(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085513
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】自動車のサブフレーム構造、及び自動車のサブフレーム構造の補剛部品
(51)【国際特許分類】
B62D 21/00 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
B62D21/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200053
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 尚記
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203BA13
3D203CA53
3D203CB21
3D203DA72
(57)【要約】
【課題】剛性を向上させた自動車のサブフレーム構造、及び自動車のサブフレーム構造の補剛部品を提供する。
【解決手段】本発明に係る自動車のサブフレーム構造1は、車両前後方向に延在する略矩形断面の中空部材を有してなり、サスペンションアーム連結部11が設けられた左右一対のサイドメンバ3と、車両左右方向に延在する略矩形断面の中空部材を有してなり、サイドメンバ3に接続する少なくとも一つのクロスメンバ5と、を備え、サイドメンバ3とクロスメンバ5とが湾曲部7を介して接続されたものであって、サイドメンバ3におけるサスペンションアーム連結部11aと、サスペンションアーム連結部11aからクロスメンバ5に至るまでの湾曲部7における湾曲稜線部7aと、を一体的に覆って補剛する補剛部品9が設けられたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延在する略矩形断面の中空部材を有し、サスペンションアーム連結部が設けられた左右一対の車両前後方向延在部と、車両左右方向に延在する略矩形断面の中空部材を有する少なくとも一つの車両左右方向延在部と、を備え、前記車両前後方向延在部と前記車両左右方向延在部とが湾曲部を介して接続された自動車のサブフレーム構造であって、
前記サスペンションアーム連結部と、該サスペンションアーム連結部から前記車両左右方向延在部に至るまでの前記湾曲部における湾曲稜線部と、を一体的に覆って補剛する補剛部品が設けられていることを特徴とする自動車のサブフレーム構造。
【請求項2】
前記補剛部品は、前記サスペンションアーム連結部における前記車両前後方向延在部の車外側の稜線部も覆うことを特徴とする請求項1に記載の自動車のサブフレーム構造。
【請求項3】
前記車両前後方向延在部と、前記車両左右方向延在部と、は、引張強度590MPa級以上の鋼板を用いて製造されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車のサブフレーム構造。
【請求項4】
車両前後方向に延在する略矩形断面の中空部材を有し、サスペンションアーム連結部が設けられた左右一対の車両前後方向延在部と、車両左右方向に延在する略矩形断面の中空部材を有する少なくとも一つの車両左右方向延在部と、を備え、前記車両前後方向延在部と前記車両左右方向延在部とが湾曲部を介して接続された自動車のサブフレーム構造を補剛する自動車のサブフレーム構造の補剛部品であって、
前記サスペンションアーム連結部を覆い、該サスペンションアーム連結部を局所的に補剛する局所補剛部と、該局所補剛部から前記湾曲部における湾曲稜線部に沿って前記車両左右方向延在部に至るまで延出して前記湾曲稜線部を覆い、前記サブフレーム構造を大域的に補剛する大域補剛部と、が一体的に形成されている、ことを特徴とする自動車のサブフレーム構造の補剛部品。
【請求項5】
前記局所補剛部は、前記サスペンションアーム連結部における前記車両前後方向延在部の車外側の稜線部も覆うことを特徴とする請求項4に記載の自動車のサブフレーム構造の補剛部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性を向上させた自動車のサブフレーム構造、及び自動車のサブフレーム構造の補剛部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体には、サスペンションアームと車体とを結合するサブフレームが設置されたものがある。サブフレームは、一般的に、車両前後方向に延在する左右一対のサイドメンバに、車両左右方向に延在するクロスメンバの左右両端が接続されている。そして、サブフレームには、前後一対のクロスメンバが設けられて上面視で井桁状のものと、車両後方側に1つのクロスメンバが設けられて上面視でH型状のものがある。また、サイドメンバとクロスメンバはそれぞれ別部品であって、これらが別の部品により接続されたものに限らず、サイドメンバとクロスメンバとが一体化されたものもある。
【0003】
サブフレームは、車両の走行時においてサスペンションアームから入力する荷重によって変形を起こすため、高い剛性が求められる。サブフレームの高剛性化は乗り心地の向上に繋がり、自動車の価値を向上させる。その一方で、自動車のエネルギ効率の観点から、サブフレームは軽量であることも求められる。
【0004】
サブフレームの軽量化のためには、サブフレームを構成する車体部品が金属材料の板材(金属板)をプレス成形して製造されたものである場合、板厚を薄くすることが効果的である。しかしながら、板厚を薄くすると一般に剛性は低下するので、サブフレームの高剛性化と軽量化はトレードオフの関係にある。
また、金属板の板厚を薄くすると低下する車体性能としては、衝突性能、一度の荷重が入力したときの変形強度、疲労強度等があり、これらの車体性能は強度の高い金属板を適用することで確保することができる。しかしながら、一般的な金属板は高強度化しても弾性係数はほとんど変化しないので、金属板の高強度化によるサブフレームの高剛性化は期待できない。そのため、金属板の強度によらずにサブフレームの高剛性化を実現する技術がこれまでにいくつか提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、サイドメンバとクロスメンバとで井桁状に形成された自動車のサブフレーム構造において、サイドメンバとクロスメンバとの接続部の内部に新たな部材を設けることにより剛性を向上させる技術が提案されている。そして、特許文献1によれば、サイドメンバとクロスメンバとの接続部におけるサイドメンバ及びクロスメンバそれぞれの内部に上面側と下面側とを繋ぐ筒状部材を設置することで、剛性を向上することができるとされている。また、特許文献2によれば、サイドメンバとクロスメンバとの接続部におけるサイドメンバ及びクロスメンバそれぞれの内部に上面側と下面側とを繋ぐ柱状部を有する樹脂製の補剛部材を充填または設置することで、剛性を向上することができるとされている。
【0006】
さらに、特許文献3には、充電モジュールを組み込むことができるように構成されてねじり剛性を向上させるための補強構造を有する自動車のフロントボディまたはリヤボディのサブフレームが開示されている。そして、特許文献3によれば、補強構造に組み込まれた充電モジュールは、補強構造の一構成部品であり、それ自体がサブフレームの補強に寄与するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-083018号公報
【特許文献2】特開2020-075656号公報
【特許文献3】特許第5822896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2に開示されている技術は、サブフレーム構造の剛性を向上させるために新たな部材(補剛部品)を追加して設置又は充填することから部品点数が増えてしまい、製造コストの増加や生産性の低下を招くという課題があった。
また、特許文献3に開示されている技術は、せん断強さを持つ補強構造を設置することでサブフレームのねじり剛性を向上させることはできるが、車体重量が増加してしまうという課題があった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、部品点数を増加せず、かつ重量増加を最小限に抑えて剛性を向上させた自動車のサブフレーム構造、及び自動車のサブフレーム構造の補剛部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る自動車のサブフレーム構造は、車両前後方向に延在する略矩形断面の中空部材を有し、サスペンションアーム連結部が設けられた左右一対の車両前後方向延在部と、車両左右方向に延在する略矩形断面の中空部材を有する少なくとも一つの車両左右方向延在部と、を備え、前記車両前後方向延在部と前記車両左右方向延在部とが湾曲部を介して接続されたものであって、
前記サスペンションアーム連結部と、該サスペンションアーム連結部から前記車両左右方向延在部に至るまでの前記湾曲部における湾曲稜線部と、を一体的に覆って補剛する補剛部品が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記補剛部品は、前記サスペンションアーム連結部における前記車両前後方向延在部の車外側の稜線部も覆うことを特徴とするものである。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記車両前後方向延在部と、前記車両左右方向延在部と、は、引張強度590MPa級以上の鋼板を用いて製造されたものであることを特徴とするものである。
【0013】
(4)本発明に係る自動車のサブフレーム構造の補剛部品は、車両前後方向に延在する略矩形断面の中空部材を有し、サスペンションアーム連結部が設けられた左右一対の車両前後方向延在部と、車両左右方向に延在する略矩形断面の中空部材を有する少なくとも一つの車両左右方向延在部と、を備え、前記車両前後方向延在部と前記車両左右方向延在部とが湾曲部を介して接続された自動車のサブフレーム構造を補剛するものであって、
前記サスペンションアーム連結部を覆い、該サスペンションアーム連結部を局所的に補剛する局所補剛部と、該局所補剛部から前記湾曲部における湾曲稜線部に沿って前記車両左右方向延在部に至るまで延出して前記湾曲稜線部を覆い、前記サブフレーム構造を大域的に補剛する大域補剛部と、が一体的に形成されている、ことを特徴とするものである。
【0014】
(5)上記(4)に記載のものにおいて、
前記局所補剛部は、前記サスペンションアーム連結部における前記車両前後方向延在部の車外側の稜線部も覆うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、サスペンションアーム連結部と、サスペンションアーム連結部から車両左右方向延在部に至るまでの車両前後方向延在部と車両左右方向延在部とが接続する湾曲部における湾曲稜線部と、を一体的に覆って補剛する補剛部品が設けられている。これにより、部品点数を増やさず、又、生産性を低下せずに、湾曲部における変形が抑制され、サブフレーム構造全体の剛性が向上する。
また、本発明によれば、衝突強度、一度の荷重が入力したときの変形強度、さらには疲労強度の向上も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る自動車のサブフレーム構造を説明する図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る自動車のサブフレーム構造において、車両前後方向延在部であるサイドメンバと、車両左右方向延在部であるクロスメンバとが接続する部位に設けられた補剛部品を示す拡大図である。
【
図3】実施例1において、剛性の調査対象とした本発明に係る補剛部品と、該補剛部品を適用したサブフレーム構造と、を示す図である。
【
図4】実施例2において、剛性の調査対象とした従来の補剛部品と、該補剛部品を適用したサブフレーム構造と、を示す図である。
【
図5】実施例1において、サブフレーム構造の剛性を算出する有限要素法による解析での条件を示す図である((a)ねじり条件、(b)曲げ条件)。
【
図6】実施例1において、サブフレーム構造の衝突特性を算出する衝突解析での条件を示す図である。
【
図7】従来の自動車のサブフレーム構造の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<発明に至った経緯>
本発明の実施の形態を説明するに先立ち、一例として
図7に示す自動車のサブフレーム構造41(以下、単に「サブフレーム構造41」と称す)に基づいて、本発明に至った経緯を説明する。
【0018】
図7に示すサブフレーム構造41は、左右一対のサイドメンバ3と、前後一対のクロスメンバ5(5A、5B)と、を備えたものである。
サイドメンバ3は、車両前後方向に延在する略矩形断面の中空部材を有し、サスペンションアームが連結するサスペンションアーム連結部11a、11bが車両前後方向に2ヶ所設けられている。
クロスメンバ5は、車両左右方向に延在する略矩形断面の中空部材を有するものであり、左右一対のサイドメンバ3の間に配設されている。
そして、サブフレーム構造41においては、サイドメンバ3と車両後方側のクロスメンバ5Bとが湾曲部7を介して接続されている。湾曲部7は、車内側の面が湾曲したものであり、サイドメンバ3における車内側の稜線部3aと、クロスメンバ5における車両前方側の稜線部5aと、を繋ぐ湾曲稜線部7aを有する。なお、
図7に示すサブフレーム構造41は、左右一対のサイドメンバ3と、前後一対のクロスメンバ5と、が一体化して製造されたものであり、湾曲部7はサイドメンバ3に形成されている。
【0019】
発明者は、サブフレーム構造41の剛性を向上させるために効果的な補剛部位を鋭意検討した。その結果、サイドメンバ3とクロスメンバ5Bとを接続するL字状に湾曲した湾曲部7における車内側の湾曲稜線部7aを補剛することで、効率的にサブフレーム構造1の剛性を向上することが可能である事を見出した。
【0020】
また、従来より、サイドメンバ3に設けられた車両前方側のサスペンションアーム連結部11aには、サスペンションアームを連結する際の局所的な変形を防止するために、サスペンションアーム連結部11aを覆う補剛部品43が用いられていた。そこで、発明者は、この補剛部品43を湾曲稜線部7a側に延ばし、サスペンションアーム連結部11aと、サスペンションアーム連結部11aからクロスメンバ5Bに至るまでの湾曲稜線部7aと、一体的に覆うことを着想した。そして、サスペンションアーム連結部11aと湾曲稜線部7aとを一体的に覆って補剛することで、部品点数を増やすことなくサブフレーム構造の剛性を向上できることを見出した。
本発明はかかる検討に基づいてなされたものであり、以下、その具体的な構成を説明する。
【0021】
<自動車のサブフレーム構造>
本発明の実施の形態に係る自動車のサブフレーム構造について、以下に説明する。
図1に一例として車両上方側から見たサブフレーム構造1の全体図を示す。サブフレーム構造1は、左右一対のサイドメンバ3と、前後一対のクロスメンバ5(車両前方側:5A、車両後方側:5B)と、備え、サイドメンバ3と車両後方側のクロスメンバ5Bとが湾曲部7を介して接続されたものである。ここで、サブフレーム構造1は、左右一対のサイドメンバ3と、前後一対のクロスメンバ5と、で、上面視で井桁状に形成されたものである。そして、サブフレーム構造1は、
図1に示すように、補剛部品9が設けられているものである。
【0022】
≪車両前後方向延在部≫
サイドメンバ3は、車両前後方向延在部であり、車両前後方向に延在する略矩形断面の中空部材を有し、サスペンションアームが連結されるサスペンションアーム連結部11が設けられたものである。そして、サイドメンバ3は、車両左右方向の車内側と車外側のそれぞれに、略矩形断面の角部となる稜線部3a、3bを有する。また、各サイドメンバ3には、サスペンションアーム連結部11として、サスペンションアーム連結部11a、11bが車両後方側の前後2ヶ所に設けられている。
【0023】
≪車両左右方向延在部≫
クロスメンバ5は、車両左右方向延在部であり、車両左右方向に延在する略矩形断面の中空部材を有し、左右一対のサイドメンバ3の間に、車両前方側のクロスメンバ5Aと、車両後方側のクロスメンバ5Bと、が配設されている。そして、車両後方側のクロスメンバ5Bは、車両前方側に、略矩形断面の角部となる稜線部5aを有する。
【0024】
≪湾曲部≫
湾曲部7は、サイドメンバ3からサスペンションアーム連結部11近傍のクロスメンバ5Bにかけて車内側に湾曲した部位である。サスペンションアーム連結部11近傍のクロスメンバ5Bとは、
図1に示すサブフレーム構造1のように前後一対のクロスメンバ5A、5Bを備えたものである場合、車両後方側のものを指す。これは、サスペンションアーム連結部11は、サイドメンバ3における車両後方側に設けられているためである。
そして、湾曲部7は、サイドメンバ3における車内側の稜線部3aと、クロスメンバ5Bにおける車両前方側の稜線部5aと、を繋ぐ湾曲稜線部7aを有する。
なお、サブフレーム構造1において、湾曲部7は、サイドメンバ3に形成されたものである。
【0025】
≪補剛部品≫
補剛部品9は、サスペンションアーム連結部11aと、サスペンションアーム連結部11aからクロスメンバ5Bに至るまでの湾曲部7における湾曲稜線部7aと、を一体的に覆って補剛するものである。
【0026】
本実施の形態において、補剛部品9は、
図1に示すように、局所補剛部9aと、大域補剛部9bと、を有する。
局所補剛部9aは、サスペンションアーム連結部11aを覆い、サスペンションアーム連結部11aを局所的に補剛するものである。
大域補剛部9bは、局所補剛部9aから湾曲部7における湾曲稜線部7aに沿ってクロスメンバ5Bに至るまで延出して湾曲稜線部7aを覆い、サブフレーム構造1を大域的に補剛するものである。
【0027】
本実施の形態に係る自動車のサブフレーム構造1において、剛性が向上する理由を以下に説明する。
【0028】
サブフレーム構造1において、サイドメンバ3とクロスメンバ5とが接続される湾曲部7は、車両前後方向又は車両左右方向に一様な形状が変化する部位(以下、「形状変化部位」と称す)である。
このようなサブフレーム構造1に対してサスペンションアーム連結部11から荷重が入力すると、一様な形状の部位に比べて形状変化部位において応力分布が乱れ、局所的に応力が増大して応力集中が発生しやすくなる。そのため、形状変化部位では応力集中に伴って変形が集中し、サブフレーム構造1の剛性低下の原因となる。
【0029】
また、サイドメンバ3及びクロスメンバ5は、いずれも、略矩形断面の中空部材を有してなるものであるため、サブフレーム構造1に曲げやねじりの荷重が負荷された場合、応力集中は略矩形断面の角部となる稜線部に生じる。よって、湾曲部7を補剛する部位としても、形状変化部位における稜線部、すなわち、湾曲部7における湾曲稜線部7aを補剛することが重要となる。
【0030】
そこで、本実施の形態に係るサブフレーム構造1では、従来のサブフレーム構造41に設けられた補剛部品43(
図7)と同様、補剛部品9の局所補剛部9aにより、サイドメンバ3の上面に沿うようにサスペンションアーム連結部11を覆う。これにより、サスペンションアーム連結部11の見かけの板厚を厚くし、局所的な剛性を向上させることができる。
さらに、補剛部品9の大域補剛部9bにより、サスペンションアーム連結部11aからクロスメンバ5Bに至るまでの湾曲部7における湾曲稜線部7aを覆う。これにより、湾曲部7の変形を抑制し、サブフレーム構造1全体の剛性を向上させることができる。
【0031】
このように、サブフレーム構造1においては、サスペンションアーム連結部11aと、サスペンションアーム連結部11aからクロスメンバ5に至るまでの湾曲部7における湾曲稜線部7aと、を一体的に覆って補剛する補剛部品9が設けられている。これにより、サイドメンバ3とクロスメンバ5とが接続されて応力集中が生じやすい湾曲部7の変形を抑制することができ、部品点数を増やさず、又、生産性を低下せずに、湾曲部における変形が抑制され、サブフレーム構造1全体の剛性が向上する。
また、本実施の形態に係るサブフレーム構造1によれば、衝突強度、一度の荷重が入力したときの変形強度、さらには疲労強度の向上も期待できる。
【0032】
さらに、本発明において、補剛部品9は、
図1に示す局所補剛部9aのように、さらにサイドメンバ3の車外側の稜線部3bも覆うように設けられていることがより好ましい。これにより、局所補剛部9aにより覆う車外側の稜線部3bと、大域補剛部9bにより覆う湾曲稜線部7aと、が連結されて荷重を伝達する構造となり、補剛部品9による補剛性能を向上させることができる。
【0033】
なお、本実施の形態において、補剛部品9は、サブフレーム構造1の剛性を向上させるためのものであるので、補剛部品9に高強度な金属板を適用する必要はなく、引張強度が270MPa級以上の金属板であればよい。
【0034】
これに対し、補剛部品9を設けたことによりサブフレーム構造1全体の剛性を向上できるので、補剛部品9以外の部品(サイドメンバ3、クロスメンバ5)については、サブフレーム構造1全体の剛性の観点では金属板の薄肉化が可能となる。
そこで、サブフレーム構造1の強度を維持しつつ軽量化するためには、サブフレーム構造1における補剛部品9以外の部位は、引張強度590MPa級以上の鋼板が適用されたものとするとよい。
【0035】
上記の説明において、補剛部品9の大域補剛部9bは、湾曲部7における車両上方側の湾曲稜線部7aを覆うものであった。ここで、湾曲部7は、略矩形断面形状の中空部材からなるサイドメンバ3と、略矩形断面形状の中空部材からなるクロスメンバ5と、を接続する部位である。そのため、湾曲部7は、車両上方側の湾曲稜線部7aの他に、車両下方側にも、サイドメンバ3における車内側の稜線部と、クロスメンバ5における車両前方側の稜線部と、を繋ぐ湾曲稜線部を有する場合がある。
【0036】
このような場合、補剛部品の大域補剛部は、湾曲部における車両下方側の湾曲稜線部を覆うように局所補剛部から延出したものであってもよい。すなわち、本発明に係るサブフレーム構造は、補剛部品の大域補剛部が補剛する湾曲稜線部を限定するものではなく、大域補剛部が覆いやすい湾曲稜線部を補剛するものであればよい。
【0037】
また、
図1に示す補剛部品9は、サブフレーム構造1を構成するサイドメンバ3、クロスメンバ5及び湾曲部7の外面側に設けられたものであるが、これらの内面側に設けられたものであってもよい。
【0038】
図1に示すサブフレーム構造1は、サイドメンバ3の外表面(車外側の車両上方側の表面)に設けられたサスペンションアーム連結部11にサスペンションアームを連結させる構造である。もっとも、本発明に係るサブフレーム構造は、サイドメンバにおける車外側の側面に開口部を設け、該開口部にサスペンションアームを挿入してサイドメンバとボルト等で締結するものであってもよい。この場合でも、サスペンションアーム連結部を覆う局所補剛部と、該サスペンションアーム連結部から延出して湾曲稜線部を覆う大域補剛部と、を有する補剛部品が設けられることにより、湾曲部の変形を抑制し、剛性が向上する。
【0039】
なお、本実施の形態に係るサブフレーム構造1は、サイドメンバ3とクロスメンバ5が一体化されて製造されたものであるが、本発明は、サイドメンバとクロスメンバが一体化されたものに限定するものではない。
また、サブフレーム構造1において、湾曲部7はサイドメンバ3に形成されたものであったが、クロスメンバに湾曲部が形成されたものであってもよい。
【0040】
さらに、上記の説明は、
図1に示したように、左右一対のサイドメンバ3と前後一対のクロスメンバ5とが湾曲部7を介して接続され、井桁状に形成されたサブフレーム構造1についてのものであった。もっとも、本発明は、
図2に示すように、左右一対のサイドメンバ23と一つのクロスメンバ25とが湾曲部27を介して接続され、H型状に形成されたサブフレーム構造21であってもよい。
【0041】
H型状のサブフレーム構造21において、サイドメンバ23には、サスペンションアーム連結部31として、車両前後方向の前後2ヶ所にサスペンションアーム連結部31a、31bが設けられている。また、クロスメンバ25は、サイドメンバ23においてサスペンションアーム33が連結されるサスペンションアーム連結部31近傍に配設される。
【0042】
そして、H型状のサブフレーム構造21においても、サスペンションアーム連結部31から荷重が入力すると、サイドメンバ23とクロスメンバ25とを接続する湾曲部27に応力集中が生じる。
【0043】
そこで、H型状のサブフレーム構造21においては、サスペンションアーム連結部31aと、サスペンションアーム連結部31からクロスメンバ25に至るまで湾曲部27における湾曲稜線部27aとを一体的に覆うような補剛部品29を設けられたものとする。
これにより、サブフレーム構造21に荷重が入力した場合、湾曲部27における変形を抑制し、サブフレーム構造21の剛性を向上させることができる。
【0044】
<自動車のサブフレーム構造の補剛部品>
なお、上記の説明は、補剛部品9が設けられたサブフレーム構造1に関するものであったが、本実施の形態の他の態様としては、サブフレーム構造1を補剛する補剛部品9として構成することが可能である。
【0045】
すなわち、自動車のサブフレーム構造の補剛部品9は、前述した
図1に示すように、サイドメンバ3と、クロスメンバ5と、を備え、サイドメンバ3とクロスメンバ5Bとが湾曲部7を介して接続されたサブフレーム構造1を補剛するものである。そして、補剛部品9は、局所補剛部9aと、大域補剛部9b、が一体的に形成されたものである。
とを有する。
【0046】
局所補剛部9aは、サスペンションアーム連結部11aを覆い、サスペンションアーム連結部11aを局所的に補剛する。
大域補剛部9bは、局所補剛部9aから湾曲部7における湾曲稜線部7aに沿ってクロスメンバ5に至るまで延出して湾曲稜線部7aを覆い、サブフレーム構造1を大域的に補剛する。
【0047】
そして、補剛部品9によれば、サブフレーム構造1に荷重が入力した際に応力集中が生じやすい湾曲部7における変形を抑制し、サブフレーム構造1全体の剛性を向上させることができる。
【0048】
なお、補剛部品9の局所補剛部9aは、前述したように、サイドメンバ3の車外側の稜線部3bも覆うことがより好ましい。これにより、局所補剛部9aにより覆う車外側の稜線部3bと、大域補剛部9bにより覆う湾曲稜線部7aと、が連結されて荷重を伝達する構造とすることができ、補剛部品9による補剛性能がさらに向上する。
【実施例0049】
本発明に係る自動車のサブフレーム構造の作用効果を検証するための調査を行ったので、以下、これについて説明する。
【0050】
実施例1では、本発明に係る自動車のサブフレーム構造の剛性について調査した。
調査対象としたサブフレーム構造1は、前述した実施の形態の
図1で示したように、左右一対のサイドメンバ3と、前後一対のクロスメンバ5と、を備え、サイドメンバ3とクロスメンバ5Bとが湾曲部7を介して接続されたものである。そして、サブフレーム構造1は、
図1及び
図3に示すように、補剛部品9が設けられている(発明例1)。なお、
図3において、X軸方向は車両右方向、Y軸方向は車両前方向、Z軸方向は車両上方向である(後述する
図4においても同様)。
【0051】
補剛部品9は、
図1に示すように、サイドメンバ3に設けられたサスペンションアーム連結部11aと、サスペンションアーム連結部11aからクロスメンバ5Bに至るまでの湾曲部7における湾曲稜線部7aと、を一体的に覆って補剛するものである。そして、補剛部品9は、
図1及び
図3(a)に示すように、局所補剛部9aと、大域補剛部9bと、を有する。
実施例1において、局所補剛部9aは、
図1及び
図3(b)に示すように、サスペンションアーム連結部11aと、サスペンションアーム連結部11aにおけるサイドメンバ3の車外側の稜線部と、を覆う。
一方、大域補剛部9bは、
図1及び
図3(b)に示すように、局所補剛部9aから湾曲部7における湾曲稜線部7aに沿ってクロスメンバ5Bに至るまで延出して湾曲稜線部7aを覆う。
【0052】
サブフレーム構造1において、サイドメンバ3とクロスメンバ5は、板厚2.0mm、引張強度440MPa級の鋼板を用い、一体化して製造されたものとした。
補剛部品9は、板厚2.0mm、引張強度270MPa級の鋼板を用いて製造されたものとした。そして、補剛部品9は、溶接にてサブフレーム構造1に接合した。
【0053】
実施例1では、比較として、
図4に示すように、サスペンションアーム連結部11を補剛する従来の補剛部品43が設けられたサブフレーム構造41の剛性についても調査した(従来例)。ここで、補剛部品43は、
図4(a)に示すように、発明例1に係る補剛部品9の大域補剛部9bが設けられずに局所補剛部9aに相当する形状としたものである。
【0054】
そして、従来例に係るサブフレーム構造41において、サイドメンバ3及びクロスメンバ5は、発明例1と同様、板厚2.0mm、引張強度270MPa級の鋼板を用いて製造した。
補剛部品43についても、発明例1と同様、板厚2.0mm、引張強度270MPa級の鋼板を用いて製造し、溶接にてサブフレーム構造41に接合した。
【0055】
実施例1では、発明例1に係るサブフレーム構造1と従来例に係るサブフレーム構造41のそれぞれについて、所定の荷重を負荷する有限要素法による解析を行い、単位荷重に対する荷重入力点の変位を求め、その逆数を剛性として求めた。そして、従来例における剛性を基準としたときの発明例1における剛性変化率を算出した。
【0056】
有限要素法による解析は、
図5(a)に示す「ねじり条件」と、
図5(b)に示す「曲げ条件」と、の2条件について行った。
【0057】
図5(a)に示す「ねじり条件」は、クロスメンバ5Bの左右両端部である後方ブッシュ15を拘束し、クロスメンバ5Aの左右両端部である前方ブッシュ13にそれぞれ車両上下方向の上向きと下向きに荷重(1kN)を負荷する条件である。
【0058】
そして、
図5(a)に示すねじり条件で解析を行い、発明例1に係るサブフレーム構造1と従来例に係るサブフレーム構造41のそれぞれについて、クロスメンバ5Aの前方ブッシュ13における単位荷重当りの車両上下方向の変位量をねじり剛性として求めた。
【0059】
発明例1と従来例のそれぞれについて求めたねじり剛性により、発明例1に係るサブフレーム構造1のねじり剛性向上率を算出した。ここで、ねじり剛性向上率は、従来例のねじり剛性を基準としたときの発明例1のねじれ剛性の向上率であり、下式により算出した。
ねじり剛性向上率[%]=(発明例1のねじり剛性-従来例のねじり剛性)/(従来例のねじり剛性)×100
【0060】
発明例1のねじり剛性向上率は6.2%であり、従来例に係るサブフレーム構造41に比べてねじり剛性が向上することが示された。
【0061】
図5(b)に示す「曲げ条件」は、クロスメンバ5Bの左右両端部である後方ブッシュ15を拘束し、クロスメンバ5Aの左右両端部である前方ブッシュ13に車両左右方向の右向きに荷重(1kN)を負荷する条件である。
【0062】
そして、
図5(b)に示す曲げ条件で解析を行い、発明例1に係るサブフレーム構造1と従来例に係るサブフレーム構造41のそれぞれについて、クロスメンバ5Aの前方ブッシュ13における単位荷重当りの車両左右方向の変位量を曲げ剛性として求めた。
【0063】
発明例1と従来例のそれぞれについて求めた曲げ剛性により、発明例1に係るサブフレーム構造1の曲げ剛性向上率を算出した。ここで、曲げ剛性向上率は、従来例の曲げ剛性を基準としたときの発明例1の曲げ剛性の向上率であり、下式により算出した。
曲げ剛性向上率[%]=(発明例1の曲げ剛性-従来例の曲げ剛性)/(従来例の曲げ剛性)×100
【0064】
発明例1の曲げ剛性向上率は4.9%であり、従来例に係るサブフレーム構造41に比べて曲げ剛性が向上することが示された。
実施例2では、本発明に係る自動車のサブフレーム構造における剛性の向上と重量の増加の関係を調査した。さらに、本発明に係る自動車のサブフレーム構造の衝突特性についても調査した。
表1に示すように、従来例を基準とした発明例2のねじり剛性向上率及び曲げ剛性向上率はいずれも±0%であり、発明例2に係るサブフレーム構造1の剛性は、従来例に係るサブフレーム構造41の剛性と同等であった。
サイドメンバ3及びクロスメンバ5の板厚を従来例と同等とした発明例1に係るサブフレーム構造1は、大域補剛部9bを有する補剛部品9を用いたことで、従来例に係るサブフレーム構造41に比べて重量が1.2%増加した。
これに対し、サイドメンバ3及びクロスメンバ5の板厚を薄くした発明例2に係るサブフレーム構造1は、発明例1と同じ補剛部品9を用いたものの、従来例に係るサブフレーム構造41に比べて重量が8.5%減少した。このことから、発明例2に係るサブフレーム構造1においては、従来例に係るサブフレーム構造41と同等の剛性を維持したまま、軽量化されたことが示された。
衝突解析により、発明例1及び2に係るサブフレーム構造1と、従来例に係るサブフレーム構造41のそれぞれについて、剛体壁51の衝突時に発生する最大荷重と、衝突過程における吸収エネルギと、を算出した。そして、算出した最大荷重と吸収エネルギのそれぞれについて、従来例における最大荷重又は吸収エネルギを基準としたときの変加率を求めた。
前述した表1に、発明例1、発明例2及び従来例のそれぞれについて衝突解析により求めた最大荷重と吸収エネルギを示す。
表1に示すように、衝突解析による衝突時にサブフレーム構造に発生する最大荷重は、従来例を基準とすると、発明例1は+0.6%、発明例2は+2.8%と、いずれも従来例を上回った。また、衝突吸収エネルギは、従来例に対し、発明例1が+1.5%、発明例2が+4.6%と、いずれも従来例を上回った。
以上、本発明に係るサブフレーム構造においては、従来のサブフレーム構造と同等の剛性となるように鋼板の板厚を薄くし、かつ、高強度な鋼板を用いることで、剛性を維持したまま軽量化と衝突特性の向上を実現できることが実証された。