(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085175
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】表面溶融炉、表面溶融炉における被処理物の供給状態の監視方法、及び表面溶融炉の運転方法
(51)【国際特許分類】
F23G 5/50 20060101AFI20240619BHJP
F23G 5/26 20060101ALI20240619BHJP
F23G 5/24 20060101ALI20240619BHJP
F23G 5/00 20060101ALI20240619BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240619BHJP
G06T 7/62 20170101ALI20240619BHJP
F23J 1/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
F23G5/50 F
F23G5/50 M
F23G5/50 Q
F23G5/50 G
F23G5/26
F23G5/24 B
F23G5/00 115A
G06T7/00 610Z
G06T7/62
F23J1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199560
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】平戸 康雅
(72)【発明者】
【氏名】寳正 史樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 繁則
【テーマコード(参考)】
3K062
3K161
5L096
【Fターム(参考)】
3K062AA05
3K062AB03
3K062AC03
3K062BA02
3K062CA08
3K062CB03
3K062DA03
3K062DB01
3K062DB12
3K161AA23
3K161CA05
3K161DA34
3K161DA74
3K161EA08
3K161FA23
3K161FA32
3K161FA48
3K161FA54
3K161GA03
3K161GA12
3K161GA16
3K161HC01
5L096BA02
5L096BA03
5L096FA32
5L096FA59
5L096GA51
(57)【要約】
【課題】表面溶融炉における被処理物の供給状態の正確な評価が可能である、被処理物の供給状態の監視方法を提供する。
【解決手段】被処理物が側方から溶融室M内に供給されて形成した被処理物層Lを表面側から溶融させる表面溶融炉1において被処理物の供給状態を監視する監視方法であって、被処理物層Lが溶融されて形成した溶融面L
Fにおける評価対象領域を撮像して評価対象領域の温度分布を示す熱画像データを生成する撮像工程と、熱画像データに基づいて被処理物の供給状態の良否を評価する評価工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物が側方から溶融室内に供給されて形成した被処理物層を表面側から溶融させる表面溶融炉において被処理物の供給状態を監視する監視方法であって、
前記被処理物層が溶融されて形成した溶融面における評価対象領域を撮像して前記評価対象領域の温度分布を示す熱画像データを生成する撮像工程と、
前記溶融室内に新たに供給された被処理物の供給状態の良否を前記熱画像データに基づいて評価する評価工程と、を含む方法。
【請求項2】
被処理物が側方から溶融室内に供給されて形成した被処理物層を表面側から溶融させる表面溶融炉の運転方法であって、
前記溶融室に被処理物を供給する供給工程と、
前記溶融室を加熱して前記被処理物層を溶融させる加熱工程と、
前記被処理物層が溶融されて形成した溶融面における評価対象領域を撮像して前記評価対象領域の温度分布を示す熱画像データを生成する撮像工程と、
前記溶融室内に新たに供給された被処理物の供給状態の良否を前記熱画像データに基づいて評価する評価工程と、
被処理物の供給状態が不良と評価された場合に前記表面溶融炉の運転条件を調整する調整工程と、を含む方法。
【請求項3】
前記評価工程においては、
前記熱画像データにおける所定温度未満の領域である低温領域の面積が所定の閾値を下回った場合に、又は、
前記熱画像データの所定範囲の面積における前記低温領域の面積の割合が所定の閾値を下回った場合に、
被処理物の供給状態を不良と評価する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記調整工程においては、
前記溶融室への被処理物の供給速度を小さくすること、
前記溶融室への被処理物の供給位置を高くすること、及び
前記溶融室の温度を高くすること、のうちの少なくとも一つを行う、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記低温領域の面積、又は前記熱画像データの所定範囲の面積における前記低温領域の面積の割合は、所定時間における移動平均値である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記表面溶融炉は、
加熱装置が設けられて前記溶融室が下方に形成された天井部と、
前記天井部の外周に立設されて前記天井部と共に昇降可能な内筒と、
内側に前記内筒が配置されて前記内筒に対して回転可能な有底の外筒と、
前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に形成された貯留室に位置する被処理物を前記外筒の回転に伴って前記溶融室に案内する、前記内筒の下部に設けられている案内装置と、を備えた回転式表面溶融炉である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
被処理物が側方から供給されて形成した被処理物層を表面側から溶融させる溶融室を備えた表面溶融炉であって、
前記被処理物層が溶融されて形成した溶融面における評価対象領域を撮像して前記評価対象領域の温度分布を示す熱画像データを生成する撮像装置と、
前記溶融室内に新たに供給された被処理物の供給状態の良否を前記熱画像データに基づいて評価し、被処理物の供給状態が不良と評価された場合に前記表面溶融炉の運転条件を調整する制御装置と、を備える表面溶融炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物が溶融室の側方から溶融室内に供給されて形成した被処理物層を表面側から溶融させる表面溶融炉及びその監視方法と運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した表面溶融炉の一例としては、外筒とその内側に配置された内筒との間に形成された貯留室内の被処理物を、内筒の内周に設けられた天井部の下方に形成された溶融室内に供給して、天井部に設けられたバーナーで発生する熱によって溶融させて溶融スラグとし、外筒の床部におけるスラグポートを介して溶融スラグを溶融室から外部へ自然流下させるように構成されたものが知られている(引用文献1)。
【0003】
表面溶融炉においては、バーナーにかかるエネルギーコストが溶融炉全体のランニングコストの多くを占めていることが問題となっていた。そこで、被処理物に炭素と水素を含む助燃材(廃プラスチック等)を混入し、被処理物の溶融に必要な熱の一部を、溶融室内において助燃材が燃焼される際に発生する熱によって賄うという運用がなされている。
【0004】
ところで、被処理物を溶融室の側方から供給する構成である表面溶融炉の場合、溶融室内で被処理物層が溶融されて形成した溶融面の高さ位置によっては、溶融室に新たに供給された被処理物が溶融面に対して下方に位置する状態(すなわち溶融面の下に潜り込んでいる状態)となることがある。被処理物のこのような供給状態は一般的に不良とされており、回避する必要がある。その理由は、被処理物に混入されている助燃材に酸素が十分に供給されないことから、不完全燃焼による未燃損失が発生し、それにより表面溶融炉の炉内温度及び処理量が低下してしまうためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
助燃材の不完全燃焼においては、一酸化炭素が発生し、また、助燃材に塩化ビニールを含む廃プラスチックが使用された場合には有害物質であるダイオキシンが発生することが知られている。そこで、従来では、溶融室からの排ガスの成分に基づいて不完全燃焼を検知すると共に、不完全燃焼が検知されたことをもって被処理物の供給状態が不良であると評価し、その場合に被処理物が溶融面上に供給されるように表面溶融炉の運転条件を調整するという手法が取られていた。
【0007】
しかしながら、助燃材の不完全燃焼の発生や解消から、排ガスの成分に変化が現れるまでには一定の時間を要するため、排ガスの成分は必ずしも被処理物の供給状態の現状を反映するものではない。すなわち、従来の手法には、被処理物の供給状態をリアルタイムに把握することができず、その結果、運転条件の適時な調整が難しく不完全燃焼の発生及びそれによる炉内温度及び処理量の低下を有効に回避することができないという問題があった。
【0008】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、表面溶融炉における被処理物の供給状態をリアルタイムに把握することにより供給状態の良否を正確に評価することが可能である、被処理物の供給状態の監視方法を提供することにある。また、本発明の他の一つの目的は、被処理物の供給状態に対する評価の結果に基づいて運転条件を適時に調整可能な表面溶融炉の運転方法を提供することにある。さらに、本発明の他の一つの目的は、上記監視方法及び運転方法が適用可能な表面溶融炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するための本発明に係る監視方法は、
被処理物が側方から溶融室内に供給されて形成した被処理物層を表面側から溶融させる表面溶融炉において被処理物の供給状態を監視する監視方法であって、
前記被処理物層が溶融されて形成した溶融面における評価対象領域を撮像して前記評価対象領域の温度分布を示す熱画像データを生成する撮像工程と、
前記溶融室内に新たに供給された被処理物の供給状態の良否を前記熱画像データに基づいて評価する評価工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
溶融室内に新たに供給された被処理物は溶融面よりも低温である。そのため、新たに供給された被処理物が溶融面に覆い被さる状態となっていれば、溶融面を撮像して得られた熱画像データには、低温である被処理物を示す低温領域が含まれることになる。一方、新たに供給された被処理物が溶融面に潜っている状態となっていれば、低温である被処理物が高温である溶融面によって覆われているため、熱画像データには低温領域が含まれないことになる。すなわち、熱画像データは、溶融面に対する新たに供給された被処理物の位置が直接的に反映されたものである。したがって、上記構成の監視方法によれば、熱画像データに基づいて被処理物の供給状態をリアルタイムに把握して供給状態の良否を正確に評価することが可能になる。
【0011】
上述の目的を達成するための本発明に係る運転方法は、
被処理物が側方から溶融室内に供給されて形成した被処理物層を表面側から溶融させる表面溶融炉の運転方法であって、
前記溶融室に被処理物を供給する供給工程と、
前記溶融室を加熱して前記被処理物層を溶融させる加熱工程と、
前記被処理物層が溶融されて形成した溶融面における評価対象領域を撮像して前記評価対象領域の温度分布を示す熱画像データを生成する撮像工程と、
前記溶融室内に新たに供給された被処理物の供給状態の良否を前記熱画像データに基づいて評価する評価工程と、
被処理物の供給状態が不良と評価された場合に前記表面溶融炉の運転条件を調整する調整工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
上記構成の運転方法によれば、前述したとおり溶融室内に新たに供給された被処理物の供給状態の良否を正確に評価することが可能になるため、評価の結果に基づく表面溶融炉の運転条件の適時な調整が可能になる。例えば、被処理物の供給状態が不良である(すなわち溶融面に対して潜っている)と評価した場合に、表面溶融炉の運転条件を調整することによって、後の新たな被処理物が良好な状態(すなわち溶融面に覆い被さる状態)で溶融室に供給されるようにすることが可能になる。これにより、被処理物に混入されている助燃材に酸素が供給されやすくなるので、助燃材の不完全燃焼及びそれによる表面溶融炉の炉内温度及び処理量の低下はより確実に回避される。
【0013】
本発明に係る監視方法又は運転方法において、
前記評価工程においては、
前記熱画像データにおける所定温度未満の領域である低温領域の面積が所定の閾値を下回った場合に、又は、
前記熱画像データの所定範囲の面積における前記低温領域の面積の割合が所定の閾値を下回った場合に、
被処理物の供給状態を不良と評価すると好適である。
【0014】
上記構成によれば、低温領域の面積、及び熱画像データの所定範囲の面積における低温領域の面積の割合のいずれかが閾値を下回ったことをもって被処理物の供給状態を不良と評価することが可能になる。
【0015】
本発明に係る運転方法において、
前記調整工程においては、
前記溶融室への被処理物の供給速度を小さくすること、
前記溶融室への被処理物の供給位置を高くすること、及び
前記溶融室の温度を高くすること、のうちの少なくとも一つを行うと好適である。
【0016】
溶融室への被処理物の供給速度を小さくする場合、及び溶融室の温度を高くする場合のいずれにおいても、溶融室への新たな被処理物の供給量よりも、被処理物層が溶融されて形成されるスラグの量(すなわち処理量)のほうが多くなるので、溶融室内の被処理物層はやがて縮小し、それに伴って溶融面は溶融室の下方及び外側へ後退することになる。その結果、溶融室に新たに供給される被処理物は溶融面に覆い被さる状態となりやすくなる。また、溶融室への被処理物の供給位置を高くする場合においても、同様に、溶融室に新たに供給される被処理物は溶融面に覆い被さる状態となりやすくなる。したがって、上記構成の運転方法によれば、表面溶融炉の運転条件に対する調整は、処理物の供給速度、処理物の供給位置及び溶融室の温度に対する調整のうちの少なくとも一つを介して行うことができる。
【0017】
本発明に係る監視方法又は運転方法において、
前記低温領域の面積、又は前記熱画像データの所定範囲の面積における前記低温領域の面積の割合は、所定時間における移動平均値であると好適である。
【0018】
溶融面に対する新たに供給された被処理物の位置は、時間の経過に伴って変化し、また、溶融面の部位によって変化する。上記構成の運転方法によれば、これらの変化を平均化したうえで被処理物の供給状態の良否を評価することが可能になる。その結果、溶融面に対する新たに供給された被処理物の位置の一時的な又は局部的な異常による評価の結果への影響を排除することが可能になる。
【0019】
本発明に係る監視方法又は運転方法において、
前記表面溶融炉は、
加熱装置が設けられて前記溶融室が下方に形成された天井部と、
前記天井部の外周に立設されて前記天井部と共に昇降可能な内筒と、
内側に前記内筒が配置されて前記内筒に対して回転可能な有底の外筒と、
前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に形成された貯留室に位置する被処理物を前記外筒の回転に伴って前記溶融室に案内する、前記内筒の下部に設けられている案内装置と、を備えた回転式表面溶融炉であると好適である。
【0020】
上記構成の回転式表面溶融炉においても本発明に係る監視方法又は運転方法は好適に実行可能である。
【0021】
上述の目的を達成するための本発明に係る表面溶融炉は、
被処理物が側方から供給されて形成した被処理物層を表面側から溶融させる溶融室を備えた表面溶融炉であって、
前記被処理物層が溶融されて形成した溶融面における評価対象領域を撮像して前記評価対象領域の温度分布を示す熱画像データを生成する撮像装置と、
前記溶融室内に新たに供給された被処理物の供給状態の良否を前記熱画像データに基づいて評価し、被処理物の供給状態が不良と評価された場合に前記表面溶融炉の運転条件を調整する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0022】
上記構成の表面溶融炉に前述した本発明に係る運転方法を適用した際に、評価工程及び調整工程を制御装置によって実行することが可能になる。すなわち、上記構成の表面溶融炉によれば、被処理物の供給状態の良否に対する評価及び評価の結果に基づく表面溶融炉の運転条件の調整を自動的に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る表面溶融炉の概略構成を示す縦断面図である。
【
図2】本発明に係る表面溶融炉図の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】表面溶融炉における赤外線カメラの撮像範囲を示す模式図である。
【
図4】赤外線カメラによって撮像した熱画像を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る表面溶融炉及びその監視方法と運転方法の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、ごみ焼却炉などから発生する焼却灰を処理対象物とする回転式表面溶融炉を例にしているが、これに限らず表面溶融炉であれば本発明を適用可能である。
【0025】
〔第一の実施形態〕
<表面溶融炉の構造>
図1及び
図2に示すように、表面溶融炉1は、有底の外筒2と、外筒2に対して軸心Xが一致する状態で外筒2の内側に配置された内筒3と、内筒3の内周面の下部に設けられた天井部4と、表面溶融炉1の運転を制御する制御装置5と、表示装置6を備える。
【0026】
外筒2は、内筒3に対して相対回転可能に構成されている。外筒2には回転駆動装置21(周知の構成であるため
図1での図示及びその詳細な説明は省略する)が連結しており、回転駆動装置21によって外筒2が内筒3に対して回転駆動される。外筒2の内周面と内筒3の外周面との間には環状の貯留室Sが形成されており、貯留室Sの上方側の開口を覆う蓋7が内筒3の上部に支持されている。蓋7にはホッパー71が設けられており、ホッパー71を介してコンベヤ8から貯留室Sへ、助燃材としての廃プラスチックを混入した焼却灰が被処理物として投入されて貯留される。なお、助燃材は廃プラスチックに限らず可燃物であれば使用可能である。
【0027】
内筒3は、天井部4の外周に立設されており、天井部4と共に昇降可能に構成されている。内筒3には昇降駆動装置31(周知の構成であるため
図1での図示及びその詳細な説明は省略する)が連結しており、昇降駆動装置31によって内筒3及び天井部4が外筒2に対して昇降駆動される。内筒3の下部には、切り出し羽根32(案内装置の一例)が周方向に間隔をあけて複数設けられており、切り出し羽根32は、内筒3の外側に位置する貯留室S内の被処理物を、外筒2の回転に伴って内筒3の内側へ切り出すように構成されている。
【0028】
天井部4は、下方に開口する略円錐状をなしており、外筒2の床部22との間に溶融室Mが形成されている。溶融室Mには、被処理物が切り出されることにより断面視で略すり鉢状の被処理物層Lが形成される。天井部4にはバーナー41(加熱装置の一例)が設けられており、バーナー41は溶融室M内の温度を焼却灰の溶流点以上となる1200℃~1400℃に加熱する。溶融室M内の温度は、例えば天井部4に設けられた熱電対からなる溶融室温度センサ42によって測定されて信号として制御装置5に送信される。
【0029】
バーナー41により溶融室Mが加熱されることで、被処理物層Lは表面側から溶融される。溶融物であるスラグは、自然流下により外筒2の床部22の略中央に位置する出滓口(スラグポート)221から、溶融室M内の排ガスと共に排出される。被処理物層Lの表面は、溶融に伴って後退するのであるが、外筒2が連続的又は定期的に回転して被処理物を新たに切り出すことにより、概ね一定の位置及び形状に維持される。出滓口221から排出された排ガスの成分は、排ガスセンサ9によって測定されて信号として制御装置5に送信される。
【0030】
また、天井部4には、被処理物層Lのうち内筒3に隣接する部分であるコーナー部分の表面に存在する助燃材に酸素又は酸素を含むガスを供給しその燃焼を助長するための酸素供給装置43が、天井部4の外周側に設けられている。
【0031】
更に、天井部4には、被処理物層Lが溶融されて形成した溶融面L
Fを撮像してその温度分布を色又は明度で示す熱画像データを生成する赤外線カメラ44(撮像装置の一例)が設けられている。
図3に示すように、赤外線カメラ44は、少なくとも、平面視で略リング状の被処理物層Lの表面のうち周方向における一部分を撮像可能範囲E1としている。なお、本実施形態では、撮像可能範囲E1は出滓口221の全体にも及んでいる。赤外線カメラ44により生成された熱画像データは、信号として制御装置5に送信される。
【0032】
制御装置5は、例えばメモリーからなる記憶部51と、例えばプロセッサからなる処理部52とを有する。記憶部51は、赤外線カメラ44、溶融室温度センサ42及び排ガスセンサ9からの信号を受信して記憶すると共に、記憶した信号を処理部52からの要求に応じて処理部52に送信する。
【0033】
処理部52は、赤外線カメラ44により生成された熱画像データに対して必要に応じて画像処理を行い、表示装置6に送信して表示させる。
【0034】
また、処理部52は、溶融室温度センサ42及び排ガスセンサ9の信号に基づいて表面溶融炉1の運転条件を調整する。具体的には、溶融室温度センサ42により測定された溶融室Mの温度が焼却灰の溶流点を下回った場合に、処理部52は、バーナー41に供給される燃料及び酸素の量を増加させる。これに加えて、酸素供給装置43によって溶融室M内に供給される酸素の量を増加させてもよい。これによりバーナー41の出力が高くなるので、溶融室Mの温度が上昇することになる。
【0035】
そして、排ガスセンサ9によって測定された一酸化炭素等の有害物質の量が規制値以上となった場合、処理部52は、溶融室Mの温度が上昇するようにバーナー41の出力を高くするか、溶融室Mへの被処理物の供給速度が低くなるように回転駆動装置21の出力を低くするか、又はこれらを組み合わせて行う。被処理物がより高温に加熱されることで、又はより長時間にわたって高温に加熱されることで、一酸化炭素等の有害物質の発生は抑制される。
【0036】
表示装置6は、赤外線カメラ44により生成された熱画像データ等を表面溶融炉1の作業者に提示するためのものであり、一例としてパネルディスプレイによって構成される。
【0037】
<監視方法>
以下、上述した構成の表面溶融炉1において被処理物の供給状態を監視する監視方法を説明する。第一の実施形態において、監視方法は、撮像工程S13及び評価工程S14を含む。
【0038】
撮像工程S13においては、赤外線カメラ44により、被処理物層Lが溶融されて形成した溶融面L
Fのうち、撮像可能範囲E1に相当する領域を撮像して熱画像データを生成する。熱画像データによって表される熱画像P(
図4)は表示装置6によって作業者に提示される。
【0039】
表面溶融炉1の運転中に、前述したとおり、溶融室Mに対する加熱によって被処理物層Lがその表面側から溶融されていくとともに、溶融室Mには外筒2の回転によって新たな被処理物が供給される。撮像可能範囲E1に相当する溶融面LFに覆い被さる状態で新たな被処理物が供給されると、熱画像Pには低温である新たな被処理物を示す低温領域ELが含まれることになる。一方、溶融面LFに潜っている状態で新たな被処理物が供給されると、低温である新たな被処理物が高温である溶融面LFによって覆われているため、熱画像Pにはこのような低温領域ELが含まれないことになる。すなわち、熱画像Pに現れる低温領域ELから、被処理物の供給状態を把握することが可能である。
【0040】
なお、
図4の熱画像Pにおいては簡潔化のため図示を省略しているが、実際の熱画像において、低温領域E
Lは温度差に基づいて色分け又は明度分けされた複数の領域からなることがあり、低温領域E
L以外の領域(すなわち高温領域)についても同様である。
【0041】
評価工程S14においては、作業者が熱画像Pに基づいて被処理物の供給状態の良否を評価する。具体的には、熱画像Pのうちの所定範囲である評価対象領域E2における低温領域ELの面積、又は、評価対象領域E2の面積における低温領域ELの面積の割合が所定の基準を下回っているかを判定する。
【0042】
評価対象領域E2は、人為的に定めた仮想の境界によって囲まれた領域であり、本実施形態において、熱画像Pのうち内筒3に隣接する領域から出滓口221に隣接する領域にわたって周方向の幅が縮小した略扇形の領域を評価対象領域E2としている。しかし、本発明はこれに限られず、他の形状の領域を評価対象領域E2としてもよく、熱画像P全体を評価対象領域E2としてもよい。
【0043】
低温領域ELは所定温度未満の領域である。所定温度は被処理物の種類や表面溶融炉の運転条件等に応じて適宜設定可能であるが、本実施形態においては、例えば1250℃未満の領域を低温領域ELとすることができる。別の例として、熱画像Pに示される最大温度Tmaxに、1より小さい係数(例えば0.9)を乗算した値を所定温度に設定することもできる。この場合、低温領域ELの面積や割合は最大温度Tmaxに追従して変化するので、供給状態の良否を精度よく評価することが可能になる。
【0044】
所定の基準は、作業者の主観的な感覚であってもよく、客観的に定められた所定の閾値であってもよい。後者の場合、作業者は面積や割合を計算により求めて判定を行う。評価対象領域E2の面積における低温領域ELの面積の割合の閾値は、例えば5%とすることができる。そして、低温領域ELの面積の閾値は、前述割合の閾値に応じて評価対象領域E2の面積から算出した数値とすることができる。
【0045】
作業者は、低温領域ELの面積、又は、評価対象領域E2の面積における低温領域ELの面積の割合が所定の基準を下回っていると判定した場合に、被処理物の供給状態を不良と評価する。このようにして、被処理物の供給状態の監視が可能になる。
【0046】
なお、作業者による供給状態の監視が容易になるように、表示装置6に表示される熱画像Pには、制御装置5の処理部52による画像処理によって、評価対象領域E2の境界、評価対象領域E2の面積を示す数値、低温領域ELの境界、低温領域ELの面積を示す数値、及び評価対象領域E2の面積における低温領域ELの面積の割合を示す数値、のうちの少なくとも一つが挿入されたものであってもよい。
【0047】
<運転方法>
以下、上述した構成の表面溶融炉1の運転方法を説明する。第一の実施形態において、運転方法は、供給工程S11、加熱工程S12、撮像工程S13、評価工程S14及び調整工程S15を含む。
【0048】
供給工程S11は、回転駆動装置21の作動によって外筒2を回転させることで、貯留室S内の被処理物を溶融室Mに切り出して被処理物層Lを形成したり、溶融された分の被処理物を補充したりする工程である。
【0049】
加熱工程S12は、バーナー41又はこれに加えて酸素供給装置43を作動させて溶融室Mを加熱することで、被処理物層Lを表面側から溶融させる工程である。表面溶融炉1の運転中に、加熱工程S12による溶融室Mの加熱が連続的に行われ、これに並行して供給工程S11による被処理物の供給が連続的又は断続的に行われることで、被処理物の溶融処理が連続的に行われる。加熱工程S12において、被処理物の溶融に必要な熱の一部は、溶融室内において助燃材が燃焼される際に発生する熱によって賄われている。
【0050】
撮像工程S13、評価工程S14及び調整工程S15は、表面溶融炉1の運転中に連続的に又は所定の時間をおいて実行される。撮像工程S13、評価工程S14は、監視方法について前述したのと同一であるので、説明を省略する。
【0051】
調整工程S15は、評価工程S14で被処理物の供給状態が不良と評価された場合に、作業者により表面溶融炉1の運転条件を調整する工程である。具体的には、作業者は、回転駆動装置21の出力を低くして外筒2の回転速度を小さくすることで、溶融室Mへの被処理物の供給速度を小さくするか、又は、バーナー41の出力を高くすることで、溶融室Mの温度を高くする。この場合、溶融室Mから排出されるスラグ量(すなわち処理量)が溶融室Mへの被処理物の供給量を上回るので、溶融面LFは外筒2の床部22及び周壁部23に向かって後退するのであるが、その結果、溶融室Mに新たに供給される被処理物は、溶融面LFに覆い被さる状態となりやすくなる。或いは、作業者は、昇降駆動装置31を介して内筒3を上昇させることで、溶融室Mへの被処理物の供給位置を高くする。この場合においても、新たに供給される被処理物は溶融面LFに覆い被さる状態となりやすくなる。更に、作業者は、これらの調整のうちの二つ以上を組み合わせて行ってもよい。
【0052】
撮像工程S13、評価工程S14及び調整工程S15は、熱画像Pの評価対象領域E2における低温領域ELの面積、又は、評価対象領域E2の面積における低温領域ELの面積の割合が所定の基準以上となるまで繰り返して実行される。
【0053】
〔第二の実施形態〕
本実施形態は、監視方法及び運転方法における評価工程S14と、運転方法における調整工程S15とを制御装置5によって実行するように構成された点において第一の実施形態と異なる。以下の説明では、第一の実施形態と同一である構成についての説明を省略する。
【0054】
評価工程S14においては、処理部52が、記憶部51から受信した熱画像データに基づいて被処理物の供給状態の良否を評価する。具体的には、処理部52は、画像処理により、熱画像データによって表される熱画像Pにおける評価対象領域E2及び低温領域ELを特定し、低温領域ELの面積、又は、評価対象領域E2の面積における低温領域ELの面積の割合を算出する。そして、処理部52は、算出した数値が所定の閾値を下回っているかを判定し、所定の閾値を下回っていると判定した場合に、被処理物の供給状態を不良と評価する。
【0055】
調整工程S15においては、被処理物の供給状態が不良と評価された場合に、処理部52によって表面溶融炉1の運転条件を調整する。運転条件を調整する手法については、第一の実施形態において説明したのと同一である。
【0056】
なお、評価工程S14における判定は所定時間における移動平均値に基づいて行われてもよい。つまり、処理部52は、所定時間にわたって記憶部51から受信した複数の熱画像Pのそれぞれに対し、低温領域ELの面積、又は、評価対象領域E2の面積における低温領域ELの面積の割合を算出し、そして、得られた面積や割合に基づいて所定時間における移動平均値を求めて判定に使用することができる。
【0057】
また、評価工程S14における評価の結果は、処理部52から出力装置(表示装置6、又は作業者に情報を伝達可能なその他の任意の形式の装置)に送信されて出力されてもよい。
【0058】
〔その他の実施形態〕
溶融面LFの熱画像データを生成する赤外線カメラ44は、天井部4の周方向に距離を空けて複数設けられてもよい。回転式表面溶融炉において、内筒3に対する外筒2の回転速度が小さく設定されている(例えば1回転/1~2時間)ことがあり、このような場合では溶融面LFの周方向上の同一箇所に対する前回の監視と次回の監視との間隔が長くなってしまうのであるが、上記構成によれば、より短い間隔で同一の箇所に対して監視を行うことが可能となる。
【0059】
熱画像データを生成する赤外線カメラ44が複数設けられている場合では、視差角が互いに異なる赤外線カメラ44の熱画像データに基づいて溶融面LFの形状(例えば盛り上がっているか又は痩せているか)を推定することが可能になる。そこで、本発明に係る表面溶融炉の運転方法は、溶融面LFの形状に対する推定の結果に基づいて被処理物の供給速度、溶融室の温度及びその他の運転条件のうちの少なくとも一つを調整することで、溶融面LFを適切な形状に調整する工程を更に含んでもよい。なお、溶融面LFの形状に対する推定においては、溶融面LFが炎によって遮られることなく映されている熱画像データを使用することが好ましいが、その代わりに、可視光カメラによって撮像された可視光画像データを使用することも可能である。
【0060】
貯留室S内の被処理物を外筒2の回転に伴って溶融室Mへ切り出す切り出し羽根32に異常(例えば切り出し羽根32の破損や切り出し羽根32での被処理物の詰まり)が発生した場合、溶融室Mへの新たな被処理物の供給状態にも影響が生じる。そこで、本発明に係る運転方法は、熱画像データに基づいて切り出し羽根32に異常が生じたかを判定する異常判定工程を更に含んでもよい。異常判定工程では、例えば、調整工程S15が実行される前の熱画像データに表される低温領域ELの面積に対する、調整工程S15が実行されてから所定の時間が経過した後の熱画像データに表される低温領域ELの面積の変化を表す数値(面積比、面積の増加量など)を求め、得られた数値が所定の閾値を下回ったことをもって、切り出し羽根32に異常が発生したと判定することができる。
【0061】
出滓口221を自然流下するスラグの温度が低下することによって出滓口221につらら状の垂下物(
図4の熱画像Pにおける出滓口221にある低温領域E
L)が形成されることがある。本発明に係る表面溶融炉1は、このような垂下物の形成状態を判定して垂下物に打撃を加えて出滓口221から落下させる打撃装置を更に備えてもよい。更に、垂下物は熱画像Pにおいて低温領域E
Lとして現れるため、本発明に係る運転方法は、熱画像Pに基づいて出滓口221における垂下物の位置を判定し、垂下物の位置と、打撃装置による打撃が可能な位置とが一致したタイミングに打撃装置を作動させて垂下物を除去する除去工程を更に含んでもよい。
【0062】
上記実施形態では、低温領域ELについて、熱画像データによって表される熱画像Pに基づいてその面積を算出すると説明していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、熱画像Pを構成する各画素のデータが保有する温度情報に基づいて低温領域ELに相当する画素数(データ数)を算出し、画素数(データ数)に基づいて低温領域ELの面積を算出してもよい。本発明においては熱画像Pおよび熱画像Pを構成する各画素のデータの集合をまとめて熱画像データと称する。
【符号の説明】
【0063】
1 表面溶融炉
2 外筒
21 回転駆動装置
22 床部
221 出滓口
23 周壁部
3 内筒
31 昇降駆動装置
32 切り出し羽根(案内装置)
4 天井部
41 バーナー(加熱装置)
42 溶融室温度センサ
43 酸素供給装置
44 赤外線カメラ(撮像装置)
5 制御装置
51 記憶部
52 処理部
6 表示装置
7 蓋
71 ホッパー
8 コンベヤ
9 排ガスセンサ
S 貯留室
M 溶融室
L 被処理物層
LF 溶融面
P 熱画像
E1 撮像可能範囲
E2 評価対象領域
EL 低温領域
X 軸心