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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085242
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240619BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199664
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】宇田 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770DA03
5H770EA01
5H770EA21
5H770HA03W
5H770HA03Y
5H770KA01W
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】ハードウエアに制限を設けることなく、ノイズフィルタの磁気飽和を抑制できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置A1において、直流電力を入力されて三相交流電力を出力するインバータ回路1と、インバータ回路1の入力側に配置される直流側対地ノイズフィルタ3と、インバータ回路1の出力側に配置される交流側対地ノイズフィルタ4と、インバータ回路1が出力する各相電圧の波形を指令する3個の指令信号Xu,Xv,Xwに基づいてPWM信号Pを生成して、インバータ回路1に出力する制御回路2とを備えた。制御回路2は、3個の指令信号Xu,Xv,Xwとして、各波形が垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない3個の第1指令信号と、3個の第1指令信号に基づいて生成され、かつ、所定値で固定される期間を含む3個の第2指令信号と、を切り替えて用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を入力されて三相交流電力を出力するインバータ回路と、
前記インバータ回路の入力側に配置される直流側対地ノイズフィルタと、
前記インバータ回路の出力側に配置される交流側対地ノイズフィルタと、
前記インバータ回路が出力する各相電圧の波形を指令する3個の指令信号に基づいてPWM信号を生成して、前記インバータ回路に出力する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記3個の指令信号として、各波形が垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない3個の第1指令信号と、前記3個の第1指令信号に基づいて生成され、かつ、所定値で固定される期間を含む3個の第2指令信号と、を切り替えて用いる、
電力変換装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記インバータ回路の出力電圧が閾値未満の場合、前記3個の第1指令信号を前記3個の指令信号として用い、前記出力電圧が前記閾値以上の場合、前記3個の第2指令信号を前記3個の指令信号として用いる、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記閾値を、前記インバータ回路の入力電圧に応じて変化させる、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御回路は、
センサより入力される検出信号とその目標値との偏差に基づいて、前記3個の第1指令信号を生成するフィードバック制御部と、
前記3個の第1指令信号に基づく6個の線間電圧指令信号と2個の固定信号とからなる複数の基準信号を切り替えることで、前記3個の第2指令信号を生成する第2指令信号生成部と、
を備えている、
請求項1ないし3のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第2指令信号生成部は、前記複数の基準信号を切り替える際に、所定の変移期間の間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させることで、前記3個の第2指令信号を生成する、
請求項4に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置において、スイッチング損失を低減する方法として、二相変調方式が知られている。二相変調方式では、指令信号(変調波)の波形を工夫することで、各スイッチング素子のスイッチング回数を減少させる。特許文献1には、指令信号を1周期の一部の期間で上限値または下限値に固定された信号とすることで、当該指令信号とキャリア信号(搬送波)とから生成されるPWM信号を所定の期間でローレベルまたはハイレベルを継続する信号とするインバータ装置が開示されている。当該インバータ装置では、PWM信号においてローレベルまたはハイレベルが継続している期間、スイッチング素子はスイッチングを行わない。したがって、当該インバータ装置は、指令信号が通常の正弦波信号(上限値または下限値に固定される期間がない)である場合と比較して、スイッチング素子のスイッチング回数を低減できるので、スイッチング損失を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-34359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、二相変調方式を用いた場合、指令信号の波形が、垂直に立ち上がる部分、または、垂直に立ち下がる部分を含む波形になる(図5(a)参照)。したがって、電力変換装置から出力される相電圧は、急峻に変化するときがある。特に、出力電圧が小さいほど、相電圧の急峻に変化するときの変化量が大きくなる。このような電力変換装置において、直流側および交流側の両方に、スイッチングノイズの放出を低減するための対地ノイズフィルタを配置すると問題が生じる場合がある。すなわち、相電圧の急峻な変化により、対地ノイズフィルタのコモンモードリアクトルに大きなピークのコモンモード電流が流れる。これにより、コアが磁気飽和してしまい、意図するノイズフィルタとしての効果を失ってしまう場合がある。磁気飽和抑制の方法として、対地ノイズフィルタのインピーダンス値およびキャリア周波数を特定の数式に基づく値に設定する方法などが提案されている。しかし、電力変換装置の大きさなどに制限があると、対地ノイズフィルタのインピーダンス値またはキャリア周波数を所望の値にできない場合がある。
【0005】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、ハードウエアに制限を設けることなく、ノイズフィルタの磁気飽和を抑制できる電力変換装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明の第1の側面によって提供される電力変換装置は、直流電力を入力されて三相交流電力を出力するインバータ回路と、前記インバータ回路の入力側に配置される直流側対地ノイズフィルタと、前記インバータ回路の出力側に配置される交流側対地ノイズフィルタと、前記インバータ回路が出力する各相電圧の波形を指令する3個の指令信号に基づいてPWM信号を生成して、前記インバータ回路に出力する制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記3個の指令信号として、各波形が垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない3個の第1指令信号と、前記3個の第1指令信号に基づいて生成され、かつ、所定値で固定される期間を含む3個の第2指令信号と、を切り替えて用いる。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御回路は、前記インバータ回路の出力電圧が閾値未満の場合、前記3個の第1指令信号を前記3個の指令信号として用い、前記出力電圧が前記閾値以上の場合、前記3個の第2指令信号を前記3個の指令信号として用いる。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御回路は、前記閾値を、前記インバータ回路の入力電圧に応じて変化させる。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御回路は、センサより入力される検出信号とその目標値との偏差に基づいて、前記3個の第1指令信号を生成するフィードバック制御部と、前記3個の第1指令信号に基づく6個の線間電圧指令信号と2個の固定信号とからなる複数の基準信号を切り替えることで、前記3個の第2指令信号を生成する第2指令信号生成部と、を備えている。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2指令信号生成部は、前記複数の基準信号を切り替える際に、所定の変移期間の間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させることで、前記3個の第2指令信号を生成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、制御回路は、3個の指令信号として、3個の第1指令信号と3個の第2指令信号とを切り替えて用いる。制御回路がインバータ回路の出力電圧が小さいときに3個の第1指令信号を用い、出力電圧が大きいときに3個の第2指令信号を用いることで、電力変換装置は、ノイズフィルタの磁気飽和を抑制できる。また、制御回路が指令信号を切り替えて用いるだけなので、ソフトウエアの対策だけで実施でき、電力変換装置のハードウエアに制限を設ける必要がない。
【0013】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る電力変換装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】二相変調信号の波形を説明するための図である。
図3】二相変調信号を生成する処理の一例を示すフローチャートである。
図4】指令信号を切り替える処理の一例を示すフローチャートである。
図5】電力変換装置のシミュレーション結果を示す図である。
図6】第1実施形態に係る制御回路の第1変形例を示すブロック図である。
図7】第1実施形態に係る制御回路の第2変形例を示すブロック図である。
図8】第1実施形態に係る制御回路の第2変形例に係る変調信号の波形を説明するための図である。
図9】第2実施形態に係る電力変換装置の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0016】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る電力変換装置A1の全体構成を示すブロック図である。
【0017】
電力変換装置A1は、インバータ回路1、制御回路2、直流側対地ノイズフィルタ3、交流側対地ノイズフィルタ4、および電圧センサ5を備えている。インバータ回路1の入力側には、直流側対地ノイズフィルタ3を介して、直流電源Bが接続されている。インバータ回路1は、三相インバータであり、U相、V相、W相の出力電圧の出力ラインが接続されている。出力ラインは、交流側対地ノイズフィルタ4を介して、三相の電力系統Cに接続している。電力変換装置A1は、いわゆるパワーコンディショナであり、電力系統Cに連系し、直流電源Bが出力する直流電力をインバータ回路1で交流電力に変換して、電力系統Cに供給する。電圧センサ5は、インバータ回路1の出力側に配置され、電力変換装置A1の出力電圧を検出する。具体的には、電圧センサ5は、各線間電圧の実効値の平均値を検出する。電圧センサ5は、検出した出力電圧の電圧値Voを制御回路2に出力する。なお、電力変換装置A1には他にも図示しない各種センサが設けられており、制御回路2はこれらのセンサによる検出値に基づいて制御を行う。また、図1においては、変圧回路、DC/DCコンバータ回路、および開閉器などの構成が省略されている。なお、電力変換装置A1の構成は、これに限られない。
【0018】
直流電源Bは、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源Bは、生成された直流電力を、電力変換装置A1に出力する。なお、直流電源Bは、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源Bは、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよい。また、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0019】
インバータ回路1は、直流電源Bから入力される直流電力を交流電力に変換して、電力系統Cに出力する。インバータ回路1は、スイッチング素子を備えた三相のPWM制御型インバータである。インバータ回路1は、制御回路2から入力されるPWM信号Pに基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源Bから入力される直流電力を三相交流電力に変換する。
【0020】
インバータ回路1は、三相のフルブリッジ型であり、図示しない6個のスイッチング素子S1~S6を備えている。各スイッチング素子は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよいし、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)、バイポーラトランジスタ、逆阻止サイリスタなどの他のスイッチング素子であってもよい。スイッチング素子S1~S6には、それぞれ環流ダイオードが逆並列に接続されている。スイッチング素子S1とスイッチング素子S4、スイッチング素子S2とスイッチング素子S5、および、スイッチング素子S3とスイッチング素子S6がそれぞれ直列接続されてブリッジ構造を形成している。スイッチング素子S1とスイッチング素子S4との接続点には、U相の出力ラインが接続されている。スイッチング素子S2とスイッチング素子S5との接続点には、V相の出力ラインが接続されている。スイッチング素子S3とスイッチング素子S6との接続点には、W相の出力ラインが接続されている。なお、インバータ回路1の具体的な回路構成は限定されない。各スイッチング素子S1~S6には、それぞれ、制御回路2から出力されるPWM信号P(P1~P6)が入力される。なお、各PWM信号の詳細は後述する。
【0021】
制御回路2は、インバータ回路1のスイッチング素子のスイッチングを制御するPWM信号Pを生成するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路2は、図示しない各種センサから検出信号を入力され、インバータ回路1にPWM信号Pを出力する。制御回路2は、各種センサから入力される検出信号に基づいて、電力変換装置A1が出力する相電圧の波形を指令するための指令信号Xu,Xv,Xwを生成する。そして、制御回路2は、指令信号Xu,Xv,Xwに基づいてPWM信号Pを生成する。本実施形態では、制御回路2は、いわゆる三相変調方式のための三相変調信号X3u,X3v,X3w、および、いわゆる二相変調方式のための二相変調信号X2u,X2v,X2wを生成し、これらを切り替えて指令信号Xu,Xv,Xwとする。インバータ回路1は、入力されるPWM信号Pに基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令信号Xu,Xv,Xwに対応した相電圧を出力する。指令信号Xu,Xv,Xwが、三相変調信号X3u,X3v,X3wであっても、二相変調信号X2u,X2v,X2wであっても、インバータ回路1が出力する線間電圧は同様になる。制御回路2の詳細な説明は後述する。
【0022】
直流側対地ノイズフィルタ3は、インバータ回路1の入力側に配置されており、直流電源Bに出力されるスイッチングノイズを低減する。直流側対地ノイズフィルタ3は、2本の入力ラインにそれぞれ配置されたリアクトルと、各入力ラインとグランドとを接続するラインにそれぞれ配置されたコンデンサとを備えている。2個のリアクトルは、コモンモードリアクトルを構成している。
【0023】
交流側対地ノイズフィルタ4は、インバータ回路1の出力側に配置されており、電力系統Cに出力されるスイッチングノイズを低減する。交流側対地ノイズフィルタ4は、3本の出力ラインにそれぞれ配置されたリアクトルと、各出力ラインとグランドとを接続するラインにそれぞれ配置されたコンデンサとを備えている。3個のリアクトルは、コモンモードリアクトルを構成している。
【0024】
直流側対地ノイズフィルタ3および交流側対地ノイズフィルタ4は、どちらもグランドに接続されているので、グランドを介して循環するコモンモード電流(図1(a)において矢印で示す)が流れる。大きなコモンモード電流が流れると、コモンモードリアクトルのコア(図示なし)が磁気飽和してしまい、意図するノイズフィルタとしての効果を失ってしまう場合がある。電力変換装置A1は、制御回路2の内部で生成される指令信号Xu,Xv,Xwを工夫することで、コモンモードリアクトルのコアが磁気飽和してしまうことを抑制する。
【0025】
次に、図1図4を参照して、制御回路2の内部構成および詳細な説明を行う。
【0026】
制御回路2は、図1(c)に示すように、フィードバック制御部21、二相変調信号生成部22、切替部24、およびPWM信号生成部23を備えている。なお、制御回路2は、過電流、地絡、短絡、単独運転などを検出してインバータ回路1の運転を停止させる構成や、最大電力点追従のための構成なども有しているが、本発明の説明に関係しないので、図1への記載および説明を省略している。
【0027】
フィードバック制御部21は、各種センサより入力される検出信号と予め設定されている目標値との偏差に基づいてフィードバック制御を行い、電力変換装置A1の出力相電圧の波形を指令するための三相変調信号X3u,X3v,X3wを生成して、切替部24および二相変調信号生成部22に出力する。フィードバック制御部21で行われるフィードバック制御の詳細については記載を省略している。フィードバック制御部21が行うフィードバック制御は、電力変換装置A1が出力する出力電流や出力電圧、出力有効電力、出力無効電力を制御するものであってもよいし、直流電源Bから入力される直流電圧を制御するものであってもよい。
【0028】
二相変調信号生成部22は、フィードバック制御部21から入力される三相変調信号X3u,X3v,X3wに基づいて二相変調信号X2u,X2v,X2wを生成し、切替部24に出力する。二相変調信号X2u,X2v,X2wは、電力変換装置A1の出力相電圧の波形を指令するための信号である。すなわち、二相変調信号生成部22は、三相変調信号X3u,X3v,X3wを二相変調信号X2u,X2v,X2wに変換する。二相変調信号X2u,X2v,X2wの波形は、後述する図2(d)に示す波形X2u,X2v,X2wのように特殊な形状の波形となる。
【0029】
二相変調信号生成部22は、三相変調信号X3u,X3v,X3wから線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuを生成する。線間電圧指令信号Xuvは、V相に対するU相の線間電圧の波形を指令するための信号である。二相変調信号生成部22は、三相変調信号X3uと三相変調信号X3vとの差分によって線間電圧指令信号Xuvを生成する。線間電圧指令信号Xvwは、W相に対するV相の線間電圧の波形を指令するための信号である。二相変調信号生成部22は、三相変調信号X3vと三相変調信号X3wとの差分によって線間電圧指令信号Xvwを生成する。線間電圧指令信号Xwuは、U相に対するW相の線間電圧の波形を指令するための信号である。二相変調信号生成部22は、三相変調信号X3wと三相変調信号X3uとの差分によって線間電圧指令信号Xwuを生成する。本実施形態では、正規化のために三相変調信号X3u,X3v,X3wの最大振幅を「1」にしているので(図2(a)参照)、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの最大振幅は√(3)になっている(図2(b)参照)。
【0030】
また、二相変調信号生成部22は、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの極性を反転させた線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuwを生成する。なお、二相変調信号生成部22は、極性を反転させるのではなく、三相変調信号X3vと三相変調信号X3uとの差分によって線間電圧指令信号Xvuを生成し、三相変調信号X3wと三相変調信号X3vとの差分によって線間電圧指令信号Xwvを生成し、三相変調信号X3uと三相変調信号X3wとの差分によって線間電圧指令信号Xuwを生成してもよい。
【0031】
二相変調信号生成部22は、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwu、線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuw、値が「0」に固定された第1固定信号、および、値が「2」に固定された第2固定信号(これらをまとめて示す場合、「基準信号」と記載する場合がある)を用いて、二相変調信号X2u,X2v,X2wを生成する。二相変調信号X2u,X2v,X2wの上限値は、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの振幅以上の値にする必要がある。したがって、本実施形態では、当該上限値を「2」にするために、値が「2」に固定された第2固定信号を用いている。なお、当該上限値は線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの振幅以上の値であればよいので、設定する変調度に応じて、√(3)以上の所定の値が上限値として設定される。二相変調信号生成部22は、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwu、線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuw、第1固定信号、および第2固定信号を、期間によって切り替えることで、二相変調信号X2u,X2v,X2wを生成する。
【0032】
図2は、二相変調信号生成部22が生成する二相変調信号X2u,X2v,X2wの波形を説明するための図である。
【0033】
図2(a)に示す波形X3u,X3v,X3wは、三相変調信号X3u,X3v,X3wの波形をそれぞれ示している。図2(b)に示す波形Xuv,Xvw,Xwuは、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの波形をそれぞれ示している。図2(c)に示す波形Xvu,Xwv,Xuwは、線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuwの波形をそれぞれ示している。図2においては、U相の三相変調信号X3uの位相を基準として記載している。
【0034】
図2(d)に示す波形X2uは、U相の二相変調信号X2uの波形である。二相変調信号X2uは、モード1~6に分けて生成される。波形X2uは、モード1(0≦θ≦π/3)においては波形Xuv、モード2(π/3≦θ≦2π/3)においては「2」に固定された波形、モード3(2π/3≦θ≦π)においては波形Xuw、モード4(π≦θ≦4π/3)においては波形Xuvを「2」だけ上方にシフトさせた波形、モード5(4π/3≦θ≦5π/3)においては「0」に固定された波形、モード6(5π/3≦θ≦2π)においては波形Xuwを「2」だけ上方にシフトさせた波形となっている。
【0035】
同様に、図2(d)に示す波形X2vは、V相の二相変調信号X2vの波形である。波形X2vは、モード1においては「0」に固定された波形、モード2においては波形Xvuを「2」だけ上方にシフトさせた波形、モード3においては波形Xvw、モード4においては「2」に固定された波形、モード5においては波形Xvu、モード6においては波形Xvwを「2」だけ上方にシフトさせた波形となっている。
【0036】
また、図2(d)に示す波形X2wは、W相の二相変調信号X2wの波形である。波形X2wは、モード1においては波形Xwv、モード2においては波形Xwuを「2」だけ上方にシフトさせた波形、モード3においては「0」に固定された波形、モード4においては波形Xwvを「2」だけ上方にシフトさせた波形、モード5においては波形Xwu、モード6においては「2」に固定された波形となっている。
【0037】
図3は、二相変調信号生成部22が行う、二相変調信号X2u,X2v,X2wを生成する処理(以下では、「二相変調信号生成処理」とする。)の一例を示すフローチャートである。二相変調信号生成処理は、所定のタイミングで実行される。
【0038】
まず、三相変調信号X3u,X3v,X3w、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwu、および線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuwが取得される(S1)。次に、X3uの絶対値がX3vの絶対値より大きいか否かが判別される(S2)。X3uの絶対値の方が大きい場合(S2:YES)、X3uの絶対値がX3wの絶対値より大きいか否かが判別される(S3)。X3uの絶対値の方が大きい場合(S3:YES)、すなわち、X3uの絶対値が最大の場合、ステップS5に進む。一方、X3uの絶対値がX3wの絶対値以下の場合(S3:NO)、すなわち、X3wの絶対値が最大の場合、ステップS6に進む。ステップS2において、X3uの絶対値がX3vの絶対値以下の場合(S2:NO)、X3vの絶対値がX3wの絶対値より大きいか否かが判別される(S4)。X3vの絶対値の方が大きい場合(S4:YES)、すなわち、X3vの絶対値が最大の場合、ステップS7に進む。一方、X3vの絶対値がX3wの絶対値以下の場合(S4:NO)、すなわち、X3wの絶対値が最大の場合、ステップS6に進む。ステップS2~S4では、X3u,X3v,X3wのうち絶対値が最大のものを判定している。
【0039】
X3uの絶対値が最大と判定されてステップS5に進んだ場合、X3uが正の値であるか否かが判別される(S5)。X3uが正の値である場合(S5:YES)、二相変調信号X2uは「2」とされ、二相変調信号X2vは「2」にXvuを加算した値とされ、二相変調信号X2wは「2」にXwuを加算した値とされる(S8)。一方、X3uが「0」以下の場合(S5:NO)、X2uは「0」とされ、X2vはXvuとされ、X2wはXwuとされる(S9)。
【0040】
X3wの絶対値が最大と判定されてステップS6に進んだ場合、X3wが正の値であるか否かが判別される(S6)。X3wが正の値である場合(S6:YES)、X2uは「2」にXuwを加算した値とされ、X2vは「2」にXvwを加算した値とされ、X2wは「2」とされる(S10)。一方、X3wが「0」以下の場合(S6:NO)、X2uはXuwとされ、X2vはXvwとされ、X2wは「0」とされる(S11)。
【0041】
X3vの絶対値が最大と判定されてステップS7に進んだ場合、X3vが正の値であるか否かが判別される(S7)。X3vが正の値である場合(S7:YES)、X2uは「2」にXuvを加算した値とされ、X2vは「2」とされ、X2wは「2」にXwvを加算した値とされる(S12)。一方、X3vが「0」以下の場合(S7:NO)、X2uはXuvとされ、X2vは「0」とされ、X2wはXwvとされる(S13)。
【0042】
つまり、二相変調信号生成処理では、三相変調信号X3u,X3v,X3wのうち絶対値が最大のものを判定し、絶対値が最大の三相変調信号の正負を判定し、その判定結果に応じて二相変調信号X2u,X2v,X2wを決定している。なお、図3に示すフローチャートは、二相変調信号生成処理の一例であって、これに限られない。
【0043】
二相変調信号生成処理により生成された、二相変調信号X2u,X2v,X2wの波形は、図2(d)に示す波形X2u,X2v,X2wのようになる。すなわち、モード1においては、図3のフローチャートにおいてステップS13に進むので、波形X2uは波形Xuv(図2(b)参照)となり、波形X2vは「0」に固定された波形となり、波形X2wは波形Xwv(図2(c)参照)となる。また、モード2においては、図3のフローチャートにおいてステップS8に進むので、波形X2uは「2」に固定された波形となり、波形X2vは波形Xvuを「2」だけ上方にシフトさせた波形となり、波形X2wは波形Xwuを「2」だけ上方にシフトさせた波形となる。モード3においては、図3のフローチャートにおいてステップS11に進むので、波形X2uは波形Xuwとなり、波形X2vは波形Xvwとなり、波形X2wは「0」に固定された波形となる。モード4においては、図3のフローチャートにおいてステップS12に進むので、波形X2uは波形Xuvを「2」だけ上方にシフトさせた波形となり、波形X2vは「2」に固定された波形となり、波形X2wは波形Xwvを「2」だけ上方にシフトさせた波形となる。モード5においては、図3のフローチャートにおいてステップS9に進むので、波形X2uは「0」に固定された波形となり、波形X2vは波形Xvuとなり、波形X2wは波形Xwuとなる。モード6においては、図3のフローチャートにおいてステップS10に進むので、波形X2uは波形Xuwを「2」だけ上方にシフトさせた波形となり、波形X2vは波形Xvwを「2」だけ上方にシフトさせた波形となり、波形X2wは「2」に固定された波形となる。
【0044】
図1に戻って、切替部24は、フィードバック制御部21から入力される三相変調信号X3u,X3v,X3wと、二相変調信号生成部22から入力される二相変調信号X2u,X2v,X2wとを切り替えて、指令信号Xu,Xv,Xwとして、PWM信号生成部23に出力する。本実施形態では、切替部24は、電圧センサ5から入力される出力電圧の電圧値Voに基づいて、指令信号Xu,Xv,Xwを切り替える。具体的には、切替部24は、電圧値Voが閾値Vox未満の場合、三相変調信号X3u,X3v,X3wを指令信号Xu,Xv,Xwとして出力し、電圧値Voが閾値Vox以上の場合、二相変調信号X2u,X2v,X2wを指令信号Xu,Xv,Xwとして出力する。閾値Voxは、電力変換装置A1の入力の定格電圧などに基づいて、あらかじめ固定値が設定されている。閾値Voxは、三相変調信号X3u,X3v,X3wを用いた三相変調方式の場合でも過変調にならない電圧が設定される。例えば、入力の定格電圧がDC330Vである場合、三相変調方式だと出力が180V程度で過変調になるので、若干の余裕を持って、閾値Voxとして150Vが設定されている。なお、閾値Voxの具体的な値は限定されない。
【0045】
図4は、切替部24が行う、指令信号Xu,Xv,Xwを切り替える処理(以下では、「指令信号切替処理」とする。)の一例を示すフローチャートである。指令信号切替処理は、電力変換装置A1が起動したときに実行が開始される。
【0046】
まず、電圧センサ5によって検出された電圧値Voが取得される(S21)。次に、電圧値Voが閾値Vox未満であるか否かが判別される(S22)。電圧値Voが閾値Vox未満の場合(S22:YES)、三相変調信号X3u,X3v,X3wを指令信号Xu,Xv,Xwとして出力し(S23)、ステップS21に戻る。一方、電圧値Voが閾値Vox以上の場合(S22:NO)、二相変調信号X2u,X2v,X2wを指令信号Xu,Xv,Xwとして出力し(S24)、ステップS21に戻る。なお、図4に示すフローチャートは、指令信号切替処理の一例であって、これに限られない。
【0047】
PWM信号生成部23は、その内部で生成される所定の周波数(例えば、4kHz)のキャリア信号(例えば、三角波信号)と、切替部24から入力される指令信号Xu,Xv,Xwとに基づいてPWM信号Pを生成し、インバータ回路1に出力する。PWM信号生成部23は、指令信号Xuがキャリア信号以上となる期間にハイレベルとなり、指令信号Xuがキャリア信号より小さい期間にローレベルとなるパルス信号を、スイッチング素子S1に入力するPWM信号P1として生成する。また、PWM信号生成部23は、PWM信号P1の極性を反転させて、スイッチング素子S4に入力するPWM信号P4を生成する。同様に、PWM信号生成部23は、指令信号Xvとキャリア信号との比較により、スイッチング素子S2に入力するPWM信号P2を生成し、PWM信号P2の極性を反転させて、スイッチング素子S5に入力するPWM信号P5を生成する。また、PWM信号生成部23は、指令信号Xwとキャリア信号との比較により、スイッチング素子S3に入力するPWM信号P3を生成し、PWM信号P3の極性を反転させて、スイッチング素子S6に入力するPWM信号P6を生成する。
【0048】
本実施形態では、指令信号Xu,Xv,Xwが三相変調信号X3u,X3v,X3wの場合、上限値「1」と下限値「-1」との間で変化する(図2(a)参照)ので、上限値「1」と下限値「-1」との間で変化するキャリア信号が用いられる。一方、指令信号Xu,Xv,Xwが二相変調信号X2u,X2v,X2wの場合、上限値「2」と下限値「0」との間で変化する(図2(d)参照)ので、上限値「2」と下限値「0」との間で変化するキャリア信号が用いられる。なお、三相変調信号X3u,X3v,X3wと二相変調信号X2u,X2v,X2wの変化範囲を揃えて、同じキャリア信号が用いられてもよい。また、キャリア信号は三角波信号であってもよいし、のこぎり波信号などの他の信号であってもよい。
【0049】
なお、PWM信号生成部23の構成は、上述したものに限定されない。指令信号Xu,Xv,Xwから、各スイッチング素子S1~S6をそれぞれ駆動するためのPWM信号P1~P6を生成できるものであれば、他の方法を用いてもよい。
【0050】
なお、制御回路2は、デジタル回路として実現してもよいし、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータを制御回路2として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
【0051】
本実施形態において、制御回路2の切替部24は、電圧センサ5から入力される電圧値Voに基づいて、指令信号Xu,Xv,Xwを切り替えて出力し、PWM信号生成部23は指令信号Xu,Xv,Xwに基づいてPWM信号P1~P6を生成してインバータ回路1に出力する。インバータ回路1は、PWM信号P1~P6に基づいて、スイッチング素子S1~S6のスイッチングを行う。これにより、直流電源Bが出力する直流電力は、交流電力に変換されて出力される。
【0052】
電力変換装置A1が出力する相電圧信号Vu,Vv,Vwの波形は、指令信号Xu,Xv,Xwが二相変調信号X2u,X2v,X2wの場合、図2(d)に示す二相変調信号X2u,X2v,X2wの波形と同様になる。図2から判るように、二相変調信号X2uとX2vとの差分信号は線間電圧指令信号Xuvに一致する。同様に、二相変調信号X2vとX2wとの差分信号は線間電圧指令信号Xvwに一致し、二相変調信号X2wとX2uとの差分信号は線間電圧指令信号Xwuに一致する。したがって、相電圧信号Vu,Vv,Vwの差分信号である線間電圧信号Vuv,Vvw,Vwuの波形は、図2(b)に示す線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの波形Xuv,Xvw,Xwuと同じになり、指令信号Xu,Xv,Xwが三相変調信号X3u,X3v,X3wの場合と同様になる。よって、線間電圧信号Vuv,Vvw,Vwuは三相平衡した正弦波信号となるので、電力系統Cの系統電圧と同期できる。したがって、電力変換装置A1が出力する交流電力を電力系統Cに供給できる。また、電力変換装置A1の出力電流の波形も、正弦波になる。
【0053】
次に、図5を参照して、電力変換装置A1のシミュレーションについて説明する。図5(c)は、電力変換装置A1のシミュレーション結果を示している。一方、図5(a)は、指令信号Xu,Xv,Xwが常に二相変調信号X2u,X2v,X2wである場合、すなわち二相変調方式の場合のシミュレーション結果を示している。また、図5(b)は、指令信号Xu,Xv,Xwが常に三相変調信号X3u,X3v,X3wである場合、すなわち三相変調方式の場合のシミュレーション結果を示している。図5(a)、(b)、(c)において、最も上の段には、電力変換装置A1が出力する線間電圧信号Vuvの波形を示し、2段目には指令信号Xuの波形を示し、3段目にはコモンモード電流の波形を示している。なお、線間電圧信号Vvw,Vwuおよび指令信号Xv,Xwの波形は、省略しているが、それぞれ線間電圧信号Vuvおよび指令信号Xuと同様の形状で位相がずれた波形になる。本シミュレーションでは、電力変換装置A1の出力電圧を、時刻t0において、「0」から徐々に上昇させている。したがって、図5(a)、(b)、(c)のいずれにおいても、最も上の段の線間電圧信号Vuvの振幅は、「0」から徐々に大きくなっている。
【0054】
図5(a)に示すように、二相変調方式の場合、指令信号Xu(二相変調信号X2u)の波形は、図2(d)に示す波形と同様、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含む波形になっている。これにより、相電圧信号Vuが急峻に変化するときがあるので、コモンモード電流には大きなピークが現れている。当該ピークの大きさは、出力電圧が小さいほど顕著である。したがって、出力電圧が小さいときに、コモンモードリアクトルに大きなピークを有するコモンモード電流が流れることで、コアが磁気飽和しやすい。
【0055】
図5(b)に示すように、三相変調方式の場合、指令信号Xu(三相変調信号X3u)の波形は、図2(a)に示す波形と同様、正弦波になっており、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない。これにより、コモンモード電流のピークは抑制されている。しかし、二相変調方式の場合と比較して、スイッチング損失が大きい。また、三相変調方式は、二相変調方式と比較して電圧利用率が低いので、出力電圧が大きくなると、過変調になる場合がある。
【0056】
図5(c)に示すように、電力変換装置A1の場合、時刻t0から時刻t1までは、電圧値Voが閾値Vox未満なので、指令信号Xuが三相変調信号X3uであり、三相変調方式になっている。つまり、時刻t0から時刻t1までの間は、図5(b)と同様になっている。したがって、三相変調方式により、コモンモード電流のピークが抑制されている。一方、時刻t1以降は、電圧値Voが閾値Vox以上なので、指令信号Xuが二相変調信号X2uであり、二相変調方式になっている。つまり、時刻t1以降は、図5(a)と同様になっている。したがって、二相変調方式により、スイッチング損失が抑制される。コモンモード電流に大きなピークが現れるが、出力電圧が小さいときと比較して、ピークの大きさは抑制されている。
【0057】
次に、本実施形態に係る電力変換装置A1の作用および効果について説明する。
【0058】
本実施形態によると、フィードバック制御部21は、各種センサより入力される検出信号と予め設定されている目標値との偏差に基づいて、三相変調信号X3u,X3v,X3wを生成する。二相変調信号生成部22は、三相変調信号X3u,X3v,X3wに基づいて二相変調信号X2u,X2v,X2wを生成する。切替部24は、電圧センサ5から入力される出力電圧の電圧値Voが閾値Vox未満の場合、三相変調信号X3u,X3v,X3wを出力し、電圧値Voが閾値Vox以上の場合、二相変調信号X2u,X2v,X2wを出力する。したがって、出力電圧が小さいときは、三相変調方式により、コモンモード電流のピークが抑制され、コモンモードリアクトルのコアの磁気飽和が抑制される。一方、出力電圧が大きいときは、二相変調方式により、スイッチング損失が抑制される。コモンモード電流に大きなピークが現れるが、出力電圧が小さいときと比較して、ピークの大きさは抑制されている。したがって、コモンモードリアクトルのコアの磁気飽和が抑制される。また、閾値Voxとして三相変調方式の場合でも過変調にならない電圧が設定されるので、変調方式は、三相変調方式で過変調になる前に、二相変調方式に切り替えられる。以上のように、電力変換装置A1は、二相変調方式と比較して、ノイズフィルタの磁気飽和を抑制でき、かつ、三相変調方式と比較して、スイッチング損失を抑制できる。また、制御回路2が指令信号Xu,Xv,Xwを切り替えて用いるだけなので、ソフトウエアの対策だけで実施でき、電力変換装置A1のハードウエアに制限を設ける必要がない。
【0059】
また、本実施形態によると、二相変調信号生成部22は、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwu、線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuw、値が「0」に固定された第1固定信号、および、値が「2」に固定された第2固定信号を用いて、二相変調信号X2u,X2v,X2wを生成する。したがって、二相変調信号生成部22は、各スイッチング素子を一部の期間で停止させつつ、線間電圧の波形を正弦波にできる二相変調信号X2u,X2v,X2wを、適切に生成できる。
【0060】
なお、本実施形態においては、二相変調信号X2u,X2v,X2wの上限値が「2」で下限値が「0」の場合について説明したが、これに限られない。例えば、上限値が「1」で下限値が「-1」となるように、二相変調信号X2u,X2v,X2wを生成してもよい。この場合、キャリア信号の上限値を「1」、下限値を「-1」とすればよい。
【0061】
また、本実施形態においては、二相変調信号生成部22が、図2(d)に示す波形の二相変調信号X2u,X2v,X2wを生成する場合について説明したが、これに限られない。二相変調信号X2u,X2v,X2wの波形は限定されない。
【0062】
また、本実施形態においては、電力変換装置A1を、パワーコンディショナとして用いた場合を例として説明したが、これに限られない。本発明は、他のシステムの電力変換装置にも適用できる。
【0063】
〔第1変形例〕
図6は、第1実施形態に係る制御回路2の第1変形例を示すブロック図である。本変形例では、制御回路2は3次調波重畳信号生成部25をさらに備えている。3次調波重畳信号生成部25は、フィードバック制御部21が生成した三相変調信号X3u,X3v,X3wを入力されて、3次調波重畳信号X3’u,X3’v,X3’wを生成する。3次調波重畳信号生成部25は、三相変調信号X3uに、三相変調信号X3uの第3次高調波信号を重畳することで、3次調波重畳信号X3’uを生成する。同様に、3次調波重畳信号生成部25は、三相変調信号X3vから3次調波重畳信号X3’vを生成し、三相変調信号X3wから3次調波重畳信号X3’wを生成する。3次調波重畳信号生成部25は、生成した3次調波重畳信号X3’u,X3’v,X3’wを切替部24に出力する。切替部24は、三相変調信号X3u,X3v,X3wの代わりに、3次調波重畳信号X3’u,X3’v,X3’wを用いる。本変形例によると、3次調波重畳信号X3’u,X3’v,X3’wは、三相変調信号X3u,X3v,X3wより最大振幅を小さくできるので、電圧利用率を高めることができる。これにより、過変調を抑制できるので、閾値Voxは、より大きい値に設定可能である。二相変調方式に切り替えられる電圧が大きくなることで、コモンモードリアクトルのコアの磁気飽和がより抑制される。
【0064】
第1変形例から理解されるように、電圧値Voが閾値Vox未満の場合に、電力変換装置A1の制御回路2が指令信号Xu,Xv,Xwとして用いる信号は、三相変調信号X3u,X3v,X3wに限定されず、三相変調信号X3u,X3v,X3wから生成された、垂直に立ち上がる部分および垂直に立ち下がる部分を含まない波形の信号であってもよい。
【0065】
〔第2変形例〕
図7および図8は、第1実施形態に係る制御回路2の第2変形例を説明するための図である。図7は、第1実施形態に係る制御回路2の第2変形例を示すブロック図である。図8は、変調信号生成部22’が生成する変調信号X2’u,X2’v,X2’wの波形を説明するための図である。なお、図8においては、変調信号X2’uの波形のみを示し、変調信号X2’v,X2’wの波形を省略している。また、比較のために、二相変調信号X2uの波形を破線で示している。制御回路2の第2変形例を示すブロック図は、図1に示す制御回路2と同様なので、記載を省略する。
【0066】
図7に示すように、本変形例では、制御回路2は二相変調信号生成部22の代わりに、変調信号生成部22’を備えている。図8に示すように、変調信号生成部22’が生成する変調信号X2’u,X2’v,X2’wの波形は、二相変調信号X2u,X2v,X2wにおいて、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分に傾斜を設けた波形である。変調信号生成部22’は、基準信号の切り替え時に、所定の変移期間Txの間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させることで、変調信号X2’u,X2’v,X2’wを急峻に変化しない信号として生成する。本変形例では、変調信号生成部22’は、変移期間Txにおいて、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に線型的に変化させる。なお、変調信号生成部22’が変調信号X2’u,X2’v,X2’wを生成する具体的な方法は限定されない。また、変移期間Txは、限定されず、適宜設定可能である。線型的に変化させる場合、変移期間Txを長くするほど、変移期間Txでの変調信号X2’u,X2’v,X2’wの傾きを小さくできる。
【0067】
二相変調信号X2uの波形は、各モードの切り替え時に、基準信号をそのまま切り替えた波形なので、図8に破線で示すように、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含む波形になる。一方、変調信号X2’uの波形は、図8に実線で示すように、各モードが切り替わったときから所定の変移期間Txの間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させた波形である。これにより、変調信号X2’uの波形は、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形になっている。
【0068】
たとえば、図2に示すように、モード1の終了時に波形Xuvは√(3)になっているので、モード2の開始と同時に「2」に変化させると、図8に破線で示すように垂直に立ち上がる波形になる。しかし、変調信号X2’uの波形は、変移期間Txの間、√(3)から「2」まで線形的に変化するので、垂直に立ち上がらない。同様に、モード4の終了時に波形Xuvを「2」だけ上方にシフトさせた波形は「2-√(3)」になっているので、モード5の開始と同時に「0」に変化させると、破線で示すように垂直に立ち下がる波形になる。しかし、変調信号X2’uの波形は、変移期間Txの間、「2-√(3)」から「0」まで線形的に変化するので、垂直に立ち下がらない。変調信号X2’v,X2’wの波形も同様である。
【0069】
本変形例によると、変調信号X2’u,X2’v,X2’wの波形が、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形になる。したがって、二相変調信号X2u,X2v,X2wを用いる場合と比較して、コモンモード電流のピークを抑制できるので、コモンモードリアクトルのコアの磁気飽和がより抑制される。
【0070】
なお、本変形例においては、変調信号生成部22’は、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に線型的に変化させる場合について説明したが、これに限られない。切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号への変化は、例えば二次曲線などの曲線的な変化であってもよい。また、本変形例においては、変調信号生成部22’は、各モードが切り替わったときから所定の変移期間Txの間に徐々に変化させることで、変調信号X2’u,X2’v,X2’wを生成する場合について説明したが、これに限られない。例えば、変調信号生成部22’は、各モードが切り替わる前の変移期間Txの間に徐々に変化させることで、変調信号X2’u,X2’v,X2’wを生成してもよい。また、変調信号生成部22’は、各モードが切り替わるときを含む変移期間Txの間に徐々に変化させることで、変調信号X2’u,X2’v,X2’wを生成してもよい。
【0071】
また、本変形例においては、変調信号生成部22’が、図8に示す波形の変調信号X2’u,X2’v,X2’wを生成する場合について説明したが、これに限られない。変調信号X2’u,X2’v,X2’wの波形は限定されない。変調信号X2’u,X2’v,X2’wは、波形が、モードの切り替え時に基準信号をそのまま切り替えた波形ではなく、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させた波形であればよく、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形であればよい。
【0072】
第2変形例から理解されるように、電圧値Voが閾値Vox以上の場合に、電力変換装置A1の制御回路2が指令信号Xu,Xv,Xwとして用いる信号は、二相変調信号X2u,X2v,X2wに限定されず、三相変調信号X3u,X3v,X3wから生成された、垂直に立ち上がる部分および垂直に立ち下がる部分を含まない波形の信号であればよい。
【0073】
〔第2実施形態〕
図9は、第2実施形態に係る電力変換装置A2の全体構成を示すブロック図である。図9において、上記第1実施形態と同一または類似の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付している。本実施形態に係る電力変換装置A2は、切替部24に設定される閾値Voxが可変である点で、第1実施形態に係る電力変換装置A1と異なる。
【0074】
本実施形態に係る電力変換装置A2は、電圧センサ6をさらに備えている。電圧センサ6は、インバータ回路1の入力側に配置され、電力変換装置A1の入力直流電圧を検出する。電圧センサ6は、検出した入力直流電圧の電圧値Viを制御回路2に出力する。制御回路2は、閾値設定部26をさらに備えている。閾値設定部26は、電圧センサ6から入力される電圧値Viに基づいて、閾値Voxを設定する。電圧値Viが小さいほど、過変調になる出力電圧が小さくなる。したがって、閾値設定部26は、電圧値Viが小さいほど、閾値Voxを小さい値に設定する。
【0075】
本実施形態においても、切替部24は、電圧値Voが閾値Vox未満の場合、三相変調信号X3u,X3v,X3wを出力し、電圧値Voが閾値Vox以上の場合、二相変調信号X2u,X2v,X2wを出力する。したがって、電力変換装置A2は、二相変調方式と比較して、ノイズフィルタの磁気飽和を抑制でき、かつ、三相変調方式と比較して、スイッチング損失を抑制できる。また、電力変換装置A2の変調方式は、三相変調方式で過変調になる前に、二相変調方式に切り替えられる。また、制御回路2が指令信号Xu,Xv,Xwを切り替えて用いるだけなので、ソフトウエアの対策だけで実施でき、電力変換装置A1のハードウエアに制限を設ける必要がない。また、電力変換装置A2は、電力変換装置A1と共通する構成により、電力変換装置A1と同様の効果を奏することができる。さらに、本実施形態によると、閾値設定部26が、電圧センサ6から入力される入力直流電圧の電圧値Viに基づいて、閾値Voxを設定する。したがって、電力変換装置A2は、閾値Voxが固定値である場合と比較して、閾値Voxをより適切な値に設定できる。
【0076】
本発明に係る電力変換装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る電力変換装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0077】
A1,A2:電力変換装置、1:インバータ回路、2:制御回路、21:フィードバック制御部、22:二相変調信号生成部、3:直流側対地ノイズフィルタ、4:交流側対地ノイズフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9