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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008535
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】電気化学セルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/32 20060101AFI20240112BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240112BHJP
【FI】
B01D53/32
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110484
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 裕規
(72)【発明者】
【氏名】松田 信彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】太田 篤人
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146JA02
4G146JB10
4G146JC05
4G146JC22
4G146JC25
4G146JC28
(57)【要約】
【課題】電極性能を向上できる電気化学セルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行う作用極130と、作用極130との間で電子の授受を行う対極140と、を備え、作用極130および対極140の少なくとも一方を構成する電極膜132、142は、活物質、導電助剤およびバインダを有しており、バインダは、高分子樹脂を含んでおり、高分子樹脂は、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う作用極(130)と、
前記作用極との間で電子の授受を行う対極(140)と、を備え、
前記作用極および前記対極の少なくとも一方を構成する電極膜(132、142)は、活物質、導電助剤およびバインダを有しており、
前記バインダは、高分子樹脂を含んでおり、
前記高分子樹脂は、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている電気化学セル。
【請求項2】
前記高分子樹脂の平均円相当直径は、1μm以下である請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記高分子樹脂は、PTFE、FEP、PCTFE、PFAの少なくともいずれかを含んでいる請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う作用極(130)と、
前記作用極との間で電子の授受を行う対極(140)と、を備え、
前記作用極の電極膜(132)を構成する作用極構成材料は、高分子樹脂を含み、
前記高分子樹脂は、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている電気化学セルの製造方法であって、
前記作用極を形成する作用極形成工程を含み、
前記作用極形成工程は、
前記作用極構成材料を混合する混合工程と、
前記混合工程にて混合された前記作用極構成材料を、前記高分子樹脂の熱分解温度まで加熱する加熱工程と、を含む電気化学セルの製造方法。
【請求項5】
前記作用極構成材料は、前記被回収ガスを吸着する吸着材、作用極側導電助剤および前記高分子樹脂を含む請求項4に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項6】
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う作用極(130)と、
前記作用極との間で電子の授受を行う対極(140)と、を備え、
前記対極の電極膜(142)を構成する対極構成材料は、高分子樹脂を含み、
前記高分子樹脂は、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている電気化学セルの製造方法であって、
前記対極を形成する対極形成工程を含み、
前記対極形成工程は、
前記対極構成材料を混合する混合工程と、
前記混合工程にて混合された前記対極構成材料を圧縮する圧縮工程と、を含む電気化学セルの製造方法。
【請求項7】
前記対極構成材料は、前記作用極との間で電子の授受を行う対極側活物質、対極側導電助剤および前記高分子樹脂を含む請求項6に記載の電気化学セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学セルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、電気化学反応によって二酸化炭素(CO)含有ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素回収システムに用いられる電気化学セルが提案されている。特許文献1では、電気化学セルのカソードとアノードとの間に電位差を与えた状態で、カソードに二酸化炭素含有ガスを供給することで、COからCO 2-が生成する電気化学反応と、CO 2-からCO生成する電気化学反応が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-33340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気化学セルにおいて、カソードおよびアノードは、多孔質状の導電性部材である集電材に電極膜を結合させることにより構成されている。電極膜は、活物質および導電助剤の他にバインダを含んで構成されている。バインダは、集電材、活物質、導電助剤等の結合を補助する結合補助剤である。電気化学セルをEDLC(電気二重層キャパシタ)や電池に用いる場合、バインダとして、溶剤に対する溶解性および化学的安定性の高いPVDF(ポリフッ化ビニリデン)が広く採用されている。
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によると、電気化学セルを、大気から二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収システムに用いる場合、大気に含まれる酸素や水分の影響によりPVDFが分解されていることが明らかになった。バインダであるPVDFが分解されると、集電材、活物質、導電助剤の間での電子の移動が確保し難くなる。また、吸着材が集電材から剥離し易くなり、電気化学セルの吸着量が経時的に低下し易くなる。その結果、電気化学セルの電極性能が低下する。
【0006】
本開示は、上記点に鑑みて、電極性能を向上できる電気化学セルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の電気化学セルは、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行う作用極(130)と、
作用極との間で電子の授受を行う対極(140)と、を備え、
作用極および対極の少なくとも一方を構成する電極膜(132、142)は、活物質、導電助剤およびバインダを有しており、
バインダは、高分子樹脂を含んでおり、
高分子樹脂は、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている。
【0008】
これによれば、電極膜(132、142)を形成するバインダに含まれる高分子樹脂が、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されているので、混合ガスに含まれる成分によりバインダが分解されることを抑制できる。その結果、電気化学セルの電極性能を向上させることが可能となる。
【0009】
また、請求項4に記載の電気化学セルの製造方法は、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行う作用極(130)と、
作用極との間で電子の授受を行う対極(140)と、を備え、
作用極の電極膜(132)を構成する作用極構成材料は、高分子樹脂を含み、
高分子樹脂は、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている電気化学セルの製造方法において、
作用極を形成する作用極形成工程を含み、
作用極形成工程は、
作用極構成材料を混合する混合工程と、
混合工程にて混合された作用極構成材料を、高分子樹脂の熱分解温度まで加熱する加熱工程と、を含む。
【0010】
これによれば、作用極構成材料に含まれる高分子樹脂を、炭素およびハロゲン元素によって構成する、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成するので、混合ガスに含まれる成分により高分子樹脂が分解されることを抑制できる。その結果、電気化学セルの電極性能を向上させることが可能となる。
【0011】
また、請求項6に記載の電気化学セルの製造方法は、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行う作用極(130)と、
作用極との間で電子の授受を行う対極(140)と、を備え、
対極の電極膜(142)を構成する対極構成材料は、高分子樹脂を含み、
高分子樹脂は、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている電気化学セルの製造方法において、
対極を形成する対極形成工程を含み、
対極形成工程は、
対極構成材料を混合する混合工程と、
混合工程にて混合された対極構成材料を圧縮する圧縮工程と、を含む。
【0012】
これによれば、対極構成材料に含まれる高分子樹脂を、炭素およびハロゲン元素によって構成する、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成するので、混合ガスに含まれる成分により高分子樹脂が分解されることを抑制できる。その結果、電気化学セルの電極性能を向上させることが可能となる。
【0013】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態における二酸化炭素回収システムの全体構成を示す概念図である。
図2】第1実施形態における二酸化炭素回収装置を示す説明図である。
図3】第1実施形態における電気化学セルを示す断面図である。
図4】作用極側バインダに含まれる高分子樹脂を示す図である。
図5】サイクル数と二酸化炭素吸着量に対する分解生成物量との関係を示す図である。
図6】比較例1におけるPVDFの酸化分解を説明するための説明図である。
図7】第1実施形態における作用極側電極膜の表面を示す図である。
図8】第1実施形態における作用極側電極膜の膜構造を示す図である。
図9】比較例2における作用極側電極膜の表面を示す図である。
図10】比較例2における作用極側電極膜の膜構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0016】
(第1実施形態)
本開示における第1実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態は、本開示における電気化学セルを、二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を分離して回収する二酸化炭素回収システムに適用している。したがって、本実施形態の被回収ガスは、二酸化炭素である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の二酸化炭素回収システム10は、圧縮機11、二酸化炭素回収装置100、流路切替弁12、二酸化炭素利用装置13、制御装置14が設けられている。
【0018】
圧縮機11は、二酸化炭素含有ガスを二酸化炭素回収装置100に圧送する。二酸化炭素含有ガスは、二酸化炭素と二酸化炭素以外のガスを含有する混合ガスであり、例えば大気を用いることができる。二酸化炭素含有ガスには、二酸化炭素以外のガスとして少なくとも酸素(O)が含まれている。
【0019】
二酸化炭素回収装置100は、二酸化炭素含有ガスから二酸化炭素を分離して回収する装置である。二酸化炭素回収装置100は、二酸化炭素含有ガスから二酸化炭素が回収された後の二酸化炭素除去ガス、あるいは二酸化炭素含有ガスから回収した二酸化炭素を排出する。二酸化炭素回収装置100の構成については、後で詳細に説明する。
【0020】
流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置100の排出ガスの流路を切り替える三方弁である。流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置100から二酸化炭素除去ガスが排出される場合は、排出ガスの流路を大気側に切り替え、二酸化炭素回収装置100から二酸化炭素が排出される場合は、排出ガスの流路を二酸化炭素利用装置13側に切り替える。
【0021】
二酸化炭素利用装置13は、二酸化炭素を利用する装置である。二酸化炭素利用装置13としては、例えば二酸化炭素を貯蔵する貯蔵タンクや二酸化炭素を燃料に変換する変換装置を用いることができる。変換装置は、二酸化炭素をメタン等の炭化水素燃料に変換する装置を用いることができる。炭化水素燃料は、常温常圧で気体の燃料であってもよく、常温常圧で液体の燃料であってもよい。
【0022】
制御装置14は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置14は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、各種制御対象機器の作動を制御する。本実施形態の制御装置14は、圧縮機11の作動制御、二酸化炭素回収装置100の作動制御、流路切替弁12の流路切替制御等を行う。
【0023】
図2に示すように、二酸化炭素回収装置100は、電気化学セル101が設けられている。電気化学セル101は、作用極130、対極140およびセパレータ150を有している。図2に示す例では、作用極130、対極140およびセパレータ150をそれぞれ板状に構成している。なお、図2では、作用極130、対極140およびセパレータ150を、それぞれ間隔を設けて図示しているが、実際はこれらの構成要素は接するように配置されている。
【0024】
電気化学セル101は、図示しない容器内に収容されるようにしてもよい。容器には、二酸化炭素含有ガスを容器内に流入させるガス流入口と、二酸化炭素除去ガスや二酸化炭素を容器内から流出させるガス流出口を設けることができる。
【0025】
二酸化炭素回収装置100は、電気化学反応によって二酸化炭素の吸着および脱離を行い、二酸化炭素含有ガスから二酸化炭素を分離して回収する。二酸化炭素回収装置100は、作用極130と対極140に所定の電圧を印加する制御電源120が設けられており、作用極130と対極140の電位差を変化させることができる。作用極130は負極であり、対極140は正極である。
【0026】
電気化学セル101は、作用極130と対極140の電位差を変化させることで、作用極130で二酸化炭素を回収する回収モードと、作用極130から二酸化炭素を放出する放出モードを切り替えて作動することができる。回収モードは電気化学セル101を充電する充電モードであり、放出モードは電気化学セル101を放電する放電モードである。
【0027】
回収モードでは、作用極130と対極140の間に第1電圧V1が印加され、対極140から作用極130に電子が供給される。第1電圧V1では、作用極電位<対極電位となっている。第1電圧V1は、例えば0.5~2.0Vの範囲内とすることができる。
【0028】
放出モードでは、作用極130と対極140の間に第1電圧V1より低い第2電圧V2が印加され、作用極130から対極140に電子が供給される。第2電圧V2は、第1電圧V1より低い電圧であればよく、作用極電位と対極電位の大小関係は限定されない。つまり、放出モードでは、作用極電位<対極電位でもよく、作用極電位=対極電位でもよく、作用極電位>対極電位でもよい。
【0029】
図3に示すように、電気化学セル101における作用極130は、作用極側集電材131及び作用極側電極膜132を有する。作用極側集電材131は、制御電源120に接続されるとともに、二酸化炭素含有ガスを通過させることができる多孔質状の導電性部材である。
【0030】
作用極側集電材131として、例えば炭素質材料や金属材料を用いることができる。作用極側集電材131を構成する炭素質材料として、例えばカーボン紙、炭素布、不織炭素マット、多孔質ガス拡散層(GDL)等を用いることができる。作用極側集電材131を構成する金属材料として、例えばAl、Ni、SUS等の金属をメッシュ状にした構造体を用いることができる。
【0031】
作用極側電極膜132は、二酸化炭素含有ガスから電気化学反応によって二酸化炭素の吸着と脱離を行う。作用極側電極膜132は、二酸化炭素吸着材、作用極側導電助剤および作用極側バインダを有する。作用極側バインダについては、後で詳細に説明する。
【0032】
二酸化炭素吸着材は、電子を受け取ることで二酸化炭素を吸着し、電子を放出することで吸着していた二酸化炭素を脱離する電気活性種(すなわち、活物質)である。二酸化炭素吸着材としては、例えば、カーボン材、金属酸化物、ポリアントラキノン等を用いることができる。
【0033】
作用極側導電助剤は、二酸化炭素吸着材への導電路を形成する導電物質である。作用極側導電助剤として、例えばカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン等の炭素材料を用いることができる。
【0034】
対極140は、対極側集電材141及び対極側電極膜142を有する。対極側集電材141は、制御電源120に接続される導電性部材である。対極側集電材141は、作用極側集電材131と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。
【0035】
対極側電極膜142は、作用極側電極膜132との間で電子の授受を行う。対極側電極膜は、対極側活物質、対極側導電助剤および対極側バインダを有する。対極側バインダについては、後で詳細に説明する。
【0036】
対極側活物質は、二酸化炭素吸着材との間で電子の授受を行う補助的な電気活性種である。対極側活物質は、金属の価数変化やπ電子雲への電荷出入によって電子を出し入れすることができる物質である。
【0037】
対極側活物質として、例えば金属イオンの価数が変化することで、電子の授受を可能とする金属錯体を用いることができる。このような金属錯体として、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、あるいはポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。
【0038】
本実施形態では、対極側活物質として、フェロセン骨格を持った化合物を用いる。具体的には、対極側活物質として、フェロセンが重合化したPVFc(ポリビニルフェロセン)を用いる。
【0039】
対極側導電助剤は、対極側活物質への導電路を形成する導電物質である。対極側導電助剤は、対極側活物質と混合して用いられる。対極側導電助剤は、作用極側導電助剤と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。対極側導電助剤は、例えば粒子状である。
【0040】
セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142との間に配置される。セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142とを分離する。すなわち、セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142との物理的な接触を防ぐ。また、セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142との電気的短絡を抑制する。
【0041】
セパレータ150として、セルロース膜やポリマー、ポリマーとセラミックの複合材料等からなるセパレータを用いることができる。セパレータ150として、多孔質体のセパレータを用いても良い。
【0042】
作用極側電極膜132とセパレータ150との間、および対極側電極膜142とセパレータ150との間には、イオン伝導性部材が設けられている。イオン伝導性部材は、二酸化炭素吸着材への導電を促進する。本実施形態では、イオン導電性部材として電解液が設けられている。より詳細には、電解液としてイオン液体が用いられている。イオン液体は、常温常圧下で不揮発性を有する液体の塩である。
【0043】
ここで、本実施形態における作用極側バインダおよび対極側バインダについて説明する。作用極側バインダおよび対極側バインダは、接着力を有する保持材料である。
【0044】
作用極側バインダは、二酸化炭素吸着材及び作用極側導電助剤を作用極側集電材131に保持する。具体的には、二酸化炭素吸着材、作用極側導電助剤、及び作用極側バインダの混合物が形成され、この混合物が作用極側集電材131に接着される。二酸化炭素吸着材及び作用極側導電助剤は、作用極側バインダの内部に保持された状態となっている。
【0045】
作用極側バインダは、高分子樹脂を含んでいる。高分子樹脂は、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている。すなわち、作用極側バインダは、水素元素(H)を含有しない高分子樹脂を含んでいる。
【0046】
図4は、本実施形態の作用極側バインダに含まれる高分子樹脂を例示している。高分子樹脂は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)の少なくともいずれかを含んでいる。
【0047】
対極側バインダは、対極側活物質及び対極側導電助剤を対極側集電材141に保持させることができ、かつ、導電性を有する材料である。対極側バインダは、作用極側バインダと同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。本実施形態では、対極側バインダとしてPVDFを用いている。
【0048】
次に、本実施形態の電気化学セル101の作用極130を形成する作用極形成工程について説明する。
【0049】
作用極形成工程では、まず、作用極側電極膜132を構成する材料である作用極構成材料を混合する作用極側混合工程を行う。作用極構成材料は、二酸化炭素吸着材、作用極側導電助剤、および作用極側バインダを含む。本実施形態では、二酸化炭素吸着剤として金属酸化物を用い、作用極側導電助剤としてカーボン材を用い、作用極側バインダとして高分子樹脂であるPTFEを用いている。
【0050】
本実施形態の作用極側混合工程では、作用極構成材料を、ホモジナイザー等を用いて分散、混合させた上で溶剤(すなわち、有機溶媒)に溶解させて、混合物を生成する。このとき、作用極側バインダであるPTFEは、円相当直径1μm以下のナノ粒子として分散、混合される。本実施形態では、溶剤として、NMP(N-メチルピロリドン)を用いている。
【0051】
続いて、混合された作用極構成材料をPTFEの熱分解温度まで加熱する加熱工程を行う。本実施形態の加熱工程では、混合された作用極構成材料を作用極側集電材131に塗布した後、350℃で焼成する。これにより、作用極側集電材131の表面に作用極側電極膜132が成膜される。こうして、作用極形成工程が終了する。
【0052】
ここで、本発明者らは、上記の作用極形成工程で得られた作用極130を含む電気化学セル101を用いた二酸化炭素の回収において、二酸化炭素吸着量に対する分解生成物量を調べた。具体的には、回収モードと放出モードとの組み合わせを1サイクルとして、各サイクルにおける二酸化炭素吸着量に対する分解生成物量を測定した。
【0053】
二酸化炭素吸着量に対する分解生成物量とは、1サイクル運転後において、吸着された二酸化炭素の量に対する回収された分解生成物の量である。分解生成物は、作用極130および対極140が分解されることにより生成された物質である。二酸化炭素吸着量に対する分解生成物量が小さい程、電気化学セル101の作用極130および対極140が分解され難いと言える。
【0054】
また、比較例1として、作用極側バインダおよび対極側バインダの双方にPVDFを用いた電気化学セル101を用意した。その結果を図5に示す。
【0055】
図5に示されるように、本実施形態の電気化学セル101を用いる場合、比較例1に対し、二酸化炭素吸着量に対する分解生成物量を平均で約27%低減できる。したがって、作用極側電極膜132の作用極側バインダとしてPTFEを用いることで、電気化学セル101の作用極130が分解され難くなる。
【0056】
一方、比較例1では、作用極側バインダおよび対極側バインダの双方にPVDFを用いているが、PVDF中のC-H結合の結合エネルギは、PTFE中のC-F結合の結合エネルギよりも低い。このため、図6に示すように、PVDFが大気中の酸素と反応し、PVDFに含まれるF元素とH元素がフッ化水素として脱離する。これにより、作用極側バインダおよび対極側バインダが分解されるので、電気化学セル101の作用極130および対極140が分解され易くなる。
【0057】
また、本発明者らは、上記の作用極形成工程で得られた作用極側電極膜132について、膜表面状態および膜構造を調べた。本実施形態では、作用極側混合工程において、作用極側バインダであるPTFEを、円相当直径1μm以下のナノ粒子として分散、混合させている。
【0058】
本実施形態では、図7に示すように、作用極側電極膜132が作用極側集電材131の表面全体を覆っており、作用極側集電材131の露出は確認されなかった。また、図8に示すように、作用極側電極膜132は、膜構造が均質に形成されていた。
【0059】
これに対し、比較例2として、作用極側混合工程において、作用極側バインダであるPTFEを、円相当直径5μmの粒子として分散、混合させた作用極側電極膜について、膜表面状態および膜構造を調べた。
【0060】
比較例2では、図9に示すように、作用極側電極膜132の隙間から作用極側集電材131が露出している部位があり、作用極側電極膜132が作用極側集電材131の表面全体を覆えていないことが確認された。また、図10に示すように、作用極側電極膜132において、PTFEの粗大粒子300が存在し、膜構造が均質に形成されていなかった。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の電気化学セル101では、作用極側電極膜132の作用極側バインダに含まれる高分子樹脂が、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている。これにより、大気に含まれる成分により、作用極側バインダが分解されることを抑制できる。このため、作用極側集電材131、二酸化炭素吸着材、作用極側導電助剤の間での電子の移動を確保することができる。また、二酸化炭素吸着材が作用極側集電材131から剥離し難くなり、電気化学セル101の吸着量が経時的に低下することを抑制できる。その結果、電気化学セル101の電極性能を向上させることが可能となる。
【0062】
具体的には、本実施形態では、作用極側バインダとしてPTFEを用いている。PTFE中のC-F結合は強固であり、酸化に対しても強い。このため、大気に含まれる酸素により、作用極側バインダであるPTFEが分解されることを抑制できる。
【0063】
ところで、本実施形態の電気化学セル101では、作用極側電極膜132とセパレータ150との間や対極側電極膜142とセパレータ150との間に、電解液としてのイオン液体が設けられている。本発明者らの検討によると、作用極側バインダとしてPVDFを用いると、電圧が印加された際にPVDFが膨潤することが明らかになった。そして、電気化学セル101に電圧の印加を繰り返すことによりPVDFの膨潤収縮が繰り返され、作用極側電極膜132の耐久性や導電性が低下する可能性があることがわかった。
【0064】
これに対し、本実施形態の作用極側バインダとして用いたPTFEは、電解液としてイオン液体が設けられていた場合でも、電圧印加により膨潤し難い。これにより、作用極側電極膜132の耐久性や導電性が低下することを抑制できる。
【0065】
ところで、PTFEは、溶剤に対する溶解性がほとんどないため、PTFEを作用極側バインダとして用いると、作用極側電極膜132の結着性が低下する可能性が考えられる。
【0066】
これに対し、本実施形態の作用極形成工程では、作用極側バインダであるPTFEを、円相当直径1μm以下のナノ粒子として分散、混合した後、作用極側電極膜132を成膜している。このように、作用極側バインダの高分子樹脂の平均円相当直径を1μm以下とすることで、作用極側電極膜132の結着性を大幅に向上させることが可能となる。
【0067】
(第2実施形態)
次に、本開示における第2実施形態について説明する。本第2実施形態は、上記第1実施形態と比較して、対極140の構成および製造方法が異なる。
【0068】
本実施形態の電気化学セル101では、対極側電極膜142の対極側バインダは、作用極側バインダと同様の高分子樹脂を含んでいる。すなわち、対極側バインダに含まれる高分子樹脂は、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている。すなわち、対極側バインダは、水素元素を含有しない高分子樹脂を含んでいる。当該高分子樹脂は、PTFE、FEP、PCTFE、PFAの少なくともいずれかを含んでいる。
【0069】
次に、本実施形態の電気化学セル101の対極140を形成する対極形成工程について説明する。
【0070】
対極形成工程では、まず、対極側電極膜142を構成する材料である対極構成材料を混合する対極側混合工程を行う。対極構成材料は、対極側活物質、対極側導電助剤、および対極側バインダを含む。本実施形態では、対極側活物質としてPVFcを用い、対極側導電助剤としてカーボンブラックを用い、対極側バインダとして高分子樹脂であるPTFEを用いている。
【0071】
本実施形態の対極側混合工程では、対極構成材料を、ホモジナイザー等を用いて分散、混合させた上で溶剤に溶解させて、混合物を生成する。このとき、対極極側バインダであるPTFEは、円相当直径1μm以下のナノ粒子として分散、混合される。本実施形態では、溶剤として、NMP(N-メチルピロリドン)を用いている。
【0072】
続いて、混合された対極構成材料を圧縮する圧縮工程を行う。本実施形態の圧縮工程では、混合された対極構成材料を、プレス成型により対極側集電材141に圧着させる。これにより、対極側集電材141の表面に対極側電極膜142が成膜される。こうして、対極形成工程が終了する。
【0073】
以上説明したように、本実施形態の電気化学セル101では、対極側電極膜142の対極側バインダに含まれる高分子樹脂が、炭素およびハロゲン元素によって構成されている、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成されている。これにより、大気に含まれる成分により、対極側バインダが分解されることを抑制できる。その結果、電気化学セル101の電極性能を向上させることが可能となる。
【0074】
ところで、本実施形態の電気化学セル101では、対極構成材料のうち、対極側活物質としてPVFcを用いている。PVFcは可燃性であるため、対極形成工程において高温焼成を行うことができない。
【0075】
これに対し、本実施形態の対極形成工程は、混合された対極構成材料を対極側集電材141に圧着させる圧縮工程を有している。これによれば、高温焼成を行うことなく、対極側集電材141の表面に対極側電極膜142を成膜することができる。
【0076】
(他の実施形態)
本開示は上述の実施形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0077】
(1)例えば、上述した実施形態では、作用極側バインダおよび対極側バインダの双方、または作用極側バインダ単体を、炭素およびハロゲン元素によって構成する、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成した例について説明したが、この態様に限定されない。例えば、対極側バインダ単体を、炭素およびハロゲン元素によって構成する、あるいは炭素、ハロゲン元素および酸素によって構成してもよい。
【0078】
(2)また、上述した実施形態では、作用極側バインダまたは対極側バインダとして、PTFEを用いた例について説明したが、この態様に限定されない。例えば、作用極側バインダまたは対極側バインダとして、PTFEとPVDFの共重合体等、PTFE以外の他の高分子樹脂を含む物質を用いてもよい。これにより、電極膜132、142における成膜性と耐久性の両立を図ることができる。
【符号の説明】
【0079】
130 作用極
132 作用極側電極膜(電極膜)
140 対極
142 対極側電極膜(電極膜)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10