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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085490
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ボロメータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20240620BHJP
   H10N 15/00 20230101ALI20240620BHJP
   G01J 5/20 20060101ALN20240620BHJP
【FI】
G01J1/02 C
H10N15/00
G01J1/02 Q
G01J5/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200017
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】田中 朋
【テーマコード(参考)】
2G065
2G066
【Fターム(参考)】
2G065AB02
2G065BA12
2G065BA34
2G065BA40
2G065CA27
2G066BA09
2G066BA55
2G066BB13
2G066CA02
(57)【要約】
【課題】高性能なフレキシブルボロメータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、ボロメータ膜を含む光検知部、及び、熱伝導率が0.3W/mK以下である樹脂からなる基材層と、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層と、からなる樹脂外装を含み、前記光検知部は、前記樹脂外装で包まれている、ボロメータに関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボロメータ膜を含む光検知部、及び
熱伝導率が0.3W/mK以下である樹脂からなる基材層と、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層と、からなる樹脂外装
を含み、
前記光検知部は、前記樹脂外装で包まれている、ボロメータ。
【請求項2】
前記基材層の厚みが100nm以上200μm以下である、請求項1に記載のボロメータ。
【請求項3】
前記保護層の厚みが10nm以上100μm以下である、請求項1に記載のボロメータ。
【請求項4】
前記基材層を構成する樹脂と、前記保護層を構成する樹脂が、同一の樹脂である、請求項1に記載のボロメータ。
【請求項5】
前記基材層を構成する樹脂がパリレンである、請求項1に記載のボロメータ。
【請求項6】
前記基材層を構成する樹脂及び前記保護層を構成する樹脂がパリレンである、請求項1に記載のボロメータ。
【請求項7】
ボロメータ膜が半導体型カーボンナノチューブを含む、請求項1に記載のボロメータ。
【請求項8】
各々がボロメータ膜を備える複数の光検知部、及び
熱伝導率が0.3W/mK以下である樹脂からなる基材層と、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層と、からなる樹脂外装
を含み、
前記複数の光検知部が、前記樹脂外装で包まれている、アレイ構造を有する請求項1に記載のボロメータ。
【請求項9】
熱伝導率が0.3W/mK以下の樹脂からなる基材層を形成する工程と、
前記基材層上にボロメータ膜を形成する工程と、
前記ボロメータ膜に接続するように2つの電極を形成して、ボロメータ膜及び電極を含む光検知部を形成する工程と、
前記光検知部を被覆し、かつ、該光検知部の周囲で前記基材層と直接接合するように、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層を形成し、それにより、前記光検知部を、前記基材層と前記保護層とからなる樹脂外装で包む工程と、
を含む、ボロメータの製造方法。
【請求項10】
所望の支持体上に熱伝導率が0.3W/mK以下の樹脂からなる基材層を形成する工程と、
前記基材層上に下地層を形成する工程と、
前記下地層上にボロメータ膜を形成する工程と、
前記ボロメータ膜に接続するように2つの電極を形成して、ボロメータ膜及び電極を含む光検知部を形成する工程と、
前記光検知部を被覆し、かつ、該光検知部の周囲で前記基材層と直接接合するように、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層を形成し、それにより、前記光検知部を、前記基材層と前記保護層とからなる樹脂外装で包む工程と、
光検知部の外周部より外側に支持体の表面の深さまで溝を形成する工程と、
前記支持体から、前記基材層と前記保護層とからなる樹脂外装で包まれた光検知部を剥離する工程と、
を含む、請求項9に記載のボロメータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロメータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサーは、セキュリティ用の監視カメラだけでなく、人体のサーモグラフィー、車載用カメラ、及び構造物、食品等の検査など非常に広い範囲の応用性があることから、近年、産業応用が活発になっている。特に、IoT(Internet of Thing)との連携による生体情報の取得が可能な、安価で、且つ、高性能な赤外線センサーの開発が期待されている。
【0003】
赤外線センサーとしては、チタン膜や酸化バナジウムを抵抗材料として用いたボロメータ型の非冷却赤外線センサーが知られている。高性能な非冷却型ボロメータにはMEMS構造が用いられている。例えば、特許文献1に記載のボロメータは、シリコン基板201上に、脚部242を支えとしてシリコン基板201から間隙207を隔てて隔離させたダイアフラム型の断熱部204を有し、この断熱部204上に赤外線検知部203を有している(図19A及びB)。赤外線が照射されると、赤外線検知部203が熱せられ、温度変化による抵抗変化を検知する。間隙207は、空気の熱伝導によって熱がシリコン基板201に伝わるのを防ぐために、真空となっている(真空断熱)。
【0004】
一方、特許文献2には、CMOSプロセスに従って製造された金属メッシュを構造主体とする可撓性変換器ユニットにおいて、シリコン基板のかなりの厚さを除去することが提案されている。また、特許文献3には、カーボンナノチューブ膜を用いたテラヘルツ派検出装置が提案され、ポリイミドフィルム等のフレキシブル支持基板を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-263769号公報
【特許文献2】特開2010-131744号公報
【特許文献3】国際公開第2018/207815号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるような真空断熱のための微細構造は曲げに弱く、フレキシブル素子に応用するのは困難であると言う課題がある。一方、特許文献2に記載の可撓性変換器ユニットは、シリコン基板の一部が残置されているものであり、フレキシブル素子とした場合の可撓性に依然として改善の余地がある。また、特許文献3に記載のテラヘルツ派検出装置のような積層構造では、フレキシブル素子としての安定性や耐久性に改善の余地がある。
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、フレキシブルかつ高性能なボロメータ、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
ボロメータ膜を含む光検知部、及び
熱伝導率が0.3W/mK以下である樹脂からなる基材層と、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層と、からなる樹脂外装
を含み、
前記光検知部は、前記樹脂外装で包まれている、ボロメータに関する。
【0008】
本発明の別の一態様は、
熱伝導率が0.3W/mK以下の樹脂からなる基材層を形成する工程と、
前記基材層上にボロメータ膜を形成する工程と、
前記ボロメータ膜に接続するように2つの電極を形成して、ボロメータ膜及び電極を含む光検知部を形成する工程と、
前記光検知部を被覆し、かつ、該光検知部の周囲で前記基材層と直接接合するように、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層を形成し、それにより、前記光検知部を、前記基材層と前記保護層とからなる樹脂外装で包む工程と、
を含む、ボロメータの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高性能なフレキシブルボロメータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態のボロメータの構造の一例の概略を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図3】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図4】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図5】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図6】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図7】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図8】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図9】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図10】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図11】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図12】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図13】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(右:上面図、左:X-X’位置における断面図)。
図14】本発明の一実施形態に係るボロメータの構造の一例の概略を示す断面図である。
図15】本発明の一実施形態に係るボロメータアレイの構造の一例の概略を示す断面図である。
図16】本発明の一実施形態に係るボロメータアレイの構造の一例を示す図である(上面図)。
図17】本発明の一実施形態に係るボロメータアレイの構造の一例を示す図である(上面図)。
図18】本発明の一実施形態に係るボロメータアレイの構造の一例を示す図である(図16のY-Y’位置において切断した正面図)。
図19A】一従来例のボロメータの構造の概略を示す斜視図である。
図19B】一従来例のボロメータの構造の概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に一実施形態のボロメータの概略を示す。
本実施形態のボロメータは、高い断熱性を有する樹脂からなる基材層2と、ボロメータ膜6及び該ボロメータ膜に接続するように設けられた2つのコンタクト電極7を備える光検知部と、高い断熱性及び光透過性を有する樹脂からなる保護層9と、を備える。光検知部を挟むように設けられた基材層2と保護層9は、光検知部の周囲で互いに接合して該光検知部を包む樹脂外装(樹脂膜)を形成している。すなわち、本実施形態のボロメータは、基材層2と保護層9とからなる樹脂外装中に光検知部が包み込まれた構造を有する。このような構造で素子を保護することにより、高性能なボロメータを実現できる。
【0012】
また本実施形態のボロメータは、基板(基材層2)が可撓性の樹脂からなり、Si基板のような剛性の基板を含まないため、フレキシブルボロメータとして有用である。フレキシブルボロメータには曲げに対する曲げ耐性・耐久性が求められる。本実施形態のボロメータは、光検知部が、基材層2と保護層9からなる樹脂外装に保護されているため、素子の曲げ等による接続不良等が生じにくく、また、曲げ耐性・耐久性の高い高性能なボロメータを実現できる。
また一実施形態では、光検知部と、該光検知部を包む樹脂外装とが互いに密着している。これにより、接続不良をより低減し、また、曲げ耐性・耐久性をより向上することができる。
【0013】
なお、本明細書では、ボロメータ膜6とコンタクト電極7からなる部分を光検知部と呼ぶことがある。また、本実施形態のボロメータは、図1に示すように、ボロメータ膜6及びコンタクト電極7に加えて、ミラー3、ボロメータ膜6の下に形成される下地層4、光吸収膜8、コンタクト電極7に接続した配線5等の追加の構成要素を備えることができるが、光検知部とこれらの追加の構成要素とをまとめて素子部分と呼ぶ場合がある。
本明細書において、「光検知部が樹脂外装に包まれている」などの表現に関して、ボロメータが光検知部に加えて追加の構成要素を含む場合には、「光検知部」の用語を「素子部分」と読み替えることができる。
一実施形態では、素子部分を構成する各構成要素は互いに密着して積層されている。
【0014】
本実施形態のボロメータの各構成要素を、本発明のボロメータの製造プロセスの一例とともに、図を参照して説明する。
【0015】
工程1.支持体を用意する工程
先ず、基材層2を形成するための支持体1を用意する(図2)。図2では支持体1としてSi基板を用いているが、支持体1は後にボロメータ素子から除去されるものであるので、その材料及び形状は特に限定されないが、その上に形成される基材層2を剥離し易い材料からなるものが好ましく、また平滑な表面を有することが好ましい。
また、一般的な素子作製プロセスを本実施形態のボロメータの作製に適用することも好ましく、この場合、支持体として、一般的な基板(フレキシブル基板及びリジッド基板のいずれでも良い)に用いられる材料を用いてもよい。
支持体を構成する材料の例としては、例えば、Si、SiOを被膜したSi、SiO、SiN、ガラス等の無機材料、及び、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、フッ素樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート等の有機材料が使用できるが、これらに限定されない。中でも、半導体プロセスを適用しうるという観点では、Si基板が好ましい。
【0016】
工程2.基材層2を形成する工程
次に、支持体1上に基材層2を形成する(図3)。
基材層2は、断熱性が高い(熱伝導率が低い)樹脂から構成される。断熱性が高い樹脂を基材層に用いることで、ボロメータ膜からの熱の放散を抑制できる。また、本実施形態のボロメータを所望の基体に貼りつけて使用する際も、ボロメータから基体への熱伝導を抑制できる。したがって、基材層に断熱性の高い材料を用いることで、良好な検出感度を実現できる。
基材層を構成する樹脂の熱伝導率は、一般には0.3W/mK以下であり、好ましくは0.15W/mK以下であり、場合によりより好ましくは0.1W/mK以下である。熱伝導率は低い方が好ましいため、下限は特に限定されないが、例えば、0.02W/mK以上、例えば0.05W/mK以上である。特に、少なくとも、基材層の層面に対して垂直方向(積層方向)の熱伝導率が上記範囲であることが好ましい。
【0017】
熱伝導率は、薄膜の厚さ方向の熱伝導率を測定する3オメガ法(3-omega method)を用いて測定することができる。3オメガ法による熱伝導率の測定は、例えば、Guermoudi et al., Thermal conductivity and interfacial effect of parylene C thin film using the 3-omega method. Journal of Thermal Analysis and Calorimetry (2021) 145:1-12を参照して、熱伝導率k(Intrinsic thermal conductivity)を算出することにより行うことができる。本文献の全体を参照により本明細書に援用するものとする。
【0018】
また、熱伝導率は、定法(ASTM C177、ASTM E1461など)に従い、25℃で求めた値を採用してもよい。
【0019】
また、本実施形態のボロメータはフレキシブルボロメータに適しているので、基材層2が適度な可撓性を有することが好ましい。基材層2は、基材層2の上に積層される各構成要素に匹敵する可撓性を有することが好ましく、例えば、少なくとも下地層4(シリコン酸化物など)がクラックを生じる曲率半径までクラックを生じずに曲げることができること、すなわち、少なくとも下地層と同程度、又はそれ以上の曲げ耐性を有していることが好ましい。
例えば、基材層2は、ボロメータに用いる所望の厚みにおいて、室温(23℃)、空気雰囲気・大気圧下、環境湿度(RH30~70%)において、曲率半径10mmまで、好ましくは曲率半径5mmまで曲げてもクラックを生じないことが好ましい。基材層2の可撓性は、ボロメータ素子として基材層2を他の構成要素と積層させた状態で評価してもよいし、基材層2を構成する樹脂からなる試料で評価してもよい。
【0020】
また、基材層2を構成する樹脂のヤング率は、ボロメータ素子としてのフレキシブル性の観点から、10GPa以下であることが好ましく、5GPa以下であることがより好ましい。また、ボロメータ素子の基板としての支持性の観点から、1GPa以上であることが好ましく、3GPa以上であることがより好ましい。
【0021】
ヤング率は、引張試験により見積もることができる。試験時のクロスヘッドスピードを初期長さ(チャック間距離)で除した公称歪速度が0.1min-1となる条件で引張試験を行い、公称応力-公称歪曲線の初期の勾配を、ヤング率とすることができる。ヤング率は、大気中標準状態(例えば、大気中23℃、50RH)で測定することができる。
【0022】
基材層の厚みは、用いる樹脂成分を考慮して適宜設定すればよいが、100nm以上であることが好ましく、1μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましく、また、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。基材層の厚みが上記範囲であると、十分な断熱性が得られるとともに、フレキシブルボロメータに適した柔軟性が得られる。
【0023】
このような基材層に用いる樹脂としては、特に限定されるものではないが、パリレンが挙げられる。パリレンはパラキシリレン系ポリマーの総称で、ベンゼン環がCHを介して連結した構造を有する。パリレンの例としては、例えば、下記式で表されるダイマーから形成されるものが挙げられる:
【0024】
【化1】
(式中、少なくとも1つのベンゼン環の少なくとも1つの水素原子が、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が挙げられ、塩素が好ましい。式中、ハロゲンによる置換数は、8以下であり、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。)。
パリレンとしては、パリレンN、パリレンC、パリレンD、パリレンHT、ParyFree等が挙げられるが、中でもパリレンC(熱伝導率:0.084(W/mK))が最も熱伝導率が低いため好適である。
【0025】
基材層2の形成方法は特に限定されず、用いる樹脂に合わせて適宜選択できる。例えば、パリレンを用いる場合、真空蒸着装置を用いて支持体1上にパリレンコーティングすることによりパリレン膜を形成することができる。具体的には、固体のダイマーを真空下で加熱すると、気化してダイマー気体となる。この気体が熱分解してダイマーが開裂し、モノマー形態になる。室温の蒸着チャンバ内で、このモノマー気体がすべての表面で重合し、薄く透明なポリマーフィルムが形成される。必要により、蒸着プロセスを行う前に、支持体1の前処理、清浄、蒸着すべきでない領域のマスキングなどを行ってもよい。
【0026】
工程3.ミラー(光反射層)を形成する工程
基材層2上には、検知対象の光の吸収率の向上のためにミラー(光反射層)3を設けてもよい(図4)。
ミラーは、ボロメータ膜6に吸収されずに透過した光を反射させ、ボロメータ膜6に再吸収させるための層である。したがって、ミラーは、ボロメータ膜に対して、光の入射側と反対側に設ける。なお、図4では、基材層2の直上(基材層2と下地層4の間)にミラー3を形成しているが、ミラー3を、基材層2の中に設けてもよいし、あるいは下地層4の中に設けてもよい。
ミラーとしてはボロメータにおいて光反射層として用いられる材料を制限なく用いることができ、一般には金属、例えば、チタン、金、銀、アルミニウム等が挙げられ、蒸着、スパッタ法、めっき等により形成することができる。ミラーの厚みは特に限定されないが、0.1μm以上が好ましく、また、フレキシブル素子としての適度な可撓性を実現するため、5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。
【0027】
工程4.下地層を形成する工程
基材層2の上、ボロメータ膜6の下には、必要に応じて任意の層4を設けてもよい(図5)。例えば、ボロメータ膜としてカーボンナノチューブ層を用いる場合、基材層2の上に、カーボンナノチューブの分散のための層(後述するカーボンナノチューブ分散液を塗布するための層)を設けることができる。また一実施形態では、光吸収を担う層を設けてもよい。一実施形態では、カーボンナノチューブの分散のための層が光吸収も担ってもよい。本明細書ではこのようにボロメータ膜の下に設けられる任意の層を下地層と呼ぶことがある。下地層は絶縁層であってもよい。
下地層の材料は特に限定されるものではないが、フレキシブルボロメータとするためには、可撓性を有する材料であることが好ましく、例えば、シリコン酸化物(SiO)、シリコン窒化膜(SiN)等が挙げられる。
【0028】
工程5.配線を形成する工程
下地層4上には、コンタクト電極7に接続する配線5を設けてもよい(図6)。
配線5には、コンタクト電極と同じ材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよく、例えば、チタン、金、アルミニウム、銅、タングステン、コバルト、及びこれらの一種以上を含む合金などを用いることができる。基材(図6では下地層4)や、コンタクト電極・ボロメータ膜との接着・接合特性を考慮して、チタンに金を積層するなど、2種以上の金属を組み合わせて用いてもよい。配線は、必要によりメタルマスクなどでパターニング後、蒸着や印刷法により形成することができる。
【0029】
工程6.ボロメータ膜を形成する工程
下地層4上に、ボロメータ膜6を形成する(図7)。
(6-1)表面処理
下地層4のボロメータ膜形成面には、ボロメータ膜との接着性を高める表面処理を行ってもよい。
表面処理に用いる材料は、ボロメータ膜を形成しようとする基材(下地層4)に接着性が高い部分構造と、ボロメータ膜に接着性が高い部分構造とを併せ持つ材料が好ましい。このような材料は特に限定されないが、例えば、ボロメータ膜として後述するカーボンナノチューブ膜を用いる場合、カーボンナノチューブとの結合性の高いアミノ基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤(アミノシラン化合物)が挙げられる。アミノシラン化合物としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)などが挙げられる。
【0030】
(6-2)ボロメータ膜
本実施形態のボロメータは、所望の電磁波の検知に用いることができ、ボロメータ膜6には、検知対象の電磁波に合わせて熱電変換材料を適宜選択して用いることができる。
ボロメータ膜の材料の例としては、チタン膜や酸化バナジウム膜の他、有機材料を用いた有機薄膜(例えば、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノホーン膜、カーボンナノブラシ膜)などが挙げられるがこれらに限定されない。
好ましいボロメータ膜の一例であるカーボンナノチューブを用いたボロメータ膜及びその製造方法の詳細については後述する。
【0031】
工程7.コンタクト電極を形成する工程
ボロメータ膜6に接続するように、コンタクト電極7を形成する(図8)。
コンタクト電極7は、図8に示したようにボロメータ膜6上に形成してもよいし、ボロメータ膜6の下に形成してもよい。なお、配線5を設けた場合は、コンタクト電極7は、ボロメータ膜6と配線5とに接続するように形成する。
コンタクト電極の厚みは、適宜調整できるが、10nm~1mmが好ましく、50nm~1μmがより好ましい。また、電極間距離は、1μm~500μmが好ましく、小型化のためには、5~200μmがより好ましい。
コンタクト電極の材料は、接着性や、ボロメータ膜との間に形成される接合の特性等を考慮して適宜選択すればよく、例えば、金、白金、チタン、アルミニウム、銅、銀等の単金属又はこれらの少なくとも1種を含む合金を、単体で又は組み合わせて使用することができる。電極の作製方法は特に限定されないが、例えば蒸着、スパッタ、印刷法で形成することができる。必要により、予め、コンタクト電極を形成すべきでない領域のマスキングなどを行ってもよい。
【0032】
工程8.光吸収膜及び/又は保護膜を形成する工程
ボロメータ膜6の上には、光吸収膜及び/又は保護膜8を設けてもよい(図9)。
【0033】
(光吸収膜)
光吸収膜は、電磁波の吸収率の向上の効果を有する。光吸収膜は、ボロメータ膜6の検知対象の電磁波が入射する側に設けることができる。
光吸収膜の厚みは、材料によって適宜設定できるが、例えば50nm~1μmとすることができる。
光吸収膜としてはボロメータにおいて光吸収膜として用いられる材料を特に制限なく用いることができ、例えば、ポリイミドの塗布膜、窒化チタン薄膜、窒化シリコン(SiN)膜、酸化シリコン(SiO)膜等が挙げられる。
【0034】
(保護膜)
保護膜は、酸素等の吸着によるボロメータ膜へのドーピングの抑制の効果を有する。
保護膜としては、ボロメータにおいて保護層として用いられる材料を制限なく用いることができるが、検知したい波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO)の他、PMMA、PMMAアニソール等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等が挙げられる。保護膜の厚みは、材料にもよるが、例えば5nm~50nmとすることができる。
【0035】
保護膜として機能し、かつ光吸収膜として機能する材料を用いることも好ましい。このような材料としては、窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO)が好ましい。
【0036】
工程9.光検知部の周囲に基材層を露出させる工程
上記の工程により、基材層2上に、ミラー3、下地層4、配線5、ボロメータ膜6、光吸収膜・保護膜8が積層された構造が形成される。本実施形態のボロメータでは、基材層2と、この後に形成する保護層9とが、光検知部(下地層4等のその他の構成要素を含む場合はそれらを含めた素子部分を指す)の周囲で互いに接合して、光検知部を包み込んでいる構造を有する。したがって、本工程では、基材層2とこの後形成する保護層9が直接接触できるように、光検知部の領域の周囲の光吸収膜・保護膜8、ボロメータ膜6、下地層4等を除去して、基材層2を露出させる(図10)。基材層2を露出させる方法は特に限定されないが、基材層2表面の深さまでエッチング(ドライエッチング、ウェットエッチングなど)や機械的除去(ダイサー、ドリルなど)を行う方法が挙げられる。加工の緻密性の観点では、ドライエッチング、特には、反応性イオンエッチング(RIE)などの異方性ドライエッチングが好ましい。エッチングを行う際には、必要によりエッチングから保護したい領域に予めエッチングマスクを形成してもよい。エッチングマスクの形成方法としては、特に限定されないが、フォトリソグラフィにより、例えば、金などの金属でマスクパターンを形成する方法、フォトレジストによりマスクパターンを形成する方法などが挙げられる。
【0037】
なお、本明細書において、光検知部の領域とは、ボロメータ素子の上面図において、ボロメータ膜及びコンタクト電極からなる光検知部(下地層4等のその他の構成要素を含む場合はそれらを含めた素子部分)が占める領域を意味する。
【0038】
工程10.保護層を形成する工程
次に、保護層9を形成する(図11)。
保護層9は、光検知部の領域及びその周囲に露出させた基材層2の領域を被覆するように形成する。これにより、光検知部が、基材層2と保護層9により形成される樹脂外装中に包み込まれることとなる。これにより高性能なフレキシブルボロメータとすることができる。
【0039】
保護層9は、検知対象の電磁波の透過を阻害しないために、光透過率が高い樹脂であることが好ましい。
具体的には、赤外線透過率が、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である樹脂が好ましい。
保護層9の赤外線透過率は、ボロメータに用いる所望の厚みの樹脂試料を用いて測定することができ、例えば、公知の紫外可視近赤外分光光度計(例えば、フーリエ変換赤外分光光度計ハードウェア(日本分光株式会社)、FT/IR-4000,6000seriesなど))を用いて測定した値を用いることができる。
赤外線透過率として、8~14μmの波長領域の透過率平均値を用いてもよい。当該平均値は、透過法により分解能4cm-1、積算回数32回、波長領域8~14μmで透過率を測定し、1cm-1毎の透過率から平均値を算出することができる。あるいは、代表値として10μm前後で測定した値を用いてもよい。
【0040】
また保護層9は、基材層2と同様、高い断熱性(低い熱伝導率)を有することが好ましい。保護層9としてボロメータ膜の上面側にも熱伝導率が低い材料を用いることで、素子内部に吸収した熱が空気中へ放散するのを抑制することができる。
保護層9の熱伝導率については、基材層2に記載した値を適用できる。
【0041】
また保護層9は、基材層2と同様の可撓性を有することが好ましい。
【0042】
保護層9の厚みは、好ましくは10nm以上、より好ましくは100nm以上であり、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは10μm以下である。上記範囲内であると、高い素子保護能が得られ、かつ、検知しようとする光の透過率の低下をより抑制することができる。
【0043】
さらに、一実施形態では、基材層と保護層の一体性を高めるために、基材層2を構成する樹脂と保護層9を構成する樹脂は、同様の物性を有する樹脂であることが好ましく、同一の樹脂であることがより好ましい。
特に、パリレンは、上述のとおり、基材層に好適な物性と、保護層に好適な物性を兼ね備えている。また、パリレンのポリマー蒸着は分子レベルで行われ、パリレン膜は分子単位で成長する。したがって、基材層2と保護層9の両方にパリレンを用いると、基材層2のパリレン膜上に、保護層9のパリレン膜が分子レベルで連続して形成されるため、基材層2と保護層9とが一体化した樹脂外装を形成することができる。また、パリレンコーティングは密着性の高い均一なカプセル化が可能であり、パリレンの樹脂外装を光検知部に密着した状態で形成することができるため、ボロメータ素子の光検知部と樹脂外装との一体性をより高めることができる。
ここで、「一体性」とは、基材層と保護層の密着性・分離しにくさ、樹脂外装と光検知部との密着性・分離しにくさなどを意味する。また、「一体化」とは、基材層2と保護層9が別々の構成要素ではなく、合体して一つの構成要素として存在することを意味する。
【0044】
工程11-1.コンタクトホールを形成する工程
上記工程により、光検知部が、基材層2及び保護層9で被覆された構造が形成される。次に、信号を取り出すためのコンタクトホール10を形成する(図12)。コンタクトホールは、ボロメータ膜に接続したコンタクト電極を外部に接続するための開口部として形成してもよいし、コンタクト電極に接続する配線を形成した場合は、配線を外部に接続させるための開口部として形成してもよい。
コンタクトホールの形状は特に限定されないが、基材層2と保護層9とからなる樹脂外装の保護能を維持し得る形状・サイズであることが好ましく、例えば、素子を上面から見たときのコンタクトホールの面積の合計が、素子全体の表面積の1/10以下の面積であることが好ましい。なお、素子全体の表面積とは、基材層2及び保護層9から形成された樹脂外装の全表面(すなわち、素子の上面側、下面側、側面部を含む全表面積)の面積である。
コンタクトホールの形成方法は特に限定されないが、例えば、機械的除去や、コンタクト電極又は配線をエッチングストップ層として、エッチングにより形成することができる。
【0045】
工程11-2:ボロメータ素子の剥離のための溝を形成する工程
支持体1から本実施形態のボロメータ素子を剥離するための溝11を形成する(図12)。保護層9として、パリレンのような蒸着によりポリマー化する樹脂を用いる場合、支持体1、基材層2、及びその上に形成された素子部分の全体を包むように保護層9が形成される(図11)ため、このままでは、支持体1から本実施形態のボロメータ素子を剥離することが困難である。このため、光検知部の外周部(外縁)より外側、すなわち、本実施形態のボロメータ素子の最外周部となる位置に、支持体1の表面に至る深さまで、溝11を形成する。これにより、光検知部を、前記基材層と前記保護層とからなる樹脂外装に包まれた状態で、支持体1から分離することができるようになる。溝11は、光検知部の周囲に基材層2と保護層9が接合している部分(図12、矢印a)が残るような位置に形成する。接合している部分の幅(幅a)は特に限定されないが、樹脂外装の強度の観点では、0.5μm以上であることが好ましい。
溝11の形成方法は特に限定されないが、エッチングや機械的除去により形成することができる。支持体1としてシリコン基板などを用いた場合は、支持体1をエッチングストップ層としてもよい。
また、コンタクトホール10と溝11を同時に形成して、製造プロセスを簡素化してもよい。
【0046】
工程12.ボロメータ素子を支持体から剥離する工程
溝11を形成したことにより、支持体1の上に、本実施形態のボロメータ素子が積層された状態になるため(図12)、該ボロメータ素子を支持体1から剥離することができる(図13)。
支持体上に光検知部が単に積層された構造を有する素子の場合、本工程において支持体から素子を剥離しようとすると、素子に応力がかかり素子の構造が損なわれ、製造不良が生じる可能性がある。また、例えば特許文献2に記載されるような基板を除去した後に裏側のポリマー層を形成する方法では、製造プロセス中に素子構造が損なわれ易いという問題もある。しかし、本実施形態のボロメータの製造方法では、光検知部が、基材層2と保護層9からなる樹脂外装に包まれた状態となっているため、引きはがしの応力による素子構造の損傷に起因する製造不良を低減でき、また、使用中の耐久性も向上できる。また、一実施形態では、光検知部と樹脂外装とが互いに密着している。これにより、製造不良をより低減し、また使用中の耐久性をより向上できる。
特に、基材層2と保護層9の両方にパリレンを用いた場合、基材層2上に保護層9が連続してポリマー形成されるため、基材層2と保護層9が完全に密着した樹脂外装が形成される。このため、製造時の製造不良がより低減され、また、使用中の耐久性がより高いボロメータ素子を形成することができる。
【0047】
〔カーボンナノチューブ膜〕
以下にボロメータ膜6の一例として、カーボンナノチューブ膜について詳述する。
カーボンナノチューブ膜を用いたボロメータは、0.7μm~1mmの波長を有する電磁波の検知に特に好適に用いることができる。当該波長範囲に含まれる電磁波としては、赤外線の他、テラヘルツ波が挙げられる。本実施形態のボロメータは、好ましくは赤外線センサーである。
【0048】
ボロメータ膜としてのカーボンナノチューブ膜は、コンタクト電極対を電気的に接続する導電パスを形成する複数のカーボンナノチューブから構成される薄膜である。カーボンナノチューブは、例えば、平行線状、繊維状、ネットワーク状等の構造を形成し得るが、凝集し難く、均一な導電パスが得られる三次元的ネットワーク状の構造を形成していることが好ましい。
【0049】
カーボンナノチューブは、単層、二層、多層カーボンナノチューブを使用することができるが、半導体型を分離する場合は、単層又は数層(例えば、2層又は3層)のカーボンナノチューブが好ましく、単層カーボンナノチューブがより好ましい。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上(100質量%を含む)含むことがより好ましい。
【0050】
カーボンナノチューブの直径は、バンドギャップを大きくしてTCRを向上する観点で、0.6~1.5nmの間が好ましく、0.6nm~1.2nmがより好ましく、0.7~1.1nmがさらに好ましい。また、一実施形態では、特に1nm以下が好ましい場合もある。0.6nm以上であれば、カーボンナノチューブの製造がより容易である。1.5nm以下であれば、バンドギャップを適切な範囲に維持し易く、高いTCRを得ることができる。
【0051】
本明細書において、カーボンナノチューブの直径は、断熱層上の、又は成膜した薄膜のカーボンナノチューブを原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))を用いて観察して100箇所程度の直径を計測し、個数比率で、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1.5nmの範囲内にあることを意味する。好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1.2nmの範囲内、さらに好ましくは0.7~1.1nmの範囲内にある。また、一実施形態では、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1nmの範囲内にある。
【0052】
また、カーボンナノチューブの長さは、100nm~5μmの間が、分散しやすく、塗布性も優れているためより好ましい。またカーボンナノチューブの導電性の観点でも、長さが100nm以上であることが好ましい。また、5μm以下であれば断熱層上で、且つ/又は成膜時の凝集を抑制し易い。カーボンナノチューブの長さは、より好ましくは500nm~3μm、さらに好ましくは700nm~1.5μmである。
【0053】
本明細書において、カーボンナノチューブの長さは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))を用いて少なくとも100本を観察し、数え上げることでカーボンナノチューブの長さの分布を測定し、個数比率で、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が100nm~5μmの範囲内にあることを意味する。好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が500nm~3μmの範囲内にある。より好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が700nm~1.5μmの範囲内にある。
【0054】
カーボンナノチューブの直径及び長さが上記範囲内であると、半導体性の影響が大きくなり、且つ、大きな電流値を得られるため、ボロメータ膜として用いた場合に高いTCR値が得られやすい。
【0055】
ボロメータ膜には、大きなバンドギャップとキャリア移動度を持つ半導体型カーボンナノチューブを用いることが好ましい。カーボンナノチューブ中、半導体型カーボンナノチューブ、好ましくは半導体型単層カーボンナノチューブの含有率は、一般に67質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、特に90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上(100質量%を含む)がさらに好ましい。なお、本明細書において、カーボンナノチューブ中の半導体型カーボンナノチューブの比率(質量%)を「半導体純度」と記載することもある。
【0056】
ボロメータ膜の厚みは特に限定されないが、例えば1nm以上、例えば数nm~100μm、好ましくは10nm~10μm、より好ましくは50nm~1μmの範囲である。一実施形態では、好ましくは20nm~500nm、より好ましくは50nm~200nmの範囲である。
ボロメータ膜の厚みが1nm以上であると、良好な光吸収率を得ることができる。
また、ボロメータ膜の厚みが10nm以上、好ましくは50nm以上であると、光反射層や光吸収材層を設けなくても十分な光吸収率が得られるため、素子構造を簡略にすることができる。
また、ボロメータ膜の厚みが1μm以下、好ましくは500nm以下であると、製造方法の簡便化の観点で好ましい。また、ボロメータ膜が厚過ぎると、上から蒸着されたコンタクト電極が、ボロメータ膜の下の方のカーボンナノチューブと十分にコンタクトせず、実効的な抵抗値が高くなる場合があるが、上記範囲内であれば、抵抗値の上昇を抑制することができる。
なお、ミラー(光反射層)や光吸収膜を設ける場合は、ボロメータ膜の厚みを上記範囲よりも薄くして、製造プロセスの更なる簡便化及び抵抗値の改善を図ってもよい。
また、ボロメータ膜の厚みが上記のとおり10nm~1μmの範囲内であると、ボロメータ膜の製造方法として、印刷技術を好適に適用することができるという点でも好ましい。
【0057】
ボロメータ膜の厚みは、ボロメータ膜の任意の10点で測定した厚みの平均値として求めることができる。
【0058】
また、ボロメータ膜の密度は、例えば0.3g/cm以上、好ましくは0.8g/cm以上、より好ましくは1.1g/cm以上である。上限は特に限定されないが、用いたカーボンナノチューブの真密度の上限値(例えば約1.4g/cm)とすることができる。
ボロメータ膜の密度が0.3g/cm以上であると、良好な光吸収率を得ることができる。
また、ボロメータ膜の密度が0.5g/cm以上であると、ミラー(光反射層)や光吸収膜を設けなくても十分な光吸収率が得られ、素子構造を簡略にすることができると言う点で好ましい。
なお、ミラー(光反射層)や光吸収膜を設ける場合は、ボロメータ膜の密度として、上記より低い密度を適宜選択してもよい。
【0059】
ボロメータ膜の密度は、ボロメータ膜の重量、面積、及び上で求めた厚みから算出することができる。
【0060】
また、ボロメータ膜において、上述の成分以外に、例えば、後述の負の熱膨張材料、イオン導電剤(界面活性剤、アンモニウム塩、無機塩)、樹脂、有機結着剤等を適宜用いてもよい。
【0061】
ボロメータ膜中のカーボンナノチューブの含有量は適宜選択できるが、好ましくは、ボロメータ膜の総質量を基準として0.1質量%以上が効果的で、より好ましくは、1質量%以上が効果的であり、例えば30質量%、さらには50質量%以上とすることも好ましく、場合により60質量%以上が好ましい場合もある。
【0062】
以下、カーボンナノチューブ膜の製造方法の一例を詳述する。
【0063】
カーボンナノチューブは、不活性雰囲気下、真空中において熱処理を行うことで、表面官能基やアモルファスカーボン等の不純物、触媒等を除去したものを用いてもよい。熱処理温度は、適宜選択できるが、800-2000℃が好ましく、800-1200℃がより好ましい。
【0064】
非イオン性界面活性剤は、適宜選択できるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤や、アルキルグルコシド系非イオン性界面活性剤など、イオン化しない親水性部位とアルキル鎖など疎水性部位で構成されている非イオン性界面活性剤を1種類若しくは複数組み合わせて用いることが好ましい。このような非イオン性界面活性剤としては、式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルが好適に用いられる。また、アルキル部が1又は複数の不飽和結合を含んでもよい。
【0065】
2n+1(OCHCHOH (1)
(式中、n=好ましくは12~18、m=10~100、好ましくは20~100である。)
【0066】
特に、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテルなどポリオキシエチレン(n)アルキルエーテル(nが20以上100以下、アルキル鎖長がC12以上C18以下)で規定される非イオン性界面活性剤がより好ましい。また、N,N-ビス[3-(D-グルコンアミド)プロピル]デオキシコールアミド、n-ドデシルβ-D-マルトシド、オクチルβ-D-グルコピラノシド、ジギトニンも使用することができる。
【0067】
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(分子式:C6412626、商品名:Tween 60、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(分子式:C2444、商品名:Tween 85、シグマアルドリッチ社製等)、オクチルフェノールエトキシレート(分子式:C1422O(CO)、n=1~10、商品名:Triton X-100、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレン(40)イソオクチルフェニルエーテル(分子式:C1740(CHCH2040H、商品名:Triton X-405、シグマアルドリッチ社製等)、ポロキサマー(分子式:C10、商品名:Pluronic、シグマアルドリッチ社製等)、ポリビニルピロリドン(分子式:(CNO)、n=5~100、シグマアルドリッチ社製等)等を用いることもできる。
【0068】
カーボンナノチューブの分散溶液を得る方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用できる。例えば、カーボンナノチューブ混合物、分散媒、及び非イオン性界面活性剤を混合してカーボンナノチューブを含む溶液を調製し、この溶液を超音波処理することでカーボンナノチューブを分散させ、カーボンナノチューブ分散液(ミセル分散溶液)を調製する。分散媒としては、分離工程の間、カーボンナノチューブを分散浮遊できる溶媒であれば特に限定されず、例えば水、重水、有機溶媒、イオン液体、又はこれらの混合物等を用いることができるが、水及び重水が好ましい。前記超音波処理に加えて、又は代えて、機械的な剪断力によるカーボンナノチューブ分散手法を用いてもよい。機械的な剪断は気相中で行ってもよい。カーボンナノチューブと非イオン性界面活性剤によるミセル分散水溶液においてカーボンナノチューブは孤立した状態であることが好ましい。そのため、必要に応じて、超遠心分離処理を用いてバンドル、アモルファスカーボン、不純物触媒等の除去を行ってもよい。分散処理の際、カーボンナノチューブを切断することができ、カーボンナノチューブの粉砕条件、超音波出力、超音波処理時間等を変えることで、長さを制御することができる。例えば、未処理のカーボンナノチューブをピンセット、ボールミル等で粉砕し、凝集体サイズを制御できる。これらの処理後、超音波ホモジナイザーにより、出力40~600W、場合により100~550W、20~100KHz、処理時間1~5時間、好ましくは~3時間にすることで、長さを100nm~5μmに制御することできる。1時間より短いと、条件によってはほとんど分散せず、ほとんど元の長さのままである場合がある。また、分散処理時間の短縮及びコスト減の観点では3時間以下が好ましい。本実施形態は、非イオン性界面活性剤を用いたことにより切断の調整が容易であるという利点も有し得る。また、除去が困難なイオン性界面活性剤を含有しないという利点もある。
【0069】
カーボンナノチューブの分散及び切断により、表面官能基がカーボンナノチューブの表面あるいは端に生成される。生成される官能基は、カルボキシル基、カルボニル基、水酸基等が生成される。液相での処理であれば、カルボキシル基、水酸基が生成され、気相であれば、カルボニル基が生成される。
【0070】
また、前記重水又は水、及び非イオン性界面活性剤を含む液体における界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度~10質量%が好ましく、臨界ミセル濃度~3質量%がより好ましい。臨界ミセル濃度未満であると分散できないため好ましくない。また、10質量%以下であれば、分離後、界面活性剤の量を低減しながら十分な密度のカーボンナノチューブを塗布することができる。本明細書において、臨界ミセル濃度(critical micelle concentration(CMC))とは、例えば一定温度下、Wilhelmy式表面張力計等の表面張力計を用い、界面活性剤水溶液の濃度を変えて表面張力を測定し、その変極点となる濃度のことを言う。本明細書において「臨界ミセル濃度」は、大気圧下、25℃での値とする。
【0071】
上記切断及び分散工程におけるカーボンナノチューブの濃度(カーボンナノチューブの重量/(カーボンナノチューブと分散媒と界面活性剤との合計重量)×100)は、特に限定されないが、例えば0.0003~10質量%、好ましくは0.001~3質量%、より好ましくは0.003~0.3質量%とすることができる。
【0072】
上述の切断・分散工程を経て得られた分散液を、後述する分離工程にそのまま用いてもよいし、分離工程の前に、濃縮、希釈等の工程を行ってもよい。
【0073】
カーボンナノチューブの分離は、例えば、電界誘起層形成法(ELF法:例えば、K.Ihara et al. J.Phys.Chem.C.2011,115,22827~22832、日本特許第5717233号明細書を参照、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)により行うことができる。ELF法を用いた分離方法の一例を説明する。カーボンナノチューブ、好ましくは単層カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤により分散し、その分散液を縦型の分離装置に入れ、上下に配置された電極に電圧を印加することで、無担体電気泳動により分離する。分離のメカニズムは例えば以下のように推定できる。カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤により分散した場合、半導体型カーボンナノチューブのミセルは負のゼータ電位を有し、一方金属型カーボンナノチューブのミセルは逆符号(正)のゼータ電位(近年では、僅かに負のゼータ電位を有するかほとんど帯電していないとも考えられている)を持つ。そのため、カーボンナノチューブ分散液に電界を印加すると、ゼータ電位の差などにより、半導体型カーボンナノチューブミセルは陽極(+)方向へ、金属型カーボンナノチューブミセルは陰極(-)方向へ電気泳動する。最終的には陽極付近に半導体型カーボンナノチューブが濃縮された層が、陰極付近に金属型カーボンナノチューブが濃縮された層が分離槽内に形成される。分離の電圧は、分散媒の組成及びカーボンナノチューブの電荷量等を考慮して適宜設定できるが、1V以上200V以下が好ましく、10V以上200V以下がより好ましい。分離工程の時間短縮の観点では100V以上が好ましい。また、分離中の泡の発生を抑制して分離効率を維持する観点では200V以下が好ましい。分離は、繰り返すことで純度が向上する。分離後の分散液を初期濃度に再設定して同様の分離操作を行ってもよい。それにより、さらに高純度化することができる。
【0074】
上述のカーボンナノチューブの分散・切断工程及び分離工程により、所望の直径・長さを有する半導体型カーボンナノチューブが濃縮された分散液を得ることができる。なお、本明細書において、半導体型カーボンナノチューブが濃縮されているカーボンナノチューブ分散液を「半導体型カーボンナノチューブ分散液」と呼ぶ場合がある。分離工程により得られる半導体型カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの総量中、半導体型カーボンナノチューブを、一般に67質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上(上限は100質量%であってもよい)含む分散液を意味する。金属型及び半導体型のカーボンナノチューブの分離傾向については、顕微Ramanスペクトル分析法と紫外可視近赤外吸光光度分析法により分析することができる。
【0075】
上述のカーボンナノチューブの分散・切断工程後、且つ、分離工程前のカーボンナノチューブ分散液のバンドル、アモルファスカーボン、金属不純物等を除去するため遠心分離処理を行ってもよい。遠心加速度は適宜調整できるが、10000×g~500000×gが好ましく、50000×g~300000×gがより好ましく、場合により100000×g~300000×gであってもよい。遠心分離時間は0.5時間~12時間が好ましく、1~3時間がより好ましい。遠心分離温度は、適宜調整できるが、4℃~室温が好ましく、10℃~室温がより好ましい。
【0076】
分離後のカーボンナノチューブ分散液の界面活性剤の濃度は適宜制御することができる。カーボンナノチューブ分散液の界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度~5質量%程度が好ましく、より好ましくは、0.001質量%~3質量%、塗布後の再凝集等を抑えるために、0.01~1質量%が特に好ましい。
【0077】
上述の工程により得られた半導体型カーボンナノチューブ分散液を断熱層上又は所定の基材上に塗布して乾燥させ、場合により熱処理を行うことにより、ボロメータ膜を形成することができる。
【0078】
半導体型カーボンナノチューブ分散液を所定の基材(下地層4など)に塗布する方法としては、特に限定されず、滴下法、スピンコート、印刷、インクジェット、スプレー塗布、ディップコート等が挙げられる。製造コストの低減の観点では、印刷法が好ましい。印刷法としては、塗布(ディスペンサー、インクジェット等)、転写(マイクロコンタクトプリント、グラビア印刷等)等が挙げられる。
【0079】
断熱層上又は所定の基材に塗布した半導体型カーボンナノチューブ分散液は、熱処理により界面活性剤や溶媒を除去することができる。熱処理の温度は界面活性剤の分解温度以上で適宜設定できるが、150~500℃が好ましく、200~500℃、例えば200~400℃がより好ましい。200℃以上であれば界面活性剤の分解物の残留を抑制し易いためより好ましい。また、500℃以下、例えば400℃以下であれば、基板や他の構成要素の変質を抑制することができるため好ましい。また、カーボンナノチューブの分解やサイズ変化、官能基の離脱等を抑制することができる。
【0080】
(負の熱膨張材料)
一実施形態では、ボロメータ膜は、カーボンナノチューブに加えて負の熱膨張材料を含むことができる。
本実施形態に係るボロメータ膜は、分散したカーボンナノチューブが絡み合って集合して形成されたネットワーク構造を構成する三次元的な網目構造を有するカーボンナノチューブ集合体中に、負熱膨張材料が分散しているカーボンナノチューブ複合材料である。このようなカーボンナノチューブの三次元的な導電ネットワークは、ボロメータ材料中において、すべて接続され導電に寄与しているわけではなく、一部のカーボンナノチューブは、導電機構に寄与していない。これらのカーボンナノチューブは、温度上昇に伴う負熱膨張材料の体積減少の効果で、新たな導電パスを構築する。又は、体積減少の効果で、カーボンナノチューブ同士の接触面積が増え、さらに、導電パスも増加する。これにより、温度上昇に伴う電流増加がより大きくなり、TCR値が向上する。つまり、半導体型カーボンナノチューブに混合する負熱膨張材料は、温度上昇に伴って収縮するので、その際離れていたカーボンナノチューブ同士のネットワークが追加生成され、導電パスが多くなり、電流が多く流れる。また、一実施形態では、半導体型カーボンナノチューブより、抵抗の大きな負熱膨張材料を使用することで、より効率的に半導体型カーボンナノチューブの導電パスを形成することができる。
【0081】
本明細書において、負熱膨張材料とは、温度上昇に伴い収縮する負の膨張率を有する材料を意味する。負熱膨張材料としては、例えば、-100~+200℃の任意の温度領域、例えば-100~+100℃の領域、好ましくはボロメータの使用温度領域、例えば少なくとも-50~100℃において、温度差1Kあたりの線熱膨張率ΔL/L((膨張後の長さ-膨張前の長さ)/膨張前の長さ)が好ましくは-1×10-6/K~-1×10-3/K、より好ましくは-1×10-5/K~-1×10-3/Kである材料が挙げられる。
熱膨張率は、例えばJIS Z 2285(金属材料の線膨張係数の測定方法)又はJIS R 1618(ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法)等に準拠して測定することができる。
【0082】
一実施形態では、負熱膨張材料は、ボロメータの使用環境において、十分な負の熱膨張を示す材料であることが好ましい。ボロメータの使用環境の温度としては、例えば、-350℃~100℃、好ましくは-40℃~80℃、場合によりさらに好ましくは20℃~30℃、例えば21℃~30℃である。
また、ボロメータの使用環境の湿度としては、例えば、ボロメータ部が大気開放されているような構造で使用する場合、環境湿度であってよく、例えば75%RH以下が好ましい。また、真空パッケージされていたり、パッケージ内に不活性ガスが重点されているような構造で使用する場合は、例えば5%RH以下が好ましいが、真空度等によっては上記範囲外であってもよい。なお、デバイスの長期安定性の観点からは湿度は低い方が好ましいため、いずれの場合も下限は特に限定されず、0%RH以上、例えば0%RH超である。
【0083】
また、前記負熱膨張材料の抵抗率は、特に限定されるものではないが、-100~+100℃の任意の温度領域、好ましくはボロメータの使用温度、例えば室温(約23℃)において、好ましくは10-1Ωcm以上、場合により好ましくは1Ωcm以上、より好ましくは10Ωcm以上、さらに好ましくは10Ωcm以上であり、また好ましくは10Ωcm以下、より好ましくは10Ωcm以下であり得る。抵抗率は、例えばJIS K 7194、JIS K 6911等、定法に従って測定することができる。
【0084】
本明細書において、負熱膨張材料としては、Li、Al、Fe、Ni、Co、Mn、Bi、La、Cu、Sn、Zn、V、Zr、Pb、Sm、Y、W、Si、P、Ru、Ti、Ge、Ca、Ga、Cr、Cdのいずれか1種又は2種以上を含んだ酸化物、窒化物、硫化物、又は多元素化合物が挙げられるがこれらに限定されない。2種以上の化合物の混合物を用いてもよい。
負熱膨張材料としては、バナジウム酸化物、β-ユークリプタイト、ビスマス・ニッケル酸化物、タングステン酸ジルコニウム、ルテニウム酸化物、マンガン窒化物、チタン酸鉛、一硫化サマリウム等(これらの化合物の元素を1種以上の上記元素で置き換えたものも含む)が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、LiAlSiO、ZrW、ZrWO(PO、BiNi0.85Fe0.15、Bi0.95La0.05NiO、Pb0.76La0.04Bi0.20VO、Sm0.780.22S、Cu1.8Zn0.2、Cu、0.4PbTiO-0.6BiFeO、MnCo0.98Cr0.02Ge、CaRuO3.74、MnGa0.7Ge0.30.880.12、Cd(CN)・xCCl、LaFe10.5Co1.0Si1.5、CaRuO、Mn3.27Zn0.45Sn0.28N、MnGa0.9Sn0.10.9、MnZnNが適当である。
【0085】
一実施形態では、負熱膨張材料の中でも、合成・入手の容易さの観点から、酸化物、窒化物、硫化物が好ましい。
【0086】
本明細書において、負熱膨張材料のサイズは、適宜選択できる。好ましくは、10nm~100μm、より好ましくは、15nm~10μmであり、また場合により50nm~5μmであることも好ましい。
また、負熱膨張材料の形態は、特に限定されるものではないが、例えば、球状、針状、棒状、板状、繊維状、鱗片状等が挙げられ、成膜性の観点では、球状が好ましい。
【0087】
また、ボロメータ膜中の負熱膨張材料の含有量は適宜選択できるが、ボロメータ膜の総質量を基準として1~99質量%含まれていることが好ましく、1~70質量%であることがより好ましく、例えば1~50質量%、場合により10~50質量%であることも好ましく、また40質量%以下が好ましい場合もある。
【0088】
また、ボロメータ膜は、カーボンナノチューブ及び負熱膨張材料に加えて、結着剤、さらに所望により他の成分を含んでもよいが、カーボンナノチューブと負熱膨張材料の総質量が、ボロメータ膜の質量を基準として70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0089】
カーボンナノチューブと負の熱膨張材料を含むボロメータ膜は、上記のカーボンナノチューブ分散液を用いたボロメータ膜の製造方法において、カーボンナノチューブ分散液に負の熱膨張材料、必要により結着剤などを添加した分散液を用いることにより製造することができる。
【0090】
上記の他、本実施形態のボロメータ及びその製造方法では、素子全体が基材層2及び保護層9から構成される樹脂外装によって保護されている点以外は、ボロメータ、特にはプリンテット型のボロメータに用いられる構成及び製造方法を特に制限なく適用することができる。
【0091】
・裏面入射型のボロメータ素子
本実施形態のボロメータは、基材層2の下に、Si基板のような非光透過性の基材が存在しないため、裏面入射型の素子とすることもできる(図14)。
この場合、上に説明したボロメータ素子の構造及びその製造方法において、図14に示すように、基材層2として、保護層9に該当する層、すなわち、光透過性が高くかつ膜厚の薄い層を形成し、保護層9として、基材層2に該当する層、すなわち、断熱性が高く膜厚の厚い層を形成する。当然ながら、光反射層や光吸収膜を設ける場合はその配置を検知しようとする光の入射方向に合わせて適宜変更してよい。
【0092】
・ボロメータアレイ
本実施形態のボロメータ及びその製造方法は、複数の素子を有するボロメータアレイにも適用することができる。本実施形態に係るボロメータアレイの一例を図15(断面図)に示す。
本実施形態のボロメータアレイでは、基材層2と保護層9は、アレイの外周部分で互いに接合して(図15の破線部)、樹脂外装を形成している。このような構造の製造方法としては、例えば、上記工程9、10において、アレイの外周部分のボロメータ膜9(及び存在する場合は、下地層4、光吸収膜8等)を除去することにより、基材層2を露出させ(工程9)、その後保護層9を形成する(工程10)。これにより、アレイの外周部分で基材層2と保護層9が接合し、アレイ全体を保護する樹脂外装を形成することができる。
【0093】
一方、アレイの内側に配置された素子の素子間の領域(図15、矢印部)では、基材層2と保護層9が接合していてもよいし、あるいは、少なくともボロメータ膜9の深さまで画素毎に分離されていれば、基材層2と保護層9が接合していなくともよい。
【0094】
・ボロメータアレイの製造方法
本実施形態のボロメータアレイは、基本的には上に説明した単素子のボロメータと同様の製造プロセスで形成することができる。ボロメータアレイの製造プロセスを簡単に説明する。
【0095】
1.所望の支持体1を用意する。
2.支持体1上に基材層2を形成する。
3.画素毎にミラー3を形成する。
4.下地層4を形成する。
5.配線5を画素毎に形成する。
6.ボロメータ膜6を形成する。
7.画素毎にコンタクト電極7を形成する。
8.保護膜・光吸収膜8を形成する。
9.アレイの外周部分のボロメータ膜6等を除去して、基材層2を露出させる。
10.保護層9を形成する。
11.アレイの最外周部となる位置に、支持体1からひきはがすための溝11を形成する。
12.アレイを支持体1から剥離する。
【0096】
上記の工程において、下地層4、ボロメータ膜6、光吸収膜・保護膜8等は、画素毎に形成してもよいし、複数の画素にわたる層として形成してもよいが、複数の画素にわたる層として形成した場合は、工程10の前、例えば工程9において、画素間に所望の深さまで溝を形成することにより、ボロメータ膜6及び光吸収膜・保護膜8等を画素毎に分離する。溝の形成は、工程11と同様、エッチング等により行うことができる。
【0097】
また、本実施形態のボロメータを2次元アレイに適用する場合には、複数の素子のコンタクト電極7又は配線5に接続する引出し配線12、13を設けることができる。
一実施形態では、引出し配線12、13は、ボロメータ膜と同じ層に配置してもよい。
また、一実施形態では、引出し配線12、13を、間に絶縁層や断熱層を挟むことによって、ボロメータ膜6と異なる層となるように配置することが好ましい。これにより、引出し配線とボロメータ膜が同一の層に存在する場合と比べて、金属製の配線を介した画素間の熱流入を低減し、ボロメータアレイの精度を向上することができる。
そのような構造の製造方法としては、例えば、
(1)基材層又は下地層中に引出し配線(縦配線12及び横配線13)を異なる高さに予め形成し、
(2)上述の画素分離の工程で引出し配線の深さまでエッチングすることにより、及び/又は引出し配線に接続するコンタクトホールを形成することにより、引出し配線を露出させ、
(3)露出した引出し配線とコンタクト電極7又は配線5とを、チタン膜等の接続電極(接続配線)14により接続する方法が挙げられる。
【0098】
図16図17は本実施形態に係るボロメータアレイの電極及び配線の構造を表す上面図である。図18は、図16におけるY-Y’位置で切断した正面図である。この正面図に示されるように、縦配線12と、横配線13(図16におけるZ-Z’位置に設けられた横配線13)は絶縁層をはさんで異なる層に配置してもよい。
なお、図16図17図18では、位置関係を明確に示すために、コンタクト電極7の上側に配線5を設けた態様としている。また、便宜上、ミラー3、ボロメータ膜6上の光吸収膜8など一部の構成要素を省略している。
【0099】
このようにして電極及び配線を形成した後、または、上記(2)のエッチングの工程と同時に、アレイの外周部分のボロメータ膜9(及び存在する場合は、下地層4、光吸収膜8等)を除去して基材層2を露出させた後、単素子の場合と同様に保護層9を形成する。その後、形成されるアレイの最外周部となる位置に溝11を作製し、支持体1から本実施形態にかかるアレイを剥離する。これにより、複数の素子が基材層2及び保護層9からなる樹脂外装に包まれ保護されたアレイを形成することができる。
なお、本実施形態において、アレイの外周部分とは、アレイを構成する複数の素子のうち、外側に配置された素子の光検知部の外縁(図17の破線部)より外側の領域を指す。
なお、引出し配線を設ける場合も、これらの引出し配線のための開口部(引出し配線が樹脂外装を貫通する面積)が、樹脂外装の表面積の1/10以下であることが好ましい。
【0100】
本実施形態に係るアレイを製造する製造プロセスの一例を簡単に説明する。
(1)所望の支持体1を用意する。
(2)支持体1上に基材層2を形成する。
(3)基材層2上に縦配線12を形成する。
(4)下地層4を形成する。
(5)下地層4上に画素毎のミラー3、及び横配線13を形成する。
(6)下地層4を形成する。
(7)画素毎に配線5を形成する。
(8)ボロメータ膜6を形成する。
(9)画素毎にコンタクト電極7を形成する。
(10)保護膜・光吸収膜8を形成する。
(11)エッチング等により、画素間のボロメータ膜等を除去して、配線5、縦配線12、横配線13を露出させ、各画素の配線5と、縦配線12・横配線13とを、それぞれ接続配線14で接続する。
(12)アレイの外周部分のボロメータ膜6等を除去して、基材層2を露出させる。
(13)保護層9を形成する。
(14)アレイの最外周部となる位置に、支持体1からひきはがすための溝11を形成する。
(15)アレイを支持体1から剥離する。
【0101】
なお、本実施形態のボロメータをボロメータアレイに適用する場合、基材層2と保護層9とからなる樹脂外装を形成すること以外は、ボロメータアレイに用いられる構成を特に制限なく使用することができる。
【0102】
例えば、上記には単純マトリックス型のボロメータ型検出器を示したが、本実施形態のボロメータ型検出器は、TFT(薄膜トランジスタ)アレイなどのアクティブマトリックス型アレイであってもよい。
【0103】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0104】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
ボロメータ膜を含む光検知部、及び
熱伝導率が0.3W/mK以下である樹脂からなる基材層と、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層と、からなる樹脂外装
を含み、
前記光検知部は、前記樹脂外装で包まれている、ボロメータ。
(付記2)
前記基材層の厚みが100nm以上200μm以下である、付記1に記載のボロメータ。
(付記3)
前記保護層の厚みが10nm以上100μm以下である、付記1又は2に記載のボロメータ。
(付記4)
前記基材層を構成する樹脂と、前記保護層を構成する樹脂が、同一の樹脂である、付記1~3のいずれか1つに記載のボロメータ。
(付記5)
前記基材層が、室温(23℃)において、曲率半径10mmまで曲げてもクラックを生じないことによって表される曲げ耐性を有する、付記1~4のいずれか1つに記載のボロメータ。
(付記6)
前記基材層上に下地層を有する付記1~5のいずれか1つに記載のボロメータ。
(付記7)
前記基材層を構成する樹脂がパリレンである、付記1~6のいずれか1つに記載のボロメータ。
(付記8)
前記基材層を構成する樹脂及び前記保護層を構成する樹脂がパリレンである、付記1~7のいずれか1つに記載のボロメータ。
(付記9)
前記ボロメータ膜が有機材料を含む、付記1~8のいずれか1つに記載のボロメータ。
(付記10)
前記ボロメータ膜が半導体型カーボンナノチューブを含む、付記1~9のいずれか1つに記載のボロメータ。
(付記11)
各々がボロメータ膜を備える複数の光検知部、及び
熱伝導率が0.3W/mK以下である樹脂からなる基材層と、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層と、からなる樹脂外装
を含み、
前記複数の光検知部が、前記樹脂外装で包まれている、アレイ構造を有する付記1~11のいずれか1つに記載のボロメータ。
(付記12)
熱伝導率が0.3W/mK以下の樹脂からなる基材層を形成する工程と、
前記基材層上にボロメータ膜を形成する工程と、
前記ボロメータ膜に接続するように2つの電極を形成して、ボロメータ膜及び電極を含む光検知部を形成する工程と、
前記光検知部を被覆し、かつ、該光検知部の周囲で前記基材層と直接接合するように、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層を形成し、それにより、前記光検知部を、前記基材層をと前記保護層とからなる樹脂外装で包む工程と、
を含む、ボロメータの製造方法。
(付記13)
所望の支持体上に熱伝導率が0.3W/mK以下の樹脂からなる基材層を形成する工程と、
前記基材層上に下地層を形成する工程と、
前記下地層上にボロメータ膜を形成する工程と、
前記ボロメータ膜に接続するように2つの電極を形成して、ボロメータ膜及び電極を含む光検知部を形成する工程と、
前記光検知部を被覆し、かつ、該光検知部の周囲で前記基材層と直接接合するように、熱伝導率が0.3W/mK以下であり、かつ赤外線透過率が70%以上である樹脂からなる保護層を形成し、それにより、前記光検知部を、前記基材層と前記保護層とからなる樹脂外装で包む工程と、
光検知部の外周部より外側に支持体の表面の深さまで溝を形成する工程と、
前記支持体から、前記基材層と前記保護層とからなる樹脂外装で包まれた光検知部を剥離する工程と、
を含む、付記12に記載のボロメータの製造方法。
(付記14)
前記保護層を形成した後に、前記2つの電極に接続するコンタクトホールを形成する工程をさらに含む、付記12又は13に記載の製造方法。
(付記15)
ボロメータ膜を挟んで検知しようとする光の入射側と反対側に、ミラーを形成する工程をさらに含む、付記12~14のいずれか1つに記載のボロメータの製造方法。
(付記16)
ボロメータ膜の検知しようとする光の入射側に、光吸収膜を形成する工程をさらに含む、付記12~15のいずれか1つに記載のボロメータの製造方法。
【符号の説明】
【0105】
1 支持体(Si基板)
2 基材層(パリレン層)
3 光反射層(ミラー)
4 下地層(SiO
5 配線(Ti/Au)
6 ボロメータ膜(カーボンナノチューブ膜)
7 コンタクト電極
8 光吸収膜/保護膜(SiO又はSiN)
9 保護層(パリレン膜)
10 コンタクトホール
11 溝
12 引出し配線(縦配線)
13 引出し配線(横配線)
14 接続配線
201 ベース基板
203 温度検知部
204 断熱部
206 赤外線反射膜
207 間隙
242 脚部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B