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特開2024-85510表面処理アルミニウム板、樹脂被覆表面処理アルミニウム板、及び成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085510
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】表面処理アルミニウム板、樹脂被覆表面処理アルミニウム板、及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/16 20060101AFI20240620BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20240620BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C23C8/16
B32B15/20
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200048
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武永 智靖
(72)【発明者】
【氏名】下田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】田口 直美
(72)【発明者】
【氏名】田屋 慎一
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA19B
4F100AB10A
4F100AB31A
4F100AK01C
4F100AK42C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100GB07
4F100GB16
4F100GB31
4F100GB32
4F100GB48
4F100JB13C
4F100JB16C
4F100YY00B
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA12
4K044BB03
4K044BC02
4K044BC04
4K044CA04
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】耐食性、加工追従性、及び、樹脂密着性を兼ね備えた表面処理アルミニウム板を提供する。
【解決手段】アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の少なくとも一方の面に形成された表面処理層と、を含み、前記アルミニウム基材が、アルミニウム板、又はアルミニウム合金板であり、前記表面処理層が、水酸化アルミニウムを含み、FT-IRで測定される赤外吸収スペクトルにおいて、波数850~1000cm-1の吸光度ピークの高さをPaと定義し、波数1000~1200cm-1の吸光度ピークの高さをPbと定義したとき、Pa/Pbの値が6.0以下である、ことを特徴とする、表面処理アルミニウム板。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材と、
前記アルミニウム基材の少なくとも一方の面に形成された表面処理層と、を含み、
前記アルミニウム基材が、アルミニウム板、又はアルミニウム合金板であり、
前記表面処理層が、水酸化アルミニウムを含み、FT-IRで測定される赤外吸収スペクトルにおいて、波数850~1000cm-1の吸光度ピークの高さをPaと定義し、波数1000~1200cm-1の吸光度ピークの高さをPbと定義したとき、Pa/Pbの値が6.0以下である、
ことを特徴とする、表面処理アルミニウム板。
【請求項2】
前記表面処理層の厚みが、1nm~2000nmである、請求項1に記載の表面処理アルミニウム板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面処理アルミニウム板上に、さらに樹脂層を有し、前記樹脂層が熱可塑性樹脂層又は熱硬化性樹脂層である、樹脂被覆表面処理アルミニウム板。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の表面処理アルミニウム板、又は、請求項3に記載の樹脂被覆表面処理アルミニウム板からなる、成形体。
【請求項5】
前記成形体が、容器、蓋、及び構造部材のうちのいずれかである、請求項4に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理アルミニウム板、樹脂被覆表面処理アルミニウム板、及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食缶や飲料缶等に適用される表面処理アルミニウム板として、リン酸クロメート処理による表面処理アルミニウム板が製造されている。また、家電部品や建築用構造部材等に適用される表面処理アルミニウム板として、クロム酸クロメート処理による表面処理アルミニウム板が製造されている。そして、近年の六価クロムに対する規制に鑑みて、いわゆるクロムフリー表面処理アルミニウム板が知られている。
【0003】
例えば下記の特許文献1~3には、クロムフリーの表面処理として、アルミニウム基材表面に水酸化アルミニウムを形成させる処理が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-013253号公報
【特許文献2】特開2004-216801号公報
【特許文献3】特開2007-176072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クロムフリーの表面処理アルミニウム板に対しては、リン酸クロメート処理、クロム酸クロメート処理と同等またはそれ以上の性能が求められる。具体的には、耐食性、成形加工に対する追従性(加工追従性)、表面処理層と樹脂層の密着性(以下「樹脂密着性」とも称する。)、等が求められる。
【0006】
クロムフリーの表面処理アルミニウム板において、アルミニウム基材表面に形成される水酸化アルミニウム被膜は、ベーマイトと呼ばれるアルミナ1水和物(AlO(OH))が主体の被膜と考えられている。ベーマイトは、主にアルマイト被膜の封孔処理に使用されており、耐食性を有する物質として知られている。また表面に凹凸を持った針状組織として知られており、この針状組織が塗膜やフィルム等の樹脂層に対するアンカー効果を発揮し、樹脂密着性を向上させると考えられている。
【0007】
一方でベーマイト等の水酸化アルミニウム被膜には、被膜の形成処理条件に応じて、アモルファスのアルミナ(Al)や、結晶質のアルミナ(Al)が含まれる。アモルファスのアルミナは、結晶質のアルミナとは異なり、熱水に浸漬させると短時間で溶解してしまうことが知られている。
【0008】
従って、アルミニウム基材と樹脂層との間に存在する水酸化アルミニウム被膜中に、水溶性のアモルファスアルミナが高い比率で含まれると、レトルト処理等の熱水処理により、樹脂の接着面が溶解してしまうため、十分な樹脂密着性を得ることができないと考えられる。そのため、見た目としては同じ針状組織、厚みを有する水酸化アルミニウム被膜であっても、被膜中のアモルファスアルミナの比率によって、樹脂密着性に大きな差が生じるという課題がある。また、同じ処理方法で形成した水酸化アルミニウム被膜であっても、処理時の僅かな水質の変化によって、被膜中のアモルファスアルミナの比率が変化してしまい、樹脂密着性に大きな差が生じてしまうという課題がある。これらの課題は、水酸化アルミニウム被膜処理の安定生産を阻害し、製品の品質及び歩留り低下の要因になっている。
【0009】
本発明者らは樹脂密着性の観点から、上記課題に鑑みて、本開示では、上述の針状組織によるアンカー効果だけではなく、被膜中のアモルファスのアルミナの比率にも焦点をあてることとした。
【0010】
そして、水酸化アルミニウム被膜中の水酸化アルミニウムの量に対するアモルファスのアルミナの量を管理することにより、被膜厚みが薄い場合でも、十分な樹脂密着性が得られることを見いだし、本発明に至ったものである。
【0011】
本発明は、かような課題を解決することを鑑みてなされたものであり、耐食性、加工追従性、及び、樹脂密着性を兼ね備えた表面処理アルミニウム板を提供することを目的とする。また、その表面処理アルミニウム板を用いた樹脂被覆表面処理アルミニウム板、及び成形体を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記に例示した課題を解決するために、本発明の一実施形態における表面処理アルミニウム板は、(1)アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の少なくとも一方の面に形成された表面処理層と、を含み、前記アルミニウム基材が、アルミニウム板、又はアルミニウム合金板であり、前記表面処理層が、水酸化アルミニウムを含み、FT-IRで測定される赤外吸収スペクトルにおいて、波数850~1000cm-1の吸光度ピークの高さをPaと定義し、波数1000~1200cm-1の吸光度ピークの高さをPbと定義したとき、Pa/Pbの値が6.0以下である、ことを特徴とする。
【0013】
上記(1)において、(2)前記表面処理層の厚みが、1nm~2000nmであることが好ましい。
【0014】
上記に例示した課題を解決するために、本発明の一実施形態における樹脂被覆表面処理アルミニウム板は、(3)上記(1)又は(2)の表面処理アルミニウム板上にさらに樹脂層を有し、前記樹脂層が熱可塑性樹脂層又は熱硬化性樹脂層である。
【0015】
上記に例示した課題を解決するために、本発明の一実施形態における成形体は、(4)上記(1)又は(2)に記載の表面処理アルミニウム板、又は、(3)に記載の樹脂被覆表面処理アルミニウム板からなることが好ましい。
【0016】
上記(4)において、(5)前記成形体が、容器、蓋、及び構造部材のうちのいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐食性、加工追従性、及び、樹脂密着性を兼ね備えた表面処理アルミニウム板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態における表面処理アルミニウム板を模式的に示した図である。
図2】本発明の実施形態における樹脂被覆表面処理アルミニウム板を模式的に示した図である。
図3】本発明のFT-IRの赤外吸収スペクトルにおける吸光度ピーク高さPa及びPbの測定方法を説明するための模式図である。
図4】本発明の実施例における試験評価方法を説明するための模式図である。
図5】実施例1における赤外吸収スペクトルを示す図である。
図6】実施例2における赤外吸収スペクトルを示す図である。
図7】比較例2における赤外吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<表面処理アルミニウム板100>
以下、本発明の表面処理アルミニウム板を実施するための実施形態について説明する。図1は、本発明の表面処理アルミニウム板の一実施形態を模式的に示した図である。
【0020】
本実施形態の表面処理アルミニウム板100は、アルミニウム基材10、及び、アルミニウム基材10の少なくとも一方の面に形成された表面処理層20と、を含む。なお、図1に示される表面処理アルミニウム板100はその片面に表面処理層20を有しているが、これに限られるものではなく、アルミニウム基材10の両面に表面処理層20を有していてもよい。
【0021】
<アルミニウム基材10>
本実施形態の表面処理アルミニウム板100において、アルミニウム基材10としては、純アルミニウム板およびアルミニウム合金板を用いることができる。アルミニウム基材の合金種は用途に応じて選定される。例えば容器や蓋用の材料には加工性及び強度、耐食性の観点から、JIS規格の3000系または5000系のアルミニウム合金板が用いられる。また、自動車等の構造部材にはその用途に応じて6000系や7000系のアルミニウム合金板が用いられる。
【0022】
<表面処理層20>
表面処理層20は、水酸化アルミニウムを含む。水酸化アルミニウムは、アルミナ1水和物(AlO(OH))や、アルミナ3水和物(Al(OH))などを含む。これらの物質を含むことにより、耐食性及び樹脂密着性などを向上させることができる。表面処理層20中の水酸化アルミニウムは、FT-IRで測定される赤外吸収スペクトルにおける、波数1000~1200cm-1の範囲に現れるピークにより確認できる。この波数1000~1200cm-1の範囲に現れるピークは、水酸化アルミニウム由来のAl-OH変角振動の吸光度ピークであることが知られている。
【0023】
また表面処理層20には、アモルファスのアルミナ(Al)が含まれ得る。表面処理層20中のアモルファスのアルミナは、FT-IRで測定される赤外吸収スペクトルにおける、波数850~1000cm-1の範囲に現れるピークにより確認できる。この波数850~1000cm-1の範囲に現れるピークは、アモルファスのアルミナのAl-O伸縮振動由来の吸光度ピークであることが知られている。なお、本実施形態においては、後述するピーク比が6.0以下である限りにおいて、アモルファスのアルミナ含有量は限りなくゼロに近くてもよい。
【0024】
本実施形態の特徴は、表面処理層20中において、上記アモルファスのアルミナの比率を規定する点にある。本実施形態はより具体的には、水酸化アルミニウムとの比においてアモルファスのアルミナの比率を規定することにより、表面処理層20の厚みにかかわらず、表面処理層20の不溶性もしくは難溶性の性質を維持させ、表面処理層20の樹脂密着性を制御しようとするものである。
【0025】
本実施形態の表面処理アルミニウム板100においては、表面処理層20のFT-IRで測定される赤外吸収スペクトルにおいて、波数850~1000cm-1の吸光度ピークの高さを「Pa」と定義し、波数1000~1200cm-1の吸光度ピークの高さを「Pb」と定義したとき、ピーク比「Pa/Pb」の値が、6.0以下であることを特徴とする。
【0026】
このように、表面処理層20の物性は、FT-IRで測定される赤外吸収スペクトルによって確認することが可能である。そして本発明者が鋭意検討した結果、上記比「Pa/Pb」の値が、6.0以下である場合に、上述したリン酸クロメート処理やクロム酸クロメート処理と同等またはそれ以上の性能が得られることを見いだした。
【0027】
発明者が、表面処理層20中におけるアモルファスのアルミナの比率に着目した理由は以下のとおりである。すなわち、従来知られているベーマイト等の水酸化アルミニウム被膜は表面に針状組織を有しており、この針状組織が塗膜やフィルム等の樹脂層に対するアンカー効果を発揮することで樹脂密着性が向上すると考えられている。そして、このアンカー効果を発揮するためには、水酸化アルミニウム被膜表面に形成される針状組織を十分な厚さに成長させる必要があり、そのためには被膜形成のための処理時間を長くする必要があると考えられていた。
【0028】
一方で本発明者は、水酸化アルミニウム被膜中に含まれる、水溶性のアモルファスアルミナの量を減らすことにより、上記ベーマイトの針状組織が十分に成長していない、0.5~30秒程度の短い処理時間で形成した形成初期の水酸化アルミニウム被膜でも水酸化アルミニウムの不溶性もしくは難溶性の性質によって、十分な樹脂密着性を発揮するのではないかと考えた。また、500nm以上の十分に厚く形成された水酸化アルミニウムを含む被膜であっても、被膜中のアモルファスアルミナの比率が高くなると不溶性もしくは難溶性の性質が維持できなくなると考えた。表面処理層20の被膜中のアモルファスアルミナの比率は被膜の形成方法によって変わる。例えば75℃以上の熱水に浸漬させて処理する方法と110℃以上の水蒸気中で処理する方法では、水蒸気中で処理する方が被膜中のアモルファスアルミナの比率が小さくなる。また、熱水に浸漬させて処理する方法でも水中のリン(P)濃度、カルシウム(Ca)濃度、ケイ素(Si)濃度、マグネシウム(Mg)濃度、鉄(Fe)濃度が少ないほどアモルファスアルミナの比率が小さくなる。本発明の重要な点はいかなる製造方法であっても、上記比「Pa/Pb」の値を所定値以下とすることにより、表面処理層20の不溶性または難溶性の性質が維持されるので、十分な樹脂密着性等の性能を得られるという点である。上記比「Pa/Pb」の値が所定値以下であれば形成初期の1nm~100nm程度の薄い水酸化アルミニウム被膜であっても十分な耐食性及び樹脂密着性が得られる。そのため、短時間の被膜形成時間で製造する事が可能となり、コイル製品として、連続的に通板させて製造する方法が適用可能となる。これらの実現によって大幅なコスト低減が期待できる。
【0029】
上述の、短時間の処理で形成させた薄い水酸化アルミニウム被膜の赤外吸収スペクトルは、公知のフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、高感度反射法(Reflection Absorption Spectroscopy(RAS)法)により測定することができる。吸光度ピークの測定方法としては、まず、赤外吸収スペクトルの波数1200cm-1の吸光度と波数850cm-1の吸光度を直線で結び、それをベースラインとする。そして、アモルファスアルミナのAl-O伸縮振動由来のピークとして、波数850~1000cm-1の範囲内で、ベースラインから最も高い点を吸光度ピーク高さPaとする。また、水酸化アルミニウムのAl-OH変角振動由来のピークとして、波数1000~1200cm-1の範囲内で、ベースラインから最も高い点を吸光度ピーク高さPbとする。
【0030】
本実施形態において表面処理層20の形成方法は特に限定されないが、例えば、75℃~100℃の熱水に浸漬させて処理する方法や100℃~140℃の水蒸気中で処理する方法などがある。また処理時間にこだわらないのであれば25℃のpH6~12の溶液中に、アルミニウム基材を3日間程度接触させること等により、形成することも可能である。なお、上記処理の前工程として、アルカリ溶液中でスプレー等による浸漬処理や陰極電解等の前処理を行うこともできる。表面処理層20の形成方法について詳細は後述する。
【0031】
本実施形態において、表面処理層20の厚みは1nm以上であれば耐食性及び加工追従性、樹脂密着性が向上する。一方で表面処理層20の厚み上限は、成形時の凝集破壊や、処理時間等の観点からは、2,000nm以下が好ましい。最適な表面処理層20の厚みは用途に依存するが、容器や蓋に用いる場合には10nm~600nmの範囲が好ましく、より好ましくは20nm~300nmである。また、建築用構造部材や自動車用構造部材に用いる場合には50nm~2,000nmが好ましく、より好ましくは100nm~1,000nmである。
【0032】
本実施形態の表面処理層20は、実質的にリン又はクロムを含有しない。一方で、本実施形態の表面処理層20は水酸化アルミニウムとして、上述のように、アルミナ1水和物やアルミナ3水和物を含む。また、それ以外の化合物として、酸化アルミニウム(Al)を含んでいてもよい。また、本実施形態の表面処理層20は、処理液中に存在する極微量の化合物、例えば二酸化ケイ素(SiO)や酸化マグネシウム(MgO)等を含んでいてもよい。
【0033】
<樹脂被覆表面処理アルミニウム板200>
次に図2を用いて、本実施形態にかかる樹脂被覆表面処理アルミニウム板について説明する。図2は、本実施形態にかかる樹脂被覆表面処理アルミニウム板200を模式的に示した図である。なお、本実施形態にかかる樹脂被覆表面処理アルミニウム板200は、表面処理層20の上に樹脂層30が形成されている点において、第一実施形態の表面処理アルミニウム板と主に相違する。そのため、共通の構成には同じ符号を付してその説明は省略する。
【0034】
なお図2においては、樹脂層30は、表面処理層20上に形成されているが、これに限られるものではない。すなわち本実施形態において、樹脂層30は、公知の接着剤層等を介して表面処理層20上に形成されていてもよい。また本実施形態において、アルミニウム基材10の両面に表面処理層20及び樹脂層30が形成されていてもよい。
【0035】
本実施形態において樹脂層30の材質としては、金属基材に被覆される公知の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を適用することが可能である。熱可塑性樹脂を例示すると、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の1種又は2種以上の樹脂を好ましく適用することが可能である。また、熱硬化性樹脂を例示すると、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の1種又は2種以上の樹脂を好ましく適用することが可能である。
【0036】
熱可塑性樹脂の中では、ポリオレフィン樹脂又はポリエステル樹脂、及びこれらの混合物をさらに好ましく適用可能である。ポリオレフィン樹脂を例示すると、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸エステル共重合体樹脂、アイオノマー樹脂等の1種又は2種以上の樹脂を好ましく適用できる。ポリエステル樹脂を例示すると、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンイソフタレートが共重合されたポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンイソフタレートが共重合されたポリブチレンテレフタレート樹脂等の1種又は2種以上の樹脂を好ましく適用できる。樹脂層30としてはポリエステル樹脂をより好ましく適用できる。
【0037】
樹脂層30は多層の樹脂層であってもよく、例えば異なる割合でポリエチレンイソフタレートが共重合された2層のポリエチレンテレフタレート樹脂層等が使用できる。また、樹脂層30は複数の異なる樹脂がブレンドされた樹脂層であってもよく、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂にアイオノマー樹脂やエチレン-プロピレン共重合体樹脂をブレンドした樹脂層や、ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドした樹脂層等が適用できる。
【0038】
樹脂層30には公知の樹脂用配合剤、例えば非晶質シリカ等のアンチブロッキング剤、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、ガラス等の無機フィラー、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の各種繊維、帯電防止剤、トコフェノール等の酸化防止剤、紫外線吸収剤等を公知の方法に従って配合することができる。
【0039】
樹脂層30の厚みは特に限定されないが、熱可塑性樹脂の場合は3~300μmの範囲が好ましく、5~230μmの範囲がより好ましい。熱硬化性樹脂の場合は0.5~100μmの範囲が好ましく、1~50μmの範囲がより好ましい。一般に樹脂層が厚くなるほど耐食性は向上するが樹脂密着性及び加工追従性が低下するため、用途に応じた最適な厚み範囲が存在する。なお、樹脂層30の形成方法については後述する。
【0040】
<表面処理アルミニウム板の製造方法>
次に、本実施形態における表面処理アルミニウム板の製造方法について以下に説明する。なお、本実施形態においてここに示す製造方法はその一例に過ぎず、この方法に限定されるものではない。
【0041】
本実施形態における表面処理アルミニウム板の製造方法は、アルミニウム基材上に、水酸化アルミニウムを含む表面処理層20を形成する表面処理工程を含む。なお、表面処理工程は、FT-IRで測定される赤外吸収スペクトルにおいて、主にアモルファスアルミナのAl-O伸縮振動由来である、波数850~1000cm-1の吸光度ピークの高さをPaと定義し、主に水酸化アルミニウムのAl-OH変角振動由来である、波数1000~1200cm-1の吸光度ピークの高さをPbと定義したとき、Pa/Pbの値が6.0以下となるように、表面処理層20を形成する。
【0042】
表面処理工程として、上記ピーク比Pa/Pbの値を6.0以下に設定可能な工程であれば、特に制限されることはない。例えば、アルミニウム基材を、20~100℃、pH6~13の溶液に浸漬させて0.1秒~30秒間接触させる方法や、100℃~140℃の水蒸気中で水蒸気に0.1秒~120秒接触させる方法などがある。表面処理層20のアモルファスアルミナの比率を小さくするという観点からは、溶液に浸漬させる方法よりも水蒸気に曝す方法の方がより好ましい。
【0043】
上記表面処理には、20℃~100℃の溶液もしくは100℃~140℃の水蒸気等を用いることができる。処理液の温度が高い程、水酸化アルミニウムを含む被膜の形成が速くなり、より短時間で被膜を形成することができる。
【0044】
アルミニウム基材を溶液に浸漬させて処理する場合、表面処理液のpHとしては、pH6~13の範囲内のものを適用できる。水酸化アルミニウムはpH6未満の酸性溶液中ではほとんど形成されず、pH7以上の水、又はpH8~13のアルカリ溶液中で安定した被膜形成が可能となる。
【0045】
表面処理液にアルカリを用いる理由は、処理前のアルミニウム基材表面に存在する自然形成された酸化膜を極短時間で溶解させるためである。一般的にアルミニウム基材の自然酸化膜は酸化アルミニウムを主体とした被膜であり、アルカリ溶液中で極短時間で溶解させることができる。しかし、溶液のpHが高くなる程、表面処理層20のアモルファスアルミナの比率が高くなるので、より好ましいpHの範囲はpH8~10である。
【0046】
上記表面処理工程において用いる表面処理液には、好ましくは、純水を用いることができる。また、電気伝導率が10μS/cm以下のイオン交換水を用いてもよい。純水、イオン交換水が好ましい理由は、表面処理液中のリン濃度、カルシウム濃度、ケイ素濃度、マグネシウム濃度、鉄濃度が高くなる程、表面処理層20に含まれるアモルファスアルミナの比率が大きくなるからである。リン酸濃度、カルシウム濃度、ケイ素濃度、マグネシウム濃度、鉄濃度のいずれかが1ppmを超えると、表面処理層20に含まれるアモルファスアルミナの比率が急激に上昇するため、これらの元素濃度は1ppm以下に管理することが好ましい。より好ましくは0.1ppm以下である。
【0047】
上記表面処理工程において用いる表面処理液がアルカリ性(pH8~13)である場合、炭酸ナトリウム水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が好ましく用いられる。なお、アルカリ溶液に使用する水については、上述の純水、イオン交換水が好ましい。
【0048】
表面処理工程に気体を用いる場合の具体例としては、水蒸気もしくは過熱水蒸気を適用できる。この場合、水蒸気の温度は100℃~140℃であることが好ましい。また、過熱水蒸気の温度は120℃~350℃であることが好ましい。温度が高い程、より短時間の処理で用途に応じた表面処理層20を形成することができる。過熱水蒸気の場合、過熱水蒸気炉に入れた瞬間にアルミニウム基材表面が結露で濡れる、もしくは、予め水で濡らした状態のアルミニウム基材を過熱水蒸気炉に入れて乾燥させるプロセスが必要となる。水酸化アルミニウムを含む被膜はアルミニウム基材表面の水分が気化するタイミングで急速に形成されるからである。
【0049】
本実施形態における製造方法において、前記表面処理工程の前に、前処理工程を含んでいてもよい。前処理工程は、アルミニウム基材の表面に存在する自然酸化膜を除去する工程として行う。前処理工程としては具体的には、アルカリ溶液を用いた浸漬処理や陰極電解処理を行うことができる。なお浸漬処理条件の具体例として、アルカリ溶液はpH8~13、液温20℃~90℃、浸漬時間は0.1秒~10秒間とすることができる。また、陰極電解処理条件の具体例として、アルカリ溶液はpH8~13、液温20℃~90℃、陰極電解時間は0.1秒~10秒間、電流密度は1~10A/dmとすることができる。上記前処理工程により、アルミニウム基材表面に存在する自然酸化膜が除去されると共に、局所的なアルミニウム基材の溶解が抑制されるので、より均質な水酸化アルミニウムを含む表面処理層20を形成させることができる。特に表面処理層20の均質化という観点からは浸漬処理よりも陰極電解処理の方がより均一に自然酸化膜を除去できるので好ましい。
【0050】
<樹脂被覆表面処理アルミニウム板の製造方法>
次に、本実施形態における樹脂被覆表面処理アルミニウム板の製造方法について以下に説明する。なお、本実施形態においてここに示す製造方法はその一例に過ぎず、この方法に限定されるものではない。
【0051】
本実施形態における樹脂被覆表面処理アルミニウム板の製造方法は、上述のようにして得られた表面処理アルミニウム板上に樹脂層を形成させる方法等が挙げられる。樹脂層の形成は任意の方法で行うことができ、例えば、熱可塑性樹脂の場合は溶融状態の樹脂を直接、表面処理アルミニウム板に積層する方法や、別のラインでフィルムの状態に加工したものを、ラミネートラインで加熱された表面処理アルミニウム板に熱圧着させる方法等がある。また、より樹脂密着性を高める方法として、接着面に熱硬化性樹脂による接着層が積層された熱可塑性樹脂フィルムを用いることもできる。熱硬化性樹脂の場合はロールコーターで塗工した後、オーブンで乾燥させる方法や、スプレーでコーティングした後、オーブンで乾燥させる方法等がある。
【0052】
<成形体(容器、容器蓋、その他)及びその製造方法>
次に、本実施形態における成形体及びその製造方法について以下に述べる。
本実施形態における成形体は、上述の表面処理アルミニウム板、又は樹脂被覆表面処理アルミニウム板を加工して成形される成形体であり、具体的には、容器、蓋、構造部材、等を含む。
【0053】
容器としては、飲料缶、食缶、角形缶、ドラム缶、スプレー缶、電子回路用保護ケース、バッテリーケース等が挙げられる。これらの容器の製造方法としては、上述の表面処理アルミニウム板、又は樹脂被覆表面処理アルミニウム板を使用して、公知の成形法で行うことができる。以下に一例を説明すると、表面処理アルミニウム板、又は樹脂被覆表面処理アルミニウム板を所定の形状及び寸法に打抜き、次いで、プレス型で各種容器に成形加工する。成形加工法として、絞り加工、絞り再絞り加工、絞り及びしごき加工等の従来公知の加工手段を適用することができる。表面処理アルミニウム板の表面に予め熱可塑性樹脂層又は熱硬化性樹脂層を形成させることで、加工ツールに対する表面の摩擦係数を下げることが可能となり、容器側壁部の薄肉化が行え、容器の軽量化が可能となる。また、容器製造工程における洗浄水の使用量削減や容器成形後に行う塗装及び焼き付け工程を省略できるなど、低環境負荷での容器製造が実現できる。
【0054】
蓋としては、ステイ・オン・タブ(SOT)タイプのイージーオープン蓋、フルオープンタイプのイージーオープン蓋(EOE)、アルミ箔を用いたイージーピール蓋、溶接缶などの3ピース缶用底蓋、王冠型蓋、スクリューキャップ、被せ蓋、等が挙げられる。SOTやEOEの成形方法の一例としては、まず、表面処理アルミニウム板、又は樹脂被覆表面処理アルミニウム板を所定の形状及び寸法に打抜き、次いで、或いは同時に、プレス型で缶蓋に成形する。次いで、二重巻締用に開口端縁部をカール成形し、カール内面側にシーリングコンパウンドを塗布し乾燥させ、缶蓋の外面側にパーシャル開口型あるいはフルオープン開口型のスコア加工及びリベット加工を行い、かつ開口用タブの取り付けを行い、缶蓋を作製する。また、溶接缶などの3ピース缶用の底蓋では、上記のうちスコア加工、リベット加工、タブ取り付け加工の工程がない方法で作製される場合もある。
【0055】
構造部材としては、自動車用構造部材、船舶用構造部材、航空機用構造部材、家電製品用構造部材、ドア、シャッター、ダクト、アルミサッシ等の建築用構造部材、等が挙げられる。これら構造部材はいずれも、上述の表面処理アルミニウム板、又は樹脂被覆表面処理アルミニウム板を用いて、プレス加工等の公知の方法により製造することが可能である。
【0056】
<実施例>
以下に、実施例を挙げて本発明について、より具体的に説明する。まず、実施例における測定方法について記載する。
【0057】
[吸光度ピーク比(Pa/Pb)の算出]
表面処理層の赤外吸収スペクトルにおける吸光度は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、高感度反射法(Reflection Absorption Spectroscopy(RAS)法)により以下の条件で算出した。バックグラウンドには金蒸着ミラーを使用した。
【0058】
機器 日本分光製 FTIR-6600FV
測定条件
測定法:RAS法
検出器:TGS
波数分解能:4cm-1
積算回数:100
測定温度:室温
測定雰囲気:大気
測定領域:2cm×1cm
【0059】
吸光度ピークの測定方法としてはまず、図3に示すように赤外吸収スペクトルの波数1200cm-1の吸光度と波数850cm-1の吸光度を直線で結び、それをベースラインとした。そして、アモルファスアルミナのAl-O伸縮振動由来のピークとして、波数850~1000cm-1の範囲内で、ベースラインから最も高い点を吸光度ピーク高さPaとした。また、水酸化アルミニウムのAl-OH変角振動由来のピークとして、波数1000~1200cm-1の範囲内で、ベースラインから最も高い点を吸光度ピーク高さPbとした。測定したPa及びPbから吸光度ピーク比(Pa/Pb)を算出した。
算出した吸光度ピーク比(Pa/Pb)と共に表2に示した。
【0060】
[180°ピール試験及び評価]
製缶後における、樹脂層と表面処理層との密着性は以下のように試験及び評価した。まず表面処理アルミニウム板上に樹脂層を形成し、樹脂ラミネート板を作製した。具体的には、280℃で10秒間加熱した表面処理アルミニウム板の両面に、無延伸の二層PETフィルム(厚み20μm)をラミネートし、水に入れて急冷して樹脂ラミネート板を得た。なお、二層PETフィルムは、表層としてイソフタル酸(IA)を2モル%共重合したPET樹脂、下層としてイソフタル酸(IA)を15モル%共重合したPET樹脂、の二層を、層比4/1で積層したフィルムを使用した。
【0061】
次いで得られた樹脂ラミネート板を使用して絞りしごき缶を作製した。具体的には、樹脂ラミネート板の両面に50mg/mのパラフィンワックスを塗布し、ブランク径142mmで打ち抜き、1stカップを作製した。次いでこの1stカップを、公知の製缶機械(Body Maker)を用いて、リダクション率65%の350mLの絞りしごき缶に加工した。この時、評価面を缶外面側とした。
【0062】
成形した缶の側壁部を図4(a)に示す位置及び寸法でT字形に切り出した後、図4(b)に示す180°ピール試験で15mm幅のフィルムの180°ピール強度を測定した。測定には引張試験機を用い、室温で20mm/minの引張速度で測定した。製缶後の樹脂密着性は以下のように評価した。
合格:引張試験機による最大引張強度が0.8N/15mm以上
不合格:引張試験機による最大引張強度が0.8N/15mm未満
【0063】
[レトルト密着試験及び評価]
湿潤環境下における樹脂密着性について、上記の絞りしごき缶を使用して以下の方法で試験及び評価した。まず、作製した350mLの絞りしごき缶の外面の缶底から90mmの高さ位置にカッターでフィルムに切れ目を入れた。その缶を水道水に浸漬させた状態でレトルト釜に入れて、125℃×45分のレトルト処理を行った。取り出した缶のカッターで切れ目を入れた部分の下側の最大フィルム剥離長さを測定し、以下のように評価した。
なお、この製缶後の加工部におけるレトルト密着試験は耐食性と相関が取れることが知られており、本試験により加工部の耐食性と樹脂密着性の両方を評価することができる。
合格:フィルム剥離長さ30mm以下
不合格:フィルム剥離長さ30mm超
【0064】
[表面処理層の平均厚みの測定]
表面処理層の平均厚みはTEM(透過電子顕微鏡)による被膜の断面観察から測定した。各種表面処理アルミニウム板からマイクロサンプリング法によってサンプルを切り出し、Cu製の支持台上に固定した。その後、FIB(収束イオンビーム)加工により厚さ100nm程度の断面TEM試料を作製し、TEM観察を行った。表面処理層の平均厚みはTEMの断面像から、凹凸部を均等に含む任意の10点を測定し、その平均値を用いた。
【0065】
(実施例1)
合金種A3104、質別H19、板厚0.27mmのアルミニウム基材を準備した。アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、処理液(98℃のイオン交換水)に8秒間浸漬した(表面処理工程)。ローラーで水を切り、ドライヤーで乾燥させて両面に水酸化アルミニウムを含む表面処理層が形成された表面処理アルミニウム板を得た。
【0066】
得られた表面処理層における、主にアモルファスアルミナのAl-O伸縮振動由来である、波数850~1000cm-1の吸光度ピークの高さ(Pa)と、主に水酸化アルミニウムのAl-OH変角振動由来である、波数1000~1200cm-1の吸光度ピークの高さ(Pb)を測定したところ、表2のとおりであった。また、得られた値から吸光度ピーク比(Pa/Pb)を算出したところ、表2のとおりであった。また実施例1の赤外吸収スペクトルを図5に示した。
【0067】
次いで、得られた表面処理アルミニウム板の表面処理層上に樹脂層を熱圧着し、樹脂ラミネート板を作製した。具体的には、280℃に加熱した表面処理アルミニウム板の両面に、無延伸の二層PETフィルム(厚み20μm)をラミネートし、水に入れて急冷して樹脂ラミネート板を得た。なお、二層PETフィルムは、表層としてイソフタル酸(IA)を2モル%共重合したPET樹脂、下層としてイソフタル酸(IA)を15モル%共重合したPET樹脂、の二層を、層比4/1で積層したフィルムを使用した。樹脂ラミネート板の両面に50mg/mのパラフィンワックスを塗布し、ブランク径142mmで打ち抜き、1stカップを作製した。次いでこの1stカップを、製缶機械(BodyMaker)を用いて、リダクション率65%の350mL缶に加工した。作製した絞りしごき缶の外面、缶壁部のフィルム剥離強度を180°ピール試験にて評価した。評価結果は表2のとおりであった。
【0068】
次いで同じ方法で作製した絞りしごき缶を用いて絞りしごき缶の外面、缶壁部のレトルト密着試験を行った。レトルト密着試験の評価結果は表2のとおりであった。
【0069】
(実施例2)
アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、表面処理工程として、レトルト釜内で、125℃の水蒸気環境下で30秒保持した。それ以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。また実施例2の赤外吸収スペクトルを図6に示す。
【0070】
(実施例3)
アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、60℃の1%炭酸ナトリウム水溶液中で2秒間の陰極電解処理を行った(前処理工程)。その後直ちに、表面処理液(25℃の水道水)に1秒間浸漬した(表面処理工程)。ローラーで水を切り、ドライヤーで乾燥させて両面に水酸化アルミニウムを含む表面処理層が形成された表面処理アルミニウム板を得た。結果を表2に示す。
【0071】
(実施例4)
アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、実施例3と同様の方法で前処理工程を行った。その後直ちに、処理液(98℃のイオン交換水)に2秒間浸漬した(表面処理工程)。ローラーで水を切り、ドライヤーで乾燥させて両面に水酸化アルミニウムを含む表面処理層が形成された表面処理アルミニウム板を得た。結果を表2に示す。
【0072】
(実施例5)
アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、実施例3と同様の方法で前処理工程を行った。その後直ちに、実施例1と同様の方法で表面処理工程を行った後、ローラーで水を切り、ドライヤーで乾燥させて両面に水酸化アルミニウムを含む表面処理層が形成された表面処理アルミニウム板を得た。結果を表2に示す。
【0073】
(実施例6)
アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、実施例3と同様の方法で前処理工程を行った。その後直ちに、処理液(80℃の0.5%アルミン酸ナトリウム水溶液)に5秒間浸漬した(表面処理工程)。ローラーで水を切り、ドライヤーで乾燥させて両面に水酸化アルミニウムを含む表面処理層が形成された表面処理アルミニウム板を得た。結果を表2に示す。
【0074】
(実施例7)
アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、実施例3と同様の方法で前処理工程を行った。その後直ちに、処理液(25℃のイオン交換水)に3日間浸漬した(表面処理工程)。ローラーで水を切り、ドライヤーで乾燥させて両面に水酸化アルミニウムを含む表面処理層が形成された表面処理アルミニウム板を得た。形成された被膜は水酸化アルミニウムが主体の被膜であり、吸光度ピーク比(Pa/Pb)は0.712となった。一方で表面処理層の厚みが2,746nmと厚いため、加工によって被膜が凝集破壊を引き起こし、缶壁の180°ピール試験が不合格となった。結果を表2に示す。
【0075】
(実施例8)
アルミニウム基材への表面処理工程として、表1のとおり、処理液(25℃のイオン交換水)に3日間浸漬した。それ以外は、実施例1と同様に行った。形成された被膜は水酸化アルミニウムが主体の被膜であり、吸光度ピーク比(Pa/Pb)は0.834となった。一方で表面処理層の厚みが3,200nmと厚いため、加工によって被膜が凝集破壊を引き起こし、缶壁の180°ピール試験が不合格となった。結果を表2に示す。
【0076】
(実施例9)
アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、80℃の1%炭酸ナトリウム水溶液中で4秒間の浸漬処理を行った(前処理工程)。その後直ちに、表面処理工程として、水蒸気の噴射を行った(処理温度:125℃、処理時間:60秒)。ローラーで水を切り、ドライヤーで乾燥させて両面に水酸化アルミニウムを含む表面処理層が形成された表面処理アルミニウム板を得た。結果を表2に示す。
【0077】
(比較例1)
合金種A3104、質別H19、板厚0.27mmのアルミニウム基材を準備した。アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、表面処理を行わないまま、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。脱脂後に自然形成された被膜は酸化アルミニウムを主体とした被膜であり、吸光度ピーク比(Pa/Pb)は93となった。この場合、レトルト時にアルミニウム板表層に存在する自然酸化膜が水に溶解してしまうため、十分な樹脂密着性を得ることができない結果となった。結果を表2に示す。
【0078】
(比較例2)
合金種A3104、質別H19、板厚0.27mmのアルミニウム基材を準備した。アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、60℃、0.5%の硫酸水溶液に2秒浸漬させ、ローラーで水を切り、ドライヤーで乾燥させて表面処理アルミニウム板を得た。得られた表面処理アルミニウム板に対して実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。酸洗処理はリン酸クロメート処理等の前工程として一般的に行われているが、酸性溶液に浸漬させる方法では水酸化アルミニウムを含む被膜がほとんど形成されず、アモルファスのアルミナが主体の被膜となる。故に表面処理後の被膜の吸光度ピーク比(Pa/Pb)は9.895となり、レトルト時にアルミニウム板表層の被膜が水に溶解してしまうため、十分な樹脂密着性を得ることができない結果となった。結果を表2に示す。また比較例2の赤外吸収スペクトルを図7に示す。
【0079】
(比較例3)
アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、実施例3と同様の方法で前処理工程を行った。その後直ちに、処理液(98℃の水道水)に15秒間浸漬した(表面処理工程)。ローラーで水を切り、ドライヤーで乾燥させて両面に水酸化アルミニウムを含む表面処理層が形成された表面処理アルミニウム板を得た。70℃以上の水道水で処理する場合、水道水中のカルシウム及びケイ素、マグネシウム、鉄等の影響により水酸化アルミニウムの形成が阻害され、アモルファスアルミナが主体の被膜となる。被膜の吸光度ピーク比(Pa/Pb)は7.750となり、レトルト時にアルミニウム板の表層の被膜が水に溶解してしまうため、十分な樹脂密着性を得ることができない結果となった。結果を表2に示す。
【0080】
(比較例4)
アルミニウム基材の圧延油を公知の方法により脱脂した後、60℃の1%炭酸ナトリウム水溶液中で15秒間の陽極電解処理を行った(前処理工程)。その後直ちに、処理液(25℃の水道水)に1秒間浸漬した(表面処理工程)。ローラーで水を切り、ドライヤーで乾燥させて両面に水酸化アルミニウムを含む表面処理層が形成された表面処理アルミニウム板を得た。陽極電解処理により形成される被膜はアモルファスアルミナが主体の被膜なので、被膜の吸光度ピーク比(Pa/Pb)は6.364となり、レトルト時にアルミニウム板の表層の被膜が水に溶解してしまうため、十分な樹脂密着性を得ることができない結果となった。結果を表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
個々の実施例や比較例を対比して検討した場合の考察は以下のとおりである。
【0084】
実施例4と実施例5とを比較した場合、前処理工程は共に同じ内容であるが、表面処理工程において、実施例4よりも実施例5の方が長い浸漬時間で処理を行っている。その結果、実施例5の方が実施例4よりも水酸化アルミニウムが主体の被膜が成長しており、相対的に吸光度ピーク比の値が小さくなったと考えられる。
【0085】
実施例1と実施例5とを比較した場合、表面処理工程は共に同じ内容であるが、実施例1は前処理工程を経ていない点において異なる。その結果、表面処理工程において同じ処理時間(8秒)の表面処理液への浸漬を行ったとしても、実施例5の方がより水酸化アルミニウムが主体の被膜の成長が多く、表面処理層が厚いことが確認できた。この理由として、実施例5は前処理工程によりアルミニウム基材表面の自然酸化膜が除去されたことが考えられる。一方で、前処理工程を行わない実施例1は、表面処理工程により最初に自然酸化膜が除去され、その後に水酸化アルミニウムが主体の被膜の成長が開始されたと考えられる。上記の違いが吸光度ピーク比の違いとして現れたものと考えられる。
【0086】
実施例6は、表面処理工程における表面処理液として、pHの高いアルカリ溶液を使用した。その結果、実施例1~9の中では最も吸光度ピーク比が高くなった。この理由として、pHの高い表面処理液を使用したことにより、アルミニウム基材が溶解する速度の方が、水酸化アルミニウムが主体の被膜が成長する速度よりも速くなったことが考えられる。また、アルミニウム合金板をpHの高いアルカリ溶液に浸漬させると、基材中の合金成分もアルミニウムと一緒に溶解してしまい、その合金成分によって水酸化アルミニウムが主体の被膜の成長が阻害されると考えられる。
【0087】
実施例7及び実施例8は、レトルト密着試験の結果は合格であったものの、180°ピール試験における結果は基準に満たなかった。この理由として、実施例7及び実施例8は共に表面処理層の厚みが2000nmを超えており、そのために180°ピール試験中に表面処理層の内部で凝集破壊が発生したものと考えられる。これらは絞りしごき缶など、加工度が高い用途(缶壁のリダクション率が高い用途)には適用できないが、加工度が低い用途、例えば蓋やDR缶(再絞り成形缶)、折り曲げ加工が成された構造部材などであれば問題なく使用することができる。
【0088】
比較例3、実施例5、及び実施例3を比較した場合、前処理工程は共に同じ内容であるが、表面処理工程において、比較例3は表面処理液に水道水を用いているのに対して、実施例5はイオン交換水を用いている点で異なる。その結果、比較例3では吸光度ピーク比が6を超える結果となった。この理由としては、水道水に含まれるカルシウムやケイ素、マグネシウムや鉄等により、水酸化アルミニウムが主体の被膜の形成が阻害されたものと考えられる。一方で実施例3のように、25℃程度且つ短い秒数であれば、水道水であっても水酸化アルミニウムが主体の被膜の形成は阻害されないことが確認できた。
【0089】
比較例4について検討すると、比較例4における前処理工程の陽極電解は、アモルファスアルミナが主体の被膜を成長させる方法であり、その結果、得られた吸光度ピーク比の値が6を超えること、及び、レトルト密着試験の結果において基準に満たないことが確認できた。
【0090】
以上の実施例及び比較例から、表面処理層の吸光度ピーク比(Pa/Pb)が6以下であれば、その製造方法に関係なく、表面処理アルミニウム板は耐食性、加工追従性、及び、樹脂密着性を兼ね備えていることが示された。また、本実施例により製造された表面処理アルミニウム板は短い処理時間でも上記効果を達成できることが示された。一方で比較例の無処理又は表面処理アルミニウム板は表面処理層の吸光度ピーク比(Pa/Pb)が6を超えると、レトルト密着試験が不合格となり、要求される耐食性、加工追従性、及び、樹脂密着性を満足できないことが示された。
【0091】
アルミニウム基材表面と、樹脂層との間の密着性を確保するためには、アルミニウム基材表面に形成される被膜(表面処理層)が、不溶性もしくは難溶性である必要がある。言い換えれば、基材と樹脂被膜との接着界面が溶解せずに安定に保たれることによって、両者の密着性は維持される。このメカニズムは、レトルト処理等の高温湿潤環境で使用する場合に限られない。常温の大気中であっても、大気中の水分が樹脂被膜から時間をかけて浸透し、接着界面に達し得る。そのため、本開示のアルミニウム表面処理板は、常温の大気環境下で使用する場合、例えば建築用構造部材や自動車用構造部材等に適用することも有効である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明の表面処理アルミニウム板は、食缶、飲料缶、電子回路用保護ケース、バッテリーケース等の容器及びその蓋や、船舶用、航空機用、自動車用及び家電用構造部材、建築用構造部材、熱交換器部材、など広い分野の産業への適用が可能である。
【符号の説明】
【0093】
100 表面処理アルミニウム板
10 アルミニウム基材
20 表面処理層
200 樹脂被覆表面処理アルミニウム板
30 樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7