(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085223
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240619BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240619BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240619BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
H01L29/78 658E
H01L29/78 653A
H01L29/78 652T
H01L21/205
H01L29/78 652H
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199631
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒内 琢士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克己
(72)【発明者】
【氏名】汲田 昌弘
【テーマコード(参考)】
5F045
【Fターム(参考)】
5F045AA03
5F045AB06
5F045AC01
5F045AC07
5F045AC15
5F045DP03
(57)【要約】
【課題】SiC層をエピタキシャル成長させる技術において、ドーパント濃度が均一な半導体装置を製造し得る技術を提供すること。
【解決手段】半導体装置(10)の製造方法は、下地層(28b)が配置されたチャンバ(90)内に、Siを含む第1原料ガスとCを含む第2原料ガスとドーピングガスとを導入することによって、前記下地層の上にSiC層(28a)をエピタキシャル成長させる工程を備え、前記SiC層をエピタキシャル成長させる前記工程では、前記第2原料ガス及び前記ドーピングガスを、前記第1原料ガスよりも先に前記チャンバ内に導入する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置(10)の製造方法であって、
下地層(28b)が配置されたチャンバ(90)内に、Siを含む第1原料ガスとCを含む第2原料ガスとドーピングガスとを導入することによって、前記下地層の上にSiC層(28a)をエピタキシャル成長させる工程を備え、
前記SiC層をエピタキシャル成長させる前記工程では、前記第2原料ガス及び前記ドーピングガスを、前記第1原料ガスよりも先に前記チャンバ内に導入する、製造方法。
【請求項2】
前記下地層が、ドーパントを含むSiCにより構成されており、
前記SiC層をエピタキシャル成長させる前記工程では、前記下地層のドーパント濃度よりも高いドーパント濃度を有する前記SiC層を形成する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記SiC層をエピタキシャル成長させる前記工程が、
第1成長レートで前記SiC層をエピタキシャル成長させる第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1成長レートよりも高い第2成長レートで、前記SiC層をエピタキシャル成長させる第2工程、
を備える、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、SiC層をエピタキシャル成長させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、SiC層をエピタキシャル成長させる技術が開示されている。この技術では、下地層が配置されたチャンバ内にドーピングガスを原料ガスよりも早いタイミングで導入し、チャンバ内のドーピングガス濃度を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、Siを含む原料ガスとCを含む原料ガスとを同じタイミングでチャンバ内に導入する。Siを含む原料ガスとCを含む原料ガスは、チャンバ内で分解される。Siを含む原料ガスはCを含む原料ガスよりも分解しやすい。このため、Siを含む原料ガスとCを含む原料ガスとを同時にチャンバ内に導入すると、エピタキシャル成長の初期において、チャンバ内のガス中に存在する分解済みのCとSiの比率(以下「C/Si比」と記載する)が低い。その後、C/Si比は上昇する。
【0005】
エピタキシャル成長によって形成されるSiC層のドーパント濃度は、チャンバ内のC/Si比に依存する。上記のようにエピタキシャル成長の初期においてC/Si比が低く、その後にC/Si比が上昇すると、形成されるSiC層中におけるドーパント濃度が成長に伴って変化する。このように、従来の製造方法では、SiC層中におけるドーパント濃度を均一化することが困難であった。
【0006】
本明細書では、SiC層をエピタキシャル成長させる技術において、ドーパント濃度が均一な半導体装置を製造し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、半導体装置(10)の製造方法を開示する。製造方法は、下地層(28b)が配置されたチャンバ(90)内に、Siを含む第1原料ガスとCを含む第2原料ガスとドーピングガスとを導入することによって、前記下地層の上にSiC層(28a)をエピタキシャル成長させる工程を備え、前記SiC層をエピタキシャル成長させる前記工程では、前記第2原料ガス及び前記ドーピングガスを、前記第1原料ガスよりも先に前記チャンバ内に導入する。
【0008】
上記の製造方法によると、Cを含む第2原料ガス及びドーピングガスを、Siを含む第1原料ガスよりも先にチャンバ内に導入して、SiC層をエピタキシャル成長させる。これにより、第1原料ガスと第2原料ガスとを同時にチャンバ内に導入する場合と比較して、エピタキシャル成長の初期において、チャンバ内のC/Si比が低下することが抑制される。この結果、エピタキシャル成長の全体に亘って、チャンバ内のC/Si比を略同一にすることができる。この結果、エピタキシャル成長によって形成されるSiC層中におけるドーパント濃度を均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の半導体装置の断面図の模式的な図である。
【
図2】実施例1の半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【
図3】エピタキシャル成長のための装置の概略図である。
【
図4】実施例1の半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【
図5】従来の製造方法における各ガスの導入タイミング及び導入量を示すグラフである。
【
図6】従来の製造方法で形成した第1ドリフト領域中の窒素濃度の分布を示すグラフである。
【
図7】本実施例の製造方法における各ガスの導入タイミング及び導入量を示すグラフである。
【
図8】本実施例の製造方法で形成した第1ドリフト領域中の窒素濃度の分布を示すグラフである。
【
図9】実施例2の半導体装置の断面斜視図の模式的な図である。
【
図10】実施例3の製造方法における各ガスの導入タイミング及び導入量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記下地層が、ドーパントを含むSiCにより構成されており、前記SiC層をエピタキシャル成長させる前記工程では、前記下地層のドーパント濃度よりも高いドーパント濃度を有する前記SiC層を形成してもよい。
【0011】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記SiC層をエピタキシャル成長させる前記工程が、第1成長レートで前記SiC層をエピタキシャル成長させる第1工程と、前記第1工程の後に、前記第1成長レートよりも高い第2成長レートで、前記SiC層をエピタキシャル成長させる第2工程、を備えてもよい。
【0012】
(実施例1)
図1に示される本実施例の半導体装置10は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。即ち、半導体装置10はスイッチング素子である。半導体装置10は、半導体基板12を有している。半導体基板12は、炭化シリコン(SiC)によって構成されている。半導体基板12の上面12aには、ソース電極80が配置されている。半導体基板12の下面12bには、ドレイン電極84が配置されている。
【0013】
半導体基板12の上面12aには、複数のトレンチ34が形成されている。
図1に示されるように、複数のトレンチ34は、紙面左右方向に間隔をあけて配置されている。各トレンチ34内には、ゲート絶縁膜38とゲート電極40とが形成されている。ゲート絶縁膜38は、例えば酸化シリコンにより構成されており、トレンチ34の内面を覆っている。ゲート電極40は、ゲート絶縁膜38によって半導体基板12から絶縁されている。ゲート電極40の上面は、層間絶縁層36によって覆われている。ゲート電極40は、層間絶縁層36によってソース電極80から絶縁されている。
【0014】
半導体基板12は、ソース領域22、コンタクト領域24、ボディ領域26、ドリフト領域28、及びドレイン領域30を有している。各領域22,24,26,28,30は、SiCによって構成されている。
【0015】
ソース領域22は、半導体基板12中に複数個形成されている。各ソース領域22は、n型領域である。各ソース領域22は、半導体基板12の上面12aに露出している。各ソース領域22は、ソース電極80に対してオーミック接触している。各ソース領域22は、トレンチ34の上端部でゲート絶縁膜38に接している。
【0016】
コンタクト領域24は、半導体基板12中に複数個形成されている。各コンタクト領域24は、p型領域である。各コンタクト領域24は、ソース領域22に隣接する位置で半導体基板12の上面12aに露出している。各コンタクト領域24は、ソース電極80にオーミック接触している。
【0017】
ボディ領域26は、p型領域である。ボディ領域26は、各コンタクト領域24よりも低いp型ドーパント濃度を有している。ボディ領域26は、ソース領域22及びコンタクト領域24に対して下側から接している。ボディ領域26は、ソース領域22の下側でゲート絶縁膜38に接している。
【0018】
ドリフト領域28は、n型領域である。ドリフト領域28は、ボディ領域26に対して下側から接している。ドリフト領域28は、ボディ領域26によってソース領域22から分離されている。ドリフト領域28は、ボディ領域26の下側でゲート絶縁膜38に接している。ドリフト領域28は、第1ドリフト領域28aと第2ドリフト領域28bとを有している。第1ドリフト領域28aのn型ドーパント濃度は、第2ドリフト領域28bのn型ドーパント濃度よりも高い。
【0019】
第1ドリフト領域28aは、ボディ領域26に対して下側から接している。第2ドリフト領域28bは、第1ドリフト領域28aに対して下側から接している。
【0020】
ドレイン領域30は、n型領域である。ドレイン領域30のn型ドーパント濃度は、第1ドリフト領域28aのn型ドーパント濃度よりも高い。ドレイン領域30は、第2ドリフト領域28bに対して下側から接している。ドレイン領域30は、半導体基板12の下面12bに露出している。ドレイン領域30は、ドレイン電極84に対してオーミック接触している。
【0021】
次に、半導体装置10の動作について説明する。ドレイン電極84には、ソース電極80よりも高い電位が印加される。ゲート電極40にゲート閾値以上の電位を印加すると、ゲート絶縁膜38近傍のボディ領域26にチャネルが形成される。すると、ソース電極80から、ソース領域22、ボディ領域26内のチャネル、ドリフト領域28及びドレイン領域30を経由して、ドレイン電極84に向かって電子が流れる。即ち、半導体装置10がターンオンする。また、ゲート電極40の電位をゲート閾値よりも低い電位まで低下させると、チャネルが消失し、電子の流れが停止して、半導体装置10がターンオフする。
【0022】
続いて、
図2~
図4を参照して、半導体装置10の製造方法を説明する。なお、
図2及び
図4は、
図1に対応する断面を示している。半導体装置10は、ドレイン領域30によって構成された半導体基板12(即ち加工前の半導体基板12)から製造される。まず、ドレイン領域30の上に、第2ドリフト領域28bをエピタキシャル成長させる。
【0023】
具体的には、
図3に示されるように、ドレイン領域30によって構成された半導体基板12をチャンバ90内に配置する。半導体基板12は、チャンバ90内で加熱される。そして、チャンバ90内に、シランガス(SiH
4)とプロパンガス(C
3H
8)とドーピングガス(N
2)とを導入する。
図3に示されるように、シランガスは、キャリアガス供給源からチャンバ90へのガス供給路に供給されることによって、チャンバ90内へと導入される。同様に、プロパンガス及びドーピングガスも、キャリアガス供給源からチャンバ90へのガス供給路に供給されることによって、チャンバ90内へと導入される。
図3に示されるように、シランガス、プロパンガス、及びドーピングガスのそれぞれが供給されるガス供給路は、互いに異なる。
【0024】
シランガスとプロパンガスとドーピングガスとがチャンバ90内へ導入されると、
図2に示されるように、ドレイン領域30の上に第2ドリフト領域28bがエピタキシャル成長によって形成される。
【0025】
第2ドリフト領域28bが形成された後に、第2ドリフト領域28bの上に、第1ドリフト領域28aがエピタキシャル成長によって形成される。第2ドリフト領域28bの上に第1ドリフト領域28aをエピタキシャル成長させる工程における各ガスの導入タイミング及び導入量については後述する。
【0026】
その後、半導体基板12内に、ボディ領域26、ソース領域22、及びコンタクト領域24を形成する。ボディ領域26、ソース領域22、及びコンタクト領域24は、例えば、エピタキシャル成長、イオン注入によって形成することができる。
【0027】
次に、
図4に示されるように、半導体基板12の上面12aを選択的にエッチングすることによって、複数のトレンチ34を形成する。ここでは、トレンチ34が、ソース領域22及びボディ領域26を貫通して、ドリフト領域28(特に第1ドリフト領域28a)に達するように、各トレンチ34を形成する。
【0028】
次に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング等の技術を用いて、層間絶縁層36、ゲート絶縁膜38、ゲート電極40、ソース電極80、及びドレイン電極84が形成されて、
図1に示される半導体装置10が完成する。
【0029】
次に、
図5~
図8を参照して、第2ドリフト領域28bの上に第1ドリフト領域28aをエピタキシャル成長させる工程における各ガスの導入タイミング及び導入量について説明する。
図5のグラフは、従来の製造方法における各ガスの導入タイミング及び導入量を示している。
図6のグラフは、従来の製造方法で形成した第1ドリフト領域28a中の窒素濃度(すなわち、n型ドーパント濃度)の分布を示している。
図6のグラフは、第1ドリフト領域28aの厚さ方向における窒素濃度の分布を示している。
図6において、位置Aは成長開始時の位置であり、位置Bは成長終了時の位置である。
【0030】
図5に示されるように、従来技術では、まず、時刻t1において、シランガス及びプロパンガスに先立って、ドーピングガスのみをチャンバ90内に導入する。その後、時刻t2において、シランガスとプロパンガスとを同じタイミングでチャンバ90内に導入する。ここで、シランガスとプロパンガスとは、チャンバ90内へのガスの供給比が一定となるように、チャンバ90内へ導入される。
【0031】
チャンバ内に導入されたシランガスとプロパンガスは、チャンバ内で分解される。シランガスが分解されることにより、反応性のシリコン材料が生成される。プロパンガスが分解されることにより、反応性の炭素材料が生成される。半導体基板12の上面12aにおいて反応性のシリコン材料と反応性の炭素材料が反応することで、半導体基板12上に第2ドリフト領域28bが成長する。以下では、チャンバ内に存在する反応性の炭素材料と反応性のシリコン材料の比を、C/Si比という。すなわち、C/Si比は、反応性の炭素材料のモル数を反応性のシリコン材料のモル数で除算した値である。シランガスの結合エネルギーは、プロパンガスの結合エネルギーよりも低い。即ち、シランガスは、プロパンガスと比較して分解しやすい。このため、シランガスとプロパンガスとを時刻t2で同時にチャンバ90内に導入すると、エピタキシャル成長の初期において、C/Si比が低い。その後、時間が経過するとC/Si比は上昇し、一定の値に収束する。
【0032】
また、エピタキシャル成長によって形成されるSiC層(例えば第1ドリフト領域28a)のドーパント濃度は、チャンバ内のC/Si比に依存する。具体的には、n型ドーパントの窒素(N)は、Cと配位する形でSiC中に取り込まれる。このため、チャンバ内のC/Si比が低いほど(即ちガス中のCの量が少ないほど)、n型ドーパントはSiC中に取り込まれ易くなる。即ち、C/Si比が低いほど、エピタキシャル成長で形成されるSiC中におけるn型ドーパント濃度が高くなる。
【0033】
従って、
図6のグラフに示されるように、第1ドリフト領域28aのうちでエピタキシャル成長の初期(即ちC/Si比が低い期間)に形成される部分では、n型ドーパント濃度が高くなる。第1ドリフト領域28aのうちでエピタキシャル成長の後期(即ちC/Si比が高い値で安定している期間)に形成される部分では、n型ドーパント濃度が低い値で安定する。
【0034】
このように、従来技術では、エピタキシャル成長の初期において、第1ドリフト領域28a中にn型ドーパント濃度が高い部分が形成される。即ち、第1ドリフト領域28aの、第2ドリフト領域28bの上面の近傍において、n型ドーパント濃度が高い部分が形成される。このように第1ドリフト領域28a中におけるn型ドーパント濃度が高い部分が存在すると、半導体装置10の耐圧低下、半導体装置10におけるリーク電流の増加などが生じ得る。
【0035】
一方、
図7のグラフに示されるように、本実施例では、まず、時刻t1において、シランガスに先立って、プロパンガス及びドーピングガスをチャンバ90内に導入する。その後、時刻t2において、シランガスをチャンバ90内に導入する。なお、本実施例では、時刻t2と時刻t1との差分は10秒であるが、変形例では、時刻t2と時刻t1との差分は、10秒未満であってもよいし10秒より長くてもよい。
【0036】
上記の通り、シランガスはプロパンガスよりも分解しやすい。本実施例では、分解しやすいシランガスのチャンバ90内への導入に先立って、プロパンガスをチャンバ90内に導入する。このため、シランガスがチャンバ90内に導入される時刻t2の時点では、チャンバ90内のガス中には、反応性の炭素材料が多く存在している。従って、エピタキシャル成長の初期におけるチャンバ90内のC/Si比が高い。このため、エピタキシャル成長の全体に亘って、チャンバ90内のC/Si比を略一定にすることができる。この結果、
図8のグラフに示されるように、第1ドリフト領域28a中におけるn型ドーパント濃度を均一化することができる。この結果、耐圧が高く、リーク電流が生じ難い半導体装置10を製造できる。
【0037】
また、チャンバ90内のC/Si比が高い状況で、高い成長レートでSiC層の成長を開始すると、SiC層の表面において劣化が生じ易くなる。
【0038】
この点に関して、
図7に示すように、本実施例の第1ドリフト領域28aの形成工程では、シランガスの導入開始時に、シランガスの流量を徐々に増やす。この結果、エピタキシャル成長の初期における成長レートを低く保つことができる。このために、形成されるSiC層の表面の劣化を抑制できる。時刻t3以降は、シランガスの流量が高い値で一定に維持されるので、高い成長速度で安定してSiC層を成長させることができる。時刻t2から時刻t3の間の期間における低い成長レートは、第1成長レートの一例である。また、時刻t3以降の期間における高い成長レートは、第2成長レートの一例である。なお、エピタキシャル成長の初期における成長レートを低く保つ手法は上記の形態に限定されず、例えば、温度を低くすることによって成長レートを低く保ってもよい。
【0039】
なお、上記の実施例1において、第2ドリフト領域28b、第1ドリフト領域28aが、それぞれ、「下地層」、「SiC層」の一例に相当する。
【0040】
(実施例2)
続いて、
図9を参照して、実施例2を説明する。実施例2の半導体装置100では、第1ドリフト領域28aと第2ドリフト領域28bが、スーパージャンクション構造を備える。実施例2の半導体装置100の他の構成は実施例1の半導体装置10と同様である。第1ドリフト領域28a内では、複数のn型カラム150と複数のp型カラム152が横方向に交互に繰り返し設けられている。第2ドリフト領域28b内では、複数のn型カラム160と複数のp型カラム162が横方向に交互に繰り返し設けられている。p型カラム152が伸びる方向とp型カラム162が伸びる方向は交差している。p型カラム162はp型カラム152を介してボディ領域126に接続されている。
【0041】
実施例2の半導体装置100の製造方法では、まず、実施例1と同様にして、n型の第2ドリフト領域28bをエピタキシャル成長により形成する。次に、第2ドリフト領域28bにp型ドーパントを選択的に注入することにより、p型カラム162を形成する。第2ドリフト領域28bのうちp型カラム162が形成されなかった領域が、n型カラム160となる。次に、実施例1と同様にして、第2ドリフト領域28b上に第1ドリフト領域28aを成長させる。従って、n型ドーパント濃度が均一な第1ドリフト領域28aが形成される。次に、第1ドリフト領域28aにp型ドーパントを選択的に注入することにより、p型カラム152を形成する。第1ドリフト領域28aのうちp型カラム152が形成されなかった領域が、n型カラム150となる。
【0042】
第1ドリフト領域28aは、p型カラム152内のp型ドーパント量とn型カラム150内のn型ドーパント量とがバランスするように形成されている。仮に、第1ドリフト領域28aのエピタキシャル成長時に
図6のようにn型ドーパントの濃度が高い部分が形成されてしまうと、n型カラム150とp型カラム152との間でドーパントのバランスさせることが困難となる。この場合、半導体装置100の耐圧が低くなる。一方、実施例2の製造方法では、第1ドリフト領域28aのn型ドーパントの濃度を均一化することができる。従って、n型カラム150とp型カラム152との間でドーパントのバランスさせることが可能であり、高い耐圧を有する半導体装置を製造できる。
【0043】
(実施例3)
次に、
図10を参照して、実施例3を説明する。実施例3では、
図10に示すように、時刻t1において、シランガスに先立って、プロパンガス及びドーピングガスをチャンバ90内に導入する。その後、時刻t2において、シランガスをチャンバ90内に導入する。時刻t2から時刻t3の間では、プロパンガスとシランガスとの流量を徐々に増やす。時刻t3以降は、プロパンガス及びシランガスの流量を高い値で一定に維持する。
【0044】
この構成では、時刻t2から時刻t3の間では、シランガスの流量だけでなくプロパンガスの流量も徐々に増やすので、プロパンガスとシランガスとのチャンバ90内への供給比の変動を抑制できる。これにより、C/Si比が過度に高くなることが抑制される。この結果、SiC層の表面に劣化が生じることが抑制される。
【0045】
上記の実施例の変形例を述べる。上記の実施例では、n型ドーパントをドーピングする例について説明したが、本明細書で説明した技術は、p型ドーパントをSiC中にドーピングする場合にも有用である。
【0046】
例えば、ドーピングガスとしてトリメチルアルミニウム(以下「TMA」と記載する)を使用する例を想定する。この例では、アルミニウム(Al)がp型ドーパントである。p型ドーパントのAlは、Siと配位する形でSiC中に取り込まれる。このため、チャンバ内のC/Si比が低いほど(即ちSiの量が多いほど)、p型ドーパントはSiC中に取り込まれにくくなる。即ち、C/Si比が低いほど、エピタキシャル成長で形成されるSiCのp型ドーパント濃度が低くなる。
【0047】
このため、シランガスとプロパンガスとを同時にチャンバ90内に導入すると、エピタキシャル成長の初期において、p型ドーパント濃度が低い箇所が形成される。その後、C/Si比が一定の値に収束すると、第1ドリフト領域のp型ドーパントの濃度は略同一となる。
【0048】
一方、分解しやすいシランガスの導入に先立って、プロパンガスをチャンバ90内に導入すると、シランガスがチャンバ90内に導入される時点では、チャンバ90内のガス中には、一定量のCが既に存在していることになる。即ち、シランガスとプロパンガスとを同時にチャンバ90内に導入する場合と比較して、エピタキシャル成長の初期におけるチャンバ90内のC/Si比が高い。このため、エピタキシャル成長の全体に亘って、チャンバ90内のC/Si比を略同一にすることができる。この結果、第1ドリフト領域28a中におけるp型ドーパント濃度を均一化することができる。
【0049】
また、上記の実施例では、ドーピングガスとプロパンガスとを同時刻t1においてチャンバ90内に導入した(
図5(B)の左側のグラフ参照)。変形例では、シランガスをチャンバ90内に導入する時刻t2より先であれば、ドーピングガスとプロパンガスとをチャンバ90内に導入する時刻は、互いに異なっていてもよい。
【0050】
以下に、本明細書に開示の製造方法の構成を列記する。
(構成1)
半導体装置(10)の製造方法であって、
下地層(28b)が配置されたチャンバ(90)内に、Siを含む第1原料ガスとCを含む第2原料ガスとドーピングガスとを導入することによって、前記下地層の上にSiC層(28a)をエピタキシャル成長させる工程を備え、
前記SiC層をエピタキシャル成長させる前記工程では、前記第2原料ガス及び前記ドーピングガスを、前記第1原料ガスよりも先に前記チャンバ内に導入する、製造方法。
(構成2)
前記下地層が、ドーパントを含むSiCにより構成されており、
前記SiC層をエピタキシャル成長させる前記工程では、前記下地層のドーパント濃度よりも高いドーパント濃度を有する前記SiC層を形成する、構成1に記載の製造方法。
(構成3)
前記SiC層をエピタキシャル成長させる前記工程が、
第1成長レートで前記SiC層をエピタキシャル成長させる第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1成長レートよりも高い第2成長レートで、前記SiC層をエピタキシャル成長させる第2工程、
を備える、構成1または2に記載の製造方法。
【0051】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0052】
10,100:半導体装置、12:半導体基板、22:ソース領域、24:コンタクト領域、26:ボディ領域、28:ドリフト領域、28a:第1ドリフト領域、28b:第2ドリフト領域、30:ドレイン領域、34:トレンチ、36:層間絶縁層、38:ゲート絶縁膜、40:ゲート電極、80:ソース電極、84:ドレイン電極、150,160:n型カラム、152,162:p型カラム