(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008547
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】抗菌性ジペプチド化合物
(51)【国際特許分類】
C07K 5/065 20060101AFI20240112BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20240112BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20240112BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240112BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240112BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C07K5/065
A61K38/05
A61K8/64
A61Q11/00
A61P1/02
A61P31/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110510
(22)【出願日】2022-07-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「口腔ケア商品の開発に向けた低コスト抗菌ジペプチドの合成と検証」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】507148456
【氏名又は名称】学校法人 岩手医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日高 興士
(72)【発明者】
【氏名】野中 由香莉
(72)【発明者】
【氏名】多部田 康一
(72)【発明者】
【氏名】阪本 泰光
(72)【発明者】
【氏名】關谷 瑞樹
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC41
4C083EE33
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA14
4C084BA23
4C084MA57
4C084NA14
4C084ZA67
4C084ZB35
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA11
4H045EA20
4H045EA29
4H045FA30
4H045FA51
(57)【要約】
【課題】簡便に合成することができ、歯周病の原因菌であるPorphyromonas gingivalisに対してより特異的に抗菌活性を発揮し、エステラーゼに対する安定性がより高く、且つ細胞為害性がより低い化合物を提供すること。
【解決手段】
一般式(1):
[式中:R
1はハロゲン原子又はニトロ基を示す。R
2はアルコキシ基又はアシルアミノ基を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中:R
1はハロゲン原子又はニトロ基を示す。R
2はアルコキシ基又はアシルアミノ基を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項2】
R2が炭素数1~4のアルコキシ基又は炭素数2~5のアシルアミノ基である、請求項1に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項3】
前記ハロゲン原子が塩素原子である、請求項1に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項4】
R1がハロゲン原子であり且つR2がアルコキシ基である、或いはR1がニトロ基であり且つR2がアルコキシ基又はアシルアミノ基である、請求項1に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項5】
R1が塩素原子であり且つR2が炭素数1~4のアルコキシ基である、或いはR1がニトロ基であり且つR2が炭素数1~4のアルコキシ基又は炭素数2~5のアシルアミノ基である、請求項1に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、抗菌剤。
【請求項7】
対象細菌がPorphyromonas gingivalisである、請求項6に記載の抗菌剤。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、細菌感染症の予防又は改善剤。
【請求項9】
前記細菌感染症が歯周病である、請求項8に記載の予防又は改善剤。
【請求項10】
請求項1~5のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性ジペプチド化合物等に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病の原因菌であるPorphyromonas gingivalisは糖非発酵グラム陰性細菌であり、炭水化物ではなくタンパク質やペプチドを菌固有のジペプチジルペプチダーゼ(DPP)により分解して得られるアミノ酸を栄養源とする。DPP遺伝子を全て欠損したPorphyromonas gingivalisは増殖速度が顕著に低下することが報告されており、細菌DPP阻害剤は新しい作用機序に基づく抗菌剤として期待される。特許文献1には、特定の構造を有するジペプチド化合物が細菌DPP7阻害活性を示すことが報告されている。
【0003】
歯周病は世界で最も罹患率の高い細菌感染症であり、歯の喪失を引き起こす。歯周病が動脈硬化や糖尿病など様々な全身疾患と関連することが明らかとなっており、健康寿命の延伸に歯周病のコントロールが寄与しうる。歯周病の治療には抗菌薬が用いられるが、薬剤耐性菌増加への対応は喫緊の課題である。既存抗菌薬の使用削減に加えて、新規狭域スペクトル抗菌薬の開発が望まれる。しかしながら、歯周病原細菌に特異的な抗菌薬はこれまでに存在せず、その開発が急務である。
【0004】
既存の抗菌薬に代わり、乳酸菌が生成する天然の抗菌ペプチドなどが注目されるが、一般にこれらのアミノ酸配列は10~35個と長いため化学合成には高度な技術とコストを必要とすることが課題である。すなわち、歯周病原細菌に特異的に作用し、低コストでかつ安全性が担保された抗菌剤の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便に合成することができ、歯周病の原因菌であるPorphyromonas gingivalisに対してより特異的に抗菌活性を発揮し、エステラーゼに対する安定性がより高く、且つ細胞為害性がより低い化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、フェニルアラニンのジペプチドにおいて末端カルボキシ基がイソプロピルエステル化され且つ側鎖のベンゼン環の4位が特定の基で置換されてなる構造を有するジペプチド化合物であれば、上記課題と解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. 一般式(1):
【0009】
【化1】
[式中:R
1はハロゲン原子又はニトロ基を示す。R
2はアルコキシ基又はアシルアミノ基を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0010】
項2. R2が炭素数1~4のアルコキシ基又は炭素数2~5のアシルアミノ基である、項1に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0011】
項3. 前記ハロゲン原子が塩素原子である、項1に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0012】
項4. R1がハロゲン原子であり且つR2がアルコキシ基である、或いはR1がニトロ基であり且つR2がアルコキシ基又はアシルアミノ基である、項1に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0013】
項5. R1が塩素原子であり且つR2が炭素数1~4のアルコキシ基である、或いはR1がニトロ基であり且つR2が炭素数1~4のアルコキシ基又は炭素数2~5のアシルアミノ基である、項1に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0014】
項6. 項1~5のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、抗菌剤。
【0015】
項7. 対象細菌がPorphyromonas gingivalisである、項6に記載の抗菌剤。
【0016】
項8. 項1~5のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、細菌感染症の予防又は改善剤。
【0017】
項9. 前記細菌感染症が歯周病である、項8に記載の予防又は改善剤。
【0018】
項10. 項1~5のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、口腔用組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡便に合成することができ、歯周病の原因菌であるPorphyromonas gingivalisに対してより特異的に抗菌活性を発揮し、エステラーゼに対する安定性がより高く、且つ細胞為害性がより低い化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】試験例1で測定したヒトカルボキシエステラーゼ1存在下でのエステル残存量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0022】
1.化合物
本発明は、その一態様において、一般式(1):
【0023】
【化2】
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物(本明細書において、これらをまとめて「本発明の化合物」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0024】
R1はハロゲン原子又はニトロ基を示す。
【0025】
ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。ハロゲン原子の中でも、抗菌活性等の観点から、特に好ましくは塩素原子が挙げられる。
【0026】
R1は、抗菌活性等の観点から、特に好ましくはニトロ基である。
【0027】
R2はアルコキシ基又はアシルアミノ基を示す。
【0028】
アルコキシ基としては、特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状(好ましくは直鎖状)の、例えば炭素数1~6、抗菌活性等の観点から、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、特に好ましくは1のアルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。
【0029】
アシルアミノ基は、アミノ基(-NH2)の1つの水素原子がアシル基で置換してなる基である限り特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状(好ましくは直鎖状)の、例えば炭素数2~7、抗菌活性等の観点から、好ましくは2~5、より好ましくは2~3、さらに好ましくは2のアシルアミノ基が挙げられる。アシルアミノ基としては、例えばアセチルアミノ基、プロパノイルアミノ基、ブタノイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基等が挙げられる。
【0030】
R2は、抗菌活性等の観点から、特に好ましくはアルコキシ基である。
【0031】
抗菌活性等の観点から、R1がハロゲン原子であり且つR2がアルコキシ基である、或いはR1がニトロ基であり且つR2がアルコキシ基又はアシルアミノ基であることが好ましく、R1がニトロ基であり且つR2がアルコキシ基又はアシルアミノ基であることがより好ましく、R1がニトロ基であり且つR2がアルコキシ基であることが特に好ましい。
【0032】
一般式(1)で表される化合物には、立体異性体及び光学異性体が含まれ、これらは特に限定されるものではない。一般式(1)で表される化合物の中でも、好ましい立体構造を有する化合物としては、下記一般式(1’):
【0033】
【化3】
[式中、R
1及びR
2は前記に同じである。]
で表される化合物が挙げられる。
【0034】
一般式(1)で表される化合物の塩は、薬学的に許容される塩である限り、特に制限されるものではない。該塩としては、例えば酸性塩を採用することができる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0035】
一般式(1)で表される化合物又はその塩は溶媒和物とすることもできる。溶媒としては、例えば、水、薬学的に許容される有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0036】
本発明の化合物は、簡便に合成することが可能である。代表的には、2種のアミノ酸及び/又はアミノ酸誘導体をペプチド結合させることを含む方法により得ることができる。より具体的には、特許文献1、後述の実施例に記載の方法に従って又は準じて、合成することができる。
【0037】
2.用途
本発明の化合物は、歯周病の原因菌であるPorphyromonas gingivalisに対してより特異的に抗菌活性を発揮することができる。このため、本発明の化合物は、抗菌剤(特にPorphyromonas gingivalisに対する抗菌剤)、細菌感染症(特に、歯周病)の予防又は改善剤(或いは治療剤)等の有効成分として好適に利用することができる。この観点から、本発明は、その一態様において、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、抗菌剤、細菌感染症の予防又は改善剤等(本明細書において、これらを総称して「本発明の剤」と示すこともある。)に関する。また、本発明の化合物は、細菌ジペプチジルペプチダーゼ7阻害作用を有すると考えられる。
【0038】
対象細菌としては、例えば Bacteroides fragilis、Bacteroides ovatus、Bacteroides thetaiotaomicron、Bacteroides uniformis、Bacteroides vulgatus、Capnocytophaga gingivalis、Capnocytophaga ochracea、Chryseobacterium sp.、Shewanella putrefaciens、Stenotrophomonas maltophilia、Porphyromonas assaccharolytia、Porphyromonas endodontalis、Porphyromonas gingivalis、Porphyromonas uenonis、Prevotella bivia、Prevotella disiens、Prevotella intermedia、Prevotella melaninogenica、Prevotella oralis、Prevotella oris、Pseudomonas sp.、Pseudoxanthomonas mexicana、Tannerella forsythensis等の糖非発酵グラム陰性菌が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくはPorphyromonas gingivalisが挙げられる。
【0039】
細菌感染症としては、上記細菌の感染によって引き起こされる細菌感染症である限り特に制限されず、例えば歯周病、敗血症、菌血症、肺炎等が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは歯周病が挙げられる。
【0040】
本発明の剤中の有効成分の含有量は、抗菌作用を発揮できる量である限り特に制限されない。本発明の剤中の有効成分の含有量は、本発明の剤全体を100重量部として0.0001重量部~100重量部程度をすることができる。
【0041】
本発明の剤においては、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と共に、細菌DPP(例えばDPP-4、-5、-7、-11等)の阻害剤を併用することがある。併用するDPP阻害剤としては、例えばアナグリプチン、アログリプチン、オマリグリプチン、サキサグリプチン、シタグリプチン、テネリグリプチン、トレラグリプチン、ビルダグリプチン、リグナグリプチン、ベルベリン、DPP4選択的阻害剤1c、K579、NVP-DPP728、2-シアノ-1-イソロイシルピロリジン、グリシルヒドロキシプロリン、リジノプリル等が挙げられる。
【0042】
本発明の剤は、使用用途及び態様に応じて、添加剤を含有する組成物であることができる。添加剤としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤、防錆剤、金属防食剤、消泡剤、防錆剤、極圧添加剤、金属防食剤、消泡剤、染料等が挙げられる。使用目的に応じて、これらの添加剤のうち、薬学的に許容される成分、香粧品学的に許容される成分を選択して使用することが好ましい。
【0043】
本発明の剤の使用分野は、特に限定されない。例えば、医療分野、化粧分野、食品分野、洗浄分野、口腔分野、試薬分野等の分野において用いることができる。
【0044】
本発明の剤の形態は、特に限定されず、本発明の剤の用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0045】
形態としては、用途が医薬である場合は、例えば注射用製剤(例えば、点滴注射剤(例えば点滴静注用製剤等)、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、貼付剤(プラスター剤、硬膏剤等のテープ剤(リザーバー型、マトリックス型等)、パップ剤、パッチ剤、マイクロニードル等)、軟膏剤、外用液剤(リニメント剤、ローション剤等)、スプレー剤(外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤等)、クリーム剤、ゲル剤、点眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、坐剤、直腸用半固形剤、注腸剤等の非経口摂取に適した製剤形態; 錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口摂取に適した製剤形態(経口製剤形態)が挙げられる。
【0046】
形態としては、用途が化粧品である場合は、例えば液剤、ジェル剤、クリーム剤、軟膏剤、スティック剤等が挙げられる。
【0047】
形態としては、用途が健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口摂取に適した製剤形態(経口製剤形態)、が挙げられる。
【0048】
形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキーなどが挙げられる。
【0049】
形態としては、用途が口腔用組成物(医薬も包含する)である場合は、例えば液体(溶液、乳液、懸濁液など)、半固体(ゲル、クリーム、ペーストなど)、固体(錠剤、粒子状剤、カプセル剤、フィルム剤、混練物、溶融固体、ロウ状固体、弾性固体など)などの任意の形態、より具体的には、歯磨剤(練歯磨、液体歯磨、液状歯磨、粉歯磨など)、洗口剤、含嗽剤、塗布剤、貼付剤、口中清涼剤、食品(例えば、チューインガム、錠菓、キャンディ、グミ、フィルム、トローチなど)などが挙げられる。
【0050】
形態としては、用途が消毒剤である場合は、例えば例えば液剤、乳剤、懸濁剤、分散剤、エアゾール剤等の液剤; 水和剤、粉剤、粒剤、微粒剤、フロアブル剤等の固形又は半固形剤等が挙げられる。
【0051】
本発明の剤を生体に適用する場合、その適用(例えば、投与、摂取、接種など)経路は特に制限されず、経口投与、及び非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、局所投与)のいずれかの投与経路でヒトを含む哺乳類に投与することができる。
【0052】
本発明の剤を生体に適用する場合、その適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、所望の効果を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の重量として、一般に一日あたり0.1~1000 mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2~3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0053】
本発明は、その一態様において、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、組成物(例えば、口腔用組成物、食品組成物、医薬組成物、化粧品組成物等)であることができる。当該組成物については、本発明の剤に関する上記説明が援用される。
【実施例0054】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
実施例1.化合物の合成
以下の化合物1~7の塩酸塩を合成した。
【0056】
【0057】
化合物1及び2の塩酸塩は以下の経路により合成した。
【0058】
【0059】
tert-ブトキシカルボニル-(O-メチル)チロシンを2-ブロモプロパンによりイソプロピルエステルへ変換し、次いで、塩酸-酢酸エチル溶液によりtert-ブトキシカルボニル基を除去した。得られた塩酸塩をEDCによりtert-ブトキシカルボニル-4-クロロフェニルアラニンまたはtert-ブトキシカルボニル-4-ニトロフェニルアラニンと縮合した後、フラッシュクロマトグラフィーにより精製した。それぞれの中間体を脱保護し、本発明のジペプチドイソプロピルエステルである化合物1と2の塩酸塩を得た。
【0060】
化合物3~7の塩酸塩は以下の経路により合成した。
【0061】
【0062】
tert-ブトキシカルボニル-4-ニトロフェニルアラニンを2-ブロモプロパンによりイソプロピルエステルへ変換し、次いで、パラジウム炭素によりニトロ基をアミノ基へ還元した。アミノ中間体を酸無水物によりアシル化し、次いで、塩酸-酢酸エチル溶液によりtert-ブトキシカルボニル基を除去した。得られた塩酸塩をEDCによりtert-ブトキシカルボニル-4-ニトロフェニルアラニンまたはtert-ブトキシカルボニル-4-クロロフェニルアラニンを縮合した後で脱保護を行い、化合物3~7の塩酸塩を得た。
【0063】
実施例1-1.4-クロロフェニルアラニル-O-メチルチロシンイソプロピルエステル塩酸塩(化合物1の塩酸塩)
N-α-(tert-ブトキシカルボニル)- O-メチル-L-チロシン(4.43 g, 15.0 mmol)を脱水N,N-ジメチルホルムアミド (100 mL) に溶解し、炭酸セシウム(9.77 g, 30.0 mmol)を加え、室温撹拌下、2-ブロモプロパン(2.80 mL, 30.0 mmol)を加え、室温で2日間撹拌した。反応液をろ過して減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して無色油状物を得た。油状物にアニソール(3.26 mL, 30,0 mmol)と4M 塩酸-酢酸エチル溶液(50 mL)を加え、室温で30分間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、白色固体を得た (収量4.02 g, 収率97%)。
MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C13H20NO3[M + H]+ 238.1438; found 238.1433.
得られたO-メチルチロシンイソプロピルエステル塩酸塩(1.00 g, 3.65 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド (50 mL) に溶解し、氷冷攪拌下、トリエチルアミン(510 μL, 3.65 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(0.614 g, 4.01 mmol)、N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-クロロ-L-フェニルアラニン(1.20 g, 4.01 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(0.769 g, 4.01 mmol)を順に加え、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して白色固体(2.38 g)を得た。得られた白色固体をアニソール(793 μL, 7.30 mmol)、4M 塩酸-酢酸エチル溶液(12 mL)と混合して、室温で1時間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、得られた粗生成物をメタノール(10 mL)に溶解し、シリンジフィルター(孔径 0.45 μm)を通し、減圧濃縮して乾燥後、白色固体を得た (収量 1.54 g, 収率 92%)。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ ppm 1.06 (d, J=6.31 Hz, 3 H), 1.16 (d, J=6.31 Hz, 3 H), 2.94 - 3.02 (m, 3 H), 3.20 - 3.24 (m, 1 H), 3.72 (s, 3 H), 4.12 (dd, J=7.57, 5.67 Hz, 1 H), 4.39 - 4.42 (m, 1 H), 4.82 - 4.86 (m, 1 H), 6.84 - 6.87 (m, 2 H), 7.18 - 7.21 (m, 2 H), 7.33 - 7.38 (m, 4 H), 8.33 (br s, 3 H), 9.30 (br d, J=7.25 Hz, 1 H); MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C22H28ClN2O4 [M + H]+ 419.1732; found 419.1741.。
【0064】
実施例1-2.4-ニトロフェニルアラニル-O-メチルチロシンイソプロピルエステル塩酸塩(化合物2の塩酸塩)
得られたO-メチルチロシンイソプロピルエステル塩酸塩(1.00 g, 3.65 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド (50 mL) に溶解し、氷冷攪拌下、トリエチルアミン(510 μL, 3.65 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(0.614 g, 4.01 mmol)、N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ニトロ-L-フェニルアラニン(1.24 g, 4.01 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(0.769 g, 4.01 mmol)を順に加え、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して白色固体を得た後、フラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル, シリカゲル 40 g)により精製して減圧濃縮し、白色固体(1.93 g)を得た。得られた白色固体をアニソール(793 μL, 7.30 mmol)、4M 塩酸-酢酸エチル溶液(12 mL)と混合して、室温で1.5時間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物を濾過し、乾燥後、得られた粗生成物をメタノール(10 mL)に溶解し、シリンジフィルター(孔径 0.45 μm)を通し、減圧濃縮して乾燥後、白色固体を得た (収量 1.59 g, 収率 93%)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ ppm 1.05 (d, J=6.36 Hz, 3 H), 1.15 (d, J=6.11 Hz, 3 H), 2.95 (d, J=7.09 Hz, 2 H), 3.16 (dd, J=13.69, 7.83 Hz, 1 H), 3.33 - 3.36 (m, 1 H), 3.72 (s, 3 H), 4.21 (br t, J=6.60 Hz, 1 H), 4.41 (q, J=7.17 Hz, 1 H), 4.82 (quin, J=6.30 Hz, 1 H), 6.83 - 6.88 (m, 2 H), 7.17 - 7.24 (m, 2 H), 7.62 - 7.68 (m, 2 H), 8.10 - 8.25 (m, 2 H), 8.44 (br s, 3 H), 9.35 (d, J=7.34 Hz, 1 H); MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C22H28N3O6[M + H]+ 430.1973; found 430.1960.。
【0065】
実施例1-3.4-ニトロフェニルアラニル-(4-アセチルアミノ)フェニルアラニンイソプロピルエステル塩酸塩(化合物3の塩酸塩)
N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ニトロ-L-フェニルアラニン(5.00 g, 16.1 mmol)を脱水N,N-ジメチルホルムアミド (50 mL) に溶解し、炭酸セシウム(10.5 g, 32.2 mmol)を加え、室温撹拌下、2-ブロモプロパン(3.01 mL, 32.2 mmol)を加え、室温で3日間撹拌した。反応液を濾過して減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して橙色固体を得た。固体をイソプロパノール(50 mL)に溶解して10%パラジウム炭素を加え、バルーンにより窒素置換後、水素置換して、室温で5時間激しく撹拌した。反応液をろ過して減圧濃縮し、フラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル, シリカゲル 40 g)により精製して減圧濃縮し、白色固体を得た(収量 3.27g, 収率 63%)。MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C17H27N2O4 [M + H]+323.1965; found 323.1940.
得られたN-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-アミノフェニルアラニンイソプロピルエステル(500 mg, 1.55 mmol)を脱水テトラヒドロフラン (10 mL) に溶解し、室温撹拌下、トリエチルアミン(433 μL, 3.10 mmol)、塩化アセチル(156 μL, 2.32 mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して無色油状物を得た。油状物に4M 塩酸-酢酸エチル溶液(5 mL)を加え、室温で30分間攪拌した後、反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、白色固体を得た (収量 437 mg, 収率 quant.)。
MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C14H21N2O3[M + H]+ 265.1547; found 265.1526.
得られた4-アセチルアミノフェニルアラニンイソプロピルエステル塩酸塩(30.1 mg, 0.10 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド (2 mL) に溶解し、氷冷攪拌下、トリエチルアミン(14.0 μL, 0.10 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(16.8 mg, 0.11 mmol)、N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ニトロ-L-フェニルアラニン(34.1 g, 0.11 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(21.1 mg, 0.11 mmol)を順に加え、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して黄白色固体(42.4 mg)を得た。得られた固体をアニソール(21.7 μL, 0.20 mmol)、4M 塩酸-酢酸エチル溶液(1 mL)と混合して、室温で30分間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、得られた粗生成物をHPLCにより精製し、凍結乾燥後、白色粉末を得た (収量 16.5 mg, 収率 33%)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ ppm 1.02 - 1.11 (m, 3 H), 1.11 - 1.19 (m, 3 H), 2.02 (s, 3 H), 2.89 - 3.01 (m, 2 H), 3.09 (br dd, J=13.94, 8.44 Hz, 1 H), 3.26 (br d, J=5.14 Hz, 1 H), 4.15 (br s, 1 H), 4.43 - 4.52 (m, 1 H), 4.83 (quin, J=6.27 Hz, 1 H), 7.17 (m, J=8.56 Hz, 2 H), 7.50 (m, J=8.56 Hz, 2 H), 7.55 - 7.62 (m, 2 H), 8.10 - 8.37 (m, 5 H), 9.06 (d, J=7.46 Hz, 1 H), 9.94 (s, 1 H); MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C23H29N4O6[M + H]+ 457.2082; found 457.2077.。
【0066】
実施例1-4.4-ニトロフェニルアラニル-(4-プロパノイルアミノ)フェニルアラニンイソプロピルエステル塩酸塩(化合物4の塩酸塩)
N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-アミノフェニルアラニンイソプロピルエステル(150 mg, 0.46 mmol)を脱水テトラヒドロフラン (5 mL) に溶解し、室温撹拌下、トリエチルアミン(130 μL, 0.93 mmol)、塩化プロパノイル(60.9 μL, 0.70 mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して無色油状物を得た。油状物に4M 塩酸-酢酸エチル溶液(2 mL)を加え、室温で30分間攪拌した後、反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、白色固体を得た (収量 136 mg, 収率 92%)。
MS (ESI) m/z: calcd for C15H23N2O3[M + H]+ 279.2; found 279.2.
得られた4-プロパノイルアミノフェニルアラニンイソプロピルエステル塩酸塩(31.5 mg, 0.10 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド (2 mL) に溶解し、氷冷攪拌下、トリエチルアミン(14.0 μL, 0.10 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(16.8 mg, 0.11 mmol)、N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ニトロ-L-フェニルアラニン(34.1 g, 0.11 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(21.1 mg, 0.11 mmol)を順に加え、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して橙色油状物(58.6 mg)を得た。得られた固体を4M 塩酸-酢酸エチル溶液(1.5 mL)と混合して、室温で30分間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、白色固体を得た (収量 50.6 mg, 収率 quant. , ジアステレオマー混合物)。
MS (ESI) m/z: calcd for C24H31N4O6[M + H]+ 471.2; found 471.2.。
【0067】
実施例1-5.4-ニトロフェニルアラニル-(4-ブタノイルアミノ)フェニルアラニンイソプロピルエステル塩酸塩(化合物5の塩酸塩)
N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-アミノ-L-フェニルアラニンイソプロピルエステル(150 mg, 0.46 mmol)を脱水テトラヒドロフラン (5 mL) に溶解し、室温撹拌下、トリエチルアミン(130 μL, 0.93 mmol)、塩化ブタノイル(72.9 μL, 0.70 mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して無色油状物を得た。油状物に4M 塩酸-酢酸エチル溶液(2 mL)を加え、室温で30分間攪拌した後、反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、白色固体を得た (収量 145 mg, 収率 94%)。
MS (ESI) m/z: calcd for C16H25N2O3[M + H]+ 293.2; found 293.2.
得られた4-ブタノイルアミノフェニルアラニンイソプロピルエステル塩酸塩(32.9 mg, 0.10 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド (2 mL) に溶解し、氷冷攪拌下、トリエチルアミン(14.0 μL, 0.10 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(16.8 mg, 0.11 mmol)、N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ニトロ-L-フェニルアラニン(34.1 g, 0.11 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(21.1 mg, 0.11 mmol)を順に加え、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して橙色油状物(58.2 mg)を得た。得られた固体を4M 塩酸-酢酸エチル溶液(1.5 mL)と混合して、室温で30分間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、白色固体を得た (収量 50.1 mg, 収率 96%, ジアステレオマー混合物)。
MS (ESI) m/z: calcd for C25H33N4O6[M + H]+ 485.2; found 485.2.。
【0068】
実施例1-6.4-ニトロフェニルアラニル-(4-ペンタノイルアミノ)フェニルアラニンイソプロピルエステル塩酸塩(化合物6の塩酸塩)
N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-アミノフェニルアラニンイソプロピルエステル(150 mg, 0.46 mmol)を脱水テトラヒドロフラン (5 mL) に溶解し、室温撹拌下、トリエチルアミン(130 μL, 0.93 mmol)、塩化ペンタノイル(84.2 μL, 0.70 mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して無色油状物を得た。油状物に4M 塩酸-酢酸エチル溶液(2 mL)を加え、室温で30分間攪拌した後、反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、白色固体を得た (収量 155 mg, 収率 97%)。
MS (ESI) m/z: calcd for C17H27N2O3[M + H]+ 307.2; found 307.2.
得られた4-プロパノイルアミノフェニルアラニンイソプロピルエステル塩酸塩(34.3 mg, 0.10 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド (2 mL) に溶解し、氷冷攪拌下、トリエチルアミン(14.0 μL, 0.10 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(16.8 mg, 0.11 mmol)、N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ニトロ-L-フェニルアラニン(34.1 g, 0.11 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(21.1 mg, 0.11 mmol)を順に加え、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して橙色油状物(59.1 mg)を得た。得られた固体を4M 塩酸-酢酸エチル溶液(1.5 mL)と混合して、室温で30分間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、白色固体を得た (収量 49.5 mg, 収率 92%, ジアステレオマー混合物)。
MS (ESI) m/z: calcd for C26H35N4O6[M + H]+ 499.3; found 499.2.。
【0069】
実施例1-7.4-クロロフェニルアラニル-(4-アセチルアミノ)フェニルアラニンイソプロピルエステル塩酸塩(化合物7の塩酸塩)
得られた4-アセチルアミノフェニルアラニンイソプロピルエステル塩酸塩(30.1 mg, 0.10 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド (2 mL) に溶解し、氷冷攪拌下、トリエチルアミン(14.0 μL, 0.10 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(16.8 mg, 0.11 mmol)、N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-4-クロロ-L-フェニルアラニン(33.0 mg, 0.11 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(21.1 mg, 0.11 mmol)を順に加え、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して橙色油状物(48.0 mg)を得た。得られた固体を4M 塩酸-酢酸エチル溶液(1.5 mL)と混合して、室温で30分間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、白色固体を得た (収量 37.7 mg, 収率 78%, ジアステレオマー混合物)。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ ppm 1.13 (d, J=6.31 Hz, 3 H), 1.19 (d, J=5.99 Hz, 3 H), 2.00 (s, 3 H), 2.69 - 2.82 (m, 2 H), 2.95 (td, J=14.58, 5.20 Hz, 2 H), 4.03 (br s, 1 H), 4.41 - 4.55 (m, 1 H), 4.88 (dt, J=12.61, 6.31 Hz, 1 H), 7.01 (d, J=8.20 Hz, 2 H), 7.13 (d, J=8.51 Hz, 2 H), 7.28 - 7.38 (m, 2 H), 7.49 (d, J=8.51 Hz, 2 H), 8.06 (br s, 3 H), 8.99 (br d, J=8.20 Hz, 1 H), 9.89 (s, 1 H); MS (ESI) m/z: calcd for C23H29ClN3O4[M + H]+ 446.2; found 466.3.。
【0070】
比較例1.化合物の合成
以下の化合物(誘導体8、誘導体8のメチルエステル、誘導体8のプロピルエステル体、化合物2のメチルエステル体)の塩酸塩を合成した。
【0071】
【0072】
比較例1-1.3-クロロフェニルアラニル-O-メチルチロシンイソプロピルエステル塩酸塩(誘導体8の塩酸塩)
O-メチルチロシンイソプロピルエステル塩酸塩(1.00 g, 3.65 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド (50 mL) に溶解し、氷冷攪拌下、トリエチルアミン(510 μL, 3.65 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(0.614 g, 4.01 mmol)、N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-3-クロロ-L-フェニルアラニン(1.20 g, 4.01 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(0.769 g, 4.01 mmol)を順に加え、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して白色固体(2.13 g)を得た。得られた白色固体をアニソール(793 μL, 7.30 mmol)、4M 塩酸-酢酸エチル溶液(12 mL)と混合して、室温で1時間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、得られた粗生成物をメタノール(10 mL)に溶解し、シリンジフィルター(孔径 0.45 μm)を通し、減圧濃縮して乾燥後、白色固体を得た (収量 1.58 g, 収率 95%)。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ ppm 1.06 (d, J=6.31 Hz, 3 H), 1.16 (d, J=6.31 Hz, 3 H), 2.89 - 3.05 (m, 3 H), 3.24 (dd, J=14.03, 5.20 Hz, 1 H), 3.72 (s, 3 H), 4.13 (dd, J=7.57, 5.36 Hz, 1 H), 4.41 (q, J=7.25 Hz, 1 H), 4.84 (quin, J=6.31 Hz, 1 H), 6.77 - 6.91 (m, 2 H), 7.20 (m, J=8.83 Hz, 2 H), 7.24 - 7.39 (m, 3 H), 7.44 (s, 1 H), 8.33 (br s, 3 H), 9.22 - 9.37 (m, 1 H); MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C19H29N2O4[M + H]+ 419.1732; found 419.1755.。
【0073】
比較例1-2.3-クロロフェニルアラニル-O-メチルチロシンメチルエステル塩酸塩(誘導体8のメチルエステル体の塩酸塩)
O-メチルチロシンメチルエステル塩酸塩(100 mg, 0.41 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド (2 mL) に溶解し、氷冷攪拌下、トリエチルアミン(220 μL, 1.57 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(68.9 mg, 0.45 mmol)、N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-3-クロロ-L-フェニルアラニン(135 mg, 0.45 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(86.3 mg, 0.45 mmol)を順に加え、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して白色固体を得た。得られたN-α-(tert-ブトキシカルボニル)-3-クロロ-L-フェニルアラニル-O-メチルチロシンメチルエステルをアニソール(71 μL, 0.65 mmol)、4M 塩酸-酢酸エチル溶液(1.1 mL)と混合して、室温で1時間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、得られた粗生成物をHPLCにより精製し、凍結乾燥後、白色粉末を得た (収量 73.5 mg, 収率 42%)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ ppm 2.89 - 3.03 (m, 3 H), 3.15 (dd, J=14.18, 5.01 Hz, 1 H), 3.62 (s, 3 H), 3.72 (s, 3 H), 4.08 (br. s., 1 H), 4.52 (td, J=7.79, 5.93 Hz, 1 H), 6.82 - 6.89 (m, 2 H), 7.13 - 7.20 (m, 2 H), 7.22 - 7.28 (m, 1 H), 7.31 - 7.42 (m, 3 H), 8.20 (br. s., 3 H), 9.09 (d, J=7.58 Hz, 1 H); MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C20H24ClN2O4[M + H]+ 391.1419; found, 391.1419.。
【0074】
比較例1-3.3-クロロフェニルアラニル-O-メチルチロシンプロピルエステル塩酸塩(誘導体8のプロピルエステル体の塩酸塩)
N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-3-クロロ-L-フェニルアラニル-O-メチルチロシンメチルエステル (444 mg, 0.903 mmol)をメタノール (3 mL)に溶解し、1M 水酸化ナトリウム水溶液 (2.71 mL, 2.71 mmol) を加え、室温で30分間撹拌した。反応液を減圧濃縮してメタノールを留去し、残渣に10%クエン酸溶液を加えて酸性(pH 3)にし、酢酸エチルにより抽出した。酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して白色固体を得た(収量 439mg, 収率 quant.)。
MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C24H30ClN2O6[M + H]+ 477.1787; found, 477.1760.
N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-3-クロロ-L-フェニルアラニル-O-メチルチロシンを(60 mg, 0.13 mmol)を脱水N,N-ジメチルホルムアミド (3 mL) に溶解し、(81.5 mg, 0.25 mmol)を加え、室温撹拌下、1-ブロモプロパン(23 mg, 0.14 mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応液をろ過して減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して得られた固体にアニソール(20 μL, 0.18 mmol)と4M 塩酸-酢酸エチル溶液(0.3 mL)を加え、室温で30分間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、白色固体を得た。得られた粗生成物をHPLC精製し、凍結乾燥後、白色粉末を得た(収量 34 mg, 収率 58%)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ ppm 0.82 (t, J=7.40 Hz, 3 H), 1.47 - 1.58 (m, 2 H), 2.89 - 3.03 (m, 3 H), 3.16 (dd, J=14.18, 4.77 Hz, 1 H), 3.72 (s, 3 H), 3.92 - 4.04 (m, 2 H), 4.08 (dd, J=8.19, 5.01 Hz, 1 H), 4.47 - 4.55 (m, 1 H), 6.81 - 6.90 (m, 2 H), 7.14 - 7.21 (m, 2 H), 7.23 - 7.28 (m, 1 H), 7.31 - 7.38 (m, 2 H), 7.40 (s, 1 H), 8.16 (br. s., 3 H), 9.10 (d, J=7.58 Hz, 1 H); MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C22H28ClN2O4[M + H]+ 419.1732; found, 419.1719.。
【0075】
比較例1-4.4-ニトロフェニルアラニル-O-メチルチロシンメチルエステル塩酸塩(化合物2のメチルエステル体の塩酸塩)
チロシンメチルエステル塩酸塩(0.695 g, 3.00 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド (20 mL) に溶解し、氷冷攪拌下、トリエチルアミン(419 μL, 3.00 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(0.505 g, 3.30 mmol)、N-α-(tert-ブトキシカルボニル)-3-クロロ-L-フェニルアラニン(1.02 g, 3.30 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(0.633 g, 3.30 mmol)を順に加え、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して白色固体(1.50 g)を得た。得られた固体を脱水N,N-ジメチルホルムアミド (15 mL) に溶解し、炭酸カリウム(0.829 g, 6.00 mmol)を加え、室温撹拌下、ヨウ化メチル(747 μL, 30.0 mmol)を加え、室温で1日間撹拌した。反応液をろ過して減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加えた後、10%クエン酸溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、減圧濃縮して得られた無色油状物をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル, シリカゲル 40 g)により精製して減圧濃縮し、白色固体(1.45g)を得た。得られた白色固体をアニソール(652 μL, 6.00 mmol)、4M 塩酸-酢酸エチル溶液(10 mL)と混合して、室温で30分間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、乾燥後、得られた粗生成物をメタノール(10 mL)に溶解し、シリンジフィルター(孔径 0.45 μm)を通し、減圧濃縮して乾燥後、白色固体を得た (収量 1.27 g, 収率 96%)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ ppm 2.90 - 3.04 (m, 2 H), 3.18 (dd, J=13.82, 7.70 Hz, 1 H), 3.31 - 3.37 (m, 1 H), 3.59 (s, 3 H), 3.72 (s, 3 H), 4.19 (t, J=6.72 Hz, 1 H), 4.43 - 4.51 (m, 1 H), 6.82 - 6.88 (m, 2 H), 7.16 - 7.23 (m, 2 H), 7.63 (m, J=8.80 Hz, 2 H), 8.12 - 8.24 (m, 2 H), 8.45 (br s, 3 H), 9.38 (d, J=7.34 Hz, 1 H); MS (ESI-TOF) m/z: calcd for C20H24N3O6[M + H]+ 402.1660; found 402.1654.。
【0076】
試験例1.ヒトカルボキシエステラーゼ1に対する安定性試験
上記で合成した化合物について、ヒトカルボキシエステラーゼ1に対する安定性を評価した。具体的には以下のようにして行った。
【0077】
化合物のDMSOストック溶液(30 mM)をトリス-塩酸緩衝液(pH 7.4)により希釈して300 μM化合物溶液を随時調製した。0.8 μg/mLヒトカルボキシエステラーゼ1(4920-CE, R&D Systems Inc., Minneapolis, USA)のトリス-塩酸緩衝液50 μLと300 μM化合物溶液50 μLを混合して37 ℃でインキュベーションした。24時間後、1 M 塩酸(5 μL)を加えて反応を停止し、HPLCに30 μLを注入して220 nmにおける化合物のピーク面積を求めた。事前に塩酸と混和したヒトカルボキシエステラーゼ1を調製し、化合物溶液と混ぜてHPLCにより分析したものを0時間のピーク面積とし、24時間後の面積との比率を式1(残存量(%) = (24時間後の化合物ピーク面積) / (0時間後の化合物ピーク面積) × 100)より求めて残存量とした。
【0078】
結果を
図1に示す。実施例の化合物はエステラーゼに対して安定であることが分かった。
【0079】
試験例2.Porphyromonas gingivalisに対する抗菌活性評価
上記で合成した化合物について、Porphyromonas gingivalisに対する抗菌活性を評価した。具体的には以下のようにして行った。
【0080】
Porphyromonas gingivalis W83の細菌懸濁液に, DMSOに溶解し連続2倍希釈法により最終濃度が0.025- 200μMとなるように調製した各化合物を添加した。コントロールには化合物を含まないDMSOを0.2%加えた。また,比較対象として,アジスロマイシン(AZM)とクロルヘキシジン(CHX)を用い,同様に調製を行い細胞懸濁液に添加した。細菌濃度は106CFU/mLとし,変法GAM培地を用い,嫌気条件下,37℃で72時間培養した。MIC(最小発育阻止濃度)は微量液体希釈法にて測定した。MBC(最小殺菌濃度)は細胞懸濁液を血液寒天培地に播種し,嫌気条件下,37℃で48時間培養して測定した。
【0081】
結果を表1に示す。表1中の数値の単位はμMである。実施例の化合物はPorphyromonas gingivalisに対して強い抗菌活性を示した。
【0082】
【0083】
試験例3.口腔内細菌に対する増殖抑制効果
上記で合成した化合物について、口腔内細菌に対する増殖抑制効果を評価した。具体的には以下のようにして行った。
【0084】
106 CFU/mLの各種口腔内細菌をそれぞれ以下の条件下にて培養し,MIC(最小発育阻止濃度)を微量液体希釈法にて測定した。各化合物は,DMSOに溶解し連続2倍希釈法により最終濃度が0.025- 200μMとなるように調製し添加した。コントロールには化合物を含まないDMSOを0.2%加えた。また,比較対象として,アジスロマイシン(AZM)を用い,同様に調製を行い細胞懸濁液に添加した。
Porphyromonas gingivalis W83:変法GAM培地,嫌気条件下,37℃,72時間培養
Fusobacterium nucleatum ATCC 25586:変法GAM培地,嫌気条件下,37℃,72時間培養
Prevotella intermedia ATCC 25611:変法GAM培地,嫌気条件下,37℃,48時間培養
Aggregatibacter actinomycetencomitans JP2:TSB培地に6 mg/mL 酵母エキスおよび 0.4 mg/mL of重炭酸ナトリウムを加えた培地,嫌気条件下,37℃,24時間培養
Streptococcus mitis ATCC 903:BHI培地,好気条件下,37℃,24時間培養。
【0085】
結果を表2に示す。表2中の数値の単位はμMである。実施例の化合物1は,Porphyromonas gingivalisの他,P. intermediaに弱い増殖抑制効果を示した。化合物2および3は、Porphyromonas gingivalis以外の口腔内細菌に対しては増殖抑制効果を示さず、Porphyromonas gingivalis特異性を示した。
【0086】
【0087】
試験例4.口腔由来上皮細胞株に対する細胞毒性試験
上記で合成した化合物について、口腔由来上皮細胞株に対する細胞毒性を評価した。具体的には以下のようにして行った。
【0088】
ヒト口腔由来上皮細胞株Ca9-22を105 cells/wellにて96穴プレートに播種し,DMSOに溶解し最終濃度が50- 200μMとなるように調製した各化合物を添加した。コントロールには化合物を含まないDMSOを0.2%加え,この細胞生存率を100%とした。また,比較対象として,アジスロマイシン(AZM)を用いた。Ca9-22細胞は,DMEM培地に10%ウシ胎児血清,50U/mLペニシリンおよび50μg/mLストレプトマイシンを加えた培地を用い,37℃,5%CO2の条件下で24時間培養を行った。MTT [3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide] Assayを行いOD570を測定し,式2(細胞生存率(%)=「OD570(化合物を含む)」/「OD570(化合物を含まない)」× 100)より細胞生存率(Survival rate%)を評価した。
【0089】
結果を
図2に示す。実施例の化合物は動物細胞に対する細胞毒性を示さなかった。