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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085235
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199654
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】白水 健次
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027GB03
3J027GC02
3J027GE05
3J027GE14
3J027GE25
3J027GE29
(57)【要約】
【課題】ロストモーションを低くしつつ、機械損失の増大を抑制できる偏心揺動型減速装置を提供すること。
【解決手段】偏心体12と、偏心体12により揺動される外歯歯車16と、外歯歯車16と噛み合う内歯歯車18と、偏心体12と外歯歯車16との間に配置される偏心軸受20と、外歯歯車16の自転成分と同期するピン体22と、を備える偏心揺動型減速装置であって、偏心軸受20の径方向での内部隙間を偏心軸受隙間X1といい、ピン体22の軸心C22が最大偏心方向にあるときのピン体22の軸心C22から反最大偏心方向におけるピン体22とピン孔32との間の隙間をピン孔隙間X2というとき、ピン孔隙間X2が負であり、かつ、以下の式(1)を満足するように構成される偏心揺動型減速装置。
偏心軸受隙間X1+ピン孔隙間X2>0 ・・・ (1)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心体と、
前記偏心体により揺動される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、
前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置される偏心軸受と、
前記外歯歯車の自転成分と同期するピン体と、を備える偏心揺動型減速装置であって、
前記外歯歯車は、前記外歯歯車の中心から径方向にオフセットして設けられ前記ピン体が挿通されるピン孔を備え、
前記偏心軸受の径方向での内部隙間を偏心軸受隙間X1といい、
前記ピン体の軸心が最大偏心方向にあるときの前記ピン体の軸心から反最大偏心方向における前記ピン体と前記ピン孔との間の隙間をピン孔隙間X2というとき、
前記ピン孔隙間X2が負であり、かつ、以下の式(1)を満足するように構成される偏心揺動型減速装置。
偏心軸受隙間X1+ピン孔隙間X2>0 ・・・ (1)
【請求項2】
最大偏心方向における前記外歯歯車と前記内歯歯車との間の隙間を歯間隙間X3というとき、
前記歯間隙間X3が負であり、かつ、以下の式(2)を満足するように構成される請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
偏心軸受隙間X1+歯間隙間X3>0 ・・・ (2)
【請求項3】
最大偏心方向における前記外歯歯車と前記内歯歯車との間の隙間を歯間隙間X3というとき、
前記歯間隙間X3は、前記ピン孔隙間X2よりも正に大きくなる請求項1または2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
偏心体と、
前記偏心体により揺動される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、
前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置される偏心軸受と、
前記外歯歯車の自転成分と同期するピン体と、を備える偏心揺動型減速装置であって、
前記外歯歯車は、前記外歯歯車の中心から径方向にオフセットして設けられ前記ピン体が挿通されるピン孔を備え、
前記偏心軸受の最大偏心方向における内部隙間を偏心軸受隙間X1といい、
最大偏心方向における前記外歯歯車と前記内歯歯車との間の隙間を歯間隙間X3というとき、
前記歯間隙間X3が負であり、かつ、以下の式(2)を満足するように構成される偏心揺動型減速装置。
偏心軸受隙間X1+歯間隙間X3>0 ・・・ (2)
【請求項5】
前記ピン体の軸心が最大偏心方向にあるときの前記ピン体の軸心から反最大偏心方向における前記ピン体と前記ピン孔との間の隙間をピン孔隙間X2というとき、
前記歯間隙間X3は、前記ピン孔隙間X2よりも正に大きくなる請求項4に記載の偏心揺動型減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、偏心揺動型減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、偏心体と、偏心体により揺動される外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、外歯歯車と偏心体との間に配置される偏心軸受と、外歯歯車の自転成分と同期するピン体と、を備える偏心揺動型歯車装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-82891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高い位置決め精度を要求される用途で減速装置を用いる場合、減速装置の低ロストモーション化が要求される。本願発明者は、偏心揺動型減速装置においてロストモーションを低くすると、機械損失が増大してしまう場合があり、低ロストモーションと低機械損失を両立させ難い問題があるとの認識を得た。
【0005】
本開示の目的の1つは、ロストモーションを低くしつつ、機械損失の増大を抑制できる偏心揺動型減速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様に係る偏心揺動型減速装置は、偏心体と、前記偏心体により揺動される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置される偏心軸受と、前記外歯歯車の自転成分と同期するピン体と、を備える偏心揺動型減速装置であって、前記外歯歯車は、前記軸心から径方向にオフセットして設けられ前記ピン体が挿通されるピン孔を備え、前記偏心軸受の径方向での内部隙間を偏心軸受隙間X1といい、前記ピン体の軸心が最大偏心方向にあるときの前記ピン体の軸心から反最大偏心方向における前記ピン体と前記ピン孔との間の隙間をピン孔隙間X2というとき、前記ピン孔隙間X2が負であり、かつ、以下の式(1)を満足するように構成される偏心揺動型減速装置。
偏心軸受隙間X1+ピン孔隙間X2>0 ・・・ (1)
【0007】
本開示の他の態様に係る偏心揺動型減速装置は、偏心体と、前記偏心体により揺動される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置される偏心軸受と、前記外歯歯車の自転成分と同期するピン体と、を備える偏心揺動型減速装置であって、前記外歯歯車は、前記軸心から径方向にオフセットして設けられ前記ピン体が挿通されるピン孔と、を備え、前記偏心軸受の最大偏心方向における内部隙間を偏心軸受隙間X1といい、最大偏心方向における前記外歯歯車と前記内歯歯車との間の隙間を歯間隙間X3というとき、前記歯間隙間X3が負であり、かつ、以下の式(2)を満足するように構成される偏心揺動型減速装置。
偏心軸受隙間X1+歯間隙間X3>0 ・・・ (2)
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ロストモーションを低くしつつ、機械損失の増大を抑制できる偏心揺動型減速装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の偏心揺動型減速装置の側面断面図である。
図2】実施形態の偏心揺動型減速装置を軸方向から見た部分的な断面図である。
図3】歯間隙間の説明図である。
図4】式(1)に関する説明図である。
図5】式(2)に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の減速装置を実施するための実施形態を説明する。同一又は同等の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0011】
まず、本実施形態の減速装置を想到するに至った背景から説明する。減速装置の低ロストモーション化を実現するうえで、ロストモーションに影響している減速装置の可動部品と他の構成部品との間の隙間(以下、部品隙間という)に着目し、その部品隙間を小さくする場合がある。本願発明者は、このように部品隙間のみに着目し、その部品隙間を単純に小さくした場合、偏心揺動型減速装置において機械損失が大きくなる場合があるとの認識を得た。本願発明者は、この原因について検討をすすめた。この結果、偏心揺動型減速装置において低ロストモーション化のために外歯歯車(可動部品)と他の構成部品との間の部品隙間を負にした場合、外歯歯車と偏心軸受との間で干渉が発生することがあり、それに起因する機械損失の増大が問題になるという新たな知見を得た。
【0012】
また、本願発明者は、このように新たに得た知見をベースとして更に検討を進めた。この結果、減速装置の部品隙間のみに着目するという考え方を見直し、複数の部品隙間同士の関係(後述する式(1)、(2)の左辺)に着目することが有効であるとの新たな着想を得た。また、このような部品隙間同士の関係について所定の条件(後述する式(1)、(2))を満たすように構成することで、ロストモーションを低くしつつも機械損失の増大を抑制でき、前述の問題を解決できるという認識を得た。以下、このような考えのもとでなされた減速装置を説明する。
【0013】
図1図2を参照する。偏心揺動型減速装置10(以下、単に減速装置10ともいう)は、被駆動機械の一部として被駆動機械に組み込まれる。被駆動機械は、例えば、産業機械(工作機械、建設機械等)、ロボット(産業用ロボット、サービスロボット等)、輸送機器(コンベア、車両等)等の各種機械である。
【0014】
偏心揺動型減速装置10は、少なくとも一つの偏心体12を有するクランク軸14と、偏心体12により揺動される外歯歯車16と、外歯歯車16と噛み合う内歯歯車18と、偏心体12と外歯歯車16との間に配置される偏心軸受20と、外歯歯車16の自転成分と同期するピン体22と、を備える。減速装置10は、この他に、外歯歯車16の径方向外側に配置されるケーシング24と、外歯歯車16に対して軸方向側方に配置されるキャリヤ26と、を備える。本明細書では、内歯歯車18の中心C18に沿った方向を軸方向といい、その中心C18を円中心とする円周方向及び半径方向を単に周方向、径方向という。
【0015】
減速装置10は、外部の駆動源から入力回転が入力される入力部材と、外部の被駆動部材に出力回転を出力する出力部材と、を備える。ここでは入力部材がクランク軸14、出力部材がキャリヤ26である例を説明する。駆動源は、例えば、モータであるが、この他にもギヤモータ、エンジン等でもよい。
【0016】
クランク軸14は、偏心体12の他に、偏心体12が一体化された軸体28を備える。軸体28には駆動源から入力される入力回転が伝達される。本実施形態の偏心体12と軸体28は同じ部材により構成されるが、これらは別体に構成されていてもよい。偏心体12の軸心C12は、クランク軸14の回転中心C14に対して偏心量eの分だけ偏心している。偏心体12の軸直角断面は、その軸心C12を中心とする円形状を呈する。複数の偏心体12の偏心位相は、偏心体12の個数をM個(本実施形態では2個)とするとき、360°/Mの分だけずれている。偏心体12の個数は特に限定されず、単数及び三つ以上のいずれでもよい。
【0017】
外歯歯車16は、複数の偏心体12のそれぞれに対応して個別に設けられ、個別の偏心軸受20を介して偏心体12に相対回転自在に支持される。外歯歯車16は、外歯歯車16の中心C16上に設けられる偏心軸受孔30と、中心C16から径方向にオフセットして設けられる複数のピン孔32とを備える。偏心軸受孔30には偏心軸受20が配置される。複数のピン孔32は、偏心軸受孔30周りに周方向に間隔を空けて設けられる。複数のピン孔32のそれぞれには個別のピン体22が挿通される。
【0018】
内歯歯車18は、ケーシング24と一体化される内歯歯車本体18aと、内歯歯車本体18aの内周部に設けられる内歯部18bとを備える。本実施形態の内歯部18bは内歯歯車本体18aと一体化されているが、内歯歯車本体18aに回転自在に支持される外ピンによって構成されてもよい。
【0019】
偏心軸受20は、複数の転動体34と、転動体34が転動する外側転動面36と、転動体34が転動する内側転動面38と、複数の転動体34の相対位置を保持するリテーナ(不図示)とを備える。本実施形態の転動体34はころであるが、球体等の各種転動体でもよい。本実施形態の偏心軸受20の外輪は外歯歯車16が兼ねており、その偏心軸受孔30に外側転動面36が設けられる。この他にも、偏心軸受20は専用の外輪を備え、その外輪に外側転動面36が設けられてもよい。本実施形態の偏心軸受20の内輪は偏心体12が兼ねており、その外周面に内側転動面38が設けられる。この他にも、偏心軸受20は専用の内輪を備え、その内輪に内側転動面38が設けられてもよい。なお、偏心軸受20は、リテーナを配置することなく、所謂総ころ形式の軸受を採用してもよい。
【0020】
複数のピン体22は、内歯歯車18の中心C18から径方向にオフセットした位置において、内歯歯車18の周方向に間隔を空けて設けられる。ピン体22は、外歯歯車16のピン孔32を軸方向に貫通している。ピン体22は、キャリヤ26に一体化されるピン40と、ピン40の外周側に配置されるローラ42とを備える。ピン40は、キャリヤ26から軸方向に突き出ている。本実施形態のピン40は、キャリヤ26(後述する第1キャリヤ部材26a)と同じ部材の一部として構成されるが、それとは別体に構成されてもよい。ローラ42は、ピン40に回転自在に支持される筒状部材であり、ピン40と外歯歯車16のピン孔32の双方に転がり接触可能である。
【0021】
ピン体22は、減速装置10が運転するときに、外歯歯車16のピン孔32との間で荷重を伝達しており、外歯歯車16の自転成分と同期可能である。ここでの「自転成分と同期」するとは、ゼロを含めた数字範囲内で、外歯歯車16の自転成分とピン体22の公転成分とを同じ大きさに維持することをいう。例えば、外歯歯車16が自転する場合、ピン体22は、その自転成分と同じ大きさの公転成分をもって公転することで、外歯歯車16の自転成分と同期する。この場合、外歯歯車16の自転成分がピン体22を介してキャリヤ26に伝達され、キャリヤ26が出力部材となって出力回転を出力する。これに対して、内歯歯車18が自転する場合、キャリヤ26及びピン体22により外歯歯車16の自転が拘束されることで、その自転成分はゼロに維持される。この場合、ピン体22は、自身の公転成分をゼロに維持することで、外歯歯車16の自転成分と同期する。この場合、内歯歯車18の自転成分がケーシング24に伝達され、ケーシング24が出力部材となって出力回転を出力する。なお、ピン体22はローラ42を備えていなくともよい。
【0022】
本実施形態のキャリヤ26は、軸方向一側にのみ配置される。この他にも、軸方向他側にも他のキャリヤ26が配置されてもよい。キャリヤ26は、軸受44を介してクランク軸14を回転可能に支持している。キャリヤ26は、複数(ここでは二つ)のキャリヤ部材26a、26bを組み合わせて構成される。本実施形態のキャリヤ部材26a、26bは、軸受44を支持する第1キャリヤ部材26aと、第1キャリヤ部材26aに連結される第2キャリヤ部材26bとを含んでいる。
【0023】
ケーシング24は、複数(ここでは三つ)のケーシング部材24a~24cを組み合わせて構成される。ケーシング24とキャリヤ26との間には主軸受46が配置される。ケーシング部材24a~24cは、主軸受46を支持する第1ケーシング部材24aと、内歯歯車18が設けられる第2ケーシング部材24bと、軸受44を介してクランク軸14を回転可能に支持する第3ケーシング部材24cとを含んでいる。
【0024】
以上の減速装置10の動作を説明する。駆動源から入力される入力回転によりクランク軸14が回転する。クランク軸14が回転すると、その偏心体12によって、外歯歯車16の中心C16が内歯歯車18の中心C18周りを回転するように外歯歯車16が揺動する。外歯歯車16が揺動すると、外歯歯車16と内歯歯車18の噛合位置が周方向に変化する。これに伴い、クランク軸14が一回転する毎に、外歯歯車16と内歯歯車18の歯数差分だけ外歯歯車16及び内歯歯車18の一方が自転し、その自転成分が出力回転として出力部材に伝達される。ここでは外歯歯車16が自転し、その自転成分がピン体22を介して出力部材となるキャリヤ26に伝達される。入力回転に対する出力回転の比である減速比は外歯歯車16と内歯歯車18の歯数差に応じた大きさとなる。
【0025】
図2を参照する。偏心体12の回転中心C14から延び偏心体12の軸心C12を通る半直線上において、回転中心C14から軸心C12に向かう方向を最大偏心方向Daといい、最大偏心方向Daとは正反対に向かう方向を反最大偏心方向Dbという。偏心体12の軸心C12は、偏心体12を通る軸方向に直交する断面において、偏心体12の外周面のなす形状の幾何中心(重心)となる。
【0026】
以下、前述した部品隙間の具体例として、偏心軸受隙間X1、ピン孔隙間X2、歯間隙間X3を説明する。以下、特に言及がない限り、各種構成要素の軸方向から見た位置関係を説明する。また、各構成要素の「外径」、「内径」は、特に言及がない限り、いずれも直径を意味する。
【0027】
偏心軸受隙間X1は、偏心軸受20の径方向での内部隙間をいう。偏心軸受隙間X1は、偏心体12の回転中心C14から最大偏心方向Daに延びる半直線上での偏心軸受20の内部隙間でもある。
【0028】
ピン孔隙間X2は、ピン体22の軸心C22が最大偏心方向Daにあるときの、そのピン体22の軸心C22から反最大偏心方向Dbにおけるピン体22とピン孔32との間の隙間(図2の範囲Saの隙間)をいう。ここでの「ピン体22の軸心C22が最大偏心方向Daにある」とは、偏心体12の回転中心C14から最大偏心方向Daに延びる半直線上にピン体22の軸心C22があることを意味する。「ピン体22の軸心C22から反最大偏心方向Dbにおけるピン体22とピン孔32との間の隙間」とは、ピン体22の軸心C22から反最大偏心方向Dbに延びる半直線上で生じ得るピン体22とピン孔32との間の隙間をいう。ピン体22がピン40とローラ42を備える場合、この半直線上で生じ得るピン40とローラ42の間の隙間も、ここでいう「ピン体22とピン孔32との間の隙間」に含まれる。
【0029】
歯間隙間X3は、最大偏心方向Daにおける外歯歯車16と内歯歯車18との間の隙間(図2の範囲Sbの隙間)をいう。ここでの「最大偏心方向Daにおける・・・隙間」とは、偏心体12の回転中心C14から延びる半直線上で生じ得る外歯歯車16と内歯歯車18との間の隙間をいう。
【0030】
偏心軸受20の外側転動面36の内径R36、偏心軸受20の転動体34の外径R34、偏心軸受20の内側転動面38の外径R38を想定する。このとき、偏心軸受隙間X1は、次の式(A)により特定される。
偏心軸受隙間X1=(外側転動面36の内径R36-2×転動体34の外径R34-内側転動面38の外径R38)/2・・・式(A)
【0031】
ピン孔32の内径R32、ローラ42の外径R42a、ローラ42の内径R42b、ピン40の外径R40、偏心体12の偏心量eを想定する。偏心量eは、偏心体12の回転中心C14から偏心体12の軸心C12までの距離をいう。このとき、ピン孔隙間X2は、次の式(B)により特定される。ローラ42がない場合、ローラ42に関する数値をゼロにして取り扱う。
ピン孔隙間X2=(ピン孔32の内径R32-ローラ42の外径R42a-2×偏心量e)/2+(ローラ42の内径R42b-ピン40の外径R40)/2 ・・・ 式(B)
【0032】
図3を参照する。歯間隙間X3は、以下の測定手順に従って特定される値を用いる。以下の測定作業は室温(20℃)の環境下で行う。まず、ピン体22及び偏心体12(クランク軸14)が存在しない状態のもと、内歯歯車18の径方向内側に外歯歯車16を配置する。この後、内歯歯車18に対して外歯歯車16を径方向外側に向かう方向Dcに軽く押し当てる。このとき、内歯歯車18の内歯部の歯面に対して外歯歯車16の外歯部の歯面を接触させた状態のもと、外歯歯車16及び内歯歯車18が変形しない程度の軽い力を付与することで、内歯歯車18に対して外歯歯車16を押し当てる。このとき、内歯歯車18に対する外歯歯車16の径方向での位置ずれがなくなるまで、外歯歯車16をわずかに周方向にずらしつつ方向Dcに移動させる。このとき、外歯歯車16及び内歯歯車18の径方向に重なる軸方向範囲内において、外歯歯車16の径方向外側に向かう方向Dcでの位置ずれを許容する隙間が両者の間になくなるように両者を接触させる。このように内歯歯車18に対して外歯歯車16を押し当てた状態のもと、3次元測定器により外歯歯車16の中心C16から内歯歯車18の中心C18までの距離である中心間距離Laを測定する。このとき、歯間隙間X3は、次の式(C)により特定される。
歯間隙間X3=中心間距離La-偏心量e ・・・ 式(C)
【0033】
減速装置10は、ピン孔隙間X2が負であり、かつ、以下の式(1)を満足するという第1条件を満たすように構成される。負のピン孔隙間X2の絶対値よりも正の偏心軸受隙間X1の絶対値を大きくすることになる。
偏心軸受隙間X1+ピン孔隙間X2>0 ・・・ (1)
【0034】
ピン孔隙間X2が負であるとは、外歯歯車16及びピン体22が移動しないと仮定したときに、ピン体22とピン孔32との間に遊び(正の隙間)があるのではなく、そのピン孔隙間X2の分だけ外歯歯車16又はピン体22が詰まるような負の隙間があることをいう。ピン孔隙間X2が負であることを条件としたのは、ピン孔隙間X2を負にすることでロストモーションをできるだけ低減させるためである。
【0035】
式(1)を条件とした理由を説明する。図4を参照する。ピン孔隙間X2を負にした場合、ピン孔隙間X2の分だけ外歯歯車16が反最大偏心方向Dbに移動しようとする。このとき、式(1)を満足していない場合、つまり、ピン孔隙間X2が負であり、かつ、式(1)の左辺が負となる場合、外歯歯車16がピン孔隙間X2の分だけ反最大偏心方向Dbに移動することができず、外歯歯車16と偏心軸受20とが干渉してしまう。このとき、ピン体22と偏心軸受20との間で外歯歯車16に予圧が付与された状態となり、それに起因して機械損失が増大してしまう。
【0036】
これに対して、式(1)を満足している場合、つまり、負のピン孔隙間X2の絶対値よりも正の偏心軸受隙間X1の絶対値が大きい場合、ピン孔隙間X2の分の反最大偏心方向Dbへの外歯歯車16の微小な移動を許容できるようになる。これにより、低ロストモーション化のためにピン孔隙間X2を負にした場合でも、外歯歯車16と偏心軸受20との干渉に起因する機械損失の増大を回避できるようになる。ひいては、ロストモーションを低くしつつも、外歯歯車16と偏心軸受20との間での機械損失の増大を抑制可能となる。
【0037】
なお、ピン孔隙間X2を負にしつつ式(1)を満足するという第1条件を満たした場合、前述の式(C)から特定される歯間隙間X3よりも実際の歯間隙間X3は広がるだけで済む。このため、外歯歯車16と内歯歯車18との間での機械損失の増大も抑制できる。
【0038】
減速装置10は、歯間隙間X3が負であり、かつ、以下の式(2)を満足するように構成される。負の歯間隙間X3の絶対値よりも正の偏心軸受隙間X1の絶対値を大きくすることになる。
偏心軸受隙間X1+歯間隙間X3>0 ・・・ (2)
【0039】
歯間隙間X3が負であるとは、外歯歯車16及び内歯歯車18が移動しないと仮定したときに、外歯歯車16と内歯歯車18との間に遊び(正の隙間)があるのではなく、その歯間隙間X3の分だけ外歯歯車16及び内歯歯車18が詰まるような負の隙間があることをいう。歯間隙間X3が負であることを条件としたのは、歯間隙間X3を負にすることで、ロストモーションをできるだけ低減させるためである。
【0040】
式(2)を条件とした理由を説明する。図5を参照する。歯間隙間X3が負になった場合、歯間隙間X3の分だけ外歯歯車16が反最大偏心方向Dbに移動しようとする。このとき、式(2)を満足していない場合、つまり、歯間隙間X3が負であり、かつ、式(2)の左辺が負となる場合、外歯歯車16が反最大偏心方向Dbに移動することができず、外歯歯車16と偏心軸受20とが干渉してしまう。このとき、内歯歯車18と偏心軸受20との間で外歯歯車16に予圧が付与された状態となり、それに起因して機械損失が増大してしまう。
【0041】
これに対して、式(2)を満足している場合、つまり、負の歯間隙間X3の絶対値よりも正の偏心軸受隙間X1の絶対値が大きい場合、歯間隙間X3の分の反最大偏心方向Dbへの外歯歯車16の微小な移動を許容できるようになる。これにより、低ロストモーション化のために歯間隙間X3を負にした場合でも、外歯歯車16と偏心軸受20との干渉に起因する機械損失の増大を回避できるようになる。ひいては、ロストモーションを低くしつつも、外歯歯車16と偏心軸受20との間での機械損失の増大を抑制可能となる。
【0042】
なお、歯間隙間X3を負にしつつ式(2)を満足するという第2条件を満たした場合、前述の式(B)から特定されるピン孔隙間X2よりも実際のピン孔隙間X2は広がるだけで済む。このため、ピン体22と外歯歯車16との間での機械損失の増大も抑制できる。
【0043】
偏心軸受隙間X1を調整するうえでは、式(A)で挙げられた複数の径のうちの少なくとも一つを調整してもよい。ピン孔隙間X2を調整するうえでは、式(B)で挙げられた複数の径及び偏心量eのうちの少なくとも一つを調整してもよい。歯間隙間X3を調整するうえでは、外歯歯車16の外歯部の形状、内歯歯車18の内歯部の形状及び偏心量eのうちの少なくとも一つを調整してもよい。
【0044】
偏心軸受隙間X1、ピン孔隙間X2、歯間隙間X3そのものの数値範囲は、減速装置10で適用されている現実的な数値範囲内で設定され、その具体的な大きさは特に限定されない。これら一例を挙げると、偏心軸受隙間X1はゼロ超15μm以下であり、好ましくはゼロ超10μm以下である。また、ピン孔隙間X2は-10μm以上ゼロ未満であり、好ましくは、-5μm以上ゼロ未満である。また、歯間隙間X3は-10μm以上ゼロ未満であり、好ましくは-5μm以上ゼロ未満である。また、式(1)、式(2)の左辺の数値についても、偏心軸受隙間X1等と同様のオーダーの数値範囲内で設定され、その具体的な大きさは特に限定されない。これら一例を挙げると、式(1)の左辺はゼロ超10μm以下であり、好ましくはゼロ超5μm以下である。式(2)の左辺はゼロ超10μm以下であり、好ましくはゼロ超5μm以下である。
【0045】
以上の減速装置10の効果を説明する。
【0046】
本実施形態の減速装置10は、低ロストモーション化のためにピン孔隙間X2を負にしつつ、機械損失に大きく影響する式(1)を満足するという第1条件を満たすように構成している。これにより、前述のように、ピン孔隙間X2を負にしつつ式(1)を満足しない場合と比べ、ロストモーションを低くしつつ、機械損失の増大を抑制した偏心揺動型歯車装置を実現できる。
【0047】
本実施形態の減速装置10は、低ロストモーション化のために歯間隙間X3を負にしつつ、機械損失に大きく影響する式(2)を満足するという第2条件を満たすように構成している。これにより、前述のように、歯間隙間X3を負にしつつ式(2)を満足しない場合と比べ、ロストモーションを低くしつつ、機械損失の増大を抑制した偏心揺動型歯車装置を実現できる。
【0048】
また、本実施形態の減速装置10は、ピン孔隙間X2を負にしつつ式(1)を満足したうえで、歯間隙間X3を負にしつつ式(2)を満足している。よって、ロストモーションを更に低くしつつ、機械損失の増大を更に抑制した偏心揺動型減速装置を実現できる。
【0049】
低ロストモーションと低機械損失を両立するにあたり、前述した第1条件及び第2条件の少なくとも一方を満たすように関連する構成部品のサイジングをするだけでよいため、サイジング作業の容易化を実現できる。ここでのサイジングとは、構成部品の交換又は加工による寸法の調整作業をいう。
【0050】
以上の構成により、低ロストモーションと低機械損失(高伝達効率)を両立した偏心揺動型減速装置を実現できるともいえる。
【0051】
次に、減速装置10の他の特徴を説明する。歯間隙間X3は、好ましくは、ピン孔隙間X2よりも正に大きくなる。減速装置10は、好ましくは、以下の式(3)を満足するように構成されるともいえる。この理由を説明する。
歯間隙間X3>ピン孔隙間X2 ・・・ (3)
【0052】
減速装置10の組み立てのために外歯歯車16を目標位置に配置する場合、各歯車16、18を噛み合わせた状態のもと、内歯歯車18の内歯部に対する外歯歯車16の外歯部の位置を細かく位置合わせしつつ両者を軸方向に移動させる必要がある。ここでの目標位置とは、完成品の減速装置10において言及している部材(ここでは外歯歯車16)があるべき目標となる位置をいう。これに対して、減速装置10を組み立てのためにピン体22を目標位置に配置する場合、外歯歯車16を目標位置に配置する場合のような細かい位置合わせをせずにピン体22を軸方向に移動させるだけで足りる。つまり、外歯歯車16を目標位置に配置する場合、内歯歯車18から摩擦抵抗が付与される環境下での外歯歯車16の細かい位置合わせが必要となり、ピン体22を目標位置に配置する場合と比べて作業難度が高くなる。
【0053】
ここで、本実施形態では、歯間隙間X3をピン孔隙間X2よりも正に大きくしている。よって、このような作業難度の高い外歯歯車16を目標位置に配置するにあたって、内歯歯車18から付与される摩擦抵抗を軽減でき、その作業性を良好にすることができる。また、歯間隙間X3よりもピン孔隙間X2を小さくしたとしても、作業難度の低いピン体22を目標位置に配置する際の作業性に及ぼす影響を抑えることができる。
【0054】
なお、ここまで説明した条件は、複数の外歯歯車16と内歯歯車18の組み合わせがある場合、少なくとも一つの外歯歯車16と内歯歯車18の組み合わせにおいて満たされていればよい。本実施形態では全ての外歯歯車16と内歯歯車18の組み合わせにおいて満たされている。また、ここまで説明したピン孔隙間X2の条件は、複数のピン体22とピン孔32の組み合わせのうち、少なくとも一つのピン体22とピン孔32の組み合わせにおいて満たされていればよい。本実施形態では全てのピン体22とピン孔32の組み合わせにおいて満たされている。
【0055】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0056】
出力部材は、キャリヤ26に替えて、ケーシング24であってもよい。外歯歯車16の歯形と内歯歯車18の歯形の組み合わせの具体例は特に限定されない。これらは、例えば、トロコイド歯形と円弧歯形の組み合わせ、インボリュート歯形の組み合わせ等の各種歯形の組み合わせを採用してもよい。
【0057】
ここまで、減速装置10は、ピン孔隙間X2が負であり、かつ、式(1)を満足するという第1条件と、歯間隙間X3が負であり、かつ、式(2)を満足するという第2条件との双方を満たすように構成される例を説明した。これに限定されるものではなく、減速装置10は、第1条件及び第2条件のうちの少なくとも一方の条件を満たすように構成されていればよい。歯間隙間X3は、ピン孔隙間X2以下となってもよい。また、歯間隙間X3をピン孔隙間X2よりも正に大きくするうえで、歯間隙間X3は正であってもよい。
【0058】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態において単数部材により構成された構成要素は複数部材で構成されてもよい。同様に、実施形態において複数部材により構成された構成要素は単数部材で構成されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10…偏心揺動型減速装置、12…偏心体、16…外歯歯車、18…内歯歯車、20…偏心軸受、22…ピン体、32…ピン孔。
図1
図2
図3
図4
図5