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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085146
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/09 20060101AFI20240619BHJP
   G01R 15/20 20060101ALI20240619BHJP
   H10N 59/00 20230101ALI20240619BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20240619BHJP
   H10N 50/80 20230101ALI20240619BHJP
【FI】
G01R33/09
G01R15/20 B
H10N59/00
H10N50/10 Z
H10N50/80 Z
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199521
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】平林 啓
【テーマコード(参考)】
2G017
2G025
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AB09
2G017AD55
2G017BA05
2G017BA09
2G017BA15
2G025EC09
5F092AA15
5F092AB01
5F092AC05
5F092AC08
5F092AC12
5F092BB16
5F092BB65
5F092BB71
5F092BC04
5F092BC07
5F092BC42
5F092CA23
(57)【要約】
【課題】傾斜面の上に配置された磁気検出素子備えた磁気センサにおいて、磁界発生体から磁気検出素子に印加される磁界のばらつきを抑制する。
【解決手段】磁気センサ1は、第1の傾斜面203aを有する絶縁層203と、第1の傾斜面203aの上に配置された複数の第1のMR素子50Aと、第1の傾斜面203aの上に配置されると共に複数の第1のMR素子50Aに印加される磁界を発生する複数の第1の磁界発生体70Aとを備えている。複数の第1の磁界発生体70Aの各々は、強磁性体部72と、反強磁性体部71とを含んでいる。強磁性体部72と反強磁性体部71は、第1の傾斜面203bと交差する方向に積層されている。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準平面に対して傾斜した少なくとも1つの傾斜面を有する支持部材と、
前記少なくとも1つの傾斜面の上に配置されると共に対象磁界を検出するように構成された少なくとも1つの磁気検出素子と、
前記少なくとも1つの傾斜面の上に配置されると共に前記少なくとも1つの磁気検出素子に印加される磁界を発生する少なくとも1つの磁界発生体とを備え、
前記少なくとも1つの磁界発生体は、強磁性体部と、前記強磁性体部に接して前記強磁性体部と交換結合する反強磁性体部とを含み、
前記強磁性体部と前記反強磁性体部は、前記少なくとも1つの傾斜面と交差する方向に積層されていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記強磁性体部と前記反強磁性体部の各々は、前記少なくとも1つの傾斜面に対向し且つ前記基準平面に対して傾斜した下面を有することを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、前記少なくとも1つの傾斜面と交差する方向に積層された複数の磁性層を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、前記少なくとも1つの傾斜面に沿った形状を有する第1の下面を有し、
前記少なくとも1つの磁界発生体は、前記少なくとも1つの傾斜面に沿った形状であって少なくとも一部が前記第1の下面と実質的に同じ形状を有する第2の下面を有することを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの傾斜面は、前記基準平面に垂直な一方向から見て、前記基準平面に平行な方向に長い形状を有し、
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、前記少なくとも1つの傾斜面の長手方向に沿って長い形状を有していることを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、特定の磁気検出素子を含み、
前記少なくとも1つの磁界発生体は、前記特定の磁気検出素子に対して前記特定の磁気検出素子の長手方向の両側に配置された2つの特定の磁界発生体を含むことを特徴とする請求項5記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記少なくとも1つの磁界発生体は、前記少なくとも1つの傾斜面の長手方向に沿って配置された複数の磁界発生体を含むことを特徴とする請求項5記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記少なくとも1つの磁界発生体は、第1の磁界発生体と、第2の磁界発生体とを含み、
前記第1の磁界発生体の前記強磁性体部は、第1の磁化を有し、
前記第2の磁界発生体の前記強磁性体部は、第2の磁化を有し、
前記第1の磁化は、第1の方向の成分を含み、
前記第2の磁化は、前記第1の方向とは異なる第2の方向の成分を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記少なくとも1つの磁界発生体は、第1の磁界発生体と、第2の磁界発生体とを含み、
前記第1の磁界発生体と前記第2の磁界発生体は、同じ平面の上には配置されていないことを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項10】
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、第1の磁気検出素子と、第2の磁気検出素子とを含み、
前記第1の磁気検出素子と前記第2の磁気検出素子は、同じ平面の上には配置されていないことを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項11】
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子であり、
前記少なくとも1つの磁気抵抗効果素子は、方向が固定された磁化を有する磁化固定層と、前記対象磁界に応じて方向が変化可能な磁化を有する自由層と、前記磁化固定層と前記自由層の間に配置されたギャップ層とを含み、
前記磁化固定層は、前記少なくとも1つの傾斜面と前記ギャップ層との間に配置されていることを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項12】
前記少なくとも1つの傾斜面は、前記基準平面と前記基準平面に垂直な方向の各々に対して傾いた方向に向いた特定の傾斜面を含み、
前記特定の傾斜面は、前記基準平面に垂直な一方向から見て、前記基準平面に平行な方向に長い形状を有し、
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、前記特定の傾斜面に配置され且つ前記特定の傾斜面の長手方向と交差する方向に沿って並んだ2つの積層膜を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項13】
更に、電源端と、
グランド端と、
第1の出力端と、
第2の出力端と、
前記電源端と前記第1の出力端との間に設けられた第1の抵抗部と、
前記グランド端と前記第1の出力端との間に設けられた第2の抵抗部と、
前記グランド端と前記第2の出力端との間に設けられた第3の抵抗部と、
前記電源端と前記第2の出力端との間に設けられた第4の抵抗部とを備え、
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、第1の領域に配置され且つ前記第1の抵抗部を構成する複数の第1の磁気検出素子と、第2の領域に配置され且つ前記第2の抵抗部を構成する複数の第2の磁気検出素子と、第3の領域に配置され且つ前記第3の抵抗部を構成する複数の第3の磁気検出素子と、第4の領域に配置され且つ前記第4の抵抗部を構成する複数の第4の磁気検出素子とを含み、
前記少なくとも1つの磁界発生体は、複数の磁界発生体であり、
前記複数の磁界発生体は、前記第1の領域、前記第2の領域、前記第3の領域および前記第4の領域に分割して配置され、
前記第1の領域、前記第2の領域、前記第3の領域および前記第4の領域のうち、2つの領域に配置された前記複数の磁界発生体の各々の前記強磁性体部は、第1の磁化を有し、
前記第1の領域、前記第2の領域、前記第3の領域および前記第4の領域のうち、他の2つの領域に配置された前記複数の磁界発生体の各々の前記強磁性体部は、第2の磁化を有し、
前記第1の磁化は、第1の方向の成分を含み、
前記第2の磁化は、前記第1の方向とは反対の第2の方向の成分を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項14】
前記少なくとも1つの傾斜面は、それぞれ前記基準平面に垂直な一方向から見て前記基準平面に平行な方向に長い形状を有すると共に互いに異なる方向に向いた第1の傾斜面および第2の傾斜面を含み、
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、前記第1の傾斜面の上に配置された複数の第1の磁気検出素子と、前記第2の傾斜面の上に配置された複数の第2の磁気検出素子とを含み、
前記少なくとも1つの磁界発生体は、前記第1の傾斜面の上に配置された複数の第1の磁界発生体と、前記第2の傾斜面の上に配置された複数の第2の磁界発生体とを含み、
前記複数の第1の磁気検出素子は、前記対象磁界のうち、前記基準平面と前記基準平面に垂直な方向の各々に対して傾いた第1の方向の成分を検出して第1の検出信号を生成する第1の検出回路を構成し、
前記複数の第2の磁気検出素子は、前記対象磁界のうち、前記基準平面と前記基準平面に垂直な方向の各々に対して傾いた第2の方向の成分を検出して第2の検出信号を生成する第2の検出回路を構成することを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項15】
更に、平坦面を有する他の支持部材と、
前記平坦面の上に配置された複数の第3の磁気検出素子と、
前記平坦面の上に配置されると共に前記複数の第3の磁気検出素子に印加される磁界を発生する複数の第3の磁界発生体とを備え、
前記複数の第3の磁気検出素子は、前記対象磁界のうち、前記基準平面に平行な第3の方向の成分を検出して第3の検出信号を生成する第3の検出回路を構成することを特徴とする請求項14記載の磁気センサ。
【請求項16】
前記対象磁界は、地磁気であることを特徴とする請求項15記載の磁気センサ。
【請求項17】
前記対象磁界は、導体を流れる検出対象電流によって発生する磁界であることを特徴とする請求項1ないし15のいずれかに記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜面の上に配置された磁気検出素子を含む磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の用途で、磁気抵抗効果素子を用いた磁気センサが利用されている。磁気抵抗効果素子としては、例えばスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子が用いられる。スピンバルブ型の磁気抵抗効果素子は、方向が固定された磁化を有する磁化固定層と、印加磁界の方向に応じて方向が変化可能な磁化を有する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置されたギャップ層とを有している。
【0003】
磁気センサでは、種々の目的のために、磁気抵抗効果素子にバイアス磁界が印加される場合がある。例えば、特許文献1には、巨大磁気抵抗効果素子におけるフリー磁性層の抵抗に生じるオフセットを低減するために、1つのフリー磁性層の一部と他の一部に対して、それぞれ逆向きのバイアス磁界を印加する複数のバイアス磁界印加部を備えた磁気センサが開示されている。複数のバイアス磁界印加部の各々は、磁性層が2つの反強磁性層に挟まれた構造を有している。
【0004】
また、特許文献2には、被測定電流に基づく電流磁場以外の外部磁場を検知するために、フルブリッジ回路を構成する2つの磁気抵抗効果素子の各々の磁化自由層と他の2つの磁気抵抗効果素子の各々の磁化自由層に対して、それぞれ逆向きのバイアス磁界を印加する複数の磁性体を備えた電流センサが開示されている。
【0005】
特許文献3には、X軸センサとY軸センサとZ軸センサが基板上に設けられた磁気センサが開示されている。Z軸センサを構成する磁気抵抗効果素子は、基板の下地膜に形成された突起部の斜面に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-77691号公報
【特許文献2】特開2016-90440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、磁気センサを含むシステムでは、基板上に設けられた磁気抵抗効果素子によって、基板の面に垂直な方向の成分を含む磁界を検出したい場合がある。この場合、基板に設けられた傾斜面の上に磁気抵抗効果素子を配置することが考えられる。このような磁気抵抗効果素子に対してバイアス磁界を印加する磁界発生体を設ける場合、傾斜面を挟むように、2つの磁界発生体を設けることが考えられる。この場合、製造ばらつきに起因して磁気抵抗効果素子と磁界発生体の少なくとも一方が設計上の位置からずれてしまうと、磁気抵抗効果素子の自由層に印加されるバイアス磁界の強度や方向が変化してしまうという問題が発生する。この問題は、特許文献1のバイアス磁界印加部のように、磁界発生体が複数の層を含む場合に顕著になる。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、傾斜面の上に配置された磁気検出素子備えた磁気センサにおいて、磁界発生体から磁気検出素子に印加される磁界のばらつきを抑制することができる磁気センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁気センサは、基準平面に対して傾斜した少なくとも1つの傾斜面を有する支持部材と、少なくとも1つの傾斜面の上に配置されると共に対象磁界を検出するように構成された少なくとも1つの磁気検出素子と、少なくとも1つの傾斜面の上に配置されると共に少なくとも1つの磁気検出素子に印加される磁界を発生する少なくとも1つの磁界発生体とを備えている。少なくとも1つの磁界発生体は、強磁性体部と、強磁性体部に接して強磁性体部と交換結合する反強磁性体部とを含んでいる。強磁性体部と反強磁性体部は、少なくとも1つの傾斜面と交差する方向に積層されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の磁気センサでは、少なくとも1つの磁界発生体の強磁性体部と反強磁性体部は、少なくとも1つの傾斜面と交差する方向に積層されている。これにより、本発明によれば、磁界発生体から磁気検出素子に印加される磁界のばらつきを抑制することが可能な磁気センサを実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る磁気センサを含む磁気センサ装置を示す斜視図である。
図2図1に示した磁気センサ装置を示す平面図である。
図3図1に示した磁気センサ装置を示す側面図である。
図4図1に示した磁気センサ装置の構成を示す機能ブロック図である。
図5】本発明の第1の実施の形態における第1の検出回路の回路構成を示す回路図である。
図6】本発明の第1の実施の形態における第2の検出回路の回路構成を示す回路図である。
図7】本発明の第1の実施の形態における第3の検出回路の回路構成を示す回路図である。
図8】本発明の第1の実施の形態における第1のチップの一部を示す斜視図である。
図9】本発明の第1の実施の形態における第1のチップの一部を示す平面図である。
図10】本発明の第1の実施の形態における第1のチップの一部を示す断面図である。
図11】本発明の第1の実施の形態における第1のチップの一部を示す他の断面図である。
図12】本発明の第1の実施の形態における第2のチップの一部を示す斜視図である。
図13】本発明の第1の実施の形態における第2のチップの一部を示す平面図である。
図14】本発明の第1の実施の形態における第2のチップの一部を示す断面図である。
図15】本発明の第1の実施の形態における第2のチップの一部を示す他の断面図である。
図16】本発明の第1の実施の形態における磁気抵抗効果素子および磁界発生体を示す側面図である。
図17】本発明の第1の実施の形態における複数の磁気抵抗効果素子および複数の磁界発生体の配置の第1の例を説明するための説明図である。
図18】本発明の第1の実施の形態における複数の磁気抵抗効果素子および複数の磁界発生体の配置の第2の例を説明するための説明図である。
図19】本発明の第2の実施の形態における第1のチップの一部を示す断面図である。
図20】本発明の第2の実施の形態における第1のチップの一部を示す他の断面図である。
図21】本発明の第3の実施の形態における磁気抵抗効果素子および磁界発生体を示す平面図である。
図22】本発明の第4の実施の形態における磁気抵抗効果素子および磁界発生体を示す側面図である。
図23】本発明の第4の実施の形態における磁気抵抗効果素子および磁界発生体を示す平面図である。
図24】本発明の第5の実施の形態における磁気抵抗効果素子および磁界発生体を示す平面図である。
図25】本発明の第6の実施の形態における磁気抵抗効果素子および磁界発生体を示す平面図である。
図26】本発明の第7の実施の形態における磁界発生体を示す側面図である。
図27】本発明の第8の実施の形態に係る磁気センサを含む電流センサシステムの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1ないし図4を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る磁気センサを含む磁気センサ装置の構成について説明する。図1は、磁気センサ装置100を示す斜視図である。図2は、磁気センサ装置100を示す平面図である。図3は、磁気センサ装置100を示す側面図である。図4は、磁気センサ装置100の構成を示す機能ブロック図である。
【0013】
磁気センサ装置100は、本実施の形態に係る磁気センサ1を備えている。磁気センサ1は、第1のチップ2と、第2のチップ3とによって構成されている。磁気センサ装置100は、更に、第1および第2のチップ2,3を支持する支持体4を備えている。第1のチップ2、第2のチップ3および支持体4は、いずれも直方体形状を有している。支持体4は、上面である基準平面4aと、基準平面4aとは反対側に位置する下面4bと、基準平面4aと下面4bとを接続する4つの側面とを有している。
【0014】
ここで、図1ないし図3を参照して、本実施の形態における基準座標系について説明する。基準座標系は、磁気センサ装置100を基準とした座標系であって、3つの軸によって定義された直交座標系である。基準座標系では、X方向、Y方向、Z方向が定義されている。X方向、Y方向、Z方向は、互いに直交する。本実施の形態では特に、支持体4の基準平面4aに垂直な方向であって、支持体4の下面から基準平面4aに向かう方向を、Z方向とする。また、X方向とは反対の方向を-X方向とし、Y方向とは反対の方向を-Y方向とし、Z方向とは反対の方向を-Z方向とする。基準座標系を定義する3つの軸は、X方向に平行な軸と、Y方向に平行な軸と、Z方向に平行な軸である。
【0015】
以下、基準の位置に対してZ方向の先にある位置を「上方」と言い、基準の位置に対して「上方」とは反対側にある位置を「下方」と言う。また、磁気センサ装置100の構成要素に関して、Z方向の端に位置する面を「上面」と言い、-Z方向の端に位置する面を「下面」と言う。また、「Z方向から見たとき」という表現は、Z方向に離れた位置から対象物を見ることを意味する。
【0016】
また、図3に示したように、U方向とV方向を、以下のように定義する。U方向は、Y方向から-Z方向に向かって回転した方向である。V方向は、Y方向からZ方向に向かって回転した方向である。本実施の形態では特に、U方向を、Y方向から-Z方向に向かってαだけ回転した方向とし、V方向を、Y方向からZ方向に向かってαだけ回転した方向とする。なお、αは、0°よりも大きく90°よりも小さい角度である。また、U方向とは反対の方向を-U方向とし、V方向とは反対の方向を-V方向とする。U方向およびV方向は、それぞれ、X方向と直交する。
【0017】
第1のチップ2は、互いに反対側に位置する上面2aおよび下面2bと、上面2aおよび下面2bとを接続する4つの側面とを有している。第2のチップ3は、互いに反対側に位置する上面3aおよび下面3bと、上面3aおよび下面3bとを接続する4つの側面とを有している。
【0018】
第1のチップ2は、第1のチップ2の下面2bが支持体4の基準平面4aに対向する姿勢で、基準平面4a上に実装されている。第2のチップ3は、第2のチップ3の下面3bが支持体4の基準平面4aに対向する姿勢で、基準平面4a上に実装されている。第1のチップ2と第2のチップ3は、それぞれ、例えば接着剤6,7によって支持体4に接合されている。
【0019】
第1のチップ2は、上面2a上に設けられた複数の第1の電極パッド21を有している。第2のチップ3は、上面3a上に設けられた複数の第2の電極パッド31を有している。支持体4は、基準平面4a上に設けられた複数の第3の電極パッド41を有している。図示しないが、磁気センサ装置100では、複数の第1の電極パッド21と複数の第2の電極パッド31と複数の第3の電極パッド41のうち、対応する2つの電極パッドが、ボンディングワイヤによって互いに接続されている。
【0020】
磁気センサ1は、第1の検出回路10と、第2の検出回路20と、第3の検出回路30とを備えている。第1のチップ2は、第1の検出回路10と第2の検出回路20とを含んでいる。第2のチップ3は、第3の検出回路30を含んでいる。
【0021】
磁気センサ装置100は、更に、プロセッサ40を備えている。支持体4は、プロセッサ40を含んでいる。第1ないし第3の検出回路10,20,30とプロセッサ40は、複数の第1の電極パッド21、複数の第2の電極パッド31、複数の第3の電極パッド41および複数のボンディングワイヤを介して接続されている。
【0022】
第1ないし第3の検出回路10,20,30の各々は、複数の磁気検出素子を含み、対象磁界を検出して少なくとも1つの検出信号を生成するように構成されている。本実施の形態では特に、複数の磁気検出素子は、複数の磁気抵抗効果素子である。以下、磁気抵抗効果素子を、MR素子と記す。
【0023】
プロセッサ40は、第1ないし第3の検出回路10,20,30が生成する複数の検出信号を処理することによって、所定の基準位置における磁界の互いに異なる3つの方向の成分と対応関係を有する第1の検出値、第2の検出値および第3の検出値を生成するように構成されている。本実施の形態では特に、上記の互いに異なる3つの方向は、XY平面に平行な2つの方向と、Z方向に平行な方向である。プロセッサ40は、例えば特定用途向け集積回路(ASIC)によって構成されている。
【0024】
対象磁界は、例えば地磁気であってもよい。この場合、第1、第2および第3の検出値は、それぞれ、地磁気の互いに異なる3つの方向の成分と対応関係を有している。
【0025】
次に、図4ないし図7を参照して、第1ないし第3の検出回路10,20,30の回路構成について説明する。図5は、第1の検出回路10の回路構成を示す回路図である。図6は、第2の検出回路20の回路構成を示す回路図である。図7は、第3の検出回路30の回路構成を示す回路図である。
【0026】
第1の検出回路10は、対象磁界のU方向に平行な方向の成分を検出し、この成分と対応関係を有する少なくとも1つの第1の検出信号を生成するように構成されている。第2の検出回路20は、対象磁界のV方向に平行な方向の成分を検出し、この成分と対応関係を有する少なくとも1つの第2の検出信号を生成するように構成されている。第3の検出回路30は、対象磁界のX方向に平行な方向の成分を検出し、この成分と対応関係を有する少なくとも1つの第3の検出信号を生成するように構成されている。
【0027】
図5に示したように、第1の検出回路10は、電源端V1と、グランド端G1と、信号出力端E11,E12と、第1の抵抗部R11と、第2の抵抗部R12と、第3の抵抗部R13と、第4の抵抗部R14とを含んでいる。第1の検出回路10の複数のMR素子は、第1ないし第4の抵抗部R11,R12,R13,R14を構成する。
【0028】
第1の抵抗部R11は、電源端V1と信号出力端E11との間に設けられている。第2の抵抗部R12は、信号出力端E11とグランド端G1との間に設けられている。第3の抵抗部R13は、信号出力端E12とグランド端G1との間に設けられている。第4の抵抗部R14は、電源端V1と信号出力端E12との間に設けられている。
【0029】
図6に示したように、第2の検出回路20は、電源端V2と、グランド端G2と、信号出力端E21,E22と、第1の抵抗部R21と、第2の抵抗部R22と、第3の抵抗部R23と、第4の抵抗部R24とを含んでいる。第2の検出回路20の複数のMR素子は、第1ないし第4の抵抗部R21,R22,R23,R24を構成する。
【0030】
第1の抵抗部R21は、電源端V2と信号出力端E21との間に設けられている。第2の抵抗部R22は、信号出力端E21とグランド端G2との間に設けられている。第3の抵抗部R23は、信号出力端E22とグランド端G2との間に設けられている。第4の抵抗部R24は、電源端V2と信号出力端E22との間に設けられている。
【0031】
図7に示したように、第3の検出回路30は、電源端V3と、グランド端G3と、信号出力端E31,E32と、第1の抵抗部R31と、第2の抵抗部R32と、第3の抵抗部R33と、第4の抵抗部R34とを含んでいる。第3の検出回路30の複数のMR素子は、第1ないし第4の抵抗部R31,R32,R33,R34を構成する。
【0032】
第1の抵抗部R31は、電源端V3と信号出力端E31との間に設けられている。第2の抵抗部R32は、信号出力端E31とグランド端G3との間に設けられている。第3の抵抗部R33は、信号出力端E32とグランド端G3との間に設けられている。第4の抵抗部R34は、電源端V3と信号出力端E32との間に設けられている。
【0033】
電源端V1~V3の各々には、所定の大きさの電圧または電流が印加される。グランド端G1~G3の各々はグランドに接続される。
【0034】
以下、第1の検出回路10の複数のMR素子を複数の第1のMR素子50Aと言い、第2の検出回路20の複数のMR素子を複数の第2のMR素子50Bと言い、第3の検出回路30の複数のMR素子を複数の第3のMR素子50Cと言う。第1ないし第3の検出回路10,20,30は磁気センサ1の構成要素であることから、磁気センサ1が複数の第1のMR素子50A、複数の第2のMR素子50Bおよび複数の第3のMR素子50Cを含んでいるとも言える。また、任意のMR素子については、符号50を付して表す。
【0035】
MR素子50は、スピンバルブ型のMR素子でもよいし、AMR(異方性磁気抵抗効果)素子でもよい。本実施の形態では特に、MR素子50は、スピンバルブ型のMR素子である。MR素子50は、方向が固定された磁化を有する磁化固定層と、対象磁界の方向に応じて方向が変化可能な磁化を有する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置されたギャップ層とを有している。MR素子50は、TMR(トンネル磁気抵抗効果)素子でもよいし、GMR(巨大磁気抵抗効果)素子でもよい。TMR素子では、ギャップ層はトンネルバリア層である。GMR素子では、ギャップ層は非磁性導電層である。MR素子50では、自由層の磁化の方向が磁化固定層の磁化の方向に対してなす角度に応じて抵抗値が変化し、この角度が0°のときに抵抗値は最小値となり、角度が180°のときに抵抗値は最大値となる。各MR素子50において、自由層は、磁化容易軸方向が、磁化固定層の磁化の方向に直交する方向となる形状異方性を有している。
【0036】
図5ないし図7において、各抵抗部と重なる複数の塗りつぶした矢印は、MR素子50の磁化固定層の磁化の方向を表している。また、各抵抗部と重なる複数の白抜きの矢印は、MR素子50に対象磁界が印加されていない場合における、MR素子50の自由層の磁化の方向を表している。
【0037】
図5に示した例では、第1および第3の抵抗部R11,R13の各々における磁化固定層の磁化の方向は、U方向である。第2および第4の抵抗部R12,R14の各々における磁化固定層の磁化の方向は、-U方向である。また、複数の第1のMR素子50Aの各々の自由層は、磁化容易軸方向がX方向に平行な方向となる形状異方性を有している。第1および第2の抵抗部R11,R12の各々における自由層の磁化の方向は、第1のMR素子50Aに対象磁界が印加されていない場合、X方向である。第3および第4の抵抗部R13,R14の各々における自由層の磁化の方向は、上記の場合、-X方向である。
【0038】
図6に示した例では、第1および第3の抵抗部R21,R23の各々における磁化固定層の磁化の方向は、V方向である。第2および第4の抵抗部R22,R24の各々における磁化固定層の磁化の方向は、-V方向である。また、複数の第2のMR素子50Bの各々の自由層は、磁化容易軸方向がX方向に平行な方向となる形状異方性を有している。第1および第2の抵抗部R21,R22の各々における自由層の磁化の方向は、第2のMR素子50Bに対象磁界が印加されていない場合、X方向である。第3および第4の抵抗部R23,R24の各々における自由層の磁化の方向は、上記の場合、-X方向である。
【0039】
図7に示した例では、第1および第3の抵抗部R31,R33の各々における磁化固定層の磁化の方向は、X方向である。第2および第4の抵抗部R32,R34の各々における磁化固定層の磁化の方向は、-X方向である。また、複数の第3のMR素子50Cの各々の自由層は、磁化容易軸方向がY方向に平行な方向となる形状異方性を有している。第1および第2の抵抗部R31,R32の各々における自由層の磁化の方向は、第3のMR素子50Cに対象磁界が印加されていない場合、Y方向である。第3および第4の抵抗部R33,R34の各々における自由層の磁化の方向は、上記の場合、-Y方向である。
【0040】
磁気センサ1は、更に、少なくとも1つのMR素子50に印加される磁界を発生する少なくとも1つの磁界発生体を備えている。本実施の形態では特に、少なくとも1つの磁界発生体は、複数の磁界発生体である。図5において、符号M11,M12,M13,M14を付した矢印は、複数の磁界発生体によって複数の第1のMR素子50Aに印加される磁界の方向を示している。第1および第2の抵抗部R11,R12では、複数の磁界発生体によって複数の第1のMR素子50AにX方向の磁界が印加されている。第3および第4の抵抗部R13,R14では、複数の磁界発生体によって複数の第1のMR素子50Aに-X方向の磁界が印加されている。
【0041】
図6において、符号M21,M22,M23,M24を付した矢印は、複数の磁界発生体によって複数の第2のMR素子50Bに印加される磁界の方向を示している。第1および第2の抵抗部R21,R22では、複数の磁界発生体によって複数の第2のMR素子50BにX方向の磁界が印加されている。第3および第4の抵抗部R23,R24では、複数の磁界発生体によって複数の第2のMR素子50Bに-X方向の磁界が印加されている。
【0042】
図7において、符号M31,M32,M33,M34を付した矢印は、複数の磁界発生体によって複数の第3のMR素子50Cに印加される磁界の方向を示している。第1および第2の抵抗部R31,R32では、複数の磁界発生体によって複数の第3のMR素子50CにY方向の磁界が印加されている。第3および第4の抵抗部R33,R34では、複数の磁界発生体によって複数の第3のMR素子50Cに-Y方向の磁界が印加されている。
【0043】
なお、磁化固定層の磁化の方向、自由層の磁化容易軸の方向および複数の磁界発生体によってMR素子50に印加される磁界の方向は、MR素子50および磁界発生体の作製の精度等の観点から、上述の方向からわずかにずれていてもよい。また、磁化固定層の磁化は、上述の方向を主成分とする磁化成分を含むように構成されていてもよい。この場合、磁化固定層の磁化の方向は、上述の方向またはほぼ上述の方向になる。
【0044】
次に、第1ないし第3の検出信号について説明する。始めに、図5を参照して、第1の検出信号について説明する。対象磁界のU方向に平行な方向の成分の強度が変化すると、第1の検出回路10の抵抗部R11~R14の各々の抵抗値は、抵抗部R11,R13の抵抗値が増加すると共に抵抗部R12,R14の抵抗値が減少するか、抵抗部R11,R13の抵抗値が減少すると共に抵抗部R12,R14の抵抗値が増加するように変化する。これにより、信号出力端E11,E12の各々の電位が変化する。第1の検出回路10は、信号出力端E11の電位に対応する信号を第1の検出信号S11として生成し、信号出力端E12の電位に対応する信号を第1の検出信号S12として生成するように構成されている。
【0045】
次に、図6を参照して、第2の検出信号について説明する。対象磁界のV方向に平行な方向の成分の強度が変化すると、第2の検出回路20の抵抗部R21~R24の各々の抵抗値は、抵抗部R21,R23の抵抗値が増加すると共に抵抗部R22,R24の抵抗値が減少するか、抵抗部R21,R23の抵抗値が減少すると共に抵抗部R22,R24の抵抗値が増加するように変化する。これにより、信号出力端E21,E22の各々の電位が変化する。第2の検出回路20は、信号出力端E21の電位に対応する信号を第2の検出信号S21として生成し、信号出力端E22の電位に対応する信号を第2の検出信号S22として生成するように構成されている。
【0046】
次に、図7を参照して、第3の検出信号について説明する。対象磁界のX方向に平行な方向の成分の強度が変化すると、第3の検出回路30の抵抗部R31~R34の各々の抵抗値は、抵抗部R31,R33の抵抗値が増加すると共に抵抗部R32,R34の抵抗値が減少するか、抵抗部R31,R33の抵抗値が減少すると共に抵抗部R32,R34の抵抗値が増加するように変化する。これにより、信号出力端E31,E32の各々の電位が変化する。第3の検出回路30は、信号出力端E31の電位に対応する信号を第3の検出信号S31として生成し、信号出力端E32の電位に対応する信号を第3の検出信号S32として生成するように構成されている。
【0047】
次に、プロセッサ40の動作について説明する。プロセッサ40は、第1の検出信号S11,S12および第2の検出信号S21,S22に基づいて、第1の検出値と第2の検出値を生成するように構成されている。第1の検出値は、対象磁界のY方向に平行な方向の成分に対応する検出値である。第2の検出値は、対象磁界のZ方向に平行な方向の成分に対応する検出値である。以下、第1の検出値を記号Syで表し、第2の検出値を記号Szで表す。
【0048】
プロセッサ40は、例えば、以下のようにして第1および第2の検出値Sy,Szを生成する。プロセッサ40は、まず、第1の検出信号S11と第1の検出信号S12の差S11-S12を求めることを含む演算によって、値S1を生成すると共に、第2の検出信号S21と第2の検出信号S22の差S21-S22を求めることを含む演算によって、値S2を生成する。次に、プロセッサ40は、下記の式(1)、(2)を用いて、値S3,S4を算出する。
【0049】
S3=(S2+S1)/(2cosα) …(1)
S4=(S2-S1)/(2sinα) …(2)
【0050】
第1の検出値Syは、値S3そのものであってもよいし、値S3に対してゲイン調整およびオフセット調整等の所定の補正を加えたものであってもよい。同様に、第2の検出値Szは、値S4そのものであってもよいし、値S4に対してゲイン調整およびオフセット調整等の所定の補正を加えたものであってもよい。
【0051】
プロセッサ40は、更に、第3の検出信号S31,S32に基づいて第3の検出値を生成するように構成されている。第3の検出値は、対象磁界のX方向に平行な方向の成分に対応する検出値である。以下、第3の検出値を記号Sxで表す。
【0052】
本実施の形態では、プロセッサ40は、第3の検出信号S31と第3の検出信号S32の差S31-S32を求めることを含む演算によって、第3の検出値Sxを生成する。第3の検出値Sxは、差S31-S32そのものであってもよいし、差S31-S32に対してゲイン調整およびオフセット調整等の所定の補正を加えたものであってもよい。
【0053】
次に、図8ないし図11を参照して、第1のチップ2の構造について詳しく説明する。図8は、第1のチップ2の一部を示す斜視図である。図9は、第1のチップ2の一部を示す平面図である。図10および図11は、第1のチップ2の一部を示す断面図である。図10は、図9において10-10線で示す位置の断面の一部を示している。図11は、図9において11-11線で示す位置の断面の一部を示している。
【0054】
第1のチップ2は、上面201aを有する基板201と、絶縁層202,203,204,205,206,207と、複数の下部電極61Aと、複数の下部電極61Bと、複数の上部電極62Aと、複数の上部電極62Bと、複数の第1の磁界発生体70Aと、複数の第2の磁界発生体70Bとを含んでいる。基板201の上面201aは、XY平面に平行であるものとする。Z方向は、基板201の上面201aに垂直な一方向でもある。
【0055】
絶縁層202,203は、基板201の上に、この順に配置されている。複数の下部電極61Aと複数の下部電極61Bは、絶縁層203の上に配置されている。絶縁層204は、絶縁層203の上において複数の下部電極61Aの周囲と複数の下部電極61Bの周囲に配置されている。複数の第1のMR素子50Aは、複数の下部電極61Aの上に配置されている。複数の第2のMR素子50Bは、複数の下部電極61Bの上に配置されている。絶縁層205は、複数の下部電極61A、複数の下部電極61Bおよび絶縁層204の上において複数の第1のMR素子50Aの周囲と複数の第2のMR素子50Bの周囲に配置されている。複数の上部電極62Aは、複数の第1のMR素子50Aおよび絶縁層205の上に配置されている。複数の上部電極62Bは、複数の第2のMR素子50Bおよび絶縁層205の上に配置されている。絶縁層206は、絶縁層205の上において複数の上部電極62Aの周囲と複数の上部電極62Bの周囲に配置されている。絶縁層207は、複数の上部電極62A、複数の上部電極62Bおよび絶縁層206の上に配置されている。
【0056】
複数の第1の磁界発生体70Aと複数の第2の磁界発生体70Bは、絶縁層205に埋め込まれている。複数の第1の磁界発生体70Aの各々は、第1のMR素子50Aおよび下部電極61Aに対して所定の間隔を開けて配置されている。複数の第2の磁界発生体70Bの各々は、第2のMR素子50Bおよび下部電極61Bに対して所定の間隔を開けて配置されている。絶縁層205は、複数の第1の磁界発生体70Aの各々と複数の第1のMR素子50Aの各々との間、複数の第2の磁界発生体70Bの各々と複数の第2のMR素子50Bの各々との間、複数の第1の磁界発生体70Aの各々と複数の下部電極61Aの各々との間、および複数の第2の磁界発生体70Bの各々と複数の下部電極61Bの各々との間に介在する絶縁膜を含んでいてもよい。
【0057】
複数の第1の磁界発生体70Aのうちのいくつかの第1の磁界発生体70Aの上面は、複数の上部電極62Aの下面に接していてもよい。複数の第2の磁界発生体70Bのうちのいくつかの第2の磁界発生体70Bの上面は、複数の上部電極62Bの下面に接していてもよい。
【0058】
第1のチップ2は、複数の第1のMR素子50Aと複数の第2のMR素子50Bを支持する支持部材を含んでいる。支持部材は、基板201の上面201aに対して傾斜した少なくとも1つの傾斜面を有している。本実施の形態では特に、支持部材は、絶縁層203によって構成されている。
【0059】
絶縁層203は、それぞれ基板201の上面201aから遠ざかる方向(Z方向)に張り出す複数の凸面203cを有している。複数の凸面203cの各々は、X方向に平行な方向に延在している。凸面203cの全体形状は、三角屋根形状である。また、複数の凸面203cは、Y方向に平行な方向に並んでいる。
【0060】
ここで、複数の凸面203cのうちの任意の1つの凸面203cに着目する。凸面203cは、第1の傾斜面203aと第2の傾斜面203bとを含んでいる。第1の傾斜面203aは、凸面203cのY方向側の一部分を構成する面である。第2の傾斜面203bは、凸面203cの-Y方向側の一部分を構成する面である。第1の傾斜面203aと第2の傾斜面203bの各々は、X方向に平行な方向に長い形状を有している。
【0061】
基板201の上面201aは、XY平面に平行である。また、基準平面4aは、XY平面に平行である。第1の傾斜面203aと第2の傾斜面203bの各々は、基板201の上面201aおよび基準平面4aの各々に対して傾斜している。第2の傾斜面203bは、第1の傾斜面203aとは異なる向きに向いている。基板201の上面201aに垂直なYZ断面において、第1の傾斜面203aと第2の傾斜面203bの間隔は、基板201の上面201aから遠ざかるに従って小さくなる。
【0062】
本実施の形態では、凸面203cが複数存在することから、第1の傾斜面203aと第2の傾斜面203bもそれぞれ複数存在する。絶縁層203は、複数の第1の傾斜面203aと、複数の第2の傾斜面203bとを有している。
【0063】
複数の下部電極61Aは、複数の第1の傾斜面203aの上に配置されている。複数の下部電極61Bは、複数の第2の傾斜面203bの上に配置されている。前述のように、第1の傾斜面203aと第2の傾斜面203bの各々は、基板201の上面201aすなわちXY平面に対して傾斜していることから、複数の下部電極61Aの各々の上面と複数の下部電極61Bの各々の上面も、XY平面に対して傾斜する。また、基準平面4aは、XY平面に平行である。従って、複数の第1のMR素子50Aと複数の第2のMR素子50Bは、基準平面4aに対して傾斜した傾斜面上に配置されていると言える。絶縁層203は、複数の第1のMR素子50Aと複数の第2のMR素子50Bの各々を基準平面4aに対して傾くように支持するための部材である。
【0064】
複数の第1のMR素子50Aの各々は、第1の傾斜面203aに沿った形状の下面を有している。複数の第2のMR素子50Bの各々は、第2の傾斜面203bに沿った形状の下面を有している。ここで、複数の第1のMR素子50Aのうちの任意の第1のMR素子50Aと、複数の第2のMR素子50Bのうちの任意の第2のMR素子50Bに着目する。任意の第1のMR素子50Aと任意の第2のMR素子50Bは、同じ平面の上には配置されていない。
【0065】
複数の第1の磁界発生体70Aは、実質的に複数の第1の傾斜面203aの上に配置されているが、複数の第2の傾斜面203bの上には配置されていない。複数の第1の磁界発生体70Aの各々は、第1の傾斜面203aに沿った形状であって、少なくとも一部が第1のMR素子50Aの下面と実質的に同じ形状を有する下面を有している。
【0066】
複数の第2の磁界発生体70Bは、実質的に複数の第2の傾斜面203bの上に配置されているが、複数の第1の傾斜面203aの上には配置されていない。複数の第2の磁界発生体70Bの各々は、第2の傾斜面203bに沿った形状であって、少なくとも一部が第2のMR素子50Bの下面と実質的に同じ形状を有する下面を有している。
【0067】
ここで、複数の第1の磁界発生体70Aのうちの任意の第1の磁界発生体70Aと、複数の第2の磁界発生体70Bのうちの任意の第2の磁界発生体70Bに着目する。任意の第1の磁界発生体70Aと任意の第2の磁界発生体70Bは、同じ平面の上には配置されていない。
【0068】
図示しないが、絶縁層203は、更に、複数の凸面203cの周囲に存在する平坦面を有している。複数の凸面203cは、平坦面からZ方向に突出していてもよい。また、複数の凸面203cは、隣接する2つの凸面203cの間に平坦面が形成されるように、所定の間隔を開けて配置されていてもよい。あるいは、絶縁層203は、平坦面から-Z方向に向かって凹んだ溝部を有していてもよい。この場合、複数の凸面203cは、溝部内に存在していてもよい。
【0069】
図8および図9に示したように、複数の第1の磁界発生体70Aは、X方向とY方向にそれぞれ複数個ずつ並ぶように配列されている。複数の第1のMR素子50Aの各々は、X方向に平行な方向において隣接する2つの第1の磁界発生体70Aの間に配置されている。1つの第1の傾斜面203aの上には、複数個の第1のMR素子50Aと複数個の第1の磁界発生体70Aが1列に並んでいる。
【0070】
同様に、複数の第2の磁界発生体70Bは、X方向とY方向にそれぞれ複数個ずつ並ぶように配列されている。複数の第2のMR素子50Bの各々は、X方向に平行な方向において隣接する2つの第2の磁界発生体70Bの間に配置されている。1つの第2の傾斜面203bの上には、複数個の第2のMR素子50Bと複数個の第2の磁界発生体70Bが1列に並んでいる。
【0071】
複数個の第1のMR素子50Aと複数個の第1の磁界発生体70Aよりなる列と、複数個の第2のMR素子50Bと複数個の第2の磁界発生体70Bよりなる列は、Y方向に平行な方向において交互に並んでいる。
【0072】
複数の第1のMR素子50Aは、複数の下部電極61Aと複数の上部電極62Aによって、直列に接続されている。ここで、図16を参照して、複数の第1のMR素子50Aの接続方法について詳しく説明する。図16において、符号61は、任意のMR素子50に対応する下部電極を示し、符号62は、任意のMR素子50に対応する上部電極を示している。また、図16において、符号70は、任意の磁界発生体を示している。
【0073】
図16に示したように、個々の下部電極61は細長い形状を有している。下部電極61の長手方向に隣接する2つの下部電極61の間には、間隙が形成されている。下部電極61の上面上において、長手方向の両端の近傍に、それぞれMR素子50が配置されている。また、個々の上部電極62は細長い形状を有し、下部電極61の長手方向に隣接する2つの下部電極61上に配置されて隣接する2つのMR素子50同士を電気的に接続する。
【0074】
下部電極61の長手方向に隣接する2つのMR素子50の間には、磁界発生体70が配置されている。磁界発生体70とMR素子50および下部電極61との間には、間隙が形成されている。磁界発生体70は、上部電極62に接していてもよいし、接していなくてもよい。
【0075】
図示しないが、1列に並んだ複数個のMR素子50の列の端に位置する1つのMR素子50は、下部電極61の長手方向と交差する方向に隣接する他の複数個のMR素子50の列の端に位置する他の1つのMR素子50に接続されている。この2つのMR素子50は、図示しない電極によって互いに接続されている。図示しない電極は、2つのMR素子50の下面同士または上面同士を接続する電極であってもよい。
【0076】
図16におけるMR素子50が第1のMR素子50Aである場合、図16における下部電極61、上部電極62および磁界発生体70は、それぞれ、下部電極61A、上部電極62Aおよび第1の磁界発生体70Aに対応する。図16におけるMR素子50が第2のMR素子50Bである場合、図16における下部電極61、上部電極62および磁界発生体70は、それぞれ、下部電極61B、上部電極62Bおよび第2の磁界発生体70Bに対応する。
【0077】
ここで、図16に示した第1の方向D1、第2の方向D2および第3の方向D3の定義について説明する。第1の方向D1、第2の方向D2および第3の方向D3は、互いに直交する。第1の方向D1は、下部電極61の長手方向(上部電極62の長手方向と同じ)に平行な一方向である。第3の方向D3は、下部電極61から上部電極62に向かう方向である。
【0078】
図16に示したMR素子50が第1のMR素子50Aである場合、第1の方向D1はX方向または-X方向であり、第2の方向D2はU方向または-U方向であり、第3の方向D3は第1の傾斜面203aと交差する方向である。図16に示したMR素子50が第2のMR素子50Bである場合、第1の方向D1はX方向または-X方向であり、第2の方向D2はV方向または-V方向であり、第3の方向D3は第2の傾斜面203bと交差する方向である。
【0079】
次に、図12ないし図15を参照して、第2のチップ3の構造について詳しく説明する。図12は、第2のチップ3の一部を示す斜視図である。図13は、第2のチップ3の一部を示す平面図である。図14および図15は、第2のチップ3の一部を示す断面図である。図14は、図13において14-14線で示す位置の断面の一部を示している。図15は、図13において15-15線で示す位置の断面の一部を示している。
【0080】
第2のチップ3は、上面301aを有する基板301と、絶縁層302,303,304,305,306と、複数の下部電極61Cと、複数の上部電極62Cと、複数の第3の磁界発生体70Cとを含んでいる。基板301の上面301aは、XY平面に平行であるものとする。Z方向は、基板301の上面301aに垂直な一方向でもある。
【0081】
絶縁層302は、基板301の上に配置されている。複数の下部電極61Cは、絶縁層302の上に配置されている。絶縁層303は、絶縁層302の上において複数の下部電極61Cの周囲に配置されている。複数の第3のMR素子50Cは、複数の下部電極61Cの上に配置されている。絶縁層304は、複数の下部電極61Cおよび絶縁層303の上において複数の第3のMR素子50Cの周囲に配置されている。複数の上部電極62Cは、複数の第3のMR素子50Cおよび絶縁層304の上に配置されている。絶縁層305は、絶縁層304の上において複数の上部電極62Cの周囲に配置されている。絶縁層306は、複数の上部電極62Cおよび絶縁層305の上に配置されている。
【0082】
複数の第3の磁界発生体70Cは、絶縁層304に埋め込まれている。複数の第3の磁界発生体70Cの各々は、第3のMR素子50Cおよび下部電極61Cに対して所定の間隔を開けて配置されている。絶縁層304は、複数の第3の磁界発生体70Cの各々と複数の第2のMR素子50Cの各々との間、および複数の第3の磁界発生体70Cの各々と複数の下部電極61Cの各々との間に介在する絶縁膜を含んでいてもよい。複数の第3の磁界発生体70Cのうちのいくつかの第3の磁界発生体70Cの上面は、複数の上部電極62Cの下面に接していてもよい。
【0083】
第2のチップ3は、複数の第3のMR素子50Cを支持する支持部材を含んでいる。本実施の形態では特に、支持部材は、絶縁層302によって構成されている。絶縁層302の上面は、平坦面を含んでいる。
【0084】
基板301の上面301aは、XY平面に平行であり、複数の下部電極61Cの各々の上面も、XY平面に平行になる。また、基準平面4aは、XY平面に平行である。従って、複数の第3のMR素子50Cは、基準平面4aに平行な平面の上に配置されていると言える。
【0085】
図12および図13に示したように、複数の第3の磁界発生体70Cは、X方向とY方向にそれぞれ複数個ずつ並ぶように配列されている。複数の第3のMR素子50Cの各々は、Y方向に平行な方向において隣接する2つの第3の磁界発生体70Cの間に配置されている。
【0086】
複数の第3のMR素子50Cは、複数の下部電極61Cと複数の上部電極62Cによって、直列に接続されている。前述の複数の第1のMR素子50Aの接続方法についての説明は、複数の第3のMR素子50Cの接続方法にも当てはまる。図16におけるMR素子50が第3のMR素子50Cである場合、図16における下部電極61、上部電極62および磁界発生体70は、それぞれ、下部電極61C、上部電極62Cおよび第3の磁界発生体70Cに対応する。
【0087】
図16に示したMR素子50が第3のMR素子50Cである場合、第1の方向D1はY方向または-Y方向であり、第2の方向D2はX方向または-X方向であり、第3の方向D3はZ方向である。
【0088】
次に、図16を参照して、MR素子50について更に詳しく説明する。図16において、符号52は磁化固定層を示し、符号53はギャップ層を示し、符号54は自由層を示している。MR素子50は、更に、反強磁性層51を有している。反強磁性層51、磁化固定層52、ギャップ層53および自由層54は、下部電極61から上部電極62に向かってこの順に積層されている。反強磁性層51は、反強磁性材料よりなり、磁化固定層52との間で交換結合を生じさせて、磁化固定層52の磁化の方向を固定する。なお、磁化固定層52は、いわゆるセルフピン止め型の固定層(Synthetic Ferri Pinned 層、SFP層)であってもよい。セルフピン止め型の固定層は、強磁性層、非磁性中間層および強磁性層を積層させた積層フェリ構造を有し、2つの強磁性層を反強磁性的に結合させてなるものである。磁化固定層52がセルフピン止め型の固定層である場合、反強磁性層51を省略してもよい。
【0089】
なお、MR素子50における層51~54の配置は、図16に示した配置とは上下が反対でもよい。
【0090】
第1のMR素子50Aでは、反強磁性層51、磁化固定層52、ギャップ層53および自由層54は、第1の傾斜面203a(図8および図10参照)と交差する方向に積層されている。この方向は、第1の傾斜面203aに垂直な方向であってもよい。第1のMR素子50Aのうち、少なくとも磁化固定層52および自由層54は、本発明の「複数の磁性層」に対応する。
【0091】
第2のMR素子50Bでは、反強磁性層51、磁化固定層52、ギャップ層53および自由層54は、第2の傾斜面203b(図8および図10参照)と交差する方向に積層されている。この方向は、第2の傾斜面203bに垂直な方向であってもよい。第2のMR素子50Bのうち、少なくとも磁化固定層52および自由層54は、本発明の「複数の磁性層」に対応する。
【0092】
第3のMR素子50Cでは、反強磁性層51、磁化固定層52、ギャップ層53および自由層54は、絶縁層302の上面(図12および図14参照)と交差する方向に積層されている。この方向は、絶縁層302の上面に垂直な方向すなわちZ方向であってもよい。
【0093】
次に、図16を参照して、磁界発生体70について更に詳しく説明する。磁界発生体70は、強磁性体部72と、強磁性体部72に接して強磁性体部72と交換結合する反強磁性体部71とを含んでいる。
【0094】
強磁性体部72は、強磁性体部72全体としての磁化を有している。強磁性体部72全体としての磁化とは、強磁性体部72全体における原子、結晶格子等の単位毎の磁気モーメントのベクトル和を体積平均したものである。以下、強磁性体部72全体としての磁化を、単に強磁性体部72の磁化と言う。
【0095】
磁界発生体70では、反強磁性体部71と強磁性体部72が交換結合することによって、強磁性体部72の磁化の方向が規定される。これにより、磁界発生体70は、外乱磁界に対する高い耐性を有する。
【0096】
強磁性体部72は、1つの強磁性層によって構成されていてもよいし、積層された複数の構成層を含んでいてもよい。強磁性体部72(強磁性層)は、Co、Fe、Niのうちの1つ以上の元素を含む強磁性材料によって形成されている。このような強磁性材料の例としては、CoFeや、CoFeBや、CoNiFeが挙げられる。反強磁性体部71は、IrMn、PtMn等の反強磁性材料によって形成されている。
【0097】
第2の方向D2に平行な方向における磁界発生体70の寸法は、第2の方向D2に平行な方向におけるMR素子50の寸法よりも大きい。また、第2の方向D2に平行な方向における磁界発生体70の寸法は、第1の方向D1に平行な方向における磁界発生体70の寸法よりも大きい。
【0098】
MR素子50の自由層54の少なくとも一部は、第1の方向D1から見たときに、磁界発生体70の強磁性体部72の少なくとも一部と重なっている。図16に示した例では、第1の方向D1から見たときに、自由層54の全体が、強磁性体部72の一部と重なっている。
【0099】
第1の磁界発生体70Aでは、反強磁性体部71と強磁性体部72は、第1の傾斜面203aと交差する方向に積層されている(図8および図11参照)。この方向は、第1の傾斜面203aに垂直な方向であってもよい。また、反強磁性体部71と強磁性体部72の各々は、第1の傾斜面203aに対向し且つ基板201の上面201aすなわちXY平面に対して傾斜した下面を有している。このような下面は、反強磁性体部71と強磁性体部72の各々を、第1の傾斜面203aの形状が現れるような膜厚で形成することによって実現することができる。
【0100】
第2の磁界発生体70Bでは、反強磁性体部71と強磁性体部72は、第2の傾斜面203bと交差する方向に積層されている(図8および図11参照)。この方向は、第2の傾斜面203bに垂直な方向であってもよい。また、反強磁性体部71と強磁性体部72の各々は、第2の傾斜面203bに対向し且つ基板201の上面201aすなわちXY平面に対して傾斜した下面を有している。このような下面は、反強磁性体部71と強磁性体部72の各々を、第2の傾斜面203bの形状が現れるような膜厚で形成することによって実現することができる。
【0101】
第3の磁界発生体70Cでは、反強磁性体部71と強磁性体部72は、絶縁層302の上面と交差する方向に積層されている(図12および図15参照)。この方向は、絶縁層302の上面に垂直な方向すなわちZ方向であってもよい。
【0102】
次に、複数のMR素子50と複数の磁界発生体70の配置について説明する。始めに、図17を参照して、複数のMR素子50と複数の磁界発生体70の配置の第1の例について説明する。第1のチップ2は、複数の第1のMR素子50A、複数の第2のMR素子50B、複数の第1の磁界発生体70Aおよび複数の第2の磁界発生体70Bを配置するための第1の素子配置領域を有している。第1のチップ2は磁気センサ1の構成要素であることから、磁気センサ1が第1の素子配置領域を有しているとも言える。本実施の形態では、第1の素子配置領域および後述する第2の素子配置領域ならびに複数の領域を、XY平面に平行な平面領域として定義する。複数の第1のMR素子50A、複数の第2のMR素子50B、複数の第1の磁界発生体70Aおよび複数の第2の磁界発生体70Bは、Z方向から見たときに、第1の素子配置領域と重なっている。本実施の形態では、便宜上、第1の素子配置領域は、絶縁層203の上面の上にあるものとする。
【0103】
第1の素子配置領域は、第1の領域A21と、第2の領域A22と、第3の領域A23と、第4の領域A24とを含んでいる。第1の領域A21は、第1の抵抗部R11,R21に対応する領域である。第2の領域A22は、第2の抵抗部R12,R22に対応する領域である。第3の領域A23は、第3の抵抗部R13,R23に対応する領域である。第4の領域A24は、第4の抵抗部R14,R24に対応する領域である。
【0104】
複数の第1のMR素子50Aは、第1ないし第4の領域A21~A24に分割して配置されている。第1の抵抗部R11を構成する第1のMR素子50Aは、第1の領域A21に配置されている。第2の抵抗部R12を構成する第1のMR素子50Aは、第2の領域A22に配置されている。第3の抵抗部R13を構成する第1のMR素子50Aは、第3の領域A23に配置されている。第4の抵抗部R14を構成する第1のMR素子50Aは、第4の領域A24に配置されている。
【0105】
複数の第1の磁界発生体70Aは、第1ないし第4の領域A21~A24に分割して配置されている。第1ないし第4の領域A21~A24のうち、2つの領域に配置された複数の第1の磁界発生体70Aの各々と、他の2つの領域に配置された複数の第1の磁界発生体70Aの各々は、互いに異なる方向の磁化を有している。
【0106】
ここで、図5に示した符号M11を付した矢印の方向を、方向M11と記す。符号M11以外の符号を付した矢印の方向についても、方向M11と同様に記す。第1の領域A21に配置された複数の第1の磁界発生体70Aの各々の強磁性体部72の磁化は、方向M11の成分を含んでいる。第2の領域A22に配置された複数の第1の磁界発生体70Aの各々の強磁性体部72の磁化は、方向M12(図5参照)の成分を含んでいる。第3の領域A23に配置された複数の第1の磁界発生体70Aの各々の強磁性体部72の磁化は、方向M13(図5参照)の成分を含んでいる。第4の領域A24に配置された複数の第1の磁界発生体70Aの各々の強磁性体部72の磁化は、方向M14(図5参照)の成分を含んでいる。
【0107】
図5に示したように、方向M11,M12は、X方向と同じ方向である。従って、第1の領域A21に配置された複数の第1の磁界発生体70Aと第2の領域A22に配置された複数の第1の磁界発生体70Aの各々の強磁性体部72の磁化は、X方向の成分を含んでいる。この磁化は、X方向の成分を主成分として含んでいてもよい。この場合、この磁化の方向は、X方向またはほぼX方向になる。
【0108】
図5に示したように、方向M13,M14は、-X方向と同じ方向である。従って、第3の領域A23に配置された複数の第1の磁界発生体70Aと第4の領域A24に配置された複数の第1の磁界発生体70Aの各々の強磁性体部72の磁化は、-X方向の成分を含んでいる。この磁化は、-X方向の成分を主成分として含んでいてもよい。この場合、この磁化の方向は、-X方向またはほぼ-X方向になる。
【0109】
複数の第1のMR素子50Aの配置についての説明および複数の第1の磁界発生体70Aの配置および磁化の方向についての上記の説明は、複数の第2のMR素子50Bおよび複数の第2の磁界発生体70Bにも当てはまる。複数の第1のMR素子50Aの配置についての上記の説明中の、第1のMR素子50A、第1の抵抗部R11、第2の抵抗部R12、第3の抵抗部R13および第4の抵抗部R14を、それぞれ第2のMR素子50B、第1の抵抗部R21、第2の抵抗部R22、第3の抵抗部R23および第4の抵抗部R24に置き換えれば、複数の第2のMR素子50Bの配置についての説明になる。また、複数の第1の磁界発生体70Aの配置および磁化の方向についての上記の説明中の、第1の磁界発生体70Aおよび方向M11,M12,M13,M14を、それぞれ第2の磁界発生体70Bおよび方向M21,M22,M23,M24(図6参照)に置き換えれば、複数の第2の磁界発生体70Bの配置および磁化の方向についての説明になる。
【0110】
第1の例では、第1ないし第4の領域A21~A24は、第1のチップ2の-X方向側の端縁から第1のチップ2のX方向側の端縁に向かって、領域A22,A23,A21,A24の順に並んでいる。複数の第1のMR素子50A、複数の第2のMR素子50B、複数の第1の磁界発生体70Aおよび複数の第2の磁界発生体70Bは、それぞれ、前述の特徴毎に、第1ないし第4の領域A21~A24と同じ規則で配置されている。
【0111】
第2のチップ3は、複数の第3のMR素子50Cおよび複数の第3の磁界発生体70Cを配置するための第2の素子配置領域を有している。第2のチップ3は磁気センサ1の構成要素であることから、磁気センサ1が第2の素子配置領域を有しているとも言える。複数の第3のMR素子50Cおよび複数の第3の磁界発生体70Cは、Z方向から見たときに、第2の素子配置領域と重なっている。本実施の形態では、便宜上、第2の素子配置領域は、絶縁層302の上面の上にあるものとする。
【0112】
第2の素子配置領域は、第1の領域A31と、第2の領域A32と、第3の領域A33と、第4の領域A34とを含んでいる。第1の領域A31は、第1の抵抗部R31に対応する領域である。第2の領域A22は、第2の抵抗部R32に対応する領域である。第3の領域A23は、第3の抵抗部R33に対応する領域である。第4の領域A24は、第4の抵抗部R34に対応する領域である。
【0113】
複数の第3のMR素子50Cは、第1ないし第4の領域A31~A34に分割して配置されている。第1の抵抗部R31を構成する第3のMR素子50Cは、第1の領域A31に配置されている。第2の抵抗部R32を構成する第3のMR素子50Cは、第2の領域A32に配置されている。第3の抵抗部R33を構成する第3のMR素子50Cは、第3の領域A33に配置されている。第4の抵抗部R34を構成する第3のMR素子50Cは、第4の領域A34に配置されている。
【0114】
複数の第3の磁界発生体70Cは、第1ないし第4の領域A31~A34に分割して配置されている。第1ないし第4の領域A31~A34のうち、2つの領域に配置された複数の第3の磁界発生体70Cの各々と、他の2つの領域に配置された複数の第3の磁界発生体70Cの各々は、互いに異なる方向の磁化を有している。
【0115】
第1の領域A31に配置された複数の第3の磁界発生体70Cの各々の強磁性体部72の磁化は、方向M31(図7参照)の成分を含んでいる。第2の領域A32に配置された複数の第3の磁界発生体70Cの各々の強磁性体部72の磁化は、方向M32(図7参照)の成分を含んでいる。第3の領域A33に配置された複数の第3の磁界発生体70Cの強磁性体部72の各々の磁化は、方向M33(図7参照)の成分を含んでいる。第4の領域A34に配置された複数の第3の磁界発生体70Cの各々の強磁性体部72の磁化は、方向M34(図7参照)の成分を含んでいる。
【0116】
図7に示したように、方向M31,M32は、Y方向と同じ方向である。従って、第1の領域A31に配置された複数の第3の磁界発生体70Cと第2の領域A32に配置された複数の第3の磁界発生体70Cの各々の強磁性体部72の磁化は、Y方向の成分を含んでいる。この磁化は、Y方向の成分を主成分として含んでいてもよい。この場合、この磁化の方向は、Y方向またはほぼY方向になる。
【0117】
図7に示したように、方向M33,M34は、-Y方向と同じ方向である。従って、第3の領域A33に配置された複数の第3の磁界発生体70Cと第4の領域A34に配置された複数の第3の磁界発生体70Cの各々の強磁性体部72の磁化は、-Y方向の成分を含んでいる。この磁化は、-Y方向の成分を主成分として含んでいてもよい。この場合、この磁化の方向は、-Y方向またはほぼ-Y方向になる。
【0118】
第1の例では、第1ないし第4の領域A31~A34は、第2のチップ3の-X方向側の端縁から第2のチップ3のX方向側の端縁に向かって、領域A32,A33,A31,A34の順に並んでいる。複数の第3のMR素子50Cおよび複数の第3の磁界発生体70Cは、それぞれ、前述の特徴毎に、第1ないし第4の領域A31~A34と同じ規則で配置されている。
【0119】
次に、図18を参照して、複数のMR素子50と複数の磁界発生体70の配置の第2の例について説明する。第2の例では、第1および第2の領域A21,A22は、-Y方向にこの順に並んでいる。第3および第4の領域A23,A24は、それぞれ、第2および1の領域A22,A21に対して-X方向の先に配置されている。
【0120】
また、第2の例では、第1および第2の領域A31,A32は、-Y方向にこの順に並んでいる。第3および第4の領域A33,A34は、それぞれ、第2および1の領域A32,A31に対して-X方向の先に配置されている。
【0121】
次に、本実施の形態における磁気センサ装置100の製造方法について簡単に説明する。磁気センサ装置100の製造方法は、第1のチップ2を形成する工程と、第2のチップ3と形成する工程と、第1および第2のチップ2,3を支持体4に搭載する工程とを備えている。
【0122】
第1のチップ2を形成する工程と第2のチップ3を形成する工程の各々は、複数のMR素子50を形成する工程と、複数の磁界発生体70を形成する工程とを含んでいる。
【0123】
複数のMR素子50を形成する工程では、まず、後に複数のMR素子50となる複数の初期MR素子を形成する。複数の初期MR素子の各々は、後に磁化固定層52となる初期磁化固定層と、自由層54と、ギャップ層53と、反強磁性層51とを含んでいる。
【0124】
次に、レーザ光と、所定の方向の成分を含む外部磁界とを用いて、初期磁化固定層の磁化の方向を、上記の所定の方向に固定する。例えば、後に第1の検出回路10の第1および第3の抵抗部R11,R13を構成する複数の第1のMR素子50Aになる複数の初期MR素子では、Y方向の外部磁界を印加しながら、複数の初期MR素子に対してレーザ光を照射する。Y方向の外部磁界は、U方向の成分と、U方向に直交する方向の成分とに分けることができる。レーザ光の照射が完了すると、初期磁化固定層の磁化の方向は、U方向に固定される。これにより、初期磁化固定層は磁化固定層52になり、初期MR素子は第1のMR素子50Aになる。
【0125】
また、後に第1の検出回路10の第2および第4の抵抗部R12,R14を構成する複数の第1のMR素子50Aになる複数の初期MR素子では、-Y方向の外部磁界を用いることにより、複数の初期MR素子の各々の初期磁化固定層の磁化の方向を、-U方向に固定することができる。このようにして、複数の第1のMR素子50Aが形成される。複数の第2のMR素子50Bおよび複数の第3のMR素子50Cも、複数の第1のMR素子50Aと同様の方法によって形成される。
【0126】
複数の磁界発生体70を形成する工程では、まず、後に複数の磁界発生体70となる複数の初期磁界発生体を形成する。複数の初期磁界発生体の各々は、後に強磁性体部72となる初期強磁性体部と、反強磁性体部71とを含んでいる。
【0127】
次に、レーザ光と、所定の方向の成分を含む外部磁界とを用いて、初期強磁性体部の磁化の方向を、上記の所定の方向に固定する。例えば、第1のチップ2の第1および第2の領域A21,A22に配置される複数の第1の磁界発生体70Aおよび複数の第2の磁界発生体70Bになる複数の初期磁界発生体では、X方向の外部磁界を印加しながら、複数の磁界発生体に対してレーザ光を照射する。レーザ光の照射が完了すると、初期強磁性体部の磁化の方向は、X方向に固定される。これにより、初期強磁性体部は強磁性体部72になり、初期磁界発生体は第1の磁界発生体70Aまたは第2の磁界発生体70Bになる。また、第1のチップ2の第3および第4の領域A23,A24に配置される複数の第1の磁界発生体70Aおよび複数の第2の磁界発生体70Bになる複数の初期磁界発生体では、-X方向の外部磁界を用いることにより、複数の初期磁界発生体の各々の初期強磁性体部の磁化の方向を、-X方向に固定することができる。このようにして、複数の第1の磁界発生体70Aと複数の第2の磁界発生体70Bが形成される。複数の第3の磁界発生体70Cも、複数の第1の磁界発生体70Aおよび複数の第2の磁界発生体70Bと同様の方法によって形成される。
【0128】
上述の磁気センサ装置100の製造方法の説明から理解されるように、本実施の形態では、第1のMR素子50Aの磁化固定層52の磁化の方向と、第2のMR素子50Bの磁化固定層52の磁化の方向と、第3のMR素子50Cの磁化固定層52の磁化の方向は、それぞれ、レーザ光と外部磁界とを用いて固定される。本実施の形態では、更に、第1の磁界発生体70Aの強磁性体部72の磁化の方向と、第2の磁界発生体70Bの強磁性体部72の磁化の方向と、第3の磁界発生体70Cの強磁性体部72の磁化の方向は、それぞれ、レーザ光と外部磁界とを用いて固定される。
【0129】
ここで、強磁性体部72の磁化の方向を固定するために用いられるレーザ光の強度を、強磁性体部72用のレーザ光の強度と言う。強磁性体部72用のレーザ光の強度は、磁化固定層52の磁化の方向を固定するために用いられるレーザ光の強度よりも小さくてもよい。また、強磁性体部72用のレーザ光の強度は、MR素子50の抵抗に対する磁気抵抗変化の比率である磁気抵抗変化率(以下、MR比と記す。)の変化が抑制されるような強度であることが好ましい。例えば、強磁性体部72用のレーザ光の強度は、MR比の変化が10%以内に抑制されるような強度であることが好ましく、MR比の変化が5%以内または3%以内に抑制されるような強度であることがより好ましい。なお、MR比は、強磁性体部72用のレーザ光が照射されることによって増加する場合と減少する場合とがある。
【0130】
次に、本実施の形態に係る磁気センサ1の作用および効果について説明する。本実施の形態では、複数の第1の磁界発生体70Aの各々の強磁性体部72と反強磁性体部71は、第1の傾斜面203aと交差する方向に積層されている。ここで、第1の磁界発生体70Aの強磁性体部72と反強磁性体部71がZ方向に平行な方向に積層されている場合について考える。この場合、製造ばらつきに起因して第1のMR素子50Aと第1の磁界発生体70Aの少なくとも一方が設計上の位置からずれてしまうと、第1のMR素子50Aの自由層54と第1の磁界発生体70Aの強磁性体部72との相対的な位置関係がずれてしまい、その結果、第1の磁界発生体70Aによって第1のMR素子50Aに印加される磁界の強度や方向が変化してしまうという問題が発生する。
【0131】
これに対し、本実施の形態では、複数の第1の磁界発生体70Aの各々の強磁性体部72と反強磁性体部71は、第1の傾斜面203aと交差する方向に積層されている。これにより、本実施の形態によれば、製造ばらつきに起因して第1のMR素子50Aと第1の磁界発生体70Aの少なくとも一方が設計上の位置からずれてしまった場合において、第1のMR素子50Aの自由層54と第1の磁界発生体70Aの強磁性体部72との相対的な位置関係が大きくずれることを抑制することができる。これにより、本実施の形態によれば、第1の磁界発生体70Aによって第1のMR素子50Aに印加される磁界のばらつきを抑制することができる。
【0132】
上記の第1のMR素子50Aおよび第1の磁界発生体70Aについての説明は、第2のMR素子50Bおよび第2の磁界発生体70Bにも当てはまる。本実施の形態によれば、第2の磁界発生体70Bによって第2のMR素子50Bに印加される磁界のばらつきを抑制することができる。
【0133】
また、本実施の形態では、自由層54は、磁化固定層52に対して、第3の方向D3の先に配置されている(図16参照)。また、強磁性体部72は、反強磁性体部71に対して、第3の方向D3の先に配置されている(図16参照)。従って、本実施の形態によれば、磁化固定層52が自由層54に対して第3の方向D3の先に配置されている場合に比べて、自由層54を強磁性体部72に近づけることができる。これにより、本実施の形態によれば、磁界発生体70から自由層54に印加される磁界の強度を大きくすることができる。
【0134】
[第2の実施の形態]
次に、図19および図20を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。図19および図20は、本実施の形態における第1のチップ2の一部を示す断面図である。
【0135】
本実施の形態では、絶縁層203の凸面203cは、曲線形状(アーチ形状)をX方向に平行な方向に沿って移動してできる半円筒状の曲面である。従って、本実施の形態では、第1の傾斜面203aは曲面になる。第1のMR素子50Aは、曲面(第1の傾斜面203a)に沿って湾曲する。この場合であっても、便宜上、第1のMR素子50Aの磁化固定層52の磁化の方向は、直線的な方向として定義される。同様に、本実施の形態では、第2の傾斜面203bは曲面になる。第2のMR素子50Bは、曲面(第2の傾斜面203b)に沿って湾曲する。この場合であっても、便宜上、第2のMR素子50Bの磁化固定層52の磁化の方向は、直線的な方向として定義される。
【0136】
絶縁層203は、更に、複数の凸面203cの周囲に存在する平坦面を有している。複数の凸面203cは、平坦面からZ方向に突出している。また、複数の凸面203cは、隣接する2つの凸面203cの間に平坦面が形成されるように、所定の間隔を開けて配置されている。
【0137】
図20に示したように、第1の磁界発生体70Aでは、反強磁性体部71と強磁性体部72は、第1の傾斜面203aと交差する方向に積層されている。この方向は、第1の傾斜面203aのうち、第1の磁界発生体70Aの下方に存在する部分の法線方向であってもよい。また、第1のMR素子50Aの下面は、第1の傾斜面203aすなわち曲面に沿った形状を有している。第1の磁界発生体70Aの下面は、第1の傾斜面203a(曲面)に沿った形状であって、少なくとも一部が第1のMR素子50Aの下面と実質的に同じ形状を有している。
【0138】
第2の磁界発生体70Bでは、反強磁性体部71と強磁性体部72は、第2の傾斜面203bと交差する方向に積層されている。この方向は、第2の傾斜面203bのうち、第2の磁界発生体70Bの下方に存在する部分の法線方向であってもよい。また、第2のMR素子50Bの下面は、第2の傾斜面203bすなわち曲面に沿った形状を有している。第2の磁界発生体70Bの下面は、第2の傾斜面203b(曲面)に沿った形状であって、少なくとも一部が第2のMR素子50Bの下面と実質的に同じ形状を有している。
【0139】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0140】
[第3の実施の形態]
次に、図21を参照して、本発明の第3の実施の形態について説明する。図21は、本実施の形態におけるMR素子50および磁界発生体70を示す平面図である。
【0141】
本実施の形態では、複数のMR素子50の各々は、複数の積層膜を含んでいる。複数の積層膜の各々の構成は、第1の実施の形態におけるMR素子50の構成と同様である。図21に示した例では、MR素子50は、2つの積層膜501,502を含んでいる。2つの積層膜501,502は、第1の方向D1に隣接した2つの磁界発生体70の間に配置されている。また、2つの積層膜501,502は、下部電極61と上部電極62によって並列に接続されている。
【0142】
ここで、複数のMR素子50の各々に含まれる複数の積層膜のうち、第2の方向D2の端に位置する積層膜を第1の特定の積層膜と言い、第2の方向D2とは反対方向の端に位置する積層膜を第2の特定の積層膜と言う。第2の方向D2に平行な方向における磁界発生体70の寸法は、第1の特定の積層膜の第2の方向D2の端部から第2の特定の積層膜の第2の方向D2とは反対方向の端部までの距離よりも大きい。
【0143】
図21に示したMR素子50が第1のMR素子50Aである場合、2つの積層膜501,502は、第1の傾斜面203a(図8および図10参照)の長手方向(X方向)と交差する方向に沿って並ぶ。図21に示したMR素子50が第2のMR素子50Bである場合、2つの積層膜501,502は、第2の傾斜面203b(図8および図10参照)の長手方向(X方向)と交差する方向に沿って並ぶ。
【0144】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1または第2の実施の形態と同様である。
【0145】
[第4の実施の形態]
次に、図22および図23を参照して、本発明の第4の実施の形態について説明する。図22は、本実施の形態におけるMR素子50および磁界発生体70を示す側面図である。図23は、本実施の形態におけるMR素子50および磁界発生体70を示す平面図である。
【0146】
本実施の形態では、複数の磁界発生体70は、MR素子50の上方に配置されている。図22に示した例では、複数の磁界発生体70の一部は、上部電極62に接している。しかし、複数の磁界発生体70は、上部電極62に接していなくてもよい。
【0147】
MR素子50は、第1の方向において互いに離れた位置に配置された2つの特定の磁界発生体70の間に配置されている。2つの特定の磁界発生体70の間には、少なくとも1つの他の磁界発生体70が配置されている。図22および図23に示した例では、他の磁界発生体70の数は2つである。他の磁界発生体70は、上方から見たときに、MR素子50と重なっている。2つの特定の磁界発生体70は、上方から見たときに、MR素子50と重なっていてもよいし、重なっていなくてもよい。
【0148】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1ないし第3のいずれかの実施の形態と同様である。
【0149】
[第5の実施の形態]
次に、図24を参照して、本発明の第5の実施の形態について説明する。図24は、本実施の形態におけるMR素子50および磁界発生体70を示す平面図である。
【0150】
本実施の形態では、第2の方向D2に平行な方向における磁界発生体70の寸法は、第1の方向D1に平行な方向における磁界発生体70の寸法よりも小さい。本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1ないし第4のいずれかの実施の形態と同様である。
【0151】
[第6の実施の形態]
次に、図25を参照して、本発明の第6の実施の形態について説明する。図25は、本実施の形態におけるMR素子50および磁界発生体70を示す平面図である。
【0152】
本実施の形態では、複数のMR素子50の各々は、第2の方向D2において隣接する2つの磁界発生体70の間に配置されている。第1の方向D1に平行な方向における磁界発生体70の寸法は、第1の方向D1に平行な方向におけるMR素子50の寸法よりも大きい。
【0153】
図25に示したMR素子50が第1のMR素子50Aであり、図25に示した磁界発生体70が第1の磁界発生体70Aの場合、第2の方向D2に平行な方向において1つの第1のMR素子50Aの両側に配置された2つの第1の磁界発生体70Aは、いずれも、1つの第1の傾斜面203aの上方に配置されている(図8および図11参照)。
【0154】
図25に示したMR素子50が第2のMR素子50Bであり、図25に示した磁界発生体70が第2の磁界発生体70Bの場合、第2の方向D2に平行な方向において1つの第2のMR素子50Bの両側に配置された2つの第2の磁界発生体70Bは、いずれも、1つの第2の傾斜面203bの上方に配置されている(図8および図11参照)。
【0155】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1または第2の実施の形態と同様である。
【0156】
[第7の実施の形態]
次に、図26を参照して、本発明の第7の実施の形態について説明する。図26は、本実施の形態における磁界発生体70を示す側面図である。
【0157】
本実施の形態では、磁界発生体70は、反強磁性体部71および強磁性体部72に加えて、強磁性体部72の上面に接して強磁性体部72と交換結合する反強磁性体部73を含んでいる。反強磁性体部73を形成する反強磁性材料としては、例えば、反強磁性体部71と同じ反強磁性材料が用いられる。反強磁性体部71と反強磁性体部73は、同じ反強磁性材料によって形成されていてもよい。
【0158】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1ないし第6のいずれかの実施の形態と同様である。
【0159】
[第8の実施の形態]
次に、図27を参照して、本発明の第8の実施の形態について説明する。図27は、本実施の形態に係る磁気センサを含む電流センサステムの構成を示す斜視図である。
【0160】
本実施の形態に係る磁気センサ401は、導体を流れる検出対象電流の値を検出する電流センサとして用いられる。図27には、検出対象電流が流れる導体がバスバー402である例を示している。磁気センサ401は、バスバー402の近傍に配置される。以下、検出対象電流を、対象電流Itgと記す。バスバー402の周囲には、対象電流Itgによって磁界403が発生する。磁気センサ401は、磁界403が印加される位置に配置されている。本実施の形態では、対象磁界は、磁界403である。
【0161】
本実施の形態では、図27に示したようにX方向、Y方向、Z方向を定義する。図27では、対象電流Itgが流れる方向をX方向としている。
【0162】
本実施の形態では特に、磁気センサ401は、磁界403のY方向の成分と磁界403のZ方向の成分を検出できる位置に配置されている。磁気センサ401の構成は、第1の実施の形態における第1のチップ2の構成と同様である。
【0163】
なお、磁気センサ401の構成は、第1の実施の形態における第2のチップ3の構成と同様であってもよい。この場合、磁気センサ401は、磁界403のX方向の成分を検出できる位置に配置される。
【0164】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1ないし第7のいずれかの実施の形態と同様である。
【0165】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明の磁気センサは、複数のチップを一体化させたものであってもよい。
【0166】
以上説明したように、本発明の磁気センサは、基準平面に対して傾斜した少なくとも1つの傾斜面を有する支持部材と、少なくとも1つの傾斜面の上に配置されると共に対象磁界を検出するように構成された少なくとも1つの磁気検出素子と、少なくとも1つの傾斜面の上に配置されると共に少なくとも1つの磁気検出素子に印加される磁界を発生する少なくとも1つの磁界発生体とを備えている。少なくとも1つの磁界発生体は、強磁性体部と、強磁性体部に接して強磁性体部と交換結合する反強磁性体部とを含んでいる。強磁性体部と反強磁性体部は、少なくとも1つの傾斜面と交差する方向に積層されている。
【0167】
本発明の磁気センサにおいて、強磁性体部と反強磁性体部の各々は、少なくとも1つの傾斜面に対向し且つ基準平面に対して傾斜した下面を有していてもよい。
【0168】
また、本発明の磁気センサにおいて、少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの傾斜面と交差する方向に積層された複数の磁性層を含んでいてもよい。
【0169】
また、本発明の磁気センサにおいて、少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの傾斜面に沿った形状を有する第1の下面を有していてもよい。少なくとも1つの磁界発生体は、少なくとも1つの傾斜面に沿った形状であって少なくとも一部が第1の下面と実質的に同じ形状を有する第2の下面を有していてもよい。
【0170】
また、本発明の磁気センサにおいて、少なくとも1つの傾斜面は、基準平面に垂直な一方向から見て、基準平面に平行な方向に長い形状を有していてもよい。少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの傾斜面の長手方向に沿って長い形状を有していてもよい。少なくとも1つの磁気検出素子は、特定の磁気検出素子を含んでいてもよい。少なくとも1つの磁界発生体は、特定の磁気検出素子に対して特定の磁気検出素子の長手方向の両側に配置された2つの特定の磁界発生体を含んでいてもよい。少なくとも1つの磁界発生体は、少なくとも1つの傾斜面の長手方向に沿って配置された複数の磁界発生体を含んでいてもよい。
【0171】
また、本発明の磁気センサにおいて、少なくとも1つの磁界発生体は、第1の磁界発生体と、第2の磁界発生体とを含んでいてもよい。第1の磁界発生体の強磁性体部は、第1の磁化を有していてもよい。第2の磁界発生体の強磁性体部は、第2の磁化を有していてもよい。第1の磁化は、第1の方向の成分を含んでいてもよい。第2の磁化は、第1の方向とは異なる第2の方向の成分を含んでいてもよい。第1の磁界発生体と第2の磁界発生体は、同じ平面の上には配置されていなくてもよい。
【0172】
また、本発明の磁気センサにおいて、少なくとも1つの磁気検出素子は、第1の磁気検出素子と、第2の磁気検出素子とを含んでいてもよい。第1の磁気検出素子と第2の磁気検出素子は、同じ平面の上には配置されていなくてもよい。
【0173】
また、本発明の磁気センサにおいて、少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子であってもよい。少なくとも1つの磁気抵抗効果素子は、方向が固定された磁化を有する磁化固定層と、対象磁界に応じて方向が変化可能な磁化を有する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置されたギャップ層とを含んでいてもよい。磁化固定層は、少なくとも1つの傾斜面とギャップ層との間に配置されていてもよい。
【0174】
また、本発明の磁気センサにおいて、少なくとも1つの傾斜面は、基準平面と基準平面に垂直な方向の各々に対して傾いた方向に向いた特定の傾斜面を含んでいてもよい。特定の傾斜面は、基準平面に垂直な一方向から見て、基準平面に平行な方向に長い形状を有していてもよい。少なくとも1つの磁気検出素子は、特定の傾斜面に配置され且つ特定の傾斜面の長手方向と交差する方向に沿って並んだ2つの積層膜を含んでいてもよい。
【0175】
また、本発明の磁気センサは、更に、電源端と、グランド端と、第1の出力端と、第2の出力端と、電源端と第1の出力端との間に設けられた第1の抵抗部と、グランド端と第1の出力端との間に設けられた第2の抵抗部と、グランド端と第2の出力端との間に設けられた第3の抵抗部と、電源端と第2の出力端との間に設けられた第4の抵抗部とを備えていてもよい。少なくとも1つの磁気検出素子は、第1の領域に配置され且つ第1の抵抗部を構成する複数の第1の磁気検出素子と、第2の領域に配置され且つ第2の抵抗部を構成する複数の第2の磁気検出素子と、第3の領域に配置され且つ第3の抵抗部を構成する複数の第3の磁気検出素子と、第4の領域に配置され且つ第4の抵抗部を構成する複数の第4の磁気検出素子とを含んでいてもよい。少なくとも1つの磁界発生体は、複数の磁界発生体であってもよい。複数の磁界発生体は、第1の領域、第2の領域、第3の領域および第4の領域に分割して配置されていてもよい。第1の領域、第2の領域、第3の領域および第4の領域のうち、2つの領域に配置された複数の磁界発生体の各々の強磁性体部は、第1の磁化を有していてもよい。第1の領域、第2の領域、第3の領域および第4の領域のうち、他の2つの領域に配置された複数の磁界発生体の各々の強磁性体部は、第2の磁化を有していてもよい。第1の磁化は、第1の方向の成分を含んでいてもよい。第2の磁化は、第1の方向とは反対の第2の方向の成分を含んでいてもよい。
【0176】
また、本発明の磁気センサにおいて、少なくとも1つの傾斜面は、それぞれ基準平面に垂直な一方向から見て基準平面に平行な方向に長い形状を有すると共に互いに異なる方向に向いた第1の傾斜面および第2の傾斜面を含んでいてもよい。少なくとも1つの磁気検出素子は、第1の傾斜面の上に配置された複数の第1の磁気検出素子と、第2の傾斜面の上に配置された複数の第2の磁気検出素子とを含んでいてもよい。少なくとも1つの磁界発生体は、第1の傾斜面の上に配置された複数の第1の磁界発生体と、第2の傾斜面の上に配置された複数の第2の磁界発生体とを含んでいてもよい。複数の第1の磁気検出素子は、対象磁界のうち、基準平面と基準平面に垂直な方向の各々に対して傾いた第1の方向の成分を検出して第1の検出信号を生成する第1の検出回路を構成してもよい。複数の第2の磁気検出素子は、対象磁界のうち、基準平面と基準平面に垂直な方向の各々に対して傾いた第2の方向の成分を検出して第2の検出信号を生成する第2の検出回路を構成してもよい。本発明の磁気センサは、更に、平坦面を有する他の支持部材と、平坦面の上に配置された複数の第3の磁気検出素子と、平坦面の上に配置されると共に複数の第3の磁気検出素子に印加される磁界を発生する複数の第3の磁界発生体とを備えていてもよい。複数の第3の磁気検出素子は、対象磁界のうち、基準平面に平行な第3の方向の成分を検出して第3の検出信号を生成する第3の検出回路を構成してもよい。対象磁界は、地磁気であってもよい。
【0177】
また、本発明の磁気センサにおいて、対象磁界は、導体を流れる検出対象電流によって発生する磁界であってもよい。
【符号の説明】
【0178】
1…磁気センサ、2…第1のチップ、3…第2のチップ、4…支持体、6,7…接着剤、10…第1の検出回路、20…第2の検出回路、30…第3の検出回路、40…プロセッサ、50…MR素子、50A…第1のMR素子、50B…第2のMR素子、50C…第3のMR素子、51…反強磁性層、52…磁化固定層、53…ギャップ層、54…自由層、61,61A,61A,61B…下部電極、62,62A,62A,62B…上部電極、70…磁界発生体、70A…第1の磁界発生体、70B…第2の磁界発生体、70C…第3の磁界発生体、71…反強磁性体部、72…強磁性体部、100…磁気センサ装置、201,301…基板、201a,301a…上面、202~207,302~306…絶縁層、203a…第1の傾斜面、203b…第2の傾斜面、203c…凸面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図18
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図20
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