(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085237
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】下降窓固定構造
(51)【国際特許分類】
E05C 19/02 20060101AFI20240619BHJP
B61D 25/00 20060101ALI20240619BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
E05C19/02 B
B61D25/00 B
B60J1/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199657
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000163372
【氏名又は名称】近畿車輌株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 岳広
(72)【発明者】
【氏名】寺村 弘
(72)【発明者】
【氏名】安川 祥平
(57)【要約】
【課題】下降窓に対して個別に微調整が可能であり、かつ、作業時間を短縮できる下降窓固定構造を提供する。
【解決手段】下降窓固定構造1は、下降窓100の下端101に設けられたピン受部1bと、このピン受部1bに対向して配置される押圧部1aにより構成される。押圧部1aは、収容壁102内の鉛直に広がる構造に取り付けることができる取付座4を有している。取付座4には、中央にねじ込み式のプランジャ2を螺設するねじ溝が形成されている。プランジャ2はピン2a側をピン受部1b側へ向けて配置される。取付座4には、プランジャ2の緩み止めを行う緩み止めナット6を収容可能な空間を形成するように、ピン受部1b側へ凸構造を形成している。ピン受部1bには、下方に向けて押圧部1a側へ傾斜した傾斜部1b1を有し、傾斜部1b1の下方にはプランジャ2のピン2aが係合可能な凹部1b2が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下降窓を閉位置に固定する下降窓固定構造であって、
ピン側を前記下降窓に向けて設置されるねじ込み式のプランジャと、
前記プランジャが螺設される取付座と、
前記下降窓の下端に設けられ、前記ピンの嵌合により前記下降窓の閉状態の位置決めをする凹部が形成されたピン受部と
を備えたことを特徴とする下降窓固定構造。
【請求項2】
前記取付座に螺設された前記プランジャに対して、前記ピンとは逆側から締結される緩み止めナットを備えたことを特徴とする請求項1に記載の下降窓固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下降窓に関するものであり、特に、鉄道車両の下降窓を閉状態に安定的に固定する下降窓固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の側窓において、上向きの付勢を与える昇降機構を下端側に備えた下降窓が知られている。
図6は昇降機構としてバランサ103(釣合装置)を備えた、従来の下降窓100を示している。この下降窓100を開くと、バランサ103によって上向きの適度な付勢が作用するので、落とし窓のようにユーザーが窓の全重量を支える必要はなく、安全かつスムーズに開閉操作を行うことができる。
【0003】
なお、上述のバランサ103は、下降窓100が開閉域の中間位置にあるときに補助的に働くものであって、完全に閉じた状態を維持するためには、閉状態を固定する別の構成が必要になる。そこで、従来のバランサ103を備えた下降窓100には、閉状態の下降窓100が車体の振動等により自然降下してしまうことを防ぐために、下り止め構造120(固定構造)が備えられている。
【0004】
図7は、
図6のVII-VII線で切断した下り止め構造120の断面図である。下降窓100の下端101には、ピン受金120bが設けられている。開放した(下降した)下降窓100を収容する収容壁102内において、下降窓100に対して車内側には、ピン受金120bに対向してプランジャ122が設けられている。ピン受金120bのプランジャ122側には、傾斜面が形成されており、この傾斜面の下端側でプランジャ122のピン122aが係合するように形成されている。下降窓100を閉じる際、ピン受金120bの傾斜面に対してプランジャ122のピン122aが摺接し、下端に係合することにより、下降窓100を閉状態に固定することができる。
【0005】
従来のバランサを備えた下降窓は特許文献1に開示されている。
【0006】
ところで、上述の下り止め構造120には、下降窓100毎のばらつきの影響を吸収するために調整機構が備わっている。
図7の構成では、プランジャ122と取付座123との間にライナー121を挿入することによって、ピン受金120bに対するプランジャ122の位置を微調整することが可能である。以上のように、下降窓100の下り止め構造120は、ピン受金120b及び押圧部120aからなり、この押圧部120aは、プランジャ122、取付座123及びライナー121によって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、必要とされる調整量に対して、ライナー121の厚さが完全に一致することは稀であり、最も近い寸法のものが選択される。このため、設置場所によって操作感に微妙な違いが生じる可能性がある。
【0009】
また、
図7のような構成の場合、プランジャ122を取り付ける作業は車内側から行われる。具体的には、下降窓100が全閉状態から少し引き下げられるときに規定された力でロック状態が解除されるように、引き下げ時の抵抗を確認しながら、厚さの異なるラ
イナー121を複数回抜き差しして調整を行う必要があり、作業負担が大きい。
【0010】
そこで、本発明は、下降窓に対して個別に微調整が可能であり、かつ、作業時間を短縮できる下降窓固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の下降窓固定構造は、下降窓を閉位置に固定する下降窓固定構造であって、ピン側を前記下降窓に向けて設置されるねじ込み式のプランジャと、前記プランジャが螺設される取付座と、前記下降窓の下端に設けられ、前記ピンの嵌合により前記下降窓の閉状態の位置決めをする凹部が形成されたピン受部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の下降窓固定構造は、上記構成に加えて、前記取付座に螺設された前記プランジャに対して、前記ピンとは逆側から締結される緩み止めナットを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、ピン受部に対するプランジャのピンの嵌合深さや付勢の大きさを、プランジャの螺進退によって無段階に微調整することが可能となる。
【0014】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、下降窓の調整段階において、仮位置合わせが行われたプランジャに対して、ピン受部側へ進出させる向きに緩み止めナットが締結されるので、ピン受部からプランジャが離れないように確実に緩み止めの作業を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の下降窓固定構造を備えた下降窓の正面図である。
【
図3】下降窓固定構造の押圧部を示し、(a)はピン側の斜視図、(b)は緩み止めナット側の斜視図である。
【
図4】下降窓固定構造の押圧部を示し、(a)はピン側の分解斜視図、(b)は緩み止めナット側の分解斜視図である。
【
図5】下降窓固定構造の動作を示し、(a)はプランジャを取り付ける段階、(b)はプランジャが仮固定された段階、(c)は緩み止めナットにより本固定された状態を表す断面図である。
【
図6】従来のバランサを備えた下降窓を示す図である。
【
図7】
図6のVII-VII線で切断した下り止め構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る下降窓固定構造について図を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明の下降窓固定構造1が設けられた下降窓100の正面図である。
【0018】
開放時の下降窓100が収容される収容壁102内に、下降窓100の重量を軽減するためのバランサ103が設けられている。このバランサ103の近傍であって下降窓100の下端側に、閉状態の下降窓100を固定するための下降窓固定構造1が設けられている。
【0019】
車体の幅に制限がある一方で、車内スペースを広げるために、収容壁102内の車幅方向のスペースが限られる。このため、比較的コンパクトな構造でありながら、高重量の下
降窓100を安定して支えるのに十分な力を生じさせることができる固定構造が望まれる。
【0020】
【0021】
本発明に係る下降窓固定構造1は、
図2に示すように、下降窓100の下端101に設けられたピン受部1bと、このピン受部1bに対向可能な位置に設けられた押圧部1aにより構成されている。
【0022】
押圧部1aは、収容壁102の中で鉛直方向に広がる部材に対して取り付けることができる取付座4を有している。この取付座4の中央には、ねじ込み式のプランジャ2が、ピン2aをピン受部1bへ向けて螺設されている。
【0023】
一方、ピン受部1bには、下方に向けて押圧部1a側に傾斜した傾斜部1b1が形成されている。また、この傾斜部1b1の下方側には、プランジャ2のピン2aが係合可能な凹部1b2が形成されている。
図2では、凹部1b2にピン2aが係合した状態、すなわち、下降窓100が閉位置に固定された状態が示されている。
【0024】
図3は、下降窓固定構造1のうち押圧部1aのみを表し、(a)はプランジャ2のピン2a側から見た斜視図、(b)は緩み止めナット6側から見た斜視図である。
【0025】
押圧部1aの取付座4は、周囲が矩形の板状に形成されており、中央側が一方へ突出する矩形の凸構造を有し、他方に矩形の空間が形成されている。凸構造の中央には、円筒状に肉厚形成された部分を有している。この円筒状の肉厚部分には、内側にプランジャ2を螺設するためのねじ溝が形成されている。
図3(a)では、プランジャ2がピン2aを取付座4の凸側へ向けて螺設されているのが見て取れる。
【0026】
図3(b)には、プランジャ2に締結された緩み止めナット6が表れている。上述の取付座4の矩形の空間は、緩み止めナット6が収容され、かつ、緩み止めナット6の締結操作が可能な程度の広さに形成されている。
【0027】
図4は、
図3の押圧部1aを分解した状態を示している。
図4(a)は、取付座4の凸構造側から見た分解斜視図、(b)は取付座4の矩形の凹構造側から見た分解斜視図である。本実施の形態に係る構成のプランジャ2は、イモネジ型のねじ込み式のプランジャ2であり、取付座4に対する螺設は表裏の何れの側からも行うことができる。
【0028】
図5は、押圧部1aの調整方法について説明する図である。
図5(a)は、プランジャ2をピン受部1bとは逆側から仮固定を行う工程を示している。
図5(b)は、ピン受部1bの凹部1b2にピン2aを係合させた仮固定状態を示している。また、
図5(c)は、
図5(b)の仮固定のプランジャ2に対して緩み止めナット6による本固定を行う工程を示している。
【0029】
本実施の形態に係る構成では、ピン2aとは逆側に形成された六角穴に回転工具を差し込んで、ピン受部1bとの距離が調整される。取付座4が固定されている収容壁102(
図2参照)越しにピン受部1bが設けられているので、ピン2a側を目視して微妙な位置調整を行うことができない。
【0030】
しかし、本実施の形態に係る構成によれば、ねじ込み式のプランジャ2が採用されているので、手の感覚で微妙な抵抗の変化を確認しながら、適切な圧力が加わる位置に調整することが可能である。トルクドライバーなどを用いれば、正確なトルク管理も可能である
。
図5(b)の仮固定の状態では、下降窓100(
図2参照)が落下しない程度にプランジャ2側からピン受部1bに対して圧力が加わっている。よって、取付座4のねじ溝とプランジャ2との間にも反力が生じており、プランジャ2から回転工具を取り外しても仮固定の状態は安定している。
【0031】
下降窓100ごとに、それぞれ異なるバラツキを吸収して、全く同じ操作感を得ることができる状態に仮固定されたプランジャ2に対して、
図5(c)では、緩み止めナット6が締結される。
【0032】
図5に示しているように、緩み止めの作業は、プランジャ2のピン2aとは逆側から行われる。すなわち、緩み止めナット6による締結は、プランジャ2と同じ方向へ回転させることにより行われるので、プランジャ2が回転しないように固定していなくても、緩みを生じることなく、仮固定の状態を維持したままで正確に締結を行うことが可能である。
【0033】
また、本実施の形態に係る構成では、緩み止めナット6が、取付座4に形成された矩形の空間内に収容されているので、他の作業との干渉を防止できる。このように、本発明によれば、ピン受部1bが目視できない位置から、無駄なく正確な位置決めや調整が可能である。
【0034】
以上の実施の形態の構成は本発明の一例であり、上述した構成以外にも以下のような変形例も含まれる。
【0035】
(1)上記の実施の形態では、取付座4に、緩み止めナット6を収容可能な矩形の空間が形成された構成を例として示した。しかし、このようなピン受部1b側に凸となる構造は必須のものではない。ねじ込み式のプランジャ2を安定して取り付けることができる構成であれば、取付座4は平板状であっても構わない。
【0036】
(2)上記の実施の形態では、取付座4に対してプランジャ2の緩み止めを行うために、緩み止めナット6を採用した構成を例として示した。しかし、このような緩み止めナット6を用いた構成は、最小限の構成においては必須のものではない。例えば、緩み止めナット6に代えて、プランジャ2を取付座4に対して接着するような構成でも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の下降窓固定構造は、車両に用いられるのに適している。よって、鉄道車両に限らず、バス等の大型の車体に対しても有用である。
【符号の説明】
【0038】
1 下降窓固定構造
1a 押圧部
1b ピン受部
1b1 傾斜部
1b2 凹部
2 プランジャ
2a ピン
4 取付座
6 緩み止めナット
100 下降窓
101 下端
102 収容壁
103 バランサ
120 下り止め構造
120a 押圧部
120b ピン受金
121 ライナー
122 プランジャ
122a ピン
123 取付座