(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085190
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】空間光通信システム、分析装置、および分析方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20240101AFI20240619BHJP
【FI】
G01V1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199581
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】今井 浩
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB17
2G105EE02
(57)【要約】
【課題】空間光通信の通信品質を測定するための信号を用いて、環境状態の推定を行う。
【解決手段】空間光通信システム(400)は、メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機(101)と、光送受信機(101)の受信信号に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析部(300)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機と、
前記光送受信機の受信信号に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析部と、
を備える、
ことを特徴とする空間光通信システム。
【請求項2】
前記分析部は、降雨状態を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の空間光通信システム。
【請求項3】
前記分析部は、前記少なくとも一部分のエリアの地面の振動状態を推定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の空間光通信システム。
【請求項4】
各前記光送受信機の受信信号を用いて、各前記光送受信機の空間光通信の品質を計測する制御部を、更に備え、
前記分析部は、前記空間光通信の品質に基づいて、前記大気環境の状態または前記設置地盤の状態を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の空間光通信システム。
【請求項5】
前記空間光通信の品質は、前記受信信号の受信レベルおよびビットエラーレートのうちの少なくとも一方である、
ことを特徴とする請求項4に記載の空間光通信システム。
【請求項6】
前記分析部は、前記降雨状態に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアの降雨分布を推定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の空間光通信システム。
【請求項7】
前記分析部は、前記振動状態に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアの地震分布を推定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の空間光通信システム。
【請求項8】
メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機の受信信号を取得する取得部と、
前記受信信号に基づいて、該空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析部と、
を備える、
ことを特徴とする分析装置。
【請求項9】
メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機の受信信号を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した受信信号に基づいて、該空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析工程と、
を含む、
ことを特徴とする分析方法。
【請求項10】
コンピュータを請求項8に記載の分析装置として動作させるためのプログラムであって、前記コンピュータを前記各部として機能させる、ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光通信システム、分析装置、および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天候および地震といった環境状態を把握する手法は、従前より様々に知られている。天候を把握する手法の代表的な例としては、気象レーダを利用する手法がある。具体的には、気象レーダにより得られた反射強度(エコー強度)による降雨パターンの認識と、実際に計測された雨量とを基に、任意点の降雨量を、演算にて求めて推定している。降雨量の計測は、AMeDAS(Automated Meteorological Data System)により収集される各観測点の実際の降雨量の観測データが利用される。当該観測データは、1都市に所定のブロック(17kmメッシュ)で区切られた数箇所に設置された雨量計から収集される。降雨量の推定を行なう場合には、これらエコー強度および降雨量の観測データを用いて演算を行う。
【0003】
特許文献1に開示されている降雨量推定システムは、降雨量の推定対象地域における所定点に配されて降雨強度分布情報を出力する気象レーダと、降雨量の推定対象地域における複数の観測点に配されて雨量情報を出力する雨量計と、上記気象レーダからの降雨強度分布情報を入力信号とし、上記雨量計からの雨量情報を教師信号として、雨量観測点についての教師信号と入力信号との関係を学習する一方、降雨量の推定対象地域における任意点の降雨量を上記気象レーダにより与えられた降雨強度分布情報に基づいて上記の関係にしたがって推測するニューラルネットワークと、降雨強度分布情報から降雨量を算出する演算に必要な定数を上記ニューラルネットワークにより推測された降雨量およびその推測に供された降雨強度分布情報に基づいて決定する定数決定手段と、上記気象レーダにより与えられた降雨強度分布情報に基づいて上記定数決定手段により決定された定数を用いた演算を行なうことにより降雨量を算出する降雨量算出手段とを備えている。
【0004】
地震は、全国各地に設置された地震計により計測され、計測値に基づいて、震源、震度、地震分布が計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-146375号公報
【特許文献2】特開2016-76887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1の技術では雨量計の設置が必須である。また、一般的な地震計測では、地震計の設置が必須となる。すなわち、従前の環境状態の推定や観測を行う技術には、そのための専用の施設の設置が必要であり、専用の施設の設置や管理に費用や労力がかかる。そのため、そのような専用の施設を設置することなく、環境状態の推定や観測を行う技術の開発が求められている。
【0007】
そこで、本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的の一例は、空間光通信の通信品質を測定するための信号を用いて、環境状態の推定を行う技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る空間光通信システムは、メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機と、前記光送受信機の受信信号に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様に係る分析装置は、メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機の受信信号を取得する取得部と、前記受信信号に基づいて、該空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析部と、を備える。
【0010】
本発明の一態様に係る分析方法は、メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機の受信信号を取得する取得工程と、前記取得工程で取得した受信信号に基づいて、該空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析工程と、を含む。
【0011】
本発明の一態様は、コンピュータを前記分析装置として動作させるためのプログラムを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、空間光通信の通信品質を測定するための信号を用いて、環境状態の推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の例示的実施形態1に係る空間光通信システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の例示的実施形態1に係る空間光通信システムによる空間光通信方法の処理フローを説明する図である。
【
図3】本発明の例示的実施形態2に係る空間光通信システムの構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の例示的実施形態2に係る空間光通信システムの光送受信機同士の通信部間の通信の態様を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の例示的実施形態2に係る空間光通信システムによる空間光通信方法の処理フローを説明する図である。
【
図6】本発明の例示的実施形態2に係る空間光通信システムの光送受信機同士の通信部間の通信において降雨による影響を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の例示的実施形態2に係る空間光通信システムの光送受信機同士の通信部間の通信において降雨による影響を模式的に示す図である。
【
図8】本発明の例示的実施形態2に係る空間光通信システムの変形例の構成を示すブロック図である。
【
図9】本発明の例示的実施形態3に係る空間光通信システムの構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の例示的実施形態3に係る空間光通信システムによる空間光通信方法の処理フローを説明する図である。
【
図11】本発明の例示的実施形態3に係る空間光通信システムの光送受信機同士の通信部間の通信において振動(地震)による影響を模式的に示す図である。
【
図12】本発明の各例示的実施形態に係る空間光通信装置の一実現例であるコンピュータのハードウェア構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔例示的実施形態1〕
本発明の第1の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本例示的実施形態は、後述する例示的実施形態の基本となる形態である。
【0015】
(空間光通信システムの構成)
本例示的実施形態に係る空間光通信システムの構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、空間光通信システム400の構成を示すブロック図である。空間光通信システム400は、複数の光送受信機101を含み、メッシュ型空間光通信網を構成している。メッシュ型空間光通信網とは、空間光通信経路によって複数の網目(メッシュ)が形成されている空間光通信網を指す。
図1では四つの光送受信機101を例示しているが、この数には限らない。また、空間光通信システム400は、分析部300を含む。分析部300は、光送受信機101の受信信号に基づいて、空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される光送受信機101の設置地盤の状態を推定する。
【0016】
(光送受信機の構成)
複数の光送受信機101-1~100-4(何れか特定する必要がない場合には、単に光送受信機101と記載することがある)は、特許請求の範囲における光送受信機の一実現例である。
【0017】
複数の光送受信機101-1~100-4は、網目(メッシュ)の通信網を形成するように光送受信機同士が光通信媒体を用いて双方向の通信を行う。光送受信機101のそれぞれから送信される光通信媒体は、有指向性の光通信媒体であり、具体例は、例示的実施形態を限定するものではないが、概ね10GHz以上の周波数を有する高周波数領域の電磁波を例に挙げることができる。当該周波数領域の電磁波には、ミリ波、サブミリ波、赤外光、可視光、紫外光等が含まれ得る。
【0018】
光送受信機101-1~100-4は、一例として、上記周波数領域の電磁波を所定の角度範囲内に向き付けて送出することによって、上述した有指向性の光通信媒体として通信に用いる。ここで、光送受信機101-1~100-4が上記周波数領域の電磁波を向き付けるための具体的構成は本例示的実施形態を限定するものではないが、一例として、光送受信機101-1~100-4は、
・ミリ波やサブミリ波を所定の角度範囲内に向き付けて送出するビームフォーミングアンテナ
・赤外光、可視光、又は紫外光をコリメートするコリメータ
・赤外光、可視光、又は紫外光のレーザを生成するレーザ発振器
・液晶の位相を変更することによりレーザを変調する変調器
などを備える構成とすることができる。
【0019】
光送受信機101-1~100-4が光通信媒体である上記周波数領域の電磁波を向き付けて送出することによって、当該光通信媒体のエネルギー密度が上昇するので、当該光通信媒体を用いてより遠方の通信相手と通信することができる。
【0020】
(分析部300)
分析部300は、特許請求の範囲における分析部の一実現例である。
【0021】
分析部300は、一例として、各光送受信機101から受信信号を取得する。この場合、分析部300は、特許請求の範囲における取得部の一実現例でもある。しかし、これに限らず、各光送受信機101の通信を制御する制御部から、該制御部が各光送受信機101の受信信号を取得して計測した空間光通信品質を示す信号(情報)を、分析部300が取得してもよい。また、分析部300は、一例として、受信信号あるいは受信品質を示す信号を取得するにあたって、光送受信機と分析部300との間、あるいは該制御部と分析部300との間に設置された通信網を介して行うこともできる。
【0022】
分析部300によって各種状態を推定する対象である「少なくとも一部分のエリア」とは、
図1に例示する四つの光送受信機101-1~101-4によって形成される空間光通信網が網羅するエリアの全域であってもよいが、当該全域の内の一部分の区域、例えば二つの光送受信機101(例えば光送受信機101-1および光送受信機101-2)によって網羅される空間光通信網のエリアであってもよい。
【0023】
分析部300は、大気環境の状態として、例えば、降雨状態(降雨の有無、降雨の強さ)、大気中の浮遊物(超微粒子、粉塵など)の有無あるいは量、および温度のうちの少なくとも一つを推定する。一例として、分析部300は、光送受信機101-1と、光送受信機101-2との間の空間光通信の品質の一例である受信レベルを分析する。
【0024】
分析部300は、一例として受信レベルを分析する場合、送信側の光送受信機(例えば光送受信機101-1)から送出したビーム量に比べて、受信側の光送受信機(例えば光送受信機101-2)で受信できたビーム量が低減したか否か、またどの程度低減したかに基づいて、これら光送受信機間に構成される空間における、降雨状態をする。
【0025】
分析部300は、受信レベル以外にも、ビットエラーレートを用いて、大気環境の状態を推定することが可能である。ビットエラーレートに基づいた分析についても、ビットエラーレートが増加したか否か、またどの程度増加したかに基づいて、光送受信機間に構成される空間における、降雨状態をする。
【0026】
分析部300は、光送受信機101の設置地盤の状態の推定を、上述の大気状態の推定に代えて、行うことができるが、これに限らず、上述の大気状態の推定に加えて、光送受信機101の設置地盤の状態の推定を行うことが可能である。
【0027】
分析部300は、光送受信機101の設置地盤の状態として、地震の有無あるいは大きさ、地滑りの有無およびその大きさ、地盤沈下の有無およびその大きさのうちの少なくとの一つを推定する。一例として、分析部300は、受信信号から、光送受信機101の設置地盤の振動成分を抽出する。一例として、振動成分は、受信信号からフィルタリング処理で抽出することができる。また、分析部300は、抽出した振動成分の大きさから、地震の大きさを推定することができる。また、地滑りや、地盤沈下は、これらが発生した瞬間の変位のステップ応答を周波数分析により検出することによって推定する。また、この推定と降雨状態から降雨による地滑り、地盤沈下を推定することも可能である。
【0028】
なお、分析部300によって抽出される振動成分は、送信側の光送受信機101と、受信側の光送受信機101との間の相対的な振動成分に相当する。
【0029】
要するに、本例示的実施形態の空間光通信システム400によれば、メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機と、前記光送受信機の受信信号に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析部と備える空間光通信システムの構成となっている。これにより、空間光通信を行うためのシステムであるとともに、空間光通信の受信信号に基づいて、大気環境の状態、または光送受信機101の設置地盤の状態を推定することができる。このため、本例示的実施形態によれば、大気環境の状態または設置地盤の状態を推定計測するための専用の設備(例えば雨量計、地震計)を必要とせず、空間光通信で用いられる信号に基づいてこれらの状態を推定することができるという効果が得られる。従って、専用の設備の設置や管理に要するコストを抑えることができる。
【0030】
ここで、本例示的実施形態は、メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機の受信信号を取得する取得部と、前記受信信号に基づいて、該空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析部とを備える分析装置の構成となっていると換言することができる。これにより、上述した効果を奏する分析装置を実現することが出来る。
【0031】
(分析方法の流れ)
本例示的実施形態に係る空間光通信システムによる上述の大気環境の状態または設置地盤の状態の分析方法について、
図2を参照して説明する。該分析方法は、メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機の受信信号を取得する取得工程(S1)と、前記取得工程で取得した受信信号に基づいて、該空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析工程(S2)と、を含む。分析方法の流れについて、更に説明する。
【0032】
取得工程(S1)は、先述のように取得部を含む分析部300が行ってもよく、先述の制御部が行ってもよい。
【0033】
分析工程(S2)では、一例として、分析部300が、上述のステップS1において制御部が計測した空間光通信の品質に関する信号(受信レベルまたはビットエラーレート)を取得して、少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態を分析する。なお、上述のように、分析部300が、ステップS2において、光送受信機101の設置地盤の状態の推定を行うことが可能である。大気環境の状態を分析、および設置地盤の状態の推定については、上述しているため、ここでの説明は省略する。
【0034】
以上のように、本例示的実施形態は、メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機の受信信号を取得する取得工程と、前記取得工程で取得した受信信号に基づいて、該空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析工程と、を含む分析方法の構成が採用されている。このため、本例示的実施形態に係る分析方法によれば、空間光通信の受信信号に基づいて、大気環境の状態、または光送受信機101の設置地盤の状態を推定することができる。このため、本例示的実施形態によれば、大気環境の状態または設置地盤の状態を推定計測するための専用の設備(例えば雨量計、地震計)を必要とせず、空間光通信で用いられる信号に基づいて、これらの状態を推定することができるという効果が得られる。従って、専用の設備の設置や管理に要するコストを抑えることができる。
【0035】
〔例示的実施形態2〕
本発明の第2の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、例示的実施形態1にて説明した構成要素と同じ機能を有する構成要素については、同じ符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0036】
(空間光通信システムの構成)
本例示的実施形態に係る空間光通信装置を含む空間光通信システムの構成について、
図3を参照して説明する。
図3は、空間光通信システム400の構成を示すブロック図である。空間光通信システム400は、通信部111-1~111-4をそれぞれ具備した複数の光送受信機101-1~101-4を含む。また、空間光通信システム400は、制御部200を含む。制御部200は、各光送受信機101の受信信号を用いて空間光通信の品質を計測する。空間光通信システム400は、分析部300を含む。分析部300は、空間光通信の品質に基づいて、空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態を推定する。なお、
図3では、複数の光送受信機として四つの光送受信機101-1~101-4を例示してそれらがメッシュ型空間光通信網を構成している例を説明するが、光送受信機の数はこれに限らない。なお、以下では、第1の光送受信機101-1と第2の光送受信機101-2との間の空間光通信を中心として説明し、第1の光送受信機101-1を送信側とし、第2の光送受信機101-2を受信側として説明する。なお、送信側および受信側はこれに限らず、また、第3の光送受信機101-3および第4の光送受信機101-4を含めて各光送受信機101-1~101-4は同一の構成とすることができる。
【0037】
(第1の光送受信機101-1)
図4は、
図3に示す第1の光送受信機101-1と第2の光送受信機101-2の各通信部111-1,111-2の構成を示す概略図とともに、通信部111-1,111-2間の空間光通信の様子を模式的に示す図である。第1の光送受信機101-1の通信部111-1は、
図4に示すように、レーザ光源121-1と、コリメータレンズ131-1とを含む。レーザ光源121-1から出射したレーザ光は、コリメータレンズ131-1に入り、通信部111-1外に出射される。レーザ光源121-1と、コリメータレンズ131-1とは、送信部を構成していると換言することができる。レーザ光源121-1から出射されるレーザ光は、一例として、波長1550nmの光とすることができるが、これに限らず、400nm~1600nmの範囲の波長を用いることができる。
【0038】
(第2の光送受信機101-2)
第2の光送受信機101-2の通信部111-2は、集光レンズ141-2と、フォトダイオード151-2とを含む。第1の光送受信機101-1の通信部111-1から出射されたレーザ光は、集光レンズ141-2に入射して集光され、フォトダイオード151-2に受光される。集光レンズ141-2と、フォトダイオード151-2とは、受信部を構成していると換言することができる。なお、上述のように、各光送受信機101は、同一の構成であることから、第2の光送受信機101-2の通信部111-2には、第1の光送受信機101-1の通信部111-1と同じ送信部の構成が含まれている。同様に、第1の光送受信機101-1の通信部111-1には、第2の光送受信機101-2の通信部111-2と同じ受信部の構成が含まれている。
【0039】
(制御部200)
制御部200は、特許請求の範囲における制御部の一実現例である。
【0040】
制御部200は、各光送受信機101の受信信号を取得する。すなわち、本例示的実施形態においては、制御部200が、特許請求の範囲における取得部の一実現例である。なお、受信信号の取得にあたっては、各光送受信機101から直接に制御部200が受信信号を取得する例に限らず、例えば
図1に示す光送受信機101-2の受信信号が他の光送受信機101-4を経由して制御部200に取得される構成であってもよい。
【0041】
制御部200は、各光送受信機101の受信信号を用いて空間光通信の品質を計測する。各光送受信機101の受信信号を用いて計測する空間光通信の品質としては、空間光通信を行う場合の周知の通信品質を挙げることができ、一例として、受信レベルまたはビットエラーレートの少なくとも1つが挙げられるほか、受信レベルの変化周期が挙げられる。
【0042】
なお、各光送受信機101に空間光通信の品質を取得する機能がある場合には、制御部200は、各光送受信機101から空間光通信の品質を取得してもよい。この場合、制御部200は、各光送受信機101より得た「空間光通信の品質」を収集する機能があると換言できる。また、この場合、或る光送受信機101が取得した空間光通信の品質を、他の光送受信機101を経由して制御部200に取得される構成であってもよい。これにより、制御部200が各光送受信機101から受信信号をそのまま経由して取得する態様に比べて、データ量を低減させることが可能となる。
【0043】
制御部200は、受信信号を用いて計測した品質に基づいて、各光送受信機101が空間光通信網において空間光通信を正常に行うことができるように、各光送受信機101を制御してもよい。一例として制御部200は、「通信する時間」と「分析する時間」を所定期間毎に分けて、通信品質が悪い場合には、「通信する時間」において、経路切り替えやレーザのパワーや受信機の感度を制御する。
【0044】
(分析部300)
分析部300は、制御部200が計測した空間光通信の品質に基づいて、空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態を推定する。なお、制御部200から分析部300への空間光通信の品質の取得に関し、制御部200から分析部300へ直接取得する態様であってもよいし、
図3に示す通信網500を介して取得する態様であってもよい。
【0045】
分析部300は、大気環境の状態として、例えば、
・降雨状態(降雨の有無、降雨の強さ)
・大気中の浮遊物(超微粒子、粉塵など)の有無あるいは量
・温度
のうちの少なくとも一つを推定する。
【0046】
図4は、分析部300が、降雨状態を推定する態様について説明する。
図4の上側には、送信側である第1の光送受信機101-1の通信部111-1と、受信側である第2の光送受信機101-2の通信部111-2との間に構成される空間の大気環境が最良である状態を示す。
図4の下側には、通信部111-1と通信部111-2との間に構成される空間において、降雨(霧でも同様)がある場合の状態を示す。大気環境が最良である状態とは、快晴、且つ、大気汚染が無い状態である。このように大気環境が最良である状態(
図4の上側)では、レーザ光のビームは良好に受信側まで到達する。一方、通信部111-1と通信部111-2との間に構成される空間において、降雨(霧でも同様)がある場合(
図4の下側)には、送信側から受信側に向かって送られているレーザ光のビームが、雨滴あるいは霧によって一部が遮られる。そこで、分析部300は、送信側から送出したビーム量に比べて、受信側で受信できたビーム量が低減したか否か、またどの程度低減したかに基づいて、通信部111-1と通信部111-2との間に構成される空間における、降雨状態を推定する。
【0047】
なお、送信側から送出したビーム量に比べて、受信側で受信できたビーム量が低減したか否か、またどの程度低減したかは、制御部200において特定する。例えば、制御部200は、空間光通信を制御するために各光送受信機の受信レベルを特定する。受信レベルは、送信側から送出したビーム量に比べて、受信側で受信できたビーム量が低減したか否か、またどの程度低減したかを示している。したがって、分析部300は、制御部200が計測した受信レベルを取得することによって、降雨(霧)状態を推定する。
【0048】
空気中の浮遊物(超微粒子、粉塵など)の有無あるいは量についても、送信側から送出したビーム量(すなわち、受信レベル)に影響を与える。そのため、分析部300は、空気中の浮遊物(超微粒子、粉塵など)の有無あるいは量も推定することができる。また、通信部111-1と通信部111-2との間に構成される空間における温度による空気の揺らぎも、送信側から送出したビーム量に影響を与える。そのため、分析部300は、温度も推定することができる。
【0049】
一例として、受信レベルは、快晴、且つ大気汚染無しの場合に「100」とする。そして、実際に制御部200において計測された受信レベルが75であったとする。ここで、分析部300は、一例として、受信レベルが80以下の場合に降雨あり、受信レベルが80を超える場合に降雨なしとの推定結果を生成する構成である場合、分析部300は、実測された受信レベル「75」に基づいて、降雨ありとの推定結果を生成する。
【0050】
更に分析部300は、降雨の推定において、雨量についても、例えば、受信レベル「70~80」を小雨、「50~70未満」を大雨、「50未満」を災害級の大雨というように、状態の階級を設けることが可能である。この場合、上述の実測受信レベル「75」に基づいて、分析部300は小雨との推定結果を生成する。
【0051】
分析部300が出力した推定結果は、空間光通信システム400(
図3)外に出力されてもよく、空間光通信システム400内に具備された図示しない表示装置に表示されてもよい。また、出力された推定結果を制御部200が取得し、空間光通信の制御に用いることも可能である。
【0052】
なお、分析部300が、受信品質を示す信号を制御部200から取得するにあたっては、制御部200と分析部300との間に設けられた通信網500を介して行ってもよい。
【0053】
また、以上では、分析部300が各光送受信機101における受信信号の通信品質に基づいて分析を行なう構成について説明したが、本実施形態はこれに限定されない。分析部300は、各光送受信機101における受信信号に基づく他の指標、例えば、所定期間の受信信号に基づいて分析を行なってもよい。
【0054】
要するに、本例示的実施形態の空間光通信システム400によれば、メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機と、各前記光送受信機の受信信号を用いて空間光通信の品質(受信レベル、ビットエラーレート)を計測し、該品質に基づいて各前記光送受信機を制御する制御部と、該品質に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態(一例として降雨状態)を推定する分析部とを備えている。これにより、空間光通信を行うためのシステムであるとともに、空間光通信の品質を示す信号(受信レベル)に基づいて、大気環境の状態を推定することができる。このため、本例示的実施形態によれば、大気環境の状態を推定計測するための専用の設備(例えば雨量計)を必要とせず、空間光通信で用いられる信号に基づいて大気環境の状態を推定することができるという効果が得られる。従って、専用の設備の設置や管理に要するコストを抑えることができる。
【0055】
(空間光通信システムの処理の流れ)
本例示的実施形態に係る空間光通信システムの処理の流れについて、
図5を参照して説明する。
図5は、該処理の流れを示すフロー図であり、空間光通信の制御に係る制御部200によって行われる処理のフロー(S10)と、上述の分析部300によって行われる処理のフロー(S3)とを含んでいる。
【0056】
図5に示すように、空間光通信システムの処理フローは、各光送受信機101の受信信号を用いて空間光通信の品質を計測し、該品質に基づいて各光送受信機101を制御する制御工程(S10)と、該品質を用いて、前記空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態を推定する分析工程(S3)とを含む。
【0057】
(制御工程)
制御工程(S10)は、以下に説明するステップS11、ステップS12、ステップS13、ステップS14を含む。
【0058】
(ステップS11)
まず、ステップS11において、制御部200が、各光送受信機の受信信号を取得する(取得工程)。ここでの具体的な処理内容については上述したためここでは説明を省略する。
【0059】
(ステップS12)
次のステップS12において、制御部200が、ステップS11において取得した受信信号を用いて、空間光通信の品質を計測する。ここでの具体的な処理内容についても上述したためここでは説明を省略する。
【0060】
(ステップS13)
次のステップS13において、制御部200が、ステップS12において計測した空間光通信の品質に基づいて、各光送受信機101を制御する。
【0061】
(ステップS14)
次のステップS14において、ステップS13において制御された各光送受信機101間において、空間光通信を行う。
【0062】
(分析工程)
分析工程(S3)は、以下に説明するステップS31、ステップS32、ステップS33、ステップS34を含む。
【0063】
(ステップS31)
まず、ステップS31において、分析部300が、上述のステップS12において制御部200が計測した空間光通信の品質に関する信号(受信レベル)を取得する。
【0064】
(ステップS32)
次のステップS32では、分析部300が、上述の少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態(降雨)を分析(推定)する。一例として、ステップS32では、ステップS13において取得した受信レベルと、閾値の受信レベルと比較する。この閾値の受信レベルは、分析部300に格納されていてもよいが、通信網500を介して通信可能な構成に格納されていてもよい。
図6は、受信レベルと、閾値の受信レベルに関して模式的に示した図である。
図6には、送信側の光送受信機101-1の通信部111-1から送出された送信信号(レーザ光)の送信ビット列と、受信側の光送受信機101-2の通信部111-2において受信された信号の受信ビット列とを示す。送信ビット列と受信ビット列とを比較すると、受信レベルが減少しており、受信ビット列が閾値を下回っている。分析部300では、このように閾値との比較において、降雨(霧)の有無を推定する。閾値の受信レベルは、降雨のレベルに対応付けられて複数設けられていてもよい。受信レベルと降雨のレベルとの関係については、上述において例示しているため、ここでは説明を省略する。
【0065】
(ステップS33)
次のステップS33において、分析部300が、上述のステップS32において分析(推定)した結果を、出力する。
【0066】
以上のように、本例示的実施形態では、制御工程(S10)において空間光通信の品質として受信レベルを特定し、分析工程(S3)では、該受信レベルを用いて大気環境の状態を推定する。このため、本例示的実施形態に係る方法によれば、空間光通信を行うためのシステムであるとともに、空間光通信の品質を計測するための信号(受信信号)を用いて、大気環境の状態を推定することができる。このため、本例示的実施形態によれば、大気環境の状態を推定計測するための専用の設備(例えば雨量計)を必要とせず、空間光通信で用いられる信号に基づいて大気環境の状態を推定することができるという効果が得られる。従って、専用の設備の設置や管理に要するコストを抑えることができる。
【0067】
(変形例1)
上述の例では、空間光通信の品質として受信レベルを用いて、
図6に示すように受信レベルの減少を特定することによって、降雨(霧)を推定したが、これに限らない。例えば、通信部111-1,111-2間のエリアにおいて降雨(霧)があった場合、受信信号には、送信信号にノイズが付加した状態となる場合がある。
図7は、ノイズが付加された受信ビット列を示している。これは、ビットエラーレートとして、制御部200が計測することができる。そこで、本変形例では、分析部300が、上述のステップS32に代えて、制御部200からビットエラーレートを取得する。分析部300は、該ビットエラーレートに基づいて、ビットエラーレートの増大を特定することで、降雨(霧)があることを推定してもよい。
【0068】
(変形例2)
上述の例では、分析部300は、例えば送信側の第1の光送受信機101-1と、受信側の第2の光送受信機101-2との間のエリアの降雨状態を推定している。しかしながら、これに限らず、
図8に示すように、広範囲に渡った大気状態の分布を推定する分布推定部301を含んでもよい。
【0069】
分布推定部301によれば、メッシュ型空間光通信網を形成している光送受信機101間においてそれぞれ推定された降雨状態の推定結果を取得し、メッシュ型空間光通信網の設置エリアの降雨状態の分布を推定することができる。分布推定部301が出力する分布推定結果に基づけば、
図8に示すように、該エリアにおいて、大雨である部分エリア、小雨である部分エリア、晴れ(降雨無し)である部分エリア、霧発生の部分エリアの各部分エリアが何処にあって、且つどのような分布になっているかを特定することができる。
【0070】
また、分布推定部301によってこのような分布を継続して推定することにより、降雨予想を行うことができる。要するに、推定された分布情報を時系列で分析することにより、既知の雨雲レーダー(降雨レーダー)と同等の情報として用いることができる。一例として、広範囲のエリアとは、1km四方のエリアとする。また、一例として、1km四方のエリアに対して、100個の光送受信機を、エリア内において点在させるように配置してメッシュ型空間光通信を構成させることが有り得る。
【0071】
なお、空間光通信システムの光送受信機101は、最も近い光送受信機101同士が、例えば50m~100mの間隔を有していてよい。なお、例えば
図3に示す第1の光送受信機101-1と、第2の光送受信機101-2とは最も近い位置にある場合に限らない。例えば、
図3に示す第1の光送受信機101-1と、第2の光送受信機101-2との間には、1つ以上の光送受信機101が配置されていてもよい。
【0072】
〔例示的実施形態3〕
本発明の第3の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、例示的実施形態1にて説明した構成要素と同じ機能を有する構成要素については、同じ符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0073】
(空間光通信システムの構成)
本例示的実施形態に係る空間光通信装置を含む空間光通信システムの構成について、
図9を参照して説明する。
図9は、空間光通信システム400の構成を示すブロック図である。空間光通信システム400が具備する複数の光送受信機101-1~101-4および制御部200の構成は、上述の第2の例示的実施形態において説明したものと同一構成であるため、ここでの説明を省略する。
【0074】
(分析部300)
分析部300の構成についても、上述の例示的実施形態1または例示的実施形態2において説明している内容と重複している部分については説明を省略するが、分析部300は、各光送受信機101の受信信号に基づいて、空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアに構成される光送受信機101の設置地盤の状態を推定する。一例として、本例示的実施形態では、該少なくとも一部分のエリアの地面の振動状態を推定する。なお、先述の第2の例示的実施形態の分析部300において推定している大気環境の状態と併せて推定してもよい。
【0075】
(空間光通信システムの処理の流れ)
本例示的実施形態に係る空間光通信システムの処理の流れについて、
図10を参照して説明する。
図10は、該処理の流れを示すフロー図であり、空間光通信の制御に係るフロー(S10)と、上述の分析部300によって行われる処理のフロー(S4)とを含んでいる。
【0076】
図10に示すように、空間光通信システムの処理フローは、各光送受信機101の受信信号を用いて空間光通信の品質を計測し、該品質に基づいて各光送受信機101を制御する制御工程(S10)と、受信信号を用いて、空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアに構成される光送受信機101の設置地盤の状態を推定する分析工程(S4)とを含む。
【0077】
制御工程(S10)は、上述の例示的実施形態2において説明したステップS11、ステップS12、ステップS13、ステップS14を含むため、ここでは説明を省略する。
【0078】
分析工程(S4)は、以下に説明するステップS41、ステップS42、ステップS43、ステップS44を含む。
【0079】
(ステップS41)
まず、ステップS41において、分析部300が、上述のステップS11において制御部200が取得した受信信号を取得する(取得工程)。
【0080】
(ステップS42)
次のステップS42では、分析部300が、取得した受信信号から、地震波特有の振動周波数成分のみをフィルタリング処理で抽出する。
【0081】
ここで、
図11には、送信側である第1の光送受信機101-1の通信部111-1と、受信側である第2の光送受信機101-2の通信部111-2との間において、受信側である第2の光送受信機101-2が設置されている地盤に振動(すなわち地震)が発生している状態を模式的に示している。地震が発生して
図11に示すように受信側である第2の光送受信機101-2が振動すると、これに伴って、受信信号に地震波特有の周波数の振動が発生する。ステップS42では、分析部300が、受信信号から周波数の振動の有無およびその大きさを特定するために、取得した受信信号から、地震波特有の振動周波数成分のみをフィルタリング処理で抽出する。
【0082】
(ステップS43)
次のステップS43では、分析部300が、上述のステップS42において抽出した振動成分を用いて周波数分析を行う。分析部300は、周波数分析によって、地震の発生の有無や、震度を推定する。
【0083】
なお、ステップS42のフィルタリング処理は、受信信号をA/D変換機でサンプリングしたデータに高速フーリエ変換を施し、その周波数成分を分析することによって行う。例えば、地震波の特徴を示す振動周波数0.5~5Hzの振動成分のみをフィルタリング処理によって抽出し、今、この抽出した振動成分がメッシュ上を毎秒5~7kmで進んでいればP波の地震波、毎秒3~4kmで進んでいればS波の地震波が発生していると推定できる(ステップS43)。P波は初期微動として、その後に到達する大きな揺れであるS波より早く到達するので、P波の到達を検出することで、S波の到達を予測することもできる。
【0084】
なお、ステップS43における周波数分析は、各光送受信機101、制御部200で行ってもよく、各光送受信機101、制御部200から送られた周波数分析結果により、分析部300は、地震の発生の有無や、震度を推定してもよい。
【0085】
(ステップS44)
次のステップS44において、分析部300が、上述のステップS43において分析(推定)した結果を、出力する。
【0086】
以上のように、本例示的実施形態に係る分析方法では、前記光送受信機の受信信号を取得する取得工程(S41)と、前記受信信号に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析工程(S4)と、を含む構成が採用されている。この構成において、分析工程(S4)では、受信信号を用いて振動成分を検出し、地震の有無、またその規模を推定する。このため、本例示的実施形態によれば、空間光通信を行うためのシステムであるとともに、空間光通信の受信信号に基づいて、光送受信機の設置地盤の状態を推定することができる。このため、本例示的実施形態によれば、光送受信機の設置地盤の状態を推定計測するための専用の設備(例えば震度計)を必要とせず、空間光通信で用いられる信号に基づいて光送受信機の設置地盤の状態を推定することができるという効果が得られる。従って、専用の設備の設置や管理に要するコストを抑えることができる。
【0087】
〔ソフトウェアによる実現例〕
空間光通信システム400の分析部300の一部又は全部の機能、または制御部200および分析部300の一部又は全部の機能は、集積回路(ICチップ)等のハードウェアによって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0088】
後者の場合、空間光通信システム400の分析部300、または制御部200および分析部300は、例えば、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータによって実現される。このようなコンピュータの一例(以下、コンピュータCと記載する)を
図12に示す。コンピュータCは、少なくとも1つのプロセッサC1と、少なくとも1つのメモリC2と、を備えている。メモリC2には、コンピュータCを空間光通信システムの制御システムとして動作させるためのプログラムPが記録されている。コンピュータCにおいて、プロセッサC1は、プログラムPをメモリC2から読み取って実行することにより、空間光通信システム400の分析部300、または制御部200および分析部300の各機能が実現される。
【0089】
プロセッサC1としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、MPU(Micro Processing Unit)、FPU(Floating point number Processing Unit)、PPU(Physics Processing Unit)、マイクロコントローラ、又は、これらの組み合わせなどを用いることができる。メモリC2としては、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又は、これらの組み合わせなどを用いることができる。
【0090】
なお、コンピュータCは、プログラムPを実行時に展開したり、各種データを一時的に記憶したりするためのRAM(Random Access Memory)を更に備えていてもよい。また、コンピュータCは、他の装置との間でデータを送受信するための通信インタフェースを更に備えていてもよい。また、コンピュータCは、キーボードやマウス、ディスプレイやプリンタなどの入出力機器を接続するための入出力インタフェースを更に備えていてもよい。
【0091】
また、プログラムPは、コンピュータCが読み取り可能な、一時的でない有形の記録媒体Mに記録することができる。このような記録媒体Mとしては、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、又はプログラマブルな論理回路などを用いることができる。コンピュータCは、このような記録媒体Mを介してプログラムPを取得することができる。また、プログラムPは、伝送媒体を介して伝送することができる。このような伝送媒体としては、例えば、通信ネットワーク、又は放送波などを用いることができる。コンピュータCは、このような伝送媒体を介してプログラムPを取得することもできる。
【0092】
〔付記事項1〕
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述した実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0093】
〔付記事項2〕
上述した実施形態の一部又は全部は、以下のようにも記載され得る。ただし、本発明は、以下の記載する態様に限定されるものではない。
【0094】
(付記1)
メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機と、
前記光送受信機の受信信号に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析部と、
を備える、空間光通信システム。
【0095】
前記の構成によれば、空間光通信を行うためのシステムであるとともに、空間光通信を行う光送受信機の受信信号に基づいて、大気環境の状態または設置地盤の状態を推定することができる。このため、大気環境の状態または設置地盤の状態を推定計測するための専用の設備(例えば雨量計)を必要とせず、空間光通信で用いられる信号を用いてこれらの状態を推定することができるという効果が得られる。従って、専用の設備の設置や管理に要するコストを抑えることができる。
【0096】
(付記2)
前記分析部は、降雨状態を推定する、
ことを特徴とする付記1に記載の空間光通信システム。
【0097】
前記の構成によれば、雨量計による計測が不要であり、雨量計の設置や管理に要するコストを抑えることができる。
【0098】
(付記3)
前記分析部は、前記少なくとも一部分のエリアの地面の振動状態を推定する、
ことを特徴とする付記1または2に記載の空間光通信システム。
【0099】
前記の構成によれば、地震計による計測が不要であり、地震計の設置や管理に要するコストを抑えることができる。
【0100】
(付記4)
各前記光送受信機の受信信号を用いて、各前記光送受信機の空間光通信の品質を計測する制御部を、更に備え、
前記分析部は、前記空間光通信の品質に基づいて、前記大気環境の状態または前記設置地盤の状態を推定する、
ことを特徴とする付記1から3の何れかに記載の空間光通信システム。
【0101】
前記の構成によれば、空間光通信の品質を示す信号を援用するかたちで前記大気環境の状態または前記設置地盤の状態を推定することができる。
【0102】
(付記5)
前記空間光通信の品質は、前記受信信号の受信レベルおよびビットエラーレートのうちの少なくとも一方である、
ことを特徴とする付記4に記載の空間光通信システム。
【0103】
前記の構成によれば、前記受信信号の受信レベルおよびビットエラーレートのうちの少なくとも一方を援用するかたちで、前記大気環境の状態または前記設置地盤の状態を推定することができる。
【0104】
(付記6)
前記分析部は、前記降雨状態に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアの降雨分布を推定する、
ことを特徴とする付記2に記載の空間光通信システム。
【0105】
前記の構成によれば、雨量計による雨量計測および解析を行うことなく、降雨分布を推定することができる。
【0106】
(付記7)
前記分析部は、前記振動状態に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアの地震分布を推定する、
ことを特徴とする付記3に記載の空間光通信システム。
【0107】
前記の構成によれば、地震計による地震計測および解析を行うことなく、地震分布を推定することができる。
【0108】
(付記8)
メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機の受信信号を取得する取得部と、
前記受信信号に基づいて、該空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析部と、
を備える、
ことを特徴とする分析装置。
【0109】
前記の構成によれば、空間光通信を行う光送受信機の受信信号に基づいて、大気環境の状態または設置地盤の状態を推定することができる。このため、大気環境の状態または設置地盤の状態を推定計測するための専用の設備(例えば雨量計)を必要とせず、空間光通信で用いられる信号を用いてこれらの状態を推定することができるという効果が得られる。従って、専用の設備の設置や管理に要するコストを抑えることができる。
【0110】
(付記9)
メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機の受信信号を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した受信信号に基づいて、該空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析工程と、
を含む、
ことを特徴とする分析方法。
【0111】
前記の構成によれば、空間光通信を行う光送受信機の受信信号に基づいて、大気環境の状態または設置地盤の状態を推定することができる。このため、大気環境の状態または設置地盤の状態を推定計測するための専用の設備(例えば雨量計)を必要とせず、空間光通信で用いられる信号を用いてこれらの状態を推定することができるという効果が得られる。従って、専用の設備の設置や管理に要するコストを抑えることができる。
【0112】
(付記10)
コンピュータを付記8に記載の分析装置として動作させるためのプログラムであって、前記コンピュータを前記各部として機能させる、ことを特徴とするプログラム。
【0113】
(付記11)
メッシュ型空間光通信網を構成可能な複数の光送受信機を含む空間光通信システムの、少なくとも1つのプロセッサを備えた分析システムであって、
前記プロセッサは、
各前記光送受信機の受信信号を取得する取得処理と、
前記取得した受信信号に基づいて、前記空間光通信網が形成されているエリアのうちの少なくとも一部分のエリアの大気環境の状態、または該少なくとも一部分のエリアに構成される前記光送受信機の設置地盤の状態を推定する分析処理と、を実行する分析システム。
【0114】
なお、この分析システムは、更にメモリを備えていてもよく、このメモリには、前記各処理を前記プロセッサに実行させるためのプログラムが記憶されていてもよい。また、このプログラムは、コンピュータ読み取り可能な一時的でない有形の記録媒体に記録されていてもよい。
【符号の説明】
【0115】
101、101-1、101-2、101-3、101-4 光送受信機
111-1、111-2 通信部
121-1 レーザ光源
131-1 コリメータレンズ
141-2 集光レンズ
151-2 フォトダイオード
200 制御部(取得部)
300 分析部(取得部、分析装置)
301 分布推定部
400 空間光通信システム
500 通信網