(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085484
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】冷感剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20240620BHJP
A61F 13/53 20060101ALI20240620BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20240620BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C09K3/00 B
A61F13/53 300
A61F13/15 200
A61F13/15 140
C11B9/00 D
C11B9/00 M
C11B9/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199998
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 剛大
(72)【発明者】
【氏名】手塚 晴美
(72)【発明者】
【氏名】豊島 侑樹
【テーマコード(参考)】
3B200
4H059
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BB21
3B200BB30
3B200DA12
3B200DB02
3B200DB20
3B200DF07
4H059BA14
4H059BA23
4H059BA30
4H059BC23
4H059DA09
4H059EA35
(57)【要約】
【課題】冷感作用が長時間にわたって実感されやすい冷感剤に関する。
【解決手段】冷感剤は、皮膚又は粘膜に対して冷感を付与する。上記冷感剤は、室温において相溶して液体を構成する第1化合物及び第2化合物を含む。上記第1化合物及び上記第2化合物は、相互に異なる揮発性を有し、かついずれも単体では室温において固体である。上記第1化合物及び上記第2化合物の少なくとも一方が冷感作用を有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚又は粘膜に対して冷感を付与する冷感剤であって、
室温において相溶して液体を構成する第1化合物及び第2化合物を含み、
前記第1化合物及び前記第2化合物は、相互に異なる揮発性を有し、かついずれも単体では室温において固体であり、
前記第1化合物及び前記第2化合物の少なくとも一方が冷感作用を有する
冷感剤。
【請求項2】
前記第1化合物及び前記第2化合物のうち冷感作用が強い一方が、他方に比べて揮発性が低い
請求項1に記載の冷感剤。
【請求項3】
前記第1化合物は、シクロヘキシル誘導体又はシクロヘキサノール誘導体であり、
前記第2化合物は、前記第1化合物に対する凝固点降下作用を有し、
前記第2化合物に対する前記第1化合物の重量比が1.5以上3.0以下である
請求項1又は2に記載の冷感剤。
【請求項4】
前記第1化合物がメントールであり、
前記第2化合物がカンファー又はチモールである
請求項3に記載の冷感剤。
【請求項5】
前記液体に溶解した第3化合物をさらに含み、
前記第3化合物は、揮発性及び冷感作用を有し、かつ単体では室温において固体である
請求項3又は4に記載の冷感剤。
【請求項6】
前記第3化合物は、前記第1化合物とは異なるシクロヘキシル誘導体又はシクロヘキサノール誘導体である
請求項5に記載の冷感剤。
【請求項7】
前記第3化合物は、乳酸メンチルである
請求項6に記載の冷感剤。
【請求項8】
皮膚又は粘膜に接触した状態で使用される吸収性物品であって、
皮膚又は粘膜に対して冷感を付与する冷感剤を含み、
前記冷感剤は、室温において相溶して液体を構成する第1化合物及び第2化合物を含み、
前記第1化合物及び前記第2化合物は、相互に異なる揮発性を有し、かついずれも単体では室温において固体であり、
前記第1化合物及び前記第2化合物の少なくとも一方が冷感作用を有する
吸収性物品。
【請求項9】
皮膚又は粘膜に接触した状態で使用される吸収性物品が個別包装された包装体であって、
皮膚又は粘膜に対して冷感を付与する冷感剤を含む吸収性物品と、前記吸収性物品を包装する包装シートと、を具備し、
前記冷感剤は、冷感作用及び揮発性を有する冷感成分を含み、
前記包装シートの開封から前記冷感成分の揮発が実質的に生じなくなるまでの間に、前記冷感成分の揮発速度がその前後の期間よりも低くなる揮発抑制期間が存在する
包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品等に利用可能な冷感剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキン、パンティライナー等の吸収性物品の着用時において、不感蒸泄や発汗などにより、着用者がムレなどに起因する不快感を覚えることがある。これに対し、冷感剤を含む吸収性物品が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。これらの吸収性物品では、冷感剤による冷感作用によって着用者の不快感を和らげることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-234031号公報
【特許文献2】特開2010-234028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の冷感剤を含む吸収性物品における冷感作用は、通常、開封直後に最も強く、その後は徐々に弱まる一方となる。このため、このような吸収性物品では、冷感作用が長続きしない上に、時間の経過に伴う冷感作用の連続的な弱まりによって馴化が促されることで実際に着用者が冷感作用を実感できる時間はさらに短くなる。
【0005】
本発明は、冷感作用が長時間にわたって実感されやすい冷感剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る冷感剤は、皮膚又は粘膜に対して冷感を付与する。
上記冷感剤は、室温において相溶して液体を構成する第1化合物及び第2化合物を含む。
上記第1化合物及び上記第2化合物は、相互に異なる揮発性を有し、かついずれも単体では室温において固体である。
上記第1化合物及び上記第2化合物の少なくとも一方が冷感作用を有する。
【0007】
本発明の一形態に係る吸収性物品は、皮膚又は粘膜に接触した状態で使用される。
上記吸収性物品は、皮膚又は粘膜に対して冷感を付与する冷感剤を含む。
上記冷感剤は、室温において相溶して液体を構成する第1化合物及び第2化合物を含む。
上記第1化合物及び上記第2化合物は、相互に異なる揮発性を有し、かついずれも単体では室温において固体である。
上記第1化合物及び上記第2化合物の少なくとも一方が冷感作用を有する。
【0008】
本発明の一形態に係る包装体では、皮膚又は粘膜に接触した状態で使用される吸収性物品が個別包装されている。
上記包装体は、皮膚又は粘膜に対して冷感を付与する冷感剤を含む吸収性物品と、上記吸収性物品を包装する包装シートと、を具備する。
上記冷感剤は、冷感作用及び揮発性を有する冷感成分を含む。
上記包装シートの開封から上記冷感成分の揮発が実質的に生じなくなるまでの間に、上記冷感成分の揮発速度がその前後の期間よりも低くなる揮発抑制期間が存在する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸収性物品によれば、冷感剤による冷感作用が長時間にわたって実感されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る吸収性物品の平面図である。
【
図2】
図1をII-II線で切断した断面を示す、上記吸収性物品の断面図である。
【
図3】上記吸収性物品を包装した包装体の平面図である。
【
図4】
図3をIV-IV線で切断した断面を示す、上記包装体の断面図である。
【
図5】上記包装体の包装シートの部分断面図である。
【
図6】上記包装体の折り畳む前の状態を示す平面図である。
【
図7】上記包装体に含まれる冷感剤における冷感成分の揮発量の時間変化を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。本発明の一実施形態は、着用者の皮膚又は粘膜に接触した状態で使用される吸収性物品に特に適した冷感剤に関する。まず、本実施形態に係る冷感剤を適用可能な吸収性物品について説明する。
【0012】
[吸収性物品1の全体構成]
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る吸収性物品1は、着用者の前後方向に対応する縦方向Xと、着用者の左右方向に対応し縦方向Xに直交する横方向Yとを有する。さらに、吸収性物品1は、縦方向X及び横方向Yの双方に直交する厚み方向Zを有する。本実施形態において、吸収性物品1は縦方向Xに長いパッド型であり、例えば下着のクロッチ部に装着されるパンティライナーとして構成される。パンティライナーは、主に非生理期間において、おりもの等の排泄液を吸収するために用いられる吸収性物品である。
本明細書において、「縦方向X前方」又は「前方」とは、縦方向Xにおける前方、つまり着用者の腹側に向かう方向を意味する。「縦方向X後方」又は「後方」とは、縦方向Xにおける後方、つまり着用者の背側に向かう方向を意味する。
本明細書において、厚み方向Zにおける肌側とは、吸収性物品1の着用時に着用者側に配置される側を意味する。厚み方向Zにおける非肌側とは、吸収性物品1の着用時に着衣側に配置される側を意味する。
【0013】
図2に示すように、吸収性物品1は、表面シート2と、裏面シート3と、吸収体4と、を備える。さらに本実施形態において、吸収性物品1は、セカンドシート5を備えていてもよい。
図2に示す例では、吸収性物品1は、裏面シート3と、吸収体4と、セカンドシート5と、表面シート2と、がこの順に厚み方向Zに積層された構成を有する。吸収性物品1の各部材は、例えば、接着剤やヒートシール等による接合、及びエンボス加工等によって、適宜接合されている。
【0014】
表面シート2は、吸収性物品1の肌対向面を形成する。表面シート2は、液透過性を有するシート材として構成される。このため、表面シート2は、繊維間の間隙などの図示しない微細な空隙を有している。さらに表面シート2は、
図1及び
図2に示すように、液透過性を高める等の観点から、視認できる開孔21を有していてもよい。
表面シート2としては、パンティライナー、生理用ナプキンなどの吸収性物品において通常用いられているものを特に制限なく用いることができる。表面シート2は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等を含んでいてもよい。また、表面シート2は、コットン繊維等の天然繊維を含んでいてもよい。
図1に示すように、表面シート2は、例えば、吸収性物品1の全面に配置されている。
また、表面シート2は、エンボスパターン22を有していてもよい。但し、表面シート2の構成は、
図1及び
図2に示す例に限定されない。
【0015】
裏面シート3は、吸収性物品1の非肌対向面を形成する。裏面シート3は、例えば熱可塑性樹脂のフィルムや、当該フィルムと不織布とのラミネート等からなるシート材等で形成される。このようなシート材は、例えば、液難透過性及び撥水性等の機能を有することが好ましい。さらに、裏面シート3は、装着快適性を高める観点から、通気性及び/又は透湿性を有することが好ましい。
図1に示すように、裏面シート3は、例えば吸収性物品1の全面に配置され、表面シート2と同一の平面形状を有する。
図2に示すように、裏面シート3には、吸収性物品1を下着に固定するための粘着剤Qが配置されていてもよい。粘着剤Qは、例えばホットメルト粘着剤等によって構成される。
【0016】
吸収体4は、表面シート2と裏面シート3との間に配置される。例えば、吸収体4は、接着剤Pによって裏面シート3と接着されていてもよい。
吸収体4は、排泄液を吸収可能な吸収性の材料を含んでいればよい。
図2に示すように、吸収体4は、薄型化して着用感を高める等の観点から、吸収性シートを用いて構成されていることが好ましい。吸収性シートは、例えば、吸収紙又は不織布等で構成され、吸収性ポリマーを含んでいてもよい。吸収シートは、
図2に示すように、横方向Yにおける両端部を裏面シート3側に折り返すことで2層構造とすることができる。この場合、2層の吸収シートが接着剤Pによって接着されていてもよい。
着用者に冷涼感を与えて快適性を高める観点から、吸収体4は冷感剤Cを有する。冷感剤Cは、揮発性を有し、着用者の皮膚又は粘膜表面の温度受容器(例えばTRPM8レセプター)を刺激する。これにより、冷感剤Cは、実際の温度変化を伴わずに、着用者に冷涼感を与えることができる。冷感剤Cの詳細については後述する。
【0017】
吸収体4は特に限定されないが、排泄液を確実に吸収する観点から、吸収性物品1の横方向Y及び縦方向Xにおける中央部に配置されることが好ましい。また、吸収体4の平面形状は、吸収性物品1としての装着性を高める観点から、表面シート2、裏面シート3及びセカンドシート5よりも小さい形状であることが好ましい。具体的な吸収体4の平面形状としては、
図1に示す矩形状が挙げられるが、これに限定されない。
【0018】
セカンドシート5は、例えば、表面シート2及び吸収体4の間に配置される。例えば、セカンドシート5は、接着剤Pによって吸収体4と接着されていてもよい。
セカンドシート5は、例えば、排泄液の透過や保持等の機能を有するシート材で構成される。セカンドシート5は、例えば、吸収性物品1の吸収性を高める機能、吸収体4に吸収された排泄液の表面シート2への液戻りを低減させる機能、表面シート2から液を引き込む機能、の少なくとも一つの機能を有していることが好ましい。
セカンドシート5には、パンティライナー、生理用ナプキンなどの吸収性物品において通常用いられているものを特に制限なく用いることができる。セカンドシート5は、例えば不織布又は吸収紙等で構成され得る。
また、セカンドシート5は、十分な保液機能を発揮する観点から、吸収体4よりも大きい平面形状を有することが好ましい。例えば、セカンドシート5は、表面シート2及び裏面シート3と同一の平面形状を有し、吸収性物品1の全面に配置されていてもよい。
【0019】
[包装体100の全体構成]
図3及び
図4には本実施形態に係る吸収性物品1が個別包装された包装体100が示されている。本実施形態に係る包装体100は、吸収性物品1と、包装シート110と、を備える。包装体100では、包装シート110を吸収性物品1とともに折り畳むことで吸収性物品1が一つずつ包装されている。
【0020】
図5に示すように、包装シート110は、2層の融着層111と1層の気密層112とを含み、2層の融着層111の間に1層の気密層112が挟まれた層状構造を有する。
融着層111は、融着性の樹脂成分からなり、気密層112よりも低融点である。融着層111及び気密層112では、それらの間に接着剤層を配置することで互いの界面剥離を防止することができる。
気密層112は、ガスバリア性が高く、酸素透過度が融着層111よりも低く抑えられている。酸素透過度は、クーロメチリック法又は差圧法に基づいて測定することができる。差圧法にて測定した場合の気密層112の酸素透過度は、23℃環境下で、900mL/m
2・day・atm以下であることが好ましく、100mL/m
2・day・atm以下であることがより好ましく、50mL/m
2・day・atm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
図6は、
図3及び
図4に示す包装体100の折り畳む前の状態を示している。
図6に示す折り畳む前の包装シート110は、縦方向X及び横方向Yに沿った4辺を有する矩形状であり、吸収性物品1よりも縦方向X及び横方向Yの寸法がやや大きく、縦方向Xに長尺のシート材として構成される。
図6に示す折り畳む前の吸収性物品1は、包装シート110上に、包装シート110の縦方向X及び横方向Yにおける中央に合わせて配置されている。
図6には、横方向Yに延びる2本の折り畳み線L1,L2が示されている。包装体100は、折り畳み線L1,L2によって中央領域100C、後方領域100R、及び前方領域100Fに縦方向Xに沿って区画されている。中央領域100Cは包装体100の縦方向X中央に位置し、後方領域100Rは中央領域100Cの縦方向X後方に位置し、前方領域100Fは中央領域100Cの縦方向X前方に位置する。
【0022】
包装体100は、
図6に示す状態から、折り畳み線L1,L2において吸収性物品1が内側となるように折り返される。より詳細に、包装体100では、後方領域100Rが中央領域100C上に重なるように折り畳み線L1において縦方向X前方に折り返され、次いで前方領域100Fが中央領域100C及び後方領域100R上に重なるように折り畳み線L2において縦方向X後方に折り返される。これにより、包装体100は
図3及び
図4に示す三つ折りの状態となり、吸収性物品1の全体が包装シート110によって被覆される。
【0023】
図3に示すように、包装体100には、横方向Yの両端部にそれぞれ、縦方向Xの全幅にわたって延びる融着シール領域120が設けられている。各融着シール領域120では、吸収性物品1が存在する領域よりも横方向Yの外側において重なり合った中央領域100C、後方領域100R、及び前方領域100Fが包装シート110の融着層111において融着接合されている。
融着シール領域120における包装シート110の融着層111同士の融着接合は、通常用いられる種々の方法によって行うことができる。このような融着接合の方法としては、例えば、熱エンボス処理、超音波エンボス処理、コロナ処理、プラズマ処理などが挙げられる。この中でも、熱エンボス処理では、エンボス形状やサイズを調整することにより剥離強度や気密性を容易に調整可能である。また、融着シール領域120では、さらにコロナ処理やプラズマ処理を施すことによって接着性をより高めることができる。
【0024】
また、
図3及び
図4に示すように、包装体100には、前方領域100Fにおける縦方向Xの折り畳み線L2側とは反対側の端部に、一対の融着シール領域120間を横方向Yに沿って延びる封止固定領域130が設けられている。封止固定領域130では、前方領域100Fが後方領域100Rに対して接合されている。
封止固定領域130における前方領域100Fの後方領域100Rに対する接合は、通常用いられる種々の方法によって行うことができる。このような接合の方法としては、例えば、融着シール領域120と同様の融着接合や、接着剤を用いた接合などが挙げられる。
【0025】
このように、包装体100では、気体が透過しにくい気密層112を備えた包装シート110を用い、かつ包装シート110を融着シール領域120及び封止固定領域130によって塞ぐことによって、吸収性物品1を収容する内部空間の気密性を高めることができる。これにより、包装体100では、内部空間において吸収性物品1の冷感剤Cを構成する冷感成分の飽和状態が維持され、使用時に包装シート110を開封するまでの間における冷感剤Cを構成する冷感成分の外部環境への放散による減少を抑制することができる。
そして、包装体100では、使用時に包装シート110が開封されると、吸収性物品1が開放され、吸収性物品1に含まれる冷感剤Cの揮発が開始する。
【0026】
[冷感剤C]
(基本構成)
本実施形態に係る吸収性物品1に含まれる冷感剤Cについて詳細に説明する。本実施形態に係る冷感剤Cでは、着用者によって冷感作用が長時間にわたって実感されやすくなるように冷感成分の揮発速度を制御している。
具体的に、
図7は、本実施形態に係る冷感剤C及び一般的な冷感剤における冷感成分の揮発量の時間変化を模式的に示している。
図7では、本実施形態に係る冷感剤Cについて実線で示され、一般的な冷感剤について破線で示されている。
図7の横軸は時間を示し、揮発を開始する時刻(つまり包装シート110を開封した時刻)をゼロとしている。
図7の縦軸は、冷感成分の揮発量として、揮発した冷感成分の重量の合計を示している。
一般的な冷感剤では、時間の経過に伴って冷感成分の揮発速度が単調減少していることがわかる。この一方で、本実施形態に係る冷感剤Cでは、冷感成分の揮発の進行の過程において揮発速度が高い状態と低い状態とを繰り返していることがわかる。
【0027】
より詳細に、
図7に示すように、本実施形態に係る冷感剤Cでは、冷感成分の揮発の開始から冷感成分の揮発が実質的に生じなくなるまでの全期間を、第1期間T1、第2期間T2、第3期間T3、及び第4期間T4の4つの期間に区分することができる。冷感剤Cでは、第1期間T1、第2期間T2、及び第3期間T3において冷感成分が充分に残存しているのに対し、第4期間T4では冷感成分が枯渇してくることで揮発速度が低くなっている。
本実施形態に係る冷感剤Cは、冷感成分が充分に残存している第2期間T2において敢えて第1期間T1及び第3期間T3よりも揮発速度が低くなるように構成されている。つまり、冷感剤Cでは、第2期間T2が冷感成分の揮発量が抑制される揮発抑制期間として構成されている。
これにより、本実施形態に係る冷感剤Cでは、第2期間T2において冷感成分の揮発量が抑制される分、冷感成分による冷感作用が長時間にわたって持続する。また、冷感剤Cでは、第3期間T3において、直前の第2期間T2よりも冷感作用が強くなるため、着用者が再び着用直後のような新鮮な冷涼感を覚えることで着用者の馴化が妨げられる。このため、冷感剤Cでは、時間の経過に伴って冷感成分による冷感作用の強さが単調減少する一般的な冷感剤と比べて冷感作用が長時間にわたって実感されやすくなる。
【0028】
(具体的な構成例)
以下、本実施形態に係る冷感剤Cにおいて冷感成分の揮発速度を上記のように変化させるための具体的な構成例について説明する。
【0029】
本実施形態に係る冷感剤Cは、以下のような特定の第1化合物及び第2化合物を含む構成とすることができる。
第1化合物及び第2化合物はいずれも揮発性を有するが、第1化合物と第2化合物とでは相互に揮発性が異なる。第1化合物及び第2化合物はいずれも、単体では室温において固体である。なお、本実施形態において室温とは23℃を示すものとする。第1化合物及び第2化合物では、少なくとも一方が冷感作用を有する冷感成分として構成される。つまり、冷感剤Cでは、第1化合物及び第2化合物の両方が冷感成分であっても、第1化合物及び第2化合物の一方のみが冷感成分であってもよい。
さらに、第2化合物は、融解した第1化合物に対する溶解性を有し、かつ第1化合物に対する凝固点降下作用を有する。これにより、第1化合物と第2化合物との固相同士での接触状態を維持することで、第1化合物の融解による液相化と、液相化した第1化合物への第2化合物の溶解と、が徐々に進行する。
冷感剤Cでは、第1化合物と第2化合物との比率を適切に調整することで、ジプロピレングリコールやポリエチレングリコールなどといった他の溶媒を介在させることなく第1化合物と第2化合物とを完全に相溶させることができる。これにより、冷感剤Cは、第1化合物と第2化合物とが相溶し、ゲル相や固相を含まない液体として得られる。
【0030】
本実施形態に係る冷感剤Cでは、第1化合物及び第2化合物のいずれも、
図7に実線で示す揮発量の時間変化を示す。第1化合物及び第2化合物において
図7に示す第1期間T1、第2期間T2、第3期間T3、及び第4期間T4が発現するメカニズムについて説明する。
第1期間T1では、安定した相溶状態になっておらず揮発しやすい状態で存在する第1化合物及び第2化合物の揮発が進行する。
第2期間T2では、安定した相溶状態の第1化合物及び第2化合物のみとなり、第1化合物及び第2化合物の揮発量が抑制される。第2期間T2では、異なる揮発性を有する第1化合物及び第2化合物の緩やかな揮発により、第1化合物と第2化合物との比率が徐々に変化していく。
第3期間T3では、第1化合物と第2化合物の比率の変化に伴って第1化合物と第2化合物との安定した相溶状態が徐々に崩れることでゲル相や固相の析出が進行する。これにより、安定した相溶状態が崩れて揮発しやすい状態となった第1化合物及び第2化合物の揮発が進行する。
第4期間T4では、第1化合物及び第2化合物が枯渇してくることで揮発速度が低下する。
このように、冷感剤Cでは、第1化合物及び第2化合物のいずれも
図7に実線で示す揮発量の時間変化を示すため、第1化合物及び第2化合物のいずれが冷感成分であった場合にも、吸収性物品1の着用者によって冷感作用が長時間にわたって実感されやすくなる効果を有効に得ることができる。
【0031】
冷感剤Cでは、複数の冷感成分が含まれている場合に、冷感作用をより長時間にわたって維持するために、より強い冷感作用を有する冷感成分の揮発の進行を遅らせることが好ましい。この観点から、冷感剤Cでは、第1化合物及び第2化合物のいずれも冷感成分である場合に、第1化合物及び第2化合物のうち冷感作用が強い一方が、他方に比べて揮発性が低いことが好ましい。
なお、各化合物の冷感作用の強さは、例えば、各化合物をそれぞれ吸収体4に付与した吸収性物品1を、市販されている生理用ナプキン又はパンティライナーと同じように装着した着用者による官能評価にて行うことができる。
【0032】
具体的に、本実施形態に係る冷感剤Cの第1化合物としては、例えば、シクロヘキシル誘導体又はシクロヘキサノール誘導体を用いることが好ましい。シクロヘキシル誘導体としては、例えば、乳酸メンチル、メンチルエチルアミノシュウ酸、3-(l-メントキシ)プロパン-1,2-ジオール、3-(l-メントキシ)-2-メチルプロパン-1,2-ジオール、コハク酸メンチル、3-(l-メントキシ)エタン-1-オール、3-(l-メントキシ)プロパン-1-オール、3-(l-メントキシ)ブタン-1-オール、l-メンチル-4-ヒドロキシペンタノエート、l-メンチル-3-ヒドロキシブチレート等が挙げられる。シクロヘキサノール誘導体としては、メントール、p-メンタン-3,8-ジオール、イソプレゴール等が挙げられる。カルボキサミド類としては、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド(N-エチル-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサン-1-カルボキサミド)、N,2,3-トリメチル-2-(l-メチルエチル)-ブタンアミド、l-メンチル酢酸N-エチルアミド等が挙げられる。
【0033】
本実施形態に係る冷感剤Cの第2化合物としては、融解した第1化合物に対する溶解性を有し、かつ第1化合物に対する凝固点降下作用を有する化合物であればよい。第2化合物としては、例えば、第1化合物としてメントールを用いる場合には、カンファーやチモールなどを用いることができる。
また、本実施形態に係る冷感剤Cでは、第1化合物と第2化合物とが完全に相溶した液体となる比率で含まれていることが好ましい。この観点から、冷感剤Cでは、例えば、第1化合物としてシクロヘキシル誘導体又はシクロヘキサノール誘導体を用いる場合には、第2化合物に対する第1化合物の重量比、つまり冷感剤Cに含まれる第1化合物の重量を冷感剤Cに含まれる第2化合物の重量で割って得られる値が、1.5以上3.0以下であることが好ましい。
【0034】
(追加の構成)
本実施形態に係る冷感剤Cは、第1化合物及び第2化合物のみで構成されていてもよいが、さらに他の成分を含んでいてもよい。
【0035】
具体的に、本実施形態に係る冷感剤Cは、例えば、第1化合物及び第2化合物と同様に
図7に実線で示す揮発量の時間変化を示す冷感成分として、以下のような特定の第3化合物を含む構成とすることができる。
第3化合物は、第1化合物及び第2化合物と同様に、揮発性を有し、かつ単体では室温において固体である。また、第3化合物は、相溶して液体となった第1化合物及び第2化合物に対する溶解性を有し、かつ第1化合物に対する凝固点降下作用を有さない。冷感剤Cでは、第3化合物が、第1化合物及び第2化合物が相溶した液体に溶解した溶質成分として存在する。
【0036】
本実施形態に係る冷感剤Cの第3化合物において
図7に示す第1期間T1、第2期間T2、第3期間T3、及び第4期間T4が発現するメカニズムについて説明する。
第1期間T1では、安定した溶解状態になっておらず揮発しやすい状態で存在する第3化合物の揮発が進行する。
第2期間T2では、安定した溶解状態の第3化合物のみとなり、第3化合物の揮発量が抑制される。
第3期間T3では、第1化合物と第2化合物の比率の変化に伴って、第3化合物の溶媒としての第1化合物及び第2化合物の安定した液相状態が徐々に崩れることでゲル相や固相の析出が進行する。これにより、第3化合物の安定した溶解状態も崩れ、ゲル相や固相として析出した第3化合物の揮発が進行する。
第4期間T4では、第3化合物が枯渇してくることで揮発速度が低下する。
【0037】
本実施形態に係る冷感剤Cでは、冷感作用をさらに長時間にわたって持続させるために、第3化合物として、揮発の促進されるタイミングが他の冷感成分と異なる冷感成分を用いることが好ましい。つまり、冷感剤Cでは、第3化合物以外に含まれる冷感成分が揮発の促進されるタイミングが早い即効型である場合には、第3化合物は揮発の促進されるタイミングが遅い遅延型であることが好ましい。反対に、冷感剤Cでは、第3化合物以外に含まれる冷感成分が遅延型である場合には、第3化合物は即効型であることが好ましい。
更に、冷感剤Cでは、第1化合物と第2化合物とが相溶した液体に対する溶解性が高いことが好ましい。具体的に、第1化合物と第2化合物とが相溶した液体に溶解可能な第3化合物の重量は、第1化合物及び第2化合物の合計重量に対し、好ましくは2倍以上であり、より好ましくは5倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上である。
【0038】
本実施形態に係る冷感剤Cでは、第3化合物として、例えば、第1化合物とは異なるシクロヘキシル誘導体又はシクロヘキサノール誘導体を用いることができる。なお、第3化合物としては、1種類の化合物のみを用いても、2種類以上の化合物を用いてもよい。
より具体的に、冷感剤Cでは、第1化合物としてメントールを用い、第2化合物としてカンファー又はチモールを用いる場合には、第3化合物として乳酸メンチルを用いることが好ましい。これにより、冷感剤Cでは、即効型のメントールと遅延型の乳酸メンチルとの組み合わせによって冷感作用をさらに長時間にわたって持続させることができる。また、冷感剤Cは、メントールとカンファーとが相溶した液体に、当該液体の重量に対して10倍以上の乳酸メンチルを溶解させることが可能なように構成することができる。
【0039】
[実施例]
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記実施形態の実施例として、第1化合物、第2化合物、及び第3化合物から構成される冷感剤Cの作製、及び冷感剤Cを吸収体に塗工した吸収性物品のサンプルの評価を行った。
実施例に係る冷感剤Cを作製するために、まず、第1化合物としてメントールを用意し、第2化合物としてカンファーを用意し、第3化合物として乳酸メンチルを用意した。次に、1.5mgのメントールと0.6mgのカンファーとを入れたバイアル瓶を手動で上下に振って撹拌することで、メントールとカンファーとが相溶した液体を得た。そして、バイアル瓶中のメントールとカンファーとが相溶した液体に対して20mgの乳酸メンチルを溶解させることで、実施例に係る冷感剤Cを得た。
実施例に係る吸収性物品のサンプルは、
図2に示す構成とした。吸収性物品のサンプルにおける吸収体では、縦方向Xの寸法を100mmとし、横方向Yの寸法を30mmとした。吸収性物品のサンプルでは、吸収体4の肌対向面側の全長(100mm)にわたって実施例に係る冷感剤Cを塗工し、気密性の容器内に収容した状態で、室温(23℃)で3週間静置した。
【0040】
実施例に係る吸収性物品のサンプルを温度40℃、湿度80%環境下にて、気密性の容器内から取り出し、メントール及び乳酸メンチルの揮発量の時間変化を測定した。冷感剤Cの揮発量の具体的な測定方法については後述する。
メントールの揮発量の時間変化の測定では、
図7と同様に第1期間T1、第2期間T2、第3期間T3、及び第4期間T4に区分することができるグラフが得られた。つまり、実施例に係る吸収性物品のサンプルでは、第2期間T2において第1期間T1及び第3期間T3よりも揮発速度が低くなっており、メントールの揮発量が抑制される揮発抑制期間が形成されていることがわかった。具体的に、実施例に係る吸収性物品のサンプルでは、第2期間T2におけるメントールの揮発量が、第1期間T1におけるメントールの揮発量に対して0.1倍であり、第3期間T3におけるメントールの揮発量に対して0.3倍であった。
また、乳酸メンチルの揮発量の時間変化の測定でも、
図7と同様に第1期間T1、第2期間T2、第3期間T3、及び第4期間T4に区分することができるグラフが得られた。つまり、実施例に係る吸収性物品のサンプルでは、第2期間T2において第1期間T1及び第3期間T3よりも揮発速度が低くなっており、乳酸メンチルの揮発量が抑制される揮発抑制期間が形成されていることがわかった。具体的に、実施例に係る吸収性物品のサンプルでは、第2期間T2における乳酸メンチルの揮発量が、第1期間T1における乳酸メンチルの揮発量に対して0.1倍であり、第3期間T3における乳酸メンチルの揮発量に対して0.06倍であった。
【0041】
(冷感剤Cの揮発量の測定方法)
冷感剤Cの揮発量は、吸収性物品のサンプルの対象部材又は対象部位から冷感剤を溶媒で抽出し、抽出溶液をガスクロマトグラフィ法(GC)で分析することができる。測定は、ガスクロマトグラフに取り付けた水素炎イオン化型検出器(FID)で行い、例えば、Agilent technologies製7890Aにより測定することができる。予め冷感剤Cを構成する化合物の濃度とピーク面積の関係を検量線化しておき、当該検量線を基に定量作業を行うことができる。
冷感剤Cが乳酸メンチル及び/又はメントールを含む場合を例に説明する。溶媒としてメタノールを使用して対象部材又は対象部位から乳酸メンチル及び/又はメントールを抽出する。予め濃度の異なる3~5段階程度の乳酸メンチル溶液及び/又はメントール溶液を準備し、GCのクロマトグラムからそれぞれの濃度のピーク面積を算出し、標準試料として、n-ペンチルアルコールを用い、標準試料の濃度に対してそのピーク面積をプロットした検量線を作成する。検量線を作成した分析と同じ条件で抽出液の分析を行うことで、得られたピーク面積を検量線にあてはめて乳酸メンチル量及び/又はメントール量を算出する。得られた乳酸メンチル量及び/又はメントール量を、室温(23℃)で3週間静置し、作製したサンプルから得られた乳酸メンチル量及び/又はメントール量から差し引くことで所定時間後の冷感剤の揮発量を求めることができる。
【0042】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0043】
例えば、上述の実施形態では、冷感剤Cを適用する吸収性物品1としてパンティライナーの例を示したが、これに限定されない。本実施形態に係る冷感剤Cを適用する吸収性物品は、パンティライナー以外にも、例えば、生理用ナプキン、尿取りパット、使い捨ておむつ等であってもよい。
【0044】
また、本実施形態に係る冷感剤Cは、吸収性物品1以外にも広く利用可能である。本実施形態に係る冷感剤Cの吸収性物品1以外の用途としては、例えば、発熱体を備えた温熱具などが挙げられる。このような温熱具では、本実施形態に係る冷感剤Cを用いることで、使用者に加わる温感を和らげることができる。
【符号の説明】
【0045】
1…吸収性物品
2…表面シート
3…裏面シート
4…吸収体
5…中間シート
100…包装体
110…包装シート
C…冷感剤