(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085431
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ガラス回転体の製造装置、ガラス回転体の製造方法及び光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 19/10 20060101AFI20240620BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C03B19/10 E
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199853
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】堤 康
(72)【発明者】
【氏名】三上 修平
(57)【要約】
【課題】ガラス塊の落下を防止するとともにガラス回転体の成形安定性を向上させることができるガラス回転体の製造装置、ガラス回転体の製造方法及び光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の成形面を有する第1の成形部材と、第2の成形面を有する第2の成形部材と、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれたガラス塊を加熱軟化する加熱軟化部材と、前記第1の成形部材と前記第2の成形部材を回転駆動することで、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれた前記ガラス塊をガラス回転体に成形する回転駆動部材と、を有し、前記第1の成形面の第1の曲率半径及び前記第2の成形面の第2の曲率半径は、互いに異なる、ことを特徴とするガラス回転体の製造装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の成形面を有する第1の成形部材と、
第2の成形面を有する第2の成形部材と、
前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれたガラス塊を加熱軟化する加熱軟化部材と、
前記第1の成形部材と前記第2の成形部材を回転駆動することで、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれた前記ガラス塊をガラス回転体に成形する回転駆動部材と、
を有し、
前記第1の成形面の第1の曲率半径及び前記第2の成形面の第2の曲率半径は、互いに異なる、
ことを特徴とするガラス回転体の製造装置。
【請求項2】
前記第1の成形面の前記第1の曲率半径及び前記第2の成形面の前記第2の曲率半径は、前記ガラス回転体の半径を基準として設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載のガラス回転体の製造装置。
【請求項3】
前記第1の成形面の前記第1の曲率半径は、前記ガラス回転体の半径と同一又は略同一に設定され、
前記第2の成形面の前記第2の曲率半径は、前記第1の成形面の前記第1の曲率半径よりも大きく設定される、
ことを特徴とする請求項2に記載のガラス回転体の製造装置。
【請求項4】
前記第1の成形面の前記第1の曲率半径をR1[mm]、前記第2の成形面の前記第2の曲率半径をR2[mm]、前記ガラス回転体の半径をR[mm]と定義したとき、次の条件式(1)、(2)を満足する、
ことを特徴とする請求項2に記載のガラス回転体の製造装置。
(1)0.9R<R1<1.5R
(2)1.5R<R2<30.0R
【請求項5】
前記第1の成形部材は、第1の回転軸を中心として回転駆動される第1の回転筒状部と、前記第1の回転筒状部の外周面に前記第1の回転軸と交差する方向に延びるとともに前記第1の回転軸の方向に複数併設された前記第1の成形面と、を有し、
前記第2の成形部材は、第2の回転軸を中心として回転駆動される第2の回転筒状部と、前記第2の回転筒状部の外周面に前記第2の回転軸と交差する方向に延びるとともに前記第2の回転軸の方向に複数併設された前記第2の成形面と、を有し、
複数併設された前記第1の成形面と複数併設された前記第2の成形面の間に、複数の前記ガラス塊が挟まれる、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガラス回転体の製造装置。
【請求項6】
前記加熱軟化部材は、前記第1の成形部材に複数併設された前記第1の成形面及び前記第2の成形部材に複数併設された前記第2の成形面の間に挟まれた複数の前記ガラス塊を直接的に加熱するバーナから構成される、
ことを特徴とする請求項5に記載のガラス回転体の製造装置。
【請求項7】
前記バーナは、前記第1の成形部材及び前記第2の成形部材を直接的に加熱しない、
ことを特徴とする請求項6に記載のガラス回転体の製造装置。
【請求項8】
前記バーナは、前記第1の成形部材に複数併設された前記第1の成形面及び前記第2の成形部材に複数併設された前記第2の成形面の間に挟まれた複数の前記ガラス塊に臨んで、前記第1の回転軸及び前記第2の回転軸と平行に延びるように構成される、
ことを特徴とする請求項6に記載のガラス回転体の製造装置。
【請求項9】
第1の成形部材の第1の成形面と第2の成形部材の第2の成形面の間にガラス塊を挟む工程と、
前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれたガラス塊を加熱軟化する工程と、
前記第1の成形部材と前記第2の成形部材を回転駆動することで、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれた前記ガラス塊をガラス回転体に成形する工程と、
を有し、
前記第1の成形面の第1の曲率半径及び前記第2の成形面の第2の曲率半径は、互いに異なる、
ことを特徴とするガラス回転体の製造方法。
【請求項10】
第1の成形部材の第1の成形面と第2の成形部材の第2の成形面の間にガラス塊を挟む工程と、
前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれたガラス塊を加熱軟化する工程と、
前記第1の成形部材と前記第2の成形部材を回転駆動することで、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれた前記ガラス塊をガラス回転体に成形する工程と、
前記ガラス回転体にプレス成形又は研削・研磨の処理を施して光学素子とする工程と、
を有し、
前記第1の成形面の第1の曲率半径及び前記第2の成形面の第2の曲率半径は、互いに異なる、
ことを特徴とする光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス回転体の製造装置、ガラス回転体の製造方法及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガラス塊を挟むように対向配置された少なくとも2つの成形部材と、ガラス塊を加熱軟化する加熱手段と、少なくとも2つの成形部材を相対的に移動させて、加熱手段により加熱軟化されたガラス塊を転動させる駆動手段と、を備えたガラス回転体の製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のガラス回転体の製造装置は、ガラス塊を転動させてガラス回転体を成形する際に、ガラス塊が2つの成形部材から落下したり、ガラス回転体の成形安定性が低下したりするおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、ガラス塊の落下を防止するとともにガラス回転体の成形安定性を向上させることができるガラス回転体の製造装置、ガラス回転体の製造方法及び光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態のガラス回転体の製造装置は、第1の成形面を有する第1の成形部材と、第2の成形面を有する第2の成形部材と、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれたガラス塊を加熱軟化する加熱軟化部材と、前記第1の成形部材と前記第2の成形部材を回転駆動することで、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれた前記ガラス塊をガラス回転体に成形する回転駆動部材と、を有し、前記第1の成形面の第1の曲率半径及び前記第2の成形面の第2の曲率半径は、互いに異なる、ことを特徴とする。
【0007】
前記第1の成形面の前記第1の曲率半径及び前記第2の成形面の前記第2の曲率半径は、前記ガラス回転体の半径を基準として設定されてもよい。
【0008】
前記第1の成形面の前記第1の曲率半径は、前記ガラス回転体の半径と同一又は略同一に設定され、前記第2の成形面の前記第2の曲率半径は、前記第1の成形面の前記第1の曲率半径よりも大きく設定されてもよい。
【0009】
前記第1の成形面の前記第1の曲率半径をR1[mm]、前記第2の成形面の前記第2の曲率半径をR2[mm]、前記ガラス回転体の半径をR[mm]と定義したとき、次の条件式(1)、(2)を満足することが好ましい。
(1)0.9R<R1<1.5R
(2)1.5R<R2<30.0R
【0010】
条件式(1)、(2)を満足する範囲の中でも、次の条件式(1’)、(2’)を満足することが好ましい。
(1’)0.95R<R1<1.5R
(2’)1.5R<R2<10.0R
【0011】
条件式(1)、(2)を満足する範囲の中でも、次の条件式(1”)、(2”)を満足することがより好ましい。
(1”)0.95R<R1<1.25R
(2”)1.5R<R2<3.0R
【0012】
前記第1の成形部材は、第1の回転軸を中心として回転駆動される第1の回転筒状部と、前記第1の回転筒状部の外周面に前記第1の回転軸と交差する方向に延びるとともに前記第1の回転軸の方向に複数併設された前記第1の成形面と、を有し、前記第2の成形部材は、第2の回転軸を中心として回転駆動される第2の回転筒状部と、前記第2の回転筒状部の外周面に前記第2の回転軸と交差する方向に延びるとともに前記第2の回転軸の方向に複数併設された前記第2の成形面と、を有し、複数併設された前記第1の成形面と複数併設された前記第2の成形面の間に、複数の前記ガラス塊が挟まれてもよい。
【0013】
前記加熱軟化部材は、前記第1の成形部材に複数併設された前記第1の成形面及び前記第2の成形部材に複数併設された前記第2の成形面の間に挟まれた複数の前記ガラス塊を直接的に加熱するバーナから構成されてもよい。
【0014】
前記バーナは、前記第1の成形部材及び前記第2の成形部材を直接的に加熱しなくてもよい。
【0015】
前記バーナは、前記第1の成形部材に複数併設された前記第1の成形面及び前記第2の成形部材に複数併設された前記第2の成形面の間に挟まれた複数の前記ガラス塊に臨んで、前記第1の回転軸及び前記第2の回転軸と平行に延びるように構成されてもよい。
【0016】
本実施形態のガラス回転体の製造方法は、第1の成形部材の第1の成形面と第2の成形部材の第2の成形面の間にガラス塊を挟む工程と、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれたガラス塊を加熱軟化する工程と、前記第1の成形部材と前記第2の成形部材を回転駆動することで、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれた前記ガラス塊をガラス回転体に成形する工程と、を有し、前記第1の成形面の第1の曲率半径及び前記第2の成形面の第2の曲率半径は、互いに異なる、ことを特徴とする。
【0017】
本実施形態の光学素子の製造方法は、第1の成形部材の第1の成形面と第2の成形部材の第2の成形面の間にガラス塊を挟む工程と、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれたガラス塊を加熱軟化する工程と、前記第1の成形部材と前記第2の成形部材を回転駆動することで、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれた前記ガラス塊をガラス回転体に成形する工程と、前記ガラス回転体にプレス成形又は研削・研磨の処理を施して光学素子とする工程と、を有し、前記第1の成形面の第1の曲率半径及び前記第2の成形面の第2の曲率半径は、互いに異なる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガラス塊の落下を防止するとともにガラス回転体の成形安定性を向上させることができるガラス回転体の製造装置、ガラス回転体の製造方法及び光学素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態のガラス回転体の製造装置を示す第1の図である。
【
図2】本実施形態のガラス回転体の製造装置を示す第2の図である。
【
図3】本実施形態のガラス回転体の製造装置を示す第3の図である。
【
図4】本実施形態のガラス回転体の製造装置を示す第4の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1~
図4を参照して、本実施形態のガラス回転体の製造装置1(以下単に「製造装置」と呼ぶ場合がある)について詳細に説明する。
図1~
図4は、本実施形態のガラス回転体の製造装置1を示す第1~第4の図である。以下の説明では、
図1~
図4において互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の各方向を使用する。
【0021】
製造装置1では、光学ガラス製インゴットを分割して作製した複数のガラス塊(ガラス小片、カットピース)を使用する。複数のガラス塊は、例えば、立方体や円柱状等の任意の形状に設定することができる。製造装置1では、複数のガラス塊の各々を加熱軟化して回転させながら球状に成形することで、ガラス回転体を得る。具体的には、複数のローラ(曲面状の成形面)の間に複数のガラス塊を載せて加熱軟化しながら複数のローラを回転させることにより、ガラス塊を球状に成形して、ガラス回転体を得る。
【0022】
製造装置1では、ガラス塊を研削、研磨する方法と比較して、簡単にガラス回転体(ガラス球体)を作ることができる。また、研削、研磨によりガラス屑が発生することがないので、省力化、省資源化、低コスト化を図ることができる。さらに、成形したガラス回転体(ガラス球体)を加熱、モールドプレス成形することにより、小型の光学レンズなどの光学素子を生産することができる。あるいは、ガラス回転体(ガラス球体)の表面を研削、研磨すれば、ガラス回転体(ガラス球体)自体をボールレンズとして使用することができる。すなわち、成形したガラス回転体(ガラス球体)にプレス成形又は研削・研磨の処理を施すことで光学素子(例えば、光学レンズやボールレンズ等)を製造することができる。
【0023】
製造装置1は、第1の成形部材(第1の成形ローラ)10と、第2の成形部材(第2の成形ローラ)20とを有している。第1の成形部材10と第2の成形部材20とは、X軸方向に(最小クリアランスで)併設されるとともに、Y軸方向に平行に延びるように配置されている。
【0024】
第1の成形部材10は、Y軸方向に延びる第1の回転軸11を中心として回転駆動される第1の回転筒状部12を有している。第1の成形部材10は、第1の回転筒状部12の外周面に第1の回転軸11と交差する方向に延びるとともに、第1の回転軸11の方向に複数併設された第1の成形面13を有している。第1の成形面13は、所定の曲率半径(R)を持ってY軸方向に繋がっている。
【0025】
第2の成形部材20は、Y軸方向に延びる第2の回転軸21を中心として回転駆動される第2の回転筒状部22を有している。第2の成形部材20は、第2の回転筒状部22の外周面に第2の回転軸21と交差する方向に延びるとともに、第2の回転軸21の方向に複数併設された第2の成形面23を有している。第2の成形面23は、所定の曲率半径(R)を持ってY軸方向に繋がっている。
【0026】
第1の成形部材10と第2の成形部材20(第1の回転軸11と第2の回転軸21、第1の回転筒状部12と第2の回転筒状部22)は、Y軸方向に互いに平行に延びている。第1の成形部材10に複数併設された(Y軸方向に繋がった)第1の成形面13と、第2の成形部材20に複数併設された(Y軸方向に繋がった)第2の成形面23との間に、複数のガラス塊(ガラス小片、カットピース)G
preが挟まれる。
図3において、対向配置された第1の成形面13と第2の成形面23のうちY軸方向の上流側(図中の上側)に投入されたガラス塊G
preは、後述する加熱軟化部材(バーナ)30によって加熱軟化されるとともに、対向配置された第1の成形面13と第2の成形面23の間を転動しながらY軸方向の下流側(図中の下側)に移動していき、最終的に、ガラス回転体(ガラス球体)G
pоstが成形(製造)される。対向配置された第1の成形面13と第2の成形面23のうち、Y軸方向の上流側(図中の上側)から次々とガラス塊G
preを投入し、Y軸方向の下流側(図中の下側)に流していくことで、複数のガラス回転体G
pоstを同時に成形(製造)することができる。
【0027】
製造装置1は、第1の成形面13と第2の成形面23の間に挟まれたガラス塊Gpreを加熱軟化する加熱軟化部材(バーナ)30を有している。加熱軟化部材30は、第1の成形面13と第2の成形面23の対向面の上方(Z軸方向の上方)に位置してY軸方向に延びる本体部31と、本体部31から第1の成形面13と第2の成形面23の間に挟まれたガラス塊Gpreの直上に臨んでY軸方向に延びるノズル部32とを有している。このように、加熱軟化部材(バーナ)30は、第1の成形部材10に複数併設された(Y軸方向に繋がった)第1の成形面13と第2の成形部材20に複数併設された(Y軸方向に繋がった)第2の成形面23の間に挟まれた複数のガラス塊Gpreに臨んで、第1の回転軸11及び第2の回転軸21と平行なY軸方向に延びるように構成される。
【0028】
つまり、加熱軟化部材(バーナ)30は、第1の成形部材10に複数併設された(Y軸方向に繋がった)第1の成形面13と第2の成形部材20に複数併設された(Y軸方向に繋がった)第2の成形面23の間に挟まれた複数のガラス塊Gpreを直接的に加熱する一方で、第1の成形部材10と第2の成形部材20は直接的に加熱しない。
【0029】
ガラス回転体Gpоstを成形(製造)する際、第1の成形部材10と第2の成形部材20(第1の成形面13と第2の成形面23)の温度を上げすぎると、ガラス塊Gpreが第1の成形部材10と第2の成形部材20(第1の成形面13と第2の成形面23)に固着するおそれがある。このため、ガラス回転体Gpоstを成形(製造)する際、ガラス塊Gpreの温度を相対的に高くし、第1の成形部材10と第2の成形部材20(第1の成形面13と第2の成形面23)の温度を相対的に低くすることが好ましい(成形面の温度を上げすぎることなくガラス塊だけを転動成形に適した温度に加熱することが好ましい)。
【0030】
この点において、本実施形態によれば、第1の成形部材10(第1の成形面13)及び第2の成形部材20(第2の成形面23)を直接的に加熱せずに、これらの間に挟まれたガラス塊Gpreだけを直接的に加熱するので、ガラス塊Gpreが第1の成形部材10と第2の成形部材20(第1の成形面13と第2の成形面23)に固着するのを防止することができる。なお、上述した特許文献1を含む従来のガラス回転体の製造装置では、加熱炉においてガラス塊と成形部材を一体的に加熱するため、ガラス塊と成形部材の固着の問題を回避しきれない。
【0031】
加熱軟化部材(バーナ)30は、ガラス塊Gpreが液状となる前の温度に加熱軟化する。ガラス塊Gpreが液状になるまで加熱すると、第1の成形部材10と第2の成形部材20(第1の成形面13と第2の成形面23)においてガラス塊Gpreを転動させてガラス回転体Gpоstを成形(製造)することが困難となってしまう。
【0032】
一例として、加熱軟化部材(バーナ)30によるガラス塊Gpreの加熱は、その粘度が105~1015ポイズとなるような液状となる前の温度に加熱することが望ましい。粘度が105ポイズは、ガラスの流動点(105ポイズ)を基準として定めたものであり、粘度が1015ポイズは、ガラスの転移点(1013~1015ポイズ)を基準として定めたものである。このように、ガラス塊Gpreをガラスの流動点からガラスの転移点の範囲の粘度で成形することが望ましい。なお、ガラスの粘度が105ポイズというのは、溶融状態のガラスの粘度101~103ポイズよりは高い粘度であるため、ガラスの溶融状態とは明確に区別される。
【0033】
また、一例として、加熱軟化部材(バーナ)30は、炎の温度が1200℃程度であり、ガラス塊Gpreを容易に高温状態に加熱することができる。燃焼ガス(例えば都市ガス(LNG)、プロパンガス(LPG)など)と、空気、酸素の混合ガスを燃焼させたり、酸水素バーナなどを使用したりすることができる。ただし、ガラス成分としてTi、Nb、Wなどの遷移金属成分を含むガラスをバーナで加熱する場合、ガラス中の遷移金属成分が還元してガラスの着色が生じることがある。そうした場合、ガラス塊をガラス回転体に成形した後、あるいはガラス回転体から光学素子を作製した後、大気のような酸化雰囲気中でガラスをアニールして着色を除去(脱色)することができる。その他の加熱手段としては、例えばハロゲンヒーターなどの赤外線ヒータを使用することができる。
【0034】
製造装置1は、第1の成形部材10と第2の成形部材20を回転駆動することで、第1の成形面13と第2の成形面23の間に挟まれたガラス塊Gpreをガラス回転体Gpоstに成形(製造)する回転駆動部材40を有している。回転駆動部材40の構成には自由度があり、種々の設計変更が可能であるが、一例について説明する。第1の成形部材10の第1の回転筒状部12の中心孔部には、第1の回転軸11に相当する第1の回転シャフト(図示略)が設けられており、第2の成形部材20の第2の回転筒状部22の中心孔部には、第2の回転軸21に相当する第2の回転シャフト(図示略)が設けられており、さらに、これら第1、第2の回転シャフトを回転駆動するモータ駆動機構(図示略)が設けられている。第1、第2の回転シャフト及びモータ駆動機構が「回転駆動部材40」を構成することができる。
【0035】
図1、
図2に示すように、回転駆動部材40は、第1の成形部材10と第2の成形部材20を同一方向(図中の時計回り方向)に回転駆動する。回転駆動部材40による第1の成形部材10と第2の成形部材20の回転駆動速度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
ところで、上述した特許文献1のガラス回転体の製造装置は、ガラス塊を転動させてガラス回転体を成形する際に、ガラス塊が2つの成形部材から落下したり、ガラス回転体の成形安定性が低下したりするおそれがある。より具体的に、ガラス塊を挟む2つの成形部材の成形面が同一の形状(同一の曲率半径、同一の直径又は半径)を有しているために、ガラス塊が2つの成形部材の成形面から落下したり、ガラス塊が2つの成形部材の成形面の間に引き込まれて成形できなくなったりするおそれがある。
【0037】
そこで、本実施形態では、第1の成形面13と第2の成形面23の形状を互いに異ならせる、より具体的に第1の成形面13の第1の曲率半径と第2の成形面23の第2の曲率半径を互いに異ならせることで、ガラス塊Gpreの落下を防止するとともにガラス回転体Gpоstの成形安定性を向上させることに成功している。
【0038】
第1の成形面13の第1の曲率半径と第2の成形面23の第2の曲率半径は、ガラス回転体Gpоstの半径を基準として設定される。より具体的に、第1の成形面13の第1の曲率半径は、ガラス回転体Gpоstの半径と同一又は略同一に設定され、第2の成形面23の第2の曲率半径は、第1の成形面13の第1の曲率半径よりも大きく設定されることが好ましい。
【0039】
ガラス回転体G
pоstの半径と同一又は略同一の第1の曲率半径を持つ第1の成形面13は、ガラス塊G
preを転動させてガラス回転体G
pоstを成形(製造)するのに際して、ガラス回転体G
pоstを目標形状(目標半径)に整える機能を担う。これに対して、第1の成形面13の第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を持つ第2の成形面23は、第1の成形面13と協働して、対向配置された第1の成形面13と第2の成形面23との間にガラス塊G
preを挟んだ状態で、Y軸方向の上流側(
図3中の上側)からY軸方向の下流側(
図3中の下側)にガラス塊G
preをスムーズに流すのを助長(促進)する機能を担う。
【0040】
なお、従来技術において、ガラス塊を挟む2つの成形部材の成形面が同一の形状(同一の曲率半径)を有していることを想定した場合、2つの成形面の曲率半径が大きすぎると、ガラス塊が2つの成形面の側方(横部)から落下することが懸念される。一方、2つの成形面の曲率半径が小さすぎると、ガラス塊が2つの成形面の間に収まりきらずに落下することが懸念される。さらに、2つの成形面の曲率半径がガラス回転体の目標半径に近い値だとしても、ガラス塊が2つの成形面の間に引き込まれすぎる結果、2つの成形面の間にガラス塊を挟んだ状態で上流側から下流側にスムーズに流すことが困難になってしまう。
【0041】
第1の成形面13の第1の曲率半径をR1[mm]、第2の成形面23の第2の曲率半径をR2[mm]、ガラス回転体Gpоstの半径をR[mm]と定義したとき、次の条件式(1)、(2)を満足することが好ましい。
(1)0.9R<R1<1.5R
(2)1.5R<R2<30.0R
【0042】
条件式(1)、(2)を満足する範囲の中でも、次の条件式(1’)、(2’)を満足することが好ましい。
(1’)0.95R<R1<1.5R
(2’)1.5R<R2<10.0R
【0043】
条件式(1)、(2)を満足する範囲の中でも、次の条件式(1”)、(2”)を満足することがより好ましい。
(1”)0.95R<R1<1.25R
(2”)1.5R<R2<3.0R
【0044】
条件式(1)を満足することで、ガラス塊Gpreを転動させてガラス回転体Gpоstを成形(製造)するのに際して、ガラス回転体Gpоstを目標形状(目標半径)に整えることができる。また、ガラス塊Gpreの落下を防止することができる。この作用効果は、条件式(1’)、さらには条件式(1”)を満足することでより顕著に得ることができる。条件式(1)の上限を上回っても下限を下回っても、ガラス回転体Gpоstを目標形状(目標半径)に整えることが難しくなったり、ガラス塊Gpreが落下したりするおそれがある。
【0045】
条件式(2)を満足することで、対向配置された第1の成形面13と第2の成形面23との間にガラス塊G
preを挟んだ状態で、Y軸方向の上流側(
図3中の上側)からY軸方向の下流側(
図3中の下側)にガラス塊G
preをスムーズに流すのを助長(促進)することができる。また、ガラス塊G
preの落下を防止することができる。この作用効果は、条件式(2’)、さらには条件式(2”)を満足することでより顕著に得ることができる。条件式(2)の上限を上回っても下限を下回っても、ガラス塊G
preをスムーズに流すことが難しくなったり、ガラス塊G
preが落下したりするおそれがある。
【0046】
さらに、ガラス塊Gpreの落下を防止するとともにガラス回転体Gpоstの成形安定性を向上させるという作用効果を得るためには、第1の成形面13と第2の成形面23のR面の深さ(範囲)も重要なファクターの1つとなる。例えば、第1の成形面13は、第1の曲率半径に基づく仮想円に対して90°以上かつ180°以下、より好ましくは100°以上かつ180°以下、より好ましくは110°以上かつ180°以下の深さ(範囲)を占めることが好ましい。また、第2の成形面23は、第1の成形面13上のガラス塊Gpreを覆う程度の深さ(範囲)を占めることが好ましい。さらに、第1の成形面13と第2の成形面23のR面の断面形状は円弧になるが、円弧(成形面、R面)の両端から垂直に立ち上がる壁状部があっても、当該壁状部がガラス回転体Gpоstの成形を妨げない高さであれば問題ない。一例として、壁状部の高さは、2mm以下、より好ましくは1mm以下とすることができる。
【0047】
回転駆動部材40による第1の成形部材10と第2の成形部材20の回転駆動速度を異ならせる場合、曲率半径が小さい第1の成形面13を持つ第1の成形部材10の回転駆動速度を、曲率半径が大きい第2の成形面23を持つ第2の成形部材20の回転駆動速度より遅くすることが好ましい。これにより、第1の成形部材10(第1の成形面13)の回転駆動に引きずられてガラス塊Gpreが上に持ち上げられるのを防止する結果、安定したポジションでガラス回転体Gpоstを成形することが可能になる。この効果は、ガラス回転体Gpоstの直径が所定値未満の場合、例えば、直径が10mm未満のガラス回転体Gpоstの成形において特に顕著に得ることができる。
【0048】
回転駆動部材40による第1の成形部材10と第2の成形部材20の回転駆動方向は、
図1、
図2に矢印で描いた時計回り方向であることが好ましい。つまり、ガラス塊G
preを挟んだ、曲率半径が小さい第1の成形面13を持つ第1の成形部材10と曲率半径が大きい第2の成形面23を持つ第2の成形部材20を規定したとき、第1の成形部材10が第2の成形部材20からガラス塊G
preを持ち上げる(離す)方向に回転するとともに、第2の成形部材20が第1の成形部材10にガラス塊G
preを持ち下げる(押し付ける)方向に回転し、両者の回転駆動方向が同じ方向であることが好ましい。これに上述した回転駆動部材40による第1の成形部材10と第2の成形部材20の回転駆動の違い(第1の成形部材10の回転駆動速度<第2の成形部材20の回転駆動速度)が相まって、第1の成形部材10(第1の成形面13)の回転駆動に引きずられてガラス塊G
preが上に持ち上げられるのを防止する結果、安定したポジションでガラス回転体G
pоstを成形することができる効果をより顕著に得ることができる。
【0049】
以上のように、本実施形態のガラス回転体の製造装置は、第1の成形面を有する第1の成形部材と、第2の成形面を有する第2の成形部材と、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれたガラス塊を加熱軟化する加熱軟化部材と、前記第1の成形部材と前記第2の成形部材を回転駆動することで、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれた前記ガラス塊をガラス回転体に成形する回転駆動部材と、を有し、前記第1の成形面の第1の曲率半径及び前記第2の成形面の第2の曲率半径は、互いに異なる。これにより、ガラス塊の落下を防止するとともにガラス回転体の成形安定性を向上させることができる。
【0050】
以上、本開示に係る発明について詳細に説明したが、当業者にとっては、本開示に係る発明が本開示中に説明した実施形態に限定されないということは明らかである。本開示に係る発明は、特許請求の範囲の記載に基づいて定まる発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。したがって、本開示の記載は、例示説明を目的とし、本開示に係る発明に対して何ら制限的な意味をもたらさない。
【0051】
本実施形態のガラス回転体の製造方法は、第1の成形部材の第1の成形面と第2の成形部材の第2の成形面の間にガラス塊を挟む工程と、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれたガラス塊を加熱軟化する工程と、前記第1の成形部材と前記第2の成形部材を回転駆動することで、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれた前記ガラス塊をガラス回転体に成形する工程と、を有し、前記第1の成形面の第1の曲率半径及び前記第2の成形面の第2の曲率半径は、互いに異なる、ことを特徴とする。
【0052】
ガラス回転体の製造方法の第1の実施例として、屈折率ndが1.8061、アッベ数νdが40.73、ガラス転移温度が567℃、屈伏点が604℃の光学ガラスからなるストリップ材を公知の方法で作製し、これを賽の目状に切断して多数の略立方体形状のガラス塊を作製した。これらのガラス塊を上述した本実施形態のガラス回転体の製造装置を用いてガラス回転体(ガラス球)に成形した。ガラス回転体(ガラス球)の直径は2~5mmの範囲で調整した。なお、得られたガラス回転体(ガラス球)の真球度は0.05mm~0.2mm程度である。
【0053】
ガラス回転体の製造方法の第2の実施例として、屈折率ndが2.00069、アッベ数νdが25.46、ガラス転移温度が688℃、屈伏点が736℃の光学ガラスからなるストリップ材を公知の方法で作製し、これを賽の目状に切断して多数の略立方体形状のガラス塊を作製した。これらのガラス塊を上述した本実施形態のガラス回転体の製造装置を用いてガラス回転体(ガラス球)に成形した。ガラス回転体(ガラス球)の直径は2~10mmの範囲で調整した。なお、得られたガラス回転体(ガラス球)の真球度は0.05mm~0.3mm程度である。
【0054】
本実施形態の光学素子の製造方法は、第1の成形部材の第1の成形面と第2の成形部材の第2の成形面の間にガラス塊を挟む工程と、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれたガラス塊を加熱軟化する工程と、前記第1の成形部材と前記第2の成形部材を回転駆動することで、前記第1の成形面と前記第2の成形面の間に挟まれた前記ガラス塊をガラス回転体に成形する工程と、前記ガラス回転体にプレス成形又は研削・研磨の処理を施して光学素子とする工程と、を有し、前記第1の成形面の第1の曲率半径及び前記第2の成形面の第2の曲率半径は、互いに異なる、ことを特徴とする。
【0055】
光学素子の製造方法の第1の実施例として、上述したガラス回転体の製造方法の第1、第2の実施例で製造したガラス回転体(ガラス球)を公知の方法で研削、研磨して平滑な表面を有するガラス製ボールレンズを作製した。レンズ表面には必要に応じて反射防止膜などのコートを形成することもできる。
【0056】
光学素子の製造方法の第2の実施例として、上述したガラス回転体の製造方法の第1、第2の実施例で製造したガラス回転体(ガラス球)を公知の方法で精密プレス成形して非球面レンズを作製した。レンズ表面には必要に応じて反射防止膜などのコートを形成することもできる。
【符号の説明】
【0057】
1 ガラス回転体の製造装置
10 第1の成形部材(第1の成形ローラ)
11 第1の回転軸
12 第1の回転筒状部
13 第1の成形面
20 第2の成形部材(第2の成形ローラ)
21 第2の回転軸
22 第2の回転筒状部
23 第2の成形面
30 加熱軟化部材(バーナ)
31 本体部
32 ノズル部
40 回転駆動部材
Gpre ガラス塊(ガラス小片、カットピース)
Gpоst ガラス回転体(ガラス球体)