IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特開-電極体 図1
  • 特開-電極体 図2
  • 特開-電極体 図3
  • 特開-電極体 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085258
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】電極体
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240619BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240619BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20240619BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240619BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/13
H01M10/04 Z
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199695
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】大野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】和泉 潤
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕介
【テーマコード(参考)】
5H028
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H028CC07
5H028HH05
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029BJ12
5H029HJ04
5H029HJ07
5H029HJ12
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050FA10
5H050FA15
5H050HA04
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】本開示は、電池のサイクル特性を良好にできる電極体を提供することを主目的とする。
【解決手段】本開示においては、厚さ方向において、第1電極層、セパレータ層、接着剤層および第2電極層をこの順に有する電極体であって、上記第1電極層は、上記セパレータ層と対向する面に、少なくとも1つの溝を有し、上記溝は、上記厚さ方向に直交する第1方向から平面視した場合、上記セパレータ層に接触しない底部と、上記底部の両端に配置され、一端が上記底部に接続され、他端が上記セパレータ層に接続された壁部と、を有し、上記溝は、上記厚さ方向から平面視した場合、上記第1電極層の端部を少なくとも含むように延在し、上記溝の体積をVaとし、上記第2電極層の体積をVbとした場合、上記Vbに対する上記Vaの割合は、0.1%以上である、電極体を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向において、第1電極層、セパレータ層、接着剤層および第2電極層をこの順に有する電極体であって、
前記第1電極層は、前記セパレータ層と対向する面に、少なくとも1つの溝を有し、
前記溝は、前記厚さ方向に直交する第1方向から平面視した場合、前記セパレータ層に接触しない底部と、前記底部の両端に配置され、一端が前記底部に接続され、他端が前記セパレータ層に接続された壁部と、を有し、
前記溝は、前記厚さ方向から平面視した場合、前記第1電極層の端部を少なくとも含むように延在し、
前記溝の体積をVaとし、前記第2電極層の体積をVbとした場合、前記Vbに対する前記Vaの割合は、0.1%以上である、電極体。
【請求項2】
前記第1方向における前記溝の断面積が、8000μm以上である、請求項1に記載の電極体。
【請求項3】
前記厚さ方向において、前記溝の深さが、4μm以上である、請求項1に記載の電極体。
【請求項4】
前記電極体を前記厚さ方向から平面視した場合、
前記電極体は、前記溝、前記セパレータ層および前記第2電極層が重複する位置に、前記接着剤層を有しない、請求項1に記載の電極体。
【請求項5】
前記第1電極層が、正極活物質層である、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の電極体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極体に関する。
【背景技術】
【0002】
電池に用いられる電極体は、正極活物質層と、セパレータ層と、負極活物質層とを通常有する。また、電池の充放電で生じるガスを電極体外へ排出する方法が検討されている。例えば特許文献1には、活物質層で発生したガスが活物質層と接着層(接着剤層)との間に留まることを抑制できる蓄電装置において、弱接着部および強接着部を有する接着層を用いることが開示されている。また、特許文献2には、負極活物質のバインダーとして水系バインダーを用いた場合に、発生したガスを効率的に電極外へ排出させる手段として、負極活物質層のセパレータ側の表面、または、セパレータの負極活物質層側の表面に、ガス流路を設けることが開示されている。また、ガスの排出に直接関していないが、特許文献3には、第1電極、第1分離膜、第2電極及び第2分離膜が順次積層され、4層構造を形成する基本単位が次々と積層される電極集合体が開示され、分離膜として、セパレータの表面に付着力を有するコーティング物質をコーティングして得られた膜を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-026679号公報
【特許文献2】国際公開第2014/157423号
【特許文献3】国際公開第2013/176500号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば電極層でガスが発生した場合、内圧が上昇して、電極層と接着剤層を介して積層されたセパレータ層が剥がれる場合がある。セパレータ層の剥がれが生じた場合、電極層間の距離が不均一となり、電池のサイクル特性(容量維持率)が低下する場合がある。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、電池のサイクル特性を良好にできる電極体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]
厚さ方向において、第1電極層、セパレータ層、接着剤層および第2電極層をこの順に有する電極体であって、上記第1電極層は、上記セパレータ層と対向する面に、少なくとも1つの溝を有し、上記溝は、上記厚さ方向に直交する第1方向から平面視した場合、上記セパレータ層に接触しない底部と、上記底部の両端に配置され、一端が上記底部に接続され、他端が上記セパレータ層に接続された壁部と、を有し、上記溝は、上記厚さ方向から平面視した場合、上記第1電極層の端部を少なくとも含むように延在し、上記溝の体積をVaとし、上記第2電極層の体積をVbとした場合、上記Vbに対する上記Vaの割合は、0.1%以上である、電極体。
【0007】
[2]
上記第1方向における上記溝の断面積が、8000μm以上である、[1]に記載の電極体。
【0008】
[3]
上記厚さ方向において、上記溝の深さが、4μm以上である、[1]または[2]に記載の電極体。
【0009】
[4]
上記電極体を上記厚さ方向から平面視した場合、上記電極体は、上記溝、上記セパレータ層および上記第2電極層が重複する位置に、上記接着剤層を有しない、[1]から[3]までのいずれかに記載の電極体。
【0010】
[5]
上記第1電極層が、正極活物質層である、[1]から[4]までのいずれかに記載の電極体。
【発明の効果】
【0011】
本開示においては、電池のサイクル特性を良好にできる電極体を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示における電極体を例示する概略平面図である。
図2】本開示における課題が生じるメカニズムを説明する概略断面図である。
図3】本開示における効果を説明する概略断面図である。
図4】本開示における溝を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示における電極体について、詳細に説明する。本明細書において、ある部材に対して他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」または「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上または直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方または下方に、別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0014】
図1は、本開示における電極体を例示する概略平面図である。より具体的には、図1(a)は、電極体を、厚さ方向(Z方向)と直交する第1方向(X方向)からみた概略平面図である。図1(b)は、図1(a)に示した電極体を、厚さ方向において、第2電極層側からみた概略平面図である。なお、図1(b)において、セパレータ層、接着剤層および第2電極層は省略している。図1(a)に示すように、電極体10は、厚さ方向Zにおいて、第1電極層1、セパレータ層2、接着剤層3および第2電極層4をこの順に有する。また、第1電極層1は、セパレータ層2と対向する面Pに、少なくとも1つの溝Uを有する。後述する図4(b)に示すように、溝Uは、セパレータ層2に接触しない底部Uaと、底部Uaの両端に配置され、一端が底部Uaに接続され、他端がセパレータ層2に接続された壁部Ubと、を有している。また、図1(b)に示すように、溝Uは、厚さ方向Zから平面視した場合、第1電極層1の端部を少なくとも含むように延在している。さらに、溝Uの体積をVaとし、第2電極層4の体積をVbとした場合、上記Vbに対する上記Vaの割合は、0.1%以上である。
【0015】
本開示によれば、第1電極層が所定の溝を有するため、電池のサイクル特性を良好にできる電極体となる。
【0016】
ここで、本開示において課題が生じるメカニズムおよび効果について図を用いて説明する。なお、図2および図3においては接着剤層を省略している。例えば、図2(a)に示すように、電池の充放電に起因して第2電極層104にガスが発生する場合があり、また、ガスの発生に面ムラが生じる場合がある。また、第1電極層101が溝を有していない場合、セパレータ層102に対して第1電極層が厚さ方向(Z方向)に付与する荷重(垂直抗力)が面でほぼ均一となる。その場合、図2(b)に示すように、第2電極層104の端部(側面部)で生じたガスは側面部から排出されると考えられるが、第2電極層104の中央部で生じたガスは、第1電極層101側(セパレータ層102側)に移動し、内圧が上昇してセパレータ層102を押し上げ、部分剥がれが生じる場合がある。充放電を繰り返すと、このような部分剥がれをした箇所に気泡がたまりやすくなり、電池のサイクル特性が悪化する恐れがある。また、電池の充放電において、ガスの面だまりが異なる箇所で発生した場合、異なる部分で第2電極層の部分剥がれが発生し、結果として、第2電極層の大部分において剥がれが生じる恐れがあり、電池のサイクル特性がより劣化する恐れがある。なお、ガスの発生に面ムラが発生していない場合でも、接着剤層において接着力のばらつきが生じてしまった場合、上記と同様の理由から電池のサイクル特性が悪化する恐れがあると考えらえる。ここで、接着材層の割合を増やす(厚くする)ことでも、剥がれを抑制できる可能性はあるが、接着剤層が抵抗阻害となり電池のサイクル特性が悪化すると考えられる。また、電極体の製造コストが上昇する恐れがある。
【0017】
これに対して、図3(a)~(d)に示すように、本開示における電極体10は、第1電極層1が所定の溝Uを有しているため、意図的にセパレータ層2に付与する荷重(垂直抗力)を低くする箇所を設けることができる。その結果、ガスの発生により内圧(ガス圧)が上昇すると、ガスは、垂直抗力が低い溝Uに集中する。通常セパレータ層は弾性を有するため、ガスが集中した部分のセパレータ層2は弾性変形して、ガスの抜け弁として作用する。なお、ガスが十分に排出された後は、再度セパレータ層が弾性変形して元に戻る。このように、本開示における電極体は、意図的にガスが集中および排出される箇所を設けることで、電極層の剥がれを抑制でき、電池のサイクル特性を良好にすることができる。なお、上述した特許文献2には、所定のガス流路を設けることが開示されているのみで、本開示のような所定の溝を設けることは、一切記載も示唆もされていない。
【0018】
1.第1電極層
本開示における第1電極層は、所定の溝を有する。
【0019】
本開示における溝を、図4を用いて説明する。図4(a)は、第1電極層を第1方向(X方向)からみた概略平面図である。図4(b)は、図4(a)における点線部分を拡大した図である。図4(c)は、第1電極層を厚さ方向(Z方向)において溝側からみた概略平面図である。
【0020】
図4(a)~(c)に示すように、第1電極層1は、少なくとも1つの溝Uを有する。溝の数は1つであってもよく、2つ以上であってもよい。溝が1つの場合、溝の位置は、第1第1方向(X方向)と直交する第2方向(Y方向)における、第1電極層の中央部分に形成されていることが好ましい。また、溝が2つ以上の場合、複数の溝は、第1電極層の第2方向(Y方向)において等間隔に形成されていてもよく、等間隔に形成されていなくてもよい。
【0021】
図4(a)および(b)に示すように、溝Uは、セパレータ層(不図示)と対向する第1電極層1の面Pに形成されている。また、溝Uは、第1方向Xから平面視した場合、セパレータ層に接触しない底部Uaと、底部Uaの両端に配置され、一端が底部Uaに接続され、他端がセパレータ層に接続された壁部Ubと、を有する。なお、「セパレータ層に接触しない底部」とは、セパレータ層が弾性変形していない状態において、底部がセパレータ層に接触しないことを意味する。また、セパレータ層が弾性変形している状態においては、底部はセパレータ層と接触してもよく、接触しなくてもよい。
【0022】
ここで、図4(a)に示すように、第2方向における第1電極層の長さ(第1電極層の幅)をW1とする。また、図4(b)に示すように、第2方向における底部の長さ(溝の幅)をW2とする。W1に対するW2の割合(W2/W1)の割合は、例えば、0.01以上、0.1以下である。
【0023】
W1およびW2は特に限定されず、電極体のサイズに応じて適宜調整できる。W1は、例えば50mm以上、200mm以下である。W2は、例えば1mm(1000μm)以上、5mm(5000μm)以下である。
【0024】
また、図4(b)に示すように、第1方向Xから平面視した場合において、厚さ方向(Z方向)における第1電極層の長さ(第1電極層の厚さ)をH1とし、溝Uの長さ(溝の深さ)をH2とする。なお、H2は、図4(b)に示すように、厚さ方向Zにおける第1電極層1の面Pから底部Uaまでの長さと捉えることができる。第1電極層の長さH1に対する溝の深さH2の割合(H2/H1)は、例えば、0.06以上、0.86以下である。
【0025】
H1は、例えば10μm以上、100μm以下である。H2は、例えば4μm以上、86μm以下である。
【0026】
第1方向Xから平面視した場合における溝の形状(平面形状)は特に限定されない。溝の形状は、例えば、正方形、長方形、セパレータ層側が長辺である台形およびセパレータ層側が短辺である台形等の矩形、ならびに、半円および楕円等の円形を挙げることができる。なお、溝の形状(平面形状)とは、底部と、2つの壁部と、2つの壁部がそれぞれセパレータ層に接続する2点とを結んだ線と、から構成される閉じられた領域の形状と捉えることができる。
【0027】
また、図4(c)に示すように、溝Uは、厚さ方向Zから平面視した場合、第1電極層1の端部を少なくとも含むように延在している。特に、溝Uは、第1方向Xにおいて第1電極層1を貫通するように延在することが好ましい。また、溝Uの延在方向は、第1方向Xと平行であることが好ましい。
【0028】
なお、溝が、第1方向において第1電極層を貫通し、かつ、溝の延在方向が第1方向Xと平行である場合、図4(c)に示すように、第1方向Xにおける溝Uの延在方向の長さ(溝の奥行)Dは、第1電極層1の第1方向Xにおける長さ(第1電極層の奥行)と捉えることができる。Dの範囲は、例えば100mm以上、200mm以下である。
【0029】
ここで、第1電極層における第1方向における長さ(上記D)と、第2方向における長さ(上記W1)との関係は特に限定されないが、DがW1よりも長いことが好ましい。言い換えると、第1方向が第1電極層の長手方向であり、第2方向が第1電極層の短手方向であることが好ましい。つまり、溝は、第1電極層の長手方向に延在していることが好ましい。
【0030】
ここで、第1方向における溝の断面積が、8000μm以上であることが好ましい。断面積は、10000μm以上であってもよく、50000μm以上であってもよく、100000μm以上であってもよい。一方、溝の断面積は、例えば150000μm以下である。溝の断面形状は、上述した溝の平面形状と同一であることが好ましい。
【0031】
また、本開示における溝は、後述する第2電極層との間で、所定の体積の関係を有する。溝の体積をVaとし、第2電極層の体積をVbとした場合、Vbに対するVaの割合は、0.1%以上であり、0.3%以上であってもよく、0.5%以上であってもよく、1.0%以上であってもよい。一方、Vbに対するVaの割合は、例えば2.0%以下であり、1.8%以下であってもよく、1.5%以下であってもよい。
【0032】
ここで、溝の体積Vaは、上述した溝の平面形状および断面形状に基づいて適宜算出することができる。例えば、図4に示すように、溝の平面形状および断面形状が正方形または長方形であった場合、溝の体積Vaは、上述したW2と、H2と、Dとの積により求めることができる。なお、溝の体積は、第1電極層が有する開口部の体積と捉えることもできる。
【0033】
なお、第1電極層が上述した溝を複数有する場合、上述したW2、H2およびVaはそれぞれの溝において同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0034】
本開示における第1電極層は、少なくとも活物質を含有する。活物質は正極活物質であってもよく、負極活物質であってもよいが、前者が好ましい。つまり、第1電極層は正極活物質層であることが好ましい。正極活物質としては、例えば、酸化物活物質および硫黄(S)が挙げられる。酸化物活物質としては、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質が挙げられる。正極活物質の形状は、例えば粒子状である。負極活物質としては、例えば、Li、Si等の金属活物質、グラファイト等のカーボン活物質、LiTi12等の酸化物活物質が挙げられる。負極活物質の形状は、例えば、粒子状、箔状である。
【0035】
また、第1電極層は、導電材、電解質およびバインダーの少なくとも1つを含有していてもよい。導電材としては、例えば、炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。電解質としては、例えば非水溶媒と支持塩とを含有する非水電解質が挙げられる。非水溶媒としては、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を挙げることができる。支持塩としては、例えば、LiPF等のリチウム塩を挙げることができる。また、バインダーとしては、例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダーが挙げられる。
【0036】
溝を有する第1電極層は、基板上に少なくとも上記活物質を含有する合材を塗布し、その上にさらに上記合材をストライプ塗工することで作製することができる。また、基板上に上記合材を塗布することで、平坦な電極層(前駆体層)を作製し、前駆体層に対してレーザー加工することによって作製することもできる。
【0037】
2.セパレータ層
本開示におけるセパレータ層は、電極体の厚さ方向において第1電極層と接着剤層との間に配置される層である。セパレータ層は、後述する接着剤層により第2電極層と接着されている。また、セパレータ層は、接着剤を含有するコーティング層を介して第1電極層と接着されていてもよい。
【0038】
通常、セパレータ層には、電荷担体であるイオン(例えばリチウムイオン)を通過させる微細な孔が複数形成されており、微細孔を介して充放電時の電荷担体の移動が行われる。セパレータ層には、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、ポリアミド等の絶縁性樹脂を用いることができる。
【0039】
セパレータ層の厚さは、例えば、10μm以上、30μm以下である。また、電極体の厚さ方向から平面視したセパレータ層の大きさは、第1電極層と同じであってもよく、第1電極層よりも大きくてもよい。
【0040】
3.接着剤層
本開示における接着剤層は、電極体の厚さ方向においてセパレータ層と第2電極層との間に配置される層であり、セパレータ層と第2電極層との接着を行う層である。
【0041】
ここで、電極体を厚さ方向から平面視した場合、接着剤層は、溝と重複する位置に第1接着部と、溝部と重複しない位置に第2接着部と、を有することが好ましい。また、第1接着部における第2電極層との接着力は、第2接着部における第2電極層との接着力よりも小さいことが好ましい。第1接着部および第2接着部における接着力は、接着剤の種類を変更することで調整することができる。
【0042】
上記のように第1接着部および第2接着部を設けることで、溝と接するセパレータ層の部分において、よりセパレータ層を弾性変形させることができ、効果的にガスを排出することができる。
【0043】
また、電極体を厚さ方向から平面視した場合、電極体は、溝、セパレータ層および第2電極層が重複する位置に、接着剤層を有しないことが好ましい。
【0044】
上記のように所定の位置に接着剤層を設けないことで、溝と接するセパレータ層の部分において、よりセパレータ層を弾性変形させることができ、効果的にガスを排出することができる。
【0045】
接着剤層は、少なくとも接着剤を含有する層である。特に接着剤層は、接着剤と導電材を含有する導電性接着剤であることが好ましい。接着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素含有樹脂、および、アクリル系接着剤等を挙げることができる。
【0046】
4.第2電極層
本開示における第2電極層は、第1電極層とは極性の異なる層であり、接着剤層によりセパレータ層と接着されている。
【0047】
第2電極層は少なくとも活物質を含有し、導電材、電解質およびバインダーの少なくとも1つを含有していてもよい。活物質、導電材、電解質およびバインダーについては、上述したとおりである。第2電極層は、上記活物質として少なくとも負極活物質を含有する負極活物質層であることが好ましい。
【0048】
第2電極層の厚さは、例えば、10μm以上、100μm以下である。また、電極体の厚さ方向から平面視した第2電極層の大きさは、第1電極層と同じであってもよく、第1電極層よりも大きくてもよい。
【0049】
5.電極体
本開示における電極体は、第1電極層から電子を集電する第1集電体と、第2電極層から電子を集電する第2集電体とを、通常有する。第1集電体および第2集電体の材料は、正極集電体および負極集電体として用いられる従来公知の材料とすることができる。
【0050】
また、電極体は、電池に用いられる。電池は上述した電極体を積層した積層体であってもよく、上述した電極体を捲回した捲回体であってもよい。電池の種類はリチウムイオン二次電池であることが好ましい。電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0051】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0052】
[実施例1]
(電極体の作製)
正極活物質層(第1電極層)が1つの溝を有する電極体を作製した。溝は正極活物質層の長手方向において正極活物質層を貫通するように形成した。また、溝の平面形状および断面形状は、図4(b)に示すような四角形とした。また、接着剤層は、厚さ方向において溝と重複しない部分にのみ設けた。電極体においては、正極活物質層および負極活物質層のセットが7つとなるように設計した(容量:5Ah)。なお、各層は80℃、1MPa、1minの条件で加圧することで接着した。
【0053】
正極活物質層の幅(第2方向Yにおける長さ)は100mmとし、奥行(第1方向Xにおける長さ、溝の奥行)は150mmとし、厚さは70μmとした。負極活物質層(第2電極層)の幅は104mmとし、奥行は154mmとし、厚さは75μmとした。溝のサイズおよび負極活物質層(第2電極層)の体積に対する溝の体積の割合については表1に記載する。
【0054】
(評価用電池の作製)
作製した電極体にタブリードを超音波接合にて接合し、袋状のラミネートに入れた。電解液を注液後、-100KPaにて真空シールを行った。このようにして評価用電池(リチウムイオン二次電池)を作製した。
【0055】
[実施例2~実施例8]
溝のサイズおよび体積割合を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして電極体および評価用電池を作製した。
【0056】
[比較例1]
正極活物質層に溝を設けなかったこと、接着剤層を、セパレータ層と対向する負極活物質層の面の全てに設けたこと、以外は、実施例1と同様にして、電極体および評価用電池を作製した。
【0057】
[比較例2~比較例6]
溝のサイズおよび体積割合を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして電極体および評価用電池を作製した。
【0058】
[評価]
(サイクル試験)
作製した各評価用電池を、電解液を十分に含浸させるため24h常温放置した。その後、拘束をせずに、0.5C電流にて4.2Vまで初回充電を行った。初回充電後の各評価用電池を、45℃、0.5C、2.5V-4.2V、CCCVにて、500サイクル充放電を行い、1サイクル目と500サイクル目の放電容量の変化から容量維持率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0059】
また、サイクル試験後に、完全放電した各評価用電池を解体し、接着はがれの有無を確認した。結果を表2に示す。容量維持率が90%以上、かつ、接着剥がれがない場合を良好とした(判定〇)。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表1および表2に示すように、正極活物質層(第1電極層)が溝を有し、かつ、溝の割合が0.1%以上の場合、電極体において接着剥がれが確認されず、容量維持率も90%以上と良好な結果となった。この結果から、本開示における電極体を電池に用いることで、電池のサイクル特性が良好となることが確認された。
【符号の説明】
【0063】
1 …第1電極層
2 …セパレータ層
3 …接着剤層
4 …第2電極層
10 …電極体
U …溝
Ua …底部
Ub …壁部
図1
図2
図3
図4