(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085346
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】部分放電検出方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240619BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199848
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】呂 莉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】石崎 伸一
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA07
2G015AA10
2G015AA16
2G015BA04
2G015BA06
2G015CA01
(57)【要約】
【課題】内部放電によって発生する高周波電流信号及び低周波電流信号を検出して、それらの検出時間差を利用して計測対象機器内部での部分放電発生を精度良く検出する部分放電検出装置の提供。
【解決手段】高電圧機器の表面に取り付けた過渡接地電圧センサ2と、センサ2の出力を検出波形に変換する高速波形測定装置と、変換された検出波形を解析する演算装置を有する部分放電検出装置において、高電圧機器100の内部で発生する部分放電に起因して発生する高周波電流信号F1と低周波電流信号F2が、経路132と経路133の別の経路により過渡接地電圧センサ1に伝達される。伝達された信号の波形はフーリエ変換により、周波数F1,F2が含まれるか否かが判定される。また、周波数F1とF2の過渡接地電圧センサ1に伝達されるまでの伝達時間差Δtを利用して、高電圧機器100内で部分放電が生じたか否かを高精度に検出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧機器の表面に取り付けた過渡接地電圧センサと、
前記過渡接地電圧センサの出力を検出波形に変換する高速波形測定装置と、
前記高速波形測定装置で測定した波形を解析する演算装置を有し、前記高電圧機器の内部で発生する部分放電を検出する部分放電検出装置において、
前記演算装置は、
(a)前記高速波形測定装置で測定された波形の検出時間窓W(n)(nは正の整数)を設定し、前記W(n)が、高周波電流信号の一波形の周期T1と低周波数電流信号がTEVセンサで検出されるまでの時間差Δtよりも大きくなるように設定し、
(b)前記高速波形測定装置から前記検出時間窓W(n)内の検出波形を入力し、
(c)前記検出波形をフーリエ変換することで高周波電流信号F1が得られるか否かを判定し、
(d)前記高周波電流信号F1が得られない場合は、部分放電の発生なしと判定し、前記nをインクリメントして前記ステップ(b)に戻り、
(e)前記高周波電流信号F1が得られた場合は、前記検出時間窓W(n)をtyだけ広げて、その長さが前記周期T1と前記低周波電流信号の一波形の周期T2の合計から前記時間差Δtを引いた時間よりも大きくなるように再設定してから前記検出波形を再入力して再度フーリエ変換を行い、
(f)前記ステップ(e)で低周波電流信号F2が得られる場合は高電圧機器の内部で部分放電発生と判定し、低周波電流信号F2が得られない場合は高電圧機器の内部で部分放電発生なしと判定することを特徴とする部分放電検出方法。
【請求項2】
(g)前記ステップ(d)又は前記ステップ(f)において部分放電発生なしと判定された場合は、前記W(n)のnを増加させて、次の検出時間窓W(n+1)に対して前記ステップ(a)から前記ステップ(f)を実行することを特徴とする請求項1に記載の部分放電検出方法。
【請求項3】
(d1)前記ステップ(d)と(e)の間に、前記検出時間窓W(n)を前記tyより分割されたステップだけ徐々に広げた値の検出時間窓W(n)を1つ以上設定し、
広げた値による検出時間窓W(n)にて前記(e)から前記(g)のステップを繰り返し、
(d2)前記ステップ(d1)で前記低周波電流信号F2が得られた場合は、高電圧機器の内部で部分放電発生なしと判定することを特徴とする請求項2に記載の部分放電検出方法。
【請求項4】
前記高速波形測定装置から検出波形を一時的に格納するメモリを設け、
前記(d1)及び前記(e)のステップは、再びフーリエ変換される前記検出波形が前記メモリから読み出されることによって前記演算装置によって実行されることを特徴とする請求項3に記載の部分放電検出方法。
【請求項5】
対象物ごとに部分放電の際に発生する、高周波電流信号F1と、低周波電流信号F2を、あらかじめ測定して前記メモリに格納しておき、
前記演算装置は、前記格納された、前記高周波電流信号F1、前記低周波電流信号F2の値を用いて前記ステップ(c)~(f)における判定を行うことを特徴とする請求項4に記載の部分放電検出方法。
【請求項6】
前記高電圧機器の内部に、部分放電の発生を監視する対象物を複数設け、
前記演算装置は、対象物1によって発生される高周波電流信号F11(=F1)及び前記低周波電流信号F21(=F2)に加えて、対象物n(nは2以上の整数)によって発生される高周波電流信号F1n及び低周波電流信号F2nを用い、
前記ステップ(c)~(f)における判定において、高周波電流信号の検出に、前記F11~F1nを用い、低周波電流信号の検出に前記F21~F2nを用いることによって複数の対象物からの部分放電の有無を同時に判定することを特徴とする請求項4に記載の部分放電検出方法。
【請求項7】
前記対象物ごとに部分放電の際に発生する、高周波電流信号の前記F11~F1nと、低周波電流信号の前記F21~F2nを、あらかじめ測定して前記メモリに格納しておき、
前記格納された、前記F11~F1nと前記F21~F2nの値を用いて前記ステップ(c)~(f)における判定を行うことを特徴とする請求項6に記載の部分放電検出方法。
【請求項8】
前記部分放電検出装置に表示装置を設け、
上記ステップ(e)で部分放電が検出されたら前記表示装置にてアラームを発すると共に、検出された時間を記録して前記メモリに格納することを特徴とする請求項1に記載の部分放電検出方法。
【請求項9】
高電圧機器の表面に取り付けた過渡接地電圧センサと、
前記過渡接地電圧センサの出力を検出波形に変換する高速波形測定装置と、
前記高速波形測定装置で測定した波形を解析する演算装置を有し、前記高電圧機器の内部で発生する高周波電流信号F1と低周波電流信号F2を検出することによって部分放電を検出する部分放電検出装置であってて、
前記高速波形測定装置から検出波形を一時的に格納するメモリを設け、
前記メモリに格納されたデータから、部分放電の際に発生する高周波電流信号F1の周期T1の時間窓Wの検出波形を読み出して第1のフーリエ変換を行い、
前記メモリに格納されたデータから、前記第1のフーリエ変換を行った時間窓W1分と同じ開始時刻t1から長い時間の時間窓W2(但し、W2=W1+T2-Δt以上)の検出波形を読み出して第2のフーリエ変換を行い、
前記第1のフーリエ変換と前記第2のフーリエ変換によって検出される周波数に、前記高周波電流信号F1と前記低周波電流信号F2の双方が含まれるか否かによって前記部分放電の発生の有無を判定することを特徴とする部分放電検出装置。
【請求項10】
前記高電圧機器は、部分放電が発生する可能性がある絶縁物と、
前記絶縁物を収容するものであって、前記絶縁物に高電圧の電力を供給するケーブルを通すための貫通穴を有する金属製の筐体と、を有し、
前記過渡接地電圧センサは、前記筐体の外側表面に設けられ、
前記高周波電流信号F1は、前記筐体の内表面に励起された表面電流であって、前記貫通穴から前記筐体の外表面に流れて前記過渡接地電圧センサに到達する信号であり、
前記低周波電流信号F2は、前記絶縁部の接地ラインを経由して前記筐体に流れて前記過渡接地電圧センサに到達する信号であることを特徴とする請求項9に記載の部分放電検出装置。
【請求項11】
環境ノイズが少ない環境で事前に測定された高周波電流信号F1の周波数F1n(nは自然数)と低周波電流信号F2nの周波数F2n(nは自然数)を前記メモリにあらかじめ記憶させることにより、前記演算装置は、前記第1及び第2のフーリエ変換の出力結果と前記メモリに格納された前記周波数F1n、F2nを比較することで、部分放電の有無を判定することを特徴とする請求項10に記載の部分放電検出装置。
【請求項12】
前記部分放電検出装置は、前記高周波電流信号F1の周波数と前記低周波電流信号F2の周波数が検出された際にアラームを発する表示装置を有することを特徴とする請求項11に記載の部分放電検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧装置に係り、特に、環境ノイズと装置内部放電を分離するのに好適な部分放電検出方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配電盤、スイッチギヤ、変圧器、開閉機器等の高電圧機器は、設置されてから長期間使用され、それに伴い絶縁性能の低下等の経年劣化が生じ得る。電力設備の絶縁性能が低下すると、導体間の絶縁を部分的にのみ橋絡する放電が発生することが一般的に知られている。このような電力設備内部での部分的な放電(以下、本明細書では「部分放電」と称する)が繰返し発生すると絶縁破壊に至り、火災等の災害につながる可能性がある。従って、電力設備を安全に運用するには、部分放電を早期に検出することが重要である。
【0003】
特許文献1には、筐体の外側に、過渡接地電圧(TEV:Transient Earth Voltage)を計測するセンサを配置し、センサにて取得された計測値から、実験等によって求めた所定の中心周波数に係る電圧波形を抽出し、電圧波形の大きさが所定の閾値を超えた状態の継続時間、電圧が閾値を超える頻度等によって部分放電の発生を判定する部分放電判定方法が開示されている。また、特許文献2には、過渡接地電圧センサ、アンテナセンサ等の種類の異なるセンサを含む複数のセンサによる検出信号を取得し、各センサの検出信号からセンサごとに決められた所定周波数成分(複数も有)を抽出する。このように複数のセンサ毎に周波数分析を行ない、バックグラウンドノイズレベルを算出することで部分放電の判定に適した所定周波数成分の信号を決定し、決定された所定周波数成分の信号を用いて部分放電の発生の有無を判定する部分放電検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第2022-32335号公報
【特許文献2】特開第2019-135455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
部分放電を検出する際には、ラジオ波などの環境電磁ノイズが計測対象とする機器内での内部放電に重畳してしまうことがあり、内部放電に起因する検出信号が環境電磁ノイズ信号に埋もれてしまい、検出が難しくなってしまうことがある。
【0006】
本発明の目的は、環境電磁ノイズと機器内部放電が混在する状況下において、過渡接地電圧センサで検出した内部放電によって発生する異なる種類の信号(高周波電流信号F1と低周波電流信号F2)の検出時間差を利用して、計測対象機器内部における内部放電の発生を精度良く検出できるようにした部分放電検出方法及びその装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、高電圧機器の筐体の外側表面に過渡接地電圧センサを取り付け、内部放電の場所によって異なる高周波電流信号と低周波電流信号の周波数や検出時間差を検出することにより、筐体内部にて発生した部分放電発生箇所を検出できるようにした部分放電検出方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、高電圧機器の金属製の筐体の表面に取り付けた過渡接地電圧(TEV)センサと、過渡接地電圧センサの出力を検出波形に変換する高速波形測定装置と、高速波形測定装置で測定した波形を解析する演算装置を有し、高電圧機器の内部で発生する部分放電を検出する部分放電検出装置において、高電圧機器の内部で発生する部分放電に起因して検出する異なる周波数の信号、即ち、高周波電流信号F1と低周波電流信号F2の周波数をそれぞれ検出すると共に、それらの信号が、過渡接地電圧センサに伝達されるまでの伝達時間に時間差Δtが生じることに着目して、その時間差Δtを利用して、高電圧機器内で部分放電が生じたか否かを判定する。
【0008】
本発明の他の特徴によれば、部分放電検出装置に、高速波形測定装置にて検出された検出波形を一時的に格納するメモリを設ける。演算装置は、高速波形測定装置で測定されてメモリに格納されたデータを呼び出して、高周波電流信号が過渡接地電圧センサで検出される時刻t0から高周波電流信号F1の一波形の周期T1内(時間窓内)のデータを取り出して、フーリエ変換し、高周波電流信号の周波数F1が得られるか否かを判定する。次に、時刻t0からT1+tyまで、時間窓を拡張した複数の時間窓を設定し、再度データを取り出してフーリエ変換を行う。ここで、時間窓を拡張する度合いを調整し、増加させる時間窓の幅(T1+ty)が、高周波電流信号F1の一波形の周期T1よりも大きく、低周波電流信号F2の周期T2からΔtを引いた値(=T1+T2-Δt)と等しく、又は、その値よりもわずかに大きくなるようにして、読み出す時間窓の大きさを再設定する。この時間窓の拡張は、もとの時間窓、+ty/2だけ時間窓を増加せたもの、+ty分を増加させたもの、のように段階的に増加させると好ましい。その際、T1+T2-Δtの増加分まで至らない間の時間窓(例えば、時刻t0からT1+ty/2の時間窓)を用いたフーリエ変換において、低周波電流信号F2が得られても、演算装置は高電圧機器内部での“部分放電発生なし”と判定する。一方、再設定された時間窓がT1+tyの場合に、低周波電流信号F2と高周波電流信号F1が同時に得られた場合は、演算装置は高電圧機器内部での“部分放電発生”と判定し、得られない場合は、高電圧機器内部での“部分放電発生なし”と判定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1つの過渡接地電圧センサから得られる信号の周波数成分に着目した処理を行うことによって、部分放電に起因して発生した信号(高周波電流信号と低周波電流信号)を分離することが可能となった。また、信号の周波数成分の検出時間差に応じた大きさの異なる時間窓の検出信号をフーリエ変換することによって、環境ノイズレベルが高い状況下においても内部放電が発生しているのか否か、及び、何らかの要因で一時的に低周波電流信号F2と高周波電流信号F1の一方だけが検出されたのか、
を判定することができるので、内部放電の発生を精度良く検出することが可能となった。
上記した構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例に係る部分放電検出装置1の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1のセンサ2によって、測定対象機器から発生する部分放電が発生した信号132、133を検出する状態を示す模式図である。
【
図3】
図1のセンサ2によって、検出された信号の検出波形20と、検出波形20を主な周波数成分に分解した各波形を示す図である。
【
図4】(A)はTEVセンサ2の検出波形20を示す図であり、(B)は検出波形20に対してフーリエ変換で得られる周波数スペクトルを示す図である。
【
図5】
図3に示した検出波形20に含まれる3つの主な周波数成分の信号(50、30、20)と、フーリエ変換を行う対象部分の時間窓を23~25のように位置や幅を変化させた際に得られる周波数スペクトルを説明するための図である。
【
図6】検出波形の時間窓を時間軸に沿って移動させた際に得られる周波数スペクトルの検出状況を説明するための図である。。
【
図7】時間窓の幅を拡大方向に変化させて検出波形のフーリエ変換を行う一例を説明するための図である。
【
図8】本発明の実施例に係る部分放電を検出する手順を示すフローチャートである。
【
図9】時間窓の幅を変化させて、部分放電の発生有り、又は、発生無しを判断する処理方法を説明するための図である。
【
図10】本発明の第2の実施例に係る複数の測定対象機器から発生する部分放電を検出する状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において、同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例0012】
図1は本発明の実施例に係る部分放電検出装置1の構成を示すブロック図である。過渡接地電圧センサ(以下、「TEVセンサ」と称する)2は、測定対象たる高電圧機器100の絶縁された金属製の筐体の表面に取り付けられ、高電圧機器100の表面に誘起される表面電流を検出し、電圧信号として出力する公知のセンサである。TEVセンサ2は、信号伝送ケーブル3にて高速波形測定装置4と接続される。部分放電検出装置1は、高速波形測定装置4、データ記憶装置5、データ処理装置6を含んで構成され、これらはケーブル11、12にて接続される。データ処理装置6は、ケーブル13によって表示装置7に接続される。表示装置7は、数値や文字情報を表示可能な小型のセグメントLED、ドットマトリックス表示装置等の公知の表示手段である。尚、
図1では放電信号検出装置1の構成物を、ケーブル11~13がリニアに接続されている状態を図示しているが、実際の回路構成は、データバスを有するコンピュータやマイコン機器によるデータ処理装置6に、その周辺装置(高速波形測定装置4、データ記憶装置5、表示装置7)をデータバスや公知のインターフェースを用いて接続するような構成とすることが多い。
【0013】
高速波形測定装置4はTEVセンサ2によって検出された信号を波形化する。測定された検出信号は、その到達時刻と信号強度がデータ記憶装置5に順次格納される。データ記憶装置(メモリ)5は、例えば、半導体メモリで構成できるが、SSD(Solid State Drive)やHDD(Hard Disk Drive)等の公知の二次記憶手段を用いることもできる。データ記憶装置5に一時記憶されたデータ(出力信号)は、データ処理装置6により読み出されて波形解析処理が実行される。データ処理装置6は、例えばプロセッサを有して構成され、読み出された測定された信号からフーリエ変換を含む波形処理の演算を行う。データ処理装置6で処理された判定結果は、表示装置7で表示される。
【0014】
図2は高電圧機器100の内部に設置した絶縁物110に高電圧(HV:High Voltage)が供給されている状態であって、絶縁物110から内部欠陥等によって部分放電が発生した際に、TEVセンサ2にて検出される電流信号を模式的に示した図である。高電圧機器100は金属製の筐体101を有し、その内部に、開閉器、その他の機器であって、局所的な部分放電(PD)等の発生有無を監視する対象とされる絶縁物110が設置される。絶縁物110の高電圧側111には、高電圧ケーブル121によって高電圧が印加されており、絶縁物110の接地側112は絶縁状態にある任意の部位である。接地側112は筐体101を介して接地線113にて接続される。尚、絶縁物110が、開閉器の場合には、一次側に接続される高圧ケーブル121だけでなく、二次側に接続されるケーブルやその他の配線が存在するが、ここではそれらの図示を省略している。筐体101の一部には、高圧ケーブル121を引き込むための、貫通穴102が形成され、貫通穴102の外側には碍子等の絶縁保持部材103が設けられる。
【0015】
TEVセンサ2は固定ベルト等の取り付け部材105を介して筐体101の外表面に設置される。TEVセンサ2は、接地されている金属面に伝播した放射電磁波を検知するものであるが、検知される電磁波には、筐体の外部から伝搬される環境ノイズ200も含まれる。絶縁物110にて部分放電が起こると、放電箇所から電磁波131が放出される。
図2では、電磁波131が中心から放射状に伝達する様子を、波が伝わるような3本の円弧線によって模式的に図示しているが、実際には、2つの主な経路をたどってTEVセンサ2にて検出される。一つ目の伝達経路は点線132にて示す伝達経路であり、高電圧機器100から発せられた電波によって筐体101の内側表面に励起された表面電流が、ブッシング等の貫通穴102から高電圧機器100の外表面に流れ、外表面を伝わってTEVセンサ2に到達するものである。この表面電流は、高い周波数F1の成分を多く含む高周波電流信号30(符号30は後述の
図3(B)参照)である。
【0016】
TEVセンサ2にて検出される電流の2つの目の伝達経路は、接地ラインを経由して設置されている筐体101に直接伝達される電流信号である。高電圧を扱う機器においては、筐体101を金属製とすることが多く、漏電による感電防止、漏電遮断器の確実な動作、異常電圧の抑制などを目的として法令によって定められた基準の接地工事が行われる。このため、金属製の筐体101は、接地線114によって大地と接続されることになる。また、絶縁物110の保持する部位の接地側(又は中性点)112は、接地線113により筐体101に接続される。絶縁物110にて部分放電が起こると、放電箇所から接地線113を介して電流信号が直接流れ、破線133のように、接地線113から筐体101を通ってTEVセンサ2に到達する。この金属の筐体に直接流れる電流は、低い周波数F2の成分を多く含む低周波電流信号40(符号40は後述の
図3(B)参照)である。このようにTEVセンサ2にて検出された2つの信号波形(132、133)を
図3を用いてさらに説明する。
【0017】
図3(A)はTEVセンサ2の出力信号を、高速波形測定装置4(
図1参照)にて波形化した検出波形20である。縦軸は検出波形20の強度であり、横軸は時間の経過を示す。検出波形20は、高周波電流信号30と低周波電流信号40、及び環境ノイズ信号50が含まれた信号である。この波形信号20を分解すると、
図3(B)に示すような3種類の波形に主に分解できる。環境ノイズ信号50は途切れることなく連続して伝達されることがほとんどであり、その大きさや周期は一定ではないことが多い。この環境ノイズ信号50の他に、絶縁物110にて部分放電が起きた際には、高周波電流信号30と低周波電流信号40が検出波形20の重畳される。高周波電流信号30は、
図2の点線132のように高電圧機器100の外表面に流れ、外表面を伝わってTEVセンサ2に到達する信号である。低周波電流信号40は、
図2の破線133のように接地線113、筐体101を伝わってTEVセンサ2に到達する信号である。
図3(A)では、測定開始の時刻0から時刻t
4に至るまで連続して計測した波形を示している。尚、ここで示した時刻t
0~t
4の長さは、数百ナノ秒程度である。
【0018】
矢印21に示す時間t
0付近において部分放電が発生し、その部分放電が矢印22まで続いたとする。部分放電が起きる時間間隔は、通常、短いことが多い。この短い時間の部分放電に起因する高周波電流信号30と低周波電流信号40をTEVセンサにて検出することになる。高周波電流信号30の周波数はF1ヘルツ(=1/T1)であり、低周波電流信号40の周波数はF2ヘルツ(=1/T2)である。T1は高周波電流信号30の周期であり、T2は低周波電流信号40の周期である。発明者らの実験結果により、高周波電流信号30の周波数F1は低周波電流信号40の周波数F2より高く、且つ、高周波電流信号30が低周波電流信号40よりもTEVセンサ1によって早く検出されることが分かった。その時間差Δtは数nsから数十ns程度である。例えば、矢印21に示す時刻にて部分放電が発生すると、矢印30aに示すように時間t
0にて高周波電流信号30が出現する。尚、矢印21から時刻t
0までに要する時間は0ではないが、極めて小さいので、本明細書ではそのタイムラグを無視して説明する。高周波電流信号30は、矢印30a~30fのように放電の長さに応じて1~数周期分出現する。高周波電流信号30は高電圧機器100の内表面に到達する前に、電磁波として伝搬する。低周波電流信号40は直接接地線113を伝って伝達する。このように高周波電流信号30と低周波電流信号40の伝搬速度に差が出るのは、接地線中の電流の転送速度よりも空気中の電磁波の方が伝搬速度が速いためと考えられる。
図3(B)の矢印22に示す時刻にて絶縁物110(
図2参照)からの部分放電が終了すると、矢印30fにて高周波電流信号30が消失する。
【0019】
高周波電流信号30の波形が検出開始された矢印30aの時刻t
0から、Δt時間だけ遅れた時刻t
0+Δtで、低周波電流信号40の波形の検出が開始される。つまり、
図3(B)のΔtは、高周波電流信号30に対する低周波電流信号40が出現する時間差(タイムラグ)に相当する。このタイムラグがどの程度であるかは測定対象である絶縁物110(
図2参照)によって変わるが、ここでは低周波電流信号40の1周期はT2(但し、T2>T1)であることから、高周波電流信号30の1周期T1が経過するよりも早いタイミングとなる。出現した低周波電流信号40の1周期分の信号が到達した時刻t
2は、時刻t
0に、タイムラグΔtと、低周波電流信号40の1周期T2を足した時間が経過した時刻となる。時刻t
0+Δtにて矢印40aのように発生した低周波電流信号40は、矢印40b~40eのように数パルス分出現して、矢印40fに示す時刻t
3にて消失する。
【0020】
以上説明したように、高周波電流信号30は、周波数F1の波形となり、一パルスの周期はT1となる。低周波電流信号40は、周波数F2の波形となり、一パルスの周期はT2なる。また、高周波電流信号30は低周波電流信号40よりΔtだけ早いタイミングで検出される。本発明では、矢印21に示す部分放電の発生により、矢印30aで示すように高周波電流信号30が発生したタイミング(時刻t0)から、低周波電流信号40が検出されるまでのタイミング(時刻t0+Δt)に時間差が生ずることを利用することで部分放電の有無を正確かつ簡便に検出する。
【0021】
この検出の原理を大まかに説明すると、(1)データ処理装置6は時刻t0~t1までの時間窓の信号を検出してフーリエ変換すると、高周波電流信号30だけを検出できる。一方、(2)この時間窓の起点t0を変えずに時間窓を時刻t0~t2までに拡大して検出信号20をフーリエ変換すると、高周波電流信号30と低周波電流信号40の双方を検出できる。この(1)の検出状態と、(2)の検出状態が同時発生ではなくて、順に発生することを識別することで、内部で部分放電が発生しているか否かを正確に判定できる。
【0022】
次に、
図4を用いてデータ処理の原理について説明する。
図4(A)はTEVセンサ2の検出波形20を示す図であり、時刻0~t
4の範囲を示している。この検出波形20は
図3(A)と同一波形として示している。
図4(B)は、時間0~t
4の信号を入力としてデータ処理6(
図1参照)にてフーリエ変換を行った後周波数スペクトルを示す図である。
図4(B)の縦軸は検出波形20の強度を示し、横軸に周波数(単位MHz)を示している。
【0023】
図4に示すように、測定された時間窓の全域0~t
4内の検出波形20をフーリエ変換すると、矢印21~22の時間内にて部分放電が発生するので、
図4(B)にて示すように周波数F1とF2の両方の周波数成分が得られることになる。さらに環境ノイズ信号50の中心周波数F3も同時に得られる。環境ノイズ信号50には複数の周波数が混在することが多いが、ここでは主周波数がF3であるとして簡略的に図示している。また、
図4では周波数F1、F2、F3の強度が同じであるかのように縦軸方向の大きさを同一に図示しているが、実際にはそれらの強度は異なることが多い。このように検出される周波数はそれぞれ異なる。ここでは、環境ノイズ信号50の周波数F3が、周波数F1よりも高い例を示している。
【0024】
図5は検出波形20に含まれる3つの主な周波数成分の信号、即ち、環境ノイズ信号50、高周波電流信号30、低周波電流信号40の発生する状況と、フーリエ変換を行う検出波形20の対象部分の時間窓23~25の幅を変化させた際に得られる周波数スペクトルを示す図である。ここでは、矢印21に示す時刻t
0にて、TEVセンサ2によって高周波電流信号30の検出が開始され、時刻t
0+Δtにて低周波電流信号40の検出が開始されたことを示している。また、矢印22に示す時点で高周波電流信号30が消滅し、時刻t
3にて低周波電流信号40が消滅したことを示している。フーリエ変換の対象とする検出波形20(
図4参照)として、データ処理装置6がデータ記憶装置5(
図1参照)から時間0~t
0内の測定データ(時間窓23)を読み出してフーリエ変換を行うと、
図5(B)に示すように周波数F3だけが得られる。時間窓23の幅は、高周波電流信号30の1周期分(=T1)の時間、又は、T1よりもわずかに大きい程度の固定値である。この時間0~t
0間には、部分放電が発生していないので、高周波電流信号30及び低周波電流信号40が発生しておらず、TEVセンサ2によりそれらが検出されていないため、フーリエ変換後に
図5(B)に示すように周波数F1とF2の両方とも得られない。尚、環境ノイズ信号50は常時存在するので、周波数F3は検出されることがほとんどである。
【0025】
次に、時間窓の開始位置を横軸方向に所定量だけずらし、次の時間窓の始点を再設定して同様のフーリエ変換を行う。次の時間窓24を、時間t
0~t
1内とするようにずらして、その範囲の検出波形20のフーリエ変換を行う。ずらした状態の時間窓24の幅は、時間窓23と同じくT1である。尚、
図5(A)では、時間窓23を環境ノイズ信号50の領域に図示し、時間窓24を高周波電流信号30の領域に図示し、時間窓25を低周波電流信号40の領域に図示しているが、いずれの時間窓23~25はデータ記憶装置5に一時的に読み出される検出波形20に対して適用されるものである。
図5(A)では、時間窓24を縦方向の同一位置に並べて図示すると境界がわかりにくくなるために、上下方向にずらすように図示した。時間窓24に対する検出波形20のフーリエ変換を行うと、
図5(C)のように、高周波電流信号30の周波数F1と、環境ノイズ信号50の周波数F3が得られる。時間窓24の検出波形20内には、部分放電によって生じた高周波電流信号30の一周期分の波形データが含まれるため、周波数F1が得られるためである。一方、時間窓24内においては、低周波電流信号40は、その周波数検出に必要な長さ分の波形が得られていないため、
図5(C)では周波数F2は得られていない。
【0026】
次に、データ処理装置6(
図1参照)は、周波数F1が検出できたことにより、時間窓24を広げて新たな時間窓25を再設定する。ここでは低周波電流信号40の有無を検出するために、起点t
0をそのままにして、幅だけを広げて時刻t
0~t
2とした新たな時間窓25を設定する。データ処理装置6が時間窓25に対応する検出波形20をデータ記憶装置5から読み出してフーリエ変換を実行すると、
図5(D)のように周波数F1、F3に加えて低周波電流信号40の周波数F2も検出できる。これは、拡げられた時間窓25の枠内に、高周波電流信号30の一周期以上の信号に加えて、低周波電流信号40の一周期分の信号が含まれるためである。尚、環境ノイズ信号50の周波数F3は、F1、F2のいずれよりも高い上に、常時検出できるので、フーリエ変換の対象を時間窓23のように狭い範囲でも、時間窓25のように広い範囲でもいずれの場合でも検出できる。
【0027】
次に、
図6を用いて部分放電が発生した時点の検出方法を説明する。ここで「部分放電が発生した時点」とは、
図5(A)で示した矢印21のタイミング(時刻t
0)である。
図6では、説明の便宜上、上記データを取り出してデータ処理装置6に入力する時間窓(例えば
図5の時間窓23~25に相当)の順番を、W(n)(n=0、1、…、m:ただし、m,nは整数)として図示した。従って、n番目の時間窓W(n)は、入力される検出波形20のうち、開始点が時間t(n)であり、終了がt(n)+T1である。尚、それぞれの時間窓W(n)の幅は、高周波電流信号30の波形の一波形分を基準とした周期T1を基準に、T1と同一、又はT1よりもわずかに大きい程度にする。時間窓W(n)の幅は、低周波電流信号40の一波形分の長さT2よりも短くする。最初にデータ処理装置6は、
図6(A)で示すように、時間t(0)を基準にして、時刻t(0)から、高周波電流信号30の1周期分T1の時間を加えた時刻t(0)+T1までの時間窓W(0)を入力信号としてフーリエ変換を行う。このフーリエ変換した後の結果が
図6(A)の右側の図である。この時間窓W(0)は
図5の時間窓23に相当するため、ここでは周波数F1は得られない。尚、この時点において環境ノイズ信号50の周波数F3は検出されることになるが、
図6(A)~(C)では周波数F3の図示を省略している。
【0028】
次に、データ処理装置6(
図1参照)は、時間窓の位置を後方にずらして、次の時間窓W(1)を設定する。時間窓W(1)の横軸方向の幅はW(0)の幅と同じT1である(以下、同様)。時間窓W(1)の開始時刻t(1)は、t(0)+Dに相当する。時間差Dは、スタート時刻のt(0)とt(1)の時間差、即ち、時間窓W(n)の移動幅であり、フーリエ変換処理を実行するタイムインターバルでもある。本実施例では、移動幅に相当する時間DをT1/8程度に設定しているが、時間Dは0より大きく、T1/2以下の範囲内で任意に設定すれば良い。但し、データ処理装置6での処理の遅延が生じないように、各時間窓W(n)に対するフーリエ変換がリアルタイムで完了できるような時間Dとすることが望ましい。
【0029】
図6(B)に示す時間窓W(1)からのフーリエ変換では、
図5の時間窓24と同じ時刻t
0の時点まで時刻t(1)が到達していないため、フーリエ変換を行っても、
図6(B)の右図に示すように周波数F1が得られない。この後、データ処理装置6は、時間窓W(n)のnを2から3、3から4と1つずつ増やしながら、各時間窓W(n)の起点をさらにT1/8ずつずらし、各時間窓に対するフーリエ変換を繰り返す。このようにしてn=8、即ち時間窓の起点t(8)が、
図5に示した時間窓24の起点t
0と同一位置になると、
図6(C)の右図に示すように、フーリエ変換された結果で周波数F1が得られることになる。
【0030】
以上のように、設定する時間窓W(n)を所定間隔ごとにずらしながら、時間窓W(n)範囲内の検出波形20に対してフーリエ変換を行うことによって、高周波電流信号30の周波数F1が得られた時間窓W(n)を検出することができる。この時間窓W(n)(ここではn=8)が、部分放電の発生可能性のある候補の時間窓の起点(
図3でいう時刻t
0)となる。次に、データ演算装置6は、時間窓W(8)の幅を後方側に大きくするように再設定することで低周波電流信号40の発生の有無を検出する。この手順を説明するのが
図7である。
【0031】
図7(A)に示すように、時刻t(n)を起点とした時間窓W(n)を適用して、データ処理装置6が検出波形20からフーリエ変換をすることにより、周波数F1を検出できたとする。次にデータ処理装置6は、時間窓W(n)の起点t(n)を変えずに、終点をt(n)+T1から、t(n)+T1+Txにまで広げた新たな時間窓W(n)”を設定する。このTxの大きさは、低周波電流信号40の周期T2から検出時間Δtを引いた大きさ以上とすることが重要である。つまり、
Tx=T2-Δt …式(1)
である。
【0032】
この時間窓W(n)”の拡大は、時間窓W(n)から時間窓W(n)”へ直接行っても良いし、時間窓W(n)と時間窓W(n)’の中間の大きさとなる時間窓W(n)’にて一度、フーリエ変換を行い、その次に時間窓W(n)”の検出波形20のフーリエ変換を行うように、段階的に時間窓の拡張を行うようにしても良い。このように、時間窓w(n)を高周波電流信号30だけを検出できる大きさから、高周波電流信号30と低周波電流信号40の双方が検出できる大きさにまで順次拡張することによって、2つの周波数F1とF2が検出できるかで、確実な部分放電の検出が可能となる。また、
図7には書いていない2つの中間の時間幅の時間窓W(n)’にてフーリエ変換を行うように、時間窓を段階的に拡大して各段階でそれぞれフーリエ変換を行えば、部分放電の発生の有無を精度良く検証することができる。
【0033】
次に
図8のフローチャートを用いて本発明の実施例に係る部分放電を検出する手順を説明する。
図8のフローチャートは、測定対象とする高電圧機器100、例えば、分電盤、ガス絶縁開閉装置(GIS)、変圧器等の実測定データを利用し、部分放電の有無を検出する手順を示し、データ処理装置6に含まれるプロセッサがコンピュータプログラムを実行することによってソフトウェアにより実行する。
【0034】
図8(A)は、実際の部分放電検出を実行する前の事前準備内容を示したステップ80である。まず、部分放電検出装置1の出荷前に、製造者は外部ノイズが少ない環境のラボ試験にて内部部分放電が発生する時の高周波電流信号30の周波数F1と、低周波電流信号40の周波数F2と、高周波電流信号30と低周波電流信号40がTEVセンサ2にて検出される時間差Δtを測定して、予めF1、F2、Δtの値をデータ記憶装置5内に記憶させておく。このF1、F2、Δtの値は、監視対象とする高電圧機器100が、例えば、分電盤、ガス絶縁開閉装置(GIS)、変圧器のように異なる場合に、周波数F1、F2、Δtの値も異なることがあるためである。尚、この周波数F1、F2、検出時間差Δtの組をデータ記憶装置5内に保存するのは、部分放電検出装置の出荷前だけに限られず、出荷後であってTEVセンサ2を測定対象たる高電圧機器100の表面に取り付ける際であっても良い。
【0035】
ステップ80では、外部ノイズが少ない環境(例えば電磁波遮蔽ルーム)のラボ試験にて内部部分放電が発生する時の高周波電流信号30の周波数F1と、低周波電流信号40の周波数F2、及び高周波電流信号30と低周波電流信号40がTEVセンサにて検出される時間差Δtを得る。このF1、F2を得る手法としては、全測定時間T内のラボ試験にて検出された検出波形のフーリエ変換を行うことで測定できる。これらF1、F2、Δtはデータ記憶装置5に保存する。部分放電検出装置1の実測定に要するパラメータ(F1、F2、Δt)がデータ記憶装置5内に保存されたら、測定対象機器に対する部分放電発生の監視手順を実行できる状態になる。
【0036】
次に、
図7で示したように、フーリエ変換後F1とF2が同時に得られるまで、時間窓W(n)の幅を細かいステップで徐々に広げて多数の時間窓W(n)、W(n)’、W(n)”…の検出波形のフーリエ変換をする。すると、フーリエ変換後F1とF2が同時に最初に得られたW(n)”がわかるので、周波数F1、F2から、周期T1、T2を求め、上述の式1から
Δt=T2-Tx
のようにして、時間差Δtを算出することができる。同様のラボ試験を複数回繰り返すことにより、精度の高い周波数F1、F2、時間差Δtをデータ記憶装置5に格納することができる(ステップ80)。
【0037】
次に、
図8(A)にて事前設定の完了した部分放電検出装置1を用いて
図8(B)に示す手順を実行する。これは、実フィールドにおいて高電圧機器100が稼働している間に、TEVセンサ2を用いて常時監視するものである。最初に、TEVセンサ2の出力は、高速波形測定装置4によって連続して測定され、波形化された検出波形20がデータ記憶装置5に格納される(ステップ81)。データ記憶装置5に格納される検出波形20は、直近の所定量だけのデータの保存であって、記憶容量確保のため古い検出波形20は順次破棄される。TEVセンサ2による測定の際に、大まかに周期T2よりも十分大きな時間間隔、例えば、
図5の時刻0~t
4程度の時間窓の検出波形20をデータ記憶装置5から読み出して、データ記憶装置5がフーリエ変換を行うことにより検出波形20に含まれる周波数成分を調べる(ステップ82)。時刻0~t
4程度の時間窓の幅Tは、少なくとも、
T>T1+T2-Δt…式(2)
を満たす大きさであることが必要である。。
【0038】
データ記憶装置5は、ステップ82にてフーリエ変換を行ったら、データ記憶装置5にあらかじめ格納されている周波数F1、F2との比較を行い(ステップ83)、周波数F1とF2が同時に検出されたか否かを判定する(ステップ84)。ステップ84において、周波数F1とF2のいずれも検出されていないときは、高周波電流信号30と低周波電流信号40が同時に発生していないことになるので、“内部部分放電なし”と判断して(ステップ85)、ステップ81に戻る。データ処理装置6は、次の大きな時間窓T(
図5で例えれば、時刻t
0~t
4の間に相当する大きさの時間窓)に対してステップ81から84を繰り返す。
【0039】
ステップ84において、周波数F1とF2の少なくとも一方が検出された際には、部分放電が起きている可能性があるため、
図6で示した小さな時間窓W(n)と、
図7で示した時間窓W(n)を拡大させた時間窓W(n)”を適用した検出波形20をフーリエ変換する手順(ステップ86)を実行することによって、高周波電流信号30と低周波電流信号40が同時に検出されたか否かの詳細な判定を行う(ステップ87)。ステップ82~84が大きな時間窓Tを用いた第1段の粗い判定処理に相当し、ステップ86~88では、小さな時間窓W(n)を用いた第2段の細かい判定処理に相当する。
【0040】
ステップ87の処理では、ステップ82でフーリエ変換された時間窓の検出波形20を詳細判定の対象とする。データ処理装置6は、小さい時間窓W(n)(nは0以上の自然数)のデータを記憶装置5から順次読み出して、再度フーリエ変換を実行する。まず、
図6に示すように、時間窓W(n)をn=0からnまで時間軸を沿って移動させながら設定し、それぞれの時間窓W(n)の検出波形20のフーリエ変換を行う。フーリエ変換によって、周波数F1が得られる開始時刻t(n)が得られたら、その開始時刻t(n)を
図5で示すt
0時刻とする。
【0041】
次に、
図9に示すように、上述の式(1)からTx=T2-Δtと定義した際に、時間窓W(n)の幅をT1+Tx/2、T1+Txと段階的に広げながら、周波数F2が検出されるか否かを判定する。
図9はそのように時間窓W(n)の幅を広げる状況を説明するための図である。
図9(A)は、時間窓W(n)の設定状況を示し、開始時刻t(n)はt(n)であり、広げる前の時間窓の幅(初期値)はT1である。従って、時間窓W(n)の終了時間は、t(n)+T1となる。この時間窓W(n)の幅では低周波電流信号40の周波数F2は検出できないので、フーリエ変換後に検出できているのは高周波電流信号30の周波数F1だけ検出される。
【0042】
次に時間窓W(n)の幅をT1+Tx/2に広げて、同じ開始時刻t(n)とした時間窓W(n)’の検出波形20のフーリエ変換を行う。この状況を示すのが、
図9(B)である。
図9(B)のT1+Txよりも小さい時間幅の時間窓にて周波数F1、F2が検出されるのは異常な状態であり、ノイズ等の影響による一時的な誤測定であると考えられる。従って、データ処理装置6は、F1とF2が同時検出されても内部部分放電が発生していないと判断する(ステップ87)。
【0043】
図9(B)の時間窓W(n)’にてフーリエ変換後に周波数F1だけ検出されて周波数F2が検出されなかった場合は、
図9(C)、(D)に示すように、時間窓W(n)の幅をT1+Txにまで広げて、同じ開始時刻t(n)とした時間窓W(n)”の検出波形20を読み出して再度フーリエ変換を行う。この結果を示す2つのパターンが
図9(C)、(D)である。時間窓W(n)の幅をT1+Txにまで広げると、高電圧機器100内に部分放電が生じている場合には、
図9(C)の右図に示すように、周波数F1だけでなく低周波電流信号40の周波数F2も検出されることになる(ステップ88)。その理由はT1+Tx以上の時間幅内のデータは高周波電流信号30と低周波電流信号40のそれぞれ一周期の波形が含まれるためである。このように部分放電が生じたことを確認できた場合、データ処理装置6は部分放電が生じた時間や記録された検出波形、測定された周波数F1、F2の詳細データをデータ記憶装置5に格納すると共に、表示装置7にてアラーム表示を行う(ステップ89)。
【0044】
図9(D)では、時間窓W(n)”にてフーリエ変換した後において、周波数F1のみが検出された状態である。このように、周波数F1だけ検出されて周波数F2が検出されなかった場合、データ処理装置6は部分放電が生じていないと判断する(ステップ87)。
【0045】
以上説明したように、本実施例では時間窓W(n)と、それを拡大する複数の時間窓W(n)’、W(n)”を設定し、「時間窓がT1以上、T1+Txよりも小さい時間幅の時間窓では周波数F1だけが検出されて周波数F2が検出されずに」、且つ、「時間窓がT1+Tx以上の時間幅の時間窓では周波数F1、F2の双方が検出された」場合は、内部部分放電発生と判断するようにしたので、何らかの別の要因による部分放電の誤検出の虞を大幅に抑制でき、精度の高い部分放電検出装置1を実現できた。尚、
図9で示した時間窓W(n)→時間窓W(n)’→時間窓W(n)”への時間幅の拡大は2段階だけで行うのでなく、それ以上の複数段階で行うようにしても良い。例えば、時間窓W(n)の時間幅をT1として、拡大する時間窓の幅を、T1+Tx/4、T1+(Tx/2)、T1+(3Tx/4)、T1+Txのように4段階にしても良い。
【0046】
以上説明したようなデータ処理を連続した波形測定中に並行して実行するために、高速波形測定装置3はns(ナノ秒)オーダーより短い時間間隔で測定できる分解能を有する測定装置とする方が良い。また、データ処理装置6もその測定データを処理するのに十分な処理能力を有するプロセッサを用いるように構成すると良い。上記の手法により,選択された時間帯内の測定データをフーリエ変換することで、外部ノイズが存在する状況下においても機器内部で発生する部分放電信号を正確に分離し、検出可能となる。
例えば、“部分放電種類1”では、高周波電流信号30の周波数はF11、一波長の周期はT11、低周波電流信号40の周波数はF21、一波長の周期はT21のように測定され、それらの値がデータ記憶装置5に格納される。また、高周波電流信号30は低周波電流信号40よりΔt11時間で早く検出されることも測定され、その値がデータ記憶装置5に格納される。
“部分放電種類2”に対しても同様に測定され、高周波電流信号30の周波数はF12、一波長の周期はT12、低周波電流信号40の周波数はF22、一波長の周期はT22、検出時間差Δt12と測定され、それらの値がデータ記憶装置5に格納される。
複数の周波数F1n、F2n、Δtnを用いることによって、データ処理装置6はフーリエ変換で検出された周波数と、データ記憶装置5に格納されている周波数F1n、F2n、Δtn(但し、n=1、2、…)と比較することでどの対象機器からの部分放電が生じているかを検出することができる。