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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085474
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】エンコーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/244 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
G01D5/244 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199967
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】小野 祥弥
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA10
2F077AA13
2F077AA24
2F077CC02
2F077NN02
2F077NN04
2F077NN29
2F077NN30
2F077PP19
2F077QQ01
2F077QQ15
2F077QQ17
2F077RR28
2F077TT87
2F077UU03
(57)【要約】
【課題】エンコーダ装置の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置内部で生成する。
【解決手段】エンコーダ装置100は、回転軸110と、回転軸110を回転可能に支持する軸受105と、回転軸110に取り付けられ、符号を付与された回転符号板120と、回転符号板120に付与された符号を読み取って検出信号を生成する検出部130と、検出信号を処理し、回転符号板120の回転角度を算出する信号処理部140と、回転軸110または回転符号板120の回転を利用して電力を生成する発電部160と、を備える。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成することが可能になる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(110)と、
前記回転軸(110)を回転可能に支持する軸受(105)と、
前記回転軸(110)に取り付けられ、符号を付与された回転符号板(120)と、
前記回転符号板(120)に付与された前記符号を読み取って検出信号を生成する検出部(130)と、
前記検出信号を処理し、前記回転符号板(120)の回転角度を算出する信号処理部(140)と、
前記回転軸(110)の回転または前記回転符号板(120)の回転を利用して電力を生成する発電部(160)と、
を備えるエンコーダ装置。
【請求項2】
前記発電部(160)は、摩擦部(161)と熱電発電素子(162)とを備え、
前記摩擦部(161)は、回転する部位と接触することにより摩擦熱を発生し、
前記熱電発電素子(162)は、前記摩擦熱を高熱源部位として利用して熱電発電を行う、
請求項1に記載のエンコーダ装置。
【請求項3】
前記発電部(160)は、磁石部(163)と巻線部(164)とを備え、
前記磁石部(163)は、回転する部位と共に回転し、
前記巻線部(164)は、回転する前記磁石部(163)の磁束を利用して電磁誘導により発電を行う、
請求項1に記載のエンコーダ装置。
【請求項4】
制御部(150)と、
前記発電部(160)で得られた電力により温度を調整する温度調整部(170)と、
センサ(180)と、
を更に備え、
前記制御部(150)は、前記センサ(180)により検出された温度を、予め定められた設定温度範囲に収めるように、前記温度調整部(170)を制御する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のエンコーダ装置。
【請求項5】
制御部(150)と、
センサ(180)と、
前記制御部(150)の制御に基づいて、前記発電部(160)で得られる電力を用いて報知を行う報知部(190)と、
を更に備え、
前記制御部(150)は、前記センサ(180)により検出された前記エンコーダ装置内の状態に応じて表示を行うよう前記報知部(190)を制御する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のエンコーダ装置。
【請求項6】
前記温度調整部(170)は、加熱または冷却により温度を調整する、
請求項4に記載のエンコーダ装置。
【請求項7】
前記温度調整部(170)は、前記信号処理部(140)の周囲、または前記信号処理部(140)の回路基板に設けられている、
請求項4に記載のエンコーダ装置。
【請求項8】
前記温度調整部(170)は、温度変化の影響を他の素子よりも受けやすい素子に隣接するように設けられている、
請求項7に記載のエンコーダ装置。
【請求項9】
前記温度調整部(170)は、前記制御部(150)の制御に基づいて前記軸受(105)の温度を調整する、
請求項4に記載のエンコーダ装置。
【請求項10】
前記制御部(150)は、予め設定された値、または外部から与えられる値を前記設定温度範囲として、前記温度調整部(170)による温度の調整を制御する、
請求項4に記載のエンコーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンコーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンコーダ装置は、ケーブルを介して上位装置から電力の供給を受けつつ、測定対象物に応じて回転する回転符号板の回転状態を検出し、1回転内角度についての1回転情報と回転数についての多回転情報とを、ケーブルを介して上位装置に出力する。
【0003】
エンコーダ装置は、周囲の環境に応じて内部の温度も変化する。エンコーダ内部の信号処理部は、想定温度範囲より低温でも高温でも、コンデンサやトランジスタの特性が変化し、所望の動作を期待できないことがある。エンコーダ装置の動作が正常でなくなると、エンコーダを有する系が機能しなくなる。この対策として、エンコーダ内部の温度低下に応じて抵抗体に電流を流して加熱することが、特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-225023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンコーダ装置の内部で抵抗体に電流を流して加熱する場合、回転検出に必要な電力に対して加熱に必要な電力は大きいため、回転検出に必要な電力に加えて加熱に必要な電力を外部から供給する必要がある。このため、加熱のための電力をエンコーダ装置に供給できるように、上位装置の設定を変更しなければならないという問題があった。
【0006】
すなわち、上位装置からエンコーダ装置に対して加熱に対応した電力の供給をしない限り、エンコーダ装置内部の温度調整をすることができず、動作可能温度範囲外の低温環境または高温環境で正常な動作をすることはできないという課題が存在している。
【0007】
一方、エンコーダ装置で何らかの異常を検知した場合、上位装置に異常を通知するだけでなく、エンコーダ装置そのものから周囲に異常を報知できることが望ましい。この場合、異常の報知として警告ランプの点灯またはサイレンの鳴動などを行う場合、本来の回転検出よりも大きな電力を必要とする。このため、異常の報知のための電力をエンコーダ装置に供給できるように、上位装置の設定を変更しなければならないという問題があった。
【0008】
したがって、上位装置からエンコーダ装置に対する電力供給の設定を変更することなく、温度調整または異常報知に必要な電力をエンコーダ装置側でまかなえることが望まれていた。
本発明は、エンコーダ装置の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置側で生成することが可能なエンコーダ装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るエンコーダ装置は、回転軸と、回転軸を回転可能に支持する軸受と、回転軸に取り付けられ、符号を付与された回転符号板と、回転符号板に付与された符号を読み取って検出信号を生成する検出部と、検出信号を処理し、回転符号板の回転角度を算出する信号処理部と、回転軸の回転または回転符号板の回転を利用して電力を生成する発電部と、を備える。
【0010】
この発明に係るエンコーダ装置において、発電部は、摩擦部と熱電発電素子とを備え、摩擦部は、回転する部位と接触することにより摩擦熱を発生し、熱電発電素子は、摩擦熱を高熱源部位として利用して熱電発電を行う。
【0011】
この発明に係るエンコーダ装置において、発電部は、磁石部と巻線部とを備え、磁石部は、回転する部位と共に回転し、巻線部は、回転する磁石部の磁束を利用して電磁誘導により発電を行う。
【0012】
この発明に係るエンコーダ装置において、制御部と、発電部で得られた電力により温度を調整する温度調整部と、センサと、を更に備え、制御部は、センサにより検出された温度を、予め定められた設定温度範囲に収めるように、温度調整部を制御する。
【0013】
この発明に係るエンコーダ装置において、制御部と、センサと、制御部の制御に基づいて、発電部で得られる電力を用いて報知を行う報知部と、を更に備え、制御部は、センサにより検出されたエンコーダ装置内の状態に応じて表示を行うよう報知部を制御する。
【0014】
この発明に係るエンコーダ装置において、温度調整部は、加熱または冷却により温度を調整する。
【0015】
この発明に係るエンコーダ装置において、温度調整部は、信号処理部の周囲、または信号処理部の回路基板に設けられている。
【0016】
この発明に係るエンコーダ装置において、温度調整部は、温度変化の影響を他の素子よりも受けやすい素子に隣接するように設けられている。
【0017】
この発明に係るエンコーダ装置において、温度調整部は、制御部の制御に基づいて軸受の温度を調整する。
【0018】
この発明に係るエンコーダ装置において、制御部は、予め設定された値、または外部から与えられる値を設定温度範囲として、温度調整部による温度の調整を制御する。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、エンコーダ装置の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置側で生成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置の構成を示す構成図である。
図2】本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置の回路構成を示す回路図である。
図3】本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置の構成を示す構成図である。
図4】本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置の特性を示す特性図である。
図5】本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置の特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のエンコーダ装置の実施の形態につき、図面を用いて説明する。なお、各図において、同一部分には同一符号を付している。
実施の形態1.
本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置100の基本的な構成について、図1図3を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置100の構成を示す構成図である。図2は、本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置100の回路構成を示す回路図である。図3は、本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置100の構成を示す構成図である。
【0022】
[エンコーダ装置100の構成]
図1において、エンコーダ装置100は、軸受105と、回転軸110と、回転符号板120と、検出部130と、信号処理部140と、制御部150と、発電部160と、温度調整部170と、センサ180と、報知部190と、ケーブル195と、を有する。
【0023】
エンコーダ装置100は、ケーブル195を介して、図示しない上位装置に対して通信可能に接続されている。軸受105は、回転軸110を回転可能に支持する。
回転軸110は、測定対象物に接続され、測定対象物と等速で回転する。回転符号板120は、回転軸110に取り付けられており、測定対象物と等速で回転する。回転符号板120には、スリット又は反射部等の光学的に読み取り可能な符号が設けられている。
【0024】
検出部130は、発光部と受光部とを備えて構成され、回転符号板120に設けられたスリット又は反射部等の符号を光学的に読み取り、検出信号を生成する。検出部130は、生成した検出信号を、信号処理部140の信号入力に供給する。
【0025】
信号処理部140は、検出部130で生成された検出信号を演算処理し、回転情報を生成する。信号処理部140は、生成した回転情報を、ケーブル195を介して外部の上位装置へ出力する。
【0026】
制御部150は、センサ180により検出されたエンコーダ装置100内の温度に基づいて、温度調整部170の温度調整と報知部190の報知とを制御する。
【0027】
発電部160は、回転軸110または回転符号板120の回転を利用し、熱電変換または電磁誘導により発電し、発電により生成した電力を温度調整部170と報知部190とに供給する。発電部160には、熱電変換による発電のための摩擦部161及び熱電発電素子162(図1参照)、または、電磁誘導による発電のための磁石部163及び巻線部164(図3参照)の少なくとも一方が設けられている。
【0028】
温度調整部170は、制御部150の制御に基づいて、発電部160で発電された電力を利用し、センサ180で検出された温度を予め定められた設定温度範囲に収めるよう調整する。温度調整部170は、信号処理部140の周囲または信号処理部140の回路基板、あるいは軸受105の近傍に設けられている。
【0029】
センサ180は、温度によって抵抗値などの特性に変化を生じる素子を含んで構成されている。センサ180は、検出した温度を制御部150に通知する。あるいは、制御部150がセンサ180の抵抗値などを読み取る。センサ180は、エンコーダ装置100内、具体的には、信号処理部140の周囲、信号処理部140の回路基板、または軸受105の近傍に設けられている。
【0030】
報知部190は、エンコーダ装置100内の状態に応じた制御部150の制御に基づいて、発電部160で発電された電力を利用し、警告発光、メッセージ表示、サイレン鳴動などの報知を行う。ケーブル195は、エンコーダ装置100と図示しない上位装置とを通信可能に接続する。
【0031】
[エンコーダ装置100の動作]
ここで、実施の形態1のエンコーダ装置100の動作を、回転検出、内部発電、温度調整(1)、温度調整(2)、及び異常報知に分けて詳細に説明する。なお、エンコーダ装置100は、以下に説明する温度調整(1)、温度調整(2)、及び異常報知のうちの少なくとも一つを実行する構成を有していればよい。
【0032】
・回転検出
エンコーダ装置100は、回転検出の動作に必要な電力の供給を、ケーブル195を介して上位装置から受ける。すなわち、検出部130、信号処理部140、及び制御部150の動作に必要な電力の供給を、ケーブル195を介して上位装置から受ける。
回転符号板120は、回転軸110に取り付けられており、測定対象物と等速で回転する。検出部130は、回転する回転符号板120のスリット又は反射部に向けて発光部から光を照射し、反射部で反射した光またはスリットを透過した光を受光部で受光する。検出部130は、受光部で受光した光の断続から検出信号を生成し、生成した検出信号を信号処理部140の信号入力に供給する。
【0033】
信号処理部140は、検出部130で得られた検出信号を演算処理し、回転符号板120の1回転内角度についての1回転情報と、回転数についての多回転情報とを含む回転情報を生成する。信号処理部140は、1回転情報と多回転情報とを含む回転情報を、ケーブル195を介して外部の上位装置へ出力する。
【0034】
・内部発電
発電部160は、以下のように、回転符号板120の回転または回転軸110の回転を利用して発電を行う。ここで、発電部160は、以下に示す摩擦熱を用いた熱電発電、または電磁誘導による発電のいずれかを行う。
図1に示す発電部160の第1具体例は、摩擦部161と熱電発電素子162とを備える。摩擦部161は、回転する回転軸110の表面に接触することで、摩擦熱を発生する。熱電発電素子162は、摩擦部161に一部接触するように構成され、摩擦部161に接する高熱源部位と摩擦部161に接しない低熱源部位との温度差を利用し、ペルチェ効果の逆作用であるゼーベック効果により熱電発電を行う。
図3に示す発電部160の第2具体例は、磁石部163と巻線部164とを備える。磁石部163と巻線部164とを備え、磁石部163は回転する部位と共に回転し、巻線部164は回転する磁石部163の磁束を利用して電磁誘導により発電を行う。
なお、図1及び図3のように回転軸110の回転を利用して発電する場合、回転軸110は測定対象物に直結されているため、回転検知に影響を与えず、安定した状態で発電することが可能になる。
また、図1及び図3の具体例において発電部160は回転軸110の回転を利用しているが、回転符号板120の回転を利用して発電してもよい。回転符号板120の回転を利用して発電する場合、回転符号板120の面積と線速度とにより、回転軸110を利用するよりも大きな電力を発電できる可能性がある。
【0035】
・温度調整(1)
制御部150は、センサ180により検出されたエンコーダ装置100内の温度に基づいて、温度調整部170を以下のように制御する。
温度調整部170は、制御部150の制御に基づいて、発電部160で発電された電力を利用し、センサ180により検出されたエンコーダ装置100内の温度を予め定められた設定温度範囲に収めるよう調整する。
【0036】
この設定温度範囲は、エンコーダ装置100の動作可能な温度範囲、具体的には信号処理部140の動作可能な温度範囲に合わせて設定することが望ましい。例えば、動作可能な温度範囲が-20℃~100℃である場合、設定温度範囲を-15℃~95℃などのように若干の余裕を持たせて設定することが望ましい。設定温度範囲は、制御部150内に予め定められていてもよいし、上位装置など外部から通信により設定または変更されてもよい。
【0037】
このため、「設定温度範囲に収める」とは、設定温度範囲の上限値を上回らないように冷却する場合と、設定温度範囲の下限値を下回らないように加熱する場合との二種類の制御により実現される。なお、エンコーダ装置100が低温環境でのみ使用される場合、「設定温度範囲に収める」とは、下限値を下回らないように加熱する制御により実現される。一方、エンコーダ装置100が高温環境でのみ使用される場合、「設定温度範囲に収める」とは、上限値を上回らないように冷却する制御により実現される。
【0038】
センサ180による検出温度が設定温度範囲より低ければ、制御部150の制御に基づいて、温度調整部170は、抵抗体を用いた加熱により信号処理部140の温度を上昇させる。一方、センサ180による検出温度が設定温度範囲より高ければ、制御部150の制御に基づいて、温度調整部170は、ペルチェ素子を用いた冷却により信号処理部140の温度を低下させる。温度調整部170の抵抗体あるいはペルチェ素子を、信号処理部140の回路基板上で温度変化の影響を他の素子よりも受けやすい素子に隣接するように設けることで、温度の調整を効率的に行うことができる。
【0039】
・温度調整(2)
制御部150は、センサ180により検出された軸受105近傍の温度に基づいて、温度調整部170を以下のように制御する。この場合、センサ180及び温度調整部170を軸受105の近傍に設けておく。
温度調整部170は、制御部150の制御に基づいて、発電部160で発電された電力を利用し、センサ180により検出された軸受105の温度を予め定められた設定温度範囲に収めるよう調整する。
【0040】
この設定温度範囲は、軸受105の動作可能な温度範囲、具体的には軸受105に用いられるグリスの動作可能な温度範囲に合わせて設定することが望ましい。例えば、軸受105の動作可能な温度範囲が-30℃~120℃である場合、設定温度範囲を-25℃~115℃などのように若干の余裕を持たせて設定することが望ましい。
設定温度範囲は、制御部150内に予め定められていてもよいし、上位装置など外部から通信により設定または変更されてもよい。なお、エンコーダ装置100が低温環境でのみ使用される場合、「設定温度範囲に収める」とは、下限値を下回らないように加熱する制御により実現される。一方、エンコーダ装置100が高温環境でのみ使用される場合、「設定温度範囲に収める」とは、上限値を上回らないように冷却する制御により実現される。
【0041】
センサ180による検出温度が設定温度範囲より低ければ、制御部150の制御に基づいて、温度調整部170は、抵抗体を用いた加熱により信号処理部140の温度を上昇させる。一方、センサ180による検出温度が設定温度範囲より高ければ、制御部150の制御に基づいて、温度調整部170は、ペルチェ素子を用いた冷却により信号処理部140の温度を低下させる。
【0042】
・異常報知
制御部150は、センサ180により検出されたエンコーダ装置100内の温度に基づいて、報知部190を以下のように制御する。報知部190は、エンコーダ装置100内の状態に応じた制御部150の制御に基づいて、発電部160で発電された電力を利用し、警告発光、メッセージ表示、サイレン鳴動などの報知を行う。
異常の報知としては、センサ180により検出されたエンコーダ装置100内の温度、具体的には、信号処理部140の温度または軸受105の温度が設定温度範囲の上限値または下限値に近づいたことを報知する。
【0043】
報知の具体例として、
(a)信号処理部140の温度が、設定温度範囲の上限値または下限値に近づいた、
(b)信号処理部140の温度が、複数回繰り返し、設定温度範囲の上限値または下限値に近づいた、
(c)信号処理部140の温度は設定温度範囲内であるものの、軸受105の温度が設定温度範囲の上限値または下限値に近づいた、
などを報知する内容に応じて、警告発光色、メッセージ内容、またはサイレン音を変更して報知してもよい。
また、制御部150は、信号処理部140で生成された回転情報を参照し、予め定められた範囲を超える回転上昇、回転低下、または回転ばらつきなどの何らかの異常を検知した場合、上位装置に異常を通知するだけでなく、発電部160で発電された電力を利用し、報知部190により異常の報知を行うようにしてもよい。
【0044】
[実施の形態の効果]
実施の形態1のエンコーダ装置100は、回転軸110と、回転軸110を回転可能に支持する軸受105と、回転軸110に取り付けられ、符号を付与された回転符号板120と、回転符号板120に付与された符号を読み取って検出信号を生成する検出部130と、検出信号を処理し、回転符号板120の回転角度を算出する信号処理部140と、回転軸110の回転または回転符号板120の回転を利用して電力を生成する発電部160と、を備える。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成することが可能になる。
【0045】
実施形態1のエンコーダ装置100において、発電部160は、摩擦部161と熱電発電素子162とを備え、摩擦部161は、回転する部位と接触することにより摩擦熱を発生し、熱電発電素子162は、摩擦熱を高熱源部位として利用して熱電発電を行う。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成することが可能になり、回転軸110の回転を利用して発電することにより、安定した状態で発電することが可能になる。
【0046】
実施形態1のエンコーダ装置100において、発電部160は、磁石部163と巻線部164とを備え、磁石部163は、回転する部位と共に回転し、巻線部164は、回転する磁石部163の磁束を利用して電磁誘導により発電を行う。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成することが可能になり、回転軸110の回転を利用して発電することにより、安定した状態で発電することが可能になる。
【0047】
実施形態1のエンコーダ装置100において、制御部150と、発電部160で得られた電力により温度を調整する温度調整部170と、センサ180と、を更に備え、制御部150は、センサ180により検出されたエンコーダ装置100内の温度を、予め定められた基準温度に近づけるように、温度調整部170を制御する。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成し、生成した電力を用いてエンコーダ装置100内の温度を調整することが可能になる。
【0048】
実施形態1のエンコーダ装置100において、制御部150と、センサ180と、制御部150の制御に基づいて、発電部160で得られる電力を用いて報知を行う報知部190と、を更に備え、制御部150は、センサ180により検出されたエンコーダ装置100内の状態に応じて表示を行うよう報知部190を制御する。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成し、生成した電力を用いてエンコーダ装置100の状態を表示することが可能になる。
【0049】
実施形態1のエンコーダ装置100において、温度調整部170は、加熱または冷却により温度を調整する。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成し、生成した電力を用いて、設定温度範囲の上限値を上回らないように冷却し、または、設定温度範囲の下限値を下回らないように加熱することで、エンコーダ装置100内の温度を設定温度範囲内に調整することが可能になる。
【0050】
実施形態1のエンコーダ装置100において、温度調整部170は、信号処理部140の周囲、または信号処理部140の回路基板に設けられている。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成し、生成した電力を用いて信号処理部140の温度を調整することが可能になる。
【0051】
実施形態1のエンコーダ装置100において、温度調整部170は、温度変化の影響を他の素子よりも受けやすい素子に隣接するように設けられている。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成し、生成した電力を用いて、信号処理部140内で温度変化の影響を他の素子よりも受けやすい素子の温度を調整することが可能になる。
【0052】
実施形態1のエンコーダ装置100において、温度調整部170は、制御部150の制御に基づいて軸受105の温度を調整する。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成し、生成した電力を用いて軸受105の温度を調整することが可能になる。
【0053】
実施形態1のエンコーダ装置100において、制御部150は、予め設定された値、または外部から与えられる値を設定温度範囲として、温度調整部170による温度の調整を制御する。これにより、エンコーダ装置100の回転検出以外の動作に必要な電力をエンコーダ装置100側で生成し、生成した電力を用いて、予め設定された値または外部から与えられる値の設定温度範囲内に、エンコーダ装置100内の温度を調整することが可能になる。
【0054】
[実施例1]
ここで、図4を参照して、温度調整部170による温度の調整を説明する。図4は、本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置100の特性を示す特性図である。そして、設定温度範囲の下限値をTth1 とする。
時刻t1においてエンコーダ装置100内の温度Tが設定温度範囲内のT1であったとする。ここで、時刻t2に何らかの理由により温度TがT1より低下し始める。時刻t3において温度Tが設定温度範囲の下限値をTth1 に達すると、制御部150の制御に基づいて、温度調整部170は、発電部160で発電された電力を利用し、センサ180により検出されたエンコーダ装置100内の温度Tを予め定められた設定温度範囲の下限値Tth1 を下回らないように調整する。従来の制御では、図4の(b)において破線で示すように時刻t3以降も温度の低下が続き、設定温度範囲から外れた状態になる。一方、実施の形態1のエンコーダ装置100の場合、図4の(a)において実線で示すように時刻t3以降は温度の低下が抑制される。
【0055】
[実施例2]
ここで、図5を参照して、温度調整部170による温度の調整を説明する。図5は、本発明の実施の形態1におけるエンコーダ装置100の特性を示す特性図である。そして、設定温度範囲の上限値をTth2 とする。
時刻t1においてエンコーダ装置100内の温度Tが設定温度範囲内のT1であったとする。ここで、時刻t2に何らかの理由により温度TがT1より上昇し始める。時刻t3において温度Tが設定温度範囲の上限値をTth2 に達すると、制御部150の制御に基づいて、温度調整部170は、発電部160で発電された電力を利用し、センサ180により検出されたエンコーダ装置100内の温度Tを予め定められた設定温度範囲の上限値Tth2 を上回らないように調整する。従来の制御では、図5の(b)において破線で示すように時刻t3以降も温度の上昇が続き、設定温度範囲から外れた状態になる。一方、実施の形態1のエンコーダ装置100の場合、図5の(a)において実線で示すように時刻t3以降は温度の上昇が抑制される。
【符号の説明】
【0056】
100 エンコーダ装置、105 軸受、110 回転軸、120 回転符号板、130 検出部、140 信号処理部、150 制御部、160 発電部、161 摩擦部、162 熱電発電素子、163 磁石部、164 巻線部、170 温度調整部、180 センサ、190 報知部、195 ケーブル。
図1
図2
図3
図4
図5