようにして、関連顧客群と中心性指標とを取得すると、顧客分析装置100は、
図2Bに示されるように、関連顧客群と中心性指標とが関連付けされた顧客間資金移動情報を端末60に提供してもよい。これにより、端末60のユーザは、指定した対象顧客に対して予測された関連顧客群と中心顧客とを確認することが可能になる。
【0016】
ここで、顧客分析装置100は、サーバ、パーソナルコンピュータ等の計算装置によって実現され、例えば、
図3に示されるようなハードウェア構成を有してもよい。すなわち、顧客分析装置100は、バスBを介し相互接続される記憶装置101、プロセッサ102、ユーザインタフェース(UI)装置103及び通信装置104を有する。
【0017】
顧客分析装置100における後述される各種機能及び処理を実現するプログラム又は指示は、ネットワークなどを介し何れかの外部装置からダウンロードされてもよいし、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の着脱可能な記憶媒体から提供されてもよい。
【0018】
記憶装置101は、ランダムアクセスメモリ、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブなどによって実現され、インストールされたプログラム又は指示と共に、プログラム又は指示の実行に用いられるファイル、データ等を格納する。記憶装置101は、非一時的な記憶媒体(non-transitory storage medium)を含んでもよい。
【0019】
プロセッサ102は、1つ以上のプロセッサコアから構成されうる1つ以上のCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、処理回路(processing circuitry)等によって実現されてもよく、記憶装置101に格納されたプログラム、指示、当該プログラム若しくは指示を実行するのに必要なパラメータなどのデータ等に従って、後述される顧客分析装置100の各種機能及び処理を実行する。
【0020】
インタフェース装置103は、データベース装置50及び端末60と顧客分析装置100との間のインタフェースを実現する。例えば、ユーザは、端末60のディスプレイ又はタッチパネルに表示されたGUI(Graphical User Interface)をキーボード、マウス等を操作し、インタフェース装置103を介し顧客分析装置100との間で各種情報、データ、指示などを送受信する。
【0021】
通信装置104は、外部装置、インターネット、LAN(Local Area Network)等の通信ネットワークとの通信処理を実行する各種通信回路により実現される。
【0022】
しかしながら、上述したハードウェア構成は単なる一例であり、本開示による顧客分析装置100は、他の何れか適切なハードウェア構成により実現されてもよい。
【0023】
[顧客分析装置]
次に、
図4~8を参照して、本開示の一実施例による顧客分析装置100を説明する。
図4は、本開示の一実施例による顧客分析装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0024】
図4に示されるように、顧客分析装置100は、入力部110、関連顧客群抽出部120、中心顧客特定部130及び出力部140を有する。
【0025】
入力部110は、対象顧客を示す分析要求を取得する。具体的には、入力部110は、端末60から対象顧客を示す顧客情報(例えば、CIFなど)を含む分析要求を受信し、受信した顧客情報を関連顧客群抽出部120にわたす。組織的犯罪などの犯罪集団の検出では、対象顧客は、犯罪集団の1人でありうる。
【0026】
関連顧客群抽出部120は、顧客間の資金移動情報において対象顧客と関連性を有する関連顧客群を抽出する。資金移動情報は、典型的には、特定の金融機関内の入出金取引、複数の金融機関の間の入出金取引、及び/又は、特定の金融機関と外国金融機関との間の入出金取引など、特定の期間における顧客間の各種資金移動を表すものであってもよい。このような資金移動情報は、顧客を示すノードと、顧客間の取引金額を示す重み付き有向エッジとによって規定される重み付き有向グラフ形式により表現されうる。
【0027】
例えば、資金移動情報は、
図5に示されるような重み付き有向グラフとして表現されうる。図示された例では、顧客は、ノードA、ノードB、・・・、ノードNによって表され、顧客間の取引金額は、重み付き有向エッジによって表される。例えば、顧客A,B間の取引では、顧客Aが顧客Bに10百万円を送金しており、顧客A,C間の取引では、顧客Cが顧客Aに20百万円を送金していることが表されている。なお、エッジに関連付けされる重みは、取引金額に限定されず、取引頻度、取引回数などであってもよい。
【0028】
例えば、対象顧客として顧客Aが指定されたとすると、関連顧客群抽出部120は、
i)関連顧客群は、対象顧客の顧客情報を含むこと、
ii)関連顧客群内の取引金額が多いこと、及び、
iii)関連顧客群と非関連顧客群との間の取引金額が少ないこと、
の3つの検索条件i)~iii)を充足する顧客群を抽出してもよい。
【0029】
具体的には、関連顧客群抽出部120は、公知のローカルクラスタリング手法(https://ieeexplore.ieee.org/document/4031383など)に従って検索条件i)~iii)を充足する近似的なノード群を抽出可能であることが数学的に証明されている。関連顧客群抽出部120はまず、当該ローカルクラスタリング手法に従って、各ノードの金額重み付きパーソナライズドページランクを算出する。なお、有向エッジの向きは、ここでは無視される。パーソナライズドページランクは、ページランクの派生物であり、ページランクと比較して、指定された起点(本例では、対象顧客)の周辺で中心性指標が高くなるようバイアスがかけられている。
【0030】
例えば、関連顧客群抽出部120は、以下の手順により金額重み付きパーソナライズドページランクを算出しうる。関連顧客群抽出部120はまず、
図5の有向グラフを無向グラフとして扱い、以下の手順を実行する。
1)次のような仮想有向グラフを作成する。
図5の無向バージョンのグラフのエッジにより接続された任意の2つのノードX,Yについて、仮想有向グラフにおけるノードXからノードYへのエッジの重みは、
図5の無向バージョンのグラフの重みをノードXの金額重み付き次数(入出金額の絶対値の和)で除算した商として設定される。例えば、ノードAからノードEへのエッジの重みは、3/(10+20+5+3)≒0.0789となり、ノードEからノードAへのエッジの重みは、3/(3+10+1+5)≒0.1579となる。
2)ノードAの仮中心性の初期値を1とし、その他のノードの仮中心性の初期値を0とする。ここで、仮中心性とは、金額重み付きパーソナライズドページランクの計算過程で生じる仮の中心性指標である。
3)以下のa)からd)までを繰り返し、各ノードの仮中心性の値を更新する。
3a)各ノードの仮中心性を、仮想有向グラフ上で当該ノードに流入するエッジの重みと、元のノードの仮中心性(そのエッジが流出しているノードの仮中心性)との積の合計と置換する。例えば、当該処理の1回目の実行後、ノードEの仮中心性は、0.0789×1+0.2500×0+0.1250×0+0.2273×0=0.0789となる。ここで、0.2500,0.1250,0.2273はそれぞれ、1)で計算された仮想有向グラフ上のノードC,D,FからノードEへのエッジの重みである。
3b)全てのノードの仮中心性に減衰因子パラメータを乗算する。例えば、減衰因子パラメータは、0.85として設定されてもよい。
3c)ノードAの仮中心性に1を加算し、減衰因子パラメータを減算する。
3d)各ノードについて、前回の仮中心性と今回の仮中心性との差を計算する。なお、1回目の処理における「前回」とは、初期値2を指す。全てのノードについて、計算された差が所定の許容誤差(例えば、0.0000001など)以下である場合、今回の仮中心性を金額重み付きパーソナライズドページランクとし、そうでない場合、3a)に戻る。
【0031】
以上の計算によって、ノードA~Nの金額重み付きパーソナライズドページランクは、それぞれ0.2788,0.1145,0.1765,0.0378,0.0696,0.0484,0.1105,0.0657,0.0298,0.0269,0.0092,0.0182,0.0091,0.0049となる。
【0032】
次に、関連顧客群抽出部120は、金額重み付きパーソナライズドページランクを金額重み付き次数(すなわち、各ノードの取引金額であり、入出金額の絶対値の合計)で除算する。例えば、
図6に示された例では、ノードAについて、金額重み付きパーソナライズドページランクを金額重み付き次数38(=10+5+3+20)で除算した商は、図示されるように、“0.220”となる。同様に、各ノードの商は、図示される値となる。ここで、大きな数値の計算による誤差の発生を防ぐため、予め全てのエッジの重みを最大値(
図5の例では、30百万円)で除算して金額重み付き次数を計算してもよい。例えば、ノードAについて、金額重み付き次数は、38/30≒1.2667とされ、金額重み付きパーソナライズドページランクを金額重み付き次数で除算した商は、0.2788/1.2667≒0.220とされてもよい。
【0033】
各ノードに対して金額重み付きパーソナライズドページランクを金額重み付き次数で除算した商を算出すると、関連顧客群抽出部120は、商の値の降順に各ノードを順位付けする。
図6に示されるように、関連顧客群抽出部120は、ノードA、ノードD、ノードC、・・・の順で各ノードを順位付けすることになる。
【0034】
その後、関連顧客群抽出部120は、順位付けされたノードに対して、1位の1つのノードA、1,2位の2つのノードA,D、1~3位の3つのノードA,D,C、1~4位の4つのノードA,D,C,Eなどに対して金額重み付きコンダクタンスを計算する。計算結果は、
図7に示されるようにプロットされうる。例えば、抽出ノード数が4であるとき、すなわち、1~4位の4つのノードA,D,C,Eの金額重み付きコンダクタンスは、矢印により指し示される点となる。具体的には、金額重み付きコンダクタンスは、抽出ノード群の境界上にあるエッジの重みの合計を、抽出ノード群に属するノードの金額重み付き次数(入出金額の絶対値の和)の合計によって除算したものである。例えば、抽出ノード群が1~4位の4つのノードA,D,C,Eの場合は、(10+2+5+10)/(38+8+40+19)≒0.257となる。
【0035】
各抽出ノード数に対して金額重み付きコンダクタンスを算出すると、関連顧客群抽出部120は、金額重み付きコンダクタンスが最小となる抽出ノード数を特定し、特定した抽出ノード数に含まれるノード群を関連顧客群として決定する。
図7に示される例では、抽出ノード数8の金額重み付きコンダクタンスが最小となり、関連顧客群抽出部120は、1~8位のノード群A,D,C,E,B,H,F,Gを関連顧客群として決定する。これは、条件ii),iii)が充足されるほど、金額重み付きコンダクタンスは小さくなることが知られているためである。関連顧客群を抽出すると、関連顧客群抽出部120は、抽出した関連顧客群を中心顧客特定部130に通知する。
【0036】
中心顧客特定部130は、関連顧客群における中心顧客を特定する。具体的には、中心顧客特定部130は、抽出された関連顧客群の各ノードに対して、エッジの向きを考慮して金額重み付きページランクを計算する。関連顧客群の各ノードの金額重み付きページランクは、
図8に示される値となる。すなわち、中心顧客特定部130は、ノードAの中心性指標を1.022、ノードBの中心性指標を1.343、ノードCの中心性指標を0.953、ノードDの中心性指標を0.723、ノードEの中心性指標を0.832、ノードFの中心性指標を1.391、ノードGの中心性指標を0.892、ノードHの中心性指標を0.842として決定し、例えば、最大の中心性指標を有するノードFを中心顧客として特定してもよい。
【0037】
具体的には、中心顧客特定部130は、以下の手順に従って、エッジの向きを考慮して金額重み付きページランクを計算する。本例では、関連顧客群をグラフ全体とみなした上で、すなわち、A~H及び両端がこれらに含まれるエッジのみからなるグラフ上で、金額重み付きページランクを計算する。これは、関連顧客群内における中心人物を特定するためであるが、他方、関連顧客群に含まれない顧客も加味した上で中心性を評価したい場合には、関連顧客群に限定しないグラフ全体上で金額重み付きページランクを計算してもよい。
1)以下のように仮想有向グラフを作成する。
1a)流出エッジを有さないノード(例えば、ノードB,F)について、自ノード以外の全てのノードにエッジを引き、重みを1に設定する。なお、重みは必ずしも1に限定されるものでなく、何れか正の値であってもよい。当該重みの設定は、以下の1b)においてゼロによる除算を防ぐためのものである。
1b)向きを考慮してエッジで接続されている任意の2つのノードX,Yについて、ノードXからノードYへのエッジの重みを、元の重みをノードXの金額重み付き出次数(ノードXの出金額の和)で除算した商とする。例えば、ノードAからノードEへのエッジの重みは、3/(10+5+3)≒0.1667であり、ノードEからノードAへのエッジはなく、ノードBからノードAへのエッジの重みは、1/7≒0.1429となる。
2)全てのノードの仮中心性の初期値を1に設定する。ここで、仮中心性とは、金額重み付きページランクの計算過程で生じる仮の中心性指標である。
3)次のa)からd)までを繰り返し、各ノードの仮中心性の値を更新する。更新が終了すると、金額重み付きページランクが出力される。
3a)各ノードの仮中心性を、仮想有向グラフ上で当該ノードに流入するエッジの重みと、元のノードの仮中心性、すなわち、当該エッジが流出しているノードの仮中心性との積の合計に置換する。例えば、1回目の処理の後、ノードEの仮中心性は、0.1667×1+0.3333×1=0.5000となる。ここで、0.3333は、1bで計算した仮想有向グラフ上のノードDからノードEへのエッジの重みである。
3b)全てのノードの仮中心性に減衰因子パラメータを乗算する。例えば、減衰因子パラメータは、0.85に設定されてもよい。
3c)全てのノードの仮中心性に1を加算し、減衰因子パラメータを減算する。
3d)各ノードについて、前回の仮中心性と今回の仮中心性との差を計算する。なお、1回目の処理における「前回」とは、初期値2を指す。全てのノードについて、計算された差が所定の許容誤差(例えば、0.0000001など)以下である場合、今回の仮中心性を金額重み付きページランクとし、そうでない場合、3a)に戻る。
【0038】
なお、本開示による中心顧客は、1つのノードに限定されず、複数のノードであってもよい。また、中心顧客特定部130は、中心性指標の値に基づいて各ノードを複数の中心性レベルに分類してもよい。このようにして中心顧客を特定すると、中心顧客特定部130は、関連顧客群と中心顧客とを出力部140に通知する。ここで、エッジの向きを考慮した金額重み付きページランクは、送金ネットワークを介してより多くの資金が「流入」するノードの値が高くなるが、エッジの向きを無視した金額重み付きページランクでは、流入と流出の区別がないため送金ネットワークを介してより多くの資金が流入又は流出するノードの値が高くなる。中心性指標の計算では、資金が誰に集まっているのかを評価するため、エッジの向きを考慮して指標を算出することが好ましい。一方、ローカルクラスタリングの中で金額重み付きパーソナライズドページランクを計算する際にエッジの向きを無視するのは、2つのノードの間で送金が行われたとき、その向きによらず2人の間に「関係性」があったということを関連者探索に反映するためである。
【0039】
出力部140は、関連顧客群と中心顧客とを示す分析結果を出力する。例えば、出力部140は、関連顧客群に属するノード群と、当該ノード群の各ノードの中心性指標とを関連付けて、資金移動情報をグラフ形式で端末60に表示させてもよい。
【0040】
具体的には、出力部140は、中心性指標の大きさに応じてノードのサイズを拡大したり、色付けしたりしてもよい。また、出力部140は、ノードの属性に応じて関連顧客群のノードを表示/非表示してもよい。例えば、出力部140は、関連顧客群のうち自行の顧客のみを表示し、他行振込相手先/外為送金相手先を非表示にしてもよい。あるいは、出力部140は、関連顧客群のうち、設定された取引金額以上の取引が行われた顧客のみを表示し、当該取引金額未満の取引しか行われていない顧客を非表示にしてもよい。
【0041】
[顧客分析処理]
次に、
図9を参照して、本開示の一実施例による顧客分析処理を説明する。当該顧客分析処理は、上述した顧客分析装置100によって実行され、より詳細には、顧客分析装置100の1つ以上のプロセッサ102が1つ以上の記憶装置101に格納された1つ以上のプログラム又は指示を実行することによって実現されてもよい。
図9は、本開示の一実施例による顧客分析処理を示すフローチャートである。
【0042】
図9に示されるように、ステップS101において、顧客分析装置100は、対象顧客を示す分析要求を取得する。具体的には、顧客分析装置100は、端末60から対象顧客を示す分析要求を受信する。また、分析要求は、対象期間、検索対象の顧客群などの検索範囲を含んでもよい。
【0043】
ステップS102において、顧客分析装置100は、対象顧客と関連性を有する関連顧客群を抽出する。具体的には、顧客分析装置100は、検索範囲に対応する顧客間の資金移動情報をデータベース装置50から取得し、指定された対象顧客と関連性を有する関連顧客群を資金移動情報から抽出してもよい。例えば、関連性は、顧客間の取引金額及び/又は取引頻度などであってもよく、検索条件は、
i)関連顧客群は、対象顧客の顧客情報を含むこと、
ii)関連顧客群内の取引金額が多いこと、及び、
iii)関連顧客群と非関連顧客群との間の取引金額が少ないこと、
であってもよい。顧客分析装置100は、上述したように、公知のローカルクラスタリング手法に従って関連顧客群を抽出する。具体的には、顧客分析装置100は、パーソナライズドページランクに基づいて算出されるコンダクタンスが最小となるノード群を関連顧客群として決定してもよい。
【0044】
ステップS103において、顧客分析装置100は、関連顧客群における中心顧客を特定する。具体的には、顧客分析装置100は、関連顧客群の各ノードのページランクを中心性指標として利用し、中心性指標に基づいて中心顧客を特定してもよい。
【0045】
ステップS104において、顧客分析装置100は、関連顧客群と中心顧客とを示す分析結果を出力する。具体的には、顧客分析装置100は、関連顧客群の各ノードに中心性指標を関連付けて関連顧客群をグラフ形式で表示する画面情報を端末60に送信してもよい。
【0046】
上述した実施例によると、顧客分析装置100は、対象顧客と関連性を有する関連顧客群を抽出すると共に、関連顧客群の各顧客の中心性指標を決定することが可能になる。これにより、顧客間資金移動情報から不正取引に関わる集団を抽出すると共に、当該集団における中心人物を特定することが可能になり、犯罪集団を効果的に摘発することが可能になりうる。
【0047】
以上、本開示の実施例について詳述したが、本開示は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
50 データベース装置
60 端末
100 顧客分析装置
110 入力部
120 関連顧客群抽出部
130 中心顧客特定部
140 出力部
【手続補正書】
【提出日】2024-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末から対象顧客を示す分析要求を取得する入力部と、
各顧客をノードとし、顧客間の取引金額を重み付き有向エッジとする重み付き有向グラフによって表現される資金移動情報から、前記対象顧客の顧客情報を含むこと、関連顧客群内の取引金額、及び、前記関連顧客群と非関連顧客群との取引金額に関する所定の抽出条件に従って、所定の期間における前記対象顧客との取引金額に基づく関連性を有する関連顧客群を抽出する関連顧客群抽出部と、
前記関連顧客群を示す分析結果を出力する出力部と、
を有する顧客分析装置。
【請求項2】
前記関連顧客群抽出部は、ローカルクラスタリング手法に従って、各ノードの金額重み付きパーソナライズドページランクを算出し、前記金額重み付きパーソナライズドページランクに基づいて算出されるコンダクタンスが最小となるノード群を前記関連顧客群として抽出する、請求項1に記載の顧客分析装置。
【請求項3】
前記関連顧客群の各ノードの金額重み付きページランクに基づいて、前記関連顧客群において中心的な役割を担う中心顧客を特定する中心顧客特定部を更に有する、請求項1に記載の顧客分析装置。
【請求項4】
前記中心顧客特定部は、前記関連顧客群における顧客の中心性指標に基づいて、前記中心顧客を特定する、請求項3に記載の顧客分析装置。
【請求項5】
前記中心性指標は、金額重み付きページランクに基づき決定される、請求項4に記載の顧客分析装置。
【請求項6】
前記分析結果は、前記関連顧客群をグラフ形式により表示する、請求項1に記載の顧客分析装置。
【請求項7】
各顧客をノードとし、顧客間の取引金額を重み付き有向エッジとする重み付き有向グラフによって表現される資金移動情報を格納するデータベース装置と、
顧客分析装置と、
を有し、
前記顧客分析装置は、
端末から対象顧客を示す分析要求を取得する入力部と、
前記顧客間の資金移動情報から、前記対象顧客の顧客情報を含むこと、関連顧客群内の取引金額、及び、前記関連顧客群と非関連顧客群との取引金額に関する所定の抽出条件に従って、所定の期間における前記対象顧客との取引金額に基づく関連性を有する関連顧客群を抽出する関連顧客群抽出部と、
前記関連顧客群を示す分析結果を出力する出力部と、
を有する顧客分析システム。
【請求項8】
端末から対象顧客を示す分析要求を取得するステップと、
各顧客をノードとし、顧客間の取引金額を重み付き有向エッジとする重み付き有向グラフによって表現される資金移動情報から、前記対象顧客の顧客情報を含むこと、関連顧客群内の取引金額、及び、前記関連顧客群と非関連顧客群との取引金額に関する所定の抽出条件に従って、所定の期間における前記対象顧客との取引金額に基づく関連性を有する関連顧客群を抽出するステップと、
前記関連顧客群を示す分析結果を出力するステップと、
をコンピュータが実行する顧客分析方法。