(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008545
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】プレス成形品、プレス成形品の接合構造及びシートフレーム
(51)【国際特許分類】
B60N 2/68 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
B60N2/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110501
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】薦口 司
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DB02
(57)【要約】
【課題】円弧状の断面を有する曲面状部のスプリングバックを抑える。
【解決手段】シートバックフレーム12のサイドフレーム18は、プレス成形品である。このサイドフレーム18は、円弧状の断面を有する曲面状部20と、曲面状部20の一部が曲面状部20の径方向外側へ膨出して形成され、曲面状部20の周方向に沿って延在する周方向ビード部22、24、26と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形品であって、
円弧状の断面を有する曲面状部と、
前記曲面状部の一部が前記曲面状部の径方向外側へ膨出して形成され、前記曲面状部の周方向に沿って延在する周方向ビード部と、
を有するプレス成形品。
【請求項2】
前記曲面状部の軸線方向に互いに間隔をあけて並ぶ複数の前記周方向ビード部と、
前記曲面状部において隣り合う前記周方向ビード部の間に設けられ、前記曲面状部の一部が前記曲面状部の径方向外側へ膨出して形成され、前記曲面状部の軸線方向に沿って延在する軸線方向ビード部と、
を有する請求項1に記載のプレス成形品。
【請求項3】
円筒面を有する接合相手部材と、
前記曲面状部の軸線方向に互いに間隔をあけて並ぶ複数の前記周方向ビード部を有し、前記曲面状部が前記円筒面の外側に同軸状に配置され、前記曲面状部における前記複数の周方向ビード部の間の部位が前記円筒面に接合された請求項1又は請求項2に記載のプレス成形品と、
を備えたプレス成形品の接合構造。
【請求項4】
シートバックフレームの上部を構成するアッパフレームと、
前記シートバックフレームの側部を構成するサイドフレームと、
を備え、
前記接合相手部材である前記アッパフレームと、前記プレス成形品である前記サイドフレームとが請求項3に記載のプレス成形品の接合構造によって接合されたシートフレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形品及びその接合構造と、その接合構造が適用されたシートフレームとに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ダイとパンチの相対的な直進移動によって金属板を成形するプレス成形方法が開示されている。このプレス成形方法では、伸びフランジ成形部位となる部分に複数のエンボスを配置した金属板の中間品を成形し、該中間品をプレス成形する際に、プレス末期工程のプレス下死点前でこれらエンボスをエンボス潰しパンチで潰し、伸びフランジ成形部位に圧縮応力を与える。また、プレス末期工程のプレス下死点前で縮みフランジ成形部位となる部分に余肉ビード形成パンチで複数の余肉ビードを形成し、縮みフランジ成形部位に引張応力を与えて、プレス成形品の残留応力を平準化する。これにより、スプリングバックによる角度変化や稜線そり(面そり)やねじれなどの3次元的な形状不良を生じさせることなくプレス成形品を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術は、平板状のフランジ成形部位を備えたプレス成形品の寸法精度を向上させるものであり、円弧状の断面を有する曲面状部を備えたプレス成形品の寸法精度を向上させることについては考慮されていない。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、円弧状の断面を有する曲面状部のスプリングバックを抑えることができるプレス成形品、プレス成形品の接合構造及びシートフレームを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様のプレス成形品は、円弧状の断面を有する曲面状部と、前記曲面状部の一部が前記曲面状部の径方向外側へ膨出して形成され、前記曲面状部の周方向に沿って延在する周方向ビード部と、を有している。
【0007】
第1の態様のプレス成形品では、円弧状の断面を有する曲面状部の一部が曲面状部の径方向外側へ膨出して周方向ビード部が形成されている。周方向ビード部は、曲面状部の周方向に沿って延在している。この周方向ビード部によって曲面状部のスプリングバックを抑えることができる。
【0008】
第2の態様のプレス成形品は、第1の態様において、前記曲面状部の軸線方向に互いに間隔をあけて並ぶ複数の前記周方向ビード部と、前記曲面状部において隣り合う前記周方向ビード部の間に設けられ、前記曲面状部の一部が前記曲面状部の径方向外側へ膨出して形成され、前記曲面状部の軸線方向に沿って延在する軸線方向ビード部と、を有している。
【0009】
第2の態様のプレス成形品では、曲面状部において隣り合う周方向ビード部の間に軸線方向ビード部が設けられている。軸線方向ビード部は、曲面状部の一部が曲面状部の径方向外側へ膨出して形成されたものであり、曲面状部の軸線方向に沿って延在している。これにより、曲面状部において隣り合う周方向ビード部の間の部位がスプリングバックによって上記径方向外側へ膨らむことを抑制できる。
【0010】
第3の態様のプレス成形品の接合構造は、円筒面を有する接合相手部材と、前記曲面状部の軸線方向に互いに間隔をあけて並ぶ複数の前記周方向ビード部を有し、前記曲面状部が前記円筒面の外側に同軸状に配置され、前記曲面状部における前記複数の周方向ビード部の間の部位が前記円筒面に接合された請求項1又は請求項2に記載のプレス成形品と、を備えている。
【0011】
第3の態様のプレス成形品の接合構造では、接合相手部材が有する円筒面の外側にプレス成形品の曲面状部が同軸状に配置されている。この曲面状部には、その軸線方向に互いに間隔をあけて並ぶ複数の周方向ビード部が形成されている。そして、この曲面状部における複数の周方向ビード部の間の部位が円筒面に接合されている。このプレス成形品は、第1の態様又は第2の態様のものであるため、曲面状部のスプリングバックを抑えることができる。その結果、曲面状部を円筒面に接合するための曲面状部の寸法精度の確保が容易になる。
【0012】
第4の態様のシートフレームは、シートバックフレームの上部を構成するアッパフレームと、前記シートバックフレームの側部を構成するサイドフレームと、を備え、前記接合相手部材である前記アッパフレームと、前記プレス成形品である前記サイドフレームとが請求項3に記載のプレス成形品の接合構造によって接合されたシートフレーム。
【0013】
第4の態様のシートフレームでは、シートバックフレームの上部を構成する接合相手部材であるアッパフレームと、シートバックフレームの側部を構成するプレス成形品であるサイドフレームとが、第3の態様のプレス成形品の接合構造によって接合されている。よって、第3の態様と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明に係るプレス成形品、プレス成形品の接合構造及びシートフレームでは、円弧状の断面を有する曲面状部のスプリングバックを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係るシートフレームの一部を示す側面図である。
【
図2】
図1のA-A線に沿った切断面を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図1のB-B線に沿った切断面を拡大して示す断面図である。
【
図4】比較例に係るシートフレームの一部を示す側面図である。
【
図5】
図4のC-C線に沿った切断面を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図4のD-D線に沿った切断面を拡大して示す断面図である。
【
図7】実施形態の変形例を示す
図2に対応した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1~
図7を参照して本発明の一実施形態に係るシートフレーム10について説明する。なお、
図1に示される矢印FR及びUPは、シートフレーム10の前方及び上方をそれぞれ示している。以下、単に前後左右上下の方向を用いて説明する場合、シートフレーム10に対する方向を示すものとする。
【0017】
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係るシートフレーム10は、車両用シートのシートバックの骨格を構成するシートバックフレーム12と、同車両用シートのシートクッションの骨格を構成する図示しないシートクッションフレームとを備えている。シートバックフレーム12は、シートバックフレーム12の上部を構成するアッパフレーム14と、シートバックフレーム12の左右の側部を構成する左右のサイドフレーム18(右側のサイドフレーム18は図示省略)とを備えている。アッパフレーム14と左右のサイドフレーム18とは、本発明の一実施形態に係るプレス成形品の接合構造が適用されて接合されている。
【0018】
アッパフレーム14は、本発明における「接合相手部材」に相当するものであり、円筒状の円筒面を有している。このアッパフレーム14は、金属製のパイプ材が曲げ加工されて製造されたものであり、前後方向視で逆U字状をなしている。アッパフレーム14の左右のサイド部16(右側のサイド部16は図示省略)は、下方側へ向けて延びている。
【0019】
左右のサイドフレーム18はそれぞれ、本発明における「プレス成形品」に相当する。これらのサイドフレーム18は、金属製の板材がプレス成形されて製造されたものであり、左右方向を板厚方向とし且つ上下方向を長手方向とする長尺板状をなしている。左右のサイドフレーム18の材料である金属板は、ここでは高張力鋼板とされており、従来のサイドフレームの材料よりも薄板化しつつ、剛性の確保と軽量化が図られている。
【0020】
左右のサイドフレーム18の上部には、半円筒状の曲面状部20が形成されている。
図2に示されるように、各曲面状部20は、上下方向から見て円弧状(略C字状)の断面を有しており、左右方向の内側が開放されている。各曲面状部20の内側には、アッパフレーム14の左右のサイド部16の下部が同軸状に挿入されている。各曲面状部20は、左右のサイド部16の外周面(円筒面)の外側に同軸状に配置されている。
【0021】
各曲面状部20には、複数(ここでは3つ)の周方向ビード部22、24、26と、複数(ここでは3つ)の軸線方向ビード部28、30、32とが形成されている。
図1及び
図3に示されるように、周方向ビード部22、24、26はそれぞれ、曲面状部20の複数個所(ここでは3個所)が曲面状部20の径方向外側へ膨出して形成されたものであり、曲面状部20の周方向から見て円弧状の断面を有している。これらの周方向ビード部22、24、26は、曲面状部20の周方向に沿ってそれぞれ延在しており、曲面状部20の軸線方向に互いに間隔をあけて並んでいる。周方向ビード部22は、曲面状部20の上端部に形成されており、周方向ビード部24は、曲面状部20の上下方向中央部に形成されており、周方向ビード部26は、曲面状部20の下端部に形成されている。
【0022】
軸線方向ビード部28、30、32は、隣り合う周方向ビード部22、24の間で曲面状部20に形成されている。
図2に示されるように、軸線方向ビード部28は、曲面状部20の周方向一端部に形成されており、軸線方向ビード部30は、曲面状部20の周方向中央部に形成されており、軸線方向ビード部32は、曲面状部20の周方向他端部に形成されている。これらの軸線方向ビード部28、30、32は、曲面状部20の一部(複数個所)が曲面状部20の径方向外側へ膨出して形成されたものであり、曲面状部20の軸線方向に沿って延在している。軸線方向ビード部30は、曲面状部20の軸線方向から見て円弧状の断面を有している。軸線方向ビード部28、32は、曲面状部20の軸線方向から見て、軸線方向ビード部30を曲面状部20の周方向に半分にしたような形状をなしている。
【0023】
曲面状部20は、周方向ビード部22、24の間に設けられた2つ接合部34、36と、周方向ビード部24、26の間に設けられた2つの接合部38、40とにおいて、アッパフレーム14のサイド部16の外周面(円筒面)に接合されている。これらの接合部34、36、38、40の接合方法は、レーザ溶接とされているが、これに限るものではない。アーク溶接、スポット溶接、接着剤による接合、摩擦攪拌接合、かしめ接合等であってもよい。また、接合部34、36、38、40の数は、上記に限らず、適宜変更可能である。
【0024】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0025】
本実施形態では、シートバックフレーム12の上部を構成するアッパフレーム14が金属製のパイプ材によって構成されており、シートバックフレーム12の側部を構成するサイドフレーム18が金属製のプレス成形品によって構成されている。サイドフレーム18の上部には、円弧状の断面を有する曲面状部20が形成されている。曲面状部20は、アッパフレーム14のサイド部16の外周面(円筒面)の外側に同軸状に配置されている。曲面状部20には、複数の周方向ビード部22、24、26が形成されている。周方向ビード部22、24、26は、曲面状部20の複数個所(ここでは3個所)が曲面状部20の径方向外側へ膨出して形成されたものである。これらの周方向ビード部22、24、26は、曲面状部20の周方向に沿ってそれぞれ延在しており、曲面状部20の軸線方向に互いに間隔をあけて並んでいる。そして、曲面状部20における周方向ビード部22、24、26の間の部位が接合部34、36、38、40においてサイド部16の外周面に接合されている。この実施形態では、上記の周方向ビード部22、24、26によって曲面状部20のスプリングバックを抑えることができる。その結果、曲面状部20を円筒面に接合するための曲面状部20の寸法精度の確保が容易になる。
【0026】
また、この実施形態では、曲面状部20において隣り合う周方向ビード部22、24の間に軸線方向ビード部28、30、32が設けられている。これらの軸線方向ビード部28、30、32は、曲面状部20の複数個所(ここでは3個所)が曲面状部20の径方向外側へ膨出して形成されたものであり、曲面状部20の軸線方向に沿って延在している。これにより、曲面状部20において隣り合う周方向ビード部22、24の間の部位がスプリングバックによって上記径方向外側へ膨らむこと(
図3の二点鎖線参照)を抑制できる。
【0027】
上記の効果について
図4~
図6に示される比較例100を用いて補足説明する。この比較例100では、サイドフレーム18の曲面状部20に周方向ビード部22、24、26及び軸線方向ビード部28、30、32が形成されていない。この比較例100では、上記以外の構成は本実施形態と同様とされており、サイドフレーム18が高張力鋼板によって構成されている。このため、比較例100においてもサイドフレーム18を薄板化しつつ、剛性の確保と軽量化を図ることができる。しかしながら、高張力鋼板は硬く、プレス成形時のスプリングバックが大きいため、曲面状部20をサイド部16に接合するための曲面状部20の寸法精度の確保が困難になる。その結果、曲面状部20とサイド部16との間に隙間が生じてしまい、曲面状部20とサイド部16との接合が困難になる。特にサイドフレーム18を薄板化し、アッパフレーム14と溶接する場合、溶接時の入熱によるサイドフレーム18の溶け落ちを防止する必要が生じる。このため、アーク溶接より入熱の低いレーザ溶接を採用すると、アーク溶接よりもギャップ裕度が低くなるため、曲面状部20とサイド部16とのレーザ溶接が困難になる。
【0028】
この点、本実施形態では、3つの周方向ビード部22、24、26によって曲面状部20のスプリングバックが抑制され、曲面状部20の寸法精度の確保が容易になるため、曲面状部20とサイド部16とのレーザ溶接が容易になる。しかも、本実施形態では、3つの軸線方向ビード部28、30、32によって曲面状部20における周方向ビード部22、24の間の部位がスプリングバックによって上記径方向外側へ膨らむことを抑制できる。これによっても、曲面状部20とサイド部16とのレーザ溶接が容易になる。
【0029】
なお、上記実施形態では、曲面状部20に3つの周方向ビード部22、24、26と3つの軸線方向ビード部28、30、32とが形成された構成にしたが、これに限らず、周方向ビード部および軸線方向ビード部の数は適宜変更可能である。また、曲面状部に軸線方向ビード部が形成されない構成にしてもよい。
【0030】
また、上記実施形態では、軸線方向ビード部28、32が、軸線方向ビード部30を半分にしたような形状をなした構成にしたが、これに限るものではない。例えば
図7に示されるように、軸線方向ビード部28、32が略円筒状(C字状)にカールした構成にしてもよい。軸線方向ビード部28、32のカール形状は、0度より大きく360より小さい範囲で設定することができる。
【0031】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0032】
10 シートフレーム
12 シートバックフレーム
14 アッパフレーム(接合相手部材)
18 サイドフレーム(プレス成形品)
20 曲面状部
22、24、26 周方向ビード部
28、30、32 軸線方向ビード部