(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085294
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240619BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
F16F15/02 C
E04H9/02 351
E04H9/02 341D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199754
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳也
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AB13
2E139AC19
2E139BA15
2E139BB02
2E139BB26
2E139BB37
2E139BB42
2E139BD22
3J048AC05
3J048AD07
3J048BF05
3J048BF14
3J048CB22
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】制振装置において、減衰特性の調整作業における作業性の向上を図り、且つ、軽量の錘で減衰性能の向上を図る。
【解決手段】鉛直方向に延びて配置される壁面100に設置される制振装置10であって、錘部材11と、錘部材11の鉛直方向上側と連結され、鉛直方向に延在し、壁面100に直交する方向に振動可能な板ばね12と、板ばね12の鉛直方向上側の端部を支持し、壁面100に固定されるフレーム13と、フレーム13と連結し、板ばね12の支持位置を変更し、錘部材11と支持位置との距離を変更させる調整機構14と備える。また、錘部材11とフレーム13との間にナット22とボルト23と回転錘部材24,25から構成される慣性質量機構21を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延びて配置される壁面に設置される制振装置であって、
錘部材と、
前記錘部材の鉛直方向上側と連結され、鉛直方向に延在し、前記壁面に直交する方向に振動可能な板ばねと、
前記板ばねの鉛直方向上側の端部を支持し、前記壁面に固定されるフレームと、
前記フレームと連結し、前記板ばねの支持位置を変更し、前記錘部材と前記支持位置との距離を変更させる調整機構と、を備える制振装置。
【請求項2】
前記調整機構は、前記板ばねと連結する鉛直方向に位置を段階的に切り替えて、前記錘部材と前記支持位置との距離を段階的に変更させる請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記フレームに回転自在に支持され、前記錘部材に連結し、前記錘部材の前記壁面に直交する方向に振動する力を回転方向に変換する慣性質量機構を有する請求項1または請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記慣性質量機構は、前記錘部材に固定されたナットと、
前記ナットに挿入され、前記ナットの移動に対応して回転し、両端が前記フレームに回転自在に支持されるボルトと、
前記ボルトと一体に回転する回転錘部材と、を有する請求項3に記載の制振装置。
【請求項5】
前記フレームは、前記調整機構の可動範囲に対応する領域に形成された開口と、前記開口に設置された扉と、を有する請求項1に記載の制振装置。
【請求項6】
前記錘部材の鉛直方向下側に配置され、前記錘部材の壁面に直交する方向の振動を減衰する減衰機構を有する請求項1に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔、タワー、高層建物などの建築物は、台風などの強風を受けたり、地震動による力を受けたりすることで大きな揺れを生じやすい。そのため、建築物に入力する振動エネルギーを吸収して減衰させるものとして制振装置が知られている。制振装置は、例えば、左右に振動する建築物の壁などに設けられる。このような制振装置としては、例えば、下記特許文献に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制振装置は、一般的に、錘とばね部材などを用いて構成される。また、制振装置は、振動体である壁などの固有振動数に応じて錘の質量やばね部材のばね定数を変更したり、錘の位置やばね部材の長さを変更したりすることで、減衰特性を調整する必要がある。ところが、従来の制振装置は、減衰特性の調整作業が困難であり、作業性が良くないという課題がある。また、従来の制振装置は、設置スペースが小さいため、制振装置自体や錘も小さくなり、大きな減衰特性を得ることができないという課題もある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、減衰特性の調整作業における作業性の向上を図り、且つ、軽量の錘で減衰性能の向上を図る制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための制振装置は、鉛直方向に延びて配置される壁面に設置される制振装置であって、錘部材と、前記錘部材の鉛直方向上側と連結され、鉛直方向に延在し、前記壁面に直交する方向に振動可能な板ばねと、前記板ばねの鉛直方向上側の端部を支持し、前記壁面に固定されるフレームと、前記フレームと連結し、前記板ばねの支持位置を変更し、前記錘部材と前記支持位置との距離を変更させる調整機構と、を備える。
【0007】
本発明の制振装置の望ましい態様として、前記調整機構は、前記板ばねと連結する鉛直方向に位置を段階的に切り替えて、前記錘部材と前記支持位置との距離を段階的に変更させる。
【0008】
本発明の制振装置の望ましい態様として、前記フレームに回転自在に支持され、前記錘部材に連結し、前記錘部材の前記壁面に直交する方向に振動する力を回転方向に変換する慣性質量機構を有する。
【0009】
本発明の制振装置の望ましい態様として、前記慣性質量機構は、前記錘部材に固定されたナットと、前記ナットに挿入され、前記ナットの移動に対応して回転し、両端が前記フレームに回転自在に支持されるボルトと、前記ボルトと一体に回転する回転錘部材と、を有する。
【0010】
本発明の制振装置の望ましい態様として、前記フレームは、前記調整機構の可動範囲に対応する領域に形成された開口と、前記開口に設置された扉と、を有する。
【0011】
本発明の制振装置の望ましい態様として、前記錘部材の鉛直方向下側に配置され、前記錘部材の壁面に直交する方向の振動を減衰する減衰機構を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の制振装置によれば、減衰特性の調整作業における作業性の向上を図ることができると共に、軽量の錘で減衰性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態の制振装置を表す縦断面図(
図2のI-I断面図)である。
【
図2】
図2は、制振装置を表す
図1のII-II断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる、均等の範囲のものが含まれる。さらに、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0015】
[実施形態]
図1は、本実施形態の制振装置を表す縦断面図(
図2のI-I断面図)、
図2は、制振装置を表す
図1のII-II断面図である。
【0016】
<制振装置の構成>
図1および
図2に示すように、本実施形態の制振装置10は、鉛直方向に沿う壁面100に設置される。なお、壁面100は、鉛直方向に対して傾斜していてもよい。また、制振装置10は、壁面100に限らず、縦梁などに設置されていてもよい。
【0017】
制振装置10は、錘部材11と、板ばね12と、フレーム13と、調整機構14とを有する。また、制振装置10は、慣性質量機構21を有する。
【0018】
フレーム13は、鉛直方向に沿う中空矩形状をなし、上部および下部に複数(本実施形態では、4個)の取付部31が設けられる。フレーム13は、鉛直方向に沿う辺が水平方向に沿う辺より長い矩形状をなす。フレーム13は、複数の取付部31がボルト32により壁面100に締結されることで固定される。フレーム13は、支持フレーム33と、カバーフレーム34とを有する。支持フレーム33は、水平方向の一方(
図2にて左方)が開口する形状をなし、カバーフレーム34は、鉛直方向の他方(
図2にて右方)が開口する形状をなす。支持フレーム33は、複数の取付部31が設けられ、壁面100に固定される。カバーフレーム34は、支持フレーム33の一方に配置され、例えば、複数のポルト(図示略)により支持フレーム33に一体に固定される。
【0019】
フレーム13は、支持フレーム33とカバーフレーム34が一体に固定されることで、中空形状をなす。すなわち、支持フレーム33は、支持部33aおよび側壁部33bを有し、カバーフレーム34は、カバー部34aおよび側壁部34bを有する。支持部33aとカバー部34aは、同径の矩形状をなし、水平方向に対向して位置する。側壁部33bと側壁部34bは、水平方向および鉛直方向に沿う同径の矩形枠形状をなし、水平方向に対向して位置する。
【0020】
フレーム13は、内部に支持部35が配置される。支持部35は、フレーム13の上部の内側に一体に設けられる。支持部35は、支持フレーム33における鉛直方向の上部で、内面に一体に設けられる。支持部35は、水平方向に長い長方形状をなすブロック形状をなし、支持フレーム33の上部で、支持部33aおよび側壁部33bに密着して配置される。支持部35は、水平方向の一端面に位置が支持フレーム33の側壁部33bの一端面に位置と同じであり、段差なく連続する。なお、フレーム13と支持部35は、別体に形成して一体に固定してもよいし、一体に形成してもよい。
【0021】
板ばね12は、フレーム13の内部で鉛直方向に沿って配置される。板ばね12は、2個の板ばね部材41,42を有する。すなわち、板ばね12は、複数の板ばね部材41,42から構成される。但し、板ばね12を構成する板ばね部材41,42の数は、2個に限定されず、1個でも3個以上であってもよい。板ばね部材41,42は、同様の形状をなす。すなわち、板ばね部材41,42は、厚さ方向が水平方向であり、壁面100に対向して配置され、壁面100に直交する水平方向(厚さ方向)に変形して振動可能である。板ばね部材41,42は、フレーム13の内部に水平方向である幅方向に間隔を空けて配置される。板ばね12としての板ばね部材41,42は、長手方向(延在方向)の上端部がフレーム13の支持部35にボルト43,44により固定される。
【0022】
錘部材11は、板ばね12に対して鉛直方向の下方に設けられる。錘部材11は、板ばね12と同様に、フレーム13の内部で鉛直方向に沿って配置される。板ばね12は、錘部材11の鉛直方向の上方に配置される。錘部材11は、矩形の板形状をなし、板ばね12の厚さより厚い。板ばね12は、長手方向(延在方向)の下端部が錘部材11の上端部に連結される。すなわち、錘部材11は、上端部における厚さ方向の中間部に切欠部51が設けられる。切欠部51は、錘部材11の幅方向に沿って設けられ、鉛直方向の上方が開口し、厚さが板ばね12の厚さより若干厚い。板ばね12としての板ばね部材41,42は、長手方向(延在方向)の下端部が錘部材11の切欠部51に挿入され、ボルト45,46により錘部材11に固定される。
【0023】
調整機構14は、フレーム13に連結される。調整機構14は、板ばね12の支持位置を変更し、錘部材11と支持位置との距離を変更させる。すなわち、調整機構14は、板ばね12と連結する鉛直方向に位置を段階的に切り替えることで、錘部材11と支持位置との距離を段階的に変更させる。
【0024】
調整機構14は、フレーム13に設けられ、板ばね12としての板ばね部材41,42を支持可能である。すなわち、調整機構14は、支持部35と錘部材11との間に配置された板ばね部材41,42における長手方向の中間部をフレーム13に支持可能である。調整機構14は、板ばね部材41,42の長手方向に沿って移動可能であると共に、板ばね部材41,42の長手方向における所定の位置を支持してフレームに連結可能である。調整機構14は、支持体61と、複数(本実施形態では、4個)の支持ボルト62と、複数(本実施形態では、2個)の連結ボルト63と、複数の調整用ねじ部64とを有する。
【0025】
支持体61は、一対の支持部材61a,61bを有する。支持部材61a,61bは、板ばね部材41,42の表面側と裏面側で板ばね部材41,42の幅方向に沿って配置され、板ばね部材41,42を表裏から挟持する。支持部材61a,61bは、板ばね部材41,42を表裏から挟持した状態で、支持部材61a,61bの長手方向の両端部同士が複数の支持ボルト62により一体に連結可能である。すなわち、支持部材61a,61bは、複数の支持ボルト62を締結すると、板ばね部材41,42を挟持して板ばね部材41,42と一体に連結される。一方、支持部材61a,61bは、複数の支持ボルト62を弛緩すると、板ばね部材41,42の挟持が解除されて板ばね部材41,42に対して移動自在となる。
【0026】
2個の連結ボルト63は、板ばね部材41,42の間で、支持体61の表面側から支持部材61a,61bを貫通し、支持フレーム33側に延出する。複数の調整用ねじ部64は、雌ねじであって、支持フレーム33の内面に形成される。複数の調整用ねじ部64は、板ばね12の幅方向に間隔を空けて形成された2個で一対をなす。2個で一対をなす調整用ねじ部64は、板ばね12の長手方向に間隔を空けて複数対配置される。2個の連結ボルト63は、支持部材61a,61bを貫通した先端部が複数の調整用ねじ部64のいずれか2個に螺合可能である。
【0027】
調整機構14にて、まず、連結ボルト63を回転して調整用ねじ部64との螺合を解除し、フレーム13に対する支持体61の連結を解除する。次に、支持ボルト62を弛緩して支持部材61a,61bによる板ばね部材41,42の挟持を解除する。そして、支持体61(支持部材61a,61b)を板ばね部材41,42の長手方向(鉛直方向)に沿って移動し、所定位置に停止する。ここで、支持ボルト62を締結して支持部材61a,61bにより板ばね部材41,42を挟持する。続いて、連結ボルト63を回転して調整用ねじ部64に螺合し、フレーム13に対して支持体61を連結する。
【0028】
調整機構14は、フレーム13に対して支持体61による板ばね12の支持位置を変更し、錘部材11と支持位置との距離を変更するものである。板ばね12に対してフレーム13に連結される支持体61の位置を調整することで、錘部材11と支持体61による板ばね12の支持位置との距離を変更することができる。ここで、板ばね12の支持位置とは、板ばね12を支持した支持体61を支持フレーム33に連結する位置であり、距離とは、錘部材11と支持位置との最短距離である。
【0029】
調整機構14は、支持体61による板ばね12の支持位置を変更することで、錘部材11と支持位置との距離を変更する。本実施形態では、支持体61に連結ボルト63を設け、支持フレーム33に連結ボルト63が螺合可能な複数の調整用ねじ部64を板ばね12の長手方向に間隔を空けて複数設けている。そのため、調整機構14は、錘部材11と支持体61による板ばね12の支持位置との距離を段階的に変更することができる。但し、調整機構14は、この構成に限定されるものではない。例えば、支持フレーム33の複数の調整用ねじ部64をなくし、支持体61に設けられた連結ボルト63の先端部を支持フレーム33の内面に押圧することで、支持体61を支持フレーム33に連結し、錘部材11と支持体61による板ばね12の支持位置との距離を連続的に変更可能としてもよい。
【0030】
フレーム13は、カバーフレーム34に開口36と扉37が設けられる。開口36は、カバーフレーム34における調整機構14の可動範囲に対応する領域に形成される。すなわち、開口36は、少なくとも支持体61を支持フレーム33に連結可能な領域、つまり、複数の調整用ねじ部64に対向する領域に設けられる。扉37は、開口36に配置され、開閉自在である。なお、扉37は、開口36を閉止する位置で、図示しないロック装置(例えば、ボルトなど)によりカバーフレーム34に連結可能である。
【0031】
慣性質量機構21は、フレーム13に回転自在に支持され、錘部材11に連結される。慣性質量機構21は、錘部材11の壁面100に直交する方向に振動する力を回転方向に移動する力に変換する。慣性質量機構21は、ナット22と、ボルト23と、回転錘部材24,25と、軸受26,27とを有する。ナット22は、壁面100に直交する軸線Oに沿った位置で錘部材11に固定される。ボルト23は、軸線Oに沿って配置され、ナット22に挿入されて螺合する。ボルト23は、軸方向の一端部が支持フレーム33に固定された軸受26により回転自在に支持され、軸方向の他端部がカバーフレーム34に固定された軸受27により回転自在に支持される。回転錘部材24,25は、同じ円板形状をなし、寸法および重量が同じであることが好ましい。回転錘部材24は、ナット22と軸受26の間でボルト23に固定され、ボルト23と一体に回転する。回転錘部材25は、ナット22と軸受27の間でボルト23に固定され、ボルト23と一体に回転する。
【0032】
そのため、錘部材11が壁面100に直交する軸線Oの方向に沿って移動すると、錘部材11に固定されたナット22が同方向に移動する。すると、ナット22に螺合するボルト23は、軸方向の移動が規制されることで回転し、ボルト23に固定された回転錘部材24,25が同方向に回転する。すなわち、慣性質量機構21は、錘部材11の水平方向の直線移動(振動)をナット22およびボルト23により回転錘部材24,25の回転方向の移動に変換される。
【0033】
また、制振装置10は、減衰機構15を有する。減衰機構15は、錘部材11の鉛直方向の下方に配置される。減衰機構15は、錘部材11の壁面100に直交する水平方向の振動を減衰する。すなわち、減衰機構15は、ケース71と、粘性体72と、軸部73とを有する。ケース71は、錘部材11の下方で、フレーム13の側壁部33b,34bにおける下部内面に固定される。ケース71は、上方が開放される。ケース71は、内部に粘性体72が充填される。粘性体72は、流体または弾性体などである。軸部73は、錘部材11の下部に固定される。軸部73は、錘部材11から下方に延出し、先端部がケース71に充填された粘性体72の内部に挿入されて位置する。
【0034】
なお、上述した減衰機構15の構成は、一例であり、この構成に限定されるものではない。減衰機構15は、例えば、錘部材11と支持フレーム33との間に設けられるばねや弾性体などであってもよい。
【0035】
<制振装置の作動>
図1および
図2に示すように、壁面100が左右(水平方向)に振動すると、壁面100に固定されたフレーム13が一体となって左右に振動する。フレーム13の振動は、内部の支持体61を介して板ばね12に伝達され、板ばね12から錘部材11に伝達される。このとき、板ばね12は、フレーム13に連結された支持体61に支持された上端部(支持位置)を支点として下端部が左右に撓んで変形し、錘部材11が左右に往復動する。ここで、壁面100の水平振動に対して、板ばね12が同期して変形して錘部材11が水平に往復動することで、壁面100の水平振動が吸収されて減衰する。また、錘部材11は、下部に固定された複数の軸部73がフレーム13に固定されたケース71の粘性体72内で左右に移動する。そのため、錘部材11の左右の振動が粘性体72により減衰される。
【0036】
また、錘部材11が左右に往復動すると、錘部材11に固定されたナット22が水平方向に移動する。すると、ナット22に螺合するボルト23が軸方向に移動せずに回転し、ボルト23に固定された回転錘部材24,25が回転する。すると、錘部材11の水平方向の振動により回転錘部材24,25が回転する。水平振動に対して大きく回転するように設計すれば、回転錘部材24,25の重量が小さくても大きな慣性質量が得られる。すなわち、制振装置10としても錘は、錘部材11と回転錘部材24,25の慣性質量となり、見かけの重量が錘部材11単独のときよりも大きくなる。結果として、制振装置10の減衰特性が向上する。
【0037】
<固有振動数の調整>
制振装置10を適切に作動させる場合、壁面100の固有振動数と制振装置10の固有振動数を一致(同調)させる必要がある。本実施形態の制振装置10は、板ばね12の上端部の支持位置を変更することで、板ばね12が変形する実質的な長さを変更し、制振装置10の固有振動数を変化させて壁面100の固有振動数に一致させる。
【0038】
事前に、扉37をフレーム13から取外し、開口36から調整機構14を調整可能とする。そして、まず、連結ボルト63と調整用ねじ部64との螺合を解除し、フレーム13に対する支持体61の連結を解除する。次に、支持ボルト62を弛緩して支持部材61a,61bによる板ばね部材41,42の挟持を解除する。そして、支持体61を板ばね部材41,42の長手方向に沿って移動し、所定の位置で、支持ボルト62により支持部材61a,61bにより板ばね部材41,42を挟持させる。最後に、連結ボルト63を調整用ねじ部64に螺合し、支持体61をフレーム13に連結する。その後、扉37をフレーム13に取付け、開口36を閉止する。
【0039】
例えば、
図2に示すように、支持体61を実線で表す位置に固定する。このとき、板ばね12は、上端部が支持体61を介してフレーム13に支持される。そのため、錘部材11から板ばね12の上端部の支持位置である支持体61(連結ボルト63)までの鉛直方向に沿った距離は、距離L1となる。
【0040】
また、支持体61を下方に移動し、支持体61を二点鎖線で表す位置に固定する。このとき、板ばね12は、上端部が支持体61を介してフレーム13に支持される。そのため、錘部材11から板ばね12の上端部の支持位置である支持体61(連結ボルト63)までの鉛直方向に沿った距離は、距離L1より短い距離L2となる。
【0041】
制振装置10は、錘部材11から板ばね12の上端部の支持位置までの距離L1,L2を変化させると、板ばね12の剛性が変化し、板ばね12の固有振動数が変わる。すなわち、作業者が調整機構14を用いて支持体61を移動するだけで、制振装置10の固有振動数を壁面100の固有振動数に合わせて調整することができ、作業性が向上する。
【0042】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の制振装置は、鉛直方向に延びて配置される壁面100に設置される制振装置10であって、錘部材11と、錘部材11の鉛直方向上側と連結され、鉛直方向に延在し、壁面100に直交する方向に振動可能な板ばね12と、板ばね12の鉛直方向上側の端部を支持し、壁面100に固定されるフレーム13と、フレーム13と連結し、板ばね12の支持位置を変更し、錘部材11と支持位置との距離を変更させる調整機構14と備える。
【0043】
本実施形態の制振装置によれば、調整機構14により板ばね12の支持位置を変更して錘部材11と支持位置との距離を変更可能であり、錘部材11と支持位置との距離を変更することで、制振装置10の固有振動数を変更することができる。その結果、減衰特性の調整作業における作業性の向上を図ることができると共に、軽量の錘部材11で減衰性能の向上を図ることができる。
【0044】
本実施形態の制振装置は、調整機構14が板ばね12と連結する鉛直方向に位置を段階的に切り替えて、錘部材11と支持位置との距離を段階的に変更させる。そのため、錘部材11と支持位置との距離を容易に変更することができる。
【0045】
本実施形態の制振装置は、フレーム13に回転自在に支持され、錘部材11に連結し、錘部材11の壁面100に直交する方向に振動する力を回転方向に変換する慣性質量機構21を有する。そのため、錘部材11における水平方向の振動を慣性質量機構21により回転方向に変換することで、振動する錘の重量が見かけ上大きくなり、錘部材11の振動を効率良く減衰することができ、減衰特性の向上あるいは錘部材11の小型化や軽量化を可能とすることができる。
【0046】
本実施形態の制振装置は、慣性質量機構21として、錘部材11に固定されたナット22と、ナット22に挿入され、ナット22の移動に対応して回転し、両端がフレーム13に回転自在に支持されるボルト23と、ボルト23と一体に回転する回転錘部材24,25と、を有する。そのため、錘部材11が水平方向に振動すると、錘部材11と共にナット22が水平方向に移動し、ナット22の移動に対応してボルト23が回転し、ボルト23と一体の回転錘部材24,25が回転することで、錘部材11における水平方向の振動を適切に回転方向に変換する。ナット22の水平移動に対してボルト23が大きく回転するように設計すれば、回転錘部材24,25の重量が小さくても大きな慣性質量が得られる。すなわち、制振装置10としても錘は、錘部材11と回転錘部材24,25の慣性質量となり、見かけの重量が錘部材11単独のときよりも大きくなる。結果として、制振装置10の減衰特性が向上あるいは錘部材11の小型化を実現することができる。
【0047】
本実施形態の制振装置は、フレーム13に、調整機構14の可動範囲に対応する領域に形成された開口36と、開口36に設置された扉37が設けられる。そのため、調整機構14による固有振動数の調整作業を容易に行うことで、作業性の向上を図ることができる。
【0048】
本実施形態の制振装置は、錘部材11の鉛直方向下側に配置され、錘部材11の壁面100に直交する方向の振動を減衰する減衰機構15を有する。そのため、減衰機構15により錘部材11および板ばね12の上下動を早期に減衰させることができる。
【符号の説明】
【0049】
10 制振装置
11 錘部材
12 板ばね
13 フレーム
14 調整機構
15 減衰機構
21 慣性質量機構
22 ナット
23 ボルト
24,25 回転錘部材
26,27 軸受
31 取付部
32 ボルト
33 支持フレーム
34 カバーフレーム
35 支持部
36 開口
37 扉
41,42 板ばね部材
43,44,45,46 ボルト
51 切欠部
61支持体
61a,61b 支持部材
62 支持ボルト
63 連結ボルト
64 調整用ねじ部
71 ケース
72 粘性体
73 軸部
100 壁面