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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085305
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】大麦加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240619BHJP
   A23L 33/21 20160101ALN20240619BHJP
   A23L 33/105 20160101ALN20240619BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L33/21
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199768
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】513042414
【氏名又は名称】浦松 亮輔
(71)【出願人】
【識別番号】522305830
【氏名又は名称】株式会社ワークウィズ
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】浦松 亮輔
【テーマコード(参考)】
4B018
4B023
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD49
4B018ME14
4B018MF04
4B018MF07
4B018MF14
4B023LC08
4B023LE26
4B023LG05
4B023LP05
4B023LP07
4B023LP19
4B023LP20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、容器詰めの大麦加工物を、簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】加熱された大麦加工物が充填されてなる容器詰め大麦加工食品の製造方法であって、原料大麦を水に溶解又は分散させて、液状の一次大麦加工物を調製する液化工程と、前記一次大麦加工物を容器に充填し、前記容器を密封する充填工程と、前記容器に充填された前記一次大麦加工物をレトルト加熱し、二次大麦加工物を得る加熱工程と、を備える、容器詰め大麦加工食品の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱された大麦加工物が充填されてなる容器詰め大麦加工食品の製造方法であって、
原料大麦を水に溶解又は分散させて、液状の一次大麦加工物を調製する液化工程と、
前記一次大麦加工物を容器に充填し、前記容器を密封する充填工程と、
前記容器に充填された前記一次大麦加工物をレトルト加熱し、二次大麦加工物を得る加熱工程と、を備える、
容器詰め大麦加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記充填工程が、前記一次大麦加工物を容器に真空充填する工程である、請求項1に記載の容器詰め大麦加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程が、105℃~130℃でレトルト加熱を行う工程である、請求項1に記載の容器詰め大麦加工食品の製造方法。
【請求項4】
前記容器が、レトルト食品用容器である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記容器詰め大麦加工食品が、喫食時に加熱調理を必要としない食品である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記液化工程が、水に浸漬した状態の前記原料大麦を粉砕する工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の製造方法により製造されてなる、容器詰め大麦加工食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α化された大麦加工物が充填されてなる容器詰め大麦加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大麦は、水溶性食物繊維として知られているβ-グルカンを始めとして、様々な栄養素を豊富に含んでおり、予防医学と健康維持の観点から、近年、機能性食材として注目を集めている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
しかし、大麦の利用方法は焼酎、みそ、ビール等の原材料としての用途がほとんどで、食用及び食品加工用としての利用はわずかであった。
そこで、本発明者らは、加工が容易で多種料理、お菓子に利用することができる、大麦加工物を開発している(特許文献3)。
【0004】
しかしながら、特許文献3の大麦加工物は、製造した大麦加工物の流通性、生産性まで検討されているものではなかった。
【0005】
一方、特許文献4には、米ゲルを製造する米ゲル製造システムであって、米原料を撹拌及び加熱する加熱撹拌部を備えた米ゲル製造システムが記載されている。
特許文献4の米ゲル製造システムは、加熱撹拌部が密閉容器内に配されており、かつ排出された糊化物を大気に触れることなく、破砕部に搬送する密閉式搬送部を備えることで、製造した米ゲルの保存性を担保するものである。また、加熱撹拌部が、密閉容器内で回転して当該密閉容器の内周面の付着物を掻き取りながら前記米原料を攪拌する掻き取り式攪拌翼を備えることで、素材ロスを少なくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-06176号公報
【特許文献2】特開2012-60996号公報
【特許文献3】特許6251433号公報
【特許文献4】特開2022―107785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、製造した大麦加工物を、非常食、保存食として開けてすぐ食べられる形式で流通させるためには、十分に殺菌がされている必要がある。また、製造した大麦加工物をそれぞれ個包装する必要がある。
しかし、加熱処理後のα化した大麦加工物は、粘性が高く、かつ粘着性を有するため、個包装に充填する際の取り扱い性に問題があった。特許文献4に記載の発明は、大麦と同じデンプン性食品である米について、米ゲルの取り扱い性、殺菌の問題を解決するシステムではあるが、そのための特別の装置が必要となり、製造コストがかかるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、保存性が担保された容器詰めの大麦加工物を、簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する本発明は、加熱された大麦加工物が充填されてなる容器詰め大麦加工食品の製造方法であって、原料大麦を水に溶解又は分散させて、液状の一次大麦加工物を調製する液化工程と、前記一次大麦加工物を容器に充填し、前記容器を密封する充填工程と、前記容器に充填された前記一次大麦加工物をレトルト加熱し、二次大麦加工物を得る加熱工程と、を備える。
本発明は、原料大麦を水に溶解又は分散させて一次大麦加工物を調製し、当該一次大麦加工物を容器に充填する。一次大麦加工物は、加熱によりα化した二次大麦加工物と異なり粘着性がないため、調理容器に付着することがなく、素材ロスを極めて少なくすることができ、素材ロスを改善するための特別な装置、部材が不要であるため、製造コストを抑えることができる。
また、一次大麦加工物が充填された容器詰め大麦加工食品をそのままレトルト加熱することで、殺菌も行われるため、加熱工程後の容器詰め大麦加工食品を、そのまま流通させることが可能となる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記充填工程が、前記一次大麦加工物を容器に真空充填する工程である。
一次大麦加工物を容器に真空充填することで、保存性をより高めることができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記加熱工程が、105℃~130℃でレトルト加熱を行う工程である。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記容器がレトルト食品用容器である。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記容器詰め大麦加工食品が、喫食時に加熱調理を必要としない食品である。
本発明は、災害時等の非常食、保存食に特に有用である。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記液化工程が、水に浸漬した状態の前記原料大麦を粉砕する工程である。
【0015】
また、前記課題を解決する本発明は、前記製造方法により製造されてなる、容器詰め大麦加工食品である。
本発明の容器詰め大麦加工食品は、保存性に優れ、糊化後のでんぷん質の老化が長期間抑制される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、流通性、保存性が担保された容器詰めのα化した大麦加工物を、特別な装置、部材等を必要とせず、簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の容器詰め大麦加工食品の製造方法を表わしたスキームである。
図2】製造した容器詰め大麦加工食品(未開封)の図面代用写真である。
図3】製造した容器詰め大麦加工食品における、レトルト加熱後の二次大麦加工物の図面代用写真である。(a)うるち種を使用し、未加糖のもの、(b)うるち種を使用し、加糖したもの、(c)もち種を使用し、未加糖のもの、(d)もち種を使用し、加糖したものを、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の容器詰め大麦加工食品に用いる原料大麦としては、大麦粉、及び大麦粒の何れを用いてもよい。製造コストを抑える観点からは、大麦粒を用いることが好ましい。
原料大麦における大麦の種類は特に限定されず、二条大麦及び六条大麦のいずれを用いてもよく、皮麦及びはだか麦のいずれを用いてもよく、うるち種ともち種のいずれを用いても良い。
本発明に用いる大麦の種類として、うるち種を用いることが好ましい。
うるち種を用いることで、経時的な変化が小さく、やわらかさを維持することができる一次大麦加工物を製造することができる。
【0019】
また、大麦として、玄麦、精麦のいずれを用いてもよく、精麦としては、押し麦、丸麦、白麦及び米粒麦のいずれを用いてもよい。
本発明に用いる大麦の種類として、押し麦又は丸麦を用いることが好ましい。
押し麦又は丸麦を用いることで、加工コストを削減することができる。
【0020】
以下、本発明の容器詰め大麦加工食品の製造方法について詳細に説明を加える(図1参照)。
【0021】
(1)加水工程
本発明の製造方法は、原料大麦に加水する加水工程を備えてもよい。
加水工程は、原料大麦が吸水することができる態様であれば特に限定されず、水に原料大麦を浸漬させる方法、噴霧ノズルやシャワーノズル等を用いて、原料大麦表面に微細な水滴を付着させる方法を採用することができる。
【0022】
加水工程は、加水後の原料大麦の重量が、加水前の原料大麦の重量の1.2倍~1.5倍となるよう原料大麦に加水する工程であることが好ましく、加水後の原料大麦の重量が、加水前の原料大麦の重量の1.3倍~1.4倍となるよう原料大麦に加水する工程であることがより好ましい。
【0023】
また、原料大麦に加水を行う前に、常法に従い、大麦を洗浄する工程を備えていてもよい。
【0024】
原料大麦として大麦粒を用いる場合には、加水工程は、水に原料大麦を浸漬させる浸漬工程の形態とすることが好ましい。
【0025】
浸漬工程は、大麦が発芽状態となるまで浸漬することが好ましい。
大麦を発芽状態とすることで、γ-アミノ酪酸(ギャバ)等の大麦に含まれる栄養素を増大させることができ、かつ体内への吸収効率を増大させることができる。
【0026】
浸漬工程における浸漬時間は、10~30時間、より好ましくは12~28時間、さらに好ましくは15~24時間である。
浸漬時間を前記範囲内とすることで、大麦の発芽毒の無毒化、栄養素の増大、かつ体内吸収率が向上させることができる。また、大麦が発酵段階に移行することを抑制することができる。さらに、後述する液化工程、特に粉砕工程において、大麦を粉砕しやすくすることができる。
【0027】
浸漬工程における水温は、好ましくは0~30℃、より好ましくは3~20℃、さらに好ましくは5~15℃、特に好ましくは5~10℃である。
前記水温を前記範囲内とすることで、一般生菌の繁殖を抑制することができる。
【0028】
浸漬工程において使用する水としては、アルカリイオン水を用いることが好ましい。
アルカリイオン水を用いることで、大麦の劣化を抑制することができる。
ここで、アルカリイオン水とは、アルカリイオン整水器を用いて、カルシウムを含む飲用可能な水を電気分解することにより、陰極側に生成する水のことをいう。
【0029】
浸漬工程における水の容量は、特に限定されないが、原料大麦の容量に対して1.5~2.5倍であることが好ましく、1.7~2.3倍がより好ましく、1.8~2.2倍がさらに好ましく、1.9~2.1倍が特に好ましい。
【0030】
本発明では、浸漬工程を経た大麦の水を切る、水切り工程を備える形態であってもよい。
水切り工程は常法を用いて行うことができ、例えば、ざる等を用いて水切りを行うことができる。
【0031】
(2)液化工程
本発明の製造方法は、原料大麦を水に溶解又は分散させて、液状の一次大麦加工物を調製する液化工程を備える。
原料大麦として大麦粉を用いる場合、液化工程は、水が投入された原料大麦を撹拌混合する工程とすることが好ましい。
原料大麦として大麦粒を用いる場合、液化工程は、水に浸漬した状態の原料大麦を粉砕する工程とすることが好ましい。
【0032】
液化工程における水は、特に限定されず、水道水や精製水、アルカリイオン水等を用いることができる。また、調味料や添加物等(以下、単に添加物という)を添加した水を用いてもよい。
添加物としては、例えば、塩、醤油、砂糖、異性化糖、はちみつ、柑橘類等の果物系のフレーバー、ココアパウダー等が例示できる。
【0033】
液化工程における水は、加水工程において使用した水をそのまま用いてもよい。また、加水工程において使用した水を水切りした場合、新たな水を加えてもよい。
【0034】
液化工程において、加える水の量は、原料大麦1質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.5~15質量部、さらに好ましくは1~10質量部である。
液化工程において加える水の量を調節することで、後述する加熱工程後を経て得られる二次大麦加工物の粘性等の物性や食感等を調節することができる。
【0035】
液化工程において、原料大麦の破砕に用いる装置としては、フードプロセッサー、ホモジナイザー、ミキサー、ニーダー、混錬機、及び業務用の穀物粉砕機等を用いることができる。
【0036】
粉砕は、原料大麦の黒状線が目立たなくなるまで行うことが好ましい。
【0037】
(3)濾過工程
本発明において、原料大麦として大麦粒を用いる場合、液化工程により得られた粉砕物を濾過し、残渣を取り除く工程を備えることが好ましい。
【0038】
濾過工程には、濾過器又は濾過布等を用いることができ、濾過布を用いることが好ましい。
【0039】
前記濾過器又は濾過布におけるフィルターの密度は、好ましくは10~100メッシュ、より好ましくは30~80メッシュ、さらに好ましくは40~60メッシュ、特に好ましくは40~50メッシュである。
フィルターの密度を前記範囲内とすることで、液状の一次大麦加工物を、後述する容器詰め大麦加工食品に加工する際に、得られる二次大麦加工物をより滑らかにすることができる。
【0040】
濾過工程を経た一次大麦加工物における原料大麦と水の比は、原料大麦1質量部に対して、好ましくは1~30質量部、より好ましくは3~25質量部、さらに好ましくは5~20質量部である。
【0041】
本発明の液化工程又は濾過工程を経た一次大麦加工物は、さらさらとした液体状であり、粘性は少ないか、ほとんどない。
本発明の容器詰め大麦加工食品の製造方法は、前記一次大麦加工物に味付けを行う味付け工程を備えてもよい。味付け工程は、充填工程前に行うことが好ましい。
一次大麦加工物に味付けを行うことで、後述する二次大麦加工物に味付けを行う際と比して、ダマが無く均一に味付けを行うことができる。
【0042】
味付けは、上記液化工程で例示した添加物を添加することにより常法により行うことができる。
【0043】
また、食用油を添加する形態も好ましく例示できる。
食用油としては、特に限定されないが、ラード、バター等の動物性油及び米油、菜種油、大豆油、紅花油、ごま油、パーム油等の植物性油を用いることができる。
本発明の容器詰め大麦加工食品は、植物性油を用いることが好ましく、自然搾油した植物性油を用いることがより好ましい。
【0044】
食用油の含有量は、一次大麦加工物全量に対して、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.3~15質量%、さらに好ましくは0.5~10質量%、特に好ましくは1~5質量%である。
【0045】
(4)充填工程
本発明の容器詰め大麦加工食品の製造方法は、前記一次大麦加工物を容器に充填し、前記容器を密封する充填工程を備える。
本発明の製造方法によれば、加熱前の一次大麦加工物を容器に充填するため、α化した二次大麦加工物を容器に充填する場合に生じ得る、製造機械及び製造用具への大麦加工物の付着がほとんどなく、素材ロスを低減することができる。また、素材ロスを低減させるために、人力により二次大麦加工物をかき取る手間や、そのための製造機械が必要ないため、製造コストを削減することができる。
【0046】
本発明において使用する容器は、一次大麦加工物の充填後、密封可能な容器が好ましく、ヒートシール可能な容器であることがより好ましい。また、本発明における充填工程は、一次大麦加工物を容器へ充填後、容器をヒートシールすることが好ましい。このような容器として、レトルト食品用容器を例示することができる。具体的には、レトルトパウチを用いることができる。
密封可能な容器、特にヒートシール可能な容器を用いることで、後述の加熱工程において一次大麦加工物のα化と、加熱殺菌(レトルト加熱)を両立することができる。そして、加熱後の容器詰め大麦加工食品は、冷却後、それ以上の処理を要することなく流通段階に載せることができる。
【0047】
一次大麦加工物の充填は、常法により行うことができ、小規模な生産の場合、人の手で充填してもよく、中規模、大規模な生産の場合には、一般的な液体充填機を用いることができる。
【0048】
充填工程は、一次大麦加工物を真空充填する工程であることが好ましい。
真空充填することで、大麦加工物の劣化を抑制することができる。
【0049】
真空充填は、常法により行うことができ、例えば一次大麦加工物を容器に充填した後、真空包装機等を用いて減圧し、容器の開放部をシールして密閉する方法が挙げられる。また、真空充填機を用いて、容器内を真空状態とした後に、一次加工物を充填し、容器の開放部をシールする方法であってもよい。
【0050】
(5)加熱工程
本発明の容器詰め大麦加工食品の製造方法は、前記容器に充填された一次加工物をレトルト加熱し、二次大麦加工物を得る加熱工程を備える。
言い換えれば、本発明の製造方法は、密閉容器に充填された一次大麦加工物を加熱することでα化した大麦加工物(二次大麦加工物)を調製する。
このような構成とすることにより、上述した二次大麦加工物の粘性に起因する素材ロスを低減させることができる。また、素材ロスを低減させるための手間、そのための装置が不要となり、製造コストも低減することができる。
【0051】
さらに、本発明の加熱工程は、一次大麦加工物のα化のみならず、容器詰め大麦加工食品の加熱殺菌の役割も担う。すなわち、本発明の加熱工程は、一次大麦加工物のα化工程であり、かつ容器詰め大麦加工食品の加熱殺菌工程であると理解することができる。
【0052】
特許文献3の大麦加工物は、その後の保存性や流通性までも検討されているものではないが、これらの大麦加工物を、保存性が担保された状態で流通に乗せるためには、製造した大麦加工物を容器に詰めた後に、さらに加熱殺菌を行う必要がある。
しかし、α化した大麦加工物を容器に詰めるには、上述の通り素材ロスや素材ロスを低減するための手間、製造コストがかかるものであった。また、大麦加工物を再加熱することによる品質、物性の変化等の懸念がある。
【0053】
さらに、特許文献4に記載の方法は、加熱撹拌部が密閉容器内に配されており、かつ排出された糊化物を大気に触れることなく、破砕部に搬送する密閉式搬送部を備えることで、製造した米ゲルの保存性を担保するものである。本発明は、このような特別な装置を要することなく、従来の破砕機、従来の加熱装置等を用いて二次大麦加工物が充填された容器詰め大麦加工食品を製造することができるため、製造コストを抑えることができる。
【0054】
また、大麦等の穀物類は、加熱により糊化した後、でんぷん質の老化がはじまり、味、におい、粘性等が劣化し始める。従来の、α化した大麦加工物を製造した後に容器に詰める方法では、容器に詰めるまでの作業時間において老化が進み、その後の品質保持に少なからず影響を及ぼすと推測される。一方、本発明の製造方法によれば、加熱工程により一次大麦加工物がα化した後、喫食時に開封するまで二次大麦加工物が空気に接触することはないから、老化することなく品質の保持をすることが可能となる。
【0055】
レトルト加熱における加熱処理条件は、食品衛生法で定められた基準であればよく、食品中心部の温度を120℃とした状態で4分間相当以上の加熱を行うか、これと同等以上の効力を有する条件、例えば、食品中心部の温度を115℃とした状態で35分程度の加熱処理をすればよい。前述の条件を満たすものであれば、レトルト加熱を行う工程は、セミレトルト加熱(105~115℃)を行う工程であってもよく、セミレトルト加熱(116℃~120℃)を行う工程であってもよく、ハイレトルト加熱(121℃以上)を行う工程であってもよい。加熱温度は、好ましくは105~130℃であり、より好ましくは110~130℃であり、さらに好ましくは110℃~125℃であり、特に好ましくは110~120℃である。
【0056】
特許文献4の技術は、原料米の糊化物(ゲル)を空気に触れさせないことで、加熱殺菌を省略する技術であるが、その製造過程にて達する温度は、100℃(特許文献4の0016、0024)である。
この温度では、黄色ブドウ球菌等の菌は死滅させることができるが、セレウス菌等の芽胞菌を死滅させるには不適であり、セレウス菌は、100℃、30分の加熱でも死滅しないことが知られている。
セレウス菌は土壌細菌であり、米、小麦、大麦等の農作物が広く汚染されている可能性がある。より安全で、保存性を高めた食品、特に、喫食時に加熱調理を必要としない食品として市場に流通させるためには、レトルト加熱により、105℃~130℃の温度条件で、所定時間加熱殺菌を行うことが重要である。
【0057】
また、加熱工程は、10分以内に大麦加工物の中心温度を105℃~130℃に上昇させる工程であることが好ましい。すなわち、加熱工程は、目的の加熱殺菌温度に達するまでの時間を急速とすることが好ましい。
加熱殺菌温度は、より好ましくは110~130℃であり、さらに好ましくは110℃~125℃であり、特に好ましくは110~120℃である。
上記加熱殺菌温度に達するまでの時間は、より好ましくは4分以内であり、さらに好ましくは3分以内であり、特に好ましくは2分以内である。
このような急速加熱を行うことで、二次大麦加工物の劣化をより抑制することができる。
【0058】
加熱工程後、常法により容器詰め大麦加工食品を冷却することで、α化した二次大麦加工物を含む、市場にそのまま流通可能な容器詰め大麦加工食品を得ることができる。
【0059】
(6)容器詰め大麦加工食品
本発明は、上述した製造方法により製造された容器詰め大麦加工食品に関する。本発明の容器詰め大麦加工食品は、α化した二次大麦加工物が、密封容器に充填された食品である。本発明の容器詰め大麦加工食品は、好ましくはレトルト食品である。
容器詰め大麦加工食品における二次大麦加工物は、餅様の二次大麦加工物であってもよく、クリーム様の二次大麦加工物であってもよい。
【0060】
容器詰め大麦加工食品は、喫食時に加熱調理を必要としない食品であることが好ましい。
本発明の容器詰め大麦加工食品は、上述の通り十分に殺菌がされており、品質の劣化も極力抑えられているため、喫食時に加熱を行わなくとも、容器を開封して、そのまま喫食することができる。なお、上記特徴は喫食時に加熱処理を行うことを制限するものではない。
【0061】
本発明の容器詰め大麦加工食品は、保存性に優れ、品質を保持しながら、長い賞味期限を確保することができる。したがって、災害時等の保存食として利用することができる。
なお、上記特徴を物の構造又は特性により直接特定することは、不可能であるか、およそ実際的ではない。
保存性を示す指標として、例えば検査項目や検査期間、保存温度等を設定して、理化学試験や、官能試験、微生物試験検査を行うことが考えられる。しかし、レトルト加熱により殺菌された食品は、賞味期限が長く、平均的に1~2年もの賞味期限を有するものであるから、保存性が高いこと、すなわち従来技術と比して長い期間物性や品質が変化しないことを証明するには、製造後1年~2年程度の保存を得たあと、上記試験に供する必要があり、かつ、その中でも従来技術と比して特徴的なパラメータを考察、検討する必要がある。先願主義の下、上記実験と検討を行った後に出願を行うことは、およそ実際的ではない。
【実施例0062】
<大麦加工物の充填性の確認試験>
α化した二次大麦加工物の充填が困難であることを示すために、未加熱の一次大麦加工物を容器に充填する場合と、加熱処理を経た二次大麦加工物を容器に充填する場合との比較試験を実施した。
【0063】
初めに、100gの大麦粒を十分な水に18時間浸漬させた。水温は7℃であった。
次に、大麦粒の水を切り、その後、500gの水を加え、フードプロセッサー(「ファイバーミキサー MX-X500-P」(パナソニック株式会社製))を用いて2分間粉砕を行った。
次に、濾過布(40メッシュ)を使用して、黒状線及び不要物を取り除き、液状の一次大麦加工物を得た。一次大麦加工物の重量は、550gであった。
【0064】
得られた一次大麦加工物の一部を、透明のジッパー付き袋に充填した(一次大麦加工物充填)。
また、一次大麦加工物の一部をフライパンに移し、加熱して、α化した二次大麦加工物を得た。
【0065】
次いで、得られた二次大麦加工物を、ヘラやスプーン等でかき取り、透明のジッパー付き袋に充填した。
結果、一次大麦加工物は、容器に容易に充填することができるのに対し、二次大麦加工物は、フライパンにこびりつき、回収が容易ではなく、素材ロスが生じ得ることが起こり得ることがわかった。また、二次大麦加工物は、充填する容器にもこびりつきやすく、綺麗に充填することが困難であった。
【0066】
本試験例では、人の手によって二次大麦加工物を充填する例を示したが、装置を用いた充填であっても、二次大麦加工物の粘性に由来する同様の問題が生じ得ると理解される。
すなわち、容器への充填前に二次大麦加工物を調製することで、加熱容器や、その後の処理を行う装置、配管等に二次大麦加工物がこびりつくことで、素材ロスが生じる恐れがある。さらに、二次大麦加工物が配管等に詰まることで、装置の故障の原因にもなる。素材ロスを低減させるため、又は装置の故障を防ぐためには、装置へのこびりつきを抑制するための機構が必要となり、装置が複雑化し、製造コストが増大する。
さらに、二次大麦加工物を容器に充填するためには、粘性体に適した充填機を用意する必要がある。
【0067】
一方、本発明の製造方法によれば、一次大麦加工物をα化する処理は、容器の充填後に行われるため、製造装置に二次大麦加工物がこびりつくことがない。また、容器への充填も一次大麦加工物の状態で行われるため、一般的な液体充填機を用いることができる。さらに、容器の充填後に行われるレトルト加熱により、α化とともに殺菌を行うため、得られた二次大麦加工物が空気に触れることがなく、保存性に優れる。
【0068】
<製造例>
前述の確認試験と同様の手順により、液状の一次大麦加工物を調製した。なお、本製造例において使用した原料大麦はうるち種又はもち種であり、原料大麦の他に調味料等として糖類を添加したものも調製した。
【0069】
次いで、調製した一次大麦加工物をレトルトパウチに充填した後、真空包装機を用いてレトルトパウチを減圧し、レトルトパウチの開封部をヒートシールした。一次大麦加工物が充填されたレトルトパウチを、レトルト加熱殺菌装置(東洋製罐社製)を用いてレトルト加熱した。レトルト加熱は、大麦加工物の中心温度を急速加熱で120℃に昇温した後、8分間の加熱を行った。図2に、製造された容器詰め大麦加工食品を示す。また、図3に、容器を開封し紙皿に配置した二次大麦加工物を示す。
【0070】
図2及び図3に示す通り、液状の大麦加工物をレトルトパウチに充填し、レトルト加熱を行った場合でも、粘性等の物性が従来品と同等の二次大麦加工物を得ることができた。本発明の容器詰め大麦加工食品は、レトルト加熱に供されているため、保存性に優れる。
また、二次大麦加工物を、加熱調理をせずにそのまま喫食したところ、クリーム様食感、水ようかんのような食感、又はくず餅のような食感の食品であることを確認した。さらに、加糖した二次大麦加工物(図3(b)(d))は、ほどよい甘味を有し、そのまま喫食するのに適したものであった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、災害時等の保存食等に応用することができる。

図1
図2
図3