(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085324
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】エステル樹脂
(51)【国際特許分類】
C07C 69/80 20060101AFI20240619BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240619BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240619BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20240619BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C07C69/80 Z
C08L101/00
B32B27/36
B32B27/26
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199798
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小椋 一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 駿介
【テーマコード(参考)】
4F100
4H006
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA20A
4F100AA20H
4F100AB01B
4F100AB17A
4F100AB33B
4F100AG00B
4F100AK01B
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4F100AK53B
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4F100GB41
4F100GB43
4F100JA05A
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4F100JB16B
4F100JG01B
4F100JG04A
4F100JG05A
4F100JJ03
4F100JL01
4H006AA03
4H006AB99
4H006BJ50
4H006KA06
4H006KC30
4H006KE10
4J002BC021
4J002BG031
4J002CD041
4J002CD051
4J002CH061
4J002CH081
4J002CK021
4J002EH106
4J002EN000
4J002EU030
4J002FD010
4J002FD030
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD310
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002GQ05
(57)【要約】
【課題】良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす新規なエステル樹脂を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表されるエステル樹脂。
【化1】
(式(I)中、
X
Aは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(a)を含有する1価の有機基を表し、
X
Bは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(b)を含有する2価の有機基を表し、
X
Cは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(c)を含有する2価の有機基を表し、
X
A、X
B、X
Cのうち少なくも1つが、(メタ)アクリロイル基を含有し、
nは、0以上の整数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるエステル樹脂。
【化1】
(式(I)中、
X
Aは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(a)を含有する1価の有機基を表し、
X
Bは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(b)を含有する2価の有機基を表し、
X
Cは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(c)を含有する2価の有機基を表し、
X
A、X
B、X
Cのうち少なくも1つが、(メタ)アクリロイル基を含有し、
nは、0以上の整数を表す。)
【請求項2】
X
A、X
B、X
Cのうち少なくも1つが、下記式(II)で表される構造を含む、請求項1に記載のエステル樹脂。
【化2】
(式(II)中、
環Arは、芳香環を表し、
R
Sは、それぞれ独立に、置換基を表し、
k1は1又は2であり、
k2は、環Arで表される芳香環の置換可能な水素原子の数をp個としたとき、0≦k2≦(p-1-k1)を満たす整数を表し、
★及び*は結合手を表す。)
【請求項3】
XCが、少なくとも1個の芳香環(c)を含有する2価の炭化水素基を表す、請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項4】
XAが、(メタ)アクリロイル基を含有する、請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項5】
芳香環(c)が、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される1個以上の置換基を有する、請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項6】
芳香環(c)が、ナフタレン環である、請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項7】
芳香環(c)1個に対し、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される置換基が、平均して1個~6個結合している、請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項8】
n=0体の含有量が20質量%以上である、請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項9】
実質的にn=0体からなる、請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項10】
下記(x1)成分と下記(x2)成分との縮合反応物であって(x1)成分及び(x2)成分の何れか1つ以上が(メタ)アクリロイル基を含有するか、又は
下記(x1)成分と下記(x2)成分と下記(x3)成分との縮合反応物であって、(x1)成分、(x2)成分及び(x3)成分の何れか1つ以上が(メタ)アクリロイル基を含有する、請求項1~9の何れか1項に記載のエステル樹脂。
(x1)1価芳香族ヒドロキシ化合物
(x2)2価芳香族カルボン酸化合物又は2価芳香族カルボン酸ハライド化合物
(x3)2価芳香族ヒドロキシ化合物
【請求項11】
下記(x1)成分と下記(x2)成分とを反応させる工程であって、(x1)成分及び(x2)成分の何れか1つ以上が(メタ)アクリロイル基を含有する工程を含むか、又は
下記(x1)成分と下記(x2)成分と下記(x3)成分とを反応させる工程であって、(x1)成分、(x2)成分及び(x3)成分の何れか1つ以上が(メタ)アクリロイル基を含有する工程を含む、請求項1~9の何れか1項に記載のエステル樹脂の製造方法。
(x1)1価芳香族ヒドロキシ化合物
(x2)2価芳香族カルボン酸化合物又は2価芳香族カルボン酸ハライド化合物
(x3)2価芳香族ヒドロキシ化合物
【請求項12】
請求項1~9の何れか1項に記載のエステル樹脂を含む、樹脂架橋剤。
【請求項13】
請求項1~9の何れか1項に記載のエステル樹脂と、架橋性樹脂と、を含む、樹脂組成物。
【請求項14】
架橋性樹脂が、熱硬化性樹脂及びラジカル重合性樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
熱硬化性樹脂組成物又は光硬化性樹脂組成物である、請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
プリント配線板の絶縁層形成用である、請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
半導体封止用である、請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項18】
請求項13に記載の樹脂組成物の硬化物。
【請求項19】
請求項13に記載の樹脂組成物を含む、シート状積層材料。
【請求項20】
支持体と、該支持体上に設けられた請求項13に記載の樹脂組成物の層とを含む、樹脂シート。
【請求項21】
支持体が、熱可塑性樹脂フィルム又は金属箔である、請求項20に記載の樹脂シート。
【請求項22】
請求項13に記載の樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層を含む、プリント配線板。
【請求項23】
請求項13に記載の樹脂組成物の硬化物からなる封止層を含む、半導体チップパッケージ。
【請求項24】
ファンアウト(Fan-Out)型パッケージである、請求項23に記載の半導体チップパッケージ。
【請求項25】
請求項22に記載のプリント配線板を含む、半導体装置。
【請求項26】
請求項23に記載の半導体チップパッケージを含む、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル樹脂に関する。さらには、該エステル樹脂の製造方法、該エステル樹脂を含む樹脂組成物、樹脂シート、硬化物、プリント配線板、半導体チップパッケージ、及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂等の架橋性樹脂とその架橋剤(硬化剤)を含む樹脂組成物は、絶縁性、耐熱性、密着性などに優れる硬化物をもたらすことから、半導体パッケージやプリント配線板などの電子部品材料として広く使われてきた。
【0003】
一方、第5世代移動通信システム(5G)などの高速通信では、高周波環境で作動させる際の伝送損失が問題になる。そのため誘電特性(低誘電率、低誘電正接)に優れた絶縁材料が必要となる。また、高周波環境での作動時は電子部品の発熱量が増大する傾向にあり、高速通信用途に使用される絶縁材料には耐熱性のさらなる向上も求められている。
【0004】
誘電特性に優れる絶縁樹脂材料として、例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂の架橋剤として、芳香族性ヒドロキシ化合物と芳香族性ジ酸クロリド類との反応物である活性エステル樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の活性エステル樹脂は、従来のフェノール系架橋剤などと比較すると大幅に誘電特性が優れるが、5G用途で求められる伝送損失に関しては、十分満足できる水準にはない。また、活性エステル樹脂を用いて得られる硬化物は、耐熱性が十分に得られない場合がある。
【0007】
本発明の課題は、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす新規なエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を有するエステル樹脂によれば、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらすことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1] 下記式(I)で表されるエステル樹脂。
【化1】
(式(I)中、
X
Aは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(a)を含有する1価の有機基を表し、
X
Bは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(b)を含有する2価の有機基を表し、
X
Cは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(c)を含有する2価の有機基を表し、
X
A、X
B、X
Cのうち少なくも1つが、(メタ)アクリロイル基を含有し、
nは、0以上の整数を表す。)
[2] X
A、X
B、X
Cのうち少なくも1つが、下記式(II)で表される構造を含む、[1]に記載のエステル樹脂。
【化2】
(式(II)中、
環Arは、芳香環を表し、
R
Sは、それぞれ独立に、置換基を表し、
k1は1又は2であり、
k2は、環Arで表される芳香環の置換可能な水素原子の数をp個としたとき、0≦k2≦(p-1-k1)を満たす整数を表し、
★及び*は結合手を表す。)
[3] X
Cが、少なくとも1個の芳香環(c)を含有する2価の炭化水素基を表す、[1]又は[2]に記載のエステル樹脂。
[4] X
Aが、(メタ)アクリロイル基を含有する、[1]~[3]の何れかに記載のエステル樹脂。
[5] 芳香環(c)が、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される1個以上の置換基を有する、[1]~[4]の何れかに記載のエステル樹脂。
[6] 芳香環(c)が、ナフタレン環である、[1]~[5]の何れかに記載のエステル樹脂。
[7] 芳香環(c)1個に対し、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される置換基が、平均して1個~6個結合している、[1]~[6]の何れかに記載のエステル樹脂。
[8] n=0体の含有量が20質量%以上である、[1]~[7]の何れかに記載のエステル樹脂。
[9] 実質的にn=0体からなる、[1]~[8]の何れかに記載のエステル樹脂。
[10] 下記(x1)成分と下記(x2)成分との縮合反応物であって(x1)成分及び(x2)成分の何れか1つ以上が(メタ)アクリロイル基を含有するか、又は
下記(x1)成分と下記(x2)成分と下記(x3)成分との縮合反応物であって、(x1)成分、(x2)成分及び(x3)成分の何れか1つ以上が(メタ)アクリロイル基を含有する、[1]~[9]の何れかに記載のエステル樹脂。
(x1)1価芳香族ヒドロキシ化合物
(x2)2価芳香族カルボン酸化合物又は2価芳香族カルボン酸ハライド化合物
(x3)2価芳香族ヒドロキシ化合物
[11] 下記(x1)成分と下記(x2)成分とを反応させる工程であって、(x1)成分及び(x2)成分の何れか1つ以上が(メタ)アクリロイル基を含有する工程を含むか、又は
下記(x1)成分と下記(x2)成分と下記(x3)成分とを反応させる工程であって、(x1)成分、(x2)成分及び(x3)成分の何れか1つ以上が(メタ)アクリロイル基を含有する工程を含む、[1]~[9]の何れかに記載のエステル樹脂の製造方法。
(x1)1価芳香族ヒドロキシ化合物
(x2)2価芳香族カルボン酸化合物又は2価芳香族カルボン酸ハライド化合物
(x3)2価芳香族ヒドロキシ化合物
[12] [1]~[9]の何れかに記載のエステル樹脂を含む、樹脂架橋剤。
[13] [1]~[9]の何れかに記載のエステル樹脂と、架橋性樹脂と、を含む、樹脂組成物。
[14] 架橋性樹脂が、熱硬化性樹脂及びラジカル重合性樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、[13]に記載の樹脂組成物。
[15] 熱硬化性樹脂組成物又は光硬化性樹脂組成物である、[13]又は[14]に記載の樹脂組成物。
[16] プリント配線板の絶縁層形成用である、[13]~[15]の何れかに記載の樹脂組成物。
[17] 半導体封止用である、[13]~[15]の何れかに記載の樹脂組成物。
[18] [13]~[17]の何れかに記載の樹脂組成物の硬化物。
[19] [13]~[17]の何れかに記載の樹脂組成物を含む、シート状積層材料。
[20] 支持体と、該支持体上に設けられた[13]~[17]の何れかに記載の樹脂組成物の層とを含む、樹脂シート。
[21] 支持体が、熱可塑性樹脂フィルム又は金属箔である、[20]に記載の樹脂シート。
[22] [13]~[16]の何れかに記載の樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層を含む、プリント配線板。
[23] [13]~[15]、[17]の何れかに記載の樹脂組成物の硬化物からなる封止層を含む、半導体チップパッケージ。
[24] ファンアウト(Fan-Out)型パッケージである、[23]に記載の半導体チップパッケージ。
[25] [22]に記載のプリント配線板を含む、半導体装置。
[26] [23]又は[24]に記載の半導体チップパッケージを含む、半導体装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす新規なエステル樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<用語の説明>
本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」という用語は、メタクリロイル基及びアクリロイル基の双方を包含する。
【0012】
本明細書において、化合物又は基についていう「置換基を有していてもよい」という用語は、該化合物又は基の水素原子が置換基で置換されていない場合、及び、該化合物又は基の水素原子の一部又は全部が置換基で置換されている場合の双方を意味する。
【0013】
本明細書において、「置換基」という用語は、特に説明のない限り、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルカポリエニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、1価の複素環基、アルキリデン基、アミノ基、シリル基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基及びオキソ基を意味する。なお、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルカポリエニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキリデン基のように炭素原子と水素原子のみを含む基を総称して、「炭化水素基」ともいう。また、アルケニル基、アルキニル基、アルカポリエニル基、シクロアルケニル基のように不飽和結合を有する脂肪族炭化水素基を総称して、「不飽和結合含有置換基」又は「不飽和脂肪族炭化水素基」ともいう。
【0014】
置換基として用いられるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
【0015】
置換基として用いられるアルキル基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。該アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~14、さらに好ましくは1~12、さらにより好ましくは1~6、特に好ましくは1~3である。該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、及びデシル基が挙げられる。
【0016】
置換基として用いられるアルケニル基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。該アルケニル基の炭素原子数は、好ましくは2~20、より好ましくは2~14、さらに好ましくは2~12、さらにより好ましくは2~6、特に好ましくは2又は3である。該アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、ブテニル基、sec-ブテニル基、イソブテニル基、tert-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、及びデセニル基が挙げられる。
【0017】
置換基として用いられるアルキニル基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。該アルキニル基の炭素原子数は、好ましくは2~20、より好ましくは2~14、さらに好ましくは2~12、さらにより好ましくは2~6、特に好ましくは2又は3である。該アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、sec-ブチニル基、イソブチニル基、tert-ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、及びデシニル基が挙げられる。
【0018】
置換基として用いられるアルカポリエニル基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよく、二重結合の数は好ましくは2~10、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4、さらにより好ましくは2である。該アルカポリエニル基の炭素原子数は、好ましくは3~20、より好ましくは3~14、さらに好ましくは3~12、さらにより好ましくは3~6である。
【0019】
置換基として用いられるシクロアルキル基の炭素原子数は、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、さらに好ましくは3~6である。該シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0020】
置換基として用いられるシクロアルケニル基の炭素原子数は、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、さらに好ましくは3~6である。該シクロアルケニル基としては、例えば、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、及びシクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0021】
置換基として用いられるアルコキシ基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。該アルコキシ基の炭素原子数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~6である。該アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、及びデシルオキシ基が挙げられる。
【0022】
置換基として用いられるシクロアルキルオキシ基の炭素原子数は、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、さらに好ましくは3~6である。該シクロアルキルオキシ基としては、例えば、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、及びシクロヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0023】
置換基として用いられるアリール基は、芳香族炭化水素から芳香環上の水素原子を1個除いた基である。置換基として用いられるアリール基の炭素原子数は、好ましくは6~24、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~14、さらにより好ましくは6~10である。該アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、及びアントラセニル基が挙げられる。
【0024】
置換基として用いられるアリールオキシ基の炭素原子数は、好ましくは6~24、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~14、さらにより好ましくは6~10である。置換基として用いられるアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、及び2-ナフチルオキシ基が挙げられる。
【0025】
置換基として用いられるアリールアルキル基の炭素原子数は、好ましくは7~25、より好ましくは7~19、さらに好ましくは7~15、さらにより好ましくは7~12である。該アリールアルキル基としては、例えば、フェニル-C1~C12アルキル基、ナフチル-C1~C12アルキル基、及びアントラセニル-C1~C12アルキル基が挙げられる。
【0026】
置換基として用いられるアリールアルコキシ基の炭素原子数は、好ましくは7~25、より好ましくは7~19、さらに好ましくは7~15、さらにより好ましくは7~12である。該アリールアルコキシ基としては、例えば、フェニル-C1~C12アルコキシ基、及びナフチル-C1~C12アルコキシ基が挙げられる。
【0027】
置換基として用いられる1価の複素環基とは、複素環式化合物の複素環から水素原子1個を除いた基をいう。該1価の複素環基の炭素原子数は、好ましくは3~21、より好ましくは3~15、さらに好ましくは3~9である。該1価の複素環基には、1価の芳香族複素環基(ヘテロアリール基)も含まれる。該1価の複素環としては、例えば、チエニル基、ピロリル基、フラニル基、フリル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジル基、ピラジニル基、トリアジニル基、ピロリジル基、ピペリジル基、キノリル基、及びイソキノリル基が挙げられる。
【0028】
置換基として用いられるアルキリデン基とは、アルカンの同一の炭素原子から水素原子を2個除いた基をいう。該アルキリデン基の炭素原子数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~14、さらに好ましくは1~12、さらにより好ましくは1~6、特に好ましくは1~3である。該アルキリデン基としては、例えば、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、sec-ブチリデン基、イソブチリデン基、tert-ブチリデン基、ペンチリデン基、ヘキシリデン基、ヘプチリデン基、オクチリデン基、ノニリデン基、及びデシリデン基が挙げられる。
【0029】
置換基として用いられるアシル基は、式:-C(=O)-Rで表される基(式中、Rはアルキル基又はアリール基)をいう。Rで表されるアルキル基は直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。Rで表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、及びアントラセニル基が挙げられる。該アシル基の炭素原子数は、好ましくは2~20、より好ましくは2~13、さらに好ましくは2~7である。該アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、及びベンゾイル基が挙げられる。
【0030】
置換基として用いられるアシルオキシ基は、式:-O-C(=O)-Rで表される基(式中、Rはアルキル基又はアリール基)をいう。Rで表されるアルキル基は直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。Rで表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、及びアントラセニル基が挙げられる。該アシルオキシ基の炭素原子数は、好ましくは2~20、より好ましくは2~13、さらに好ましくは2~7である。該アシルオキシ基としては、例えば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、及びベンゾイルオキシ基が挙げられる。
【0031】
上述の置換基は、さらに置換基(以下、「二次置換基」という場合がある。)を有していてもよい。二次置換基としては、特に記載のない限り、上述の置換基と同じものを用いてよい。
【0032】
本明細書において、「有機基」という用語は、骨格原子として少なくとも炭素原子を含む基をいい、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよい。本明細書において、有機基の骨格原子数は、特に記載のない限り、好ましくは1~3000、より好ましくは1~1000、さらに好ましくは1~100、さらにより好ましくは1~50、特に好ましくは1~30である。有機基としては、例えば、炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子から選ばれる1個以上の骨格原子(但し炭素原子を少なくとも含む)からなる基が挙げられる。
【0033】
本明細書において、「芳香環」という用語は、環上のπ電子系に含まれる電子数が4p+2個(pは自然数)であるヒュッケル則に従う環を意味し、単環式芳香環、及び2個以上の単環式芳香環が縮合した縮合多環式芳香環を含む。芳香環は、環構成原子として炭素原子のみを有する芳香族炭素環、又は環構成原子として、炭素原子に加えて、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有する芳香族複素環であり得る。本明細書において、芳香環の炭素原子数は、特に記載のない限り、好ましくは3以上、より好ましくは4以上又は5以上、さらに好ましくは6以上であり、その上限は、好ましくは24以下、より好ましくは18以下又は14以下、さらに好ましくは10以下である。該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。芳香環としては、例えば、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環等の単環式芳香環;ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾイミダゾール環、インダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、アクリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、フタラジン環等の2個以上の単環式芳香環が縮合した縮合多環式芳香環が挙げられる。なお、本明細書において、芳香環を構成する炭素原子を指して「芳香族炭素」ともいう。
【0034】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。ただし、本発明は、下記実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施され得る。
【0035】
[エステル樹脂]
本発明のエステル樹脂は、下記式(I)で表されることを特徴とする。
【化3】
(式(I)中、
X
Aは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(a)を含有する1価の有機基を表し、
X
Bは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(b)を含有する2価の有機基を表し、
X
Cは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(c)を含有する2価の有機基を表し、
X
A、X
B、X
Cのうち少なくも1つが、(メタ)アクリロイル基を含有し、
nは、0以上の整数を表す。)
【0036】
XA、XB、XCのうち少なくも1つが(メタ)アクリロイル基を含有する、式(I)で表される本発明のエステル樹脂は、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす。本発明のエステル樹脂はまた、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、ビアホール形成時のスミア除去性に優れると共にハローイング現象を抑えることのできる硬化物をもたらすことができることも本発明者らは確認している。ここで、ハローイング現象とは、ビアホールの形成時にビアホールの周囲の絶縁層樹脂が劣化する現象をいう。斯かるハローイング現象の生じた劣化部は、粗化液等の薬液により侵食され易く、絶縁層と内層基板との層間剥離を生じ、ひいては導通信頼性悪化に帰着する。
【0037】
-1価の有機基XA-
式(I)において、XAは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(a)を含有する1価の有機基を表す。
【0038】
XAで表される1価の有機基が含有する芳香環(a)は、先述のとおり、単環式芳香環、及び、2個以上の単環式芳香環が縮合した縮合多環式芳香環の何れであってもよい。また、芳香環は、芳香族炭素環、及び、芳香族複素環の何れであってもよい。
【0039】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、芳香環(a)は、芳香族炭素環であることが好ましい。該芳香族炭素環は単環式芳香族炭素環および縮合多環式芳香族炭素環の何れであってもよく、その炭素原子数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。よって、好適な一実施形態において、XAで表される1価の有機基が含有する芳香環(a)は、炭素原子数6~14の芳香族炭素環である。
【0040】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、XAで表される1価の有機基に含まれる芳香環(a)の個数は、XA1個あたり、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。該芳香環(a)の個数に、置換基としての芳香環の個数は含まれない。
【0041】
芳香環(a)は、置換基を有していてもよい。斯かる置換基は先述のとおりであるが、中でも、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、ハロゲン原子、炭化水素基及びアルコキシ基から選択される1種以上が好ましく、フッ素原子、炭素原子数1~12の炭化水素基及び炭素原子数1~10のアルコキシ基から選択される1種以上がより好ましく、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1~6のアルコキシ基から選択される1種以上がさらにより好ましい。
【0042】
XAで表される1価の有機基は、上記の芳香環(a)を少なくとも1個含有する限り特に限定されず、先述のとおり、骨格原子として少なくとも炭素原子を含む基であるが、好ましくは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子から選ばれる1個以上(好ましくは1~100個、1~50個、1~30個)の骨格原子からなる1価の基が挙げられる。中でも、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、XAで表される1価の有機基は、骨格原子として炭素原子のみ又は炭素原子と酸素原子のみを含むことが特に好適である。
【0043】
XAが(メタ)アクリロイル基を含有する場合、本発明の効果をより享受し得る観点から、XAにおける芳香環(a)に(メタ)アクリロイル基を含有する1価の有機基が結合していることが好適である。中でも、XAにおける芳香環(a)に、酸素原子を介して(メタ)アクリロイル基が結合していること、すなわち(メタ)アクリロイルオキシ基として結合していることが好適である。
【0044】
したがって好適な一実施形態において、XAは、(メタ)アクリロイル基を含有する1価の有機基(好適には(メタ)アクリロイルオキシ基)及び/又は置換基を有していてもよい単環式芳香族炭素環を少なくとも1個含有し且つ骨格原子として炭素原子のみ又は炭素原子と酸素原子のみを含む1価の基、又は、(メタ)アクリロイル基を含有する1価の有機基(好適には(メタ)アクリロイルオキシ基)及び/又は置換基を有していてもよい縮合多環式芳香族炭素環を少なくとも1個含有し且つ骨格原子として炭素原子のみ又は炭素原子と酸素原子のみを含む1価の基を示し、ここで、置換基は、ハロゲン原子、炭化水素基及びアルコキシ基から選択される1種以上であり、より好適な態様は先述のとおりである。単環式芳香族炭素環や縮合多環式芳香族炭素環といった芳香族炭素環の1個当たりの炭素原子数の好適な範囲は先述のとおりである。また、骨格原子数の好適な範囲は先述のとおりであるが、中でも、6~30又は10~30であることが好ましい。
【0045】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、式(I)において、XAに結合する酸素原子は、XAの芳香族炭素、すなわち上記の芳香環(a)を構成する炭素原子と結合していることが好ましい。
【0046】
好適な一実施形態において、XAは、それぞれ独立に、下記式(A-1)又は(A-2)で表される。
【0047】
【化4】
(式中、
R
a1及びR
a2は、それぞれ独立に、(メタ)アクリロイルオキシ基又は置換基を表し、
na1は、0~5の整数を表し、
na2は、それぞれ独立に、0~4の整数を表し、
*は、結合手を表す。)
【0048】
式(A-1)において、1個のベンゼン環を明示する。このベンゼン環が、XAについて先述した「芳香環(a)」に該当する。すなわち、式(A-1)で表されるXAは、1個のベンゼン環を含有する1価の有機基である。Ra1で表される置換基の好適な例も、XAにおける「芳香環(a)」について説明したとおりであり、中でも、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1~6のアルコキシ基から選択される1種以上が好ましい。架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、ベンゼン環が有するna1個のRa1のうち、1個以上のRa1が(メタ)アクリロイルオキシ基を表すことが好ましい。1個のRa1が(メタ)アクリロイルオキシ基を表す場合、式(A-1)で表されるXAは、後述の式(II)で表される構造((メタ)アクリロイル基含有構造;式(II)において環Arがベンゼン環、k1が1)を有する。
【0049】
式(A-2)において、1個のナフタレン環を明示する。このナフタレン環が、XAについて先述した「芳香環(a)」に該当する。すなわち、式(A-2)で表されるXAは、1個のナフタレン環を含有する1価の有機基である。Ra2で表される置換基の好適な例も、XAにおける「芳香環(a)」について説明したとおりであり、中でも、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1~6のアルコキシ基から選択される1種以上が好ましい。架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、ナフタレン環が有する2na2個のRa2のうち、1個以上のRa2が(メタ)アクリロイルオキシ基を表すことが好ましい。1個のRa2が(メタ)アクリロイルオキシ基を表す場合、式(A-2)で表されるXAは後述の式(II)で表される構造((メタ)アクリロイル基含有構造;式(II)において環Arがナフタレン環、k1が1)を有する。
【0050】
-2価の有機基XB-
式(I)において、XBは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(b)を含有する2価の有機基を表す。
【0051】
XBで表される2価の有機基が含有する芳香環(b)は、先述のとおり、単環式芳香環、及び、縮合多環式芳香環の何れであってもよい。また、芳香環は、芳香族炭素環、及び、芳香族複素環の何れであってもよい。
【0052】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、芳香環(b)は、芳香族炭素環であることが好ましい。該芳香族炭素環は単環式芳香族炭素環および縮合多環式芳香族炭素環の何れであってもよく、その炭素原子数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。よって、好適な一実施形態において、XBで表される2価の有機基が含有する芳香環(b)は、炭素原子数6~14の芳香族炭素環である。
【0053】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、XBで表される2価の有機基に含まれる芳香環(b)の個数は、XB1個あたり、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。該芳香環(b)の個数に、置換基としての芳香環の個数は含まれない。
【0054】
芳香環(b)は、置換基を有していてもよい。斯かる置換基は先述のとおりであるが、中でも、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、ハロゲン原子、炭化水素基及びアルコキシ基から選択される1種以上が好ましく、フッ素原子、炭素原子数1~12の炭化水素基及び炭素原子数1~10のアルコキシ基から選択される1種以上がより好ましく、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1~6のアルコキシ基から選択される1種以上がさらにより好ましい。
【0055】
XBで表される2価の有機基は、上記の芳香環(b)を少なくとも1個含有する限り特に限定されず、先述のとおり、骨格原子として少なくとも炭素原子を含む基であるが、好ましくは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子から選ばれる1個以上(好ましくは1~100個、1~50個、1~30個)の骨格原子からなる2価の基が挙げられる。中でも、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、XBで表される2価の有機基は、骨格原子として炭素原子のみ又は炭素原子と酸素原子のみを含むことが特に好適である。
【0056】
XBが(メタ)アクリロイル基を含有する場合、本発明の効果をより享受し得る観点から、XBにおける芳香環(b)に(メタ)アクリロイル基を含有する1価の有機基が結合していることが好適である。中でも、XBにおける芳香環(b)に、酸素原子を介して(メタ)アクリロイル基が結合していること、すなわち(メタ)アクリロイルオキシ基として結合していることが好適である。
【0057】
したがって好適な一実施形態において、XBは、(メタ)アクリロイル基を含有する1価の有機基(好適には(メタ)アクリロイルオキシ基)及び/又は置換基を有していてもよい単環式芳香族炭素環を少なくとも1個含有し且つ骨格原子として炭素原子のみ又は炭素原子と酸素原子のみを含む2価の基、又は、(メタ)アクリロイル基を含有する1価の有機基(好適には(メタ)アクリロイルオキシ基)及び/又は置換基を有していてもよい縮合多環式芳香族炭素環を少なくとも1個含有し且つ骨格原子として炭素原子のみ又は炭素原子と酸素原子のみを含む2価の基を示し、ここで、置換基は、ハロゲン原子、炭化水素基及びアルコキシ基から選択される1種以上であり、より好適な態様は先述のとおりである。単環式芳香族炭素環や縮合多環式芳香族炭素環といった芳香族炭素環の1個当たりの炭素原子数の好適な範囲は先述のとおりである。また、骨格原子数の好適な範囲は先述のとおりであるが、中でも、6~30又は6~20であることが好ましい。
【0058】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、式(I)において、XBに結合する2つのカルボニル基は、XBの芳香族炭素、すなわち上記の芳香環(b)を構成する炭素原子と結合していることが好ましい。
【0059】
好適な一実施形態において、XBは、それぞれ独立に、(i)(メタ)アクリロイルオキシ基又は置換基を有していてもよい単環式芳香族炭素環から該炭素環上の水素原子を2個除いてなる2価の基、又は、(ii)(メタ)アクリロイルオキシ基又は置換基を有していてもよい縮合多環式芳香族炭素環から該炭素環上の水素原子を2個除いてなる2価の基である。斯かる実施形態において、単環式芳香族炭素環や縮合多環式芳香族炭素環が、XBについて先述した「芳香環(b)」に該当する。XBが上記(i)の2価の基であるとき、XBは1個の単環式芳香族炭素環を含有する2価の有機基である。XBが上記(ii)の2価の基であるとき、XBは1個の縮合多環式芳香族炭素環を含有する2価の有機基である。単環式芳香族炭素環や縮合多環式芳香族炭素環が有していてもよい置換基の好適な例は、XBにおける「芳香環(b)」について説明したとおりであり、中でも、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1~6のアルコキシ基から選択される1種以上が好ましい。架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、単環式芳香族炭素環や縮合多環式芳香族炭素環は1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有していてもよい。単環式芳香族炭素環や縮合多環式芳香族炭素環が1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する場合、XBは後述の式(II)で表される構造((メタ)アクリロイル基含有構造;式(II)において環Arが単環式芳香族炭素環又は縮合多環式芳香族炭素環、k1が2)を有する。
【0060】
-2価の有機基XC-
式(I)において、XCは、それぞれ独立に、少なくとも1個の芳香環(c)を含有する2価の有機基を表す。
【0061】
XCで表される2価の有機基が含有する芳香環(c)は、先述のとおり、単環式芳香環、及び、縮合多環式芳香環の何れであってもよい。また、芳香環は、芳香族炭素環、及び、芳香族複素環の何れであってもよい。
【0062】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、芳香環(c)は、芳香族炭素環であることが好ましい。該芳香族炭素環は単環式芳香族炭素環および縮合多環式芳香族炭素環の何れであってもよく、その炭素原子数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。よって、好適な一実施形態において、XCで表される2価の有機基が含有する芳香環(c)は、炭素原子数6~14の芳香族炭素環である。
【0063】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、XCで表される2価の有機基に含まれる芳香環(c)の個数は、XC1個あたり、好ましくは1~7個、より好ましくは1~5個又は1~3個である。該芳香環(c)の個数に、置換基としての芳香環の個数は含まれない。
【0064】
中でも、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、XCは、2個以上の単環式芳香族炭素環を含有する2価の有機基、又は、少なくとも1個の縮合多環式芳香族炭素環を含有する2価の有機基を表す。ここで、単環式芳香族炭素環の1個当たりの炭素原子数は先述のとおりであるが、好ましくは6(すなわちベンゼン環)である。縮合多環式芳香族炭素環の1個当たりの炭素原子数は先述のとおりであるが、好ましくは10~14(例えばナフタレン環、アントラセン環)、より好ましくは10である。
【0065】
芳香環(c)は、置換基を有していてもよい。斯かる置換基は先述のとおりであるが、中でも、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、ハロゲン原子、炭化水素基及びアルコキシ基から選択される1種以上が好ましく、フッ素原子、炭素原子数1~12の炭化水素基及び炭素原子数1~10のアルコキシ基から選択される1種以上がより好ましく、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1~6のアルコキシ基から選択される1種以上がさらに好ましい。
【0066】
本発明の効果をより享受し得る観点から、芳香環(c)は、炭素原子数7~12のアリールアルキル基から選ばれる1個以上の置換基を有することが好ましく、中でも、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される1個以上の置換基を有することが好ましい。本発明の効果をより享受し得る観点から、芳香環(c)1個に対し、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される置換基が、平均して1~6個(より好適には1~5個、1~4個)結合していることが好適である。
【0067】
XCで表される2価の有機基は、上記の芳香環(c)を少なくとも1個含有する限り特に限定されず、先述のとおり、骨格原子として少なくとも炭素原子を含む基であるが、好ましくは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子から選ばれる1個以上(好ましくは1~100個、1~50個、1~30個)の骨格原子からなる2価の基が挙げられる。中でも、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、XCで表される2価の有機基は、骨格原子として炭素原子のみ又は炭素原子と酸素原子のみを含むことが好適であり、骨格原子として炭素原子のみを含むことが特に好適である。
【0068】
XCが(メタ)アクリロイル基を含有する場合、本発明の効果をより享受し得る観点から、XCにおける芳香環(c)に(メタ)アクリロイル基を含有する1価の有機基が結合していることが好適である。中でも、XCにおける芳香環(c)に、酸素原子を介して(メタ)アクリロイル基が結合していること、すなわち(メタ)アクリロイルオキシ基として結合していることが好適である。
【0069】
したがって特に好適な一実施形態において、XCは、(メタ)アクリロイル基を含有する1価の有機基(好適には(メタ)アクリロイルオキシ基)及び/又は置換基を有していてもよい単環式芳香族炭素環を少なくとも1個含有し且つ骨格原子として炭素原子のみを含む2価の基、又は、(メタ)アクリロイル基を含有する1価の有機基(好適には(メタ)アクリロイルオキシ基)及び/又は置換基を有していてもよい縮合多環式芳香族炭素環を少なくとも1個含有し且つ骨格原子として炭素原子のみを含む2価の基を示し、ここで、置換基は、ハロゲン原子、炭化水素基及びアルコキシ基から選択される1種以上であり、より好適な態様は先述のとおりである。単環式芳香族炭素環や縮合多環式芳香族炭素環といった芳香族炭素環の1個当たりの炭素原子数の好適な範囲は先述のとおりである。また、骨格原子数の好適な範囲は先述のとおりであるが、中でも、6~30又は10~30であることが好ましい。
【0070】
芳香環(c)や該芳香環(c)が有していてもよい置換基の好適な種類、XCの骨格原子については先述のとおりであるが、本発明の効果をより享受し得る観点から特に好適な一実施形態において、XCは、少なくとも1個の芳香環(c)を含有する2価の炭化水素基を表す。
【0071】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、式(I)において、XCに結合する2つの酸素原子は、XCの芳香族炭素、すなわち上記の芳香環(c)を構成する炭素原子と結合していることが好ましい。
【0072】
好適な一実施形態において、XCは、それぞれ独立に、下記式(C-1)、式(C-2)又は式(C-3)で表される。
【0073】
【化5】
(式中、
R
c1及びR
c4は、それぞれ独立に、単結合、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数1~10の2価の炭化水素基、酸素原子、スルホニル基、カルボニル基、カーボネート基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される2価の連結基を表し、
R
c2、R
c3及びR
c5は、それぞれ独立に、(メタ)アクリロイルオキシ基又は置換基を表し、
nc1、nc2及びnc3は、それぞれ独立に、0~4の整数を表し、
*は、結合手を表す。)
【0074】
式(C-1)において、2個のベンゼン環を明示する。これら2個のベンゼン環が、Xcについて先述した「芳香環(c)」に該当する。すなわち、式(C-1)で表されるXcは、2個のベンゼン環を少なくとも含有する2価の有機基である。Rc2で表される置換基の好適な例も、Xcにおける「芳香環(c)」について説明したとおりであり、中でも、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1~6のアルコキシ基から選択される1種以上が好ましい。そして本発明の効果をより享受し得る観点から、式(C-1)におけるベンゼン環は、炭素原子数7~12のアリールアルキル基から選ばれる1個以上の置換基を有することが好ましく、中でも、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される1個以上の置換基を有することが好ましい。架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、ベンゼン環が有するnc1個のRc2のうち、1個以上のRc2は(メタ)アクリロイルオキシ基を表してもよい。1個のRc2が(メタ)アクリロイルオキシ基を表す場合、式(C-1)で表されるXCは、後述の式(II)で表される構造((メタ)アクリロイル基含有構造;式(II)において環Arがベンゼン環、k1が2、2つの結合手*のうち一方の結合手*はRc1と結合)を有する。
【0075】
式(C-1)中、nc1は、それぞれ独立に、0~4の数を示し、好ましくは0~3、より好ましくは0~2、さらに好ましくは0又は1である。
【0076】
式(C-1)中、Rc1は、単結合、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数1~10の2価の炭化水素基、酸素原子、スルホニル基、カルボニル基、カーボネート基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される2価の連結基を示す。Rc1で表される2価の連結基の炭素原子数は、好ましくは1~30、より好ましくは1~20又は1~15である。
【0077】
Rc1における2価の炭化水素基としては、2価の脂肪族炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基が挙げられ、例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、シクロアルケニレン基、アルカポリエニレン基(二重結合の数は好ましくは2~10、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4、さらにより好ましくは2)、アリーレン基等が挙げられ、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、シクロアルケニレン基、アリーレン基が好ましく、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基がより好ましい。
【0078】
Rc1におけるアルキレン基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよく、その炭素原子数は、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4又は1~3である。該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。該アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基等が挙げられる。
【0079】
Rc1におけるシクロアルキレン基の炭素原子数は、より好ましくは3~10、4~10、又は6~10である。該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。シクロアルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、デカヒドロナフタニレン基、ノルボルナニレン基、ジシクロペンタニレン基、アダマンタニレン基等が挙げられる。
【0080】
Rc1におけるアルケニレン基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよく、その炭素原子数は、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4である。該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。アルケニレン基としては、例えば、エテニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、へキセニレン基等が挙げられる。
【0081】
Rc1におけるシクロアルケニレン基の炭素原子数は、より好ましくは3~10、4~10又は6~10である。該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。シクロアルケニレン基としては、例えば、シクロプロペニレン基、シクロブテニレン基、シクロペンテニレン基、シクロへキセニレン基、ノルボルネニレン基等が挙げられる。
【0082】
Rc1におけるアリーレン基の炭素原子数は、より好ましくは6~10である。該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、インダンジイル基等が挙げられる。
【0083】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、Rc1で表される2価の連結基としては、置換基を有していてもよい炭素原子数1~10の2価の炭化水素基、又はその組み合わせからなる2価の基であることが好ましく、中でも、置換基を有していてもよい炭素原子数1~6のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のシクロアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素原子数2~6のアルケニレン基、置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のシクロアルケニレン基、置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のアリーレン基、又はそれらの組み合わせからなる2価の基であることがより好ましく、置換基を有していてもよい炭素原子数1~6のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のシクロアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のアリーレン基、又はそれらの組み合わせからなる2価の基であることがさらに好ましい。炭化水素基の組み合わせからなる2価の基の好適な例としては、C1~C6アルキレン-C6~C10アリーレン-C1~C6アルキレン基、C1~C6アルキレン-C6~C10アリーレン-C6~C10アリーレン-C1~C6アルキレン基等が挙げられる。これらの組み合わせからなる2価の基においても、構成するアルキレン基やアリーレン基の炭素原子数の好適範囲や、置換基を有していてもよいことは先述のとおりである。
【0084】
Rc1における2価の炭化水素基が有していてもよい置換基は先述のとおりである。中でも、該置換基としては、アルキル基、及びアリール基から選択される1種以上が好ましく、炭素原子数1~6のアルキル基、及び炭素原子数6~10のアリール基から選択される1種以上がより好ましい。
【0085】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から特に好適な式(C-1)で表されるXCの例を以下に示す。
【0086】
好適な一実施形態において、式(C-1)中、
Rc1は、単結合、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数1~6のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のシクロアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のアリーレン基、又はそれらの組み合わせからなる2価の基を示し、
Rc2は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、又は、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基を示し、
nc1は、それぞれ独立に、0又は1である。
【0087】
より好適な一実施形態において、式(C-1)中、
Rc1は、単結合、置換基を有していてもよい炭素原子数1~3のアルキレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のシクロアルキレン基を示し、
Rc2は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、又は、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基を示し、
nc1は、それぞれ独立に、0又は1である。
【0088】
式(C-2)において、1個のナフタレン環を明示する。この1個のナフタレン環が、XCについて先述した「芳香環(c)」に該当する。すなわち、式(C-2)で表されるXCは、1個のナフタレン環を含有する2価の有機基である。Rc3で表される置換基の好適な例も、XCにおける「芳香環(c)」について説明したとおりであり、中でも、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1~6のアルコキシ基から選択される1種以上が好ましい。そして本発明の効果をより享受し得る観点から、式(C-2)におけるナフタレン環は、炭素原子数7~12のアリールアルキル基から選ばれる1個以上の置換基を有することが好ましく、中でも、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される1個以上の置換基を有することが好ましい。架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、ナフタレン環が有する2nc2個のRc3のうち、1個以上のRc3は(メタ)アクリロイルオキシ基を表してもよい。1個のRc3が(メタ)アクリロイルオキシ基を表す場合、式(C-2)で表されるXCは、後述の式(II)で表される構造((メタ)アクリロイル基含有構造;式(II)において環Arがナフタレン環、k1が2)を有する。
【0089】
式(C-2)中、nc2は、それぞれ独立に、0~4の整数を示し、好ましくは0~3、より好ましくは0~2である。
【0090】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から特に好適な式(C-2)で表されるXCの例を以下に示す。
【0091】
好適な一実施形態において、式(C-2)中、
Rc3は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、又は、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基を示し、
nc2は、それぞれ独立に、0~4の整数である。
【0092】
より好適な一実施形態において、式(C-2)中、
Rc3は、それぞれ独立に、炭素原子数7~12のアリールアルキル基を示し、
nc2は、それぞれ独立に、0~4の整数である。
【0093】
式(C-3)において、2個のナフタレン環を明示する。これら2個のナフタレン環が、XCについて先述した「芳香環(c)」に該当する。すなわち、式(C-3)で表されるXCは、2個のナフタレン環を少なくとも含有する2価の有機基である。Rc5で表される置換基の好適な例も、XCにおける「芳香環(c)」について説明したとおりであり、中でも、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1~6のアルコキシ基から選択される1種以上が好ましい。そして本発明の効果をより享受し得る観点から、式(C-3)におけるナフタレン環は、炭素原子数7~12のアリールアルキル基から選ばれる1個以上の置換基を有することが好ましく、中でも、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される1個以上の置換基を有することが好ましい。架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、ナフタレン環が有する2nc3個のRc5のうち、1個以上のRc5は(メタ)アクリロイルオキシ基を表してもよい。1個のRc5が(メタ)アクリロイルオキシ基を表す場合、式(C-3)で表されるXCは、後述の式(II)で表される構造((メタ)アクリロイル基含有構造;式(II)において環Arがナフタレン環、k1が2、2つの結合手*のうち一方の結合手*はRc4と結合)を有する。
【0094】
式(C-3)中、nc3は、それぞれ独立に、0~4の整数を示し、好ましくは0~3、より好ましくは0~2である。
【0095】
式(C-3)中、Rc4は、単結合、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数1~10の2価の炭化水素基、酸素原子、スルホニル基、カルボニル基、カーボネート基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される2価の連結基を示す。Rc4で表される2価の連結基の炭素原子数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~10又は1~6である。
【0096】
Rc4における2価の炭化水素基は、その好適な例も含め、Rc1における2価の炭化水素基と同様であり、中でも、置換基を有していてもよい炭素原子数1~6のアルキレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のシクロアルキレン基が好ましい。置換基の好適な例も、RC1における2価の炭化水素基と同様である。
【0097】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から特に好適な式(C-3)で表されるXcの例を以下に示す。
【0098】
好適な一実施形態において、式(C-3)中、
Rc4は、単結合、置換基を有していてもよい炭素原子数1~6のアルキレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のシクロアルキレン基を示し、
Rc5は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、又は、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基を示し、
nc3は、それぞれ独立に、0~4の整数である。
【0099】
より好適な一実施形態において、式(C-3)中、
Rc4は、単結合、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数1~3のアルキレン基を示し、
Rc5は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、又は、炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基を示し、
nc3は、それぞれ独立に、0~4の整数である。
【0100】
先述のとおり、本発明のエステル樹脂は、式(I)で表され、XA、XB、XCのうち少なくとも1つが(メタ)アクリロイル基を含有することを特徴とする。これにより本発明のエステル樹脂は、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらすことができる。式(I)で表され、XA、XB、XCのうち少なくとも1つが(メタ)アクリロイル基を含有する本発明のエステル樹脂はまた、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、ビアホール形成時のスミア除去性に優れると共にハローイング現象を抑えることのできる硬化物をもたらすことができることも本発明者らは確認している。
【0101】
式(I)において、XA、XB、XCのうち少なくとも1つが(メタ)アクリロイル基を含有すればよいが、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、2個のXAの少なくとも一方が(メタ)アクリロイル基を含有することが好ましく、2個のXAの両方が(メタ)アクリロイル基を含有することがより好ましい。
【0102】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、式(I)において、(メタ)アクリロイル基は、XAにおける芳香環(a)、XBにおける芳香環(b)、XCにおける芳香環(c)のうち少なくとも1つの芳香環に、酸素原子を介して結合していること、すなわち(メタ)アクリロイルオキシ基として結合していることが好適である。
【0103】
したがって好適な一実施形態において、XA、XB、XCのうち少なくとも1つが、下記式(II)で表される構造を含む。
【0104】
【化6】
(式(II)中、
環Arは、芳香環を表し、
R
Sは、それぞれ独立に、置換基を表し、
k1は1又は2であり、
k2は、環Arで表される芳香環の置換可能な水素原子の数をp個としたとき、0≦k2≦(p-1-k1)を満たす整数を表し、
★及び*は結合手を表す。)
【0105】
式(II)中、環Arは、芳香環を表す。該芳香環は、XAにおける「芳香環(a)」、XBにおける「芳香環(b)」、又は、XCにおける「芳香環(c)」に該当する。環Arの好適な例も、芳香環(a)、芳香環(b)、芳香環(c)について説明したとおりである。
【0106】
例えば、XAが上記式(II)で表される構造を含む場合、k1は1であり、1つの結合手*は式(I)に示されるXAの結合手、すなわち酸素原子と結合している結合手であってよく、結合手★が(メタ)アクリロイル基と結合している。中でも、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、環Arは、炭素原子数6~14の芳香族炭素環であることが好ましく、ベンゼン環又はナフタレン環であることがより好ましい。RSで表される置換基の種類や好適な例は先述のとおりであるが、中でも、炭化水素基からなる群から選択される1種以上がより好ましく、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、及び不飽和脂肪族炭化水素基からなる群から選択される1種以上がさらに好ましく、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、及び炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基からなる群から選択される1種以上がさらにより好ましく、先述のとおり、これらの置換基は二次置換基を有していてもよい。
【0107】
例えば、XCが上記式(II)で表される構造を含む場合、k1は2である。例えば上記式(C-2)のようにXCが1個の芳香環(c)を含む場合、式(II)における2つの結合手*のうち両方が式(I)に示されるXCの結合手、すなわち酸素原子と結合している結合手であってよい。あるいはまた、上記式(C-1)や式(C-3)のようにXCが複数の芳香環(c)を含む場合、式(II)における2つの結合手*のうち一方が式(I)に示されるXCの結合手、すなわち酸素原子と結合している結合手であってよく、他方がXCの残りの骨格原子と結合している結合手であってよい(すなわち、式(C-1)であればRc1、式(C-3)であればRc4と結合している結合手であってよい)。結合手★は(メタ)アクリロイル基と結合している。中でも、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、環Arは、炭素原子数6~14の芳香族炭素環であることが好ましく、ベンゼン環又はナフタレン環であることがより好ましい。RSで表される置換基の種類や好適な例は先述のとおりであるが、中でも、炭化水素基からなる群から選択される1種以上がより好ましく、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、及び不飽和脂肪族炭化水素基からなる群から選択される1種以上がさらに好ましく、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、及び炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基からなる群から選択される1種以上がさらにより好ましく、先述のとおり、これらの置換基は二次置換基を有していてもよい。
【0108】
XCが上記式(II)で表される構造を含む場合、芳香環(c)に該当する環Arは、炭素原子数7~12のアリールアルキル基から選ばれる1個以上の置換基を有することが好ましく、中でも、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される1個以上の置換基を有することが好ましい。この場合、環Ar1個に対し、ベンジル基、α-メチルベンジル基及びナフチルメチル基からなる群から選択される置換基が、平均して1~6個(より好適には1~5個、1~4個)結合していることが好適である。
【0109】
例えば、XBが上記式(II)で表される構造を含む場合、k1は2である。例えばXBが1個の芳香環(b)を含む場合、式(II)における2つの結合手*のうち両方が式(I)に示されるXBの結合手、すなわちカルボニル基と結合している結合手であってよい。あるいはまた、XBが複数の芳香環(b)を含む場合、式(II)における2つの結合手*のうち一方が式(I)に示されるXBの結合手、すなわちカルボニル基と結合している結合手であってよく、他方がXBの残りの骨格原子と結合している結合手であってよい。結合手★は(メタ)アクリロイル基と結合している。中でも、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、環Arは、炭素原子数6~14の芳香族炭素環であることが好ましく、ベンゼン環又はナフタレン環であることがより好ましい。RSで表される置換基の種類や好適な例は先述のとおりであるが、中でも、炭化水素基からなる群から選択される1種以上がより好ましく、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、及び不飽和脂肪族炭化水素基からなる群から選択される1種以上がさらに好ましく、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~12のアリールアルキル基、及び炭素原子数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基からなる群から選択される1種以上がさらにより好ましく、先述のとおり、これらの置換基は二次置換基を有していてもよい。
【0110】
式(II)中、k2は、環Arで表される芳香環の置換可能な水素原子の数をp個としたとき、0≦k2≦(p-1-k1)を満たす整数を表す。例えば、環Arがベンゼン環である場合、置換可能な水素原子の数pは6であり、環Arがナフタレン環である場合、置換可能な水素原子の数pは8である。
【0111】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、本発明のエステル樹脂は、1分子あたり、2個以上の(メタ)アクリロイル基を含有することが好ましく、1分子あたり、式(II)で表される構造を2個以上含むことがより好ましい。本発明の効果をより享受し得る観点から特に好適な一実施形態において、式(I)において、2個のXAの少なくとも一方が式(II)で表される構造を含むことが好ましく、2個のXAの両方が式(II)で表される構造を含むことがより好ましい。
【0112】
式(I)中、nは、0以上の整数を表す。架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、nは、0~10の整数であることが好ましく、その上限は、より好ましくは8、さらに好ましくは6又は5である。
【0113】
架橋性樹脂との組み合わせにおいて、よりいっそう良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、本発明のエステル樹脂は、該エステル樹脂の全量を100質量%としたとき、式(I)中のnが0であるもの(単に「n=0体」ともいう。)の含有量が5質量%以上であることが好ましい。該n=0体の含有量は、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、40質量%以上又は50質量%以上である。
【0114】
該n=0体の含有量はさらに高くてもよく、本発明のエステル樹脂は、実質的にn=0体からなってもよい。本発明において、「実質的にn=0体からな(る)」とは、エステル樹脂の全量を100質量%としたとき、n=0体の含有量が98質量%以上であることを意味する。
【0115】
本発明のエステル樹脂において、オキシカルボニル基の当量(活性エステル基当量)は、好ましくは100g/eq.以上、より好ましくは110g/eq.以上、さらに好ましくは120g/eq.以上、又は130g/eq.以上である。該オキシカルボニル基の当量の上限は、例えば、500g/eq.以下、400g/eq.以下、300g/eq.以下、250g/eq.以下、又は200g/eq.以下などとし得る。
【0116】
以下、本発明のエステル樹脂の合成手順について一例を示す。
【0117】
一実施形態において、本発明のエステル樹脂は、
下記(x1)成分と下記(x2)成分との縮合反応物であって(x1)成分及び(x2)成分の何れか1つ以上が(メタ)アクリロイル基を含有するか、又は
下記(x1)成分と下記(x2)成分と下記(x3)成分との縮合反応物であって、(x1)成分、(x2)成分及び(x3)成分の何れか1つ以上が(メタ)アクリロイル基を含有する。
(x1)1価芳香族ヒドロキシ化合物
(x2)2価芳香族カルボン酸化合物又は2価芳香族カルボン酸ハライド化合物
(x3)2価芳香族ヒドロキシ化合物
【0118】
-(x1)1価芳香族ヒドロキシ化合物-
(x1)成分は、1価芳香族ヒドロキシ化合物であり、下記式(x1)で表される。
【0119】
【0120】
(x1)成分としては、目的とするエステル樹脂中のXAに応じて、任意の1価芳香族ヒドロキシ化合物を用いてよい。XAの好適な例は先述のとおりである。例えば、斯かる1価芳香族ヒドロキシ化合物としては、目的とするエステル樹脂中のXAが(メタ)アクリロイルオキシ基を有し且つ置換基を有していてもよいナフチル基である場合、置換基を有していてもよい(メタ)アクリロイルオキシナフトールを用いればよく、目的とするエステル樹脂中のXAが(メタ)アクリロイルオキシ基を有し且つ置換基を有していてもよいフェニル基である場合、置換基を有していてもよい(メタ)アクリロイルオキシフェノールを用いればよい。また、目的とするエステル樹脂中のXAが置換基を有していてもよいナフチル基である場合、置換基を有していてもよいナフトールを用いればよく、目的とするエステル樹脂中のXAが置換基を有していてもよいフェニル基である場合、置換基を有していてもよいフェノールを用いればよい。
【0121】
-(x2)2価芳香族カルボン酸(ハライド)化合物-
(x2)成分は、2価芳香族カルボン酸化合物又は2価芳香族カルボン酸ハライド化合物であり、下記式(x2)で表される。
【0122】
【化8】
(式中、X
Bは上記と同じであり、Yはヒドロキシ基又はハロゲン原子を示す。)
【0123】
(x2)成分としては、目的とするエステル樹脂中のXBに応じて、任意の2価芳香族カルボン酸(ハライド)化合物を用いてよい。XBの好適な例は先述のとおりである。例えば、目的とするエステル樹脂中のXBが置換基を有していてもよいフェニレン基である場合、置換基を有していてもよいイソフタル酸(クロリド)や、置換基を有していてもよいテレフタル酸(クロリド)を用いればよい。また、目的とするエステル樹脂中のXBが(メタ)アクリロイルオキシ基を有し且つ置換基を有していてもよいフェニレン基である場合、置換基を有していてもよい(メタ)アクリロイルオキシイソフタル酸(クロリド)や、置換基を有していてもよい(メタ)アクリロイルオキシテレフタル酸(クロリド)を用いればよい。
【0124】
-(x3)2価芳香族ヒドロキシ化合物-
(x3)成分は、2価芳香族ヒドロキシ化合物であり、下記式(x3)で表される。
【0125】
【0126】
2価芳香族ヒドロキシ化合物(x3)としては、目的とするエステル樹脂中のXCに応じて、任意の2価芳香族ヒドロキシ化合物を用いてよい。XCの好適な例は先述のとおりである。例えば、斯かる2価芳香族ヒドロキシ化合物としては、先述の式(C-1)で表されるXCの構造をもたらすものとして、ビフェニル化合物、1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状化合物とフェノール類との付加反応物、各種ビスフェノール化合物等が挙げられる。不飽和脂肪族環状化合物とフェノール類の付加反応物としては、例えば、ジシクロペンタジエン、テトラヒドロインデン、ノルボルナジエン、リモネン、ビニルシクロヘキセン等の不飽和脂肪族環状化合物と、置換基を有していてもよいフェノール(例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ビニルフェノール、アリルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、ハロフェノール等)との付加反応物が挙げられ、具体的には例えば、ジシクロペタジエン-フェノール付加物(ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂)等が挙げられる。ビスフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAF、ビスフェノールAP、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールM等が挙げられる。また、2価芳香族ヒドロキシ化合物としては、先述の式(C-2)で表されるXCの構造をもたらすものとして、ナフタレン環上の炭素原子に2個のヒドロキシ基が結合したジオール(2,7-ナフタレンジオール、1,4-ナフタレンジオール、1,5-ナフタレンジオール、1,6-ナフタレンジオール、2,6ナフタレンジオールなど)等が挙げられる。さらに、2価芳香族ヒドロキシ化合物としては、先述の式(C-3)で表されるXCの構造をもたらすものとして、ビナフトール化合物や各種ビスナフトール化合物が挙げられる。これら2価芳香族ヒドロキシ化合物は、目的とするエステル樹脂中のXCが、(メタ)アクリロイルオキシ基又は置換基を有する場合は、(メタ)アクリロイルオキシ基又は置換基を有する2価芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよい。
【0127】
本発明の効果をより享受し得る観点から、2価芳香族ヒドロキシ化合物(x3)の水酸基当量(Eq1)は、好ましくは80g/eq.以上、より好ましくは100g/eq.以上、120g/eq.以上又は140g/eq.以上、さらに好ましくは150g/eq.以上又は160g/eq.以上である。該水酸基当量Eq1の上限は、特に限定されないが、例えば400g/eq.以下、300g/eq.以下、200g/eq.以下などとし得る。
【0128】
(x1)成分、(x2)成分及び(x3)成分の縮合反応においては、(x1)成分と(x2)成分との間、(x2)成分と(x3)成分との間で縮合(エステル化)が進行する。斯かる反応において、各成分の量比等の条件を変更することにより、(x2)成分と(x3)成分との間の縮合度を調整することができ、得られるエステル樹脂の構造(式(I)中のn)を調整することができる。例えば、実質的にn=0体からなるエステル樹脂を製造するに際しては、(x1)成分と(x2)成分に対しごく少量の(x3)成分を用いるか又は(x3)成分は用いずに(x1)成分と(x2)成分のみを反応させればよい。
【0129】
縮合反応は、溶媒を使用せずに無溶媒系で進行させてもよいし、有機溶媒を使用して有機溶媒系で進行させてもよい。縮合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル系溶媒;セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶剤が挙げられる。有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0130】
縮合反応においては、塩基を用いてもよい。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)や水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;トリエチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)等の第3級アミン類等が挙げられる。塩基は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0131】
縮合反応においてはまた、縮合剤や層間移動触媒を用いてよい。これらは、エステル化反応において用いることのできる従来公知の任意のものを用いてよい。
【0132】
縮合反応における反応温度は、縮合反応が進行する限り特に限定されず、例えば、0~80℃の範囲としてよい。また縮合反応における反応時間は、目的とするエステル樹脂の構造が達成される限り特に限定されず、例えば、30分間~8時間の範囲としてよい。
【0133】
縮合反応後にエステル樹脂を精製してもよい。例えば、縮合反応後、副生塩や過剰量の出発原料を系内から除去するために、水洗や精密濾過などの精製工程を施してもよい。詳細には、縮合反応後、副生塩を溶解するに必要な量の水を添加して、静置分液して水層を棄却する。さらに必要に応じて酸を添加し中和して水洗を繰り返す。その後、薬剤或いは共沸による脱水工程を経て精密濾過し不純物を除去精製した後に、必要に応じて、有機溶媒を蒸留除去することにより、エステル樹脂を得ることができる。有機溶媒を完全に除去しないでそのまま樹脂組成物の溶剤に使用してもよい。
【0134】
本発明のエステル樹脂は、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらすことができ、5G用途で求められる低伝送損失及び耐熱性を達成することができる。本発明のエステル樹脂はまた、架橋性樹脂との組み合わせにおいて、ビアホール形成時のスミア除去性に優れると共にハローイング現象を抑えることのできる硬化物をもたらすことができることも本発明者らは確認している。したがって好適な一実施形態において、本発明のエステル樹脂は、樹脂架橋剤として好適に用いることができる。
【0135】
[樹脂組成物]
本発明のエステル樹脂を用いて樹脂組成物を製造することができる。本発明は、斯かる樹脂組成物も提供する。
【0136】
本発明の樹脂組成物は、エステル樹脂と、架橋性樹脂とを含み、該エステル樹脂が本発明のエステル樹脂、すなわち上記式(I)で表され、XA、XB、XCのうち少なくとも1つが(メタ)アクリロイル基を含有するエステル樹脂であること特徴とする。
【0137】
式(I)中のXA、XB、XCで表される有機基の好適な例をはじめ、本発明のエステル樹脂の詳細は、上記[エステル樹脂]欄にて説明したとおりである。
【0138】
本発明の樹脂組成物において、架橋性樹脂としては、エステル樹脂との組み合わせにおいて架橋することができる限り、その種類は特に限定されない。エステル樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらすことができる観点から、架橋性樹脂は、熱硬化性樹脂及びラジカル重合性樹脂からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0139】
熱硬化性樹脂及びラジカル重合性樹脂としては、プリント配線板や半導体チップパッケージの絶縁層を形成する際に使用される公知の樹脂を用いてよい。以下、架橋性樹脂として用いることのできる熱硬化性樹脂及びラジカル重合性樹脂について説明する。
【0140】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ウレタン樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、エステル樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらすことができる観点から、架橋性樹脂は、エポキシ樹脂及びポリアリーレンエーテル樹脂から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0141】
エポキシ樹脂は、1分子中に1個以上(好ましくは2個以上)のエポキシ基を有する限り、その種類は特に限定されない。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、tert-ブチル-カテコール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フルオレン骨格型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、トリメチロール型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂等が挙げられる。本発明のエステル樹脂を含む本発明の樹脂組成物によれば、エポキシ樹脂の種類によらず、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらすことができる。
【0142】
エポキシ樹脂は、温度20℃で液状のエポキシ樹脂(以下「液状エポキシ樹脂」という。)と、温度20℃で固体状のエポキシ樹脂(以下「固体状エポキシ樹脂」という。)に分類し得るが、本発明の樹脂組成物は、架橋性樹脂として、液状エポキシ樹脂のみを含んでもよく、固体状エポキシ樹脂のみを含んでもよく、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを組み合わせて含んでもよい。液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを組み合わせて含む場合、配合割合(液状:固体状)は質量比で20:1~1:20の範囲(好ましくは10:1~1:10、より好ましくは3:1~1:3)としてよい。
【0143】
エポキシ樹脂のエポキシ基当量は、好ましくは50g/eq.~2000g/eq.、より好ましくは60g/eq.~1000g/eq.、さらに好ましくは80g/eq.~500g/eq.である。エポキシ基当量は、1当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂の質量であり、JIS K7236に従って測定することができる。
【0144】
エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは100~5,000、より好ましくは250~3,000、さらに好ましくは400~1,500である。エポキシ樹脂のMwは、GPC法により、ポリスチレン換算の値として測定できる。
【0145】
ポリアリーレンエーテル樹脂は、ポリアリーレンエーテル骨格を有し、末端ヒドロキシ基等の官能基が反応して架橋性を呈する限り、その種類は特に限定されない。ポリアリーレンエーテル樹脂は、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリナフチレンエーテル樹脂が挙げられ、それらは単独重合体であっても、共重合体であってもよい。ポリフェニレンエーテル樹脂の単独重合体としては、例えば2,6-ジC1~3アルキル-1,4-フェニレンエーテル単位を含むものが挙げられ、その共重合体としては、例えば、2,6-ジC1~3アルキル-1,4-フェニレンエーテル単位に2,3,6-トリC1~3アルキル-1,4-フェニレンエーテル単位などを組みわせて含有するグラフト、ブロック又はランダム共重合体が挙げられる。本発明のエステル樹脂を含む本発明の樹脂組成物によれば、ポリアリーレンエーテル樹脂の種類によらず、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらすことができる。ポリアリーレンエーテル樹脂としては、例えば、SABIC製「Noryl(登録商標)SA90」等が挙げられる。
【0146】
ポリアリーレンエーテル樹脂の数平均分子量(Mn)は、好ましくは200~5,000、より好ましくは400~3,000、さらに好ましくは600~2,500である。ポリアリーレンエーテル樹脂のMnは、GPC法により、ポリスチレン換算の値として測定できる。
【0147】
ラジカル重合性樹脂としては、1分子中に1個以上(好ましくは2個以上)のラジカル重合性不飽和基を有する限り、その種類は特に限定されない。ラジカル重合性樹脂としては、例えば、ラジカル重合性不飽和基として、マレイミド基、ビニル基、アリル基、スチリル基、ビニルフェニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、フマロイル基、及びマレオイル基から選ばれる1種以上を有する樹脂が挙げられる。中でも、エステル樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらすことができる観点から、架橋性樹脂は、マレイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びスチリル樹脂から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0148】
マレイミド樹脂としては、1分子中に1個以上(好ましくは2個以上)のマレイミド基(2,5-ジヒドロ-2,5-ジオキソ-1H-ピロール-1-イル基)を有する限り、その種類は特に限定されない。マレイミド樹脂としては、例えば、「BMI-3000J」、「BMI-5000」、「BMI-1400」、「BMI-1500」、「BMI-1700」、「BMI-689」(いずれもデジクナーモレキュールズ社製)などの、ダイマージアミン由来の炭素原子数36の脂肪族骨格を含むマレイミド樹脂;発明協会公開技報公技番号2020-500211号に記載される、インダン骨格を含むマレイミド樹脂;「MIR-3000-70MT」(日本化薬社製)、「BMI-4000」、「BMI-1000」(大和化成社製)、「BMI-80」(ケイアイ化成社製)などの、マレイミド基の窒素原子と直接結合している芳香環骨格を含むマレイミド樹脂が挙げられる。
【0149】
(メタ)アクリル樹脂としては、1分子中に1個以上(好ましくは2個以上)の(メタ)アクリロイル基を有する限り、その種類は特に限定されず、モノマー、オリゴマーであってもよい。ここで、「(メタ)アクリロイル基」という用語は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の総称である。メタクリル樹脂としては、(メタ)アクリレートモノマーのほか、例えば、「A-DOG」(新中村化学工業社製)、「DCP-A」(共栄社化学社製)、「NPDGA」、「FM-400」、「R-687」、「THE-330」、「PET-30」、「DPHA」(何れも日本化薬社製)などの、(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。
【0150】
スチリル樹脂としては、1分子中に1個以上(好ましくは2個以上)のスチリル基又はビニルフェニル基を有する限り、その種類は特に限定されず、モノマー、オリゴマーであってもよい。スチリル樹脂としては、スチレンモノマーのほか、例えば、「OPE-2St」、「OPE-2St 1200」、「OPE-2St 2200」(何れも三菱ガス化学社製)などの、スチリル樹脂が挙げられる。
【0151】
本発明の樹脂組成物は、架橋性樹脂として、熱硬化性樹脂のみ含んでもよく、ラジカル重合性樹脂のみ含んでもよく、熱硬化性樹脂とラジカル重合性樹脂を組み合わせて含んでもよい。
【0152】
エステル樹脂との組み合わせにおいて、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす観点から、樹脂組成物中の架橋性樹脂の含有量は、樹脂組成物中の樹脂成分を100質量%とした場合、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上、14質量%以上又は15質量%以上である。該含有量の上限は、特に限定されず、樹脂組成物に要求される特性に応じて決定してよいが、例えば、70質量%以下、65質量%以下又は60質量%以下などとし得る。本発明において、樹脂組成物についていう「樹脂成分」とは、樹脂組成物を構成する不揮発成分のうち、後述する無機充填材を除いた成分をいう。
【0153】
本発明の樹脂組成物において、架橋性樹脂に対するエステル樹脂の質量比(エステル樹脂/架橋性樹脂)は、本発明の効果をより享受し得る観点から、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上である。該質量比の上限は、例えば、5以下、3以下又は2以下などとし得る。したがって一実施形態において、架橋性樹脂に対するエステル樹脂の質量比(エステル樹脂/架橋性樹脂)は、0.4~5である。
【0154】
本発明の樹脂組成物は、さらに無機充填材を含んでもよい。無機充填材を含有させることにより、線熱膨張率や誘電正接をより低下させることができる。
【0155】
無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。中でもシリカが好適である。シリカとしては、例えば、無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が挙げられる。また、シリカとしては、球状シリカが好ましい。無機充填材は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機充填材の市販品としては、例えば、日鉄ケミカル&マテリアル社製の「SP60-05」、「SP507-05」;アドマテックス社製の「YC100C」、「YA050C」、「YA050C-MJE」、「YA010C」、「SC2500SQ」、「SO-C4」、「SO-C2」、「SO-C1」;デンカ社製の「UFP-30」、「DAW-03」、「FB-105FD」;トクヤマ社製の「シルフィルNSS-3N」、「シルフィルNSS-4N」、「シルフィルNSS-5N」;太平洋セメント社製の「セルフィアーズ」「MGH-005」;日揮触媒化成社製の「エスフェリーク」「BA-1」などが挙げられる。
【0156】
無機充填材の平均粒径は、硬化物(絶縁層)表面が低粗度となり、微細配線形成を容易にする観点から、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。該平均粒径の下限は、特に限定されず、例えば0.01μm以上、0.02μm以上、0.03μm以上などとし得る。無機充填材の平均粒径はミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的にはレーザー回折散乱式粒度分布測定装置により、無機充填材の粒度分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、無機充填材を超音波により水中に分散させたものを好ましく使用することができる。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置としては、堀場製作所社製LA-950等を使用することができる。
【0157】
無機充填材は、アミノシラン系カップリング剤、ウレイドシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、ビニルシラン系カップリング剤、スチリルシラン系カップリング剤、アクリレートシラン系カップリング剤、イソシアネートシラン系カップリング剤、スルフィドシラン系カップリング剤、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤等の表面処理剤で表面処理してその耐湿性、分散性を向上させたものが好ましい。
【0158】
本発明の樹脂組成物が無機充填材を含む場合、樹脂組成物中の無機充填材の含有量は、樹脂組成物に要求される特性に応じて決定してよいが、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、例えば、5質量%以上、10質量%以上であり、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。無機充填材の含有量の上限は、特に限定されないが、例えば90質量%以下、88質量%以下、86質量%以下などとし得る。
【0159】
本発明の樹脂組成物は、さらに本発明のエステル樹脂以外の樹脂架橋剤を含んでもよい。
【0160】
本発明のエステル樹脂以外の樹脂架橋剤(以下、単に「その他樹脂架橋剤」ともいう。)としては、「TD2090」、「TD2131」(DIC社製)、「MEH-7600」、「MEH-7851」、「MEH-8000H」(明和化成社製)、「NHN」、「CBN」、「GPH-65」、「GPH-103」(日本化薬社製)、「SN170」、「SN180」、「SN190」、「SN475」、「SN485」、「SN495」、「SN375」、「SN395」(日鉄ケミカル&マテリアル社製)、「LA7052」、「LA7054」、「LA3018」、「LA1356」(DIC社製)などのフェノール系硬化剤;「F-a」、「P-d」(四国化成社製)、「HFB2006M」(昭和高分子社製)などのベンゾオキサジン系架橋剤;メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物などの酸無水物系架橋剤;PT30、PT60、BA230S75(ロンザジャパン社製)などのシアネートエステル系架橋剤;ベンゾオキサジン系架橋剤などが挙げられる。
【0161】
本発明の樹脂組成物がその他樹脂架橋剤を含む場合、樹脂組成物中の該その他樹脂架橋剤の含有量は、樹脂組成物に要求される特性に応じて決定してよいが、樹脂組成物中の樹脂成分を100質量%とした場合、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下であり、下限は、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上などとし得る。
【0162】
本発明の樹脂組成物は、さらに架橋促進剤を含んでもよい。架橋促進剤を含むことにより、架橋時間及び架橋温度を効率的に調整することができる。
【0163】
架橋促進剤としては、例えば、「TPP」、「TPP-K」、「TPP-S」、「TPTP-S」(北興化学工業社製)などの有機ホスフィン化合物;「キュアゾール2MZ」、「2E4MZ」、「Cl1Z」、「Cl1Z-CN」、「Cl1Z-CNS」、「Cl1Z-A」、「2MZ-OK」、「2MA-OK」、「2PHZ」(四国化成工業社製)などのイミダゾール化合物;ノバキュア(旭化成工業社製)、フジキュア(富士化成工業社製)などのアミンアダクト化合物;1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7,4-ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、4-ジメチルアミノピリジンなどのアミン化合物;コバルト、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、スズ等の有機金属錯体又は有機金属塩等が挙げられる。
【0164】
本発明の樹脂組成物が架橋促進剤を含む場合、樹脂組成物中の架橋促進剤の含有量は、樹脂組成物に要求される特性に応じて決定してよいが、樹脂組成物中の樹脂成分を100質量%とした場合、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下であり、下限は、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上などとし得る。
【0165】
本発明の樹脂組成物は、さらに他の添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、例えば、ゴム粒子等の有機充填材;スルホニウム塩系、ヨードニウム塩系、非イオン系などの光カチオン重合開始剤や光酸発生剤;ナフトキノンジアジド化合物などの感光剤;:過酸化物系ラジカル重合開始剤、アゾ系ラジカル重合開始剤等のラジカル重合開始剤;フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂;有機銅化合物、有機亜鉛化合物、有機コバルト化合物等の有機金属化合物;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アイオディングリーン、ジアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック等の着色剤;ハイドロキノン、カテコール、ピロガロール、フェノチアジン等の重合禁止剤;シリコーン系レベリング剤、アクリルポリマー系レベリング剤等のレベリング剤;ベントン、モンモリロナイト等の増粘剤;シリコーン系消泡剤、アクリル系消泡剤、フッ素系消泡剤、ビニル樹脂系消泡剤等の消泡剤;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;尿素シラン等の接着性向上剤;トリアゾール系密着性付与剤、テトラゾール系密着性付与剤、トリアジン系密着性付与剤等の密着性付与剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の酸化防止剤;スチルベン誘導体等の蛍光増白剤;フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等の界面活性剤;リン系難燃剤(例えばリン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、ホスフィン酸化合物、赤リン)、窒素系難燃剤(例えば硫酸メラミン)、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤(例えば三酸化アンチモン)等の難燃剤;リン酸エステル系分散剤、ポリオキシアルキレン系分散剤、アセチレン系分散剤、シリコーン系分散剤、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤等の分散剤;ボレート系安定剤、チタネート系安定剤、アルミネート系安定剤、ジルコネート系安定剤、イソシアネート系安定剤、カルボン酸系安定剤、カルボン酸無水物系安定剤等の安定剤等が挙げられる。斯かる添加剤の含有量は、樹脂組成物に要求される特性に応じて決定してよい。
【0166】
本発明の樹脂組成物は、揮発性成分として、さらに有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒;テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;酢酸2-エトキシエチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチルジグリコールアセテート、γ-ブチロラクトン、メトキシプロピオン酸メチル等のエーテルエステル系溶媒;乳酸メチル、乳酸エチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル等のエステルアルコール系溶媒;2-メトキシプロパノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)等のエーテルアルコール系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;ヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0167】
本発明の樹脂組成物が有機溶媒を含む場合、樹脂組成物中の有機溶媒の含有量は、樹脂組成物に要求される特性に応じて決定してよいが、樹脂組成物中の全成分を100質量%とした場合、例えば、60質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下などとし得る。
【0168】
本発明の樹脂組成物は、上記の成分のうち必要な成分を適宜混合し、また、必要に応じて三本ロール、ボールミル、ビーズミル、サンドミル等の混練手段、あるいはスーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の撹拌手段により混練または混合することにより調製することができる。
【0169】
本発明の樹脂組成物は、本発明のエステル樹脂に加えて、上記の成分を適宜組み合わせて用いることにより、熱硬化性樹脂組成物として調製することもでき、光硬化性樹脂組成物として調製することもできる。例えば、本発明のエステル樹脂を含むと共に、架橋性樹脂、無機充填材、その他樹脂架橋剤、架橋促進剤、及び上記他の添加剤からなる群から選択される1種以上を用いて熱硬化性樹脂組成物を調製してよい。また、本発明のエステル樹脂と、光カチオン重合開始剤、光酸発生剤及び感光剤からなる群から選択される1種以上とを組み合わせて用いると共に、架橋性樹脂、無機充填材、その他樹脂架橋剤、架橋促進剤、及び上記他の添加剤からなる群から選択される1種以上とを用いて光硬化性樹脂組成物を調製してよい。したがって一実施形態において、本発明の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物又は光硬化性樹脂組成物である。
【0170】
本発明のエステル樹脂と架橋性樹脂を組み合わせて含む本発明の樹脂組成物は、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらすことができる。
【0171】
一実施形態において、本発明の樹脂組成物の硬化物は、誘電率(Dk)が低いという特徴を呈する。例えば、後述する[誘電特性]欄に記載のように5.8GHz、23℃で測定した場合、本発明の樹脂組成物の硬化物の誘電率(Dk)は、好ましくは3.3以下、3.2以下、3.1以下、3.0以下、2.9以下又は2.8以下となり得る。
【0172】
一実施形態において、本発明の樹脂組成物の硬化物は、誘電正接(Df)が低いという特徴を呈する。例えば、後述する[誘電特性]欄に記載のように5.8GHz、23℃で測定した場合、本発明の樹脂組成物の硬化物の誘電正接(Df)は、好ましくは0.008以下、0.006以下、0.005以下、0.004以下又は0.003以下となり得る。
【0173】
一実施形態において、本発明の樹脂組成物の硬化物は、耐熱性が高いという特徴を呈する。例えば、後述する[耐熱性]欄に記載のように動的粘弾性測定装置を使用して、荷重200mN、昇温速度2℃/分の測定条件にて測定した場合、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは130℃以上、140℃以上、150℃以上、160℃以上、170℃以上又は180℃以上となり得る。
【0174】
先述のとおり、本発明の樹脂組成物は、良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらすことができることから、プリント配線板の絶縁層を形成するための樹脂組成物(プリント配線板の絶縁層用樹脂組成物)として好適に使用することができ、プリント配線板の層間絶縁層を形成するための樹脂組成物(プリント配線板の絶層間縁層用樹脂組成物)としてより好適に使用することができる。本発明の樹脂組成物は、プリント配線板が部品内蔵回路板である場合にも好適に使用することができる。本発明の樹脂組成物はまた、半導体チップを封止するための樹脂組成物(半導体封止用の樹脂組成物)として好適に使用することができ、再配線層を形成するための絶縁層としての再配線形成層用の樹脂組成物(再配線形成層用の樹脂組成物)として好適に使用することができる。本発明の樹脂組成物はさらに、樹脂シート、プリプレグ等のシート状積層材料、ソルダーレジスト、アンダーフィル材、ダイボンディング材、穴埋め樹脂、部品埋め込み樹脂等、樹脂組成物が必要とされる用途で広範囲に使用できる。
【0175】
[シート状積層材料(樹脂シート、プリプレグ)]
本発明の樹脂組成物は、そのまま使用することもできるが、該樹脂組成物を含有するシート状積層材料の形態で用いてもよい。
【0176】
シート状積層材料としては、以下に示す樹脂シート、プリプレグが好ましい。
【0177】
一実施形態において、樹脂シートは、支持体と、該支持体上に設けられた樹脂組成物の層(以下、単に「樹脂組成物層」という。)とを含み、樹脂組成物層が本発明の樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
【0178】
樹脂組成物層の厚さは、用途によって好適値は異なり、用途に応じて適宜決定してよい。例えば、樹脂組成物層の厚さは、プリント配線板や半導体チップパッケージの薄型化の観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、120μm以下、100μm以下、80μm以下、60μm以下又は50μm以下である。樹脂組成物層の厚さの下限は、特に限定されないが、通常、1μm以上、5μm以上などとし得る。
【0179】
支持体としては、例えば、熱可塑性樹脂フィルム、金属箔、離型紙が挙げられ、熱可塑性樹脂フィルム、金属箔が好ましい。したがって好適な一実施形態において、支持体は、熱可塑性樹脂フィルム又は金属箔である。
【0180】
支持体として熱可塑性樹脂フィルムを使用する場合、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル、環状ポリオレフィン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルファイド(PES)、ポリエーテルケトン、ポリイミド等が挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく、安価なポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0181】
支持体として金属箔を使用する場合、金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔等が挙げられ、銅箔が好ましい。銅箔としては、銅の単金属からなる箔を用いてもよく、銅と他の金属(例えば、スズ、クロム、銀、マグネシウム、ニッケル、ジルコニウム、ケイ素、チタン等)との合金からなる箔を用いてもよい。
【0182】
支持体は、樹脂組成物層と接合する面にマット処理、コロナ処理、帯電防止処理を施してあってもよい。また、支持体としては、樹脂組成物層と接合する面に離型層を有する離型層付き支持体を使用してもよい。離型層付き支持体の離型層に使用する離型剤としては、例えば、アルキド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群から選択される1種以上の離型剤が挙げられる。離型層付き支持体は、市販品を用いてもよく、例えば、アルキド樹脂系離型剤を主成分とする離型層を有するPETフィルムである、リンテック社製の「SK-1」、「AL-5」、「AL-7」、東レ社製の「ルミラーT60」、帝人社製の「ピューレックス」、ユニチカ社製の「ユニピール」等が挙げられる。
【0183】
支持体の厚さは、特に限定されないが、5μm~75μmの範囲が好ましく、10μm~60μmの範囲がより好ましい。なお、離型層付き支持体を使用する場合、離型層付き支持体全体の厚さが上記範囲であることが好ましい。
【0184】
支持体として金属箔を用いる場合、薄い金属箔に剥離が可能な支持基材を張り合わせた支持基材付き金属箔を用いてよい。一実施形態において、支持基材付き金属箔は、支持基材と、該支持基材上に設けられた剥離層と、該剥離層上に設けられた金属箔とを含む。支持体として支持基材付き金属箔を用いる場合、樹脂組成物層は、金属箔上に設けられる。
【0185】
支持基材付き金属箔において、支持基材の材質は、特に限定されないが、例えば、銅箔、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、銅合金箔等が挙げられる。支持基材として、銅箔を用いる場合、電解銅箔、圧延銅箔であってよい。また、剥離層は、支持基材から金属箔を剥離できれば特に限定されず、例えば、Cr、Ni、Co、Fe、Mo、Ti、W、Pからなる群から選択される元素の合金層;有機被膜等が挙げられる。
【0186】
支持基材付き金属箔において、金属箔の材質としては、例えば、銅箔、銅合金箔が好ましい。
【0187】
支持基材付き金属箔において、支持基材の厚さは、特に限定されないが、10μm~150μmの範囲が好ましく、10μm~100μmの範囲がより好ましい。また、金属箔の厚さは、例えば、0.1μm~10μmの範囲としてよい。
【0188】
一実施形態において、樹脂シートは、必要に応じて、任意の層をさらに含んでいてもよい。斯かる任意の層としては、例えば、樹脂組成物層の支持体と接合していない面(即ち、支持体とは反対側の面)に設けられた、保護フィルム等が挙げられる。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、1μm~40μmである。保護フィルムを積層することにより、樹脂組成物層の表面へのゴミ等の付着やキズを抑制することができる。
【0189】
樹脂シートは、例えば、液状の樹脂組成物をそのまま、或いは有機溶剤に樹脂組成物を溶解した樹脂ワニスを調製し、これを、ダイコーター等を用いて支持体上に塗布し、更に乾燥させて樹脂組成物層を形成させることにより製造することができる。
【0190】
有機溶剤としては、樹脂組成物の成分として説明した有機溶剤と同様のものが挙げられる。有機溶剤は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0191】
乾燥は、加熱、熱風吹きつけ等の公知の方法により実施してよい。乾燥条件は特に限定されないが、樹脂組成物層中の有機溶剤の含有量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥させる。樹脂組成物又は樹脂ワニス中の有機溶剤の沸点によっても異なるが、例えば30質量%~60質量%の有機溶剤を含む樹脂組成物又は樹脂ワニスを用いる場合、50℃~150℃で3分間~10分間乾燥させることにより、樹脂組成物層を形成することができる。
【0192】
樹脂シートは、ロール状に巻きとって保存することが可能である。樹脂シートが保護フィルムを有する場合、保護フィルムを剥がすことによって使用可能となる。
【0193】
一実施形態において、プリプレグは、シート状繊維基材に本発明の樹脂組成物を含浸させて形成される。
【0194】
プリプレグに用いるシート状繊維基材は特に限定されず、ガラスクロス、アラミド不織布、液晶ポリマー不織布等のプリプレグ用基材として常用されているものを用いることができる。プリント配線板や半導体チップパッケージの薄型化の観点から、シート状繊維基材の厚さは、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下である。シート状繊維基材の厚さの下限は特に限定されない。通常、10μm以上である。
【0195】
プリプレグは、ホットメルト法、ソルベント法等の公知の方法により製造することができる。
【0196】
プリプレグの厚さは、上述の樹脂シートにおける樹脂組成物層と同様の範囲とし得る。
【0197】
本発明のシート状積層材料は、プリント配線板の絶縁層を形成するため(プリント配線板の絶縁層用)に好適に使用することができ、プリント配線板の層間絶縁層を形成するため(プリント配線板の絶層間縁層用)により好適に使用することができる。本発明のシート状積層材料はまた、半導体チップを封止するため(半導体封止用)に好適に使用することができ、再配線層を形成するための絶縁層としての再配線形成層用に好適に使用することができる。
【0198】
[プリント配線板]
本発明のプリント配線板は、本発明の樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層を含む。
【0199】
プリント配線板は、例えば、上記の樹脂シートを用いて、下記(I)及び(II)の工程を含む方法により製造することができる。
(I)内層基板上に、樹脂シートを、樹脂シートの樹脂組成物層が内層基板と接合するように積層する工程
(II)樹脂組成物層を硬化(例えば熱硬化)して絶縁層を形成する工程
【0200】
工程(I)で用いる「内層基板」とは、プリント配線板の基板となる部材であって、例えば、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等が挙げられる。また、該基板は、その片面又は両面に導体層を有していてもよく、この導体層はパターン加工されていてもよい。基板の片面または両面に導体層(回路)が形成された内層基板は「内層回路基板」ということがある。またプリント配線板を製造する際に、さらに絶縁層及び/又は導体層が形成されるべき中間製造物も本発明でいう「内層基板」に含まれる。プリント配線板が部品内蔵回路板である場合、部品を内蔵した内層基板を使用してもよい。
【0201】
内層基板と樹脂シートの積層は、例えば、支持体側から樹脂シートを内層基板に加熱圧着することにより行うことができる。樹脂シートを内層基板に加熱圧着する部材(以下、「加熱圧着部材」ともいう。)としては、例えば、加熱された金属板(SUS鏡板等)又は金属ロール(SUSロール)等が挙げられる。なお、加熱圧着部材を樹脂シートに直接プレスしてもよく、内層基板の表面凹凸に樹脂シートが十分に追随するよう、耐熱ゴム等の弾性材を介してプレスしてもよい。
【0202】
内層基板と樹脂シートの積層は、真空ラミネート法により実施してよい。真空ラミネート法において、加熱圧着温度は、好ましくは60℃~160℃、より好ましくは80℃~140℃の範囲であり、加熱圧着圧力は、好ましくは0.098MPa~1.77MPa、より好ましくは0.29MPa~1.47MPaの範囲であり、加熱圧着時間は、好ましくは20秒間~400秒間、より好ましくは30秒間~300秒間の範囲である。積層は、好ましくは圧力26.7hPa以下の減圧条件下で実施され得る。
【0203】
積層は、市販の真空ラミネーターによって行うことができる。市販の真空ラミネーターとしては、例えば、名機製作所社製の真空加圧式ラミネーター、ニッコー・マテリアルズ社製のバキュームアップリケーター、バッチ式真空加圧ラミネーター等が挙げられる。
【0204】
積層の後に、常圧下(大気圧下)、例えば、加熱圧着部材を支持体側からプレスすることにより、積層された樹脂シートの平滑化処理を行ってもよい。平滑化処理のプレス条件は、上記積層の加熱圧着条件と同様の条件とすることができる。平滑化処理は、市販のラミネーターによって行うことができる。なお、積層と平滑化処理は、上記の市販の真空ラミネーターを用いて連続的に行ってもよい。
【0205】
支持体は、工程(I)と工程(II)の間に除去してもよく、工程(II)の後に除去してもよい。なお、支持体として、金属箔を使用した場合、支持体を剥離することなく、該金属箔を用いて導体層を形成してよい。また、支持体として、支持基材付き金属箔を使用した場合、支持基材(と剥離層)を剥離すればよい。そして、金属箔を用いて導体層を形成することができる。
【0206】
工程(II)において、樹脂組成物層を硬化(例えば熱硬化)して、樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層を形成する。樹脂組成物層の硬化条件は特に限定されず、プリント配線板の絶縁層を形成するに際して通常採用される条件を使用してよい。
【0207】
例えば、樹脂組成物層の熱硬化条件は、樹脂組成物の種類等によっても異なるが、一実施形態において、硬化温度は好ましくは140℃~250℃、より好ましくは150℃~240℃、さらに好ましくは180℃~230℃である。硬化時間は好ましくは5分間~240分間、より好ましくは10分間~150分間、さらに好ましくは15分間~120分間とすることができる。
【0208】
樹脂組成物層を熱硬化させる前に、樹脂組成物層を硬化温度よりも低い温度にて予備加熱してもよい。例えば、樹脂組成物層を熱硬化させるのに先立ち、50℃~140℃、好ましくは60℃~135℃、より好ましくは70℃~130℃の温度にて、樹脂組成物層を5分間以上、好ましくは5分間~150分間、より好ましくは15分間~120分間、さらに好ましくは15分間~100分間予備加熱してもよい。
【0209】
プリント配線板を製造するに際しては、(III)絶縁層に穴あけする工程、(IV)絶縁層を粗化処理する工程、(V)導体層を形成する工程をさらに実施してもよい。これらの工程(III)乃至工程(V)は、プリント配線板の製造に用いられる、当業者に公知の各種方法に従って実施してよい。なお、支持体を工程(II)の後に除去する場合、該支持体の除去は、工程(II)と工程(III)との間、工程(III)と工程(IV)の間、又は工程(IV)と工程(V)との間に実施してよい。また、必要に応じて、工程(I)~工程(V)の絶縁層及び導体層の形成を繰り返して実施し、多層配線板を形成してもよい。
【0210】
他の実施形態において、本発明のプリント配線板は、上述のプリプレグを用いて製造することができる。製造方法は基本的に樹脂シートを用いる場合と同様である。
【0211】
工程(III)は、絶縁層に穴あけする工程であり、これにより絶縁層にビアホール、スルーホール等のホールを形成することができる。工程(III)は、絶縁層の形成に使用した樹脂組成物の組成等に応じて、例えば、ドリル、レーザー、プラズマ等を使用して実施してよい。ホールの寸法や形状は、プリント配線板のデザインに応じて適宜決定してよい。
【0212】
工程(IV)は、絶縁層を粗化処理する工程である。通常、この工程(IV)において、スミアの除去(デスミア)も行われる。本発明のエステル樹脂を含む樹脂組成物を用いて形成した絶縁層は、良好なスミア除去性をもたらすことができる上、ハローイング現象も抑えることができる。粗化処理の手順、条件は特に限定されず、プリント配線板の絶縁層を形成するに際して通常使用される公知の手順、条件を採用することができる。例えば、膨潤液による膨潤処理、酸化剤による粗化処理、中和液による中和処理をこの順に実施して絶縁層を粗化処理することができる。
【0213】
粗化処理に用いる膨潤液としては特に限定されないが、アルカリ溶液、界面活性剤溶液等が挙げられ、好ましくはアルカリ溶液であり、該アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液がより好ましい。市販されている膨潤液としては、例えば、アトテックジャパン社製の「スウェリング・ディップ・セキュリガンスP」、「スウェリング・ディップ・セキュリガンスSBU」等が挙げられる。膨潤液による膨潤処理は、特に限定されないが、例えば、30℃~90℃の膨潤液に絶縁層を1分間~20分間浸漬することにより行うことができる。絶縁層の樹脂の膨潤を適度なレベルに抑える観点から、40℃~80℃の膨潤液に絶縁層を5分間~15分間浸漬させることが好ましい。
【0214】
粗化処理に用いる酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液に過マンガン酸カリウム又は過マンガン酸ナトリウムを溶解したアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。アルカリ性過マンガン酸溶液等の酸化剤による粗化処理は、60℃~100℃に加熱した酸化剤溶液に絶縁層を10分間~30分間浸漬させて行うことが好ましい。また、アルカリ性過マンガン酸溶液における過マンガン酸塩の濃度は5質量%~10質量%が好ましい。市販されている酸化剤としては、例えば、アトテックジャパン社製の「コンセントレート・コンパクトCP」、「ドージングソリューション・セキュリガンスP」等のアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。
【0215】
また、粗化処理に用いる中和液としては、酸性の水溶液が好ましく、市販品としては、例えば、アトテックジャパン社製の「リダクションソリューション・セキュリガントP」が挙げられる。
【0216】
中和液による処理は、酸化剤による粗化処理がなされた処理面を30℃~80℃の中和液に5分間~30分間浸漬させることにより行うことができる。作業性等の点から、酸化剤による粗化処理がなされた対象物を、40℃~70℃の中和液に5分間~20分間浸漬する方法が好ましい。
【0217】
工程(V)は、導体層を形成する工程であり、絶縁層上に導体層を形成する。導体層に使用する導体材料は特に限定されない。好適な実施形態では、導体層は、金、白金、パラジウム、銀、銅、アルミニウム、コバルト、クロム、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、鉄、スズ及びインジウムからなる群から選択される1種以上の金属を含む。導体層は、単金属層であっても合金層であってもよく、合金層としては、例えば、上記の群から選択される2種以上の金属の合金(例えば、ニッケル・クロム合金、銅・ニッケル合金及び銅・チタン合金)から形成された層が挙げられる。中でも、導体層形成の汎用性、コスト、パターニングの容易性等の観点から、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅の単金属層、又はニッケル・クロム合金、銅・ニッケル合金、銅・チタン合金の合金層が好ましく、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅の単金属層、又はニッケル・クロム合金の合金層がより好ましく、銅の単金属層が更に好ましい。
【0218】
導体層は、単層構造であっても、異なる種類の金属若しくは合金からなる単金属層又は合金層が2層以上積層した複層構造であってもよい。導体層が複層構造である場合、絶縁層と接する層は、クロム、亜鉛若しくはチタンの単金属層、又はニッケル・クロム合金の合金層であることが好ましい。
【0219】
導体層の厚さは、所望のプリント配線板のデザインによるが、一般に3μm~35μm、好ましくは5μm~30μmである。
【0220】
一実施形態において、導体層は、メッキにより形成してよい。例えば、セミアディティブ法、フルアディティブ法等の従来公知の技術により絶縁層の表面にメッキして、所望の配線パターンを有する導体層を形成することができ、製造の簡便性の観点から、セミアディティブ法により形成することが好ましい。以下、導体層をセミアディティブ法により形成する例を示す。
【0221】
まず、絶縁層の表面に、無電解メッキによりメッキシード層を形成する。次いで、形成されたメッキシード層上に、所望の配線パターンに対応してメッキシード層の一部を露出させるマスクパターンを形成する。露出したメッキシード層上に、電解メッキにより金属層を形成した後、マスクパターンを除去する。その後、不要なメッキシード層をエッチング等により除去して、所望の配線パターンを有する導体層を形成することができる。
【0222】
他の実施形態において、導体層は、金属箔を使用して形成してよい。金属箔を使用して導体層を形成する場合、工程(V)は、工程(I)と工程(II)の間に実施することが好適である。例えば、工程(I)の後、支持体を除去し、露出した樹脂組成物層の表面に金属箔を積層する。樹脂組成物層と金属箔との積層は、真空ラミネート法により実施してよい。積層の条件は、工程(I)について説明した条件と同様としてよい。次いで、工程(II)を実施して絶縁層を形成する。その後、絶縁層上の金属箔を利用して、サブトラクティブ法、モディファイドセミアディティブ法等の従来の公知の技術により、所望の配線パターンを有する導体層を形成することができる。
【0223】
金属箔は、例えば、電解法、圧延法等の公知の方法により製造することができる。金属箔の市販品としては、例えば、JX日鉱日石金属社製のHLP箔、JXUT-III箔、三井金属鉱山社製の3EC-III箔、TP-III箔等が挙げられる。
【0224】
あるいは、樹脂シートの支持体として、金属箔や、支持基材付き金属箔を使用した場合、該金属箔を用いて導体層を形成してよいことは先述のとおりである。
【0225】
[半導体チップパッケージ]
本発明の半導体チップパッケージは、本発明の樹脂組成物の硬化物からなる封止層を含む。本発明の半導体チップパッケージはまた、先述のとおり、本発明の樹脂組成物の硬化物からなる、再配線層を形成するための絶縁層(再配線形成層)を含んでもよい。
【0226】
半導体チップパッケージは、例えば、本発明の樹脂組成物、樹脂シートを用いて、下記(1)乃至(6)の工程を含む方法により製造することができる。工程(3)の封止層あるいは工程(5)の再配線形成層を形成するために、本発明の樹脂組成物、樹脂シートを用いればよい。以下、樹脂組成物や樹脂シートを用いて封止層や再配線形成層を形成する一例を示すが、半導体チップパッケージの封止層や再配線形成層を形成する技術は公知であり、当業者であれば、本発明の樹脂組成物や樹脂シートを用いて、公知の技術に従って半導体パッケージを製造することができる。
(1)基材に仮固定フィルムを積層する工程、
(2)半導体チップを、仮固定フィルム上に仮固定する工程、
(3)半導体チップ上に封止層を形成する工程、
(4)基材及び仮固定フィルムを半導体チップから剥離する工程、
(5)半導体チップの基材及び仮固定フィルムを剥離した面に、絶縁層としての再配線形成層を形成する工程、及び
(6)再配線形成層上に、導体層としての再配線層を形成する工程
【0227】
-工程(1)-
基材に使用する材料は特に限定されない。基材としては、シリコンウェハ;ガラスウェハ;ガラス基板;銅、チタン、ステンレス、冷間圧延鋼板(SPCC)等の金属基板;ガラス繊維にエポキシ樹脂等をしみこませ熱硬化処理した基板(例えばFR-4基板);ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)からなる基板などが挙げられる。
【0228】
仮固定フィルムは、工程(4)において半導体チップから剥離することができると共に、半導体チップを仮固定することができれば材料は特に限定されない。仮固定フィルムは市販品を用いることができる。市販品としては、日東電工社製のリヴァアルファ等が挙げられる。
【0229】
-工程(2)-
半導体チップの仮固定は、フリップチップボンダー、ダイボンダー等の公知の装置を用いて行うことができる。半導体チップの配置のレイアウト及び配置数は、仮固定フィルムの形状、大きさ、目的とする半導体パッケージの生産数等に応じて適宜設定することができ、例えば、複数行で、かつ複数列のマトリックス状に整列させて仮固定することができる。
【0230】
-工程(3)-
本発明の樹脂シートの樹脂組成物層を、半導体チップ上に積層、又は本発明の樹脂組成物を半導体チップ上に塗布し、硬化(例えば熱硬化)させて封止層を形成する。
【0231】
例えば、半導体チップと樹脂シートの積層は、樹脂シートの保護フィルムを除去した後支持体側から樹脂シートを半導体チップに加熱圧着することにより行うことができる。樹脂シートを半導体チップに加熱圧着する部材(以下、「加熱圧着部材」ともいう。)としては、例えば、加熱された金属板(SUS鏡板等)又は金属ロール(SUSロール)等が挙げられる。なお、加熱圧着部材を樹脂シートに直接プレスするのではなく、半導体チップの表面凹凸に樹脂シートが十分に追随するよう、耐熱ゴム等の弾性材を介してプレスするのが好ましい。半導体チップと樹脂シートの積層は、真空ラミネート法により実施してもよく、その積層条件は、プリント配線板の製造方法に関連して説明した積層条件と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0232】
積層の後、樹脂組成物を熱硬化させて封止層を形成する。熱硬化の条件は、プリント配線板の製造方法に関連して説明した熱硬化の条件と同様である。
【0233】
樹脂シートの支持体は、半導体チップ上に樹脂シートを積層し熱硬化した後に剥離してもよく、半導体チップ上に樹脂シートを積層する前に支持体を剥離してもよい。
【0234】
本発明の樹脂組成物を塗布して封止層を形成する場合、その塗布条件としては、本発明の樹脂シートに関連して説明した樹脂組成物層を形成する際の塗布条件と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0235】
-工程(4)-
基材及び仮固定フィルムを剥離する方法は、仮固定フィルムの材質等に応じて適宜変更することができ、例えば、仮固定フィルムを加熱、発泡(又は膨張)させて剥離する方法、及び基材側から紫外線を照射させ、仮固定フィルムの粘着力を低下させ剥離する方法等が挙げられる。
【0236】
仮固定フィルムを加熱、発泡(又は膨張)させて剥離する方法において、加熱条件は、通常、100~250℃で1~90秒間又は5~15分間である。また、基材側から紫外線を照射させ、仮固定フィルムの粘着力を低下させ剥離する方法において、紫外線の照射量は、通常、10mJ/cm2~1000mJ/cm2である。
【0237】
-工程(5)-
再配線形成層(絶縁層)を形成する材料は、再配線形成層(絶縁層)形成時に絶縁性を有していれば特に限定されず、半導体チップパッケージの製造のしやすさの観点から、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂が好ましい。本発明の樹脂組成物、樹脂シートを用いて再配線形成層を形成してもよい。
【0238】
再配線形成層を形成後、半導体チップと後述する導体層を層間接続するために、再配線形成層にビアホールを形成してもよい。ビアホールは、再配線形成層の材料に応じて、公知の方法により形成してよい。本発明のエステル樹脂を含む樹脂組成物を用いて形成した再配線形成層は、ビアホール形成時に良好なスミア除去性をもたらすことができる。
【0239】
-工程(6)-
再配線形成層上への導体層の形成は、プリント配線板の製造方法に関連して説明した工程(V)と同様に実施してよい。なお、工程(5)及び工程(6)を繰り返し行い、導体層(再配線層)及び再配線形成層(絶縁層)を交互に積み上げて(ビルドアップ)もよい。
【0240】
半導体チップパッケージを製造するにあたって、(7)導体層(再配線層)上にソルダーレジスト層を形成する工程、(8)バンプを形成する工程、(9)複数の半導体チップパッケージを個々の半導体チップパッケージにダイシングし、個片化する工程をさらに実施してもよい。これらの工程は、半導体チップパッケージの製造に用いられる、当業者に公知の各種方法に従って実施してよい。
【0241】
良好な誘電特性と良好な耐熱性を併せて呈する硬化物をもたらす本発明の樹脂組成物、樹脂シートを用いて封止層、再配線形成層を形成することにより、半導体パッケージが、ファンイン(Fan-In)型パッケージであるかファンアウト(Fan-Out)型パッケージであるかの別を問わず、半導体チップパッケージを実現することができる。一実施形態において、本発明の半導体チップパッケージは、ファンアウト(Fan-Out)型パッケージである。本発明の樹脂組成物、樹脂シートは、ファンアウト型パネルレベルパッケージ(FOPLP)、ファンアウト型ウェハレベルパッケージ(FOWLP)の別を問わず、適用できる。一実施形態において、本発明の半導体パッケージは、ファンアウト型パネルレベルパッケージ(FOPLP)である。他の一実施形態において、本発明の半導体パッケージは、ファンアウト型ウェハレベルパッケージ(FOWLP)である。
【0242】
[半導体装置]
本発明の半導体装置は、本発明の樹脂組成物層の硬化物からなる層を含む。本発明の半導体装置は、本発明のプリント配線板又は半導体チップパッケージを用いて製造することができる。
【0243】
半導体装置としては、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、デジタルカメラ及びテレビ等)及び乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶及び航空機等)等に供される各種半導体装置が挙げられる。
【実施例0244】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1:エステル樹脂(AE-1)の合成>
(1-1)α―メチルベンジル基を含有する2価芳香族ヒドロキシ化合物(1x)の合成
攪拌装置、温度計及びコンデンサーが装着された四つ口丸フラスコに、下記式(1x)に示す理論構造においてm値が2.0になるような組成比として、2,7-ジヒドロキシナフタレン(試薬)224.0g(1.4モル)、スチレンモノマー(試薬)291.2g(2.8モル)、酸触媒としてとしてパラトルエンスルホン酸・一水和物(試薬)5.2g、及び、反応溶媒としてトルエン1300gを仕込み、発熱に注意しながら100℃まで昇温させた。その後、100℃で6時間反応させた。その後、温度を60℃まで下げて、蒸留水300gと中和に適量の48%水酸化ナトリウム水溶液を加えて静置分液し、下層の副生食塩水層を棄却した。さらに、同量の蒸留水を添加して2回水洗精製した後に、加熱して共沸脱水した。得られた溶液を精密ろ過して不純物を除去した後に、最高温度120℃でトルエンを減圧蒸留して、固形物490gを得た。
【0245】
【0246】
下記の測定方法に従って、この固形物の水酸基当量を測定し、187g/eq.(理論値184g/eq.)という値を得た。また、下記測定方法に従って、この固形物のマススペクトル(ネガティブイオンモード)を測定した結果、m=1体に相当するm/z=263、m=2体に相当するm/z=367、m=3体に相当するm/z=471の各スペクトルピークが検出された。これらの分析データから、得られた固形物は、目的の分子構造、すなわち上記式(1x)で示される理論構造に係るα-メチルベンジル変性2価芳香族ヒドロキシ化合物(1x)の構造を有していることが確認された。
【0247】
(水酸基当量の測定方法)
JIS-K0070に従い、無水酢酸-ピリジンで2価芳香族ヒドロキシ化合物中の水酸基をアセチル化した後、加水分解を行い、残った酢酸を逆滴定することで水酸基当量を定量した。
【0248】
(マススペクトル測定条件)
試料をTHFで1mg/mLに希釈し、下記条件でLC/MSを測定した。
HPLC:ACQUITY UPLC(日本ウォーターズ社製)
MS:SQ Detector2(日本ウォーターズ社製)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C8 1.7um、2.1mm×50mm(日本ウォーターズ社製)
移動相A:2mmol酢酸アンモニウム水溶液
移動相B:2-プロパノール/THF(80:20)
移動相混合時間及び混合比率(A%):0分(50%)→5分(5%)→12分(5%)→12.1分(50%)→14分(50%)
流速:0.25mL/分
分析時間:14分
カラム温度:40℃
イオンモード:ESI(電子スプレーイオン化法)ポジティブまたはネガティブ
イオン極性:Positive検出モードまたはNegative検出モード
脱溶媒ガス流量:700L/hr、250℃
コーンガス:70L/hr
イオン源ヒーター:150℃
【0249】
(1-2)エステル化反応:エステル樹脂(AE-1)の合成
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス吹込み口が装着された四つ口丸フラスコに、下記式(1a)に示す理論構造においてn値が1.0に、活性エステル基当量が160g/eq.になるような組成比として、上記工程(1-1)で得たα-メチルベンジル変性2価芳香族ジヒドロキシ化合物(1x)184.3g(水酸基1.0モル)、p-ヒドロキシフェニルアクリレート(試薬)164.2g(1.0モル)、イソフタル酸クロリド(試薬)203.0g(1.0モル)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(試薬)0.57g、及び、トルエン700gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら攪拌して完全に溶解させた。30℃で25%苛性ソーダ水溶液320.0g(2.0モル)を、発熱に注意しながら、最終的に60℃まで昇温するように2時間要して滴下した。その後、さらに60℃で2時間攪拌を続けた後に、蒸留水200gを加えて静置分液し、下層の副生食塩水層を棄却した。さらに、同量の蒸留水を添加して2回水洗精製した後に無水硫酸マグネシウムを添加して脱水した。得られた溶液を精密ろ過して不純物を除去した後に、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール0.55gを添加し、トルエンを減圧蒸留して、固形物440gを得た。得られたエステル樹脂(AE-1)のGPCチャートから、n=0体の含有量は26質量%であった。
【0250】
【0251】
得られた固形物のマススペクトル(ポジティブイオンモード)を測定した結果、m=2/n=1体のプロトン付加体に相当するm/z=958、m=2/n=2体のプロトン付加体に相当するm/z=1457の各スペクトルピークが検出された。これらの分析データから、得られた固形物は、目的の分子構造、すなわち上記式(1a)で示される理論構造に係るアクリロイル基を含有するエステル樹脂(AE-1)の構造を有していることが確認された。
【0252】
<実施例2:エステル樹脂(AE-2)の合成>
p-ヒドロキシフェニルアクリレートをp-ヒドロキシフェニルメタクリレート(試薬)178.2g(1.0モル)に変えた以外は、実施例1の工程(1-2)と同様にして、固形物455gを得た。得られたエステル樹脂(AE-2)のGPCチャートから、n=0体の含有量は25質量%であった。
【0253】
【0254】
得られた固形物のマススペクトル(ポジティブイオンモード)を測定した結果、m=2/n=1体のプロトン付加体に相当するm/z=986、m=2/n=2体のプロトン付加体に相当するm/z=1485の各スペクトルピークが検出された。これらの分析データから、得られた固形物は、目的の分子構造、すなわち上記式(2a)で示される理論構造に係るメタクリロイル基を含有するエステル樹脂(AE-2)の構造を有していることが確認された。
【0255】
<実施例3:エステル樹脂(AE-3)の合成>
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス吹込み口が装着された四つ口丸フラスコに、下記式(3a)に示す理論構造においてn値が2.0に、活性エステル基当量が185g/eq.になるような組成比として、上記工程(1-1)で得たα-メチルベンジル変性芳香族ジヒドロキシ化合物(1x)184.3g(水酸基1.0モル)、p-ヒドロキシフェニルメタクリレート(試薬)89.1g(0.5モル)、イソフタル酸クロリド(試薬)152.3g(0.75モル)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(試薬)0.43g、及び、トルエン700gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら攪拌して完全に溶解させた。30℃で25%苛性ソーダ水溶液240.0g(1.5モル)を、発熱に注意しながら、最終的に60℃まで昇温するように2時間要して滴下した。その後、さらに60℃で2時間攪拌を続けた後に、蒸留水200gを加えて静置分液し、下層の副生食塩水層を棄却した。さらに、同量の蒸留水を添加して2回水洗精製した後に無水硫酸マグネシウムを添加して脱水した。得られた溶液を精密ろ過して不純物を除去した後に、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール0.37gを添加し、トルエンを減圧蒸留して、固形物335gを得た。
【0256】
【0257】
得られた固形物のマススペクトル(ポジティブイオンモード)を測定した結果、m=2/n=1体のプロトン付加体に相当するm/z=986、m=2/n=2体のプロトン付加体に相当するm/z=1485の各スペクトルピークが検出された。これらの分析データから、得られた固形物は、目的の分子構造、すなわち上記式(3a)で示される理論構造に係るメタクリロイル基を含有するエステル樹脂(AE-3)の構造を有していることが確認された。得られたエステル樹脂(AE-3)のGPCチャートから、n=0体の含有量は10質量%であった。
【0258】
<実施例4:エステル樹脂(AE-4)の合成>
(4-1)ベンジル基を含有する2価芳香族ヒドロキシ化合物(2x)の合成
攪拌装置、温度計及びコンデンサーが装着された四つ口丸フラスコに、下記式(2x)に示す理論構造においてm値が2.0になるような組成比として、2,7―ジヒドロキシナフタレン224.0g(1.4モル)、ベンジルアルコール302.4g(2.8モル)、酸触媒としてとしてパラトルエンスルホン酸・一水和物(試薬)5.2gを仕込み、発熱に注意しながら180℃まで昇温させ、生成する水を系外に留去しながら4時間攪拌した。その後、温度を60℃まで下げて、蒸留水300gと中和に適量の48%水酸化ナトリウム水溶液を加えて静置分液し、下層の副生食塩水層を棄却した。さらに、同量の蒸留水を添加して2回水洗精製した後に、加熱して共沸脱水した。得られた溶液を精密ろ過して不純物を除去した後に、最高温度120℃でトルエンを減圧蒸留して、固形物454gを得た。
【0259】
【0260】
前記の測定方法に従って、この固形物の水酸基当量を測定し、174g/eq.という値を得た。また、前記の測定方法に従って、この固形物のマススペクトル(ネガティブイオンモード)を測定した結果、2,7-ジヒドロキシナフタレンにベンジル基が1個付加した構造に相当するm/z=249、ベンジル基が2個付加した構造に相当するm/z=339、ベンジル基が3個付加した構造に相当するm/z=429のスペクトルピークが確認された。これらの分析データから、得られた固形物は、式(2x)で示すように、ベンジル変性ジヒドロキシナフタレン構造を有していることが確認された。
【0261】
(4-2)エステル化反応:エステル樹脂(AE-4)の合成
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス吹込み口が装着された四つ口丸フラスコに、前記式(4a)に示す理論構造においてn値が1.0に、エステル基当量が160g/eq.になるような組成比として、上記工程(4-1)で得たベンジル変性芳香族ジヒドロキシ化合物(2x)170.2g(水酸基1.0モル)、p-ヒドロキシフェニルメタクリレート(試薬)178.2g(1.0モル)、イソフタル酸クロリド(試薬)203.0g(1.0モル)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(試薬)0.57g、及び、トルエン700gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら攪拌して完全に溶解させた。30℃で25%苛性ソーダ水溶液320.0g(2.0モル)を、発熱に注意しながら、最終的に60℃まで昇温するように2時間要して滴下した。その後、さらに60℃で2時間攪拌を続けた後に、蒸留水200gを加えて静置分液し、下層の副生食塩水層を棄却した。さらに、同量の蒸留水を添加して2回水洗精製した後に無水硫酸マグネシウムを添加して脱水した。得られた溶液を精密ろ過して不純物を除去した後に、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール0.55gを添加し、トルエンを減圧蒸留して、固形物425gを得た。
【0262】
【0263】
得られた固形物のマススペクトル(ポジティブイオンモード)を測定した結果、m=2/n=1体のプロトン付加体に相当するm/z=958、m=2/n=2体のプロトン付加体に相当するm/z=1429の各スペクトルピークが検出された。これらの分析データから、得られた固形物は、目的の分子構造、すなわち上記式(4a)で示される理論構造に係るメタクリロイル基を含有するエステル樹脂(AE-4)の構造を有していることが確認された。得られたエステル樹脂(AE-4)のGPCチャートから、n=0体の含有量は25質量%であった。
【0264】
<実施例5:エステル樹脂(AE-5)の合成>
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス吹込み口が装着された四つ口丸フラスコに、下記式(5a)に示す理論構造においてn値が1.0に、活性エステル基当量が156g/eq.になるような組成比として、ジシクロペンタジエンジフェノール(JFEケミカル社製「J-DPP-85」、水酸基当量165g/eq.)165.0g(水酸基1.0モル)、p-ヒドロキシフェニルメタクリレート(試薬)178.2g(1.0モル)、イソフタル酸クロリド(試薬)203.0g(1.0モル)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(試薬)0.55g、及び、トルエン700gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら攪拌して完全に溶解させた。30℃で25%苛性ソーダ水溶液320.0g(2.0モル)を、発熱に注意しながら、最終的に60℃まで昇温するように2時間要して滴下した。その後、さらに60℃で2時間攪拌を続けた後に、蒸留水200gを加えて静置分液し、下層の副生食塩水層を棄却した。さらに、同量の蒸留水を添加して2回水洗精製した後に無水硫酸マグネシウムを添加して脱水した。得られた溶液を精密ろ過して不純物を除去した後に、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール0.47gを添加し、トルエンを減圧蒸留して、固形物419gを得た。
【0265】
【0266】
得られた固形物のマススペクトル(ポジティブイオンモード)を測定した結果、n=1体のプロトン付加体に相当するm/z=938、n=2体のプロトン付加体に相当するm/z=1389の各スペクトルピークが検出された。これらの分析データから、得られた固形物は、目的の分子構造、すなわち上記式(5a)で示される理論構造に係るメタクリロイル基を含有するエステル樹脂(AE-5)の構造を有していることが確認された。得られたエステル樹脂(AE-5)のGPCチャートから、n=0体の含有量は26質量%であった。
【0267】
<実施例6:エステル樹脂(A-6)の合成>
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス吹込み口が装着された四つ口丸フラスコに、前記式(6a)に示す理論構造において、活性エステル基当量が122g/eq.になるような組成比として、p-ヒドロキシフェニルメタクリレート(試薬)178.2g(1.0モル)、イソフタル酸クロリド(試薬)101.5g(0.5モル)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(試薬)0.28g、及び、トルエン450gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら攪拌して完全に溶解させた。30℃で25%苛性ソーダ水溶液160.0g(1.0モル)を、発熱に注意しながら、最終的に60℃まで昇温するように2時間要して滴下した。その後、さらに60℃で2時間攪拌を続けた後に、蒸留水200gを加えて静置分液し、下層の副生食塩水層を棄却した。さらに、同量の蒸留水を添加して2回水洗精製した後に無水硫酸マグネシウムを添加して脱水した。得られた溶液を精密ろ過して不純物を除去した後に、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール0.46gを添加し、トルエンを減圧蒸留して、固形物390gを得た。
【0268】
【0269】
得られた固形物のマススペクトル(ポジティブイオンモード)を測定した結果、プロトン付加体に相当するm/z=487のスペクトルピークが検出された。この分析データから、得られた固形物は、目的の分子構造、すなわち上記式(6a)で示される理論構造に係るメタクリロイル基を含有するエステル樹脂(AE-6)の構造を有していることが確認された。
【0270】
<比較例1:エステル樹脂(AE-c1)>
活性エステル樹脂(AE-c1)として、市販の活性エステル樹脂(DIC社製「HPC-8000-65T」、活性エステル基当量220g/eq.)を用いた。
【0271】
<比較例2:エステル樹脂(AE-c2)の合成>
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス吹込み口が装着された四つ口丸フラスコに、下記式(7a)に示す理論構造において、活性エステル基当量が199g/eq.になるような組成比として、2-アリルフェノール(試薬)134.2g(1.0モル)、イソフタル酸クロリド(試薬)101.5g(0.5モル)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(試薬)0.24g、及び、トルエン400gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら攪拌して完全に溶解させた。30℃で25%苛性ソーダ水溶液160.0g(1.0モル)を、発熱に注意しながら、最終的に60℃まで昇温するように2時間要して滴下した。その後、さらに60℃で2時間攪拌を続けた後に、蒸留水200gを加えて静置分液し、下層の副生食塩水層を棄却した。さらに、同量の蒸留水を添加して2回水洗精製した後に無水硫酸マグネシウムを添加して脱水した。得られた溶液を精密ろ過して不純物を除去した後に、トルエンを減圧蒸留して、粘ちょう液体181gを得た。
【0272】
【0273】
得られた固形物のマススペクトル(ポジティブイオンモード)を測定した結果、プロトン付加体に相当するm/z=399のスペクトルピークが検出された。この分析データから、得られた固形物は、目的の分子構造、すなわち上記式(7a)で示される理論構造に係るエステル樹脂(AE-c2)の構造を有していることが確認された。
【0274】
<比較例3:エステル樹脂(AE-c3)の合成>
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス吹込み口が装着された四つ口丸フラスコに、前記式(8a)に示す理論構造においてn値が1.0に、活性エステル基当量が114g/eq.になるような組成比として、ジシクロペンタジエンジフェノール(JFEケミカル社製「J-DPP-85」、水酸基当量165g/eq.)165.0g(水酸基1.0モル)、2-アリルフェノール(試薬)134.0g(1.0モル)、イソフタル酸クロリド(試薬)203.0g(1.0モル)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(試薬)0.50g、及び、トルエン700gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら攪拌して完全に溶解させた。30℃で25%苛性ソーダ水溶液320.0g(2.0モル)を、発熱に注意しながら、最終的に60℃まで昇温するように2時間要して滴下した。その後、さらに60℃で2時間攪拌を続けた後に、蒸留水200gを加えて静置分液し、下層の副生食塩水層を棄却した。さらに、同量の蒸留水を添加して2回水洗精製した後に無水硫酸マグネシウムを添加して脱水した。得られた溶液を精密ろ過して不純物を除去した後に、トルエンを減圧蒸留して、固形物385gを得た。
【0275】
【0276】
得られた固形物のマススペクトル(ポジティブイオンモード)を測定した結果、n=1体のプロトン付加体に相当するm/z=857のスペクトルピークが検出された。この分析データから、得られた固形物は、目的の分子構造、すなわち上記式(8a)で示される理論構造に係るエステル樹脂(AE-c3)の構造を有していることが確認された。
【0277】
<実施例7~12、比較例4~6>
(1)樹脂組成物の調製
表1に示す組成で、合成・準備したエステル樹脂(AE-1)~(AE-6)、(AE-c1)~(AE-c3)の各樹脂と、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(DIC社製「850S」、エポキシ基当量183g/eq.)、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製「NC3000」、エポキシ基当量275g/eq.)を150℃で溶融混合した。次いで4-ジメチルアミノピリジン(広栄化学工業社製「DMAP」)を混合して樹脂組成物を調製した。
【0278】
(2)硬化物の製造
調製した樹脂組成物を、離型剤を塗布した金型(100mm×100mm×0.5mm)内に充填して、150℃で10分間の条件で加熱硬化して、硬化物を得た。金型から硬化物を取り出し、該硬化物を200℃で3時間さらに加熱硬化して、シート状の硬化物を作製した。
【0279】
実施例7~12及び比較例4~6で製造したシート状の硬化物について、下記要領で評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0280】
[誘電特性]
シート状の硬化物を、所定のサイズの試験片に切断し、スプリットシリンダ共振器(EMラボ社製「CR-710」)及びPNAマイクロ波ネットワーク・アナライザ(Keysight社性「N5227B」)を使用して、測定周波数5.8GHz、23℃にて比誘電率と誘電正接の測定を行った。各硬化物について、5個の試験片について測定を行い(n=5)、平均値を算出した。
【0281】
[耐熱性]
シート状の硬化物を、所定のサイズの試験片に切断し、動的粘弾性測定装置(SIIナノテクノロジー社製「EXSTAR6000」)を使用して、荷重200mN、昇温速度2℃/分の測定条件にてガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0282】
<実施例13~18、比較例7~9>
実施例7~12と同様にして、表2に示す組成で、ポリアリーレンエーテル樹脂とエポキシ樹脂を含む樹脂組成物を調製し、シート状の硬化物を得た。得られたシート状の硬化物について、実施例7~12と同じ要領で評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0283】
<実施例19~24、比較例10~12>
実施例7~12と同様にして、表3に示す組成で、ビスマレイミド樹脂とエポキシ樹脂を含む樹脂組成物を調製し、シート状の硬化物を得た。得られたシート状の硬化物について、実施例7~12と同じ要領で評価試験を行った。結果を表3に示す。
【0284】
【0285】
【0286】
【0287】
<実施例25~30、及び比較例13~15>
(1)樹脂組成物ワニスの調製
表4に示す組成で、合成・準備したエステル樹脂(AE-1)~(AE-6)、(AE-c1)~(AE-c3)の各樹脂と、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(DIC社製「850S」、エポキシ当量183g/eq.)、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製「NC3000H」、エポキシ当量291g/eq.)、4-ジメチルアミノピリジン(広栄化学工業社製「DMAP」)、フェノキシ樹脂(三菱ケミカル社製「YL6954BH30」)、球形シリカ(アドマテックス社製「SO-C2」、平均粒径0.50μm)、メチルエチルケトン(MEK)、及びシクロヘキサノンを混合して、樹脂組成物ワニスを調製した。
【0288】
(2)樹脂シートの作製
調製した樹脂組成物ワニスをポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm、以下「PETフィルム」という。)上に、乾燥後の樹脂組成物層の厚さが40μmとなるようにダイコーターにて塗布し、80℃~120℃(平均100℃)で6分間乾燥させて、樹脂シートを作製した。
【0289】
(3)硬化物の製造
作製した樹脂シートを190℃で120分間加熱して樹脂組成物層を熱硬化させた。次いでPETフィルムを剥離して、シート状の硬化物を得た。
【0290】
得られたシート状の硬化物について、実施例7~12と同じ要領で誘電特性の評価試験を行った。また、以下の要領で、ビアホール形成時のスミア除去性とハローイングの評価試験を行った。結果を表4に示す。
【0291】
[スミア除去性]
(内装基板の下地処理)
内層基板として、表面に銅箔を有するガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板(銅箔の厚さ18μm、基板の厚さ0.8mm、パナソニック社製「R1515A」)を用意した。この内層基板の表面の銅箔を、マイクロエッチング剤(メック社製「CZ8101」)を用いて、銅エッチング量1μmにてエッチングして、粗化処理を行った。その後、190℃にて30分乾燥を行った。
【0292】
(樹脂シートの積層及び硬化)
実施例及び比較例で得た樹脂シートを、バッチ式真空加圧ラミネーター(ニッコー・マテリアルズ社製2ステージビルドアップラミネーター「CVP700」)を用いて、樹脂組成物層が前記の内層基板と接合するように、内層基板の両面にラミネートした。このラミネートは、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とした後、温度100℃、圧力0.74MPaにて30秒間圧着することにより、実施した。
【0293】
次いで、ラミネートされた樹脂シートを、大気圧下、100℃、圧力0.5MPaにて60秒間、熱プレスして平滑化した。さらにこれを、130℃のオーブンに投入して30分間加熱し、次いで170℃のオーブンに移し替えて30分間加熱した。前記の加熱により樹脂組成物層が硬化して、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層が得られた。よって、前記の操作により、PETフィルム/絶縁層/内層基板/絶縁層/PETフィルムの層構成を有する中間基板が得られた。
【0294】
(ビアホール形成)
ビアメカニクス社製CO2レーザー加工機(LK-2K212/2C)を使用して絶縁層を加工して、絶縁層にビアホールを形成した。前記の加工は、周波数2000Hz、パルス幅3μ秒、出力0.95W、ショット数3の条件で行った。また、形成されたビアホールは、絶縁層表面におけるトップ径(直径)が50μm、絶縁層底面における直径が40μmであった。トップ径とは、ビアホールの開口部の径を表す。さらにその後、PETフィルムを剥離した。
【0295】
(粗化処理)
中間基板を、膨潤液であるアトテックジャパン社製のスエリングディップ・セキュリガントPに60℃で10分間浸漬した。次に、中間基板を、粗化液であるアトテックジャパン社製のコンセントレート・コンパクトP(KMnO4:60g/L、NaOH:40g/Lの水溶液)に80℃で20分間浸漬した。その後、中間基板を、中和液であるアトテックジャパン社製のリダクションソリューション・セキュリガントPに40℃で5分間浸漬した。得られた中間基板を、評価基板Aと呼ぶ。
【0296】
(スミア除去性の評価)
評価基板Aのビアホールの底部(ビアボトム)の周囲を走査電子顕微鏡(SEM)にて観察した。この観察で得られた画像から、ビアホール底部の壁面からの最大スミア長を測定し、以下の基準で評価した。最大スミア長は、ビアホールの底部に形成されるスミアのうち、最も長いスミアの長さを表す。
「○」最大スミア長が5μm未満。
「×」最大スミア長が5μm以上。
【0297】
[ハローイング]
評価基板Aについて、FIB-SEM複合装置(SIIナノテクノロジー社製「SMI3050SE」)を用いて、断面観察を行った。詳細には、FIB(集束イオンビーム)を用いて、絶縁層を、当該絶縁層の厚み方向に平行で且つビアホールのビアボトムの中心を通る断面が現れるように削り出した。この断面をSEMによって観察した。観察された画像から、ビアホールのボトム径、及びトップ径を測定した。ボトム径とはビアホールの底部の直径を表し、トップ径とはビアホールの開口の直径を表す。
【0298】
また、SEMによって観察された画像には、ビアボトムのエッジから連続して、絶縁層が内層基板の銅箔から剥離して形成された間隙部が見られた。そこで、観察された画像から、ビアボトムの中心からビアボトムのエッジまでの距離(間隙部の内周半径に相当)r1と、ビアボトムの中心から前記間隙部の遠い側の端部までの距離(間隙部の外周半径に相当)r2とを測定し、これら距離r1と距離r2との差r2-r1を、その測定地点のビアボトムのエッジからのハローイング距離として算出した。
【0299】
前記の測定を、無作為に選んだ5か所のビアホールで行った。そして、測定された5箇所のビアホールのトップ径の平均を、そのサンプルの粗化処理後のトップ径Ltとして採用した。また、測定された5箇所のビアホールのボトム径の平均を、そのサンプルの粗化処理後のボトム径Lbとして採用した。さらに、測定された5箇所のビアホールのハローイング距離の平均を、そのサンプルのビアボトムのエッジからのハローイング距離Wbとして採用した。
【0300】
前記測定結果から、ハローイング比Hb(粗化処理後のビアボトムのエッジからのハローイング距離Wbと、粗化処理後のビアホールのビアボトムの半径(Lb/2)との比「Wb/(Lb/2)」)を算出した。ハローイング比Hbが50%以下であれば「○」と判定し、ハローイング比Htが50%より大きければ「×」と判定した。
【0301】
【0302】
表1乃至4に示すとおり、本発明のエステル樹脂を含む樹脂組成物によれば、良好な誘電特性と耐熱性を併せて呈する硬化物がもたらされることを確認した。さらに、本発明のエステル樹脂を含む樹脂組成物によれば、ビアホール形成時のスミア除去性に優れると共にハローイング現象を抑えることができる硬化物がもたらされることを確認した。