(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085455
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
B62J 35/00 20060101AFI20240620BHJP
B62K 11/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B62J35/00 C
B62K11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199914
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】尾関 久志
【テーマコード(参考)】
3D011
【Fターム(参考)】
3D011AF04
3D011AF07
3D011AK02
3D011AL21
3D011AL37
(57)【要約】
【課題】ユニットスイングエンジンの前方にガスタンクを設置しても車両の大型化を抑える。
【解決手段】鞍乗型車両(1)には、車体フレーム(10)の車両前側を形成するフロントフレーム(11)と、フロントフレームの内側でガス燃料を貯蔵するガスタンク(81)と、フロントフレームに支持されたユニットスイングエンジン(51)と、が設けられている。ユニットスイングエンジンのシリンダ軸線(A)が水平又は水平に近づけて前傾され、ガスタンクがユニットスイングエンジンの前方に位置し、ガスタンクの前端(82)が後端(83)よりも上方になるようにガスタンクが傾けられている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームの車両前側を形成するフロントフレームと、
前記フロントフレームの内側でガス燃料を貯蔵するガスタンクと、
前記フロントフレームに支持されたユニットスイングエンジンと、を備え、
前記ユニットスイングエンジンのシリンダ軸線が水平又は水平に近づけて前傾され、
前記ガスタンクが前記ユニットスイングエンジンの前方に位置し、前記ガスタンクの前端が後端よりも上方になるように前記ガスタンクが傾けられていることを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項2】
前記ユニットスイングエンジンの上方に設けられたライダーシートを備え、
前記ガスタンクの前端が前記ライダーシートの下端よりも上方に位置していることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項3】
前記ガスタンクの後端にはタンクバルブが設けられており、前記ユニットスイングエンジンのシリンダヘッドの上面よりも下方に前記タンクバルブが位置していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鞍乗型車両。
【請求項4】
前記ユニットスイングエンジンからの冷却水を放熱するラジエータを備え、
前記ガスタンクの前端よりも下方で前記ガスタンクの後端と同じ高さに前記ラジエータが位置していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鞍乗型車両。
【請求項5】
前記ラジエータと前記ガスタンクの間には前記ラジエータからの排風を下方に導く導風板が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の鞍乗型車両。
【請求項6】
前記車体フレームの車両後側を形成するリアフレームと、
前記リアフレームの内側でガス燃料を貯蔵する他のガスタンクと、を備え、
前記他のガスタンクが車幅方向に傾けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鞍乗型車両。
【請求項7】
前記ユニットスイングエンジンからの排気ガスを排出するマフラーを備え、
前記他のガスタンクが前記ユニットスイングエンジンの上方に位置し、前記他のガスタンクの前端には他のタンクバルブが設けられており、
車両の前後方向を通る中心線を挟んで車幅方向の一方側に前記マフラーが位置し、中心線を挟んで他方側に前記他のタンクバルブが位置し、中心線上に前記他のガスタンクの後端が位置していることを特徴とする請求項6に記載の鞍乗型車両。
【請求項8】
前記他のガスタンクの前方で中心線上に前記ユニットスイングエンジンのスロットルボディが位置していることを特徴とする請求項7に記載の鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン前方にガソリンタンクが設置された鞍乗型車両が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の鞍乗型車両は、ヘッドパイプからダウンチューブが下方に延び、ダウンチューブの上下方向の中間から後方にメインチューブが延びている。ダウンチューブの下部が後方に屈曲し、この屈曲したダウンチューブの後部がさらに上方に屈曲してメインチューブの前後方向の中間に接合されている。メインチューブの後半部上側にシートが支持され、メインチューブの後半部下側にユニットスイングエンジンが設置されている。メインチューブの前半部とダウンチューブに囲まれた空間にガソリンタンクが設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の鞍乗型車両に、ガソリンエンジンの代わりに水素エンジン等の気体燃料エンジンが搭載されると、ガソリンタンクと同容量のガスタンクでは走行距離が減少してしまう。ガソリンエンジンと同等の走行距離を確保するためにはガスタンクを大型化する必要があるが、ガスタンクの大型化によって車両の前後長が大きくなって旋回性能が悪化すると共に車両が大型化するという問題があった。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、ユニットスイングエンジンの前方にガスタンクを設置しても車両の大型化を抑えることができる鞍乗型車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の鞍乗型車両は、車体フレームの車両前側を形成するフロントフレームと、前記フロントフレームの内側でガス燃料を貯蔵するガスタンクと、前記フロントフレームに支持されたユニットスイングエンジンと、を備え、前記ユニットスイングエンジンのシリンダ軸線が水平又は水平に近づけて前傾され、前記ガスタンクが前記ユニットスイングエンジンの前方に位置し、前記ガスタンクの前端が後端よりも上方になるように前記ガスタンクが傾けられていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様の鞍乗型車両によれば、フロントフレームの内側でガスタンクが傾けられているため、ユニットスイングエンジンの前方にガスタンクが設置されても車両の前後長が抑えられる。よって、車両の旋回性能を確保することができると共に車両の大型化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】本実施例の鞍乗型車両の部品レイアウトを示す側面図である。
【
図5】本実施例の車両内部構造の部品レイアウトを示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様の鞍乗型車両の車体フレームの車両前側がフロントフレームによって形成されている。フロントフレームの内側にはガス燃料を貯蔵するガスタンクが設置されている。フロントフレームにはユニットスイングエンジンが支持されており、ユニットスイングエンジンのシリンダ軸線が水平又は水平に近づけて前傾されている。ガスタンクがユニットスイングエンジンの前方に位置し、ガスタンクの前端が後端よりも上方になるようにガスタンクが傾けられている。一対のメインフレームの内側でガスタンクが傾けられているため、ユニットスイングエンジンの前方にガスタンクが設置されても車両の前後長が抑えられる。よって、車両の旋回性能を確保することができると共に車両の大型化を抑えることができる。
【実施例0010】
水素エンジン等の気体燃料エンジンには、ガソリンエンジンのガソリンタンクよりも大容量のガスタンクが必要になっている。ガソリンエンジンのガソリンタンクの設置スペースには大容量のガスタンクを設置できず、ガソリンタンクと同容量のガスタンクでは走行距離が短くなる。また、ガスタンクの設置のために、車両の前後長が大きくなるとドライバビリティーが悪化する。このため、気体燃料エンジンを搭載した車両において、大容量のガスタンクが設置可能でドライバビリティーの悪化を抑えることができるガスタンクのレイアウトが望まれている。
【0011】
以下、添付図面を参照して、本実施例の鞍乗型車両について説明する。
図1は本実施例の鞍乗型車両の左側面図である。
図2は本実施例の車両内部構造の左側面図である。
図3は本実施例の車両内部構造の上面図である。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0012】
図1に示すように、鞍乗型車両1は、鋼製又はアルミ合金製の車体フレーム10(
図2参照)に車体外装として各種カバーを装着して構成されている。車両前側にはフロントカバー31が設けられており、フロントカバー31の後側にはライダーの足回りを保護するレッグシールド32が設けられている。レッグシールド32の下端から後方に向かってフットボード23が延在しており、フットボード23の後方にはリアカバー33が設けられている。フットボード23の上方には、レッグシールド32とリアカバー33を連ねるようにセンターカバー34が設けられている。
【0013】
フロントカバー31の上側にはハンドル41が設けられ、フロントカバー31の下側には一対のフロントフォーク42を介して前輪43が回転可能に支持されている。リアカバー33の上側にはライダーシート44とピリオンシート45が設けられ、リアカバー33の下側にはCVT(Continuously Variable Transmission)カバー61が設けられている。CVTカバー61の後部に後輪62が回転可能に支持されている。CVTカバー61の内側にはベルト式の無段変速機(不図示)が収容されており、ユニットスイングエンジン51の駆動力がベルトを介して後輪62に伝達されている。
【0014】
ユニットスイングエンジン51は、リアカバー33の内側で車体フレーム10に支持されている。ユニットスイングエンジン51のシリンダ軸線Aが水平に近づけて前傾され、クランクケース52からシリンダアッセンブリ54が車両前方に延びている。シリンダアッセンブリ54の上部には吸気管を通じてエアクリーナ57(
図2参照)が接続され、シリンダアッセンブリ54の下部には排気管を通じてマフラー65が接続されている。クランクケース52の左側にはCVTカバー61が取り付けられている。これらマフラー65、CVTカバー61、後輪62と共にユニットスイングエンジン51が揺動される。
【0015】
センターカバー34の内側には第1のガスタンク(ガスタンク)81が収容されており、リアカバー33の内側には第2のガスタンク(他のガスタンク)86が収容されている。第1、第2のガスタンク81、86にはガス燃料が貯蔵されている。第1、第2のガスタンク81、86からユニットスイングエンジン51にガス燃料が供給され、このガス燃料によってユニットスイングエンジン51が駆動される。本実施例では、ユニットスイングエンジン51は水素ガスを用いた水素エンジンであるが、メタンガスやプロパンガス等の他のガス燃料を用いた他の気体燃料エンジンでもよい。
【0016】
図2及び
図3に示すように、車体フレーム10の車両前側が側面視クレードル型のフロントフレーム11によって形成され、車体フレーム10の車体後側が上面視欠楕円形状のリアフレーム25によって形成されている。フロントフレーム11では、ヘッドパイプ12の上部から後斜め下方に支持フレーム13が延びている。支持フレーム13の下部から左右に分岐して一対の第1のダウンフレーム14が下方に延びており、ヘッドパイプ12の下部から左右に分岐して一対の第2のダウンフレーム15が下方に延びている。一対の第1、第2のダウンフレーム14、15の下部には一対のメインフレーム16が接続されている。
【0017】
一対のメインフレーム16は車両後方に向かって延びており、一対のメインフレーム16の中間部分が第1のブリッジ17によって接続されている。一対のメインフレーム16の前端には一対のロアフレーム18が接続されており、一対のロアフレーム18は第1のガスタンク81を下側から囲むようにして一対のメインフレーム16の前部から後部に向かって延びている。一対のメインフレーム16及び一対のロアフレーム18によってフロントフレーム11のクレードル形状が形成されている。また、一対のロアフレーム18には一対のフットボード23が設けられている。
【0018】
リアフレーム25では、一対のメインフレーム16の後部から一対のシートレール26が後方に延びている。一対のシートレール26の対向間隔が各レール中間に向かって離れた後に各レール後端に向かって近づけられている。一対のシートレール26がアーチ状に形成されて、一対のシートレール26の後端部同士が接続されている。一対のシートレール26の前側部分は第2のブリッジ27によって接続されている。一対のシートレール26及び第2のブリッジ27によってリアフレーム25の楕円形の一部を切り欠いた上面視欠楕円形状が形成されている(
図4参照)。
【0019】
第1のブリッジ17にはアッパブラケット19を介してライダーシート44の前部が下側から支持され、第2のブリッジ27にはライダーシート44の後部が下側から支持されている。第2のブリッジ27には一対のロアフレーム18の後部が接続され、一対のロアフレーム18によって第2のブリッジ27が下側から支えられている。一対のロアフレーム18の間にはユニットスイングエンジン51のシリンダアッセンブリ54が入り込んでおり、ライダーシート44の下方にシリンダアッセンブリ54、エアクリーナ57、アウトレットチューブ58、スロットルボディ59が位置付けられている。
【0020】
一対のロアフレーム18の後部には第1のロアブラケット21を介してL字状のクッションレバー66の中間部が支持されている。クッションレバー66の上端部にはクッションロッド67を介してユニットスイングエンジン51のクランクケース52が連結されている。クッションレバー66の下端部にはサスペンション68を介して一対のロアフレーム18の前部の第2のロアブラケット22が連結されている。ユニットスイングエンジン51の揺動に伴ってサスペンション68が伸縮することで、路面の凹凸が吸収されて振動が抑えられると共に、後輪62と路面の接地性が高められている。
【0021】
一対のロアフレーム18の前部にはラジエータ71が設置されている。ユニットスイングエンジン51からの冷却水とラジエータ71を通過する走行風の間で熱交換されてユニットスイングエンジン51からの冷却水が放熱される。ラジエータ71の後面には冷却ファン72が設けられており、冷却ファン72によってラジエータ71に外気が導入される。停車時等に冷却水が所定温度を超えると、冷却ファン72が回転してラジエータ71内の冷却水が強制的に冷却される。ラジエータ71の後方には導風板73が設置されており、導風板73によってラジエータ71の排風が下方に導かれている。
【0022】
フロントフレーム11の内側には、両端が半球状に膨らんだ円筒状の第1のガスタンク81が設置されている。第1のガスタンク81は前傾しており、第1のガスタンク81の後端83には第1のタンクバルブ(タンクバルブ)84が設けられている。リアフレーム25の内側には、両端が半球状に膨らんだ円筒状の第2のガスタンク86が設置されている。第2のガスタンク86は後傾しており、第2のガスタンク86の前端87には第2のタンクバルブ(他のタンクバルブ)89が設けられている。第1、第2のタンクバルブ84、89によって第1、第2のタンクバルブ84、89のガス燃料の出入りが制御されている。
【0023】
図4、
図5を参照して、鞍乗型車両の部品レイアウトについて説明する。
図4は本実施例の鞍乗型車両の部品レイアウトを示す側面図である。
図5は本実施例の車両内部構造の部品レイアウトを示す上面図である。
【0024】
図4及び
図5に示すように、ユニットスイングエンジン51のシリンダ軸線Aが水平に近づけて前傾されており、このユニットスイングエンジン51の前方に第1のガスタンク81が位置している。第1のガスタンク81の前端82が後端83よりも上方になるように第1のガスタンク81が傾けられている。第1のガスタンク81の上半部がメインフレーム16よりも上方に位置し、第1のガスタンク81の下半部がメインフレーム16よりも下方に位置している。第1のガスタンク81が上下方向に傾くことで、第1のガスタンク81を水平面に投影させたときの投影長さが小さくなって車両の前後長が抑えられている。
【0025】
ユニットスイングエンジン51の上方にライダーシート44が位置している。第1のガスタンク81の前端82がライダーシート44の座面46よりも下方でライダーシート44の下端47よりも上方に位置している。第1のガスタンク81の後端83の第1のタンクバルブ84はシリンダヘッド55の上面56よりも下方でクランクケース52の下面53よりも上方に位置している。第1のガスタンク81の前後両端82、83の高低差が大きくなることで、第1のガスタンク81の傾きが大きくなって車両の前後長が抑えられている。また、センターカバー34(
図1参照)に合わせて第1のガスタンク81が傾けられることで車両外観を損なうことがない。
【0026】
ユニットスイングエンジン51の上方でエアクリーナ57の後方に第2のガスタンク86が位置している。第2のガスタンク86は、側面視にてシートレール26の傾きに沿って傾けられ、上面視にて一対のシートレール26の間に収まるように車幅方向に傾けられている。第2のガスタンク86が車幅方向に傾くことで、第2のガスタンク86を車両前後方向の鉛直面に投影させたときの投影長さが小さくなって車両の前後長が抑えられている。また、車両前側の第1のガスタンク81と車両後側の第2のガスタンク86によって車両前後の重量バランスが確保されて、車両の重量配分を悪化させることなく第2のガスタンク86を設置することができる。
【0027】
ユニットスイングエンジン51の右側には、ユニットスイングエンジン51からの排気ガスを排出するマフラー65が設けられている。車両の前後方向を通る中心線Cを挟んで車幅方向の一方側(本実施例では右側)にマフラー65が位置し、中心線Cを挟んで車幅方向の他方側(本実施例では左側)に第2のタンクバルブ89が位置し、中心線C上に第2のガスタンク86の後端88が位置している。第2のタンクバルブ89が中心線Cよりも車幅方向の他方寄りに傾けられ、第2のタンクバルブ89の重心が中心線Cよりも車幅方向の他方側に位置付けられている。
【0028】
マフラー65と第2のタンクバルブ89が中心線Cを挟んで逆側に位置するため、第2のタンクバルブ89に対するマフラー65の熱害が防止されている。また、第2のタンクバルブ89とマフラー65によって左右の重量バランスが確保されるため、車両の操縦安定性を犠牲にすることなく第2のガスタンク86を設置することができる。第2のガスタンク86が上下方向だけでなく車幅方向にも傾けられている分だけ第2のガスタンク86の傾きが小さくなっている。このため、第2のガスタンク86と後輪62の間隔が広げられて、後輪62の揺動時のストローク量が十分に確保されて悪路の走破性が向上されている。
【0029】
第1、第2のガスタンク81、86の第1、第2のタンクバルブ84、89がライダーシート44の下方に位置付けられている。より詳細には、第1のタンクバルブ84がライダーシート44の前端48よりも後方に入り込み、第2のタンクバルブ89がライダーシート44の後端49よりも前方に入り込んでいる。重量物である第1、第2のタンクバルブ84、89が鞍乗型車両1の重心に近づけられることでマスの集中化が図られている。これにより、鞍乗型車両1の重心から鉛直に延びる回転軸(ヨー軸)を中心とした慣性モーメントが減って車両の旋回性能が向上されている。
【0030】
シリンダヘッド55の上方でエアクリーナ57の前方には、スロットルボディ59が設置されている。スロットルボディ59よりも下方には第1のタンクバルブ84が位置し、スロットルボディ59よりも上方には第2のタンクバルブ89が位置している。上面視にてスロットルボディ59が中心線C上に位置しており、第1、第2のタンクバルブ84、89がスロットルボディ59に近づけられている。このため、ユニットスイングエンジン51の揺動に追従できる程度に、第1、第2のタンクバルブ84、89からスロットルボディ59側に向かうホース類の長さを確保することができる。
【0031】
第1のガスタンク81の前端82よりも下方で第1のガスタンク81の後端83の第1のタンクバルブ84と同じ高さにラジエータ71が位置している。ラジエータ71の上方スペースを利用して第1のガスタンク81が傾けられている。ラジエータ71とユニットスイングエンジン51の間に第1のタンクバルブ84が位置しており、前後方向にてラジエータ71の後面の冷却ファン72が第1のタンクバルブ84に重なっている。このため、ラジエータ71と第1のガスタンク81の間にはラジエータ71(冷却ファン72)からの排風を下方に導く導風板73が設けられている。
【0032】
側面視にて、導風板73はラジエータ71の上縁付近からサスペンション68の前端付近まで後斜め下方に広がっている。上面視にて、導風板73は一対のメインフレーム16及びロアフレーム18に亘って広がっている。導風板73がラジエータ71の後方で第1のガスタンク81よりも幅広に形成されているため、ラジエータ71からの排風は導風板73に沿って下方に導かれている。導風板73によって第1のガスタンク81の前方が仕切られているため、ラジエータ71からの排風が第1のガスタンク81にダイレクトに当たり難くなって第1のガスタンク81の温度上昇が抑えられている。
【0033】
以上、本実施例の鞍乗型車両1によれば、第1、第2のガスタンク81、86が設置されることでガス燃料の容量を増やして十分な走行距離を確保することができる。また、第1、第2のガスタンク81、86が設置されても車両の前後長が抑えられる。また、車両の前後左右の重量バランスが確保されると共にマスの集中化が図られている。よって、車両のドライバビリティーの悪化及び車両の大型化を抑えることができる。
【0034】
なお、本実施例では、鞍乗型車両の前後両側にガスタンクが設置される構成について説明したが、鞍乗型車両の前側又は後側だけにガスタンクが設置されてもよい。
【0035】
また、本実施例では、ユニットスイングエンジンのシリンダ軸線が水平に近づけて前傾されているが、ユニットスイングエンジンのシリンダ軸線が水平にされていてもよい。
【0036】
また、本実施例では、第1、第2のガスタンクが、両端が半球状に膨らんだ円筒状に形成されているが、第1、第2のガスタンクはガス燃料を貯蔵可能な形状であれば、特に第1、第2のガスタンクの形状は限定されない。
【0037】
また、本実施例では、ガスタンクの前端がライダーシートの下端よりも上方に位置し、ガスタンクの後端がシリンダヘッドの上面よりも下方に位置しているが、ガスタンクの前端が後端よりも上方になるようにガスタンクが傾けられていればよい。
【0038】
また、本実施例では、フロントフレームがクレードル形状に形成され、リアフレームが欠楕円形状に形成されたが、フロントフレーム及びリアフレームの形状は特に限定されない。フロントフレームは第1のガスタンクが設置可能な形状に形成され、リアフレームは第2のガスタンクが設置可能な形状に形成されればよい。
【0039】
また、本実施例では、第2のガスタンクが車幅方向に傾けられているが、マフラーの熱害や後輪の干渉がなければ、第2のガスタンクが車両の中心線上に設けられていてもよい。
【0040】
また、本実施例のガスタンクのレイアウトは上記の鞍乗型車両に限らず、他のタイプの鞍乗型車両に採用されてもよい。なお、鞍乗型車両とは、運転者がシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、運転者がシートに跨らずに乗車するスクータタイプの車両も含んでいる。
【0041】
以上の通り、第1態様は、鞍乗型車両(1)であって、車体フレーム(10)の車両前側を形成するフロントフレーム(11)と、フロントフレームの内側でガス燃料を貯蔵するガスタンク(第1のガスタンク81)と、フロントフレームに支持されたユニットスイングエンジン(51)と、を備え、ユニットスイングエンジンのシリンダ軸線(A)が水平又は水平に近づけて前傾され、ガスタンクがユニットスイングエンジンの前方に位置し、ガスタンクの前端(82)が後端(83)よりも上方になるようにガスタンクが傾けられている。この構成によれば、フロントフレームの内側でガスタンクが傾けられているため、ユニットスイングエンジンの前方にガスタンクが設置されても車両の前後長が抑えられる。よって、車両の旋回性能を確保することができると共に車両の大型化を抑えることができる。
【0042】
第2態様は、第1態様の鞍乗型車両において、ユニットスイングエンジンの上方に設けられたライダーシート(44)を備え、ガスタンクの前端がライダーシートの下端(47)よりも上方に位置している。この構成によれば、ガスタンクの傾きが大きくなって、車両の前後長を抑えることができる。
【0043】
第3態様は、第1態様及び第2態様の鞍乗型車両において、ガスタンクの後端にはタンクバルブ(第1のタンクバルブ84)が設けられており、ユニットスイングエンジンのシリンダヘッドの上面(56)よりも下方にタンクバルブが位置している。この構成によれば、ガスタンクの傾きが大きくなって、車両の前後長を抑えることができる。
【0044】
第4態様は、第1態様から第3態様のいずれか1態様の鞍乗型車両において、ユニットスイングエンジンからの冷却水を放熱するラジエータ(71)を備え、ガスタンクの前端よりも下方でガスタンクの後端と同じ高さにラジエータが位置している。この構成によれば、ラジエータの上方スペースを利用してガスタンクを傾けることで、ガスタンクが設置されても車両の前後長を抑えることができる。
【0045】
第5態様は、第4態様の鞍乗型車両において、ラジエータとガスタンクの間にはラジエータからの排風を下方に導く導風板(73)が設けられている。この構成によれば、ラジエータからの排風がダイレクトにガスタンクに当たり難くなってガスタンクの温度上昇を抑えることができる。
【0046】
第6態様は、第1態様から第5態様のいずれか1態様の鞍乗型車両において、車体フレームの車両後側を形成するリアフレーム(25)と、リアフレームの内側でガス燃料を貯蔵する他のガスタンク(第2のガスタンク86)と、を備え、他のガスタンクが車幅方向に傾けられている。この構成によれば、ガスタンクに加えて他のガスタンクを設置することでガス燃料の容量を増やすことができる。また、リアフレームの内側でガスタンクが傾けられているため車両の前後長が抑えられる。ガスタンク及び他のガスタンクによって車両前後の重量バランスが確保されて、車両の重量配分を悪化させることなく他のガスタンクを設置することができる。
【0047】
第7態様は、第6態様の鞍乗型車両において、ユニットスイングエンジンからの排気ガスを排出するマフラー(65)を備え、他のガスタンクがユニットスイングエンジンの上方に位置し、他のガスタンクの前端(87)には他のタンクバルブ(第2のタンクバルブ89)が設けられており、車両の前後方向を通る中心線(C)を挟んで車幅方向の一方側にマフラーが位置し、中心線を挟んで他方側に他のタンクバルブが位置し、中心線上に他のガスタンクの後端が位置している。この構成によれば、マフラーとタンクバルブが中心線を挟んで逆側に位置するため、他のタンクバルブに対するマフラーの熱害を防止することができる。他のタンクバルブとマフラーによって左右の重量バランスが確保されて、車両の操縦安定性を犠牲にすることなく他のガスタンクを設置することができる。重量物であるタンクバルブ及び他のタンクバルブが車両の重心に近づけられてマスの集中化が図られて車両の旋回性能を向上させることができる。
【0048】
第8態様は、第7態様の鞍乗型車両において、他のガスタンクの前方で中心線上にユニットスイングエンジンのスロットルボディ(59)が位置している。この構成によれば、ユニットスイングエンジンの揺動に追従できる程度に、スロットルボディ側に向かうホース類の長さを確保することができる。
【0049】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0050】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。