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特開2024-85480有機パラジウム錯体、有機パラジウム錯体の製造方法、アルコール製造用触媒、及びアルコールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085480
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】有機パラジウム錯体、有機パラジウム錯体の製造方法、アルコール製造用触媒、及びアルコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20240620BHJP
   C07C 33/18 20060101ALI20240620BHJP
   C07C 29/38 20060101ALI20240620BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20240620BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240620BHJP
【FI】
C07F15/00 C CSP
C07C33/18
C07C29/38
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199989
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】筒場 健介
(72)【発明者】
【氏名】中島 勇海
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA05
4G169AA06
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA28C
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BE02A
4G169BE02B
4G169BE15A
4G169BE15B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE40A
4G169BE40B
4G169BE41C
4G169BE45C
4G169BE46C
4G169CB25
4G169CB70
4G169DA04
4G169FA01
4G169FB05
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA25
4H006BA47
4H006BA81
4H006FC54
4H006FE11
4H039CA60
4H039CD90
4H050AA01
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB40
4H050AC90
4H050BD10
4H050WB11
4H050WB17
4H050WB22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アルコール製造用触媒として高い性能を持つ有機パラジウム錯体、その製造方法、およびアルコールの製造方法を提供する。
【解決手段】式(1a)で表される化合物等の有機パラジウム錯体を提供する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される有機パラジウム錯体。
【化1】
[式(1)において、
~Rは、互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、
は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のハロアルキル基、フェニルチオ基、又はハロゲン原子であり、
nは、1~4のいずれかの整数であり、
nが2~4である場合において、Rは同じであってよく又は互いに異なっていてもよく、
Xは、ハロゲン原子又はヒドロキシ基である。]
【請求項2】
式(1)において、Xが、ハロゲン原子である、請求項1に記載の有機パラジウム錯体。
【請求項3】
式(1)において、Xが、塩素原子である、請求項1に記載の有機パラジウム錯体。
【請求項4】
請求項1に記載の有機パラジウム錯体の製造方法であって、
バックワルド・ハートウィグアミノ化反応を行うことを含む、有機パラジウム錯体の製造方法。
【請求項5】
1-ブロモ-2-ヨードベンゼンと、
下記式(2)で表される芳香族アミン化合物と、
【化2】
[式(2)において、R~Rは、式(1)と同じである。]
を前記バックワルド・ハートウィグアミノ化反応により反応させて、下記式(3)で表される芳香族アミン化合物
【化3】
[式(3)において、R~Rは、式(1)と同じである。]
を生成する第1工程と、
式(3)で表される芳香族アミン化合物と、下記式(4)で表される芳香族アミン化合物と、
【化4】
[式(4)において、R及びnは、式(1)と同じである。]
を前記バックワルド・ハートウィグアミノ化反応により反応させて、下記式(5)で表される芳香族アミン化合物
【化5】
[式(5)において、R~R、R、及びnは、式(1)と同じである。]
を生成する第2工程と、を含む、請求項4に記載の有機パラジウム錯体の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の有機パラジウム錯体を含む、アルコール製造用触媒。
【請求項7】
請求項6に記載のアルコール製造用触媒の存在下で、アリールホウ素化合物と、カルボニル化合物とを反応させることを含む、アルコールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機パラジウム錯体、有機パラジウム錯体の製造方法、アルコール製造用触媒、及びアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボニル化合物をアリールグリニャール試薬又はアリールリチウム化合物などの有機金属化合物と反応させて、対応するアルコールを製造する方法は古くから知られている。アリールグリニャール試薬及びアリールリチウム化合物は一般的に水で容易に分解するため、設備上の制約が多い製造法となる(非特許文献1)。これに対して、金属触媒と無機塩基を用いてカルボニル化合物をアリールホウ素化合物と反応させてアルコールを製造する方法は、反応系中の水の影響がないため設備上の制約の少ない製造法となる。このような製造法に使用される触媒としてロジウム又はパラジウム錯体が知られている(特許文献1並びに非特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-168640号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Organometallics in Synthesis: Third Manual,2013年.
【非特許文献2】ChemCatChem,第12巻,6291 - 6300ページ,2020年.
【非特許文献3】Applied Organometallic Chemistry,第35巻,e6104ページ,2020年.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び非特許文献2に開示されている有機パラジウム錯体は、アルコール製造用触媒として有用である。しかしながら、これらの有機パラジウム錯体は、毒性の高いボランを用いて製造する必要がある。非特許文献3に開示されているロジウム錯体は、アルコール製造用触媒としての活性が乏しい。
【0006】
そこで、本発明は、毒性の高いボランを用いずに製造でき、アルコール製造用触媒として高い性能を有する有機パラジウム錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ベンズイミダゾール型N-ヘテロ環状カルベンを配位子とする有機パラジウム錯体を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
[1]下記式(1)で表される有機パラジウム錯体。
【化1】
[式(1)において、
~Rは、互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、
は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のハロアルキル基、フェニルチオ基、又はハロゲン原子であり、
nは、1~4のいずれかの整数であり、
nが2~4である場合において、Rは同じであってよく又は互いに異なっていてもよく、
Xは、ハロゲン原子又はヒドロキシ基である。]
[2]式(1)において、Xが、ハロゲン原子である、[1]に記載の有機パラジウム錯体。
[3]式(1)において、Xが、塩素原子である、[1]に記載の有機パラジウム錯体。
[4][1]から[3]のいずれか一つに記載の有機パラジウム錯体の製造方法であって、
バックワルド・ハートウィグアミノ化反応を行うことを含む、有機パラジウム錯体の製造方法。
[5]1-ブロモ-2-ヨードベンゼンと、
下記式(2)で表される芳香族アミン化合物と、
【化2】
[式(2)において、R~Rは、式(1)と同じである。]
を前記バックワルド・ハートウィグアミノ化反応により反応させて、下記式(3)で表される芳香族アミン化合物
【化3】
[式(3)において、R~Rは、式(1)と同じである。]
を生成する第1工程と、
式(3)で表される芳香族アミン化合物と、下記式(4)で表される芳香族アミン化合物と、
【化4】
[式(4)において、R及びnは、式(1)と同じである。]
を前記バックワルド・ハートウィグアミノ化反応により反応させて、下記式(5)で表される芳香族アミン化合物
【化5】
[式(5)において、R~R、R、及びnは、式(1)と同じである。]
を生成する第2工程と、を含む、[4]に記載の有機パラジウム錯体の製造方法。
[6][1]から[3]のいずれか一つに記載の有機パラジウム錯体を含む、アルコール製造用触媒。
[7][6]に記載のアルコール製造用触媒の存在下で、アリールホウ素化合物と、カルボニル化合物とを反応させることを含む、アルコールの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、毒性の高いボランを用いずに製造でき、アルコール製造用触媒として高い性能を有する有機パラジウム錯体が提供される。なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態のみに限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0011】
本発明について以下の順番で説明する。
1.第1の実施形態(有機パラジウム錯体)
2.第2の実施形態(有機パラジウム錯体の製造方法)
3.第3の実施形態(アルコール製造用触媒)
4.第4の実施形態(アルコールの製造方法)
5.実施例
【0012】
1.第1の実施形態(有機パラジウム錯体)
【0013】
本発明は、下記式(1)で表される有機パラジウム錯体を提供する。
【化6】
【0014】
上記有機パラジウム錯体は、アルコール製造用触媒として高い性能を有する。また、当該有機パラジウム錯体は、毒性の高いボランを用いずに製造されうる。
【0015】
式(1)において、R~Rは、互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基である。炭素数1~4のアルキル基は、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であってよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基であってよい。合成の容易さの観点から、上記炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基は、好ましくは炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1又は2のアルキル基(すなわちメチル又はエチル基)である。
【0016】
本実施形態に係る有機パラジウム錯体のアルコール製造用触媒としての触媒活性は、上記アルキル基の炭素数によって変わる場合があると考えられる。そのため、当該有機パラジウム錯体を用いて製造されるアルコールの収率は、上記アルキル基の炭素数によって変わる場合があると考えられる。後述する実施例において、R~Rが炭素数2のアルキル基(エチル基)の有機パラジウム錯体を用いて製造されるアルコールの収率は、R~Rが炭素数1のアルキル基(メチル基)の場合よりも高いことが示されている。そのため、上記で述べた炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基は、例えば、合成の容易さとアルコールの収率向上の2つの観点から炭素数2のアルキル基(エチル基)であってよい。
【0017】
式(1)において、Rは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のハロアルキル基、フェニルチオ基、又はハロゲン原子である。
【0018】
が炭素数1~4のアルキル基である場合、当該アルキル基は、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であってよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基であってよい。合成の容易さの観点から、上記炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基は、好ましくは炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1又は2のアルキル基(すなわちメチル又はエチル基)であり、さらにより好ましくは炭素数1のアルキル基(すなわちメチル基)である。Rが炭素数1~4のアルキル基である場合におけるRの置換位置は、2位、3位、4位、又は5位のいずれでもよく、合成の容易さの観点からは好ましくは3位又は5位であり、より好ましくは3位である。
【0019】
が炭素数1~4のアルコキシ基である場合、当該アルコキシ基は、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基であってよく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブトキシ基であってよい。合成の容易さの観点から、上記炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基は、好ましくは炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1又は2のアルコキシ基(すなわちメトキシ又はエトキシ基)であり、さらにより好ましくは炭素数1のアルコキシ基(すなわちメトキシ基)である。Rが炭素数1~4のアルコキシ基である場合におけるRの置換位置は、2位、3位、4位、又は5位のいずれでもよく、合成の容易さの観点からは好ましくは3位又は5位であり、より好ましくは3位である。
【0020】
が炭素数1~4のハロアルキル基である場合、当該ハロアルキル基は、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のハロアルキル基であってよく、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2-フルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、クロロメチル基、2-クロロエチル基、ブロモメチル基、2-ブロモエチル基、又はブロモジフルオロメチル基であってよい。合成の容易さの観点から、上記炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のハロアルキル基は、好ましくは炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のハロアルキル基であり、より好ましくは炭素数1又は2のハロアルキル基であり、さらにより好ましくは炭素数1のハロアルキル基(すなわちフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、又はトリフルオロメチル基)である。Rが炭素数1~4のハロアルキル基である場合におけるRの置換位置は、2位、3位、4位、又は5位のいずれでもよく、合成の容易さの観点からは好ましくは3位又は5位であり、より好ましくは3位である。
【0021】
がハロゲン原子である場合、当該ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってよい。合成の容易さの観点から、Rは、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。Rが炭素数1~4のハロゲン原子である場合におけるRの置換位置は、2位、3位、4位、又は5位のいずれでもよく、合成の容易さの観点からは好ましくは3位又は5位であり、より好ましくは3位である。
【0022】
式(1)において、nは、1~4のいずれかの整数である。合成の容易さの観点から、nは、好ましくは1~3のいずれかの整数であり、より好ましくは1又は2であり、さらにより好ましくは1である。
【0023】
nが2~4である場合において、Rは同じであってよく又は互いに異なっていてもよい。すなわち、nが2、3、又は4のいずれかである場合において、Rは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のハロアルキル基、フェニルチオ基、及びハロゲン原子のうちから、互いに独立に選ばれてよい。
【0024】
式(1)において、Xは、ハロゲン原子又はヒドロキシ基である。Xがハロゲン原子である場合、当該ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってよい。合成の容易さの観点から、Xは、好ましくは塩素原子である。
【0025】
本実施形態に係る式(1)で表される有機パラジウム錯体は、アルコールを製造するための触媒として用いられうる。当該有機パラジウム錯体を含む触媒については下記3.で説明する。当該有機パラジウム錯体を触媒として用いるアルコールの製造方法については下記4.で説明する。
【0026】
2.第2の実施形態(有機パラジウム錯体の製造方法)
【0027】
本発明は、式(1)で表される有機パラジウム錯体の製造方法も提供する。当該有機パラジウム錯体は、上記1.において説明したとおりであり、その説明が本実施形態についても当てはまる。
【0028】
式(1)で表される有機パラジウム錯体の製造方法は、バックワルド・ハートウィグアミノ化反応を行うことを含む。
【0029】
一例として、上記有機パラジウム錯体の製造方法は、
1-ブロモ-2-ヨードベンゼンと、
下記式(2)で表される芳香族アミン化合物と、
【化7】
をバックワルド・ハートウィグアミノ化反応により反応させて、下記式(3)で表される芳香族アミン化合物
【化8】
を生成する第1工程と、
式(3)で表される芳香族アミン化合物と、下記式(4)で表される芳香族アミン化合物と、
【化9】
をバックワルド・ハートウィグアミノ化反応により反応させて、下記式(5)で表される芳香族アミン化合物
【化10】
を生成する第2工程と、を含む。
【0030】
式(2)において、R~Rは、式(1)と同じである。すなわち、式(2)中のR~Rは、上記1.において式(1)に関して説明したとおりである。
【0031】
式(3)において、R~Rは、式(1)と同じである。すなわち、式(3)中のR~Rは、上記1.において式(1)に関して説明したとおりである。
【0032】
式(4)において、R及びnは、式(1)と同じである。すなわち、式(4)中のR及びnは、上記1.において式(1)に関して説明したとおりである。
【0033】
式(5)において、R~R、R、及びnは、式(1)と同じである。すなわち、式(5)中のR~R、R、及びnは、上記1.において式(1)に関して説明したとおりである。
【0034】
第1及び第2工程におけるバックワルド・ハートウィグアミノ化反応は、当技術分野において既知の条件及び方法に従って行われてよい。例えば、当該バックワルド・ハートウィグアミノ化反応は、アルゴン又は窒素などの不活性ガス雰囲気下で、パラジウム触媒と塩基とを用いて行われてよい。
【0035】
上記パラジウム触媒は、パラジウムと配位子とを含む触媒である。パラジウム触媒は、例えば、ホスフィン配位子を有するパラジウム触媒、又は、パラジウム触媒前駆体とホスフィン配位子とを混合して生成する錯体であってよい。パラジウム触媒前駆体とホスフィン配位子とを混合して生成する錯体は、例えば、反応系中で調製されてよく、又は、別途調整されて反応系に添加されてもよい。
【0036】
上記ホスフィン配位子を有するパラジウム触媒は、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)、ビス[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(0)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロ[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]パラジウム(II)、又はジクロロビス(トリ-O-トリルホスフィン)パラジウム(II)であってよい。
【0037】
上記パラジウム触媒前駆体は、例えば、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、又はトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)であってよい。
【0038】
上記ホスフィン配位子は、二座ホスフィン配位子であってよい。二座ホスフィン配位子は、例えば、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、4,5-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン、1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1’-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、1’,2’-ビス[ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-1,1’-ビフェニル、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,1’-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、1,1’-ビス(ジイソプロピルホスフィノ)フェロセン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル、又は2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチルであってよい。
【0039】
パラジウム触媒の量は、式(2)で表される芳香族アミン化合物に対して、例えば0.0001当量以上10当量以下であり、好ましくは0.01当量以上0.5当量以下である。ホスフィン配位子を用いる場合、ホスフィン配位子の使用量は、パラジウム触媒前駆体に対して、例えば0.1当量以上10当量以下であり、好ましくは1.0当量以上4.0当量以下である。
【0040】
上記塩基は、無機塩基及び有機塩基のいずれでもよく、好ましくは有機塩基である。当該有機塩基は、例えば金属アルコキシドであってよい。金属アルコキシドは、例えば、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムイソプロピルオキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド、又はナトリウムtert-ブトキシドであってよい。
【0041】
塩基の量は、式(2)で表される芳香族アミン化合物に対して、例えば0.1当量以上20当量以下であり、好ましくは0.5当量以上5当量以下である。
【0042】
上記バックワルド・ハートウィグアミノ化反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。当該有機溶媒は、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタンなどのエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド、アセトニトリルなどのニトリル、ジクロロメタン、トリクロロメタン、及びジクロロエタンなどのハロゲン炭化水素、並びに、ベンゼン及びトルエンなどの芳香族炭化水素から選択される1種又は2種以上の組み合わせであってよい。上記バックワルド・ハートウィグアミノ化反応において用いられる有機溶媒は、好ましくは芳香族炭化水素を含み、より好ましくはトルエンを含む。
【0043】
上記バックワルド・ハートウィグアミノ化反応における反応温度及び反応時間は、反応させる化合物の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。反応温度は、例えば0℃以上200℃以下であってよい。反応時間は、例えば1時間以上72時間以下であってよい。
【0044】
第1及び第2工程において、パラジウム触媒の種類及び量、塩基の種類及び量、溶媒の種類、反応温度、並びに反応時間といったバックワルド・ハートウィグアミノ化反応の反応条件は、互いに異なっていてよい。
【0045】
本実施形態に係る有機パラジウム錯体の製造方法において、第1及び第2工程の後に行われる反応工程は、式(1)で表される有機パラジウム錯体におけるXがハロゲン原子であるかヒドロキシ基であるかによって異なりうる。
【0046】
まず、Xがハロゲン原子であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体を製造する場合について説明する。この場合において、有機パラジウム錯体の製造方法は、さらに、式(5)で表される芳香族アミン化合物と、HXで表されるハロゲン化水素(ここで、Xは式(1)と同じである。)と、オルトギ酸トリエチルとを反応させて、下記式(6)で表されるベンズイミダゾリウム塩
【化11】
を生成する第3工程を含んでいてよい。
【0047】
式(6)において、R~R、R、n、及びXは、式(1)と同じである。すなわち、式(6)中のR~R、R、n、及びXは、上記1.において式(1)に関して説明したとおりである。
【0048】
また、上記ハロゲン化水素を表すHXにおけるXも、上記1.において式(1)に関して説明したとおりである。
【0049】
第3工程における反応は、例えば、アルゴン又は窒素などの不活性ガス雰囲気下で行われてよい。当該反応における反応温度及び反応時間は、反応させる化合物の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。反応温度は、例えば0℃以上200℃以下であってよい。反応時間は、例えば1時間以上48時間以下であってよい。
【0050】
上記の場合において、有機パラジウム錯体の製造方法は、さらに、式(6)で表されるベンズイミダゾリウム塩と、酸化銀と、2価パラジウム塩と、を反応させて、Xがハロゲン原子であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体を生成する第4工程を含んでいてよい。
【0051】
2価パラジウム塩は、例えば、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、フッ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、又は酢酸パラジウムであってよく、好ましくは酢酸パラジウムである。
【0052】
第4工程は、例えば、式(6)で表されるベンズイミダゾリウム塩と、酸化銀とを反応させて、銀-カルベン錯体を生成する第4a工程と、当該銀-カルベン錯体と、酢酸パラジウムとを反応させて、Xがハロゲン原子であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体を生成する第4b工程と、を含んでいてよい。
【0053】
第4工程(第4a及び第4b工程)の反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。当該有機溶媒は、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタンなどのエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド、アセトニトリルなどのニトリル、ジクロロメタン、トリクロロメタン、及びジクロロエタンなどのハロゲン炭化水素、並びに、ベンゼン及びトルエンなどの芳香族炭化水素から選択される1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0054】
第4工程(第4a及び第4b工程)における反応は、例えば、アルゴン又は窒素などの不活性ガス雰囲気下で行われてよい。第4a工程における反応は、例えば、暗所下で行われてよい。第4工程(第4a及び第4b工程)の反応における反応温度及び反応時間は、反応させる化合物の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。反応温度は、例えば0℃以上200℃以下であってよい。反応時間は、例えば1時間以上48時間以下であってよい。
【0055】
第4a及び第4b工程において、有機溶媒の種類、反応温度、及び反応時間といった反応条件は、互いに異なっていてよい。
【0056】
第1工程から第4工程までの反応式の一例を、以下に示す。当該反応式において、上記2価パラジウム塩の例として酢酸パラジウムを示している。また、式(1’)は、式(1)で表される構造の半分を省略して表記したものであり、実質的に式(1)と同じ有機パラジウム錯体を意味する。
【0057】
【化12】
【0058】
第4工程において、Xがハロゲン原子であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体は、当技術分野において既知の方法(例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィー)により精製されてよい。
【0059】
次に、Xがヒドロキシ基であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体を製造する場合について説明する。この場合における有機パラジウムは、Xがハロゲン原子であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体に含まれるハロゲン原子を、ヒドロキシ基に置換することにより得られる。すなわち、この場合において、有機パラジウム錯体の製造方法は、第1、第2、第3、及び第4工程と、Xがハロゲン原子であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体に含まれるハロゲン原子をヒドロキシ基に置換する第5工程とを含んでいてよい。
【0060】
第5工程は、例えば、Xがハロゲン原子であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体を、硝酸銀と反応させた後、水酸化ナトリウムと反応させて、Xがヒドロキシ基であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体を生成する工程であってよい。
【0061】
第5工程の反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。当該有機溶媒は、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタンなどのエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド、アセトニトリルなどのニトリル、ジクロロメタン、トリクロロメタン、及びジクロロエタンなどのハロゲン炭化水素、並びに、ベンゼン及びトルエンなどの芳香族炭化水素から選択される1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0062】
第5工程における反応は、例えば、アルゴン又は窒素などの不活性ガス雰囲気下で行われてよい。当該反応における反応温度及び反応時間は、反応させる化合物の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。反応温度は、例えば0℃以上200℃以下であってよい。反応時間は、例えば1時間以上48時間以下であってよい。
【0063】
第5工程において、Xがヒドロキシ基であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体は、当技術分野において既知の方法(例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィー)により精製されてよい。
【0064】
以上で述べたとおり、本実施形態に係る有機パラジウム錯体の製造方法は、一例において、第1、第2、第3、及び第4工程を含む、Xがハロゲン原子であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体の製造方法であってよい。また、本実施形態に係る有機パラジウム錯体の製造方法は、他の一例において、第1、第2、第3、第4、及び第5工程を含む、Xがヒドロキシ基であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体の製造方法であってよい。
【0065】
本実施形態によれば、従来よりも安全性の高い方法で有機パラジウム錯体を製造することができる。従来の有機パラジウム錯体の製造方法は、例えば上記特許文献1及び非特許文献2に開示されている。これらの従来の製造方法において、有機パラジウム錯体は、毒性の高いボランを用いて製造される。一方、本実施形態に係る有機パラジウム錯体の製造方法において、ボランは用いられない。本実施形態によれば、毒性の高いボランを用いる必要がないため、製造過程における安全性を高めることができる。
【0066】
3.第3の実施形態(アルコール製造用触媒)
【0067】
本発明は、式(1)で表される有機パラジウム錯体を含む、アルコール製造用触媒も提供する。当該有機パラジウム錯体は、上記1.において説明したとおりであり、その説明が本実施形態についても当てはまる。
【0068】
本実施形態に係るアルコール製造用触媒は、例えば、式(1)で表される有機パラジウム錯体からなるものであってもよく、すなわち、当該有機パラジウム錯体以外の化合物を含まなくてもよい。
【0069】
本実施形態に係るアルコール製造用触媒は、特に、アリールホウ素化合物及びカルボニル化合物からのアルコール製造に適している。すなわち、当該アルコール製造用触媒は、アリールホウ素化合物及びカルボニル化合物からのアルコール製造用触媒であってよい。
【0070】
アルコール製造用触媒として既知の有機パラジウム錯体の一例が、上記特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている触媒は、第三級アルコール製造用触媒であり、当該触媒を用いて製造されるアルコールは第三級アルコールのみである。一方、本実施形態に係る触媒を用いて製造されるアルコールは、第一級、第二級、又は第三級アルコールである。このように、本実施形態に係る触媒は、特許文献1に開示された触媒に比べて、多くのアルコール生成反応に寄与しうる。
【0071】
また、本実施形態に係る触媒は、上記特許文献1及び非特許文献2に開示されている有機パラジウム錯体を含むアルコール製造用触媒に比べて、高い性能を有しており、すなわち触媒活性が高い。
【0072】
本実施形態に係る触媒は、下記4.において説明するアルコールの製造において用いられる。当該触媒の使用方法については、下記4.を参照されたい。
【0073】
4.第4の実施形態(アルコールの製造方法)
【0074】
本発明は、式(1)で表される有機パラジウム錯体を含むアルコール製造用触媒の存在下で、アリールホウ素化合物と、カルボニル化合物とを反応させることを含む、アルコールの製造方法も提供する。当該有機パラジウム錯体は、上記1.において説明したとおりであり、その説明が本実施形態についても当てはまる。
【0075】
上記アリールホウ素化合物は、好ましくはアリールボロン酸である。アリールボロン酸は、例えば、フェニルボロン酸、o-メチルフェニルボロン酸、m-メチルフェニルボロン酸、p-メチルフェニルボロン酸、ピリジン-2-イルボロン酸、ピリジン-3-イルボロン酸、ピリジン-4-イルボロン酸、フラン-2-イルボロン酸、フラン-3-イルボロン酸、チオフェン-2-イルボロン酸、チオフェン-3-イルボロン酸、ナフタレン-1-イルボロン酸、ナフタレン-2-イルボロン酸、アントラセン-1-イルボロン酸、アントラセン-2-イルボロン酸、アントラセン-9-イルボロン酸、フェナントレン-1-イルボロン酸、フェナントレン-2-イルボロン酸、フェナントレン-3-イルボロン酸、フェナントレン-4-イルボロン酸、又はフェナントレン-9-イルボロン酸であってよい。
【0076】
上記カルボニル化合物は、好ましくはアルデヒド又はケトンである。アルデヒドは、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トリクロロアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、又はベンズアルデヒドであってよい。ケトンは、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセトフェノン、又はベンゾフェノンであってよい。
【0077】
本実施形態において用いられるアルコール製造用触媒が、Xがハロゲン原子であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体を含む場合、アリールホウ素化合物とカルボニル化合物との反応は、無機塩基の存在下で行われる。すなわち、上記アルコールの製造方法は、一例において、Xがハロゲン原子であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体を含むアルコール製造用触媒及び無機塩基の存在下で、アリールホウ素化合物と、カルボニル化合物とを反応させることを含む。当該無機塩基は、好ましくはアルカリ金属塩であり、より好ましくは炭酸カリウム、炭酸セシウム、フッ化カリウム、又はフッ化セシウムである。アルコールの収率が高いことから、当該無機塩基は、さらにより好ましくは炭酸カリウム又はフッ化セシウムである。
【0078】
本実施形態において用いられるアルコール製造用触媒が、Xがヒドロキシ基であるところの式(1)で表される有機パラジウム錯体を含む場合、アリールホウ素化合物とカルボニル化合物との反応において無機塩基は不要である。無機塩基の非存在下でも当該反応は進行する。
【0079】
本実施形態に係るアルコールの製造方法における上記反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。当該有機溶媒は、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタンなどのエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド、アセトニトリルなどのニトリル、ジクロロメタン、トリクロロメタン、及びジクロロエタンなどのハロゲン炭化水素、並びに、ベンゼン及びトルエンなどの芳香族炭化水素から選択される1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0080】
本実施形態に係るアルコールの製造方法における上記反応は、例えば、アルゴン又は窒素などの不活性ガス雰囲気下で行われてよい。当該反応における反応温度及び反応時間は、反応させる化合物の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。反応温度は、例えば0℃以上200℃以下であってよい。反応時間は、例えば0.01時間以上48時間以下であってよい。
【0081】
アリールホウ素化合物と、カルボニル化合物との反応により精製されたアルコールは、当技術分野において既知の方法(例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィー)により精製されてよい。
【0082】
本実施形態に係るアルコールの製造方法によれば、第一級、第二級、又は第三級アルコールが得られうる。そのため、本実施形態によれば、第三級アルコール製造用触媒に関する上記特許文献1に開示された技術に比べて、多くの種類のアルコールを製造することができる。
【0083】
本実施形態において用いられる、式(1)で表される有機パラジウム錯体を含むアルコール製造用触媒は、従来の有機パラジウム錯体を含むアルコール製造用触媒(例えば上記特許文献1及び非特許文献2参照)に比べて、高い触媒活性を有している。そのため、本実施形態に係るアルコールの製造方法によれば、当該従来の触媒を用いた場合に比べて、アルコールの収率を高めることができる。
【実施例0084】
5.実施例
【0085】
以下で実施例を参照して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0086】
5-1.実施例1(有機パラジウム錯体の製造)
【0087】
下記合成例1~4に従って、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)を製造した。
【0088】
(1)合成例1(第1工程)
【0089】
【化13】
【0090】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.46g(0.50mmol)、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル1.6g(3.0mmol)、ナトリウムtert-ブトキシド7.5g(78mmol)、2,6-ジイソプロピルアニリン3.6g(20mmol)、1-ブロモ-2-ヨードベンゼン8.5g(30mmol)及びトルエン86mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、4時間30分攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)を用いて精製し、N-(2-ブロモフェニル)-2,6-ジイソプロピルアニリン6.11gを得た(黄色固体、18.3mmol、収率91%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.11 (d, J = 7.0 Hz, 6H), 1.18 (d, J = 6.9 Hz, 6H), 3.05-3.15 (m, 2H), 5.69 (s, 1H), 6.14 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 6.55 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 6.98 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.18-7.33 (m, 3H), 7.45 (d, J = 7.9 Hz, 1H).
【0091】
(2)合成例2(第2工程)
【0092】
【化14】
【0093】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.28g(0.30mmol)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル0.56g(0.90mmol)、ナトリウムtert-ブトキシド1.2g(12mmol)、N-(2-ブロモフェニル)-2,6-ジイソプロピルアニリン1.0g(3.0mmol)、アニリン0.44g(4.7mmol)及びトルエン26mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、16時間攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=4:1)を用いて精製し、N-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-N-フェニルベンゼン-1,2-ジアミン866mgを得た(黄色固体、2.51mmol、収率83%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.04-1.17 (m, 12H), 3.03-3.14 (m, 2H), 5.30 (s, 1H), 5.62 (s, 1H), 6.23 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 6.70-6.71 (t, J =6.4 Hz, 1H), 6.80-6.85 (t, J = 9.3 Hz, 3H), 6.94-6.97 (t, J = 6.8 Hz, 1H), 7.15-7.28 (m, 6H).
【0094】
(3)合成例3(第3工程)
【0095】
【化15】
【0096】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、N-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-N-フェニルベンゼン-1,2-ジアミン0.69g(2.0mmol)、オルトギ酸トリエチル12.5mL及び塩酸0.3mLを加えた。反応容器を室温で15時間攪拌した。溶媒を留去した後、ヘキサンで洗浄することで1-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3-フェニルベンズイミダゾリウムクロリド752mgを得た(白色固体、1.92mmol、収率96%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.06 (d, J = 6.8 Hz, 6H), 1.33 (d, J = 6.8 Hz, 6H), 2.27-2.34 (m, 2H), 7.31 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.43 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 7.62-7.76 (m, 6H), 7.94 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 8.08 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 12.4 (s, 1H)
【0097】
(4)合成例4(第4工程)
【0098】
【化16】
【0099】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、1-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3-フェニルベンズイミダゾリウムクロリド196mg(0.50mmol)、酸化銀65mg(0.28mmol)、テトラメチルアンモニウムクロリド57mg(0.52mmol)、ジクロロメタン14mL及びアセトニトリル14mLを加え、暗所下で5時間撹拌した。溶媒を留去した後、アルゴン雰囲気下、酢酸パラジウム113mg(0.50mmol)及び1,4-ジオキサン13mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、3時間攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=1:2)を用いて精製し、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1a)で表される有機パラジウム錯体)119mgを得た(白色固体、0.11mmol、収率48%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 0.94 (d, J = 6.8 Hz, 12H), 1.30 (d, J = 6.8 Hz, 12H), 2.39-2.49 (m, 4H), 6.94-6.98 (m, 4H), 7.18-7.21 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.28-7.32 (m, J = 8.2 Hz, 4H), 7.37 (d, J = 7.8 Hz, 4H), 7.43 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 7.57 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.64 (t, J =7.8 Hz, 2H), 8.03 (d, J = 8.3 Hz, 2H)
【0100】
5-2.実施例2(有機パラジウム錯体の製造)
【0101】
上記合成例1(第1工程)で合成されたN-(2-ブロモフェニル)-2,6-ジイソプロピルアニリンを用い、下記合成例5~7に従って、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-3-フェニルチオフェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)を製造した。
【0102】
(1)合成例5(第2工程)
【0103】
【化17】
【0104】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.92g(1.0mmol)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル1.9g(3.0mmol)、ナトリウムtert-ブトキシド3.8g(40mmol)、N-(2-ブロモフェニル)-2,6-ジイソプロピルアニリン3.3g(10mmol)、2-(フェニルチオ)アニリン3.0g(15mmol)及びトルエン72mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、18時間攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=12:1)を用いて精製し、N-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-N-(2-(フェニルチオ)フェニル)ベンゼン-1,2-ジアミン3.0gを得た(黄色固体、6.7mmol、収率67%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 0.98 (d, J = 6.8 Hz, 6H), 1.05 (d, J = 6.8 Hz, 6H), 2.90-3.00 (m, 2H), 5.32 (br, 1H), 6.16-6.19 (m, 1H), 6.35 (br, 1H), 6.59-6.63 (m, 1H), 6.72-6.76 (m, 2H), 6.77-6.96 (m, 2H), 7.02-7.24 (m, 9H), 7.54-7.57 (m, 1H)
【0105】
(2)合成例6(第3工程)
【0106】
【化18】
【0107】
アルゴン雰囲気下、反応容器にN-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-N-(2-(フェニルチオ)フェニル)ベンゼン-1,2-ジアミン2.27g(5.0mmol)、オルトギ酸トリエチル31mL及び塩酸0.7mLを加えた。反応容器を室温で14時間攪拌した。溶媒を留去した後、ヘキサンで洗浄することで1-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3-(2-(フェニルチオ)フェニル)ベンズイミダゾリウムクロリド1.94gを得た(白色固体、3.85mmol、収率77%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.05-1.40 (m, 12H), 2.28-2.62 (m, 2H), 7.28-7.50 (m, 11H), 7.54-7.69 (m, 5H), 8.10 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 11.9 (s, 1H)
【0108】
(3)合成例7(第4工程)
【0109】
【化19】
【0110】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、1-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3-(2-(フェニルチオ)フェニル)ベンズイミダゾリウムクロリド252mg(0.50mmol)、酸化銀65mg(0.28mmol)、テトラメチルアンモニウムクロリド59mg(0.53mmol)、ジクロロメタン14mL及びアセトニトリル14mLを加え、暗所下で5時間撹拌した。溶媒を留去した後、アルゴン雰囲気下、酢酸パラジウム113mg(0.50mmol)及び1,4-ジオキサン13mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、18時間攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=1:2)を用いて精製し、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-3-フェニルチオフェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1b)で表される有機パラジウム錯体)98mgを得た(白色固体、0.08mmol、収率32%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 0.79 (d, J = 6.8 Hz, 12H), 1.22 (d, J = 6.8 Hz, 12H), 2.11-2.21 (m, 4H), 6.67 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.8 (d, J = 7.2 Hz, 4H), 6.87-6.95 (m, 8H), 7.08 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 7.16-7.29 (m, 10H), 7.53 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 8.53 (d, J = 8.4 Hz, 2H)
【0111】
5-3.実施例3(有機パラジウム錯体の製造)
【0112】
上記合成例1(第1工程)で合成されたN-(2-ブロモフェニル)-2,6-ジイソプロピルアニリンを用い、下記合成例8~10に従って、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-3-メトキシフェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)を製造した。
【0113】
(1)合成例8(第2工程)
【0114】
【化20】
【0115】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.46g(0.5mmol)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル0.94g(1.5mmol)、ナトリウムtert-ブトキシド1.9g(20mmol)、N-(2-ブロモフェニル)-2,6-ジイソプロピルアニリン1.67g(5.0mmol)、2-メトキシアニリン0.94g(7.6mmol)及びトルエン36mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、18時間攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=4:1)を用いて精製し、N-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-N-(2-メトキシフェニル)ベンゼン-1,2-ジアミン0.39gを得た(白色固体、1.0mmol、収率20%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.05-1.50 (m, 12H), 3.06-3.16 (m, 2H), 3.94 (s, 3H), 5.65 (s, 1H), 5.82 (s, 1H), 6.23 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.67-6.71 (m, 1H), 6.76-6.89 (m, 4H), 6.93-6.97 (m, 1H), 7.10-7.27 (m, 5H)
【0116】
(2)合成例9(第3工程)
【0117】
【化21】
【0118】
アルゴン雰囲気下、反応容器にN-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-N-(2-メトキシフェニル)ベンゼン-1,2-ジアミン0.38g(1.0mmol)、オルトギ酸トリエチル7.5mL及び塩酸0.2mLを加えた。反応容器を室温で14時間攪拌した。溶媒を留去した後、ヘキサンで洗浄することで1-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3-(2-メトキシフェニル)ベンズイミダゾリウムクロリド278mgを得た(白色固体、0.66mmol、収率66%)。
1H NMR (300 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.08 (d, J = 6.7 Hz, 6H), 1.34 (d, J = 6.6 Hz, 6H), 2.34-2.38 (m, 2H), 3.93 (s, 3H), 7.21-7.31 (m, 3H), 7.42 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 7.58-7.68 (m, 5H), 7.83-7.86 (m, 1H), 12.0 (s, 1H)
【0119】
(3)合成例10(第4工程)
【0120】
【化22】
【0121】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、1-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3-(2-メトキシフェニル)ベンズイミダゾリウムクロリド213mg(0.50mmol)、酸化銀65mg(0.28mmol)、テトラメチルアンモニウムクロリド56mg(0.51mmol)、ジクロロメタン14mL及びアセトニトリル14mLを加え、暗所下で5時間撹拌した。溶媒を留去した後、アルゴン雰囲気下、酢酸パラジウム113mg(0.50mmol)及び1,4-ジオキサン13mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、18時間攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=1:2)を用いて精製し、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-3-メトキシフェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1c)で表される有機パラジウム錯体)124mgを得た(白色固体、0.12mmol、収率47%)。
1H NMR (300 MHz, CDCl3, ppm): δ 0.93 (d, J = 6.8 Hz, 12H), 1.31 (d, J = 6.8 Hz, 12H), 2.39-2.48 (m, 4H), 4.02 (s, 6H), 6.82-6.86 (m, 2H), 6.94 (t, J = 7.8 Hz, 6H), 6.99-7.02 (m, 2H), 7.20 (t, J = 7.29 Hz, 2H), 7.26-7.36 (m, 4H), 7.62 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 8.46 (d, J = 8.49 Hz, 2H)
【0122】
5-4.実施例4(有機パラジウム錯体の製造)
【0123】
上記合成例1(第1工程)で合成されたN-(2-ブロモフェニル)-2,6-ジイソプロピルアニリンを用い、下記合成例11~13に従って、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-3-フェニルチオフェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)を製造した。
【0124】
(1)合成例11(第2工程)
【0125】
【化23】
【0126】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.46g(0.5mmol)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル0.94g(1.5mmol)、ナトリウムtert-ブトキシド1.9g(20mmol)、N-(2-ブロモフェニル)-2,6-ジイソプロピルアニリン1.67g(5.0mmol)、2-フルオロアニリン0.84g(7.6mmol)及びトルエン36mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、16時間攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=4:1)を用いて精製し、N-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-N-(2-フルオロフェニル)ベンゼン-1,2-ジアミン1.12gを得た(白色固体、3.1mmol、収率62%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.03-1.18 (m, 12H), 3.04-3.14 (m, 2H), 5.49 (s, 1H), 5.65 (s, 1H), 6.25 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 6.69-6.78 (m, 3H), 6.98 (q, J = 8.7 Hz, 2H), 7.05-7.10 (m, 1H), 7.15-7.29 (m, 4H)
【0127】
(2)合成例12(第3工程)
【0128】
【化24】
【0129】
アルゴン雰囲気下、反応容器にN-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-N-(2-フルオロフェニル)ベンゼン-1,2-ジアミン0.73g(2.0mmol)、オルトギ酸トリエチル12.5mL及び塩酸0.3mLを加えた。反応容器を室温で14時間攪拌した。溶媒を留去した後、ヘキサンで洗浄することで1-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3-(2-フルオロシフェニル)ベンズイミダゾリウムクロリド760mgを得た(白色固体、1.86mmol、収率93%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.08 (d, J = 6.8 Hz, 6H), 1.30 (d, J = 6.8 Hz, 6H), 2.26-2.36 (m, 2H), 7.33 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.37-7.47 (m, 3H), 7.52 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.63-7.80 (m, 5H), 8.15 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 12.24 (s, 1H)
【0130】
(3)合成例13(第4工程)
【0131】
【化25】
【0132】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、1-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3-(2-フルオロフェニル)ベンズイミダゾリウムクロリド206mg(0.50mmol)、酸化銀68mg(0.29mmol)、テトラメチルアンモニウムクロリド56mg(0.51mmol)、ジクロロメタン14mL及びアセトニトリル14mLを加え、暗所下で5時間撹拌した。溶媒を留去した後、アルゴン雰囲気下、酢酸パラジウム113mg(0.50mmol)及び1,4-ジオキサン13mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、18時間攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=1:2)を用いて精製し、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-3-フルオロフェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1d)で表される有機パラジウム錯体)64mgを得た(白色固体、0.06mmol、収率24%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 0.95 (d, J = 6.8 Hz, 12H), 1.30 (d, J = 6.8 Hz, 12H), 2.39-2.45 (m, 4H), 6.90-6.99 (m, 6H), 7.10-7.12 (m, 2H), 7.24-7.28 (m, 2H), 7.35-7.41 (m, 6H), 7.64 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 8.26 (d, J = 8.6 Hz, 2H)
【0133】
5-5.実施例5(有機パラジウム錯体の製造)
【0134】
下記合成例14~17に従って、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)を製造した。
【0135】
(1)合成例14(第1工程)
【0136】
【化26】
【0137】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.115g(0.13mmol)、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル0.41g(0.76mmol)、ナトリウムtert-ブトキシド1.9g(20mmol)、2,6-ジ(ペンタン-3-イル)アニリン1.17g(5.0mmol)、1-ブロモ-2-ヨードベンゼン2.14g(7.6mmol)及びトルエン22mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、4時間30分攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)を用いて精製し、N-(2-ブロモフェニル)-2,6-ジ(ペンタン-3-イル)アニリン1.66gを得た(白色固体、4.3mmol、収率85%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 0.54 (t, J = 7.3 Hz, 6H), 0.69 (t, J = 7.3 Hz, 6H), 1.23-1.30 (m, 2H), 1.44-1.60 (m, 6H), 2.55-2.58 (m, 2H), 5.50 (s, 1H), 6.04 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 6.42 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 6.85 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.01 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 7.20 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.34 (d, J = 7.9 Hz, 1H)
【0138】
(2)合成例15(第2工程)
【0139】
【化27】
【0140】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.027g(0.03mmol)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル0.056g(0.09mmol)、ナトリウムtert-ブトキシド0.12g(1.2mmol)、N-(2-ブロモフェニル)-2,6-ジ(ペンタン-3-イル)アニリン0.12g(0.30mmol)、アニリン0.046g(0.45mmol)及びトルエン3mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、16時間攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1)を用いて精製し、N-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)-N-フェニルベンゼン-1,2-ジアミン0.12gを得た(白色固体、0.30mmol、収率99%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 0.58-0.71 (m, 12H), 1.28-1.33 (m, 2H), 1.55-1.60 (m, 6H), 2.65-2.70 (m, 2H), 5.26 (s, 1H), 5.57 (s, 1H), 6.22-6.25 (m, 1H), 6.66-7.09 (m, 7H), 7.13-7.27 (m, 4H)
【0141】
(3)合成例16(第3工程)
【0142】
【化28】
【0143】
アルゴン雰囲気下、反応容器にN-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)-N-フェニルベンゼン-1,2-ジアミン0.41g(1.0mmol)、オルトギ酸トリエチル6.5mL及び塩酸0.13mLを加えた。反応容器を室温で14時間攪拌した。溶媒を留去した後、ヘキサンで洗浄することで1-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)-3-フェニルベンズイミダゾリウムクロリド0.38gを得た(白色固体、0.83mmol、収率83%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 0.56-0.59 (m, 6H), 0.82-0.86 (m, 6H), 1.57-1.83 (m, 10H), 7.28-7.40 (m, 3H), 7.62-8.02 (m, 9H), 12.29 (s, 1H)
【0144】
(4)合成例17(第4工程)
【0145】
【化29】
【0146】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、1-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)-3-フェニルベンズイミダゾリウムクロリド224mg(0.50mmol)、酸化銀65mg(0.28mmol)、テトラメチルアンモニウムクロリド63mg(0.57mmol)、ジクロロメタン14mL及びアセトニトリル14mLを加え、暗所下で5時間撹拌した。溶媒を留去した後、アルゴン雰囲気下、酢酸パラジウム113mg(0.50mmol)及び1,4-ジオキサン13mLを加えた。反応容器を100℃に加熱し、3時間攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=1:2)を用いて精製し、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1e)で表される有機パラジウム錯体)71mgを得た(白色固体、0.064mmol、収率13%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 0.52 (t, J = 7.4 Hz, 12H), 0.79 (t, J = 7.4 Hz, 12H), 1.39-1.51 (m, 8H), 1.63-1.73 (m, 4H), 1.93-2.11 (m, 8H), 6.92-6.98 (m, 4H), 7.18 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 7.25-7.35 (m, 8H), 7.43 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 7.58 (q, J = 8.2 Hz, 4H), 8.04 (d, J = 8.3 Hz, 2H)
【0147】
5-6.実施例6(アルコールの製造)
【0148】
式(1e)で表される有機パラジウム錯体を触媒として用いて、以下の手順に従ってナフタレン-2-イルメタノールを製造した。
【0149】
【化30】
【0150】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、ナフタレン-2-イルボロン酸344mg(2.0mmol)、37wt%ホルムアルデヒド水溶液204mg(2.5mmol)、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1e)で表される有機パラジウム錯体)0.14mg(0.0125mmol)、炭酸カリウム556mg(4.0mmol)及びテトラヒドロフラン2mLを加えた。反応容器を50℃に加熱し、2時間攪拌した。反応容器を室温まで冷却した後、飽溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)を用いて精製することにより、ナフタレン-2-イルメタノール304mg(白色固体、収率96%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.98 (br, 1H), 4.81 (s, 2H), 7.44-7.47 (m, 3H), 7.77-7.82 (m, 4H)
【0151】
5-7.実施例7(アルコールの製造)
【0152】
ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1e)で表される有機パラジウム錯体)に替えて、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1a)で表される有機パラジウム錯体)0.13mg(0.0125mmol)を用いた以外は、全て実施例6と同じ操作を行い、目的物(ナフタレン-2-イルメタノール)の生成を確認した(収率70%)。
【0153】
5-8.実施例8(アルコールの製造)
【0154】
炭酸カリウムに替えてフッ化セシウム608mg(4.0mmol)を用いた以外は、全て実施例6と同じ操作を行い、目的物(ナフタレン-2-イルメタノール)の生成を確認した(収率97%)。
【0155】
5-9.実施例9(アルコールの製造)
【0156】
アルゴン雰囲気下、反応容器に、ナフタレン-2-イルボロン酸172mg(1.0mmol)、37wt%ホルムアルデヒド水溶液102mg(1.25mmol)、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1a)で表される有機パラジウム錯体)0.13mg(0.0125mmol)、炭酸セシウム651mg(2.0mmol)及びテトラヒドロフラン1mLを加えた。反応容器を50℃に加熱し、2時間攪拌した。反応容器を室温まで冷却した後、飽溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)を用いて精製することにより、ナフタレン-2-イルメタノール57mg(白色固体、収率36%)を得た。
【0157】
5-10.比較例1(アルコールの製造)
【0158】
ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κ2C,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1e)で表される有機パラジウム錯体)に替えて、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)イミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)0.13mg(下記式(7)で表される有機パラジウム錯体)(0.0125mmol)を用いた以外は全て実施例6と同じ操作を行い、目的物(ナフタレン-2-イルメタノール)の生成を確認した(収率20%)。
【0159】
【化31】
【0160】
なお、式(7)で表される有機パラジウム錯体は、上記非特許文献2の記載に従って合成された。
【0161】
5-11.比較例2(アルコールの製造)
【0162】
ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κ2C,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1e)で表される有機パラジウム錯体)に替えて、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾリン-2-イリデン]-3-(フェニルチオ)フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(下記式(8)で表される有機パラジウム錯体)0.14mg(0.0125mmol)を用いた以外は全て実施例8と同じ操作を行い、目的物(ナフタレン-2-イルメタノール)の生成を確認した(収率29%)。
【0163】
【化32】
【0164】
なお、式(8)で表される有機パラジウム錯体は、上記特許文献1の記載に従って合成された。
【0165】
5-12.比較例3(アルコールの製造)
【0166】
ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジ(ペンタン-3-イル)フェニル)ベンゾイミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κ2C,C’}ジパラジウム(II)(上記式(1e)で表される有機パラジウム錯体)に替えて、ジ-μ-クロロ-ビス{2-[3-(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾリン-2-イリデン]-フェニル-κC,C’}ジパラジウム(II)(下記式(9)で表される有機パラジウム錯体)0.12mg(0.0125mmol)を用いた以外は全て実施例8と同じ操作を行い、目的物(ナフタレン-2-イルメタノール)の生成を確認した(収率26%)。
【0167】
【化33】
【0168】
なお、式(9)で表される有機パラジウム錯体は、上記特許文献1の記載に従って合成された。
【0169】
実施例6~9におけるアルコールの収率は、比較例1~3よりも高かった。例えば、実施例6におけるアルコールの収率は、比較例1の4.8倍であった。この結果から、実施例6において用いられた式(1e)で表される有機パラジウム錯体は、比較例1において用いられた式(7)で表される有機パラジウム錯体に比べて、4.8倍の触媒活性を有していることが分かる。本発明に係る有機パラジウム錯体は、従来の有機パラジウム錯体よりもアルコール製造用触媒として高い性能を有していることが分かる。
【0170】
実施例6におけるアルコールの収率は、実施例7よりも高かった。実施例6及び7のアルコール製造条件は触媒の種類以外同じであることから、触媒の構造が、触媒活性及びアルコールの収率に影響を与えたことが分かる。実施例6において用いられた式(1e)の触媒は、式(1)中のR~Rがエチル基であり、実施例7において用いられた式(1a)の触媒は、式(1)中のR~Rがメチル基であった。これらの結果から、R~Rのアルキル基の炭素数が多い方が、触媒活性が高く、アルコールを収率よく得られると考えられる。